「名問の森」徹底解説(43〜45問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題43 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電磁気学の重要なテーマである「ソレノイドコイル」と「電磁誘導」に関する、多角的な理解を問う問題です。

  • パートI では、直流電源への接続方法を変えることで、ソレノイドの抵抗や単位長さあたりの巻数がどう変化し、結果として電流や中心の磁場がどう変わるかを計算します。特に(3)では、ソレノイドの端における磁場という応用的な知識が試されます。
  • パートII では、直流電流が定常状態になるまでの過渡的な状態で、電磁誘導によってリングにどのような現象が起こるかを、レンツの法則や電磁力を用いて考察します。
与えられた条件
  • 初期状態: 長さ2lのソレノイドコイルに電圧V₀をかけ、電流I₀が流れている。このときの中心Pの磁場の強さがH₀。
  • これは、コイル全体の抵抗をRとすると \(R = V_0/I_0\) であること、単位長さあたりの巻数をnとすると \(H_0 = n I_0\) であることを意味します。
問われていること
  • I (直流回路):
    • (1) 電源を中央Bと両端A,Cに接続した場合の、全電流とP点の磁場。
    • (2) コイルを長さ4lに引き伸ばした場合の、電流とP点の磁場。
    • (3) 電源をAとB,Cに接続した場合の、全電流とP点の磁場。
  • II (電磁誘導):
    • (4) スイッチを閉じた過渡状態での、リングR₁, R₂に流れる誘導電流の有無と向き。
    • (5) スイッチを閉じた直後の、リングR₁, R₂の動きの有無と向き。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く鍵は、ソレノイドコイルの基本的な性質と、電磁誘導の法則を正確に理解しているかです。

ソレノイドについて:
十分に長いソレノイドの内部には、一様な磁場 \(H = nI\) ができます。ここで `n` は「単位長さあたりの巻数」、`I` は流れる電流です。この公式を、コイルの長さや電流が変化する各状況に合わせて正しく適用することが求められます。

電磁誘導について:
「コイルを貫く磁束が変化するとき、その変化を妨げる向きに起電力(と電流)が誘導される」というファラデーの電磁誘導の法則レンツの法則が中心となります。パートIIでは、スイッチを入れた瞬間にソレノイドの電流が増加し、それによって作られる磁束も増加するため、周囲のリングに誘導電流が発生します。そして、その誘導電流とソレノイドの電流との間に働く電磁力を考えることで、リングの運動を予測します。

問 (1)

思考の道筋とポイント

  1. 回路の構成を理解する: 電源を中央Bと両端A,Cにつなぐと、コイルの左半分(AB)と右半分(BC)が、電源に対して並列に接続された回路になります。
  2. 電流を計算する: それぞれの半分の抵抗値は、全体の抵抗Rの半分、つまりR/2です。この抵抗に電圧V₀がかかるので、オームの法則でそれぞれの電流を計算し、最後に合流する電源からの全電流を求めます。
  3. 磁場を計算する: P点(=B点)の磁場は、左半分が作る磁場と右半分が作る磁場のベクトル和になります。それぞれの磁場の向きを考えれば、結果は明らかです。

具体的な解説と立式
1. 電流の計算:
コイル全体の抵抗をRとすると、左半分(AB)と右半分(BC)の抵抗はそれぞれ \(R/2\) です。

  • 左半分を流れる電流 \(I_{AB}\): \(V_0 = (R/2)I_{AB}\) より \(I_{AB} = 2V_0/R = 2I_0\)。
  • 右半分を流れる電流 \(I_{BC}\): \(V_0 = (R/2)I_{BC}\) より \(I_{BC} = 2V_0/R = 2I_0\)。

電源から流れる全電流は、これらが合流したものなので、
$$I_{total} = I_{AB} + I_{BC} = 2I_0 + 2I_0 = 4I_0$$
2. 磁場の計算:
P点は、左半分コイル(AB)の右端であり、右半分コイル(BC)の左端です。

  • 左半分(AB)の電流\(I_{AB}\)は、P点に右向きの磁場を作ります。
  • 右半分(BC)の電流\(I_{BC}\)は、BからCへ流れるので、P点に左向きの磁場を作ります。

電流の大きさが同じ(\(2I_0\))で、コイルの形状も対称なので、作られる磁場の強さも同じです。したがって、P点では2つの磁場が完全に打ち消し合います。
$$H_P = 0$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=IR\)
  • 並列回路の性質
  • ソレノイドが作る磁場と重ね合わせの原理
計算過程

上記の立式そのものが結論となるため、追加の計算過程はありません。

結論と吟味

電源から流れる電流はI₀の4倍、P点の磁場の強さはH₀の0倍です。

解答 (1) 電流: 4倍、磁場: 0倍

問 (2)

思考の道筋とポイント

  1. 抵抗と電流: コイルを引き伸ばしても、銅線そのものの長さや材質は変わらないので、電気抵抗Rは変化しません。したがって、同じ電圧V₀をかければ、流れる電流も元のI₀のままです。
  2. 磁場: 磁場の強さの公式 \(H=nI\) のうち、電流Iは不変ですが、単位長さあたりの巻数nが変化します。コイルの全長が2倍になるので、nがどうなるかを計算します。

具体的な解説と立式
1. 電流:
コイル全体の抵抗Rは不変なので、オームの法則 \(V_0 = RI_0\) の関係も変わりません。したがって、電流はI₀のまま、すなわち1倍です。
2. 磁場:
元の単位長さあたりの巻数を \(n = N/(2l)\) とします(Nは総巻数)。長さを4lに引き伸ばすと、新しい単位長さあたりの巻数n’は、
$$n’ = \frac{N}{4l} = \frac{1}{2} \cdot \frac{N}{2l} = \frac{1}{2}n$$
したがって、新しい磁場の強さH’は、
$$H’ = n’I_0 = \left(\frac{1}{2}n\right)I_0 = \frac{1}{2}(nI_0) = \frac{1}{2}H_0$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=IR\)
  • ソレノイド内部の磁場: \(H=nI\)
計算過程

上記の立式そのものが結論となるため、追加の計算過程はありません。

結論と吟味

電流はI₀の1倍、磁場の強さはH₀の1/2倍です。ソレノイドは、同じ電流でも、まばらに巻く(nを小さくする)と磁場が弱まることがわかります。

解答 (2) 電流: 1倍、磁場: 1/2倍

問 (3)

思考の道筋とポイント

  1. 回路の構成: 電源をAとBに接続し、CもBと同じ電位の端子につないでいます。これは、BC間には電位差がなく、電流が流れないことを意味します。電流が流れるのは、電圧V₀がかかるAB間のみです。
  2. 電流の計算: AB間の抵抗はR/2なので、オームの法則で電流を計算します。
  3. 磁場の計算: P点(=B点)は、電流が流れるコイルABの「端」の位置になります。ソレノイドの端の磁場は、内部の磁場のちょうど半分になる、という性質を利用します。この性質は、対称性を用いた巧妙な思考実験で導かれます。

具体的な解説と立式
1. 電流の計算:
電流が流れるのは、抵抗が \(R/2\) のAB間のみです。ここに電圧V₀がかかるので、オームの法則より、
$$I’ = \frac{V_0}{R/2} = \frac{2V_0}{R} = 2I_0$$
2. 磁場の計算(ソレノイド端の磁場):
まず、コイルABが無限に長いと仮定した場合の内部の磁場 \(H_{inside}\) を考えます。単位長さあたりの巻数は元のコイルと同じnで、電流が2I₀なので、
$$H_{inside} = n(2I_0) = 2(nI_0) = 2H_0$$
無限に長いソレノイドの端での磁場は、内部の磁場のちょうど半分になることが知られています。したがって、P点での磁場の強さ \(H_P\) は、
$$H_P = \frac{1}{2} H_{inside} = \frac{1}{2}(2H_0) = H_0$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=IR\)
  • ソレノイド内部の磁場: \(H=nI\)
  • ソレノイドの端の磁場: \(H_{end} = \frac{1}{2}H_{inside}\)(重ね合わせの原理より)
計算過程

上記の立式そのものが結論となるため、追加の計算過程はありません。
別解: 「端の磁場が内部の半分」であることの証明
求めたいP点の磁場(コイルABの右端)を \(H_{AB}\) とします。
ここで、もしコイルの右半分BCにも、ABと同じ向きに同じ電流2I₀が流れていると仮想的に考えます。このとき、P点は長さ2lのソレノイドの「中心」になります。
この仮想的な状況でのP点の磁場 \(H_{total}\) は、内部の磁場なので \(H_{total} = 2H_0\) です。
一方、この \(H_{total}\) は、左半分が作る磁場 \(H_{AB}\) と、右半分が作る磁場 \(H_{BC}\) のベクトル和のはずです。
$$H_{total} = H_{AB} + H_{BC}$$
対称性から考えて、左半分(AB)がその右端Pに作る磁場の強さと、右半分(BC)がその左端Pに作る磁場の強さは同じはずです。つまり \(H_{AB} = H_{BC}\)。
したがって、\(2H_0 = H_{AB} + H_{AB} = 2H_{AB}\)。これから、\(H_{AB} = H_0\) が導かれます。

結論と吟味

電源から流れる電流はI₀の2倍、P点の磁場の強さはH₀の1倍です。

解答 (3) 電流: 2倍、磁場: 1倍

問 (4)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じると、ソレノイドを流れる電流が0から定常値I₀へと時間的に変化(増加)します。電流が変化すると、ソレノイドが作る磁場も変化し、その結果、ソレノイドを貫く磁束が変化します。この「磁束の変化」が、近くにあるリングR₁とR₂に誘導起電力を生じさせ、誘導電流を流します。向きはレンツの法則で決まります。

具体的な解説と立式
1. 誘導電流の有無:
スイッチを閉じると、ソレノイドの電流が増加 → ソレノイドが作る右向きの磁場が増加 → リングR₁とR₂を貫く右向きの磁束が増加します。
ファラデーの電磁誘導の法則によれば、磁束が変化すれば必ず誘導起電力が生じるため、R₁とR₂の両方に電流は流れます
2. 誘導電流の向き(レンツの法則):
レンツの法則は「磁束の変化を妨げる向き」に誘導電流が流れるという法則です。
今回は「右向きの磁束が増加」という変化が起きています。これを妨げるには、リング自身が「左向きの磁場」を作る必要があります。
右ネジの法則より、左向きの磁場を作る電流の向きは、ソレノイドの巻線とは逆向きになります。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則
  • レンツの法則
計算過程

この設問は定性的な問題のため、計算過程はありません。

結論と吟味

R₁とR₂の両方に電流が流れる。その向きは、コイルに流れる電流とは逆向きです。

解答 (4) 両方ともに流れる。向きはコイルの電流と逆向き。

問 (5)

思考の道筋とポイント
(4)で、リングに誘導電流が流れることがわかりました。この誘導電流と、ソレノイドの電流との間には、電磁力が働きます。ここで、「平行な電流間には引力が、逆向きの電流間には反発力が働く」という法則を思い出しましょう。

具体的な解説と立式
1. 働く力の種類:
(4)より、リングR₁とR₂に流れる誘導電流は、ソレノイドの電流と逆向きです。したがって、両リングとソレノイドの間には反発力(斥力)が働きます。
2. リングR₁の動き:
R₁はソレノイドの左端にあります。ソレノイドから反発力を受けるので、ソレノイドから離れる向き、すなわち左向きに動きだします
3. リングR₂の動き:
R₂はソレノイドの中央にあります。ソレノイドの左半分(AB)からは右向きの反発力を受け、右半分(BC)からは左向きの反発力を受けます。コイルは一様で、R₂は中央にあるため、左右からの反発力は大きさが等しく、向きが逆です。したがって、これらの力はつり合ってしまい、R₂は動きません

使用した物理公式

  • 平行電流・逆行電流間にはたらく力(引力・反発力)
  • 力のつり合いと対称性
計算過程

この設問は定性的な問題のため、計算過程はありません。

結論と吟味

R₁は左向きに動きだす。R₂は動かない。これは、ソレノイド電磁石とリング電磁石のN極・S極の向きを考えても同じ結論が得られます。ソレノイドは右がN極、左がS極の電磁石になります。誘導電流により、リングは両方とも右がS極、左がN極の電磁石になります。R₁はS極同士が向き合うので反発し、R₂は中心で左右から対称な力を受けるため動きません。

解答 (5) R₁は左へ動き、R₂は動かない。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ソレノイドが作る磁場: 長いソレノイドの内部には、一様な磁場 \(H=nI\) が生じるという基本法則がパートIの土台です。特に、コイルの長さや電流が変わったときに、`n`と`I`がどう変化するかを正確に追うことが重要です。
  • 重ね合わせの原理と対称性: 問(1)の磁場ゼロや、問(3)の「端の磁場は内部の半分」、問(5)の「中央のリングは動かない」といった結論は、すべて物理的な「対称性」と「重ね合わせの原理」から導かれています。複雑な状況を単純な要素の組み合わせとして捉える視点は非常に強力です。
  • ファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則: パートIIの核心です。「磁束の変化」が「誘導起電力」を生み、「その向きは変化を妨げる向き」である、という一連の法則を正しく適用できることが問われます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 相互誘導: パートIIは、一次コイル(ソレノイド)の電流変化が二次コイル(リング)に起電力を生む「相互誘導」の最も基本的な例です。変圧器(トランス)などの原理にもつながります。
    • 対称性を利用した場の計算: 電気や磁気、重力の世界では、対称性を使って計算を劇的に簡略化できる問題が多くあります。問(3)の端の磁場を求める方法は、その典型的なテクニックです。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 接続方法の変更: 問(1)や(3)のように、電源のつなぎ方が変わる問題では、まず回路図を描き直し、各部分の抵抗や電圧がどうなるかを整理します。並列か直列かを見極めるのが第一歩です。
    2. 「スイッチを入れた直後」という言葉: このキーワードは、「電流が0から変化する」→「磁束が変化する」→「電磁誘導が起こる」という思考の連鎖を始める合図です。
    3. 系の対称性: 問(5)のように、幾何学的に対称な配置があれば、「力がつり合うのではないか?」と予測を立てることができます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 単位長さあたりの巻数 `n` の扱い:
    • 現象: 問(2)でコイルを伸ばしたときに、`n` が変わることに気づかない。あるいは、総巻数 `N` と混同してしまう。
    • 対策: \(H=nI\) の `n` は「密度」の概念であると理解する。長さが変われば密度も変わる、と常に意識する。
  • ソレノイドの端の磁場:
    • 現象: 問(3)で、端の点Pでも内部と同じ磁場 \(H=2H_0\) ができると勘違いしてしまう。
    • 対策: ソレノイドの磁力線が端から外に広がっていくイメージを持つ。「端は磁力線が半分漏れ出しているので、磁場も半分になる」と直感的に覚えておくと同時に、別解で示した対称性による証明も理解しておく。
  • レンツの法則の適用ミス:
    • 現象: 問(4)で、誘導電流がソレノイドの電流と「同じ向き」に流れると間違えてしまう。
    • 対策: レンツの法則は「変化」に対して「反抗」する、という「あまのじゃく」な性質を思い出す。磁束が「増えている」なら「減らす」向きに、「減っている」なら「増やす」向きに、誘導電流は磁場を作ります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • 回路図の描き直し: 問(1)や(3)のように接続が変わった場合、元の図に書き込まずに、抵抗と電源からなる等価な回路図を自分で新しく描くことが、状況を正確に把握する上で非常に有効です。
    • 仮想的な要素を補う図: 問(3)の別解で示したように、「もし右半分にもコイルがあったら…」という仮想的な状況を図に描いてみることが、対称性を利用した思考の助けになります。
    • 力のベクトル図: 問(5)で、リングR₂に働く左右からの反発力を、ベクトル矢印として描き込むことで、なぜ力がつり合うのかが一目瞭然になります。
    • 磁石モデルへの置き換え: 問(5)で、ソレノイドとリングをそれぞれN極・S極を持つ棒磁石に置き換えて図示すると、反発・吸引の関係が直感的に理解できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = nI\) (ソレノイド内部の磁場):
    • 選定理由: 問題の主役がソレノイドコイルであり、その内部の磁場を計算するための基本公式だから。
    • 適用根拠: アンペールの法則をソレノイドに適用して導出された、理想的な状況下での磁場の強さ。
  • レンツの法則:
    • 選定理由: 問(4)のように、磁束変化によって生じる誘導電流の「向き」を決定するために用いる。
    • 適用根拠: エネルギー保存則の電磁気学的な現れ。もし変化を妨げる向きでなければ、エネルギーが無限に増大する状況が生まれてしまい、物理的に矛盾します。
  • 平行/逆行電流間の力:
    • 選定理由: 問(5)で、ソレノイドの電流とリングの誘導電流という、2つの電流間に働く力を定性的に判断するために用いる。
    • 適用根拠: それぞれの電流が作る磁場から、もう一方の電流がローレンツ力を受ける、という相互作用を簡潔にまとめた法則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 【パートI】
    1. 問題の接続形態から、等価な電気回路図を描く(直列か並列か)。
    2. 各部分の抵抗値を求める(例: R/2)。
    3. オームの法則で各部分の電流、および全体の電流を計算する。
    4. ソレノイドの磁場の公式 \(H=nI\) を適用する。このとき、コイルの長さの変化に伴う `n` の変化や、電流値の変化を正しく反映させる。
  2. 【パートII】
    1. スイッチON → 電流が増加 → 磁束が増加、という因果関係を把握する。
    2. レンツの法則を適用し、「磁束の増加を妨げる向き」から誘導電流の向きを決定する。
    3. 誘導電流と元の電流の向きを比較し、働く力が「引力」か「反発力」かを判断する。
    4. 力のつり合い(対称性)を考慮し、各リングが動くかどうかを結論づける。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 基準を明確にする: この問題では、初期状態の電流が\(I_0\)、磁場が\(H_0\)と定義されています。「〇倍になるか」という問いに対しては、常にこの基準値との比を計算することを忘れない。
  • 抵抗と長さの比例関係の確認: コイルの抵抗は、巻かれている銅線の長さに比例します。コイルの「全長」がlから2lに伸びても、銅線自体の長さは変わらないので抵抗はRのまま、というように、何が変化して何が不変かを見極める。
  • 対称性の利用: 対称な状況では、計算するまでもなく「打ち消し合ってゼロになる」「左右で同じ値になる」と判断できることが多いです。積極的に利用することで、計算を簡略化し、ミスを減らせます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との照らし合わせ:
    • 問(2)で、コイルを引き伸ばすと磁場が弱くなった。これは、電流の分布がまばらになったのだから、磁場が弱まるのは当然だ、と直感的に納得できる。
    • 問(5)で、端にあるリングは反発して飛び出すが、中央にあるリングは動かない。これも、中心では力がつり合いそうだ、という物理的直感と一致します。
  • 極端な場合を考える:
    • もし問(3)で、右半分BCを切り離してしまったらどうなるか?ABだけの長さlのソレノイドとなり、その端Pでの磁場は\(H_0\)となる。これは、長さ2lのソレノイドを半分に切っても、端の磁場の強さは変わらないことを示唆しており、興味深い考察ができます。

問題44 (京都工繊大+名古屋大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電磁誘導の中でも特にコイルの性質に焦点を当てた、「自己誘導」と「相互誘導」をテーマにしています。

  • パートI (問1-3) では、コイルに流れる電流が変化するとき、コイル自身や、近くにある別のコイルにどのような起電力が生じるかを、ファラデーの電磁誘導の法則から出発して、自己インダクタンスLや相互インダクタンスMというコイルの性能を表す量として定義するプロセスを学びます。
  • パートII (問4) では、実際に電流をグラフのように変化させたとき、コイルに生じる電圧や電源が供給すべき電圧がどのように変化するかを計算する、より実践的な応用問題となっています。
与えられた条件
  • コイルP(1次コイル): 長さl, 断面積S, 巻数N₁
  • コイルQ(2次コイル): 巻数N₂, Pの中央に巻かれている
  • 回路: Pに抵抗Rと可変電源Eが接続されている
  • 物理定数: 真空の透磁率μ₀
問われていること
  • (1) Pに電流Iが流れるときの、内部の磁束密度とその向き。
  • (2) Pの電流が変化したときの、P自身の誘導起電力(自己誘導)、向き、自己インダクタンスL。
  • (3) 同じく、Qに生じる誘導起電力(相互誘導)、電位、相互インダクタンスM。
  • (4) 電流を特定のグラフのように変化させたときの、
    • (ア) Pの両端の電圧の時間変化グラフ。
    • (イ) 電源電圧Eの時間変化グラフ。
  • (コラムQ): Pの巻数N₁を2倍にしたときの、自己誘導起電力と相互誘導起電力の変化。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く鍵は、コイルが持つ2つの重要な誘導作用を、その基本原理から理解することです。

  1. 自己誘導: コイルに流れる電流が変化すると、コイル自身を貫く磁束が変化します。その結果、コイルは「その電流の変化を妨げる向き」に起電力を生み出します。電流が増えそうになると「増やすな!」と逆向きに、減りそうになると「減るな!」と順向きに電圧を発生させる、いわば「現状維持を好む性質」です。
  2. 相互誘導: 近くに別のコイルがある場合、1つのコイルの電流変化が作る磁束変化は、その別のコイルも貫きます。結果として、2つ目のコイルにも誘導起電力が生じます。これが変圧器(トランス)の基本原理です。

この問題を通じて、これらの現象をファラデーの電磁誘導の法則という基本原理から理解し、インダクタンスという量で定量的に扱う方法をマスターしていきましょう。

問 (1)

思考の道筋とポイント
十分に長いソレノイドコイルの内部にできる磁場の公式 \(H=nI\) を使います。ここでnは「単位長さあたりの巻数」です。磁場Hがわかれば、磁束密度Bは \(B=\mu_0 H\) で計算できます。向きは、電流の向きに対して右ネジの法則を適用します。

具体的な解説と立式
1. 単位長さあたりの巻数n:
コイルPは長さlで巻数がN₁なので、
$$n = \frac{N_1}{l}$$
2. 磁場Hと磁束密度B:
ソレノイド内部の磁場の公式より、
$$H = nI = \frac{N_1}{l}I$$
したがって、磁束密度Bは、
$$B = \mu_0 H = \frac{\mu_0 N_1 I}{l} \quad \cdots ①$$
3. 向き:
図の矢印aの向きに電流が流れると、ソレノイドに右手を巻きつけるように考えると、親指は左を向きます。したがって、磁場の向きは矢印bの向きです。

使用した物理公式

  • ソレノイド内部の磁場: \(H=nI\)
  • 磁束密度と磁場の関係: \(B = \mu_0 H\)
  • 右ネジの法則
計算過程

この設問は立式そのものが答えとなるため、計算過程はありません。

結論と吟味

磁束密度の大きさは \(\displaystyle\frac{\mu_0N_1I}{l}\)、向きは矢印bの向きです。

解答 (1) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu_0N_1I}{l}\)、向き: b

問 (2)

思考の道筋とポイント
自己誘導起電力は、ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\) から導出します。

  1. まず、コイルの1巻きを貫く磁束\(\Phi\)を、電流Iの関数として表します。
  2. 電流が\(\Delta I\)変化したときの、磁束の変化\(\Delta\Phi\)を計算します。
  3. コイル全体の巻数N₁を考慮して、全体の起電力V₁を求めます。
  4. 自己インダクタンスLは、\(V_1 = L|\frac{\Delta I}{\Delta t}|\) という定義式と、導出した結果を比較することで決定します。

具体的な解説と立式
1. 磁束\(\Phi\)とその変化\(\Delta\Phi\):
コイルPの1巻きあたりの磁束\(\Phi\)は、(1)で求めた磁束密度Bに断面積Sを掛けたものです。
$$\Phi = BS = \left(\frac{\mu_0 N_1 I}{l}\right)S = \frac{\mu_0 N_1 S}{l} I$$
電流が\(\Delta I\)変化すると、磁束も\(\Delta\Phi\)変化します。
$$\Delta\Phi = \frac{\mu_0 N_1 S}{l} \Delta I \quad \cdots ①$$
2. 誘導起電力\(V_1\):**
コイルP全体の巻数はN₁なので、ファラデーの法則より、起電力の大きさは、
$$V_1 = N_1 \left|\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\right| = N_1 \left| \frac{\frac{\mu_0 N_1 S}{l} \Delta I}{\Delta t} \right| = \frac{\mu_0 N_1^2 S}{l} \left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right| \quad \cdots ②$$
3. 起電力の向き:
電流Iが増加(\(\Delta I > 0\))すると、b向きの磁束が増加します。レンツの法則により、これを妨げるc向きの磁場を作るように起電力が生じます。そのためには、矢印aとは逆向きに電流を流そうとします。
4. 自己インダクタンスL:
自己誘導起電力の大きさを表す公式 \(V_1 = L |\frac{\Delta I}{\Delta t}|\) と、導出した式②を比較します。
$$L = \frac{\mu_0 N_1^2 S}{l} \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V=N\left|\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\right|\)
  • レンツの法則
  • 自己インダクタンスの定義: \(V=L\left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\)
結論と吟味

誘導起電力の大きさは \(\displaystyle\frac{\mu_0 N_1^2 S}{l}\left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\)、向きは矢印aと逆向き。自己インダクタンスLは \(\displaystyle\frac{\mu_0 N_1^2 S}{l}\) です。Lがコイルの形状(巻数、長さ、断面積)だけで決まる定数であることがわかります。巻数の2乗に比例する点が特徴的です。

解答 (2) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 N_1^2 S}{l}\left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\)、向き: aと逆向き、\(L = \displaystyle\frac{\mu_0 N_1^2 S}{l}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント
相互誘導も自己誘導とほぼ同じ考え方です。Pの電流変化が作る磁束変化が、今度はコイルQを貫くことで、Qに起電力を生じさせます。

  1. Qの1巻きを貫く磁束\(\Phi\)は、Pが作るものと同じです。
  2. その磁束変化\(\Delta\Phi\)から、今度はQの巻数N₂を使ってファラデーの法則を適用し、起電力V₂を求めます。
  3. 相互インダクタンスMは、\(V_2 = M|\frac{\Delta I}{\Delta t}|\) という定義式との比較で決定します。

具体的な解説と立式
1. Qに生じる誘導起電力\(V_2\):**
Qの1巻きを貫く磁束の変化\(\Delta\Phi\)は、(2)の式①と同じです。Qの巻数はN₂なので、ファラデーの法則より、
$$V_2 = N_2 \left|\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\right| = N_2 \left| \frac{\frac{\mu_0 N_1 S}{l} \Delta I}{\Delta t} \right| = \frac{\mu_0 N_1 N_2 S}{l} \left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right| \quad \cdots ①$$
2. 電位の向き:
Pの電流が増加し、b向きの磁束が増加する状況は(2)と同じです。Qもこれを妨げるc向きの磁場を作ろうとします。コイルQの巻き方で右ネジの法則を適用すると、そのためにはF→Gの向きに電流を流す必要があります。電流は電位の高い方から低い方へ流れるので、Fの方がGより電位が高いです。
3. 相互インダクタンスM:
相互誘導起電力の大きさを表す公式 \(V_2 = M |\frac{\Delta I}{\Delta t}|\) と、導出した式①を比較します。
$$M = \frac{\mu_0 N_1 N_2 S}{l} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則
  • レンツの法則
  • 相互インダクタンスの定義: \(V=M\left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\)
結論と吟味

誘導起電力の大きさは \(\displaystyle\frac{\mu_0 N_1 N_2 S}{l}\left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\)、電位が高いのはF。相互インダクタンスMは \(\displaystyle\frac{\mu_0 N_1 N_2 S}{l}\) です。

解答 (3) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 N_1 N_2 S}{l}\left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\)、電位: Fが高い、\(M = \displaystyle\frac{\mu_0 N_1 N_2 S}{l}\)

問 (4)

思考の道筋とポイント

  • (ア) Pの両端の電圧 \(V_{AC}\): これは自己誘導起電力そのものです。公式 \(V_L = -L \frac{dI}{dt}\) を使い、I-tグラフの「傾き」から各区間の電圧を計算します。A点のC点に対する電位を問われているので、符号に注意します。
  • (イ) 電源電圧E: キルヒホッフの第二法則を使って求めます。回路を一周すると、電圧の和はゼロになるので、\(E = (\text{抵抗での電圧降下}) + (\text{コイルでの電圧})\) となります。

具体的な解説と立式
(ア) Pの両端の電圧 \(V_{AC}\):
A点のC点に対する電位を\(V_{AC}\)とします。自己誘導起電力 \(V_L\) は電流の変化を妨げる向き、つまり電流が増加しているときはaと逆向き(A側が高電位)、減少しているときはaと同じ向き(C側が高電位)に生じます。よって、\(V_{AC} = L\frac{dI}{dt}\) の関係になります。

  • \(0 < t < 0.2\): グラフの傾きは \(\frac{dI}{dt} = \frac{20}{0.2} = 100\)。
    $$V_{AC} = L\frac{dI}{dt} = (10 \times 10^{-3}) \times 100 = +1.0 \, \text{V}$$
  • \(0.2 < t < 0.4\): 傾きはゼロ。 \(\frac{dI}{dt} = 0\)。
    $$V_{AC} = 0 \, \text{V}$$
  • \(0.4 < t < 0.5\): 傾きは \(\frac{0-20}{0.5-0.4} = -200\)。
    $$V_{AC} = L\frac{dI}{dt} = (10 \times 10^{-3}) \times (-200) = -2.0 \, \text{V}$$

(イ) 電源電圧E:
回路全体でキルヒホッフの第二法則を立てます。電源E、抵抗R、コイルP(自己誘導起電力 \(V_{AC}\) を生じる)からなるループです。C点を基準に時計回りにたどると、
$$+E – IR – V_{AC} = 0$$
したがって、電源電圧Eは次式で求められます。
$$E = IR + V_{AC}$$
この式に、各区間のI(t)と(ア)で求めた\(V_{AC}\)を代入します。

  • \(0 < t < 0.2\): \(V_{AC} = 1\), \(I(t)=100t\)。
    $$E(t) = (0.1)(100t) + 1 = 10t + 1$$
  • \(0.2 < t < 0.4\): \(V_{AC} = 0\), \(I(t)=20\)。
    $$E = (0.1)(20) + 0 = 2$$
  • \(0.4 < t < 0.5\): \(V_{AC} = -2\), \(I(t)\)は傾き-200でt=0.5で0になるので、\(I(t)=-200(t-0.5) = 100-200t\)。
    $$E(t) = (0.1)(100-200t) + (-2) = 10-20t-2 = 8-20t$$

使用した物理公式

  • 自己誘導起電力: \(V = -L\frac{dI}{dt}\)
  • キルヒホッフの第二法則
結論と吟味

(ア) V-tグラフは、+1V、0V、-2Vの方形波を組み合わせた形になります。
(イ) E-tグラフは、(t=0で1Vからt=0.2で3Vへ増加)、(2Vで一定)、(t=0.4で0Vからt=0.5で-2Vへ減少)という折れ線グラフになります。(模範解答のグラフを参照)

解答 (4) (模範解答のグラフを参照)

【コラム】Q: Pの巻数N₁を2倍にすると、Qの相互誘導起電力、Pの自己誘導起電力は何倍になるか。

思考の道筋とポイント
公式に頼らず、物理現象の連鎖で考えます。
\((\text{巻数}) \rightarrow (\text{磁場}) \rightarrow (\text{磁束}) \rightarrow (\text{起電力})\) という流れを追うのがポイントです。

具体的な解説と立式
1. 相互誘導起電力(Qに生じる起電力 \(V_2\)):

  • Pの巻数N₁が2倍になると、Pが作る磁場B(\(B \propto N_1\))は2倍になります。
  • Pが作る磁束\(\Phi\)(\(\Phi = BS\))も2倍になります。
  • この磁束変化\(\Delta\Phi\)がQを貫きます。Qに生じる起電力は \(V_2 = N_2 \left|\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\right|\) で計算されます。\(\Delta\Phi\)が2倍になるので、\(V_2\)は元の2倍になります。

2. 自己誘導起電力(Pに生じる起電力 \(V_1\)):

  • Pの巻数N₁が2倍になると、P自身を貫く磁束の変化\(\Delta\Phi\)も同様に2倍になります。
  • しかし、自己誘導起電力は、そのコイル自身の全巻数を掛けることで計算されます(\(V_1 = N_1 \left|\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\right|\))。
  • この巻数N₁自体も2倍になっています。
  • したがって、起電力V₁は、「巻数\(N_1\)が2倍」×「磁束変化\(\Delta\Phi\)が2倍」の効果が掛け合わさり、\(2 \times 2 = 4\)倍になります。

使用した物理公式

  • 自己・相互インダクタンスの性質
  • ファラデーの電磁誘導の法則
結論と吟味

相互誘導起電力は2倍、自己誘導起電力は4倍になります。これは、(2),(3)で導いた公式 \(M \propto N_1\) および \(L \propto N_1^2\) の結果と一致しており、定性的な考察の正しさが確認できます。

Qの解答 相互誘導起電力: 2倍、自己誘導起電力: 4倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則とレンツの法則: 全ての問題の根底にあるのがこの法則です。コイルを貫く磁束\(\Phi\)が時間変化するとき、その変化率に比例した起電力Vが生じ(\(V = -N d\Phi/dt\))、その向きは変化を妨げる向きになる、という原理を理解することが核心です。
  • 自己誘導と相互誘導: 磁束変化の原因が「自分自身を流れる電流の変化」である場合を「自己誘導」、「隣のコイルを流れる電流の変化」である場合を「相互誘導」と呼びます。インダクタンスL, Mは、その「起きやすさ」を表す、コイルの形状で決まる比例定数です。
  • キルヒホッフの法則とコイル: コイルは、電流が変化している間だけ「電池(起電力)」として振る舞います。このコイルという「動的な電池」を回路素子の一つとして組み込み、キルヒホッフの法則を適用する能力が問われます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • RL回路の過渡現象: コイルと抵抗を含む回路で、スイッチを入れたり切ったりした直後の電流の時間変化を問う問題(過渡現象)に応用できます。問(4)は、その逆で、電流変化から電圧を求める問題でした。
    • 変圧器(トランス)の原理: 2つのコイルを組み合わせた相互誘導は、交流電圧を変換する変圧器の基本原理です。巻数比と電圧比の関係(\(V_1:V_2 = N_1:N_2\))も、この問題の考え方から導かれます。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 「電流が時間変化する」という記述: これが電磁誘導(自己・相互)が起こるサインです。グラフで示されることもあります。
    2. `I-t`グラフの「傾き」: 電流の時間変化グラフが与えられた場合、その「傾き」が \(dI/dt\) に相当し、誘導起電力の大きさに直結することを連想します。
    3. コイルの巻数や形状: インダクタンスL, Mは、巻数N、長さl、断面積Sといった幾何学的な要素だけで決まる量であることを意識します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 起電力の向き(符号)のミス:
    • 現象: レンツの法則の適用を誤り、誘導起電力の向きを逆にしてしまう。キルヒホッフの法則を立てる際の符号ミスにつながります。
    • 対策: 「変化を妨げる」というキーワードを徹底する。電流が増加するなら、それを減らす向き(元の電流と逆向き)の起電力。電流が減少するなら、それを維持する向き(元の電流と同じ向き)の起電力、と機械的に判断する。
  • 自己誘導と相互誘導の巻数依存性:
    • 現象: コラムQで、自己誘導起電力も相互誘導起電力も、巻数N₁に比例して2倍になると考えてしまう。
    • 対策: \(V_{ind} \propto N_{coil} \times (\Delta \Phi)\) の関係を思い出す。相互誘導では、\(\Delta \Phi \propto N_1\), \(N_{coil}=N_2\) なので \(V_2 \propto N_1\)。自己誘導では、\(\Delta \Phi \propto N_1\), \(N_{coil}=N_1\) なので \(V_1 \propto N_1^2\) となる。巻数が「磁束を作る側」と「起電力を生む側」の二重に効いてくるのが自己誘導の特徴です。
  • グラフの読み取りミス:
    • 現象: 問(4)で、グラフの傾きを計算する際に、縦軸と横軸の値を読み間違えたり、符号を間違えたりする。
    • 対策: 「傾き = (yの変化量) / (xの変化量)」という基本に忠実に、始点と終点の座標を正確に読み取って計算する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • コイルを「あまのじゃくな電池」として描く: 電流が変化している間、コイルは一時的に電池になります。その極性は、常に電流の変化に逆らう「あまのじゃく」です。回路図の中に、この仮想的な電池を、向きに注意して描き込むと、キルヒホッフの法則が立てやすくなります。
    • グラフの連携を可視化する: 問(4)では、与えられた `I-t` グラフの下に、`V-t` グラフと `E-t` グラフを時間軸を揃えて描くことで、各量の関係性が一目瞭然になります。「Iが直線的に増える区間では、傾きが一定なのでVも一定」「Iが一定の区間では、傾きがゼロなのでVもゼロ」といった対応関係を視覚的に捉えることができます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = nI\) と \(B = \mu_0 H\):
    • 選定理由: ソレノイドコイルによって作られる磁場を計算するための基本公式。全ての誘導現象の出発点となる磁束を計算するために必要。
    • 適用根拠: アンペールの法則を理想的なソレノイドに適用した結果。
  • \(V = N|d\Phi/dt|\) (ファラデーの法則):
    • 選定理由: 磁束の時間変化という最も根本的な原因から、誘導起電力を求めるために用いる。自己誘導も相互誘導も、この法則から導出される。
    • 適用根拠: 電磁誘導に関する最も普遍的な法則。
  • \(V = L|dI/dt|\) と \(V = M|dI/dt|\):
    • 選定理由: コイルの形状で決まる定数(インダクタンス)と、原因となる電流の変化率から、結果である起電力を直接計算するための便利な公式。
    • 適用根拠: 上記のファラデーの法則を、磁束が電流に比例する(\(\Phi \propto I\))というコイルの性質を使って書き直したもの。
  • キルヒホッフの第二法則:
    • 選定理由: 問(4)(イ)のように、回路に複数の電圧源(電源Eと自己誘導起電力V)と抵抗が存在する場合に、各部の電圧の関係を正確に記述するために用いる。
    • 適用根拠: 回路におけるエネルギー保存則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 磁束の計算: まず、原因となる電流Iから、磁場B(\(\propto I\))、そして磁束\(\Phi(\propto I)\)の関係式を導出する。
  2. 起電力の計算: ファラデーの法則 \(V=N|d\Phi/dt|\) を使い、磁束の時間変化率から起電力の大きさを求める。このとき、自己誘導か相互誘導かで巻数Nの選び方が変わる。
  3. インダクタンスの定義: 求めた起電力の式を、\(V=L|dI/dt|\) や \(V=M|dI/dt|\) の形と比較して、インダクタンスL, Mを求める。
  4. 応用問題への適用:
    • 与えられた \(I-t\) グラフの「傾き」(\(dI/dt\))を読み取る。
    • \(V_L = -L(dI/dt)\) を使って、コイルの電圧を計算する。
    • キルヒホッフの法則(例: \(E = RI – V_L\))を適用して、未知の電源電圧などを求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 比例関係の利用: コラムQのように、何が何に比例するか(例: \(L \propto N_1^2\))を理解しておくと、複雑な代入計算なしに、「〇倍になる」といった問いに素早く答えることができます。
  • グラフの傾きの符号: 右上がりの傾きは正、右下がりは負です。\(dI/dt\)の符号を正確に計算することが、起電力の符号(向き)を正しく求める上で不可欠です。
  • 単位の換算: 問(4)で \(L=10 \text{mH}\) と与えられています。計算に使う際は、基本単位であるヘンリー[H]に直し(\(10 \times 10^{-3} \text{H}\))、SI単位系で統一するのを忘れないようにします。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 定性的考察との一致確認:
    • コラムQで、なぜ自己誘導は\(N_1^2\)に比例するのか?「巻数が増えると、作る磁束も増え(N₁倍)、その磁束を受ける巻数も増える(N₁倍)ので、N₁×N₁で効いてくる」という物理的なイメージと、導出した公式が一致することを確認する。
  • グラフの連続性の確認:
    • 問(4)(イ)で求めた電源電圧Eのグラフが、\(t=0.2\) や \(t=0.4\) といった区間の変わり目で値が不連続にジャンプしている。これはなぜか?「dI/dtが不連続に変化するため、コイルの電圧Vが不連続に変化し、それを補うために電源電圧Eも不連続に変化する必要がある」と物理的な意味を考えることで、計算結果への確信が深まります。

問題45 (京都大+東北大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、傾いたレール上を滑る導体棒によって生じる電磁誘導を、接続される素子(コンデンサーまたはコイル)の違いによって比較考察する、非常に高度で総合的な問題です。

  • パートI では、コンデンサーを接続した場合の運動を扱います。ここでは、電流・加速度が一定になるという、少し意外な結論に至ります。
  • パートII では、コイルを接続した場合の運動を扱います。こちらは、力学で馴染み深い「単振動」に帰着します。

力学(運動方程式)と電磁気学(誘導起電力、ローレンツ力)、そして回路(コンデンサー、コイル)の知識を総動員して、現象を一つずつ解き明かしていく必要があります。

与えられた条件
  • 力学系: 傾角θのなめらかな斜面に間隔dのレール、質量Mの導体棒P。
  • 電磁気系: レール面に垂直に磁束密度Bの一様磁場。
  • 回路系: スイッチSにより、抵抗ゼロの回路に容量Cのコンデンサーまたは自己インダクタンスLのコイルを接続。
  • 座標: レールに沿って下向きをxの正とする。
問われていること

問題文の空欄ア~サを埋める。

  • I (コンデンサー接続時):
    • ア: 電気量Q(v)
    • イ: 運動方程式
    • ウ: 電流I(a)
    • エ: 定常電流I
    • オ: 速度v(x)
  • II (コイル接続時):
    • カ: ΔIとΔxの関係
    • キ: 電流I(x)
    • ク: 運動方程式(xで表現)
    • ケ, コ: 単振動の振幅Aと周期T
    • サ: 速度v(x)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題の最大のテーマは、力学と電磁気学の連成です。導体棒の「運動」が電磁誘導によって「電流」を生み、その「電流」が電磁力によって「運動」にフィードバックを与える、という相互作用のループを数式で表現していきます。

問題を解く鍵は、各状況に応じて以下の法則を的確に結びつけることです。

  1. 運動方程式(力学): \(Ma = F_{合力}\)。合力には、重力の斜面成分と電磁力が含まれます。
  2. 誘導起電力(電磁気): \(V = vBd\)。導体棒Pが動くことで生じる起電力です。
  3. 回路素子の性質(電気回路):
    • コンデンサー: \(Q=CV\), \(I = \frac{dQ}{dt}\)
    • コイル(自己誘導): \(V = L\frac{dI}{dt}\)

これらの関係式を連立させ、未知数を一つずつ消去していくことで、一見複雑な現象も解き明かすことができます。

空欄 ア

思考の道筋とポイント
コンデンサーに蓄えられる電気量Qは、公式 \(Q=CV\) で求められます。コンデンサーにかかる電圧Vは、導体棒Pで生じる誘導起電力Vと等しくなります(回路に抵抗がないため)。したがって、まず誘導起電力を求め、それを公式に代入します。
具体的な解説と立式
1. 誘導起電力V: 導体棒Pが速さvで磁場を横切るため、大きさ \(V=vBd\) の誘導起電力が生じます。
2. コンデンサーの電圧: 回路に抵抗がないため、コンデンサーの両端の電圧は、この誘導起電力Vに等しくなります。
3. 電気量Q: \(Q=CV\) の公式に代入します。
$$Q = C(vBd) = CvBd$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V=vBl\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
解答 ア \(CvBd\)

空欄 イ

思考の道筋とポイント
導体棒Pに働く力をすべて図示し、斜面に沿った方向でニュートンの運動方程式 \(Ma=F_{合力}\) を立てます。働く力は、重力の斜面成分と、誘導電流が磁場から受ける電磁力です。
具体的な解説と立式
1. 働く力:

  • 重力の斜面成分: 斜面下向きに \(Mg\sin\theta\)。
  • 電磁力: Pに電流Iが流れると、フレミングの左手の法則より、運動を妨げる向き(斜面上向き)に電磁力 \(F_B = IBd\) が働きます。

2. 運動方程式:
斜面下向きを正とすると、合力は \(Mg\sin\theta – IBd\) となります。したがって、運動方程式は、
$$Ma = Mg\sin\theta – IBd$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(Ma=F\)
  • 電磁力: \(F=IBl\)
解答 イ \(Mg\sin\theta – IBd\)

空欄 ウ

思考の道筋とポイント
電流Iの定義 \(I=\frac{dQ}{dt}\) に立ち返ります。アで求めたQとvの関係式 \(Q=CBdv\) の両辺を時間で微分すること、そして速度vの時間微分が加速度aの定義 \(\frac{dv}{dt}=a\) であることを使うことで、Iとaを結びつけます。

具体的な解説と立式
1. 電気量Qと電流Iの関係:
電流の定義より、\(I = \frac{dQ}{dt}\) です。
2. Qの微分:
アで求めた \(Q=CBdv\) の両辺を時間tで微分します。C, B, dは定数なので、
$$\frac{dQ}{dt} = \frac{d}{dt}(CBdv) = CBd \frac{dv}{dt}$$
3. 加速度aとの関係:
ここで、\(\frac{dv}{dt}\) は加速度aの定義そのものです。したがって、
$$I = CBd \cdot a$$

使用した物理公式

  • 電流の定義: \(I=\frac{dQ}{dt}\)
  • 加速度の定義: \(a=\frac{dv}{dt}\)
解答 ウ \(CBda\)

空欄 エ

思考の道筋とポイント
イとウで、加速度aに関する2つの異なる表現が得られました。これらは同じ加速度aを表しているので、等しいと置いて連立方程式を解けば、電流Iが求められます。

具体的な解説と立式

  • イより: \(a = \frac{Mg\sin\theta – IBd}{M}\)
  • ウより: \(a = \frac{I}{CBd}\)

これらを等しいと置きます。
$$\frac{I}{CBd} = \frac{Mg\sin\theta – IBd}{M}$$

使用した物理公式

  • 運動方程式(イの結果)
  • 電流と加速度の関係式(ウの結果)
計算過程

この方程式をIについて解きます。
$$MI = CBd(Mg\sin\theta – IBd)$$
$$MI = CBdMg\sin\theta – CB^2d^2I$$
Iを含む項を左辺に集めます。
$$MI + CB^2d^2I = CBdMg\sin\theta$$
$$I(M+CB^2d^2) = CBdMg\sin\theta$$
$$I = \frac{CBdMg\sin\theta}{M+CB^2d^2}$$

結論と吟味

電流Iは \(\displaystyle\frac{CBdMg\sin\theta}{M+CB^2d^2}\) となります。この式には時間や速度などの変数が含まれていないため、驚くべきことに、この場合の電流Iは一定値をとることがわかります。

解答 エ \(\displaystyle\frac{CBdMg\sin\theta}{M+CB^2d^2}\)

空欄 オ

思考の道筋とポイント
エで電流Iが一定値であることがわかりました。ウの関係式 \(I = CBda\) から、加速度aも一定であることがわかります。したがって、導体棒Pは等加速度直線運動をします。初速度0で距離xだけ滑り落ちたときの速度を求めるには、高校物理でおなじみの等加速度運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使います。

具体的な解説と立式
1. 加速度aの計算:
ウとエの結果から、
$$a = \frac{I}{CBd} = \frac{1}{CBd} \cdot \frac{CBdMg\sin\theta}{M+CB^2d^2} = \frac{Mg\sin\theta}{M+CB^2d^2}$$
2. 等加速度運動の公式:
初速度\(v_0=0\)なので、
$$v^2 = 2ax$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

\(v^2 = 2ax\) の式に、上で求めた一定の加速度aを代入します。
$$v^2 = 2 \left( \frac{Mg\sin\theta}{M+CB^2d^2} \right) x = \frac{2Mgx\sin\theta}{M+CB^2d^2}$$
vを求めるために平方根をとります。
$$v = \sqrt{\frac{2Mgx\sin\theta}{M+CB^2d^2}}$$

解答 オ \(\displaystyle\sqrt{\frac{2Mgx\sin\theta}{M+CB^2d^2}}\)

空欄 カ

思考の道筋とポイント
スイッチをコイルLに接続した場合、回路には2種類の起電力が存在します。Pが動くことによる「誘導起電力 \(V_P = vBd\)」と、コイルの電流が変化することによる「自己誘導起電力 \(V_L = L\frac{dI}{dt}\)」です。回路に抵抗がないため、この2つの起電力は常につり合っているはずです(キルヒホッフの第二法則)。

具体的な解説と立式
キルヒホッフの第二法則より、回路の任意のループでの起電力の和はゼロです。Pの起電力とLの起電力が互いに逆向きに生じるため、
$$V_P – V_L = 0 \quad \rightarrow \quad V_P = V_L$$
それぞれの公式を代入します。
$$vBd = L\frac{\Delta I}{\Delta t}$$
ここで、微小時間\(\Delta t\)の間に\(\Delta x\)だけ移動したとすると、\(v = \frac{\Delta x}{\Delta t}\) の関係が使えます。
$$\left(\frac{\Delta x}{\Delta t}\right)Bd = L\frac{\Delta I}{\Delta t}$$
両辺の \(\Delta t\) を消去すると、\(\Delta I\)と\(\Delta x\)の間の微小な関係式が得られます。
$$Bd \Delta x = L \Delta I$$
\(\Delta I\)について整理すると、
$$\Delta I = \frac{Bd}{L} \Delta x$$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第二法則
  • 誘導起電力: \(V=vBd\)
  • 自己誘導起電力: \(V=L\frac{dI}{dt}\)
解答 カ \(\displaystyle\frac{Bd}{L}\)

空欄 キ, ク, ケ, コ, サ は一括で解説します

思考の道筋とポイント
カで求めた関係式から、電流Iが位置xの関数として求まります。これを運動方程式に代入すると、単振動の式が現れます。そこから振幅、周期、そして任意の位置での速さを、力学で学んだ単振動の知識を使って一気に求めていきます。

具体的な解説と立式
1. キ (電流I(x)): カの関係式 \(\Delta I = \frac{Bd}{L} \Delta x\) は、Iがxに比例することを示しています。t=0でx=0, I=0からスタートするので、
$$I = \frac{Bd}{L}x \quad \cdots (\text{キ})$$
2. ク (運動方程式(xで表現)): イの運動方程式 \(Ma = Mg\sin\theta – IBd\) に、キで求めたIを代入します。
$$Ma = Mg\sin\theta – \left(\frac{Bd}{L}x\right)Bd = Mg\sin\theta – \frac{B^2d^2}{L}x \quad \cdots (\text{ク})$$
3. 単振動の解析: クの式を変形して、単振動の基本形式 \(Ma = -K(x – x_c)\) と比較します。
$$Ma = -\frac{B^2d^2}{L} \left( x – \frac{LMg\sin\theta}{B^2d^2} \right)$$
これより、ばね定数に相当するKと振動中心\(x_c\)がわかります。
$$K = \frac{B^2d^2}{L}, \quad x_c = \frac{LMg\sin\theta}{B^2d^2}$$
4. ケ (振幅A): x=0で初速度0で放したので、x=0が運動の端です。振幅Aは、端から振動中心までの距離なので、
$$A = x_c = \frac{LMg\sin\theta}{B^2d^2} \quad \cdots (\text{ケ})$$
5. コ (周期T): 単振動の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{M}{K}}\) を使います。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{M}{B^2d^2/L}} = \frac{2\pi}{Bd}\sqrt{ML} \quad \cdots (\text{コ})$$
6. サ (速度v(x)): 単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}KA^2 = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}K(x-A)^2\) をvについて解きます。
$$Mv^2 = K(A^2 – (x-A)^2) = K(A – (x-A))(A + (x-A)) = K(2A-x)x$$
$$v^2 = \frac{K}{M}x(2A-x)$$
\(K/M = (B^2d^2)/(ML)\) と \(2A = \frac{2LMg\sin\theta}{B^2d^2}\) を使うと、
$$v = \sqrt{x\left(2g\sin\theta – \frac{B^2d^2}{ML}x\right)} \quad \cdots (\text{サ})$$

使用した物理公式

  • 運動方程式、単振動の定義、単振動の周期、単振動のエネルギー保存則
解答 キ~サ
キ: \(\displaystyle\frac{Bd}{L}x\)
ク: \(Mg\sin\theta – \displaystyle\frac{B^2d^2}{L}x\)
ケ: \(\displaystyle\frac{LMg\sin\theta}{B^2d^2}\)
コ: \(\displaystyle\frac{2\pi}{Bd}\sqrt{ML}\)
サ: \(\displaystyle\sqrt{x\left(2g\sin\theta – \frac{B^2d^2}{ML}x\right)}\)

【コラム】Q₁: IIについて、xと電流Iをそれぞれ時間の関数として表せ。Q₂: エネルギー保存則による別解。

思考の道筋とポイント
Q₁: パートIIの運動が、振幅A、振動中心Aの単振動であることが分かっています。t=0でx=0から初速度0で運動を始めるという初期条件から、単振動の一般式を用いて位置x(t)を表し、さらにIとxの関係式を用いてI(t)を導出します。
Q₂: 運動方程式を立てる代わりに、最初からエネルギー保存則だけでPの速さを求めることができます。「失われた力学的エネルギー」が「蓄えられた電気的エネルギー」と「物体の運動エネルギー」に変換された、という式を立てます。

具体的な解説と立式
Q₁の解説:
振動の中心がAで、t=0に端(x=0)にいる単振動なので、運動はcos型を反転させてAだけ平行移動させた形 \(x(t) = A(1-\cos(\omega_{SHM} t))\) になります。
角振動数\(\omega_{SHM} = 2\pi/T = \frac{Bd}{\sqrt{ML}}\) なので、
$$x(t) = \frac{LMg\sin\theta}{B^2d^2} \left( 1-\cos\left(\frac{Bd}{\sqrt{ML}}t\right) \right)$$
電流Iは \(I = \frac{Bd}{L}x\) なので、
$$I(t) = \frac{Mg\sin\theta}{Bd} \left( 1-\cos\left(\frac{Bd}{\sqrt{ML}}t\right) \right)$$
Q₂の解説 (エネルギー保存則):

  • パートI (コンデンサー):
    失われた位置エネルギー \(Mgx\sin\theta\) は、Pの運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv^2\) と、コンデンサーの静電エネルギー \(\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}C(vBd)^2\) になります。
    $$Mgx\sin\theta = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}C(vBd)^2$$
    これをvについて解くと、オの結果と一致します。
  • パートII (コイル):
    失われた位置エネルギー \(Mgx\sin\theta\) は、Pの運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv^2\) と、コイルの磁気エネルギー \(\frac{1}{2}LI^2 = \frac{1}{2}L\left(\frac{Bd}{L}x\right)^2\) になります。
    $$Mgx\sin\theta = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}L\left(\frac{Bd}{L}x\right)^2$$
    これをvについて解くと、サの結果と一致します。

使用した物理公式

  • 単振動の変位の式、エネルギー保存則、静電エネルギー、コイルのエネルギー

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学と電磁気学の連成: この問題の核心は、力学の法則(運動方程式)と、電磁気学の法則(誘導起電力、回路素子の性質)が、互いに影響を及ぼし合う連成系を数式で表現することです。\(Ma = F_{grav} – F_{emag}\) と、\(F_{emag}\) を決める回路方程式を連立させるのが基本構造です。
  • 接続素子による運動の変化: コンデンサーを接続すると「等加速度運動」に、コイルを接続すると「単振動」になる、という劇的な違いを理解することが重要です。これは、コンデンサーでは電流が加速度に比例(\(I \propto a\))するのに対し、コイルでは電流が位置に比例(\(I \propto x\))することに起因します。
  • エネルギー保存則: Q₂で示したように、力学的エネルギー(位置、運動)と電気的エネルギー(コンデンサー、コイル)の間のエネルギーのやり取りとして、系全体の振る舞いを捉える視点もまた、この問題の核心の一つです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • LC回路との類推: パートIIの単振動は、コンデンサーとコイルをつないだ電気回路で電荷が振動する「LC振動」と数学的に全く同じ構造をしています。力学的な慣性(質量M)が電気的な慣性(自己インダクタンスL)に、電磁的な復元力(\(K=B^2d^2/L\))がコンデンサーの復元力に対応します。
    • フィードバック制御系: 運動が電流を生み、電流が運動に影響を与えるという構造は、現代の様々な制御システム(フィードバック制御)の最も単純なモデルと見なすことができます。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 運動方程式と回路方程式をまず立てる: どんなに複雑に見えても、基本は「力学の式」と「電気の式」の2本柱です。まず、それぞれの法則に従って愚直に式を立てることから始めます。
    2. 微分・積分の関係性を見抜く: \(I=dQ/dt\), \(v=dx/dt\), \(a=dv/dt\) といった、物理量間の微分・積分の関係性を利用して、2つの世界の式を一つにまとめるのが定石です。
    3. 運動方程式の「型」に注目する: 最終的に得られた運動方程式が、\(a=\text{定数}\) の形か、\(a=-K(x-x_c)\) の形か、あるいはもっと複雑な形かを見極めることで、その後の運動(等加速度、単振動など)を予測できます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 物理量同士の関係性の混乱:
    • 現象: I, Q, v, a の間に多くの関係式が出てくるため、どれを使って何を消去すればよいか混乱してしまう。
    • 対策: まず「運動方程式をaについて解く」「回路の法則をaまたはIで表現する」というように、各ステップの目標を明確にする。最終的に求めたい物理量から逆算して、不要な変数を消去していく。
  • 単振動の中心と振幅の誤解:
    • 現象: パートIIで、力のつり合い点(振動中心)と振幅を混同したり、初期位置(原点)を振動中心だと勘違いしたりする。
    • 対策: 単振動では、必ず「力のつり合い点=振動中心」であることを思い出す。振幅は「振動中心から端(折り返し点)までの距離」です。初期位置が端なのか、中心なのか、あるいはその中間なのかを問題条件から正確に読み取る。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • コンデンサーを「バネ」ではなく「水槽」でイメージする: コンデンサーはエネルギーを溜めますが、この問題では復元力にはならず、一定の電流(水の流入量)を保つことで一定の加速度(水位の上昇速度)を生む「巨大な水槽」のような役割をしています。
    • コイルを「慣性」と「バネ」でイメージする: コイルは電流の変化を嫌う「電気的な慣性」を持つと同時に、この回路では電流が位置xに比例するため、結果として \(F \propto x\) の「磁気的なバネ」として働き、単振動を生み出します。
    • エネルギーの器の移り変わりをイメージする: パートIIでは、(位置エネルギー) → (運動エネルギー+コイルの磁気エネルギー) → (位置エネルギー) … というように、エネルギーが3つの器の間を行ったり来たりする様子を想像すると、単振動の本質が理解できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 \(Ma=F\):
    • 選定理由: 物体の運動(加速度)とその原因(力)の関係を記述する、力学の最も基本的な法則だから。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則。
  • \(Q=CV\) と \(V=L\frac{dI}{dt}\):
    • 選定理由: 回路に接続された素子がコンデンサーかコイルかで、電圧と電流(または電荷)の関係式を使い分けるため。
    • 適用根拠: それぞれの素子の電気的特性を定義する基本式。
  • 単振動の各種公式 (\(a = -\omega^2(x-x_c)\), \(T=2\pi/\omega\), エネルギー保存則):
    • 選定理由: 運動方程式が \(a \propto -x\) の形になった時点で、その運動は単振動であると断定でき、単振動に関する一連の公式を適用できるから。
    • 適用根拠: 復元力に比例する力(フックの法則)を受ける物体の運動モデル。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 基本の式を2本立てる:
    • 【力学の式】運動方程式を立てる: \(Ma = Mg\sin\theta – IBd\)。
    • 【電気の式】接続素子の性質から、電流Iまたは起電力Vに関する式を立てる。
      • (コンデンサーの場合) \(I = \frac{dQ}{dt}\) と \(Q=C(vBd)\) から、Iをaで表す。
      • (コイルの場合) \(V_{rod}=V_{coil}\) から、\(vBd = L\frac{dI}{dt}\) を立てる。
  2. 連立して解く:
    • (コンデンサーの場合) 2つの式からaを消去して、定常電流Iを求める。そのIから定常加速度aを求め、等加速度運動の公式でvを求める。
    • (コイルの場合) 電気の式を積分してI(x)を求め、それを力学の式に代入してa(x)を求める。その式が単振動の形であることを確認し、振幅や周期を特定する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 微分・積分の関係を正確に: \(I=dQ/dt\), \(v=dx/dt\), \(a=dv/dt\) という関係をスムーズに使いこなすことが重要です。特にウの \(I=CBda\) の導出は、この問題の鍵となるステップです。
  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように多くの物理定数が含まれる場合、途中で数値を代入せず、最後まで文字式のまま計算を進める方が、関係性が見やすく、間違いも減ります。
  • 単振動の解法パターンの習熟: 運動方程式が単振動の形になったら、中心・振幅・周期・エネルギー保存則といった、解法の一連の流れをスムーズに実行できるようにしておくことが重要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 2つのケースの比較: なぜコンデンサーだと等加速度運動になり、コイルだと単振動になるのか?「コンデンサーは電流を加速度に結びつけ、コイルは電流を位置に結びつけた。その結果、運動方程式の形が根本的に変わったからだ」という物理的な理由を考察することで、理解が格段に深まります。
  • エネルギー保存則による検算: Q₂で示したように、運動方程式を解いて得られた速度v(x)と、エネルギー保存則から直接導いたv(x)が一致することを確認するのは、最も強力な検算方法の一つです。
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