問題43 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電磁気学の重要なテーマである「ソレノイドコイル」と「電磁誘導」に関する、多角的な理解を問う問題です。
- パートI では、直流電源への接続方法を変えることで、ソレノイドの抵抗や単位長さあたりの巻数がどう変化し、結果として電流や中心の磁場がどう変わるかを計算します。特に(3)では、ソレノイドの端における磁場という応用的な知識が試されます。
- パートII では、直流電流が定常状態になるまでの過渡的な状態で、電磁誘導によってリングにどのような現象が起こるかを、レンツの法則や電磁力を用いて考察します。
- 初期状態: 長さ\(2l\)のソレノイドコイルに電圧\(V_0\)をかけ、電流\(I_0\)が流れている。このときの中心Pの磁場の強さが\(H_0\)。
- これは、コイル全体の抵抗を\(R\)とすると \(R = V_0/I_0\) であること、単位長さあたりの巻数を\(n\)とすると \(H_0 = n I_0\) であることを意味します。
- I (直流回路):
- (1) 電源を中央Bと両端A,Cに接続した場合の、全電流とP点の磁場。
- (2) コイルを長さ\(4l\)に引き伸ばした場合の、電流とP点の磁場。
- (3) 電源をAとB,Cに接続した場合の、全電流とP点の磁場。
- II (電磁誘導):
- (4) スイッチを閉じた過渡状態での、リングR₁, R₂に流れる誘導電流の有無と向き。
- (5) スイッチを閉じた直後の、リングR₁, R₂の動きの有無と向き。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題を解く鍵は、ソレノイドコイルの基本的な性質と、電磁誘導の法則を正確に理解しているかです。
ソレノイドについて:
十分に長いソレノイドの内部には、一様な磁場 \(H = nI\) ができます。ここで `n` は「単位長さあたりの巻数」、`I` は流れる電流です。この公式を、コイルの長さや電流が変化する各状況に合わせて正しく適用することが求められます。
電磁誘導について:
「コイルを貫く磁束が変化するとき、その変化を妨げる向きに起電力(と電流)が誘導される」というファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則が中心となります。パートIIでは、スイッチを入れた瞬間にソレノイドの電流が増加し、それによって作られる磁束も増加するため、周囲のリングに誘導電流が発生します。そして、その誘導電流とソレノイドの電流との間に働く電磁力を考えることで、リングの運動を予測します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ソレノイド内部の磁場: 十分に長いソレノイドの内部には、一様な磁場 \(H = nI\) が生じます。ここで \(n\) は単位長さあたりの巻数、\(I\) は電流です。
- オームの法則と回路の性質: コイルの接続方法(直列・並列)によって抵抗値がどう変わるかを正しく理解し、オームの法則を適用することが基本となります。
- 重ね合わせの原理と対称性: 複数の電流が作る磁場は、それぞれが作る磁場のベクトル和で与えられます。特に、系の対称性を利用することで、計算を大幅に簡略化できます。
- ファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則: コイルを貫く磁束が変化するとき、その変化を妨げる向きに誘導起電力(と電流)が生じます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- パートIでは、各設問の接続状況に応じて回路図を解釈し、抵抗値を求め、オームの法則から電流を計算します。磁場については、単位長さあたりの巻数\(n\)と電流\(I\)の変化を考慮して \(H=nI\) の公式を適用します。
- パートIIでは、スイッチを入れた直後の「電流の増加」→「磁束の増加」という過渡現象に着目します。レンツの法則を用いてリングに生じる誘導電流の向きを決定し、その電流とソレノイドの電流との間に働く電磁力(引力か斥力か)を判断してリングの動きを予測します。
問(1)
思考の道筋とポイント
- 回路の構成を理解する: 電源を中央Bと両端A,Cにつなぐと、コイルの左半分(AB)と右半分(BC)が、電源に対して並列に接続された回路になります。
- 電流を計算する: それぞれの半分の抵抗値は、全体の抵抗Rの半分、つまりR/2です。この抵抗に電圧V₀がかかるので、オームの法則でそれぞれの電流を計算し、最後に合流する電源からの全電流を求めます。
- 磁場を計算する: P点(=B点)の磁場は、左半分が作る磁場と右半分が作る磁場のベクトル和になります。それぞれの磁場の向きを考えれば、結果は明らかです。
この設問における重要なポイント
- コイルABとBCは並列接続である。
- 各部分の抵抗は、全体の抵抗\(R\)の半分、\(R/2\)となる。
- P点では、左右のコイルが作る磁場が逆向きで同じ強さになる。
具体的な解説と立式
基準となる状態では、コイル全体の抵抗を\(R\)とすると、オームの法則より \(V_0 = RI_0\) です。
設問の接続では、コイルの左半分(AB)と右半分(BC)が並列に接続されます。それぞれの抵抗は\(R/2\)です。
- 左半分(AB)に流れる電流\(I_{AB}\)は、
$$
\begin{aligned}
I_{AB} &= \frac{V_0}{R/2} \\[2.0ex]
&= \frac{2V_0}{R} \\[2.0ex]
&= 2I_0
\end{aligned}
$$ - 右半分(BC)に流れる電流\(I_{BC}\)も同様に、
$$
\begin{aligned}
I_{BC} &= \frac{V_0}{R/2} \\[2.0ex]
&= 2I_0
\end{aligned}
$$
電源から流れる全電流\(I_{\text{total}}\)は、これらの和なので、
$$
\begin{aligned}
I_{\text{total}} &= I_{AB} + I_{BC} \\[2.0ex]
&= 2I_0 + 2I_0 \\[2.0ex]
&= 4I_0
\end{aligned}
$$
次に、P点の磁場を考えます。
- 左半分(AB)の電流\(I_{AB}\)は、P点に右向きの磁場を作ります。
- 右半分(BC)の電流\(I_{BC}\)は、BからCへ流れるので、P点に左向きの磁場を作ります。
コイルの形状は対称で、流れる電流の大きさも等しい(\(2I_0\))ため、左右のコイルがP点に作る磁場の強さは同じです。向きが正反対なので、これらは互いに打ち消し合います。
したがって、P点の磁場の強さ\(H_P\)は、
$$
\begin{aligned}
H_P &= 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=IR\)
- 並列回路の性質
- ソレノイドが作る磁場と重ね合わせの原理
上記の立式そのものが結論となるため、追加の計算過程はありません。
コイルの真ん中に電池をつなぐと、電線が左右に分岐する並列回路になります。道が半分になったので、それぞれの道には元の2倍の電流が流れます。電池のところでは、この左右の電流が合流するので、合計で4倍の電流が流れることになります。磁場については、P点で右向きの磁場と左向きの磁場が綱引きをする形になり、力が全く同じなので引き分け、つまり磁場はゼロになります。
電源から流れる電流は\(I_0\)の4倍、P点の磁場の強さは\(H_0\)の0倍です。
問(2)
思考の道筋とポイント
- 抵抗と電流: コイルを引き伸ばしても、銅線そのものの長さや材質は変わらないので、電気抵抗Rは変化しません。したがって、同じ電圧V₀をかければ、流れる電流も元のI₀のままです。
- 磁場: 磁場の強さの公式 \(H=nI\) のうち、電流Iは不変ですが、単位長さあたりの巻数nが変化します。コイルの全長が2倍になるので、nがどうなるかを計算します。
この設問における重要なポイント
- コイルの電気抵抗は、巻かれている導線の物理的性質で決まり、引き伸ばしても変わらない。
- 単位長さあたりの巻数\(n\)は、総巻数をコイルの全長で割ったものである。
具体的な解説と立式
1. 電流:
コイル全体の抵抗\(R\)は不変なので、オームの法則 \(V_0 = RI_0\) の関係も変わりません。したがって、電流は\(I_0\)のまま、すなわち1倍です。
2. 磁場:
元のコイルの総巻数を\(N\)とすると、単位長さあたりの巻数\(n\)は \(n = \displaystyle\frac{N}{2l}\) です。
長さを\(4l\)に引き伸ばすと、新しい単位長さあたりの巻数\(n’\)は、
$$
\begin{aligned}
n’ &= \frac{N}{4l} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \cdot \frac{N}{2l} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}n
\end{aligned}
$$
したがって、新しい磁場の強さ\(H’\)は、電流が\(I_0\)のままであることから、
$$
\begin{aligned}
H’ &= n’I_0 \\[2.0ex]
&= \left(\frac{1}{2}n\right)I_0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}(nI_0) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}H_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=IR\)
- ソレノイド内部の磁場: \(H=nI\)
上記の立式そのものが結論となるため、追加の計算過程はありません。
コイルをびよーんと2倍の長さに引き伸ばしても、電線自体の長さは変わらないので、電気の通りにくさ(抵抗)は同じです。だから、流れる電流も変わりません。しかし、磁場の強さはコイルの巻き方の「密度」で決まります。間隔がスカスカになると密度が半分になるので、磁場の強さも半分に弱まってしまいます。
電流は\(I_0\)の1倍、磁場の強さは\(H_0\)の1/2倍です。ソレノイドは、同じ電流でも、まばらに巻く(nを小さくする)と磁場が弱まることがわかります。
問(3)
思考の道筋とポイント
- 回路の構成: 電源をAとBに接続し、CもBと同じ電位の端子につないでいます。これは、BC間には電位差がなく、電流が流れないことを意味します。電流が流れるのは、電圧V₀がかかるAB間のみです。
- 電流の計算: AB間の抵抗はR/2なので、オームの法則で電流を計算します。
- 磁場の計算: P点(=B点)は、電流が流れるコイルABの「端」の位置になります。ソレノイドの端の磁場は、内部の磁場のちょうど半分になる、という性質を利用します。この性質は、対称性を用いた巧妙な思考実験で導かれます。
この設問における重要なポイント
- BC間には電流が流れない。
- 電流が流れるのはAB間のみで、その抵抗は\(R/2\)。
- ソレノイドの端の磁場は、内部の磁場の1/2になる。
具体的な解説と立式
1. 電流の計算:
電流が流れるのは、抵抗が \(R/2\) のAB間のみです。ここに電圧\(V_0\)がかかるので、オームの法則より、流れる電流\(I’\)は、
$$
\begin{aligned}
I’ &= \frac{V_0}{R/2} \\[2.0ex]
&= \frac{2V_0}{R} \\[2.0ex]
&= 2I_0
\end{aligned}
$$
電源から流れる電流はこれだけなので、\(I_0\)の2倍です。
2. 磁場の計算(ソレノイド端の磁場):
まず、電流\(2I_0\)が流れるコイルABが、もし無限に長かった場合の内部の磁場 \(H_{\text{内部}}\) を考えます。単位長さあたりの巻数は元のコイルと同じ\(n\)なので、
$$
\begin{aligned}
H_{\text{内部}} &= n(2I_0) \\[2.0ex]
&= 2(nI_0) \\[2.0ex]
&= 2H_0
\end{aligned}
$$
無限に長いソレノイドの端での磁場は、内部の磁場のちょうど半分になることが知られています。したがって、P点での磁場の強さ \(H_P\) は、
$$
\begin{aligned}
H_P &= \frac{1}{2} H_{\text{内部}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}(2H_0) \\[2.0ex]
&= H_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=IR\)
- ソレノイド内部の磁場: \(H=nI\)
- ソレノイドの端の磁場: \(H_{\text{端}} = \displaystyle\frac{1}{2}H_{\text{内部}}\)(重ね合わせの原理より)
上記の立式そのものが結論となるため、追加の計算過程はありません。
求めたいP点の磁場(コイルABの右端)を \(H_{AB}\) とします。
ここで、もしコイルの右半分BCにも、ABと同じ向きに同じ電流2I₀が流れていると仮想的に考えます。このとき、P点は長さ2lのソレノイドの「中心」になります。
この仮想的な状況でのP点の磁場 \(H_{total}\) は、内部の磁場なので \(H_{total} = 2H_0\) です。
一方、この \(H_{total}\) は、左半分が作る磁場 \(H_{AB}\) と、右半分が作る磁場 \(H_{BC}\) のベクトル和のはずです。
$$H_{total} = H_{AB} + H_{BC}$$
対称性から考えて、左半分(AB)がその右端Pに作る磁場の強さと、右半分(BC)がその左端Pに作る磁場の強さは同じはずです。つまり \(H_{AB} = H_{BC}\)。
したがって、\(2H_0 = H_{AB} + H_{AB} = 2H_{AB}\)。これから、\(H_{AB} = H_0\) が導かれます。
今度はコイルの左半分だけに電流を流す状況です。電気の通り道が半分になったので、抵抗も半分になり、電流は元の2倍流れます。磁場を考えるとき、P点は電流が流れているコイルのちょうど「端っこ」になります。ソレノイドの磁場は、端っこでは内部の半分に弱まるという性質があります。今回は電流が2倍、場所の効果で1/2倍なので、掛け合わせると結局、元の磁場の強さと同じになります。
電源から流れる電流は\(I_0\)の2倍、P点の磁場の強さは\(H_0\)の1倍です。
問(4)
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じると、ソレノイドを流れる電流が0から定常値I₀へと時間的に変化(増加)します。電流が変化すると、ソレノイドが作る磁場も変化し、その結果、ソレノイドを貫く磁束が変化します。この「磁束の変化」が、近くにあるリングR₁とR₂に誘導起電力を生じさせ、誘導電流を流します。向きはレンツの法則で決まります。
この設問における重要なポイント
- 電流の変化 \(\rightarrow\) 磁場の変化 \(\rightarrow\) 磁束の変化 \(\rightarrow\) 誘導起電力の発生。
- レンツの法則: 誘導電流は、磁束の変化を「妨げる」向きに流れる。
具体的な解説と立式
1. 誘導電流の有無:
スイッチを閉じると、ソレノイドの電流が増加し、ソレノイドが作る右向きの磁場も増加します。これにより、リングR₁とR₂を貫く右向きの磁束が増加します。
ファラデーの電磁誘導の法則によれば、磁束が変化すれば必ず誘導起電力が生じるため、R₁とR₂の両方に電流は流れます。
2. 誘導電流の向き(レンツの法則):
レンツの法則は「磁束の変化を妨げる向き」に誘導電流が流れるという法則です。
今回は「右向きの磁束が増加」という変化が起きています。これを妨げるには、リング自身が「左向きの磁場」を作る必要があります。
右ネジの法則より、左向きの磁場を作る電流の向きは、ソレノイドの巻線とは逆向きになります。
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則
- レンツの法則
この設問は定性的な問題のため、計算過程はありません。
スイッチを入れると、ソレノイドが電磁石になろうとして、右向きの磁力線が「にょきにょき」と生えてきます。リングたちはこの「変化が嫌い」なので、「増えるな!」とばかりに、生えてくる磁力線を打ち消すための左向きの磁力線を自分で作ろうとします。そのために流すのが誘導電流で、向きはソレノイドの電流とは逆向きになります。
R₁とR₂の両方に電流が流れる。その向きは、コイルに流れる電流とは逆向きです。
問(5)
思考の道筋とポイント
(4)で、リングに誘導電流が流れることがわかりました。この誘導電流と、ソレノイドの電流との間には、電磁力が働きます。「平行な電流間には引力が、逆向きの電流間には反発力が働く」という法則を思い出しましょう。
この設問における重要なポイント
- 逆向きに流れる平行電流の間には、反発力(斥力)が働く。
- 力のつり合いを考える際には、系の対称性を考慮する。
具体的な解説と立式
1. 働く力の種類:
(4)より、リングR₁とR₂に流れる誘導電流は、ソレノイドの電流と逆向きです。したがって、両リングとソレノイドの間には反発力(斥力)が働きます。
2. リングR₁の動き:
R₁はソレノイドの左端にあります。ソレノイドから反発力を受けるので、ソレノイドから離れる向き、すなわち左向きに動きだします。
3. リングR₂の動き:
R₂はソレノイドの中央にあります。ソレノイドの左半分(AB)からは右向きの反発力を受け、右半分(BC)からは左向きの反発力を受けます。コイルは一様で、R₂は中央にあるため、左右からの反発力は大きさが等しく、向きが逆です。したがって、これらの力はつり合ってしまい、R₂は動きません。
使用した物理公式
- 平行電流・逆行電流間にはたらく力(引力・反発力)
- 力のつり合いと対称性
この設問は定性的な問題のため、計算過程はありません。
ソレノイドとリングには、互いに逆向きの電流が流れています。逆向きの電流は、まるで磁石の同じ極(N極とN極など)を近づけたように、反発し合います。左端にあるR₁は、ソレノイドから「あっちへ行け!」と左向きに押されるので、左に動きます。一方、真ん中にあるR₂は、左半分から右向きに、右半分から左向きに、同じ強さで押される「板挟み」状態になります。力が完全につりあうので、R₂はその場から動けません。
R₁は左向きに動きだす。R₂は動かない。これは、ソレノイド電磁石とリング電磁石のN極・S極の向きを考えても同じ結論が得られます。ソレノイドは右がN極、左がS極の電磁石になります。誘導電流により、リングは両方とも右がS極、左がN極の電磁石になります。R₁はS極同士が向き合うので反発し、R₂は中心で左右から対称な力を受けるため動きません。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ソレノイドが作る磁場:
- 核心: 長いソレノイドの内部には、一様な磁場 \(H=nI\) が生じるという基本法則がパートIの土台です。特に、コイルの長さや電流が変わったときに、`n`と`I`がどう変化するかを正確に追うことが重要です。
- 理解のポイント:
- 電流比例: 磁場の強さは、流れる電流\(I\)に比例する。
- 巻数密度比例: 磁場の強さは、単位長さあたりの巻数\(n\)(巻線の密度)に比例する。
- 抵抗との関係: 電流\(I\)は、オームの法則 \(I=V/R\) を通じて、コイルの抵抗\(R\)(導線の長さや接続方法)に依存する。
- 重ね合わせの原理と対称性:
- 核心: 問(1)の磁場ゼロや、問(3)の「端の磁場は内部の半分」、問(5)の「中央のリングは動かない」といった結論は、すべて物理的な「対称性」と「重ね合わせの原理」から導かれています。複雑な状況を単純な要素の組み合わせとして捉える視点は非常に強力です。
- 理解のポイント:
- ベクトル和: 複数の源が作る場(電場や磁場)は、それぞれの源が単独で作る場のベクトル和で与えられる。
- 対称性の利用: 幾何学的に対称な配置では、場や力が打ち消し合ったり、計算が簡略化されたりすることが多い。
- ファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則:
- 核心: パートIIの核心です。「磁束の変化」が「誘導起電力」を生み、「その向きは変化を妨げる向き」である、という一連の法則を正しく適用できることが問われます。
- 理解のポイント:
- 原因: 誘導現象の原因は、あくまで「磁束の(時間的)変化」である。電流が一定になった定常状態では起こらない。
- 向きの決定: 誘導電流の向きは、元の磁束変化を「妨害」し、現状を維持しようとする向きに決まる(レンツの法則)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 相互誘導: パートIIは、一次コイル(ソレノイド)の電流変化が二次コイル(リング)に起電力を生む「相互誘導」の最も基本的な例です。変圧器(トランス)などの原理にもつながります。
- 対称性を利用した場の計算: 電気や磁気、重力の世界では、対称性を使って計算を劇的に簡略化できる問題が多くあります。問(3)の端の磁場を求める方法は、その典型的なテクニックです。
- 初見の問題での着眼点:
- 接続方法の変更: 問(1)や(3)のように、電源のつなぎ方が変わる問題では、まず回路図を描き直し、各部分の抵抗や電圧がどうなるかを整理します。並列か直列かを見極めるのが第一歩です。
- 「スイッチを入れた直後」という言葉: このキーワードは、「電流が0から変化する」→「磁束が変化する」→「電磁誘導が起こる」という思考の連鎖を始める合図です。
- 系の対称性: 問(5)のように、幾何学的に対称な配置があれば、「力がつり合うのではないか?」と予測を立てることができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位長さあたりの巻数 `n` の扱い:
- 誤解: 問(2)でコイルを伸ばしたときに、`n` が変わることに気づかない。あるいは、総巻数 `N` と混同してしまう。
- 対策: \(H=nI\) の `n` は「密度」の概念であると理解する。長さが変われば密度も変わる、と常に意識する。
- ソレノイドの端の磁場:
- 誤解: 問(3)で、端の点Pでも内部と同じ磁場 \(H=2H_0\) ができると勘違いしてしまう。
- 対策: ソレノイドの磁力線が端から外に広がっていくイメージを持つ。「端は磁力線が半分漏れ出しているので、磁場も半分になる」と直感的に覚えておくと同時に、別解で示した対称性による証明も理解しておく。
- レンツの法則の適用ミス:
- 誤解: 問(4)で、誘導電流がソレノイドの電流と「同じ向き」に流れると間違えてしまう。
- 対策: レンツの法則は「変化」に対して「反抗」する、という「あまのじゃく」な性質を思い出す。磁束が「増えている」なら「減らす」向きに、「減っている」なら「増やす」向きに、誘導電流は磁場を作ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(H = nI\) (ソレノイド内部の磁場):
- 選定理由: 問題の主役がソレノイドコイルであり、その内部の磁場を計算するための基本公式だから。
- 適用根拠: アンペールの法則をソレノイドに適用して導出された、理想的な状況下での磁場の強さ。
- レンツの法則:
- 選定理由: 問(4)のように、磁束変化によって生じる誘導電流の「向き」を決定するために用いる。
- 適用根拠: エネルギー保存則の電磁気学的な現れ。もし変化を妨げる向きでなければ、エネルギーが無限に増大する状況が生まれてしまい、物理的に矛盾します。
- 平行/逆行電流間の力:
- 選定理由: 問(5)で、ソレノイドの電流とリングの誘導電流という、2つの電流間に働く力を定性的に判断するために用いる。
- 適用根拠: それぞれの電流が作る磁場から、もう一方の電流がローレンツ力を受ける、という相互作用を簡潔にまとめた法則。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 基準を明確にする:
- 特に注意すべき点: この問題では、初期状態の電流が\(I_0\)、磁場が\(H_0\)と定義されています。「〇倍になるか」という問いに対しては、常にこの基準値との比を計算することを忘れない。
- 日頃の練習: 問題文の冒頭で基準となる量(この問題では\(I_0, H_0\))に印をつけ、計算の最終段階で必ずその量で割り算して比を求める、という手順を習慣化する。
- 抵抗と長さの比例関係の確認:
- 特に注意すべき点: コイルの抵抗は、巻かれている銅線の長さに比例します。コイルの「全長」がlから2lに伸びても、銅線自体の長さは変わらないので抵抗はRのまま、というように、何が変化して何が不変かを見極める。
- 日頃の練習: 問題文の条件が変わったときに、「変化する量」と「不変量」をリストアップする癖をつける。
- 対称性の利用:
- 特に注意すべき点: 対称な状況では、計算するまでもなく「打ち消し合ってゼロになる」「左右で同じ値になる」と判断できることが多いです。
- 日頃の練習: 図形を見て対称性を見出す訓練をする。物理の問題だけでなく、数学の幾何問題などでも対称性を意識することで、この能力は向上する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との照らし合わせ:
- 吟味の視点: 問(2)で、コイルを引き伸ばすと磁場が弱くなった。これは物理的に妥当か?
- 物理的解釈: 電流の分布がまばらになったのだから、磁場が弱まるのは当然だ、と直感的に納得できる。
- 吟味の視点: 問(5)で、端にあるリングは反発して飛び出すが、中央にあるリングは動かない。これは妥当か?
- 物理的解釈: 中心では力がつり合いそうだ、という物理的直感と一致する。
- 極端な場合を考える:
- 吟味の視点: もし問(3)で、右半分BCを切り離してしまったらどうなるか?
- 物理的解釈: ABだけの長さlのソレノイドとなり、その端Pでの磁場は\(H_0\)となる。これは、長さ2lのソレノイドを半分に切っても、端の磁場の強さは変わらないことを示唆しており、興味深い考察ができる。
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問題44 (京都工繊大+名古屋大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電磁誘導の中でも特にコイルの性質に焦点を当てた、「自己誘導」と「相互誘導」をテーマにしています。
- パートI (問1-3) では、コイルに流れる電流が変化するとき、コイル自身や、近くにある別のコイルにどのような起電力が生じるかを、ファラデーの電磁誘導の法則から出発して、自己インダクタンスLや相互インダクタンスMというコイルの性能を表す量として定義するプロセスを学びます。
- パートII (問4) では、実際に電流をグラフのように変化させたとき、コイルに生じる電圧や電源が供給すべき電圧がどのように変化するかを計算する、より実践的な応用問題となっています。
- コイルP(1次コイル): 長さ\(l\), 断面積\(S\), 巻数\(N_1\)
- コイルQ(2次コイル): 巻数\(N_2\), Pの中央に巻かれている
- 回路: Pに抵抗\(R\)と可変電源Eが接続されている
- 物理定数: 真空の透磁率\(\mu_0\)
- (1) Pに電流\(I\)が流れるときの、内部の磁束密度とその向き。
- (2) Pの電流が変化したときの、P自身の誘導起電力(自己誘導)、向き、自己インダクタンス\(L\)。
- (3) 同じく、Qに生じる誘導起電力(相互誘導)、電位、相互インダクタンス\(M\)。
- (4) 電流を特定のグラフのように変化させたときの、
- (ア) Pの両端の電圧の時間変化グラフ。
- (イ) 電源電圧Eの時間変化グラフ。
- (コラムQ): Pの巻数\(N_1\)を2倍にしたときの、自己誘導起電力と相互誘導起電力の変化。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、コラムQで問われている内容をより深く理解するため、まず主たる解法として物理的な現象の連鎖から定性的に考察する方法を提示し、その後に(2)と(3)で導出したインダクタンスの公式を用いた定量的な別解を示します。
この問題のテーマは「自己誘導」と「相互誘導」です。コイルに流れる電流が変化するとき、コイル自身や、近くにある別のコイルにどのような起電力が生じるかを、ファラデーの電磁誘導の法則から出発して体系的に理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ファラデーの電磁誘導の法則: 全ての誘導現象の根底にある法則です。コイルを貫く磁束\(\Phi\)が時間変化するとき、起電力\(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)が生じます。
- 自己誘導: コイル自身の電流変化が原因で、自身に起電力が生じる現象です。この「起きやすさ」を自己インダクタンス\(L\)で表します。
- 相互誘導: あるコイルの電流変化が原因で、近くの別のコイルに起電力が生じる現象です。この「影響の与えやすさ」を相互インダクタンス\(M\)で表します。
- キルヒホッフの法則: コイルを「電流が変化しているときだけ現れる電池」とみなし、回路全体の電圧関係を解析するために用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、ソレノイドコイルに流れる電流\(I\)が、その内部にどのような磁束\(\Phi\)を作るかを計算します。
- 次に、ファラデーの法則を用いて、この磁束の時間変化がコイル自身(自己誘導)や隣のコイル(相互誘導)にどれだけの起電力を生じさせるかを導出します。
- 導出した起電力の式を、インダクタンス\(L\), \(M\)の定義式と比較することで、これらの値をコイルの形状(巻数、長さなど)で表します。
- パートIIでは、これらの関係式を使い、具体的な電流の時間変化グラフから、回路各部の電圧を計算します。