問題21 (福岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、滑車を介して糸で繋がれた2つの物体A, Bと、それらが乗っている台Cからなる、3体問題です。状況に応じて、静止している場合、一部が運動する場合、全体が運動する場合を考えます。それぞれの物体にはたらく力を正確に把握し、運動の法則を適用することが求められます。
- 物体A: 質量 \(m_A\)。台Cの上にある。
- 物体B: 質量 \(m_B\)。糸でAと繋がり、鉛直に吊るされている。
- 物体C: 質量 \(M\)。なめらかな水平な床の上にある。
- 相互作用: AとC、BとCの間に摩擦はない。糸は軽く伸びない。滑車はなめらか。
- 重力加速度: \(g\)
- [A] 全てを静止させる場合
- (1) Aを押す力の大きさ。
- (2) Cを押す力の大きさ。
- [B] Cを静止させ、AとBが運動する場合
- (3) Aの運動方程式。
- (4) Bの運動方程式。
- (5) 加速度 \(a\) の大きさ。
- (6) 張力 \(T\) の大きさ。
- (7) Cを押す力の大きさ。
- (8) Cが床から受ける垂直抗力の大きさ。
- [C] 全てが同じ加速度で運動する場合
- (9) 加速度の大きさ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(5) 加速度\(a\)の別解: AとBを一体の系とみなす解法
- 主たる解法がAとBそれぞれの運動方程式を連立させるのに対し、別解ではAとBを一体の「系」とみなし、系全体にはたらく外力で運動方程式を立てて直接加速度を求めます。
- 問(5) 加速度\(a\)の別解: AとBを一体の系とみなす解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「内力」と「外力」の区別を明確にし、複数の物体を一つのシステムとして捉える視点を養うことができます。
- 計算の効率化: 連立方程式を解く手間を省き、内力である張力を計算せずに加速度を直接導出できるため、計算が簡潔になります。これは複雑な連結物体の問題で特に有効なテクニックです。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「連結された物体の運動」です。複数の物体が相互に力を及ぼしあいながら運動する系を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 各物体について、はたらく力をすべて特定し、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
- 力のつりあい: 静止している物体については、力のつりあいの式 \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\) を立てます。
- 束縛条件: 糸で繋がれている物体AとBは、同じ大きさの加速度で運動し、糸の張力も同じ大きさになります。
- 作用・反作用の法則: 物体同士が及ぼしあう力(垂直抗力や張力)は、作用・反作用の関係にあります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、各物体が静止しているので、それぞれの物体について「力のつりあい」の式を立てます。
- [B]では、AとBは運動し、Cは静止しています。AとBについては「運動方程式」を、Cについては「力のつりあい」の式を立てます。
- [C]では、A, B, Cが同じ加速度で運動するという条件から、Bの運動状態を考察し、Aの運動方程式を立て直します。
問(1), (2)
思考の道筋とポイント
[A]では、A, B, Cのすべてが静止しています。したがって、それぞれの物体にはたらく力はつりあっています。A, B, Cの順に、力のつりあいの式を立てていきます。
この設問における重要なポイント
- 各物体にはたらく力を漏れなく図示する。
- 静止しているので、すべての物体について力のつりあいを考える。
具体的な解説と立式
- 物体B: 鉛直方向の力のつりあいを考えます。
- 糸の張力 \(T\)(上向き)と重力 \(m_B g\)(下向き)がつりあっているので、
$$T = m_B g \quad \cdots ①$$
- 糸の張力 \(T\)(上向き)と重力 \(m_B g\)(下向き)がつりあっているので、
- 物体A: 水平方向の力のつりあいを考えます。
- 手で押す力 \(F_A\)(左向き)と糸の張力 \(T\)(右向き)がつりあっているので、
$$F_A = T \quad \cdots ②$$
- 手で押す力 \(F_A\)(左向き)と糸の張力 \(T\)(右向き)がつりあっているので、
- 物体C: 水平方向の力のつりあいを考えます。
- 手で押す力 \(F_C\)(右向き)と、滑車を介して糸がCを引く力 \(T\)(左向き)がつりあっています。
$$F_C = T \quad \cdots ③$$
- 手で押す力 \(F_C\)(右向き)と、滑車を介して糸がCを引く力 \(T\)(左向き)がつりあっています。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
問(1) Aを押す力の大きさ
式①と②より、
$$ F_A = T = m_B g $$
問(2) Cを押す力の大きさ
式①と③より、
$$ F_C = T = m_B g $$
(1) 物体Aが止まっているのは、左向きに押す力と、糸が右向きに引っぱる力が釣り合っているからです。糸を引っぱる力は、ぶら下がっている物体Bの重さと同じです。
(2) 物体Cが止まっているのは、右向きに押す力と、糸が滑車を介して左向きに引っぱる力が釣り合っているからです。この力も物体Bの重さと同じです。
Aを押す力 \(F_A\)、Cを押す力 \(F_C\) はともに \(m_B g\) となります。物体Bの重さが張力を通じてAとCに伝わっていると解釈でき、物理的に妥当です。
問(3), (4)
思考の道筋とポイント
[B]では、AとBが運動を始めます。Aは水平方向、Bは鉛直方向に、同じ大きさの加速度 \(a\) で運動します。それぞれの物体について運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- AとBが同じ大きさの加速度 \(a\) で運動する(束縛条件)。
- AとBそれぞれについて運動方程式を立てる。
具体的な解説と立式
問(3) Aの運動方程式
物体A(質量 \(m_A\))には、水平右向きに糸の張力 \(T\) のみがはたらきます。水平右向きを正とすると、運動方程式は、
$$ m_A a = T $$
問(4) Bの運動方程式
物体B(質量 \(m_B\))には、上向きに張力 \(T\)、下向きに重力 \(m_B g\) がはたらきます。鉛直下向きを正とすると、運動方程式は、
$$ m_B a = m_B g – T $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
この設問は式を立てるだけであり、計算は不要です。
(3) 物体Aは、糸に引っ張られて右向きに加速します。運動方程式は「質量 \(\times\) 加速度 = 力」なので、\(m_A a = T\) となります。
(4) 物体Bは、重力で下に引っ張られながら、糸に上に引かれて落下します。下向きを正とすると、運動方程式は「質量 \(\times\) 加速度 = 下向きの力 – 上向きの力」なので、\(m_B a = m_B g – T\) となります。
Aの運動方程式は \(m_A a = T\)、Bの運動方程式は \(m_B a = m_B g – T\) です。それぞれの物体にはたらく力と加速度の関係を正しく表しています。
問(5), (6)
思考の道筋とポイント
(3)と(4)で立てた2つの運動方程式を連立させて、未知数である加速度 \(a\) と張力 \(T\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 2つの運動方程式を連立させて解く。
具体的な解説と立式
(3), (4)で立てた連立方程式は以下の通りです。
$$ m_A a = T \quad \cdots ④ $$
$$ m_B a = m_B g – T \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 連立方程式の解法
問(5) 加速度 \(a\) の大きさ
式④と⑤を辺々足し合わせると、張力 \(T\) が消去できます。
$$
\begin{aligned}
m_A a + m_B a &= T + (m_B g – T) \\[2.0ex]
(m_A + m_B)a &= m_B g
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ a = \frac{m_B}{m_A + m_B}g $$
問(6) 張力 \(T\) の大きさ
上で求めた \(a\) の値を式④に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= m_A a \\[2.0ex]
&= m_A \left( \frac{m_B}{m_A + m_B}g \right) \\[2.0ex]
&= \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g
\end{aligned}
$$
(3)と(4)で作った2つの方程式をうまく組み合わせる(足し算する)と、張力\(T\)が消えて、加速度\(a\)を求めることができます。加速度がわかれば、それをどちらかの方程式に代入して、張力\(T\)も計算できます。
加速度 \(a\) は \(\displaystyle\frac{m_B}{m_A + m_B}g\)、張力 \(T\) は \(\displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g\) です。これは滑車で繋がれた物体の運動でよく見られる結果です。\(a < g\) であり、\(T < m_B g\) であることから、物理的に妥当な結果と言えます。
思考の道筋とポイント
問(5)の加速度\(a\)は、AとBを一体の「系」とみなすことでも求められます。この系全体を動かす「外力」に着目して運動方程式を立てます。糸の張力\(T\)は系内部の力(内力)なので、計算に現れません。
この設問における重要なポイント
- AとBを一体の系として考える。
- 系全体の運動方程式 \((m_{\text{系}})a = F_{\text{外力}}\) を立てる。
- 内力である張力は考慮しない。
具体的な解説と立式
AとBを一体の系とみなします。
- 系の質量: \(m_A + m_B\)
- 系を運動させる外力: 物体Bにはたらく重力 \(m_B g\) のみです。(物体Aにはたらく重力とCからの垂直抗力は鉛直方向で運動に寄与せず、張力\(T\)は内力なので相殺されます。)
系の運動方程式は、
$$ (m_A + m_B)a = m_B g $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
上記の方程式を \(a\) について解くと、
$$ a = \frac{m_B}{m_A + m_B}g $$
AとBをひとまとめのグループとして考えます。このグループ全体を動かそうとする力は、ぶら下がっているBの重さだけです。運動方程式「全体の質量 \(\times\) 加速度 = 全体にはたらく力」を立てると、加速度がすぐに計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。連立方程式を解く手間が省けるため、特に加速度だけを求めたい場合に非常に有効な方法です。
問(7), (8)
思考の道筋とポイント
AとBが運動している間も、Cは手で押されて静止しています。したがって、Cについては力のつりあいを考えます。Cにはたらく力をすべてリストアップし、水平方向と鉛直方向のつりあいの式を立てます。
この設問における重要なポイント
- Cは静止しているので、力のつりあいを考える。
- AがCを押す力(垂直抗力)や、糸が滑車を介してCを引く力(水平方向と鉛直方向)を考慮する。
具体的な解説と立式
物体Cにはたらく力を考えます。
- 水平方向:
- 手で押す力 \(F_C\)(右向き)
- 糸が滑車を介してCを引く力 \(T\)(左向き)
これらの力がつりあっているので、
$$ F_C = T $$ - 鉛直方向:
- 床からの垂直抗力 \(N_C\)(上向き)
- C自身の重力 \(Mg\)(下向き)
- AがCを押す力(Aにはたらく垂直抗力の反作用) \(N_A\)(下向き)
- 滑車が糸から受ける力 \(T\)(下向き)
これらの力がつりあっているので、
$$ N_C = Mg + N_A + T $$
ここで、Aの鉛直方向の力のつりあいから \(N_A = m_A g\) です。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
問(7) Cを押す力の大きさ
(6)で求めた \(T\) の値を代入します。
$$ F_C = T = \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g $$
問(8) 床からの垂直抗力
つりあいの式に \(N_A=m_A g\) と(6)の\(T\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
N_C &= Mg + N_A + T \\[2.0ex]
&= Mg + m_A g + \frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g \\[2.0ex]
&= \left( M + m_A + \frac{m_A m_B}{m_A + m_B} \right)g
\end{aligned}
$$
(7) Cが動かないのは、右向きに押す力と、糸が滑車を介して左に引く力(張力\(T\))が釣り合っているからです。
(8) Cが床から受ける垂直抗力は、下向きにはたらく力の合計と釣り合っています。下向きの力は、C自身の重さ、上に乗っているAの重さ、そして滑車が糸に下に引かれる力(張力\(T\))の3つです。
Cを押す力は \( \displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g\)、床からの垂直抗力は \(\left( M + m_A + \displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A + m_B} \right)g\) となります。Cにはたらく力を正しく数え上げることができれば、あとは代入計算で求められます。
問(9)
思考の道筋とポイント
[C]では、「A, B, Cは同じ加速度で等加速度運動をする」とあります。AとCは水平方向に、Bは鉛直方向にしか動けないため、これは「AとCの水平方向の加速度が等しい」と解釈するのが自然です。AがCに対して滑らない(相対加速度が0)ため、AとBの間の糸で繋がれた運動は、Bが等速で落下する(または静止する)運動になります。
この設問における重要なポイント
- AとCの加速度が等しい \(\rightarrow\) Bは等速直線運動をする。
- 等速直線運動をしている物体にはたらく力はつりあっている。
具体的な解説と立式
Bが鉛直方向に等速直線運動をするので、Bにはたらく力はつりあっています。
$$ T = m_B g $$
Aは水平方向に加速度 \(a’\) で運動しているので、Aの運動方程式は、
$$ m_A a’ = T $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
2つの式から \(T\) を消去すると、
$$ m_A a’ = m_B g $$
これを \(a’\) について解くと、
$$ a’ = \frac{m_B}{m_A}g $$
A, B, Cが「同じ加速度で」動く、という日本語の解釈が少し難しいですが、ここでは「AとCが一体となって動き、その結果としてBは一定の速さで落ちていく」という状況を考えます。Bの速さが一定なので、Bにかかる力は釣り合っています(張力 = Bの重さ)。Aは、その張力に引かれて加速するので、運動方程式を立てて加速度を求めます。
加速度の大きさは \(\displaystyle\frac{m_B}{m_A}g\) です。この結果は、[B]の状況とは異なる物理的条件(Bが等速運動)から導かれたものです。問題文の意図を正確に読み取ることが重要となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の適用と系の設定:
- 核心: この問題は、複数の物体が相互に力を及ぼしあいながら運動する「連結物体の運動」を扱います。核心となるのは、考察したい物体(または物体群)を一つの「系」として設定し、その系に対してニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を正しく適用することです。
- 理解のポイント:
- 個別の物体に着目: 基本は、各物体(A, B, C)を個別に分離し、それぞれにはたらく力をすべて図示して、個別に運動方程式(または力のつりあいの式)を立てることです。
- 一体の系として着目: AとBのように、糸で繋がれ一体となって運動する部分は、合わせて一つの系と見なすことができます。この場合、系全体の質量と、系全体にはたらく「外力」の合力で運動方程式を立てると、内力である張力\(T\)を計算せずに加速度を求めることができ、効率的です。
- 束縛条件: 「糸が伸び縮みしない」という条件から、繋がっている物体AとBの加速度の大きさは等しくなります。この「束縛条件」が、各物体の運動方程式を連立させて解くための鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 動滑車を含む問題: 動滑車が加わると、糸で繋がれた物体同士の加速度が1:2の関係になるなど、束縛条件がより複雑になります。しかし、各物体について運動方程式を立て、束縛条件の式と連立させるという基本アプローチは同じです。
- 斜面上の連結物体: 一方の物体が斜面上を運動する問題。力を斜面方向と垂直方向に分解する必要があるだけで、運動方程式と束縛条件で解く流れは変わりません。
- 摩擦力がはたらく連結物体: 接触面に摩擦力がはたらく場合。運動方程式に摩擦力の項が加わります。静止しているか、動いているかで摩擦力の扱いが変わる点に注意が必要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の状態を把握する: まず、各物体が「静止」しているのか、「等速直線運動」しているのか、「等加速度運動」しているのかを問題文から正確に読み取ります。これにより、立てるべき式が「力のつりあい」なのか「運動方程式」なのかが決まります。
- 加速度の向きと関係性を仮定する: どの物体がどちらの向きに、どのような加速度で動くかを仮定します(本問ではAが右、Bが下)。糸で繋がれている場合、加速度の大きさは等しいと設定します。
- 作用・反作用のペアを意識する: CがAから受ける垂直抗力、Cが滑車を介して糸から受ける力など、物体間で及ぼしあう力は作用・反作用の関係にあります。特に、台を含む複数物体系では、これらの力を正確に考慮することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動方程式の力の数え間違い:
- 誤解: ある物体にはたらく力を描き忘れたり(例:台Cにはたらく滑車からの張力)、逆に関係ない力を描き込んだりする。
- 対策: 各物体にはたらく力を図示する「フリーボディダイアグラム」を必ず描く習慣をつけましょう。その物体に「接触しているもの」と「遠隔ではたらく力(重力)」をリストアップすることで、力の描き漏れを防ぎます。
- 内力と外力の混同:
- 誤解: AとBを一体の系として考える際に、内力である張力\(T\)を式の右辺に含めてしまう。
- 対策: 「系」の運動方程式を立てるとき、右辺の\(F\)は「外力」の合力であることを徹底しましょう。AとBを一体とみなした場合、運動方向にはたらく外力はBの重力\(m_B g\)のみです。
- 問題文の条件の解釈ミス:
- 誤解: [C]の「A, B, Cは同じ加速度で等加速度運動をする」という記述を、A, B, Cが完全に一体化して動くと解釈してしまう。
- 対策: 物理的にあり得る状況を考えましょう。AとCは水平に、Bは鉛直にしか動けないため、3つの物体の「加速度ベクトル」が同じになることはありえません。この場合、「AとCの水平方向の加速度が等しい」と解釈するのが妥当です。さらに、これにより「AのCに対する相対加速度が0」となり、「Bは等速運動する」という結論を導きます。一見すると難しい記述の背後にある物理的な意味を深く考察する能力が求められます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式 (\(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)):
- 選定理由: [A]の静止状態、および[B]で静止している物体Cの力の関係を記述するため。
- 適用根拠: 加速度がゼロであるという物理的状況。
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: [B]で運動している物体A, B、および[C]で運動している物体Aの状態を記述するため。
- 適用根拠: 物体に合力がはたらき、ゼロでない加速度が生じている物理的状況。
- 連立方程式:
- 選定理由: 未知数(加速度\(a\)、張力\(T\)など)が複数あり、一つの式だけでは解けないため。
- 適用根拠: 各物体についての運動方程式や束縛条件は、すべて同時に成り立つ必要があるため、それらを連立させて解くことで、すべての未知数を決定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の添え字の確認:
- 特に注意すべき点: \(m_A\) と \(m_B\) を混同しないように注意しましょう。特に、連立方程式を解く際や、最終的な答えを記述する際に間違いやすいです。
- 日頃の練習: 式を立てる際に、どの物体の質量なのかを意識しながら書く。計算結果が出たら、例えば「加速度はBの質量に比例し、全体の質量に反比例する」といった物理的な意味を確認し、文字が入れ替わっていないかチェックしましょう。
- 連立方程式の加減法:
- 特に注意すべき点: [B]で運動方程式を連立させる際、2式を足し合わせると内力である張力\(T\)がうまく消去できます。このテクニックは連結物体の問題で頻繁に用いられます。
- 日頃の練習: 様々な連結物体の問題を解き、加減法で内力を消去する計算パターンに慣れておきましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (5) 加速度a: \(a = \displaystyle\frac{m_B}{m_A + m_B}g\)。この式は、\(a<g\) であることを示しています。これは、物体BがAを引っ張りながら落下するため、自由落下よりは加速度が小さくなるという直感と一致します。
- (6) 張力T: \(T = \displaystyle\frac{m_A m_B}{m_A + m_B}g\)。この式は、\(T < m_B g\) であることを示しています(\(\displaystyle\frac{m_A}{m_A+m_B} < 1\) なので)。Bは下に加速しているので、重力\(m_B g\)が張力\(T\)より大きい必要があり、結果は妥当です。
- 極端な場合を考える:
- もし\(m_A=0\)なら: 加速度は \(a = \displaystyle\frac{m_B}{m_B}g = g\)、張力は \(T=0\)。これは、Bが単に自由落下する状況に対応し、正しいです。
- もし\(m_B=0\)なら: 加速度は \(a=0\)、張力は \(T=0\)。力がかからないので何も運動しない。これも正しいです。
- これらの極端なケースで結果が直感と一致することを確認することで、式の信頼性を高めることができます。
問題22 (九州工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、滑車を組み合わせた複雑な系における物体の運動を扱います。動滑車Pの存在により、物体AとBの運動が単純な連結運動ではない点がポイントです。状況に応じて、静止した観測者から見るか、運動する観測者(滑車P)から見るか、視点を使い分けることが重要になります。
- 物体A: 質量 \(m\)
- 物体B: 質量 \(5m\)
- 物体C: 質量未知
- 滑車P, Q: 質量無視、なめらかに回転
- 糸1, 2, 3: 軽く、伸び縮みしない
- 状況[A]: 図1の状態で、AとBは運動するが、Cは静止。
- 状況[B]: 図2の状態で、Cを取り外し、糸2を力\(F\)で引くと、滑車Pが上昇し、AとBも運動する。
- 重力加速度: \(g\)
- [A] (1) 物体Cの質量。
- [B] (2) 糸1の張力の大きさ。
- (3) AとBの高さの差が \(d\) になった瞬間の、物体Aの速さ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「慣性力」を用いる解法を主たる解説としつつ、静止系から見た運動方程式と束縛条件で解く別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3) 物体Aの速さの別解: 静止系における運動方程式と束縛条件を用いる解法
- 主たる解法が、加速上昇する滑車Pを基準系(観測者)とし、慣性力を導入してAとBの相対運動を考えるのに対し、別解では、静止した床から見た各物体の運動方程式と、それらの加速度を結びつける束縛条件の式を連立させて解きます。
- 問(3) 物体Aの速さの別解: 静止系における運動方程式と束縛条件を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 主たる解法では「慣性力」や「相対運動」といった高度な物理概念の適用例を学べます。一方、別解では慣性力という概念を使わずに、運動の基本法則(運動方程式と束縛条件)のみで解くことができ、より原理的な理解が深まります。
- 思考の柔軟性: 同じ問題に対して、観測者の立場を切り替える方法(主たる解法)と、一つの基準系に固定して解く方法(別解)の両方を学ぶことで、問題に応じて最適なアプローチを選択する能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「動滑車を含む連結物体の運動」と「相対運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 各物体にはたらく力を特定し、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
- 力のつりあい: 静止している物体や、質量が無視できる滑車にはたらく力の関係を記述します。
- 相対加速度と慣性力: 静止した観測者から見た加速度と、動く滑車から見た加速度の関係を正しく理解することが、特に[B]の状況を解く鍵となります。
- 等加速度運動の公式: 加速度が一定の運動では、時間・距離・速度の関係を表す公式が使えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、まず運動しているAとBについて運動方程式を立て、糸1の張力\(T\)を求めます。次に、静止しているCと滑車Pの力のつりあいを考え、Cの質量を求めます。
- [B]では、まず滑車Pにはたらく力の関係から、糸1の張力\(f\)を求めます。次に、問(3)では加速する滑車Pを基準として慣性力を導入し、AとBの相対運動を考えることで、問題を単純化して解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
[A]では、物体Cと滑車Pは静止していますが、物体AとBは滑車Pを介して運動しています。
- まず、AとBの運動に着目します。これらは質量が異なるため、加速度運動をします。AとBそれぞれについて運動方程式を立て、糸1の張力\(T\)を求めます。
- 次に、滑車Pに着目します。滑車Pは静止しており、質量が無視できるので、滑車Pにはたらく力はつりあっています。このつりあいから、糸2の張力\(T’\)を求めます。
- 最後に、物体Cに着目します。Cも静止しているので、Cにはたらく力(重力と糸2の張力\(T’\))はつりあっています。この式からCの質量を求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動する部分(A, B)と静止する部分(P, C)を分けて考える。
- 質量が無視できる滑車にはたらく力は、常につりあっていると考える。
具体的な解説と立式
- 物体AとBの運動:
Aは上向き、Bは下向きに同じ大きさの加速度\(a\)で運動します。糸1の張力を\(T\)とします。
Aの運動方程式(上向き正):
$$ ma = T – mg \quad \cdots ① $$
Bの運動方程式(下向き正):
$$ 5ma = 5mg – T \quad \cdots ② $$ - 滑車Pの力のつりあい:
滑車Pは静止しており、質量は0です。上向きに糸2の張力\(T’\)、下向きに糸1の張力\(T\)が2本分はたらいているので、力のつりあいは、
$$ T’ = 2T \quad \cdots ③ $$ - 物体Cの力のつりあい:
物体C(質量を\(M_C\)とする)は静止しています。上向きに糸2の張力\(T’\)、下向きに重力\(M_C g\)がはたらいているので、
$$ T’ = M_C g \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
まず、式①と②を連立させて\(T\)を求めます。式①と②の辺々を足し合わせると、
$$
\begin{aligned}
ma + 5ma &= (T – mg) + (5mg – T) \\[2.0ex]
6ma &= 4mg
\end{aligned}
$$
よって、加速度\(a\)は \(a = \displaystyle\frac{2}{3}g\) となります。
これを式①に代入して\(T\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= mg + ma \\[2.0ex]
&= mg + m\left(\frac{2}{3}g\right) \\[2.0ex]
&= \frac{5}{3}mg
\end{aligned}
$$
次に、この\(T\)を式③に代入して\(T’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
T’ &= 2T \\[2.0ex]
&= 2 \times \frac{5}{3}mg \\[2.0ex]
&= \frac{10}{3}mg
\end{aligned}
$$
最後に、この\(T’\)を式④に代入して\(M_C\)を求めます。
$$ \frac{10}{3}mg = M_C g $$
両辺を \(g\) で割って、
$$ M_C = \frac{10}{3}m $$
まず、動いているAとBの関係から、糸1の張力\(T\)を計算します。次に、滑車Pが静止しているので、上の糸2が下の糸1の2本分の力で引っ張っていることがわかります。これで糸2の張力\(T’\)がわかります。最後に、物体Cが静止しているので、Cの重さと糸2の張力\(T’\)が釣り合っていることから、Cの質量を求めます。
物体Cの質量は \(\displaystyle\frac{10}{3}m\) です。AとBの運動によって生じる張力を、Cがその重力で支えているという物理的な状況を正しく数式化できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
[B]では、Cの代わりに力\(F\)で糸2を引きます。このとき、滑車Pは質量が0なので、滑車Pについての運動方程式(力のつりあいの式と考える)を立てることで、糸1の張力を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 質量0の滑車にはたらく力の合力は常に0である(運動していても)。
- 図2の状況では、滑車Pには、下向きに力\(F\)、上向きに糸1の張力\(f\)が2本分はたらいている。
具体的な解説と立式
糸1の張力の大きさを\(f\)とします。
滑車Pには、下向きに大きさ\(F\)の力が加えられ、上向きに2本の糸1が接続されているので、上向きに合計\(2f\)の力がはたらきます。
滑車Pの質量は0なので、その運動方程式は \(0 \times a_P = 2f – F\) となります。(ここで \(a_P\) は滑車Pの加速度)
この式がどのような加速度\(a_P\)に対しても成り立つためには、力の合力が常に0でなければなりません。
$$ 2f – F = 0 $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\) (質量0の場合)
力の関係式 \(2f = F\) を \(f\) について解きます。
$$ f = \frac{F}{2} $$
滑車P自体は質量がゼロなので、どんなに加速していても、滑車にかかる力の合計は常にゼロでなければなりません。滑車Pは、上の糸2本(張力\(f\)が2つ)で上に引かれ、下の糸(力\(F\))で下に引かれています。したがって、上向きの力\(2f\)と下向きの力\(F\)は等しくなります。
糸1の張力の大きさは \(\displaystyle\frac{F}{2}\) です。これは、加えた力\(F\)が2本の糸に均等に分配されることを意味しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
加速上昇する滑車Pに乗った観測者からAとBの運動を見る方法で解きます。この観測者から見ると、AとBには重力と張力に加えて、見かけの力である「慣性力」がはたらきます。この視点では、AとBは静止した滑車につながれた物体のように見え、相対的な運動を考えやすくなります。
- 滑車Pの加速度を \(a_P\) とし、Pから見たA, Bの運動を考える。
- A, Bには、通常の力に加えて、Pの加速度と逆向き(下向き)に慣性力がはたらくとして、Pから見た運動方程式を立てる。
- 連立方程式を解き、Pから見たAの加速度(相対加速度)\(a’\)を求める。
- 相対加速度\(a’\)を用いて、高さの差が\(d\)になるまでの時間を求める。
- 床から見たAの速さを求めるために、床から見たAの加速度\(a_A\)を計算する。
- 求めた時間と加速度\(a_A\)から、Aの速さ\(v_A\)を計算する。
この設問における重要なポイント
- 滑車Pの加速度を \(a_P\) とし、Pから見たA, Bの運動を考える。
- A, Bには、通常の力に加えて、Pの加速度と逆向き(下向き)に慣性力(それぞれ \(ma_P\), \(5ma_P\))がはたらく。
- Pから見ると、AとBの加速度の大きさは等しい(これを \(a’\) とする)。
具体的な解説と立式
滑車Pの加速度を \(a_P\)(上向き正)、Pから見たAの加速度を \(a’\)(上向き正)とします。糸1の張力は \(f = \displaystyle\frac{F}{2}\) です。
Pから見た運動方程式は、慣性力を考慮して以下のようになります。
Aについて(上向き正):
$$ ma’ = f – mg – ma_P \quad \cdots ⑤ $$
Bについて(下向き正):
$$ 5ma’ = (5mg + 5ma_P) – f \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 加速系における運動方程式(慣性力)
- 相対加速度の関係: \(a_{\text{Aの絶対}} = a_{\text{Pの絶対}} + a_{\text{Pから見たAの相対}}\)
- 等加速度運動の公式: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\), \(v = at\)
1. 相対加速度 \(a’\) と滑車Pの加速度 \(a_P\) を求める
まず、式⑤と⑥を連立させて \(a’\) と \(a_P\) を求めます。
式⑤ \(\times 5 + \) 式⑥ より、\(a_P\) の項を消去します。
$$
\begin{aligned}
5ma’ + 5ma’ &= 5(f – mg – ma_P) + (5mg + 5ma_P – f) \\[2.0ex]
10ma’ &= 5f – 5mg – 5ma_P + 5mg + 5ma_P – f \\[2.0ex]
10ma’ &= 4f
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
a’ &= \frac{4f}{10m} = \frac{2f}{5m} \\[2.0ex]
&= \frac{2(F/2)}{5m} \\[2.0ex]
&= \frac{F}{5m}
\end{aligned}
$$
次に、求めた \(a’\) を式⑤に代入して \(a_P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a_P &= \frac{f}{m} – g – a’ \\[2.0ex]
&= \frac{F}{2m} – g – \frac{F}{5m} \\[2.0ex]
&= \frac{3F}{10m} – g
\end{aligned}
$$
2. 時間 \(t\) を求める
高さの差が \(d\) になるのは、Pから見てAが \(d/2\) 上昇し、Bが \(d/2\) 下降したときです。
$$ \frac{d}{2} = \frac{1}{2}a’t^2 $$
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{d}{a’} \\[2.0ex]
&= \frac{d}{F/5m} \\[2.0ex]
&= \frac{5md}{F}
\end{aligned}
$$
よって、
$$ t = \sqrt{\frac{5md}{F}} $$
3. 物体Aの速さ \(v_A\) を求める
床から見たAの速さを求めるには、床から見たAの加速度 \(a_A\) が必要です。
$$
\begin{aligned}
a_A &= a_P + a’ \\[2.0ex]
&= \left(\frac{3F}{10m} – g\right) + \frac{F}{5m} \\[2.0ex]
&= \frac{5F}{10m} – g \\[2.0ex]
&= \frac{F}{2m} – g
\end{aligned}
$$
最後に、床から見たAの速さ \(v_A\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_A &= a_A t \\[2.0ex]
&= \left(\frac{F}{2m} – g\right) \sqrt{\frac{5md}{F}}
\end{aligned}
$$
加速しながら上昇する滑車Pは、まるで重力が強くなったエレベーターのようなものです。この「動く滑車」という特別な視点から見ると、AとBには通常より強い下向きの力(重力+慣性力)がかかっているように見えます。この見かけの力を使って、AとBがどれくらいの加速度で離れていくか(相対加速度)を計算します。離れていく加速度がわかれば、高さの差が\(d\)になるまでの時間が計算できます。最後に、床から見たAの本当の加速度(滑車の上昇分+Aが離れていく分)に、この時間を掛ければ、Aの速さが求まります。
物体Aの速さは \(\left(\displaystyle\frac{F}{2m} – g\right) \sqrt{\displaystyle\frac{5md}{F}}\) です。慣性力を用いることで、複雑な運動をより単純な相対運動の問題として捉え直すことができました。
思考の道筋とポイント
慣性力を使わずに、床に固定された静止系から見た各物体の運動方程式と、加速度の間の束縛条件(関係式)を連立させて解く方法です。
- 床から見たA, B, Pの加速度をそれぞれ \(a_A, a_B, a_P\) と定義する。
- 糸1の長さが一定であることから、これらの加速度の間の関係式(束縛条件)を導く。
- AとBそれぞれについて、床から見た運動方程式を立てる。
- これらの方程式を連立させて、床から見たAの加速度 \(a_A\) を求める。
- AとBの高さの差が \(d\) になるまでの時間を求める。
- 求めた時間と加速度 \(a_A\) から、Aの速さ \(v_A\) を計算する。
この設問における重要なポイント
- 「床から見た運動(絶対運動)」を基準に考える。
- 糸の長さが不変であることから導かれる加速度の束縛条件を正しく立式する。
- 複数の未知数と方程式を系統的に解く。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。
- 床から見たA, B, Pの加速度をそれぞれ \(a_A, a_B, a_P\)。
- 糸1の張力を \(f = \displaystyle\frac{F}{2}\)。
加速度の束縛条件:
滑車Pの位置を \(y_P\)、Aの位置を \(y_A\)、Bの位置を \(y_B\) とすると、糸1の全長 \(L_1\) は一定なので、
$$ L_1 = (y_P – y_A) + (y_P – y_B) $$
$$ L_1 = 2y_P – y_A – y_B $$
この式の両辺を時間で2回微分すると、加速度の関係式が得られます。
$$ 0 = 2a_P – a_A – a_B $$
$$ a_P = \frac{a_A + a_B}{2} \quad \cdots ⑦ $$
運動方程式:
床から見た運動方程式は以下の通りです。
Aについて:
$$ m a_A = f – mg \quad \cdots ⑧ $$
Bについて:
$$ 5m a_B = f – 5mg \quad \cdots ⑨ $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 加速度の束縛条件
- 等加速度運動の公式: \(v = at\), \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
1. 各物体の加速度を求める
まず、式⑧と⑨から \(a_A\) と \(a_B\) を求めます。\(f = \displaystyle\frac{F}{2}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
a_A &= \frac{f}{m} – g \\[2.0ex]
&= \frac{F}{2m} – g
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
a_B &= \frac{f}{5m} – g \\[2.0ex]
&= \frac{F}{10m} – g
\end{aligned}
$$
2. 時間 \(t\) を求める
AとBは、初め同じ高さから運動を開始します。時間 \(t\) 後のそれぞれの変位は \(y_A = \displaystyle\frac{1}{2}a_A t^2\), \(y_B = \displaystyle\frac{1}{2}a_B t^2\) です。
高さの差が \(d\) になったとき、\(y_A – y_B = d\) となります。
$$
\begin{aligned}
d &= y_A – y_B \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}(a_A – a_B)t^2
\end{aligned}
$$
ここで、相対加速度 \(a_A – a_B\) は、
$$
\begin{aligned}
a_A – a_B &= \left(\frac{F}{2m} – g\right) – \left(\frac{F}{10m} – g\right) \\[2.0ex]
&= \frac{4F}{10m} \\[2.0ex]
&= \frac{2F}{5m}
\end{aligned}
$$
よって、時間 \(t\) は、
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{1}{2} \left(\frac{2F}{5m}\right) t^2 \\[2.0ex]
&= \frac{F}{5m}t^2
\end{aligned}
$$
$$ t^2 = \frac{5md}{F} $$
したがって、
$$ t = \sqrt{\frac{5md}{F}} $$
3. 物体Aの速さ \(v_A\) を求める
床から見たAの運動は、初速度0、加速度 \(a_A\) の等加速度運動なので、時間 \(t\) 後の速さ \(v_A\) は、
$$
\begin{aligned}
v_A &= a_A t \\[2.0ex]
&= \left(\frac{F}{2m} – g\right) \sqrt{\frac{5md}{F}}
\end{aligned}
$$
この問題では、滑車Pが動くため、AとBの加速度は異なります。まず、床から見たAとBの加速度をそれぞれ計算します。次に、AとBの高さの差は、二つの物体の「相対的な加速度」によって生じると考え、高さの差が\(d\)になるまでの時間を計算します。最後に、「Aの加速度 \(\times\) 時間」でAの最終的な速さを求めます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、慣性力という概念を用いず、運動の基本法則のみで解いているため、より基本的で応用範囲の広いアプローチと言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式と相対加速度(束縛条件):
- 核心: この問題は、動滑車を含む複雑な連結物体の運動を扱います。核心となるのは、静止した床から見た「絶対運動」と、動く滑車Pから見た「相対運動」の関係を正しく理解し、それぞれの物体について運動方程式を立て、連立させて解くことです。
- 理解のポイント:
- 加速度の関係(束縛条件): 床から見た物体A, Bの加速度をそれぞれ\(a_A, a_B\)、滑車Pの加速度を\(a_P\)とすると、糸の長さが一定であることから、\(a_P = \displaystyle\frac{a_A + a_B}{2}\) という関係が成り立ちます(向きを考慮)。あるいは、滑車Pから見たA, Bの相対加速度の大きさが等しく、向きが逆になる、という関係を使います。これが最も重要な束縛条件です。
- 運動方程式の立式: 物体A, B, そして質量が無視できる滑車Pのそれぞれについて、力を図示し、運動方程式(または力のつりあいの式)を立てます。
- 連立方程式の求解: 上記の束縛条件の式と、各物体の運動方程式を組み合わせることで、未知の加速度や張力を求めることができます。
- 加速系と慣性力: 別の視点として、加速する滑車Pを基準系とすると、AとBには見かけの力である「慣性力」がはたらくと考えられます。この視点を用いると、相対運動をより直感的に扱うことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- アトウッドの器械(動滑車版): 本問そのものが、アトウッドの器械を発展させた典型的な問題設定です。
- 斜面と動滑車を組み合わせた問題: 物体の一方が斜面上にある場合。力を斜面方向と垂直方向に分解する手間が加わりますが、加速度の関係式と運動方程式を連立させるという本質的な解法は同じです。
- 複数の動滑車を含む問題: 動滑車が2つ以上になると、加速度の束縛条件がさらに複雑になりますが、糸の長さが一定であるという原理に立ち返って関係式を導出する点は共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 加速度の基準を明確にする: 「床から見た加速度」なのか、「動く滑車から見た加速度」なのかを、常に意識して区別します。記号も \(a_A\) と \(a’\) のように明確に使い分けることが重要です。
- 加速度の束縛条件を最初に立てる: 複雑な連結物体の問題では、まず糸の長さの不変性から、各物体の加速度間の関係式(束縛条件)を導出することが、解法の見通しを良くする鍵となります。
- エネルギー保存則の利用可能性: 問(3)のように速さを問う問題では、仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則)が有効な別解となる場合があります。各物体の移動距離と速さの関係を正しく把握できれば、加速度を介さずに速さを直接求めることができます。ただし、この問題では移動距離の関係も複雑なため、運動方程式を解く方が確実かもしれません。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 加速度の関係式の誤り:
- 誤解: 動滑車があるにもかかわらず、物体AとBの加速度の大きさが等しい(\(a_A = a_B\))としてしまう。
- 対策: 床から見ると、滑車Pが動く分だけ、AとBの加速度は単純なものではなくなります。「滑車Pの加速度は、AとBの加速度の平均である(\(a_P = \displaystyle\frac{a_A+a_B}{2}\))」という関係、または「Pから見たAとBの相対加速度の大きさは等しい」という関係を正しく用いることが不可欠です。
- 質量0の滑車の扱い:
- 誤解: 運動している滑車Pに運動方程式を立てようとして混乱する。
- 対策: 質量が0の物体では、運動方程式は \(0 \times a = F_{\text{合力}}\) となります。加速度\(a\)が有限の値を持つためには、合力は常に0でなければなりません。つまり、質量が無視できる滑車にはたらく力は、静止していても加速していても、常につりあっていると考えることができます。
- 慣性力の向き:
- 誤解: 慣性力の向きを、基準系の加速度と同じ向きにしてしまう。
- 対策: 慣性力は、基準系の加速度とは「逆向き」にはたらく見かけの力であることを徹底しましょう。滑車Pが上向きに加速するなら、慣性力は下向きにはたらきます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: すべての物体が加速度運動をしているため、その原因である力との関係を記述する基本法則として必須です。
- 適用根拠: 各物体にはたらく合力がゼロではなく、加速度が生じている物理的状況。
- 加速度の束縛条件 (\(a_P = \displaystyle\frac{a_A + a_B}{2}\)など):
- 選定理由: 未知数(各物体の加速度)の数が運動方程式の数より多いため、未知数を減らし、連立方程式を解くために必要となる追加の条件式です。
- 適用根拠: 「糸が伸び縮みしない」という物理的な制約から、各物体の変位、速度、加速度が独立ではなく、互いに関連付けられているという事実。
- 加速系における運動方程式(慣性力):
- 選定理由: 静止系から見ると複雑な運動も、適切な加速系から見ることで、より単純な問題に帰着させられる場合があるため。特に相対運動を問う問題で有効な視点です。
- 適用根拠: 加速する基準系において、ニュートンの運動法則を成り立たせるために導入される「慣性力」という概念に基づきます。
- 等加速度運動の公式 (\(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\), \(v = at\)):
- 選定理由: 加速度が一定であることが運動方程式からわかった後、特定の距離を動いたときの速さや、かかる時間を計算するため。
- 適用根拠: 運動方程式を解くことで、各物体の加速度(絶対加速度も相対加速度も)が一定値になることが確認できるため。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の系統的な処理:
- 特に注意すべき点: 問(3)のように未知数と方程式が多い場合、やみくもに代入すると混乱します。「まず\(a’\)を求める」「次に\(a_P\)を求める」「最後に\(a_A\)を求める」のように、計算のターゲットを一つずつ定めて、系統的に処理していくことが重要です。
- 日頃の練習: 複数の文字を含む複雑な連立方程式を、計算用紙に順序立てて解く練習をする。
- 物理量の区別:
- 特に注意すべき点: 絶対加速度と相対加速度、糸1の張力と糸2にはたらく力など、似て非なる物理量を、記号や添え字を使って明確に区別する。
- 日頃の練習: 問題を解く前に、登場する物理量をリストアップし、それぞれに用いる記号を定義する癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) Cの質量: \(M_C = \displaystyle\frac{10}{3}m \approx 3.33m\)。AとBの運動を支えるために必要な力は \(T’=\displaystyle\frac{10}{3}mg\)。これを支えるCの質量がこの値になるのは妥当です。
- (3) Aの速さ: \(v_A\) の式は複雑ですが、\(F\)が大きくなるほど速くなる、\(d\)が大きいほど速くなる、という直感的な傾向と一致するかどうかなどを確認します。また、Aが上昇するためには \(a_A > 0\)、つまり \(\displaystyle\frac{F}{2m} – g > 0 \rightarrow F > 2mg\) という条件が必要であることも読み取れます。
- 極端な場合を考える:
- もし\(m=5m\)だったら: AとBの質量が等しい場合、[A]ではAとBは動かないので \(a=0\)。よって \(T=mg\)。滑車Pにはたらく力は \(T’=2mg\)。Cの質量は \(M_C=2m\)。[B]では、\(a’=0\) となり、Pから見るとA,Bは動きません。しかし、P自体は上昇するので、A,Bも同じ加速度で上昇します。
- もし\(F=2mg\)だったら: [B]で \(a_A=0\) となり、Aは動きません。このとき \(a_B = \displaystyle\frac{2mg}{10m} – g = -\frac{4}{5}g\) となり、Bは下向きに加速します。これは物理的につじつまが合います。
これらの考察は、式の構造が物理現象を正しく反映しているかを確認する良い訓練になります。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]
問題23 (拓殖大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばねに吊るされた物体の運動を、2つの異なる状況で考察するものです。前半(1)は、物体を板で支えながら「ゆっくり」と下ろしていく準静的な過程、後半(2)は、板を「急に」取り去った後の単振動を扱います。力学的エネルギー保存則や単振動の性質を正しく理解しているかが問われます。
- ばね: ばね定数 \(k\)、上端は天井に固定。
- 物体: 質量 \(m\)。
- 初期状態: ばねが自然長の状態で、物体を板で支えている。
- 重力加速度: \(g\)
- (1) ゆっくり下ろす場合
- ア: 板が物体に及ぼす力とばねの伸びの関係グラフ。
- イ: 板が物体から離れるときのばねの伸び。
- ウ: 板が物体にした仕事。
- (2) 急に取り去る場合
- エ: 物体の速さが0になる最大の伸び。
- オ: 物体の速さが最大になるときの伸び。
- カ: 物体の速さの最大値。
- キ: 物体の運動エネルギーとばねの伸びの関係グラフ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「力学的エネルギー保存則」を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) エ, オ, カの別解: 単振動の性質を利用する解法
- 主たる解法が、運動の始点・中間点・終点におけるエネルギー保存則を立式して解くのに対し、別解では、この運動が「力のつりあい点」を中心とする単振動であることを見抜き、その性質(振幅、角振動数、最大速度の公式など)を用いて代数的に解きます。
- 問(2) エ, オ, カの別解: 単振動の性質を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: ばねと重力がはたらく系の運動が、単振動という基本的な物理モデルに帰着することを理解できます。これにより、運動全体の様子をより深く把握することが可能になります。
- 計算の効率化: 単振動の性質を理解していれば、エネルギー保存則の複雑な二次方程式を解くことなく、振幅や角振動数から直接、最大伸びや最大速度を求めることができ、計算が大幅に簡略化されます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ばね振り子の力学」と「力学的エネルギー保存則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 「ゆっくり」動かす過程では、物体は常に力のつりあい状態にあるとみなせます。
- 仕事: 力が物体にした仕事は、(力) \(\times\) (移動距離) で計算されます。力が変化する場合は、グラフの面積を考えます。
- 力学的エネルギー保存則: 保存力(重力、弾性力)のみが仕事をする場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
- 単振動: 物体が復元力 \(F=-Kx\) を受けて行う往復運動。つりあいの位置が振動の中心となり、速さは振動中心で最大、両端でゼロになります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、物体にはたらく力のつりあいの式を立て、板が及ぼす力(垂直抗力)とばねの伸びの関係を導き、グラフ化します。板が離れる条件(垂直抗力=0)から、そのときの伸びを求めます。仕事はグラフの面積から計算します。
- (2)では、板を急に取り去るため、力学的エネルギーが保存されると考えます。初期状態(伸び0)と、速さが0になる点(最下点)、速さが最大になる点(つりあい点)の3つの状態でエネルギー保存則を適用し、各値を求めます。