問題21 (福岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、滑車を介して糸で繋がれた2つの物体A, Bと、それらが乗っている台Cからなる、3体問題です。状況に応じて、静止している場合、一部が運動する場合、全体が運動する場合を考えます。それぞれの物体にはたらく力を正確に把握し、運動の法則を適用することが求められます。
- 物体A: 質量 \(m_A\)。台Cの上にある。
- 物体B: 質量 \(m_B\)。糸でAと繋がり、鉛直に吊るされている。
- 物体C: 質量 \(M\)。なめらかな水平な床の上にある。
- 相互作用: AとC、BとCの間に摩擦はない。糸は軽く伸びない。滑車はなめらか。
- 重力加速度: \(g\)
- [A] 全てを静止させる場合
- (1) Aを押す力の大きさ。
- (2) Cを押す力の大きさ。
- [B] Cを静止させ、AとBが運動する場合
- (3) Aの運動方程式。
- (4) Bの運動方程式。
- (5) 加速度 \(a\) の大きさ。
- (6) 張力 \(T\) の大きさ。
- (7) Cを押す力の大きさ。
- (8) Cが床から受ける垂直抗力の大きさ。
- [C] 全てが同じ加速度で運動する場合
- (9) 加速度の大きさ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「連結された物体の運動」です。複数の物体が相互に力を及ぼしあいながら運動する系を扱います。
- 運動方程式: 各物体について、はたらく力をすべて特定し、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
- 力のつりあい: 静止している物体については、力のつりあいの式 \(\sum F = 0\) を立てます。
- 束縛条件: 糸で繋がれている物体AとBは、同じ大きさの加速度で運動し、糸の張力も同じ大きさになります。
- 作用・反作用の法則: 物体同士が及ぼしあう力(垂直抗力や張力)は、作用・反作用の関係にあります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、各物体が静止しているので、それぞれの物体について「力のつりあい」の式を立てます。
- [B]では、AとBは運動し、Cは静止しています。AとBについては「運動方程式」を、Cについては「力のつりあい」の式を立てます。
- [C]では、A, B, Cが同じ加速度で運動するという条件から、Bの運動状態を考察し、Aの運動方程式を立て直します。
問(1), (2)
思考の道筋とポイント
[A]では、A, B, Cのすべてが静止しています。したがって、それぞれの物体にはたらく力はつりあっています。A, B, Cの順に、力のつりあいの式を立てていきます。
この設問における重要なポイント
- 各物体にはたらく力を漏れなく図示する。
- 静止しているので、すべての物体について力のつりあいを考える。
具体的な解説と立式
- 物体B: 鉛直方向の力のつりあいを考えます。
- 糸の張力 \(T\)(上向き)と重力 \(m_B g\)(下向き)がつりあっているので、
$$T = m_B g \quad \cdots ①$$
- 糸の張力 \(T\)(上向き)と重力 \(m_B g\)(下向き)がつりあっているので、
- 物体A: 水平方向の力のつりあいを考えます。
- 手で押す力 \(F_A\)(左向き)と糸の張力 \(T\)(右向き)がつりあっているので、
$$F_A = T \quad \cdots ②$$
- 手で押す力 \(F_A\)(左向き)と糸の張力 \(T\)(右向き)がつりあっているので、
- 物体C: 水平方向の力のつりあいを考えます。
- 手で押す力 \(F_C\)(右向き)と、滑車を介して糸がCを引く力 \(T\)(左向き)がつりあっています。
$$F_C = T \quad \cdots ③$$
- 手で押す力 \(F_C\)(右向き)と、滑車を介して糸がCを引く力 \(T\)(左向き)がつりあっています。
使用した物理公式
- 力のつりあい
問(1) Aを押す力の大きさ
式①と②より、
$$F_A = T = m_B g$$
問(2) Cを押す力の大きさ
式①と③より、
$$F_C = T = m_B g$$
(1) 物体Aが止まっているのは、左向きに押す力と、糸が右向きに引っぱる力が釣り合っているからです。糸を引っぱる力は、ぶら下がっている物体Bの重さと同じです。
(2) 物体Cが止まっているのは、右向きに押す力と、糸が滑車を介して左向きに引っぱる力が釣り合っているからです。この力も物体Bの重さと同じです。
Aを押す力、Cを押す力はともに \(m_B g\) です。
問(3), (4)
思考の道筋とポイント
[B]では、AとBが運動を始めます。Aは水平方向、Bは鉛直方向に、同じ大きさの加速度 \(a\) で運動します。それぞれの物体について運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- AとBが同じ大きさの加速度 \(a\) で運動する(束縛条件)。
- AとBそれぞれについて運動方程式を立てる。
具体的な解説と立式
問(3) Aの運動方程式
物体A(質量 \(m_A\))には、水平右向きに糸の張力 \(T\) のみがはたらきます。水平右向きを正とすると、運動方程式は、
$$m_A a = T$$
問(4) Bの運動方程式
物体B(質量 \(m_B\))には、上向きに張力 \(T\)、下向きに重力 \(m_B g\) がはたらきます。鉛直下向きを正とすると、運動方程式は、
$$m_B a = m_B g – T$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
この設問は式を立てるだけであり、計算は不要です。
(3) 物体Aは、糸に引っ張られて右向きに加速します。運動方程式は「質量 \(\times\) 加速度 = 力」なので、\(m_A a = T\) となります。
(4) 物体Bは、重力で下に引っ張られながら、糸に上に引かれて落下します。下向きを正とすると、運動方程式は「質量 \(\times\) 加速度 = 下向きの力 – 上向きの力」なので、\(m_B a = m_B g – T\) となります。
Aの運動方程式は \(m_A a = T\)、Bの運動方程式は \(m_B a = m_B g – T\) です。
問(5), (6)
思考の道筋とポイント
(3)と(4)で立てた2つの運動方程式を連立させて、未知数である加速度 \(a\) と張力 \(T\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 2つの運動方程式を連立させて解く。
具体的な解説と立式
(3), (4)で立てた連立方程式は以下の通りです。
$$m_A a = T \quad \cdots ④$$
$$m_B a = m_B g – T \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 連立方程式の解法
問(5) 加速度 \(a\) の大きさ
式④と⑤を辺々足し合わせると、張力 \(T\) が消去できます。
$$m_A a + m_B a = (T) + (m_B g – T)$$
$$(m_A + m_B)a = m_B g$$
$$a = \frac{m_B}{m_A + m_B}g$$
問(6) 張力 \(T\) の大きさ
上で求めた \(a\) の値を式④に代入します。
$$T = m_A a = m_A \left( \frac{m_B}{m_A + m_B}g \right) = \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g$$
(3)と(4)で作った2つの方程式をうまく組み合わせる(足し算する)と、張力\(T\)が消えて、加速度\(a\)を求めることができます。加速度がわかれば、それをどちらかの方程式に代入して、張力\(T\)も計算できます。
加速度 \(a\) は \(\frac{m_B}{m_A + m_B}g\)、張力 \(T\) は \(\frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g\) です。これは滑車で繋がれた物体の運動でよく見られる結果です。
問(7), (8)
思考の道筋とポイント
AとBが運動している間も、Cは手で押されて静止しています。したがって、Cについては力のつりあいを考えます。Cにはたらく力をすべてリストアップし、水平方向と鉛直方向のつりあいの式を立てます。
この設問における重要なポイント
- Cは静止しているので、力のつりあいを考える。
- AがCを押す力(垂直抗力)や、糸が滑車を介してCを引く力を考慮する。
具体的な解説と立式
物体Cにはたらく力を考えます。
- 水平方向:
- 手で押す力 \(F_C\)(右向き)
- 糸が滑車を介してCを引く力 \(T\)(左向き)
これらの力がつりあっているので、
$$F_C = T$$ - 鉛直方向:
- 床からの垂直抗力 \(N_C\)(上向き)
- C自身の重力 \(Mg\)(下向き)
- AがCを押す力(Aにはたらく垂直抗力の反作用) \(N_A\)(下向き)
- 滑車が糸から受ける力 \(T\)(下向き)
これらの力がつりあっているので、
$$N_C = Mg + N_A + T$$
ここで、Aの鉛直方向の力のつりあいから \(N_A = m_A g\) です。
使用した物理公式
- 力のつりあい
問(7) Cを押す力の大きさ
(6)で求めた \(T\) の値を代入します。
$$F_C = T = \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g$$
問(8) 床からの垂直抗力
つりあいの式に \(N_A=m_A g\) と(6)の\(T\)を代入します。
$$N_C = Mg + m_A g + \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g$$
$$N_C = \left( M + m_A + \frac{m_A m_B}{m_A + m_B} \right)g$$
$$N_C = \left( M + \frac{m_A(m_A+m_B) + m_A m_B}{m_A+m_B} \right)g = \left( M + \frac{m_A^2 + 2m_A m_B}{m_A+m_B} \right)g$$
Cを押す力は \( \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g\)、床からの垂直抗力は \(\left( M + m_A + \frac{m_A m_B}{m_A + m_B} \right)g\) となります。
問(9)
思考の道筋とポイント
[C]では、「A, B, Cは同じ加速度で等加速度運動をする」とあります。これは、AとCの水平方向の加速度が等しいことを意味します。AがCに対して滑らない(相対加速度が0)ため、AとBの間の糸で繋がれた運動は、Bが等速で落下する(または静止する)運動になります。
この設問における重要なポイント
- AとCの加速度が等しい \(\rightarrow\) Bは等速直線運動をする。
- 等速直線運動をしている物体にはたらく力はつりあっている。
具体的な解説と立式
Bが鉛直方向に等速直線運動をするので、Bにはたらく力はつりあっています。
$$T = m_B g$$
Aは水平方向に加速度 \(a’\) で運動しているので、Aの運動方程式は、
$$m_A a’ = T$$
使用した物理公式
- 運動方程式
- 力のつりあい
2つの式から、
$$m_A a’ = m_B g$$
$$a’ = \frac{m_B}{m_A}g$$
A, B, Cが「同じ加速度で」動く、という日本語の解釈が難しいですが、ここでは「AとCが一体となって動き、その結果Bは一定の速さで落ちる」という状況を考えます。Bの速さが一定なので、Bにかかる力は釣り合っています(張力 = Bの重さ)。Aは、その張力に引かれて加速するので、運動方程式を立てて加速度を求めます。
加速度の大きさは \(\frac{m_B}{m_A}g\) です。これは、[B]の状況とは異なる解釈から導かれた結果です。問題文の意図を正確に読み取ることが重要となります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の適用と系の設定:
- 核心: この問題は、複数の物体が相互に力を及ぼしあいながら運動する「連結物体の運動」を扱います。核心となるのは、考察したい物体(または物体群)を一つの「系」として設定し、その系に対してニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を正しく適用することです。
- 理解のポイント:
- 個別の物体に着目: 基本は、各物体(A, B, C)を個別に分離し、それぞれにはたらく力をすべて図示して、個別に運動方程式(または力のつりあいの式)を立てることです。
- 一体の系として着目: AとBのように、糸で繋がれ一体となって運動する部分は、合わせて一つの系と見なすことができます。この場合、系全体の質量と、系全体にはたらく「外力」の合力で運動方程式を立てると、内力である張力\(T\)を計算せずに加速度を求めることができ、効率的です。
- 束縛条件: 「糸が伸び縮みしない」という条件から、繋がっている物体AとBの加速度の大きさは等しくなります。この「束縛条件」が、各物体の運動方程式を連立させて解くための鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 動滑車を含む問題: 動滑車が加わると、糸で繋がれた物体同士の加速度が1:2の関係になるなど、束縛条件がより複雑になります。しかし、各物体について運動方程式を立て、束縛条件の式と連立させるという基本アプローチは同じです。
- 斜面上の連結物体: 一方の物体が斜面上を運動する問題。力を斜面方向と垂直方向に分解する必要があるだけで、運動方程式と束縛条件で解く流れは変わりません。
- 摩擦力がはたらく連結物体: 接触面に摩擦力がはたらく場合。運動方程式に摩擦力の項が加わります。静止しているか、動いているかで摩擦力の扱いが変わる点に注意が必要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の状態を把握する: まず、各物体が「静止」しているのか、「等速直線運動」しているのか、「等加速度運動」しているのかを問題文から正確に読み取ります。これにより、立てるべき式が「力のつりあい」なのか「運動方程式」なのかが決まります。
- 加速度の向きと関係性を仮定する: どの物体がどちらの向きに、どのような加速度で動くかを仮定します(本問ではAが右、Bが下)。糸で繋がれている場合、加速度の大きさは等しいと設定します。
- 作用・反作用のペアを意識する: CがAから受ける垂直抗力、CがBから受ける接触力(本問では無視)、Cが滑車を介して糸から受ける力など、物体間で及ぼしあう力は作用・反作用の関係にあります。特に、台を含む複数物体系では、これらの力を正確に考慮することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動方程式の力の数え間違い:
- 誤解: ある物体にはたらく力を描き忘れたり(例:台Cにはたらく滑車からの張力)、逆に関係ない力を描き込んだりする。
- 対策: フリーボディダイアグラム(各物体にはたらく力を図示する)を必ず描く習慣をつける。その物体に「接触しているもの」と「遠隔ではたらく力(重力)」をリストアップすることで、力の描き漏れを防ぎます。
- 内力と外力の混同:
- 誤解: AとBを一体の系として考える際に、内力である張力\(T\)を式の右辺に含めてしまう。
- 対策: 「系」の運動方程式を立てるとき、右辺の\(F\)は「外力」の合力であることを徹底する。AとBを一体とみなした場合、外力はAの重力(垂直抗力と相殺)、Bの重力、AとCの垂直抗力などになります。水平方向の運動に寄与する外力はBの重力\(m_B g\)のみです。
- 問題文の条件の解釈ミス:
- 誤解: [C]の「A, B, Cは同じ加速度で等加速度運動をする」という記述を、A, B, Cが完全に一体化して動くと解釈してしまう。
- 対策: 物理的にあり得る状況を考える。AとCは水平に、Bは鉛直にしか動けないため、3つの物体の「加速度ベクトル」が同じになることはありえません。この場合、「AとCの水平方向の加速度が等しい」と解釈するのが妥当です。さらに模範解答では、これを「AのCに対する相対加速度が0」と解釈し、「Bは等速運動する」という結論を導いています。このように、一見矛盾しているように見える記述の背後にある物理的な意味を深く考察する能力が求められます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- フリーボディダイアグラムの分離: 物体A, B, Cをそれぞれ完全に分離した図を描き、各々にはたらく力を矢印で記入する。特に、Cにはたらく力は多岐にわたる(自重、床からの垂直抗力、Aからの垂直抗力、Bとの接触力、滑車を介した張力)ため、丁寧に図示することが重要です。
- 加速度の矢印: 各物体に、仮定した加速度の向きを示す矢印(例:\(a\rightarrow\))を書き加える。これにより、運動方程式を立てる際の正負の判断がしやすくなります。
- 力の伝達の可視化: Bの重力 \(m_B g\) が、糸の張力 \(T\) を生み出し、その張力\(T\)がAを水平に動かす力となり、同時に滑車を介してCを水平に引く力にもなる、という力の伝達の流れを意識する。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 滑車の役割: 滑車は力の「向きを変える」装置です。滑車が台Cに固定されているため、糸の張力はCにも力を及ぼすことを見落とさないように注意が必要です。
- 作用・反作用のペア: AがCを押す力とCがAを押す力、糸がAを引く力とAが糸を引く力など、作用・反作用のペアを意識すると、力の全体像が把握しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式 (\(\sum F = 0\)):
- 選定理由: [A]の静止状態、および[B]で静止している物体Cの力の関係を記述するため。
- 適用根拠: 加速度がゼロであるという物理的状況。
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: [B]で運動している物体A, B、および[C]で運動している物体Aの状態を記述するため。
- 適用根拠: 物体に合力がはたらき、ゼロでない加速度が生じている物理的状況。
- 連立方程式:
- 選定理由: 未知数(加速度\(a\)、張力\(T\)など)が複数あり、一つの式だけでは解けないため。
- 適用根拠: 各物体についての運動方程式や束縛条件は、すべて同時に成り立つ必要があるため、それらを連立させて解くことで、すべての未知数を決定できます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [A] 全て静止:
- Step 1: Bの力のつりあいから \(T=m_B g\)。
- Step 2: Aの水平方向の力のつりあいから \(F_A = T\)。よって \(F_A = m_B g\)。
- Step 3: Cの水平方向の力のつりあいから \(F_C = T\)。よって \(F_C = m_B g\)。
- [B] A,Bが運動、Cは静止:
- Step 1: AとBの運動方程式を立てる。\(m_A a = T\) と \(m_B a = m_B g – T\)。
- Step 2: 2式を連立させて \(a\) と \(T\) を求める。(辺々足して\(a\)を求め、代入して\(T\)を求める)
- Step 3: Cの水平方向の力のつりあいの式 \(F_C = T\) から、Cを押す力を求める。
- Step 4: Cの鉛直方向の力のつりあいの式 \(N_C = Mg + N_A (+ T)\) から、床からの垂直抗力を求める。(\(N_A=m_A g\))
- [C] 全てが同じ加速度:
- Step 1: 問題文の意図を解釈する。「AとCの水平加速度が等しい」\(\rightarrow\)「Bは鉛直方向に等速運動する」。
- Step 2: Bが等速運動なので、Bの力のつりあいの式 \(T=m_B g\) が成り立つ。
- Step 3: Aは水平方向に加速度\(a’\)で運動するので、運動方程式 \(m_A a’ = T\) を立てる。
- Step 4: 2式を組み合わせて、加速度 \(a’\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の添え字の確認:
- 特に注意すべき点: \(m_A\) と \(m_B\) を混同しないように注意する。特に、連立方程式を解く際や、最終的な答えを記述する際に間違いやすい。
- 日頃の練習: 式を立てる際に、どの物体の質量なのかを意識しながら書く。計算結果が出たら、例えば「加速度はBの質量に比例し、全体の質量に反比例する」といった物理的な意味を確認し、文字が入れ替わっていないかチェックする。
- 連立方程式の加減法:
- 特に注意すべき点: [B]で運動方程式を連立させる際、2式を足し合わせると内力である張力\(T\)がうまく消去できる。このテクニックは連結物体の問題で頻繁に用いられる。
- 日頃の練習: 様々な連結物体の問題を解き、加減法で内力を消去する計算パターンに慣れておく。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (5) 加速度a: \(a = \frac{m_B}{m_A + m_B}g\)。この式は、\(a<g\) であることを示している。これは、物体BがAを引っ張りながら落下するため、自由落下よりは加速度が小さくなるという直感と一致する。
- (6) 張力T: \(T = \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g\)。この式は、\(T < m_B g\) であることを示している(\(m_A/(m_A+m_B) < 1\) なので)。Bは下に加速しているので、重力\(m_B g\)が張力\(T\)より大きい必要があり、結果は妥当。また、\(T>0\)でもあり、糸がたるんでいないことも示している。
- 極端な場合を考える:
- もし\(m_A=0\)なら: 加速度は \(a = \frac{m_B}{m_B}g = g\)、張力は \(T=0\)。これは、Bが単に自由落下し、A(質量0)は力を受けずに静止したまま(張力0なので)という状況に対応し、正しい。
- もし\(m_B=0\)なら: 加速度は \(a=0\)、張力は \(T=0\)。力がかからないので何も運動しない。これも正しい。
- これらの極端なケースで結果が直感と一致することを確認することで、式の信頼性を高めることができる。
問題22 (九州工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、滑車を組み合わせた複雑な系における物体の運動を扱います。動滑車Pの存在により、物体AとBの運動が単純な連結運動ではない点がポイントです。状況に応じて、静止した観測者から見るか、運動する観測者(滑車P)から見るか、視点を使い分けることが重要になります。
- 物体A: 質量 \(m\)
- 物体B: 質量 \(5m\)
- 物体C: 質量未知
- 滑車P, Q: 質量無視、なめらかに回転
- 糸1, 2, 3: 軽く、伸び縮みしない
- 状況[A]: 図1の状態で、AとBは運動するが、Cは静止。
- 状況[B]: 図2の状態で、Cを取り外し、糸2を力\(F\)で引くと、滑車Pが上昇し、AとBも運動する。
- 重力加速度: \(g\)
- [A] (1) 物体Cの質量。
- [B] (2) 糸1の張力の大きさ。
- (3) AとBの高さの差が \(d\) になった瞬間の、物体Aの速さ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「動滑車を含む連結物体の運動」と「相対運動」です。
- 運動方程式: 各物体にはたらく力を特定し、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
- 力のつりあい: 静止している物体や、質量が無視できる滑車にはたらく力の関係を記述します。
- 相対加速度: 静止した観測者から見た加速度と、動く滑車から見た加速度の関係を正しく理解することが、特に[B]の状況を解く鍵となります。
- 等加速度運動の公式: 加速度が一定の運動では、時間・距離・速度の関係を表す公式が使えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、まず運動しているAとBについて運動方程式を立て、糸1の張力\(T\)を求めます。次に、静止しているCと滑車Pの力のつりあいを考え、Cの質量を求めます。
- [B]では、まず滑車Pにはたらく力の関係から、糸1の張力\(f\)を求めます。次に、AとBの運動を考えますが、床から見た加速度と滑車Pから見た加速度が異なるため、運動方程式と加速度の関係式を連立させて解く必要があります。
問(1)
思考の道筋とポイント
[A]では、物体Cと滑車Pは静止していますが、物体AとBは滑車Pを介して運動しています。
- まず、AとBの運動に着目します。これらは質量が異なるため、加速度運動をします。AとBそれぞれについて運動方程式を立て、糸1の張力\(T\)を求めます。
- 次に、滑車Pに着目します。滑車Pは静止しており、質量が無視できるので、滑車Pにはたらく力はつりあっています。このつりあいから、糸2の張力\(T’\)を求めます。
- 最後に、物体Cに着目します。Cも静止しているので、Cにはたらく力(重力と糸2の張力\(T’\))はつりあっています。この式からCの質量を求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動する部分(A, B)と静止する部分(P, C)を分けて考える。
- 質量が無視できる滑車にはたらく力は、常につりあっていると考える。
具体的な解説と立式
- 物体AとBの運動:
Aは上向き、Bは下向きに同じ大きさの加速度\(a\)で運動します。糸1の張力を\(T\)とします。
Aの運動方程式(上向き正): \(ma = T – mg \quad \cdots ①\)
Bの運動方程式(下向き正): \(5ma = 5mg – T \quad \cdots ②\) - 滑車Pの力のつりあい:
滑車Pは静止しており、質量は0です。上向きに糸2の張力\(T’\)、下向きに糸1の張力\(T\)が2本分はたらいているので、力のつりあいは、
$$T’ = 2T \quad \cdots ③$$ - 物体Cの力のつりあい:
物体C(質量を\(M_C\)とする)は静止しています。上向きに糸2の張力\(T’\)、下向きに重力\(M_C g\)がはたらいているので、
$$T’ = M_C g \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 運動方程式
- 力のつりあい
まず、式①と②を連立させて\(T\)を求めます。①+②より、
$$6ma = 4mg \quad \rightarrow \quad a = \frac{2}{3}g$$
これを①に代入して\(T\)を求めます。
$$m\left(\frac{2}{3}g\right) = T – mg \quad \rightarrow \quad T = \frac{2}{3}mg + mg = \frac{5}{3}mg$$
次に、この\(T\)を式③に代入して\(T’\)を求めます。
$$T’ = 2T = 2 \times \frac{5}{3}mg = \frac{10}{3}mg$$
最後に、この\(T’\)を式④に代入して\(M_C\)を求めます。
$$\frac{10}{3}mg = M_C g$$
$$M_C = \frac{10}{3}m$$
まず、動いているAとBの関係から、糸1の張力\(T\)を計算します。次に、滑車Pが静止しているので、上の糸2が下の糸1の2本分の力で引っ張っていることがわかります。これで糸2の張力\(T’\)がわかります。最後に、物体Cが静止しているので、Cの重さと糸2の張力\(T’\)が釣り合っていることから、Cの質量を求めます。
物体Cの質量は \(\frac{10}{3}m\) です。
問(2)
思考の道筋とポイント
[B]では、Cの代わりに力\(F\)で糸2を引きます。このとき、滑車Pは質量が0なので、滑車Pについての運動方程式(力のつりあいの式と考える)を立てることで、糸1の張力を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 質量0の滑車にはたらく力の合力は常に0である(運動していても)。
- 滑車Pには、下向きに力\(F\)、上向きに糸1の張力\(f\)が2本分はたらいている。
具体的な解説と立式
糸1の張力の大きさを\(f\)とします。
滑車Pには、下向きに大きさ\(F\)の力が加えられ、上向きに2本の糸1が接続されているので、上向きに合計\(2f\)の力がはたらきます。
滑車Pの質量は0なので、運動方程式は \(0 \times a_P = 2f – F\) となります。(ここで \(a_P\) は滑車Pの加速度)
この式が成り立つためには、力の合力が常に0でなければなりません。
$$2f – F = 0$$
使用した物理公式
- 運動方程式(質量0の場合)
つりあいの式 \(2f = F\) を \(f\) について解きます。
$$f = \frac{F}{2}$$
滑車P自体は質量がゼロなので、どんなに加速していても、滑車にかかる力の合計は常にゼロでなければなりません。滑車Pは、上の糸2本(張力\(f\)が2つ)で上に引かれ、下の糸(力\(F\))で下に引かれています。したがって、上向きの力\(2f\)と下向きの力\(F\)は等しくなります。
糸1の張力の大きさは \(\frac{F}{2}\) です。これは、加えた力\(F\)が2本の糸に均等に分配されることを意味しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
床に静止した観測者から見た物体Aの速さを求める問題です。A, B, Pがそれぞれ異なる加速度で運動するため、運動方程式を連立させて解く必要があります。
- 滑車Pから見たA, Bの相対的な運動の加速度 \(a’\) を求める。
- AとBの高さの差が \(d\) になるまでの時間 \(t\) を、相対運動の公式から求める。
- 床から見たAの加速度 \(a_A\) を求める。
- 床から見たAの速さ \(v_A\) を、\(v_A = a_A t\) で計算する。
この設問における重要なポイント
- 「床から見た運動(絶対運動)」と「滑車Pから見た運動(相対運動)」を区別して考える。
- 床から見た加速度の関係式: \(a_A = a_P + a’\), \(a_B = a_P – a’\) (鉛直上向きを正とする)。
- 各物体について、床から見た運動方程式を立て、これらの関係式と連立させて解く。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。
- 床から見たA, B, Pの加速度をそれぞれ \(a_A, a_B, a_P\)
- 滑車Pから見たAの加速度を \(a’\)(Bの加速度は \(-a’\))
- 糸1の張力を \(f = F/2\)
加速度の関係式と、床から見た運動方程式は以下の通りです。
$$a_A = a_P + a’ \quad \cdots ⑥$$
$$a_B = a_P – a’ \quad \cdots ⑦$$
$$m a_A = f – mg \quad \cdots ⑧$$
$$5m a_B = f – 5mg \quad \cdots ⑨$$
使用した物理公式
- 運動方程式
- 相対加速度の関係
- 等加速度運動の公式: \(v = at\), \(x = \frac{1}{2}at^2\)
1. 相対加速度 \(a’\) と滑車Pの加速度 \(a_P\) を求める
式⑧, ⑨に⑥, ⑦を代入します。
$$m(a_P + a’) = f – mg \quad \cdots (A)$$
$$5m(a_P – a’) = f – 5mg \quad \cdots (B)$$
この連立方程式を解きます。(B)式を5で割り、
$$m(a_P – a’) = \frac{f}{5} – mg \quad \cdots (B’)$$
(A)式から(B’)式を引くと \(a_P\) が消え、\(2ma’ = (f-mg) – (\frac{f}{5}-mg) = \frac{4f}{5}\)。
$$a’ = \frac{2f}{5m} = \frac{2(F/2)}{5m} = \frac{F}{5m}$$
(A)式と(B’)式を足すと \(a’\) が消え、\(2ma_P = (f-mg) + (\frac{f}{5}-mg) = \frac{6f}{5} – 2mg\)。
$$a_P = \frac{3f}{5m} – g = \frac{3(F/2)}{5m} – g = \frac{3F}{10m} – g$$
2. 時間 \(t\) を求める
高さの差が \(d\) になるのは、Pから見てAが \(d/2\) 上昇し、Bが \(d/2\) 下降したときです。
$$\frac{d}{2} = \frac{1}{2}a’t^2 \quad \rightarrow \quad t^2 = \frac{d}{a’} = \frac{d}{F/5m} = \frac{5md}{F}$$
$$t = \sqrt{\frac{5md}{F}}$$
3. 物体Aの速さ \(v_A\) を求める
床から見たAの加速度 \(a_A\) は、
$$a_A = a_P + a’ = \left(\frac{3F}{10m} – g\right) + \frac{F}{5m} = \frac{5F}{10m} – g = \frac{F}{2m} – g$$
床から見たAの運動は初速度0の等加速度運動なので、時間 \(t\) 後の速さ \(v_A\) は、
$$v_A = a_A t = \left(\frac{F}{2m} – g\right) \sqrt{\frac{5md}{F}}$$
物体Aの速さは \(\left(\frac{F}{2m} – g\right) \sqrt{\frac{5md}{F}}\) です。この問題は複数の物体の加速度の関係を正確に捉える必要があり、非常に難易度が高いです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式と相対加速度:
- 核心: この問題は、動滑車を含む複雑な連結物体の運動を扱います。核心となるのは、静止した床から見た「絶対運動」と、動く滑車Pから見た「相対運動」の関係を正しく理解し、それぞれの物体について運動方程式を立て、連立させて解くことです。
- 理解のポイント:
- 加速度の関係(束縛条件): 床から見た物体A, Bの加速度をそれぞれ\(a_A, a_B\)、滑車Pの加速度を\(a_P\)とすると、糸の長さが一定であることから、\(a_P = (a_A + a_B)/2\) という関係が成り立ちます(向きを考慮)。あるいは、滑車Pから見たA, Bの相対加速度の大きさが等しく、向きが逆になる、という関係を使います。これが最も重要な束縛条件です。
- 運動方程式の立式: 物体A, B, そして質量が無視できる滑車Pのそれぞれについて、力を図示し、運動方程式(または力のつりあいの式)を立てます。
- 連立方程式の求解: 上記の束縛条件の式と、各物体の運動方程式を組み合わせることで、未知の加速度や張力を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- アトウッドの器械(動滑車版): 本問そのものが、アトウッドの器械を発展させた典型的な問題設定です。
- 斜面と動滑車を組み合わせた問題: 物体の一方が斜面上にある場合。力を斜面方向と垂直方向に分解する手間が加わりますが、加速度の関係式と運動方程式を連立させるという本質的な解法は同じです。
- 複数の動滑車を含む問題: 動滑車が2つ以上になると、加速度の束縛条件がさらに複雑になりますが、糸の長さが一定であるという原理に立ち返って関係式を導出する点は共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 加速度の基準を明確にする: 「床から見た加速度」なのか、「動く滑車から見た加速度」なのかを、常に意識して区別します。記号も \(a_A\) と \(a’\) のように明確に使い分けることが重要です。
- 加速度の束縛条件を最初に立てる: 複雑な連結物体の問題では、まず糸の長さの不変性から、各物体の加速度間の関係式(束縛条件)を導出することが、解法の見通しを良くする鍵となります。
- エネルギー保存則の利用: 問(3)のように速さを問う問題では、仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則)が有効な別解となる場合があります。各物体の移動距離と速さの関係を正しく把握できれば、加速度を介さずに速さを直接求めることができます。ただし、この問題では移動距離の関係も複雑なため、運動方程式を解く方が確実かもしれません。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 加速度の関係式の誤り:
- 誤解: 動滑車があるにもかかわらず、物体AとBの加速度の大きさが等しい(\(a_A = a_B\))としてしまう。
- 対策: 床から見ると、滑車Pが動く分だけ、AとBの加速度は単純なものではなくなります。「滑車Pの加速度は、AとBの加速度の平均である(\(a_P = (a_A+a_B)/2\))」という関係、または「Pから見たAとBの相対加速度の大きさは等しい」という関係を正しく用いることが不可欠です。
- 質量0の滑車の扱い:
- 誤解: 運動している滑車Pに運動方程式を立てようとして混乱する。
- 対策: 質量が0の物体では、運動方程式は \(0 \times a = F_{合力}\) となります。加速度\(a\)が有限の値を持つためには、合力は常に0でなければなりません。つまり、質量が無視できる滑車にはたらく力は、静止していても加速していても、常につりあっていると考えることができます。
- 相対運動の速度の合成:
- 誤解: 床から見たAの速さを、滑車Pから見たAの速さと同じだと考えてしまう。
- 対策: 速さはベクトルの和で合成されます。「床から見たAの速さ」=「床から見たPの速さ」+「Pから見たAの速さ」という関係を正しく理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 加速度のベクトル図: 各物体に、床から見た加速度(\(a_A, a_B, a_P\))と、滑車Pから見た相対加速度(\(a’\))を、異なる種類の矢印で描き分ける。これにより、どの加速度について考えているのかが明確になります。
- 糸の動きを追う: 滑車Pが \(\Delta y_P\) 上昇したとき、AとBを繋ぐ糸は \(2\Delta y_P\) だけ余裕ができます。この余裕分が、Aの上昇とBの下降に使われる、と考えることで、変位や速度、加速度の関係式を直感的に導くことができます。
- フリーボディダイアグラム: 物体A, B, 滑車Pをそれぞれ分離し、はたらく力をすべて図示する。特に、滑車Pにはたらく3つの張力(糸2からと、糸1の2本分)の関係を正しく描くことが重要です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 座標軸の設定: 鉛直上向きを正とするのか、各物体の運動の向きを正とするのか、最初に明確に定義し、一貫して使用する。
- 張力の区別: 糸1の張力と糸2にはたらく力は異なるため、\(T\)と\(T’\)(あるいは\(f\)と\(F\))のように、異なる記号で区別する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: すべての物体が加速度運動をしているため、その原因である力との関係を記述する基本法則として必須です。
- 適用根拠: 各物体にはたらく合力がゼロではなく、加速度が生じている物理的状況。
- 加速度の束縛条件 (\(a_A = a_P + a’\)など):
- 選定理由: 未知数(各物体の加速度)の数が運動方程式の数より多いため、未知数を減らし、連立方程式を解くために必要となる追加の条件式です。
- 適用根拠: 「糸が伸び縮みしない」という物理的な制約から、各物体の変位、速度、加速度が独立ではなく、互いに関連付けられているという事実。
- 等加速度運動の公式 (\(v^2=2ax\), \(x=(1/2)at^2\)):
- 選定理由: 加速度が一定であることが運動方程式からわかった後、特定の距離を動いたときの速さや、かかる時間を計算するため。
- 適用根拠: 運動方程式を解くことで、各物体の加速度(絶対加速度も相対加速度も)が一定値になることが確認できるため。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [A] Cが静止する条件:
- Step 1: AとBの運動方程式を立て、連立させて糸1の張力\(T\)を求める。
- Step 2: 質量0の滑車Pの力のつりあい (\(T’=2T\)) から、糸2の張力\(T’\)を求める。
- Step 3: 静止しているCの力のつりあい (\(T’=M_C g\)) から、質量\(M_C\)を求める。
- [B] Pが上昇する運動:
- (2) 糸1の張力f: 質量0の滑車Pにはたらく力の関係 (\(F=2f\)) から、\(f=F/2\) を求める。
- (3) 物体Aの速さ:
- Step 1: 床から見た加速度 \(a_A, a_B, a_P\) と、Pから見た相対加速度 \(a’\) の関係式を立てる。
- Step 2: 床から見たA, Bの運動方程式を立てる。
- Step 3: これらの式を連立させ、\(a_A\) と \(a’\) を \(F, m\) などで表す。
- Step 4: Pから見て距離\(d/2\)を動く時間\(t\)を、\(d/2 = (1/2)a’t^2\) から求める。
- Step 5: 床から見たAの速さ\(v_A\)を、\(v_A = a_A t\) で計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の系統的な処理:
- 特に注意すべき点: 問(3)のように未知数と方程式が多い場合、やみくもに代入すると混乱します。「まず\(a’\)を求める」「次に\(a_P\)を求める」「最後に\(a_A\)を求める」のように、計算のターゲットを一つずつ定めて、系統的に処理していくことが重要です。
- 日頃の練習: 複数の文字を含む複雑な連立方程式を、計算用紙に順序立てて解く練習をする。
- 物理量の区別:
- 特に注意すべき点: 絶対加速度と相対加速度、糸1の張力と糸2にはたらく力など、似て非なる物理量を、記号や添え字を使って明確に区別する。
- 日頃の練習: 問題を解く前に、登場する物理量をリストアップし、それぞれに用いる記号を定義する癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) Cの質量: \(M_C = 10m/3 \approx 3.33m\)。AとBの運動を支えるために必要な力は \(T’=10mg/3\)。これを支えるCの質量がこの値になるのは妥当です。
- (3) Aの速さ: \(v_A\) の式は複雑ですが、\(F\)が大きくなるほど速くなる、\(d\)が大きいほど速くなる、という直感的な傾向と一致するかどうかなどを確認します。
- 極端な場合を考える:
- もし\(m=5m\)だったら: AとBの質量が等しい場合、[A]ではAとBは動かないので \(a=0\)。よって \(T=mg\)。滑車Pにはたらく力は \(T’=2mg\)。Cの質量は \(M_C=2m\)。[B]では、\(a’=0\) となり、Pから見るとA,Bは動きません。しかし、P自体は上昇するので、A,Bも同じ加速度で上昇します。
- もし\(F=0\)だったら: [B]で下に引く力がなければ、AとBは[A]と同じように \(a=2g/3\) の加速度で相対運動を始め、滑車Pは自由落下します。全体の運動は非常に複雑になります。
これらの考察は、式の構造が物理現象を正しく反映しているかを確認する良い訓練になります。
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