原子範囲 21~25
21 放射性崩壊
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 全体の変化量をまとめて計算する解法
- 模範解答がβ崩壊、α崩壊と1ステップずつ計算するのに対し、別解では2回の崩壊による質量数と原子番号の純変化を先に計算し、一度の操作で最終生成物を求めます。
- 別解: 全体の変化量をまとめて計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 複数の崩壊が連続する場合、全体の純変化を考えることで計算ステップを減らし、見通しを良くすることができます。
- 応用力の向上: より多くの崩壊が続く「崩壊系列」の問題を解く際の基本的な考え方にも通じるため、応用力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「連続する放射性崩壊」です。β崩壊とα崩壊が連続して起こる場合に、それぞれの崩壊のルールを正しく適用し、最終的に生成される原子核を特定する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- β崩壊のルール: 原子番号\(Z\)が1増加し、質量数\(A\)は変化しないこと。
- α崩壊のルール: 原子番号\(Z\)が2減少し、質量数\(A\)が4減少すること。
- 質量数と原子番号の保存則: 各崩壊ステップの前後で、質量数の総和と原子番号の総和はそれぞれ保存されること。
- 周期表と元素記号の関係: 原子番号によって元素の種類が決まることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、\({}_{88}^{225}\text{Ra}\)がβ崩壊したときに生成される中間的な原子核の原子番号と質量数を計算します。
- 次に、その中間的な原子核がα崩壊したときに生成される最終的な原子核の原子番号と質量数を計算します。
- 最終的な原子番号を周期表と照合し、元素記号を特定します。
崩壊後の原子核の特定
思考の道筋とポイント
「β崩壊をした後、α崩壊をした」という2段階のプロセスを、順番に1ステップずつ追いかけていきます。
最初のステップでは、\({}_{88}^{225}\text{Ra}\)にβ崩壊のルールを適用します。これにより、中間生成物が何であるかがわかります。
次のステップでは、その中間生成物にα崩壊のルールを適用します。これにより、最終的に何に変わったかがわかります。
各ステップで、原子番号\(Z\)と質量数\(A\)がどのように変化するかを正確に計算することが重要です。
この設問における重要なポイント
- β崩壊: \(A \to A\), \(Z \to Z+1\)
- α崩壊: \(A \to A-4\), \(Z \to Z-2\)
- 原子番号によって元素が決まる。
具体的な解説と立式
この原子核の変化は、2つのステップで起こります。
ステップ1: β崩壊
元の原子核\({}_{88}^{225}\text{Ra}\)がβ崩壊し、中間的な原子核\({}_{Z’}^{A’}\text{Y}\)に変わります。
$$
\begin{aligned}
{}_{88}^{225}\text{Ra} \rightarrow {}_{Z’}^{A’}\text{Y} + {}_{-1}^{0}\text{e}
\end{aligned}
$$
質量数と原子番号の保存則より、
$$
\begin{aligned}
A’ &= 225
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Z’ &= 88 + 1 = 89
\end{aligned}
$$
となります。原子番号89の元素は、周期表よりAc(アクチニウム)です。
ステップ2: α崩壊
次に、中間的な原子核\({}_{89}^{225}\text{Ac}\)がα崩壊し、最終的な原子核\({}_{Z”}^{A”}\text{X}\)に変わります。
$$
\begin{aligned}
{}_{89}^{225}\text{Ac} \rightarrow {}_{Z”}^{A”}\text{X} + {}_{2}^{4}\text{He}
\end{aligned}
$$
質量数と原子番号の保存則より、
$$
\begin{aligned}
A” &= 225 – 4 = 221
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Z” &= 89 – 2 = 87
\end{aligned}
$$
となります。原子番号87の元素は、周期表よりFr(フランシウム)です。
使用した物理公式
- β崩壊の反応式
- α崩壊の反応式
- 質量数保存則
- 原子番号(電荷数)保存則
上記の立式で計算は完了しています。
- β崩壊後: \({}_{88}^{225}\text{Ra} \to {}_{89}^{225}\text{Ac}\)
- α崩壊後: \({}_{89}^{225}\text{Ac} \to {}_{87}^{221}\text{Fr}\)
この問題は、原子核の「2段階変身」を追いかけるゲームのようなものです。
最初の変身は「β崩壊」です。この変身では、原子番号が1つ増え、質量数は変わりません。ラジウム(88番)はアクチニウム(89番)に変わります。
次の変身は「α崩壊」です。この変身では、原子番号が2つ減り、質量数が4つ減ります。アクチニウム(89番)は、フランシウム(87番)に変わります。
この2回の変身を経た結果、最終的に何になったかを答えます。
\({}_{88}^{225}\text{Ra}\)は、β崩壊とα崩壊を経て、\({}_{87}^{221}\text{Fr}\)に変わることがわかりました。周期表上では、β崩壊で1つ右のマスに進み、その後α崩壊で2つ左のマスに戻るため、結果的に元の位置から1つ左のマスに移動したことになります。
思考の道筋とポイント
β崩壊1回とα崩壊1回が連続して起こる場合、原子番号と質量数が最終的にどれだけ変化するのか、その「純変化」を先に計算します。そして、その純変化を元の原子核に一度に適用することで、最終生成物を直接求めます。
この設問における重要なポイント
- 複数の崩壊による純変化は、各崩壊による変化量の和で計算できる。
- β崩壊1回とα崩壊1回で、原子番号は合計1減少し、質量数は合計4減少する。
具体的な解説と立式
β崩壊1回とα崩壊1回による、質量数\(A\)と原子番号\(Z\)の純変化\(\Delta A, \Delta Z\)を計算します。
質量数の純変化は、
$$
\begin{aligned}
\Delta A &= (\text{β崩壊による変化}) + (\text{α崩壊による変化}) \\[2.0ex]
&= 0 + (-4) \\[2.0ex]
&= -4
\end{aligned}
$$
原子番号の純変化は、
$$
\begin{aligned}
\Delta Z &= (\text{β崩壊による変化}) + (\text{α崩壊による変化}) \\[2.0ex]
&= (+1) + (-2) \\[2.0ex]
&= -1
\end{aligned}
$$
となります。
元の原子核\({}_{88}^{225}\text{Ra}\)にこの純変化を適用して、最終的な原子核\({}_{Z_{\text{最終}}}^{A_{\text{最終}}}\text{X}\)を求めます。
使用した物理公式
- α崩壊・β崩壊のルール
最終的な質量数\(A_{\text{最終}}\)は、
$$
\begin{aligned}
A_{\text{最終}} &= 225 + \Delta A \\[2.0ex]
&= 225 – 4 \\[2.0ex]
&= 221
\end{aligned}
$$
最終的な原子番号\(Z_{\text{最終}}\)は、
$$
\begin{aligned}
Z_{\text{最終}} &= 88 + \Delta Z \\[2.0ex]
&= 88 – 1 \\[2.0ex]
&= 87
\end{aligned}
$$
となります。
原子番号87の元素はFr(フランシウム)なので、最終的な原子核は\({}_{87}^{221}\text{Fr}\)です。
2回の変身をまとめて考えてみましょう。
原子番号(陽子の数)は、β崩壊で「1個増え」、α崩壊で「2個減り」ます。差し引きすると、合計で「1個減る」ことになります。
質量数(陽子と中性子の合計数)は、β崩壊で「変わらず」、α崩壊で「4個減り」ます。差し引きすると、合計で「4個減る」ことになります。
この「合計の変化」を、元のラジウム原子核に適用すれば、途中の計算をせずに一気に最終的な答えを出すことができます。
主たる解法と全く同じ結果\({}_{87}^{221}\text{Fr}\)が得られました。この方法は、途中の生成物を特定する必要がないため、計算が簡潔になり、特に多くの崩壊が連続する問題で有効です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 放射性崩壊における保存則の逐次適用:
- 核心: この問題の根幹は、複数の異なる放射性崩壊が連続して起こる場合でも、それぞれの崩壊段階で「質量数保存則」と「原子番号保存則」が独立に成り立つことを理解し、それらを順番に(逐次的に)適用することにあります。
- 理解のポイント:
- ステップごとの独立性: 1回目のβ崩壊は、それ自体で完結した原子核反応です。2回目のα崩壊は、1回目の崩壊の結果として生じた新しい原子核を「出発点」として起こる、別の独立した原子核反応です。
- ルールの適用:
- 最初の原子核に、1回目の崩壊(β崩壊)のルール(\(A \to A, Z \to Z+1\))を適用し、中間生成物を特定する。
- その中間生成物に、2回目の崩壊(α崩壊)のルール(\(A \to A-4, Z \to Z-2\))を適用し、最終生成物を特定する。
- このように、複雑に見える現象も、基本的なルールの単純な積み重ねで記述できることを理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 崩壊系列: 「\({}_{92}^{238}\text{U}\)がα崩壊とβ崩壊を繰り返して、最終的に安定な\({}_{82}^{206}\text{Pb}\)になった。この間にα崩壊とβ崩壊はそれぞれ何回起こったか?」という問題。
- これは本問の考え方を逆向きに応用したものです。別解で示したように、α崩壊\(x\)回、β崩壊\(y\)回による質量数と原子番号の「純変化」を考え、連立方程式を立てて解くのが定石です。
- 質量数の純変化: \(\Delta A = -4x\)
- 原子番号の純変化: \(\Delta Z = -2x + y\)
- 崩壊の順番が逆の場合: 「α崩壊をした後、β崩壊をした」場合。
- 最終的な純変化は同じ(\(\Delta A = -4, \Delta Z = -1\))なので、出発点と終着点が同じであれば、最終生成物は崩壊の順番によりません。ただし、途中で経由する原子核は異なります。
- 崩壊系列: 「\({}_{92}^{238}\text{U}\)がα崩壊とβ崩壊を繰り返して、最終的に安定な\({}_{82}^{206}\text{Pb}\)になった。この間にα崩壊とβ崩壊はそれぞれ何回起こったか?」という問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 崩壊の回数と種類をリストアップする: 問題文から、どの崩壊が何回、どのような順番で起こるのかを正確に読み取ります。(この問題では「β崩壊1回 \(\to\) α崩壊1回」)
- 各崩壊による変化量をメモする:
- β崩壊: \(\Delta A = 0, \Delta Z = +1\)
- α崩壊: \(\Delta A = -4, \Delta Z = -2\)
- 計算方法を選択する:
- 逐次計算(主たる解法): 崩壊のステップが少ない場合や、途中の生成物を問われる可能性がある場合に有効。
- 純変化計算(別解): 崩壊のステップが多い場合や、最終生成物だけを問われる場合に有効。
- 周期表と照合する: 最終的に得られた原子番号から、対応する元素記号を正確に探し出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 変化量の足し算・引き算ミス:
- 誤解: β崩壊で原子番号が1増え、α崩壊で2減るので、合計で\(1+2=3\)減る、などと符号を間違えて計算してしまう。
- 対策: 変化量には必ず「+」か「-」の符号をつけて考える癖をつけましょう。β崩壊は\(+1\)、α崩壊は\(-2\)なので、合計は \((+1) + (-2) = -1\) となります。
- 崩壊の順番の間違い:
- 誤解: 問題文を読み間違え、α崩壊を先に計算してしまう。
- 対策: 問題文の「…した後、…した」という接続詞を注意深く読み、時系列を正確に把握することが重要です。この問題では最終生成物は同じになりますが、問題によっては途中の生成物を問われることもあるため、順番は常に意識する必要があります。
- 元の原子核の情報の誤読:
- 誤解: \({}_{88}^{225}\text{Ra}\)の質量数や原子番号を読み間違えて計算を始めてしまう。
- 対策: 問題を解き始める前に、出発点となる原子核の情報をノートに正確に書き写すことから始めましょう。基本的なことですが、急いでいると意外と起こりがちなミスです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 質量数保存則・原子番号保存則の適用:
- 選定理由: これらは、原子核反応を記述する上で最も基本的かつ普遍的な法則です。どのような複雑な崩壊過程であっても、各ステップにおいてこれらの保存則が成り立っていると考えるのが、物理学の基本的なアプローチです。
- 適用根拠:
- 逐次適用(主たる解法): 1回目の崩壊で生成された原子核は、2回目の崩壊が起こるまでの間、一つの安定した(あるいは準安定な)存在と見なせます。したがって、1回目の反応の「生成物」が、2回目の反応の「反応物」となります。それぞれの反応は独立した事象なので、各ステップで保存則を適用するのは論理的に妥当です。
- 純変化(別解): 質量数や原子番号の変化量は、それぞれの崩壊過程で独立に加算されていきます。これは、変化量がベクトルでいうところの変位のようなものであり、途中の経路によらず、始点と終点だけで全体の変位が決まるのと同じ考え方です。したがって、各変化量を単純に足し合わせることで、全体の純変化を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図式化する:
- 模範解答のように、質量数\(A\)と原子番号\(Z\)の変化を、それぞれ独立した数直線上の移動として図式化すると、非常に分かりやすくなります。
- \(A: 225 \xrightarrow{\beta} 225 \xrightarrow{\alpha} 221\)
- \(Z: 88 \xrightarrow{\beta} 89 \xrightarrow{\alpha} 87\)
- このように視覚的に表現することで、計算ミスを防ぎ、思考の過程を明確にすることができます。
- 模範解答のように、質量数\(A\)と原子番号\(Z\)の変化を、それぞれ独立した数直線上の移動として図式化すると、非常に分かりやすくなります。
- 周期表上で指差し確認:
- 周期表が与えられている場合、指でなぞりながら崩壊を追うのも有効です。
- まず、88番のRaに指を置く。
- β崩壊なので、1つ右の89番のAcに指を移す。
- 次にα崩壊なので、そこから2つ左の87番のFrに指を移す。
- この操作により、最終的な元素がFrであることが直感的に確認できます。
- 周期表が与えられている場合、指でなぞりながら崩壊を追うのも有効です。
22 放射性崩壊
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射線の性質と電場・磁場中での運動」です。α線、β線、γ線という3種類の放射線が、それぞれどのような電荷を持っているかを理解し、その結果として電場や磁場の中でどのように振る舞うかを判断する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- α線、β線、γ線の正体と電荷:
- α線: 正体はヘリウム原子核\({}_{2}^{4}\text{He}\)。正(\(+\))の電荷を持つ。
- β線: 正体は電子\({}_{-1}^{0}\text{e}\)。負(\(-\))の電荷を持つ。
- γ線: 正体はエネルギーの高い電磁波。電荷を持たない(\(0\))。
- 電場中の荷電粒子の運動: 電荷\(q\)を持つ粒子は、電場\(E\)から静電気力\(F=qE\)を受けます。正電荷は電場の向きに、負電荷は電場と逆向きに力を受けます。
- 磁場中の荷電粒子の運動: 電荷\(q\)を持つ粒子が速さ\(v\)で磁場\(B\)に垂直に進入すると、ローレンツ力\(F=qvB\)を受けます。その力の向きはフレミングの左手の法則で決まります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、電荷を持たないγ線が、電場・磁場のどちらからも影響を受けずに直進することから特定します。
- 次に、電場中では、α線(正電荷)とβ線(負電荷)がそれぞれどちらの電極に引き寄せられるかを考え、軌道を特定します。
- 最後に、磁場中では、フレミングの左手の法則を用いてα線(正電荷)とβ線(負電荷)が受ける力の向きを判断し、軌道を特定します。
図1(電場中)の放射線の特定
思考の道筋とポイント
放射線が電場中でどのように曲がるかは、その放射線が持つ電荷の「有無」と「正負」によって決まります。正の電荷を持つ粒子は負極に、負の電荷を持つ粒子は正極に引き寄せられます。電荷を持たない粒子(や波)は、電場から力を受けないため直進します。
この設問における重要なポイント
- α線は正(\(+\))の電荷を持つ。
- β線は負(\(-\))の電荷を持つ。
- γ線は電荷を持たない(\(0\))。
- 電場は正極(\(+\))から負極(\(-\))の向き(図1では左から右向き)にかかっている。
具体的な解説と立式
まず、3つの軌道のうち、電場の影響を受けずに直進しているものを探します。
- 軌道bは直進しています。これは、電荷を持たない放射線であることを意味するので、bはγ線です。
次に、曲がっている軌道を考えます。
- 軌道aは、正極(左側の\(+\)極)の方向に引き寄せられています。これは、負の電荷を持つ放射線であることを意味するので、aはβ線です。
- 軌道cは、負極(右側の\(-\)極)の方向に引き寄せられています。これは、正の電荷を持つ放射線であることを意味するので、cはα線です。
使用した物理公式
- 静電気力: \(F=qE\)
この問題は定性的な理解を問うものであり、具体的な計算はありません。
電気の世界では、プラスとマイナスは引き合います。
- bはまっすぐ進んでいるので、電気的にプラスでもマイナスでもない中性のγ線です。
- aはプラスの電極に引き寄せられているので、マイナスの電気を持つβ線です。
- cはマイナスの電極に引き寄せられているので、プラスの電気を持つα線です。
また、β線(電子)はα線(ヘリウム原子核)よりずっと軽いので、同じような力を受けても大きく曲げられます。図でaの曲がり方がcより大きいのはこのためです。
以上の考察から、aはβ線、bはγ線、cはα線であると特定できます。
図2(磁場中)の放射線の特定
思考の道筋とポイント
磁場中での荷電粒子の振る舞いは、ローレンツ力によって決まります。力の向きは、フレミングの左手の法則を使って判断します。電荷を持たない放射線は、磁場からも力を受けずに直進します。
この設問における重要なポイント
- フレミングの左手の法則: 中指(電流の向き)、人差し指(磁場の向き)、親指(力の向き)をそれぞれ直角に合わせる。
- 電流の向き: 正電荷の運動の向きと同じ。負電荷の運動の向きとは逆。
- 図2の条件: 磁場は紙面の奥向き(\(\otimes\))。放射線は下から上へ運動している。
具体的な解説と立式
まず、直進している軌道を探します。
- 軌道b’は直進しています。これは、電荷を持たない放射線であることを意味するので、b’はγ線です。
次に、曲がっている軌道を、フレミングの左手の法則を用いて考えます。
- 軌道a’の特定:
粒子は左向きに力を受けています。フレミングの左手の法則で、人差し指(磁場)を紙面奥に、親指(力)を左に向けます。すると、中指(電流)は上を向きます。
粒子の運動方向(上向き)と電流の向き(上向き)が一致しているので、この粒子は正の電荷を持っています。したがって、a’はα線です。 - 軌道c’の特定:
粒子は右向きに力を受けています。フレミングの左手の法則で、人差し指(磁場)を紙面奥に、親指(力)を右に向けます。すると、中指(電流)は下を向きます。
粒子の運動方向(上向き)と電流の向き(下向き)が逆になっています。これは、この粒子が負の電荷を持っていることを意味します。したがって、c’はβ線です。
使用した物理公式
- ローレンツ力: \(F=qvB\)
この問題は定性的な理解を問うものであり、具体的な計算はありません。
磁石の世界では、電気を帯びた粒が動くと、特別な力(ローレンツ力)を受けます。その力の向きは「フレミングの左手の法則」で調べることができます。
- b’はまっすぐ進んでいるので、電気的に中性なγ線です。
- a’は左に曲がっています。左手の法則を使うと、これはプラスの電気が動いた場合(電流は上向き)に受ける力の向きと一致します。よって、a’はα線です。
- c’は右に曲がっています。左手の法則を使うと、これはマイナスの電気が動いた場合(電流は運動と逆で下向き)に受ける力の向きと一致します。よって、c’はβ線です。
以上の考察から、a’はα線、b’はγ線、c’はβ線であると特定できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 放射線の電荷と電磁気力の関係:
- 核心: この問題の根幹は、3種類の放射線(α線、β線、γ線)の正体を理解し、それぞれの電荷の有無と正負に応じて、電場から受ける「静電気力」と磁場から受ける「ローレンツ力」の向きを正しく判断できることにあります。
- 理解のポイント:
- 放射線の電荷:
- α線: 正(\(+\))電荷(ヘリウム原子核)
- β線: 負(\(-\))電荷(電子)
- γ線: 電荷なし(\(0\))(電磁波)
- 電場からの力(静電気力):
- 正電荷は電場の向きに力を受ける(正極から負極へ)。
- 負電荷は電場と逆向きに力を受ける(負極から正極へ)。
- 中性(電荷なし)は力を受けない(直進)。
- 磁場からの力(ローレンツ力):
- 荷電粒子が運動すると力を受ける。向きはフレミングの左手の法則に従う。
- 中性(電荷なし)は力を受けない(直進)。
- 重要: フレミングの左手の法則の「電流の向き」は、正電荷の運動方向、または負電荷の運動と逆方向である。
- 放射線の電荷:
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 質量分析器: 電場と磁場を組み合わせて、荷電粒子の質量や電荷を測定する装置。
- まず速度選択器(電場と磁場を直交させ、静電気力とローレンツ力が釣り合う粒子だけを直進させる)で特定の速さの粒子を選び出し、その後、磁場のみの領域に入射させて円運動の半径を測定することで、比電荷\(q/m\)を求めることができます。
- サイクロトロン: 磁場中で荷電粒子を円運動させながら、電場で周期的に加速していく装置。
- 円運動の周期が粒子の速さによらないことを利用しています。
- ホール効果: 電流が流れている導体に垂直に磁場をかけると、導体内に電位差(ホール電圧)が生じる現象。
- 導体内の電荷のキャリア(電子かホールか)の符号を判別するのに使われます。
- 質量分析器: 電場と磁場を組み合わせて、荷電粒子の質量や電荷を測定する装置。
- 初見の問題での着眼点:
- 直進する粒子を探す: まず、電場や磁場の影響を受けずに直進している軌道を探します。これが中性の粒子(γ線や中性子など)です。
- 電場の場合:
- 正極(\(+\))に引き寄せられていれば負電荷(β線、電子など)。
- 負極(\(-\))に引き寄せられていれば正電荷(α線、陽子など)。
- 磁場の場合:
- フレミングの左手の法則を適用します。
- 「電流」「磁場」「力」の3つのベクトルの向きを、図に正確に書き込みます。
- 特に「電流」の向きを、粒子の電荷の符号に応じて正しく設定することが最重要です。(正電荷なら運動方向、負電荷なら運動と逆方向)
- 法則から導かれる力の向きと、実際の軌道の曲がる向きが一致するかどうかで粒子を特定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- フレミングの左手の法則の適用ミス:
- 誤解: β線(電子)のような負電荷の粒子に対しても、運動の向きをそのまま電流の向きとして法則を適用してしまう。
- 対策: 「電流の向きは、正電荷の動く向き」という定義を徹底しましょう。負電荷が上向きに動いている場合、それは「正電荷が下向きに動いている」のと同じ電流と見なせます。したがって、中指(電流)は下向きに合わせる必要があります。この一点を間違えると、力の向きが逆になり、答えも逆になってしまいます。
- 電場と磁場の力の向きの混同:
- 誤解: 電場中でもフレミングの法則を使おうとしたり、磁場中で電極の方向へ曲げようとしたりする。
- 対策: 2つの力の働き方を明確に区別して覚えましょう。
- 静電気力: 電場に「平行」または「反平行」な向き。力の向きは粒子の位置によらず一定(一様電場の場合)。
- ローレンツ力: 運動方向と磁場の両方に「垂直」な向き。力の向きは常に運動方向を変えるように働く(円運動やらせん運動の原因)。
- α線とβ線の曲がり方の大きさ:
- 誤解: α線とβ線の電荷の大きさは\(2e\)と\(e\)なので、α線の方が大きな力を受けて大きく曲がるはずだ、と考えてしまう。
- 対策: 軌道の曲がりやすさ(曲率半径)は、力だけでなく粒子の質量(慣性)にも依存します。α粒子は電子(β線)の約7300倍も重いため、同じような大きさの力を受けても、はるかに曲がりにくいです。図1で軌道a(β線)が軌道c(α線)より大きく曲がっているのは、この質量差を反映しています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 静電気力 \(F=qE\):
- 選定理由: 図1は「電場」中に「電荷」を持つ粒子が入射する状況です。この状況で粒子が受ける力を記述する基本法則が静電気力の公式です。
- 適用根拠: 電場とは、その空間に置かれた電荷に力を及ぼす性質を持つ「場」のことです。この公式は、その力の大きさと向きを定義する、電磁気学の基本中の基本です。
- ローレンツ力 \(F=qvB\) と フレミングの左手の法則:
- 選定理由: 図2は「磁場」中に「電荷」を持つ粒子が「運動」して入射する状況です。この状況で粒子が受ける力を記述するのがローレンツ力の公式であり、その向きを簡便に求めるための経験則がフレミングの左手の法則です。
- 適用根拠: 電流(電荷の運動)が磁場から力を受けるというアンペールの発見が元になっています。ローレンツ力は、その力をミクロな視点で個々の荷電粒子に働く力として定式化したものです。力の向きが運動方向と磁場方向の両方に垂直になるという性質は、実験事実に基づく電磁気学の基本的な法則です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 自分の手を使う:
- フレミングの左手の法則は、実際に自分の左手を使って確認するのが最も確実で間違いが少ない方法です。
- 図の向きに合わせて、人差し指(磁場)、中指(電流)、親指(力)を動かし、物理現象と自分の手の形を一致させる練習をしましょう。
- 図への書き込み:
- 問題用紙の図に、電場の向き(\(+\)から\(-\)へ)、磁場の向き、粒子の運動方向、そして力の向きを矢印で書き込むと、状況が視覚的に整理され、間違いを防ぐことができます。
- 特に、β線の場合、「運動方向 \(\vec{v}\)」と「電流の向き \(I\)」を、それぞれ逆向きの矢印で明確に書き分けることが重要です。
- 消去法で考える:
- まず、直進するγ線を特定する。
- 次に、残った2つのうち、例えばα線(正電荷)の軌道を特定する。
- そうすれば、残った最後の軌道がβ線であると自動的に決まります。
- このように、分かっているものから順番に確定させていく消去法的なアプローチも、ミスを減らすのに有効です。
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23 放射性崩壊
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 連立方程式を正式に立てる解法
- 模範解答が、まず質量数の変化からα崩壊の回数を確定させ、その結果を利用して原子番号の変化からβ崩壊の回数を求める、という段階的な解法をとるのに対し、別解ではα崩壊の回数を\(x\)、β崩壊の回数を\(y\)として、質量数と原子番号の変化に関する連立方程式を最初に立ててから解く、より数学的に形式的なアプローチをとります。
- 別解: 連立方程式を正式に立てる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 思考の形式化: 問題の構造を「未知数が2つ、独立した式が2つ」という連立方程式の形に明確に落とし込むことで、思考のプロセスがより形式的かつ明瞭になります。
- 汎用性の高さ: より複雑な核反応の問題に応用する際に、まず未知数を設定し、保存則から機械的に方程式を立てる、という汎用的な問題解決手法を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点や表現が異なるだけで、本質的な計算内容は同じであり、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「崩壊系列におけるα崩壊とβ崩壊の回数の計算」です。ある原子核が、複数のα崩壊とβ崩壊を経て別の安定な原子核に変わる際に、それぞれの崩壊が何回起こったかを、質量数と原子番号の保存則を用いて計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- α崩壊のルール: 質量数が4減少し、原子番号が2減少すること。
- β崩壊のルール: 質量数は変化せず、原子番号が1増加すること。
- 質量数保存則と原子番号保存則: 崩壊系列の最初と最後で、質量数と原子番号の変化量を、各崩壊による変化量の合計として考えることができること。
- 質量数変化の特性: 質量数の変化はα崩壊によってのみ引き起こされるため、まずα崩壊の回数を独立に決定できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、質量数の変化量に着目します。β崩壊では質量数は変化しないため、質量数の全変化量はα崩壊の回数だけで決まります。このことから、α崩壊の回数を計算します。
- 次に、原子番号の変化量に着目します。原子番号の全変化量は、α崩壊による減少とβ崩壊による増加の合計です。1.で求めたα崩壊の回数を代入することで、β崩壊の回数を計算します。