「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(電磁気56〜60問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

電磁気範囲 56~60

56 直流回路とコンデンサー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コンデンサー回路のスイッチ切り替えと電荷の再配分」です。前問で求めた定常状態からスイッチを操作することで、回路の接続状態が変化し、コンデンサーに蓄えられていた電荷が移動して新しい定常状態に落ち着くまでの過程を解析します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. コンデンサーの定常状態: 直流回路で十分に時間が経過すると、コンデンサー部分は断線とみなせること。
  2. スイッチ操作による回路の変化: スイッチを切ることで、回路の一部が切り離されたり、新たな閉回路が形成されたりすることを正確に把握する能力。
  3. 電荷保存則: 回路の中で、他の部分から電気的に孤立した部分(孤立部分)では、電荷の総和はスイッチ操作の前後で保存されます。
  4. 電位の考え方と最終状態: スイッチ操作後、十分に時間が経過すると、電流が流れなくなり、閉回路内の各点の電位は等しくなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、前問の結果を利用して、スイッチを切る直前の各コンデンサーの電気量 \(Q_1, Q_2\) を確認します。このとき、各極板の電荷の符号(プラスかマイナスか)を明確にしておくことが重要です。
  2. スイッチ \(S_1\), \(S_2\) を切った後の回路図を描き、どの部分が閉じた回路を形成し、どの部分が電気的に孤立するかを特定します。
  3. 孤立部分について、電荷保存則の式を立てます。
  4. スイッチを切ってから十分に時間が経過した後の最終状態を考えます。このとき、孤立した閉回路内では電流は流れなくなり、コンデンサーの両端の電圧が等しくなる(並列接続と同じ状態)ことがわかります。
  5. 電荷保存則の式と、最終状態の電圧の関係式を連立させて、最終的なコンデンサーの電圧を求めます。
  6. 最後に、公式 \(Q=CV\) を用いて、コンデンサー\(C_1\)の最終的な電気量を計算します。

スイッチを切った後の\(C_1\)の電気量

思考の道筋とポイント
この問題は、段階を追って丁寧に考える必要があります。

ステップ1: スイッチを切る前の状態の確認

前問55の結果から、スイッチ\(S_1, S_2\)が閉じている定常状態での各コンデンサーの電気量\(Q_1, Q_2\)はわかっています。ここで重要なのは、各極板の電荷の符号です。電源の正極側につながる抵抗\(R_1\)の上側は電位が高く、負極側につながる抵抗\(R_2\)の下側は電位が低いです。したがって、

  • \(C_1\)の上側極板: \(+Q_1\)
  • \(C_1\)の下側極板: \(-Q_1\)
  • \(C_2\)の上側極板: \(+Q_2\)
  • \(C_2\)の下側極板: \(-Q_2\)

と電荷が蓄えられています。

ステップ2: スイッチ操作後の回路の分析

  1. スイッチ\(S_1\)を切る: \(S_1\)はコンデンサーの枝の途中にあるスイッチです。定常状態ではコンデンサーに電流は流れていないので、このスイッチを切っても、切る瞬間に何も変化は起こりません。
  2. スイッチ\(S_2\)を切る: このスイッチを切ると、電源\(V\)と抵抗\(R_1, R_2\)が回路から切り離されます。残るのは、2つのコンデンサー\(C_1, C_2\)が閉じたループを形成する回路です。

ステップ3: 最終状態と電荷保存則の適用

スイッチを切った後、孤立したコンデンサーの回路では、電荷が移動してやがて電流が流れなくなります。最終状態では、2つのコンデンサーは並列接続と同じ状態になり、共通の電圧\(V’\)を持つようになります。
このとき、\(C_1\)の上側極板と\(C_2\)の下側極板からなる部分が、外部から電気的に孤立しています。したがって、この孤立部分の電荷の総和は、スイッチ操作の前後で保存されます。

  • 切る前の総電荷: \(Q_1 + (-Q_2) = Q_1 – Q_2\)

最終状態では、この総電荷が、合成容量 \(C_1+C_2\) のコンデンサーに再配分されると考えます。\(Q_1\)と\(Q_2\)の大小関係が不明なため、最終的な電圧\(V’\)が正になるように、電荷の総量を絶対値で考えます。
$$ |Q_1 – Q_2| = (C_1 + C_2) V’ $$
この設問における重要なポイント

  • スイッチ\(S_1\)を切っても、定常状態では何も起こらないことを見抜く。
  • スイッチ\(S_2\)を切った後に、電気的に孤立する部分を見つけ、電荷保存則を適用する。
  • 最終状態では、孤立回路内の電流は0になり、コンデンサーは並列接続と同じ状態になる。
  • 初期電荷の符号を間違えないこと。

具体的な解説と立式
スイッチを切る前の電気量を\(Q_1, Q_2\)とします。前問55より、
$$
\begin{aligned}
Q_1 = \frac{R_1}{R_1+R_2}C_1 V, \quad Q_2 = \frac{R_2}{R_1+R_2}C_2 V
\end{aligned}
$$
スイッチ\(S_1, S_2\)を切った後の最終状態では、2つのコンデンサーは共通の電圧\(V’\)を持つ並列接続とみなせます。
\(C_1\)の上側極板と\(C_2\)の下側極板からなる部分が孤立系をなすため、この部分の電荷の総和は保存されます。
初期の総電荷は \(Q_1 – Q_2\)。最終状態でのこの部分の総電荷は、合成容量 \((C_1+C_2)\) に電圧 \(V’\) がかかった状態の電荷に等しくなります。
\(Q_1\)と\(Q_2\)の大小関係が不明なため、電圧\(V’\)を正の値として扱うために、電荷の総量を絶対値で考えます。
$$
\begin{aligned}
|Q_1 – Q_2| &= (C_1 + C_2) V’
\end{aligned}
$$
この式から最終電圧\(V’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
V’ &= \frac{|Q_1 – Q_2|}{C_1 + C_2}
\end{aligned}
$$
そして、求める\(C_1\)の電気量\(Q_1’\)は、
$$
\begin{aligned}
Q_1′ &= C_1 V’
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電荷保存則
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • コンデンサーの並列合成: \(C = C_1 + C_2\)
計算過程

まず、\(Q_1 – Q_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_1 – Q_2 &= \frac{R_1}{R_1+R_2}C_1 V – \frac{R_2}{R_1+R_2}C_2 V \\[2.0ex]
&= \frac{R_1 C_1 – R_2 C_2}{R_1+R_2} V
\end{aligned}
$$
したがって、その絶対値は、
$$
\begin{aligned}
|Q_1 – Q_2| &= \frac{|R_1 C_1 – R_2 C_2|}{R_1+R_2} V
\end{aligned}
$$
次に、この値を \(V’\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
V’ &= \frac{\frac{|R_1 C_1 – R_2 C_2|}{R_1+R_2} V}{C_1 + C_2} \\[2.0ex]
&= \frac{|R_1 C_1 – R_2 C_2|}{(R_1+R_2)(C_1+C_2)} V
\end{aligned}
$$
最後に、\(Q_1’\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_1′ &= C_1 V’ \\[2.0ex]
&= C_1 \frac{|R_1 C_1 – R_2 C_2|}{(R_1+R_2)(C_1+C_2)} V \\[2.0ex]
&= \frac{|R_1 C_1 – R_2 C_2|}{(R_1+R_2)(C_1+C_2)} C_1 V
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチを切った後のコンデンサーの運命を追う問題です。
まず、スイッチ\(S_1\)は、電気が流れていない場所にあるので、これを切っても何も起こりません。
次にスイッチ\(S_2\)を切ると、電池と抵抗が回路から切り離され、2つのコンデンサーだけが取り残された閉じた回路ができます。
このとき、コンデンサー\(C_1\)の上の板と\(C_2\)の下の板は、外の世界から完全に孤立します。物理の世界では「孤立した場所の電気の総量は変わらない」という鉄則(電荷保存則)があります。
取り残された2つのコンデンサーは、お互いに電気をやり取りし、最終的に落ち着きます。落ち着いた状態とは、電気が流れなくなり、2つのコンデンサーの電圧が等しくなった状態です。これは、2つが並列につながっているのと同じです。
「孤立部分の電気の総量は変わらない」という式と、「最終的に2つのコンデンサーの電圧は等しくなる」という式を組み合わせることで、最終的な電圧が計算できます。その電圧を使えば、\(C_1\)の最終的な電気量も計算できます。

結論と吟味

スイッチを切った後のコンデンサー\(C_1\)の電気量は \(\displaystyle\frac{|R_1 C_1 – R_2 C_2|}{(R_1+R_2)(C_1+C_2)} C_1 V\) となります。この式は、初期状態の電荷の差が、最終的に2つのコンデンサーの容量に応じて再配分されることを示しています。絶対値がついているのは、初期電荷の大小関係によって、最終的な極板の符号の向きが変わる可能性があるためで、物理的に妥当な表現です。

解答 \(\displaystyle\frac{|R_1 C_1 – R_2 C_2|}{(R_1+R_2)(C_1+C_2)} C_1 V\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電気的に孤立した部分での「電荷保存則」:
    • 核心: この問題の根幹は、スイッチ操作によって回路の一部が電源から切り離され、電気的に孤立した部分が生まれることを見抜き、その孤立部分の「総電荷は操作の前後で不変である」という電荷保存則を適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 孤立部分の特定: スイッチS₂を切ることで、C₁の上側極板とC₂の下側極板をつなぐ導線は、他の回路部分から完全に切り離されます。この部分が「孤立島」となります。(模範解答ではC₁の下側とC₂の上側を孤立部分としていますが、どちらで考えても同じ結果になります。)
      • なぜ保存するのか: 電荷は勝手に生まれたり消えたりせず、また孤立しているため外部とのやり取りもできません。したがって、この島の中での電荷の移動(再配分)は起こっても、島の総電荷量は一定に保たれます。
      • 符号の重要性: 電荷保存則を適用する際は、各極板の電荷の符号(プラスかマイナスか)を正確に考慮することが極めて重要です。
  • 最終状態における「電位の均一化」:
    • 核心: スイッチ操作後、孤立した回路内で電荷の再配分が起こり、最終的に電流が流れなくなった状態(新たな定常状態)では、その閉回路内の導線部分はすべて「等電位」になります。
    • 理解のポイント:
      • 電流が0になる理由: もし電位差があれば、その間を電荷が移動し、電流が流れます。電流が0になるということは、もはや電荷を動かす力(電位差)が存在しないことを意味します。
      • 並列接続との等価性: この結果、C₁とC₂は、それぞれの極板が等電位の導線で結ばれた状態、すなわち「並列接続」と同じ状態になります。したがって、最終的に両者の電圧は等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数のコンデンサーの接続変更: 「充電済みのコンデンサーC₁と、充電されていないコンデンサーC₂を接続した。最終的な各コンデンサーの電気量と電圧はいくらか」という問題。これも、接続によって形成される孤立部分で電荷保存則を立て、最終状態(電圧が等しい)の条件と連立させて解きます。
    • コンデンサーへの誘電体の挿入・抜去: 充電後に電源から切り離したコンデンサーに誘電体を挿入する問題。孤立した極板の電荷Qは保存されます。容量Cが変化するため、電圧V(=Q/C)と静電エネルギーU(=Q²/2C)が変化します。
    • 抵抗を含むコンデンサーの再配分: 本問のように、スイッチを切った後の閉回路に抵抗が含まれている場合でも、十分に時間が経った最終状態だけを問う場合は、抵抗の存在を無視できます。最終的に電流は0になるため、抵抗での電圧降下も0になるからです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 操作前の状態を正確に把握する: まず、スイッチ操作前の各コンデンサーの電気量と「極板の符号」を、ためらわずに図に書き込みます。これが初期条件となります。
    2. 操作後の回路図を描き、孤立部分を探す: スイッチ操作後の回路図を新たに描き、電源やアースから切り離され、閉じたループを形成している部分がないかを探します。この「孤立島」を見つけることが最重要です。
    3. 「電荷保存則」と「最終状態の条件」の2本柱で立式する:
      • 式①(電荷保存則): (孤立部分の初期電荷の総和) = (孤立部分の最終電荷の総和)
      • 式②(最終状態): 最終的に電流が0になるので、各部品の状態を考えます。コンデンサーが複数あれば、それらの電圧の関係(多くは並列で等しくなる)を立式します。
    4. 連立方程式を解く: 上記の2つの式を連立させて、未知の電気量や電圧を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 孤立部分の電荷の総和での符号ミス:
    • 誤解: 電荷保存則を立てる際に、各極板の電荷の符号を無視して、単純に \(Q_1+Q_2 = Q_1’+Q_2’\) のように立式してしまう。
    • 対策: 必ず、孤立部分に含まれる「どの極板」と「どの極板」かを明確にします。そして、操作前の各極板の電荷(例: \(-Q_1\) と \(+Q_2\))を、符号を含めて正確に足し算します。
  • 最終状態が並列接続になることを見抜けない:
    • 誤解: スイッチを切った後の回路図を見ても、C₁とC₂が最終的に並列になるイメージが湧かない。
    • 対策: 「十分に時間が経った後」→「電流が流れなくなる」→「閉回路内の導線はすべて等電位になる」という論理の連鎖を理解します。C₁の上側とC₂の上側がつながっているように見えても、最終的にはC₁の上側とC₂の下側が一方の等電位な導体に、C₁の下側とC₂の上側がもう一方の等電位な導体になる、と頭を切り替えることが重要です。
  • 絶対値の扱いの混乱:
    • 誤解: 模範解答の \(|Q_1-Q_2|\) のように絶対値が出てくる理由が分からず、混乱する。
    • 対策: 最終的な電圧\(V’\)を常に正の値として扱いたい場合、電荷の総和も正の値(つまり絶対値)で考える必要があります。もし絶対値を使わずに \(Q_1-Q_2 = (C_1+C_2)V’\) と立式した場合、\(V’ = \frac{Q_1-Q_2}{C_1+C_2}\) となり、\(Q_1 < Q_2\) の場合には \(V’\) が負の値として出てきます。これは「最初に仮定した電圧の向きと逆だった」ことを意味するだけで、物理的には間違いではありません。絶対値の扱いに自信がなければ、符号も変数として扱い、最後に物理的な状況を判断する方が安全です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 「電荷保存則」の選択:
    • 選定理由: スイッチ操作によって電源から切り離された回路部分では、エネルギーは抵抗で熱として失われる可能性があるため、エネルギー保存則はそのままでは使えません。しかし、電荷は抵抗を通過しても失われることはなく、ただ移動するだけです。したがって、外部との電荷のやり取りがない「孤立部分」においては、電荷保存則が常に成り立つ、最も強力で信頼できる法則となります。
    • 適用根拠: 電荷保存則は、電磁気学における最も基本的な実験則の一つです。ミクロな素粒子反応からマクロな電気回路まで、例外なく成り立ちます。
  • 「最終状態=並列接続」の選択:
    • 選定理由: 「十分に時間が経った後」の状態を問われているため、回路が最も安定した状態、すなわちエネルギーの散逸(抵抗でのジュール熱発生)がなくなった状態を考えるのが合理的です。エネルギーの散逸は電流が流れることによって生じるため、最終状態では電流が0になっているはずです。
    • 適用根拠: 回路内に電位差が存在する限り、導体内の自由電子は電場から力を受けて移動し、電流が生じます。電流が0になるということは、回路内のどの2点をとっても電位差が0、すなわち全体が等電位になっていることを意味します。この結果、コンデンサーの電圧が等しくなるという結論が導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 初期状態の図と最終状態の図を別に描く: 1つの図に情報を書き込もうとすると混乱します。操作前の電荷分布を描いた図と、操作後の孤立回路の図を、それぞれ別に描くことで、思考が整理されます。
  • 符号を大きく書く: 初期状態の各極板の電荷の符号(+, -)を、図に大きく、はっきりと書き込みましょう。これが電荷保存則を正しく立式するための生命線です。
  • 文字式の整理を丁寧に行う: 最終的な答えは複雑な分数式になります。\(Q_1, Q_2\)を代入する際や、式を\(V’\)について解く際に、分数の計算を焦らず丁寧に行うことが重要です。特に、分母と分子のどの項がどこから来たのかを意識しながら変形を進めましょう。

57 電流がつくる磁場

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問の後半(電流\(I\)を求める部分)の別解: 比例関係を用いる解法
      • 模範解答が地磁気の水平成分\(H_G\)を一度具体的に計算し、それを代入して解くのに対し、別解では2つの状況(\(30^\circ\)の振れと\(60^\circ\)の振れ)における関係式の比をとることで、\(H_G\)を計算せずに直接答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の効率化: 物理的に変化しない量(この問題では地磁気\(H_G\))を消去し、変化する量同士の関係性に直接着目することで、より少ない計算ステップで簡潔に解に至る思考法を学べます。
    • 物理的本質の理解: 電流の大きさと、それが作り出す磁場の大きさ、そして磁針の振れの角度(のタンジェント)が比例関係にあるという、現象の物理的な本質をより明確に捉えることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「直線電流がつくる磁場と地磁気の合成」です。目に見えない2つの磁場がベクトルとして合成され、その結果として方位磁針が特定の向きを指すという現象を、数式を用いて定量的に分析する力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 方位磁針の性質: 方位磁針のN極は、その場所における合成磁場の向きを指します。
  2. 直線電流がつくる磁場: 十分に長い直線導線に電流\(I\)を流したとき、導線から距離\(r\)だけ離れた点につくられる磁場の強さ\(H\)は、\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)で与えられます。
  3. 右ねじの法則: 電流の向きに右ねじを進めるとき、ねじが回転する向きが磁場の向きと一致します。
  4. ベクトルの合成: 複数の磁場が存在する場合、それらはベクトルとして足し合わされます。特に、互いに直交するベクトルの合成では、三角比が重要な役割を果たします。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、電流\(I_0\)を流したときの状況を考えます。方位磁針が東に振れたことから、電流がつくる磁場の向きを特定し、右ねじの法則を用いて電流の向きを決定します。
  2. 次に、地磁気(北向き)と電流による磁場(東向き)のベクトル図を描き、磁針の振れの角度が\(30^\circ\)であることから、三角比(タンジェント)を用いて地磁気の水平成分\(H_G\)を求めます。
  3. 最後に、磁針を\(60^\circ\)振らせる状況を考えます。同様にベクトル図を描き、先ほど求めた\(H_G\)の値を使って、必要な電流\(I\)の値を計算します。

電流の向きと地磁気の水平成分\(H_G\)

思考の道筋とポイント
方位磁針は、通常は地磁気の水平成分\(\vec{H}_G\)によって北を指しています。ここに南北に張られた導線に電流を流すと、電流による磁場\(\vec{H}_0\)が発生します。方位磁針は、この2つの磁場のベクトル和である「合成磁場」\(\vec{H}_{\text{合成}}\)の向きを指すことになります。
問題では「Nは東に\(30^\circ\)振れた」とあるので、もともと北を向いていたベクトル\(\vec{H}_G\)に、あるベクトル\(\vec{H}_0\)を足した結果、合成ベクトルが北から東へ\(30^\circ\)の方向を向いた、ということです。この事実から、電流による磁場\(\vec{H}_0\)の向きと、地磁気\(\vec{H}_G\)の大きさを明らかにしていきます。
この設問における重要なポイント

  • 地磁気の水平成分\(\vec{H}_G\)は、常に「北」を向いているベクトルです。
  • 電流による磁場\(\vec{H}_0\)の向きは「右ねじの法則」で決まります。
  • 方位磁針が指すのは、\(\vec{H}_G\)と\(\vec{H}_0\)を合成したベクトルの向きです。

具体的な解説と立式
地磁気の水平成分を\(\vec{H}_G\)、電流\(I_0\)がつくる磁場を\(\vec{H}_0\)とします。方位磁針は、これらの合成磁場\(\vec{H}_{\text{合成}} = \vec{H}_G + \vec{H}_0\)の向きを指します。

1. 電流の向きの決定
\(\vec{H}_G\)は北を向いています。合成磁場が北から東へ\(30^\circ\)の向きになるためには、ベクトル\(\vec{H}_0\)は東を向いていなければなりません。
導線は南北に張られており、方位磁針はその真下にあります。右ねじの法則により、導線の真下に東向きの磁場をつくるためには、電流は北から南の向きに流れる必要があります。

2. 地磁気\(H_G\)の大きさの決定
北向きの\(\vec{H}_G\)と東向きの\(\vec{H}_0\)は互いに直交しています。これらのベクトルと合成ベクトル\(\vec{H}_{\text{合成}}\)の関係を図に描くと、直角三角形ができます。
この直角三角形において、磁針の振れの角\(30^\circ\)を用いると、底辺が\(H_G\)、高さが\(H_0\)となるので、タンジェントの関係は以下のようになります。
$$ \tan 30^\circ = \frac{H_0}{H_G} \quad \cdots ① $$
ここで、十分長い直線電流\(I_0\)が距離\(d\)の点につくる磁場の大きさ\(H_0\)は、公式より次式で与えられます。
$$ H_0 = \frac{I_0}{2\pi d} \quad \cdots ② $$
式①を\(H_G\)について解き、式②を代入することで\(H_G\)を求めます。

使用した物理公式

  • 直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 右ねじの法則
  • 磁場のベクトル合成と三角比
計算過程

式① \( \tan 30^\circ = \displaystyle\frac{H_0}{H_G} \) を\(H_G\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
H_G &= \frac{H_0}{\tan 30^\circ}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
H_G &= \frac{H_0}{1/\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} H_0
\end{aligned}
$$
この式に、②式 \(H_0 = \displaystyle\frac{I_0}{2\pi d}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
H_G &= \sqrt{3} \cdot \frac{I_0}{2\pi d} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3} I_0}{2\pi d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コンパス(方位磁針)は普段、地球という大きな磁石の力(地磁気)で北を指しています。ここに電流を流した電線を近づけると、電線も磁石になるので、コンパスは「地球の磁力」と「電線の磁力」を合わせた方向を指すようになります。
問題では、コンパスが「東に\(30^\circ\)」傾いたとあります。もともと北を向いていたものが東に傾いたということは、電線が東向きの磁力を発生させたということです。「右ねじの法則」というルールを使うと、真下に東向きの磁力を発生させるには、電線には「北から南へ」電流を流せばよいことがわかります。
次に、力の大きさの関係を考えます。北向きの「地球の磁力」と東向きの「電線の磁力」を合成した結果が「北から東へ\(30^\circ\)」の方向になった、という状況を図に描くと、直角三角形ができます。この三角形の辺の長さの比(タンジェント)を計算すると、地球の磁力の大きさを求めることができます。

結論と吟味

電流の向きは北から南、地磁気の水平成分\(H_G\)は\(\displaystyle\frac{\sqrt{3} I_0}{2\pi d}\) [A/m]と求められました。この結果は、電流\(I_0\)や距離\(d\)を用いて地磁気を表現したものであり、物理的に妥当です。

解答 電流の向き: 北から南、地磁気の水平成分\(H_G\): \(\displaystyle\frac{\sqrt{3} I_0}{2\pi d}\) [A/m]

Nを東に\(60^\circ\)振らすのに必要な電流\(I\)

思考の道筋とポイント
基本的な状況は前半と同じです。地磁気\(H_G\)は場所によって決まる一定の値です。今度は、磁針の振れの角が\(60^\circ\)になるように、電流の値を\(I_0\)から\(I\)に変化させます。電流が変わると、それによってつくられる磁場\(H\)も変化します。
前半と同様に、地磁気\(H_G\)と新しい電流による磁場\(H\)のベクトル図を描き、三角比の関係から未知の電流\(I\)を求めます。前半で導出した\(H_G\)の式がここで役立ちます。
この設問における重要なポイント

  • 地磁気\(H_G\)の大きさは、電流の値を変えても変化しない定数です。
  • 振れの角が\(60^\circ\)になったときの、新しい電流\(I\)とそれによる磁場\(H\)の関係を考えます。

具体的な解説と立式
N極を東に\(60^\circ\)振らすのに必要な電流を\(I\) [A]とし、この電流が導線の真下\(d\)の点につくる磁場を\(H\) [A/m]とします。
直線電流がつくる磁場の公式より、
$$ H = \frac{I}{2\pi d} \quad \cdots ③ $$
このとき、磁針の振れの角が\(60^\circ\)なので、地磁気\(H_G\)と電流による磁場\(H\)のベクトル図を描くと、前半と同様に直角三角形ができます。角度の関係から、
$$ \tan 60^\circ = \frac{H}{H_G} \quad \cdots ④ $$
この式④に、式③と前半で求めた\(H_G = \displaystyle\frac{\sqrt{3} I_0}{2\pi d}\)を代入して、\(I\)を求めます。

使用した物理公式

  • 直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場のベクトル合成と三角比
計算過程

式④ \( \tan 60^\circ = \displaystyle\frac{H}{H_G} \) を\(H\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
H &= H_G \tan 60^\circ
\end{aligned}
$$
ここで、\(\tan 60^\circ = \sqrt{3}\) なので、
$$
\begin{aligned}
H &= \sqrt{3} H_G
\end{aligned}
$$
この式に、\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi d}\) と \(H_G = \displaystyle\frac{\sqrt{3} I_0}{2\pi d}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{I}{2\pi d} &= \sqrt{3} \left( \frac{\sqrt{3} I_0}{2\pi d} \right) \\[2.0ex]
\frac{I}{2\pi d} &= \frac{3 I_0}{2\pi d}
\end{aligned}
$$
両辺に\(2\pi d\)を掛けることで、分母を払います。
$$
\begin{aligned}
I &= 3 I_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は、コンパスの針をもっと大きく、\(60^\circ\)まで傾けたい、という問題です。より大きく傾けるためには、電線が作る磁力をより強くする必要があります。電線の磁力は電流の大きさに比例するので、流す電流を大きくすればよいわけです。
先ほどと同じように、北向きの「地球の磁力」と東向きの「電線の磁力」を合成した結果が「北から東へ\(60^\circ\)」になるような図を描きます。この新しい図から、必要な「電線の磁力」の大きさがわかります。計算すると、最初の時(\(30^\circ\)傾けた時)の\(3\)倍の電流が必要だ、ということがわかります。

結論と吟味

N極を東に\(60^\circ\)振らすのに必要な電流は\(I = 3 I_0\) [A]であることがわかりました。
振れの角を\(\theta\)とすると、\(H = H_G \tan\theta\)という関係があります。電流による磁場\(H\)は電流\(I\)に比例するので、\(I \propto \tan\theta\)となります。
\(\tan 60^\circ = \sqrt{3}\)、\(\tan 30^\circ = 1/\sqrt{3}\)なので、タンジェントの値の比は \(\sqrt{3} / (1/\sqrt{3}) = 3\) となり、電流が\(3\)倍になるという結果と一致し、物理的に妥当です。

解答 \(3 I_0\) [A]
別解: 比例関係を用いる解法

思考の道筋とポイント
2つの状況(\(30^\circ\)の振れと\(60^\circ\)の振れ)で共通している物理量は、地磁気の水平成分\(H_G\)です。この\(H_G\)を具体的に計算するのではなく、2つの状況についての関係式を立て、それらの比をとることで\(H_G\)を消去し、電流\(I_0\)と\(I\)の直接的な関係を導き出します。
この設問における重要なポイント

  • 電流による磁場\(H\)は、振れの角\(\theta\)のタンジェントに比例します (\(H \propto \tan\theta\))。
  • 電流による磁場\(H\)は、電流\(I\)の大きさに比例します (\(H \propto I\))。
  • 上記の2つの比例関係から、電流\(I\)は振れの角\(\theta\)のタンジェントに比例します (\(I \propto \tan\theta\))。

具体的な解説と立式
最初の状況(電流\(I_0\)、振れの角\(30^\circ\)、電流による磁場\(H_0\))では、以下の関係が成り立ちます。
$$ \tan 30^\circ = \frac{H_0}{H_G} \quad \cdots (a) $$
後の状況(電流\(I\)、振れの角\(60^\circ\)、電流による磁場\(H\))では、以下の関係が成り立ちます。
$$ \tan 60^\circ = \frac{H}{H_G} \quad \cdots (b) $$
式(b)を式(a)で辺々割り算すると、共通の\(H_G\)が消去されます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\tan 60^\circ}{\tan 30^\circ} &= \frac{H/H_G}{H_0/H_G} \\[2.0ex]
&= \frac{H}{H_0}
\end{aligned}
$$
ここで、直線電流がつくる磁場の公式から、\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi d}\) および \(H_0 = \displaystyle\frac{I_0}{2\pi d}\) です。これらの比をとると、
$$
\begin{aligned}
\frac{H}{H_0} &= \frac{I/(2\pi d)}{I_0/(2\pi d)} \\[2.0ex]
&= \frac{I}{I_0}
\end{aligned}
$$
したがって、以下の関係式が得られます。
$$ \frac{I}{I_0} = \frac{\tan 60^\circ}{\tan 30^\circ} $$

使用した物理公式

  • 磁場のベクトル合成の関係式: \(H = H_G \tan\theta\)
  • 直線電流がつくる磁場の比例関係: \(H \propto I\)
計算過程

導出した比例式に、三角比の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{I}{I_0} &= \frac{\tan 60^\circ}{\tan 30^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{1/\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} \times \sqrt{3} \\[2.0ex]
&= 3
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
I &= 3 I_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この問題を解くもう一つの賢い方法があります。コンパスが傾く角度は、結局のところ「電線の磁力」と「地球の磁力」の比率で決まります。地球の磁力は一定なので、電線の磁力が何倍になれば、角度が\(30^\circ\)から\(60^\circ\)に変わるか、という比率だけを考えればよいのです。
三角関数の性質から、この比率は\(\tan 60^\circ\)と\(\tan 30^\circ\)の比を計算することで求められます。計算すると\(3\)倍という結果が出ます。電線の磁力を\(3\)倍にするには、電流を\(3\)倍にすればよいので、答えは\(3 I_0\)となります。この方法だと、地球の磁力の具体的な値を計算しなくても答えが出せるのが利点です。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ\(I = 3 I_0\)という結果が得られました。この別解は、途中の物理量(\(H_G\))を計算する必要がなく、比例関係に着目することでより少ない計算で答えにたどり着けるため、見通しが良く効率的です。

解答 \(3 I_0\) [A]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 磁場のベクトル合成
    • 核心: この問題の根幹は、目に見えない「磁場」が大きさと向きを持つベクトル量であることを理解し、複数の磁場が共存する空間ではそれらがベクトルとして足し合わされる(合成される)という原理を適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 方位磁針の役割: 方位磁針のN極は、単一の磁場の向きではなく、その点に存在する全ての磁場を合成した「合成磁場」の最終的な向きを指します。これは、物体に複数の力が働くときに、物体が合力の向きに動き出すのと似ています。
      • 原因と結果の分離:
        • 原因: この空間には、①地球が存在することによる「地磁気(北向き)」と、②導線に電流を流すことによる「電流の磁場(右ねじの法則で決まる向き)」という、2つの独立した磁場が存在します。
        • 結果: これら2つの原因が作った磁場ベクトルが足し合わされ、その結果として方位磁針が特定の向き(北から東へ\(30^\circ\)や\(60^\circ\))を指すという現象が観測されます。
      • 定量的な関係(数学的翻訳): 2つの磁場ベクトルが直交している場合、それらの大きさと合成ベクトルの角度の関係は、三角比(特にタンジェント)によってシンプルに結びつけられます。\((\text{電流の磁場}) = (\text{地磁気}) \times \tan(\text{振れの角})\)という関係式が、この問題の物理現象を解くための数学的な鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コイルがつくる磁場との合成: 直線電流の代わりに、円形コイルやソレノイドコイルの中心軸上にできる磁場と地磁気を合成する問題。コイルがつくる磁場の公式(\(H = \displaystyle\frac{NI}{2r}\)や\(H=nI\))を正しく適用できれば、ベクトル合成の考え方は全く同じです。
    • 磁場の打ち消し合い: 2本の平行な直線電流が作る磁場を考える問題。電流の向きによって磁場が強め合ったり弱め合ったりする点を求めます。特に「磁場が\(0\)になる点」を探す問題は、2つの磁場ベクトルが「逆向き」で「同じ大きさ」になる条件を立式することで解くことができます。
    • 斜めに置かれた導線: 導線が南北ではなく、例えば北東-南西方向に張られているような、より複雑な設定の問題。この場合、電流による磁場(導線に垂直な向き)と地磁気(北向き)が直交しなくなります。ベクトルの合成を、各ベクトルを成分に分解して足し合わせるか、余弦定理などを用いて解く必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁場の源をリストアップする: まず問題文を読み、その空間に磁場を作っている原因は何かを全て特定します。(例:この問題では「地球」と「直線電流」の2つ)
    2. 各磁場の向きと大きさを確認する: それぞれの源について、磁場の向き(右ねじの法則など)と、大きさを計算するための公式(\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)など)を書き出します。
    3. ベクトル図を描く: 方位磁針の位置を原点として、特定した各磁場ベクトルを矢印で図示します。特に、地磁気は常に北向きの基準ベクトルとして描くことが重要です。
    4. 合成ベクトルを考える: 描いたベクトルを合成し、それが問題で与えられた条件(磁針の向きなど)とどう対応するかを考えます。ベクトル図が直角三角形になるかどうかは、問題を簡単に解くための重要な分岐点です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 右ねじの法則の適用の誤り:
    • 誤解: 導線の上下で磁場の向きが同じだと勘違いする。あるいは、電流の向きと磁場の向きそのものを混同してしまう。
    • 対策: 必ず、右手の親指を電流の向きに合わせ、残りの4本の指が「巻き付く」向きを立体的にイメージする癖をつけましょう。導線の上側と下側では、指が指す向きが互いに逆になることを、実際に手を動かして確認することが重要です。紙に描く場合は、紙面の裏から表へ向かう向き(⊙)と、表から裏へ向かう向き(⊗)の記号を正しく使う練習も有効です。
  • 地磁気と電流の磁場の役割の混同:
    • 誤解: 電流による磁場だけで磁針が振れると考えてしまい、地磁気の存在を忘れてしまう。あるいは、地磁気が東を向いているなどと、問題の状況に合わせて地磁気の向きを勝手に変えてしまう。
    • 対策: 「方位磁針は、何もない場所では必ず北を指す」という大前提を思い出してください。これは「地磁気は(水平方向については)常に北を向いている不変の基準である」ということを意味します。電流による磁場は、この「基準」となる北向きのベクトルに「追加」されるベクトルである、という主従関係を明確に意識することが大切です。
  • 三角比の選択ミス:
    • 誤解: ベクトル図を描いたときに、どの辺が地磁気\(H_G\)でどの辺が電流の磁場\(H_0\)に対応するかわからなくなり、\(\sin\), \(\cos\), \(\tan\)を間違えて使ってしまう。(例: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{H_G}{H_0}\)としてしまう)
    • 対策: ベクトル図を描く際に、「基準となる角(この場合は\(30^\circ\)や\(60^\circ\))に対して、どの辺が『対辺』で、どの辺が『底辺』か」を指でなぞって確認しましょう。「\(\tan = (\text{対辺})/(\text{底辺})\)」という定義に忠実に当てはめることが重要です。この問題では、基準となる北向きの地磁気\(H_G\)が「底辺」、それに直交する東向きの電流の磁場\(H_0\)が「対辺」になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 直線電流の磁場の公式 \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\):
    • 選定理由: 問題で与えられている磁場の源が「十分に長い直線導線」であるため、この物理状況に特化した公式としてこれを選択します。もし磁場の源が円形コイルなら\(H=\displaystyle\frac{NI}{2r}\)を、ソレノイドなら\(H=nI\)を選択するなど、状況に応じて適切な公式を選ぶ必要があります。
    • 適用根拠: この公式は、より基本的なビオ・サバールの法則を「無限に長い直線導線」という条件下で積分することで導かれる、実験事実とよく一致する関係式です。問題の物理設定と公式の適用条件が一致しているため、正しく適用できます。
  • タンジェントを用いたベクトル合成:
    • 選定理由: この問題では、互いに「直交する」2つのベクトル(北向きの地磁気と東向きの電流の磁場)を合成します。直交ベクトルの合成において、合成ベクトルの「角度」と各ベクトルの「大きさ」の関係を最もシンプルに表現できる数学的な道具が三角比、特にタンジェントであるため、これを選択します。
    • 適用根拠: ベクトル図を描くと、地磁気\(H_G\)、電流の磁場\(H_0\)、そして合成ベクトルによって直角三角形が形成されます。この明確な幾何学的関係を数式に翻訳するのがタンジェントの役割です。もし2つのベクトルが直交しない場合は、この幾何学的な関係が崩れるため、タンジェントだけでは解けず、余弦定理など別の数学的道具が必要になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: 前半で\(H_G\)を求める際に、すぐに\(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\)を代入して数値を複雑にするのではなく、まずは\(H_G = \displaystyle\frac{H_0}{\tan 30^\circ}\)という関係式を立てます。後半の計算でも、\(H = H_G \tan 60^\circ\)と、まずは文字で関係式を立て、最後にまとめて具体的な値を代入することで、計算の見通しが格段に良くなり、途中の計算ミスを減らすことができます。
  • 比例関係を味方につける: 「何倍か?」を問う問題では、常に比例関係が使えないかを考える癖をつけましょう。この問題では、電流\(I\)とそれが作る磁場\(H\)は比例し (\(I \propto H\))、かつ、磁場\(H\)と振れの角\(\theta\)のタンジェントも比例します (\(H \propto \tan\theta\))。この2つから、\(I \propto \tan\theta\)という関係を導き出せます。これにより、\(\displaystyle\frac{I}{I_0} = \displaystyle\frac{\tan 60^\circ}{\tan 30^\circ}\)という非常にシンプルな比の式を立てることができ、地磁気\(H_G\)などの複雑な中間計算をすべて省略できます。
  • 三角比の値の正確な記憶と計算: \(30^\circ\), \(45^\circ\), \(60^\circ\)の\(\sin\), \(\cos\), \(\tan\)の値は、物理の問題を解く上で必須の知識です。特に、\(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\)と\(\tan 60^\circ = \sqrt{3}\)は頻出します。忘れてしまった場合は、単位円や\(1:2:\sqrt{3}\)の直角三角形を素早く描いて導出できるようにしておきましょう。また、分数の割り算(例:\(\sqrt{3} \div (\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}})\))は、逆数を掛ける形(\(\sqrt{3} \times \sqrt{3}\))に直してから計算すると、ケアレスミスを防げます。
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58 電流がつくる磁場

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の直線電流がつくる磁場と、円形電流による磁場の打ち消し」です。異なる形状の電流がつくる磁場を、重ね合わせの原理を用いて正しく計算できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 直線電流がつくる磁場: 無限に長い直線電流\(I\)から距離\(r\)の点につくられる磁場の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) であり、その向きは「右ねじの法則」に従います。
  2. 円形電流がつくる磁場: 半径\(r\)の円形電流\(I\)がその中心につくる磁場の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2r}\) であり、その向きは同じく「右ねじの法則」に従います。
  3. 磁場の重ね合わせの原理: ある点における磁場は、複数の電流源がある場合、それぞれの電流が単独でつくる磁場をベクトルとして足し合わせたものになります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. A点、B点それぞれについて、2本の直線電流が作る磁場の向きと大きさを個別に計算します。
  2. 重ね合わせの原理に従い、ベクトルとして磁場を合成します。向きが同じなら足し算、逆なら引き算になります。
  3. B点での合成磁場を打ち消す(磁場を\(0\)にする)ために必要な円形電流の磁場の向きと大きさを求め、そこから電流の向きと強さを決定します。

A点での磁場の強さと向き

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