今回の問題
wave#22【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「気柱の共鳴(閉管)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 閉管の共鳴条件: 一端が閉じ、一端が開いている管(閉管)では、開口端が変位の腹、閉端が変位の節となる定常波が生じるときに共鳴が起こります。
- 変位と密度の関係: 気柱の定常波において、空気の変位が最大の点(腹)では密度(圧力)の変化は最小(節)となり、逆に変位が最小の点(節)では密度(圧力)の変化は最大(腹)となります。
- 波の基本公式: 音の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の関係 (\(v = f\lambda\)) は、波の分野における最も基本的な関係式です。
- 閉管の固有振動数: 閉管で共鳴する振動数は、基本振動数\(f_1\)の奇数倍 (\(f_1, 3f_1, 5f_1, \dots\)) になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、気柱の定常波における変位と密度の関係についての知識を基に、図から対応する点を答えます。
- (3)では、「はじめて共鳴した」という条件から、これが基本振動であると判断します。与えられた基本振動数と音速から波長を計算し、閉管の基本振動の条件式を用いて管の長さを求めます。次に、2番目に共鳴する振動数が3倍振動であることから、その振動数を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「空気の動きが最も激しい点」とは、空気分子の変位の振幅が最大になる点、すなわち定常波の「腹」を指します。閉管における気柱の共鳴では、管の開いている端(開口端)が変位の腹になるという性質を理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント
- 空気の動きが激しい ⇔ 変位の振幅が最大 ⇔ 変位の腹。
- 気柱の共鳴では、開口端は常に変位の腹となります。
具体的な解説と立式
この問題は物理法則の理解を問う知識問題であり、計算は不要です。
気柱の共鳴において、管の開口端では空気が自由に振動できるため、変位の振幅が最大となる「腹」ができます。
図において、管口に位置するのは点Aです。したがって、空気の動きが最も激しい点はAとなります。
管の口の部分(A)は外の空気とつながっていて、一番自由に空気が動けます。そのため、空気の振動(動き)が最も激しくなります。
空気の動きが最も激しい点は、変位の腹である点Aです。
問(2)
思考の道筋とポイント
「空気の密度変化の最も大きい点」とは、空気の圧力変化の振幅が最大になる点、すなわち圧力の「腹」を指します。気柱の定常波では、変位の「節」と圧力の「腹」は一致します。閉管では、管の閉じている端(閉端)が変位の節になるため、そこが密度変化最大の点となります。
この設問における重要なポイント
- 密度変化が最も大きい ⇔ 圧力変化が最大 ⇔ 圧力の腹。
- 変位の腹と圧力の節は一致し、変位の節と圧力の腹は一致します。
- 気柱の共鳴では、閉端は常に変位の節となります。
具体的な解説と立式
この問題も知識問題です。
気柱の共鳴において、管の閉端では空気が壁に妨げられて動くことができません。そのため、変位の振幅は常にゼロ、すなわち「節」となります。
空気が動けない点では、周囲の空気から押されたり引かれたりすることで、圧縮されたり希薄になったりという密度(圧力)の変化が最も大きくなります。つまり、変位の節は圧力(密度)の腹と一致します。
図において、閉端に位置するのは点Cです。したがって、空気の密度変化が最も大きい点はCとなります。
管の奥の壁の部分(C)では、空気は壁にぶつかってそれ以上進めません。そのため、空気がぎゅっと押し付けられたり、逆にすかすかになったりする「密度の変化」が最も大きくなります。
空気の密度変化が最も大きい点は、変位の節である点Cです。
問(3)
思考の道筋とポイント
「低い振動数からだんだん増していって、120 Hzではじめて共鳴した」という記述から、この振動数 \(f_1 = 120\) Hz が閉管の基本振動数であることがわかります。
まず、波の基本公式 \(v = f\lambda\) を用いて、このときの音波の波長 \(\lambda_1\) を求めます。
次に、閉管の基本振動では、管の長さ \(l\) が波長の \(\frac{1}{4}\) に等しいという関係 (\(l = \frac{\lambda_1}{4}\)) を用いて、管長 \(l\) を計算します。
最後に、「2番目に共鳴する」振動数を求めます。閉管の固有振動数は基本振動数の奇数倍 (\(f_1, 3f_1, 5f_1, \dots\)) となるため、2番目の共鳴は3倍振動にあたります。その振動数 \(f_3\) は \(f_3 = 3f_1\) で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 閉管の共鳴は、基本振動、3倍振動、5倍振動…と、基本振動数の奇数倍の振動数で起こる。
- 基本振動(\(n=1\))のとき、管長 \(l\) と波長 \(\lambda_1\) の関係は \(l = \displaystyle\frac{1}{4}\lambda_1\)。
- 3倍振動(\(n=2\)番目の共鳴)のとき、管長 \(l\) と波長 \(\lambda_3\) の関係は \(l = \displaystyle\frac{3}{4}\lambda_3\)。
具体的な解説と立式
与えられた条件は、音速 \(v = 340\) m/s、基本振動数 \(f_1 = 120\) Hz です。
まず、基本振動のときの波長 \(\lambda_1\) を、波の基本公式から求めます。
$$ v = f_1 \lambda_1 \quad \cdots ① $$
次に、閉管の基本振動の共鳴条件から、管長 \(l\) を求めます。
$$ l = \frac{1}{4}\lambda_1 \quad \cdots ② $$
2番目に共鳴する振動数は、3倍振動の振動数 \(f_3\) です。
$$ f_3 = 3f_1 \quad \cdots ③ $$
これらの式を用いて、\(l\) と \(f_3\) を計算します。
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\)
- 閉管の基本振動の条件: \(l = \displaystyle\frac{1}{4}\lambda\)
- 閉管の固有振動数の関係: \(f_n = (2n-1)f_1\) (n=1, 2, 3, …)
まず、2番目に共鳴する振動数 \(f_3\) を式③から求めます。
$$
\begin{aligned}
f_3 &= 3 \times f_1 \\[2.0ex]&= 3 \times 120 \\[2.0ex]&= 360 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
次に、管長 \(l\) を求めます。まず式①から波長 \(\lambda_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_1 &= \frac{v}{f_1} \\[2.0ex]&= \frac{340}{120} = \frac{17}{6} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
この \(\lambda_1\) を式②に代入して、管長 \(l\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{1}{4} \lambda_1 \\[2.0ex]&= \frac{1}{4} \times \frac{17}{6} \\[2.0ex]&= \frac{17}{24} \\[2.0ex]&\approx 0.7083\dots \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
与えられた数値の有効数字は3桁(340, 120)と考えられるため、結果も有効数字3桁で答えます。
$$ l \approx 0.708 \text{ [m]} $$
2番目に共鳴する振動数は、最初の振動数(120 Hz)の3倍です。なので、\(120 \times 3 = 360\) Hz です。
管の長さを求めるには、まず最初の共鳴のときの波長を計算します。波長は「速さ ÷ 振動数」なので、\(340 \div 120 = \frac{17}{6}\) m です。閉管の最初の共鳴では、管の長さは波長のちょうど4分の1になります。なので、管の長さは \(\frac{17}{6} \div 4 = \frac{17}{24}\) m となり、これを小数に直すと約 0.708 m です。
2番目に共鳴する振動数は 360 Hz、閉管の長さは 0.708 m です。計算結果は物理的に妥当な値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 閉管の共鳴条件:
- 核心: 閉管では、開口端が腹、閉端が節になるという境界条件から、管長 \(l\) が \(\frac{1}{4}\) 波長の奇数倍 (\(l = (2n-1)\frac{\lambda}{4}\)) のときにのみ定常波が形成され、共鳴が起こるという事実です。
- 理解のポイント: なぜ奇数倍なのかを図で理解することが重要です。管の中に腹と節が交互に並ぶ様子を描いてみると、閉端が節、開口端が腹になるためには、ループの数が「整数の個数 + 半分」になるしかないことがわかります。
- 変位と密度の関係:
- 核心: 音波(縦波)の定常波では、媒質の振動の大きさ(変位)と、媒質の密度の変化(圧力)は、場所によって位相が \(\frac{\pi}{2}\) ずれています。
- 理解のポイント: 「変位の腹=密度の節」「変位の節=密度の腹」という逆の関係をしっかり覚えましょう。空気が動けない場所(節)ほど、圧縮・膨張が激しくなる(密度変化大)とイメージすると忘れにくくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 開管との比較: 両端が開いている管(開管)では、両端が腹になります。このため、固有振動数は基本振動数の整数倍 (\(f_1, 2f_1, 3f_1, \dots\)) となり、偶数倍の振動も存在します。閉管との違いを明確に区別することが重要です。
- 開口端補正: 厳密には、変位の腹は管口から少し外側にはみ出した位置にできます。このズレを「開口端補正 \(\Delta l\)」と呼びます。この場合、共鳴条件式は \(l + \Delta l = (2n-1)\frac{\lambda}{4}\) のように修正されます。
- ピストンを動かす問題: 管の一端にピストンをつけ、その位置を動かして共鳴点を探す問題は頻出です。隣り合う共鳴点(例えば基本振動と3倍振動)のピストンの位置の差は、半波長 (\(\frac{\lambda}{2}\)) に等しいことを利用して波長を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 管の種類を特定する: まず問題が「閉管」なのか「開管」なのかを判断します。これが全ての基本です。
- 共鳴の次数を把握する: 「はじめて」「最小の振動数」なら基本振動。「\(n\)番目」と言われたら、閉管なら \((2n-1)\)倍振動、開管なら \(n\)倍振動と考えます。
- 境界条件を図示する: 簡単な図を描き、開口端に「腹」、閉端に「節」と書き込み、定常波の概形を描くことで、管長と波長の関係 (\(l = \dots \times \lambda\)) を視覚的に導き出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 閉管と開管の公式の混同:
- 誤解: 閉管の問題なのに、開管の公式 \(l = n\frac{\lambda}{2}\) を使ってしまう。
- 対策: 必ず「閉管は奇数倍」「開管は全部」と覚え、問題に着手する前に「これは閉管の問題だ」と自分に言い聞かせましょう。図を描く習慣をつければ、公式を丸暗記していなくても関係式を導けます。
- 「2番目の共鳴」=「2倍振動」という勘違い:
- 誤解: 2番目だから振動数も2倍だろう、と \(f_2 = 2f_1\) としてしまう。
- 対策: 閉管には偶数倍の振動は存在しません。共鳴は「基本振動(\(1f_1\))」「3倍振動(\(3f_1\))」「5倍振動(\(5f_1\))」…の順に起こります。したがって、「2番目」は「3倍振動」、「3番目」は「5倍振動」に対応することを正確に理解しましょう。
- 波長と管長の関係ミス:
- 誤解: 基本振動で \(l = \lambda\) や \(l = \lambda/2\) と間違える。
- 対策: これも図を描くことで防げます。基本振動の定常波は、ループ(腹と節の間のひとまとまり)が1つだけです。ループ1つの長さは \(\frac{\lambda}{4}\) なので、\(l = \frac{\lambda}{4}\) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 公式 \(l = (2n-1)\frac{\lambda}{4}\):
- 選定理由: これは閉管の境界条件(閉端:節、開口端:腹)を満たす定常波が存在するための幾何学的な条件式です。
- 適用根拠: 音波が閉端で反射する際、位相が反転します(固定端反射)。この反射波と入射波が干渉して定常波を作りますが、開口端(腹)と閉端(節)という条件を同時に満たすためには、管長が \(\frac{1}{4}\) 波長の奇数倍でなければならない、という物理的制約から導かれます。
- 変位と密度の関係:
- 選定理由: 音波は媒質の疎密が伝わる「縦波」です。その物理現象を、媒質の「動き(変位)」と「状態(密度)」という2つの側面から記述するために必要となります。
- 適用根拠: 変位が0の場所(節)では、媒質は動けませんが、両側から圧縮されたり引っ張られたりするため、密度の変化は最大になります。逆に、変位が最大の場所(腹)では、媒質は自由に動けるため、圧力が均一化されやすく、密度の変化は最小になります。この物理的なイメージが、両者の関係を理解する鍵です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数のまま計算を進める:
- (3)で波長を計算する際、\(\lambda_1 = \frac{340}{120} \approx 2.83\) のように途中で小数に直すと、その後の計算で誤差が蓄積し、有効数字も曖昧になります。\(\lambda_1 = \frac{17}{6}\) のように分数のまま扱い、最後の最後で \(l = \frac{17}{24}\) を小数に直す方が、正確かつ高速です。
- 検算の習慣:
- (3)で求めた \(l = \frac{17}{24}\) m と \(f_3 = 360\) Hz が正しいか検算してみましょう。3倍振動の波長 \(\lambda_3\) は \(v/f_3 = 340/360 = 17/18\) m。3倍振動の共鳴条件は \(l = \frac{3}{4}\lambda_3\) なので、\(l = \frac{3}{4} \times \frac{17}{18} = \frac{17}{24}\) m。確かに一致します。このように別の角度から計算して一致を確認すると、自信を持って解答できます。
- 有効数字の確認:
- 計算を始める前に、問題文で与えられた数値の有効数字が何桁かを確認する癖をつけましょう。この問題では「120」「340」であり、一般的にはそれぞれ3桁と解釈します。最終的な答えも、それに合わせて丸める必要があります。
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