問題70 (福井大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、運動する音源Sと反射体R、そして静止した観測者Aと音源S上に乗っている観測者Bが関わるドップラー効果の問題です。波の基本的な性質(波長、振動数、音速の関係)から始まり、反射体を含む場合のドップラー効果、さらには音波の伝播時間と距離の関係まで、多岐にわたる内容を扱います。
- 音源S: 振動数 \(f_0\) [Hz] の音を出す。観測者Bが乗っている。
- 反射体R
- 観測者A: 静止している。
- Sの速度: \(u\) [m/s] でAに近づく。
- Rの速度: \(v\) [m/s] でAに近づく。
- \(u, v\) は音速 \(V\) [m/s] より小さいものとする。
- 音速: \(V\) [m/s]
問題文中の空欄(1)から(11)を適切な物理量や式で埋める。
- 音源Sが前方に1秒間に出した \(f_0\) 個の波が広がっている範囲 [m]。
- (1)で求めた範囲に広がる波の波長 [m]。
- 観測者Aが測定する、(2)で求めた音波の振動数 [Hz]。
- 反射体Rが1秒間に反射する波の個数。
- (4)で反射された波が1秒後に広がっている範囲 [m]。
- (5)で求めた範囲に広がる反射波の波長 [m]。
- 観測者Aが測定する、(6)で求めた反射波の振動数 [Hz]。
- 観測者B(音源S上にいる)が測定する反射波の振動数 \(f_B\) [Hz]。
- 観測者Bが \(f_B\) を測定することで求められる反射体の速さ \(v\) [m/s]。
- 音波を出した時点のBと反射体Rとの距離 [m](\(V, u, v, t_0\) を用いる)。
- 反射音がBに帰ってきた時点のBとRとの距離 [m](\(V, u, v, t_0\) を用いる)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(10),(11)の別解: 「追いかけ算」として解く解法
- 主たる解法が、模範解答の図を用いて幾何学的に距離の関係を立式するのに対し、別解では音波の往路(S→R)と復路(R→B)をそれぞれ独立した「追いかけ算」または「出会い算」として捉え、時間についての連立方程式を解きます。
- 問(10),(11)の別解: 「追いかけ算」として解く解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 静止系における物体の運動を時間軸に沿って追跡する能力が養われます。これは、衝突問題や相対運動など、力学の様々な問題に応用できる基本的な思考法です。
- 問題の単純化: 一見複雑に見える音の往復運動を、「往路」と「復路」という2つの単純な運動に分解することで、立式が容易になり、問題の見通しが良くなります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、ドップラー効果の原理的な理解を問う形式になっています。単に公式を暗記しているだけでなく、なぜ振動数や波長が変化するのか、その物理的な過程を追っていく必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本性質: 振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\)、波の速さ \(V\) の間には \(V = f\lambda\) の関係があります。
- 音速の不変性: 音速 \(V\) は媒質によって決まり、音源や観測者の速度にはよりません。
- ドップラー効果の原理: 音源が動くと進行方向の波長が変化し、観測者が動くと単位時間に受け取る波の数が変化します。
- 反射の扱い: 反射体は、受けた波を再放射する新しい波源と考えることができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、音源が動くことによる波長の圧縮効果を考え、観測者Aが聞く音の波長と振動数を求めます。
- 次に、反射体Rを「動く観測者」とみなし、Rが受け取る波の数を計算します。
- さらに、Rを「動く新たな音源」とみなし、Rが反射する波の波長を計算し、それを観測者AとBがどのように観測するかを考えます。
- 最後に、音波がSから出てRで反射し、Bに戻るまでの時間と距離の関係を、各物体の運動を考慮して立式します。
問(1)
思考の道筋とポイント
音源Sは1秒間に \(f_0\) 個の波を出します。この1秒間に、波の先頭は音速 \(V\) で \(V\) [m] 進み、音源S自身も前方へ \(u\) [m] 進みます。したがって、1秒間に出された \(f_0\) 個の波は、波の先頭の位置と、1秒後の音源の位置との間の範囲に分布することになります。
この設問における重要なポイント
- 音速 \(V\) は音源の速度に依らない。
- 1秒間に波の先頭が進む距離は \(V\)。
- 1秒間に音源Sが進む距離は \(u\)。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) で音源Sが先頭の波を出し始め、\(t=1\) 秒で最後の波を出し終えたとします。Sの初期位置を原点 \(x=0\) とします。
この1秒間に、Sは \(u \times 1 = u\) [m] だけ前進し、その位置は \(x=u\) となります。
一方、\(t=0\) で \(x=0\) から出された波の先頭は、\(t=1\) 秒後には \(V \times 1 = V\) [m] の位置まで進んでいます。
したがって、1秒間に出された \(f_0\) 個の波は、先頭が \(x=V\) の位置、最後尾が \(x=u\) の位置にあるので、その間の範囲に広がっています。求める範囲の長さは、これらの位置の差で与えられます。
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
$$
\begin{aligned}
\text{範囲の長さ} &= (\text{波の先頭の位置}) – (\text{1秒後の音源の位置}) \\[2.0ex]
&= V – u
\end{aligned}
$$
1秒間で、音の戦闘部隊(波の先頭)は \(V\) メートル進みます。同じ1秒間で、音を発射している大砲(音源S)自体も \(u\) メートル前進します。その結果、1秒間に出されたすべての音の弾(\(f_0\)個の波)は、先頭の \(V\) メートル地点と、最後尾(今まさに発射された場所)の \(u\) メートル地点の間の、長さ \(V-u\) メートルの区間にぎゅっと詰まっていることになります。
音源Sが前方に \(f_0\) 個の波を出しながら進むと、波は \(V-u\) [m] の範囲に圧縮されます。これはドップラー効果の第一段階であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で、1秒間に出された \(f_0\) 個の波が \(V-u\) [m] の範囲に広がっていることがわかりました。波長とは、1つの波の長さのことです。したがって、全体の範囲の長さを波の個数で割れば、1個あたりの長さ、つまり波長が求まります。
この設問における重要なポイント
- 波長 \(\lambda\) = (波が存在する範囲の長さ) / (その範囲に存在する波の個数)。
具体的な解説と立式
1秒間に出される波の数は \(f_0\) 個です。これらの波が \(V-u\) [m] の範囲に存在します。このときの波長を \(\lambda_1\) とすると、波長の定義から次の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_1 &= \frac{\text{範囲の長さ}}{\text{波の個数}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 波長の定義
範囲の長さとして(1)の結果 \(V-u\)、波の個数として \(f_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_1 &= \frac{V-u}{f_0}
\end{aligned}
$$
(1)で、\(f_0\) 個の波が全部で \(V-u\) メートルの長さに詰まっていることがわかりました。波長というのは、その \(f_0\) 個ある波の「1個分の長さ」のことです。だから、全体の長さ \(V-u\) を、そこに含まれる波の数 \(f_0\) で割れば、1個分の長さ(波長)が出てきます。
音源が近づく場合、波長は \(\lambda_1 = \frac{V-u}{f_0}\) となり、元の波長 \(\lambda_0 = V/f_0\) よりも短くなります。これはドップラー効果の基本的な性質と一致します。
問(3)
思考の道筋とポイント
観測者Aは静止しています。Aが観測する音波の速さは \(V\) です。(2)で求めた波長 \(\lambda_1\) の音波が、速さ \(V\) でAを通過していくと考えます。観測される振動数 \(f_1\) は、波の基本式 \(V = f\lambda\) から求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 観測者Aは静止しているので、音速は \(V\) のまま。
- Aが観測する波長は \(\lambda_1\)。
- 波の基本式 \(V = f\lambda\) を用いる。
具体的な解説と立式
観測者Aが測定する音波の振動数を \(f_1\) とします。音波の速さは \(V\)、波長は(2)で求めた \(\lambda_1\) です。波の基本式 \(V = f_1 \lambda_1\) より、\(f_1\) は次のように表せます。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V}{\lambda_1}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
上の式に \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-u}{f_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V}{\frac{V-u}{f_0}} \\[2.0ex]
&= V \cdot \frac{f_0}{V-u} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V-u}f_0
\end{aligned}
$$
静止しているAさんが聞く音の振動数は、音の速さ \(V\) を、(2)で求めた波1個の長さ(波長 \(\lambda_1\))で割れば求まります。波長が短くなっているので(音源Sが近づいてきているため)、1秒間にAさんの耳を通り過ぎる波の数が増え、元の振動数 \(f_0\) よりも高い音が聞こえるわけです。
得られた式は、音源が近づき、観測者が静止している場合のドップラー効果の公式そのものです。\(V-u < V\) なので \(f_1 > f_0\) となり、振動数が高くなるという物理的な状況と一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
反射体Rが1秒間に反射する波の個数は、Rが1秒間に「観測者として」受け取る波の個数に等しいです。Rは速さ \(v\) で音波に向かって(左向きに)進んでいます。一方、音波はSからRへ右向きに速さ \(V\) で進んでいます。したがって、Rに対する音波の相対的な速さ(接近する速さ)は \(V+v\) です。この相対速度で進む距離の中に含まれる波の数が、Rが1秒間に受け取る波の数 \(f_R\) です。
この設問における重要なポイント
- 反射する波の数は、反射体が観測者として受け取る波の数と同じ。
- 動いている観測者(反射体R)から見た波の相対速度を考える。
具体的な解説と立式
SからRへ向かう音波の波長は、(2)で求めた \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-u}{f_0}\) です。
Rは音波に対して速さ \(v\) で近づいているので、Rに対する音波の相対的な速さは \(V+v\) です。
1秒間にRが受け取る(=反射する)波の数 \(f_R\) は、1秒間にRを通過する波の長さ(つまり相対速度)を、波1個の長さ(波長)で割ることで求まります。
$$
\begin{aligned}
f_R &= \frac{\text{Rに対する波の相対速度}}{\text{波長}} \\[2.0ex]
&= \frac{V+v}{\lambda_1}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 振動数 = (相対速度) / (波長)
上の式に \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-u}{f_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_R &= \frac{V+v}{\frac{V-u}{f_0}} \\[2.0ex]
&= (V+v) \frac{f_0}{V-u} \\[2.0ex]
&= \frac{V+v}{V-u}f_0
\end{aligned}
$$
反射体Rは、自分に向かってくる音波をキャッチして跳ね返します。R自身も音波に向かって速さ \(v\) で進んでおり、音波も速さ \(V\) でRに向かってくるので、Rから見ると音波は \(V+v\) という速さで迫ってきます。1秒間に \(V+v\) メートル分の波をRは受け取ることになります。(2)で計算した波1個の長さ(波長 \(\lambda_1\))でこの \(V+v\) を割れば、1秒間にRが受け取る(そして反射する)波の個数がわかります。
この \(f_R\) は、音源Sが速さ \(u\) で近づき、観測者Rが速さ \(v\) で近づく場合のドップラー効果の公式と一致します。物理的に妥当な結果です。
問(5)
思考の道筋とポイント
(4)で求めた \(f_R\) 個の波は、今度は反射体Rから1秒間かけて放射されます。このとき、Rは「新たな音源」とみなせます。この音源Rは、反射波の進行方向(左向き)と同じ向きに速さ \(v\) で動いています。この状況は(1)と全く同じで、音源が波の進行方向に動く場合です。1秒間に反射波の先頭は \(V\) [m] 進み、反射体R自身も同じ向きに \(v\) [m] 進みます。したがって、\(f_R\) 個の波はこれらの差の範囲に分布します。
この設問における重要なポイント
- 反射体Rを、振動数 \(f_R\) で波を出す新たな音源とみなす。
- この新たな音源Rは、速さ \(v\) で波の進行方向と同じ向きに動く。
具体的な解説と立式
反射体Rは、1秒間に \(f_R\) 個の波をAの方向(左向き)に反射します。
この1秒間に、反射波の先頭は音速 \(V\) で左へ \(V\) [m] 進みます。
反射体R自身も、同じ左向きに速さ \(v\) で \(v\) [m] 進みます。
したがって、1秒間かけて放射された \(f_R\) 個の波は、波の先頭と1秒後のRの位置の間の範囲に広がります。その長さは、
$$
\begin{aligned}
\text{範囲の長さ} &= (\text{反射波の先頭が進んだ距離}) – (\text{反射体が進んだ距離})
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
$$
\begin{aligned}
\text{範囲の長さ} &= V – v
\end{aligned}
$$
今度は、反射体Rが新しい音源になります。Rが1秒間に跳ね返した \(f_R\) 個の波が、どのくらいの長さに広がっているかを考えます。Rは音を跳ね返しながら自身も速さ \(v\) でAの方向(左向き)に進みます。音の先頭は速さ \(V\) で進むので、1秒後にはRの出発点から \(V\) メートル先にいます。一方、最後の波はRの1秒後の位置(出発点から \(v\) メートル左)から出始めます。結果として、\(f_R\) 個の波は \(V-v\) メートルの範囲に広がります。これは(1)と全く同じ考え方です。
新たな音源Rが速さ \(v\) で波の進行方向に動くため、波は \(V-v\) [m] の範囲に圧縮されます。これもドップラー効果の原理に沿った妥当な結果です。
問(6)
思考の道筋とポイント
(5)で、\(f_R\) 個の反射波が \(V-v\) [m] の範囲に広がっていることがわかりました。この反射波の波長 \(\lambda_2\) は、(2)と同様に、全体の範囲の長さを波の個数で割ることで求まります。
この設問における重要なポイント
- 反射波の波長 \(\lambda_2\) = (範囲の長さ) / (波の個数 \(f_R\))。
具体的な解説と立式
(5)で求めた \(V-v\) [m] の範囲に、(4)で求めた \(f_R\) 個の波が存在します。したがって、反射波の波長 \(\lambda_2\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{\text{範囲の長さ}}{\text{波の個数}} \\[2.0ex]
&= \frac{V-v}{f_R}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 波長の定義
上の式に、(4)で求めた \(f_R = \displaystyle\frac{V+v}{V-u}f_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{V-v}{\frac{V+v}{V-u}f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{(V-v)(V-u)}{(V+v)f_0}
\end{aligned}
$$
(5)で、\(f_R\) 個の反射波が \(V-v\) メートルの範囲に詰まっていることがわかりました。反射波の1個あたりの長さ(波長)を求めるには、(2)のときと全く同じように、全体の長さ \(V-v\) を、そこに含まれる波の数 \(f_R\) で割ればよいのです。
2回のドップラー効果(S→RとR→観測者)を経て、波長が変化しました。式は複雑ですが、段階的に考えれば導出できます。
問(7)
思考の道筋とポイント
観測者Aは静止しています。Aが観測する反射波の速さは \(V\) です。(6)で求めた反射波の波長 \(\lambda_2\) の音波が、速さ \(V\) でAを通過していくと考えます。観測される振動数 \(f_2\) は、(3)と同様に、波の基本式 \(V = f_2 \lambda_2\) から求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 観測者Aは静止。
- Aが観測する反射波の波長は \(\lambda_2\)、速さは \(V\)。
- 波の基本式 \(V = f\lambda\) を用いる。
具体的な解説と立式
観測者Aが測定する反射波の振動数を \(f_2\) とします。波の基本式より、
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{\lambda_2}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
この式に(6)で求めた \(\lambda_2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{\frac{(V-v)(V-u)}{(V+v)f_0}} \\[2.0ex]
&= \frac{V(V+v)}{(V-v)(V-u)}f_0
\end{aligned}
$$
静止しているAさんが聞く反射音の振動数は、(3)のときと全く同じ考え方で計算できます。音の速さ \(V\) を、(6)で求めた反射波1個の長さ(波長 \(\lambda_2\))で割れば、1秒間にAさんの耳を通り過ぎる波の数が求まります。
この結果は、音源Sが速さ \(u\) で近づき、反射体Rが速さ \(v\) で近づく場合に、静止した観測者Aが聞く反射音の振動数の公式と一致します。
問(8)
思考の道筋とポイント
観測者Bは音源S上に乗っており、速さ \(u\) でAの方向に(右向き)進んでいます。一方、反射波は左向きに速さ \(V\) で進んでいます。したがって、Bは反射波に向かって進んでいることになります。Bに対する反射波の相対速度の大きさは \(V+u\) です。1秒間にBが受け取る波の数が、Bが測定する振動数 \(f_B\) です。これは(4)と考え方が似ています。
この設問における重要なポイント
- 観測者Bは速さ \(u\) で反射波に向かって運動している。
- Bに対する反射波の相対速度は \(V+u\)。
具体的な解説と立式
観測者Bが測定する反射波の振動数を \(f_B\) とします。Bに対する反射波の相対速度は \(V+u\) で、反射波の波長は \(\lambda_2\) です。1秒間にBが受け取る波の数は、
$$
\begin{aligned}
f_B &= \frac{\text{Bに対する波の相対速度}}{\text{反射波の波長}} \\[2.0ex]
&= \frac{V+u}{\lambda_2}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 振動数 = (相対速度) / (波長)
この式に(6)で求めた \(\lambda_2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_B &= \frac{V+u}{\frac{(V-v)(V-u)}{(V+v)f_0}} \\[2.0ex]
&= \frac{(V+u)(V+v)}{(V-u)(V-v)}f_0
\end{aligned}
$$
音源Sに乗っているBさんは、速さ \(u\) で反射してくる音波に向かって進んでいます。音波自体も速さ \(V\) でBさんに向かってくるので、Bさんから見ると音波は \(V+u\) という猛スピードでやってきます。1秒間に \(V+u\) メートル分の波がBさんを通り過ぎます。(6)で計算した反射波1個の長さ(波長 \(\lambda_2\))でこの \(V+u\) を割れば、1秒間にBさんが受け取る波の個数、つまりBさんが聞く振動数がわかります。
この結果は、音源S(速さ\(u\))、反射体R(速さ\(v\))、観測者B(速さ\(u\))がすべて互いに近づく運動をしている場合の、Bが聞く反射音の振動数を表しています。ドップラー効果のすべての要素が組み合わさった形です。
問(9)
思考の道筋とポイント
(8)で求めた \(f_B\) の式を、\(v\) について解きます。これは物理ではなく、代数的な計算問題です。式を \(v\) が含まれる項と含まれない項に整理し、最終的に \(v=\dots\) の形に変形します。
この設問における重要なポイント
- (8)の式を \(v\) について正確に解く代数計算能力。
具体的な解説と立式
(8)で得られた式から出発します。
$$
\begin{aligned}
f_B &= \frac{(V+u)(V+v)}{(V-u)(V-v)}f_0
\end{aligned}
$$
この式を \(v\) について解くために、まず \(\frac{V+v}{V-v}\) の形に整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{f_B}{f_0} \frac{V-u}{V+u} &= \frac{V+v}{V-v}
\end{aligned}
$$
計算を簡単にするため、左辺を \(K\) とおきます。
$$
\begin{aligned}
K &= \frac{V+v}{V-v}
\end{aligned}
$$
この式を \(v\) について解きます。
使用した物理公式
- (特になし。代数計算)
\(K = \frac{V+v}{V-v}\) を変形していきます。
$$
\begin{aligned}
K(V-v) &= V+v \\[2.0ex]
KV – Kv &= V+v \\[2.0ex]
KV – V &= Kv + v \\[2.0ex]
V(K-1) &= v(K+1) \\[2.0ex]
v &= V \frac{K-1}{K+1}
\end{aligned}
$$
ここで、\(K = \frac{f_B(V-u)}{f_0(V+u)}\) を使って \(K-1\) と \(K+1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
K-1 &= \frac{f_B(V-u)}{f_0(V+u)} – 1 = \frac{f_B(V-u) – f_0(V+u)}{f_0(V+u)} \\[2.0ex]
K+1 &= \frac{f_B(V-u)}{f_0(V+u)} + 1 = \frac{f_B(V-u) + f_0(V+u)}{f_0(V+u)}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
\frac{K-1}{K+1} &= \frac{f_B(V-u) – f_0(V+u)}{f_B(V-u) + f_0(V+u)}
\end{aligned}
$$
これを \(v\) の式に代入して、最終的な答えを得ます。
$$
\begin{aligned}
v &= V \frac{f_B (V-u) – f_0 (V+u)}{f_B (V-u) + f_0 (V+u)}
\end{aligned}
$$
(8)で、Bさんが聞く反射音の振動数 \(f_B\) が、元の振動数 \(f_0\)、音速 \(V\)、Sの速さ \(u\)、Rの速さ \(v\) を使って表されました。今度は逆に、\(f_B, f_0, V, u\) が分かっているとして、この式を未知数 \(v\) について解きなさい、という数学の計算問題です。
この式を用いることで、観測された振動数 \(f_B\) から、直接測定が難しい反射体Rの速さ \(v\) を知ることができます。これは、例えばスピードガンなどの原理に応用されています。
問(10)
思考の道筋とポイント
音源S(B)が時刻 \(t=0\) で音波を発射し、そのときのSとRの距離を \(l\) とします。この音波がRに到達し、反射され、時刻 \(t=t_0\) で再びBに戻ってくる状況を考えます。音の往復運動を、SとRの運動と合わせて考えることで、最初の距離 \(l\) を求めることができます。模範解答の図を利用して、距離の関係を立式するのが分かりやすいです。
この設問における重要なポイント
- 音の伝播時間と距離の関係を正確に追跡する。
- 音源、反射体の運動を考慮に入れる。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) でS(B)が音波を発射し、そのときのS(B)とRの距離を \(l\) とします。
音波がSから出てRに到達するのに時間 \(t\) を要したとします(模範解答の図b)。この間に、音波は \(Vt\) 進み、Rは \(vt\) だけSに近づきます。両者の初期位置の差が \(l\) なので、
$$
\begin{aligned}
l &= Vt + vt \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、反射音がRから出てBに到達するまでの時間は \(t_0-t\) です。模範解答の図cを見ると、音波を出した時点の距離 \(l\) は、Rが進んだ距離 \(vt\)、反射音が進んだ距離 \(V(t_0-t)\)、そしてBが \(t_0\) 秒間に進んだ距離 \(ut_0\) の和で表すこともできます。
$$
\begin{aligned}
l &= vt + V(t_0-t) + ut_0 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
この2つの式を連立して \(l\) を求めます。
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
まず、式①から \(t\) を \(l\) で表します。
$$
\begin{aligned}
l &= (V+v)t \\[2.0ex]
t &= \frac{l}{V+v}
\end{aligned}
$$
これを式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
l &= v\left(\frac{l}{V+v}\right) + V\left(t_0 – \frac{l}{V+v}\right) + ut_0 \\[2.0ex]
l &= \frac{vl}{V+v} + Vt_0 – \frac{Vl}{V+v} + ut_0
\end{aligned}
$$
\(l\) を含む項を左辺にまとめます。
$$
\begin{aligned}
l – \frac{vl}{V+v} + \frac{Vl}{V+v} &= Vt_0 + ut_0 \\[2.0ex]
l \left(1 – \frac{v}{V+v} + \frac{V}{V+v}\right) &= (V+u)t_0 \\[2.0ex]
l \left(\frac{V+v-v+V}{V+v}\right) &= (V+u)t_0 \\[2.0ex]
l \left(\frac{2V}{V+v}\right) &= (V+u)t_0
\end{aligned}
$$
最後に \(l\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{t_0(V+u)(V+v)}{2V}
\end{aligned}
$$
音が出た瞬間のS(B)とRの間の距離を \(l\) とします。音がSからRにぶつかり、反射してBに戻ってくるまでの総時間が \(t_0\) です。この間にS(B)もRも動いています。この複雑な音のキャッチボールを、図を描いて距離の関係を式にすることで、最初の距離 \(l\) を \(t_0\) や各速度で表すことができます。
音の往復時間 \(t_0\) と各物体の速度が分かれば、音波を発射した時点での距離 \(l\) が計算できることを示しています。この関係は、超音波距離計などに応用されています。
問(11)
思考の道筋とポイント
時刻 \(t_0\) で反射音がBに帰ってきたときの、BとRの間の距離 \(x\) を求めます。時刻 \(t=0\) でのS(B)の位置を原点 \(x=0\)、Rの位置を \(x=l\) とします。時刻 \(t_0\) におけるそれぞれの位置を計算し、その差を求めます。
この設問における重要なポイント
- 時刻 \(t_0\) におけるBとRのそれぞれの位置を正しく計算する。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) でのS(B)の位置を \(x_B(0)=0\)、Rの位置を \(x_R(0)=l\) とします。
時刻 \(t_0\) におけるS(B)の位置 \(x_B(t_0)\) は、右向きに \(ut_0\) 進むので、
$$
\begin{aligned}
x_B(t_0) &= ut_0
\end{aligned}
$$
時刻 \(t_0\) におけるRの位置 \(x_R(t_0)\) は、初期位置 \(l\) から左向きに \(vt_0\) 進むので、
$$
\begin{aligned}
x_R(t_0) &= l – vt_0
\end{aligned}
$$
よって、時刻 \(t_0\) でのBとRの間の距離 \(x\) は、これらの位置の差で与えられます。
$$
\begin{aligned}
x &= x_R(t_0) – x_B(t_0) \\[2.0ex]
&= (l – vt_0) – ut_0 \\[2.0ex]
&= l – (u+v)t_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
この式に、(10)で求めた \(l = \displaystyle\frac{t_0(V+u)(V+v)}{2V}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{t_0(V+u)(V+v)}{2V} – (u+v)t_0 \\[2.0ex]
&= \frac{t_0}{2V} \left[ (V+u)(V+v) – 2V(u+v) \right] \\[2.0ex]
&= \frac{t_0}{2V} \left[ (V^2 + Vv + Vu + uv) – (2Vu + 2Vv) \right] \\[2.0ex]
&= \frac{t_0}{2V} (V^2 – Vu – Vv + uv) \\[2.0ex]
&= \frac{t_0}{2V} (V(V-u) – v(V-u)) \\[2.0ex]
&= \frac{t_0(V-u)(V-v)}{2V}
\end{aligned}
$$
思考の道筋とポイント
音の往路(S→R)と復路(R→B)を、静止系における物体の運動として捉え、時間についての連立方程式を立てます。
- 往路: Sから出た音波がRに到達するまでの時間 \(t_1\) を、「出会い算」として考えます。
- 復路: Rで反射した音波がBに到達するまでの時間 \(t_2\) を、再び「出会い算」として考えます。
- 全体の時間: 往路と復路にかかる時間の合計が \(t_0\) であること (\(t_1+t_2=t_0\)) を用いて、連立方程式を解きます。
この設問における重要なポイント
- 相対速度を用いて「追いかけ算」として問題を単純化する。
- 往路と復路で基準となる座標系を切り替えて考える。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) でのSとRの距離を \(l\) とします。
往路: Sから出た音波がRに到達するのにかかる時間を \(t_1\) とします。この間に音波は \(Vt_1\) 進み、Rは \(vt_1\) 進みます。両者が出会うので、進んだ距離の和が初期距離 \(l\) に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
Vt_1 + vt_1 &= l \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
復路: 反射が起こるのは時刻 \(t_1\) です。このときのRの位置は \(l-vt_1\)、Bの位置は \(ut_1\) です。ここから復路がスタートします。反射音がBに到達するのにかかる時間を \(t_2\) とします。この間に反射音は \(Vt_2\) 進み、Bは \(ut_2\) 進みます。両者が出会うので、進んだ距離の和が、復路スタート時の両者の距離に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
Vt_2 + ut_2 &= (\text{復路スタート時の距離}) \\[2.0ex]
&= (l-vt_1) – ut_1 \\[2.0ex]
&= l – (u+v)t_1 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
また、全体の時間は \(t_0\) なので、
$$
\begin{aligned}
t_1 + t_2 &= t_0 \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
この3つの式を連立させて \(l\) を求めます。
式③から \(t_1 = \frac{l}{V+v}\)。
式④から \(t_2 = \frac{l-(u+v)t_1}{V+u}\)。
これらを式⑤に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{l}{V+v} + \frac{l-(u+v)t_1}{V+u} &= t_0
\end{aligned}
$$
\(t_1\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{l}{V+v} + \frac{l-(u+v)\frac{l}{V+v}}{V+u} &= t_0 \\[2.0ex]
\frac{l}{V+v} + \frac{l(1-\frac{u+v}{V+v})}{V+u} &= t_0 \\[2.0ex]
\frac{l}{V+v} + \frac{l(\frac{V-u}{V+v})}{V+u} &= t_0 \\[2.0ex]
l \left( \frac{1}{V+v} + \frac{V-u}{(V+u)(V+v)} \right) &= t_0 \\[2.0ex]
l \left( \frac{V+u + V-u}{(V+u)(V+v)} \right) &= t_0 \\[2.0ex]
l \left( \frac{2V}{(V+u)(V+v)} \right) &= t_0
\end{aligned}
$$
よって、\(l = \displaystyle\frac{t_0(V+u)(V+v)}{2V}\) となり、主たる解法と同じ結果が得られます。(11)の計算は主たる解法と同様です。
音がBに戻ってきた瞬間(\(t_0\) 秒後)に、BとRはそれぞれ最初の位置からどれだけ動いたかを計算し、その時点での2点間の距離を求めます。(10)で求めた最初の距離 \(l\) から、BとRが互いに近づいた距離の合計を引けば、残りの距離がわかります。
\(u, v > 0\) なので、\(V-u < V+u\), \(V-v < V+v\) です。したがって、\(x < l\) となり、\(t_0\) 秒後に2つの物体が近づいているという物理的な状況と一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果の原理的理解:
- 核心: この問題は、ドップラー効果の公式を単に暗記して適用するのではなく、その公式が導出される物理的な過程を一つ一つ分解して理解しているかを問うています。核心は「音源が動くと波長が変わり」「観測者が動くと相対速度が変わることで観測する波の数が変わる」という2つの基本原理です。
- 理解のポイント:
- 波長の圧縮・伸長: 音源が動くと、波を出しながら進むため、進行方向の波はぎゅっと圧縮され(波長が短くなる)、後方の波は引き伸ばされます(波長が長くなる)。この「波が存在する空間的な長さ」の変化を正しく計算することが第一歩です(問(1)~(2))。
- 相対速度の概念: 観測者が動く場合、音波に対する相対速度が変化します。観測者が波に向かって進めば、1秒間に受け取る波の数は増え(振動数が高くなる)、波から遠ざかれば減ります(振動数が低くなる)。この「1秒間に観測者を通過する波の長さ」を相対速度で考えることが重要です(問(4), (8))。
- 反射体の二面性: 反射体は、まず「動く観測者」として入射波を受け取り、次にその受け取った波を「動く新たな音源」として再放射します。この2段階のプロセスとして捉えることが、反射を含むドップラー効果の問題を解く鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 風が吹いている場合のドップラー効果: 風は音を運ぶ媒質そのものの動きです。音速 \(V\) が、風上へは \(V-w\)、風下へは \(V+w\)(\(w\)は風速)に変化すると考えて、同様のプロセスを適用します。
- 斜め方向のドップラー効果: 音源や観測者が斜めに動く場合、速度ベクトルを音の伝播方向(音源と観測者を結ぶ直線方向)に分解し、その成分だけがドップラー効果に寄与すると考えます。
- 光のドップラー効果: 基本的な考え方は同じですが、光速が観測者の速度によらず一定であるという特殊相対性理論の効果を考慮する必要があります(高校範囲を超えることが多いですが、基本的な式は類似しています)。
- 初見の問題での着眼点:
- 誰が音源で、誰が観測者か?: 問題の各段階で、「音を出しているのは誰か」「それを聞いているのは誰か」を明確に区別します。反射の問題では、この役割が途中で入れ替わることに注意します。
- 速度の向きはプラスかマイナスか?: 音源と観測者が近づくのか、遠ざかるのかを正確に把握します。近づく場合は振動数が高くなる(波長が短くなる)方向に、遠ざかる場合は低くなる(長くなる)方向に式を立てる、という物理的な直感を常に働かせることが重要です。
- 図を描いて状況を可視化する: 特に問(10)や(11)のように、音の伝播時間と物体の移動が絡む問題では、時刻ごとの位置関係を図に描くことが非常に有効です。これにより、複雑な距離の関係を視覚的に整理できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 音速の変化の誤解:
- 誤解: 音源が速さ \(u\) で動くと、音速が \(V+u\) や \(V-u\) になると考えてしまう。
- 対策: 音速 \(V\) は、空気などの「媒質」の性質だけで決まることを徹底して理解する。音源や観測者がどれだけ速く動いても、媒質中を伝わる音の速さ自体は \(V\) のままです。変化するのはあくまで「波長」と「観測される振動数」です。
- 反射体をただの壁と考えるミス:
- 誤解: 反射体Rが動いているのに、単に音が跳ね返るだけで、振動数や波長は変わらないと勘違いする。
- 対策: 反射体は「観測者」と「新音源」の2つの役割を持つと覚える。まず観測者として音を受け、その振動数を計算し、次にその振動数で音を出す新音源として、反射波の波長を計算するという2ステップを踏む習慣をつける。
- 相対速度の符号ミス:
- 誤解: 観測者が動く場合に、相対速度を \(V+v_o\) とすべきところを \(V-v_o\) としたり、その逆をしてしまう。
- 対策: 「近づくなら振動数は上がる」「遠ざかるなら振動数は下がる」という大原則に立ち返る。式を立てた後、その式がこの原則に合っているか(分母が小さくなっているか、分子が大きくなっているかなど)を確認する癖をつける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波長の式 \(\lambda’ = (V-v_s)/f_0\):
- 選定理由: 音源が動くことで、波が空間的に圧縮または伸長される効果を記述するため。これはドップラー効果の根本原因の一つです。
- 適用根拠: 問題文で音源Sや反射体Rが運動しており、それによって波長が変化する状況(問(2), (6))を計算する必要があるため。
- 振動数の式 \(f’ = (V-v_o)/\lambda\):
- 選定理由: 観測者が動くことで、単位時間あたりに受け取る波の数が変化する効果を記述するため。これもドップラー効果のもう一つの根本原因です。
- 適用根拠: 問題文で観測者(または観測者とみなせる反射体Rや観測者B)が運動しており、観測する振動数を計算する必要があるため(問(3), (4), (7), (8))。
- 距離・速さ・時間の関係式 \(l = vt\):
- 選定理由: 音波の伝播と物体の運動が同時に起こる状況での、位置関係を記述するため。
- 適用根拠: 問(10), (11)で、音波が往復する時間 \(t_0\) の間に音源と反射体がそれぞれ移動し、その結果として初期距離や最終距離を求める必要があるため。これは力学の基本的な考え方です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の計算:
- 特に注意すべき点: この問題は分数のオンパレードです。特に、分数の中にさらに分数が含まれる「繁分数」の計算(例:問(3)や(7))では、分母と分子を間違えやすい。
- 日頃の練習: 繁分数の計算では、分母の逆数を掛ける操作を焦らず、一行一行丁寧に書く。例えば、\(\frac{A}{B/C}\) は \(A \times \frac{C}{B}\) であることを常に意識する。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: \(V, u, v, f_0, f_B\) など多くの文字が登場します。特に問(9)のように、特定の文字(この場合は\(v\))について解く問題では、移項や展開の際に符号ミスや書き間違いが起こりやすい。
- 日頃の練習: 複雑な式を整理する際は、まず目標の文字が含まれる項と含まれない項を明確に分ける。共通因数でくくるなどの操作を丁寧に行う。問(9)のように、複雑な部分を一時的に別の文字(\(K\)など)で置き換えて計算を進め、最後に元に戻すという手法も有効です。
- 連立方程式の処理:
- 特に注意すべき点: 問(10)では、2つの未知数(\(l\)と\(t\))に対して2つの式を立てて解きます。どの文字を消去すれば計算が楽になるかを見極める必要があります。
- 日頃の練習: まずは代入法で確実に解く練習をする。慣れてきたら、式同士を足したり引いたりして、よりスマートに解けないかを考える。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 振動数:
- 吟味の視点: 音源や観測者が「近づく」運動をしている場合、振動数は元の \(f_0\) より大きくなるはずです。例えば問(3)の答え \(\frac{V}{V-u}f_0\) は、分母が \(V\) より小さいので、全体として \(f_0\) より大きくなり、妥当です。逆に「遠ざかる」場合は小さくなるはずです。計算結果がこの直感と合っているか常に確認します。
- 波長:
- 吟味の視点: 音源が進行方向に進む場合、波長は元の \(\lambda_0 = V/f_0\) より短くなるはずです。問(2)の答え \(\frac{V-u}{f_0}\) は、分子が \(V\) より小さいので、確かに短くなっており、妥当です。
- 距離:
- 吟味の視点: 問(11)で求めた最終距離 \(x\) は、問(10)で求めた初期距離 \(l\) よりも小さくなるはずです(SとRが互いに近づいているため)。実際に式の形を比較すると、\(x\) の分子が \((V-u)(V-v)\)、\(l\) の分子が \((V+u)(V+v)\) となっており、\(x < l\) であることが確認でき、妥当です。
- 振動数:
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし音源と反射体が静止していたら(\(u=0, v=0\))、どうなるか?
- 問(8)の式に \(u=0, v=0\) を代入すると、\(f_B = \frac{V \cdot V}{V \cdot V}f_0 = f_0\) となり、振動数は変化しない。正しい。
- 問(10)の式に \(u=0, v=0\) を代入すると、\(l = \frac{t_0 V^2}{2V} = \frac{Vt_0}{2}\)。これは、音が距離 \(l\) を往復するのに時間 \(t_0\) かかったことを意味し(\(2l = Vt_0\))、これも正しい。
- もし音源と反射体が静止していたら(\(u=0, v=0\))、どうなるか?
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問題71 (大阪工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、運動する物体(音源を兼ねる)の異なる点から発せられる音波を、物体上の中点および静止点で観測する際のドップラー効果と、音の伝播時間、うなりについて考察するものです。後半では、風が吹いている場合の影響も問われます。
- 物体AB: 長さ \(2d\)、中点M。
- 物体ABの運動: 速さ \(u\) で直線Lの上を右へ動く。
- 時刻 \(t=0\) の位置:
- 点O(静止観測点)は原点 \(x=0\) に位置する。
- 物体ABの中点Mは点Oと一致 (\(x_M(0)=0\))。
- 先端A(音源A)はMから右に \(d\) の位置 (\(x_A(0)=+d\))。
- 後端B(音源B)はMから左に \(d\) の位置 (\(x_B(0)=-d\))。
- 音の放出: 時刻 \(t=0\) から \(t=T\) までの間、先端Aおよび後端Bから振動数 \(f_0\) の音を発した。
- 観測点:
- 点M: 物体ABの中点(物体と共に速さ \(u\) で右へ動く)。
- 点O: 静止点(原点)。
- 音速: \(V\)。
- 条件: \(V>u\), \(d>uT\)。点Oと直線Lとの距離は無視できる。
- 後半の条件 (問5, 6, Q):
- 風: 物体ABの運動方向と同じ向き(右向き)に、速さ \(u\) で吹いている。
- (1) 先に音を聞くのは、点Mと点Oのうちどちらか。また、その時刻はいつか。(「Aからの音」について)
- (2) 点Mにおいて、Aからの音が聞こえている時間はどれだけか。
- (3) 点Oにおいて、Aからの音が聞こえている時間はどれだけか。
- (4) 点Oで聞くうなりの振動数はいくらか。また、うなりが聞こえている時間はどれだけか。
- (風がある場合)
- (5) 点Mで聞くAからの音の振動数はいくらか。
- (6) 点Oで聞くうなりの振動数はいくらか。
- (コラムQ) (6)において、点Oでうなりが聞こえている時間はどれだけか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 音が聞こえる時間の別解: 波数の不変性を利用する解法
- 主たる解法が音の「聞き始め」と「聞き終わり」の時刻を追跡するのに対し、この別解では「音源が放出した波の総数」と「観測者が受け取る波の総数」が等しいという物理法則(波数の不変性)を利用します。
- 問(3) 音が聞こえる時間の別解: 波数の不変性を利用する解法
- 主たる解法が音の「聞き始め」と「聞き終わり」の時刻を個別に追跡してその差を求めるのに対し、別解では「波数の不変性」を利用して、継続時間を逆算します。
- 問(4) うなりが聞こえる時間の別解: 波数の不変性を利用する解法
- 主たる解法が時刻を追跡するのに対し、別解ではO点が観測するBからの音の継続時間を「波数の不変性」から求め、それがうなりの継続時間と等しくなることを利用します。
- 問(2) 音が聞こえる時間の別解: 波数の不変性を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「波の数」という保存量に着目することで、現象をより本質的に捉える視点が養われます。これは、電荷量保存則やエネルギー保存則など、物理学における他の保存則と同様の思考法であり、応用範囲が広いです。
- 計算の効率化: ドップラー効果による振動数が分かっていれば、複雑な時刻の追跡計算を省略し、簡単な割り算だけで継続時間を求めることができます。
- 解法の多角化: 同じ「継続時間」を問う問題(問(2), (3), (4))に対して、時刻追跡と波数不変性という2つの異なるアプローチを学ぶことで、問題解決能力の柔軟性が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、ドップラー効果を基本としつつ、音の伝播時間や、音源・観測点の相対的な運動を正確に捉える能力を試すものです。特に、物体上の異なる点から音が出る場合や、物体上の中点で音を観測する場合、さらには風の影響がある場合など、状況設定が多岐にわたります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 音の伝播: 音は媒質中を一定の速さ(音速 \(V\))で伝わります。音源の速度は音速に影響を与えません。
- ドップラー効果: 音源や観測者が運動することにより、観測される音の振動数が変化する現象です。
- 時間の追跡: 音が発せられてから観測点に到達するまでの時間、音が出し始められてから出し終わるまでの時間を正確に計算する必要があります。
- うなり: 振動数がわずかに異なる2つの音が重なると、音の強さが周期的に変化します。うなりの振動数は \(|f_1-f_2|\) です。
- 風の影響: 風が吹いている場合、地面に対する音速が変化します。風下へ進む音の速さは \(V+u_{\text{風}}\)、風上へ進む音の速さは \(V-u_{\text{風}}\) となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 初期位置と運動の確認: \(t=0\) での音源A, B、観測点M, Oの位置関係と、その後の物体ABの運動を正確に把握します。
- 音の到達時刻の計算: 音源と観測点の運動を考慮し、音が到達する時刻を「出会い算」や「追いかけ算」として立式します。
- 音が聞こえる時間(継続時間): 音が発せられ始めた時刻と終わった時刻にそれぞれ対応する音が、観測点に到達する時刻を求め、その差から継続時間を計算します。
- うなりの計算: O点で音源Aからの音と音源Bからの音を同時に聞く状況を考えます。それぞれの音の振動数をドップラー効果の公式を用いて求め、うなりの振動数とその継続時間を計算します。
- 風がある場合: 風による音速の変化を考慮して、各物理量を再計算します。ドップラー効果の公式中の \(V\) を、風の影響を受けた実効的な音速に置き換えて考えます。