問題31 (岡山大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばねにつながれた物体と、それに接触する別の物体が、摩擦のある床の上を運動する状況を扱います。エネルギーと仕事の関係、そして連立した運動方程式の扱いがテーマとなります。
- ばね定数: \(k\)
- ばねの自然長: \(x_0\)
- 物体Aの質量: \(m\)
- 物体Bの質量: \(M\)
- 床とAの間の摩擦: なし
- 床とBの間の動摩擦係数: \(\mu’\)
- 重力加速度: \(g\)
- (1) AとBが一緒に運動し、速度が0になった状況について
- ア:摩擦力がした仕事
- イ:そのときのばねの長さ \(x_2\)
- (2) AとBが運動中に離れる状況について
- ウ:一緒に運動しているときのAの運動方程式
- エ:一緒に運動しているときのBの運動方程式
- オ:AとBが離れるときのばねの長さ \(x_3\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)イ ばねの長さ \(x_2\) の別解: エネルギーと仕事の関係式を用いる別形式の解法
- 主たる解法が「力学的エネルギーの変化量 = 非保存力がした仕事」という形式で立式するのに対し、別解では「はじめの力学的エネルギー + された仕事 = 後の力学的エネルギー」という、物理的なエネルギー収支がより直感的に理解しやすい形式で立式します。
- 問(2)オ ばねの長さ \(x_3\) の別解: 系全体の運動方程式を利用する解法
- 主たる解法が、Bの運動方程式から離れる瞬間の加速度を求め、それをAの運動方程式に代入するのに対し、別解ではAとBを一体とみなした系全体の運動方程式から加速度を求め、それを利用してAがBを押す力\(f\)をばねの長さ\(x\)の関数として表し、\(f=0\)となる条件を解きます。
- 問(1)イ ばねの長さ \(x_2\) の別解: エネルギーと仕事の関係式を用いる別形式の解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 問(1)イの別解は、エネルギー保存則が非保存力の仕事によってどのように破れるかを視覚的に捉える助けになります。問(2)オの別解は、「個別の物体」で見る視点と、「系全体」で見る視点の両方を学ぶことで、運動方程式の適用範囲や内力・外力の概念についての理解が深まります。
- 思考の柔軟性: 同じ問題に対して、異なる視点や計算手順のアプローチを経験することで、より複雑な問題に対応できる思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、立式の形式や計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「弾性力と摩擦力がはたらく物体の運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事と力学的エネルギーの関係: 非保存力(この問題では動摩擦力)が仕事をすると、その仕事の分だけ系の力学的エネルギーが変化します。
- 運動方程式: 複数の物体が関係する運動では、それぞれの物体に着目し、はたらく力をすべて図示して運動方程式を立てることが基本です。
- 作用・反作用の法則: AがBを押す力とBがAを押す力のように、2物体間にはたらく力は、大きさが等しく向きが逆になります。
- 物体が離れる条件: 接触していた2つの物体が離れる瞬間は、お互いに及ぼし合っていた力(垂直抗力や押し合う力)が0になるときです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、運動の始点と終点での速度がともに0であることに着目します。この場合、運動の途中経過を追うよりも、全体のエネルギー収支を考える「仕事と力学的エネルギーの関係」を用いるのが有効です。
- (2)では、運動の途中過程における加速度や物体間にはたらく力が問われているため、AとBそれぞれについて運動方程式を立てます。
- 「AとBが離れる」という条件を「AとBが押し合う力 \(f=0\)」と解釈し、(2)で立てた運動方程式にこの条件を適用して、そのときのばねの長さを求めます。
問(1) ア
思考の道筋とポイント
摩擦力がした仕事を求めます。仕事の基本的な定義は「力 × 距離」ですが、力の向きと移動方向が逆であるため、仕事は負の値になります。
この設問における重要なポイント
- 動摩擦力の大きさを正しく求める (\(F = \mu’N\))。
- 仕事の対象となる物体Bの移動距離を正しく把握する。
- 力の向きと移動方向から、仕事の符号(正負)を正しく判断する。
具体的な解説と立式
物体Bにはたらく動摩擦力について考えます。
床に垂直な方向の力のつり合いより、物体Bにはたらく垂直抗力の大きさは \(Mg\) です。
したがって、Bにはたらく動摩擦力の大きさ \(F_{\text{摩擦}}\) は、
$$F_{\text{摩擦}} = \mu’Mg$$
この摩擦力は、運動方向(右向き)とは逆の左向きにはたらきます。
物体Bは、ばねの長さが \(x_1\) の位置から \(x_2\) の位置まで、距離 \((x_2 – x_1)\) だけ右向きに移動します。
仕事の定義 \(W = (\text{力}) \times (\text{距離}) \times \cos\theta\) において、力と移動の向きがなす角は \(180^\circ\) なので、摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\) は、
$$W_{\text{摩擦}} = F_{\text{摩擦}} \cdot (x_2 – x_1) \cdot \cos(180^\circ)$$
使用した物理公式
- 動摩擦力: \(F’ = \mu’N\)
- 仕事の定義: \(W = Fs\cos\theta\)
\(\cos(180^\circ) = -1\) なので、
$$W_{\text{摩擦}} = -\mu’Mg(x_2 – x_1)$$
これがアの答えです。
摩擦力は、物体の運動を妨げる「ブレーキ」のような力です。このブレーキがかかりながら物体がどれだけ動いたかを計算するのが「摩擦力がした仕事」です。
ブレーキの力は \(\mu’Mg\)、動いた距離は \((x_2 – x_1)\) です。運動と逆向きの力なので、仕事はマイナスになり、\(-\mu’Mg(x_2 – x_1)\) となります。
摩擦力がした仕事は \(-\mu’Mg(x_2 – x_1)\) です。物体は右向きに動いているので \(x_2 > x_1\) であり、仕事は負の値となります。これは、摩擦力が系のエネルギーを奪う働きをしたことを示しており、物理的に妥当です。
問(1) イ
思考の道筋とポイント
問題文の誘導「(摩擦力がした仕事は)運動中の力学的エネルギーの変化量と等しい」に従って立式します。系の力学的エネルギーは、ばねの弾性エネルギーと、物体A, Bの運動エネルギーの和です。
運動の初めと終わりで、AとBの速度はともに0なので、運動エネルギーは考えなくてよく、弾性エネルギーの変化だけを考えればよいことになります。
この設問における重要なポイント
- 「力学的エネルギーの変化量 = 非保存力がした仕事」の公式を正しく適用する。
- ばねの弾性エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{変位})^2\) を使う。ばねの「長さ」と自然長からの「縮み」を混同しない。
- 始点と終点のエネルギー状態を正確に把握する。
具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係式は、
$$(\text{後の力学的エネルギー}) – (\text{はじめの力学的エネルギー}) = (\text{非保存力がした仕事})$$
です。
- はじめの状態(ばねの長さ \(x_1\), 速度 0):
ばねの縮みは \((x_0 – x_1)\) なので、系の力学的エネルギー \(E_1\) は、
$$E_1 = \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 + 0$$ - 後の状態(ばねの長さ \(x_2\), 速度 0):
ばねの縮みは \((x_0 – x_2)\) なので、系の力学的エネルギー \(E_2\) は、
$$E_2 = \frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 + 0$$ - 非保存力(摩擦力)がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
アで求めた通り、\(W_{\text{摩擦}} = -\mu’Mg(x_2 – x_1)\) です。
これらを関係式に代入すると、
$$\frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 – \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 = -\mu’Mg(x_2 – x_1)$$
使用した物理公式
- 仕事と力学的エネルギーの関係: \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)
- ばねの弾性エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{変位})^2\)
立式したエネルギーの式を \(x_2\) について解きます。右辺のマイナスをなくすため、\((x_2 – x_1)\) を \(-(x_1 – x_2)\) とします。
$$\frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 – \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 = \mu’Mg(x_1 – x_2)$$
左辺を \(a^2 – b^2 = (a-b)(a+b)\) の形と見て因数分解します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}k\{(x_0 – x_2) – (x_0 – x_1)\}\{(x_0 – x_2) + (x_0 – x_1)\} &= \mu’Mg(x_1 – x_2) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}k(x_1 – x_2)(2x_0 – x_1 – x_2) &= \mu’Mg(x_1 – x_2)
\end{aligned}
$$
運動が起こったので \(x_1 \neq x_2\) です。したがって、両辺を \((x_1 – x_2)\) で割ることができます。
$$\frac{1}{2}k(2x_0 – x_1 – x_2) = \mu’Mg$$
この式を \(x_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2x_0 – x_1 – x_2 &= \frac{2\mu’Mg}{k} \\[2.0ex]
x_2 &= 2x_0 – x_1 – \frac{2\mu’Mg}{k}
\end{aligned}
$$
最初にばねが持っていたエネルギーの一部が、運動中に摩擦によって熱として失われました。そして、残ったエネルギーが、最後に再びばねのエネルギーとして蓄えられました。この「はじめのエネルギー – 失われたエネルギー = 最後のエネルギー」というエネルギーの収支計算をすることで、最終的に止まったときのばねの長さを求めることができます。
速度が0になったときのばねの長さは \(x_2 = 2x_0 – x_1 – \displaystyle\frac{2\mu’Mg}{k}\) となります。もし摩擦がなければ (\(\mu’=0\))、\(x_2 = 2x_0 – x_1\) となり、これは単振動の中心 \(x_0\) に関して \(x_1\) と対称な点を示します。摩擦があることで、その対称点よりも手前(\(x\)が小さい位置)で止まることをこの式は示しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
「はじめの力学的エネルギー + された仕事 = 後の力学的エネルギー」という、仕事とエネルギーの関係のもう一つの表現形式で立式します。非保存力がした仕事は負の値なので、エネルギーの収支として捉えやすくなります。
この設問における重要なポイント
- エネルギーの収支の観点から立式する。
具体的な解説と立式
- はじめの力学的エネルギー: \(E_1 = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2\)
- 摩擦力がした仕事: \(W_{\text{摩擦}} = -\mu’Mg(x_2 – x_1)\)
- 後の力学的エネルギー: \(E_2 = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2\)
「はじめのエネルギーに、された仕事(負の値)を加えると、後のエネルギーになる」という関係から、
$$ \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 + \{-\mu’Mg(x_2 – x_1)\} = \frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 $$
使用した物理公式
- 仕事と力学的エネルギーの関係: \(E_{\text{初}} + W_{\text{非保存力}} = E_{\text{後}}\)
この式は、主たる解法で立てた式と全く同じです。
$$ \frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 – \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 = -\mu’Mg(x_2 – x_1) $$
したがって、計算過程と結果は主たる解法と同一になります。
$$ x_2 = 2x_0 – x_1 – \frac{2\mu’Mg}{k} $$
「はじめに持っていたお財布の中身(はじめのエネルギー)から、途中で使ったお金(摩擦がした仕事)を引くと、最後に残ったお財布の中身(後のエネルギー)になる」という考え方で式を立てます。これは、主たる解法の「(残金)-(元金)=(支出)」という考え方と、数学的には全く同じことを言っています。
主たる解法と同じ結果が得られます。どちらの形式で立式しても問題ありませんが、物理的な意味を理解しておくことが大切です。
問(2) ウ, エ
思考の道筋とポイント
AとBが一緒に運動しているとき、両者は同じ加速度 \(a\) を持ちます。物体Aと物体B、それぞれに着目し、はたらく力をすべて図示して運動方程式を立てます。AとBの間には、お互いに押し合う力 \(f\) がはたらいていることに注意します。
この設問における重要なポイント
- 物体Aと物体B、それぞれにはたらく力を正確にリストアップし、図示する。
- ばねの弾性力は、自然長 \(x_0\) からの変位 \((x_0 – x)\) に比例する。
- AがBを押す力とBがAを押す力は、作用・反作用の関係にある。
具体的な解説と立式
運動方向である右向きを正とします。ばねの長さが \(x\) のとき、ばねは自然長から \((x_0 – x)\) だけ縮んでいるので、ばねの弾性力は右向きに \(k(x_0 – x)\) です。
- 物体Aの運動方程式(ウ):
物体Aにはたらく力は、- ばねからの弾性力: \(k(x_0 – x)\) (右向き, 正)
- 物体Bから押される力: \(f\) (左向き, 負)
したがって、Aの運動方程式は、
$$ma = k(x_0 – x) – f$$
よって、ウは \(k(x_0 – x) – f\) です。 - 物体Bの運動方程式(エ):
物体Bにはたらく力は、- 物体Aから押す力: \(f\) (右向き, 正)
- 床からの動摩擦力: \(\mu’Mg\) (左向き, 負)
したがって、Bの運動方程式は、
$$Ma = f – \mu’Mg$$
よって、エは \(f – \mu’Mg\) です。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- フックの法則: \(F = k \times (\text{変位})\)
- 作用・反作用の法則
この設問では立式のみが求められているため、これ以上の計算は不要です。
AとB、それぞれの物体について「(質量)×(加速度)=(力の合計)」という運動のルールを式にします。
Aは、ばねに右向きに押され、Bに左向きに押し返されています。
Bは、Aに右向きに押され、床との摩擦で左向きに引かれています。
これらの力の足し算・引き算が、それぞれの運動方程式になります。
Aの運動方程式は \(ma = k(x_0 – x) – f\)、Bの運動方程式は \(Ma = f – \mu’Mg\) となります。力の向きを正しく考慮した、基本的な運動方程式の立式です。
問(2) オ
思考の道筋とポイント
「AとBが離れる」という物理現象を、数式で表現することが鍵です。AとBは接触している間、お互いに力 \(f\) を及ぼし合っています。離れる瞬間とは、この押し合う力がちょうど0になる瞬間です。
したがって、\(f=0\) を(ウ)と(エ)で立てた連立運動方程式に代入することで、離れる瞬間のばねの長さ \(x_3\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 「物体が離れる瞬間の条件」は、物体間にはたらく抗力(この場合は \(f\))が0になること。
- この条件を、連立運動方程式に適用して未知数を消去していく。
具体的な解説と立式
AとBが離れる条件は、AとBが押し合う力 \(f\) が0になること、すなわち \(f=0\) です。
この \(f=0\) という条件を、まず物体Bの運動方程式 \(Ma = f – \mu’Mg\) に代入します。
$$Ma = 0 – \mu’Mg$$
これにより、AとBが離れる瞬間の加速度 \(a\) がわかります。
$$a = -\mu’g$$
次に、この離れる瞬間の条件 \(f=0\) と、そのときの加速度 \(a = -\mu’g\) を、物体Aの運動方程式 \(ma = k(x_0 – x) – f\) に代入します。このときのばねの長さが求める \(x_3\) です。
$$m(-\mu’g) = k(x_0 – x_3) – 0$$
使用した物理公式
- (ウ)(エ)で導出した運動方程式
- 物体が離れる条件: \(f=0\)
立式した \(m(-\mu’g) = k(x_0 – x_3)\) を \(x_3\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
-m\mu’g &= kx_0 – kx_3 \\[2.0ex]
kx_3 &= kx_0 + m\mu’g
\end{aligned}
$$
両辺を \(k\) で割ります。
$$x_3 = x_0 + \frac{m\mu’g}{k}$$
AとBが一緒に動いている間、AはBを押し続けています。しかし、ばねが自然長を過ぎて伸び始めると、ばねはAを左向きに引っ張り始め、Aのスピードが落ちていきます(減速します)。一方、Bは摩擦を受けながらも進もうとします。やがてAの減速が激しくなり、Bを押し続けることができなくなった瞬間、つまり押す力 \(f\) が0になったときに、二つの物体は離れます。この \(f=0\) という条件を運動方程式に入れて計算すると、そのときのばねの長さがわかります。
AとBが離れるときのばねの長さは \(x_3 = x_0 + \displaystyle\frac{m\mu’g}{k}\) です。
この結果は \(x_3 > x_0\) であることを示しており、ばねが自然長よりも伸びた位置でAとBが離れることを意味します。これは、ばねが縮んでいる間 (\(x < x_0\)) は弾性力がAを右向きに加速させるため、AがBを必ず押し続ける (\(f>0\)) ことからも妥当です。Aの加速度が負(減速)になり、その減速の度合いがBの摩擦による減速(加速度 \(-\mu’g\))よりも大きくなった瞬間に離れる、という物理的なイメージとも一致しています。
思考の道筋とポイント
AとBを一体とみなした「系」の運動方程式と、B単体の運動方程式を組み合わせ、まずAがBを押す力\(f\)をばねの長さ\(x\)の関数として表します。そして、離れる条件である\(f=0\)を適用して、そのときの\(x\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 系全体の運動方程式を立て、加速度を\(x\)の関数で表す。
- 個別の物体の運動方程式と組み合わせ、物体間の力\(f\)を\(x\)の関数で表す。
具体的な解説と立式
AとBを一体とみなすと、系全体の質量は \((m+M)\) です。系にはたらく外力は、ばねの弾性力 \(k(x_0-x)\) と、Bにはたらく動摩擦力 \(\mu’Mg\) です。
系全体の運動方程式は、
$$(m+M)a = k(x_0 – x) – \mu’Mg$$
ここから、加速度\(a\)は、
$$a = \frac{k(x_0 – x) – \mu’Mg}{m+M}$$
一方、物体Bの運動方程式は \(Ma = f – \mu’Mg\) でした。これを\(f\)について解くと、
$$f = Ma + \mu’Mg$$
この式に、上で求めた加速度\(a\)を代入します。
$$f = M\left(\frac{k(x_0 – x) – \mu’Mg}{m+M}\right) + \mu’Mg$$
AとBが離れる条件は \(f=0\) なので、
$$M\left(\frac{k(x_0 – x_3) – \mu’Mg}{m+M}\right) + \mu’Mg = 0$$
このときの\(x\)が求める\(x_3\)です。
使用した物理公式
- 運動方程式(系全体、個別)
- 物体が離れる条件: \(f=0\)
\(f=0\)の式を\(x_3\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
M\left(\frac{k(x_0 – x_3) – \mu’Mg}{m+M}\right) &= -\mu’Mg \\[2.0ex]
k(x_0 – x_3) – \mu’Mg &= -\frac{(m+M)\mu’Mg}{M} \\[2.0ex]
k(x_0 – x_3) &= \mu’Mg – \frac{(m+M)\mu’Mg}{M} \\[2.0ex]
k(x_0 – x_3) &= \frac{M\mu’Mg – (m+M)\mu’Mg}{M} \\[2.0ex]
k(x_0 – x_3) &= \frac{(M – m – M)\mu’Mg}{M} \\[2.0ex]
k(x_0 – x_3) &= \frac{-m\mu’Mg}{M} \\[2.0ex]
x_0 – x_3 &= -\frac{m\mu’g}{k} \\[2.0ex]
x_3 &= x_0 + \frac{m\mu’g}{k}
\end{aligned}
$$
AとBをチームと見て、チーム全体の加速度をまず計算します。次に、Bだけの運動方程式「\(Ma = f – \mu’Mg\)」を考え、「Bを動かす力\(f\)は、Bの分の加速と摩擦をまかなう必要がある」と解釈します。この式にチーム全体の加速度を代入すると、力\(f\)がばねの長さ\(x\)によってどう変わるかがわかります。最後に、\(f=0\)になる\(x\)を求めます。
主たる解法と同じ結果が得られました。この別解は計算がやや複雑になりますが、「系で見る」視点と「個で見る」視点を組み合わせる良い練習になります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 仕事と力学的エネルギーの関係:
- 核心: 摩擦力などの非保存力が仕事をすると、その分だけ系の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)が変化(多くは減少)します。この関係式 \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) は、運動の始点と終点の状態だけを比較して解ける場合に非常に強力です。
- 理解のポイント: (1)のように、途中の速度や加速度を問われず、最初と最後の状態が分かっている問題では、まずエネルギーの観点からアプローチできないか考えましょう。
- 運動方程式と連立方程式:
- 核心: 複数の物体が相互に力を及ぼしながら運動する場合、各物体に個別で運動方程式を立て、それらを連立させて解くのが基本です。
- 理解のポイント: (2)のように、運動の途中過程での力(\(f\))や加速度(\(a\))が関わる問題では、運動方程式の立式が必須です。「作用・反作用」や「一体となって運動する(加速度が同じ)」といった条件を正しく式に反映させることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 積み重なった物体の運動: 上の物体と下の物体の間に働く静止摩擦力や、下の物体と床の間の動摩擦力を考え、一体となって運動する条件や、滑り出す条件を運動方程式から求める問題。
- 糸でつながれた物体の運動: 複数の物体が糸(張力)を介して運動する問題。各物体について運動方程式を立て、張力や加速度を求めます。
- エレベーター内のばね振り子: 上下方向に加速することで見かけの重力が変化し、ばねのつり合いの位置や振動周期が変わる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギー保存則は使えるか?: まず、摩擦や空気抵抗などの非保存力が仕事をしていないか確認します。していなければ、力学的エネルギー保存則が使えて簡単です。
- 仕事とエネルギーの関係は使えるか?: 非保存力が仕事をしていても、(1)のように始点と終点の状態が単純な場合(例:速度が0)は、この関係式が有効です。
- 運動方程式を立てるしかないか?: 運動の途中の加速度や、物体間にはたらく力を問われた場合は、運動方程式を立てる必要があります。
- 「条件」の数式化: 「離れる」「滑り出す」「一体で動く」といった日本語の条件を、物理量(抗力\(f=0\)、摩擦力\(f=\mu N\)、加速度が等しいなど)を用いた数式に変換できるかが勝負の分かれ目です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ばねの「長さ」と「伸び・縮み(変位)」の混同:
- 誤解: 弾性エネルギーの公式 \(\frac{1}{2}kx^2\) の \(x\) に、ばねの「長さ」をそのまま代入してしまう。
- 対策: ばねのエネルギーや力の式に出てくる変位は、常に「自然長からの」伸びまたは縮みであると意識する。この問題では、ばねの長さが\(x\)のとき、縮みは\((x_0 – x)\)となることを常に確認する。
- 仕事の符号ミス:
- 誤解: 仕事は常に正だと思い込む、または符号を気にしない。
- 対策: 力の向きと移動の向きを必ず図で確認する。運動を妨げる向きの力(摩擦力、空気抵抗など)がする仕事は、必ず負になる。
- 作用・反作用の力の扱いのミス:
- 誤解: 2つの物体にはたらく力を考える際、片方の物体に作用と反作用の両方を書き込んでしまう。
- 対策: 必ず「1つの物体」に着目し、その物体が「外部から」受ける力だけを考える。Aの運動方程式にはBから受ける力\(f\)を、Bの運動方程式にはAから受ける力\(f\)を、それぞれ向きに注意して記述する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1) 仕事とエネルギーの関係:
- 選定理由: 運動の始点と終点の速度が分かっており、途中の詳細な運動状態を問われていないため。運動方程式を立てて時間で積分するよりも、はるかに計算が楽。
- 適用根拠: エネルギー保存則の拡張版であり、非保存力が介在する系のマクロな状態変化を記述する普遍的な法則だから。
- (2) 運動方程式:
- 選定理由: 運動の途中における加速度\(a\)や、物体間にはたらく力\(f\)といった、運動の「詳細」を問われているため。エネルギーの式だけではこれらの量は直接わからない。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。物体の運動状態(加速度)と、それにはたらく力との関係を記述する、力学の最も基本的な法則だから。
- (2)オ 「離れる条件 \(f=0\)」:
- 選定理由: 「離れる」という現象を、具体的な物理量で表現するため。
- 適用根拠: 力は物体間の相互作用であり、接触がなくなれば力は働かないという物理的な事実から。接触している物体が離れるまさにその瞬間、及ぼし合う力は0になる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認を徹底する:
- 特に注意すべき点: この問題では、力の向き(弾性力、摩擦力、\(f\))、仕事の正負、変位の向きなど、符号が重要な役割を果たします。立式の各段階で、座標軸の正の向きと照らし合わせて符号が正しいか確認する。
- 日頃の練習: 運動方程式を立てる際は、必ず力の図を描き、矢印の向きと式の符号を一つ一つ対応させる練習をする。
- 文字の混同に注意:
- 特に注意すべき点: \(x, x_0, x_1, x_2, x_3\) や \(m, M\) など、似たような文字が多く登場します。定義を混同しないように注意する。
- 日頃の練習: 問題文の条件を、自分で改めてノートに書き出す際に、各文字が何を意味するのかを明確に意識する。
- 因数分解の活用:
- 特に注意すべき点: (1)イの計算で、\((x_0-x_2)^2 – (x_0-x_1)^2\) をそれぞれ展開してから整理すると計算が煩雑になり、ミスを誘発します。\(A^2-B^2=(A-B)(A+B)\) の因数分解公式を使うと、スマートかつ正確に計算できます。
- 日頃の練習: 式変形の際には、より簡単な計算方法がないか、一度立ち止まって考える癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1)イ \(x_2\): 答えの式 \(x_2 = 2x_0 – x_1 – \frac{2\mu’Mg}{k}\) には、摩擦力の効果を表す項 \(-\frac{2\mu’Mg}{k}\) が含まれています。この項があることで、摩擦がない場合に比べて \(x_2\) が小さくなる(より手前で止まる)ことがわかります。これは物理的に正しいです。
- (2)オ \(x_3\): 答えの式 \(x_3 = x_0 + \frac{m\mu’g}{k}\) は、\(x_3\) が自然長 \(x_0\) よりも大きいことを示しています。つまり、ばねが伸びた状態でAとBが離れるということです。これは、ばねが縮んでいる間はAがBを押し続けるはずなので、離れるとしたらばねが伸びてAが減速を始めてからだ、という直感と一致します。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし摩擦がなかったら (\(\mu’=0\)):
- (1)イ: \(x_2 = 2x_0 – x_1\)。これは単振動の中心\(x_0\)に関する対称点であり、エネルギーが保存される場合の正しい結果です。
- (2)オ: \(x_3 = x_0\)。摩擦がない場合、AとBは自然長の位置で離れます。なぜなら、自然長を過ぎるとばねがAを左に引き始め、Aは減速しますが、Bには何も力が働かない(水平方向)ので等速運動を続けようとするためです。これも妥当な結果です。
- もし摩擦がなかったら (\(\mu’=0\)):
問題32 (学習院大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ゴムひもにつながれた物体が、摩擦のある水平な台の上で運動する様子を扱います。ゴムひもは「伸びるだけで縮まない」という、ばねとは異なる特性を持つ点が重要です。
- 物体Aの質量: \(m\)
- ゴムひもBの自然長: \(l\)
- ゴムひもの弾性力: \(ky\) (\(k\)は比例定数, \(y\)は自然長からの伸び)
- 台と物体の間の静止摩擦係数: \(\mu\)
- 台と物体の間の動摩擦係数: \(\mu’\)
- 重力加速度: \(g\)
- 条件: \(\mu > \mu’\)
運動の経緯
- ゴムひもをゆっくり引き、自然長から\(a\)だけ伸びたときに物体が動き始めた。
- 動き始めた瞬間に、ゴムひもを引くのをやめた。
- 物体は、はじめの位置から\(b\)だけ移動して止まった。
- (1) 物体が動き始めたときの、ゴムひもの伸び\(a\)と\(\mu\)の関係。
- (2) 動き始める直前の、ゴムひもの弾性エネルギー。
- (3) 物体が止まるまでに摩擦力がした仕事。
- (4) 物体が止まったとき、ゴムひもがたるんでいた場合の、\(\mu\)と\(\mu’\)の関係式。
- (5) 物体が止まったとき、ゴムひもが伸びていた場合の、移動距離\(b\)を求める式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) \(\mu\)と\(\mu’\)の関係式の別解: エネルギーの収支式から直接不等式を導く解法
- 主たる解法が、エネルギーの等式を立てた後で \(b>a\) という条件を適用するのに対し、別解でははじめから「失われた弾性エネルギー > 摩擦がした仕事の大きさ」という不等式を立てて、より直感的に関係を導きます。
- 問(5) 移動距離 \(b\)の別解: 仕事とエネルギーの関係を別形式で立式する解法
- 主たる解法が「エネルギーの変化量 = 仕事」で立式するのに対し、別解では「はじめのエネルギー + 仕事 = 後のエネルギー」というエネルギー収支の観点から立式します。
- 問(4) \(\mu\)と\(\mu’\)の関係式の別解: エネルギーの収支式から直接不等式を導く解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 問(4)の別解は、なぜその関係が成り立つのかをエネルギーの大小関係から直接的に理解する助けとなります。問(5)の別解は、同じ物理法則でも異なる表現形式があることを学び、現象の捉え方の幅を広げます。
- 思考の選択肢: エネルギーに関する問題では、等式で考えるか不等式で考えるか、また「変化量」で見るか「収支」で見るかなど、複数のアプローチを持つことで、問題に応じて最適な解法を選択する力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、立式の形式や計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ゴムひもの弾性力と摩擦力がはたらく物体の運動」です。ゴムひもは、ばねと似ていますが「伸びているときしか弾性力を及ぼさない」という点が決定的に異なります。この特性をエネルギーや運動方程式にどう反映させるかが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が動き出す直前は、物体にはたらく力がつり合っている状態です。
- 摩擦力:
- 静止摩擦力: 物体が動き出す直前には、最大静止摩擦力 \(\mu N\) がはたらいています。
- 動摩擦力: 物体が動いている間は、動摩擦力 \(\mu’ N\) がはたらきます。
- ゴムひもの弾性力と弾性エネルギー:
- 弾性力は伸びに比例し \(F=ky\)。ばねと同じフックの法則に従います。
- 弾性エネルギーもばねと同様に \(U = \displaystyle\frac{1}{2}ky^2\) と表せます。
- 重要: ゴムひもはたるんでいる(伸びが0以下)とき、弾性力も弾性エネルギーも0になります。
- 仕事と力学的エネルギーの関係: 摩擦力(非保存力)がした仕事の分だけ、系の力学的エネルギーが変化します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、物体が動き出す「直前」の力のつり合いを考えます。ゴムひもが引く力と最大静止摩擦力がつり合っている状態から式を立てます。
- (2)では、(1)で求めた伸び\(a\)を使って、弾性エネルギーの公式に代入します。
- (3)では、動摩擦力の大きさと移動距離から、仕事の定義に従って計算します。運動方向と摩擦力の向きが逆なので、仕事は負になることに注意します。
- (4)と(5)では、運動の始点と終点でのエネルギー状態を比較する「仕事と力学的エネルギーの関係」を用います。このとき、終状態でのゴムひもの状態(たるんでいるか、伸びているか)によって、弾性エネルギーの扱いが変わる点に注意が必要です。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が「動き始めた」瞬間に着目します。この瞬間、物体にはたらく静止摩擦力は、その最大値である「最大静止摩擦力」になっています。物体にはたらく水平方向の力は、ゴムひもの弾性力と最大静止摩擦力です。これらの力がつり合っている(厳密には、弾性力が最大静止摩擦力をわずかに超えた)状態を考えます。
この設問における重要なポイント
- 動き始める瞬間の摩擦力は、最大静止摩擦力 \(\mu N\) である。
- 鉛直方向の力のつり合いから、垂直抗力 \(N\) を求める。
- 水平方向の力のつり合いの式を立てる。
具体的な解説と立式
物体が動き始める直前、物体にはたらく力は以下の通りです。
- 鉛直方向: 重力 \(mg\)(下向き)と、台からの垂直抗力 \(N\)(上向き)。
- 水平方向: ゴムひもからの弾性力 \(ka\)(右向き)と、最大静止摩擦力 \(\mu N\)(左向き)。
まず、鉛直方向の力のつり合いから、垂直抗力 \(N\) を求めます。
$$N = mg$$
次に、水平方向の力のつり合いから、ゴムひもの伸び \(a\) と摩擦係数 \(\mu\) の関係を求めます。
動き始める直前は、弾性力と最大静止摩擦力がつり合っているので、
$$ka = \mu N$$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- ゴムひもの弾性力: \(F=ky\)
- 最大静止摩擦力: \(F_{\text{max}} = \mu N\)
\(N=mg\) を、水平方向のつり合いの式 \(ka = \mu N\) に代入します。
$$ka = \mu mg$$
この式は、問題で問われている \(a\) と \(\mu\) の関係を示しています。
物体を右に引っぱっても、最初は摩擦が頑張って動きません。だんだん引く力を強くしていくと、ついに摩擦が耐えきれなくなって動き出します。この「動き出すギリギリの瞬間」では、「ゴムひもが引く力」と「摩擦が耐えられる限界の力(最大静止摩擦力)」が等しくなっています。この力のバランスを式にすると、\(a\) と \(\mu\) の関係がわかります。
物体が動き始めたときのゴムひもの伸び \(a\) と \(\mu\) の関係は、\(ka = \mu mg\) と示されます。これは、摩擦係数 \(\mu\) や質量 \(m\) が大きいほど、動き出すまでにより大きな伸び \(a\) が必要になることを示しており、直感的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
ゴムひもに蓄えられる弾性エネルギーを求めます。ゴムひもの弾性エネルギーは、ばねと同様に \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) で計算できます。問題文で与えられている通り、動き始める直前の伸びは \(a\) です。
この設問における重要なポイント
- 弾性エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) を正しく使う。
- 「伸び」が \(a\) であることを確認する。
具体的な解説と立式
ゴムひもが自然長から \(y\) だけ伸びているとき、蓄えられている弾性エネルギー \(U\) は、
$$U = \frac{1}{2}ky^2$$
と表せます。
物体が動き始める直前、ゴムひもの伸びは \(a\) なので、このときの弾性エネルギー \(U_a\) は、
$$U_a = \frac{1}{2}ka^2$$
使用した物理公式
- 弾性エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}ky^2\)
この設問では立式のみが求められているため、これ以上の計算は不要です。
ゴムやばねを伸ばすと、エネルギーが蓄えられます。そのエネルギー量は「\(\displaystyle\frac{1}{2} \times k \times (\text{伸び})^2\)」という公式で計算できます。今、伸びは \(a\) なので、公式に当てはめるだけで答えが出ます。
ゴムひもに蓄えられている弾性エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}ka^2\) です。これは弾性エネルギーの基本的な公式そのものです。
問(3)
思考の道筋とポイント
物体が動き始めてから止まるまでに、摩擦力がした仕事を求めます。物体が動いている間にはたらく摩擦力は「動摩擦力」です。仕事の定義 \(W = Fx\cos\theta\) に従って計算します。
この設問における重要なポイント
- 運動中にはたらく摩擦力は、動摩擦力 \(\mu’N\) である。
- 物体の移動距離が \(b\) であることを問題文から読み取る。
- 摩擦力は運動方向と逆向きにはたらくため、仕事は負になる。
具体的な解説と立式
物体が運動している間、物体にはたらく動摩擦力の大きさ \(F’_{\text{摩擦}}\) は、
$$F’_{\text{摩擦}} = \mu’N = \mu’mg$$
この力は、物体の運動方向(右向き)とは逆の左向きにはたらきます。
物体は、はじめの位置から右向きに距離 \(b\) だけ移動して止まります。
したがって、摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\) は、
$$W_{\text{摩擦}} = (\mu’mg) \cdot b \cdot \cos(180^\circ)$$
使用した物理公式
- 動摩擦力: \(F’ = \mu’N\)
- 仕事の定義: \(W = Fs\cos\theta\)
\(\cos(180^\circ) = -1\) なので、
$$W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgb$$
物体が動いている間に、摩擦力(ブレーキ)がした仕事を計算します。ブレーキの力は \(\mu’mg\)、動いた距離は \(b\) です。運動と逆向きの力なので、仕事はマイナスになり、\(-\mu’mgb\) となります。
摩擦力がした仕事は \(-\mu’mgb\) です。移動距離 \(b\) は正なので、仕事は負の値となります。これは、摩擦力が系の力学的エネルギーを減少させる働きをしたことを意味し、物理的に妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
「仕事と力学的エネルギーの関係」を利用します。
$$(\text{後の力学的エネルギー}) – (\text{はじめの力学的エネルギー}) = (\text{非保存力がした仕事})$$
この問題の状況に当てはめて、各項を具体的に記述します。
- はじめの状態: 動き始める直前。速度は0。ゴムの伸びは \(a\)。
- 後の状態: 距離 \(b\) だけ移動して停止。速度は0。「ゴムひもがたるんでいた」ので、伸びは0。
- 非保存力がした仕事: (3)で求めた摩擦力の仕事。
この設問における重要なポイント
- 「ゴムひもがたるんでいた」 \(\rightarrow\) 後の弾性エネルギーは0。
- 仕事とエネルギーの関係式を正しく立てる。
- 問題の条件「\(b>a\)」と(1)の結果を組み合わせて、\(\mu\) と \(\mu’\) の関係を導く。
具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係を考えます。
- はじめの力学的エネルギー \(E_1\):
速度は0、ゴムの伸びは \(a\) なので、(2)より \(E_1 = \displaystyle\frac{1}{2}ka^2\)。 - 後の力学的エネルギー \(E_2\):
速度は0、ゴムはたるんでいるので伸びも0。よって \(E_2 = 0\)。 - 摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
(3)より \(W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgb\)。
これらを関係式 \(E_2 – E_1 = W_{\text{摩擦}}\) に代入すると、
$$0 – \frac{1}{2}ka^2 = -\mu’mgb \quad \cdots ①$$
また、問題の状況「ゴムひもがたるんでいた」とは、移動距離 \(b\) がはじめの伸び \(a\) よりも大きいこと、すなわち
$$b > a \quad \cdots ②$$
を意味します。これらの式から関係を導きます。
使用した物理公式
- 仕事と力学的エネルギーの関係
- (1)で求めた関係式 \(ka = \mu mg\)
まず、式①を整理します。
$$\frac{1}{2}ka^2 = \mu’mgb$$
この式に、不等式② (\(b>a\)) を適用します。
$$\frac{1}{2}ka^2 = \mu’mgb > \mu’mga$$
したがって、次の不等式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}ka^2 > \mu’mga$$
この不等式の両辺を、正の値である \(a\) で割ると、
$$\frac{1}{2}ka > \mu’mg$$
ここで、(1)で求めた関係式 \(ka = \mu mg\) を代入します。
$$\frac{1}{2}(\mu mg) > \mu’mg$$
両辺を正の値 \(mg\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}\mu &> \mu’ \\[2.0ex]
\mu &> 2\mu’
\end{aligned}
$$
最初にゴムひもが持っていた弾性エネルギーが、すべて摩擦の仕事によって食いつぶされた、というエネルギーの収支計算をします。これにより、\(\frac{1}{2}ka^2 = \mu’mgb\) という関係がわかります。
「ゴムがたるんだ」ということは、動いた距離 \(b\) が最初の伸び \(a\) より長い (\(b>a\)) ということです。この条件を使って、先ほどのエネルギーの式を不等式に変形し、(1)の結果も利用して整理すると、\(\mu\) と \(\mu’\) の関係式が得られます。
\(\mu\) と \(\mu’\) の間には \(\mu > 2\mu’\) という関係があります。これは、静止摩擦係数が動摩擦係数の2倍よりも大きいという、かなり強い条件です。この条件が満たされるときにのみ、物体はゴムがたるむまで運動できる、ということを示しています。
思考の道筋とポイント
物体が動き、ゴムひもがたるむまで移動するということは、はじめに蓄えられていた弾性エネルギーが、摩擦によって消費されるエネルギーよりも大きかったことを意味します。ただし、摩擦が仕事をするのは距離\(b\)にわたってですが、ゴムひもがたるむのは距離\(a\)を移動した時点です。この点を考慮して不等式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 「ゴムひもがたるむまで動ける」 \(\iff\) 「はじめの弾性エネルギー > 距離\(a\)だけ動く間に摩擦がする仕事の大きさ」
具体的な解説と立式
物体が動き出し、ゴムひもが自然長に戻る(移動距離が\(a\)になる)までに、摩擦に打ち勝ってさらに運動を続けられるかどうかを考えます。
- はじめの弾性エネルギー: \(\displaystyle\frac{1}{2}ka^2\)
- 距離\(a\)だけ動く間に摩擦がする仕事の大きさ: \(|W_a| = \mu’mga\)
ゴムひもがたるむまで動ける(\(b>a\)となる)ためには、はじめの弾性エネルギーが、少なくとも距離\(a\)を移動する間のエネルギー損失を上回っている必要があります。
$$ \frac{1}{2}ka^2 > \mu’mga $$
使用した物理公式
- エネルギーの大小関係の比較
この不等式は、主たる解法の途中で現れたものと同一です。
両辺を \(a\) で割り、\(ka = \mu mg\) を代入することで、
$$ \mu > 2\mu’ $$
が得られます。
物体がスタート(伸び\(a\))から自然長の位置(移動距離\(a\))まで戻る間に、摩擦によってエネルギーが奪われます。もし、スタート時の弾性エネルギーが、この間に奪われるエネルギーより大きければ、物体は自然長の位置でもまだ運動エネルギーを持っており、さらに先(ゴムがたるむ領域)まで進むことができます。このエネルギーの大小関係を不等式で表します。
主たる解法と同じ結果が得られます。エネルギーの等式から出発するのではなく、物理的な条件を直接不等式で表現するアプローチです。
問(5)
思考の道筋とポイント
この場合も「仕事と力学的エネルギーの関係」を利用します。状況は(4)と似ていますが、終状態が異なります。
- はじめの状態: (4)と同じ。
- 後の状態: 距離 \(b\) だけ移動して停止。速度は0。「ゴムひもが伸びていた」ので、弾性エネルギーが残っています。
- 非保存力がした仕事: (4)と同じ。
この設問における重要なポイント
- 「ゴムひもが伸びていた」 \(\rightarrow\) 後の弾性エネルギーは0ではない。
- 後のゴムひもの伸びを正しく表現する。
- 仕事とエネルギーの関係式を立て、移動距離 \(b\) について解く。
具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係を考えます。
- はじめの力学的エネルギー \(E_1\):
\(E_1 = \displaystyle\frac{1}{2}ka^2\)。 - 後の力学的エネルギー \(E_2\):
速度は0。物体ははじめの位置(伸び\(a\))から \(b\) だけ移動したので、ゴムひもの伸びは \(a-b\) となります。
したがって、後の弾性エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}k(a-b)^2\)。
よって、\(E_2 = \displaystyle\frac{1}{2}k(a-b)^2\)。 - 摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
\(W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgb\)。
これらを関係式 \(E_2 – E_1 = W_{\text{摩擦}}\) に代入すると、
$$\frac{1}{2}k(a-b)^2 – \frac{1}{2}ka^2 = -\mu’mgb$$
使用した物理公式
- 仕事と力学的エネルギーの関係
- (1)で求めた関係式 \(ka = \mu mg\)
立式したエネルギーの式を \(b\) について解きます。
$$\frac{1}{2}k\{(a-b)^2 – a^2\} = -\mu’mgb$$
左辺の \( \{\} \) の中を \(A^2-B^2=(A-B)(A+B)\) を用いて因数分解します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}k\{(a-b)-a\}\{(a-b)+a\} &= -\mu’mgb \\[2.0ex]
\frac{1}{2}k(-b)(2a-b) &= -\mu’mgb
\end{aligned}
$$
両辺を \(-b\) で割ります(\(b \neq 0\))。
$$\frac{1}{2}k(2a-b) = \mu’mg$$
この式を \(b\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2a-b &= \frac{2\mu’mg}{k} \\[2.0ex]
b &= 2a – \frac{2\mu’mg}{k}
\end{aligned}
$$
ここで、(1)の関係式 \(a = \displaystyle\frac{\mu mg}{k}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
b &= 2\left(\frac{\mu mg}{k}\right) – \frac{2\mu’mg}{k} \\[2.0ex]
b &= \frac{2mg}{k}(\mu – \mu’)
\end{aligned}
$$
(4)と考え方は同じで、エネルギーの収支計算をします。ただし、今回は最後に止まったときもゴムが伸びているので、その分の弾性エネルギーが残っています。
「はじめの弾性エネルギー」から「摩擦で失われたエネルギー」を引いたものが、「最後の弾性エネルギー」になる、という式を立てます。この式を、求めたい移動距離 \(b\) について解き、最後に(1)でわかった関係式を使って整理すれば答えが出ます。
移動距離 \(b\) は \(b = \displaystyle\frac{2mg}{k}(\mu – \mu’)\) と表されます。
問題文の条件 \(\mu > \mu’\) より、\(b\) は正の値となり、物体が実際に移動したことと矛盾しません。また、静止摩擦係数と動摩擦係数の差が大きいほど、移動距離が長くなることを示しています。これは、動き出すためのエネルギー(\(\mu\)に依存)と、運動を妨げるエネルギー損失(\(\mu’\)に依存)の差が、運動の規模を決めるという物理的な描像と一致しています。
思考の道筋とポイント
「はじめの力学的エネルギー + された仕事 = 後の力学的エネルギー」というエネルギー収支の観点から立式します。
この設問における重要なポイント
- エネルギーの収支の観点から立式する。
具体的な解説と立式
- はじめの力学的エネルギー: \(E_1 = \displaystyle\frac{1}{2}ka^2\)
- 摩擦力がした仕事: \(W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgb\)
- 後の力学的エネルギー: \(E_2 = \displaystyle\frac{1}{2}k(a-b)^2\)
関係式 \(E_1 + W_{\text{摩擦}} = E_2\) に代入すると、
$$ \frac{1}{2}ka^2 + (-\mu’mgb) = \frac{1}{2}k(a-b)^2 $$
使用した物理公式
- 仕事と力学的エネルギーの関係: \(E_{\text{初}} + W_{\text{非保存力}} = E_{\text{後}}\)
この式は、主たる解法で立てた式と全く同じです。
$$ \frac{1}{2}k(a-b)^2 – \frac{1}{2}ka^2 = -\mu’mgb $$
したがって、計算過程と結果は主たる解法と同一になります。
$$ b = \frac{2mg}{k}(\mu – \mu’) $$
「はじめに持っていたお財布の中身(はじめのエネルギー)から、途中で使ったお金(摩擦がした仕事)を引くと、最後に残ったお財布の中身(後のエネルギー)になる」という考え方で式を立てます。これは、主たる解法の「(残金)-(元金)=(支出)」という考え方と、数学的には全く同じことを言っています。
主たる解法と同じ結果が得られます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 仕事と力学的エネルギーの関係:
- 核心: 摩擦力のような非保存力が仕事をすると、その分だけ系の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)が変化(多くは減少)します。関係式は \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) または「(後のエネルギー)ー(前のエネルギー)=(非保存力がした仕事)」です。
- 理解のポイント: この問題のように、運動の始点と終点の速度がわかっている(特に0の場合)問題では、運動方程式を解くよりもエネルギー収支を考える方が圧倒的に簡単です。摩擦が関わる問題では、まずこの法則が使えないかを検討するのが定石です。
- 力のつり合いと摩擦力:
- 核心: 物体が動き出す「直前」の状態では、外力と静止摩擦力がつり合っており、その静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) になっています。
- 理解のポイント: (1)のように「動き始める」というキーワードが出てきたら、それは「最大静止摩擦力」が関係する力のつり合いの問題であると即座に判断できるようにしましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面上のばね(ゴムひも)運動: 水平方向だけでなく、重力の斜面成分も考慮に入れる必要があります。仕事とエネルギーの関係を考える際には、重力による位置エネルギーの変化も忘れずに含める必要があります。
- 振り子の運動と非保存力: 振り子が空気抵抗を受けながら運動する場合も、1往復するごとに力学的エネルギーが少しずつ失われていきます。
- 粗い水平面での衝突とばね: 衝突によってエネルギーがどう変化し、その後のばねの運動で摩擦によってどうエネルギーが失われるか、といった複合的な問題。
- 初見の問題での着眼点:
- ばねとゴムひもの違いを意識する: 問題文に「ゴムひも」とあったら、たるんでいる状態では力を及ぼさず、エネルギーも蓄えない、という特性を常に念頭に置きます。終状態を考える(4)や(5)でこの違いが重要になります。
- エネルギー収支の登場人物をリストアップする: 「仕事とエネルギーの関係」を使うと決めたら、「はじめの運動エネルギー」「はじめの位置エネルギー(弾性・重力)」「後の運動エネルギー」「後の位置エネルギー」「非保存力がした仕事」の各項目を書き出し、一つずつ値を特定していきます。これにより、考え落としを防ぎます。
- 条件の言い換え: 「動き始めた」\(\rightarrow\) \(F_{\text{弾性力}} = \mu N\)。「たるんでいた」\(\rightarrow\) 後の弾性エネルギーは0、かつ \(b>a\)。「伸びていた」\(\rightarrow\) 後の伸びは \(a-b\)。これらの日本語の条件を、数式や物理的な状況設定に正確に変換することが解法の鍵です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ゴムひものエネルギー計算ミス:
- 誤解: ゴムひもがたるんでいるのに、弾性エネルギーを0でないとしてしまう。または、伸びの計算を間違える。
- 対策: 運動の終点の図を必ず描くこと。(4)なら物体が \(x=b\) の位置にあり、ゴムの右端は \(x=l\) のままなので、たるんでいる。(5)なら物体が \(x=b\) の位置にあり、ゴムの右端は \(x=l+a\) の位置なので、伸びは \((l+a)-b-l = a-b\) となる。このように図で位置関係を確認する習慣をつける。
- 仕事の符号ミス:
- 誤解: 摩擦力がした仕事を正の値にしてしまう。
- 対策: 「仕事 = 力 × 距離」と単純に覚えるのではなく、「力の向きと移動の向きが逆なら、仕事は負」というルールを徹底する。摩擦力や空気抵抗など、運動を妨げる力がする仕事は常に負です。
- 静止摩擦係数と動摩擦係数の混同:
- 誤解: 動き出す瞬間の計算で動摩擦係数 \(\mu’\) を使ったり、動いている間の計算で静止摩擦係数 \(\mu\) を使ったりする。
- 対策: 「動き出す直前までは静止摩擦」「動き出したら動摩擦」という区別を明確に意識する。問題文で2種類の摩擦係数が与えられたら、どこでどちらを使うべきか、最初に確認しておく。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1) 力のつり合い (\(ka = \mu N\)):
- 選定理由: 「動き始める」という、静止状態から運動状態へ移行する「瞬間」の物理条件を記述するため。
- 適用根拠: 動き出す直前は加速度が0とみなせるため、力のつり合いが成り立っている。また、そのときの静止摩擦力は最大値をとる、という物理法則に基づきます。
- (4), (5) 仕事と力学的エネルギーの関係 (\(\Delta E = W\)):
- 選定理由: 運動の始点と終点の状態(位置と速度)が明確で、途中の運動の詳細(時間や加速度)を問われていないため。この法則を使えば、運動方程式を立てて積分する、という複雑な過程を省略できます。
- 適用根拠: エネルギー保存則を、摩擦などの非保存力がはたらく場合にまで拡張した、より一般的な法則だからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認を徹底する:
- 特に注意すべき点: この問題では、力の向き(弾性力、摩擦力)、仕事の正負、変位の向きなど、符号が重要な役割を果たします。立式の各段階で、座標軸の正の向きと照らし合わせて符号が正しいか確認する。
- 日頃の練習: 運動方程式を立てる際は、必ず力の図を描き、矢印の向きと式の符号を一つ一つ対応させる練習をする。仕事の計算では、運動を助ける力か妨げる力かを常に意識する。
- 文字の混同に注意:
- 特に注意すべき点: \(a\)と\(b\)、\(\mu\)と\(\mu’\)など、似たような文字や役割の近い文字が登場します。定義を混同しないように注意する。
- 日頃の練習: 問題文の条件を、自分で改めてノートに書き出す際に、各文字が何を意味するのかを明確に意識する。特に、\(a\)は「伸び」、\(b\)は「移動距離」であり、全く別の物理量であることを理解する。
- 因数分解の活用:
- 特に注意すべき点: (5)の計算で、\((a-b)^2 – a^2\) をそれぞれ展開してから整理すると計算が煩雑になり、ミスを誘発します。\(A^2-B^2=(A-B)(A+B)\) の因数分解公式を使うと、スマートかつ正確に計算できます。
- 日頃の練習: 式変形の際には、より簡単な計算方法がないか、一度立ち止まって考える癖をつける。特に2乗の差の形は、因数分解が有効なことが多い。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (4) \(\mu > 2\mu’\): 静止摩擦係数が動摩擦係数より大きいのは当然ですが、その2倍よりも大きいという条件は、かなり滑りにくい材質であることを意味します。それだけ大きなエネルギーを最初に蓄えないと、ゴムがたるむまで進めない、という解釈ができ、妥当です。
- (5) \(b = \frac{2mg}{k}(\mu – \mu’)\): \(\mu > \mu’\) なので \(b>0\) となり、物体が移動することと矛盾しません。また、もし \(\mu = \mu’\) なら \(b=0\) となり、動き出した瞬間に止まる(そもそも動かない)ことになり、これも理にかなっています。
- 極端な場合を考える:
- もし摩擦が全くなかったら (\(\mu=\mu’=0\))、(1)より \(a=0\) となり、そもそも動き出しません。これも正しいです。
- (5)で、もし \(\mu’ \rightarrow \mu\) に近づくと、\(b \rightarrow 0\) となります。これは、動き出す力と動いている間の抵抗がほぼ同じなら、ほとんど動けないことを意味し、直感と合致します。
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問題33 (岐阜大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、動摩擦力に加えて、速さに比例する空気抵抗を受けながら斜面をすべる物体の運動を扱います。運動方程式を立て、与えられたv-tグラフから物理的な情報を読み取って未知数を決定する、理論と実験を結びつけるタイプの問題です。
- 物体の質量: \(M\)
- 斜面の傾角: \(\theta\)
- 動摩擦係数: \(\mu’\)
- 空気抵抗の大きさ: \(kv\) (\(k\)は係数, \(v\)は速さ)
- 重力加速度: \(g\)
実験データ
- \(\theta = 30^\circ\) のとき、図2のv-tグラフが得られた。
- グラフの原点における接線は \(v = \displaystyle\frac{1}{3}gt\) である。
- (1) 運動中の物体に作用する力の図示。
- (2) 加速度\(a\)、速度\(v\)で運動しているときの運動方程式。
- (3) 等速度運動になった場合(終端速度)の速さ\(v_0\)。
- (4) 動摩擦係数\(\mu’\)。
- (5) 空気抵抗の係数\(k\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「抵抗力がはたらく物体の運動」です。特に、速さに比例する抵抗力がはたらく場合、物体は最終的に一定の速度(終端速度)に達するという特徴的な運動をします。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 物体の運動を記述する基本法則 (\(ma=F\))。この問題では、複数の力がはたらくため、それらを正しく合算することが重要です。
- 力の分解: 重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
- v-tグラフの物理的意味:
- グラフの傾きは、その時刻における加速度を表します。
- グラフが水平になった(傾きが\(0\)になった)とき、加速度は\(0\)、つまり等速度運動になったことを意味します。
- 終端速度: 空気抵抗のように速さに応じて大きくなる抵抗力がはたらく場合、やがて推進力と抵抗力がつり合って加速しなくなり、速度が一定になります。このときの速度を終端速度と呼びます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、物体にはたらく力をすべて特定し、運動方程式を一般的に立てます。
- 問(3)では、終端速度の条件(加速度\(a=0\))を運動方程式に適用し、終端速度\(v_0\)を文字式で表します。
- 問(4)では、与えられたv-tグラフの「\(t=0\)における接線」の情報を使います。接線の傾きから\(t=0\)のときの加速度を求め、\(v=0\)であることと合わせて運動方程式に代入し、\(\mu’\)を求めます。
- 問(5)では、v-tグラフが収束する値から終端速度\(v_0\)を読み取ります。この値を、問(3)で導いた終端速度の式と問(4)で求めた\(\mu’\)と組み合わせて、係数\(k\)を求めます。