問題16
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、平行平板コンデンサーに対する様々な操作(スイッチの開閉、金属板の挿入、極板の移動、誘電体の挿入)が、コンデンサー内部の電場、電位、蓄えられる電荷量、そして電気容量にどのような影響を与えるかを考察する総合問題です。特に、電場と電位の分布をグラフで表現する能力も問われています。
- 初期状態: 極板A, Bからなる平行平板コンデンサー。極板間隔 \(4d\)。スイッチS、起電力 \(V_0\) の電池。
- 操作シーケンス:
- Sを閉じて充電した後、Sを開く。
- 金属板M(厚さ \(d\)、帯電なし)をBから \(d\) の位置に挿入する。
- Sを閉じる。
- Sを開き、Aを \(d\) 下げ、AB間を \(3d\) にする。
- Mを取り除き、誘電体D(同形、比誘電率2)を同じ位置に置く。
- Mがないときの初期の電気容量を \(C\) とする。
- 空気の比誘電率は1(真空扱いと見なす)。
- 平行平板コンデンサーの極板間の電場は一様と考える。
- (1) 初期充電後(S開)の電場 \(E(x)\) と電位 \(V(x)\) のグラフ。
- (2) 金属板M挿入後(S開)の \(E(x)\) と \(V(x)\) のグラフ。
- (3) さらにSを閉じた後の \(E(x)\) と \(V(x)\) のグラフ、およびSを移動した正の電気量とその向き。
- (4) Sを開きAを下げた後のAB間の電位差。その後Mを誘電体Dに置き換えた後の \(E(x)\) と \(V(x)\) のグラフ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、平行平板コンデンサーの基本的な性質を深く理解しているかを試すものです。スイッチの操作、導体や誘電体の挿入といった各ステップで、コンデンサーの内部状態(電場、電位、電荷、容量)がどのように変化するかを、物理法則に基づいて丁寧に追跡していくことが求められます。特に、電場と電位の関係をグラフで視覚的に表現する能力は重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 一様な電場と電位差: 平行平板コンデンサーの極板間では、電場は(理想的には)一様です。この電場の強さを \(E\)、極板間の電位差を \(V\)、極板間の距離を \(D\) とすると、\(V=ED\) という関係が成り立ちます。
- 電位の考え方: 電位は、基準点(この問題では極板Bを \(0 \, \text{V}\) とします)からの電気的な「高さ」を表します。電場の向きに沿って進むと電位は下がり、電場の向きと逆向きに進むと電位は上がります。電位 \(V(x)\) のグラフにおいて、その傾きは電場の強さのマイナス値(より正確には \(E_x = -dV/dx\))に対応します。
- コンデンサーの基本式: コンデンサーが蓄える電気量 \(Q\)、コンデンサーの電気容量 \(C\)、そして極板間の電位差 \(V\) の間には、\(Q=CV\) という基本的な関係があります。
- 平行平板コンデンサーの電気容量: 極板の面積を \(S\)、極板間の距離を \(d\)、極板間を満たす物質の誘電率を \(\varepsilon\) とすると、電気容量 \(C\) は \(C = \displaystyle\frac{\varepsilon S}{d}\) で与えられます。 真空の誘電率を \(\varepsilon_0\)、物質の比誘電率を \(\varepsilon_r\) とすると、\(\varepsilon = \varepsilon_r \varepsilon_0\) となります。空気の比誘電率は1とされているので、空気の場合は \(\varepsilon = \varepsilon_0\) として扱います。
- 導体の性質(静電平衡時): 導体の内部では電場は常に0(ゼロ)です。また、導体全体はどの部分も同じ電位(等電位)になります。
- 静電誘導: 導体を電場の中に置くと、導体内部の自由電子が電場から力を受けて移動し、その結果、導体の表面に電荷の偏りが生じる現象です。
- 誘電分極: 誘電体を電場の中に置くと、誘電体を構成する分子が電気的に偏る(分極する)現象です。これにより、誘電体内部の電場は、外部からかけられた電場よりも弱められる効果が生じます。
- 電気量保存則: 電気的に孤立した導体系(例えば、スイッチが開いている状態のコンデンサーの極板や、それに接続された回路部分)では、その部分系が持つ総電荷量は変化しません(保存されます)。
この問題は複数のステップから構成されており、それぞれの操作がコンデンサーの状態をどのように変化させるかを正確に把握することが重要です。以下の点を特に意識しながら、各段階でのコンデンサーの状態(蓄えられている電荷、極板間の電位差、内部の電場、電気容量)を丁寧に考察していきましょう。
- スイッチSが開いているか閉じているか:
- Sが開いている間:コンデンサーの極板A(およびそれに接続された導線部分)は電気的に孤立しているため、そこに蓄えられた電荷 \(Q\) は保存されます。
- Sが閉じている間:コンデンサーは電池に接続されているため、極板AとBの間の電位差が電池の起電力 \(V_0\) に等しくなるように、電荷が電池との間で移動します。
- 金属板の挿入:
- 帯電していない金属板を電場の中に挿入すると、静電誘導によって金属板の表面に電荷が現れ、その結果、金属板内部の電場は0(ゼロ)になります。
- 金属板の厚さの分だけ、実質的に電場が存在する空間が減少したと見なすことができ、これが電気容量の変化に繋がります。
- 誘電体の挿入:
- 誘電体を電場の中に挿入すると、誘電分極が起こります。これにより、同じ極板間電位差であればより多くの電荷を蓄えることができるようになり、電気容量が増加します。あるいは、同じ電荷量であれば極板間の電場が弱まり、電位差が減少する効果があります。
- 電場と電位のグラフの描き方:
- 電場 \(E(x)\) のグラフ:各領域(空気層、金属板内部、誘電体内部など)における電場の強さを計算し、その値を横軸 \(x\) に対してプロットします。平行平板コンデンサー内の電場は基本的に一様ですが、金属板や誘電体の挿入によって領域ごとに強さが変化します。特に、導体内部の電場は0になることを忘れないようにしましょう。
- 電位 \(V(x)\) のグラフ:電位の基準点(この問題では極板Bの電位を \(0 \, \text{V}\) とします)から出発し、各領域の電場 \(E\) を用いて \(V(x) = V_{\text{基準}} – \int_0^x E_x dx’\) (あるいは一様な電場の場合は \(V=Ed\) の関係)から電位を計算し、プロットします。電場のグラフで \(x\) 軸とグラフ線で囲まれる部分の面積が電位差に対応すること、また電位のグラフの各点における傾きが電場の強さのマイナス値(\(E_x = -dV/dx\))に対応することを意識すると、グラフの形状を理解しやすくなります。導体部分は等電位なので、電位のグラフでは水平な線になります。電位は空間的に連続的に変化します(グラフが途切れることはありません)。
問 (1)
思考の道筋とポイント
まず、スイッチSを閉じてコンデンサーを起電力 \(V_0\) の電池で十分に充電します。その後、スイッチSを開きます。この最終状態における極板間の電場 \(E(x)\) と電位 \(V(x)\) のグラフを描くことが求められています。
- 充電完了時の状態: スイッチSを閉じている間、コンデンサーの極板AとBの間の電位差は、電池の起電力 \(V_0\) に等しくなるまで充電が進みます。
- スイッチSを開いた後の状態: スイッチSを開くと、コンデンサーは電池から電気的に切り離されます。このとき、極板Aに蓄えられていた電荷 \(Q\) は逃げ場を失い、保存されます。この蓄えられた電荷 \(Q\) によって、極板間には電場が形成され、電位差が維持されます。スイッチを開いた直後では、この電位差は充電完了時の \(V_0\) のままです。
- 電場の強さ \(E_1\) の計算: 極板間の初期の間隔は \(4d\) です。 平行平板コンデンサーの極板間の電場は一様であると考えられるため、電場の強さを \(E_1\) とすると、電位差 \(V_0\) と極板間隔 \(4d\) の間には \(V_0 = E_1 \cdot (4d)\) という関係が成り立ちます。この式から \(E_1\) を求めることができます。
- 電位 \(V(x)\) の計算: 極板Bの電位を \(0 \, \text{[V]}\) とし、極板Bからの距離を \(x\) とします。 一様な電場 \(E_1\) の中では、電位は \(V(x) = E_1 x\) という形で、距離 \(x\) に比例して直線的に増加します(電場の向きをBからAへ、つまり \(x\) の増加方向へ電位が上がるように仮定した場合)。
この設問における重要なポイント
- 平行平板コンデンサーの内部電場は、理想的には一様である(端の部分での乱れは無視する)という近似を理解していること。
- 一様な電場 \(E\) と、その方向に測った距離 \(d\)、そしてその間の電位差 \(V\) との間に成り立つ関係式 \(V=Ed\) を正しく適用できること。
- 電位の基準点の取り方と、その基準点から出発して各点の電位をどのように計算していくか(特に一様な電場の場合の直線的な変化)を把握していること。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じ、コンデンサーが十分に充電されたとき、その極板AB間の電位差は電池の起電力に等しくなり、\(V_0\) となります。
その後スイッチSを開いても、コンデンサーに蓄えられた電荷は保存されるため、極板間の電位差は(他の操作が加わるまでは)\(V_0\) のままです。
このときの極板間隔は \(4d\) です。極板間の電場は一様であると考えられるため、その強さを \(E_1\) とすると、電位差 \(V_0\) との間に以下の関係が成り立ちます。
$$V_0 = E_1 \cdot (4d) \quad \cdots ①$$
極板B (\(x=0\)) の電位を基準の \(0 \, \text{[V]}\) とします。極板Bからの距離が \(x\) である点の電位を \(V(x)\) とすると、電場 \(E_1\) が一様であるため、電位は \(x\) に比例して直線的に増加し、次のように表されます。
$$V(x) = E_1 x \quad (\text{ただし、} 0 \le x \le 4d) \quad \cdots ②$$
使用した物理原理/公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
- 電位の計算(一様な電場の場合): \(V(x) = Ex\) (基準点 \(x=0\) で \(V=0\) とした場合)
- 式①から、電場の強さ \(E_1\) を \(V_0\) と \(d\) を用いて表します。
両辺を \(4d\) で割ると、
$$E_1 = \frac{V_0}{4d}$$
この電場の強さは、極板間 (\(0 \le x \le 4d\)) のどの場所でも一定です。 - 次に、式②に上で求めた \(E_1\) の具体的な表現を代入して、電位 \(V(x)\) の式を完成させます。
$$V(x) = \left(\frac{V_0}{4d}\right) x = \frac{V_0}{4d}x$$
この式から、電位 \(V(x)\) のグラフがどのような形状になるかがわかります。- \(x=0\) (極板Bの位置)のとき: \(V(0) = \displaystyle\frac{V_0}{4d} \cdot 0 = 0 \, \text{[V]}\) (これは基準点の取り方と一致します)
- \(x=4d\) (極板Aの位置)のとき: \(V(4d) = \displaystyle\frac{V_0}{4d} \cdot (4d) = V_0 \, \text{[V]}\) (これは極板AB間の電位差が \(V_0\) であることと一致します)
まず、コンデンサーを電池につないで電気をいっぱいにし(充電し)、その後スイッチを切ります。このとき、コンデンサーの両端の電気的な「高さの差」(電位差)は、電池の電圧 \(V_0\) と同じになっています。コンデンサーの2枚の板(極板AとB)の間の距離は \(4d\) です。
この2枚の板の間には、電気的な「坂道」のようなもの(電場 \(E_1\))ができています。この坂道はどこでも同じ傾き(一様な電場)になっています。全体の高さの差 \(V_0\) と、坂道の全長 \(4d\)、そして坂道の傾き \(E_1\) の間には、\(V_0 = E_1 \times 4d\) という関係があります。だから、坂道の傾き \(E_1\) は \(V_0 \div (4d)\) で計算できます。
次に、電気的な「高さ」(電位 \(V(x)\))を考えます。板B(\(x=0\) の場所)の高さを基準の \(0 \, \text{V}\) とすると、そこから距離 \(x\) だけ離れた場所の高さは、傾き \(E_1\) の坂道を \(x\) だけ登ったことになるので、\(V(x) = E_1 \times x = (V_0 / (4d)) \times x\) となります。これは、距離 \(x\) が大きくなるにつれて、高さがまっすぐ(直線的に)高くなっていくことを意味します。そして、板A(\(x=4d\) の場所)では、ちょうど高さ \(V_0\) に到達します。
(問題で提供されている図や模範解答の図aおよび図bの実線部分を参照し、それに基づいてグラフを描いてください。)
- 電場 \(E(x)\) のグラフ:横軸を \(x\)(極板Bからの距離、\(0\) から \(4d\) まで)、縦軸を電場の強さ \(E\) とすると、\(E\) は \(x\) の値によらず一定値 \(E_1 = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\) をとります。したがって、グラフは \(E = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\) の高さで \(x\) 軸に平行な水平な直線となります。
- 電位 \(V(x)\) のグラフ:横軸を \(x\)、縦軸を電位 \(V\) とすると、\(x=0\) で \(V=0\) (極板B)、\(x=4d\) で \(V=V_0\) (極板A)となり、この2点を結ぶ直線(傾き \(\displaystyle\frac{V_0}{4d}\))となります。
これらは、充電された平行平板コンデンサー内部の理想的な電場(一様)と電位(直線的に変化)の分布を正しく示しており、物理的に妥当な結果です。
問 (2)
思考の道筋とポイント
設問(1)の操作の後(スイッチSは開いたままの状態)、極板Bから \(d\) の距離に、厚さが \(d\) の帯電していない金属板Mを挿入します。このときの電場 \(E(x)\) と電位 \(V(x)\) のグラフを、設問(1)と同じグラフ用紙に点線で描くことが求められています。
- 電荷の保存の法則: スイッチSは開いたままなので、極板Aに蓄えられている電荷 \(Q\) は変化しません(保存されます)。この電荷 \(Q\) は、設問(1)の初期状態で \(Q = C_0 V_0\) と書けます(ここで \(C_0\) は金属板Mがない、極板間隔が \(4d\) のときの電気容量です)。
- 空気層における電場の強さ: コンデンサーの極板上の電荷 \(Q\) が保存されているため、極板間の電気力線の総本数も変わりません。金属板Mが挿入されていない空気層の部分では、電場の強さは設問(1)で求めた \(E_1 = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\) のまま変化しません。これは、電場の強さが実質的に極板の面電荷密度(単位面積あたりの電荷)に比例するためです。
- 静電誘導の発生: 帯電していない金属板Mを電場 \(E_1\) の中に置くと、金属板Mの内部で静電誘導が起こります。具体的には、Mの上面(極板Aに近い側)には負の電荷が、Mの下面(極板Bに近い側)には正の電荷が誘導されます。この誘導される電荷の面密度は、外部電場 \(E_1\) を打ち消すのに十分な量となります。
- 金属板内部の電場: 静電誘導の結果、金属板Mの内部では、誘導電荷が作る逆向きの電場と外部電場 \(E_1\) が完全に打ち消し合い、電場は \(0\)(ゼロ)になります。これは導体の基本的な性質です。
- 各領域の電場のまとめ:
- BM間(極板Bと金属板Mの間、\(0 \le x < d\)):電場の強さは \(E_1\)。
- M内部(金属板Mの中、\(d \le x \le 2d\)):電場の強さは \(0\)。
- MA間(金属板Mと極板Aの間、\(2d < x \le 4d\)):電場の強さは \(E_1\)。
- 電位 \(V(x)\) の計算: 各領域の電場の情報をもとに、極板B(\(V(0)=0\))を基準として電位を計算していきます。
- BM間:電位は傾き \(E_1\) で直線的に上昇します。\(x=d\)(Mの下面)での電位は \(V(d) = E_1 d = \left(\displaystyle\frac{V_0}{4d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{4}V_0\)。
- M内部:電場が \(0\) なので、この領域は等電位です。したがって、M内部のどの点でも電位は \(V(d)\) と同じく \(\displaystyle\frac{1}{4}V_0\) となります。
- MA間:Mの上面(\(x=2d\))での電位はM内部と同じく \(\displaystyle\frac{1}{4}V_0\) です。ここから極板Aに向かって、電位は再び傾き \(E_1\) で直線的に上昇します。\(V(x) = V(2d) + E_1(x-2d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + E_1(x-2d)\)。
- 極板A(\(x=4d\))の電位:\(V_A = V(4d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + E_1(4d-2d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + 2E_1d = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + 2 \left(\displaystyle\frac{V_0}{4d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + \displaystyle\frac{1}{2}V_0 = \displaystyle\frac{3}{4}V_0\)。
この設問における重要なポイント
- スイッチが開いている(回路が開放されている)場合には、コンデンサーの極板に蓄えられた電荷量が保存される、という電気量保存則の適用。
- 電荷量が保存されている場合、極板間の空気層部分(または真空部分)における電場の強さは、金属板の挿入前後で変化しない(より正確には、極板の面電荷密度が変わらないため、それが作る電場の強さも変わらない)。
- 金属板(導体)を電場中に置くと静電誘導が起こり、その結果として金属板内部の電場は必ず \(0\) になること。
- 金属板(導体)は全体が等電位になること。
具体的な解説と立式
スイッチSが開いているため、極板Aに蓄えられている電荷 \(Q\) は、設問(1)の初期状態から変化しません。
設問(1)における初期の極板間の電場の強さは \(E_1 = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\) でした。
金属板Mを挿入すると、Mの内部(\(d \le x \le 2d\) の領域)では、静電誘導によって電場が \(0\) になります。
金属板Mが挿入されていない空間(BM間の \(0 \le x < d\) および MA間の \(2d < x \le 4d\) の領域)では、極板Aの電荷 \(Q\) が変化していないため、電気力線の密度も変化せず、電場の強さは設問(1)と同じ \(E_1 = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\) のままです。
次に、電位 \(V(x)\) を計算します(極板Bの電位を \(V(0)=0\) とします)。
- 領域 \(0 \le x \le d\) (BM間):
この領域の電場の強さは \(E_1\) なので、電位は次のように表せます。
$$V(x) = E_1 x = \frac{V_0}{4d} x \quad \cdots ③$$
特に、金属板Mの下面 (\(x=d\)) における電位は、
$$V(d) = E_1 d = \frac{V_0}{4d} d = \frac{1}{4}V_0$$
となります。 - 領域 \(d \le x \le 2d\) (M内部):
金属板Mの内部では電場が \(0\) であるため、この領域は等電位です。したがって、M全体の電位はMの下面の電位に等しくなります。
$$V(x) = V(d) = \frac{1}{4}V_0 \quad \cdots ④$$ - 領域 \(2d \le x \le 4d\) (MA間):
この領域の電場の強さも \(E_1\) です。金属板Mの上面 (\(x=2d\)) の電位は \(V(2d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0\) です。ここを基準として、\(x\) (\( \ge 2d\)) まで進むと、電位は次のように表せます。
$$V(x) = V(2d) + E_1 (x-2d) = \frac{1}{4}V_0 + \frac{V_0}{4d}(x-2d) \quad \cdots ⑤$$
特に、極板A (\(x=4d\)) における電位 \(V_A\) は、
$$V_A = V(4d) = \frac{1}{4}V_0 + \frac{V_0}{4d}(4d-2d) = \frac{1}{4}V_0 + \frac{V_0}{4d}(2d) = \frac{1}{4}V_0 + \frac{2V_0}{4} = \frac{1}{4}V_0 + \frac{1}{2}V_0 = \frac{3}{4}V_0 \quad \cdots ⑥$$
となります。
使用した物理原理/公式
- 電気量保存則(スイッチが開いているため、極板の電荷は孤立し保存される)
- 静電誘導
- 導体内部の電場は0(ゼロ)、導体は等電位
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
- 電位の計算(基準点からの積み上げ)
- 電場 \(E(x)\) の決定:
- 領域 \(0 \le x < d\) (BM間): スイッチが開いており極板Aの電荷が不変なため、この空間の電場の強さは(1)と同じ \(E(x) = E_1 = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\)。
- 領域 \(d \le x \le 2d\) (金属板M内部): 導体内部なので電場は \(E(x) = 0\)。
- 領域 \(2d < x \le 4d\) (MA間): BM間と同様の理由で、電場の強さは \(E(x) = E_1 = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\)。
- 電位 \(V(x)\) の計算: (極板Bの電位を \(V(0)=0\) とする)
- 領域 \(0 \le x \le d\) (BM間): \(V(x) = \int_0^x E_1 dx’ = E_1 x = \displaystyle\frac{V_0}{4d}x\)。
この結果、\(V(d) = E_1 d = \displaystyle\frac{V_0}{4d} \cdot d = \displaystyle\frac{1}{4}V_0\)。 - 領域 \(d \le x \le 2d\) (M内部): M内部は等電位なので、\(V(x) = V(d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0\)。
- 領域 \(2d \le x \le 4d\) (MA間): \(V(x) = V(2d) + \int_{2d}^x E_1 dx’ = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + E_1(x-2d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + \displaystyle\frac{V_0}{4d}(x-2d)\)。
この結果、極板A (\(x=4d\)) での電位は \(V(4d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + E_1(4d-2d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + E_1(2d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + \left(\displaystyle\frac{V_0}{4d}\right)(2d) = \displaystyle\frac{1}{4}V_0 + \displaystyle\frac{2V_0}{4} = \displaystyle\frac{3}{4}V_0\)。
- 領域 \(0 \le x \le d\) (BM間): \(V(x) = \int_0^x E_1 dx’ = E_1 x = \displaystyle\frac{V_0}{4d}x\)。
スイッチSが開いているので、コンデンサーの極板Aに蓄えられた電気の量(電荷)は、金属板Mを入れても変わりません。電気の量が変わらなければ、電気の矢印(電気力線)の全体の数も変わらないので、金属板Mがない空気の部分の電気の強さ(電場 \(E_1\))は、Mを入れる前と同じ \(E_1 = V_0 / (4d)\) のままです。
金属板Mは導体なので、その内部では静電誘導という現象が起きて、電場はゼロになってしまいます。
さて、電気の高さ(電位)はどうなるでしょう。極板B(\(x=0\))の高さを \(0 \, \text{V}\) とすると、
- BからMの下の面まで(\(0 \le x \le d\))は、傾き \(E_1\) の坂道を登るので、Mの下の面の高さは \(E_1 \times d = (V_0/(4d)) \times d = (1/4)V_0\) になります。
- Mの中(\(d \le x \le 2d\))は、電場がゼロなので坂道はなく平らです。だから、高さはずっと \((1/4)V_0\) のままです。
- Mの上の面から極板Aまで(\(2d \le x \le 4d\))は、また傾き \(E_1\) の坂道を登ります。Mの上の面の高さは \((1/4)V_0\) で、そこからさらに \(E_1 \times (4d-2d) = E_1 \times 2d = (V_0/(4d)) \times 2d = (1/2)V_0\) だけ高くなるので、極板Aの高さは \((1/4)V_0 + (1/2)V_0 = (3/4)V_0\) になります。
(問題で提供されている図や模範解答の図aおよび図bの点線部分を参照し、それに基づいてグラフを描いてください。)
- 電場 \(E(x)\) のグラフ:領域BM間(\(0 \le x < d\))とMA間(\(2d < x \le 4d\))では、電場の強さは \(E_1 = \displaystyle\frac{V_0}{4d}\) で一定です。金属板Mの内部(\(d \le x \le 2d\))では、電場の強さは \(E=0\) となります。
- 電位 \(V(x)\) のグラフ:\(x=0\) で \(V=0\)。領域 \(0 \le x \le d\) では傾き \(E_1\) の直線で \(V(d)=\displaystyle\frac{1}{4}V_0\) まで上昇します。領域 \(d \le x \le 2d\) では電位は \(V=\displaystyle\frac{1}{4}V_0\) の水平な直線(等電位)となります。領域 \(2d \le x \le 4d\) では再び傾き \(E_1\) の直線で、\(x=2d\) で \(V=\displaystyle\frac{1}{4}V_0\) から出発し、\(x=4d\) で \(V=\displaystyle\frac{3}{4}V_0\)(極板Aの電位)まで上昇します。グラフ全体は連続的につながります。
金属板を挿入したことにより、同じ電荷 \(Q\) でも極板AB間の電位差が \(V_0\) から \(\displaystyle\frac{3}{4}V_0\) に減少しました。これは、金属板の厚さ \(d\) の分だけ実質的な極板間隔が \(4d\) から \(4d-d=3d\) に短縮され、コンデンサーの電気容量が増加した(\(C = Q/V\) なので \(V\) が減少)と解釈できます。この結果は物理的に妥当です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
設問(2)の状態(金属板Mが挿入されており、スイッチSは開いている)から、ここでスイッチSを閉じます。この操作後の電場 \(E(x)\) と電位 \(V(x)\) のグラフ、およびスイッチSを移動した正の電気量とその向きを求めることが要求されています。金属板Mがないときの初期のコンデンサーの電気容量は \(C \, \text{[F]}\) と与えられています。
- 電位差の確定: スイッチSを閉じると、コンデンサーは再び電池に接続されるため、極板AとBの間の電位差は、電池の起電力である \(V_0\) になります。
- 各領域の電場の計算 (\(E_2\)): 金属板Mの内部(\(d \le x \le 2d\))における電場は、導体の性質から \(0\) です。Mが挿入されていない空間(BM間:\(0 \le x < d\)、MA間:\(2d < x \le 4d\))では、電場の強さは対称性から等しくなると考えられ、これを \(E_2\) とします。
BM間の距離は \(d\)、MA間の空間の距離は \(4d-2d=2d\) です。これらの電場が存在する区間の合計の長さは \(d+2d=3d\) となります。
この合計 \(3d\) の区間で、全体の電位差 \(V_0\) が生じる(M内部では電位差がないため)ので、\(V_0 = E_2 \cdot d (\text{BM間}) + 0 \cdot d (\text{M内部}) + E_2 \cdot (2d) (\text{MA間}) = E_2 \cdot (3d)\) という関係が成り立ちます。この式から、新しい電場の強さ \(E_2\) を求めることができます。 - 電位 \(V(x)\) の計算: 各領域の電場 \(E_2\) (または0)を用いて、極板B(\(V(0)=0\))を基準として電位を計算していきます。
- 移動した電気量の計算:
- まず、金属板Mがないときの初期の電気容量が \(C\) であることから、\(C = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{4d}\) と表せます(ここで \(S\) は極板の面積、\(\varepsilon_0\) は真空の誘電率)。
- 金属板M(厚さ \(d\))を挿入した状態でのコンデンサーの新しい電気容量を \(C’\) とします。金属板を挿入すると、その厚さの分だけ実質的な極板間隔が減少したと見なせます。つまり、電場が存在する空間の合計の長さは \(4d-d = 3d\) となるため、\(C’ = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{3d}\) となります。これと元の容量 \(C\) との関係を求めます。
- 設問(1)でSを開いたときに蓄えられていた電荷 \(Q_1\) は \(Q_1 = CV_0\) です(Mがない状態での容量 \(C\) を使っています)。
- 設問(3)でSを閉じた後にコンデンサーに蓄えられる新しい電荷 \(Q_3\) は、新しい容量 \(C’\) と電位差 \(V_0\) を用いて \(Q_3 = C’V_0\) と計算できます。
- スイッチSを閉じることによって電池から供給された(あるいは電池へ流れ出た)正の電気量は、\(Q_3 – Q_1\) として計算できます。この値の符号から、電荷の移動方向(左向きか右向きか)がわかります。
この設問における重要なポイント
- スイッチを閉じると、コンデンサーの極板間の電位差が電池の電圧 \(V_0\) に固定されること。
- 金属板(導体)の内部では電場が \(0\) になること。
- 金属板を挿入すると、その厚さの分だけ実質的な極板間隔が減少し、その結果として電気容量が増加すること。
- 電池に接続された状態でコンデンサーの電気容量が変化すると、蓄えられる電荷量が変化し、その差分の電荷が電池との間で移動すること。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じると、極板AB間の電位差は再び電池の起電力 \(V_0\) になります。
金属板Mの内部(\(d \le x \le 2d\) の領域)の電場は、導体の性質により \(0\) です。
BM間(\(0 \le x < d\) の領域)および MA間(\(2d < x \le 4d\) の領域)の空間における電場の強さを \(E_2\) とします。これらの空間では、電場は一様で、かつ同じ強さ \(E_2\) になると考えられます。
BM間の距離は \(d\)、MA間の空間部分の距離は \(4d-2d=2d\) です。
全体の電位差 \(V_0\) は、電場が存在する区間における電位降下の合計として表せるので(M内部では電位降下は0)、
$$V_0 = E_2 \cdot d + 0 \cdot d + E_2 \cdot (2d) = E_2 (d+2d) = 3E_2 d \quad \cdots ⑦$$
この式から、電場の強さ \(E_2\) が決まります。
次に、電位 \(V(x)\) を計算します(極板Bの電位を \(V(0)=0\) とします)。
- 領域 \(0 \le x \le d\) (BM間): \(V(x) = E_2 x\)。この結果、\(V(d) = E_2 d\)。
- 領域 \(d \le x \le 2d\) (M内部): M内部は等電位なので、\(V(x) = V(d) = E_2 d\)。
- 領域 \(2d \le x \le 4d\) (MA間): \(V(x) = V(2d) + E_2 (x-2d) = E_2 d + E_2 (x-2d)\)。
この結果、極板A (\(x=4d\)) での電位は \(V(4d) = E_2 d + E_2 (2d) = 3E_2 d\)。式⑦よりこれは \(V_0\) に等しくなります。
最後に、移動した電気量を計算します。
金属板Mがないときの初期のコンデンサーの電気容量を \(C\) とすると、\(C = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{4d}\) と書けます(ここで \(S\) は極板の面積、\(\varepsilon_0\) は真空の誘電率です)。
設問(1)でスイッチSを開いたときにコンデンサーに蓄えられていた電荷 \(Q_1\) は、
$$Q_1 = CV_0 \quad \cdots ⑧$$
です。
金属板M(厚さ \(d\))を挿入した状態でのコンデンサーの電気容量 \(C’\) を考えます。金属板を挿入すると、その厚さの分だけ実質的な極板間隔が減少したと見なせます。電場が存在する空間の合計の長さは \(4d-d = 3d\) となるため、新しい電気容量 \(C’\) は、
$$C’ = \frac{\varepsilon_0 S}{3d} \quad \cdots ⑨$$
と表せます。ここで、元の容量 \(C = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{4d}\) と \(C’\) の関係を見ると、\(\displaystyle\frac{C’}{C} = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S / (3d)}{\varepsilon_0 S / (4d)} = \displaystyle\frac{4d}{3d} = \displaystyle\frac{4}{3}\) となるので、\(C’ = \displaystyle\frac{4}{3}C\) です。
設問(3)でスイッチSを閉じた後、コンデンサーに蓄えられる新しい電荷 \(Q_3\) は、この新しい容量 \(C’\) と電位差 \(V_0\) を用いて、
$$Q_3 = C’V_0 = \frac{4}{3}CV_0 \quad \cdots ⑩$$
と計算できます。
スイッチSを閉じる直前(設問(2)の終了時点)では、極板Aの電荷は \(Q_1 = CV_0\) のままでした。スイッチSを閉じることによって、電池からコンデンサーへ(あるいはコンデンサーから電池へ)電荷が移動し、極板Aの電荷が \(Q_1\) から \(Q_3\) に変化します。この間にスイッチSを移動した正の電気量を \(\Delta Q\) とすると、
$$\Delta Q = Q_3 – Q_1 \quad \cdots ⑪$$
として計算できます。
使用した物理原理/公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
- 導体内部の電場は0(ゼロ)、導体は等電位
- 平行平板コンデンサーの電気容量の公式: \(C = \displaystyle\frac{\varepsilon S}{d}\)
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
- 電荷の移動量の計算(変化後の電荷量 - 変化前の電荷量)
- 電場の強さ \(E_2\) の計算:
式⑦ (\(V_0 = 3E_2 d\)) の両辺を \(3d\) で割ると、
$$E_2 = \frac{V_0}{3d}$$ - 電位 \(V(x)\) の具体的な式の導出:
上で求めた \(E_2\) を用いると、- 領域 \(0 \le x \le d\) (BM間): \(V(x) = E_2 x = \displaystyle\frac{V_0}{3d}x\)。
これにより、\(V(d) = E_2 d = \displaystyle\frac{V_0}{3d} \cdot d = \displaystyle\frac{1}{3}V_0\)。 - 領域 \(d \le x \le 2d\) (M内部): \(V(x) = V(d) = \displaystyle\frac{1}{3}V_0\)。
- 領域 \(2d \le x \le 4d\) (MA間): \(V(x) = V(2d) + E_2 (x-2d) = \displaystyle\frac{1}{3}V_0 + \displaystyle\frac{V_0}{3d}(x-2d)\)。
これにより、極板A (\(x=4d\)) での電位は \(V(4d) = \displaystyle\frac{1}{3}V_0 + E_2(2d) = \displaystyle\frac{1}{3}V_0 + \left(\displaystyle\frac{V_0}{3d}\right)(2d) = \displaystyle\frac{1}{3}V_0 + \displaystyle\frac{2}{3}V_0 = V_0\)。これは電池の電圧と一致します。
- 領域 \(0 \le x \le d\) (BM間): \(V(x) = E_2 x = \displaystyle\frac{V_0}{3d}x\)。
- 移動した正の電気量 \(\Delta Q\) の計算:
式⑪に、式⑧ (\(Q_1 = CV_0\)) と式⑩ (\(Q_3 = \displaystyle\frac{4}{3}CV_0\)) を代入すると、
$$\Delta Q = \frac{4}{3}CV_0 – CV_0 = \left(\frac{4}{3}-1\right)CV_0 = \frac{1}{3}CV_0$$
\(\Delta Q\) が正の値であるということは、正の電荷が極板Aに増加したことを意味します。これは、電池の正極からスイッチSを通って左向きに(極板Aの方向へ)正の電荷が流れ込んだことに対応します。
スイッチSを閉じると、コンデンサーの両端の電気的な高さの差(電位差)は、再び電池の電圧 \(V_0\) になります。
金属板Mの中は電場がゼロなので、電気的な坂道はありません。M以外の空気の部分(BM間とMA間、合計の長さは \(3d\))にだけ電気的な坂道(電場 \(E_2\))ができると考えます。この全長 \(3d\) の坂道で全体の高さの差 \(V_0\) が生じるので、坂道の傾き \(E_2\) は \(V_0 \div (3d)\) となります。
電気の高さ(電位)は、板B(高さ \(0 \, \text{V}\))からMの下の面までは傾き \(E_2\) で上がり、Mの中は高さが一定(平ら)、Mの上の面から板Aまではまた傾き \(E_2\) で上がって、最終的に板Aで高さ \(V_0\) になります。
次に、移動した電気の量について考えましょう。金属板Mがないときのコンデンサーの電気を蓄える能力(電気容量)を \(C\) とすると、スイッチSを開く前の電気の量は \(CV_0\) でした。金属板Mを入れると、コンデンサーの隙間が実質的に \(3d\) になったのと同じ効果があり、電気容量は元の \(4/3\) 倍の \(\frac{4}{3}C\) にパワーアップします。スイッチSを閉じたので、このパワーアップしたコンデンサーに蓄えられる新しい電気の量は \(Q’ = (\frac{4}{3}C)V_0 = \frac{4}{3}CV_0\) です。
したがって、スイッチSを閉じることによって増えた(移動した)電気の量は、新しい電気の量から元の電気の量を引いて、\(\frac{4}{3}CV_0 – CV_0 = \frac{1}{3}CV_0\) となります。このプラスの電気が、電池からスイッチSを通って「左向き」に(つまり、極板Aに向かって)流れ込んだことになります。
(問題で提供されている図や模範解答の図eおよび図fを参照し、それに基づいてグラフを描いてください。)
- 電場 \(E(x)\) のグラフ:領域BM間(\(0 \le x < d\))とMA間(\(2d < x \le 4d\))では、電場の強さは \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) で一定です。金属板Mの内部(\(d \le x \le 2d\))では、電場の強さは \(E=0\) となります。
- 電位 \(V(x)\) のグラフ:\(x=0\) で \(V=0\)。領域 \(0 \le x \le d\) では傾き \(E_2\) の直線で \(V(d)=\displaystyle\frac{1}{3}V_0\) まで上昇します。領域 \(d \le x \le 2d\) では電位は \(V=\displaystyle\frac{1}{3}V_0\) の水平な直線(等電位)となります。領域 \(2d \le x \le 4d\) では再び傾き \(E_2\) の直線で、\(x=2d\) で \(V=\displaystyle\frac{1}{3}V_0\) から出発し、\(x=4d\) で \(V=V_0\)(極板Aの電位)まで上昇します。
移動した正の電気量は \(\displaystyle\frac{1}{3}CV_0 \, \text{[C]}\) であり、スイッチSを左向き(電池の正極から極板Aの方向へ)に移動しました。これは、金属板を挿入したことでコンデンサーの電気容量が増加したため、同じ電圧 \(V_0\) でより多くの電荷が蓄えられるようになった結果であり、物理的に妥当です。
問 (4)
思考の道筋とポイント
設問(3)の後、スイッチSを再び開き、極板Aを下へ \(d\) だけ下げてAB間の間隔を \(3d\) にします(金属板Mはそのままの位置にあるとします)。このときのAB間の電位差を求めます。次に、金属板Mを取り除き、同じ形状で同じ位置(Bから \(d\) の位置に厚さ \(d\))に比誘電率が2の誘電体Dを置きます。この最終状態での電場 \(E(x)\) と電位 \(V(x)\) のグラフを描くことが求められています。
- Sを開いた後の電荷保存: スイッチSを開いたので、極板Aに蓄えられている電荷 \(Q’_3 = \displaystyle\frac{4}{3}CV_0\) は、この後の操作(Aを下げる、MをDに置き換える)の間、変化せずに保存されます。
- Aを下げた後の電位差(金属板Mあり):
- AB間の全体の間隔は \(3d\) になります。金属板Mは、設問(2)(3)と同様にBから \(d\) の位置に厚さ \(d\) で存在すると考えます。
- したがって、極板の配置は、B – (空気層 \(d\)) – M (金属 \(d\)) – (空気層 \(d\)) – A となります。
- 極板Aの電荷 \(Q’_3\) が保存されているため、空気層部分(BM間とMA間)の電場の強さは、設問(3)で計算した \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) のまま変わりません(極板の面積 \(S\) が同じで電荷密度が変わらないため)。
- 金属板M内部の電場は \(0\) です。
- このときのAB間の電位差は、BM間の電位差 (\(E_2 \cdot d\)) と MA間の電位差 (\(E_2 \cdot d\)) の合計となります(M内部の電位差は0)。
- Mを取り除き誘電体Dを挿入後(Sは開いたまま)の電場と電位:
- 極板Aの電荷 \(Q’_3\) は依然として保存されています。AB間の全体の間隔も \(3d\) のままです。
- 誘電体Dは、元のMと同じ位置(Bから \(d\) の位置に厚さ \(d\))に置かれます。
- 電荷 \(Q’_3\) が保存されているため、この電荷が作る電気力線の総本数も不変です。これにより、コンデンサー内の空気層部分(BD間:\(0 \le x < d\)、DA間:\(2d < x \le 3d\))の電場の強さは、金属板Mがあったときの空気層の電場の強さ \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) と同じになります。
- 誘電体Dの内部(\(d \le x \le 2d\))の電場の強さ \(E_D\) は、空気中での電場の強さ \(E_2\) を誘電体Dの比誘電率 \(\varepsilon_r=2\) で割ったもの、つまり \(E_D = E_2 / \varepsilon_r = E_2 / 2\) となります。
- これらの各領域の電場を用いて、電位 \(V(x)\) のグラフを描きます(極板Bで \(V(0)=0\) を基準)。
この設問における重要なポイント
- スイッチが開いている(回路が開放されている)間は、コンデンサーの極板に蓄えられた電荷量が常に保存されるという電気量保存則の徹底した適用。
- 電荷量が保存されている場合、空気層(または真空層)部分における電場の強さは、極板の面積が変わらなければ、基本的には変化しない(より正確には、電束密度が保存されることから導かれる)。
- 誘電体を電場中に挿入すると、その内部の電場の強さが、同じ電束密度(またはそれに相当する外部電場)に対して \(1/\varepsilon_r\) 倍に弱められる(\(\varepsilon_r\) は比誘電率)という効果。
- AB間の全体の距離が変化することに注意し、各部分の厚み(空気層、金属板、誘電体)を正確に把握すること。
具体的な解説と立式
スイッチSを開いたとき、極板Aの電荷は \(Q’_3 = \displaystyle\frac{4}{3}CV_0\) であり、この値は以降の操作で保存されます。
Aを \(d\) 下げた後のAB間の電位差(金属板Mあり):
極板AB間の新しい間隔は \(3d\) です。金属板MはBから \(d\) の位置に厚さ \(d\) で存在するので、各部分の構成は以下のようになります。
- BM間(空気層):距離 \(d\)
- M内部(金属):距離 \(d\)
- MA間(空気層):距離 \(3d – (d+d) = d\)
極板Aの電荷 \(Q’_3\) が保存されているため、極板の面電荷密度は変化しません。したがって、空気層部分(BM間およびMA間)における電場の強さは、設問(3)のときの \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) のままです。
金属板M内部の電場は \(0\) です。
よって、このときの極板AB間の電位差 \(V_{\text{AB(Mあり)}}\) は、
$$V_{\text{AB(Mあり)}} = E_2 \cdot d (\text{BM間}) + 0 \cdot d (\text{M内部}) + E_2 \cdot d (\text{MA間})$$
$$V_{\text{AB(Mあり)}} = E_2 d + E_2 d = 2E_2 d \quad \cdots ⑫$$
これに \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) を代入すると、
$$V_{\text{AB(Mあり)}} = 2 \left(\frac{V_0}{3d}\right) d = \frac{2}{3}V_0 \quad \cdots ⑬$$
となります。
Mを取り除き、誘電体Dを挿入した後の電場 \(E(x)\) と電位 \(V(x)\):
極板Aの電荷 \(Q’_3 = \displaystyle\frac{4}{3}CV_0\) は依然として保存されています。AB間の間隔も \(3d\) のままです。
誘電体D(厚さ \(d\)、比誘電率 \(\varepsilon_r=2\))は、元の金属板Mと同じ位置(Bから \(d\) の位置、つまり \(d \le x \le 2d\) の範囲)に置かれます。
極板Aの電荷 \(Q’_3\) が保存されているため、この電荷が作る電気力線の総本数も不変です。このため、コンデンサー内の空気層部分(BD間:\(0 \le x < d\)、およびDA間:\(2d < x \le 3d\))における電場の強さは、金属板Mがあったときの空気層の電場の強さ \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) と同じになります。
誘電体Dの内部(\(d \le x \le 2d\) の範囲)の電場の強さ \(E_D\) は、空気中での電場の強さ \(E_2\) を誘電体Dの比誘電率 \(\varepsilon_r\) で割ったものになります。
$$E_D = \frac{E_2}{\varepsilon_r} = \frac{E_2}{2} = \frac{1}{2} \left(\frac{V_0}{3d}\right) = \frac{V_0}{6d} \quad \cdots ⑭$$
次に、電位 \(V(x)\) を計算します(極板Bの電位を \(V(0)=0\) とします)。
- 領域 \(0 \le x \le d\) (BD間、空気層): 電場の強さは \(E_2\)。
\(V(x) = E_2 x\)。
したがって、\(V(d) = E_2 d = \left(\displaystyle\frac{V_0}{3d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{3}V_0\)。 - 領域 \(d \le x \le 2d\) (誘電体D内部): 電場の強さは \(E_D = \displaystyle\frac{V_0}{6d}\)。
この区間の電位差は \(E_D \cdot d = \left(\displaystyle\frac{V_0}{6d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{6}V_0\)。
誘電体Dの上面 (\(x=2d\)) における電位は、\(V(2d) = V(d) + E_D d = \displaystyle\frac{1}{3}V_0 + \displaystyle\frac{1}{6}V_0 = \displaystyle\frac{2V_0+V_0}{6} = \displaystyle\frac{3V_0}{6} = \displaystyle\frac{1}{2}V_0\)。 - 領域 \(2d \le x \le 3d\) (DA間、空気層): 電場の強さは \(E_2\)。
極板A (\(x=3d\)) における電位 \(V_A\) は、\(V_A = V(2d) + E_2 (3d-2d) = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 + E_2 d = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 + \left(\displaystyle\frac{V_0}{3d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 + \displaystyle\frac{1}{3}V_0 = \displaystyle\frac{3V_0+2V_0}{6} = \displaystyle\frac{5}{6}V_0\)。
使用した物理原理/公式
- 電気量保存則(スイッチが開いているため)
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
- 導体内部の電場は0(ゼロ)
- 誘電体内部の電場の低減効果: \(E_{\text{誘電体}} = E_{\text{空気}} / \varepsilon_r\)
- Aを \(d\) 下げた後のAB間の電位差 \(V_{\text{AB(Mあり)}}\) の計算:
スイッチSを開いた後の極板Aの電荷は \(Q’_3 = \displaystyle\frac{4}{3}CV_0\) で保存されます。
極板AB間の新しい間隔は \(3d\) です。金属板Mの配置を考慮すると、空気層の部分はBM間(距離 \(d\))とMA間(距離 \(d\))になります。
空気層部分の電場の強さは、設問(3)と同じ \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) です。
金属板M内部の電場は \(0\) です。
したがって、AB間の電位差は、\(V_{\text{AB(Mあり)}} = E_2 \cdot d (\text{BM間}) + 0 \cdot d (\text{M内部}) + E_2 \cdot d (\text{MA間}) = 2E_2 d\)。
これに \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) を代入すると、\(V_{\text{AB(Mあり)}} = 2 \left(\displaystyle\frac{V_0}{3d}\right) d = \displaystyle\frac{2}{3}V_0\)。 - Mを取り除き、誘電体Dを挿入した後の電場 \(E(x)\) と電位 \(V(x)\) の計算:
極板Aの電荷 \(Q’_3\) は引き続き保存されます。AB間の間隔も \(3d\) のままです。
誘電体Dは元のMと同じ位置(\(d \le x \le 2d\))に置かれます。- 空気層部分(BD間:\(0 \le x < d\)、およびDA間:\(2d < x \le 3d\))の電場の強さは、上記の \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) のままです。
- 誘電体Dの内部(\(d \le x \le 2d\))の電場の強さ \(E_D\) は、\(E_D = \displaystyle\frac{E_2}{\varepsilon_r} = \displaystyle\frac{E_2}{2} = \displaystyle\frac{1}{2} \left(\displaystyle\frac{V_0}{3d}\right) = \displaystyle\frac{V_0}{6d}\)。
電位 \(V(x)\) を極板B (\(V(0)=0\)) を基準として計算します。
- \(V(d) = E_2 \cdot d = \left(\displaystyle\frac{V_0}{3d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{3}V_0\)。
- \(V(2d) = V(d) + E_D \cdot d = \displaystyle\frac{1}{3}V_0 + \left(\displaystyle\frac{V_0}{6d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{3}V_0 + \displaystyle\frac{1}{6}V_0 = \displaystyle\frac{2V_0 + V_0}{6} = \displaystyle\frac{3V_0}{6} = \displaystyle\frac{1}{2}V_0\)。
- 極板Aの電位 \(V_A = V(3d) = V(2d) + E_2 \cdot (3d-2d) = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 + E_2 \cdot d = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 + \left(\displaystyle\frac{V_0}{3d}\right) d = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 + \displaystyle\frac{1}{3}V_0 = \displaystyle\frac{3V_0 + 2V_0}{6} = \displaystyle\frac{5}{6}V_0\)。
スイッチSを開いているので、極板Aの電気の量(電荷 \(Q’_3\))はずっと変わりません。
まず、Aの板を下に \(d\) だけずらすと、AとBの間の全体の距離は \(3d\) になります。金属板Mは元の位置にあるので、空気の部分はMの上と下にそれぞれ \(d\) ずつの厚さになります。Aの電気の量が変わらないので、空気の部分の電気の強さ(電場 \(E_2\))も変わりません(設問(3)と同じ \(E_2 = V_0/(3d)\) です)。金属板Mの中は電場がゼロなので、AとBの電気的な高さの差(電位差)は、空気の部分の高さの差だけを合計して、\(E_2 \times d + E_2 \times d = 2E_2 d = \frac{2}{3}V_0\) になります。
次に、この金属板Mを取り出して、代わりに誘電体D(電気を弱める効果が通常の空気の2倍ある特別な物質)を同じ場所に入れます。Aの電気の量 \(Q’_3\) はやっぱり変わりませんから、空気の部分の電気の強さ \(E_2\) も変わりません。しかし、誘電体Dの中では電気が \(1/2\) に弱められて \(E_D = E_2/2 = V_0/(6d)\) になります。
電気の高さ(電位)をBから順に見ていくと、
- BからDの下の面まで(距離 \(d\)、空気)は、傾き \(E_2\) で高さが \(E_2 d = (1/3)V_0\) になります。
- Dの中(厚さ \(d\)、誘電体)は、傾きが半分の \(E_D\) で高さが \(E_D d = (1/6)V_0\) だけ上がります。なので、Dの上の面の高さは \((1/3)V_0 + (1/6)V_0 = (1/2)V_0\) です。
- Dの上の面からAまで(距離 \(d\)、空気)は、また傾き \(E_2\) で高さが \(E_2 d = (1/3)V_0\) だけ上がります。なので、Aの高さは \((1/2)V_0 + (1/3)V_0 = (5/6)V_0\) になります。
極板Aを下げた後のAB間の電位差は \(\displaystyle\frac{2}{3}V_0 \, \text{[V]}\) です。
(金属板Mを誘電体Dに置き換えた後の電場と電位のグラフは、問題で提供されている図や模範解答の図iおよび図jを参照し、それに基づいてグラフを描いてください。)
- 電場 \(E(x)\) のグラフ:領域BD間(\(0 \le x < d\)) とDA間(\(2d < x \le 3d\)) では、電場の強さは \(E_2 = \displaystyle\frac{V_0}{3d}\) で一定です。誘電体Dの内部(\(d \le x \le 2d\)) では、電場の強さは \(E_D = \displaystyle\frac{V_0}{6d}\) となります。
- 電位 \(V(x)\) のグラフ:\(x=0\) で \(V=0\)。領域 \(0 \le x \le d\) では傾き \(E_2\) の直線で \(V(d)=\displaystyle\frac{1}{3}V_0\) まで上昇。領域 \(d \le x \le 2d\) では傾き \(E_D\) の直線で \(V(2d)=\displaystyle\frac{1}{2}V_0\) まで上昇。領域 \(2d \le x \le 3d\) では傾き \(E_2\) の直線で \(V(3d)=\displaystyle\frac{5}{6}V_0\)(極板Aの電位)まで上昇します。
スイッチが開いている(電荷量一定)の状態で誘電体を挿入すると、誘電体内部の電場が弱められ、結果として全体の電位差(この場合は \(V_A = (5/6)V_0\))が、もし誘電体がなくすべて空気層だった場合(その場合の電位差は電荷一定なので \(E_2 \times 3d = V_0\) とはならない点に注意が必要ですが、Mがあったときの \((2/3)V_0 = (4/6)V_0\) と比較して)変化しています。この変化は誘電体の分極効果を反映しており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの基本関係式と性質:
- 核心:コンデンサーに蓄えられる電荷 \(Q\)、極板間の電位差 \(V\)、そして電気容量 \(C\) の間には、常に \(Q=CV\) という関係が成り立ちます。 また、平行平板コンデンサーの電気容量は、極板の面積 \(S\)、極板間の距離 \(d\)、そして極板間を満たす物質の誘電率 \(\varepsilon\) を用いて \(C = \varepsilon S/d\) と表されます。
- 理解のポイント:これらの関係式はコンデンサーを扱う上での出発点です。問題の条件(スイッチが開いているか閉じているか、何が挿入されているかなど)に応じて、これらの量がどのように変化し、あるいは保存されるのかを見極めることが重要です。
- 一様な電場と電位の関係:
- 核心:理想的な平行平板コンデンサーの極板間には、一様な電場(どこでも同じ強さと向きの電場)が形成されます。この電場の強さを \(E\)、極板間の距離を \(d\) とすると、極板間の電位差 \(V\) は \(V=Ed\) となります。
- 理解のポイント:電位は、電場の強さに距離を掛けたものとして理解でき、電位のグラフの傾きは電場の強さ(のマイナス符号をつけたもの)に対応します。電場が一様であれば電位は直線的に変化し、電場が0(ゼロ)であれば電位は一定(等電位)になります。
- 導体の性質(静電平衡時):
- 核心:導体の内部では電場は常に0(ゼロ)であり、その結果、導体全体(表面も内部も)は等電位となります。
- 理解のポイント:この問題で金属板Mを挿入した場合、Mの内部の電場は0になり、M全体が同じ電位になるという点が、電場と電位のグラフを描く上で非常に重要でした。これは静電誘導によって導体表面に電荷が再配置され、内部の電場を打ち消すためです。
- 静電誘導と誘電分極:
- 核心:導体を電場中に置くと静電誘導により表面に電荷が現れ内部電場を0にします。誘電体を電場中に置くと誘電分極により内部の電場を弱めます。
- 理解のポイント:金属板の挿入は静電誘導の結果として内部電場が0になるのに対し、誘電体の挿入は誘電分極の結果として内部電場が \(1/\varepsilon_r\) 倍(\(\varepsilon_r\) は比誘電率)に弱められるという違いを明確に区別することが大切です。
- 電気量保存則:
- 核心:電気的に孤立した導体系(例えば、電源から切り離されたコンデンサーの極板)では、その部分系が持つ総電荷量は変化せずに保存されます。
- 理解のポイント:この問題では、スイッチSが開いている状態でコンデンサーに何らかの操作(金属板の挿入、極板の移動、誘電体の挿入など)を加えた場合、極板Aに蓄えられている電荷 \(Q\) は一定に保たれる、という条件が繰り返し用いられました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 複数の異なる誘電体や金属板が層状に挿入された、より複雑な複合コンデンサーの電気容量、内部の電場や電位分布を計算する問題。
- コンデンサーと抵抗、コイルなどを含む直流回路や交流回路において、スイッチ操作によって過渡現象や定常状態が変化する問題(特に電荷や電位の時間変化)。
- コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー(\(U = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}\))が、様々な操作によってどのように変化するか、あるいは外部からされた仕事との関係を問う問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 回路の状態(スイッチの開閉)の確認: まず、コンデンサーが電源に接続されている(スイッチが閉じている)のか、それとも電源から切り離されて孤立している(スイッチが開いている)のかを真っ先に確認します。これにより、電位差が一定なのか、それとも電荷量が一定なのか、という考察の出発点が決まります。
- 挿入されている物質の種類の特定: コンデンサーの極板間に挿入されているものが、金属板(導体)なのか、それとも誘電体なのかを正確に見分けます。それぞれで内部の電場の扱いや電気容量への影響の仕方が大きく異なります。
- 幾何学的パラメータの変化の把握: 極板間の距離や極板の面積が操作によって変化する場合、電気容量の基本式 \(C=\varepsilon S/d\) に立ち返り、容量がどのように変わるかをまず評価します。
- 電位の基準点の確認: 電位について考察する際には、問題文中でどこが電位の基準(\(0 \, \text{V}\))として設定されているか(あるいは自分で設定する必要があるか)を必ず確認します。これによって、各点の電位の具体的な値が決まります。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 電場と電位のグラフを描く問題では、両者は密接に関連していることを常に意識しましょう。電場のグラフで \(x\) 軸とグラフ線で囲まれる面積がその区間の電位差を表し、電位のグラフの各点での傾きがその点での電場の強さ(のマイナス符号をつけたもの)を表します。
- 金属板を挿入した場合、その金属板の厚さの分だけ、実質的な「電場が存在する空間」が減少したと考えることができる場合があります。これが電気容量の変化に繋がります。
- 誘電率や比誘電率の扱いは正確に行いましょう。特に、空気(または真空)の比誘電率は1であることを基本とします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチが開いている(電荷量一定)のに、電位差も一定だと誤解してしまう:
- 現象:コンデンサーが充電された後にスイッチが開かれ、電気的に孤立した状態で、極板間隔を変えたり誘電体を挿入したりした場合に、極板間の電位差も元の電池の電圧のまま変わらない、と勘違いしてしまう。
- 対策:スイッチが開いているときは、コンデンサーの極板上の電荷 \(Q\) が一定に保たれます。このとき、電位差 \(V\) は \(V=Q/C\) という関係で決まるため、電気容量 \(C\) が操作によって変化すれば、電位差 \(V\) もそれに応じて変化することを理解しましょう。電位差が一定に保たれるのは、スイッチが閉じていて電池に接続されている場合です。
- 金属板(導体)と誘電体の電気的な効果の混同:
- 現象:金属板を挿入した場合の内部の電場の扱いを、誘電体を挿入した場合と同じように考えてしまう(例えば、金属板内部の電場も \(E/\varepsilon_r\) のように扱ってしまう)、あるいは逆に、誘電体内部の電場を \(0\)(ゼロ)としてしまう。
- 対策:金属板(導体)の内部では、静電誘導によって外部電場が完全に打ち消されるため、電場は常に \(0\) です。一方、誘電体の内部では、誘電分極によって電場は弱められますが、完全に \(0\) になるわけではなく、元の電場の \(1/\varepsilon_r\) 倍(\(\varepsilon_r\) はその誘電体の比誘電率)になります。この違いを明確に区別しましょう。
- 「電位」と「電位差」の区別があいまいなことによる混乱:
- 現象:ある特定の点の「電位」(基準点からの電気的な高さ)を求められているのに、2つの異なる点の間の「電位差」(電気的な高さの差)を答えてしまう、またはその逆の誤りをしてしまう。
- 対策:「電位」は、ある基準点(例えば接地された点や無限遠点)を \(0 \, \text{V}\) としたときの、各点の相対的な電気的な高さを表すスカラー量です。一方、「電位差」は、2つの特定の点の間の電位の差を指します。コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) における \(V\) は、2つの極板間の「電位差」であることに注意が必要です。問題で何が問われているのかを正確に把握し、これらの用語を正しく使い分けることが重要です。
- 比誘電率の適用方法の誤り(特に電気容量や電場の計算において):
- 現象:誘電体を挿入した際に、誘電体内部の電場を誤って \(\varepsilon_r E\)(\(\varepsilon_r\) 倍してしまう)と計算したり、電気容量の式で比誘電率 \(\varepsilon_r\) を分母にかけてしまったりする(容量を小さく見積もってしまう)。
- 対策:誘電体を電場中に置くと、その内部の電場は元の電場の \(1/\varepsilon_r\) 倍に「弱められ」ます。また、コンデンサーの極板間を一様に誘電体で満たした場合、その電気容量は真空中の場合の \(\varepsilon_r\) 倍に「増加」します。誘電体は電場を弱める効果があり、それによって同じ電位差でもより多くの電荷を蓄えられるようになる(つまり容量が増える)と理解しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 電場線(電気力線)のイメージ:平行平板コンデンサーの極板間には、一方の極板からもう一方の極板へ向かう一様な電場線(電気力線)が分布しているとイメージします。金属板を挿入すれば、その金属板の内部では電場線が途切れて存在しなくなり(内部電場0)、誘電体を挿入すれば、その誘電体の内部では電場線の密度が薄くなる(電場が弱まる)といった具体的なイメージを持つことが有効です。
- 等電位線(または等電位面)のイメージ:電場線に常に垂直な方向に等電位線(3次元的には等電位面)が存在することをイメージします。導体は全体がひとつの等電位面を形成します。電位のグラフは、この等電位線の「高さ」を表現したものと解釈できます。
- 電荷分布のイメージ:静電誘導によって金属板の表面にどのような符号の電荷が現れるか、あるいは誘電分極によって誘電体の表面(や内部)にどのような分極電荷が現れるかを具体的にイメージすることで、電場の変化の理由がより明確になります。
- 電位のグラフの物理的解釈:\(x\)軸に沿って電位がどのように変化していくかを、文字通り「電気的な坂道」に例えてイメージします。電場が強い場所は急な坂道、電場が0(ゼロ)の場所は平坦な道(高さが変わらない)と考えると、グラフの形状が直感的に理解しやすくなります。
- 図(特にグラフ)を描く際に注意すべき点は何か:
- 電場グラフ(\(E-x\)グラフ):各領域で電場の強さが一定値(一様電場なので水平線)になるか、あるいは0(ゼロ)になるかを明確に区別して描きます。異なる領域の境界で電場の強さが不連続に変化することも許容されます。
- 電位グラフ(\(V-x\)グラフ):電位のグラフは必ず連続的につながるように描きます(電位が空間的に突然ジャンプすることはありません)。導体部分は等電位なので、グラフ上では水平な線になります。電位グラフの各点における傾きが、その点での電場の強さ(のマイナス符号をつけたもの)と対応していることを意識して、傾きの変化を描き分けましょう。
- \(x\)軸上の重要な点の位置と、それに対応する電場・電位の値を正確にプロットする:例えば、金属板や誘電体の境界 (\(x=d, 2d\) など)や、極板の位置 (\(x=0, 3d, 4d\) など)で、電場や電位がどのような値を取るのかを計算し、それらの点を正確にグラフ上に示すことが、正しいグラフを描く上で不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=Ed\) (一様な電場における電位差):
- 選定理由:平行平板コンデンサーの極板間のように、電場が空間的に一様であると見なせる区間における電位差を求めるための、最も基本的かつ簡単な公式であるため選びました。
- 適用根拠:この公式は、電場 \(E\) がその区間内で一定の強さと向きを持ち(つまり一様であり)、かつ距離 \(d\) がその電場の方向に沿って測られたものである場合に限り適用できます。
- \(Q=CV\) (コンデンサーの基本定義式):
- 選定理由:コンデンサーに蓄えられる電荷 \(Q\)、そのコンデンサーの電気容量 \(C\)、そして極板間の電位差 \(V\) の間の普遍的な関係を表す、コンデンサーの最も基本的な定義式であるため選びました。
- 適用根拠:どのような形状のコンデンサーであっても、この関係式は成り立ちます。ただし、式中の \(V\) は2つの極板の「間」の電位差を指すことに注意が必要です。
- \(C = \displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{d_{\text{eff}}}\) (金属板挿入時の実効的な電気容量の考え方):
- 選定理由:金属板をコンデンサーの極板間に挿入した場合の電気容量を、あたかも極板間隔が変化したかのように見なして計算するために、この考え方(または類似の導出)を用いました。
- 適用根拠:金属板の厚さの分だけ、電場が存在する空間が実質的に減少し、あたかも真空部分の極板間隔が \(d_{\text{eff}}\)(元の間隔から金属板の厚さを引いたもの)になったかのように振る舞うため、このような類推が成り立ちます。
- \(C’ = \varepsilon_r C_0\) (誘電体を一様に満たした場合の電気容量)または \(E’ = E_0/\varepsilon_r\) (誘電体内部の電場):
- 選定理由:誘電体をコンデンサーの極板間に挿入した際に、電気容量や内部の電場がどのように変化するかを定量的に扱うために、これらの関係式を用いました。
- 適用根拠:これらの関係は、誘電体を極板間に一様に満たした場合に厳密に成り立ちます。誘電体を部分的に挿入した場合は、より複雑な計算が必要になることもありますが、基本的な効果(容量増加、電場減少)の方向性は同じです。この問題では、誘電体Dが極板間の一部を一様に満たすケースとして扱われています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期状態の物理量の確定: まず、最初の充電操作が完了しスイッチSが開かれた直後の状態について、コンデンサーに蓄えられている電荷 \(Q\)、極板間の電位差 \(V\)、内部の電場 \(E\)、そして電気容量 \(C\) の関係を明確に整理します。
- 各操作の分析と不変量の特定: 次に、問題文中で指示される各操作(スイッチの開閉、金属板や誘電体の挿入・移動など)が何であるかを正確に把握し、その操作の結果として、どの物理量(例えば電荷 \(Q\) なのか、電位差 \(V\) なのか)が保存されるのか(あるいは一定に保たれるのか)を明確にします。これが考察の最も重要な分岐点となります。
- 電場の計算: 特定された不変量(または固定された量)と、コンデンサーの幾何学的条件(極板間隔、挿入物の位置や厚さなど)に基づいて、関係式 \(V=Ed\) やガウスの法則(あるいはそれから導かれる電荷と電場の関係)を用いて、各領域における電場の強さを求めます。特に、導体内部の電場は \(0\) になることを常に念頭に置きます。
- 電位の計算: 電位の基準点(この問題では極板B)から出発し、各領域の電場の強さを用いて、電位を空間的に積分する形で(あるいは \(V=Ed\) の関係を区間ごとに適用して)各点の電位を順次求めていきます。導体部分は等電位であることに注意し、電位のグラフが連続的につながるようにします。
- 電気容量の計算(必要な場合): もし電気容量そのものが問われているか、あるいは計算の途中で必要になる場合は、コンデンサーの形状(極板面積 \(S\)、実効的な極板間隔 \(d\)、挿入された物質の誘電率 \(\varepsilon\))から \(C=\varepsilon S/d\) の公式を用いて計算するか、あるいは電荷 \(Q\) と電位差 \(V\) を個別に求めてから定義式 \(C=Q/V\) を用いて導出します。
- 電荷の移動量の計算(必要な場合): スイッチを閉じてコンデンサーが電池に再接続された場合など、コンデンサーの状態が変化し、それに伴って蓄えられる電荷量が変わるときには、変化後の電荷量から変化前の電荷量を引くことで、電池との間で移動した電荷の量を計算します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比率の扱いの正確性: この問題では、電気容量が元の \(4/3\) 倍になったり、電位が元の \(V_0\) の \(3/4\) 倍になったりといった、比率を用いた表現や計算が多く登場します。これらの比率を扱う際に、逆数を取ってしまったり、掛け算と割り算を混同したりしないように、慎重に計算を進めましょう。
- 分数計算の習熟: 電気容量や電位の具体的な式は、分数を含む形になることがよくあります。通分や約分といった基本的な分数計算を迅速かつ正確に行えるようにしておくことが、計算ミスを減らす上で重要です。
- 文字記号と添え字の明確な区別: \(E_1, E_2, V_0, C, C’\) など、コンデンサーの状態や考察している対象によって、異なる記号や添え字が用いられます。これらを混同してしまうと、誤った式を立てたり、間違った値を代入したりする原因になるため、それぞれの記号が何を表しているのかを常に明確に意識するようにしましょう。
- グラフの軸とスケール(目盛り)の確認: 電場や電位のグラフを描く際には、横軸と縦軸がそれぞれどの物理量を表しているのか、そして各軸の目盛りの値が物理的に正しい値(計算結果と一致しているか)を示しているのかを、常に確認する習慣をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感や既知の傾向との照合:
- 例えば、金属板をコンデンサーに挿入した場合、実質的な極板間隔が減少するので、電気容量は増加するはずです。もし電荷量が一定なら、\(V=Q/C\) の関係から電位差は減少するはず、といった直感的な予測と計算結果が一致するかどうかを確認します。
- 誘電体を挿入した場合も同様に、電気容量は増加するはずです。電荷量が一定なら電位差は減少し、内部の電場も弱まるはずです。
- スイッチを閉じて電池に再接続すれば、極板間の電位差は電池の電圧に戻るはずです。
- 極端な条件や単純なケースを想定して結果を検証する:
- もし挿入した金属板の厚さが \(0\)(ゼロ)であったなら、それは何も挿入していないのと同じ状態に戻るはずなので、計算結果もそのようになるかを確認します。
- もし挿入した誘電体の比誘電率が \(1\)(つまり空気や真空と同じ)であったなら、それも何も挿入していないのと同じ状態になるはずなので、結果が一致するかどうかを確認します。
- グラフの連続性や傾きの物理的意味の確認:
- 電位のグラフは、物理的にあり得ない不連続なジャンプをしていないか(必ず連続的につながっているか)を確認します。
- 電位のグラフの傾きが急なところ(絶対値が大きいところ)は電場が強く、傾きが緩やかなところや平坦なところ(傾きが \(0\))は電場が弱いか \(0\) である、という基本的な関係がグラフ上で成り立っているかを確認します。
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