「名問の森」徹底解説(67〜69問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題67 (九州工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2段階の核反応を通じて高エネルギーの中性子を生成するプロセスを扱います。質量そのものではなく「結合エネルギー」が与えられている点が特徴で、これを用いて反応エネルギー(Q値)を計算する必要があります。さらに、衝突後の粒子が特定の角度に放出される場合のエネルギー計算など、運動量保存則を2次元的に応用する力も問われます。

与えられた条件
  • 反応 (a): \({}_{3}^{6}\text{Li} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{1}^{3}\text{H}\) (熱中性子を吸収)
  • 反応 (b): \({}_{1}^{3}\text{H} + {}_{1}^{2}\text{H} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{0}^{1}\text{n}\)
  • 原子核の結合エネルギー (BE):
    • \({}_{3}^{6}\text{Li}\): \(32.0 \, \text{MeV}\)
    • \({}_{2}^{4}\text{He}\): \(28.3 \, \text{MeV}\)
    • \({}_{1}^{3}\text{H}\): \(8.5 \, \text{MeV}\)
    • \({}_{1}^{2}\text{H}\): \(2.2 \, \text{MeV}\)
  • 有効数字: 2桁
問われていること
  • (1) 反応(a)で発生するエネルギー(Q値)。
  • (2) 反応(a)で生じる\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギー。
  • (3) 反応(b)で生じる\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動エネルギーの和。
  • (4) 反応(b)で、中性子が特定の角度(入射方向と90度)に放出された場合の中性子の運動エネルギー。
  • (コラムQ) (4)の運動量保存に関する式をベクトル図から導出すること。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

本問の最大のポイントは、結合エネルギーを用いて反応エネルギー(Q値)を計算する点です。原子核の質量は、それを構成する陽子と中性子がバラバラの状態のときの質量の和よりも小さく、その差が「質量欠損」です。この質量欠損に相当するエネルギーが「結合エネルギー」であり、原子核の安定度を示します。したがって、結合エネルギーが大きいほど、原子核は安定で、そのぶん質量(静止エネルギー)は小さくなります。この関係を利用し、「バラバラな核子の状態」をエネルギーの基準点として考えることで、反応前後のエネルギー差、すなわちQ値を計算できます。

問(1)

思考の道筋とポイント
原子核反応の前後で陽子と中性子の総数は変わらないため、「バラバラな核子の状態」を共通のエネルギー基準点(0)とします。結合エネルギーが\(E_B\)の原子核は、この基準よりエネルギーが\(E_B\)だけ低い(安定である)ため、そのエネルギー準位を\(-E_B\)と表現できます。反応(a)の前後における「全結合エネルギー」の変化を計算することで、放出されるエネルギー(Q値)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 結合エネルギーが大きいほど、原子核は安定で、その静止エネルギーは小さい。
  • 反応エネルギー(Q値)は、生成物の総結合エネルギーから反応物の総結合エネルギーを引いた差に等しい。\(Q = \sum BE_{\text{後}} – \sum BE_{\text{前}}\)。
  • 中性子のような単独の核子は、すでに「バラバラ状態」なので結合エネルギーはゼロとして扱う。

メインの解法: 結合エネルギーの差を用いた方法
具体的な解説と立式
発生するエネルギー\(Q\)は、反応後の生成物全体の総結合エネルギーから、反応前の反応物全体の総結合エネルギーを引いたものとして計算されます。
$$Q = (\text{BE}({}_{2}^{4}\text{He}) + \text{BE}({}_{1}^{3}\text{H})) – (\text{BE}({}_{3}^{6}\text{Li}) + \text{BE}({}_{0}^{1}\text{n})) \quad \cdots ①$$
別解1: エネルギー保存則による方法
具体的な解説と立式
運動エネルギーと(負の)結合エネルギーの和が保存される、というエネルギー保存則を直接立式します。反応前の運動エネルギーはゼロ(\(K_{\text{前}}=0\))、反応後の運動エネルギーの和が発生エネルギー\(Q\) (\(K_{\text{後}}=Q\))なので、
$$0 – (\text{BE}({}_{3}^{6}\text{Li}) + \text{BE}({}_{0}^{1}\text{n})) = Q – (\text{BE}({}_{2}^{4}\text{He}) + \text{BE}({}_{1}^{3}\text{H})) \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 結合エネルギーの定義
  • エネルギー保存則
計算過程

式①に、問題文で与えられた結合エネルギーの値を代入します。
はじめに、反応後の総結合エネルギーを計算します。
$$\text{BE}({}_{2}^{4}\text{He}) + \text{BE}({}_{1}^{3}\text{H}) = 28.3 + 8.5 = 36.8 \, \text{MeV}$$
次に、反応前の総結合エネルギーを計算します。
$$\text{BE}({}_{3}^{6}\text{Li}) + \text{BE}({}_{0}^{1}\text{n}) = 32.0 + 0 = 32.0 \, \text{MeV}$$
これらの差をとって、Q値を求めます。
$$Q = 36.8 – 32.0 = 4.8 \, \text{MeV}$$

計算方法の平易な説明

反応後の生成物チーム(\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{1}^{3}\text{H}\))の安定度(結合エネルギーの合計)と、反応前の材料チーム(\({}_{3}^{6}\text{Li}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\))の安定度を比べます。その安定度の差(どれだけより安定な組み合わせになったか)が、エネルギーとして放出されます。

結論と吟味

反応(a)で発生するエネルギーは \(4.8 \, \text{MeV}\) です。Q値が正であることから、この反応はエネルギーを放出する発熱反応であり、より安定な原子核の組み合わせが生成されたことがわかります。

解答 (1) \(4.8 \, \text{MeV}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
反応(a)は「静止状態からの分裂」と見なせるため、(1)で求めた発生エネルギー\(Q\)が、生成される\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギーの和となります。運動量保存則より、運動エネルギーは質量の逆比で分配されます。
この設問における重要なポイント

  • 静止系からの2体分裂では、運動エネルギーは質量の逆比に分配される。
  • 質量の比は、多くの場合、質量数の比で精度よく近似できる。

具体的な解説と立式
エネルギー保存則より、生成される2つの粒子の運動エネルギーの和は\(Q\)に等しくなります。
$$K_{{}_{2}^{4}\text{He}} + K_{{}_{1}^{3}\text{H}} = Q = 4.8 \, \text{MeV}$$
運動量保存則から導かれる運動エネルギーの分配則は、質量の逆比となります。質量を質量数で近似すると、\({}_{2}^{4}\text{He}\)の質量数は4、\({}_{1}^{3}\text{H}\)の質量数は3なので、
$$K_{{}_{2}^{4}\text{He}} : K_{{}_{1}^{3}\text{H}} = (\text{質量数 of } {}_{1}^{3}\text{H}) : (\text{質量数 of } {}_{2}^{4}\text{He}) = 3 : 4$$
この比率を用いて、全エネルギー\(Q\)から\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギー\(K_{{}_{1}^{3}\text{H}}\)を求めます。
$$K_{{}_{1}^{3}\text{H}} = Q \times \displaystyle\frac{4}{3+4} \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
  • 運動量保存則(及びそこから導かれる運動エネルギーの逆比分配則)
計算過程

式①に \(Q = 4.8 \, \text{MeV}\) を代入します。
$$K_{{}_{1}^{3}\text{H}} = 4.8 \times \displaystyle\frac{4}{7}$$
分数を計算します。
$$K_{{}_{1}^{3}\text{H}} = \displaystyle\frac{19.2}{7} \approx 2.742… \, \text{MeV}$$
問題文の指示に従い、有効数字2桁で答えます。
$$K_{{}_{1}^{3}\text{H}} \approx 2.7 \, \text{MeV}$$

計算方法の平易な説明

発生した全エネルギー \(4.8 \, \text{MeV}\) を、2つの粒子の質量の逆比、つまり\(4:3\)ではなく\(3:4\)の比率で分けます。求めたいのは質量3の\({}_{1}^{3}\text{H}\)のエネルギーなので、全体(\(3+4=7\))のうちの4の割合を受け取ります。

結論と吟味

反応(a)で生じる\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギーは \(2.7 \, \text{MeV}\) です。残りの \(2.1 \, \text{MeV}\) が\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動エネルギーとなり、質量の小さい\({}_{1}^{3}\text{H}\)の方がより多くのエネルギーを得ていることが確認できます。

解答 (2) \(2.7 \, \text{MeV}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
反応(b)で生じる生成物の運動エネルギーの和を求めます。これはエネルギー保存則から、「反応前の全運動エネルギー」と「反応(b)自体のQ値」の和に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 反応後の全運動エネルギーは、反応のQ値だけでなく、入射粒子の運動エネルギーも含む。
  • Q値は、ここでも結合エネルギーの差から計算できる。

メインの解法: Q値と初期エネルギーの和として計算
具体的な解説と立式
まず反応(b)のQ値 \(Q_b\) を(1)と同様に計算します。
$$Q_b = (\text{BE}({}_{2}^{4}\text{He}) + \text{BE}({}_{0}^{1}\text{n})) – (\text{BE}({}_{1}^{3}\text{H}) + \text{BE}({}_{1}^{2}\text{H})) \quad \cdots ①$$
生成物の運動エネルギーの和 \(K_{\text{後}}\) は、入射粒子\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギー \(K_{{}_{1}^{3}\text{H}}\) と \(Q_b\) の和です。(標的の\({}_{1}^{2}\text{H}\)は静止)
$$K_{\text{後}} = K_{{}_{1}^{3}\text{H}} + Q_b \quad \cdots ②$$
別解1: 統一的なエネルギー保存則で計算
具体的な解説と立式
「運動エネルギー ー 結合エネルギー」の和が保存されるという単一の式で直接計算します。
$$K_{{}_{1}^{3}\text{H}} – (\text{BE}({}_{1}^{3}\text{H}) + \text{BE}({}_{1}^{2}\text{H})) = K_{\text{後}} – (\text{BE}({}_{2}^{4}\text{He}) + \text{BE}({}_{0}^{1}\text{n})) \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • Q値の定義(結合エネルギーを用いる方法)
  • エネルギー保存則
計算過程

まず、式①を用いて反応(b)のQ値 \(Q_b\) を計算します。
$$Q_b = (28.3 + 0) – (8.5 + 2.2) = 28.3 – 10.7 = 17.6 \, \text{MeV}$$
次に、式②に(2)で求めた \(K_{{}_{1}^{3}\text{H}} \approx 2.7 \, \text{MeV}\) と、今計算した \(Q_b = 17.6 \, \text{MeV}\) を代入します。
$$K_{\text{後}} = 2.7 + 17.6 = 20.3 \, \text{MeV}$$
有効数字2桁で答えます。
$$K_{\text{後}} \approx 20 \, \text{MeV}$$

計算方法の平易な説明

この反応自体が\(17.6 \, \text{MeV}\)のエネルギーを生み出し、さらに弾丸である\({}_{1}^{3}\text{H}\)が\(2.7 \, \text{MeV}\)のエネルギーを持ち込んできます。したがって、反応後に飛び出す粒子たちが分け合うエネルギーの合計は、この二つを足し合わせたものになります。

解答 (3) \(20 \, \text{MeV}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
反応後の粒子の運動方向が指定されているため、エネルギー保存則だけでは解けず、運動量保存則をベクトルとして扱う必要があります。入射粒子(\({}_{1}^{3}\text{H}\))の進行方向をx軸、放出された中性子(\({}_{0}^{1}\text{n}\))の進行方向をy軸と設定します。運動量保存則をx, y成分で立式し、それらの式と(3)のエネルギー保存則を連立させて解きます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量はベクトル量であり、2次元の衝突では成分ごとに保存則を立てる。
  • 運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて解く。
  • 運動量(\(p\))と運動エネルギー(\(K\))は、\(p^2=2mK\)で相互に変換できる。

メインの解法: 運動量保存則の成分分解による方法
具体的な解説と立式
入射\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動エネルギーを \(K_0\)、速さを\(v\)、生成された\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動エネルギーをそれぞれ \(T_1, T_2\)、速さを\(V_1, V_2\)とします。核子1個の質量を\(m\)とし、各原子核の質量を質量数で近似します。運動量保存則をx成分、y成分について立てます。

  • 運動量保存則(x成分):
    $$3mv = 4mV_1 \cos\theta \quad \cdots ①$$
  • 運動量保存則(y成分):
    $$mV_2 = 4mV_1 \sin\theta \quad \cdots ②$$

式①と②から\(\theta\)を消去するために2乗して足し合わせ、\(p^2=2MK\)の関係を使って運動エネルギーの式に書き換えると、次の関係式が得られます。
$$3K_0 + T_2 = 4T_1 \quad \cdots ③$$
これと、(3)で求めたエネルギー保存則の式を連立させます。
$$T_1 + T_2 = 20.3 \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 2次元の運動量保存則
  • エネルギー保存則
  • 運動量と運動エネルギーの関係 (\(p^2=2mK\))
計算過程

連立方程式③と④を解きます。
まず、式④を \(T_1\) について解きます。
$$T_1 = 20.3 – T_2$$
これを式③に代入します。\(K_0=2.7 \, \text{MeV}\) を用います。
$$3(2.7) + T_2 = 4(20.3 – T_2)$$
式を展開します。
$$8.1 + T_2 = 81.2 – 4T_2$$
\(T_2\)を含む項を左辺に、定数項を右辺にまとめます。
$$T_2 + 4T_2 = 81.2 – 8.1$$
$$5T_2 = 73.1$$
\(T_2\)について解きます。
$$T_2 = \displaystyle\frac{73.1}{5} = 14.62 \, \text{MeV}$$
有効数字2桁で答えます。
$$T_2 \approx 15 \, \text{MeV}$$

計算方法の平易な説明

この問題は、未知数が放出された\({}_{2}^{4}\text{He}\)と\({}_{0}^{1}\text{n}\)の運動エネルギー\(T_1, T_2\)の2つなので、式が2本必要になります。1本目はエネルギー保存の式((3)で計算済み)、2本目は運動量保存の式です。運動量保存の式をうまく変形してエネルギーの式に直し、これら2本の式を連立方程式として解くことで、答えを求めます。

結論と吟味

中性子の運動エネルギーは \(15 \, \text{MeV}\) となります。(計算途中の値の丸め方によっては \(14 \, \text{MeV}\) となる場合もありますが、どちらも正解の範囲内です)。全運動エネルギー \(20.3 \, \text{MeV}\) の大部分を、質量の軽い中性子が持っていくことがわかります。

解答 (4) \(15 \, \text{MeV}\)

【コラム】Q. (4)の運動量保存に関する式をベクトル図から導出せよ。

思考の道筋とポイント
運動量保存則 \(\vec{p}_{0} = \vec{p}_{1} + \vec{p}_{2}\) をベクトル図で考えます。ここで \(\vec{p}_{0}\) は入射\({}_{1}^{3}\text{H}\)の運動量、\(\vec{p}_{1}\) は放出\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動量、\(\vec{p}_{2}\) は放出中性子の運動量です。このベクトル方程式を \(\vec{p}_{1} = \vec{p}_{0} – \vec{p}_{2}\) と変形します。問題の条件から、ベクトル\(\vec{p}_{0}\)と\(\vec{p}_{2}\)は直交しているため、\(\vec{p}_{0}\)と\(-\vec{p}_{2}\)を2辺とし、\(\vec{p}_{1}\)を斜辺とする直角三角形を考えることができます。
具体的な解説と立式
ベクトル図から、運動量ベクトルの大きさ \(p_0, p_1, p_2\) の間には、三平方の定理が成り立ちます。
$$p_1^2 = p_0^2 + p_2^2 \quad \cdots (A)$$
この式を、関係式 \(p^2 = 2mK\) を用いて運動エネルギーで書き直します。各粒子の質量を質量数(3, 4, 1)で近似し、核子1個の質量を\(m\)とします。
$$2(4m)T_1 = 2(3m)K_0 + 2(1m)T_2$$
両辺を\(2m\)で割ることにより、設問(4)の解説中の式③と同じ関係式が得られます。
$$4T_1 = 3K_0 + T_2$$

使用した物理公式

  • ベクトルとしての運動量保存則
  • 三平方の定理
  • 運動量と運動エネルギーの関係 (\(p^2=2mK\))

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 結合エネルギーと質量・エネルギーの関係: 質量が直接与えられない場合、反応エネルギー(Q値)は、生成物と反応物の総結合エネルギーの差、\(Q = \sum BE_{\text{後}} – \sum BE_{\text{前}}\) として計算されます。結合エネルギーが大きいほど、原子核は安定でエネルギー準位が低い、という概念の理解が核心です。
  • 運動量保存則(1次元と2次元): (2)の静止系からの分裂では1次元的な適用が、(4)の特定の角度への放出ではベクトルとして扱う2次元的な適用が問われます。特に2次元でのベクトル演算は、この問題の大きな山場です。
  • エネルギー保存則: 反応で発生したQ値と、系が元々持っていた運動エネルギーの総和が、反応後の全運動エネルギーに等しいという、エネルギーの収支を管理する基本法則です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 質量ではなく、結合エネルギーや静止エネルギーが与えられた場合の、あらゆる核反応(核分裂、α崩壊など)のQ値計算。
    • 衝突・分裂後に粒子が特定の角度に放出されるような、2次元的な衝突問題全般。
    • 多段階の反応を経て最終的な結果を問う問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 与えられているのが「質量」なのか「結合エネルギー」なのかを確認する。結合エネルギーなら、エネルギー準位図を描くか、\(Q = \Delta BE\) の公式を適用する。
    2. 反応後の粒子の「方向」や「角度」に関する記述があるか確認する。もしあれば、運動量保存則をベクトルとして(成分分解やベクトル図で)扱う必要があると判断する。
    3. 「静止状態から」「熱中性子を吸収」などの記述は、初期運動エネルギーがゼロと見なせるサイン。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • (4)のような2次元衝突では、エネルギー保存則だけでは未知数が多くて解けません。必ず運動量保存則と連立させる必要があります。
    • 運動量(\(p\))と運動エネルギー(\(K\))は別物ですが、\(p^2=2mK\) という関係式で常に行き来できます。この変換は非常に頻繁に使うテクニックです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 結合エネルギーとエネルギー準位の混同:
    • 現象: 結合エネルギーが大きいほどエネルギーが高いと勘違いし、Q値の計算で符号を間違える。
    • 対策: 「結合エネルギーが大きい \(\leftrightarrow\) バラバラ状態から多くのエネルギーを放出した \(\leftrightarrow\) 安定でエネルギー準位は低い」という論理関係を正確に理解する。エネルギー準位図を描くのが最も有効な対策です。
  • (3)で入射粒子の運動エネルギーを足し忘れる:
    • 現象: 反応(b)後の全運動エネルギーを、反応(b)のQ値そのものだと勘違いしてしまう。
    • 対策: エネルギー保存則を常に意識し、「後の全エネルギー = 前の全エネルギー」という基本に立ち返る。前のエネルギーには、Q値の元となる静止エネルギーだけでなく、運動エネルギーも含まれることを忘れない。
  • (4)での運動量ベクトルの扱い:
    • 現象: 運動量をスカラーとして単純に足し引きしたり、三平方の定理のどの辺が斜辺になるかを間違えたりする。
    • 対策: 必ず \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\) のベクトル図を描く。今回のケースでは \(\vec{p}_1 = \vec{p}_0 – \vec{p}_2\) と変形し、直交する\(\vec{p}_0\)と\(-\vec{p}_2\)から斜辺\(\vec{p}_1\)を求める、という手順を明確に踏むことがミスを防ぎます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • エネルギー準位図: (1)や(3)のQ値計算で絶大な効果を発揮します。一番上に「バラバラ状態(E=0)」の線を引き、そこから各原子核(または系の)結合エネルギー分だけ下にエネルギー準位を描きます。反応は、この準位間の矢印として視覚化され、Q値がその矢印の長さに対応することが直感的にわかります。
    • 運動量ベクトル図: (4)を解く鍵です。入射運動量ベクトル \(\vec{p}_0\) を基準に、それと直角に飛び出す中性子の運動量ベクトル \(\vec{p}_2\) を描き、運動量保存則 \(\vec{p_0} = \vec{p_1} + \vec{p_2}\) を満たすように残りの\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動量ベクトル \(\vec{p}_1\) を作図します。これにより、ベクトル間の幾何学的な関係(三平方の定理)が明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(Q = \sum BE_{\text{後}} – \sum BE_{\text{前}}\):
    • 選定理由: 問題で与えられているのが質量ではなく結合エネルギーであり、反応によるエネルギーの出入りを問われているため。
    • 適用根拠: 全ての原子核は共通の構成要素(陽子と中性子)から成るため、「バラバラ状態」をエネルギーの共通基準とすることで、結合エネルギーの差が正味のエネルギー変化を表すという物理的描像に基づきます。
  • 2次元運動量保存則 (\(p_x\)成分、\(p_y\)成分の保存):
    • 選定理由: 反応後の粒子の運動方向が、入射方向に対して角度を持っているため。
    • 適用根拠: 運動量はベクトル量であり、外力が働かない限り、どの方向の成分についても保存されるという基本法則に基づきます。
  • \(p^2=2mK\):
    • 選定理由: 運動量保存則から導かれる式と、エネルギー保存則から導かれる式を連立させるため。両法則に共通する変数がないため、運動量\(p\)と運動エネルギー\(K\)を相互に変換するこの式が必要になります。
    • 適用根拠: 運動エネルギーと運動量の定義式から導かれる、純粋な数学的関係です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 反応(a)のQ値: \(Q_a = (\text{後のBE合計}) – (\text{前のBE合計})\) を計算する。
  2. (2) エネルギー分配: \(K_{{}_{1}^{3}\text{H}} = Q_a \times \displaystyle\frac{A_{{}_{2}^{4}\text{He}}}{A_{{}_{2}^{4}\text{He}} + A_{{}_{1}^{3}\text{H}}}\) で分配する。
  3. (3) 反応(b)の全エネルギー: まず反応(b)の\(Q_b\)を(1)と同様に計算。次に、\(K_{\text{後}} = K_{{}_{1}^{3}\text{H}(\text{入射})} + Q_b\) で全運動エネルギーを求める。
  4. (4) 2次元衝突の解析:
    • Step A (運動量): 運動量ベクトルについて三平方の定理を立てる: \(p_1^2 = p_0^2 + p_2^2\)。
    • Step B (エネルギー): エネルギー保存則の式を準備する: \(T_1 + T_2 = K_{\text{後}}\)。
    • Step C (変換): Step Aの式を \(p^2=2mK\) を使って運動エネルギーの式に変換する。
    • Step D (連立): Step B と Step C で得られた2つの式を連立して解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 連立方程式の処理: (4)では、2つの未知数(\(T_1, T_2\))を含む連立方程式を解く必要があります。計算過程を丁寧に書き出し、符号や係数の間違いがないか慎重に確認しましょう。
  • 計算途中の丸め: 計算の途中ではなるべく丸めない値を使い、最後に有効数字を合わせることで精度を高めます。
  • 近似の意識: 質量を質量数で近似していることを念頭に置きましょう。この問題では、この近似によって核子1個の質量\(m\)が式からきれいに消去できるため、計算が簡潔になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • Q値の符号の妥当性: 両反応とも、より安定な原子核が生成される(結合エネルギーが増加する)方向に進んでいるため、Q値が正になる(発熱反応)というのは物理的に妥当です。
  • エネルギーの分配の妥当性: (2)では軽い\({}_{1}^{3}\text{H}\)の方が重い\({}_{2}^{4}\text{He}\)より多くのエネルギーを、(4)では最も軽い中性子がエネルギーの大部分を持ち去っており、物理的に妥当な結果です。

問題68 (名古屋大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、中性子と陽子の核反応によって重陽子(重水素の原子核)が生成される過程を追い、その測定と分析を通じて重陽子の結合エネルギーを求めるという、実験的な設定の総合問題です。問題は大きく分けて、(1)(2)の「γ線のエネルギー測定パート」と、(3)以降の「核反応の解析パート」の2つから構成されています。

与えられた条件
  • 反応式: \({}_{0}^{1}\text{n} + {}_{1}^{1}\text{p} \rightarrow {}_{1}^{2}\text{D} + \gamma\)
  • 初期状態: 陽子(\({}_{1}^{1}\text{p}\))は静止、中性子(\({}_{0}^{1}\text{n}\))は非常に遅い(運動エネルギーは無視できる)。
  • 結晶: γ線のエネルギー測定に用いる結晶の格子面間隔は\(d\)。
  • ブラッグ反射の角度:
    • 未知のγ線(エネルギー\(E_1\))の一次反射角: \(\theta = \alpha\)
    • 既知のγ線(エネルギー\(E_0\))の一次反射角: \(\theta = \beta\)
  • 定数と質量:
    • 光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)
    • プランク定数: \(h\)
    • 陽子の質量: \(m_p = 1.0073 \, \text{u}\)
    • 中性子の質量: \(m_n = 1.0087 \, \text{u}\)
  • 換算係数:
    • \(1 \, \text{MeV} = 1.6 \times 10^{-13} \, \text{J}\)
    • \(1 \, \text{u} = 1.7 \times 10^{-27} \, \text{kg}\)
問われていること
  • (1) 未知のγ線のエネルギー\(E_1\)を\(d, \alpha, h, c\)で表す。
  • (2) \(E_1\)を\(E_0, \alpha, \beta\)で表す。
  • (3) 生成された重陽子の運動量\(p_D\)と運動エネルギー\(E_D\)を\(E_1\)などで表す。
  • (4) 重陽子の結合エネルギー\(E_b\)を\(E_1, E_D\)で表す。
  • (5) 与えられた数値から\(E_1\)を計算し、\(E_D\)が\(E_1\)の何%になるかを計算する。
  • (6) \(E_b\)の値を計算し、それを用いて重陽子の正確な質量\(m_D\)を計算する。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

本問は、一つの核反応を軸に、物理学の異なる分野の法則がどのように連携して使われるかを示す好例です。まず、γ線という電磁波(光子)の波動性に着目し、「ブラッグの反射条件」を用いてそのエネルギーを決定します。次に、同じγ線を粒子(光子)として捉え、核反応の前後での「運動量保存則」と「エネルギー保存則」を考えます。これらの法則を組み合わせることで、直接測定が難しい「原子核の結合エネルギー」というミクロな世界の重要な量を、観測可能な量から導き出すことができます。

問(1)

思考の道筋とポイント
γ線が結晶で強く反射されるのは、ブラッグの条件を満たすときです。この問題では、照射角\(\alpha\)で最初の極大(\(n=1\))が観測されたので、ブラッグの条件式を立てます。これによりγ線の波長\(\lambda_1\)が求まります。次に、光子のエネルギーと波長の関係式 \(E=hc/\lambda\) を用いて、波長\(\lambda_1\)をエネルギー\(E_1\)に変換します。
この設問における重要なポイント

  • γ線を波として捉え、ブラッグの条件を適用する。
  • γ線を粒子(光子)として捉え、エネルギーと波長の関係式を用いる。
  • これら2つの法則を結びつけて、測定可能な角度からエネルギーを導出する。

具体的な解説と立式
ブラッグの条件式(次数\(n=1\))は、入射角\(\alpha\)、波長\(\lambda_1\)として、
$$2d\sin\alpha = \lambda_1 \quad \cdots ①$$
波長\(\lambda_1\)の光子(γ線)が持つエネルギー\(E_1\)は、プランク定数\(h\)と光速\(c\)を用いて次のように表されます。
$$E_1 = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_1} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • ブラッグの反射条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
  • 光子のエネルギー: \(E = h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
計算過程

式②に、式①で表される\(\lambda_1\)を代入します。
$$E_1 = \displaystyle\frac{hc}{2d\sin\alpha}$$

計算方法の平易な説明

ブラッグの条件式①を、光子のエネルギーの式②に代入して、波長\(\lambda_1\)を消去する計算です。

結論と吟味

γ線のエネルギー\(E_1\)は \(\displaystyle\frac{hc}{2d\sin\alpha}\) と表されます。ブラッグの条件から、角度\(\alpha\)が小さいほど波長\(\lambda_1\)が短く、エネルギー\(E_1\)は大きいことがわかります。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{hc}{2d\sin\alpha}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
設問(1)と全く同じ手順を、エネルギー\(E_0\)の既知のγ線に適用します。すると、\(E_1\)と\(E_0\)が、それぞれ反射角\(\alpha\)と\(\beta\)を含む同様の式で表されます。これらの2つの式の比をとることで、物理定数や結晶の間隔など、共通の未知の量(\(h, c, d\))を消去し、\(E_1\)を\(E_0, \alpha, \beta\)だけで表すことができます。
この設問における重要なポイント

  • 同じ実験装置を用いることで、未知の定数を消去できる。
  • 2つの関係式から比をとることで、目的の変数の関係を導出する。

具体的な解説と立式
エネルギー\(E_1\)と\(E_0\)のγ線について、それぞれ(1)の結果を適用すると、
$$E_1 = \displaystyle\frac{hc}{2d\sin\alpha} \quad \cdots ①$$
$$E_0 = \displaystyle\frac{hc}{2d\sin\beta} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 設問(1)で導出した関係式
計算過程

式①を式②で割ることで、辺々の比を計算します。
$$\displaystyle\frac{E_1}{E_0} = \displaystyle\frac{\left(\displaystyle\frac{hc}{2d\sin\alpha}\right)}{\left(\displaystyle\frac{hc}{2d\sin\beta}\right)}$$
共通項である \(\displaystyle\frac{hc}{2d}\) が分子と分母で約分されます。
$$\displaystyle\frac{E_1}{E_0} = \displaystyle\frac{1/\sin\alpha}{1/\sin\beta} = \displaystyle\frac{\sin\beta}{\sin\alpha}$$
この式を\(E_1\)について解きます。
$$E_1 = \displaystyle\frac{\sin\beta}{\sin\alpha} E_0$$

計算方法の平易な説明

\(E_1\)の式と\(E_0\)の式には、共通のパーツ `hc/(2d)` が含まれています。そこで、式同士を割り算することで、この共通パーツを消去し、求めたい量だけの関係式を作ります。

結論と吟味

\(E_1\)は \(\displaystyle\frac{\sin\beta}{\sin\alpha} E_0\) と表せます。これにより、未知の定数を含まない、測定可能な量(角度と基準エネルギー)だけで未知のエネルギーを決定できることがわかります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{\sin\beta}{\sin\alpha} E_0\)

問(3)

思考の道筋とポイント
反応前の系の全運動量はゼロと見なせるため、運動量保存則により、反応後の全運動量もゼロでなければなりません。生成物は重陽子(\({}_{1}^{2}\text{D}\))とγ線光子の2つなので、互いに反対方向に同じ大きさの運動量で飛び出します。光子の運動量の公式 \(p = E/c\) を使ってγ線の運動量を求め、それがそのまま重陽子の運動量\(p_D\)の大きさになります。次に、運動エネルギーの公式 \(K = p^2/(2m)\) を使って、重陽子の運動エネルギー\(E_D\)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 静止系からの反応では、生成物の運動量のベクトル和はゼロになる。
  • 光子の運動量は、そのエネルギーを光速で割ることで求められる。

具体的な解説と立式
運動量保存則より、重陽子の運動量の大きさ\(p_D\)は、γ線光子の運動量の大きさ\(p_{\gamma}\)に等しくなります。
$$p_D = p_{\gamma} = \displaystyle\frac{E_1}{c} \quad \cdots ①$$
重陽子の質量を\(m_D\)とすると、その運動エネルギー\(E_D\)は、
$$E_D = \displaystyle\frac{p_D^2}{2m_D} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 光子の運動量: \(p = E/c\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
計算過程

式②に式①を代入して\(p_D\)を消去します。
$$E_D = \displaystyle\frac{\left(\displaystyle\frac{E_1}{c}\right)^2}{2m_D}$$
分母と分子を整理すると、
$$E_D = \displaystyle\frac{E_1^2}{2m_D c^2}$$

計算方法の平易な説明

運動量保存から、重陽子とγ線の運動量は同じ大きさだとわかります。まずγ線のエネルギーからその運動量を計算します。次に、その運動量を使って、今度は重陽子の運動エネルギーを計算する、という2ステップのプロセスです。

結論と吟味

重陽子の運動量の大きさ\(p_D\)は \(\displaystyle\frac{E_1}{c}\)、運動エネルギー\(E_D\)は \(\displaystyle\frac{E_1^2}{2m_D c^2}\) となります。測定したγ線のエネルギー\(E_1\)から、観測が難しい重陽子の運動状態を計算できることが示されました。

解答 (3) \(p_D = \displaystyle\frac{E_1}{c}\), \(E_D = \displaystyle\frac{E_1^2}{2m_D c^2}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
この核反応では、運動量だけでなくエネルギーも保存されます。ここでいうエネルギーとは、粒子の運動エネルギーと、アインシュタインの関係式 \(E=mc^2\) に従う静止エネルギーの総和です。反応の前後で、この「全エネルギー」の総和が等しい、というエネルギー保存則を立式します。
その式を、原子核の「結合エネルギー」の定義と関連付けることで、求めたい結合エネルギー\(E_b\)を、測定可能な\(E_1\)と\(E_D\)で表すことを目指します。
この設問における重要なポイント

  • 核反応では、静止エネルギーを含めた全エネルギーが保存される。
  • 結合エネルギーは、構成粒子の質量の和と原子核の質量の差(質量欠損)に等しい。

具体的な解説と立式
エネルギー保存則より、反応前の全エネルギーと反応後の全エネルギーは等しくなります。
$$(m_n c^2 + m_p c^2) = (m_D c^2 + E_D) + E_1 \quad \cdots ①$$
一方、重陽子の結合エネルギー\(E_b\)の定義は、構成粒子の質量の和と重陽子の質量の差(質量欠損)に対応するエネルギーです。
$$E_b = (m_n + m_p – m_D)c^2 \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則(静止エネルギーを含む)
  • 結合エネルギーの定義
計算過程

式①を、結合エネルギーの定義式②の左辺 \((m_n + m_p – m_D)c^2\) が現れるように移項します。
$$(m_n c^2 + m_p c^2) – m_D c^2 = E_D + E_1$$
左辺を\(c^2\)でくくります。
$$(m_n + m_p – m_D)c^2 = E_D + E_1$$
この左辺は、式②で定義した結合エネルギー\(E_b\)そのものです。したがって、
$$E_b = E_D + E_1$$

計算方法の平易な説明

反応前の材料(陽子と中性子)の全エネルギーと、反応後の生成物(重陽子とγ線)の全エネルギーが等しい、という式を立てます。この式を少し変形すると、「材料の質量と生成物の質量の差に由来するエネルギー」が「生成物が持つ運動エネルギーとγ線エネルギーの合計」に等しい、という形になります。前者はまさしく結合エネルギーの定義なので、答えが導かれます。

結論と吟味

重陽子の結合エネルギー\(E_b\)は、生成された重陽子の運動エネルギー\(E_D\)とγ線のエネルギー\(E_1\)の和に等しくなります。これは、原子核が形成される際に放出されるべきエネルギー(結合エネルギー)が、生成物の運動エネルギーとγ線エネルギーに姿を変えて現れた、と解釈できます。

解答 (4) \(E_D + E_1\)

問(5)

思考の道筋とポイント
まず、(2)で導いた式と小角近似(\(\sin\theta \approx \theta\))を用いて、γ線のエネルギー\(E_1\)を数値計算します。次に、(3)の結果 \(\displaystyle\frac{E_D}{E_1} = \displaystyle\frac{E_1}{2m_D c^2}\) を利用して\(E_D\)と\(E_1\)の比を計算します。この計算では、重陽子の質量\(m_D\)を陽子と中性子の質量の和 \(m_p+m_n\) で近似し、すべてをSI単位系に変換して計算します。
具体的な解説と立式
\(E_1\)の計算式:
$$E_1 \approx \displaystyle\frac{\beta}{\alpha} E_0 \quad \cdots ①$$
エネルギー比の計算式:
$$\displaystyle\frac{E_D}{E_1} \approx \displaystyle\frac{E_1}{2(m_p+m_n)c^2} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • (2), (3)で導出した関係式
  • 小角近似
計算過程

\(E_1\)の計算:
式①に数値を代入します。
$$E_1 \approx \displaystyle\frac{0.010}{0.0023} \times 0.51 \approx 4.3478 \times 0.51 \approx 2.217 \, \text{MeV}$$
有効数字2桁に丸めて、\(E_1 \approx 2.2 \, \text{MeV}\) です。
エネルギー比の計算:
式②の計算のために、各値をSI単位系に変換します。

  • \(E_1 \approx 2.217 \, \text{MeV} = 2.217 \times 1.6 \times 10^{-13} \, \text{J} = 3.547 \times 10^{-13} \, \text{J}\)
  • \(m_p+m_n = 2.0160 \, \text{u} = 2.0160 \times 1.7 \times 10^{-27} \, \text{kg} = 3.427 \times 10^{-27} \, \text{kg}\)
  • \(c^2 = (3.0 \times 10^8)^2 = 9.0 \times 10^{16} \, \text{m}^2/\text{s}^2\)

これらを式②に代入します。
$$\displaystyle\frac{E_D}{E_1} \approx \displaystyle\frac{3.547 \times 10^{-13}}{2 \times (3.427 \times 10^{-27}) \times (9.0 \times 10^{16})} = \displaystyle\frac{3.547 \times 10^{-13}}{6.169 \times 10^{-10}} \approx 5.75 \times 10^{-4}$$
パーセンテージに直し、有効数字2桁に丸めます。
$$(5.75 \times 10^{-4}) \times 100 \% \approx 5.8 \times 10^{-2}\%$$

解答 (5) \(E_1=2.2 \, \text{MeV}\), 比率は\(5.8 \times 10^{-2}\%\)

問(6)

思考の道筋とポイント
まず、(4)の関係式 \(E_b = E_D + E_1\) を使って結合エネルギー\(E_b\)を計算します。次に、この\(E_b\)に相当する質量欠損\(\Delta m\)を計算し、最後に重陽子の正確な質量\(m_D\)を、\(m_D = (m_n+m_p) – \Delta m\) から求めます。
具体的な解説と立式
$$E_b = E_D + E_1 = E_1 \left(\displaystyle\frac{E_D}{E_1} + 1\right) \quad \cdots ①$$
$$\Delta m = \displaystyle\frac{E_b}{c^2} \quad \cdots ②$$
$$m_D = (m_n + m_p) – \Delta m \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • (4)で導出した関係式
  • 質量とエネルギーの等価性
  • 質量欠損の定義
計算過程

\(E_b\)の計算:
式①に(5)で求めた \(E_1\) と比の値を代入します(丸める前の値を用いるとより正確です)。
$$E_b = (2.217 \, \text{MeV}) \times (5.75 \times 10^{-4} + 1) \approx 2.218 \, \text{MeV}$$
有効数字2桁では \(E_b \approx 2.2 \, \text{MeV}\)。
\(\Delta m\)の計算 (単位: u):
\(E_b \approx 2.218 \, \text{MeV}\) をSI単位のエネルギーに直し、\(c^2\)で割って質量(kg)を求め、さらにuに換算します。
$$ \Delta m = \displaystyle\frac{2.218 \times 1.6 \times 10^{-13} \, [\text{J}]}{(3.0 \times 10^8)^2 \, [\text{m}^2/\text{s}^2]} = 3.943 \times 10^{-30} \, [\text{kg}]$$
$$ \Delta m = \displaystyle\frac{3.943 \times 10^{-30} \, [\text{kg}]}{1.7 \times 10^{-27} \, [\text{kg/u}]} \approx 0.002319 \, \text{u}$$
\(m_D\)の計算:
$$m_D = (1.0087 + 1.0073) – 0.002319 = 2.0160 – 0.002319 = 2.013681 \, \text{u}$$
小数点以下4桁の計算なので、結果を小数点以下4桁に合わせると \(2.0137 \, \text{u}\) となります。

解答 (6) \(E_b = 2.2 \, \text{MeV}\), \(m_D = 2.0137 \, \text{u}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 光の波動性と粒子性: γ線を「波」と見なしてブラッグの条件を適用し、その結果を「光子」という粒子のエネルギー(\(E=hc/\lambda\))や運動量(\(p=E/c\))に結びつける、現代物理学の根幹をなす二重性の理解が核心です。
  • 運動量保存則: (3)で、静止状態からの反応では生成物が逆向きに同じ大きさの運動量で飛び出すことを決定づける重要な法則です。
  • エネルギー保存則(静止エネルギーを含む): (4)で、反応前後の静止エネルギー、運動エネルギー、光子エネルギーの総和が等しいという関係から、未知の量である「結合エネルギー」を導き出すための最重要法則です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 結晶によるX線や電子線の回折・干渉問題(ブラッグの条件)。
    • 光電効果やコンプトン効果など、光子のエネルギーと運動量を扱う問題。
    • あらゆる核反応における、エネルギー保存則と運動量保存則を用いた生成物の運動状態の解析。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 「結晶」「格子面間隔」「反射角」といった単語があれば、ブラッグの条件を連想する。
    2. 「静止している粒子に…衝突」という記述があれば、運動量保存則がシンプルに適用できると判断する。
    3. 「結合エネルギーを求めよ」という問いがあれば、最終的にエネルギー保存則に帰着させ、質量欠損と結びつけることを目標とする。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • (2)のように、未知の定数を含む複数の測定結果がある場合、比をとって定数を消去するのは物理実験の解析で頻繁に用いられるテクニックです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ブラッグの条件における角度\(\theta\)の定義:
    • 現象: \(\theta\)を格子面の法線との角度と勘違いしてしまう。
    • 対策: \(\theta\)は入射線と**格子面**とのなす角であると正確に記憶する。
  • 単位換算のミス:
    • 現象: (5)や(6)で、MeV, J, u, kgが混在したまま計算し、桁を大きく間違える。
    • 対策: 複雑な数値計算では、まず全ての値をSI基本単位(J, kg, m, s)に変換してから計算を実行し、最後に求められている単位に換算し直す、という手順を徹底する。
  • エネルギー保存則での項の抜け漏れ:
    • 現象: (4)でエネルギー保存則を立てる際、生成物である重陽子の運動エネルギー\(E_D\)を書き忘れてしまう。
    • 対策: 「前後の全エネルギー(静止エネルギー+運動エネルギー+光子エネルギー)が等しい」という基本に立ち返り、全ての登場人物の全てのエネルギーをリストアップする癖をつける。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • 運動量ベクトル図: (3)の反応後を図示する場合、反応点から2本のベクトル、\(\vec{p}_D\)と\(\vec{p}_{\gamma}\)が伸びる様子を描きます。運動量保存則から、この2本は同じ長さで向きが正反対になるはずです。この単純な図が、\(p_D=p_{\gamma}\)という関係を一目で教えてくれます。
    • エネルギーの収支決算書: (4)のエネルギー保存を考える際に、「反応前」と「反応後」の列を持つ表を作成し、各々の静止エネルギー、運動エネルギー、光子エネルギーを書き込むと、立式すべき等式が明確になり、項目の抜け漏れを防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(2d\sin\theta = n\lambda\):
    • 選定理由: 「結晶」「格子面」「反射角」というキーワードから、波の干渉現象であるブラッグ反射を記述するこの公式を選択します。
  • \(p=E/c\):
    • 選定理由: γ線(光子)の運動量を、そのエネルギーから求めるための唯一の関係式です。
  • \(\sum E_{\text{前}} = \sum E_{\text{後}}\) (静止エネルギーを含む):
    • 選定理由: 質量がエネルギーに変換される(またはその逆)核反応において、エネルギーの出入りを正確に記述するための、最も包括的で基本的な法則です。「結合エネルギー」や「Q値」は、全てこの大法則から導かれます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)-(2) エネルギー測定: ブラッグの条件と光子エネルギーの式を使い、\(E_1\)を求める。比をとることで定数を消去する。
  2. (3) 運動量解析: 静止系からの反応なので運動量保存則(\(\vec{p}_{\text{後}}=0\))を適用し、\(p_D = p_\gamma\)を導く。\(p_\gamma = E_1/c\) と \(K=p^2/2m\) から\(E_D\)を計算する。
  3. (4) 結合エネルギー導出: 全エネルギー保存則を立て、結合エネルギーの定義式と見比べて、\(E_b = E_D + E_1\)を導出する。
  4. (5)-(6) 数値計算: 導出した各関係式に、与えられた数値を代入する。特に単位換算を慎重に行い、有効数字に注意して最終的な答えを求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位換算の徹底: 複雑な数値計算では、まず全ての値をSI基本単位に統一してから計算を始めるのが最も安全です。
  • 小角近似の単位: \(\sin\theta \approx \theta\) の近似式は、角度\(\theta\)がラジアン単位のときにのみ成り立ちます。
  • オーダーエスティメーション(桁数の概算): 計算実行前に、答えがおおよそ \(10\) の何乗になるかを見積もることで、桁の大きなミスを検知できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • (5) エネルギー比の妥当性: 計算結果は、重陽子の運動エネルギー \(E_D\) が光子のエネルギー \(E_1\) の \(0.1\%\) にも満たないことを示しています。これは物理的に妥当です。同じ運動量を持つなら、運動エネルギーは質量に反比例するため、重い重陽子より質量ゼロの光子にエネルギーが集中します。
  • (6) 結合エネルギーの値: 約 \(2.2 \, \text{MeV}\) という値は、非常に軽い原子核である重陽子の結合エネルギーとして、物理的に知られている値と一致しており、妥当な結果です。
  • (6) 質量欠損の符号と大きさ: 結合エネルギーが正なので、質量欠損も正となり、\(m_D\) が \(m_n+m_p\) より小さくなるはずです。計算結果がこの関係を満たしているか確認しましょう。

問題69 (甲南大+新潟大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、\({}^{52}\text{Cr}\)原子核の励起状態からのγ崩壊という、非常に短い半減期を持つ現象を、γ線のドップラー効果を利用して測定する、という巧妙な実験を題材にした総合問題です。一見複雑に見えますが、運動エネルギーの計算、ドップラー効果、放射性崩壊という、それぞれが基本的な物理法則の組み合わせで構成されています。

与えられた条件
  • 反応の概要: \(\alpha\)線をTi(チタン)の薄膜に当て、励起状態の\({}^{52}\text{Cr}\)原子核を生成。
  • 生成物の運動: \({}^{52}\text{Cr}\)原子核は、運動エネルギー\(1.0 \, \text{MeV}\)で、γ線の進行方向(CA方向)に飛び出す。
  • 測定器の配置:
    • A: \({}^{52}\text{Cr}\)の進行方向前方
    • B: \({}^{52}\text{Cr}\)の進行方向に対して垂直方向
  • 与えられた物理量・定数:
    • 光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)
    • \({}^{52}\text{Cr}\)原子核の質量 \(m = 8.8 \times 10^{-26} \, \text{kg}\)
    • 電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19} \, \text{C}\)
    • \(\log_{10}2 \cong 0.30\)
問われていること
  • (1) 飛び出す\({}^{52}\text{Cr}\)原子核の速さ \(v\)。
  • (2) 測定器Bで測定した振動数が \(\nu_B = 1795 \times 10^{18} \, \text{Hz}\) のとき、測定器Aで測定される振動数 \(\nu_1\)。
  • (3) 距離\(d\)の位置に金属板を置いた実験で、\(d\)を大きくすると\(\nu_1\)と\(\nu_0\)のどちらの比率が増すか。
  • (4) \(d=0.16 \, \text{mm}\) のとき、\(\nu_0\)と\(\nu_1\)の光子数の比が25:75であったことから、\({}^{52}\text{Cr}\)の半減期\(T\)を求める。
  • (5) \(\nu_0\)と\(\nu_1\)の比が5:95となる距離\(d\)を求める。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

本問は、一見すると原子核物理の難問に見えますが、その本質は複数の基本的な物理法則を正しく理解し、組み合わせて応用できるかを試すことにあります。まず、原子核の運動を古典力学の運動エネルギーの式で扱い、次に、γ線を波として捉えドップラー効果の法則を適用し、最後に、原子核の崩壊を放射性崩壊の法則で記述します。これらの法則を一つ一つ丁寧にあてはめていくことで、100兆分の1秒というような、直接は測れない極めて短い時間を測定する実験の原理を解き明かしていきます。

問(1)

思考の道筋とポイント
\({}^{52}\text{Cr}\)原子核の運動エネルギーが与えられているので、運動エネルギーの公式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) を用いて速さ\(v\)を求めます。ただし、エネルギーの単位が\(\text{MeV}\)(メガ電子ボルト)なので、計算を実行する前にSI基本単位である\(\text{J}\)(ジュール)に変換する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーの公式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) の適用。
  • エネルギーの単位換算: \(\text{MeV} \rightarrow \text{eV} \rightarrow \text{J}\)。
  • \(1 \, \text{MeV} = 10^6 \, \text{eV}\)であり、\(1 \, \text{eV} = e \, \text{J}\) であることを利用する。

具体的な解説と立式
運動エネルギー \(K = 1.0 \, \text{MeV}\) をジュールに換算します。
$$K = 1.0 \times 10^6 \, [\text{eV}] = 1.0 \times 10^6 \times e \, [\text{J}]$$
このエネルギーを運動エネルギーの公式に代入します。
$$\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 = 1.0 \times 10^6 \times e \quad \cdots ①$$
この式を速さ\(v\)について解きます。
$$v = \sqrt{\displaystyle\frac{2 \times 1.0 \times 10^6 \times e}{m}} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • エネルギーの単位換算
計算過程

式②に与えられた数値を代入します。
$$v = \sqrt{\displaystyle\frac{2 \times 1.0 \times 10^6 \times (1.6 \times 10^{-19})}{8.8 \times 10^{-26}}}$$
根号の中の数値を計算します。
$$v = \sqrt{\displaystyle\frac{3.2 \times 10^{-13}}{8.8 \times 10^{-26}}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3.2}{8.8} \times 10^{13}} = \sqrt{0.3636… \times 10^{13}} = \sqrt{3.636… \times 10^{12}}$$
平方根を計算します。
$$v \approx 1.906… \times 10^6 \, [\text{m/s}]$$
有効数字2桁に丸めます。
$$v \approx 1.9 \times 10^6 \, [\text{m/s}]$$

計算方法の平易な説明

まず、エネルギーの単位を物理計算で標準的に使われるジュールに直します。次に、そのエネルギー値と与えられた質量を運動エネルギーの公式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) にあてはめ、方程式を解いて速さ\(v\)を求めます。

結論と吟味

\({}^{52}\text{Cr}\)原子核の速さは \(1.9 \times 10^6 \, \text{m/s}\) となります。これは光速の約0.6%であり、非常に高速ですが、相対論的な効果を無視できる範囲の速さです。

解答 (1) \(1.9 \times 10^6 \, \text{m/s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
γ線のドップラー効果に関する問題です。まず、測定器Bの位置が重要です。光源の進行方向に対して垂直な位置で観測する場合、(特殊相対性理論を考慮しない限り)ドップラー効果は起こりません。したがって、測定器Bで観測される振動数\(\nu_B\)は、光源が静止している場合に出すγ線の「固有振動数」\(\nu_0\)そのものになります。次に、測定器Aは光源(\({}^{52}\text{Cr}\)原子核)が近づいてくるのを観測するため、振動数が大きく観測されます。ドップラー効果の公式を用いて、この振動数\(\nu_1\)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 横ドップラー効果は無視できるため、進行方向に垂直な観測者にはドップラー効果は生じない。
  • 観測者に近づく音源(光源)のドップラー効果の公式を正しく適用する。
  • \(v \ll c\) の場合に適用できる近似式 \((1-x)^{-1} \approx 1+x\) を用いる。

具体的な解説と立式
測定器Bで測定される振動数\(\nu_B\)が固有振動数\(\nu_0\)となります。
$$\nu_0 = \nu_B = 1795 \times 10^{18} \, [\text{Hz}]$$
速さ\(v\)の光源が観測者に近づく場合、観測される振動数\(\nu_1\)は次式で与えられます。
$$\nu_1 = \displaystyle\frac{c}{c-v} \nu_0$$
\(v/c\)が1に比べて非常に小さいことを利用して近似計算を行います。
$$\nu_1 = \left(1 – \displaystyle\frac{v}{c}\right)^{-1} \nu_0 \approx \left(1 + \displaystyle\frac{v}{c}\right) \nu_0 \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • ドップラー効果: \(\nu’ = \displaystyle\frac{c}{c-v}\nu_0\) (光源が近づく場合)
  • 近似式: \((1-x)^{-1} \approx 1+x\) (\(|x| \ll 1\))
計算過程

式①に、(1)で求めた\(v\)と、与えられた\(\nu_0, c\)の値を代入します。
$$ \nu_1 \approx \left(1 + \displaystyle\frac{1.906 \times 10^6}{3.0 \times 10^8}\right) \times (1795 \times 10^{18})$$
カッコの中の比を計算します。
$$\displaystyle\frac{1.906 \times 10^6}{3.0 \times 10^8} \approx 0.00635$$
したがって、
$$\nu_1 \approx (1 + 0.00635) \times (1795 \times 10^{18}) = 1.00635 \times 1795 \times 10^{18}$$
$$ \nu_1 \approx 1806.39… \times 10^{18} \, [\text{Hz}]$$
問題の振動数の有効数字に合わせて、整数で答えます。
$$ \nu_1 \approx 1806 \times 10^{18} \, [\text{Hz}]$$

計算方法の平易な説明

救急車が近づいてくるときサイレンの音が高く聞こえるのと同じで、γ線を出す原子核が測定器Aに近づいてくるため、振動数が大きく観測されます。その度合いをドップラー効果の公式で計算します。原子核の速さは光速に比べて十分小さいので、計算が簡単になる近似式を使って求めます。

結論と吟味

測定器Aで測ったときの振動数\(\nu_1\)は \(1806 \times 10^{18} \, \text{Hz}\) となります。固有振動数\(\nu_0\)よりも大きくなっており、ドップラー効果の予測と一致する妥当な結果です。

解答 (2) \(1806 \times 10^{18} \, \text{Hz}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
この設問は、実験の意味を正しく理解しているかを問う問題です。金属板Dを置くと、\({}^{52}\text{Cr}\)原子核はCからDまで飛行し、Dで止められます。この飛行中に崩壊するか、Dで止まった後に崩壊するかの2通りの運命があります。\(\nu_1\)は「飛行中に崩壊」した場合、\(\nu_0\)は「金属板で停止後に崩壊」した場合に対応します。距離\(d\)を大きくするということは、原子核が飛行する「時間」を長くすることと同じです。時間が長ければ長いほど、飛行中に崩壊する確率が高くなります。
この設問における重要なポイント

  • \(\nu_1\)は飛行中に崩壊した原子核、\(\nu_0\)は停止後に崩壊した原子核に対応することを理解する。
  • 放射性崩壊は確率的な現象であり、時間が経つほど崩壊する個数が増え、生き残る個数が減ることを理解する。

具体的な解説と立式
距離\(d\)が長くなると、原子核がDに到達するまでの飛行時間\(t = d/v\)も長くなります。飛行時間が長くなるほど、その間にγ崩壊を起こす原子核の数が増加します。飛行中に崩壊した原子核から放出されるγ線は、測定器Aではドップラー効果により振動数\(\nu_1\)として観測されます。したがって、\(d\)を大きくすると、\(\nu_1\)として観測されるγ線光子の数が増え、その比率は大きくなります。

解答 (3) \(\nu_1\)

問(4)

思考の道筋とポイント
観測された光子数の比率を、原子核の「崩壊率」と「生存率」に結びつけて考えます。\(\nu_0\)の光子は、距離\(d\)を崩壊せずに生き残り、金属板Dに到達した原子核から放出されます。したがって、「\(\nu_0\)の光子数 / 全光子数」は、原子核の「生存率」を表します。この生存率を、放射性崩壊の公式 \(N = N_0 (1/2)^{t/T}\) に当てはめ、半減期\(T\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 光子数の比を、原子核の生存率に正しく変換する。
  • 放射性崩壊の公式 \(N/N_0 = (1/2)^{t/T}\) を用いる。
  • 飛行時間 \(t\) は、距離\(d\)と速さ\(v\)から \(t=d/v\) で計算する。

具体的な解説と立式
全光子数を100とすると、\(\nu_0\)に対応する光子数は25個です。これは、時刻0でC地点を出発した原子核のうち、飛行時間\(t\)後に崩壊せずに生き残った原子核の数に対応します。したがって、生存率 \(N/N_0\) は、\(\displaystyle\frac{25}{100} = \displaystyle\frac{1}{4}\)です。
放射性崩壊の公式に、この生存率を代入します。
$$\displaystyle\frac{1}{4} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}$$
\(\frac{1}{4} = (\frac{1}{2})^2\) なので、指数の比較から、飛行時間\(t\)は半減期\(T\)の2倍であることがわかります。
$$t = 2T \quad \cdots ①$$
飛行時間 \(t\) は \(t=d/v\) なので、これを式①に代入し、\(T\)について解きます。
$$T = \displaystyle\frac{d}{2v} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 放射性崩壊の法則: \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\)
  • 等速直線運動: \(d = vt\)
計算過程

式②に、与えられた数値 \(d = 0.16 \, \text{mm} = 0.16 \times 10^{-3} \, \text{m}\) と、(1)で求めた \(v \approx 1.906 \times 10^6 \, \text{m/s}\) を代入します。
$$T = \displaystyle\frac{0.16 \times 10^{-3}}{2 \times (1.906 \times 10^6)} = \displaystyle\frac{0.16 \times 10^{-3}}{3.812 \times 10^6}$$
$$T \approx 0.042 \times 10^{-9} = 4.2 \times 10^{-11} \, \text{s}$$

解答 (4) \(4.2 \times 10^{-11} \, \text{s}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)と全く同じ考え方で解きます。まず、\(\nu_0\)と\(\nu_1\)の比率が5:95であることから、原子核の生存率を計算します。次に、その生存率を半減期の公式に代入し、今度は飛行時間\(t\)と半減期\(T\)の関係を求めます。この計算では、指数が整数にならないため、対数(常用対数)を用いる必要があります。最後に、求めた飛行時間\(t\)と速さ\(v\)から、距離\(d\)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 放射性崩壊の公式で、指数部分が整数にならない場合の対数を用いた計算。
  • \(\log(a^x) = x \log(a)\) や \(\log(A/B) = \log(A) – \log(B)\) などの対数の性質を正しく使う。

具体的な解説と立式
生存率は \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \displaystyle\frac{5}{100} = \displaystyle\frac{1}{20}\) です。これを半減期の公式に代入します。
$$\displaystyle\frac{1}{20} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}$$
この式の両辺の常用対数(\(\log_{10}\))をとります。
$$\log_{10}\left(\displaystyle\frac{1}{20}\right) = \log_{10}\left(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\right)$$
対数の性質を用いて\(t\)について解くと、
$$t = T \times \displaystyle\frac{1 + \log_{10}2}{\log_{10}2} \quad \cdots ①$$
距離\(d\)は、この飛行時間\(t\)と速さ\(v\)の積で求められます。
$$d = v \times t \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 放射性崩壊の法則: \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\)
  • 対数の性質
計算過程

式①に、与えられた \(\log_{10}2 \cong 0.30\) と、(4)で求めた \(T \approx 4.21 \times 10^{-11} \, \text{s}\) を代入して飛行時間\(t\)を求めます。
$$t \approx (4.21 \times 10^{-11}) \times \displaystyle\frac{1 + 0.30}{0.30} = (4.21 \times 10^{-11}) \times \displaystyle\frac{1.3}{0.3} \approx 1.824 \times 10^{-10} \, \text{s}$$
式②を用いて、距離\(d\)を計算します。
$$d = (1.906 \times 10^6) \times (1.824 \times 10^{-10}) \approx 3.477 \times 10^{-4} \, \text{m}$$
単位をmmに直し、有効数字2桁で答えます。
$$d \approx 0.35 \, \text{mm}$$

解答 (5) \(0.35 \, \text{mm}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ドップラー効果: (2)で、運動する原子核から放出されるγ線の振動数が変化する現象を記述する中心法則です。特に、進行方向に垂直な観測者には(一次の)ドップラー効果が生じない、という点が固有振動数を特定する鍵となります。
  • 放射性崩壊の法則: (4)(5)で、時間経過と共に崩壊する原子核の数が指数関数的に減少する様子を記述します。生存率と半減期の関係式 \(N/N_0 = (1/2)^{t/T}\) は、この問題の結論を導くための最重要式です。
  • 運動エネルギーの公式: (1)で、与えられたエネルギーから原子核の速さを求めるための基本法則です。この速さが、ドップラー効果の大きさや飛行時間を決定する全ての計算の出発点となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 音波や光波など、波源が運動する場合のドップラー効果を扱うあらゆる問題。
    • 放射性同位体の年代測定や、粒子加速器での素粒子の寿命測定など、半減期と個数変化を扱う問題。
    • 複数の物理法則(力学、波動、原子物理)を組み合わせて、直接測定困難な量を間接的に測定する思考実験的な問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 「波源が運動し、振動数を測定する」という記述があれば、ドップラー効果の適用を考える。特に「進行方向と垂直」という条件は、固有振動数を特定するための重要なヒントとなる。
    2. 「半減期」「崩壊」「個数の比率」といった単語があれば、放射性崩壊の法則 \(N = N_0 (1/2)^{t/T}\) を使うと判断する。
    3. 問題設定が複雑な場合、(3)のように「もし距離\(d\)が0だったら?」「もし\(d\)が無限大だったら?」と極端な状況を考えてみると、現象の物理的な意味を理解する助けになる。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • (4)や(5)のように、観測される信号の「比率」が与えられた場合、それを原子核の「生存率」に正しく変換することが第一歩です。どちらの信号が「生き残った」核に対応するのかを正確に読み取ることが重要です。
    • 生存率が \(1/4, 1/8\) のような単純な値でない場合、(5)のように対数計算が必要になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ドップラー効果の公式の符号ミス:
    • 現象: 光源が近づいてくるのか遠ざかっているのかを逆に考え、公式の分母の符号(\(c-v\)か\(c+v\)か)を間違える。
    • 対策: 「救急車が近づくと音が高く(振動数が大きく)なる」という日常経験と結びつける。振動数が大きくなるためには、分母は\(c\)より小さい `c-v` になるはずだ、と物理的な意味から確認する。
  • 放射性崩壊の公式の誤用:
    • 現象: 公式の\(N\)に、「崩壊した数」を代入してしまう。(正しくは「崩壊せずに残った数」)
    • 対策: \(N\)は常に「生き残りの数」であると強く意識する。この問題では、\(\nu_0\)の信号を出す原子核が「生き残り」に相当します。問題文の状況と公式の変数の意味を正確に対応させることが不可欠です。
  • 単位換算のミス:
    • 現象: (1)で\(\text{MeV}\)を\(\text{J}\)に換算する際に、\(10^6\) (メガ) を忘れたり、電気素量\(e\)を掛け忘れたりする。
    • 対策: \(\text{1 MeV} = 1 \times 10^6 \text{ eV} = 10^6 \times e \text{ [J]}\) という換算プロセスを、省略せずに書き出す習慣をつける。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • 原子核の旅のタイムライン: C点からD点までを一本の線で描き、原子核の旅を時間の流れとして視覚化します。その線の途中でいくつかの原子核が「脱落(崩壊)」して\(\nu_1\)のγ線を出す様子を描き、残りがD点に到達して\(\nu_0\)のγ線を出す様子を描くことで、(3)以降の状況が直感的に理解できます。距離\(d\)をこのタイムラインの長さとして変化させることで、比率の変化もイメージしやすくなります。
    • 指数関数的減衰グラフ: 横軸に時間\(t\)、縦軸に生き残っている原子核の数\(N\)をとったグラフを描くことで、半減期の意味が視覚的に捉えられます。\(t=T\)で\(N=N_0/2\)に、\(t=2T\)で\(N=N_0/4\)に、と数が減っていく様子を確認できます。(4)で生存率が\(1/4\)だったのは、飛行時間がちょうど半減期の2倍だったからだ、ということが一目瞭然になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\nu’ = \displaystyle\frac{c}{c \mp v}\nu_0\)(ドップラー効果):
    • 選定理由: 問題文に「波源(原子核)が運動」し、「観測される振動数が変化する」という、ドップラー効果の典型的な状況設定があるため。
    • 適用根拠: 波源と観測者の相対運動によって、観測者が単位時間に受け取る波の数が変化するという物理原理に基づきます。
  • \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{\frac{t}{T}}\)(放射性崩壊の法則):
    • 選定理由: 「崩壊」「半減期」「個数の比率」といったキーワードがあり、時間経過に伴う原子核の数の確率的な変化を扱うため。
    • 適用根拠: 不安定な原子核が、一定の確率で崩壊していくという量子力学的な現象を、統計的に記述した法則です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 速さの計算: エネルギー単位を \(\text{MeV} \rightarrow \text{J}\) に換算し、\(K=\frac{1}{2}mv^2\) を\(v\)について解く。
  2. (2) ドップラー効果: 垂直方向の測定値(\(\nu_B\))が固有振動数\(\nu_0\)であることを見抜く。前方(近づく場合)のドップラー効果の公式 \(\nu_1 = \frac{c}{c-v}\nu_0\) を適用する。
  3. (3) 現象の理解: \(\nu_1\)が「飛行中」の崩壊、\(\nu_0\)が「停止後」の崩壊に対応することを理解する。飛行時間\(t\)が長いほど、飛行中の崩壊が増えることを結論づける。
  4. (4) 半減期の計算: 信号の比率から「生存率」(\(N/N_0\))を計算する。\(N/N_0 = (1/2)^{t/T}\) の関係から、飛行時間\(t\)が半減期\(T\)の何倍かを特定し、\(T\)を計算する。
  5. (5) 距離の計算: (4)と同様に生存率を計算する。\(N/N_0 = (1/2)^{t/T}\) の両辺の対数をとり、飛行時間\(t\)を求める。最後に \(d=vt\) で距離を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位換算を制する: この問題ではエネルギーの単位換算が最初の関門です。\(\text{1 MeV} = 10^6 \text{ eV} = 10^6 \times e \text{ [J]}\) の流れを間違えないようにしましょう。
  • 比率の解釈: 「\(\nu_0\)と\(\nu_1\)の割合が25:75」という記述から、「全100個のうち、生き残りが25個」と正しく読み替えることが重要です。問題文の表現と物理的な意味(生存率)を正確に結びつける練習をしましょう。
  • 対数計算の確認: (5)で必要になる対数計算の性質(\(\log(1/x) = -\log(x)\), \(\log(xy) = \log x + \log y\))を復習しておきましょう。特に底が10の常用対数か、eの自然対数かを確認することも大切です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • (1) 速さのオーダー: 計算された速さ(\(1.9 \times 10^6 \, \text{m/s}\))が光速(\(3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\))より十分に小さいかを確認します。今回は約0.6%であり、非相対論的な扱いで問題ないことがわかります。
  • (2) 振動数の変化: 計算された\(\nu_1\)が、固有振動数\(\nu_0\)より大きくなっているかを確認します(\(1806 \times 10^{18} > 1795 \times 10^{18}\))。近づいてくる波源の振動数は増加するはずなので、この大小関係は妥当です。
  • (4) 半減期のオーダー: 計算された半減期(\(4.2 \times 10^{-11} \, \text{s}\))は極めて短いですが、励起した原子核のγ崩壊は非常に速い現象として知られています。物理的にありえない値ではありません。
  • (5) 距離の妥当性: (4)では生存率が25%で距離は\(0.16 \, \text{mm}\)でした。(5)では生存率が5%とさらに低くなっているので、飛行時間(距離)はもっと長くなるはずです。計算結果が\(0.35 \, \text{mm}\)となり、\(0.16 \, \text{mm}\)より長くなっていることから、自己矛盾がないことを確認できます。
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