問題61 (神戸大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、シリンダー内に閉じ込められた単原子分子理想気体が、A→B→C→Aというサイクルで状態変化する際の、各状態での温度、各過程での熱の吸収・放出、仕事、そしてサイクル全体の仕事、さらにはT-Vグラフの概形を問う問題です。P-Vグラフが与えられており、各状態の圧力と体積が具体的に示されています。
- 気体: 単原子分子理想気体
- 気体定数: \(R\)
- 状態A: 圧力 \(p_1\)、体積 \(V_1\)、絶対温度 \(T_1\)
- 状態B: 圧力 \(2p_1\)、体積 \(V_1\)
- 状態C: 圧力 \(p_1\)、体積 \(2V_1\)
- サイクル: A→B→C→A
- (1) 状態Bおよび状態Cにおける絶対温度 \(T_B, T_C\)
- (2) 過程 A→B および C→A で気体が吸収する熱量 \(Q_{AB}, Q_{CA}\)
- (3) 過程 B→C で気体がする仕事 \(W_{BC}\) と吸収する熱量 \(Q_{BC}\)
- (4) 1サイクルで気体がする仕事 \(W_{\text{サイクル}}\)
- (5) 絶対温度 \(T\) と体積 \(V\) の関係を表すグラフ(T-Vグラフ)の概形
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 絶対温度の別解: 状態方程式の比例関係を利用する解法
- 主たる解法が各状態について状態方程式を立て、基準となる状態Aの式と連立させて解くのに対し、別解では、状態方程式 \(PV=nRT\) から導かれる「\(PV\)積は絶対温度\(T\)に比例する」という関係を用いて、より直感的に温度の比を求めます。
- 問(4) サイクルがする仕事の別解: 各過程の仕事の和を計算する解法
- 主たる解法がサイクルが囲む図形の面積から直接仕事の総和を求めるのに対し、別解では、サイクルを構成する各過程(A→B, B→C, C→A)の仕事をそれぞれ計算し、それらを代数的に足し合わせることで全体の仕事を求めます。
- 問(1) 絶対温度の別解: 状態方程式の比例関係を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 問(1)の別解は、状態方程式を単なる等式としてだけでなく、物理量間の比例関係として捉える視点を養います。問(4)の別解は、サイクル全体の仕事が各部分の仕事の積み重ねであることを明確に示し、仕事の符号(する仕事/される仕事)の物理的意味の理解を深めます。
- 検算への応用: 異なるアプローチで同じ答えにたどり着くことを確認することで、計算の確実性を高めることができます。特に、面積計算と各過程の仕事の和が一致することの確認は有効な検算手法です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、理想気体の状態変化と熱力学サイクルです。P-Vグラフから各過程の物理的特徴を読み取り、状態方程式、熱力学第一法則、比熱の知識を総合的に活用して問題を解き進めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)。気体の状態量を結びつける基本式です。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)。内部エネルギー変化(\(\Delta U\))、吸収熱量(\(Q\))、した仕事(\(W\))の関係を示します。
- 単原子分子理想気体の性質: 内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}nRT\)、定積モル比熱は \(C_V = \frac{3}{2}R\)、定圧モル比熱は \(C_P = \frac{5}{2}R\) となります。
- P-Vグラフと仕事: グラフ上の曲線とV軸で囲まれた面積が仕事の大きさを表します。サイクルが囲む面積は、1サイクルあたりの正味の仕事です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、状態方程式を用いて各状態の温度を求めます。
- 問(2)では、各過程が定積変化か定圧変化かを見抜き、適切な熱量の公式を適用します。
- 問(3)では、P-Vグラフの面積から仕事を計算し、熱力学第一法則を用いて熱量を求めます。
- 問(4)では、サイクルが囲む面積から1サイクルあたりの仕事を計算します。
- 問(5)では、各過程における\(T\)と\(V\)の関係式を導出し、T-Vグラフの概形を描きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) は、気体の状態(圧力、体積、温度、物質量)を関連付ける基本的な法則です。状態A, B, Cのそれぞれについてこの方程式を立て、基準となる状態Aの情報(\(p_1V_1 = nRT_1\))と比較することで、未知の温度を \(T_1\) を用いて表します。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を正しく適用すること。
- 各状態の \(P, V\) の値をグラフから正確に読み取ること。
- 基準となる状態Aの式を使い、他の状態の温度を \(T_1\) で表すこと。
具体的な解説と立式
状態Aについて、理想気体の状態方程式は、
$$
\begin{aligned}
p_1 V_1 &= nRT_1 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
と書けます。
状態Bでは、圧力 \(P_B = 2p_1\)、体積 \(V_B = V_1\) です。状態方程式を立てると、
$$
\begin{aligned}
(2p_1) V_1 &= nRT_B \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
状態Cでは、圧力 \(P_C = p_1\)、体積 \(V_C = 2V_1\) です。状態方程式を立てると、
$$
\begin{aligned}
p_1 (2V_1) &= nRT_C \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
これらの式を、式①を用いて \(T_1\) で表すことを目指します。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
状態Bの温度 \(T_B\)
式②は \(2(p_1V_1) = nRT_B\) と変形できます。
この式の \(p_1V_1\) の部分に、式①の右辺 \(nRT_1\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2(nRT_1) &= nRT_B
\end{aligned}
$$
両辺を \(nR\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
T_B &= 2T_1
\end{aligned}
$$
状態Cの温度 \(T_C\)
式③は \(2(p_1V_1) = nRT_C\) と変形できます。
同様に、\(p_1V_1\) に \(nRT_1\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2(nRT_1) &= nRT_C
\end{aligned}
$$
両辺を \(nR\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
T_C &= 2T_1
\end{aligned}
$$
気体の状態を表す基本ルールが \(PV=nRT\) です。これは「圧力と体積の積は、絶対温度に比例する」と読めます。
点Aでは \(p_1V_1\) なので、温度は \(T_1\) です。
点Bでは \(P_B V_B = (2p_1)V_1 = 2(p_1V_1)\) となり、\(PV\)積がA点の2倍です。したがって、温度もA点の2倍の \(2T_1\) になります。
点Cでも \(P_C V_C = p_1(2V_1) = 2(p_1V_1)\) となり、\(PV\)積がA点の2倍です。したがって、温度も同じく \(2T_1\) になります。
状態Bの絶対温度は \(T_B = 2T_1\)、状態Cの絶対温度は \(T_C = 2T_1\) です。B点とC点は、P-Vグラフ上では異なる点ですが、\(PV\)積が等しいため、同じ等温線上に存在することがわかります。
思考の道筋とポイント
状態方程式 \(PV=nRT\) より、\(PV\)積は絶対温度\(T\)に比例します。この比例関係を用いて、各状態の温度の比を直接求めます。
この設問における重要なポイント
- \(PV \propto T\) の関係を理解し、利用すること。
具体的な解説と立式
状態A, B, Cの\(PV\)積の比を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_A V_A : P_B V_B : P_C V_C &= (p_1)(V_1) : (2p_1)(V_1) : (p_1)(2V_1)
\end{aligned}
$$
\(PV \propto T\) の関係から、温度の比は\(PV\)積の比に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
T_A : T_B : T_C &= P_A V_A : P_B V_B : P_C V_C
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式から導かれる比例関係: \(PV \propto T\)
\(PV\)積の比は、
$$
\begin{aligned}
p_1V_1 : 2p_1V_1 : 2p_1V_1 &= 1 : 2 : 2
\end{aligned}
$$
となるので、温度の比も、
$$
\begin{aligned}
T_A : T_B : T_C &= 1 : 2 : 2
\end{aligned}
$$
となります。\(T_A = T_1\) なので、この比例関係から、
$$
\begin{aligned}
T_B &= 2T_A = 2T_1 \\[2.0ex]
T_C &= 2T_A = 2T_1
\end{aligned}
$$
となります。
P-Vグラフの縦軸と横軸の目盛りを掛け算したものが、温度の大きさを表しているとイメージできます。
A点は \(1 \times 1 = 1\)
B点は \(2 \times 1 = 2\)
C点は \(1 \times 2 = 2\)
なので、温度の比は \(1:2:2\) となります。A点の温度が \(T_1\) なので、B点とC点の温度は \(2T_1\) です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、温度の比を素早く求めるのに非常に有効です。
問(2)
思考の道筋とポイント
過程A→BはP-Vグラフから体積が \(V_1\)で一定の「定積変化」です。過程C→Aは圧力が \(p_1\)で一定の「定圧変化」です。それぞれの変化における熱量の公式を適用します。気体は単原子分子理想気体なので、定積モル比熱 \(C_V = \frac{3}{2}R\)、定圧モル比熱 \(C_P = \frac{5}{2}R\) を用います。最後に、状態方程式 \(p_1V_1 = nRT_1\) を使って、結果を \(p_1, V_1\) で表します。
この設問における重要なポイント
- 各過程がどのような変化(定積、定圧)であるかを正しく見抜くこと。
- 単原子分子理想気体の定積モル比熱 \(C_V\) と定圧モル比熱 \(C_P\) の値を正しく使うこと。
- \(nRT\) を \(PV\) で置き換えることで、指定された文字で表現すること。
具体的な解説と立式
過程 A→B (定積変化)
定積変化で気体が吸収する熱量 \(Q_{AB}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{AB} &= nC_V \Delta T_{AB} \\[2.0ex]
&= nC_V (T_B – T_A)
\end{aligned}
$$
と立式できます。単原子分子理想気体なので、\(C_V = \frac{3}{2}R\) です。
過程 C→A (定圧変化)
定圧変化で気体が吸収する熱量 \(Q_{CA}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{CA} &= nC_P \Delta T_{CA} \\[2.0ex]
&= nC_P (T_A – T_C)
\end{aligned}
$$
と立式できます。単原子分子理想気体なので、\(C_P = \frac{5}{2}R\) です。
使用した物理公式
- 定積変化の吸収熱: \(Q_V = nC_V \Delta T\) (単原子分子: \(C_V = \frac{3}{2}R\))
- 定圧変化の吸収熱: \(Q_P = nC_P \Delta T\) (単原子分子: \(C_P = \frac{5}{2}R\))
- 理想気体の状態方程式: \(p_1V_1 = nRT_1\)
過程 A→B
問(1)より \(T_A = T_1\), \(T_B = 2T_1\) なので、
$$
\begin{aligned}
Q_{AB} &= n \left(\frac{3}{2}R\right) (2T_1 – T_1) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}nRT_1
\end{aligned}
$$
ここで、状態Aの状態方程式 \(p_1V_1 = nRT_1\) を用いて \(nRT_1\) を置き換えます。
$$
\begin{aligned}
Q_{AB} &= \frac{3}{2} p_1 V_1
\end{aligned}
$$
過程 C→A
問(1)より \(T_C = 2T_1\), \(T_A = T_1\) なので、
$$
\begin{aligned}
Q_{CA} &= n \left(\frac{5}{2}R\right) (T_1 – 2T_1) \\[2.0ex]
&= n \left(\frac{5}{2}R\right) (-T_1) \\[2.0ex]
&= -\frac{5}{2}nRT_1
\end{aligned}
$$
同様に \(p_1V_1 = nRT_1\) を用いて置き換えます。
$$
\begin{aligned}
Q_{CA} &= -\frac{5}{2} p_1 V_1
\end{aligned}
$$
A→Bは体積一定で温めるので、熱は \(Q = nC_V\Delta T\) で計算します。C→Aは圧力一定で冷やすので、熱は \(Q = nC_P\Delta T\) で計算します。単原子分子の場合、\(C_V\)と\(C_P\)は決まった値(\(\frac{3}{2}R, \frac{5}{2}R\))です。温度変化は問(1)でわかっているので、あとは計算するだけです。最後に、答えの見た目を整えるために、\(nRT_1\)を\(p_1V_1\)に書き換えます。C→Aで答えがマイナスになるのは、熱を吸収したのではなく、放出したという意味です。
過程A→Bで吸収する熱量は \(\frac{3}{2}p_1V_1\) (正の値なので吸熱)、過程C→Aで吸収する熱量は \(-\frac{5}{2}p_1V_1\) (負の値なので実際は \(\frac{5}{2}p_1V_1\) の熱を放出)となります。各過程の種類に応じた公式を正しく適用できています。
問(3)
思考の道筋とポイント
過程B→Cは、P-Vグラフ上で点B(\(V_1, 2p_1\))と点C(\(2V_1, p_1\))を結ぶ直線です。気体がする仕事 \(W_{BC}\) は、この直線とV軸で囲まれた台形の面積として計算できます。吸収する熱量 \(Q_{BC}\) は、熱力学第一法則 \(\Delta U_{BC} = Q_{BC} – W_{BC}\) を用いて求めます。そのためには、まず内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{BC}\) を計算する必要があります。問(1)の結果から、始状態Bと終状態Cの温度が等しいことがわかっているので、内部エネルギーの変化はゼロになります。
この設問における重要なポイント
- P-Vグラフから仕事 \(W\) を面積として計算できること(特に台形の面積)。
- 内部エネルギー変化 \(\Delta U\) は温度変化にのみ依存すること。始点と終点の温度が同じなら \(\Delta U=0\)。
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を正しく適用すること。
具体的な解説と立式
仕事 \(W_{BC}\)
過程B→Cにおける仕事 \(W_{BC}\) は、P-Vグラフにおいて、B(\(V_1, 2p_1\))、C(\(2V_1, p_1\))とV軸で囲まれた台形の面積で与えられます。
$$
\begin{aligned}
W_{BC} &= \frac{1}{2} (p_B + p_C) (V_C – V_B)
\end{aligned}
$$
と立式できます。
吸収する熱量 \(Q_{BC}\)
熱力学第一法則 \(\Delta U_{BC} = Q_{BC} – W_{BC}\) を用います。
内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{BC}\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{BC} &= \frac{3}{2}nR(T_C – T_B)
\end{aligned}
$$
です。問(1)より \(T_B = T_C = 2T_1\) なので、\(\Delta U_{BC} = 0\) となります。
したがって、熱力学第一法則は、
$$
\begin{aligned}
0 &= Q_{BC} – W_{BC}
\end{aligned}
$$
となり、\(Q_{BC} = W_{BC}\) が導かれます。
使用した物理公式
- 仕事 (P-Vグラフの面積)
- 内部エネルギー変化 (単原子分子理想気体): \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)
仕事 \(W_{BC}\)
$$
\begin{aligned}
W_{BC} &= \frac{1}{2} (2p_1 + p_1) (2V_1 – V_1) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} (3p_1) (V_1) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}p_1V_1
\end{aligned}
$$
吸収する熱量 \(Q_{BC}\)
\(\Delta U_{BC} = 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
Q_{BC} &= W_{BC} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}p_1V_1
\end{aligned}
$$
B→Cの仕事は、P-Vグラフの台形の面積を計算します。「(上底+下底)× 高さ ÷ 2」の公式に、グラフの値を当てはめればOKです。
B→Cの熱量は、エネルギー保存の法則で考えます。問(1)で、B点とC点の温度が同じ(\(2T_1\))だとわかりました。内部エネルギーは温度だけで決まるので、温度が変わらないなら内部エネルギーも変化しません(\(\Delta U=0\))。エネルギー保存則 \(\Delta U = Q – W\) に \(\Delta U=0\) を入れると、\(Q=W\) となります。つまり、吸収した熱はすべて外部への仕事に使われた、ということです。
過程B→Cでする仕事は \(\frac{3}{2}p_1V_1\)、吸収する熱量も \(\frac{3}{2}p_1V_1\) です。始点と終点の温度が同じであるため内部エネルギー変化が0となり、吸収した熱がすべて仕事に変換されたという結果は、熱力学第一法則と矛盾しません。
問(4)
思考の道筋とポイント
サイクルを一巡する間に気体がする正味の仕事 \(W_{\text{サイクル}}\) は、P-Vグラフ上でサイクルが囲む図形の面積に等しくなります。この問題のサイクルA→B→C→Aは三角形を形成しています。サイクルの進行方向が時計回りなので、気体は正味で正の仕事をします。
この設問における重要なポイント
- サイクルがP-Vグラフ上で時計回りの場合、気体は正味の正の仕事をする。
- サイクルが囲む面積を正しく計算すること(今回は三角形の面積)。
具体的な解説と立式
P-Vグラフ上で、サイクルA→B→C→Aは三角形を描きます。
この三角形の底辺は、点Aと点Cを結ぶ線分のV軸への射影と見なせ、その長さは \(2V_1 – V_1 = V_1\) です。
高さは、点Bと底辺ACとの圧力差であり、\(2p_1 – p_1 = p_1\) です。
したがって、サイクルが囲む三角形の面積、すなわち1サイクルで気体がする仕事 \(W_{\text{サイクル}}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})
\end{aligned}
$$
と立式できます。
使用した物理公式
- サイクルがする仕事: P-Vグラフでサイクルが囲む面積
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= \frac{1}{2} \times (2V_1 – V_1) \times (2p_1 – p_1) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times V_1 \times p_1 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}p_1V_1
\end{aligned}
$$
気体が1周して元の状態に戻る(サイクル)とき、気体がした正味の仕事は、P-Vグラフでそのサイクルが囲む図形の面積に等しくなります。この問題のサイクルは三角形なので、三角形の面積を計算すればOKです。底辺の長さは \(V_1\)、高さは \(p_1\) なので、面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で \(\frac{1}{2}p_1V_1\) となります。サイクルが時計回りに進んでいるので、気体は外部にプラスの仕事をしています。
このサイクルを一巡する間に気体がする仕事は \(\frac{1}{2}p_1V_1\) です。これは正の値であり、サイクルが時計回りであることと整合しています。
思考の道筋とポイント
サイクル全体の仕事は、各過程の仕事の代数和に等しくなります。\(W_{\text{サイクル}} = W_{AB} + W_{BC} + W_{CA}\)。各過程の仕事を計算し、足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- 定積変化では仕事はゼロ。
- 定圧変化では仕事は \(P\Delta V\)。圧縮の場合は負になることに注意。
具体的な解説と立式
* 過程A→B (定積変化): 体積変化がないので、\(W_{AB} = 0\)。
* 過程B→C: 問(3)より \(W_{BC} = \frac{3}{2}p_1V_1\)。
* 過程C→A (定圧変化): 圧力は \(p_1\)、体積変化は \(\Delta V = V_A – V_C = V_1 – 2V_1 = -V_1\)。
$$
\begin{aligned}
W_{CA} &= p_1 \Delta V = p_1 (V_1 – 2V_1)
\end{aligned}
$$
1サイクルの仕事はこれらの和です。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= W_{AB} + W_{BC} + W_{CA}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 定積変化の仕事: \(W_V = 0\)
- 定圧変化の仕事: \(W_P = P\Delta V\)
$$
\begin{aligned}
W_{CA} &= p_1(-V_1) = -p_1V_1
\end{aligned}
$$
したがって、全体の仕事は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= 0 + \frac{3}{2}p_1V_1 + (-p_1V_1) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}p_1V_1
\end{aligned}
$$
サイクル全体の仕事は、各パートの仕事の合計です。A→Bでは動かないので仕事はゼロ。B→Cでは \(\frac{3}{2}p_1V_1\) の仕事をしました。C→Aでは圧縮されたので、\(-p_1V_1\) の仕事をしました(つまり、仕事をされました)。これらを全部足すと、\(0 + \frac{3}{2}p_1V_1 – p_1V_1 = \frac{1}{2}p_1V_1\) となり、差し引きでプラスの仕事が残ります。
主たる解法である面積計算の結果と完全に一致しました。これにより、計算の妥当性が確認できます。
問(5)
思考の道筋とポイント
各過程 (A→B, B→C, C→A) における体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) の関係を調べ、T-V平面上にグラフを描きます。まず、各状態点 A, B, C の (\(V, T\)) 座標をプロットし、それらを結ぶ線がどのような形になるかを、各過程の性質から導き出します。
この設問における重要なポイント
- 各状態点の (\(V, T\)) 座標を正しくプロットすること。
- 定積変化 (A→B) は \(V=\text{const.}\) の縦線。
- 定圧変化 (C→A) は \(T \propto V\) の原点を通る直線。
- 過程B→Cでは、\(P\) と \(V\) の関係式を \(T=\frac{PV}{nR}\) に代入し、\(T\)が\(V\)のどのような関数になるかを調べる。
具体的な解説と立式
点A, B, C の (V, T) 座標
* 点A: (\(V_1, T_1\))
* 点B: (\(V_1, 2T_1\))
* 点C: (\(2V_1, 2T_1\))
過程 A→B (定積変化)
体積 \(V = V_1\) で一定。温度 \(T\) は \(T_1\) から \(2T_1\) へ上昇します。T-Vグラフ上では、点Aから点Bへ、縦軸に平行な線分となります。
過程 C→A (定圧変化)
圧力 \(P = p_1\) で一定。状態方程式 \(p_1V = nRT\) より \(T = \frac{p_1}{nR}V\)。これは、\(T\) が \(V\) に比例する関係、つまりT-Vグラフ上で原点を通る直線を表します。
過程 B→C
P-VグラフでB(\(V_1, 2p_1\))とC(\(2V_1, p_1\))を結ぶ直線なので、圧力 \(P\) は体積 \(V\) の一次関数として \(P = -\frac{p_1}{V_1}V + 3p_1\) と書けます。
絶対温度 \(T\) は状態方程式 \(T = \frac{PV}{nR}\) で与えられるので、
$$
\begin{aligned}
T(V) &= \frac{1}{nR} \left( \left(-\frac{p_1}{V_1}V + 3p_1\right) V \right) \\[2.0ex]
&= \frac{p_1}{nR} \left( -\frac{1}{V_1}V^2 + 3V \right)
\end{aligned}
$$
これは \(V\) に関する2次関数で、\(V^2\) の係数が負なので上に凸の放物線を描きます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(T = PV/(nR)\)
過程B→Cの温度の最大値
\(T(V)\) を \(V\) で微分してゼロとおくことで、温度が最大になる体積を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dT}{dV} &= \frac{p_1}{nR} \left( -\frac{2}{V_1}V + 3 \right) = 0
\end{aligned}
$$
これを解くと \(V = \frac{3}{2}V_1\)。この体積は \(V_1\) と \(2V_1\) の間にあるため、B→Cの途中で温度は最大値をとります。
最大温度 \(T_{\text{max}}\) は \(V = \frac{3}{2}V_1\) を \(T(V)\) の式に代入して、
$$
\begin{aligned}
T_{\text{max}} &= \frac{p_1}{nR} \left( -\frac{1}{V_1}\left(\frac{3}{2}V_1\right)^2 + 3\left(\frac{3}{2}V_1\right) \right) \\[2.0ex]
&= \frac{p_1V_1}{nR} \left( -\frac{9}{4} + \frac{9}{2} \right) \\[2.0ex]
&= T_1 \left( \frac{9}{4} \right) = \frac{9}{4}T_1
\end{aligned}
$$
\(T_B = 2T_1 = \frac{8}{4}T_1\) なので、\(T_{\text{max}}\) は \(T_B\) より高い温度です。
T-Vグラフは、横軸に体積 \(V\)、縦軸に温度 \(T\) をとったグラフです。
A→Bは体積が変わらないので、真上に進む線になります。
C→Aは圧力が一定なので、温度と体積は比例します。これは原点を通る直線になります。
B→Cは少し複雑で、温度は一度 \(2T_1\) より少し高いところまで上がってから、また \(2T_1\) に戻ってきます。形は上に膨らんだ曲線(放物線)になります。
T-Vグラフは、A→Bが垂直な線分、C→Aが原点を通る線分、B→Cが途中で温度の最大値をとる上に凸の曲線で構成されるサイクルとなります。各過程の物理的性質を正しくグラフに反映できています。
解答 (5) (グラフの概形は模範解答の図を参照)
グラフの要点:
- 点A(\(V_1, T_1\)), B(\(V_1, 2T_1\)), C(\(2V_1, 2T_1\))をプロット。
- A→Bは垂直な線分(上向き)。
- C→Aは原点を通る直線上の線分(左下向き)。
- B→CはBとCを結び、\(T>2T_1\)の領域に膨らむ上に凸の曲線。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 核心: 気体の状態(圧力、体積、温度)を記述する最も基本的な法則です。P-Vグラフ上の全ての点は、この方程式を満たします。
- 理解のポイント: この式は、各状態の未知の物理量を計算するためだけでなく、\(PV\)積が絶対温度\(T\)に比例する(\(PV \propto T\))という比例関係として捉えることで、温度の比較を直感的に行うことができます。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
- 核心: エネルギー保存則の熱力学版です。気体の内部エネルギー変化と、熱の出入り、仕事のやり取りの関係を示します。
- 理解のポイント: \(W\)の定義(した仕事か、された仕事か)によって式の符号が変わることに注意が必要です。この法則は、直接計算が難しい量(例えば熱量\(Q\))を、他の計算しやすい量(\(\Delta U\)と\(W\))から求める際に強力なツールとなります。
- 単原子分子理想気体の性質:
- 核心: 内部エネルギーが \(U = \frac{3}{2}nRT\)、定積モル比熱が \(C_V = \frac{3}{2}R\)、定圧モル比熱が \(C_P = \frac{5}{2}R\) と具体的に与えられることが、熱量や内部エネルギー変化の定量的計算を可能にします。
- 理解のポイント: 気体の種類(単原子分子か二原子分子かなど)によってこれらの値は変わるため、問題文の条件を正確に読み取ることが重要です。
- P-Vグラフと仕事の関係:
- 核心: P-Vグラフは気体の状態変化を視覚的に捉えるのに役立ちます。グラフ上の曲線とV軸で囲まれた面積が、その過程で気体がする仕事の大きさを表します。
- 理解のポイント: サイクルが囲む面積は、1サイクルあたりの正味の仕事を表し、サイクルの回転方向(時計回りか反時計回りか)がその仕事の符号を決定します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の形状のサイクル: カルノーサイクル、オットーサイクル、ディーゼルサイクルなど、より複雑なサイクルでも、各過程を基本変化(定積、定圧、等温、断熱)に分解して考えるアプローチは共通です。
- 断熱変化を含むサイクル: 断熱変化では \(PV^\gamma = \text{一定}\) (\(\gamma\)は比熱比) の関係式や、熱力学第一法則で \(Q=0\) とすることが鍵になります。
- P-Vグラフ以外のグラフ: T-VグラフやP-Tグラフが与えられた場合でも、状態方程式を駆使してP-Vグラフに変換して考えたり、各グラフ上での仕事や熱の出入りの特徴を理解したりすることが求められます。
- 初見の問題での着眼点:
- 気体の種類は何か?: 「単原子分子」というキーワードを見逃さない。これにより、\(C_V\)や\(C_P\)の値が確定します。
- 各状態変化は何か?: P-Vグラフの形状から、A→Bは垂直な線(定積)、C→Aは水平な線(定圧)、B→Cは直線、と各過程の物理的特徴を正確に特定します。
- 各状態点 (A, B, C…) の \(P, V, T\) は何か?: まず状態方程式を使い、全ての点の状態量を明らかにすることが問題解決の第一歩です。
- 仕事(\(W\))、熱量(\(Q\))、内部エネルギー変化(\(\Delta U\))のどれを問われているか?: 仕事なら面積、熱量ならモル比熱の公式か熱力学第一法則、内部エネルギー変化なら温度変化、というように、求める量に応じて最適なアプローチを選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 温度と内部エネルギーの関係の誤解:
- 誤解: B→Cの過程は等温変化ではないのに、始点と終点の温度が同じであることを見落とし、途中で温度変化がないと勘違いしてしまう。
- 対策: 理想気体の内部エネルギーは絶対温度にのみ依存します。始点と終点の温度が同じなら、どのような経路を通っても内部エネルギーの変化は0です。しかし、途中の温度は変化する可能性があることを理解する(問(5)で確認)。
- 仕事の計算ミス:
- 誤解: P-Vグラフの面積が仕事であることは知っていても、台形や三角形の面積計算を間違える。また、体積が減少する過程(C→A)の仕事を正としてしまう。
- 対策: 面積計算は慎重に行う。体積が減少する過程では、気体は仕事を「される」ので、気体が「した」仕事は負になる、という符号のルールを徹底する。
- モル比熱の使い分けの誤り:
- 誤解: 定積変化なのに定圧モル比熱\(C_P\)を使ってしまう、あるいはその逆。
- 対策: 添え字の意味(VはVolume=体積、PはPressure=圧力)を意識し、定積変化なら\(C_V\)、定圧変化なら\(C_P\)と、条件に応じて正しく使い分ける。
- \(nRT = PV\) の置き換えミス:
- 誤解: \(nRT_B\) を計算する際に、B点の圧力・体積ではなく、A点の \(p_1V_1\) を使ってしまう。
- 対策: \(nRT = PV\) の関係は、同じ状態におけるP, V, Tについてのみ成り立ちます。\(nRT_B = P_B V_B\), \(nRT_C = P_C V_C\) のように、添え字を意識して対応関係を明確にする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 選定理由: 各状態の \(P,V,T\) を関連付けるため。
- 適用根拠: 問題で扱っているのが「理想気体」であり、その状態を記述する最も基本的な関係式だからです。
- 熱量の公式 (\(Q = nC\Delta T\)):
- 選定理由: 定積変化(A→B)や定圧変化(C→A)における熱の出入りを計算するため。
- 適用根拠: それぞれの過程が、モル比熱が定義される基本的な熱力学過程であるため、この公式を直接適用するのが最も効率的です。
- P-Vグラフの面積 = 仕事:
- 選定理由: P-Vグラフが与えられており、仕事が問われているため。
- 適用根拠: 仕事の定義 \(W = \int P dV\) が、数学的にはグラフ上の面積計算に対応しているからです。特に、直線や水平線で囲まれた図形(三角形、長方形、台形)の面積は容易に計算できます。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
- 選定理由: B→Cの過程のように、熱量の定義式を直接使えない複雑な変化において、熱量を求めるため。
- 適用根拠: この法則はエネルギー保存則であり、あらゆる過程に適用できます。\(\Delta U\)と\(W\)が分かれば、残りの\(Q\)を求めることができるという、消去法的なアプローチが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号チェックの徹底:
- 特に注意すべき点: 仕事、熱量、温度変化の符号は物理的な意味と直結しています。特に、C→Aの過程では \(\Delta T = T_A – T_C = T_1 – 2T_1 = -T_1\) となり、仕事や熱量が負になる計算でミスしやすい。
- 日頃の練習: 計算結果が出たら、その符号が物理現象(圧縮/膨張、吸熱/放熱、温度上昇/下降)と一致しているかを必ず確認する癖をつける。
- \(nRT = PV\) の置き換えの活用:
- 特に注意すべき点: この問題のように、\(n\)や\(R\)が最終的な答えに含まれない場合、状態方程式を使って \(nRT\) の項を \(PV\) の項に置き換える操作が頻出します。
- 日頃の練習: \(nRT_1 = p_1V_1\), \(nRT_B = P_B V_B = 2p_1V_1\) のように、どの状態の温度とPV積が対応しているかを明確に書き出しながら計算を進める。
- グラフの面積計算の正確性:
- 特に注意すべき点: 台形の面積公式 \(\frac{1}{2}(\text{上底}+\text{下底})\times\text{高さ}\) や三角形の面積公式 \(\frac{1}{2}\times\text{底辺}\times\text{高さ}\) を、グラフの軸に合わせて正しく適用する。
- 日頃の練習: 様々な形状のP-Vグラフ問題で、面積計算を繰り返し行い、素早く正確に計算できるようにする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の検討:
- 吟味の視点: (問2) A→Bは定積加熱なので吸熱(\(Q>0\))、C→Aは定圧冷却なので放熱(\(Q<0\))という結果は物理的に自然です。(問3) B→Cでは、気体は膨張して仕事(\(W>0\))をしていますが、内部エネルギーは変化しない(\(\Delta U=0\))ので、仕事をした分だけ熱を吸収(\(Q>0\))する必要がある、という結果も妥当です。
- サイクル全体でのエネルギー収支の確認:
- 吟味の視点: 1サイクル後、気体は元の状態Aに戻るので、内部エネルギーの変化はゼロです (\(\Delta U_{\text{サイクル}}=0\))。したがって、熱力学第一法則より、サイクル全体で吸収した正味の熱量 \(Q_{\text{サイクル}}\) は、サイクル全体で外部にした仕事 \(W_{\text{サイクル}}\) に等しくなるはずです (\(Q_{\text{サイクル}} = W_{\text{サイクル}}\))。
- 実際に計算してみると、\(Q_{\text{サイクル}} = Q_{AB} + Q_{BC} + Q_{CA} = \frac{3}{2}p_1V_1 + \frac{3}{2}p_1V_1 – \frac{5}{2}p_1V_1 = \frac{1}{2}p_1V_1\)。これは(問4)で求めた仕事 \(W_{\text{サイクル}} = \frac{1}{2}p_1V_1\) と見事に一致します。この確認作業は、計算全体の正しさを保証する強力な検算になります。
- T-Vグラフの形状の吟味:
- 吟味の視点: (問5) B→Cの過程で、温度が一度上昇してから下降するという結果は、一見すると奇妙に思えるかもしれません。しかし、状態方程式 \(T = \frac{PV}{nR}\) を考えると、P-Vグラフ上で原点から最も遠い点が温度の最大点となります。B-Cを結ぶ直線上で原点から最も遠くなるのはBとCの中間あたりであり、この点で温度が最大になるという結果は数学的に正しいことがわかります。
問題62 (東京理科大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、単原子分子理想気体が P-V グラフ上を A→B→C→A とサイクル運動する際の、各過程における内部エネルギー変化、仕事、熱量の関係、そしてサイクル全体の仕事と熱効率を問う穴埋め形式の問題です。特に、過程B→Cが等温変化であることが重要なポイントです。
- 気体: 単原子分子理想気体
- P-Vグラフ上の点A, B, C の圧力・体積
- 状態A: 体積 \(V\)、圧力 \(P\)
- 状態B: 体積 \(V\)、圧力 \(3P\)
- 状態C: 圧力 \(P\)、体積 \(V_C\) (\(V_C\) は後で決定)
- 過程 A→B: 定積変化
- 過程 B→C: 等温変化、このとき吸収する熱量を \(Q\) とする
- 過程 C→A: 定圧変化
- \(\fbox{1}\) A→B における内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{AB}\)
- \(\fbox{2}\) B→C における内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{BC}\)
- \(\fbox{3}\) B→C において気体が外部にした仕事 \(W_{BC}\)
- \(\fbox{4}\) C→A において気体が受けた仕事 \(W’_{CA}\)
- \(\fbox{5}\) 1サイクル A→B→C→A で気体がした正味の仕事 \(W_{\text{サイクル}}\)
- \(\fbox{6}\) このサイクルの熱効率 \(e\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(c) 気体が受けた仕事の別解: P-Vグラフの面積を利用する解法
- 主たる解法が仕事の公式 \(W=P\Delta V\) を用いて計算するのに対し、別解では、P-Vグラフ上で過程C→AとV軸が作る長方形の面積として仕事を視覚的に捉え、計算します。
- 問(d) 1サイクルの仕事の別解: P-Vグラフのサイクルが囲む面積を利用する解法
- 主たる解法が各過程の仕事の和を計算するのに対し、別解では、サイクルが囲む閉じた領域の面積を直接計算することで、1サイクルあたりの正味の仕事を求めます。
- 問(c) 気体が受けた仕事の別解: P-Vグラフの面積を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 仕事という物理量が、P-Vグラフ上の「面積」という幾何学的な量に直接対応していることを視覚的に理解できます。これにより、熱力学サイクルの仕事の正負や大きさを直感的に把握する能力が養われます。
- 計算の効率化: 特にサイクル全体の仕事を求める場合、各過程の仕事を個別に計算するよりも、サイクルが囲む図形の面積を一度に計算する方が、計算が大幅に簡略化されることが多く、計算ミスを減らす効果も期待できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、理想気体の状態変化と熱力学サイクルです。P-Vグラフから各過程の物理的特徴を読み取り、状態方程式、熱力学第一法則、比熱の知識を総合的に活用して問題を解き進めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)。気体の状態量を結びつける基本式です。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}PV\)。内部エネルギーを圧力と体積で直接表現できます。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)。内部エネルギー変化(\(\Delta U\))、吸収熱量(\(Q\))、した仕事(\(W\))の関係を示します。
- 各過程の性質: 定積変化(\(W=0\))、等温変化(\(\Delta U=0\))、定圧変化(\(W=P\Delta V\))の特徴を理解することが重要です。
- サイクルの仕事と熱効率: サイクル全体の仕事はP-Vグラフが囲む面積に等しく、熱効率は \(e = \frac{W_{\text{サイクル}}}{Q_{\text{in}}}\) で定義されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各過程の性質を確認し、必要に応じて状態量を計算します。
- 問(a)では、内部エネルギーの公式 \(U=\frac{3}{2}PV\) を用います。
- 問(b)では、等温変化の性質と熱力学第一法則を適用します。
- 問(c)では、まずボイルの法則で状態Cの体積を決定し、定圧変化の仕事の公式を適用します。
- 問(d)では、各過程の仕事の和、またはサイクルが囲む面積から全体の仕事を求め、吸収熱量を計算して熱効率を導出します。
問(a) 空欄\(\fbox{1}\)
思考の道筋とポイント
過程A→Bは、P-Vグラフから体積が \(V\) で一定の定積変化です。気体の内部エネルギーは、単原子分子理想気体の場合 \(U = \frac{3}{2}PV\) と表せます。内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{AB}\) は、状態Bの内部エネルギー \(U_B\) から状態Aの内部エネルギー \(U_A\) を引くことで求められます。
この設問における重要なポイント
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの公式 \(U=\frac{3}{2}PV\) を正しく使うこと。
- 状態Aと状態Bの \(P, V\) の値をグラフから正確に読み取ること。
具体的な解説と立式
状態Aにおける内部エネルギー \(U_A\) は、
$$
\begin{aligned}
U_A &= \frac{3}{2} P_A V_A
\end{aligned}
$$
状態Bにおける内部エネルギー \(U_B\) は、
$$
\begin{aligned}
U_B &= \frac{3}{2} P_B V_B
\end{aligned}
$$
したがって、A→Bの過程における内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{AB}\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{AB} &= U_B – U_A
\end{aligned}
$$
と立式できます。
使用した物理公式
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}PV\)
グラフから読み取った値を代入します。
\(P_A = P\), \(V_A = V\)
\(P_B = 3P\), \(V_B = V\)
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{AB} &= \frac{3}{2} (3P)(V) – \frac{3}{2} (P)(V) \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2}PV – \frac{3}{2}PV \\[2.0ex]
&= \frac{6}{2}PV \\[2.0ex]
&= 3PV
\end{aligned}
$$
気体の元気の素(内部エネルギー)は、単原子分子の理想気体の場合、「圧力 × 体積」に \(\frac{3}{2}\) を掛けたもので表せます。A地点での元気の素は \(\frac{3}{2}PV\)。B地点での元気の素は、圧力が \(3P\)、体積が \(V\) なので \(\frac{3}{2}(3P)V = \frac{9}{2}PV\)。AからBへの元気の素の変化は、Bでの元気の素からAでの元気の素を引けばよいので、\(\frac{9}{2}PV – \frac{3}{2}PV = 3PV\) となります。
A→Bの過程で内部エネルギーは \(3PV\) だけ増加します。これは、体積一定のまま圧力が3倍になったため、温度も3倍になり、内部エネルギーが増加したことを意味しており、物理的に妥当です。
問(b) 空欄\(\fbox{2}\), \(\fbox{3}\)
思考の道筋とポイント
過程B→Cは、問題文で等温変化であると明記されています。理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存するため、等温変化では内部エネルギーは変化しません。吸収した熱量が \(Q\) と与えられているので、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) (\(W\)は気体がした仕事)を用いて、気体が外部にした仕事を求めます。
この設問における重要なポイント
- 等温変化では理想気体の内部エネルギーは変化しない (\(\Delta U = 0\)) ことを理解していること。
- 熱力学第一法則を正しく適用すること。
具体的な解説と立式
内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{BC}\) (\(\fbox{2}\))
過程B→Cは等温変化です。単原子分子理想気体の内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}nRT\) と表され、温度 \(T\) のみに依存します。等温変化では温度 \(T\) が一定なので、内部エネルギー \(U\) も一定です。
したがって、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{BC}\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{BC} &= 0
\end{aligned}
$$
と立式できます。
外部にした仕事 \(W_{BC}\) (\(\fbox{3}\))
熱力学第一法則は \(\Delta U_{BC} = Q_{BC} – W_{BC}\) です。
ここで、\(Q_{BC}\) は気体が吸収した熱量で、問題文より \(Q\) です。
\(\Delta U_{BC} = 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
0 &= Q – W_{BC}
\end{aligned}
$$
と立式できます。
使用した物理公式
- 理想気体の内部エネルギー (等温変化時): \(\Delta U = 0\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)
内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{BC}\)
立式がそのまま答えとなります。
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{BC} &= 0
\end{aligned}
$$
外部にした仕事 \(W_{BC}\)
\(0 = Q – W_{BC}\) を \(W_{BC}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
W_{BC} &= Q
\end{aligned}
$$
内部エネルギーの変化: BからCへの変化は「等温変化」と問題に書かれています。これは温度が変わらない変化という意味です。気体の元気の素(内部エネルギー)は温度で決まるので、温度が変わらなければ元気の素も変わりません。だから、内部エネルギーの変化はゼロです。
外部にした仕事: 熱力学の基本ルール(第一法則)は「元気の素の変化 = もらった熱エネルギー - 外にした仕事」です。今、元気の素の変化はゼロでした。もらった熱エネルギーは \(Q\) だと問題にあります。なので、\(0 = Q – (\text{外にした仕事})\) となります。これを変形すると、「外にした仕事 \(= Q\)」となります。
等温変化では内部エネルギーが変化しないため、吸収した熱量はすべて外部への仕事に使われることがわかります。これは等温膨張の典型的な特徴であり、妥当な結果です。
問(c) 空欄\(\fbox{4}\)
思考の道筋とポイント
過程C→Aは、P-Vグラフから圧力 \(P\) で一定の定圧変化です。この過程で気体が「受けた」仕事を求めます。まず、状態Cの体積 \(V_C\) を決定する必要があります。これは、過程B→Cが等温変化であることから、ボイルの法則 \(P_B V_B = P_C V_C\) を利用して求めます。体積 \(V_C\) がわかれば、定圧変化で気体が「した」仕事 \(W_{CA} = P\Delta V\) を計算し、その符号を反転させることで「受けた」仕事を求めます。
この設問における重要なポイント
- ボイルの法則を適用して未知の体積 \(V_C\) を求めること。
- 定圧変化における仕事の公式 \(W = P\Delta V\) を使うこと。
- 気体が「した」仕事と「受けた」仕事の符号の関係を理解していること。
具体的な解説と立式
状態Cの体積 \(V_C\) の決定
過程B→Cは等温変化なので、ボイルの法則が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
P_B V_B &= P_C V_C
\end{aligned}
$$
グラフから読み取った値を代入します: \(P_B = 3P\), \(V_B = V\), \(P_C = P\)。
C→Aで気体が受けた仕事 \(W’_{CA}\)
過程C→Aは圧力 \(P_A = P\) で一定の定圧変化です。気体が外部にした仕事 \(W_{CA}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{CA} &= P_A (V_A – V_C)
\end{aligned}
$$
と立式できます。気体が受けた仕事 \(W’_{CA}\) は、\(W’_{CA} = -W_{CA}\) の関係にあります。
使用した物理公式
- ボイルの法則 (等温変化): \(PV = \text{一定}\)
- 定圧変化で気体がする仕事: \(W = P\Delta V\)
状態Cの体積 \(V_C\)
$$
\begin{aligned}
(3P)(V) &= (P)V_C
\end{aligned}
$$
両辺を \(P\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
V_C &= 3V
\end{aligned}
$$
C→Aで気体が受けた仕事 \(W’_{CA}\)
まず、した仕事 \(W_{CA}\) を計算します。\(V_A = V\), \(V_C = 3V\) なので、
$$
\begin{aligned}
W_{CA} &= P(V – 3V) \\[2.0ex]
&= P(-2V) \\[2.0ex]
&= -2PV
\end{aligned}
$$
したがって、受けた仕事 \(W’_{CA}\) は、
$$
\begin{aligned}
W’_{CA} &= -W_{CA} \\[2.0ex]
&= -(-2PV) \\[2.0ex]
&= 2PV
\end{aligned}
$$
C地点の体積を求める: BからCは温度が同じ変化なので、「圧力 × 体積」の値もBとCで同じになります。B地点は \(3P \times V = 3PV\)。C地点は \(P \times V_C\)。これらが等しいので \(3PV = PV_C\)、つまり \(V_C = 3V\) です。
C→Aで気体が受けた仕事: CからAへの変化は圧力が \(P\) のまま、体積が \(3V\) から \(V\) に減ります(圧縮)。気体が「した」仕事は、\(P \times (V – 3V) = -2PV\)。マイナスは、仕事を「された」ことを意味します。問題では「受けた仕事」を問われているので、符号をプラスにして \(2PV\) となります。
過程C→Aでは体積が減少(圧縮)しているので、気体は外部から仕事をされます。その値が \(2PV\) という正の値で得られたことは妥当です。
思考の道筋とポイント
過程C→Aで気体がされた仕事は、P-Vグラフ上で、C→Aの線分とV軸、および \(V=V\) と \(V=3V\) の線で囲まれた長方形の面積に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 定圧圧縮でされる仕事が、P-Vグラフ上の長方形の面積に対応することを理解する。
具体的な解説と立式
P-Vグラフ上で、過程C→Aは圧力\(P\)、体積が\(3V\)から\(V\)への変化です。この過程で気体がされた仕事は、グラフ上の長方形の面積として計算できます。
長方形の縦の長さは圧力 \(P\)、横の長さは体積の変化幅 \(3V – V = 2V\) です。
$$
\begin{aligned}
W’_{CA} &= (\text{圧力}) \times (\text{体積の変化幅})
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事 (P-Vグラフの面積)
$$
\begin{aligned}
W’_{CA} &= P \times (3V – V) \\[2.0ex]
&= P \times (2V) \\[2.0ex]
&= 2PV
\end{aligned}
$$
CからAへの変化で「された仕事」は、グラフの灰色部分の長方形の面積です。この長方形の縦は \(P\)、横は \(3V-V=2V\) なので、面積は \(P \times 2V = 2PV\) となります。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。面積で考えることで、より直感的に仕事の大きさを把握できます。
問(d) 空欄\(\fbox{5}\), \(\fbox{6}\)
思考の道筋とポイント
1サイクルで気体がした正味の仕事 \(W_{\text{サイクル}}\) は、各過程 (A→B, B→C, C→A) で気体がした仕事の代数和です。熱効率 \(e\) は、\(e = \frac{W_{\text{サイクル}}}{Q_{\text{in}}}\) で定義されます。ここで \(Q_{\text{in}}\) は、1サイクルの間に気体が「吸収した」熱量の総和です。どの過程で熱を吸収し(\(Q>0\))、どの過程で熱を放出するか(\(Q<0\))を正しく判断する必要があります。
この設問における重要なポイント
- サイクルの仕事の求め方(各過程の和、またはP-Vグラフの面積)。
- 熱効率の定義 \(e = \frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収総量}}}\)。
- \(Q_{\text{in}}\) の計算では、正の値の \(Q\) のみを足し合わせること。
具体的な解説と立式
1サイクルで気体がした正味の仕事 \(W_{\text{サイクル}}\) (\(\fbox{5}\))
各過程で気体がした仕事は、
- 過程A→B (定積変化): \(W_{AB} = 0\)
- 過程B→C (等温変化): \(W_{BC} = Q\)
- 過程C→A (定圧変化): \(W_{CA} = -2PV\)
よって、1サイクルで気体がした正味の仕事 \(W_{\text{サイクル}}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= W_{AB} + W_{BC} + W_{CA}
\end{aligned}
$$
熱効率 \(e\) (\(\fbox{6}\))
熱効率を求めるためには、1サイクル中に気体が吸収した総熱量 \(Q_{\text{in}}\) を計算する必要があります。
- 過程A→B (定積加熱): \(\Delta U_{AB} = 3PV\)。\(W_{AB}=0\)なので、\(Q_{AB} = \Delta U_{AB} = 3PV\)。これは正の値なので吸熱です。
- 過程B→C (等温膨張): 問題文より吸収した熱量は \(Q_{BC} = Q\)。これも吸熱です。
- 過程C→A (定圧冷却): \(\Delta U_{CA} = -3PV\), \(W_{CA} = -2PV\)。よって \(Q_{CA} = \Delta U_{CA} + W_{CA} = -5PV\)。これは負の値なので放熱です。
したがって、1サイクル中に気体が吸収した熱量の総和 \(Q_{\text{in}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{in}} &= Q_{AB} + Q_{BC}
\end{aligned}
$$
熱効率 \(e\) は、
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{W_{\text{サイクル}}}{Q_{\text{in}}}
\end{aligned}
$$
と立式できます。
使用した物理公式
- サイクルの仕事: \(W_{\text{サイクル}} = \sum W_{\text{各過程}}\)
- 熱効率: \(e = \frac{W_{\text{サイクル}}}{Q_{\text{in}}}\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)
仕事 \(W_{\text{サイクル}}\)
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= 0 + Q + (-2PV) \\[2.0ex]
&= Q – 2PV
\end{aligned}
$$
熱効率 \(e\)
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{in}} &= 3PV + Q
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{Q – 2PV}{3PV + Q}
\end{aligned}
$$
サイクル全体の仕事: 一周して気体がした「正味の」仕事は、各パートの仕事を足し合わせます。A→Bは仕事ゼロ。B→Cは仕事 \(Q\)。C→Aは「した」仕事が \(-2PV\)。全部足すと、\(Q – 2PV\) です。
熱効率: 熱効率とは、「使った熱エネルギーのうち、どれだけ仕事に変わったか」の割合です。正味の仕事は \(Q – 2PV\) と求めました。次に「吸収した総熱量」を考えます。A→Bでは \(3PV\) の熱を吸収しました。B→Cでは \(Q\) の熱を吸収しました。C→Aでは熱を「放出」しているので、吸収量にはカウントしません。よって、吸収した総熱量は \(3PV + Q\) です。熱効率は「仕事÷吸収熱」なので、\(\frac{Q – 2PV}{3PV + Q}\) となります。
サイクルの正味の仕事は \(Q – 2PV\)。熱効率は \(\frac{Q – 2PV}{Q + 3PV}\)。熱効率はエネルギー保存則から必ず1より小さい値になるはずであり、式の形もそれを満たしています。
思考の道筋とポイント
1サイクルで気体がした正味の仕事は、P-Vグラフ上でサイクルが囲む閉じた領域の面積に等しくなります。この面積は、過程B→Cで気体がした仕事(B→Cの下側の面積)から、過程C→Aで気体がされた仕事(C→Aの下側の面積)を引くことで求められます。
この設問における重要なポイント
- サイクルが囲む面積が正味の仕事を表すことを理解する。
- \(W_{\text{サイクル}} = W_{BC} – W’_{CA}\) のように、面積の差として計算する。
具体的な解説と立式
サイクルが囲む面積は、膨張過程B→Cで気体がした仕事 \(W_{BC}\) から、圧縮過程C→Aで気体がされた仕事 \(W’_{CA}\) を引いたものに等しくなります。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= W_{BC} – W’_{CA}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- サイクルの仕事 = 膨張過程の仕事 – 圧縮過程の仕事の大きさ
問(b)より \(W_{BC} = Q\)、問(c)より \(W’_{CA} = 2PV\) なので、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{サイクル}} &= Q – 2PV
\end{aligned}
$$
サイクル全体の仕事は、膨張するときにした仕事(プラスの仕事)と、圧縮されるときにされた仕事(マイナスの仕事)の合計です。B→Cの膨張で \(Q\) の仕事をし、C→Aの圧縮で \(2PV\) の仕事をされました。差し引きすると、\(Q – 2PV\) の仕事が残ります。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー (\(U = \frac{3}{2}PV\)):
- 核心: 内部エネルギーを、状態方程式を介さずに圧力と体積で直接表現できるこの式は、特に定積変化や温度が未知の場合の計算において非常に強力です。
- 理解のポイント: 理想気体の内部エネルギーは温度にのみ比例しますが、状態方程式 \(PV=nRT\) を使うことで、\(U = \frac{3}{2}nRT\) を \(U = \frac{3}{2}PV\) へと書き換えることができます。これにより、P-Vグラフから直接内部エネルギーを計算・比較することが可能になります。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
- 核心: 全ての熱力学過程のエネルギー収支を記述する基本法則です。気体の内部エネルギー変化と、熱の出入り、仕事のやり取りの関係を示します。
- 理解のポイント: \(W\)の定義(した仕事か、された仕事か)によって式の符号が変わることに注意が必要です。この法則は、直接計算が難しい量(例えば熱量\(Q\))を、他の計算しやすい量(\(\Delta U\)と\(W\))から求める際に強力なツールとなります。
- 等温変化の特性:
- 核心: 理想気体では \(\Delta U = 0\) となり、その結果として熱力学第一法則が \(Q=W\) という非常にシンプルな形になることが重要です。
- 理解のポイント: 温度が一定であるため、分子の平均運動エネルギーは変化しません。したがって、気体が外部から吸収した熱エネルギーは、すべて外部への仕事として使われる、というエネルギーの流れを意味します。また、ボイルの法則 \(PV=\text{一定}\) も等温変化を特徴づける重要な関係式です。
- サイクルの仕事と熱効率:
- 核心: サイクル全体の仕事はP-Vグラフ上でサイクルが囲む面積に等しく、熱効率は投入した熱エネルギーに対する正味の仕事の割合 (\(e = \frac{W_{\text{サイクル}}}{Q_{\text{in}}}\)) で定義されます。
- 理解のポイント: 熱効率の計算では、分母に来る \(Q_{\text{in}}\) は、サイクル中に気体が「吸収した」熱量(\(Q>0\)となる過程の熱量)の総和であり、放出した熱量(\(Q<0\))は含めない、という定義を正確に理解しておく必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 断熱変化を含むサイクル: 断熱変化では \(Q=0\) となるため、熱力学第一法則は \(\Delta U = -W\) となります。断熱膨張では内部エネルギーを消費して仕事をするため温度が下がり、断熱圧縮では仕事をされて内部エネルギーが増加し温度が上がります。
- P-Vグラフ以外のグラフ: T-VグラフやP-Tグラフが与えられた場合でも、状態方程式を駆使してP-Vグラフに変換して考えたり、各グラフ上での仕事や熱の出入りの特徴を理解したりすることが求められます。
- 初見の問題での着眼点:
- 気体の種類は何か?: 「単原子分子」というキーワードを見逃さない。これにより、\(C_V\)や\(C_P\)、内部エネルギーの具体的な式が確定します。
- 各状態変化は何か?: P-Vグラフの形状から、A→Bは垂直な線(定積)、C→Aは水平な線(定圧)、そして問題文の指定からB→Cは等温、と各過程の物理的特徴を正確に特定します。
- 未知の状態量を求める: C点の体積\(V_C\)のように、グラフから直接読み取れない状態量は、過程の性質(B→Cが等温であること)を利用して計算します。
- 仕事(\(W\))、熱量(\(Q\))、内部エネルギー変化(\(\Delta U\))のどれを問われているか?: 仕事なら面積、熱量ならモル比熱の公式か熱力学第一法則、内部エネルギー変化なら温度変化(または\(PV\)積の変化)、というように、求める量に応じて最適なアプローチを選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 内部エネルギーの式の適用:
- 誤解: \(U = \frac{3}{2}PV\) の公式を、単原子分子理想気体以外の場合にも使ってしまう。
- 対策: この公式が使えるのは「単原子分子理想気体」の場合に限られることを強く意識する。問題文の条件を必ず確認する。
- 仕事の符号と定義:
- 誤解: 気体が「した」仕事と「受けた(された)」仕事の区別が曖昧で、符号を間違える。
- 対策: 膨張(体積増加)なら気体は正の仕事をし、圧縮(体積減少)なら負の仕事をする(=正の仕事をされる)という基本を徹底する。熱力学第一法則の\(W\)がどちらの定義かを常に確認する。
- 熱効率の分母 \(Q_{\text{in}}\) の計算:
- 誤解: サイクル中の全ての熱量(吸収も放出も)を足し合わせてしまう。
- 対策: 熱効率の定義は「投入したエネルギーに対して、どれだけ有効な仕事を取り出せたか」です。したがって、分母は投入したエネルギー、すなわち「吸収した」熱量(\(Q>0\))の総和のみであることを正確に記憶する。
- 等温変化と断熱変化の混同:
- 誤解: P-Vグラフ上の右下がりの曲線を、等温か断熱か区別せず扱ってしまう。
- 対策: 等温変化は \(\Delta U=0\)、断熱変化は \(Q=0\) という、それぞれの過程を定義づける物理的条件を明確に区別して覚える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(U = \frac{3}{2}PV\):
- 選定理由: (a)の内部エネルギー変化を計算するため。
- 適用根拠: 気体が「単原子分子理想気体」であり、P-Vグラフから圧力と体積が直接読み取れるため、温度を介さずに計算できるこの式が最も効率的だからです。
- \(\Delta U = 0\) (等温変化):
- 選定理由: (b)の内部エネルギー変化を求めるため。
- 適用根拠: 理想気体の内部エネルギーは絶対温度にのみ依存するという基本性質があり、過程B→Cが「等温変化」であると問題文で指定されているからです。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
- 選定理由: (b)の仕事\(W_{BC}\)を求めるため。
- 適用根拠: この法則はエネルギー保存則であり、あらゆる過程に適用できます。\(\Delta U\)と\(Q\)が分かれば、残りの\(W\)を求めることができるという、消去法的なアプローチが可能になります。
- ボイルの法則 (\(PV = \text{一定}\)):
- 選定理由: (c)で未知の体積\(V_C\)を決定するため。
- 適用根拠: 過程B→Cが「等温変化」であると指定されており、この条件下で成り立つ法則だからです。
- 熱効率の定義 (\(e = W_{\text{サイクル}} / Q_{\text{in}}\)):
- 選定理由: (d)で熱効率を計算するため。
- 適用根拠: これは熱機関の性能を評価するための普遍的な定義式だからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号チェックの徹底:
- 特に注意すべき点: 仕事、熱量、体積変化の正負に注意する。特に、(c)の過程C→Aは圧縮なので、気体が「した」仕事は負になります。これを正としてしまうと、(d)のサイクル全体の仕事の計算も狂ってしまいます。
- 日頃の練習: 計算結果が出たら、その符号が物理現象(圧縮/膨張、吸熱/放熱、温度上昇/下降)と一致しているかを必ず確認する癖をつける。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: この問題のように、答えが \(P, V, Q\) などの文字を含んだ式で表される場合、計算の各段階で式をできるだけシンプルに保つことが重要です。
- 日頃の練習: 共通因数でくくる、約分するなど、基本的な代数計算のスキルを磨く。特に、熱効率の計算では、最終的な答えが最も簡単な分数式になるように整理する。
- \(P, V\) の値の代入ミス:
- 特に注意すべき点: 状態A, B, Cのそれぞれの圧力・体積の値を、計算の際に取り違えないようにする。
- 日頃の練習: 問題を解き始める前に、P-Vグラフの脇に A:(\(V, P\)), B:(\(V, 3P\)), C:(\(3V, P\)) のように、各点の座標をメモしておく習慣をつけると、ミスを減らせます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の検討:
- 吟味の視点: (a) A→Bは定積加熱なので、圧力が上昇し、内部エネルギーが増加する(\(\Delta U > 0\))という結果は妥当です。(b) B→Cは等温膨張なので、気体は外部に仕事をする(\(W>0\))必要があり、そのためには熱を吸収する(\(Q>0\))必要があるという結果(\(W=Q\))も妥当です。
- サイクル全体でのエネルギー収支の確認:
- 吟味の視点: 1サイクル後、気体は元の状態Aに戻るので、内部エネルギーの変化はゼロです (\(\Delta U_{\text{サイクル}}=0\))。したがって、熱力学第一法則より、サイクル全体で吸収した正味の熱量 \(Q_{\text{サイクル}}\) は、サイクル全体で外部にした仕事 \(W_{\text{サイクル}}\) に等しくなるはずです (\(Q_{\text{サイクル}} = W_{\text{サイクル}}\))。
- 実際に計算してみると、\(Q_{\text{サイクル}} = Q_{AB} + Q_{BC} + Q_{CA} = 3PV + Q + (-5PV) = Q – 2PV\)。これは(d)で求めた仕事 \(W_{\text{サイクル}} = Q – 2PV\) と見事に一致します。この確認作業は、計算全体の正しさを保証する強力な検算になります。
- 熱効率の範囲の確認:
- 吟味の視点: 熱効率 \(e\) は、定義上 \(0 \le e < 1\) の範囲にあるはずです(\(e=1\) となる熱機関は存在しない)。(d)で求めた式 \(e = \frac{Q – 2PV}{Q + 3PV}\) を見ると、分子が分母より \(5PV\) だけ小さいので、\(Q>2PV\)(仕事が正になる条件)のもとでは、\(e\)は必ず1より小さくなります。これも結果の妥当性を示しています。
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問題63 (熊本大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、1molの単原子分子理想気体がT-Vグラフ上で示すA→B→C→D→Aというサイクル運動について、各過程での熱量や仕事、状態量、そしてサイクル全体の仕事と熱効率を計算する問題です。T-Vグラフが与えられており、各過程の特性(定積変化、体積が温度に比例する変化)が示されています。
- 物質量: \(n = 1\) mol
- 気体の種類: 単原子分子理想気体
- 状態A: 温度 \(T_0\), 体積 \(V_0\)
- 状態B: 温度 \(T_1\), 体積 \(V_0\)
- 状態C: 温度 \(T_2\), 体積 \(V_1\)
- 状態D: 温度 \(T_D\)(後述), 体積 \(V_1\)
- 過程A→B: 体積 \(V_0\) で一定 (定積変化)
- 過程C→D: 体積 \(V_1\) で一定 (定積変化)
- 過程B→C: T-Vグラフ上で原点を通る直線(\(V \propto T\)、よって定圧変化)
- 過程D→A: T-Vグラフ上で原点を通る直線(\(V \propto T\)、よって定圧変化)
- 気体定数: \(R\)
- (1) A→B の過程で気体が吸収した熱量 \(Q_{AB}\)
- (2) 状態Cでの気体の圧力 \(P_C\)
- (3) D→A の過程で気体が外部へ放出した熱量 \(Q’_{DA}\)
- (4) 1サイクルで気体が外部へした仕事 \(W_{\text{サイクル}}\)
- (5) この1サイクルの熱効率 \(e\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) 1サイクルで気体がした仕事の別解: P-Vグラフの面積を利用する解法
- 主たる解法が各過程の仕事の和を計算するのに対し、別解では、このサイクルがP-Vグラフ上で長方形を描くことを利用し、その面積を直接計算することで、1サイクルあたりの正味の仕事を求めます。
- 問(4) 1サイクルで気体がした仕事の別解: P-Vグラフの面積を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: T-Vグラフで与えられたサイクルを、より仕事の計算が直感的なP-Vグラフに変換して考えることで、異なる状態図間の関係性の理解が深まります。
- 計算の効率化: この問題のようにサイクルがP-Vグラフ上で単純な図形(長方形)になる場合、面積計算は各過程の仕事を足し合わせるよりもはるかに迅速かつ簡単で、計算ミスを減らす効果も期待できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、T-Vグラフで与えられた理想気体のサイクル解析です。グラフの形状から各過程の物理的特徴(定積、定圧など)を正しく読み解き、状態方程式や熱力学第一法則、比熱の知識を適用することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)。
- 単原子分子理想気体の性質: 内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}nRT\)、定積モル比熱は \(C_V = \frac{3}{2}R\)、定圧モル比熱は \(C_P = \frac{5}{2}R\)。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\) (\(W\)は気体がした仕事)。
- 各過程の性質:
- 定積変化: \(W = 0\), \(Q = nC_V\Delta T\)。
- 定圧変化: \(W = P\Delta V = nR\Delta T\), \(Q = nC_P\Delta T\)。T-Vグラフ上では原点を通る直線。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- T-Vグラフから各過程の種類を特定し、各状態の物理量を整理します。
- 設問ごとに、状態方程式や熱量の公式、仕事の公式を適用して計算を進めます。
- サイクル全体の仕事と熱効率は、各過程の結果を統合して求めます。