「重要問題集」徹底解説(31〜35問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題31 (岡山大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばねにつながれた物体と、それに接触する別の物体が、摩擦のある床の上を運動する状況を扱います。エネルギーと仕事の関係、そして連立した運動方程式の扱いがテーマとなります。

与えられた条件
  • ばね定数: \(k\)
  • ばねの自然長: \(x_0\)
  • 物体Aの質量: \(m\)
  • 物体Bの質量: \(M\)
  • 床とAの間の摩擦: なし
  • 床とBの間の動摩擦係数: \(\mu’\)
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (1) AとBが一緒に運動し、速度が0になった状況について
    • ア:摩擦力がした仕事
    • イ:そのときのばねの長さ \(x_2\)
  • (2) AとBが運動中に離れる状況について
    • ウ:一緒に運動しているときのAの運動方程式
    • エ:一緒に運動しているときのBの運動方程式
    • オ:AとBが離れるときのばねの長さ \(x_3\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「弾性力と摩擦力がはたらく物体の運動」です。問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事と力学的エネルギーの関係: 非保存力(この問題では動摩擦力)が仕事をすると、その仕事の分だけ系の力学的エネルギーが変化します。
  2. 運動方程式: 複数の物体が関係する運動では、それぞれの物体に着目し、はたらく力をすべて図示して運動方程式を立てることが基本です。
  3. 作用・反作用の法則: AがBを押す力とBがAを押す力のように、2物体間にはたらく力は、大きさが等しく向きが逆になります。
  4. 物体が離れる条件: 接触していた2つの物体が離れる瞬間は、お互いに及ぼし合っていた力(垂直抗力や押し合う力)が0になるときです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、運動の始点と終点での速度がともに0であることに着目します。この場合、運動の途中経過を追うよりも、全体のエネルギー収支を考える「仕事と力学的エネルギーの関係」を用いるのが有効です。
  2. (2)では、運動の途中過程における加速度や物体間にはたらく力が問われているため、AとBそれぞれについて運動方程式を立てます。
  3. 「AとBが離れる」という条件を「AとBが押し合う力 \(f=0\)」と解釈し、(2)で立てた運動方程式にこの条件を適用して、そのときのばねの長さを求めます。

問(1) ア

思考の道筋とポイント
摩擦力がした仕事を求めます。仕事の基本的な定義は「力 × 距離」ですが、力の向きと移動方向が逆であるため、仕事は負の値になります。

この設問における重要なポイント

  • 動摩擦力の大きさを正しく求める (\(F = \mu’N\))。
  • 仕事の対象となる物体Bの移動距離を正しく把握する。
  • 力の向きと移動方向から、仕事の符号(正負)を正しく判断する。

具体的な解説と立式
物体Bにはたらく動摩擦力について考えます。
床に垂直な方向の力のつり合いより、物体Bにはたらく垂直抗力の大きさは \(Mg\) です。
したがって、Bにはたらく動摩擦力の大きさ \(F_{\text{摩擦}}\) は、
$$F_{\text{摩擦}} = \mu’Mg$$
この摩擦力は、運動方向(右向き)とは逆の左向きにはたらきます。
物体Bは、ばねの長さが \(x_1\) の位置から \(x_2\) の位置まで、距離 \((x_2 – x_1)\) だけ右向きに移動します。
仕事の定義 \(W = (\text{力}) \times (\text{距離}) \times \cos\theta\) において、力と移動の向きがなす角は \(180^\circ\) なので、摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\) は、
$$W_{\text{摩擦}} = \mu’Mg \cdot (x_2 – x_1) \cdot \cos(180^\circ)$$

使用した物理公式

  • 動摩擦力: \(F’ = \mu’N\)
  • 仕事の定義: \(W = Fs\cos\theta\)
計算過程

\(\cos(180^\circ) = -1\) なので、
$$W_{\text{摩擦}} = -\mu’Mg(x_2 – x_1)$$
これがアの答えです。

計算方法の平易な説明

摩擦力は、物体の運動を妨げる「ブレーキ」のような力です。このブレーキがかかりながら物体がどれだけ動いたかを計算するのが「摩擦力がした仕事」です。
ブレーキの力は \(\mu’Mg\)、動いた距離は \((x_2 – x_1)\) です。運動と逆向きの力なので、仕事はマイナスになり、\(-\mu’Mg(x_2 – x_1)\) となります。

結論と吟味

摩擦力がした仕事は \(-\mu’Mg(x_2 – x_1)\) です。物体は右向きに動いているので \(x_2 > x_1\) であり、仕事は負の値となります。これは、摩擦力が系のエネルギーを奪う働きをしたことを示しており、物理的に妥当です。

解答 (ア) \(-\mu’Mg(x_2 – x_1)\)

問(1) イ

思考の道筋とポイント
問題文の誘導「(摩擦力がした仕事は)運動中の力学的エネルギーの変化量と等しい」に従って立式します。系の力学的エネルギーは、ばねの弾性エネルギーと、物体A, Bの運動エネルギーの和です。
運動の初めと終わりで、AとBの速度はともに0なので、運動エネルギーは考えなくてよく、弾性エネルギーの変化だけを考えればよいことになります。

この設問における重要なポイント

  • 「力学的エネルギーの変化量 = 非保存力がした仕事」の公式を正しく適用する。
  • ばねの弾性エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{変位})^2\) を使う。ばねの「長さ」と自然長からの「縮み」を混同しない。
  • 始点と終点のエネルギー状態を正確に把握する。

具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係式は、
$$(\text{後の力学的エネルギー}) – (\text{はじめの力学的エネルギー}) = (\text{非保存力がした仕事})$$
です。

  • はじめの状態(ばねの長さ \(x_1\), 速度 0):
    ばねの縮みは \((x_0 – x_1)\) なので、系の力学的エネルギー \(E_1\) は、
    $$E_1 = \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 + 0$$
  • 後の状態(ばねの長さ \(x_2\), 速度 0):
    ばねの縮みは \((x_0 – x_2)\) なので、系の力学的エネルギー \(E_2\) は、
    $$E_2 = \frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 + 0$$
  • 非保存力(摩擦力)がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
    アで求めた通り、\(W_{\text{摩擦}} = -\mu’Mg(x_2 – x_1)\) です。

これらを関係式に代入すると、
$$\frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 – \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 = -\mu’Mg(x_2 – x_1)$$

使用した物理公式

  • 仕事と力学的エネルギーの関係: \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)
  • ばねの弾性エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{変位})^2\)
計算過程

立式したエネルギーの式を \(x_2\) について解きます。右辺のマイナスをなくすため、\((x_2 – x_1)\) を \(-(x_1 – x_2)\) とします。
$$\frac{1}{2}k(x_0 – x_2)^2 – \frac{1}{2}k(x_0 – x_1)^2 = \mu’Mg(x_1 – x_2)$$
左辺を \(a^2 – b^2 = (a-b)(a+b)\) の形と見て因数分解します。
$$\frac{1}{2}k\{(x_0 – x_2) – (x_0 – x_1)\}\{(x_0 – x_2) + (x_0 – x_1)\} = \mu’Mg(x_1 – x_2)$$
$$\frac{1}{2}k(x_1 – x_2)(2x_0 – x_1 – x_2) = \mu’Mg(x_1 – x_2)$$
運動が起こったので \(x_1 \neq x_2\) です。したがって、両辺を \((x_1 – x_2)\) で割ることができます。
$$\frac{1}{2}k(2x_0 – x_1 – x_2) = \mu’Mg$$
この式を \(x_2\) について解きます。
$$2x_0 – x_1 – x_2 = \frac{2\mu’Mg}{k}$$
$$x_2 = 2x_0 – x_1 – \frac{2\mu’Mg}{k}$$

計算方法の平易な説明

最初にばねが持っていたエネルギーの一部が、運動中に摩擦によって熱として失われました。そして、残ったエネルギーが、最後に再びばねのエネルギーとして蓄えられました。この「はじめのエネルギー – 失われたエネルギー = 最後のエネルギー」というエネルギーの収支計算をすることで、最終的に止まったときのばねの長さを求めることができます。

結論と吟味

速度が0になったときのばねの長さは \(x_2 = 2x_0 – x_1 – \displaystyle\frac{2\mu’Mg}{k}\) となります。もし摩擦がなければ (\(\mu’=0\))、\(x_2 = 2x_0 – x_1\) となり、これは単振動の中心 \(x_0\) に関して \(x_1\) と対称な点を示します。摩擦があることで、その対称点よりも手前(\(x\)が小さい位置)で止まることをこの式は示しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (イ) \(2x_0 – x_1 – \displaystyle\frac{2\mu’Mg}{k}\)

問(2) ウ, エ

思考の道筋とポイント
AとBが一緒に運動しているとき、両者は同じ加速度 \(a\) を持ちます。物体Aと物体B、それぞれに着目し、はたらく力をすべて図示して運動方程式を立てます。AとBの間には、お互いに押し合う力 \(f\) がはたらいていることに注意します。

この設問における重要なポイント

  • 物体Aと物体B、それぞれにはたらく力を正確にリストアップし、図示する。
  • ばねの弾性力は、自然長 \(x_0\) からの変位 \((x_0 – x)\) に比例する。
  • AがBを押す力とBがAを押す力は、作用・反作用の関係にある。

具体的な解説と立式
運動方向である右向きを正とします。ばねの長さが \(x\) のとき、ばねは自然長から \((x_0 – x)\) だけ縮んでいるので、ばねの弾性力は右向きに \(k(x_0 – x)\) です。

  • 物体Aの運動方程式(ウ):
    物体Aにはたらく力は、

    1. ばねからの弾性力: \(k(x_0 – x)\) (右向き, 正)
    2. 物体Bから押される力: \(f\) (左向き, 負)

    したがって、Aの運動方程式は、
    $$ma = k(x_0 – x) – f$$
    よって、ウは \(k(x_0 – x) – f\) です。

  • 物体Bの運動方程式(エ):
    物体Bにはたらく力は、

    1. 物体Aから押す力: \(f\) (右向き, 正)
    2. 床からの動摩擦力: \(\mu’Mg\) (左向き, 負)

    したがって、Bの運動方程式は、
    $$Ma = f – \mu’Mg$$
    よって、エは \(f – \mu’Mg\) です。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • フックの法則: \(F = k \times (\text{変位})\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

この設問では立式のみが求められているため、これ以上の計算は不要です。

計算方法の平易な説明

AとB、それぞれの物体について「(質量)×(加速度)=(力の合計)」という運動のルールを式にします。
Aは、ばねに右向きに押され、Bに左向きに押し返されています。
Bは、Aに右向きに押され、床との摩擦で左向きに引かれています。
これらの力の足し算・引き算が、それぞれの運動方程式になります。

結論と吟味

Aの運動方程式は \(ma = k(x_0 – x) – f\)、Bの運動方程式は \(Ma = f – \mu’Mg\) となります。力の向きを正しく考慮した、基本的な運動方程式の立式です。

解答 (ウ) \(k(x_0 – x) – f\) (エ) \(f – \mu’Mg\)

問(2) オ

思考の道筋とポイント
「AとBが離れる」という物理現象を、数式で表現することが鍵です。AとBは接触している間、お互いに力 \(f\) を及ぼし合っています。離れる瞬間とは、この押し合う力がちょうど0になる瞬間です。
したがって、\(f=0\) を(ウ)と(エ)で立てた連立運動方程式に代入することで、離れる瞬間のばねの長さ \(x_3\) を求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 「物体が離れる瞬間の条件」は、物体間にはたらく抗力(この場合は \(f\))が0になること。
  • この条件を、連立運動方程式に適用して未知数を消去していく。

具体的な解説と立式
AとBが離れる条件は、AとBが押し合う力 \(f\) が0になること、すなわち \(f=0\) です。
この \(f=0\) という条件を、まず物体Bの運動方程式 \(Ma = f – \mu’Mg\) に代入します。
$$Ma = 0 – \mu’Mg$$
これにより、AとBが離れる瞬間の加速度 \(a\) がわかります。
$$a = -\mu’g$$
次に、この離れる瞬間の条件 \(f=0\) と、そのときの加速度 \(a = -\mu’g\) を、物体Aの運動方程式 \(ma = k(x_0 – x) – f\) に代入します。このときのばねの長さが求める \(x_3\) です。
$$m(-\mu’g) = k(x_0 – x_3) – 0$$

使用した物理公式

  • (ウ)(エ)で導出した運動方程式
  • 物体が離れる条件: \(f=0\)
計算過程

立式した \(m(-\mu’g) = k(x_0 – x_3)\) を \(x_3\) について解きます。
$$-m\mu’g = kx_0 – kx_3$$
\(kx_3\) を左辺に、\(-m\mu’g\) を右辺に移項します。
$$kx_3 = kx_0 + m\mu’g$$
両辺を \(k\) で割ります。
$$x_3 = x_0 + \frac{m\mu’g}{k}$$

計算方法の平易な説明

AとBが一緒に動いている間、AはBを押し続けています。しかし、ばねが自然長を過ぎて伸び始めると、ばねはAを左向きに引っ張り始め、Aのスピードが落ちていきます(減速します)。一方、Bは摩擦を受けながらも進もうとします。やがてAの減速が激しくなり、Bを押し続けることができなくなった瞬間、つまり押す力 \(f\) が0になったときに、二つの物体は離れます。この \(f=0\) という条件を運動方程式に入れて計算すると、そのときのばねの長さがわかります。

結論と吟味

AとBが離れるときのばねの長さは \(x_3 = x_0 + \displaystyle\frac{m\mu’g}{k}\) です。
この結果は \(x_3 > x_0\) であることを示しており、ばねが自然長よりも伸びた位置でAとBが離れることを意味します。これは、ばねが縮んでいる間 (\(x < x_0\)) は弾性力がAを右向きに加速させるため、AがBを必ず押し続ける (\(f>0\)) ことからも妥当です。Aの加速度が負(減速)になり、その減速の度合いがBの摩擦による減速(加速度 \(-\mu’g\))よりも大きくなった瞬間に離れる、という物理的なイメージとも一致しています。

解答 (オ) \(x_0 + \displaystyle\frac{m\mu’g}{k}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事と力学的エネルギーの関係:
    • 核心: 摩擦力などの非保存力が仕事をすると、その分だけ系の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)が変化(多くは減少)します。この関係式 \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) は、運動の始点と終点の状態だけを比較して解ける場合に非常に強力です。
    • 理解のポイント: (1)のように、途中の速度や加速度を問われず、最初と最後の状態が分かっている問題では、まずエネルギーの観点からアプローチできないか考えましょう。
  • 運動方程式と連立方程式:
    • 核心: 複数の物体が相互に力を及ぼしながら運動する場合、各物体に個別で運動方程式を立て、それらを連立させて解くのが基本です。
    • 理解のポイント: (2)のように、運動の途中過程での力(\(f\))や加速度(\(a\))が関わる問題では、運動方程式の立式が必須です。「作用・反作用」や「一体となって運動する(加速度が同じ)」といった条件を正しく式に反映させることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 積み重なった物体の運動: 上の物体と下の物体の間に働く静止摩擦力や、下の物体と床の間の動摩擦力を考え、一体となって運動する条件や、滑り出す条件を運動方程式から求める問題。
    • 糸でつながれた物体の運動: 複数の物体が糸(張力)を介して運動する問題。各物体について運動方程式を立て、張力や加速度を求めます。
    • エレベーター内のばね振り子: 上下方向に加速することで見かけの重力が変化し、ばねのつり合いの位置や振動周期が変わる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. エネルギー保存則は使えるか?: まず、摩擦や空気抵抗などの非保存力が仕事をしていないか確認します。していなければ、力学的エネルギー保存則が使えて簡単です。
    2. 仕事とエネルギーの関係は使えるか?: 非保存力が仕事をしていても、(1)のように始点と終点の状態が単純な場合(例:速度が0)は、この関係式が有効です。
    3. 運動方程式を立てるしかないか?: 運動の途中の加速度や、物体間にはたらく力を問われた場合は、運動方程式を立てる必要があります。
    4. 「条件」の数式化: 「離れる」「滑り出す」「一体で動く」といった日本語の条件を、物理量(抗力\(f=0\)、摩擦力\(f=\mu N\)、加速度が等しいなど)を用いた数式に変換できるかが勝負の分かれ目です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ばねの「長さ」と「伸び・縮み(変位)」の混同:
    • 誤解: 弾性エネルギーの公式 \(\frac{1}{2}kx^2\) の \(x\) に、ばねの「長さ」をそのまま代入してしまう。
    • 対策: ばねのエネルギーや力の式に出てくる変位は、常に「自然長からの」伸びまたは縮みであると意識する。この問題では、ばねの長さが\(x\)のとき、縮みは\((x_0 – x)\)となることを常に確認する。
  • 仕事の符号ミス:
    • 誤解: 仕事は常に正だと思い込む、または符号を気にしない。
    • 対策: 力の向きと移動の向きを必ず図で確認する。運動を妨げる向きの力(摩擦力、空気抵抗など)がする仕事は、必ず負になる。
  • 作用・反作用の力の扱いのミス:
    • 誤解: 2つの物体にはたらく力を考える際、片方の物体に作用と反作用の両方を書き込んでしまう。
    • 対策: 必ず「1つの物体」に着目し、その物体が「外部から」受ける力だけを考える。Aの運動方程式にはBから受ける力\(f\)を、Bの運動方程式にはAから受ける力\(f\)を、それぞれ向きに注意して記述する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギーの棒グラフ: (1)では、はじめの「弾性エネルギー」の棒グラフが、摩擦の仕事によって一部が削られ、残りが終わりの「弾性エネルギー」になる、というような視覚的イメージを持つと理解が深まります。
    • 物体ごとの力の図示: (2)では、物体Aと物体Bを少し離して描き、それぞれにはたらく力をすべて矢印で書き出す(フリーボディダイアグラム)ことが非常に有効です。特に、AとBの間にはたらく力\(f\)を、向きに注意して描き分けることが重要です。
    • 離れる瞬間のイメージ: Aはばねに引かれて減速し、Bは摩擦で減速する。Aの減速がBの減速を上回ったとき、AはBから離れていく。その瞬間、AはBを押さなくなるので\(f=0\)となる。この一連の流れを頭の中で再生できるようにする。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • (1) 仕事とエネルギーの関係:
    • 選定理由: 運動の始点と終点の速度が分かっており、途中の詳細な運動状態を問われていないため。運動方程式を立てて時間で積分するよりも、はるかに計算が楽。
    • 適用根拠: エネルギー保存則の拡張版であり、非保存力が介在する系のマクロな状態変化を記述する普遍的な法則だから。
  • (2) 運動方程式:
    • 選定理由: 運動の途中における加速度\(a\)や、物体間にはたらく力\(f\)といった、運動の「詳細」を問われているため。エネルギーの式だけではこれらの量は直接わからない。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則。物体の運動状態(加速度)と、それにはたらく力との関係を記述する、力学の最も基本的な法則だから。
  • (2)オ 「離れる条件 \(f=0\)」:
    • 選定理由: 「離れる」という現象を、具体的な物理量で表現するため。
    • 適用根拠: 力は物体間の相互作用であり、接触がなくなれば力は働かないという物理的な事実から。接触している物体が離れるまさにその瞬間、及ぼし合う力は0になる。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) エネルギーアプローチ:
    • 目的: 最終的なばねの長さ\(x_2\)を求める。
    • 手順1 (仕事の計算): 摩擦力 \(F = \mu’Mg\) と移動距離 \((x_2-x_1)\) から、仕事 \(W = -\mu’Mg(x_2-x_1)\) を求める(→ア)。
    • 手順2 (エネルギー変化の計算): 始点と終点の弾性エネルギーをそれぞれ \(\frac{1}{2}k(x_0-x_1)^2\), \(\frac{1}{2}k(x_0-x_2)^2\) と計算し、変化量 \(\Delta E\) を求める。
    • 手順3 (結合): \(\Delta E = W\) の式を立て、\(x_2\)について解く(→イ)。
  2. (2) 運動方程式アプローチ:
    • 目的: 離れるときのばねの長さ\(x_3\)を求める。
    • 手順1 (立式): 物体A, Bそれぞれについて運動方程式を立てる(→ウ, エ)。
      $$ma = k(x_0 – x) – f$$
      $$Ma = f – \mu’Mg$$
    • 手順2 (条件適用): 「離れる条件 \(f=0\)」をBの式に代入し、その瞬間の加速度 \(a = -\mu’g\) を求める。
    • 手順3 (結合・計算): \(f=0\) と求めた\(a\)をAの式に代入し、そのときの \(x=x_3\) について解く(→オ)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認を徹底する:
    • 特に注意すべき点: この問題では、力の向き(弾性力、摩擦力、\(f\))、仕事の正負、変位の向きなど、符号が重要な役割を果たします。立式の各段階で、座標軸の正の向きと照らし合わせて符号が正しいか確認する。
    • 日頃の練習: 運動方程式を立てる際は、必ず力の図を描き、矢印の向きと式の符号を一つ一つ対応させる練習をする。
  • 文字の混同に注意:
    • 特に注意すべき点: \(x, x_0, x_1, x_2, x_3\) や \(m, M\) など、似たような文字が多く登場します。定義を混同しないように注意する。
    • 日頃の練習: 問題文の条件を、自分で改めてノートに書き出す際に、各文字が何を意味するのかを明確に意識する。
  • 因数分解の活用:
    • 特に注意すべき点: (1)イの計算で、\((x_0-x_2)^2 – (x_0-x_1)^2\) をそれぞれ展開してから整理すると計算が煩雑になり、ミスを誘発します。\(A^2-B^2=(A-B)(A+B)\) の因数分解公式を使うと、スマートかつ正確に計算できます。
    • 日頃の練習: 式変形の際には、より簡単な計算方法がないか、一度立ち止まって考える癖をつける。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1)イ \(x_2\): 答えの式 \(x_2 = 2x_0 – x_1 – \frac{2\mu’Mg}{k}\) には、摩擦力の効果を表す項 \(-\frac{2\mu’Mg}{k}\) が含まれています。この項があることで、摩擦がない場合に比べて \(x_2\) が小さくなる(より手前で止まる)ことがわかります。これは物理的に正しいです。
    • (2)オ \(x_3\): 答えの式 \(x_3 = x_0 + \frac{m\mu’g}{k}\) は、\(x_3\) が自然長 \(x_0\) よりも大きいことを示しています。つまり、ばねが伸びた状態でAとBが離れるということです。これは、ばねが縮んでいる間はAがBを押し続けるはずなので、離れるとしたらばねが伸びてAが減速を始めてからだ、という直感と一致します。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし摩擦がなかったら (\(\mu’=0\)):
      • (1)イ: \(x_2 = 2x_0 – x_1\)。これは単振動の中心\(x_0\)に関する対称点であり、エネルギーが保存される場合の正しい結果です。
      • (2)オ: \(x_3 = x_0\)。摩擦がない場合、AとBは自然長の位置で離れます。なぜなら、自然長を過ぎるとばねがAを左に引き始め、Aは減速しますが、Bには何も力が働かない(水平方向)ので等速運動を続けようとするためです。これも妥当な結果です。

問題32 (学習院大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ゴムひもにつながれた物体が、摩擦のある水平な台の上で運動する様子を扱います。ゴムひもは「伸びるだけで縮まない」という、ばねとは異なる特性を持つ点が重要です。

与えられた条件
  • 物体Aの質量: \(m\)
  • ゴムひもBの自然長: \(l\)
  • ゴムひもの弾性力: \(ky\) (\(k\)は比例定数, \(y\)は自然長からの伸び)
  • 台と物体の間の静止摩擦係数: \(\mu\)
  • 台と物体の間の動摩擦係数: \(\mu’\)
  • 重力加速度: \(g\)
  • 条件: \(\mu > \mu’\)

運動の経緯

  1. ゴムひもをゆっくり引き、自然長から\(a\)だけ伸びたときに物体が動き始めた。
  2. 動き始めた瞬間に、ゴムひもを引くのをやめた。
  3. 物体は、はじめの位置から\(b\)だけ移動して止まった。
問われていること
  • (1) 物体が動き始めたときの、ゴムひもの伸び\(a\)と\(\mu\)の関係。
  • (2) 動き始める直前の、ゴムひもの弾性エネルギー。
  • (3) 物体が止まるまでに摩擦力がした仕事。
  • (4) 物体が止まったとき、ゴムひもがたるんでいた場合の、\(\mu\)と\(\mu’\)の関係式。
  • (5) 物体が止まったとき、ゴムひもが伸びていた場合の、移動距離\(b\)を求める式。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ゴムひもの弾性力と摩擦力がはたらく物体の運動」です。ゴムひもは、ばねと似ていますが「伸びているときしか弾性力を及ぼさない」という点が決定的に異なります。この特性をエネルギーや運動方程式にどう反映させるかが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 物体が動き出す直前は、物体にはたらく力がつり合っている状態です。
  2. 摩擦力:
    • 静止摩擦力: 物体が動き出す直前には、最大静止摩擦力 \(\mu N\) がはたらいています。
    • 動摩擦力: 物体が動いている間は、動摩擦力 \(\mu’ N\) がはたらきます。
  3. ゴムひもの弾性力と弾性エネルギー:
    • 弾性力は伸びに比例し \(F=ky\)。ばねと同じフックの法則に従います。
    • 弾性エネルギーもばねと同様に \(U = \displaystyle\frac{1}{2}ky^2\) と表せます。
    • 重要: ゴムひもはたるんでいる(伸びが0以下)とき、弾性力も弾性エネルギーも0になります。
  4. 仕事と力学的エネルギーの関係: 摩擦力(非保存力)がした仕事の分だけ、系の力学的エネルギーが変化します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、物体が動き出す「直前」の力のつり合いを考えます。ゴムひもが引く力と最大静止摩擦力がつり合っている状態から式を立てます。
  2. (2)では、(1)で求めた伸び\(a\)を使って、弾性エネルギーの公式に代入します。
  3. (3)では、動摩擦力の大きさと移動距離から、仕事の定義に従って計算します。運動方向と摩擦力の向きが逆なので、仕事は負になることに注意します。
  4. (4)と(5)では、運動の始点と終点でのエネルギー状態を比較する「仕事と力学的エネルギーの関係」を用います。このとき、終状態でのゴムひもの状態(たるんでいるか、伸びているか)によって、弾性エネルギーの扱いが変わる点に注意が必要です。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体が「動き始めた」瞬間に着目します。この瞬間、物体にはたらく静止摩擦力は、その最大値である「最大静止摩擦力」になっています。物体にはたらく水平方向の力は、ゴムひもの弾性力と最大静止摩擦力です。これらの力がつり合っている(厳密には、弾性力が最大静止摩擦力をわずかに超えた)状態を考えます。

この設問における重要なポイント

  • 動き始める瞬間の摩擦力は、最大静止摩擦力 \(\mu N\) である。
  • 鉛直方向の力のつり合いから、垂直抗力 \(N\) を求める。
  • 水平方向の力のつり合いの式を立てる。

具体的な解説と立式
物体が動き始める直前、物体にはたらく力は以下の通りです。

  • 鉛直方向: 重力 \(mg\)(下向き)と、台からの垂直抗力 \(N\)(上向き)。
  • 水平方向: ゴムひもからの弾性力 \(ka\)(右向き)と、最大静止摩擦力 \(\mu N\)(左向き)。

まず、鉛直方向の力のつり合いから、垂直抗力 \(N\) を求めます。
$$N = mg$$
次に、水平方向の力のつり合いから、ゴムひもの伸び \(a\) と摩擦係数 \(\mu\) の関係を求めます。
動き始める直前は、弾性力と最大静止摩擦力がつり合っているので、
$$ka = \mu N$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • ゴムひもの弾性力: \(F=ky\)
  • 最大静止摩擦力: \(F_{\text{max}} = \mu N\)
計算過程

\(N=mg\) を、水平方向のつり合いの式 \(ka = \mu N\) に代入します。
$$ka = \mu mg$$
この式は、問題で問われている \(a\) と \(\mu\) の関係を示しています。

計算方法の平易な説明

物体を右に引っぱっても、最初は摩擦が頑張って動きません。だんだん引く力を強くしていくと、ついに摩擦が耐えきれなくなって動き出します。この「動き出すギリギリの瞬間」では、「ゴムひもが引く力」と「摩擦が耐えられる限界の力(最大静止摩擦力)」が等しくなっています。この力のバランスを式にすると、\(a\) と \(\mu\) の関係がわかります。

結論と吟味

物体が動き始めたときのゴムひもの伸び \(a\) と \(\mu\) の関係は、\(ka = \mu mg\) と示されます。これは、摩擦係数 \(\mu\) や質量 \(m\) が大きいほど、動き出すまでにより大きな伸び \(a\) が必要になることを示しており、直感的に妥当な結果です。

解答 (1) \(ka = \mu mg\)

問(2)

思考の道筋とポイント
ゴムひもに蓄えられる弾性エネルギーを求めます。ゴムひもの弾性エネルギーは、ばねと同様に \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) で計算できます。問題文で与えられている通り、動き始める直前の伸びは \(a\) です。

この設問における重要なポイント

  • 弾性エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) を正しく使う。
  • 「伸び」が \(a\) であることを確認する。

具体的な解説と立式
ゴムひもが自然長から \(y\) だけ伸びているとき、蓄えられている弾性エネルギー \(U\) は、
$$U = \frac{1}{2}ky^2$$
と表せます。
物体が動き始める直前、ゴムひもの伸びは \(a\) なので、このときの弾性エネルギー \(U_a\) は、
$$U_a = \frac{1}{2}ka^2$$

使用した物理公式

  • 弾性エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}ky^2\)
計算過程

この設問では立式のみが求められているため、これ以上の計算は不要です。

計算方法の平易な説明

ゴムやばねを伸ばすと、エネルギーが蓄えられます。そのエネルギー量は「\(\displaystyle\frac{1}{2} \times k \times (\text{伸び})^2\)」という公式で計算できます。今、伸びは \(a\) なので、公式に当てはめるだけで答えが出ます。

結論と吟味

ゴムひもに蓄えられている弾性エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}ka^2\) です。これは弾性エネルギーの基本的な公式そのものです。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{1}{2}ka^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
物体が動き始めてから止まるまでに、摩擦力がした仕事を求めます。物体が動いている間にはたらく摩擦力は「動摩擦力」です。仕事の定義 \(W = Fx\cos\theta\) に従って計算します。

この設問における重要なポイント

  • 運動中にはたらく摩擦力は、動摩擦力 \(\mu’N\) である。
  • 物体の移動距離が \(b\) であることを問題文から読み取る。
  • 摩擦力は運動方向と逆向きにはたらくため、仕事は負になる。

具体的な解説と立式
物体が運動している間、物体にはたらく動摩擦力の大きさ \(F’_{\text{摩擦}}\) は、
$$F’_{\text{摩擦}} = \mu’N = \mu’mg$$
この力は、物体の運動方向(右向き)とは逆の左向きにはたらきます。
物体は、はじめの位置から右向きに距離 \(b\) だけ移動して止まります。
したがって、摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\) は、
$$W_{\text{摩擦}} = (\mu’mg) \cdot b \cdot \cos(180^\circ)$$

使用した物理公式

  • 動摩擦力: \(F’ = \mu’N\)
  • 仕事の定義: \(W = Fs\cos\theta\)
計算過程

\(\cos(180^\circ) = -1\) なので、
$$W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgb$$

計算方法の平易な説明

物体が動いている間に、摩擦力(ブレーキ)がした仕事を計算します。ブレーキの力は \(\mu’mg\)、動いた距離は \(b\) です。運動と逆向きの力なので、仕事はマイナスになり、\(-\mu’mgb\) となります。

結論と吟味

摩擦力がした仕事は \(-\mu’mgb\) です。移動距離 \(b\) は正なので、仕事は負の値となります。これは、摩擦力が系の力学的エネルギーを減少させる働きをしたことを意味し、物理的に妥当です。

解答 (3) \(-\mu’mgb\)

問(4)

思考の道筋とポイント
「仕事と力学的エネルギーの関係」を利用します。
$$(\text{後の力学的エネルギー}) – (\text{はじめの力学的エネルギー}) = (\text{非保存力がした仕事})$$
この問題の状況に当てはめて、各項を具体的に記述します。

  • はじめの状態: 動き始める直前。速度は0。ゴムの伸びは \(a\)。
  • 後の状態: 距離 \(b\) だけ移動して停止。速度は0。「ゴムひもがたるんでいた」ので、伸びは0。
  • 非保存力がした仕事: (3)で求めた摩擦力の仕事。

この設問における重要なポイント

  • 「ゴムひもがたるんでいた」 \(\rightarrow\) 後の弾性エネルギーは0。
  • 仕事とエネルギーの関係式を正しく立てる。
  • 問題の条件「\(b>a\)」と(1)の結果を組み合わせて、\(\mu\) と \(\mu’\) の関係を導く。

具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係を考えます。

  • はじめの力学的エネルギー \(E_1\):
    速度は0、ゴムの伸びは \(a\) なので、(2)より \(E_1 = \displaystyle\frac{1}{2}ka^2\)。
  • 後の力学的エネルギー \(E_2\):
    速度は0、ゴムはたるんでいるので伸びも0。よって \(E_2 = 0\)。
  • 摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
    (3)より \(W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgb\)。

これらを関係式 \(E_2 – E_1 = W_{\text{摩擦}}\) に代入すると、
$$0 – \frac{1}{2}ka^2 = -\mu’mgb \quad \cdots ①$$
また、問題の状況「ゴムひもがたるんでいた」とは、移動距離 \(b\) がはじめの伸び \(a\) よりも大きいこと、すなわち
$$b > a \quad \cdots ②$$
を意味します。これらの式から関係を導きます。

使用した物理公式

  • 仕事と力学的エネルギーの関係
  • (1)で求めた関係式 \(ka = \mu mg\)
計算過程

まず、式①を整理します。
$$\frac{1}{2}ka^2 = \mu’mgb$$
この式に、不等式② (\(b>a\)) を適用します。
$$\frac{1}{2}ka^2 = \mu’mgb > \mu’mga$$
したがって、次の不等式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}ka^2 > \mu’mga$$
この不等式の両辺を、正の値である \(a\) で割ると、
$$\frac{1}{2}ka > \mu’mg$$
ここで、(1)で求めた関係式 \(ka = \mu mg\) を代入します。
$$\frac{1}{2}(\mu mg) > \mu’mg$$
両辺を正の値 \(mg\) で割ると、
$$\frac{1}{2}\mu > \mu’$$
$$\mu > 2\mu’$$

計算方法の平易な説明

最初にゴムひもが持っていた弾性エネルギーが、すべて摩擦の仕事によって食いつぶされた、というエネルギーの収支計算をします。これにより、\(\frac{1}{2}ka^2 = \mu’mgb\) という関係がわかります。
「ゴムがたるんだ」ということは、動いた距離 \(b\) が最初の伸び \(a\) より長い (\(b>a\)) ということです。この条件を使って、先ほどのエネルギーの式を不等式に変形し、(1)の結果も利用して整理すると、\(\mu\) と \(\mu’\) の関係式が得られます。

結論と吟味

\(\mu\) と \(\mu’\) の間には \(\mu > 2\mu’\) という関係があります。これは、静止摩擦係数が動摩擦係数の2倍よりも大きいという、かなり強い条件です。この条件が満たされるときにのみ、物体はゴムがたるむまで運動できる、ということを示しています。

解答 (4) \(\mu > 2\mu’\)

問(5)

思考の道筋とポイント
この場合も「仕事と力学的エネルギーの関係」を利用します。状況は(4)と似ていますが、終状態が異なります。

  • はじめの状態: (4)と同じ。
  • 後の状態: 距離 \(b\) だけ移動して停止。速度は0。「ゴムひもが伸びていた」ので、弾性エネルギーが残っています。
  • 非保存力がした仕事: (4)と同じ。

この設問における重要なポイント

  • 「ゴムひもが伸びていた」 \(\rightarrow\) 後の弾性エネルギーは0ではない。
  • 後のゴムひもの伸びを正しく表現する。
  • 仕事とエネルギーの関係式を立て、移動距離 \(b\) について解く。

具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係を考えます。

  • はじめの力学的エネルギー \(E_1\):
    \(E_1 = \displaystyle\frac{1}{2}ka^2\)。
  • 後の力学的エネルギー \(E_2\):
    速度は0。物体ははじめの位置から \(b\) だけ移動したので、ゴムひもの伸びは \(a-b\) となります。(はじめの伸びが \(a\)、そこから \(b\) だけ自然長側に戻ったと考える)。
    したがって、後の弾性エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}k(a-b)^2\)。
    よって、\(E_2 = \displaystyle\frac{1}{2}k(a-b)^2\)。
  • 摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
    \(W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgb\)。

これらを関係式 \(E_2 – E_1 = W_{\text{摩擦}}\) に代入すると、
$$\frac{1}{2}k(a-b)^2 – \frac{1}{2}ka^2 = -\mu’mgb$$

使用した物理公式

  • 仕事と力学的エネルギーの関係
  • (1)で求めた関係式 \(ka = \mu mg\)
計算過程

立式したエネルギーの式を \(b\) について解きます。
$$\frac{1}{2}k\{(a-b)^2 – a^2\} = -\mu’mgb$$
左辺の \( \{\} \) の中を \(A^2-B^2=(A-B)(A+B)\) を用いて因数分解します。
$$\frac{1}{2}k\{(a-b)-a\}\{(a-b)+a\} = -\mu’mgb$$
$$\frac{1}{2}k(-b)(2a-b) = -\mu’mgb$$
両辺を \(-b\) で割ります(\(b \neq 0\))。
$$\frac{1}{2}k(2a-b) = \mu’mg$$
この式を \(b\) について解きます。
$$2a-b = \frac{2\mu’mg}{k}$$
$$b = 2a – \frac{2\mu’mg}{k}$$
ここで、(1)の関係式 \(a = \displaystyle\frac{\mu mg}{k}\) を代入します。
$$b = 2\left(\frac{\mu mg}{k}\right) – \frac{2\mu’mg}{k}$$
$$b = \frac{2mg}{k}(\mu – \mu’)$$

計算方法の平易な説明

(4)と考え方は同じで、エネルギーの収支計算をします。ただし、今回は最後に止まったときもゴムが伸びているので、その分の弾性エネルギーが残っています。
「はじめの弾性エネルギー」から「摩擦で失われたエネルギー」を引いたものが、「最後の弾性エネルギー」になる、という式を立てます。この式を、求めたい移動距離 \(b\) について解き、最後に(1)でわかった関係式を使って整理すれば答えが出ます。

結論と吟味

移動距離 \(b\) は \(b = \displaystyle\frac{2mg}{k}(\mu – \mu’)\) と表されます。
問題文の条件 \(\mu > \mu’\) より、\(b\) は正の値となり、物体が実際に移動したことと矛盾しません。また、静止摩擦係数と動摩擦係数の差が大きいほど、移動距離が長くなることを示しています。これは、動き出すためのエネルギー(\(\mu\)に依存)と、運動を妨げるエネルギー損失(\(\mu’\)に依存)の差が、運動の規模を決めるという物理的な描像と一致しています。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{2mg}{k}(\mu – \mu’)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事と力学的エネルギーの関係:
    • 核心: 摩擦力のような非保存力が仕事をすると、その仕事の分だけ系の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)が変化します。関係式は \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) または「(後のエネルギー)ー(前のエネルギー)=(非保存力がした仕事)」です。
    • 理解のポイント: この問題のように、運動の始点と終点の速度がわかっている(特に0の場合)問題では、運動方程式を解くよりもエネルギー収支を考える方が圧倒的に簡単です。摩擦が関わる問題では、まずこの法則が使えないかを検討するのが定石です。
  • 力のつり合いと摩擦力:
    • 核心: 物体が動き出す「直前」の状態では、外力と静止摩擦力がつり合っており、その静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) になっています。
    • 理解のポイント: (1)のように「動き始める」というキーワードが出てきたら、それは「最大静止摩擦力」が関係する力のつり合いの問題であると即座に判断できるようにしましょう。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面上のばね(ゴムひも)運動: 水平方向だけでなく、重力の斜面成分も考慮に入れる必要があります。仕事とエネルギーの関係を考える際には、重力による位置エネルギーの変化も忘れずに含める必要があります。
    • 振り子の運動と非保存力: 振り子が空気抵抗を受けながら運動する場合も、1往復するごとに力学的エネルギーが少しずつ失われていきます。
    • 粗い水平面での衝突とばね: 衝突によってエネルギーがどう変化し、その後のばねの運動で摩擦によってどうエネルギーが失われるか、といった複合的な問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. ばねとゴムひもの違いを意識する: 問題文に「ゴムひも」とあったら、たるんでいる状態では力を及ぼさず、エネルギーも蓄えない、という特性を常に念頭に置きます。終状態を考える(4)や(5)でこの違いが重要になります。
    2. エネルギー収支の登場人物をリストアップする: 「仕事とエネルギーの関係」を使うと決めたら、「はじめの運動エネルギー」「はじめの位置エネルギー(弾性・重力)」「後の運動エネルギー」「後の位置エネルギー」「非保存力がした仕事」の各項目を書き出し、一つずつ値を特定していきます。これにより、考え落としを防ぎます。
    3. 条件の言い換え: 「動き始めた」\(\rightarrow\) \(F_{\text{弾性力}} = \mu N\)。「たるんでいた」\(\rightarrow\) 後の弾性エネルギーは0、かつ \(b>a\)。「伸びていた」\(\rightarrow\) 後の伸びは \(a-b\)。これらの日本語の条件を、数式や物理的な状況設定に正確に変換することが解法の鍵です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ゴムひものエネルギー計算ミス:
    • 誤解: ゴムひもがたるんでいるのに、弾性エネルギーを0でないとしてしまう。または、伸びの計算を間違える。
    • 対策: 運動の終点の図を必ず描くこと。(4)なら物体が \(x=b\) の位置にあり、ゴムの右端は \(x=l\) のままなので、たるんでいる。(5)なら物体が \(x=b\) の位置にあり、ゴムの右端は \(x=l+a\) の位置なので、伸びは \((l+a)-b-l = a-b\) となる。このように図で位置関係を確認する習慣をつける。
  • 仕事の符号ミス:
    • 誤解: 摩擦力がした仕事を正の値にしてしまう。
    • 対策: 「仕事 = 力 × 距離」と単純に覚えるのではなく、「力の向きと移動の向きが逆なら、仕事は負」というルールを徹底する。摩擦力や空気抵抗など、運動を妨げる力がする仕事は常に負です。
  • 静止摩擦係数と動摩擦係数の混同:
    • 誤解: 動き出す瞬間の計算で動摩擦係数 \(\mu’\) を使ったり、動いている間の計算で静止摩擦係数 \(\mu\) を使ったりする。
    • 対策: 「動き出す直前までは静止摩擦」「動き出したら動摩擦」という区別を明確に意識する。問題文で2種類の摩擦係数が与えられたら、どこでどちらを使うべきか、最初に確認しておく。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギーの収支図: (4)や(5)を解く際に、「はじめの弾性エネルギー \(U_1\)\) という箱から、「摩擦の仕事 \(W\)\) という矢印が出ていき、「後の弾性エネルギー \(U_2\)\) という箱が残る」というような図を描くと、\(U_1 + W = U_2\)(\(W\)は負なので \(U_1 – |W| = U_2\))という関係が直感的に理解できます。
    • 数直線上での位置関係の図示: \(x\)軸を描き、物体の初めの位置(\(x=0\))、ゴムの自然長の端(\(x=l\))、動き始めたときのゴムの右端(\(x=l+a\))、止まったときの物体の位置(\(x=b\))などをプロットすると、移動距離や伸びの計算で間違いにくくなります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 状態の区別: 「はじめ」「動き出す直前」「運動中」「止まった後」など、各フェーズの図を個別に描くと、状況の変化が明確になります。
    • 力の矢印: (1)の力のつり合いを考える際には、物体にはたらく力をすべて矢印で描くことが基本です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • (1) 力のつり合い (\(ka = \mu N\)):
    • 選定理由: 「動き始める」という、静止状態から運動状態へ移行する「瞬間」の物理条件を記述するため。
    • 適用根拠: 動き出す直前は加速度が0とみなせるため、力のつり合いが成り立っている。また、そのときの静止摩擦力は最大値をとる、という物理法則に基づきます。
  • (4), (5) 仕事と力学的エネルギーの関係 (\(\Delta E = W\)):
    • 選定理由: 運動の始点と終点の状態(位置と速度)が明確で、途中の運動の詳細(時間や加速度)を問われていないため。この法則を使えば、運動方程式を立てて積分する、という複雑な過程を省略できます。
    • 適用根拠: エネルギー保存則を、摩擦などの非保存力がはたらく場合にまで拡張した、より一般的な法則だからです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 現象の把握: ゴムひもと摩擦力が関わる運動。ゴムはたるむと力を及ぼさない。
  2. (1) 動き始めの条件:
    • 目的: 伸び\(a\)と\(\mu\)の関係を知る。
    • 方法: 動き出す直前の力のつり合いを考える。水平方向で「弾性力 = 最大静止摩擦力」。
    • 立式: \(ka = \mu N\)。鉛直方向のつり合い \(N=mg\) を代入し、\(ka = \mu mg\)。
  3. (2) 弾性エネルギー:
    • 目的: 伸び\(a\)のときのエネルギーを求める。
    • 方法: 弾性エネルギーの公式 \(U = \frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) を適用。
    • 立式: \(U = \frac{1}{2}ka^2\)。
  4. (3) 摩擦力の仕事:
    • 目的: 運動中に摩擦力がした仕事を求める。
    • 方法: 「仕事 = 力 × 距離」。動摩擦力 \(\mu’mg\) と移動距離 \(b\) を使う。向きが逆なので負。
    • 立式: \(W = -\mu’mgb\)。
  5. (4) たるむ場合の条件:
    • 目的: \(\mu\)と\(\mu’\)の関係式を導く。
    • 方法: 仕事とエネルギーの関係 \(\Delta E = W\) を使う。
    • 立式: (後 \(E=0\)) – (前 \(E=\frac{1}{2}ka^2\)) = (仕事 \(W=-\mu’mgb\))。
    • 推論: \(\frac{1}{2}ka^2 = \mu’mgb\) を得る。「たるむ」 \(\rightarrow\) \(b>a\) を使い、不等式に変換。\((1)\)の結果を代入して整理。
  6. (5) 伸びて止まる場合の移動距離:
    • 目的: 移動距離\(b\)を求める。
    • 方法: (4)と同様に仕事とエネルギーの関係を使う。ただし、後のエネルギーが0ではない。
    • 立式: (後 \(E=\frac{1}{2}k(a-b)^2\)) – (前 \(E=\frac{1}{2}ka^2\)) = (仕事 \(W=-\mu’mgb\))。
    • 推論: この方程式を\(b\)について解く。\((1)\)の結果を代入して整理。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: (5)の計算で \((a-b)^2\) を展開する際に、符号ミスをしないように注意する。\( (a-b)^2 – a^2 \) のような形は、因数分解 \( ( (a-b)-a ) ( (a-b)+a ) = (-b)(2a-b) \) を使うと、展開よりも計算が楽で間違いにくい。
    • 日頃の練習: 複雑な文字式が出てきたら、すぐに展開するのではなく、因数分解など楽な方法がないか探す癖をつける。
  • 単位の確認: この問題では不要ですが、数値計算がある場合は、\(k\)の単位(N/m)、\(m\)の単位(kg)、\(g\)の単位(m/s²)などをそろえることが基本です。
  • 代入は最後に行う: (5)の計算のように、まずは文字式のまま\(b\)について解き、最後に(1)で求めた関係式を代入する方が、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (4) \(\mu > 2\mu’\): 静止摩擦係数が動摩擦係数より大きいのは当然ですが、その2倍よりも大きいという条件は、かなり滑りにくい材質であることを意味します。それだけ大きなエネルギーを最初に蓄えないと、ゴムがたるむまで進めない、という解釈ができ、妥当です。
    • (5) \(b = \frac{2mg}{k}(\mu – \mu’)\): \(\mu > \mu’\) なので \(b>0\) となり、物体が移動することと矛盾しません。また、もし \(\mu = \mu’\) なら \(b=0\) となり、動き出した瞬間に止まる(そもそも動かない)ことになり、これも理にかなっています。
  • 極端な場合を考える:
    • もし摩擦が全くなかったら (\(\mu=\mu’=0\))、(1)より \(a=0\) となり、そもそも動き出しません。これも正しいです。
    • (5)で、もし \(\mu’ \rightarrow \mu\) に近づくと、\(b \rightarrow 0\) となります。これは、動き出す力と動いている間の抵抗がほぼ同じなら、ほとんど動けないことを意味し、直感と合致します。

問題33 (岐阜大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、動摩擦力に加えて、速さに比例する空気抵抗を受けながら斜面をすべる物体の運動を扱います。運動方程式を立て、与えられたv-tグラフから物理的な情報を読み取って未知数を決定する、理論と実験を結びつけるタイプの問題です。

与えられた条件
  • 物体の質量: \(M\)
  • 斜面の傾角: \(\theta\)
  • 動摩擦係数: \(\mu’\)
  • 空気抵抗の大きさ: \(kv\) (\(k\)は係数, \(v\)は速さ)
  • 重力加速度: \(g\)

実験データ

  • \(\theta = 30^\circ\) のとき、図2のv-tグラフが得られた。
  • グラフの原点における接線は \(v = \displaystyle\frac{1}{3}gt\) である。
問われていること
  • (1) 運動中の物体に作用する力の図示。
  • (2) 加速度\(a\)、速度\(v\)で運動しているときの運動方程式。
  • (3) 等速度運動になった場合(終端速度)の速さ\(v_0\)。
  • (4) 動摩擦係数\(\mu’\)。
  • (5) 空気抵抗の係数\(k\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「抵抗力がはたらく物体の運動」です。特に、速さに比例する抵抗力がはたらく場合、物体は最終的に一定の速度(終端速度)に達するという特徴的な運動をします。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式: 物体の運動を記述する基本法則 (\(ma=F\))。この問題では、複数の力がはたらくため、それらを正しく合算することが重要です。
  2. 力の分解: 重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
  3. v-tグラフの物理的意味:
    • グラフの傾きは、その時刻における加速度を表します。
    • グラフが水平になった(傾きが0になった)とき、加速度は0、つまり等速度運動になったことを意味します。
  4. 終端速度: 空気抵抗のように速さに応じて大きくなる抵抗力がはたらく場合、やがて推進力と抵抗力がつり合って加速しなくなり、速度が一定になります。このときの速度を終端速度と呼びます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、物体にはたらく力をすべて特定し、運動方程式を一般的に立てます。
  2. (3)では、終端速度の条件(加速度\(a=0\))を運動方程式に適用し、終端速度\(v_0\)を文字式で表します。
  3. (4)では、与えられたv-tグラフの「\(t=0\)における接線」の情報を使います。接線の傾きから\(t=0\)のときの加速度を求め、\(v=0\)であることと合わせて運動方程式に代入し、\(\mu’\)を求めます。
  4. (5)では、v-tグラフが収束する値から終端速度\(v_0\)を読み取ります。この値を、(3)で導いた終端速度の式と(4)で求めた\(\mu’\)と組み合わせて、係数\(k\)を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
すべり運動中の物体に作用する力をすべてリストアップし、その向きを考えます。力がはたらく原因(何から受ける力か)を考えると、漏れなく挙げることができます。

  1. 地球が物体を引く力 \(\rightarrow\) 重力
  2. 斜面が物体に及ぼす力 \(\rightarrow\) 垂直抗力と動摩擦力
  3. 空気が物体に及ぼす力 \(\rightarrow\) 空気抵抗

この設問における重要なポイント

  • 動摩擦力と空気抵抗は、どちらも物体の運動を妨げる向き(斜面上向き)にはたらく。
  • 重力は常に鉛直下向き、垂直抗力は常に面に垂直な向きである。

具体的な解説と立式
運動中の物体に作用する力は以下の4つです。

  • 重力: 大きさ\(Mg\)、向きは鉛直下向き。
  • 垂直抗力: 大きさ\(N\)、向きは斜面に垂直で物体を支える向き(斜面垂直上向き)。
  • 動摩擦力: 大きさ\(\mu’N\)、向きは運動を妨げる向き(斜面上向き)。
  • 空気抵抗力: 大きさ\(kv\)、向きは運動を妨げる向き(斜面上向き)。

これらを矢印で図の上に示します。

使用した物理公式

  • 物理的な力の知識
計算過程

この設問は作図のため、計算はありません。

計算方法の平易な説明

物体が斜面を滑り落ちるとき、どんな力が働いているかを考えます。
まず、地球が下に引っ張る「重力」。
次に、斜面が物体を支える「垂直抗力」と、動きを邪魔するザラザラした「動摩擦力」。
最後に、空気がぶつかってきて動きを邪魔する「空気抵抗」。
これらの力を矢印で描けばOKです。動摩擦力と空気抵抗は、どちらも滑るのを邪魔する向き(斜面の上向き)になります。

結論と吟味

物体には重力、垂直抗力、動摩擦力、空気抵抗力の4つの力がはたらきます。それぞれの力の向きを正しく図示することが、次の運動方程式を立てるための基礎となります。

解答 (1) 図に力の名称と向きを記入する(模範解答の図を参照)

問(2)

思考の道筋とポイント
ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を立てます。斜面上の運動なので、斜面に沿った方向で式を立てるのが基本です。斜面下向きを正の向きとします。物体にはたらく力を斜面平行方向と垂直方向に分解し、平行方向の力の合力を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 座標軸(斜面下向きを正)を明確に設定する。
  • 重力を斜面平行成分 \(Mg\sin\theta\) と垂直成分 \(Mg\cos\theta\) に分解する。
  • 動摩擦力の大きさ \(\mu’N\) を、垂直方向の力のつり合い \(N=Mg\cos\theta\) を使って表す。

具体的な解説と立式
斜面下向きを正として、物体の運動方程式を立てます。
加速度を\(a\)、速度を\(v\)とします。
斜面下向きにはたらく力は、重力の成分 \(Mg\sin\theta\) です。
斜面上向きにはたらく力は、動摩擦力 \(\mu’N\) と空気抵抗力 \(kv\) です。
したがって、運動方程式は、
$$Ma = Mg\sin\theta – \mu’N – kv$$
ここで、斜面に垂直な方向の力のつり合いより、
$$N = Mg\cos\theta$$
であるため、これを運動方程式に代入します。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(Ma=F\)
  • 力の分解
  • 動摩擦力: \(F’=\mu’N\)
計算過程

\(N=Mg\cos\theta\) を代入した結果が求める運動方程式です。
$$Ma = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv$$

計算方法の平易な説明

物体の運動のルール「(質量)×(加速度)=(力の合計)」を式にします。
斜面下向きに物体を加速させようとする力は「重力の斜面成分」だけです。
一方、運動を邪魔するブレーキ役の力は「動摩擦力」と「空気抵抗」の2つがあります。
よって、「加速させる力」から「ブレーキの力2つ」を引いたものが、正味の力となって物体を加速させる、という式を立てます。

結論と吟味

運動方程式は \(Ma = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv\) となります。この式は、速度\(v\)が大きくなるにつれて加速度\(a\)が小さくなるという、この運動の特徴を正しく表しています。

解答 (2) \(Ma = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「等速度運動になった場合」とは、速度が一定になり、それ以上加速しない状態、つまり加速度 \(a=0\) になった状態を指します。このときの速度が終端速度 \(v_0\) です。
(2)で立てた運動方程式に、\(a=0\) と \(v=v_0\) を代入することで、\(v_0\) を求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 等速度運動 \(\iff\) 加速度 \(a=0\)。
  • このときの速度が終端速度 \(v_0\) である。

具体的な解説と立式
(2)で求めた運動方程式
$$Ma = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv$$
において、等速度運動になった場合は \(a=0\)、そのときの速さは \(v_0\) なので、
$$M \cdot 0 = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv_0$$

使用した物理公式

  • (2)で導出した運動方程式
計算過程

立式した \(0 = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv_0\) を \(v_0\) について解きます。
$$kv_0 = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta$$
$$v_0 = \frac{Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta}{k}$$
$$v_0 = \frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu’\cos\theta)$$

計算方法の平易な説明

物体が滑り落ちてスピードが上がると、空気抵抗もだんだん強くなります。やがて、斜面下向きに滑らせようとする力と、上向きに邪魔する力(動摩擦力+空気抵抗)の大きさがピッタリ同じになります。力がつり合うので、それ以上は加速せず、一定の速度で滑り続けることになります。このときの速度を求めるために、運動方程式の加速度を0にして計算します。

結論と吟味

等速度運動になった場合の速さ \(v_0\) は \(v_0 = \displaystyle\frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu’\cos\theta)\) と表されます。この式は、物体を滑らせようとする力(分子の \(Mg(\sin\theta – \mu’\cos\theta)\))が大きいほど、また空気抵抗の係数 \(k\) が小さいほど、終端速度が大きくなることを示しており、物理的に妥当です。

解答 (3) \(v_0 = \displaystyle\frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu’\cos\theta)\)

問(4)

思考の道筋とポイント
v-tグラフから情報を読み取ります。問題文より、\(t=0\) における接線は \(v = \displaystyle\frac{1}{3}gt\) です。v-tグラフの接線の傾きは加速度を表すので、\(t=0\) における加速度 \(a_0\) は、この直線の傾きに等しくなります。
また、\(t=0\) の瞬間は、物体はまだ動き始めたばかりで速さは \(v=0\) です。このため、空気抵抗 (\(kv\)) は0です。
これらの情報(\(t=0\)での\(a\)と\(v\)の値)を、(2)で立てた運動方程式に代入して、未知数である \(\mu’\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • v-tグラフの接線の傾きは加速度である。
  • \(t=0\) では \(v=0\) であり、空気抵抗ははたらかない。

具体的な解説と立式
直線 \(v = \displaystyle\frac{1}{3}gt\) の傾きは \(\displaystyle\frac{1}{3}g\) です。これが \(t=0\) における加速度 \(a_0\) に相当します。
$$a_0 = \frac{1}{3}g$$
(2)の運動方程式 \(Ma = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv\) に、\(t=0\) のときの条件、すなわち \(a=a_0=\displaystyle\frac{1}{3}g\), \(v=0\), および \(\theta=30^\circ\) を代入します。
$$M\left(\frac{1}{3}g\right) = Mg\sin30^\circ – \mu’Mg\cos30^\circ – k \cdot 0$$

使用した物理公式

  • v-tグラフと加速度の関係
  • (2)の運動方程式
計算過程

立式した方程式を \(\mu’\) について解きます。
$$M\left(\frac{1}{3}g\right) = Mg\sin30^\circ – \mu’Mg\cos30^\circ$$
両辺を \(Mg\) で割ります。
$$\frac{1}{3} = \sin30^\circ – \mu’\cos30^\circ$$
\(\sin30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\), \(\cos30^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) を代入します。
$$\frac{1}{3} = \frac{1}{2} – \mu’\frac{\sqrt{3}}{2}$$
\(\mu’\) の項を左辺に、定数項を右辺に移項します。
$$\mu’\frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{1}{2} – \frac{1}{3} = \frac{3-2}{6} = \frac{1}{6}$$
$$\mu’ = \frac{1}{6} \cdot \frac{2}{\sqrt{3}} = \frac{1}{3\sqrt{3}}$$

計算方法の平易な説明

グラフのスタート地点(\(t=0\))に注目します。スタート時のグラフの傾きが与えられているので、ここから「動き出した瞬間の加速度」がわかります。動き出した瞬間はまだスピードがゼロなので、空気抵抗は無視できます。この「空気抵抗なし」の状態の運動方程式に、先ほど求めた加速度を代入すれば、未知数である動摩擦係数 \(\mu’\) を計算することができます。

結論と吟味

動摩擦係数は \(\mu’ = \displaystyle\frac{1}{3\sqrt{3}}\) です。有理化すると \(\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{9} \approx 0.19\) であり、一般的な摩擦係数の値として妥当な範囲です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{1}{3\sqrt{3}}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
再びv-tグラフから情報を読み取ります。時間が十分に経過すると、物体の速度は一定値に近づいていきます。グラフから、この収束する速度、すなわち終端速度 \(v_0\) は 4 [m/s] であることがわかります。
この \(v_0=4\) という値と、(4)で求めた \(\mu’ = \displaystyle\frac{1}{3\sqrt{3}}\) を、(3)で導出した終端速度の一般式に代入することで、最後の未知数である空気抵抗の係数 \(k\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • v-tグラフの収束値が終端速度 \(v_0\) である。
  • これまでに導出した関係式を総動員して解く。

具体的な解説と立式
図2のグラフより、等速度運動になった場合の速さ(終端速度)は \(v_0 = 4\) [m/s] と読み取れます。
この値を、(3)で求めた終端速度の式
$$v_0 = \frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu’\cos\theta)$$
に代入します。また、\(\theta=30^\circ\) と (4)で求めた \(\mu’ = \displaystyle\frac{1}{3\sqrt{3}}\) も代入します。
$$4 = \frac{Mg}{k}\left(\sin30^\circ – \frac{1}{3\sqrt{3}}\cos30^\circ\right)$$

使用した物理公式

  • (3)で導出した終端速度の式
計算過程

立式した方程式を \(k\) について解きます。
$$k = \frac{Mg}{4}\left(\sin30^\circ – \frac{1}{3\sqrt{3}}\cos30^\circ\right)$$
三角関数の値を代入します。
$$k = \frac{Mg}{4}\left(\frac{1}{2} – \frac{1}{3\sqrt{3}} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}\right)$$
$$k = \frac{Mg}{4}\left(\frac{1}{2} – \frac{1}{6}\right)$$
$$k = \frac{Mg}{4}\left(\frac{3-1}{6}\right) = \frac{Mg}{4}\left(\frac{2}{6}\right) = \frac{Mg}{4}\left(\frac{1}{3}\right)$$
$$k = \frac{Mg}{12}$$

計算方法の平易な説明

今度はグラフのゴール地点(速度が一定になったところ)に注目します。グラフから、そのときの速度(終端速度)が 4 m/s であることが読み取れます。
一方、(3)で「終端速度の公式」を文字式で作ってあります。この公式に、グラフから読み取った速度「4」と、(4)で計算した摩擦係数「\(\mu’\)」を代入すれば、最後の未知数である空気抵抗の係数 \(k\) を計算することができます。

結論と吟味

空気抵抗の係数は \(k = \displaystyle\frac{Mg}{12}\) となります。係数 \(k\) が質量 \(M\) に比例するという結果は、一見すると奇妙に思えるかもしれません。しかし、これはあくまでこの実験条件 (\(\theta=30^\circ\), \(\mu’=\frac{1}{3\sqrt{3}}\)) において、終端速度が 4 m/s になるために必要な \(k\) の値が、\(Mg\) の \(\frac{1}{12}\) であることを示しています。もし物体の形状が同じで質量だけが変わるなら、\(k\) は質量に依らないはずですが、この問題ではそのような仮定はなく、与えられた条件から \(k\) を \(M, g\) を用いて表すことが求められています。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{Mg}{12}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 核心: この問題のすべての設問の基礎となる法則です。物体にはたらく力(重力、垂直抗力、動摩擦力、空気抵抗力)を正しく特定し、それらの合力を計算して運動方程式を立てることが第一歩です。
    • 理解のポイント: 力はベクトル量であるため、向きを考慮することが極めて重要です。斜面の問題では、斜面に平行な方向と垂直な方向に力を分解し、それぞれの方向で運動方程式(または力のつり合いの式)を立てるのが定石です。
  • v-tグラフと力学の接続:
    • 核心: 実験データとして与えられるv-tグラフは、単なる曲線ではなく、物体の運動状態に関する情報の宝庫です。グラフの「傾き」が「加速度」に、グラフの「値」が「速度」に対応することを理解し、運動方程式と結びつける能力が問われます。
    • 理解のポイント:
      1. 接線の傾き \(\rightarrow\) 瞬間の加速度: 特定の時刻 \(t\) における接線の傾きは、その瞬間の加速度 \(a\) を与えます。特に \(t=0\) での接線は、初速度 \(v=0\) での初加速度を求めるのに使われます。
      2. グラフの収束値 \(\rightarrow\) 終端速度: 時間が十分に経ち、グラフが水平に近づく(傾きが0に近づく)とき、物体は等速度運動(終端速度)に達したことを意味します。そのときの速度の値を読み取ることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 雨粒の落下運動: 空気抵抗を受けながら落下する雨粒は、やがて重力と空気抵抗がつり合い、終端速度に達します。この問題の鉛直バージョンです。
    • 水中での物体の運動: 水中では浮力と粘性抵抗(水の抵抗)がはたらきます。これも終端速度に達する運動の典型例です。
    • 電磁気学における導体棒の運動: 磁場中を運動する導体棒には、速度に比例する電磁ブレーキ(制動力)がはたらくことがあります。これも同様の数学モデルで記述できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 抵抗力の形を確認する: 抵抗力は、この問題のように速さ \(v\) に比例する(\(kv\))場合もあれば、速さの2乗 \(v^2\) に比例する場合もあります。問題文をよく読み、どのような抵抗力がはたらくのかを正確に把握します。
    2. グラフのどの部分が使えるか?: v-tグラフが与えられたら、まず「\(t=0\) の接線」と「\(t \rightarrow \infty\) の収束値」という2つの特別な点に注目します。これらはそれぞれ「初加速度(多くの場合、抵抗力0)」と「終端速度(加速度0)」という、計算が単純化される重要な物理状態に対応しています。
    3. 未知数は何か、式はいくつ立てられるか?: この問題では未知数が \(\mu’\) と \(k\) の2つでした。それに対して、グラフから「初加速度」と「終端速度」という2つの独立した情報を得られたため、連立方程式を解くことで未知数を決定できました。未知数の数と、立てられる独立な式の数を常に意識することが重要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の分解ミス:
    • 誤解: 重力の斜面平行成分と垂直成分で、\(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) を取り違える。
    • 対策: 角度\(\theta\)を非常に小さくした場合(ほぼ水平)を想像します。このとき、滑り落ちる力(平行成分)はほぼ0に、斜面を押す力(垂直成分)はほぼ\(Mg\)になるはずです。\(\sin0=0\), \(\cos0=1\) なので、平行成分が \(Mg\sin\theta\)、垂直成分が \(Mg\cos\theta\) であることが確認できます。
  • 運動方程式の符号ミス:
    • 誤解: すべての力を足してしまう。
    • 対策: 必ず座標軸の正の向きを最初に決める(例:斜面下向きを正)。そして、各力がその向きと同じなら正、逆なら負として式に加える。動摩擦力や空気抵抗は、常に運動方向と逆向きなので、速度が正の向きなら負の力として式に入ります。
  • グラフの読み取りミス:
    • 誤解: 接線の傾きを求めるときに、原点とグラフ上の適当な点を結んでしまう。
    • 対策: 「接線」はあくまでその点での「瞬間的な傾き」です。問題文で接線の式が与えられている場合は、その式の傾きをそのまま使います。与えられていない場合は、図から丁寧に接線を引いて傾きを読み取る必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図: (1)で描く力の図は非常に重要です。特に、運動が進むにつれて空気抵抗の矢印 \(kv\) がどんどん長くなっていき、最終的に斜面下向きの力と上向きの力(動摩擦力+空気抵抗力)の矢印の長さが等しくなる、という時間変化をイメージできると、終端速度に至るプロセスが深く理解できます。
    • v-tグラフと加速度の関係: グラフの傾きが徐々に緩やかになっていく様子は、加速度\(a\)が時間とともに減少していくことを視覚的に示しています。これは運動方程式 \(Ma = (\text{一定の力}) – kv\) からも明らかで、\(v\)が増加するにつれて\(a\)が減少する関係と一致します。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の作用点: すべての力は物体の重心にはたらくものとして描くと、図がすっきりします。
    • 分解した力と元の力: 重力を成分に分解した場合、分解後の2つの力(\(Mg\sin\theta, Mg\cos\theta\))と元の力(\(Mg\))を同時に力のつり合いや運動方程式に使わないように注意します。混乱を避けるため、分解した成分を実線、元の力を破線で描くなどの工夫が有効です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 (\(Ma = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv\)):
    • 選定理由: 物体の運動状態(加速度)と、それにはたらく力との関係を記述する、力学の根幹をなす法則だから。速度によって抵抗力が変わるため、運動は等加速度運動ではなく、刻一刻と加速度が変化します。このような運動を記述するには運動方程式が不可欠です。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則。
  • \(t=0\)での運動方程式 (\(Ma_0 = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta\)):
    • 選定理由: \(t=0\) という特別な瞬間を考えることで、速度に依存する未知の力(空気抵抗)を消去し、式を単純化できるため。
    • 適用根拠: 運動方程式はどの瞬間でも成り立ちます。\(t=0\) では \(v=0\) なので、空気抵抗の項 \(kv\) が0になり、未知数が \(\mu’\) だけの方程式が得られます。
  • 終端速度での力のつり合い (\(0 = Mg\sin\theta – \mu’Mg\cos\theta – kv_0\)):
    • 選定理由: 等速度運動(終端速度)という、もう一つの特別な状態を考えることで、加速度の項を消去し、式を単純化できるため。
    • 適用根拠: 等速度運動とは、加速度が0の状態です。運動方程式に \(a=0\) を代入すると、それは力のつり合いの式と等価になります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 現象の一般化: まず、任意の時刻\(t\)、速度\(v\)、加速度\(a\)での運動方程式を立てる。(問1, 2)
    • 力をもれなく図示する。
    • 斜面方向で運動方程式を立てる: \(Ma = (\text{推進力}) – (\text{抵抗力})\)。
  2. 特別な状態①:運動開始時 (\(t=0\)):
    • 目的: 未知数 \(\mu’\) の決定。(問4)
    • グラフから情報を抽出: \(t=0\)での接線の傾き \(\rightarrow\) 初加速度 \(a_0\)。
    • 物理的条件: \(t=0\) では \(v=0\)。
    • 手順: 一般的な運動方程式に \(a=a_0, v=0\) を代入し、\(\mu’\) について解く。
  3. 特別な状態②:終端速度時 (\(t \rightarrow \infty\)):
    • 目的: 未知数 \(k\) の決定。(問3, 5)
    • グラフから情報を抽出: \(t \rightarrow \infty\) での収束値 \(\rightarrow\) 終端速度 \(v_0\)。
    • 物理的条件: 終端速度では \(a=0\)。
    • 手順: 一般的な運動方程式に \(a=0, v=v_0\) を代入し、\(v_0\) の一般式を導く(問3)。その式に、グラフから読み取った \(v_0\) の値と、(4)で求めた \(\mu’\) の値を代入して \(k\) を解く(問5)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 三角関数の値の正確な代入:
    • 特に注意すべき点: \(\sin30^\circ, \cos30^\circ\) などの基本的な値を間違えないこと。
    • 日頃の練習: 30°, 45°, 60°の三角比は即座に出てくるようにしておく。
  • 分数の計算:
    • 特に注意すべき点: (4)や(5)では、\(\displaystyle\frac{1}{3\sqrt{3}}\) や \(\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) といった分数や無理数が含まれる計算が出てきます。焦らず、丁寧に約分や通分を行うことが重要です。
    • 日頃の練習: 手計算での分数・無理数の四則演算に慣れておく。
  • 文字の消去:
    • 特に注意すべき点: (4)の計算で両辺を \(Mg\) で割るなど、共通の文字を消去すると計算が楽になります。ただし、0で割らないように注意が必要です(この問題では \(M, g\) は0でないので問題ありません)。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • \(\mu’\): (4)で求めた \(\mu’ = \frac{1}{3\sqrt{3}} \approx 0.19\) は、動摩擦係数として0から1の間の妥当な値です。もし負になったり、1を大幅に超えたりした場合は計算ミスを疑います。
    • \(k\): (5)で求めた \(k = \frac{Mg}{12}\) は正の値であり、抵抗力の係数として符号は正しいです。
  • 式の吟味:
    • (3) 終端速度 \(v_0\): \(v_0 = \frac{Mg}{k}(\sin\theta – \mu’\cos\theta)\) という式を見てみます。もし摩擦がなければ (\(\mu’=0\))、\(v_0 = \frac{Mg\sin\theta}{k}\) となります。これは、重力の斜面成分 \(Mg\sin\theta\) と空気抵抗 \(kv_0\) がつり合うときの速度であり、正しいです。また、滑り落ちるためには推進力(重力成分)が摩擦力より大きい必要があるので、\(\sin\theta > \mu’\cos\theta\) (つまり \(\tan\theta > \mu’\)) である必要があり、このとき \(v_0\) は正の値になります。これも物理的に妥当です。

問題34 (名古屋大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、液体中で落下する物体と、それを含む水槽全体にはたらく力を考察する、複雑な設定の力学問題です。特に、物体が液体から受ける力の「反作用」が、水槽にはたらき、床が水槽を支える垂直抗力に影響を与える点が核心となります。

与えられた条件
  • 液体: 密度\(\rho\), 体積\(V\)
  • 水槽: 質量\(M\)
  • 金属球: 質量\(m\), 体積は無視できる
  • 抵抗力: 大きさ\(kv\) (\(k\)は正の定数, \(v\)は速さ)
  • 浮力: 金属球の体積が無視できるため、考えなくてもよい。
  • 重力加速度: \(g\)

運動の経緯

  1. \(t=0\) 直前: 金属球は糸でつるされ、液体中で静止。
  2. \(t=0\): 糸を切断。金属球が落下開始。
  3. \(0 < t < t_1\): 金属球が加速しながら落下。
  4. \(t=t_1\): 金属球が終端速度に到達。
  5. \(t_1 < t < t_2\): 金属球が底面に衝突し、複雑な運動をする。
  6. \(t=t_2\): 金属球が底面上で静止。
問われていること
  • (1) 糸を切る直前(\(t=0\)前)と直後(\(t=0\)後)の、床が水槽を支える垂直抗力 \(N_1\), \(N_2\)。
  • (2) 落下中(\(0<t<t_1\))の金属球の運動方程式と、そのときの床が水槽を支える垂直抗力 \(N_3\)。
  • (3) 終端速度に達したとき(\(t=t_1\))の、床が水槽を支える垂直抗力 \(N_4\)。
  • (4) 垂直抗力\(N\)の時間変化の概形グラフ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「作用・反作用と系の力学」です。金属球と「液体+水槽」という2つの系に分けて考えること、そして金属球と液体の間で及ぼしあう力の反作用を正しく考慮することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式: 物体の運動状態を記述する基本法則 (\(ma=F\))。
  2. 力のつり合い: 物体が静止している、または等速直線運動している場合、物体にはたらく力の合力は0です。
  3. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力\(\vec{F}\)を及ぼすとき、物体Bは物体Aに力\(-\vec{F}\)を必ず及ぼし返します。この問題では、金属球が液体から受ける抵抗力の反作用として、液体が金属球から力を受けることを考慮する必要があります。
  4. 系全体の力のつり合い: 複数の物体をひとまとまりの「系」として考えたとき、系内部で及ぼしあう力(内力)は相殺されるため、系全体の運動や力のつり合いを考える際には、外部から系にはたらく力(外力)のみを考えればよい。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 各設問で問われている瞬間の状況を正確に把握します。
  2. (1)では、糸を切る前後で「液体+水槽」の系にはたらく力を考え、力のつり合いの式を立てます。
  3. (2)では、まず「金属球」の系に着目して運動方程式を立てます。次に、「液体+水槽」の系に着目し、金属球から受ける抵抗力の反作用を考慮して力のつり合いの式を立てます。
  4. (3)では、終端速度の条件(加速度\(a=0\))を金属球の運動方程式に適用して終端速度を求め、そのときの抵抗力の反作用を(2)の\(N_3\)の式に適用します。
  5. (4)では、(1)〜(3)で求めた\(N_1, N_2, N_4\)と、\(t>t_2\)で静止した後の垂直抗力の値を比較し、時間変化のグラフとして最も適切なものを選びます。

問(1)

思考の道筋とポイント
床が水槽を支える垂直抗力を求めるには、「液体+水槽」を一つの系として考え、この系にはたらく鉛直方向の力のつり合いを考えます。

  • 糸を切る直前: 金属球は糸によって支えられているため、金属球の重さは「液体+水槽」の系にはかかっていません。
  • 糸を切った直後: 金属球は自由落下を始めますが、その瞬間はまだ速度が0なので、液体との間に抵抗力ははたらきません。金属球の重さはまだ「液体+水槽」の系には直接作用していません。

この設問における重要なポイント

  • 考察の対象を「液体+水槽」の系に定める。
  • この系にはたらく力をリストアップする(系の重力、床からの垂直抗力、外部から及ぼされる力)。
  • 糸を切る前後で、金属球が系に力を及ぼしているかどうかを判断する。

具体的な解説と立式
考察する系を「液体+水槽」とします。この系の質量は、液体の質量\( \rho V \)と水槽の質量\(M\)の和、\(M+\rho V\)です。

  • \(N_1\) (糸を切る直前, \(t=0\)前)
    「液体+水槽」の系にはたらく力は、

    1. 系の重力: \((M+\rho V)g\) (下向き)
    2. 床からの垂直抗力: \(N_1\) (上向き)

    金属球は糸で支えられており、液体とは(抵抗力や浮力において)相互作用していないため、この系に力を及ぼしません。
    したがって、力のつり合いより、
    $$N_1 = (M+\rho V)g$$

  • \(N_2\) (糸を切った直後, \(t=0\)後)
    糸を切った直後、金属球は落下を始めますが、速度はまだ \(v=0\) です。そのため、金属球と液体の間の抵抗力は \(kv=0\) であり、その反作用も0です。浮力も考えないため、この瞬間も金属球は「液体+水槽」の系に力を及ぼしません。
    したがって、力のつり合いは切る直前と変わらず、
    $$N_2 = (M+\rho V)g$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
計算過程

この設問では立式のみが求められているため、これ以上の計算は不要です。

計算方法の平易な説明

床がどれだけの力で水槽を支えているかを考えます。
糸を切る前は、床は「水槽と水の重さ」だけを支えればOKです。金属球は糸が支えています。
糸を切った瞬間、金属球はまだスピードゼロなので、水との間に抵抗力は生まれません。したがって、この瞬間も床が支える重さは「水槽と水の重さ」のままで変わりません。

結論と吟味

\(N_1 = (M+\rho V)g\), \(N_2 = (M+\rho V)g\) となります。糸を切る前後で、床が支える力は変わらないという結果です。これは、切った直後にはまだ金属球と液体との相互作用が始まっていないため、物理的に妥当です。

解答 (1) \(N_1 = (M+\rho V)g\), \(N_2 = (M+\rho V)g\)

問(2)

思考の道筋とポイント
まず、落下中の「金属球」に着目し、運動方程式を立てます。次に、「液体+水槽」の系に着目し、力のつり合いを考えます。このとき、金属球が液体から受ける抵抗力の「反作用」として、液体が金属球から力を受けることを考慮するのが最重要ポイントです。

この設問における重要なポイント

  • 金属球の運動方程式: 推進力(重力)と抵抗力の差で加速する。
  • 液体+水槽の力のつり合い: 系の重力に加えて、抵抗力の反作用(下向き)が加わる。

具体的な解説と立式

  • 金属球の運動方程式
    鉛直下向きを正とします。金属球にはたらく力は、

    1. 重力: \(mg\) (下向き, 正)
    2. 抵抗力: \(kv\) (上向き, 負)

    したがって、運動方程式 \(ma=F\) は、
    $$ma = mg – kv$$

  • 垂直抗力 \(N_3\) の計算
    「液体+水槽」の系にはたらく力を考えます。

    1. 系の重力: \((M+\rho V)g\) (下向き)
    2. 床からの垂直抗力: \(N_3\) (上向き)
    3. 金属球からの抵抗力の反作用: 金属球は液体から上向きに抵抗力\(kv\)を受けるので、その反作用として、液体は金属球から下向きに力\(kv\)を受けます。

    「液体+水槽」の系は静止しているので、力のつり合いが成り立ちます。
    $$N_3 = (M+\rho V)g + kv$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 力のつり合い
  • 作用・反作用の法則
計算過程

この設問では立式のみが求められているため、これ以上の計算は不要です。

計算方法の平易な説明

金属球については、下向きの重力と、上向きの水の抵抗力の差で加速していく、という運動のルールを立てます。
水槽については、床が支える力を考えます。床は「水槽と水の重さ」に加えて、もう一つ力を支える必要があります。それは、金属球が水を押しのけながら進むときに、水が金属球から押し返される力(抵抗力の反作用)です。この力は下向きに働くので、その分だけ床が支える力は大きくなります。

結論と吟味

金属球の運動方程式は \(ma = mg – kv\)、水槽が床から受ける垂直抗力は \(N_3 = (M+\rho V)g + kv\) となります。金属球の速度\(v\)が増加するにつれて、抵抗力\(kv\)が大きくなり、その結果、床が支える力\(N_3\)も増加していくことがわかります。

解答 (2) 運動方程式: \(ma = mg – kv\), 垂直抗力: \(N_3 = (M+\rho V)g + kv\)

問(3)

思考の道筋とポイント
金属球が終端速度に達したとき(\(t=t_1\))の垂直抗力\(N_4\)を求めます。
終端速度に達したということは、金属球の加速度が \(a=0\) になったということです。この条件を(2)で立てた金属球の運動方程式に適用すると、終端速度\(v_1\)(問題文では時刻\(t_1\)で終端速度に達するとあるので、このときの速度を\(v_1\)とします)が求まります。
このときの抵抗力は \(kv_1\) です。このときの垂直抗力\(N_4\)は、(2)で求めた\(N_3\)の式に \(v=v_1\) を代入することで得られます。

この設問における重要なポイント

  • 終端速度 \(\iff\) 加速度 \(a=0\)。
  • (2)で立てた式を組み合わせて解く。

具体的な解説と立式
終端速度に達したとき、加速度は \(a=0\) です。このときの速度を \(v_1\) とします。
(2)の金属球の運動方程式 \(ma = mg – kv\) に \(a=0, v=v_1\) を代入すると、
$$m \cdot 0 = mg – kv_1$$
このときの垂直抗力 \(N_4\) は、(2)で求めた \(N_3\) の式 \(N_3 = (M+\rho V)g + kv\) に \(v=v_1\) を代入したものです。
$$N_4 = (M+\rho V)g + kv_1$$

使用した物理公式

  • (2)で導出した関係式
計算過程

まず、\(m \cdot 0 = mg – kv_1\) より、終端速度時の抵抗力 \(kv_1\) を求めます。
$$kv_1 = mg$$
この結果を \(N_4\) の式に代入します。
$$N_4 = (M+\rho V)g + mg$$
$$N_4 = (M + m + \rho V)g$$

計算方法の平易な説明

金属球が一定速度になったとき、それは金属球にはたらく重力と抵抗力がつり合ったということです。このつり合いから、そのときの抵抗力の大きさがわかります(実は重力\(mg\)と等しくなります)。
床が支える力は、「水槽と水の重さ」+「抵抗力の反作用」でした。この抵抗力の反作用が\(mg\)と等しくなるので、結局、床は「水槽+水+金属球」のすべての重さを支えることになります。

結論と吟味

終端速度に達したときの垂直抗力は \(N_4 = (M+m+\rho V)g\) となります。これは、水槽、液体、金属球の全質量の合計にかかる重力に等しいです。
これは、「系全体(水槽+液体+金属球)の重心の加速度が0になったとき、系全体にはたらく外力(重力と垂直抗力)はつり合う」と解釈できます。金属球が等速運動しているので、系全体の重心も等速運動しており、この解釈は妥当です。

解答 (3) \(N_4 = (M+m+\rho V)g\)

問(4)

思考の道筋とポイント
これまでの結果を元に、垂直抗力\(N\)の時間変化のグラフを選びます。各時刻での\(N\)の値を整理します。

  • \(t=0\)前: \(N_1 = (M+\rho V)g\)
  • \(t=0\)後: \(N_2 = (M+\rho V)g\)
  • \(0 < t < t_1\): \(N_3 = (M+\rho V)g + kv\)。\(v\)は0から\(v_1\)まで増加するので、\(N_3\)は\(N_2\)から滑らかに増加する。
  • \(t=t_1\): \(N_4 = (M+m+\rho V)g\)。
  • \(t > t_2\) (十分に時間が経った後): 金属球は底で静止。このとき、床は水槽、液体、金属球のすべての重さを支えるので、垂直抗力は \(N_5 = (M+m+\rho V)g\) となる。

この設問における重要なポイント

  • 各時刻での垂直抗力の値を比較する。
  • \(0 < t < t_1\) の間で、\(N\)がどのように変化するか(増加か減少か、直線か曲線か)を考える。

具体的な解説と立式
各時刻での垂直抗力の値をまとめます。

  • \(N(t<0) = N_1 = (M+\rho V)g\)
  • \(N(t=0) = N_2 = (M+\rho V)g\)
  • \(N(t=t_1) = N_4 = (M+m+\rho V)g\)
  • \(N(t \ge t_2) = N_5 = (M+m+\rho V)g\)

大小関係を比較すると、\(N_1 = N_2 < N_4 = N_5\) です。
また、\(0 < t < t_1\) の間では、\(N_3 = (M+\rho V)g + kv\) であり、金属球の速度\(v\)は時間とともに増加率を減らしながら増加していく(v-tグラフが上に凸の曲線を描く)ので、\(N_3\)も同様に、増加率を減らしながら滑らかに増加していきます。
したがって、グラフの概形は以下のようになります。

  1. \(t=0\)までは一定値 \(N_1\)。
  2. \(t=0\)から\(t=t_1\)にかけて、上に凸の形で滑らかに増加し、\(N_4\)に達する。
  3. \(t=t_1\)から\(t=t_2\)までは複雑な変化(問題では描かれていない)。
  4. \(t=t_2\)以降は一定値 \(N_4\) と同じ値になる。

この特徴を持つグラフは、選択肢の中で⑧です。

使用した物理公式

  • (1), (2), (3)の結果
計算過程

この設問はグラフの選択であり、新たな計算はありません。

計算方法の平易な説明

これまでの結果を全部つなぎ合わせてグラフにします。

  1. スタート前とスタート直後は、床が支える力は同じ (\(N_1=N_2\))。
  2. 金属球がスピードアップしていく間、床が支える力もだんだん増えていく。
  3. 金属球が一定速度になったとき、床が支える力も一定値 (\(N_4\)) になる。
  4. 金属球が底に沈んで止まった後も、結局床は全体の重さを支えるので、支える力は\(N_4\)と同じ。

これらの条件に合うグラフを探すと、⑧が正解となります。

結論と吟味

垂直抗力の時間変化のグラフは⑧が最も適切です。特に、\(t=0\)で\(N\)の値が跳ね上がったりせず、滑らかに増加し始める点が重要です。これは、速度\(v\)が0から連続的に増加することに対応しています。

解答 (4)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 作用・反作用の法則と「系」の考え方:
    • 核心: この問題で最も重要なのは、金属球が液体から受ける力(抵抗力、浮力など)の「反作用」として、液体が金属球から力を受けることを正しく認識することです。床が水槽を支える垂直抗力\(N\)を求めるには、「液体+水槽」を一つの「系」として捉え、この系にはたらく外力(系の重力、床からの垂直抗力)と、系外の物体(金属球)から及ぼされる力(抵抗力の反作用など)のつり合いを考える必要があります。
    • 理解のポイント:
      1. 力を受ける相手を明確にする: 「金属球が受ける抵抗力」は液体から。「液体が受ける抵抗力の反作用」は金属球から。
      2. 内力と外力: 「液体+水槽+金属球」を全てまとめて一つの系として考えた場合、抵抗力や浮力は系内部の力(内力)となり、全体の運動を考える上では相殺されます。一方、「液体+水槽」だけを系とすると、金属球からの力は外力として扱われます。どの範囲を「系」として見るかによって、考慮すべき力が変わります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 台上で運動する物体: 台の上で物体が摩擦力を受けて運動するとき、台は物体から摩擦力の反作用を受けます。台が滑らかな床の上にある場合、この反作用によって台も動き出します。
    • ロケットの推進: ロケットがガスを噴射するとき、ロケットはガスから噴射の反作用として推進力を得ます。これも「ロケット」と「噴射ガス」の2つの系に分けて考えることができます。
    • 人が乗ったボートや台車: 人がボートや台車の上を歩くと、人は床から摩擦力を受け、床はその反作用を受けます。その結果、ボートや台車は人と逆向きに動きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系の設定: 複数の物体が相互に力を及ぼしあっている場合、どの物体(または物体の集まり)を一つの「系」として運動方程式やつり合いの式を立てるか、戦略的に決めることが重要です。求めたい力が何かによって、最適な系の取り方は変わります。
    2. 相互作用する力を見抜く: 物体Aと物体Bが接触している、または液体中を物体が動くなど、相互作用がある場合、必ず作用・反作用のペアが存在します。このペアを見つけ出し、それぞれの物体にはたらく力として正しく計上することが不可欠です。
    3. 時間変化を追う: \(t=0\)の直前、直後、運動中、終端速度到達時、静止後など、時間経過とともに物理状態がどう変わるかを段階的に分析します。各段階で、速度や加速度、はたらく力がどうなっているかを整理することが、全体像の把握につながります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 反作用の考慮漏れ:
    • 誤解: 水槽が床から受ける垂直抗力を考える際に、「液体+水槽」の重さしか考えず、運動している金属球が液体に及ぼす力(抵抗力の反作用)を忘れてしまう。
    • 対策: 複数の物体が絡む問題では、必ず「AがBから受ける力」と「BがAから受ける力」のペアを意識する癖をつける。「液体が金属球を押し上げる」なら、「金属球は液体を押し下げる」はずだ、と考える。
  • 系の設定ミス:
    • 誤解: 金属球の運動方程式を立てるべきところで、水槽や液体まで含めた全体の運動として考えてしまい、混乱する。
    • 対策: 「〜の運動方程式を求めよ」と問われたら、その物体「だけ」を系として取り出し、その物体にはたらく力をすべてリストアップする。
  • 終端速度の条件の誤解:
    • 誤解: 終端速度に達しても、まだ力がはたらき続けていることを忘れ、力のつり合いを考えない。
    • 対策: 「終端速度」という言葉を聞いたら、即座に「速度が一定 \(\rightarrow\) 加速度\(a=0\) \(\rightarrow\) 力がつり合っている」という連想ができるように訓練する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 物体ごとのフリーボディダイアグラム: 「金属球」と「液体+水槽」を別々の物体として描き、それぞれにはたらく力を矢印で図示することが極めて有効です。特に、金属球にはたらく上向きの抵抗力 \(kv\) と、液体にはたらく下向きの反作用 \(kv\) をペアで描くことで、作用・反作用の関係が視覚的に理解できます。
    • 体重計のイメージ: 床を体重計だと想像してみましょう。糸でつるされているときは、体重計は「水+水槽」の重さしか測りません。金属球が水中で落下を始めると、水が金属球を支える(抵抗する)分、その反作用で水が下に押されるため、体重計の目盛りは増えていきます。最終的に金属球が底に沈んでしまえば、体重計は「水+水槽+金属球」の全重量を測ることになります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 内力と外力の区別: 系の内部の力(内力)と外部の力(外力)を、実線と破線で描き分けるなどすると、どの力を使って式を立てるべきか明確になります。
    • 力の大きさと時間変化: 落下中の図では、速度\(v\)が大きくなるにつれて抵抗力\(kv\)の矢印も長くなることを意識して描くと、現象の理解が深まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = 0\)):
    • 選定理由: 物体や系が静止している、または等速直線運動している状態を分析するため。
    • 適用根拠: ニュートンの第一法則。加速度がゼロの物体(または重心の加速度がゼロの系)にはたらく合力はゼロであるという物理法則に基づきます。問(1)や、問(3)以降の考察で中心的に用います。
  • 運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\)):
    • 選定理由: 金属球が液体中で加速している状態を分析するため。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則。金属球の加速度と、それにはたらく力の関係を記述するために用います。
  • 作用・反作用の法則:
    • 選定理由: 複数の物体が相互に力を及ぼしあう状況を正しく分析するため。
    • 適用根拠: ニュートンの第三法則。一方の物体にはたらく力を考えたら、必ずその反作用が相手の物体にはたらいている、という力学の基本原理です。この問題では、抵抗力の反作用を考えるために必須です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況分析: 各時刻で何が起きているか整理する。
    • \(t<0\): 全て静止。
    • \(t=0\): 糸切断。金属球の \(v=0, a>0\)。
    • \(0<t<t_1\): 金属球が加速。\(v\)は増加、\(a\)は減少。
    • \(t=t_1\): 終端速度到達。金属球の \(v=v_1\)(一定), \(a=0\)。
    • \(t \ge t_2\): 全て静止。
  2. 垂直抗力Nの計算フロー:
    • Step 1: 求めたい時刻の状況を特定する。
    • Step 2: 「液体+水槽」を一つの系とみなす。
    • Step 3: この系にはたらく力をリストアップする。
      • (a) 系の重力 \((M+\rho V)g\)
      • (b) 床からの垂直抗力 \(N\)
      • (c) 金属球から受ける力(抵抗力の反作用など)
    • Step 4: 系の鉛直方向の力のつり合いの式 \(\sum F_y = 0\) を立てて \(N\) を解く。
  3. 各設問への適用:
    • (1) \(t=0\)前後: 金属球からの力は0。\(N = (M+\rho V)g\)。
    • (2) \(0<t<t_1\): 金属球から抵抗力の反作用 \(kv\) を受ける。\(N_3 = (M+\rho V)g + kv\)。
    • (3) \(t=t_1\): 終端速度 \(v_1\) での抵抗力の反作用 \(kv_1\) を受ける。金属球の運動方程式から \(kv_1=mg\) を導き、代入。\(N_4 = (M+m+\rho V)g\)。
    • (4) グラフ化: \(N_1=N_2 < N_4\)。\(t=0 \rightarrow t_1\) で滑らかに増加。\(t \ge t_2\) では \(N_5=N_4\)。これらを満たすグラフを選ぶ。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の多さに惑わされない:
    • 特に注意すべき点: \(M, m, \rho, V, k, g\) など多くの文字が登場しますが、一つ一つが何を表す物理量かを常に意識し、既知の定数として扱います。
    • 日頃の練習: 複雑な問題でも、まずはすべての量を文字のまま計算を進め、最後に必要な値を代入する練習をする。これにより、どの物理量が結果にどう影響するかの見通しが良くなります。
  • 丁寧な立式:
    • 特に注意すべき点: どの物体(系)についての式なのか、どの方向の式なのかを明確にしながら立式する。「金属球の運動方程式より」「液体+水槽のつり合いより」など、言葉を補いながら解き進めると、思考が整理されミスが減ります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • \(N_1, N_2, N_4\)の比較: \(N_1=N_2=(M+\rho V)g\) であり、\(N_4=(M+m+\rho V)g\) なので、\(N_4 > N_2\) となります。これは、落下中の金属球が液体を下向きに押すことで、床の負担が増えることを意味しており、直感的に正しいです。
    • \(t \ge t_2\)での垂直抗力: 最終的に全てが静止した状態では、床は全ての物体の重さを支えるはずなので、垂直抗力は \((M+m+\rho V)g\) となるはずです。これは \(N_4\) と一致しており、計算の妥当性を裏付けています。
  • 極端な場合を考える:
    • もし液体がなかったら (\(\rho=0, k=0\)) どうなるか?
      • \(N_1=Mg\)。水槽の重さだけ。
      • \(N_2=Mg\)。切った直後も同じ。
      • \(N_3=Mg\)。落下中も金属球は水槽に力を及ぼさない。
      • \(N_4\)や\(N_5\)は、金属球が床に直接落ちるので、水槽の垂直抗力とは別の話になる。

    このように、単純な状況に置き換えてみることで、式の意味を再確認できます。

問題35 (東京工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばね、摩擦、衝突、そしてエネルギー保存則が複雑に絡み合った、思考力を要する総合問題です。物体Bに与える初期エネルギーEの値によって、その後の運動の様相が大きく3つのケースに分かれることを読み解くのが鍵となります。

与えられた条件
  • 物体A, Bの質量: ともに\(m\)
  • ばね定数: \(k\)
  • 摩擦区間: \(0 \le x \le l\) (原点Oから点Pまで)
  • 静止摩擦係数: \(\mu\)
  • 動摩擦係数: \(\mu’\)
  • 重力加速度: \(g\)
  • 大きさは無視できる。
  • 特別な条件: \(\mu=2\mu’\), \(kl=3\mu’mg\)
問われていること
  • [A] 物体BがAに衝突し、一体となる運動
    • (1) 衝突直前のBの運動エネルギー \(E’\)
    • (2) 衝突直後のABの運動エネルギー
  • [B] 衝突後、ABが摩擦区間で停止する運動
    • (3) 停止位置\(x\)
    • (4) 停止後の運動の様子
  • [C] 衝突後、ABが一度摩擦区間を抜けてから戻ってきて停止する運動
    • (5) 停止位置\(x\)
  • [D] 最終的な静止位置と初期エネルギーの関係
    • (6) \(0 \le E \le E_1\) の範囲での \(x-E\) グラフの概略

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「エネルギー保存則と非保存力の仕事」「運動量保存則」です。各フェーズでどの物理法則が適用できるかを正確に見極める必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事と力学的エネルギーの関係: 摩擦力(非保存力)が仕事をすると、その分だけ系の力学的エネルギーが変化します。(\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\))
  2. 運動量保存則: 衝突の前後で、外力が無視できる短時間であれば、系全体の運動量は保存されます。
  3. ばねの弾性エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) (\(x\)は自然長からの変位)。
  4. 静止条件: 物体が静止し続ける条件は、「(動かそうとする力) \(\le\) (最大静止摩擦力)」です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. [A]では、まず物体Bが摩擦区間を通過する際のエネルギー損失を計算します。次に、AとBの衝突に運動量保存則を適用し、衝突後の速度を求め、そこから運動エネルギーを計算します。
  2. [B]では、衝突後の物体ABが持つ運動エネルギーが、摩擦区間を戻る際の摩擦の仕事によって失われると考え、エネルギー収支の式を立てます。
  3. (4)では、(3)で停止した位置で物体ABにはたらく「ばねの力」と「最大静止摩擦力」を比較し、物体が再び動き出すかどうかを判断します。
  4. [C]では、物体ABが摩擦区間を往復する際のエネルギー損失を考えます。移動距離の合計に注意して、エネルギー収支の式を立てます。
  5. [D]では、これまでの結果を統合し、初期エネルギー\(E\)の値に応じて物体が最終的にどこに静止するのかを場合分けして考え、グラフにまとめます。

[A] (1)

思考の道筋とポイント
物体Bが点Pから原点Oまで、摩擦のある区間を運動する際のエネルギー変化を考えます。「仕事と力学的エネルギーの関係」を用いるのが最も簡単です。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギーの変化は、動摩擦力がした仕事に等しい。
  • 動摩擦力がした仕事は、力の向きと移動方向が逆なので負になる。

具体的な解説と立式
物体Bが摩擦区間(長さ\(l\))を運動する前後の力学的エネルギーと、その間に動摩擦力がした仕事を考えます。

  • はじめの力学的エネルギー: 問題文より \(E\)。
  • 後の力学的エネルギー(衝突直前): \(E’\)。
  • 動摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
    動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu’N = \mu’mg\)。
    移動距離は \(l\)。力の向きは運動と逆なので、仕事は負。
    $$W_{\text{摩擦}} = -\mu’mg \cdot l = -\mu’mgl$$

仕事と力学的エネルギーの関係式「(後のエネルギー) – (はじめのエネルギー) = (非保存力がした仕事)」より、
$$E’ – E = -\mu’mgl$$

使用した物理公式

  • 仕事と力学的エネルギーの関係: \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu’N\)
計算過程

立式した \(E’ – E = -\mu’mgl\) を \(E’\) について解きます。
$$E’ = E – \mu’mgl$$

計算方法の平易な説明

物体Bが持っていた最初のエネルギー\(E\)の一部が、摩擦区間を通過するときに摩擦熱として失われます。失われたエネルギーは「動摩擦力 \(\times\) 距離」で計算できます。したがって、衝突直前のエネルギー\(E’\)は、最初のエネルギー\(E\)から摩擦で失われた分を引いたものになります。

結論と吟味

衝突直前の物体Bの運動エネルギーは \(E’ = E – \mu’mgl\) です。摩擦によってエネルギーが減少するという、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(E – \mu’mgl\)

[A] (2)

思考の道筋とポイント
物体AとBの衝突現象を考えます。衝突は非常に短い時間で起こるため、その間に摩擦力やばねの力が及ぼす影響(力積)は無視できます。したがって、AとBを一体とみなした系の運動量は保存されます。

この設問における重要なポイント

  • 衝突の前後では、運動量保存則が成り立つ。
  • 衝突後は一体となる(完全非弾性衝突)。
  • (1)で求めた衝突直前のエネルギー\(E’\)を、速度に変換する必要がある。

具体的な解説と立式
まず、衝突直前の物体Bの速さ\(v\)を求めます。(1)の結果より、衝突直前の運動エネルギーは \(E’ = E – \mu’mgl\) なので、
$$\frac{1}{2}mv^2 = E – \mu’mgl$$
次に、衝突の前後で運動量保存則を立てます。衝突前の物体Aの速度は0、物体Bの速度は\(v\)です。衝突後、一体となった物体ABの速度を\(V\)とします。
運動量保存則より、
$$m \cdot v + m \cdot 0 = (m+m)V$$
この2つの式から、衝突直後の物体ABの運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}(2m)V^2 = mV^2\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 運動量保存則
計算過程

まず、運動量保存則の式 \(mv = 2mV\) を \(V\) について解きます。
$$V = \frac{v}{2}$$
次に、衝突直後の物体ABの運動エネルギー \(E_{\text{後}}\) を計算します。
$$E_{\text{後}} = \frac{1}{2}(2m)V^2 = mV^2$$
この式に \(V = \displaystyle\frac{v}{2}\) を代入します。
$$E_{\text{後}} = m\left(\frac{v}{2}\right)^2 = \frac{1}{4}mv^2$$
ここで、衝突直前のBの運動エネルギーが \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 = E – \mu’mgl\) であったことを利用します。
$$E_{\text{後}} = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2}mv^2 \right) = \frac{1}{2}(E – \mu’mgl)$$

計算方法の平易な説明

まず、衝突直前のBの速さをエネルギーの式から計算しておきます。次に、衝突のルールである「運動量保存則」を使って、合体後の速さを求めます。最後に、その合体後の速さを使って、合体した物体の運動エネルギーを計算します。

結論と吟味

衝突直後の物体ABの運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}(E – \mu’mgl)\) です。一体となる衝突(完全非弾性衝突)では、運動エネルギーは保存されず、必ず減少します。この結果も、衝突前のエネルギー \(E – \mu’mgl\) の半分になっており、エネルギーが失われたことを示しています。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{1}{2}(E – \mu’mgl)\)

[B] (3)

思考の道筋とポイント
衝突後、一体となった物体ABはばねを押し縮め、再び原点Oに戻り、摩擦区間に入って位置\(x\)で停止します。この一連の運動全体で、仕事とエネルギーの関係を考えます。

  • はじめの状態: 衝突直後。運動エネルギーは(2)で求めた値。ばねは自然長。
  • 後の状態: 位置\(x\)で停止。速度は0。ばねは\(x\)だけ縮んでいる。
  • 非保存力がした仕事: 摩擦区間(長さ\(x\))を運動する間に動摩擦力がした仕事。

この設問における重要なポイント

  • 衝突直後から停止するまでのエネルギー収支を考える。
  • 一体となった物体ABの質量は\(2m\)であるため、動摩擦力の大きさも変わる。
  • ばねの弾性エネルギーと摩擦によるエネルギー損失の両方を考慮する。

具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係を考えます。

  • はじめの力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\):
    衝突直後の運動エネルギーであり、(2)の結果から \(E_{\text{始}} = \displaystyle\frac{1}{2}(E – \mu’mgl)\)。ばねは自然長なので弾性エネルギーは0。
  • 後の力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\):
    位置\(x\)で停止したので速度は0。ばねは\(x\)だけ縮んでいるので、弾性エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。
    よって \(E_{\text{終}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。
  • 動摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
    一体となった物体AB(質量\(2m\))にはたらく動摩擦力の大きさは \(f” = \mu'(2m)g = 2\mu’mg\)。
    摩擦区間を距離\(x\)だけ運動したので、仕事は \(W_{\text{摩擦}} = -f” \cdot x = -2\mu’mgx\)。

関係式「(後のエネルギー) – (はじめのエネルギー) = (仕事)」より、
$$\frac{1}{2}kx^2 – \frac{1}{2}(E – \mu’mgl) = -2\mu’mgx$$

使用した物理公式

  • 仕事と力学的エネルギーの関係
  • 弾性エネルギー
  • 動摩擦力
計算過程

立式したエネルギーの式を整理し、\(x\)に関する2次方程式を導きます。
$$\frac{1}{2}kx^2 + 2\mu’mgx – \frac{1}{2}(E – \mu’mgl) = 0$$
ここで、問題で与えられた特別な条件 \(kl = 3\mu’mg\) を使って \(\mu’mg\) を消去します。\(\mu’mg = \displaystyle\frac{kl}{3}\)。
$$\frac{1}{2}kx^2 + 2\left(\frac{kl}{3}\right)x – \frac{1}{2}\left(E – \left(\frac{kl}{3}\right)l\right) = 0$$
$$\frac{1}{2}kx^2 + \frac{2kl}{3}x – \frac{E}{2} + \frac{kl^2}{6} = 0$$
両辺に \(\displaystyle\frac{6}{k}\) を掛けて整理します。
$$3x^2 + 4lx – \frac{3E}{k} + l^2 = 0$$
$$3x^2 + 4lx + (l^2 – \frac{3E}{k}) = 0$$
この2次方程式を解の公式で解きます。
$$x = \frac{-4l \pm \sqrt{(4l)^2 – 4 \cdot 3 \cdot (l^2 – \frac{3E}{k})}}{2 \cdot 3}$$
$$x = \frac{-4l \pm \sqrt{16l^2 – 12l^2 + \frac{36E}{k}}}{6} = \frac{-4l \pm \sqrt{4l^2 + \frac{36E}{k}}}{6}$$
$$x = \frac{-4l \pm 2\sqrt{l^2 + \frac{9E}{k}}}{6} = \frac{-2l \pm \sqrt{l^2 + \frac{9E}{k}}}{3}$$
\(x\)は位置を表すので \(x>0\) です。したがって、分子の符号は正でなければなりません。
$$x = \frac{-2l + \sqrt{l^2 + \frac{9E}{k}}}{3}$$

計算方法の平易な説明

合体した物体が持っていた運動エネルギーが、ばねを縮めるためのエネルギー(弾性エネルギー)と、摩擦で失われるエネルギーに変わった、というエネルギー収支の式を立てます。この式は、停止位置\(x\)についての2次方程式になります。あとは、問題で与えられた特別な条件を使って式を整理し、解の公式を使って\(x\)を求めます。

結論と吟味

停止位置は \(x = \displaystyle\frac{-2l + \sqrt{l^2 + \frac{9E}{k}}}{3}\) となります。初期エネルギー\(E\)が大きいほど、停止位置\(x\)も大きくなる(よりばねを縮める)関係になっており、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{-2l + \sqrt{l^2 + \frac{9E}{k}}}{3}\)

[B] (4)

思考の道筋とポイント
物体が位置\(x\)で停止した後、再び動き出すかどうかを判断します。そのためには、その位置で物体にはたらく「ばねの弾性力」と「最大静止摩擦力」の大きさを比較します。

  • ばねの弾性力 > 最大静止摩擦力 \(\rightarrow\) 再び動き出す。
  • ばねの弾性力 \(\le\) 最大静止摩擦力 \(\rightarrow\) 静止したまま。

この設問における重要なポイント

  • 静止し続ける条件を、力の大きさの比較で判断する。
  • ばねの弾性力は \(kx\)、最大静止摩擦力は \(\mu N = \mu(2m)g\) である。
  • 問題で与えられた特別な条件 (\(\mu=2\mu’\), \(kl=3\mu’mg\)) を活用する。

具体的な解説と立式
位置\(x\)で停止している物体ABにはたらく力は、

  • ばねの弾性力(左向き): \(kx\)
  • 最大静止摩擦力(右向きに動き出すのを妨げる): \(f_0 = \mu N = \mu(2m)g = 2\mu mg\)

ここで、特別な条件 \(\mu=2\mu’\) と \(kl=3\mu’mg\) を使って、両者を比較します。
まず、最大静止摩擦力 \(f_0\) を \(k, l\) で表します。
\(\mu’mg = \displaystyle\frac{kl}{3}\) なので、\(\mu mg = 2\mu’mg = \displaystyle\frac{2kl}{3}\)。
よって、
$$f_0 = 2\mu mg = 2 \left( \frac{2kl}{3} \right) = \frac{4}{3}kl$$
一方、ばねの弾性力は \(kx\) です。
物体が停止しているのは摩擦区間内なので \(0 \le x \le l\) です。したがって、ばねの弾性力 \(kx\) の最大値は \(kl\) です。
$$kx \le kl$$
この2つの力を比較します。

使用した物理公式

  • フックの法則
  • 最大静止摩擦力
計算過程

ばねの弾性力 \(kx\) と最大静止摩擦力 \(f_0\) を比較します。
$$kx \le kl$$
$$f_0 = \frac{4}{3}kl$$
明らかに、\(kl < \displaystyle\frac{4}{3}kl\) なので、
$$kx < f_0$$
が常に成り立ちます。

計算方法の平易な説明

止まった物体を再び動かそうとするのは「ばねが元に戻ろうとする力」です。これを邪魔するのが「最大静止摩擦力」です。この2つの力を比べて、「ばねの力」が「摩擦の限界」を超えられないことを示せば、物体は止まったままであると結論できます。問題で与えられた特別な条件を使うと、この大小比較ができます。

結論と吟味

ばねの弾性力 \(kx\) が、いかなる場合も最大静止摩擦力 \(f_0\) よりも小さいため、物体ABは位置\(x\)で静止したままである。

解答 (4) ばねの弾性力が最大静止摩擦力より小さいため、静止したままである。

[C] (5)

思考の道筋とポイント
このケースでは、物体ABは一度点P(\(x=l\))を通り過ぎて摩擦のない領域まで運動し、その後向きを変えて再び点Pから摩擦区間に入り、位置\(x\)で停止します。
この運動全体でのエネルギー収支を考えます。

  • はじめの状態: 衝突直後。運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}(E – \mu’mgl)\)。
  • 後の状態: 位置\(x\)で停止。運動エネルギーは0。弾性エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。
  • 非保存力がした仕事: 摩擦区間を「往復」した分の仕事。
    • 行き(O \(\rightarrow\) P): 距離 \(l\)
    • 帰り(P \(\rightarrow\) \(x\)): 距離 \(l-x\)
    • 合計移動距離: \(l + (l-x) = 2l-x\)

この設問における重要なポイント

  • 摩擦区間を運動した合計の距離を正しく計算する。
  • エネルギー収支の式を立て、\(x\)についての2次方程式を解く。

具体的な解説と立式
仕事と力学的エネルギーの関係を考えます。

  • はじめの力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\): \(\displaystyle\frac{1}{2}(E – \mu’mgl)\)
  • 後の力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\): \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
  • 動摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):
    動摩擦力の大きさは \(f” = 2\mu’mg\)。
    摩擦区間を運動した合計距離は \(2l-x\)。
    仕事は \(W_{\text{摩擦}} = -f”(2l-x) = -2\mu’mg(2l-x)\)。

関係式「(後のエネルギー) – (はじめのエネルギー) = (仕事)」より、
$$\frac{1}{2}kx^2 – \frac{1}{2}(E – \mu’mgl) = -2\mu’mg(2l-x)$$

使用した物理公式

  • 仕事と力学的エネルギーの関係
計算過程

立式したエネルギーの式を整理し、\(x\)について解きます。
特別な条件 \(kl = 3\mu’mg\)、すなわち \(\mu’mg = \displaystyle\frac{kl}{3}\) を代入します。
$$\frac{1}{2}kx^2 – \frac{1}{2}\left(E – \frac{kl^2}{3}\right) = -2\left(\frac{kl}{3}\right)(2l-x)$$
両辺に2を掛けて分母を払います。
$$kx^2 – \left(E – \frac{kl^2}{3}\right) = -\frac{4kl}{3}(2l-x)$$
$$kx^2 – E + \frac{kl^2}{3} = -\frac{8kl^2}{3} + \frac{4klx}{3}$$
両辺に3を掛けてさらに整理します。
$$3kx^2 – 3E + kl^2 = -8kl^2 + 4klx$$
全ての項を左辺に集めて、\(x\)についての2次方程式の形にします。
$$3kx^2 – 4klx + (9kl^2 – 3E) = 0$$
解の公式(\(ax^2+2b’x+c=0\) の解は \(x=\frac{-b’ \pm \sqrt{b’^2-ac}}{a}\))を用いて解きます。
この場合、\(a=3k\), \(b’=-2kl\), \(c=9kl^2-3E\) です。
$$x = \frac{-(-2kl) \pm \sqrt{(-2kl)^2 – 3k(9kl^2 – 3E)}}{3k}$$
$$x = \frac{2kl \pm \sqrt{4k^2l^2 – 27k^2l^2 + 9kE}}{3k}$$
$$x = \frac{2kl \pm \sqrt{9kE – 23k^2l^2}}{3k}$$
$$x = \frac{2l}{3} \pm \frac{\sqrt{9kE – 23k^2l^2}}{3k} = \frac{2l}{3} \pm \sqrt{\frac{9kE – 23k^2l^2}{9k^2}}$$
$$x = \frac{2l}{3} \pm \sqrt{\frac{E}{k} – \frac{23}{9}l^2}$$
物理的な状況を考えます。初めに与えるエネルギー\(E\)が大きいほど、物体ABはより遠くまで運動し、ばねをより大きく圧縮してから戻ってくるため、最終的な停止位置\(x\)は小さくなるはずです。したがって、\(E\)が増加すると\(x\)が減少する関係となる、複号が「-」の解が適切です。
$$x = \frac{2l}{3} – \sqrt{\frac{E}{k} – \frac{23}{9}l^2}$$

計算方法の平易な説明

合体した物体が持っていた運動エネルギーが、ばねを縮めるためのエネルギーと、摩擦区間を「往復」することで失われるエネルギーに変わった、というエネルギー収支の式を立てます。往復分の移動距離を正しく計算することがポイントです。あとは(3)と同様に、2次方程式を解いて\(x\)を求めます。

結論と吟味

停止位置は \(x = \displaystyle\frac{2l}{3} – \sqrt{\frac{E}{k} – \frac{23}{9}l^2}\) となります。初期エネルギー\(E\)が大きいほど、根号の中が大きくなり、結果として\(x\)は小さくなるという物理的に妥当な関係になっています。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{2l}{3} – \sqrt{\frac{E}{k} – \frac{23}{9}l^2}\)

[D] (6)

思考の道筋とポイント
これまでの結果を場合分けして、\(x-E\)グラフを作成します。

  1. 衝突しない場合: \(E \le \mu’mgl\)。BはOに到達できず、摩擦区間で停止。このときAは動かないので、Aの最終位置は\(x=0\)。
  2. [B]の運動: 衝突後、Pを越えずに摩擦区間で停止。
  3. [C]の運動: 衝突後、一度Pを越えてから戻ってきて摩擦区間で停止。

これらの運動がどの\(E\)の範囲で起こるかを特定し、それぞれの区間で \(x\) と \(E\) の関係式をグラフにプロットします。

この設問における重要なポイント

  • 運動のパターンが変わる境界となるエネルギーの値を計算する。
  • 各範囲で、\(x\)が\(E\)のどのような関数になっているかを把握する。
  • それぞれの関数を滑らかにつなぎ合わせてグラフを描く。

具体的な解説と立式

  • 場合分けの境界値
    • 境界1 (衝突するかしないか):
      衝突が起こるためには、BがOに到達する必要があるので、衝突直前のエネルギー \(E’ = E – \mu’mgl > 0\) である必要があります。
      よって、\(E > \mu’mgl\)。特別な条件 \(\mu’mgl = \displaystyle\frac{kl^2}{3}\) より、\(E > \displaystyle\frac{1}{3}kl^2\)。
      したがって、\(0 \le E \le \displaystyle\frac{1}{3}kl^2\) の範囲では衝突せず、Aは動かないので最終位置は \(x=0\)。
    • 境界2 ([B]と[C]の運動の境目):
      この境目は、物体ABが衝突後にちょうど点P(\(x=l\))まで到達して折り返すときです。このときの運動エネルギーを \(E_{\text{境界}}\) とします。[B]の運動の式(3)で \(x=l\) となる\(E\)を求めます。
      $$l = \frac{-2l + \sqrt{l^2 + \frac{9E_{\text{境界}}}{k}}}{3}$$
    • 境界3 (グラフの終点 \(E_1\)):
      (5)の答えが \(x=0\) となる \(E\) を \(E_1\) とします。
      $$0 = \frac{2l}{3} – \sqrt{\frac{E_1}{k} – \frac{23}{9}l^2}$$
  • グラフの概略
    1. \(0 \le E \le \frac{1}{3}kl^2\): 衝突しないので、Aの最終位置は \(x=0\)。
    2. \(\frac{1}{3}kl^2 < E \le \frac{8}{3}kl^2\): [B]の運動。(3)の式に従う。\(E\)の増加に対し、\(x\)は \(0\) から \(l\) まで、上に凸の形で増加する。
    3. \(\frac{8}{3}kl^2 < E \le 3kl^2\): [C]の運動。(5)の式に従う。\(E\)の増加に対し、\(x\)は \(l\) から \(0\) まで、下に凸の形で減少する。
計算過程

境界2のエネルギー \(E_{\text{境界}}\) を計算します。
$$3l = -2l + \sqrt{l^2 + \frac{9E_{\text{境界}}}{k}}$$
$$5l = \sqrt{l^2 + \frac{9E_{\text{境界}}}{k}}$$
両辺を2乗します。
$$25l^2 = l^2 + \frac{9E_{\text{境界}}}{k}$$
$$\frac{9E_{\text{境界}}}{k} = 24l^2$$
$$E_{\text{境界}} = \frac{24}{9}kl^2 = \frac{8}{3}kl^2$$
境界3のエネルギー \(E_1\) を計算します。
$$\left(\frac{2l}{3}\right)^2 = \frac{E_1}{k} – \frac{23}{9}l^2$$
$$\frac{4l^2}{9} = \frac{E_1}{k} – \frac{23}{9}l^2$$
$$\frac{E_1}{k} = \frac{4l^2}{9} + \frac{23}{9}l^2 = \frac{27}{9}l^2 = 3l^2$$
$$E_1 = 3kl^2$$
これらの結果を元にグラフを描きます。

計算方法の平易な説明

これまでの(3)と(5)の結果を、エネルギー\(E\)の範囲によって使い分け、グラフにします。
まず、BがAにぶつかるための最低エネルギーを計算します。それ以下のエネルギーではAは動かないので、最終位置は\(x=0\)です。
次に、合体したABが摩擦のない領域に飛び出すためのエネルギーを計算します。このエネルギーを境にして、使う式が(3)のものから(5)のものに切り替わります。
最後に、(5)の式で最終停止位置が\(x=0\)になるエネルギーを計算し、そこをグラフの終点とします。
これらの結果をつなぎ合わせると、山のような形のグラフが出来上がります。

結論と吟味

初期エネルギー\(E\)によって運動のパターンが質的に変化し、最終的な停止位置\(x\)も複雑に変化します。特に、一度摩擦のない領域に飛び出すかどうかで、\(x\)が\(E\)に対して増加から減少に転じる点がこの問題の最も興味深い部分です。計算した境界値と各区間での関数の形を元に、模範解答の図eのようなグラフを描くことができます。

解答 (6) 模範解答の図eを参照

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事と力学的エネルギーの関係 (\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)):
    • 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則です。摩擦力がはたらく区間での運動は、必ず力学的エネルギーの損失を伴います。運動の始点と終点の状態を比較し、「力学的エネルギーの変化量」と「動摩擦力がした仕事」を等しいと置くことで、複雑な運動の途中経過を追わずに結果を導き出せます。
    • 理解のポイント: 運動のフェーズ([A]のBの運動、[B]のABの運動、[C]のABの運動)ごとに、始状態、終状態、そしてその間に摩擦力がした仕事を正確に特定することが、立式の鍵となります。
  • 運動量保存則:
    • 核心: (2)の衝突現象を扱う上で必須の法則です。衝突のような、極めて短時間にはたらく大きな力(撃力)が関わる現象では、摩擦力やばねの力のような有限の力が及ぼす力積は無視できます。そのため、衝突の直前直後で、系全体の運動量が保存されると考えます。
    • 理解のポイント: 「衝突」というキーワードを見たら、まず運動量保存則の適用を考えましょう。また、衝突によって運動エネルギーは保存されるとは限らない(特に合体する場合は保存されない)ことを理解しておくことが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 振り子の衝突: 振り子が最下点で別の物体に衝突する問題。エネルギー保存則(振り子の運動)と運動量保存則(衝突)を組み合わせて解きます。
    • 分裂・合体と摩擦: 台車の上で物体が分裂したり、別の物体が落下してきて合体したりした後、摩擦のある面を運動する問題。
    • 複数の物理現象の組み合わせ問題: この問題のように、(エネルギー) \(\rightarrow\) (衝突) \(\rightarrow\) (エネルギー) といった複数のステップを踏む問題は、難関大学で頻出です。各ステップでどの法則が適用可能かを見極める練習が重要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動をフェーズ分けする: 物体の運動が質的に変化する点(衝突、摩擦区間への出入りなど)で区切り、各フェーズに番号を振って整理します。
    2. 各フェーズで適用する法則を決める:
      • 摩擦のない運動 \(\rightarrow\) 力学的エネルギー保存則
      • 摩擦のある運動 \(\rightarrow\) 仕事とエネルギーの関係
      • 衝突・分裂・合体 \(\rightarrow\) 運動量保存則
    3. 状態量を明確にする: 各フェーズの始点と終点における物体の位置、速度、エネルギーなどを文字で定義し、それらの関係を式で結びつけていきます。
    4. 静止条件の確認: 物体が最終的に停止した、あるいは途中で停止した場合、その場所で「(動かそうとする力) \(\le\) (最大静止摩擦力)」が成り立つかを確認するプロセスは、運動の終わり方を決定する上で非常に重要です。(4)がその典型です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 摩擦区間の移動距離の計算ミス:
    • 誤解: [C]のケース(5)で、摩擦区間を往復しているにもかかわらず、移動距離を単純に\(x\)や\(l\)としてしまう。
    • 対策: 必ず物体の運動経路を図に描き、摩擦区間を「何回」「どのくらいの距離」通過したかを丁寧に数え上げること。「行き(\(l\))+帰り(\(l-x\))」のように、経路を分けて考えるのが確実です。
  • 運動エネルギーと運動量の混同:
    • 誤解: 衝突で運動エネルギーが保存されると思い込む。あるいは、エネルギーの式と運動量の式をごちゃ混ぜにしてしまう。
    • 対策: 「運動量(\(mv\))」と「運動エネルギー(\(\frac{1}{2}mv^2\))」は全く別の物理量であると強く意識する。衝突では運動量は保存されるが、エネルギーは熱や音に変わって失われることが多い(特に非弾性衝突)、と区別して覚える。
  • 適用条件の勘違い:
    • 誤解: 摩擦があるのにエネルギー保存則を使ったり、衝突中に摩擦力の影響を考えたりする。
    • 対策: 各物理法則が成り立つための「条件」を正確に理解する。エネルギー保存則は「保存力以外の力が仕事をしない」とき、運動量保存則は「外力の力積が無視できる」ときに限られます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギーのフローチャート: 「初期エネルギーE」 \(\xrightarrow{\text{摩擦で減少}}\) 「衝突前エネルギーE’」 \(\xrightarrow{\text{衝突で減少}}\) 「衝突後エネルギー」 \(\xrightarrow{\text{摩擦で減少}}\) 「最終的な弾性エネルギー」というように、エネルギーが各フェーズでどのように変化していくかを図で追うと、全体像が把握しやすくなります。
    • x-Eグラフの段階的作図: (6)のグラフは非常に複雑ですが、場合分けした各区間(I, II, III)で、まず関数の形(直線、上に凸、下に凸など)と始点・終点の値をプロットし、それらを滑らかにつなぐ、という手順で描くと考えやすいです。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 数直線の活用: 水平方向の運動なので、x軸を描き、O, P, \(x\), \(l\) などの位置関係を明確に図示することが、移動距離やばねの変位の計算ミスを防ぎます。
    • 場合分けの図: [B]の運動と[C]の運動では、物体の移動経路が質的に異なります。それぞれのケースについて、物体の動きを矢印で示した模式図を描くと、思考が整理されます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • (1), (3), (5) 仕事とエネルギーの関係:
    • 選定理由: 運動の始点と終点の状態(速度、位置)が定義されており、その間のエネルギー損失の原因(摩擦)が明確だから。運動方程式を立てて時間積分するアプローチは、この問題では非常に困難です。
    • 適用根拠: エネルギー保存則を非保存力がはたらく系に一般化した、力学における普遍的な法則だから。
  • (2) 運動量保存則:
    • 選定理由: 「衝突」という、内力が外力に比べて極めて大きくなる短時間の現象を扱うため。
    • 適用根拠: 衝突の前後で、系に働く外力(この場合は摩擦力やばねの力)の力積は、内力(衝突時に及ぼしあう力)の力積に比べて無視できるほど小さいと近似できるため。
  • (4) 力のつり合い(静止条件):
    • 選定理由: 物体が「停止した後、動き出すか否か」を判断するため。
    • 適用根拠: 物体が静止し続けるためには、物体を動かそうとする力の最大値が、静止摩擦力の最大値(最大静止摩擦力)を超えない、という物理条件を満たす必要があるから。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [A] 衝突プロセス:
    • (1) Bの運動: \(E’ – E = -\mu’mgl\) \(\rightarrow\) \(E’\)を求める。
    • (2) ABの衝突: \(E’\)から衝突前の速さ\(v\)を求める \(\rightarrow\) 運動量保存則 \(mv = 2mV\) で衝突後の速さ\(V\)を求める \(\rightarrow\) 衝突後のエネルギー \(\frac{1}{2}(2m)V^2\) を計算する。
  2. [B] 衝突後、Pを越えない運動:
    • (3) エネルギー収支: (衝突後エネルギー)と(最終弾性エネルギー+摩擦の仕事)で等式を立てる。\(\frac{1}{2}(E-\mu’mgl) = \frac{1}{2}kx^2 + 2\mu’mgx\)。これを\(x\)について解く。
    • (4) 静止条件: 停止位置\(x\)でのばねの力\(kx\)と最大静止摩擦力\(2\mu mg\)を比較する。
  3. [C] 衝突後、Pを越える運動:
    • (5) エネルギー収支: 摩擦区間の移動距離が \(l+(l-x)\) になることに注意して、(3)と同様にエネルギー収支の式を立て、\(x\)について解く。
  4. [D] グラフ作成:
    • (6) 場合分け: 衝突が起こるか(\(E > \mu’mgl\))、Pを越えるか(\(E > E_{\text{境界}}\))、\(x=0\)になるか(\(E=E_1\))の境界となる\(E\)の値を計算する。
    • 各\(E\)の範囲で、(3)や(5)で求めた\(x(E)\)の関数をプロットする。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 与えられた条件の活用:
    • 特に注意すべき点: この問題では \(\mu=2\mu’\) と \(kl=3\mu’mg\) という特別な条件が与えられています。計算の途中でこれらの条件を適切なタイミングで代入することで、式が大幅に簡単になります。特に、\(\mu’mg\) を \(k, l\) で表す(\(\mu’mg = kl/3\))と、見通しが良くなることが多いです。
    • 日頃の練習: 複雑な問題でも、まずはすべての量を文字のまま計算を進め、最後に必要な値を代入する練習をする。これにより、どの物理量が結果にどう影響するかの見通しが良くなります。
  • 2次方程式の解の吟味:
    • 特に注意すべき点: 解の公式を使うと、解が2つ出てくることがあります。\(x>0\) のような物理的な条件や、(5)のように「\(E\)が増えると\(x\)が減るはず」といった状況判断から、どちらの解が適切かを選択(吟味)する必要があります。
  • 一貫した文字使用: 計算過程で、\(E, E’, V, v\) などの定義が混乱しないよう、自分で意味をメモしながら進めることが有効です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3)と(5)の比較: 同じ初期エネルギー\(E\)(ただしPを越えるほど大きい場合)に対して、(3)の式と(5)の式で\(x\)を計算すると、(5)の方が小さい値になるはずです。これは、(5)の方が摩擦区間を長く走るため、より多くのエネルギーを失い、ばねをあまり縮められないまま停止することに対応します。
    • (6) グラフの連続性: 場合分けの境界点(例:\(E=E_{\text{境界}}\))で、それぞれの数式から計算される\(x\)の値が一致し、グラフが滑らかにつながるはずです。これを検算することで、場合分けや計算の正しさを確認できます。
  • 極端な場合を考える:
    • もし摩擦が全くなかったら (\(\mu’ = 0\)):
      • (1) \(E’=E\)。エネルギーは減らない。
      • (2) 衝突後のエネルギーは \(\frac{1}{2}E\)。
      • (3) 摩擦がないので、ABは単振動を続け、特定の点\(x\)で止まることはない(設問の前提が崩れる)。

    このように、単純化した状況を考えることで、各ステップの式の意味をより深く理解できます。

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