「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(電磁気46〜50問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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電磁気範囲 46~50

46 キルヒホッフの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「キルヒホッフの法則を用いた複雑な直流回路の解析」です。抵抗が単純な直列・並列接続になっていないため、回路解析の基本法則であるキルヒホッフの法則を正しく適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電池の極性の正しい理解: 回路図における電池の記号は、長い方が正極(\(+\))、短い方が負極(\(-\))を表します。
    • \(40 \, \text{V}\) の電池: 左側が正極、右側が負極です。
    • \(20 \, \text{V}\) の電池: 左側が負極、右側が正極です。
  2. キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路の分岐点において、流れ込む電流の総和と流れ出る電流の総和は等しい。
  3. キルヒホッフの第2法則(電圧則): 回路内の任意の閉じたループを一周するとき、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。
  4. オームの法則: \(V=RI\)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 回路の各部分を流れる電流を未知数(例: \(I_1, I_2\))として設定します。
  2. 回路内から独立な閉回路(ループ)を2つ見つけ、それぞれについてキルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用して、未知数に関する連立方程式を立てます。
  3. 連立方程式を解いて、電流 \(I_1, I_2\) の値を求めます。
  4. 求めた電流値を用いて、接地点(電位 \(0 \, \text{V}\))から点Aまでの電位差を計算し、点Aの電位を決定します。

点Aの電位

思考の道筋とポイント
この回路は、抵抗が単純な直列・並列の関係になっていないため、合成抵抗を考えて解くことはできません。このような複雑な回路を解析するための普遍的な手法がキルヒホッフの法則です。

まず、回路の各枝を流れる電流を未知数として設定します。次に、回路内に閉じたループを2つ見つけ、それぞれについて「ループ内の電位の変化の合計は0」(キルヒホッフの第2法則)という式を立てます。これにより、未知数の数と同じ数の独立した方程式が得られるので、連立方程式として解くことができます。

電流の値が求まれば、最後に基準点である接地点(\(0 \, \text{V}\))から点Aまで、任意の経路をたどって電位の変化を計算することで、点Aの電位を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 電流の仮定: 各枝を流れる電流の向きを仮に設定します。計算結果が負になれば、実際の向きは仮定と逆だったことを意味するので、仮定の段階で神経質になる必要はありません。
  • 電圧則の符号: ループをたどる際に、抵抗を電流と同じ向きに進むと電位は下降(電圧降下)、逆向きに進むと電位は上昇します。電源は、負極から正極へ進むと電位は上昇(起電力)、正極から負極へ進むと電位は下降します。この符号のルールを正確に適用することが最も重要です。
  • 電位の計算: 電流が求まった後、点Aの電位を計算する際には、複数の経路で計算してみることをお勧めします。すべての経路で同じ答えになれば、計算が正しいことの強力な検証(検算)になります。

具体的な解説と立式
模範解答と同様に、回路の各部を流れる電流を以下のように設定します。

  • \(5 \, \Omega\) の抵抗を左向きに流れる電流: \(I_1\)
  • \(10 \, \Omega\) の抵抗を右向きに流れる電流: \(I_1 – I_2\)
  • \(20 \, \Omega\) の抵抗を右向きに流れる電流: \(I_2\)

この電流設定は、回路の右側の合流点において、真ん中の枝から流れ込む電流 \((I_1-I_2)\) と下の枝から流れ込む電流 \(I_2\) の和が、上の枝へ流れ出す電流 \(I_1\) に等しい \(((I_1-I_2)+I_2=I_1)\) という、キルヒホッフの第1法則(電流則)を満たすように設定されています。

次に、2つの閉回路についてキルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用します。

1. 上の閉回路(\(40 \, \text{V}\)電源、\(5 \, \Omega\)抵抗、\(10 \, \Omega\)抵抗を含むループ)
模範解答の図に示された反時計回りのループに沿って、「起電力の和 = 電圧降下の和」で立式します。

  • 起電力: ループをたどる際、40V電池を右側(負極)から左側(正極)へ通過するので、電位は \(40 \, \text{V}\) 上昇します。
  • 電圧降下: 5Ω抵抗を電流 \(I_1\) と同じ向き(左向き)にたどるので、電圧降下は \(5I_1\) です。10Ω抵抗も、ループの下側を右向きに進む際に、電流 \((I_1-I_2)\) と同じ向きにたどるため、電圧降下は \(10(I_1-I_2)\) です。

したがって、電圧降下の総和は \(5I_1 + 10(I_1-I_2)\) となります。
「起電力の和 = 電圧降下の和」より、
$$ 40 = 5I_1 + 10(I_1 – I_2) \quad \cdots ① $$

2. 下の閉回路(\(20 \, \text{V}\)電源、\(20 \, \Omega\)抵抗、\(10 \, \Omega\)抵抗を含むループ)
反時計回りのループで「起電力の和 = 電圧降下の和」で立式します。

  • 起電力: ループをたどる際、20V電池を左側(負極)から右側(正極)へ通過するので、電位は \(20 \, \text{V}\) 上昇します。
  • 電圧降下: 20Ω抵抗を電流 \(I_2\) と同じ向き(右向き)にたどるので、電圧降下は \(20I_2\) です。一方、10Ω抵抗は、電流 \((I_1-I_2)\) と逆向き(左向き)にたどるので、電位は上昇します。これは \(-10(I_1-I_2)\) の電圧降下とみなせます。

したがって、電圧降下の総和は \(20I_2 – 10(I_1-I_2)\) となります。
「起電力の和 = 電圧降下の和」より、
$$ 20 = 20I_2 – 10(I_1 – I_2) \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第1法則(電流則): (流れ込む電流の和)=(流れ出る電流の和)
  • キルヒホッフの第2法則(電圧則): (起電力の和)=(電圧降下の和)
  • オームの法則: \(V = RI\)
計算過程

式\(①\)と\(②\)を整理します。
$$
\begin{aligned}
\text{①より: } \quad 40 &= 5I_1 + 10I_1 – 10I_2 \\[2.0ex]
40 &= 15I_1 – 10I_2 \quad \cdots ①’ \\[2.0ex]
\text{②より: } \quad 20 &= 20I_2 – 10I_1 + 10I_2 \\[2.0ex]
20 &= -10I_1 + 30I_2 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
この連立方程式を解きます。②’の両辺を\(10\)で割ると、
$$
\begin{aligned}
2 &= -I_1 + 3I_2
\end{aligned}
$$
これより \(I_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= 3I_2 – 2
\end{aligned}
$$
これを\(①’\)に代入します。
$$
\begin{aligned}
40 &= 15(3I_2 – 2) – 10I_2 \\[2.0ex]
40 &= 45I_2 – 30 – 10I_2 \\[2.0ex]
70 &= 35I_2 \\[2.0ex]
I_2 &= 2 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
\(I_2\) の値が求まったので、\(I_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= 3I_2 – 2 \\[2.0ex]
&= 3(2) – 2 \\[2.0ex]
&= 4 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
これで、各枝を流れる電流が \(I_1 = 4 \, \text{A}\), \(I_2 = 2 \, \text{A}\) であることがわかりました。

最後に、点Aの電位 \(V_A\) を求めます。接地点(回路図右側の縦線)の電位は \(0 \, \text{V}\) です。ここを基準に、上の枝をたどって点Aの電位を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_A &= (\text{接地点の電位}) + (40 \, \text{V}電源による上昇) – (5 \, \Omega抵抗による降下) \\[2.0ex]
&= 0 + 40 – 5I_1 \\[2.0ex]
&= 40 – 5 \times 4 \\[2.0ex]
&= 40 – 20 \\[2.0ex]
&= 20 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
念のため、他の経路でも検算してみましょう。

  • 真ん中の枝(\(10 \, \Omega\)抵抗)を経由:
    \(10 \, \Omega\)を流れる電流は \(I_1 – I_2 = 4 – 2 = 2 \, \text{A}\)(右向き)。接地点からAへは電流と逆向きにたどるので電位は上昇します。
    \(V_A = 0 + 10(I_1 – I_2) = 10 \times 2 = 20 \, \text{V}\)。
  • 下の枝(\(20 \, \Omega\)抵抗、\(20 \, \text{V}\)電源)を経由:
    接地点から \(20 \, \Omega\) 抵抗を電流 \(I_2\) と逆向きにたどるので電位は \(20I_2\) 上昇し、次に \(20 \, \text{V}\) 電源を正極から負極へたどるので電位は \(20 \, \text{V}\) 下降します。
    \(V_A = 0 + 20I_2 – 20 = 20 \times 2 – 20 = 40 – 20 = 20 \, \text{V}\)。

すべての経路で同じ結果となりました。

この設問の平易な説明

この迷路のような電気回路のA地点の「高さ(電位)」を求める問題です。地面(接地)の高さが \(0\) メートルと決まっています。
この問題を解くには、「キルヒホッフの法則」という2つの強力なルールを使います。
ルール1(電流のルール):道が分かれる場所では、入ってくる電気の量と出ていく電気の量は同じ。
ルール2(電圧のルール):回路をぐるっと一周して元の場所に戻ってくると、高さ(電位)は元通りになる。
このルールを使って、まず回路の各部分を流れる電気の量(電流 \(I_1, I_2\))を計算します。これは、数学の連立方程式を解く作業になります。
電流がわかれば、あとは地面(\(0 \, \text{V}\))からスタートして、A地点まで道のりをたどります。道のりには電池(高さを上げるポンプ)や抵抗(高さを下げる坂道)があります。それらを通過した後の最終的な高さが、A地点の電位になります。どの道を通ってA地点に行っても、高さは同じ \(20 \, \text{V}\) になるはずです。

結論と吟味

点Aの電位は \(20 \, \text{V}\) と求められました。計算の途中で求めた電流値 \(I_1=4 \, \text{A}\), \(I_2=2 \, \text{A}\) はどちらも正の値であり、最初に仮定した電流の向きが正しかったことを示しています。また、3つの異なる経路で電位を計算した結果がすべて一致したことから、計算の信頼性は非常に高いと言えます。

解答 \(20 \, \text{V}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • キルヒホッフの法則の支配力:
    • 核心: この問題の根幹は、直列・並列の考え方が通用しない複雑な回路であっても、キルヒホッフの2つの法則(電流則と電圧則)を用いれば必ず解析できる、という電気回路の普遍的な原理を理解することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 電流則(第1法則): 「分岐点で電流は保存する」という法則で、物理的根拠は電荷保存則です。電子がどこかで勝手に消えたり生まれたりしない、という基本原則に基づいています。
      • 電圧則(第2法則): 「ループを一周すると電位は元に戻る」という法則で、物理的根拠はエネルギー保存則です。電場が保存力であることに由来し、坂道を登って下りてくれば元の高さに戻る、というイメージと対応します。
      • 普遍性: どんなに複雑に見える回路網も、この2つのミクロな法則の積み重ねで成り立っており、これらを連立させることで未知の電流や電位を解明できます。
  • 電位という「高さ」の概念:
    • 核心: 回路図を単なる線の集まりではなく、電位という「高さ」を持つ地形図として立体的に捉えることが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 基準点(接地): 接地点は、電位の「標高\(0 \, \text{m}\)」地点です。すべての点の電位は、ここからの高さで表されます。
      • 電池の役割: 電池は、電位を強制的に持ち上げる(負極→正極)、あるいは引き下げる(正極→負極)「ポンプ」の役割を果たします。
      • 抵抗の役割: 抵抗は、電流が流れることで電位が下がる「坂道」の役割を果たします。電流の向きに沿って坂道を下るイメージです。
      • 応用: この「高さ」の概念を理解していれば、複雑な回路でも、各点をたどりながら電位の変化を直感的に追跡することができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ホイートストンブリッジ回路: 本問と似た構造で、真ん中の枝(検流計)に電流が流れるか否かを問う問題。平衡条件(たすき掛けの抵抗の積が等しい)を導出する過程でキルヒホッフの法則が使われます。
    • コンデンサーを含む直流回路: スイッチを入れてから十分に時間が経過した定常状態では、コンデンサー部分は断線とみなせます(電流が流れない)。その部分を取り除いた回路でキルヒホッフの法則を適用し、各点の電位を求めてからコンデンサーの電荷を計算する問題に応用できます。
    • 内部抵抗を持つ電池: 電池を「理想的な電源」と「内部抵抗」の直列接続とみなし、回路の一部としてキルヒホッフの法則を適用します。端子電圧(電池の両端の実際の電圧)は、起電力から内部抵抗による電圧降下を引いたものになります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電池の極性の確認: 問題を解き始める前に、まず全ての電池の記号を確認し、「長い方が正極(+)、短い方が負極(-)」というルールに従って、極性を回路図に書き込みます。これが全ての解析の土台となります。
    2. 回路の構造分析: 次に、回路が単純な直列・並列で解けるかを確認します。複数の電源があったり、抵抗が網目状につながっていたりしたら、即座に「キルヒホッフの法則の出番だ」と判断します。
    3. 基準点の確認: 接地点はどこか、あるいは電位の基準をどこに置くかを明確にします。これが全ての電位計算の出発点となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電池の極性の誤読:
    • 誤解: 電池の記号の線の長短の意味を混同したり、思い込みで判断してしまう。
    • 対策: 「長い方が正極(\(+\))で電位が高い、短い方が負極(\(-\))で電位が低い」という大原則を徹底的に覚えます。問題を解き始める前に、まず全ての電池に「\(+\)」「\(-\)」を書き込む儀式を習慣化することで、致命的なミスを防げます。
  • 電圧則の符号ミス:
    • 誤解: ループをたどる際、抵抗や電源での電位の上昇・下降の符号を間違える。特に、抵抗を電流と逆向きにたどる場合に混乱しやすい。
    • 対策: 「ループをたどる向き」と「電流の向き」を、それぞれ矢印で図に明確に書き込みます。そして、「自分の進む向きと電流が同じなら電位は下がる(\(-RI\))、逆なら上がる(\(+RI\))」というルールを機械的に適用します。電池も「負極(\(-\))から正極(\(+\))へ進むなら上がる(\(+E\))、逆なら下がる(\(-E\))」と覚えます。
  • ループをたどる向きの混乱:
    • 誤解: 反時計回りと決めたのに、途中で無意識に一部だけ時計回りのように考えてしまうなど、ループの経路を正確に追跡できない。
    • 対策: ループをたどる矢印を、回路図に大きく、はっきりと書き込みます。立式の際は、指でその矢印をなぞりながら、一つ一つの要素を通過する際の電位変化を声に出して確認する(例:「抵抗を電流と同じ向きに通過、だからマイナス…」「電池をマイナスからプラスへ通過、だからプラス…」)と、空間認識の誤りを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • キルヒホッフの法則の選択:
    • 選定理由: 問題の回路は、複数の電源を含み、抵抗の接続が単純な直列・並列ではない「複雑な回路」です。このような回路では、部分ごとの合成抵抗を計算して全体を単純化していく手法が使えません。キルヒホッフの法則は、このような回路構造に依存せず、どんな直流回路にも適用できる唯一の普遍的な解析手段であるため、これを選択します。
    • 適用根拠: この法則は、電荷保存則とエネルギー保存則という物理学の根幹をなす法則に基づいています。したがって、この法則から導かれる方程式は、回路がどのような状態であっても必ず成り立っています。未知数の電流に対して、独立な方程式を必要な数だけ立てることができるため、数学的に解が一意に定まることが保証されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図への書き込みの徹底(儀式化): 計算を始める前に、以下の3点を必ず回路図に書き込むことを「儀式」にしましょう。
    1. 全ての電池の極性(\(+\), \(-\))
    2. 仮定した電流の向きと記号(\(I_1, I_2\)など)
    3. キルヒホッフの第2法則を適用するループの経路と向き(例: 時計回りの矢印)

    思考が可視化され、符号ミスなどのケアレスミスを劇的に減らせます。

  • 方程式の整理整頓: キルヒホッフの法則で立てた式は、すぐに計算を始めるのではなく、\((\dots)I_1 + (\dots)I_2 = (\dots)\) のように、各変数について整理してから連立方程式を解き始めると、計算ミスが減ります。
  • 最強の検算「別経路での電位計算」: 主たる解法で示したように、電流が求まった後に、目標地点(点A)への電位を複数の異なる経路で計算することを習慣にしましょう。すべての経路で答えが一致すれば、連立方程式の解も、最後の電位計算も、両方が正しいと確信できます。これはテスト本番で絶大な安心感をもたらします。

47 キルヒホッフの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「対称性を利用した複雑な抵抗回路の解析」です。一見すると複雑な立方体回路も、その幾何学的な対称性に着目することで、等電位な点を見つけ出し、回路を単純な直列・並列接続に書き直して解くことができます。キルヒホッフの法則を直接適用すると計算が非常に煩雑になるため、対称性の利用が極めて有効な解法となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 回路の対称性: 回路の形状や抵抗の配置が対称である場合、電流の分布も対称になります。
  2. 等電位の概念: 対称性により、回路内の複数の点の電位が等しくなることがあります。電位が等しい2点間には電流が流れないため、その2点を接続したり、その間の抵抗を無視したりして回路を単純化できます。
  3. 抵抗の直列・並列合成: 単純化された回路の全抵抗を、基本的な合成抵抗の公式を用いて計算します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) 体対角線の場合: 入力点と出力点が最も遠い対角線上にあるため、高い対称性を持ちます。対称性から電流がどのように分布するかを考えるか、あるいは等電位になる頂点群を見つけて回路を書き直します。
  2. (2) 面対角線の場合: 入力点と出力点が同一面上の対角線上にある場合の対称性を見抜きます。この対称性から等電位になる頂点のペアを見つけ、回路を単純化して考えます。

問(1) a, bを端子とする場合(体対角線)

思考の道筋とポイント
設問(1)は、立方体の最も遠い2頂点(体対角線)a, b 間の合成抵抗を求める問題です。この配置は非常に高い対称性を持ちます。
解法は主に2つあります。

  1. 電流分布の対称性を利用する方法(模範解答): 点aに流れ込んだ電流が、対称性から3つの辺に均等に分流し、その後も対称性を保ちながら点bに集まる、という電流の経路を追跡します。a-b間の電圧降下を計算し、オームの法則から全抵抗を求めます。
  2. 等電位の頂点をまとめる方法(別解): 対称性から、電位が等しくなる頂点群を見つけます。等電位の点は導線でつないでも回路に影響を与えないため、それらを1つの点にまとめてしまい、回路全体を単純な直列・並列回路に書き直します。

ここでは、模範解答に沿って電流分布を利用する方法を主たる解法とし、等電位の頂点をまとめる方法を別解として解説します。
この設問における重要なポイント

  • 等価な経路の認識: 点aから見て、隣接する3つの頂点へ向かう経路は全て幾何学的に等価です。同様に、点bから見ても、隣接する3つの頂点からの経路は全て等価です。
  • 電流の分岐と合流: 対称性から、a点で分岐する電流は3等分され、b点で合流する電流も3つの経路から均等に集まります。
  • 経路の選択: a-b間の電圧降下を計算する際は、どの経路を選んでも結果は同じになります。計算しやすい経路を1つ選べば十分です。

具体的な解説と立式
点aと点bの間に電圧 \(V\) の電源を接続し、回路全体に流れる電流を \(I\) とします。求めたい全抵抗は \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) です。

  1. 点aでの分岐: 点aに流れ込んだ電流 \(I\) は、3つの辺に分かれて流れます。aからbへの経路を考えると、どの辺から出発しても状況は対称なので、電流は均等に3分割されます。したがって、各辺には \(\displaystyle\frac{I}{3}\) の電流が流れます。
  2. 中間点での分岐: aの隣の点(例えばd)に到達した電流 \(\displaystyle\frac{I}{3}\) は、さらに2つの辺に分かれます。この2つの経路もbに対して対称なので、電流は均等に2分割され、それぞれに \(\displaystyle\frac{I}{3} \times \frac{1}{2} = \frac{I}{6}\) の電流が流れます。
  3. 点bへの合流: 点bには、3つの辺から電流が流れ込みます。対称性から、これらの辺を流れる電流は、aから流れ出した電流と同じ \(\displaystyle\frac{I}{3}\) になっています。実際、bの隣の点(例えばc)には、2つの辺から \(\displaystyle\frac{I}{6}\) の電流が合流し、\(\displaystyle\frac{I}{6} + \frac{I}{6} = \frac{I}{3}\) となってbへ向かいます。

これで、全ての辺を流れる電流の大きさがわかりました。
点aから点bまでの電圧降下 \(V\) を、任意の経路(例えば a→d→c→b)に沿って計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= (\text{a-d間の電圧降下}) + (\text{d-c間の電圧降下}) + (\text{c-b間の電圧降下}) \\[2.0ex]
&= r \cdot (\text{a-dを流れる電流}) + r \cdot (\text{d-cを流れる電流}) + r \cdot (\text{c-bを流れる電流}) \\[2.0ex]
&= r \cdot \frac{I}{3} + r \cdot \frac{I}{6} + r \cdot \frac{I}{3}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = RI\)
  • キルヒホッフの第1法則(電流則)
  • 回路の対称性
計算過程

上記で立式した電圧 \(V\) の式を計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= r \cdot \frac{I}{3} + r \cdot \frac{I}{6} + r \cdot \frac{I}{3} \\[2.0ex]
&= \left( \frac{1}{3} + \frac{1}{6} + \frac{1}{3} \right) rI \\[2.0ex]
&= \left( \frac{2}{6} + \frac{1}{6} + \frac{2}{6} \right) rI \\[2.0ex]
&= \frac{5}{6} rI
\end{aligned}
$$
全抵抗 \(R_{ab}\) は \(R_{ab} = \displaystyle\frac{V}{I}\) なので、
$$
\begin{aligned}
R_{ab} &= \frac{\frac{5}{6} rI}{I} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{6}r
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

立方体の骨組みの対角線上の2点、一番遠いa地点とb地点の間に電池をつないだときの、全体の通りにくさ(抵抗)を求める問題です。
a地点に入った電気(電流)は、3つの同じ道に分かれるので、公平に3分の1ずつに分かれます。次の分かれ道では、残った2つの同じ道に分かれるので、さらに半分こになります(元の6分の1)。このように、立方体が綺麗なサイコロの形をしている「対称性」のおかげで、電気がどう流れるか予測できます。
aからbまでの適当なルートを1つ選び、各区間の「通りにくさ(\(r\)) × 電気の量(電流)」を足し合わせると、a-b間全体の電圧がわかります。これを全体の電気の量で割ってあげると、立方体全体の抵抗が求められます。

結論と吟味

体対角線間の全抵抗は \(\displaystyle\frac{5}{6}r\) となります。この値は、1辺の抵抗 \(r\) よりも小さい値であり、複数の経路に電流が分かれることで全体として電流が流れやすくなっていることを示しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{5}{6}r\)
別解: 等電位の頂点をまとめる方法

思考の道筋とポイント
電流の分布を考える代わりに、回路の対称性から「電位が等しくなる点」を見つけ出します。電位が等しい点は、電気的には同じ点とみなせるため、1つの点にまとめてしまうことができます。これにより、複雑な立体回路を、単純な直列・並列回路に書き換えることができます。
この設問における重要なポイント

  • 等電位点の発見: 入力点aからの「最短距離(辺の数)」が同じ頂点群は、等電位になります。同様に、出力点bからの距離が同じ頂点群も等電位です。
  • 回路の再構成:
    • 点aに隣接する3つの頂点は、aからの距離が1で等しいので、互いに等電位です。これらをまとめて点Xとします。
    • 点bに隣接する3つの頂点は、bからの距離が1で等しいので、互いに等電位です。これらをまとめて点Yとします。

具体的な解説と立式
回路を以下の3つの部分に分けて考えます。

  1. a点から点Xまで: a点から隣接する3つの頂点へは、それぞれ抵抗 \(r\) の辺でつながっています。点Xはこれら3頂点をまとめた点なので、抵抗 \(r\) が3本並列に接続されていることと同じです。この部分の合成抵抗 \(R_{aX}\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    R_{aX} &= \frac{r}{3}
    \end{aligned}
    $$
  2. 点Xから点Yまで: 点Xを構成する3頂点と、点Yを構成する3頂点の間には、6本の辺があり、それぞれ抵抗 \(r\) を持ちます。これら6本の抵抗が並列に接続されている形になります。この部分の合成抵抗 \(R_{XY}\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    R_{XY} &= \frac{r}{6}
    \end{aligned}
    $$
  3. 点Yから点bまで: 点Yを構成する3頂点から点bへは、それぞれ抵抗 \(r\) の辺でつながっています。これは抵抗 \(r\) が3本並列に接続されていることと同じです。この部分の合成抵抗 \(R_{Yb}\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    R_{Yb} &= \frac{r}{3}
    \end{aligned}
    $$

全体の抵抗 \(R_{ab}\) は、これら3つの部分が直列に接続されたものなので、
$$
\begin{aligned}
R_{ab} &= R_{aX} + R_{XY} + R_{Yb}
\end{aligned}
$$

計算過程

$$
\begin{aligned}
R_{ab} &= \frac{r}{3} + \frac{r}{6} + \frac{r}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{2r + r + 2r}{6} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{6}r
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

サイコロの形をした回路の、a地点から一番遠いb地点までの電気の通りにくさを考えます。
a地点からスタートすると、すぐ隣の3つの点は、aから見てもbから見ても同じ条件なので、電気的な高さ(電位)が同じになります。この3点を「グループX」とします。
同様に、b地点のすぐ隣の3つの点も、高さが同じになります。これを「グループY」とします。
すると、この複雑な回路は、「a地点 → グループX → グループY → b地点」という単純な一本道に見立てることができます。
・aからXへは、3本の道が並列。
・XからYへは、6本の道が並列。
・Yからbへは、3本の道が並列。
これらの各区間の通りにくさ(合成抵抗)を計算して、最後に全部足し合わせれば、全体の抵抗が求められます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(\displaystyle\frac{5}{6}r\) という結果が得られました。異なる視点から同じ結論に至ることで、解の正しさを確信できます。等電位の考え方は、対称性の高い回路問題において非常に強力な手法です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{5}{6}r\)

問(2) a, cを端子とする場合(面対角線)

思考の道筋とポイント
設問(2)は、立方体のある1つの面の対角線上にある2頂点a, c間の合成抵抗を求める問題です。この場合も、回路には対称性があります。
模範解答では、この対称性を利用して、複雑な立体回路を書き直し、単純な直列・並列の組み合わせとして解いています。この書き換えのプロセスを正確に理解することが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 対称性の発見: 入力点aと出力点cを通る平面(acbh)を考えます。この平面に対して、立方体は鏡写しのように対称になっています。
  • 等電位点の特定: 対称性から、対称面に対して鏡写しの位置にある頂点同士は等電位になります。具体的には、頂点dとe、頂点gとfがそれぞれ等電位になります。
  • 回路の単純化: 等電位の点どうしは接続しても回路に影響を与えません。この性質を利用して回路を書き直すことで、計算が可能になります。

具体的な解説と立式
ご指示いただいたプロセスに従い、回路を2つの大きな経路の並列接続として考え、それぞれの合成抵抗を計算します。

1. 経路1(上半分)の抵抗 \(R_1\) の計算:
この経路は、aからcへ向かう2つのルート、a-d-cとa-e-cから構成されます。

  • ルートa-d-c: 辺adと辺dcが直列に接続されているので、抵抗は \(r+r=2r\)。
  • ルートa-e-c: 辺aeと辺ecが直列に接続されているので、抵抗は \(r+r=2r\)。

これら2つのルートが並列に接続されているため、経路1全体の合成抵抗 \(R_1\) は、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_1} &= \frac{1}{2r} + \frac{1}{2r} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{2r} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{r}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
R_1 &= r
\end{aligned}
$$

2. 経路2(下半分)の抵抗 \(R_2\) の計算:
この経路は、a-h-g-b-cとa-h-f-b-cという2つのルートから構成されます。

  • まず、中央のひし形部分(hとbの間)の抵抗を考えます。
    • ルートh-g-b: 辺hgと辺gbが直列に接続されているので、抵抗は \(r+r=2r\)。
    • ルートh-f-b: 辺hfと辺fbが直列に接続されているので、抵抗は \(r+r=2r\)。

    これら2つのルートが並列に接続されているため、ひし形部分の合成抵抗は \(r\)。

  • 経路2全体では、辺ah(抵抗\(r\))、先ほどのひし形部分(抵抗\(r\))、辺bc(抵抗\(r\))の3つが直列に接続されている状態です。

したがって、経路2全体の合成抵抗 \(R_2\) は、
$$
\begin{aligned}
R_2 &= r + r + r \\[2.0ex]
&= 3r
\end{aligned}
$$

全体の合成抵抗 \(R_{ac}\) は、これら2つの経路の並列接続なので、その逆数を計算します。

使用した物理公式

  • 回路の対称性
  • 抵抗の直列・並列合成: \(R = R_1+R_2\), \(\displaystyle\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1}+\frac{1}{R_2}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{ac}} &= \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{r} + \frac{1}{3r} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{3r} + \frac{1}{3r} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{3r}
\end{aligned}
$$
よって、全体の合成抵抗 \(R_{ac}\) は、
$$
\begin{aligned}
R_{ac} &= \frac{3}{4}r
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は、サイコロのある面の対角線の両端a, cに電池をつなぎます。この場合も、サイコロの形が対称的であることを利用します。
この回路は、大きく分けて「立方体の上半分を通るルート」と「下半分を通るルート」の2つの並列な道筋と考えることができます。

  • 上半分ルート: 2つの抵抗が2つずつ直列につながったものが並列になっています。
  • 下半分ルート: 左右の抵抗と、真ん中のひし形部分が直列につながっています。

それぞれのルートの通りにくさ(合成抵抗)を計算し、最後にそれらを並列合成することで、全体の抵抗が求められます。

結論と吟味

面対角線間の全抵抗は \(\displaystyle\frac{3}{4}r\) となります。この値は、(1)の体対角線の場合(\(\frac{5}{6}r \approx 0.83r\))よりも小さく、隣接頂点間(\(\frac{7}{12}r \approx 0.58r\))よりは大きい値です。端子間の距離が中くらいなので、抵抗値も中くらいになる、という直感とも一致する妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{3}{4}r\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 回路の「対称性」の活用:
    • 核心: この問題の根幹は、キルヒホッフの法則を真正面から適用すると極めて複雑になる回路を、「対称性」という幾何学的な性質に着目することで、劇的に単純化して解くことにあります。対称性の利用は、複雑な回路網問題を解くための最も強力な思考ツールの一つです。
    • 理解のポイント:
      • 電流分布の対称性: (1)の主たる解法のように、入力点から見て幾何学的に等価な経路には、同じ大きさの電流が流れます。これにより、未知数である電流の数を大幅に減らすことができます。
      • 電位分布の対称性: (1)の別解や(2)の解法のように、入力点と出力点に対して対称な位置にある頂点群は、電位が等しくなります(等電位)。
  • 等電位点の性質の応用:
    • 核心: 「等電位である」という物理的な事実を、回路を単純化するための操作に結びつけることが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 接続・分離の自由: 電位が等しい複数の点は、導線でつないで1つの点にまとめてしまっても、あるいはそれらの点の間にある抵抗を取り除いてしまっても、回路全体の電気的な性質は変わりません。
      • 立体から平面へ: この操作により、複雑な立体回路を、我々が見慣れた単純な直列・並列接続の平面回路に書き換えることができ、合成抵抗の計算が可能になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 無限に続く抵抗格子: 無限に広がる格子状の抵抗回路の2点間の合成抵抗を求める問題。これも、入力点からの距離と対称性を利用して解くことができます。
    • 正四面体、正八面体などの抵抗回路: 立方体以外の正多面体の各辺に抵抗を配置した回路でも、全く同じ考え方が通用します。その図形の対称性を見抜くことが鍵となります。
    • コンデンサーの立方体回路: 抵抗をコンデンサーに置き換えた問題。考え方は同じで、等電位の点を見つけて合成容量を計算します。直列・並列の計算式が抵抗の場合と逆になる点にだけ注意が必要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 対称軸・対称面の探索: まず、入力端子と出力端子を結ぶ線や、それらを垂直に二等分する面など、回路の対称性の基準となる軸や面を探します。
    2. 等電位点のマーキング: 見つけた対称性に基づいて、等電位になりそうな点に印をつけます。「入力からの辺の数が同じ点」「出力への辺の数が同じ点」「対称面に対して鏡写しの点」などが有力な候補です。
    3. 回路の単純化戦略の選択:
      • 電流分布が予測しやすい場合((1)のように分岐が単純明快)→ 電流を追跡し、任意の経路で電圧降下を計算する。
      • 回路の書き換えが簡単な場合((2)のように等電位点が見つけやすい)→ 等電位点をまとめて回路を書き直し、直列・並列合成に持ち込む。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 対称性の誤認:
    • 誤解: 対称でない配置なのに、対称だと思い込んでしまう。例えば、立方体の隣接する2頂点間の抵抗を求める場合、(1)や(2)ほどの高い対称性はないため、同じようには解けません。
    • 対策: 必ず入力点と出力点の両方から見て対称かどうかを確認する。「入力から見てAとBは同じだが、出力から見ると違う」場合は等電位になりません。対称性は、回路全体の配置で判断する必要があります。
  • 回路の書き換えミス:
    • 誤解: 等電位点をまとめた後、どの抵抗がどこにつながるのかを間違えて、新しい回路図を誤って描いてしまう。
    • 対策: 元の回路図の頂点と辺にすべて名前を付け、書き直した回路図でも同じ名前を使い、辺が1本ずつ正しく移動したかを確認する。面倒でも、頂点を一つずつプロットし、辺を一本ずつ引いていくのが確実です。
  • 電流分布の計算ミス:
    • 誤解: (1)で、aから \(\displaystyle\frac{I}{3}\) に分岐した後、次の点でもまた3分岐するなどと、頂点の接続数を勘違いする。
    • 対策: 電流がどの経路を通って出力点に向かうかを常に意識する。キルヒホッフの電流則(ある点に流れ込む電流の和 = 流れ出る電流の和)が、全ての頂点で成り立っているかを常に確認する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 対称性の利用を選んだ理由:
    • 選定理由: 問題の回路は12個の抵抗が複雑に接続されており、キルヒホッフの法則を直接適用すると、未知数が非常に多くなり連立方程式を解くのが現実的ではありません。一方、回路は幾何学的に高い対称性を持っています。この「対称性」という際立った特徴を最大限に活用することで、問題を劇的に単純化できるため、このアプローチを選択します。
    • 適用根拠: 電気回路の基本法則(オームの法則、キルヒホッフの法則)は線形(比例関係)です。このため、回路の幾何学的な対称性が、そのまま物理量(電位や電流)の分布の対称性に反映されることが保証されています。美しい形は、美しい物理現象を生む、ということです。
  • 電流分布法 vs 等電位法:
    • 選定理由: (1)では両方のアプローチが可能でした。電流分布法は物理的な流れを直感的に追跡でき、等電位法は回路を機械的に単純化できます。どちらが簡単かは問題の構造や個人の好みによります。両方使えるようになっておくと、解法の選択肢が広がり、検算にもなるため非常に強力です。
    • 適用根拠: 電流分布法はキルヒホッフの電流則の直接的な応用です。等電位法は「電位が等しい点の間には電位差がないので電流が流れない」というオームの法則の帰結を利用しています。どちらも物理の基本法則にしっかりと根差した解法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図の積極的な活用: 立方体の図に、電流の値を書き込んだり、等電位の点を同じ色で塗ったりするなど、思考の過程をどんどん図に書き込みましょう。頭の中だけで処理しようとすると、立体構造で混乱しやすくなります。
  • 回路の書き換えは丁寧に: 等電位法を使う場合、焦って書き直すと接続ミスが起こりやすいです。元の頂点と新しい頂点の対応関係を明確にしながら、辺を一本ずつ慎重に移していくことが成功の鍵です。
  • 分数の計算を制する: この問題は分数の足し算や逆数の計算が多く登場します。特に並列合成の \(\displaystyle\frac{1}{R} = \dots\) の計算後、最後に逆数を取るのを忘れるミスは非常に多いです。計算の最終段階で「逆数にしたか?」と自問自答する癖をつけましょう。
  • 極端な場合で検算: もし抵抗 \(r\) が \(0\) や無限大だったらどうなるかを考えます。例えば \(r=0\) なら合成抵抗も \(0\)。\(r \to \infty\) なら合成抵抗も \(\infty\)。当たり前の結果になるかを確認するだけでも、大きな間違いに気づけることがあります。
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48 電流計と電圧計

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解1: 電流計の内部抵抗から先に求める解法
      • 模範解答が設問の順番通りに抵抗Rから求めるのに対し、別解1では回路全体の電圧則から先に電流計の内部抵抗\(r_A\)を確定させます。
    • 別解2: 単位系を工夫する解法 (V, kΩ, mA)
      • 模範解答(および主たる解説)が計算の際にSI基本単位(V, A, Ω)に変換するのに対し、別解2では接頭辞のk(キロ)とm(ミリ)が打ち消し合うことを利用して、指数計算を省略します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 問題構造の理解深化: 別解1を通じて、この問題の2つの問いが、実は片方(\(r_A\)の計算)がもう片方(Rの値)に依存していない、という構造を理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 設問の順番に縛られず、与えられた情報から確定できる部分を先に見つけるという、効率的な問題解決のアプローチを学べます。
    • 計算の効率化と実践力向上: 別解2は、指数計算を省略できるため計算ミスを減らし、時間を短縮する実戦的なテクニックです。単位や接頭辞への理解も深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「内部抵抗を持つ電流計・電圧計を含む回路の解析」です。電流計や電圧計は、理想的な測定器ではなく、それぞれ内部抵抗を持つ電気部品として扱う必要があります。この内部抵抗を考慮に入れて、キルヒホッフの法則やオームの法則を正しく適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電流計・電圧計の内部抵抗: 電流計は測定対象と直列に接続する抵抗、電圧計は並列に接続する抵抗とみなせます。
  2. キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路の分岐点において、流れ込む電流の和と流れ出る電流の和は等しい。
  3. キルヒホッフの第2法則(電圧則): 回路内の任意の閉じたループを一周するとき、起電力の和と電圧降下の和は等しい。
  4. オームの法則: 抵抗の両端の電圧、抵抗値、流れる電流の関係 (\(V=RI\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、電圧計と抵抗\(R\)が並列に接続された部分に着目します。電圧計の指示値と内部抵抗から電圧計自身に流れる電流を計算し、キルヒホッフの電流則を用いて抵抗\(R\)に流れる電流を求め、\(R\)の値を決定します。
  2. 次に、回路全体(外周のループ)に着目します。電源の電圧と、各抵抗および並列部分での電圧降下の関係をキルヒホッフの電圧則で立式し、未知数である電流計の内部抵抗を求めます。

抵抗\(R\)の抵抗値

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