問題156 (名古屋市大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2段階の核反応について、放出エネルギー、分裂後の粒子の運動エネルギー、そして2次元的な衝突における運動エネルギーを、エネルギー保存則と運動量保存則を駆使して解き明かす問題です。核反応の基本的なルールを力学の保存則と結びつけて考える能力が試されます。
- 核反応A: \({}_{3}^{6}\text{Li} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{1}^{3}\text{H}\)
- 核反応B: \({}_{1}^{3}\text{H} + {}_{1}^{2}\text{H} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{0}^{1}\text{n}\)
- 結合エネルギー:
- \({}_{1}^{2}\text{H}\): \(2.2 \text{ MeV}\)
- \({}_{1}^{3}\text{H}\): \(8.5 \text{ MeV}\)
- \({}_{2}^{4}\text{He}\): \(28.3 \text{ MeV}\)
- \({}_{3}^{6}\text{Li}\): \(32.0 \text{ MeV}\)
- 原子核の質量:
- \({}_{0}^{1}\text{n}\): \(m_n = 1.0\text{u}\)
- \({}_{1}^{3}\text{H}\): \(m_H = 3.0\text{u}\)
- \({}_{2}^{4}\text{He}\): \(m_{He} = 4.0\text{u}\)
- 初期条件:
- (1) \({}_{3}^{6}\text{Li}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\)は静止。
- (3) \({}_{1}^{2}\text{H}\)は静止。
- 解答形式: MeV単位で小数第1位まで。
- (1) 核反応Aにより生じるエネルギー\(\Delta E\)。
- (2) 核反応Aで生成された\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギー\(K_H\)。
- (3) 核反応Bで生成される粒子の運動エネルギーの和\(E_B\)。
- (4) (3)で\({}_{0}^{1}\text{n}\)が特定の角度で放出されたときの、その運動エネルギー\(K_n\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「核反応におけるエネルギー保存則と運動量保存則の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 核反応エネルギー(Q値): 反応前後の結合エネルギーの差から計算されます。\(Q = (\text{反応後の結合エネルギーの和}) – (\text{反応前の結合エネルギーの和})\)。
- 運動量保存則: 外力が働かない系では、反応前後の運動量のベクトル和は保存されます。特に、静止系からの分裂では、生成物の運動量のベクトル和はゼロとなります。
- エネルギー保存則: 反応前後の(運動エネルギー+静止エネルギー)の和は保存されます。これは、\((\text{反応前の運動エネルギーの和}) + Q = (\text{反応後の運動エネルギーの和})\) と表せます。
- 運動エネルギーと運動量の関係: 運動エネルギー \(K\) と運動量 \(p\) の間には \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) の関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた結合エネルギーの値の差を計算して、核反応で放出されるエネルギーを求めます。
- (2)では、静止系からの分裂と考え、運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて、各粒子の運動エネルギーを分配します。
- (3)では、(2)で求めた運動エネルギーを持つ粒子が新たな核反応を起こす状況を考えます。反応で生じるエネルギーと入射粒子の運動エネルギーの和が、生成物の運動エネルギーの総和となります。
- (4)では、2次元の衝突として扱い、運動量保存則を成分ごとに立て、エネルギー保存則と連立させて未知の運動エネルギーを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
核反応で放出または吸収されるエネルギーは、反応前後の結合エネルギーの差に等しいです。結合エネルギーは「原子核をバラバラの核子にするのに必要なエネルギー」なので、結合エネルギーが大きいほど原子核は安定で、エネルギーが低い状態にあると言えます。反応によって全体の結合エネルギーが増加すれば、その差額がエネルギーとして外部に放出されます。
この設問における重要なポイント
- 放出エネルギー \(Q = (\text{生成物の結合エネルギーの総和}) – (\text{反応物の結合エネルギーの総和})\)
- 単独の核子(中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\) や陽子 \({}_{1}^{1}\text{H}\))の結合エネルギーは \(0\) と考えます。
具体的な解説と立式
核反応Aは \({}_{3}^{6}\text{Li} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{1}^{3}\text{H}\) です。
反応によって生じるエネルギー \(\Delta E\) は、反応後の結合エネルギーの総和 \(E_{\text{後}}\) から、反応前の結合エネルギーの総和 \(E_{\text{前}}\) を引いた差として与えられます。
$$ \Delta E = E_{\text{後}} – E_{\text{前}} $$
ここで、反応前後の結合エネルギーの総和はそれぞれ以下のようになります。
$$ E_{\text{前}} = E_{{}_{3}^{6}\text{Li}} + E_{{}_{0}^{1}\text{n}} $$
$$ E_{\text{後}} = E_{{}_{2}^{4}\text{He}} + E_{{}_{1}^{3}\text{H}} $$
したがって、\(\Delta E\) を計算するための最終的な式は次のようになります。
$$ \Delta E = (E_{{}_{2}^{4}\text{He}} + E_{{}_{1}^{3}\text{H}}) – (E_{{}_{3}^{6}\text{Li}} + E_{{}_{0}^{1}\text{n}}) $$
使用した物理公式
- 核反応エネルギー: \(Q = (\text{生成核の結合エネルギーの和}) – (\text{入射核の結合エネルギーの和})\)
与えられた値 \(E_{{}_{3}^{6}\text{Li}} = 32.0 \text{ MeV}\), \(E_{{}_{0}^{1}\text{n}} = 0 \text{ MeV}\), \(E_{{}_{2}^{4}\text{He}} = 28.3 \text{ MeV}\), \(E_{{}_{1}^{3}\text{H}} = 8.5 \text{ MeV}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= (28.3 + 8.5) – (32.0 + 0) \\[2.0ex]&= 36.8 – 32.0 \\[2.0ex]&= 4.8 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
核反応は、原子核の「組み替え」と考えることができます。組み替えによって、より安定な(=結合が強い)組み合わせができると、余ったエネルギーが放出されます。「結合の強さ」が結合エネルギーなので、反応後の全粒子の結合エネルギーの合計から、反応前の合計を引けば、放出されたエネルギーが計算できます。
核反応Aにより生じるエネルギーは \(4.8 \text{ MeV}\) です。計算結果が正の値なので、この反応はエネルギーを放出する「発熱反応」であることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
静止している原子核が分裂(核反応)して2つの粒子になるとき、運動量保存則から2つの粒子は互いに逆向きに、同じ大きさの運動量で飛び出します。この条件と、分裂で生じたエネルギーがすべて運動エネルギーになるというエネルギー保存則を連立させることで、各粒子の運動エネルギーを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則: \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)。静止系からの分裂なので \(0 = \vec{p}_{He} + \vec{p}_{H}\) となり、運動量の大きさは等しい \(p_{He} = p_H\)。
- エネルギー保存則: \(\Delta E = K_{He} + K_H\)。
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)。
- これらの関係から、静止系からの2体分裂では、運動エネルギーは質量の逆比に分配されることが導かれます。(\(K_{He} : K_H = m_H : m_{He}\))
具体的な解説と立式
反応前の系は静止していると考え、生成された\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{1}^{3}\text{H}\)の質量を \(m_{He}\), \(m_H\)、運動量を \(p_{He}\), \(p_H\)、運動エネルギーを \(K_{He}\), \(K_H\) とします。
物理法則から以下の式が立てられます。
運動量保存則より、
$$ p_{He} = p_H \quad \cdots ① $$
エネルギー保存則より、
$$ \Delta E = K_{He} + K_H \quad \cdots ② $$
運動エネルギーと運動量の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) を用いて、②を運動量で表します。
$$ \Delta E = \frac{p_{He}^2}{2m_{He}} + \frac{p_H^2}{2m_H} $$
この式に①を代入して \(p_{He}\) を消去し、\(K_H = \displaystyle\frac{p_H^2}{2m_H}\) との関係を使って、求めたい \(K_H\) の式を導きます。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= \frac{p_H^2}{2m_{He}} + \frac{p_H^2}{2m_H} \\[2.0ex]&= \left(\frac{1}{m_{He}} + \frac{1}{m_H}\right) \frac{p_H^2}{2} \\[2.0ex]&= \frac{m_H+m_{He}}{m_{He}m_H} \frac{p_H^2}{2} \\[2.0ex]&= \frac{m_H+m_{He}}{m_{He}} \left( \frac{p_H^2}{2m_H} \right) \\[2.0ex]&= \frac{m_H+m_{He}}{m_{He}} K_H
\end{aligned}
$$
したがって、\(K_H\) を計算するための最終的な式は次のようになります。
$$ K_H = \frac{m_{He}}{m_{He}+m_H} \Delta E $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)
- エネルギー保存則: \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
導出した式に、与えられた値 \(m_{He} = 4.0\text{u}\), \(m_H = 3.0\text{u}\), \(\Delta E = 4.8 \text{ MeV}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
K_H &= \frac{4.0}{4.0+3.0} \times 4.8 \\[2.0ex]&= \frac{4.0}{7.0} \times 4.8 \\[2.0ex]&= \frac{19.2}{7.0} \\[2.0ex]&\approx 2.742… \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
問題の指示に従い、小数第1位まで求めると \(2.7 \text{ MeV}\) となります。
静止した物体が2つに分裂するとき、軽い破片と重い破片では、運動量は同じ大きさになります(運動量保存)。しかし運動エネルギーは \(K=p^2/2m\) なので、質量が小さい(軽い)方がより多くのエネルギーをもらって速く飛び出します。この問題では、\({}_{1}^{3}\text{H}\)(質量3.0u)と\({}_{2}^{4}\text{He}\)(質量4.0u)に分裂するので、全エネルギー4.8 MeVを質量の逆比 \(4.0 : 3.0\) で分け合います。\({}_{1}^{3}\text{H}\)がもらうエネルギーは、\(4.8 \times \displaystyle\frac{4.0}{3.0+4.0}\) で計算できます。
\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギーは \(2.7 \text{ MeV}\) です。これは全エネルギー \(4.8 \text{ MeV}\) の半分以上であり、質量の小さい\({}_{1}^{3}\text{H}\)の方が質量の大きい\({}_{2}^{4}\text{He}\)より多くの運動エネルギーを得るという物理的直感と一致しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
この設問は、(2)で運動エネルギーを得た\({}_{1}^{3}\text{H}\)が、今度は入射粒子となって静止している\({}_{1}^{2}\text{H}\)と核反応Bを起こすシナリオです。反応後に生成される\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動エネルギーの和を求めます。これは、系の全エネルギーが保存されることを利用して計算できます。反応後の運動エネルギーの総和は、反応前の運動エネルギー(入射粒子の運動エネルギー)と、核反応B自体で放出されるエネルギーの和に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: \((\text{反応前の運動エネルギーの和}) + (\text{核反応で生じるエネルギー}) = (\text{反応後の運動エネルギーの和})\)
- まず、核反応Bで生じるエネルギー \(\Delta E’\) を(1)と同様に結合エネルギーの差から計算する必要があります。
具体的な解説と立式
Step 1: 核反応Bで生じるエネルギー \(\Delta E’\) の立式
核反応Bは \({}_{1}^{3}\text{H} + {}_{1}^{2}\text{H} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{0}^{1}\text{n}\) です。
生じるエネルギー \(\Delta E’\) は、(1)と同様に、反応前後の結合エネルギーの差で与えられます。
$$ \Delta E’ = (E_{{}_{2}^{4}\text{He}} + E_{{}_{0}^{1}\text{n}}) – (E_{{}_{1}^{3}\text{H}} + E_{{}_{1}^{2}\text{H}}) \quad \cdots ① $$
Step 2: 生成物の運動エネルギーの和 \(E_B\) の立式
エネルギー保存則より、反応後の全運動エネルギー \(E_B\) は、反応前の全運動エネルギー(入射粒子\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギー \(K_H\))と、核反応で生じるエネルギー \(\Delta E’\) の和に等しくなります。
$$ K_H + (\text{反応物の静止エネルギーの和}) = E_B + (\text{生成物の静止エネルギーの和}) $$
ここで、反応エネルギー \(\Delta E’\) は静止エネルギーの差なので、
$$ \Delta E’ = (\text{反応物の静止エネルギーの和}) – (\text{生成物の静止エネルギーの和}) $$
したがって、求める運動エネルギーの和 \(E_B\) の式は、
$$ E_B = K_H + \Delta E’ \quad \cdots ② $$
となります。
使用した物理公式
- 核反応エネルギー: \(Q = (\text{生成核の結合エネルギーの和}) – (\text{入射核の結合エネルギーの和})\)
- エネルギー保存則: \(K_{\text{前}} + Q = K_{\text{後}}\)
\(\Delta E’\) の計算:
①式に与えられた値 \(E_{{}_{2}^{4}\text{He}} = 28.3 \text{ MeV}\), \(E_{{}_{0}^{1}\text{n}} = 0 \text{ MeV}\), \(E_{{}_{1}^{3}\text{H}} = 8.5 \text{ MeV}\), \(E_{{}_{1}^{2}\text{H}} = 2.2 \text{ MeV}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E’ &= (28.3 + 0) – (8.5 + 2.2) \\[2.0ex]&= 28.3 – 10.7 \\[2.0ex]&= 17.6 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
\(E_B\) の計算:
②式に、(2)の結果 \(K_H \approx 2.74 \text{ MeV}\)(途中の値を使用)と、上で求めた \(\Delta E’ = 17.6 \text{ MeV}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
E_B &= 2.74 + 17.6 \\[2.0ex]&= 20.34 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
問題の指示に従い、小数第1位まで求めると \(20.3 \text{ MeV}\) となります。
(2)で飛び出してきた\({}_{1}^{3}\text{H}\)という「弾丸」(運動エネルギー約2.7 MeV)が、静止している\({}_{1}^{2}\text{H}\)という「的」に命中して核反応が起きた、と考えます。この核反応自体が新たに17.6 MeVのエネルギーを生み出します。したがって、反応後に飛び散る破片(\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\))が持つ運動エネルギーの合計は、もともとあった弾丸のエネルギーと、反応で新たに生まれたエネルギーの合計になります。
核反応Bの結果生じる運動エネルギーの和は \(20.3 \text{ MeV}\) です。これは入射エネルギーと反応エネルギーの単純な和であり、エネルギー保存則に基づいた妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)の状況で、生成物の一つである\({}_{0}^{1}\text{n}\)が、入射\({}_{1}^{3}\text{H}\)の進行方向と直角に飛び出した、という条件が追加されました。これは2次元の衝突問題であり、運動量保存則をベクトルとして(つまり、x成分とy成分に分けて)考える必要があります。この運動量保存則の式とエネルギー保存則の式を連立させることで、\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動エネルギーを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則をベクトルで考える: \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)。
- 入射方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定すると計算がしやすい。
- エネルギー保存則: \(K_{\text{前}} + \Delta E’ = K_{\text{後}}\)。ここで \(K_{\text{後}} = K_{He} + K_n\)。
- 運動エネルギーと運動量の関係 \(p^2 = 2mK\) を利用して、運動量の式をエネルギーの式に変換する。
具体的な解説と立式
入射粒子\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動量を \(\vec{p}_H\)、生成粒子\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動量を \(\vec{p}_{He}\), \(\vec{p}_n\)とします。入射方向をx軸、\({}_{0}^{1}\text{n}\)の放出方向をy軸とします。
運動量保存則 \(\vec{p}_H = \vec{p}_{He} + \vec{p}_n\) を成分で書くと、
$$ p_{H,x} = p_{He,x} + p_{n,x} $$
$$ p_{H,y} = p_{He,y} + p_{n,y} $$
設定した座標系では \(p_{H,x}=p_H, p_{H,y}=0, p_{n,x}=0, p_{n,y}=p_n\) となるので、
$$ p_H = p_{He,x} \quad \cdots (a) $$
$$ 0 = p_{He,y} + p_n \quad \cdots (b) $$
\(\vec{p}_{He}\) の大きさの2乗は三平方の定理より \(p_{He}^2 = p_{He,x}^2 + p_{He,y}^2\) です。ここに(a), (b)を代入すると、
$$ p_{He}^2 = p_H^2 + (-p_n)^2 = p_H^2 + p_n^2 \quad \cdots ① $$
この運動量の関係式を、運動エネルギーの関係式に変換します。\(p^2=2mK\) を用いると、
$$ 2m_{He}K_{He} = 2m_H K_H + 2m_n K_n $$
これを \(K_{He}\) について整理すると、
$$ K_{He} = \frac{m_H}{m_{He}}K_H + \frac{m_n}{m_{He}}K_n \quad \cdots ② $$
一方、エネルギー保存則より、(3)で求めた全運動エネルギー \(E_B\) は生成物の運動エネルギーの和に等しくなります。
$$ E_B = K_{He} + K_n \quad \cdots ③ $$
②を③に代入して \(K_{He}\) を消去し、求めたい \(K_n\) の式を導きます。
$$
\begin{aligned}
E_B &= \left( \frac{m_H}{m_{He}}K_H + \frac{m_n}{m_{He}}K_n \right) + K_n \\[2.0ex]E_B – \frac{m_H}{m_{He}}K_H &= \left( \frac{m_n}{m_{He}} + 1 \right) K_n \\[2.0ex]E_B – \frac{m_H}{m_{He}}K_H &= \frac{m_{He}+m_n}{m_{He}} K_n
\end{aligned}
$$
したがって、\(K_n\) を計算するための最終的な式は次のようになります。
$$ K_n = \frac{m_{He}}{m_{He}+m_n} \left( E_B – \frac{m_H}{m_{He}}K_H \right) $$
使用した物理公式
- 運動量保存則(ベクトル): \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)
- エネルギー保存則: \(K_{\text{前}} + Q = K_{\text{後}}\)
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(p^2 = 2mK\)
導出した式に、各値を代入します。\(m_H = 3.0\text{u}\), \(m_{He} = 4.0\text{u}\), \(m_n = 1.0\text{u}\)。
(2)より \(K_H \approx 2.74 \text{ MeV}\)、(3)より \(E_B \approx 20.34 \text{ MeV}\) です。
$$
\begin{aligned}
K_n &= \frac{4.0}{4.0+1.0} \left( 20.34 – \frac{3.0}{4.0} \times 2.74 \right) \\[2.0ex]&= \frac{4.0}{5.0} ( 20.34 – 0.75 \times 2.74 ) \\[2.0ex]&= 0.8 \times ( 20.34 – 2.055 ) \\[2.0ex]&= 0.8 \times 18.285 \\[2.0ex]&= 14.628 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
問題の指示に従い、小数第1位まで求めると \(14.6 \text{ MeV}\) となります。
ビリヤードの球がぶつかるような2次元の衝突を考えます。このとき、「運動量」という「勢い」は、x方向とy方向のそれぞれで保存されます。また、全体のエネルギーも保存されます。今回は、\({}_{0}^{1}\text{n}\)が真横(y方向)に飛び出したという特別なケースなので、運動量保存の式が立てやすくなります。運動量保存の式とエネルギー保存の式という2つのルールを組み合わせることで、未知数である\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動エネルギーをパズルのように解くことができます。
\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動エネルギーは \(14.6 \text{ MeV}\) です。このとき、\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動エネルギーは \(K_{He} = E_B – K_n \approx 20.34 – 14.63 = 5.71 \text{ MeV}\) となります。どちらも正の値であり、物理的に矛盾のない結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 核反応エネルギー(Q値)と結合エネルギーの関係:
- 核心: 核反応で放出・吸収されるエネルギーは、反応前後の「結合エネルギー」の差で決まります。\(Q = (\text{生成物の結合エネルギーの和}) – (\text{反応物の結合エネルギーの和})\)。結合エネルギーが大きいほど安定(エネルギーが低い)という概念が重要です。
- 理解のポイント: (1)と(3)では、この法則を直接使って反応エネルギーを計算します。原子核がより安定な組み合わせに変わるとき、その差額が運動エネルギーなどの形で放出されるというイメージを持つことが大切です。
- 運動量保存則:
- 核心: 外力が働かない限り、核反応の前後で系の全運動量ベクトルは保存されます。(\(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\))。
- 理解のポイント: (2)の静止系からの分裂では、生成物は互いに逆向きに同じ大きさの運動量で飛び出します。 (4)の2次元衝突では、運動量をx, y成分に分けて保存則を立てる必要があります。運動量がスカラー量ではなくベクトル量であることが常に鍵となります。
- エネルギー保存則:
- 核心: 核反応を含めた系の全エネルギー(運動エネルギー+静止エネルギー)は保存されます。これは、\((\text{反応前の運動エネルギーの和}) + Q = (\text{反応後の運動エネルギーの和})\) という、運動エネルギーと反応エネルギーの関係式で表現されます。
- 理解のポイント: (2), (3), (4)すべての設問で、運動エネルギーの分配や計算の根幹をなす最重要法則です。反応エネルギーQ値が運動エネルギーに変換されたり、入射粒子の運動エネルギーにQ値が加算されたりする形で現れます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- α崩壊、β崩壊: これらも静止した原子核からの2体(または3体)分裂と見なせます。運動量保存則とエネルギー保存則の適用方法は(2)と全く同じです。
- 光子の放出・吸収を伴う反応: 光子も運動量(\(p=h/\lambda\))とエネルギー(\(E=h\nu\))を持つ粒子として扱います。運動量保存とエネルギー保存を立てるという基本方針は変わりません。
- 相対論的エネルギーを考慮する問題: 粒子の速度が光速に近くなると、運動エネルギーの計算に \(K = (\gamma – 1)mc^2\) が必要になりますが、基本的な保存則の考え方は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 反応の種類を特定する: まず、反応が「静止系からの分裂」なのか、「運動する粒子と静止標的の衝突」なのかを把握します。これにより運動量保存則の初期条件が決まります。
- エネルギーの出入りを整理する: 反応でエネルギーが放出されるのか(Q>0)、吸収されるのか(Q<0)を最初に計算します。また、入射粒子が運動エネルギーを持っているかを確認し、全エネルギーの流れを明確にすることが重要です。
- 次元を見極める: (2)のように一直線上の運動(1次元)か、(4)のように平面上の運動(2次元)かを見極めます。2次元の場合は、必ず座標軸を設定し、運動量を成分分解して考えることが定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 結合エネルギーと放出エネルギーの符号:
- 誤解: 結合エネルギーの差を計算するときに、(反応前) – (反応後) としてしまい、符号を間違える。
- 対策: 「生成物がより安定(結合エネルギー大)ならエネルギーが放出される」と物理的意味で覚えましょう。したがって、放出エネルギーは「後」-「前」で計算すると正しく求まります。
- 運動エネルギーの分配:
- 誤解: (2)の分裂で、生じたエネルギー \(\Delta E\) が質量に比例して分配されると勘違いする。
- 対策: 正しくは「質量の逆比」に分配されます。運動量 \(p\) が等しいとき、\(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) なので、\(K\) は \(\displaystyle\frac{1}{m}\) に比例します。「軽い方が速く、多くの運動エネルギーを持つ」とイメージしましょう。
- 運動量のベクトル性:
- 誤解: (4)のような2次元衝突で、運動量の大きさをスカラー量として足し引きしてしまう(例: \(p_H = p_{He} + p_n\))。
- 対策: 運動量はベクトル量であることを常に意識してください。必ず図を描き、x成分とy成分に分けて運動量保存則の式を立てる習慣をつけましょう。三平方の定理が鍵になることが多いです。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギー準位図: (1)のように、反応物と生成物の結合エネルギー(または静止エネルギー)を縦軸にとった図を描くと、放出エネルギー \(\Delta E\) が準位の差として視覚的に理解できます。
- 運動量ベクトル図: (4)では、運動量保存則 \(\vec{p}_H = \vec{p}_{He} + \vec{p}_n\) をベクトル図で描くことが極めて有効です。入射\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動量ベクトルを斜辺とし、生成された\({}_{0}^{1}\text{n}\)と\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動量ベクトルを他の2辺とする三角形(この問題では直角三角形)を描くことで、辺の長さの関係(運動量の大きさの関係)が一目瞭然となります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 座標軸の設定: 2次元の問題では、入射方向をx軸に取るなど、計算が簡単になるように座標軸を明確に設定し、図に書き込みましょう。
- 既知と未知の区別: 図中のベクトルや角度のうち、何が既知で何が未知かを明確に区別して描くと、立式の方針が立てやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 結合エネルギーの差:
- 選定理由: (1), (3)で核反応によって出入りするエネルギー(Q値)を求めるため。質量欠損が与えられていない場合、これが唯一の計算方法です。
- 適用根拠: エネルギー保存則と質量のエネルギー等価性(\(E=mc^2\))から導かれる、核物理学の基本法則です。
- 運動量保存則:
- 選定理由: (2), (4)で反応前後の粒子の運動の関係を記述するため。特に、分裂後の速度やエネルギーの分配比を決定するのに不可欠です。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則から導かれる、力学における普遍的な保存則であり、核反応のような内力のみが働く系で厳密に成り立ちます。
- エネルギー保存則(運動エネルギーに着目):
- 選定理由: (2), (3), (4)で、Q値や入射エネルギーが、最終的に生成物の運動エネルギーにどう変換されるかを記述するために用います。
- 適用根拠: 熱の発生などがない理想的な核反応では、静止エネルギーの変化分と運動エネルギーの変化分の和がゼロになるという、より広義のエネルギー保存則の現れです。
- \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\):
- 選定理由: (2), (4)で、運動量保存則から得られた運動量の関係式を、エネルギー保存則で使うエネルギーの式に変換するために使用します。2つの保存則を結びつける「橋渡し」の役割を果たします。
- 適用根拠: 運動エネルギーと運動量の定義式から導かれる基本的な関係式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 反応エネルギー:
- 戦略: 結合エネルギーの定義に従い、差を計算する。
- フロー: ①反応式を確認。②生成物の結合エネルギーの和を計算。③反応物の結合エネルギーの和を計算。④ ②から③を引く。
- (2) 分裂後の運動エネルギー:
- 戦略: 運動量保存とエネルギー保存を連立する。
- フロー: ①運動量保存から \(p_H = p_{He}\) を立てる。②エネルギー保存から \(\Delta E = K_H + K_{He}\) を立てる。③ \(K=\displaystyle\frac{p^2}{2m}\) を使い、①と②から \(K_{He}\) を消去して \(K_H\) を求める式を導出。④導出した式に数値を代入して計算。
- (3) 衝突後の全運動エネルギー:
- 戦略: 入射エネルギーと反応エネルギーを足し合わせる。
- フロー: ①核反応Bの反応エネルギー \(\Delta E’\) を(1)と同様に計算。②(2)で求めた入射エネルギー \(K_H\) と \(\Delta E’\) を足す。
- (4) 2次元衝突後の運動エネルギー:
- 戦略: 運動量保存(ベクトル)とエネルギー保存を連立する。
- フロー: ①座標軸を設定。②運動量保存をx, y成分で立式。③三平方の定理で運動量の大きさの関係式を導出。④ \(p^2=2mK\) でエネルギーの式に変換。⑤エネルギー保存則と連立し、未知の運動エネルギーを求める式を導出。⑥導出した式に数値を代入して計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の統一: この問題ではエネルギーはすべてMeV、質量はuで与えられており、計算がしやすい設定になっています。もし質量がkgで与えられていたら、\(E=mc^2\) でJに変換し、さらにeVに換算する必要があるなど、単位換算のミスに注意が必要です。
- 有効数字の扱い: 問題文に「小数第1位まで求めよ」と指示があります。計算の途中では、もう1〜2桁多く(例: 2.74 MeV)保持しておき、最後の答えを出すときに四捨五入しましょう。これにより、途中計算での丸め誤差を防げます。
- 式の代入と整理: (4)のように複数の式を連立させる場合、どの変数を消去して何を求めるのか、方針を明確にしてから式変形を始めましょう。やみくもに代入すると式が複雑になり、計算ミスを誘発します。
- 検算: (2)で求めた \(K_H\) を使って \(K_{He}\) も計算し、\(K_H + K_{He}\) が \(\Delta E\) になるか確認します。(4)で求めた \(K_n\) を使って \(K_{He}\) を計算し、\(K_n + K_{He}\) が \(E_B\) になるか確認することで、計算の信頼性を高めることができます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) \(\Delta E = 4.8 \text{ MeV}\): 正の値であり、発熱反応です。核分裂や核融合では数MeV〜数百MeVのエネルギーが出入りするのが一般的であり、桁数として妥当です。
- (2) \(K_H = 2.7 \text{ MeV}\): 全エネルギー \(4.8 \text{ MeV}\) のうち、軽い方の\({}_{1}^{3}\text{H}\)が半分以上(\(2.7/4.8 \approx 56\%\))のエネルギーを得ています。これは「運動エネルギーは質量の逆比に分配される」という法則と一致しており、妥当です。
- (4) \(K_n = 14.6 \text{ MeV}\): 全運動エネルギー \(20.3 \text{ MeV}\) の大部分を、最も軽い\({}_{0}^{1}\text{n}\)が持っていっています。これも物理的に理にかなっています。また、\(K_n\) と \(K_{He}\) はどちらも正の値であり、矛盾はありません。
- 極端な場合を考える:
- もし(2)で分裂する2つの粒子の質量が等しかったら、エネルギーはちょうど半分ずつに分配されるはずです。導出した式 \(K_H = \displaystyle\frac{m_{He}}{m_{He}+m_H} \Delta E\) で \(m_H=m_{He}\) とおくと、\(K_H = \displaystyle\frac{1}{2}\Delta E\) となり、正しいことが確認できます。このような思考実験は、式の妥当性を確認するのに役立ちます。
問題157 (同志社大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、がん治療の一種である中性子捕捉療法を題材に、核反応に伴う物理現象を問うものです。質量とエネルギーの等価性、荷電粒子の加速、静電エネルギー、運動量保存則、光子の性質、そしてエネルギーの減衰といった、原子物理の幅広い知識が試されます。
- 光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)
- クーロンの法則の比例定数: \(k_0 = 9.0 \times 10^9 \text{ N} \cdot \text{m}^2/\text{C}^2\)
- 電気素量: \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
- プランク定数: \(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ J} \cdot \text{s}\)
- 反応1 (γ線なし): \({}_{0}^{1}\text{n} + {}_{5}^{10}\text{B} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{3}^{7}\text{Li}\)
- 発生エネルギー: \(E = 4.0 \times 10^{-13} \text{ J}\)
- 反応2 (γ線あり): \({}_{0}^{1}\text{n} + {}_{5}^{10}\text{B} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{3}^{7}\text{Li} + \gamma\)
- γ線エネルギー: \(E_\gamma = 7.7 \times 10^{-14} \text{ J}\)
- 減速過程:
- エネルギー半減距離: \(d_{1/2} = 2.0 \times 10^{-6} \text{ m}\)
- ア: エネルギー \(4.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) に等価な質量。
- イ: このエネルギーを陽子に与えるための加速電圧。
- ウ: \({}_{2}^{4}\text{He}\)の静電エネルギーが \(6.4 \times 10^{-15} \text{ J}\) となる\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の間の距離。
- エ: \({}_{3}^{7}\text{Li}\)の速さの、\({}_{2}^{4}\text{He}\)の速さに対する比。
- オ: \({}_{3}^{7}\text{Li}\)の運動エネルギーの、\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動エネルギーに対する比。
- カ: エネルギー \(7.7 \times 10^{-14} \text{ J}\) のγ線の振動数。
- キ: このγ線の運動量。
- ク: 運動エネルギーがもとの \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になるまでの距離。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「核反応におけるエネルギーと運動量の保存、および関連する物理法則の応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量とエネルギーの等価性: アインシュタインの有名な関係式 \(E=mc^2\) を用いて、エネルギーと質量を相互に変換します。
- 荷電粒子のエネルギーと電位差: 電荷 \(q\) の粒子を電圧 \(V\) で加速したときに得るエネルギーは \(E=qV\) で与えられます。
- 静電気力による位置エネルギー: 2つの点電荷 \(q_1, q_2\) が距離 \(r\) だけ離れているときの位置エネルギーは \(U=k_0 \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r}\) で計算されます。
- 運動量保存則: 反応の前後で系の全運動量は保存されます。静止系からの分裂では、生成物の運動量のベクトル和はゼロになります。
- 光子のエネルギーと運動量: 光子のエネルギーは \(E=h\nu\)、運動量は \(p=E/c\) で与えられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問アからウは、与えられたエネルギーの値と、各物理現象に対応する公式を直接結びつけて解きます。
- 問エ、オは、静止系からの分裂という条件の下で運動量保存則を適用し、分裂後の粒子の速さと運動エネルギーの比を導出します。
- 問カ、キは、γ線を光子とみなし、そのエネルギーと運動量に関する公式を適用します。
- 問クは、半減期の概念を応用し、エネルギーが特定の割合まで減少するのに必要な距離を求めます。
問ア
思考の道筋とポイント
エネルギーと質量が等価であることを示す、アインシュタインの有名な関係式 \(E=mc^2\) を用いて、与えられたエネルギーに相当する質量を計算します。
この設問における重要なポイント
- 質量とエネルギーの等価性の公式 \(E=mc^2\) を正しく適用すること。
- \(E\) はエネルギー[J]、\(m\) は質量[kg]、\(c\) は光速[m/s]であり、単位を正しく扱うこと。
具体的な解説と立式
質量とエネルギーの等価性を表す式は、
$$ E = mc^2 $$
です。この式を質量 \(m\) について解くことで、エネルギー \(E\) に等価な質量を求める式を立てます。
$$ m = \frac{E}{c^2} $$
使用した物理公式
- 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
立式した式に、与えられたエネルギー \(E = 4.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) と光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{4.0 \times 10^{-13}}{(3.0 \times 10^8)^2} \\[2.0ex]&= \frac{4.0 \times 10^{-13}}{9.0 \times 10^{16}} \\[2.0ex]&\approx 0.444 \times 10^{-29} \text{ [kg]} \\[2.0ex]&= 4.44 \times 10^{-30} \text{ [kg]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(4.4 \times 10^{-30} \text{ kg}\) となります。
「質量はエネルギーの塊である」というアインシュタインの考え方に基づいています。非常に大きなエネルギーも、質量に換算するとごくわずかになります。この問題では、核反応で生じたエネルギーが、どれくらいの質量の減少に対応するのかを計算しています。
発生エネルギー \(4.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) に等価な質量は \(4.4 \times 10^{-30} \text{ kg}\) です。原子核レベルの反応で変化する質量は非常に小さいという事実と一致しており、妥当な結果です。
問イ
思考の道筋とポイント
電荷を持つ粒子が電場(電位差)によって加速される際に得るエネルギーを計算する問題です。荷電粒子が得るエネルギーは、その粒子の電荷と、通過した電位差(電圧)の積で与えられます。
この設問における重要なポイント
- 陽子(\({}_{1}^{1}\text{H}\)の原子核)の電荷が電気素量 \(e\) に等しいことを理解していること。
- 荷電粒子のエネルギーの公式 \(E=qV\) を正しく用いること。
具体的な解説と立式
電荷 \(q\) を持つ粒子が電圧 \(V\) で加速されるときに得るエネルギー \(E\) は、
$$ E = qV $$
で与えられます。問題では、陽子を加速するため、その電荷は \(q = e\) となります。
$$ E = eV $$
この式を加速電圧 \(V\) について解くことで、求める式を立てます。
$$ V = \frac{E}{e} $$
使用した物理公式
- 荷電粒子が電場から得るエネルギー: \(E=qV\)
立式した式に、与えられたエネルギー \(E = 4.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) と電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{4.0 \times 10^{-13}}{1.6 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]&= 2.5 \times 10^6 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
電圧とは「1クーロンの電荷を運ぶのに必要なエネルギー」と考えることができます。この問題では、まず「陽子1個(電荷は\(1.6 \times 10^{-19}\)クーロン)に \(4.0 \times 10^{-13}\)ジュールのエネルギーを与えるには、どれくらいの電圧が必要か?」を逆算しています。
必要な加速電圧は \(2.5 \times 10^6 \text{ V}\) (2.5メガボルト)です。MeVオーダーのエネルギーを粒子に与えるには、MVオーダーの非常に高い電圧が必要となることがわかり、物理的に妥当な値です。
問ウ
思考の道筋とポイント
2つの点電荷間に働く静電気力による位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)に関する問題です。クーロンの法則から導かれる位置エネルギーの公式を用いて、特定のエネルギー値を持つときの電荷間の距離を計算します。
この設問における重要なポイント
- 原子核の電荷を、原子番号から正しく判断すること。\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の電荷は \(+3e\)、\({}_{2}^{4}\text{He}\)の電荷は \(+2e\) となります。
- 静電気力による位置エネルギーの公式 \(U = k_0 \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r}\) を正しく用いること。
具体的な解説と立式
電気量 \(q_1\), \(q_2\) の2つの点電荷が距離 \(r\) だけ離れているときの静電気力による位置エネルギー \(U\) は、クーロンの法則の比例定数を \(k_0\) として、
$$ U = k_0 \frac{q_1 q_2}{r} $$
で与えられます。この問題では、\(q_1 = 3e\) (\({}_{3}^{7}\text{Li}\)原子核)、\(q_2 = 2e\) (\({}_{2}^{4}\text{He}\)原子核)です。
$$ U = k_0 \frac{(3e)(2e)}{r} $$
この式を距離 \(r\) について解くことで、求める式を立てます。
$$ r = k_0 \frac{6e^2}{U} $$
使用した物理公式
- 静電気力による位置エネルギー: \(U = k_0 \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r}\)
立式した式に、与えられた位置エネルギー \(U = 6.4 \times 10^{-15} \text{ J}\)、クーロン定数 \(k_0 = 9.0 \times 10^9 \text{ N} \cdot \text{m}^2/\text{C}^2\)、電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{9.0 \times 10^9 \times 6 \times (1.6 \times 10^{-19})^2}{6.4 \times 10^{-15}} \\[2.0ex]&= \frac{9.0 \times 6 \times 2.56 \times 10^9 \times 10^{-38}}{6.4 \times 10^{-15}} \\[2.0ex]&= \frac{138.24 \times 10^{-29}}{6.4 \times 10^{-15}} \\[2.0ex]&= 21.6 \times 10^{-14} \text{ [m]} \\[2.0ex]&= 2.16 \times 10^{-13} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(2.2 \times 10^{-13} \text{ m}\) となります。
プラスの電気を帯びた2つの原子核が近づくと、お互いに反発し合います。この反発力に逆らって近づけるほど、たくさんのエネルギーが「位置エネルギー」として蓄えられます。この問題では、その蓄えられたエネルギーが特定の値になるときの、2つの原子核の間の距離を計算しています。
距離は \(2.2 \times 10^{-13} \text{ m}\) となりました。これは原子核の大きさに近いオーダーの非常に短い距離であり、核力の働く領域に関連する値として物理的に妥当です。
問エ, オ
思考の道筋とポイント
静止していた系が2つの粒子に分裂する、典型的な力学の問題です。このとき、運動量保存則が成り立ちます。この法則から、分裂後の2つの粒子の速さの比と運動エネルギーの比を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 反応前の運動量はゼロとみなせること(低速中性子の運動量は無視)。
- 運動量保存則より、分裂後の2粒子の運動量の大きさは等しく、向きは逆になる。
- 運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) で計算されるため、運動量の大きさが同じなら、運動エネルギーは質量に反比例する。
- 原子核の質量は、その質量数で近似してよい。(\(m_{Li} \approx 7\text{u}\), \(m_{He} \approx 4\text{u}\))
具体的な解説と立式
\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の質量を \(m_{Li}\)、速さを \(v_{Li}\)、運動エネルギーを \(K_{Li}\) とします。\({}_{2}^{4}\text{He}\)についても同様に \(m_{He}\), \(v_{He}\), \(K_{He}\) とします。
反応前の運動量はゼロなので、運動量保存則より、
$$ 0 = m_{Li}v_{Li} – m_{He}v_{He} $$
この式から、運動量の大きさが等しいことがわかります。
$$ m_{Li}v_{Li} = m_{He}v_{He} \quad \cdots ① $$
問エ(速さの比):
①式を変形して、\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の速さ \(v_{Li}\) と \({}_{2}^{4}\text{He}\)の速さ \(v_{He}\) の比を求める式を立てます。
$$ \frac{v_{Li}}{v_{He}} = \frac{m_{He}}{m_{Li}} $$
問オ(運動エネルギーの比):
運動エネルギーの比 \(\displaystyle\frac{K_{Li}}{K_{He}}\) は、定義より、
$$ \frac{K_{Li}}{K_{He}} = \frac{\frac{1}{2}m_{Li}v_{Li}^2}{\frac{1}{2}m_{He}v_{He}^2} $$
この式に、①から得られる \(v_{Li} = \frac{m_{He}}{m_{Li}}v_{He}\) の関係を代入して変形します。
$$
\begin{aligned}
\frac{K_{Li}}{K_{He}} &= \frac{m_{Li}}{m_{He}} \left( \frac{v_{Li}}{v_{He}} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{m_{Li}}{m_{He}} \left( \frac{m_{He}}{m_{Li}} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{m_{He}}{m_{Li}}
\end{aligned}
$$
したがって、運動エネルギーの比を求める式も、速さの比と同じ形になります。
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
質量を質量数で近似し、\(m_{Li} \approx 7\), \(m_{He} \approx 4\) として計算します。
問エ:
$$
\begin{aligned}
\frac{v_{Li}}{v_{He}} &= \frac{4}{7} \\[2.0ex]&\approx 0.5714…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(0.57\) 倍、つまり \(5.7 \times 10^{-1}\) 倍となります。
問オ:
$$
\begin{aligned}
\frac{K_{Li}}{K_{He}} &= \frac{4}{7} \\[2.0ex]&\approx 0.5714…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(0.57\) 倍、つまり \(5.7 \times 10^{-1}\) 倍となります。
静止した状態から2つの物体が反対方向に飛び出すとき、運動量を保存するため「重いものは遅く、軽いものは速く」なります。その速さの比は、質量の逆比になります(問エ)。また、運動エネルギーは速さの2乗と質量に比例しますが、これを計算すると、結局運動エネルギーの比も質量の逆比になることがわかります(問オ)。つまり、軽い方がより多くの運動エネルギーをもらいます。
\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の速さは\({}_{2}^{4}\text{He}\)の速さの \(5.7 \times 10^{-1}\) 倍、運動エネルギーも\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動エネルギーの \(5.7 \times 10^{-1}\) 倍となります。どちらも1より小さい値であり、質量の大きい\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の方が遅く、運動エネルギーも小さいという物理的直感と一致しています。
問カ
思考の道筋とポイント
光子(この問題ではγ線)のエネルギーと振動数の関係を表す、プランクの公式 \(E=h\nu\) を用います。
この設問における重要なポイント
- γ線が電磁波(光子)の一種であることを理解していること。
- 光子のエネルギーと振動数の関係式 \(E=h\nu\) を正しく用いること。
具体的な解説と立式
光子のエネルギー \(E\) と振動数 \(\nu\) の関係は、プランク定数 \(h\) を用いて、
$$ E = h\nu $$
と表されます。この式を振動数 \(\nu\) について解くことで、求める式を立てます。
$$ \nu = \frac{E}{h} $$
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \(E=h\nu\)
立式した式に、与えられたγ線のエネルギー \(E_\gamma = 7.7 \times 10^{-14} \text{ J}\) とプランク定数 \(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ J} \cdot \text{s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\nu &= \frac{7.7 \times 10^{-14}}{6.6 \times 10^{-34}} \\[2.0ex]&\approx 1.166 \times 10^{20} \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(1.2 \times 10^{20} \text{ Hz}\) となります。
光のエネルギーは、その「波」が1秒間に振動する回数(振動数)に比例します。この関係を結びつけているのがプランク定数です。この問題では、γ線という非常にエネルギーの高い光が、1秒間に何回振動しているのかを計算しています。
振動数は \(1.2 \times 10^{20} \text{ Hz}\) となりました。γ線は電磁波の中でも特にエネルギーが高いため、振動数も非常に大きな値となります。この結果は物理的に妥当です。
問キ
思考の道筋とポイント
光子のエネルギーと運動量の関係式 \(p=E/c\) を用いて、与えられたエネルギーを持つγ線の運動量を計算します。
この設問における重要なポイント
- 光子にも運動量があること。
- 光子の運動量、エネルギー、光速の関係式 \(p=E/c\) を正しく用いること。
具体的な解説と立式
光子の運動量 \(p\) は、そのエネルギー \(E\) と光速 \(c\) を用いて、
$$ p = \frac{E}{c} $$
と表されます。
使用した物理公式
- 光子の運動量: \(p = \displaystyle\frac{E}{c}\)
立式した式に、与えられたγ線のエネルギー \(E_\gamma = 7.7 \times 10^{-14} \text{ J}\) と光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{7.7 \times 10^{-14}}{3.0 \times 10^8} \\[2.0ex]&\approx 2.566 \times 10^{-22} \text{ [kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(2.6 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}\) となります。
質量がない光子も、エネルギーを持っているために運動量を持っています。その大きさは、エネルギーを光の速さで割ることで計算できます。
運動量は \(2.6 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}\) となりました。日常的な物体の運動量に比べて非常に小さい値ですが、ミクロな世界では重要な意味を持つ量です。
問ク
思考の道筋とポイント
放射性物質の半減期と同じ考え方を、エネルギーの減衰に適用する問題です。「ある一定距離を進むごとにエネルギーが半分になる」というルールを繰り返し適用して、エネルギーがもとの \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になるまでの総距離を求めます。
この設問における重要なポイント
- エネルギーがもとの \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になる、ということが、エネルギーが半分になるプロセスを何回繰り返したことに相当するかを正しく計算すること。
- \(\displaystyle\frac{1}{16} = \left(\frac{1}{2}\right)^4\) であることから、4回の「半減」が起きたと判断する。
具体的な解説と立式
エネルギーが半分になる距離(エネルギー半減距離)を \(d_{1/2}\) とします。
エネルギーが \(n\) 回半分になると、もとの \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^n\) になります。
問題では、エネルギーがもとの \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になる場合を考えます。
$$ \left(\frac{1}{2}\right)^n = \frac{1}{16} $$
ここで、\(\displaystyle\frac{1}{16} = \displaystyle\frac{1}{2^4} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^4\) なので、\(n=4\) 回の半減プロセスを経たことがわかります。
求める距離 \(L\) は、半減距離 \(d_{1/2}\) の \(n\) 倍なので、
$$ L = n \times d_{1/2} $$
となります。
使用した物理公式
- (公式ではないが)半減期の概念: \(N(t) = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{t/T}\)
立式した式に、\(n=4\) と、与えられた半減距離 \(d_{1/2} = 2.0 \times 10^{-6} \text{ m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= 4 \times (2.0 \times 10^{-6}) \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^{-6} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
「2.0マイクロメートル進むごとに、持っているエネルギーが半分になる」というルールがあります。エネルギーを元の16分の1にしたい場合、この「エネルギー半減」を何回繰り返せばよいかを考えます。1回で1/2、2回で1/4、3回で1/8、4回で1/16になるので、4回繰り返せばよいことがわかります。したがって、進む距離は「2.0マイクロメートル」の4倍になります。
求める距離は \(8.0 \times 10^{-6} \text{ m}\) (8.0マイクロメートル)です。この値は一般的な細胞の大きさ(十数マイクロメートル)の範囲内にあり、問題文の「人の細胞の大きさよりも小さい」という記述とも整合性がとれており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)):
- 核心: 質量とエネルギーは相互に変換可能な、同じものの異なる側面であるという原理です。核反応で発生する莫大なエネルギーは、反応前後のごくわずかな質量の差(質量欠損)に由来します。
- 理解のポイント: (ア)でこの法則を直接適用します。エネルギーの単位[J]、質量の単位[kg]、光速の単位[m/s]を正しく用いることが基本です。
- 運動量保存則:
- 核心: 外力が作用しない系において、反応や分裂の前後で全運動量のベクトル和は一定に保たれます。
- 理解のポイント: (エ)(オ)では、静止系(\(\vec{p}_{\text{前}}=0\))からの分裂を考えます。これにより、生成される2つの粒子は互いに逆向きに、同じ大きさの運動量で飛び出すことが導かれます。この「運動量の大きさが等しい」という条件が、速さや運動エネルギーの比を求める出発点となります。
- エネルギー保存則(広義):
- 核心: エネルギーは形態を変えるだけで、その総量は常に保存されます。この問題では、静止エネルギー、運動エネルギー、静電気力による位置エネルギー、光子のエネルギーなど、様々な形態のエネルギーが登場し、それらの総和が一定に保たれることを利用します。
- 理解のポイント: (イ)では電場のエネルギーが運動エネルギーに、(ウ)では静電エネルギーが特定の状況を規定し、(カ)(キ)では光子のエネルギーが他の物理量と結びつけられます。問題全体を貫く最も基本的な法則です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 対消滅・対生成: 電子と陽電子が対消滅してγ線になる、あるいはその逆の反応。質量が完全にエネルギー(光子)に変わる、またはその逆の現象であり、\(E=mc^2\) の典型的な応用例です。
- コンプトン効果: 光子が電子と衝突して散乱される現象。光子をエネルギーと運動量を持つ粒子として扱い、エネルギー保存則と運動量保存則を連立させて解く点で、(エ)(オ)や(キ)と考え方が共通しています。
- 放射性崩壊と半減期: (ク)のように、ある量が指数関数的に減少する現象全般に応用できます。コンデンサーの放電における電荷の減少や、減衰振動の振幅減少なども同じ数学モデルで記述されます。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの形態を特定する: 問題文で言及されているエネルギーが、何のエネルギー(運動エネルギー、位置エネルギー、静止エネルギー、光子のエネルギーなど)なのかを正確に把握します。
- 保存則の適用可能性を探る: 「衝突」「分裂」「反応」といったキーワードがあれば、運動量保存則とエネルギー保存則が適用できないか、まず考えます。特に「静止した状態から〜」という記述は、運動量保存則を使う強力なヒントです。
- 単位と定数を確認する: 問題で与えられている物理量の単位(JかeVか、など)と、使用する物理定数(\(h, c, e, k_0\)など)を最初に確認し、計算の際に単位系を統一する意識を持つことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 原子番号と電荷の混同:
- 誤解: (ウ)で\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の電荷を\(+7e\)など、質量数と混同してしまう。
- 対策: 原子核の電荷は、陽子の数、すなわち「原子番号」(左下の数字)で決まります。\({}_{Z}^{A}\text{X}\) の電荷は \(+Ze\) であることを徹底しましょう。
- 運動エネルギーの比の計算ミス:
- 誤解: (オ)で運動エネルギーの比を計算する際に、\(\displaystyle\frac{K_1}{K_2} = \frac{m_1}{m_2}\) のように、質量の比と勘違いする。
- 対策: 正しくは「質量の逆比」(\(\displaystyle\frac{m_2}{m_1}\))です。運動量 \(p\) が等しいとき、\(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) なので、\(K\) は \(m\) に反比例することを常に意識しましょう。「軽い方がエネルギーが大きい」と覚えておくのも有効です。
- 半減期の計算:
- 誤解: (ク)で、エネルギーが\(\displaystyle\frac{1}{16}\)になるまでの時間を、単純に半減期の16倍や1/16倍としてしまう。
- 対策: 半減期は「半分になるまでの時間(距離)」です。\(\displaystyle\frac{1}{16} = \left(\frac{1}{2}\right)^4\) のように、何回「半分」を繰り返したのかを指数で考え、その回数分だけ半減期(半減距離)を掛ける、という手順を確実に踏みましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギー変換のフロー図: 「核反応で質量欠損 → 発生エネルギーE → (イ)陽子の運動エネルギー / (ウ)原子核間の静電エネルギー」のように、エネルギーがどの形態からどの形態へ変換されているのかを矢印でつないだ簡単なフロー図を描くと、問題の構造が整理されます。
- 分裂のベクトル図: (エ)(オ)の分裂現象では、反応前の運動量がゼロであることから、反応後の\({}_{3}^{7}\text{Li}\)と\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動量ベクトルが、同じ大きさで逆向きの矢印として描けます。この図から \(p_{Li} = p_{He}\) が一目瞭然となります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電荷の明記: (ウ)のような静電気力の問題を考える際は、対象となる粒子(原子核)の図を描き、その電荷(\(+3e, +2e\))を明記すると、クーロンの法則の公式に代入する値を間違えにくくなります。
- 物理量の対応: 図を描く際には、図形(矢印の長さなど)と物理量(運動量の大きさなど)がどのように対応しているかを意識することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E=mc^2\):
- 選定理由: (ア)で「エネルギー」と「質量」という異なる物理量を結びつけるため。
- 適用根拠: 特殊相対性理論から導かれる、質量とエネルギーの普遍的な等価性を示す根源的な法則です。
- \(E=qV\):
- 選定理由: (イ)で「エネルギー」と「電圧(電位差)」を結びつけるため。
- 適用根拠: 電位の定義(単位電荷あたりの位置エネルギー)から直接導かれる、静電場におけるエネルギーの基本式です。
- \(U = k_0 \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r}\):
- 選定理由: (ウ)で「(静電)エネルギー」と「距離」を結びつけるため。
- 適用根拠: クーロンの法則で表される静電気力を、無限遠を基準に積分して導かれる位置エネルギーの公式です。
- 運動量保存則:
- 選定理由: (エ)(オ)で、分裂前後の粒子の力学的な関係(速さや運動エネルギー)を明らかにするため。エネルギー保存則だけでは解けません。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則(ニュートンの第3法則)と運動の法則(第2法則)から導かれる、力学の最も重要な保存則の一つです。
- \(E=h\nu\), \(p=E/c\):
- 選定理由: (カ)(キ)で、観測されたγ線の「エネルギー」を、その波としての性質(振動数)や粒子としての性質(運動量)に変換するため。
- 適用根拠: 量子力学の黎明期にプランクやアインシュタインによって提唱された、光の粒子性(光量子仮説)を示す基本関係式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (ア) 質量: \(E=mc^2\) → \(m = E/c^2\) → 代入・計算。
- (イ) 電圧: \(E=qV\) → \(V = E/q\) (ここで \(q=e\)) → 代入・計算。
- (ウ) 距離: \(U=k_0 q_1 q_2 / r\) → \(r = k_0 q_1 q_2 / U\) (ここで \(q_1=3e, q_2=2e\)) → 代入・計算。
- (エ) 速さの比: 運動量保存 \(m_{Li}v_{Li} = m_{He}v_{He}\) → \(\displaystyle\frac{v_{Li}}{v_{He}} = \frac{m_{He}}{m_{Li}}\) → 代入・計算。
- (オ) エネルギーの比: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) と運動量保存(\(p_{Li}=p_{He}\))から \(\displaystyle\frac{K_{Li}}{K_{He}} = \frac{m_{He}}{m_{Li}}\) → 代入・計算。
- (カ) 振動数: \(E=h\nu\) → \(\nu = E/h\) → 代入・計算。
- (キ) 運動量: \(p=E/c\) → 代入・計算。
- (ク) 距離: \(\displaystyle\frac{1}{16} = \left(\frac{1}{2}\right)^4\) より、半減プロセスが4回。→ 距離 = \(4 \times d_{1/2}\) → 代入・計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算: この問題は \(10\) のべき乗(指数)の計算が非常に多いです。\(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\), \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\), \((10^a)^b = 10^{ab}\) といった指数法則を正確に使いこなすことが必須です。計算の際は、係数部分と指数部分を分けて計算するとミスが減ります。
- 有効数字: 問題文で「有効数字2桁」と明確に指示されています。計算途中では3桁程度で計算を進め、最後の答えを出すときに四捨五入して2桁に丸めるようにしましょう。
- 定数の記憶と確認: プランク定数や電気素量などの基本的な物理定数は、うろ覚えで使わずに、問題文で与えられた値を正確に使うことが重要です。
- 逆数と比の取り違え: (エ)(オ)のように比を求める問題では、どちらが分母でどちらが分子かを間違えやすいです。「\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の速さは\({}_{2}^{4}\text{He}\)の速さの何倍か」と問われたら、求める比は \(\displaystyle\frac{v_{Li}}{v_{He}}\) であることを明確にしてから式変形を始めましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (ア) 質量: \(10^{-30}\) kgという非常に小さな値。核反応でエネルギーに変わる質量はごく僅かであるという事実と一致します。
- (イ) 電圧: \(10^6\) V (MV)という非常に高い電圧。MeVオーダーのエネルギーを得るには、相応の加速電圧が必要であり、妥当です。
- (ウ) 距離: \(10^{-13}\) mという非常に短い距離。原子核の大きさに近いスケールであり、核力や強い静電反発力が働く領域として妥当です。
- (エ)(オ) 比: どちらも1より小さい値(\(4/7 \approx 0.57\))。質量の大きい\({}_{3}^{7}\text{Li}\)の方が、質量の小さい\({}_{2}^{4}\text{He}\)より遅く、運動エネルギーも小さいという結果は、運動量保存則から期待される通りです。
- 異なる設問間の関連性:
- (エ)と(オ)の結果が同じになることは、運動量保存則からの必然的な帰結です。もし計算結果が異なったら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。このように、問題内の論理的なつながりを使って検算する視点も有効です。
問題158 (大阪工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、中性子の発見に至る歴史的な思考のプロセスを追体験する応用問題です。まず、未知の放射線(ベリリウム線)をγ線と仮定した場合([A])に生じる物理的な矛盾を計算で示し、次にそれを未知の中性粒子と仮定した場合([B])には矛盾なく説明できることを論証していきます。運動量保存則とエネルギー保存則を、相対論的効果を考慮しながら適用する能力が問われます。
- α線のエネルギー: \(5.3 \text{ MeV}\)
- パラフィンから飛び出す陽子の運動エネルギー: \(E_p = 4.5 \text{ MeV}\)
- 陽子の静止エネルギー: \(m_p c^2 = 900 \text{ MeV}\)
- 窒素原子核の質量: \(m_N = 14 m_p\)
- 速さの比: \(v_p / v_N = (3.3 \times 10^9 \text{ cm/s}) / (4.7 \times 10^8 \text{ cm/s})\)
- 物理定数: プランク定数 \(h\)、光速 \(c\)
- [A] γ線と仮定した場合の解析
- (1) 運動量保存則とエネルギー保存則の空欄(ア), (イ)を埋める。
- (2) 陽子の速さ \(v_p\) が光速 \(c\) の何倍かを求める。
- (3) γ線のエネルギー \(E_\gamma\) を計算し、矛盾を指摘する。
- [B] 中性粒子と仮定した場合の解析
- (4) 入射粒子のエネルギー \(E_X\) と陽子のエネルギー \(E_p\) の関係式を証明する。
- (5) \(E_X \ge E_p\) であることを証明する。
- (6) 中性粒子の性質を調べるのが難しい理由を説明する。
- (7) 中性子の質量 \(M\) と陽子の質量 \(m_p\) の比を求める。
- (8) 中性子を放出する核反応式を完成させる。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「中性子の発見における物理的推論」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 衝突や分裂の前後で、系の全運動量ベクトルは保存されます。光子も \(p=h/\lambda\) の運動量を持ちます。
- エネルギー保存則: 衝突や分裂の前後で、系の全エネルギー(運動エネルギー+静止エネルギー)は保存されます。光子のエネルギーは \(E=hc/\lambda\) です。
- 非相対論的運動エネルギー: 粒子の速さが光速より十分小さい場合、運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で計算できます。
- 相加・相乗平均の大小関係: 2つの正の数 \(a, b\) について、\(a+b \ge 2\sqrt{ab}\) が常に成り立ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、ベリリウム線を光子とみなし、光子と陽子の衝突(コンプトン散乱)に保存則を適用します。計算結果が実験事実と合わないことを示します。
- [B]では、ベリリウム線を質量を持つ粒子とみなし、粒子と陽子の弾性衝突に保存則を適用します。この仮説が実験結果をうまく説明できることを示します。
[A] ベリリウム線をγ線と仮定した場合
問(1)
思考の道筋とポイント
γ線(光子)が静止している陽子に正面衝突し、逆向きにはね返される状況を考えます。これはコンプトン散乱の特別な場合です。衝突の前後で、運動量とエネルギーがそれぞれ保存されるという2つの法則に基づいて式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 光子の運動量は \(p=h/\lambda\)、エネルギーは \(E=hc/\lambda\) で表される。
- 運動量はベクトル量なので、向きを考慮して式を立てる。右向きを正とする。
- エネルギーはスカラー量なので、向きは関係なく和が保存される。
具体的な解説と立式
衝突前のγ線の運動量を \(h/\lambda\)、衝突後のγ線の運動量を \(-h/\lambda’\)(逆向きなので負)、衝突後の陽子の運動量を \(m_p v_p\) とします。
運動量保存則より、
$$ \frac{h}{\lambda} = -\frac{h}{\lambda’} + m_p v_p $$
したがって、空欄アは \(-\displaystyle\frac{h}{\lambda’}\) です。
次に、衝突前のγ線のエネルギーを \(hc/\lambda\)、衝突後のγ線のエネルギーを \(hc/\lambda’\)、衝突後の陽子の運動エネルギーを \(\displaystyle\frac{1}{2}m_p v_p^2\) とします。
エネルギー保存則より、
$$ \frac{hc}{\lambda} = \frac{hc}{\lambda’} + \frac{1}{2}m_p v_p^2 $$
したがって、空欄イは \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda’}\) です。
- 運動量保存則
- エネルギー保存則
- 光子の運動量: \(p=h/\lambda\)
- 光子のエネルギー: \(E=hc/\lambda\)
この設問では立式のみで、計算はありません。
光の粒(光子)が静止している陽子に正面からぶつかって跳ね返る様子を想像します。このとき、「運動の勢い(運動量)」と「エネルギー」は、衝突の前後で合計が変わらないという物理法則が成り立ちます。この2つのルールを数式で表現します。
空欄アは \(-\displaystyle\frac{h}{\lambda’}\)、空欄イは \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda’}\) となります。運動量保存ではベクトルの向きを、エネルギー保存ではスカラーの和を正しく扱えているかを確認することが重要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
陽子の運動エネルギー \(E_p\) が与えられているので、非相対論的な運動エネルギーの公式 \(E_p = \displaystyle\frac{1}{2}m_p v_p^2\) を使って、その速さ \(v_p\) を求めます。最終的に光速 \(c\) との比 \((v_p/c)\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 陽子の静止エネルギー \(m_p c^2\) の値が与えられていることを利用して、計算を簡略化する。
- エネルギーの単位をMeVに揃えて計算する。
具体的な解説と立式
陽子の運動エネルギー \(E_p\) は、
$$ E_p = \frac{1}{2}m_p v_p^2 $$
と表されます。この式を \(v_p^2\) について解くと、
$$ v_p^2 = \frac{2E_p}{m_p} $$
両辺を \(c^2\) で割ると、
$$ \left(\frac{v_p}{c}\right)^2 = \frac{2E_p}{m_p c^2} $$
したがって、求める比 \(\displaystyle\frac{v_p}{c}\) は、
$$ \frac{v_p}{c} = \sqrt{\frac{2E_p}{m_p c^2}} $$
となります。
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
立式した式に、与えられた値 \(E_p = 4.5 \text{ MeV}\) と \(m_p c^2 = 900 \text{ MeV}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\left(\frac{v_p}{c}\right)^2 &= \frac{2 \times 4.5}{900} \\[2.0ex]&= \frac{9.0}{900} \\[2.0ex]&= \frac{1}{100}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
\frac{v_p}{c} &= \sqrt{\frac{1}{100}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{10} \\[2.0ex]&= 0.10
\end{aligned}
$$
有効数字1桁で答えると \(0.1\) となります。
陽子が持つ運動エネルギーと、その陽子が元々持っている「質量のエネルギー」(静止エネルギー)を比較することで、陽子の速さが光の速さの何割くらいになるかを計算します。
陽子の速さは光速の0.1倍(10%)です。これは光速に比べて十分小さいとは言えないかもしれませんが、非相対論的な公式で扱える範囲の速度です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)で立てた運動量保存則とエネルギー保存則の連立方程式から、衝突後のγ線の情報(波長 \(\lambda’\))を消去し、入射γ線のエネルギー \(E_\gamma = hc/\lambda\) を、観測可能な陽子のエネルギー \(E_p\) や速さ \(v_p\) で表します。
この設問における重要なポイント
- 2つの保存則から \(\lambda’\) を消去する。
- 問題文で与えられた式 \(E_\gamma = \displaystyle\frac{m_p c^2}{2} \frac{v_p}{c} + \frac{E_p}{2}\) の形に導出する。
具体的な解説と立式
(1)で立てた式を再掲します。
$$ \frac{h}{\lambda} = -\frac{h}{\lambda’} + m_p v_p \quad \cdots ① $$
$$ \frac{hc}{\lambda} = \frac{hc}{\lambda’} + E_p \quad \cdots ② $$
式②から \(\displaystyle\frac{h}{\lambda’}\) を求めます。
$$ \frac{h}{\lambda’} = \frac{h}{\lambda} – \frac{E_p}{c} $$
これを式①に代入して \(\lambda’\) を消去します。
$$ \frac{h}{\lambda} = -\left(\frac{h}{\lambda} – \frac{E_p}{c}\right) + m_p v_p $$
$$ \frac{2h}{\lambda} = \frac{E_p}{c} + m_p v_p $$
両辺に \(c\) を掛けると、
$$ \frac{2hc}{\lambda} = E_p + m_p v_p c $$
入射γ線のエネルギーを \(E_\gamma = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) とおくと、
$$ 2E_\gamma = E_p + m_p v_p c $$
これを \(E_\gamma\) について解くと、
$$ E_\gamma = \frac{E_p}{2} + \frac{m_p v_p c}{2} $$
問題文の形式に合わせると、
$$ E_\gamma = \frac{m_p c^2}{2} \frac{v_p}{c} + \frac{E_p}{2} $$
となります。
- 運動量保存則、エネルギー保存則
導出した式に、(2)の結果 \(\displaystyle\frac{v_p}{c} = 0.1\)、および与えられた値 \(E_p = 4.5 \text{ MeV}\), \(m_p c^2 = 900 \text{ MeV}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
E_\gamma &= \frac{900}{2} \times 0.1 + \frac{4.5}{2} \\[2.0ex]&= 450 \times 0.1 + 2.25 \\[2.0ex]&= 45 + 2.25 \\[2.0ex]&= 47.25 \text{ [MeV]}
\end{aligned}
$$
有効数字1桁で答えると \(5 \times 10^1 \text{ MeV}\) となります。
2つのルール(運動量保存、エネルギー保存)を組み合わせた連立方程式を解くことで、直接観測できない衝突後のγ線の情報を消去し、衝突前のγ線のエネルギーを、観測された陽子の情報だけで計算できるようにします。
計算されたγ線のエネルギーは約47 MeVとなり、これは実験で推定された15~20 MeVよりもはるかに大きく、また入射α線のエネルギー5.3 MeVと比べても不自然に大きいです。この矛盾から、ベリリウム線がγ線であるという仮説は疑わしいと結論付けられます。
[B] ベリリウム線を中性粒子と仮定した場合
問(4)
思考の道筋とポイント
未知の中性粒子(質量\(M\), 速さ\(V\))と静止した陽子(質量\(m_p\))の正面弾性衝突を考えます。運動量保存則とエネルギー保存則を立て、衝突後の中性粒子の速さ \(V’\) を消去することで、入射エネルギー \(E_X\) と陽子のエネルギー \(E_p\) の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 質量を持つ粒子同士の弾性衝突として、2つの保存則を適用する。
- 式変形により、観測できない \(V’\) を消去する。
具体的な解説と立式
運動量保存則とエネルギー保存則は、
$$ MV = -MV’ + m_p v_p \quad \cdots ③ $$
$$ \frac{1}{2}MV^2 = \frac{1}{2}MV’^2 + \frac{1}{2}m_p v_p^2 \quad \cdots ④ $$
まず、式③から \(V’\) を求めます。
$$ MV’ = m_p v_p – MV $$
$$ V’ = \frac{m_p v_p – MV}{M} $$
次に、式④を整理し、\(V’\) を消去する前段階として \(V\) の式を導きます。
式③より \(M(V+V’) = m_p v_p\)。
式④より \(M(V^2-V’^2) = m_p v_p^2\)、すなわち \(M(V-V’)(V+V’) = m_p v_p^2\)。
後者の式を前者の式で辺々割ると、\(V-V’ = v_p\)。
これと \(V+V’ = \frac{m_p}{M}v_p\) を連立して \(V\) を求めると、
$$ 2V = \left(1 + \frac{m_p}{M}\right)v_p = \frac{M+m_p}{M}v_p $$
$$ V = \frac{M+m_p}{2M}v_p \quad \cdots ⑤ $$
入射エネルギー \(E_X = \displaystyle\frac{1}{2}MV^2\) に、この⑤式を代入します。
$$ E_X = \frac{1}{2}M \left(\frac{M+m_p}{2M}v_p\right)^2 $$
陽子のエネルギー \(E_p = \displaystyle\frac{1}{2}m_p v_p^2\) を用いて \(v_p^2\) を消去します。\(v_p^2 = \displaystyle\frac{2E_p}{m_p}\)。
$$
\begin{aligned}
E_X &= \frac{1}{2}M \frac{(M+m_p)^2}{4M^2} v_p^2 \\[2.0ex]&= \frac{(M+m_p)^2}{8M} v_p^2 \\[2.0ex]&= \frac{(M+m_p)^2}{8M} \frac{2E_p}{m_p} \\[2.0ex]&= \frac{(M+m_p)^2}{4Mm_p} E_p
\end{aligned}
$$
この式を展開・整理して、問題の形式に合わせます。
$$
\begin{aligned}
E_X &= \frac{M^2 + 2Mm_p + m_p^2}{4Mm_p} E_p \\[2.0ex]&= \frac{1}{4} \left(\frac{M^2}{Mm_p} + \frac{2Mm_p}{Mm_p} + \frac{m_p^2}{Mm_p}\right) E_p \\[2.0ex]&= \frac{1}{4} \left(\frac{M}{m_p} + 2 + \frac{m_p}{M}\right) E_p
\end{aligned}
$$
これは示すべき式と一致します。
- 運動量保存則、エネルギー保存則
この設問は式変形による証明であり、数値計算はありません。
質量を持つ2つのボールの正面衝突を考えます。運動の勢い(運動量)と運動エネルギーが保存されるという2つのルールから、衝突後の跳ね返りボールの速さを消去し、入射ボールのエネルギーと、飛ばされたボールのエネルギーの関係を導き出します。
式の証明が完了しました。この関係式は、未知の粒子の質量\(M\)がわかれば、観測された陽子のエネルギー\(E_p\)から入射エネルギー\(E_X\)を計算できることを示しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
(4)で導出した関係式と、数学における相加・相乗平均の大小関係を用いて、\(E_X \ge E_p\) であることを証明します。
この設問における重要なポイント
- 相加・相乗平均の大小関係: 2つの正の数 \(a, b\) について、\(a+b \ge 2\sqrt{ab}\) が成り立つ。
- 質量 \(M\) と \(m_p\) は正なので、その比も正である。
具体的な解説と立式
(4)で導出した式は、
$$ E_X = \frac{1}{4} \left(2 + \frac{M}{m_p} + \frac{m_p}{M}\right) E_p $$
です。ここで、\(\displaystyle\frac{M}{m_p}\) と \(\displaystyle\frac{m_p}{M}\) はともに正の数です。
相加・相乗平均の大小関係を適用すると、
$$ \frac{M}{m_p} + \frac{m_p}{M} \ge 2\sqrt{\frac{M}{m_p} \cdot \frac{m_p}{M}} $$
$$ \frac{M}{m_p} + \frac{m_p}{M} \ge 2 $$
この不等式を \(E_X\) の式に用いると、
$$ E_X \ge \frac{1}{4} (2 + 2) E_p $$
$$ E_X \ge E_p $$
となり、証明が完了します。
- (数学公式)相加・相乗平均の大小関係
この設問は不等式の証明であり、数値計算はありません。
数学のテクニック(相加・相乗平均)を使うと、(4)で求めた複雑な式が、必ず \(E_p\) 以上になることを証明できます。これは物理的に「入射粒子のエネルギーが、はね飛ばされた粒子のエネルギーより小さくなることはない」という、ごく自然な事実に対応しています。
\(E_X \ge E_p\) が証明されました。これにより、入射粒子のエネルギーが4.5 MeV以上であることが保証され、[A]のγ線モデルのような矛盾が生じにくくなります。
問(6)
思考の道筋とポイント
中性粒子の基本的な物理的性質、特に「電荷を持たない」という点が、その観測や操作をどのように難しくするかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 荷電粒子は電場や磁場から力を受けるが、中性粒子は受けない。
- 荷電粒子は物質中を通過する際に電離作用を起こすが、中性粒子はその作用が非常に弱い。
具体的な解説と立式
この設問は記述問題であり、数式は不要です。
中性粒子は電荷を持たないため、以下のような困難が生じます。
- 操作の困難さ: 電場や磁場をかけても力を受けないため、加速したり、軌道を曲げたりすることができません。これにより、エネルギーを制御したり、特定の場所に集めたりすることが困難です。
- 直接観測の困難さ: 霧箱や写真乾板などは、荷電粒子が通過する際に作るイオンの飛跡を可視化する装置です。中性粒子は電離作用が極めて弱いため、直接その飛跡を捉えることができません。
中性子は電気を帯びていないため、電場や磁石の力で進む向きを変えたり、加速したりすることができません。また、他の物質とぶつかっても電気的な作用(電離)を起こしにくいため、その存在を直接捉えるのが難しいのです。その存在を知るには、この問題のように、何かにぶつかってはね飛ばされた「荷電粒子」を観測するという間接的な方法に頼る必要があります。
中性粒子は電荷を持たないため、電磁気的な相互作用を利用した操作や直接観測が困難であることが、性質を調べる上での難しさの根源です。
問(7)
思考の道筋とポイント
(4)の導出過程で得られた式⑤を、衝突の相手が陽子(\(m_p, v_p\))の場合と窒素原子核(\(m_N, v_N\))の場合でそれぞれ立てます。入射する中性粒子の速さ\(V\)はどちらの衝突でも同じであるため、2つの式を等しいとおいて連立し、未知の質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m_p}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 2つの異なる衝突実験で、入射粒子(中性子)の速さVは共通である。
- 式⑤ \(V = \displaystyle\frac{M+m}{2M}v\) を両方の衝突に適用する。
- \(m_N = 14m_p\) の関係を代入して式を整理する。
具体的な解説と立式
式⑤を陽子との衝突、窒素原子核との衝突にそれぞれ適用すると、
$$ V = \frac{M+m_p}{2M}v_p \quad \cdots (a) $$
$$ V = \frac{M+m_N}{2M}v_N \quad \cdots (b) $$
入射速度 \(V\) は共通なので、(a)と(b)の右辺を等しいとおきます。
$$ \frac{M+m_p}{2M}v_p = \frac{M+m_N}{2M}v_N $$
両辺の \(\displaystyle\frac{1}{2M}\) を消去して、
$$ (M+m_p)v_p = (M+m_N)v_N $$
この式を、求めたい比 \(\displaystyle\frac{M}{m_p}\) を含むように変形していきます。
$$ Mv_p + m_p v_p = Mv_N + m_N v_N $$
$$ M(v_p – v_N) = m_N v_N – m_p v_p $$
ここで、与えられた条件 \(m_N = 14m_p\) を代入します。
$$ M(v_p – v_N) = 14m_p v_N – m_p v_p $$
$$ M(v_p – v_N) = m_p (14v_N – v_p) $$
両辺を \(m_p(v_p – v_N)\) で割ると、
$$ \frac{M}{m_p} = \frac{14v_N – v_p}{v_p – v_N} $$
となります。
- 運動量保存則、エネルギー保存則から導出された関係式
この設問は式の導出が主目的であり、数値計算は問題文中でチャドウィックの結果として示されています。導出した式が模範解答と一致することを確認します。
同じボール(中性子)を、軽いボール(陽子)と重いボール(窒素)にそれぞれぶつける2回の実験を考えます。それぞれのボールがどれくらいの速さで飛んでいったかを測定することで、2つの方程式が立てられます。この連立方程式を解くことで、未知の入射ボールの質量を、基準となる陽子の質量との比較で求めることができます。
導出された式 \(\displaystyle\frac{M}{m_p} = \displaystyle\frac{14v_N – v_p}{v_p – v_N}\) は、観測可能な速さ(\(v_p, v_N\))から、未知の質量比(\(M/m_p\))を決定できることを示しています。これにより、チャドウィックは中性子の質量を陽子とほぼ同じであると突き止めました。
問(8)
思考の道筋とポイント
核反応の前後で、電荷の総和(原子番号の和)と、核子の総数(質量数の和)がそれぞれ保存されるという法則を用いて、核反応式を完成させます。
この設問における重要なポイント
- 原子番号(左下の数字)の和が保存される。
- 質量数(左上の数字)の和が保存される。
- α粒子はヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) である。
- ベリリウムは原子番号4の元素であり、安定同位体は \({}_{4}^{9}\text{Be}\) である。
具体的な解説と立式
α粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\))をベリリウム原子核(\({}_{4}^{9}\text{Be}\))に照射して、中性子(\({}_{0}^{1}\text{n}\))と未知の原子核(\({}_{Z}^{A}\text{X}\))が生成される反応を考えます。
$$ {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{4}^{9}\text{Be} \rightarrow {}_{Z}^{A}\text{X} + {}_{0}^{1}\text{n} $$
原子番号の和の保存より、
$$ 2 + 4 = Z + 0 $$
$$ Z = 6 $$
質量数の和の保存より、
$$ 4 + 9 = A + 1 $$
$$ A = 12 $$
原子番号 \(Z=6\) の元素は炭素(C)です。したがって、未知の原子核は \({}_{6}^{12}\text{C}\) となります。
- 核反応における原子番号と質量数の保存則
この設問は式の決定であり、数値計算はありません。
核反応は、陽子と中性子の数を組み替えるパズルのようなものです。反応の前後で陽子の総数と、陽子と中性子を合わせた総数が変わらないというルールを使って、隠れているピース(この場合は炭素原子核)を特定します。
完成した核反応式は、
$$ {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{4}^{9}\text{Be} \rightarrow {}_{6}^{12}\text{C} + {}_{0}^{1}\text{n} $$
となります。これは中性子を発見したチャドウィックの実験で起きていた、歴史的に有名な核反応式です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則:
- 核心: 衝突や分裂といった、内力のみが働く現象の前後で、系の全運動量ベクトルは保存されます。この法則は、[A]の光子と陽子の衝突、[B]の中性粒子と陽子(または窒素原子核)の衝突、両方のシナリオを解析する上での根幹となります。
- 理解のポイント: 運動量はベクトル量であるため、向きを考慮することが極めて重要です。この問題では1次元の正面衝突を扱っているため、符号(+/-)で向きを表現します。
- エネルギー保存則:
- 核心: 運動量保存則と並行して、系の全エネルギーも保存されます。この問題では、粒子の運動エネルギーと光子のエネルギーの和が衝突前後で一定に保たれることを利用します。
- 理解のポイント: [A]では光子のエネルギー(\(E=hc/\lambda\))が、[B]では粒子の運動エネルギー(\(K=\frac{1}{2}mv^2\))が主役となります。2つの保存則を連立させることで、未知の量を消去し、観測量との関係を導くのが定石です。
- 物理モデルの妥当性検証:
- 核心: この問題の主題は、単なる計算ではなく、「ある物理現象(ベリリウム線)を説明するために、2つの異なる物理モデル(γ線モデルと中性粒子モデル)を立て、どちらが実験事実と整合的かを論証する」という科学的思考プロセスそのものです。
- 理解のポイント: [A]の計算結果が実験事実と矛盾することを示し((3))、[B]のモデルでは矛盾が解消される可能性を示す((5))という流れを理解することが、この問題の核心を掴む鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンプトン散乱: [A]のシナリオは、まさにコンプトン散乱(光子と電子の衝突)の陽子版です。散乱角度が180度という特殊なケースを扱っています。
- 弾性衝突全般: [B]のシナリオは、質量を持つ粒子同士の1次元弾性衝突です。反発係数(はねかえり係数)が1の場合に相当し、力学の様々な問題に応用できます。
- 未知の素粒子の同定: 新しい粒子が発見された際、その質量や電荷などの性質は、既知の粒子との相互作用(衝突など)を観測し、保存則を適用して推定されます。この問題は、その思考過程を模擬したものです。
- 初見の問題での着眼点:
- 衝突する粒子を特定する: 衝突に関わる粒子が何か(光子か、質量を持つ粒子か)をまず明確にします。それによって、運動量やエネルギーの表現形式が決まります。
- 保存則を2つ立てる: 衝突問題では、運動量保存則とエネルギー保存則の2つを連立させるのが基本戦略です。未知数が2つまでなら、これで解けるはずです。
- 何を消去し、何を求めるか: 連立方程式を解く前に、最終的に求めたい量は何か、そのために消去すべき中間的な量(この問題では \(\lambda’\) や \(V’\))は何か、という見通しを立てることが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量の向き(符号):
- 誤解: 1次元衝突で、衝突後にはね返る粒子の運動量の符号を正のままにしてしまう。
- 対策: 必ず座標軸(例: 右向きを正)を設定し、図を描いて、各粒子の速度の向きをベクトルとして意識しましょう。逆向きに進む場合は、速度や運動量に負の符号をつけることを徹底します。
- エネルギーと運動量の式の混同:
- 誤解: 光子のエネルギーを \(h/\lambda\)、運動量を \(hc/\lambda\) のように、式を取り違えてしまう。
- 対策: エネルギーは[J]の次元、運動量は[kg・m/s]の次元を持つことを意識しましょう。\(E=pc\) という関係から、エネルギーの方が運動量より \(c\) 倍大きいと覚えておくと、混同しにくくなります。
- 式変形の複雑化:
- 誤解: (4)のような証明問題で、やみくもに代入して式が複雑になり、途中で行き詰まる。
- 対策: 模範解答のように、\(M(V+V’)=m_pv_p\) と \(M(V-V’)(V+V’)=m_pv_p^2\) のように式の塊をうまく利用して割り算を行うなど、より簡潔な式変形ができないか検討しましょう。最終的な式の形から逆算して、どのような変形が必要か考えるのも有効なテクニックです。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 衝突前後の図: [A], [B] の両方で、衝突前と衝突後の様子を簡単な図で描くことが極めて有効です。粒子を円で表し、その横に質量(\(m_p, M\))と速度(\(v_p, V, V’\))を書き込み、速度の向きを矢印で示します。これにより、運動量保存則を立式する際の符号ミスを劇的に減らせます。
- エネルギーの流れの可視化: 「入射エネルギー(\(E_\gamma\) or \(E_X\))が、衝突後の2つの粒子の運動エネルギーに分配される」というエネルギーの流れを、箱と矢印で模式的に描くと、エネルギー保存則の意味が直感的に理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 座標軸の明記: 1次元の問題であっても、図の脇に「右向きを正」とする座標軸を描いておくと、符号の判断基準が明確になります。
- 未知数と既知数の区別: 図に書き込む物理量のうち、問題文で与えられている既知の量と、これから求める未知の量を、記号を変えるなどして区別しておくと、立式の方針が立てやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則・エネルギー保存則:
- 選定理由: (1)〜(7)の全ての衝突現象を記述する基本法則だから。衝突や分裂といった、粒子間の相互作用(内力)が主で、外力が無視できる系では、これらの保存則が最も強力な解析ツールとなります。
- 適用根拠: ニュートンの運動法則から導かれる、力学における普遍的な原理です。ミクロな素粒子の世界からマクロな天体の衝突まで、広く成り立ちます。
- 光子のエネルギー・運動量の公式:
- 選定理由: [A]のシナリオで、ベリリウム線を光子(γ線)と仮定しているため。光子の力学的な振る舞いを記述するには、これらの量子論的な公式が必要です。
- 適用根拠: 光量子仮説に基づき、光を波であると同時にエネルギーと運動量を持つ粒子として扱う、現代物理学の基本概念です。
- 相加・相乗平均の大小関係:
- 選定理由: (5)で、複雑な係数部分が常に特定の値(この場合は2)以上であることを簡潔に証明するため。物理法則ではありませんが、物理的な結論を導くための強力な数学的ツールです。
- 適用根拠: 正の数に対して常に成り立つ、数学的な不等式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1)〜(3) [A] γ線モデル:
- 戦略: 光子+陽子の衝突として保存則を立て、矛盾を導く。
- フロー: ①運動量保存とエネルギー保存を立式。②\(E_p\)と\(m_pc^2\)から\(v_p/c\)を計算。③①の連立方程式から\(\lambda’\)を消去し、\(E_\gamma\)を\(E_p\)と\(v_p\)で表す式を導出。④数値を代入し、\(E_\gamma\)が非現実的な値になることを確認。
- (4)〜(7) [B] 中性粒子モデル:
- 戦略: 粒子+陽子の弾性衝突として保存則を立て、実験結果との整合性を示す。
- フロー: ①運動量保存とエネルギー保存を立式。②連立方程式から\(V’\)を消去し、\(V\)を\(v_p\)で表す式⑤を導出。③⑤を\(E_X=\frac{1}{2}MV^2\)に代入し、(4)の証明を完了。④相加相乗平均で(5)を証明。⑤窒素との衝突にも同様の式を立て、連立させて\(M/m_p\)を求める(7)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の統一と活用: (2)(3)の計算では、エネルギーをすべてMeV単位で扱うと、\(10\)のべき乗の計算が不要になり、非常に簡潔になります。\(m_pc^2\)のように、エネルギーの単位を持つ塊をうまく利用することがコツです。
- 文字式のまま計算を進める: (4)や(7)のように、最終的に比や関係式を求める問題では、途中で数値を代入せず、できるだけ文字式のまま計算を進める方が、見通しが良く、間違いも起こりにくいです。
- 検算: (4)で導出した式に、\(M=m_p\)という特殊な場合を代入してみましょう。このとき \(E_X = \frac{1}{4}(1+2+1)E_p = E_p\) となります。これは「同じ質量の物体が正面弾性衝突すると速度が交換される」という既知の事実と一致し、式の妥当性を裏付けます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理モデルの比較: この問題の最大のポイントは、[A]と[B]の2つのモデルの比較です。[A]のγ線モデルでは、計算結果(\(E_\gamma \approx 47 \text{ MeV}\))が、元のα線のエネルギー(\(5.3 \text{ MeV}\))や実験的推定値(\(15 \sim 20 \text{ MeV}\))と大きく食い違い、矛盾が生じました。一方、[B]の中性粒子モデルでは、(5)で\(E_X \ge E_p = 4.5 \text{ MeV}\)が示され、さらに(7)の計算で\(M \approx m_p\)とすると\(E_X \approx E_p = 4.5 \text{ MeV}\)となり、元のα線エネルギー\(5.3 \text{ MeV}\)から生成されるエネルギーとして十分に妥当な範囲に収まります。この対比こそが、中性子の存在を確信させた論理です。
- 結論の物理的意味: (7)で \(M/m_p \approx 1\) という結論が得られたことは、「ベリリウム線は、陽子とほぼ同じ質量で電荷を持たない未知の粒子(中性子)の流れである」という物理的な結論を意味します。計算結果が何を物語っているのかを常に考える習慣が重要です。
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