問題55 (名古屋大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、鉛直に置かれたシリンダー内で、底とばねで連結されたピストンによって閉じ込められた単原子分子理想気体の状態変化を考察するものです。初期状態(状態1)からゆっくりと熱を加えて気体を膨張させ、ばねが自然長になる状態(状態2)までの変化を追います。力のつり合い、仕事、内部エネルギー、熱力学第一法則といった熱力学の基本概念が総合的に問われます。
- シリンダー内の気体: 単原子分子の理想気体
- ピストン: 質量 \(M\)、断面積 \(S\)、滑らかに動く
- ばね: シリンダーの底とピストンを連結、自然長 \(l_0\)、軽い(質量無視)
- 外部環境: 大気圧 \(p_0\)、重力加速度 \(g\)
- 状態1 (初期状態、図1):
- 気体の圧力は \(p_0\) (大気圧に等しい)
- ピストンはばねの長さ \(l_1\) でつり合っている
- 状態2 (加熱後、図2):
- 気体はゆっくりと加熱され膨張
- ばねの長さがちょうど自然長 \(l_0\) になった
- (1) ばねのばね定数 \(k\)。ばねの長さが \(l\) (\(l_1 \le l \le l_0\)) のときの気体の圧力 \(p\) と \(l\) との関係式、およびそのグラフ。
- (2) 状態1から状態2へ変わる間に、気体がした仕事 \(W\)。
- (3) 状態1から状態2へ変わる間の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)。
- (4) 状態1から状態2へ変わる間に、気体に加えた熱量 \(Q\)。
- 【コラム】Q. 状態2からさらに熱を加えてばねの長さを \(l_2 (>l_0)\) としたとき、この間に気体がする仕事 \(W’\) (エネルギー保存則を用いて)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く鍵は、鉛直シリンダー内のばね付きピストンにはたらく力のつり合いを正確に理解し、それによって気体の圧力がどのように変化するかを把握することです。単原子分子理想気体の状態変化を扱い、理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)) と熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\)) を基本に据えて各物理量を計算していくことです。A→B間は定積変化、C→A間は定圧変化であることがグラフから明らかです。B→C間は圧力が体積の一次関数として変化する直線経路であり、この過程の扱いに注意が必要です。単原子分子理想気体の内部エネルギーの式 (\(U = \frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}PV\)) や、定積モル比熱 (\(C_V = \frac{3}{2}R\))、定圧モル比熱 (\(C_P = \frac{5}{2}R\)) も適宜用います。物質量 \(n\) や気体定数 \(R\) は問題文に与えられていませんが、これらは計算過程で導入し、最終的には問題文で与えられた物理量(\(p_0, S, M, g, l_0, l_1\)など)で結果を表すことになります。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、状態1(図1)におけるピストンの力のつり合いを考えます。問題文から、状態1では気体の圧力が大気圧 \(p_0\) に等しいとされています。ピストンの上面には大気圧 \(p_0\) がかかり、下面には気体の圧力 \(p_0\) がかかっているため、これらの圧力による力はピストンに対して相殺されます。したがって、ピストン自身の重力 \(Mg\) と、ばねが縮むことによる弾性力 \(F_k = k(l_0 – l_1)\) がつり合っていると考えます。このつり合いの式から、ばね定数 \(k\) を求めることができます。
次に、ばねの長さが一般の \(l\) (\(l_1 \le l \le l_0\)) であるときのピストンの力のつり合いを考えます。このときの気体の圧力を \(p\) とします。ピストンにはたらく力は、鉛直上向きに気体の圧力による力 \(pS\) とばねの弾性力 \(k(l_0 – l)\) (ばねは自然長 \(l_0\) より縮んでいるため、ピストンを上に押し上げる向きに作用します)、鉛直下向きに大気圧による力 \(p_0S\) とピストンの重力 \(Mg\) です。これらの力がつり合っているという式から、気体の圧力 \(p\) をばねの長さ \(l\) の関数として表します。この関係式が \(l\) の1次関数になることを確認し、そのグラフ(横軸 \(l\)、縦軸 \(p\))の概形を描きます。
この設問における重要なポイント
- ピストンにはたらく力を正確に特定し、力のつり合いの式を正しく立てること。
- ばねの弾性力は、フックの法則に従い、自然長からの変位に比例し、その向きは変位と反対向き(ばねが元に戻ろうとする向き)であること。設問の範囲 (\(l_1 \le l \le l_0\)) では、ばねは自然長 \(l_0\) から \(l_0-l\) だけ縮んでいるため、ピストンを上向きに押す力は \(k(l_0-l)\) となります。
- 導出した関係式が \(l\) の1次関数であることを確認し、グラフの始点(状態1に対応)と終点(状態2に対応)を明確にして直線で結ぶこと。
具体的な解説と立式
ばね定数 \(k\):
状態1(図1)では、ピストンはばねの長さ \(l_1\) でつり合っています。このとき、気体の圧力は \(p_0\) です。ピストンの上面には大気圧 \(p_0\) が作用し、下面には気体の圧力 \(p_0\) が作用しているため、これらの圧力による力は相殺されます。したがって、ピストンにはたらく鉛直方向の力のつり合いは、ピストンの重力 \(Mg\)(下向き)と、ばねの弾性力 \(F_k\)(上向き)の間で成り立ちます。ばねの自然長は \(l_0\) なので、状態1でのばねの縮みは \((l_0 – l_1)\) です。フックの法則より、弾性力の大きさは \(F_k = k(l_0 – l_1)\) となります。力のつり合いから、
$$k(l_0 – l_1) = Mg \quad \cdots ①$$
気体の圧力 \(p\) とばねの長さ \(l\) の関係式 (\(l_1 \le l \le l_0\)):
ばねの長さが \(l\) のとき、気体の圧力を \(p\) とします。このときピストンにはたらく力は以下の通りです。
鉛直上向きの力:
- 気体の圧力による力: \(pS\)
- ばねの弾性力: \(k(l_0 – l)\) (ばねは \(l_0-l\) だけ縮んでいるため上向き)
鉛直下向きの力:
- 大気圧による力: \(p_0S\)
- ピストンの重力: \(Mg\)
これらの力がつり合っているので、次の関係式が成り立ちます。
$$pS + k(l_0 – l) = p_0S + Mg \quad \cdots ②$$
この式を \(p\) について解くことで、\(p\) と \(l\) の関係式が得られます。
グラフ:
式②を \(p\) について整理すると、\(p\) が \(l\) の1次関数となることが分かります。したがって、\(p-l\) グラフは直線になります。グラフを描く範囲は \(l_1 \le l \le l_0\) です。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
- フックの法則: \(F = kx\) (ばねの弾性力)
ばね定数 \(k\):
式①から \(k\) について解くと、
$$k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}$$
気体の圧力 \(p\) とばねの長さ \(l\) の関係式:
式②を \(p\) について整理します。
$$pS = p_0S + Mg – k(l_0 – l)$$
両辺を \(S\) で割ると、
$$p = p_0 + \frac{Mg}{S} – \frac{k}{S}(l_0 – l)$$
ここに上で求めた \(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\) を代入します。
$$p = p_0 + \frac{Mg}{S} – \frac{Mg}{S(l_0 – l_1)}(l_0 – l)$$
この式を整理するため、\(\frac{Mg}{S}\) で第二項と第三項をまとめます。
$$p = p_0 + \frac{Mg}{S} \left( 1 – \frac{l_0 – l}{l_0 – l_1} \right)$$
括弧の中を通分すると、
$$1 – \frac{l_0 – l}{l_0 – l_1} = \frac{(l_0 – l_1) – (l_0 – l)}{l_0 – l_1} = \frac{l_0 – l_1 – l_0 + l}{l_0 – l_1} = \frac{l – l_1}{l_0 – l_1}$$
したがって、関係式は次のようになります。
$$p = p_0 + \frac{Mg(l-l_1)}{S(l_0-l_1)}$$
グラフ:
この関係式は \(p = Al + B\) の形をしており、\(p\) は \(l\) の1次関数です。したがって、グラフは直線になります。
グラフの始点と終点の座標を求めます。
\(l = l_1\) のとき(状態1):
$$p = p_0 + \frac{Mg(l_1-l_1)}{S(l_0-l_1)} = p_0 + 0 = p_0$$
\(l = l_0\) のとき(状態2):
$$p = p_0 + \frac{Mg(l_0-l_1)}{S(l_0-l_1)} = p_0 + \frac{Mg}{S}$$
よって、\(p-l\) グラフは、点 \((l_1, p_0)\) と点 \((l_0, p_0 + \frac{Mg}{S})\) を結ぶ右上がりの直線セグメントとなります。
(1) まず「ばね定数」\(k\) を求めます。これはばねの硬さを示す値です。最初の状態(図1)では、ピストンは静止しており、力がつり合っています。このとき、気体の圧力と外の大気圧は同じ \(p_0\) なので、ピストンの上下から押す力は差し引きゼロです。残るのは、ピストンの重さ(下向き)と、ばねが縮んで押し上げる力(上向き)です。この二つがつり合っていることから、ばねの硬さ \(k\) を計算できます。
次に、ばねの長さが \(l\) のときの気体の圧力 \(p\) を求める式を作ります。このときもピストンは力のつり合い状態にあります。ピストンには、下から気体が押す力 (\(pS\))、上から大気が押す力 (\(p_0S\))、ピストンの重さ (\(Mg\))、そしてばねが縮んで押し上げる力 (\(k(l_0-l)\)) がかかっています(ばねの自然の長さを \(l_0\) としています)。これらの力が上下でつり合っているという式を立てて \(p\) について解くと、\(p\) を \(l\) で表す式が得られます。この式は \(l\) の一次式(\(p = A \times l + B\) のような形)になるので、グラフにすると直線になります。
ばねのばね定数は \(k = \displaystyle\frac{Mg}{l_0 – l_1}\) です。
気体の圧力 \(p\) とばねの長さ \(l\) との関係式は \(p = p_0 + \displaystyle\frac{Mg(l-l_1)}{S(l_0-l_1)}\) です。
この関係式は \(l\) の1次関数であり、グラフは直線となります。\(l=l_1\) のとき \(p=p_0\)(状態1の圧力)、\(l=l_0\) のとき \(p=p_0 + \frac{Mg}{S}\)(状態2の圧力)となり、物理的な状況と整合しています。グラフは、点 \((l_1, p_0)\) から点 \((l_0, p_0 + \frac{Mg}{S})\) へと向かう右上がりの直線です。
問(2)
思考の道筋とポイント
気体がした仕事 \(W\) は、P-Vグラフ(圧力-体積グラフ)上で、状態変化の経路とV軸(体積軸)とで囲まれた領域の面積として表されます。
問(1)で、気体の圧力 \(p\) がばねの長さ \(l\) の1次関数として変化することが分かりました。体積 \(V\) は \(V=Sl\) と表せるため、\(l = V/S\) です。これを \(p(l)\) の関係式に代入すれば、圧力 \(p\) が体積 \(V\) の1次関数 \(p(V)\) としても表せることがわかります。
したがって、状態1(体積 \(V_1=Sl_1\)、圧力 \(p_1=p_0\))から状態2(体積 \(V_2=Sl_0\)、圧力 \(p_2=p_0 + \frac{Mg}{S}\))への変化は、P-Vグラフ上で直線をなします。この間に気体がした仕事 \(W\) は、この直線とV軸、および \(V=V_1, V=V_2\) で囲まれた台形の面積として計算できます。
台形の面積は「\(\frac{1}{2} \times (\text{上底の圧力} + \text{下底の圧力}) \times (\text{体積の変化})\)」で求められます。
この設問における重要なポイント
- 気体がする仕事がP-Vグラフの面積で表されることを理解していること。
- 今回の状態1から状態2への変化では、圧力が体積の1次関数として変化するため、P-Vグラフ上の経路は直線となり、仕事は台形の面積として計算できること。
- 状態1と状態2における圧力と体積の値を正確に特定し、台形の面積公式に適用すること。
具体的な解説と立式
状態1における気体の圧力を \(p_1\)、体積を \(V_1\) とします。
\(p_1 = p_0\)
\(V_1 = Sl_1\)
状態2における気体の圧力を \(p_2\)、体積を \(V_2\) とします。
\(p_2 = p_0 + \frac{Mg}{S}\) (問(1)の \(p(l)\) の式で \(l=l_0\) としたもの)
\(V_2 = Sl_0\)
圧力 \(p\) は体積 \(V=Sl\) の1次関数なので、P-Vグラフ上での状態1から状態2への経路は直線を形成します。
気体がした仕事 \(W\) は、この直線とV軸、および \(V=V_1, V=V_2\) で囲まれた台形の面積に等しくなります。台形の面積の公式を用いると、
$$W = \frac{p_1 + p_2}{2} (V_2 – V_1) \quad \cdots ③$$
別解: エネルギー保存則の利用
状態1から状態2への変化において、気体がした仕事 \(W\) とばねがした仕事 \(W_{\text{spring}}\) の合計が、ピストンの位置エネルギーの増加 \(\Delta E_g\) と、ピストンが大気圧に逆らってした仕事 \(W_{\text{atm}}\) の和に等しいと考えます。
$$W + W_{\text{spring}} = \Delta E_g + W_{\text{atm}}$$
各項は以下の通りです。
ばねの長さは \(l_1\) から \(l_0\) へと変化し、ばねの縮みは \((l_0-l_1)\) から \(0\) へと変化します。
ばねの弾性エネルギーの変化は \(\Delta U_{\text{spring}} = U_{s2} – U_{s1} = 0 – \frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2 = -\frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2\)。
ばねがした仕事 \(W_{\text{spring}}\) は、弾性エネルギーの減少分に等しいので、\(W_{\text{spring}} = – \Delta U_{\text{spring}} = \frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2\)。
ピストンの位置エネルギーの増加は \(\Delta E_g = Mg(l_0 – l_1)\)。
ピストンが大気圧 \(p_0\) に逆らってした仕事(大気がされた仕事)は \(W_{\text{atm}} = p_0 S (l_0 – l_1)\)。
よって、エネルギー保存則の式は次のようになります。
$$W + \frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2 = Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1) \quad \cdots (別解1)$$
この式から気体がした仕事 \(W\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 仕事 (P-Vグラフの面積): 台形の面積 \(\frac{1}{2}(P_1+P_2)(V_2-V_1)\)
- (別解用) エネルギー保存則、弾性エネルギー \(U_s = \frac{1}{2}kx^2\)、位置エネルギー \(U_g = mgh\)、大気圧がする仕事 \(W_{\text{atm}} = p_0 \Delta V\)
式③に各状態の圧力と体積の値を代入して、仕事 \(W\) を計算します。
$$p_1 = p_0$$
$$p_2 = p_0 + \frac{Mg}{S}$$
$$V_1 = Sl_1$$
$$V_2 = Sl_0$$
$$W = \frac{p_0 + \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right)}{2} (Sl_0 – Sl_1)$$
$$W = \frac{2p_0 + \frac{Mg}{S}}{2} S(l_0 – l_1)$$
係数 \(S\) を括弧の中に入れると、
$$W = \left(p_0S + \frac{Mg}{2}\right) (l_0 – l_1)$$
別解の計算:
(別解1)の式 \(W + \frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2 = Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1)\) を用います。
問(1)で求めたばね定数 \(k = \frac{Mg}{l_0-l_1}\) をこの式に代入します。
$$W + \frac{1}{2} \left(\frac{Mg}{l_0-l_1}\right) (l_0-l_1)^2 = Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1)$$
左辺の第二項を簡単にすると、
$$W + \frac{1}{2}Mg(l_0-l_1) = Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1)$$
\(W\) について解くと、
$$W = Mg(l_0-l_1) – \frac{1}{2}Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1)$$
$$W = \frac{1}{2}Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1)$$
共通因子 \((l_0-l_1)\) でくくりだすと、
$$W = \left(p_0S + \frac{1}{2}Mg\right) (l_0-l_1)$$
これはP-Vグラフの面積から求めた結果と一致します。
気体が外部にした「仕事」は、P-Vグラフ(縦軸が圧力P、横軸が体積Vのグラフ)の上で、状態1から状態2への変化を表す線と、その下のV軸とで囲まれた部分の「面積」として計算できます。
(1)で、気体の圧力 \(p\) はばねの長さ \(l\) (つまり体積 \(V=Sl\)) の一次関数(グラフにすると直線)になることが分かりました。したがって、P-Vグラフ上でも、状態1から状態2への変化は直線になります。
この直線とV軸とで囲まれる図形は台形になります。台形の面積は「(状態1の圧力+状態2の圧力)×(状態2の体積-状態1の体積)÷2」という公式で計算できます。それぞれの圧力と体積の値はすでに分かっているので、これらを公式に代入すれば、気体がした仕事が求まります。
状態1から2へ変わる間に、気体がした仕事 \(W\) は \(\displaystyle \left(p_0S + \frac{Mg}{2}\right) (l_0 – l_1)\) です。
この仕事の値は正となります(\(l_0 > l_1\) であるため)。これは、気体が膨張して外部に正の仕事をしたことを意味し、物理的な状況(加熱による膨張)と整合しています。単位も (圧力×面積×長さ) = (力×長さ) = エネルギーの単位 [J] となり、物理的に妥当です。別解としてエネルギー保存則を用いても同じ結果が得られることが確認できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
気体は単原子分子の理想気体なので、その内部エネルギー \(U\) は絶対温度 \(T\) に比例し、\(U = \frac{3}{2}nRT\) で与えられます。ここで \(n\) は物質量、\(R\) は気体定数です。理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を用いると、内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}PV\) とも書けます。
したがって、状態1から状態2への内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、\(\Delta U = U_2 – U_1 = \frac{3}{2}(P_2V_2 – P_1V_1)\) として計算できます。
状態1 (\(P_1, V_1\)) と状態2 (\(P_2, V_2\)) における圧力と体積の値は既に特定されています。
\(P_1=p_0\), \(V_1=Sl_1\)。
\(P_2=p_0 + \frac{Mg}{S}\), \(V_2=Sl_0\)。
これらの値を上記の式に代入して \(\Delta U\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの表式 \(U = \frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}PV\) を正しく用いること。
- 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、変化後の内部エネルギー \(U_2\) から変化前の内部エネルギー \(U_1\) を引いたものであること (\(\Delta U = U_2 – U_1\))。
- 状態1と状態2における圧力と体積の値を正確に代入し、計算すること。
具体的な解説と立式
単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、状態1の内部エネルギーを \(U_1\)、状態2の内部エネルギーを \(U_2\) とすると、
$$\Delta U = U_2 – U_1$$
内部エネルギーの公式 \(U = \frac{3}{2}PV\) (単原子分子理想気体の場合)を用いると、
$$\Delta U = \frac{3}{2}(P_2V_2 – P_1V_1) \quad \cdots ④$$
ここで、各状態における圧力と体積は以下の通りです。
状態1: \(P_1 = p_0\), \(V_1 = Sl_1\)
状態2: \(P_2 = p_0 + \frac{Mg}{S}\), \(V_2 = Sl_0\)
これらの値を式④に代入して \(\Delta U\) を求めます。
使用した物理公式
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}PV\)
- 内部エネルギーの変化: \(\Delta U = U_後 – U_初\)
まず、\(P_2V_2\) と \(P_1V_1\) の値を計算します。
$$P_2V_2 = \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right) (Sl_0) = p_0Sl_0 + \frac{Mg}{S}Sl_0 = p_0Sl_0 + Mgl_0$$
$$P_1V_1 = p_0 (Sl_1) = p_0Sl_1$$
これらの結果を式④に代入します。
$$\Delta U = \frac{3}{2} \left( (p_0Sl_0 + Mgl_0) – p_0Sl_1 \right)$$
\(p_0S\) で共通項を整理すると、
$$\Delta U = \frac{3}{2} \left( p_0S(l_0 – l_1) + Mgl_0 \right)$$
気体の「内部エネルギー」とは、大まかに言うと、気体を構成する分子が持っている運動エネルギーの総和のことで、これは気体の温度に比例します。単原子分子の理想気体の場合、内部エネルギーは「\(\frac{3}{2} \times \text{気体の圧力} \times \text{気体の体積}\)」という簡単な式でも計算できます。
内部エネルギーがどれだけ「変化」したかを知りたいので、状態2での内部エネルギーから状態1での内部エネルギーを引き算します。つまり、「\(\frac{3}{2} \times (\text{状態2での圧力} \times \text{状態2での体積} – \text{状態1での圧力} \times \text{状態1での体積})\)」を計算すればよいわけです。状態1と状態2の圧力と体積の値はすでに分かっているので、それらをこの式に代入して計算します。
状態1から2へ変わる間の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は \(\displaystyle \frac{3}{2} \left( p_0S(l_0 – l_1) + Mgl_0 \right)\) です。
気体はゆっくりと熱を加えられて膨張し、ばねの長さが \(l_1\) から自然長の \(l_0\) (\(l_0 > l_1\)) へと長くなっています。この過程で一般に温度は上昇すると考えられ、したがって内部エネルギーも増加すると予想されます。\(l_0 > l_1\) であり、他の物理量 \(p_0, S, M, g, l_0\) は全て正の量なので、計算結果の \(\Delta U\) は正の値となり、内部エネルギーが増加したことを示しています。これは物理的に妥当な結果です。単位も \(P_0S(l_0-l_1)\) や \(Mgl_0\) がエネルギーの次元を持つため、全体としてエネルギーの単位 [J] となります。
問(4)
思考の道筋とポイント
気体に加えた熱量 \(Q\) を求めるには、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を利用します。この法則を変形すると \(Q = \Delta U + W\) となります。
問(2)で気体がした仕事 \(W\) を、問(3)で内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を既に計算しているので、これらの結果を単純に足し合わせることで、気体に加えた熱量 \(Q\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) (あるいはその変形 \(Q = \Delta U + W\)) を正しく適用すること。
- 前の設問で計算した仕事 \(W\) と内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) の値を正確に用いて計算すること。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則は、気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)、気体に加えられた熱量 \(Q\)、そして気体が外部にした仕事 \(W\) の間に成り立つ関係式であり、次のように表されます。
$$\Delta U = Q – W$$
これを \(Q\) について解くと、気体に加えられた熱量 \(Q\) は次のように求められます。
$$Q = \Delta U + W \quad \cdots ⑤$$
問(2)で求めた仕事 \(W\) は、
$$W = \left(p_0S + \frac{Mg}{2}\right) (l_0 – l_1)$$
問(3)で求めた内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$\Delta U = \frac{3}{2} \left( p_0S(l_0 – l_1) + Mgl_0 \right)$$
これらの結果を式⑤に代入して \(Q\) を計算します。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
式⑤に \(W\) と \(\Delta U\) の値を代入します。
$$Q = \left[ \frac{3}{2} \left( p_0S(l_0 – l_1) + Mgl_0 \right) \right] + \left[ \left(p_0S + \frac{Mg}{2}\right) (l_0 – l_1) \right]$$
各項を展開し、整理していきます。
$$Q = \frac{3}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \frac{3}{2}Mgl_0 + p_0S(l_0 – l_1) + \frac{1}{2}Mg(l_0 – l_1)$$
\(p_0S(l_0 – l_1)\) を含む項をまとめます。
$$Q = \left(\frac{3}{2} + 1\right)p_0S(l_0 – l_1) + \frac{3}{2}Mgl_0 + \frac{1}{2}Mg(l_0 – l_1)$$
$$Q = \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \frac{3}{2}Mgl_0 + \frac{1}{2}Mgl_0 – \frac{1}{2}Mgl_1$$
\(Mgl_0\) を含む項をまとめます。
$$Q = \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \left(\frac{3}{2} + \frac{1}{2}\right)Mgl_0 – \frac{1}{2}Mgl_1$$
$$Q = \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + 2Mgl_0 – \frac{1}{2}Mgl_1$$
模範解答の形式 \(\frac{5}{2}p_0S(l_0-l_1) + \frac{1}{2}Mg(4l_0-l_1)\) に合わせるため、\(Mg\) の項を \(\frac{1}{2}Mg\) でくくります。
$$2Mgl_0 – \frac{1}{2}Mgl_1 = \frac{1}{2}Mg(4l_0) – \frac{1}{2}Mgl_1 = \frac{1}{2}Mg(4l_0 – l_1)$$
したがって、気体に加えた熱量 \(Q\) は、
$$Q = \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \frac{1}{2}Mg(4l_0 – l_1)$$
気体にどれだけの熱を加えたか (\(Q\)) を知るには、物理学の非常に重要な法則である「熱力学第一法則」を使います。この法則は、「気体に加えられた熱量 \(Q\) は、気体の内部エネルギーがどれだけ増えたか (\(\Delta U\)) と、気体が外部に対してどれだけ仕事をしたか (\(W\)) の合計に等しい」というものです。式で書くと \(Q = \Delta U + W\) となります。
私たちは前の(2)で気体がした仕事 \(W\) を、(3)で内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) をすでに計算しています。ですから、これらの結果を単純に足し算すれば、気体に加えられた熱量 \(Q\) が求まるわけです。
状態1から2へ変わる間に、気体に加えた熱量 \(Q\) は \(\displaystyle \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \frac{1}{2}Mg(4l_0 – l_1)\) です。
気体は加熱されて膨張し、温度も上昇していると考えられるため、加えられた熱量 \(Q\) が正の値となることは物理的に妥当です。実際に、\(l_0 > l_1\) であり、式中の \(4l_0 – l_1\) も \(4l_0 – l_1 > 4l_1 – l_1 = 3l_1 > 0\) と考えられる(通常 \(l_0\) と \(l_1\) は近い値であることが多いが、\(l_0>l_1\) であれば \(4l_0 > l_1\) は十分に成り立つ)ため、\(Q\) は正の値をとります。単位も各項がエネルギーの次元 [J] となっているため、物理的に整合性があります。
【コラム】Q. 状態2からさらに熱を加えてばねの長さを \(l_2 (>l_0)\) とするときの仕事
思考の道筋とポイント
この設問では、状態2(ばねが自然長 \(l_0\) であった状態)からさらに気体に熱を加え、ばねの長さを \(l_2\) (\(l_2 > l_0\)、つまりばねが自然長から伸びる状態)にしたときに、気体がする仕事 \(W’\) をエネルギー保存則の観点から求めます。
気体が仕事 \(W’\) をすると、そのエネルギーは周囲の系のエネルギー変化や外部への仕事に使われます。具体的には、以下の3つの要素の合計として考えることができます。
1. ピストンの位置エネルギーの増加 (\(\Delta E_g\)): ピストンが上昇することによる。
2. ばねの弾性エネルギーの増加 (\(\Delta E_s\)): ばねが自然長から伸びることによる。
3. ピストンが大気圧に逆らってする仕事 (\(W_{\text{atm}}\)): ピストンが動くことで大気を押しのける仕事。
したがって、エネルギー保存則から \(W’ = \Delta E_g + \Delta E_s + W_{\text{atm}}\) という関係式が成り立ちます。各項を具体的に計算し、それらを足し合わせることで、気体がした仕事 \(W’\) を導き出します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則を正しく適用すること。気体が外部にした仕事が、系の他の部分の力学的エネルギーの増加や、大気圧に対する仕事に変換されるという視点を持つこと。
- 各エネルギー変化量(ピストンの位置エネルギー、ばねの弾性エネルギー)を正確に計算すること。特に、ばねの伸びは自然長 \(l_0\) からの変位であることに注意する。
- 大気圧がピストンの動きに対してする仕事(または大気圧に逆らってピストンがする仕事)を正しく考慮に入れること。
- 問(1)で求めたばね定数 \(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\) を使用すること。
具体的な解説と立式
状態2(ばねの長さ \(l_0\)、このときばねは自然長)から、ばねの長さが \(l_2\) (\(l_2 > l_0\)) になるまで気体が外部にする仕事を \(W’\) とします。
この変化の間に起こるエネルギー変化および仕事は以下の通りです。
1. ピストンの位置エネルギーの増加 \(\Delta E_g\):
ピストンの高さは \(l_0\) から \(l_2\) へと \((l_2 – l_0)\) だけ上昇します。したがって、位置エネルギーの増加は、
$$\Delta E_g = Mg(l_2 – l_0) \quad \cdots (Q1)$$
2. ばねの弾性エネルギーの増加 \(\Delta E_s\):
状態2では、ばねは自然長 \(l_0\) なので、弾性エネルギーは \(0\) です。ばねの長さが \(l_2\) のとき、ばねは自然長から \((l_2 – l_0)\) だけ伸びています。ばね定数は問(1)より \(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\) です。弾性エネルギーの増加は、
$$\Delta E_s = \frac{1}{2}k(l_2 – l_0)^2 – 0 = \frac{1}{2}k(l_2 – l_0)^2 \quad \cdots (Q2)$$
3. ピストンが大気圧に逆らってする仕事 \(W_{\text{atm}}\):
ピストンが動くことで、大気圧 \(p_0\) に逆らって仕事をします。体積の変化は \(\Delta V = S(l_2 – l_0)\) です。
$$W_{\text{atm}} = p_0 \Delta V = p_0 S (l_2 – l_0) \quad \cdots (Q3)$$
エネルギー保存則より、気体がした仕事 \(W’\) は、これらのエネルギー増加と外部への仕事の合計に等しくなります。
$$W’ = \Delta E_g + \Delta E_s + W_{\text{atm}} \quad \cdots (Q4)$$
この式に、上で求めた各項を代入します。
使用した物理公式
- エネルギー保存則 (気体がした仕事 = 力学的エネルギーの増加 + 大気への仕事)
- 位置エネルギーの変化: \(\Delta U_g = mg\Delta h\)
- 弾性エネルギーの変化: \(\Delta U_s = \frac{1}{2}kx_後^2 – \frac{1}{2}kx_初^2\)
- 一定圧力下での仕事: \(W = P\Delta V\)
- ばね定数 (問(1)の結果): \(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\)
式(Q4)に、式(Q1), (Q2), (Q3)で表された各エネルギー項および仕事項を代入します。
$$W’ = Mg(l_2 – l_0) + \frac{1}{2}k(l_2 – l_0)^2 + p_0S(l_2 – l_0)$$
ここで、問(1)で求めたばね定数 \(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\) を代入します。
$$W’ = Mg(l_2 – l_0) + \frac{1}{2}\left(\frac{Mg}{l_0 – l_1}\right)(l_2 – l_0)^2 + p_0S(l_2 – l_0)$$
共通因子 \((l_2 – l_0)\) で全体をくくりだします。
$$W’ = \left[ Mg + \frac{1}{2}\frac{Mg(l_2 – l_0)}{l_0 – l_1} + p_0S \right] (l_2 – l_0)$$
角括弧の中の \(Mg\) を含む項を整理するために通分します。
$$Mg + \frac{Mg(l_2 – l_0)}{2(l_0 – l_1)} = \frac{2Mg(l_0 – l_1) + Mg(l_2 – l_0)}{2(l_0 – l_1)}$$
分子を展開して整理すると、
$$2Mgl_0 – 2Mgl_1 + Mgl_2 – Mgl_0 = Mgl_0 + Mgl_2 – 2Mgl_1 = Mg(l_0 + l_2 – 2l_1)$$
よって、\(Mg\) を含む項は \(Mg \frac{l_0 + l_2 – 2l_1}{2(l_0 – l_1)}\) となります。
これを元の式に戻すと、気体がする仕事 \(W’\) は、
$$W’ = \left\{ Mg \frac{l_0 + l_2 – 2l_1}{2(l_0 – l_1)} + p_0S \right\} (l_2 – l_0)$$
これは模範解答のQの答え と一致します。
状態2(ばねが自然の長さ \(l_0\))から、さらに熱を加えてばねの長さを \(l_2\) まで伸ばしたと想像してください(\(l_2\) は \(l_0\) よりも長いです)。このとき、気体が頑張って仕事 \(W’\) をしますが、そのエネルギーはどこへ行ったのでしょうか?「エネルギー保存の法則」を使うと、気体がした仕事の分だけ、周りのもののエネルギーが増えたり、外部の力に逆らって仕事をしたりしたはずです。
具体的には、次の3つの形でエネルギーが使われたり、仕事がされたりします。
1. ピストンが \(l_0\) から \(l_2\) へと高くなるので、ピストンの「位置エネルギー」が増えます。
2. ばねが自然の長さ \(l_0\) から \(l_2\) まで伸びるので、ばねの「弾性エネルギー」が増えます。
3. ピストンが上に動くことで、外の大気圧 \(p_0\) を押しのけるので、大気圧に対して「仕事」をします。
気体がした仕事 \(W’\) は、これら3つのエネルギーの増加分や仕事の合計に等しくなります。それぞれの値を計算し、最後に全部足し合わせれば、気体がした仕事 \(W’\) が求まります。
状態2からさらに熱を加えてばねの長さを \(l_2 (>l_0)\) としたとき、この間に気体がする仕事 \(W’\) は、
\(W’ = \displaystyle \left\{ Mg \frac{l_0 + l_2 – 2l_1}{2(l_0 – l_1)} + p_0S \right\} (l_2 – l_0)\) です。
この結果は、気体が外部に対して正の仕事をしたことを示しており(\(l_2 > l_0\) のため)、その仕事がピストンの位置エネルギー増加、ばねの弾性エネルギー増加、そして大気圧に対する仕事という具体的な物理現象に分配されたことをエネルギー保存則の観点から明確に表しています。各項は物理的に意味のあるエネルギーや仕事の形をしており、単位もエネルギーの次元 [J] となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い: ピストンが静止している、またはゆっくりと準静的に運動しているとみなせる場合、ピストンに働く力の総和はゼロであるという条件。これにより、気体の圧力とばねの伸び(または縮み)、ピストンの質量、大気圧の関係が明らかになりました。
- フックの法則: ばねの弾性力 \(F_k = kx\) は、ばねの自然長からの変位 \(x\) に比例するという法則。ばね定数 \(k\) の決定や、ばねの長さ \(l\) と気体の圧力 \(p\) の関係を導く際に用いられました。
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)): 気体の圧力、体積、温度の関係を示す基本法則。内部エネルギーの計算や、温度が直接与えられていない場合の物理量の関連付けに不可欠でした。
- 仕事の定義とP-Vグラフ: 気体がする仕事 \(W\) は、P-Vグラフ上で状態変化の経路とV軸で囲まれた面積で表されます。今回は圧力が体積の一次関数として変化したため、台形の面積として計算できました。
- 内部エネルギー (単原子分子理想気体): \(U = \frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}PV\)。この関係を用いて、状態変化に伴う内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を計算しました。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\)): 気体の内部エネルギーの変化、気体が吸収(放出)した熱量、気体がした(された)仕事の間のエネルギー保存則。加えられた熱量 \(Q\) を求める際に中心的な役割を果たしました。
- エネルギー保存則 (力学的エネルギーと熱力学の融合): (問2の別解やコラムQで) 気体がする仕事が、ピストンの位置エネルギーの変化、ばねの弾性エネルギーの変化、大気圧に対する仕事などに変換されるという、より広範なエネルギー保存の視点も有効でした。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか。
- ばねだけでなく、外部からおもりを載せたり取り除いたりするピストンの問題。
- 水平に置かれたシリンダーとばね付きピストンの問題(重力の影響が変わる)。
- 断熱材で囲まれたシリンダーではなく、外部と熱のやり取りがある場合(等温変化など)。
- 気体が単原子分子ではなく二原子分子の場合(モル比熱や内部エネルギーの係数が変わる)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか。
- 力のつり合いの図示: ピストンにどのような力が働いているのかを、まず正確に図示し、力のつり合いの式を立てることが第一歩です。特に、ばねの弾性力の向きと大きさに注意します。
- 気体の圧力変化の把握: ピストンの動き(ばねの伸縮)に伴って、気体の圧力がどのように変化するかを求めることが重要です。これが分かれば、仕事の計算や状態方程式の適用が具体的に行えます。
- 状態変化の種類の特定: 今回は明確な定積・定圧変化ではありませんでしたが(状態1から2への変化は圧力が直線的に変化)、各微小過程を追う、あるいは全体のエネルギー収支を考えるといったアプローチが必要です。
- エネルギーの出入りと保存: 熱力学第一法則はもちろん、力学的エネルギー(位置エネルギー、弾性エネルギー)も含めた広義のエネルギー保存則が成り立つか、あるいはどのエネルギー形態間で変換が起こっているかを考える視点が有効です。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か。
- ばねの自然長と実際の長さ、そして変位(伸びまたは縮み)の関係を混同しないこと。
- 仕事の計算で、P-Vグラフの面積を正しく評価すること。圧力が一定でない場合は積分が必要になりますが、直線変化なら台形の面積で済みます。
- 熱力学第一法則の各項(\(\Delta U, Q, W\))の符号の規約を常に意識すること(例:気体が仕事をする場合は \(W>0\)、熱を吸収する場合は \(Q>0\) など)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のつり合いの式の誤り:
- 現象: 特にばねの弾性力の向きや、自然長からの変位の取り方を間違えやすい。また、気体の圧力による力と大気圧による力の扱いも注意が必要です。
- 対策: 必ずピストンに働く全ての力をベクトル図で正確に示し、それぞれの力の向きと大きさを確認しながら立式する。
- 仕事の計算:
- 現象: 圧力が変化する場合の仕事の計算を、単純に \(P\Delta V\) としてしまう(これは定圧変化の場合のみ)。
- 対策: P-Vグラフの面積が仕事であることを常に意識し、圧力が変化する場合は台形や三角形の面積、あるいは積分を用いて正しく計算する。
- 内部エネルギー変化と温度変化の関係:
- 現象: \(U=\frac{3}{2}nRT\) を使うべきところで、\(U=\frac{3}{2}PV\) との関係を忘れて温度 \(T\) を求めようとして複雑になる、あるいはその逆。
- 対策: 状態方程式 \(PV=nRT\) を仲介として、これらの表現が等価であることを常に意識する。
- エネルギー保存則の適用範囲と各項の符号:
- 現象: 熱力学第一法則はエネルギー保存則の一形態ですが、力学的エネルギー(ばねの弾性エネルギーや位置エネルギー)の変化も同時に起こる場合、それらをどのように関連付けるかで混乱しやすい。特に、仕事やエネルギー変化の符号の取り扱いでミスが起こりやすい。
- 対策: どの系に注目しているのか(気体のみか、ピストンやばねも含む系か)を明確にし、エネルギーの出入りや変換を丁寧に追跡する。各項の定義(例:ばねがする仕事 vs ばねの弾性エネルギーの変化)を正確に理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の重要性
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか。
- 力のつり合いの図 (フリーボディダイアグラム): ピストンに働く全ての力(気体の圧力、大気圧、重力、ばねの弾性力)を、力の作用点と向きが分かるように矢印で図示することが、力のつり合いの式を正確に立てる上で不可欠でした。特にばねの力が伸び縮みによってどう変わるかをイメージすることが重要です。
- P-Vグラフ (またはP-lグラフ): (1)で求めた圧力とばねの長さ(体積に比例)の関係をグラフにすることで、(2)の仕事の計算が台形の面積として視覚的に捉えやすくなりました。
- エネルギーの流れのイメージ: 気体に熱を加えると、そのエネルギーが内部エネルギーの増加と外部への仕事に分配される(熱力学第一法則)という流れをイメージすること。また、(問2の別解やコラムQでは) 気体がした仕事が、ピストンの位置エネルギーやばねの弾性エネルギーの増加、大気圧に抗する仕事に変わるというエネルギー変換のイメージが有効でした。
- 図を描く際に注意すべき点は何か。
- 力のベクトルは、作用点、向き、そして可能であれば相対的な大きさを考慮して描く。
- P-Vグラフでは、軸の物理量と単位を明記し、状態点や変化の経路を正確にプロットする。特に変化の方向を矢印で示す。
- エネルギー図を描く場合は、どのエネルギー形態がどのように変化し、相互に変換されるのかを明確にする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合い (\(\sum F = 0\)):
- 選定理由: ピストンが静止しているか、ゆっくりと(加速度が無視できるほど)動いている状況を記述するため。
- 適用根拠: ニュートンの運動の法則。
- フックの法則 (\(F_k = kx\)):
- 選定理由: ばねによる弾性力を計算するため。
- 適用根拠: ばねの性質を表す実験則(弾性限界内)。
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 選定理由: 気体の圧力、体積、温度の関係を議論するため。
- 適用根拠: 「理想気体」と問題文に明記されている。
- 内部エネルギー (\(U=\frac{3}{2}PV\)):
- 選定理由: 単原子分子理想気体の内部エネルギーとその変化を、圧力と体積から計算するため。
- 適用根拠: 「単原子分子理想気体」と明記されている。
- 仕事 (\(W = \text{P-Vグラフ面積}\)):
- 選定理由: 気体がした仕事を計算するため。特に圧力が変化する場合に有効。
- 適用根拠: 仕事の定義 \(\int PdV\)。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
- 選定理由: 熱の出入り、仕事、内部エネルギー変化の間のエネルギー保存関係を記述するため。
- 適用根拠: エネルギー保存則の熱現象への拡張。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期状態の分析 (問1前半): 状態1での力のつり合いに着目し、未知のばね定数 \(k\) を決定する。
- 一般状態の圧力の導出 (問1後半): ばねの長さが \(l\) のときの力のつり合いから、気体の圧力 \(p\) を \(l\) の関数として表す。これにより、状態1から2への変化中の圧力変化の様子が明らかになる。
- 仕事の計算 (問2): \(p(l)\) の関係をP-Vグラフに置き換え(\(V=Sl\) なので \(p(V)\) の形)、グラフの面積として仕事を計算する。または、エネルギー保存則の視点から仕事を求める。
- 内部エネルギー変化の計算 (問3): 状態1と状態2の \(P,V\) の値を用いて、\(\Delta U = \frac{3}{2}(P_2V_2 – P_1V_1)\) により内部エネルギー変化を計算する。
- 熱量の計算 (問4): 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を用いて、求めた \(\Delta U\) と \(W\) から加えられた熱量 \(Q\) を算出する。
- (コラムQ) エネルギー保存則を状態2から \(l_2\) への変化に適用し、気体がする仕事を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で、ミスを防ぐために特に注意すべき点はどこだったか。
- 力のつり合いの式の符号: ばねの弾性力の向き、重力、圧力による力の向きを正確に把握し、式の符号を間違えないこと。
- 文字式の整理: \(P_0, V_0, S, M, g, l_0, l_1, k, l\) など多くの文字が出てくるため、代入や整理の際に項を混同したり、計算ミスをしたりしやすい。特に(4)の熱量計算では多くの項をまとめる必要がありました。
- 単位の換算や次元の意識: 今回は文字式が中心でしたが、各項がエネルギーの次元を持っているかなどを頭の片隅で意識すると、大きな間違いに気づきやすくなります。
- 別解でのエネルギーの各項の定義: エネルギー保存則を用いる際、どのエネルギーが変化し、どの力が仕事をするのかを明確に区別し、符号を間違えないようにする。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 途中式を丁寧に書く: 複雑な文字式の計算では特に、各ステップを省略せずに記述することで、見直しが容易になり、間違いも発見しやすくなります。
- 共通因数でくくる: 計算の途中で共通因数を見つけて式を整理することで、見通しが良くなり、計算量が減ることがあります。
- 定義に立ち返る: 仕事やエネルギーの定義を常に意識し、式の各項が何を表しているのかを理解しながら計算する。
- 図との対応: P-Vグラフや力のつり合いの図と、立式した数式が正しく対応しているかを確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性。
- 物理量の符号: 仕事 \(W\) や熱量 \(Q\) が正になるか負になるかは、気体が膨張したか圧縮したか、熱を吸収したか放出したかという物理現象と一致している必要があります。例えば、(2)で気体は膨張 (\(l_0 > l_1\)) しているので仕事 \(W\) は正、(4)で熱を加えたとあるので \(Q\) は正になることが期待され、実際そうなっています。
- 単位の確認: 得られた結果の式が、求めたい物理量の正しい単位(次元)を持っているかを確認します。例えば、仕事や熱量はエネルギーの次元 (\( [力] \times [長さ] \) など) を持つはずです。
- 極端な場合を考える: 例えば、もし \(M=0\)(ピストンの質量が無視できる)なら、ばね定数 \(k=0\) となり、ばねがない状況に近づくはずですが、この問題設定では \(l_0-l_1\) が分母にあるため、この極限は単純には考えられません。しかし、\(l_1 \rightarrow l_0\) (初期の縮みが非常に小さい)とすると、\(k\) が非常に大きくなる、といった傾向を考えることはできます。
- 別解との比較: (2)の仕事のように別解がある場合、両者の結果が一致するかどうかは強力な検算手段になります。
- 「解の吟味」を通じて得られること:
- 計算ミスや立式の誤りを早期に発見する手がかりになります。
- 物理法則がどのように現象を記述しているのか、数式の背後にある物理的な意味や構造をより深く理解することができます。
- 単に答えを出すだけでなく、「なぜそうなるのか?」を考えることで、論理的思考力や応用力が養われます。
問題56 (早稲田大+近畿大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、コックで連結された2つの容器AとBに封入された単原子分子理想気体の状態変化を扱います。コックの開閉や容器の温度変化によって、気体の圧力、物質量の分布、最終的な温度や圧力がどのように変わるかを、理想気体の状態方程式や内部エネルギー保存則を駆使して解析していきます。
- 容器Aの体積: \(2V \text{ [m}^3\text{]}\)
- 容器Bの体積: \(V \text{ [m}^3\text{]}\)
- 連結管: コック付きの細いガラス管(体積は無視)
- 封入気体: 単原子分子の理想気体、総物質量 \(n \text{ [mol]}\)
- 気体定数: \(R \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\)
- (1) コックを開き、容器Aを温度 \(\frac{4}{3}T \text{ [K]}\)、容器Bを温度 \(T \text{ [K]}\) の恒温槽につけたときの定常状態における圧力と、A内の気体の物質量。
- (2) (1)の後コックを閉じ、Aの温度を \(2T \text{ [K]}\) にし(Bは \(T \text{ [K]}\) のまま)、その後全体をすばやく断熱材で囲んでからコックを開いた場合:
- コックを開いた直後の気体の流れの向き((a) AからBへ流れる、(b) 流れない、(c) BからAへ流れる)。
- 十分時間がたった後の気体の温度と圧力。
- 【コラム】Q. (2)で気体が単原子分子気体ではない(定積モル比熱 \(C_v \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\))場合、十分時間がたった後の気体の温度はどうなるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くための基本戦略は、各状況において理想気体の状態方程式を適用し、物質量の保存、圧力平衡(コックが開いている場合)、そして内部エネルギー保存(断熱混合の場合)の法則を適切に使い分けることです。単原子分子理想気体の場合、内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}NRT\) と表され、定積モル比熱は \(C_v = \frac{3}{2}R\) となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
コックが開いており、系が定常状態に達したとき、容器Aと容器B内の気体の圧力は等しくなります。この共通の圧力を \(P\) と置きます。容器A内の気体の物質量を \(n_A\) とすると、系全体の総物質量は \(n\) で一定なので、容器B内の気体の物質量は \(n_B = n – n_A\) と表すことができます。
次に、容器Aと容器Bそれぞれについて、与えられた体積と温度、そして未知数である圧力 \(P\) と物質量 \(n_A\) (または \(n_B\))を用いて理想気体の状態方程式を立てます。これにより2つの独立した方程式が得られるため、これらを連立させて解くことで、未知数 \(P\) と \(n_A\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- コックが開いている定常状態では、両容器内の圧力が等しい(\(P_A = P_B = P\))という圧力平衡の条件を適用すること。
- 系全体の総物質量は保存されるため、一方の容器の物質量を \(n_A\) とすれば、他方は \(n – n_A\) と表せること。
- 各容器について、それぞれの体積、温度、物質量、そして共通の圧力を用いて理想気体の状態方程式を正確に立式すること。
具体的な解説と立式
定常状態における共通の圧力を \(P\)、容器A内の気体の物質量を \(n_A\) とします。
容器Aの体積は \(2V\)、温度は \(\frac{4}{3}T\) です。
容器Bの体積は \(V\)、温度は \(T\) です。
容器B内の気体の物質量は \(n_B = n – n_A\) となります。
容器Aについて、理想気体の状態方程式 \(PV = NRT\) を適用すると、
$$P \cdot (2V) = n_A R \left(\frac{4}{3}T\right) \quad \cdots ①$$
容器Bについて、理想気体の状態方程式を適用すると、
$$P \cdot V = (n – n_A) RT \quad \cdots ②$$
これら2つの式を連立して、未知数である圧力 \(P\) と物質量 \(n_A\) を求めます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = NRT\) (ここで \(N\) は物質量)
- 圧力平衡の条件 (コックが開いている定常状態): \(P_A = P_B\)
- 物質量保存の法則: \(N_A + N_B = N_{\text{総}}\)
まず、物質量 \(n_A\) を求めます。
式②から \(PV\) を得て、これを式①の左辺 \(2PV\) に代入することを考えます。
式②より、\(PV = (n – n_A)RT\)。
式①は \(P(2V) = 2(PV) = n_A R \frac{4}{3}T\) と書けるので、\(PV = n_A R \frac{2}{3}T\) となります。
したがって、これら二つの \(PV\) の表現を等しいとおくと、
$$(n – n_A)RT = n_A R \frac{2}{3}T$$
両辺に共通する \(RT\) を消去します(気体定数 \(R \neq 0\)、絶対温度 \(T \neq 0\) と仮定)。
$$n – n_A = \frac{2}{3}n_A$$
この式を \(n_A\) について解きます。
$$n = n_A + \frac{2}{3}n_A$$
$$n = \left(1 + \frac{2}{3}\right)n_A = \left(\frac{3}{3} + \frac{2}{3}\right)n_A = \frac{5}{3}n_A$$
よって、A内の気体の物質量 \(n_A\) は、
$$n_A = \frac{3}{5}n$$
次に、この \(n_A\) の結果を用いて圧力 \(P\) を求めます。式② \(PV = (n – n_A)RT\) に \(n_A = \frac{3}{5}n\) を代入するのが簡単です。
$$n – n_A = n – \frac{3}{5}n = \frac{2}{5}n$$
これを式②に代入すると、
$$P \cdot V = \left(\frac{2}{5}n\right) RT$$
したがって、圧力 \(P\) は、
$$P = \frac{2nRT}{5V}$$
(1) コックが開いているので、容器AとBの中の気体の圧力は最終的に同じ値 \(P\) になります。Aの中に入っている気体の量を \(n_A\) モルとすると、Bの中には残りの \(n – n_A\) モルが入っていることになります(全体の気体の量は \(n\) モルで変わらないので)。
ここで、AとBそれぞれについて、気体の基本法則である「状態方程式」(圧力×体積 = 物質量×気体定数×温度)を使います。
Aについては: \(P \times (2V) = n_A \times R \times (\frac{4}{3}T)\)
Bについては: \(P \times V = (n – n_A) \times R \times T\)
これで未知数が \(P\) と \(n_A\) の2つの式ができました。これらをうまく組み合わせて(例えば、一方の式から \(P\) についての形にしてもう一方に代入するなどして)、\(n_A\) をまず求め、次にその結果を使って \(P\) を計算します。
定常状態における圧力は \(P = \displaystyle\frac{2nRT}{5V}\) であり、容器A内の気体の物質量は \(n_A = \displaystyle\frac{3}{5}n\) です。
得られた物質量 \(n_A = \frac{3}{5}n\) は、総物質量 \(n\) よりも小さく(\(\frac{3}{5} < 1\))、かつ正の値であるため物理的に妥当です。また、圧力 \(P\) も正の値となり、各物理量の次元も圧力の次元 (\(\frac{\text{エネルギー}}{\text{体積}}\)) となっており適切です。
問(2)
思考の道筋とポイント
気体の流れの向きの判断:
(1)の定常状態の後、まずコックを閉じます。この時点では、A内には物質量 \(n_A = \frac{3}{5}n\) の気体が温度 \(\frac{4}{3}T\)、体積 \(2V\) で存在し、B内には物質量 \(n_B = n – n_A = \frac{2}{5}n\) の気体が温度 \(T\)、体積 \(V\) で存在します。
次に、容器Aがつけてある恒温槽の温度を \(2T\) にします(Bは温度 \(T\) のまま)。コックは閉じたままなので、A内の気体の物質量 \(n_A\) は変わりませんが、温度が \(2T\) に上昇するため、A内の圧力は変化します。この新しいA内の圧力を \(P_A’\) とします。一方、B内の状態(物質量 \(n_B\)、体積 \(V\)、温度 \(T\))は変化していないため、B内の圧力 \(P_B’\) は(1)で求めた共通圧力 \(P\) と同じ値になります。
コックを開くと、圧力の高い方から低い方へ気体が流れます。したがって、\(P_A’\) と \(P_B’\) をそれぞれ計算し、その大小を比較することで気体の流れの向きを判断します。
十分時間がたった後の気体の温度 \(T’\) と圧力 \(P’\):
容器AとBを恒温槽から取り出し、全体を「すばやく断熱材で囲んでから」コックを開きます。「すばやく断熱材で囲む」という記述は、この後の混合プロセスが外部との熱のやり取りなしに(断熱的に)行われることを意味します (\(Q=0\))。また、容器の体積は固定されており、ピストンなどの可動部分もないため、気体が外部に対してする仕事もありません (\(W=0\))。
このような条件下で2つの気体が混合する場合、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) より、系全体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は0となります。つまり、混合前と混合後で、系全体の内部エネルギーの総和は保存されます。
気体は単原子分子理想気体なので、内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}NRT\) で与えられます。混合前のA内の内部エネルギー \(U_A’\)(温度 \(2T\))とB内の内部エネルギー \(U_B’\)(温度 \(T\))の和が、混合後の気体全体の内部エネルギー \(U_{\text{後}}\)(未知の最終温度を \(T’\) とする)に等しくなるという式を立て、これから \(T’\) を求めます。
最終温度 \(T’\) が求まれば、気体全体(総物質量 \(n\)、総体積 \(2V+V=3V\)) について理想気体の状態方程式を適用し、最終圧力 \(P’\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 気体の流れの向きは、コックを開く直前の両容器の圧力差によって決定されること。
- 「断熱材で囲み」「外部への仕事がない」状況での気体の混合では、系全体の内部エネルギーの総和が保存されるという重要な法則を適用すること。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの具体的な表式 \(U = \frac{3}{2}NRT\) を正しく用いること。
- 混合後の気体全体に対して状態方程式を適用し、最終的な圧力を求めること。
具体的な解説と立式
気体の流れの向き:
コックを閉じた後、Aの温度を \(2T\) にしたときのA内の圧力を \(P_A’\) とします。A内の物質量は \(n_A = \frac{3}{5}n\)、体積は \(2V\)、温度は \(2T\) です。状態方程式より、
$$P_A’ (2V) = n_A R (2T) \quad \cdots ③$$
一方、B内の状態は変わっていません。物質量は \(n_B = \frac{2}{5}n\)、体積は \(V\)、温度は \(T\) です。B内の圧力を \(P_B’\) とすると、状態方程式より、
$$P_B’ V = n_B RT \quad \cdots ④$$
これらの \(P_A’\) と \(P_B’\) を比較して、気体の流れの向きを判断します。
十分時間がたった後の気体の温度 \(T’\) と圧力 \(P’\):
コックを開く直前の状態は以下の通りです。
A内: 物質量 \(n_A = \frac{3}{5}n\)、温度 \(2T\)。
したがって、A内の内部エネルギー \(U_A’\) は、\(U_A’ = \frac{3}{2}n_A R (2T)\)。
B内: 物質量 \(n_B = \frac{2}{5}n\)、温度 \(T\)。
したがって、B内の内部エネルギー \(U_B’\) は、\(U_B’ = \frac{3}{2}n_B R T\)。
全体を断熱材で囲んでコックを開くと、気体が混合し、最終的に均一な温度 \(T’\) になります。この過程で外部との熱のやり取りはなく (\(Q=0\))、気体が外部にする仕事もありません (\(W=0\))。したがって、内部エネルギーの総和は保存されます。
$$U_A’ + U_B’ = U_{\text{後}}$$
ここで \(U_{\text{後}}\) は混合後の気体全体の内部エネルギーで、総物質量は \(n\)、最終温度は \(T’\) なので、\(U_{\text{後}} = \frac{3}{2}n R T’\)。
よって、内部エネルギー保存の式は、
$$\frac{3}{2}n_A R (2T) + \frac{3}{2}n_B R T = \frac{3}{2}n R T’ \quad \cdots ⑤$$
この式から混合後の温度 \(T’\) を求めます。
最終的な圧力 \(P’\) は、混合後の気体全体(総物質量 \(n\)、総体積 \(2V+V=3V\)、最終温度 \(T’\))について状態方程式を適用して求めます。
$$P’ (2V+V) = nRT’ \quad \Rightarrow \quad P'(3V) = nRT’ \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = NRT\)
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}NRT\)
- 内部エネルギー保存の法則 (断熱混合で外部への仕事がない場合): \(U_{\text{A,初}} + U_{\text{B,初}} = U_{\text{全体,後}}\)
気体の流れの向き:
式③から \(P_A’\) を求めます。\(n_A = \frac{3}{5}n\) を代入して、
$$P_A’ (2V) = \left(\frac{3}{5}n\right) R (2T) \quad \Rightarrow \quad P_A’ = \frac{6nRT}{10V} = \frac{3nRT}{5V}$$
式④から \(P_B’\) を求めます。\(n_B = \frac{2}{5}n\) を代入して、
$$P_B’ V = \left(\frac{2}{5}n\right) RT \quad \Rightarrow \quad P_B’ = \frac{2nRT}{5V}$$
\(P_A’ = \frac{3nRT}{5V}\) と \(P_B’ = \frac{2nRT}{5V}\) を比較すると、\(P_A’ > P_B’\) であることが分かります。
したがって、コックを開くと圧力の高い容器Aから圧力の低い容器Bへ気体が流れます。選択肢は(a)です。
十分時間がたった後の気体の温度 \(T’\):
式⑤の両辺に共通する係数 \(\frac{3}{2}R\) を消去します。
$$n_A (2T) + n_B T = n T’$$
ここに \(n_A = \frac{3}{5}n\) と \(n_B = \frac{2}{5}n\) を代入します。
$$\left(\frac{3}{5}n\right)(2T) + \left(\frac{2}{5}n\right)T = nT’$$
$$\frac{6}{5}nT + \frac{2}{5}nT = nT’$$
$$\frac{8}{5}nT = nT’$$
両辺の \(n\) を消去します(総物質量 \(n \neq 0\))。
$$T’ = \frac{8}{5}T$$
十分時間がたった後の気体の圧力 \(P’\):
式⑥に上で求めた \(T’ = \frac{8}{5}T\) を代入します。
$$P'(3V) = nR\left(\frac{8}{5}T\right)$$
したがって、最終圧力 \(P’\) は、
$$P’ = \frac{nRT’}{3V} = \frac{nR(\frac{8}{5}T)}{3V} = \frac{8nRT}{15V}$$
(2) まず、気体がどちらに流れるかについて考えます。コックを閉じたままAの温度を \(2T\) に上げると、Aの中の気体の圧力は元の状態よりも高くなります(Bの中の圧力は変わりません)。そのため、この状態でコックを開けば、圧力の高いAから低いBへと気体が自然に流れていきます。
次に、流れが収まってAとBの気体が完全に混ざり合い、全体の温度と圧力がどうなるかを考えます。容器全体が「断熱材で囲まれている」というのは、外部から熱が入ってきたり、逆に熱が外へ逃げたりしない、という意味です。また、気体は容器の中で混ざり合うだけで、ピストンを動かすような「外部への仕事」もしません。このような特別な状況では、AとBが持っていた「内部エネルギー」の合計は、混ざった後も変わらない、という「内部エネルギー保存の法則」が使えます。
単原子分子の理想気体の場合、内部エネルギーは「\(\frac{3}{2} \times \text{物質量} \times R \times \text{温度}\)」で計算できます。
Aの混合前の内部エネルギー(温度 \(2T\) で計算)とBの混合前の内部エネルギー(温度 \(T\) で計算)を足したものが、混合後の気体全体の内部エネルギー(全体の物質量 \(n\) と未知の最終温度 \(T’\) で計算)に等しい、という式を立てると、混合後の温度 \(T’\) が求まります。
最終的な温度 \(T’\) が分かれば、気体全体(体積はAとBの合計 \(2V+V=3V\)、物質量は全部で \(n\) モル)について状態方程式を使うことで、最終的な圧力 \(P’\) も計算することができます。
コックを開いた直後、気体は圧力の高い容器Aから容器Bへ流れます。したがって、選択肢は(a)です。
十分時間がたった後の気体の温度は \(T’ = \displaystyle\frac{8}{5}T \text{ [K]}\) となり、圧力は \(P’ = \displaystyle\frac{8nRT}{15V} \text{ [Pa]}\) となります。
混合前の温度はAが \(2T = \frac{10}{5}T\)、Bが \(T = \frac{5}{5}T\) でした。混合後の温度 \(T’ = \frac{8}{5}T = 1.6T\) は、これら二つの温度の間(\(T < T’ < 2T\))にあり、物理的に妥当な結果です。特に、物質量が多い側(Aには\(\frac{3}{5}n\)、Bには\(\frac{2}{5}n\))の初期温度が\(2T\)と高かったため、最終温度は単純な平均よりも高い側に寄ることが予想され、結果と一致します。
【コラム】Q. 気体が単原子分子気体ではない場合の(2)の温度 \(T’\)
思考の道筋とポイント
(2)の後半で、断熱材で囲まれた容器AとB内の気体を混合させた後の最終温度 \(T’\) を求める際に、内部エネルギー保存の法則を用いました。理想気体の内部エネルギーは一般に \(U = NC_vT\) と表せます。ここで \(C_v\) は定積モル比熱です。単原子分子理想気体の場合は \(C_v = \frac{3}{2}R\) でしたが、ここでは気体の種類を特定せず、一般的な定積モル比熱 \(C_v\) を用いて同様の計算を行い、最終温度 \(T’\) が \(C_v\) の具体的な値に依存するかどうかを確認します。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の内部エネルギーの一般形 \(U = NC_vT\) を用いること。
- 内部エネルギー保存の法則の適用方法は、気体の種類(\(C_v\) の具体的な値)によらず同じであること。
- 最終的な温度 \(T’\) の式に、定積モル比熱 \(C_v\) が残るかどうかを確認し、結果を解釈すること。
具体的な解説と立式
コックを開く直前の状態は問(2)と同様です。
A内: 物質量 \(n_A = \frac{3}{5}n\)、温度 \(2T\)。このときの内部エネルギー \(U_A’\) は、\(U_A’ = n_A C_v (2T)\)。
B内: 物質量 \(n_B = \frac{2}{5}n\)、温度 \(T\)。このときの内部エネルギー \(U_B’\) は、\(U_B’ = n_B C_v T\)。
全体を断熱材で囲んでコックを開き、気体が混合して均一な温度 \(T’\) になったとします。この過程では外部との熱のやり取りも外部への仕事もないため、内部エネルギーの総和は保存されます。
$$U_A’ + U_B’ = U_{\text{後}}$$
ここで \(U_{\text{後}}\) は混合後の気体全体の内部エネルギーで、総物質量は \(n\)、最終温度は \(T’\) なので、\(U_{\text{後}} = n C_v T’\)。
したがって、内部エネルギー保存の式は、
$$n_A C_v (2T) + n_B C_v T = n C_v T’ \quad \cdots (Q1)$$
この式から最終温度 \(T’\) を求めます。
別解1: 熱量保存のような考え方 (模範解答Qの考え方)
高温側の気体(A)が失った内部エネルギーが、低温側の気体(B)が得た内部エネルギーに等しい、という形で立式することもできます(これは、温度が最終的に均一な \(T’\) になるという前提でのエネルギーのやり取りであり、厳密には上記の内部エネルギー保存の式から導かれる結果と同じです)。
高温側の気体Aは温度 \(2T\) から \(T’\) に変化し (\(T’ < 2T\) を仮定)、低温側の気体Bは温度 \(T\) から \(T’\) に変化します (\(T’ > T\) を仮定)。
Aが失う内部エネルギー: \(n_A C_v (2T – T’)\)
Bが得る内部エネルギー: \(n_B C_v (T’ – T)\)
これらが等しいとおくと、
$$n_A C_v (2T – T’) = n_B C_v (T’ – T) \quad \cdots (Q別1)$$
使用した物理公式
- 理想気体の内部エネルギー (一般形): \(U = NC_vT\) (ここで \(C_v\) は定積モル比熱)
- 内部エネルギー保存の法則 (断熱混合で外部への仕事がない場合): \(U_{\text{A,初}} + U_{\text{B,初}} = U_{\text{全体,後}}\)
式(Q1)の両辺には定積モル比熱 \(C_v\) が共通して含まれています。気体が混合して存在している限り \(C_v\) はゼロではないと考えられるため、両辺を \(C_v\) で割ることができます。
$$n_A (2T) + n_B T = n T’$$
この式は、問(2)で単原子分子の場合に立てた内部エネルギー保存の式(式⑤)から係数 \(\frac{3}{2}R\) を取り除いたものと全く同じ形をしています。
したがって、ここに \(n_A = \frac{3}{5}n\) と \(n_B = \frac{2}{5}n\) を代入すると、
$$\left(\frac{3}{5}n\right)(2T) + \left(\frac{2}{5}n\right)T = nT’$$
$$\frac{6}{5}nT + \frac{2}{5}nT = nT’$$
$$\frac{8}{5}nT = nT’$$
両辺の \(n\) を消去します(総物質量 \(n \neq 0\))。
$$T’ = \frac{8}{5}T$$
別解1の計算:
式(Q別1)の両辺に共通する定積モル比熱 \(C_v\) を消去します(\(C_v \neq 0\))。
$$n_A (2T – T’) = n_B (T’ – T)$$
ここに \(n_A = \frac{3}{5}n\) と \(n_B = \frac{2}{5}n\) を代入します。
$$\frac{3}{5}n (2T – T’) = \frac{2}{5}n (T’ – T)$$
両辺に共通する因子 \(\frac{n}{5}\) を消去します(\(n \neq 0\))。
$$3(2T – T’) = 2(T’ – T)$$
展開して \(T’\) について解きます。
$$6T – 3T’ = 2T’ – 2T$$
$$6T + 2T = 2T’ + 3T’$$
$$8T = 5T’$$
よって、
$$T’ = \frac{8}{5}T$$
どちらの方法を用いても、同じ結果が得られます。
もし、容器の中の気体が単原子分子でなくても(例えば、もっと複雑な分子の気体でも)、定積モル比熱という値を \(C_v\) と文字で置いて、同じように(2)の後半の計算をしてみましょう。
この場合も、「断熱材で囲まれていて、外部への仕事もないので、AとBの内部エネルギーの合計は混ざった後も変わらない」という法則は使えます。
ただし、内部エネルギーの式は「\(\frac{3}{2} \times \text{物質量} \times R \times \text{温度}\)」ではなく、「\(\text{物質量} \times C_v \times \text{温度}\)」となります。
混合前のAの内部エネルギー \(U_A’ = n_A C_v (2T)\) と、Bの内部エネルギー \(U_B’ = n_B C_v T\) の合計が、混合後の全体の内部エネルギー \(U_{\text{後}} = n C_v T’\) (\(T’\) は求めたい最終温度)に等しい、という式を立てます。
この式をよく見ると、すべての項に \(C_v\) が掛けられています。ということは、方程式の両辺を \(C_v\) で割って消すことができるのです。
そうすると、残った式は、実は(2)で単原子分子の場合に解いた式と全く同じ形になります。したがって、計算結果の \(T’\) も同じ値、つまり \(\frac{8}{5}T\) になります。
これは面白い結果で、このような理想気体の断熱混合(仕事なし)の場合、最終的な温度は気体の種類(具体的には \(C_v\) の値が何であるか)にはよらないということを意味しています。
気体が単原子分子気体ではない場合(定積モル比熱を \(C_v\) とする一般的な理想気体の場合)でも、(2)と同様の計算過程をたどると、最終的に定積モル比熱 \(C_v\) は式の両辺から消去されます。したがって、十分時間がたった後の気体の温度 \(T’\) は \(\displaystyle\frac{8}{5}T \text{ [K]}\) となり、単原子分子の場合と結果は変わりません。
この結果は、断熱された容器内での理想気体の混合(外部への仕事なし)においては、内部エネルギーの総和が保存され、その内部エネルギーが温度に比例する係数(物質量 × 定積モル比熱)が、最終的な温度を決定する式から共通因子として打ち消し合うため、気体の種類(\(C_v\) の具体的な値)に依存しないという重要な性質を示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=NRT\)): 異なる状態にある各容器内の気体や、混合後の気体全体に対して適用し、圧力、体積、温度、物質量の関係を明らかにする基本法則でした。
- 物質量保存の法則: コックが開いていて物質量の移動があっても、系全体の総物質量は不変であるという原則が、(1)で \(n_A\) と \(n_B\) の関係を導く上で用いられました。
- 圧力平衡の条件: コックが開いていて気体の流れがない定常状態では、連結された容器内の圧力が等しくなるという条件が、(1)で共通の圧力 \(P\) を設定する根拠となりました。
- 内部エネルギーの概念と保存則:
- 理想気体の内部エネルギーは \(U = NC_vT\) で表され、温度と物質量に比例します(単原子分子なら \(C_v = \frac{3}{2}R\))。
- (2)の後半のように、断熱された系内で外部への仕事がない状態で気体が混合する場合、系全体の内部エネルギーの総和は保存されます。これが混合後の温度を決定する鍵でした。
- 気体の流れの判断基準: コックを開いた直後の気体の流れは、コックを開く前の両容器間の圧力差によって決まります。圧力の高い方から低い方へ流れます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか。
- コックで連結された複数の容器間での気体の移動や混合を扱う問題。
- 断熱容器内での気体の状態変化(特に混合や膨張)。
- 異なる温度の気体を混合させる場合。
- 気体の種類(単原子分子、二原子分子など)によって結果がどう変わるかを考察する問題(コラムQのように)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか。
- コックの開閉状態: コックが開いていれば圧力平衡、閉じていれば各容器内の物質量は(その操作時点では)保存される、という点をまず確認します。
- 系の断熱性・仕事の有無: 「断熱材で囲む」「すばやく」といった記述は断熱変化を示唆し、外部との熱のやり取りがない (\(Q=0\)) ことを意味します。また、容器の体積が変化しない、ピストンが動かないといった場合は外部への仕事がない (\(W=0\)) ことを意味します。これらが揃えば内部エネルギー保存が使えます。
- 物質量の追跡: 各容器にどれだけの物質量の気体が存在するかを、状態変化の各段階で正確に把握することが重要です。全体の物質量は常に保存されます。
- 状態方程式の適切な適用: 各容器ごと、あるいは系全体に対して、その時点での正しい \(P, V, N, T\) の値を用いて状態方程式を立てます。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か。
- コックを開く直前と直後で、各容器のどの状態量が変わらず、どの状態量が変わるのかを明確に区別すること。
- 内部エネルギー保存則を適用する際は、系全体で考えること。
- 気体の種類(単原子分子か否か)によって内部エネルギーの具体的な表式が変わるが、コラムQで見たように、混合後の温度が \(C_v\) に依存しない場合もあることを理解しておく。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 圧力平衡の誤解:
- 現象: コックが閉じているのに圧力が等しいと仮定してしまう、あるいはコックを開いた瞬間(定常状態に達する前)にすぐに圧力が等しくなると短絡的に考えてしまう。
- 対策: コックが開いて十分時間が経過した「定常状態」でのみ圧力が等しくなることを理解する。コックを開く直前は各容器で圧力が異なり得る。
- 物質量の扱い:
- 現象: コックを開閉した際に、各容器内の物質量がどのように変化するかを正確に追えない。特に、コックを閉じた後に一方の容器の状態を変えた場合、その容器内の物質量は閉じる直前の値から変わらないことを見落とす。
- 対策: 各操作の前後で、どの範囲の気体の物質量が保存されるのか(各容器か、全体か)を明確にする。
- 内部エネルギー保存則の適用条件の誤解:
- 現象: 断熱されていない系や、外部へ仕事をしている系で安易に内部エネルギー保存を使ってしまう。
- 対策: 内部エネルギー保存が成り立つのは「断熱系(\(Q=0\))」かつ「外部への仕事がない(\(W=0\))」場合であるという条件を厳密に確認する。
- 温度の平均化の誤解:
- 現象: 異なる温度の気体を混合した際、最終温度が単純な温度の平均や、体積比による加重平均になるとは限らない。
- 対策: 内部エネルギーの総和が保存されるという基本原理から正しく導出する。物質量に応じた「エネルギーの平均化」と捉える方が近い。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の重要性
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか。
- 気体の流れのイメージ (問2前半): コックを開く前に両容器の圧力を計算し、圧力差によって気体がどちらへ流れるかをイメージすること。風船の口を開けたときの空気の流れのような具体的なイメージを持つと良い。
- 混合過程のイメージ (問2後半): 断熱容器内で2つの異なる状態の気体が混ざり合い、エネルギーをやり取りして最終的に均一な温度・圧力に落ち着くというプロセスをイメージすること。
- 状態図の活用 (模式的): P-V図やP-T図などを直接描くことは複雑かもしれないが、各操作の前後で状態量(特にP, T)がどのように変化するかを簡単な矢印などで模式的に図示し、比較することは理解の助けになります。
- 図を描く際に注意すべき点は何か。
- 容器の体積の違いを明確に図示する。
- コックの開閉状態を明記する。
- 各容器の温度条件や、断熱材の有無などを図に書き込む。
- 気体の流れを示す場合は、圧力の高い方から低い方へ矢印を描く。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=NRT\)):
- 選定理由: 気体の圧力、体積、温度、物質量の間の関係を知りたい、または一つの状態量が未知で他が既知の場合。
- 適用根拠: 問題文で「理想気体」と明記されているため。各容器ごと、または系全体で適用可能。
- 内部エネルギー \(U=NC_vT\) (単原子分子なら \(U=\frac{3}{2}NRT\)):
- 選定理由: 気体の温度変化に伴う内部エネルギーの変化を知りたい、または内部エネルギー保存則を適用したい場合。
- 適用根拠: 理想気体の内部エネルギーは温度のみの関数であるという性質。\(C_v\) は定積モル比熱。
- 内部エネルギー保存 (\(U_{\text{A,初}} + U_{\text{B,初}} = U_{\text{全体,後}}\)):
- 選定理由: (2)の後半のように、断熱された系内で外部への仕事がない状態で気体が混合する場合。
- 適用根拠: 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) において、断熱 (\(Q=0\)) かつ仕事なし (\(W=0\)) の場合、\(\Delta U = 0\) すなわち内部エネルギーの総和が保存されるため。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (問1) 定常状態の解析:
- コックが開いていることから、両容器の圧力が等しい (\(P\)) とおく。
- A内の物質量を \(n_A\)、B内を \(n-n_A\) とおく。
- A, Bそれぞれに状態方程式を適用し、2つの式を得る。
- これらを連立して \(P\) と \(n_A\) を解く。
- (問2) 混合過程の解析:
- 流れの向き: (1)の結果をもとにコックを閉じた後、Aを加熱した後のA内の圧力 \(P_A’\) と、その時のB内の圧力 \(P_B’\) をそれぞれ状態方程式から計算する。\(P_A’\) と \(P_B’\) を比較し、流れの向きを判断する。
- 混合後の温度 \(T’\): 断熱材で囲みコックを開いた後の混合過程では、内部エネルギーの総和が保存されることを利用する。混合前のAとBの内部エネルギーの和を、混合後の全体の内部エネルギー(温度 \(T’\))と等しいとおき、\(T’\) を解く。
- 混合後の圧力 \(P’\): 混合後の気体全体(総物質量 \(n\)、総体積 \(3V\)、温度 \(T’\))について状態方程式を適用し、\(P’\) を解く。
- (コラムQ) 一般的な理想気体の場合:
- (2)の混合後の温度 \(T’\) を求める計算過程で、内部エネルギーの式を \(U=NC_vT\) とし、同様に内部エネルギー保存則を適用する。
- \(T’\) の式から \(C_v\) が消去されることを確認し、結果を導く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 連立方程式の処理 (問1): 2つの状態方程式から未知数 \(P\) と \(n_A\) を解く際に、代入や消去の計算を正確に行う。
- 物質量の割り振り: 各容器内の物質量を正しく設定し、総物質量が \(n\) であることを常に意識する。
- 内部エネルギーの計算: 係数(単原子分子なら \(\frac{3}{2}R\)、一般なら \(C_v\))や、各状態の正しい温度・物質量を代入する。
- 分数の計算: 温度 \(\frac{4}{3}T\) や物質量 \(\frac{3}{5}n\) など、分数を含む計算を丁寧に行う。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 途中式を丁寧に書く: 特に連立方程式や複雑な代入計算では、各ステップを省略せずに記述することで、見直しが容易になり、ミスを発見しやすくなる。
- 文字式の整理: 計算の途中で、共通因子でくくるなどして式を整理し、見通しを良くする。
- 定義に立ち返る: 各物理量の定義(例:内部エネルギー、状態方程式の各項)を意識しながら計算を進める。
- 単位(次元)の確認: 最終的な答えだけでなく、途中の式の各項が物理的に正しい次元を持っているかを確認する(今回は文字式が中心だが、意識は重要)。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性。
- (問1) 物質量の分配 \(n_A\): \(0 < n_A < n\) の範囲にあるか。また、AとBのどちらに多くの気体が入るか(温度と体積のバランス)。
- (問2) 混合後の温度 \(T’\): 混合前の2つの温度(\(2T\) と \(T\))の間の値になっているか。極端な場合(例えば片方の物質量が0なら、もう一方の温度になるはず)を考えてみる。
- (問2) 混合後の圧力 \(P’\): 状態方程式から求めた値が、物理的にありえない値(負圧など)になっていないか。
- (コラムQ) \(C_v\) への非依存性: なぜ結果が \(C_v\) によらないのか、その物理的な意味(エネルギーの分配が比熱の具体的な値とは独立して決まる)を考察する。
- 「解の吟味」を通じて得られること:
- 計算ミスや立式の誤りを発見する手がかりとなる。
- 物理法則や概念の理解を深め、数式の背後にある物理的な意味を読み取る訓練になる。
- 問題の状況設定や条件の重要性を再認識できる。
- 応用力や洞察力を養い、より複雑な問題への対応力を高める。
問題57 (早稲田大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、熱を通す壁Sと弁Cで二つの部分A、Bに分けられた円筒容器内の単原子分子理想気体の状態変化を扱います。円筒とピストンD, Eは断熱材でできています。初期状態として、ピストンEを壁Sに押し付けて弁Cを閉じ、Aの部分(体積\(V\))に絶対温度\(T\)の気体\(n\)モルを封入した状態から、各設問の操作が開始されます。気体の比熱比を\(\gamma\)、気体定数を\(R\)とします。
- 円筒容器: 熱をよく通す壁Sで部分AとBに分割。円筒とピストンD, Eは断熱材。
- 壁S: 弁Cがついている。
- 初期状態 (各設問の開始時):
- ピストンEは壁Sに押し付けられ、弁Cは閉じている。
- 部分A: 体積\(V\)、絶対温度\(T\)、単原子分子理想気体\(n\)モル。
- 部分B: (初期状態では真空または体積ゼロとして扱われる)
- 比熱比: \(\gamma\) (単原子分子理想気体なので \(\gamma = C_P/C_V = (\frac{5}{2}R)/(\frac{3}{2}R) = \frac{5}{3}\))
- 気体定数: \(R\)
- (1) Dを固定し、Bの体積が\(V\)になるまでEを引いて固定後、Cを全開にしたときの平衡状態での気体の温度。
- (2) Dを固定し、Cを全開にしてから、Bの体積が\(V\)になるまでEをゆっくり動かしたときの終状態での気体の圧力と温度。
- (3) Bの体積が\(V\)になるまでEを引いて固定し、Cをわずかに開けると同時にAの圧力が初めの圧力と等しい値に保たれるようにDを押し、Aの体積が\(V-\Delta V\)になったところでBの圧力がAの圧力と等しくなったとき:
- この間に気体になされた仕事 \(W\)。
- 終りの状態の気体の温度 \(T”\)。
- 体積変化 \(\Delta V\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くための基本的なアプローチは、まず与えられた初期状態から各設問の操作によって気体がどのような状態変化を経るかを正確に把握することです。真空への自由膨張、断熱変化、定圧変化といった各過程の特性を理解し、理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\))、熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W\))、そして単原子分子理想気体の内部エネルギーの式 (\(U = \frac{3}{2}nRT\)) やポアソンの法則 (\(PV^\gamma = \text{一定}\) など) を適切に適用します。比熱比 \(\gamma\) は単原子分子理想気体なので \(\frac{5}{3}\) となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
この設問の操作は以下のステップで行われます。
1. ピストンDは固定されたままです。
2. ピストンEを、部分Bの体積が\(V\)になるまで引いて固定します。この時点では弁Cはまだ閉じており、部分Bは真空状態と考えられます。
3. その後、弁Cを全開にします。
このとき、容器A内の気体(初期体積\(V\)、初期温度\(T\))は、隣接する真空の容器B(体積\(V\))へ広がります。この現象は「真空への自由膨張」または「ジュール膨張」として知られています。
理想気体が真空へ自由に膨張する際には、外部に対して仕事をしません(押す相手がいないため、\(W=0\))。また、問題文には「円筒とピストンは断熱材でできている」とあり、この急速な拡散過程では外部との熱のやり取りも無視できる(\(Q=0\))と考えられます。
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) によれば、\(Q=0\) かつ \(W=0\) なので、気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) はゼロとなります。理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存するため、内部エネルギーが変化しないということは、温度も変化しないことを意味します。
この設問における重要なポイント
- 操作の順序を正確に理解すること:まずBの空間を作り、その後に弁Cを開いてAの気体を拡散させる。
- Aの気体がBの真空空間へ拡散するプロセスが「真空への自由膨張」であると正しく認識すること。
- 理想気体の自由膨張においては、外部への仕事はゼロ (\(W=0\)) であり、断熱的条件下では外部との熱のやり取りもゼロ (\(Q=0\)) となるため、熱力学第一法則から内部エネルギーが変化せず (\(\Delta U=0\))、結果として温度も変化しない (\(\Delta T=0\)) という結論を導けること。
具体的な解説と立式
初期状態において、気体は部分Aに体積\(V\)、温度\(T\)で存在しています。
ピストンEを引いて部分Bの体積を\(V\)にした後、弁Cを全開にすると、部分Aの気体は部分B(最初は真空)へ自由に膨張します。この過程は真空への自由膨張です。
自由膨張において、気体は外部に対して仕事をしません。すなわち、\(W=0\) です。
また、円筒とピストンは断熱材でできており、この拡散が急速に行われると仮定すると、外部との熱のやり取りも無視できると考えられます。すなわち、\(Q=0\) です。
したがって、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) より、気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$\Delta U = 0 – 0 = 0$$
理想気体の内部エネルギーは絶対温度のみの関数であるため、内部エネルギーが変化しない (\(\Delta U = 0\)) ということは、温度が変化しない (\(\Delta T = 0\)) ことを意味します。
よって、平衡状態に達したときの気体の温度は、初期の温度\(T\)のままです。
(注:壁Sが熱をよく通すという記述は、もしAとBの間に温度差が生じた場合に均一化する役割を果たしますが、自由膨張のプロセス自体が理想気体の温度を変えないため、最終的に気体全体が均一になったときの温度は初期温度\(T\)に等しくなります。)
使用した物理公式
- 真空への自由膨張の特性: 理想気体の場合、外部にする仕事 \(W=0\)。断熱的な条件下では熱の出入り \(Q=0\)。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)
- 理想気体の内部エネルギーと温度の関係: 内部エネルギーは温度のみの関数であり、\(\Delta U = 0\) ならば \(\Delta T = 0\)。
上記の「具体的な解説と立式」で述べた通り、理想気体の真空への自由膨張であり、かつ断熱的とみなせる条件下では、温度は変化しません。
したがって、最終的な平衡状態での気体の温度は、初期温度 \(T\) に等しくなります。
(1) まず、ピストンDは動かないように固定されています。次に、ピストンEを右に引っ張って、Bという空間の体積がVになるようにして固定します。この時点では、AとBの間にある弁Cはまだ閉じていて、Bの中は空っぽ(真空)です。
その後、弁Cをパッと全開にします。すると、Aの中にあった気体が、隣の空っぽのBの空間へと勢いよく広がっていきます。このような広がり方を「真空への自由膨張」と呼びます。
理想的な気体がこのように真空へ広がるとき、気体は外部に対して何も「仕事」をしません(押す相手がいないので力を加える必要がないからです)。また、もしこの容器全体が魔法瓶のように外部から熱を通さないようにできていれば(問題文では「断熱材でできている」とあります)、外部との熱のやりとりもありません。
物理学の重要なルールである「熱力学第一法則」によると、気体の元気の素である「内部エネルギー」の変化は、「もらった熱量からした仕事を引いたもの」に等しくなります。今回の場合、もらった熱量もゼロ、した仕事もゼロなので、内部エネルギーは全く変化しません。理想気体の場合、内部エネルギーは温度だけで決まるので、内部エネルギーが変わらないということは、温度も変わらない、ということになります。
ですから、気体がAとBの両方に広がって落ち着いたときの温度は、最初のAにあったときの温度\(T\)と同じままです。
平衡状態(図2)の気体の温度は \(T\) です。
これは理想気体の自由膨張における基本的な結果であり、物理的に妥当です。気体は最終的に体積 \(2V\) (\(V_A + V_B = V+V=2V\)) に広がりますが、その過程で外部とのエネルギーのやり取り(仕事や熱)がなければ、理想気体の温度は保たれます。壁Sが熱を通すという特性は、仮に膨張の過程でAとBに瞬間的な温度差が生じたとしても、最終的に熱平衡に達して均一な温度になることを保証しますが、系全体のエネルギーが変わらない限り、その均一な温度は初期温度\(T\)となります。
問(2)
思考の道筋とポイント
ピストンDは固定されたままです。初期状態(部分Aに体積\(V\)、温度\(T\)で\(n\)モルの気体)から、まず弁Cを全開にします。この時点では、気体はまだ部分A(体積\(V\))に存在しています(部分Bの体積はEがSに接しているためゼロです)。
次に、弁Cを全開にした状態で、ピストンEを「ゆっくり」と、部分Bの体積が\(V\)になるまで動かします。この操作により、気体全体の体積は初期の\(V\)(Aのみの体積)から最終的に\(2V\)(Aの体積\(V\) + Bの体積\(V\))へと膨張します。
重要なのは、「円筒とピストンは断熱材でできている」ことと、操作が「ゆっくり」行われることです。これにより、この過程は準静的断熱膨張とみなすことができます。弁Cが全開なので、気体はAとBにまたがって一体として振る舞い、圧力や温度は(ゆっくりとした変化なので)常に系内でほぼ均一であると考えることができます。
断熱変化ではポアソンの法則が成り立ちます。具体的には、\(PV^\gamma = \text{一定}\) や \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) です。
初期状態: 気体全体の体積 \(V_1 = V\)、温度 \(T_1 = T\)。このときの圧力 \(P_1\) は状態方程式より \(P_1V = nRT\)。
終状態: 気体全体の体積 \(V_2 = 2V\)。このときの圧力 \(P_2\) と温度 \(T_2\) を求めることが目標です。
この設問における重要なポイント
- 操作の順序を正しく理解すること:「Cを全開にしてから、Eをゆっくり動かす」。これにより、気体は常にAとBの両領域にまたがって一体として変化します。
- 「円筒とピストンは断熱材」「ゆっくり動かす」という記述から、気体全体の体積変化が準静的断熱膨張であると判断すること。
- 断熱変化におけるポアソンの法則(\(PV^\gamma = \text{一定}\) または \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\))を適用すること。
- 初期状態(気体全体が体積\(V\)、温度\(T\))と終状態(気体全体が体積\(2V\))を明確に設定し、これらの間で法則を適用すること。
具体的な解説と立式
初期状態(弁Cを開き、ピストンEを動かし始める直前)では、気体は体積 \(V_1 = V\)、温度 \(T_1 = T\)、物質量 \(n\) で部分Aに存在します(部分Bの体積はまだ0です)。このときの圧力を \(P_1\) とすると、理想気体の状態方程式より \(P_1V_1 = nRT_1\)、すなわち \(P_1V = nRT\)。
次に、弁Cを開いたまま、ピストンEをゆっくりと動かし、部分Bの体積が\(V\)になるまで膨張させます。この結果、気体全体の体積は \(V_2 = V_A + V_B = V (\text{Aの体積は変わらず}) + V (\text{Bの新しい体積}) = 2V\) となります。
この過程は準静的断熱膨張なので、ポアソンの法則が適用できます。
まず、温度を求めるために \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) を用います。終状態の温度を \(T_2\) とすると、
$$T_1 V_1^{\gamma-1} = T_2 V_2^{\gamma-1} \quad \cdots ②$$
次に、圧力を求めるために \(PV^\gamma = \text{一定}\) を用います。終状態の圧力を \(P_2\) とすると、
$$P_1 V_1^\gamma = P_2 V_2^\gamma \quad \cdots ③$$
あるいは、終状態の温度 \(T_2\) が求まれば、状態方程式 \(P_2V_2 = nRT_2\) から圧力 \(P_2\) を求めることも可能です。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
- 断熱変化におけるポアソンの法則: \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) および \(PV^\gamma = \text{一定}\)
初期状態は \(V_1 = V\), \(T_1 = T\)。このときの圧力 \(P_1 = \frac{nRT}{V}\)。
終状態は \(V_2 = 2V\)。このときの圧力を \(P_2\)、温度を \(T_2\) とします。
まず、終状態の温度 \(T_2\) を求めます。式② \(T_1 V_1^{\gamma-1} = T_2 V_2^{\gamma-1}\) に値を代入します。
$$T V^{\gamma-1} = T_2 (2V)^{\gamma-1}$$
$$T V^{\gamma-1} = T_2 \cdot 2^{\gamma-1} V^{\gamma-1}$$
両辺の \(V^{\gamma-1}\) を消去します(\(V \neq 0\))。
$$T = T_2 \cdot 2^{\gamma-1}$$
したがって、終状態の温度 \(T_2\) は、
$$T_2 = \frac{T}{2^{\gamma-1}}$$
次に、終状態の圧力 \(P_2\) を求めます。式③ \(P_1 V_1^\gamma = P_2 V_2^\gamma\) に値を代入します。
$$\left(\frac{nRT}{V}\right) V^\gamma = P_2 (2V)^\gamma$$
$$nRT V^{\gamma-1} = P_2 \cdot 2^\gamma V^\gamma$$
両辺を \(V^{\gamma-1}\) で割ると(\(V \neq 0\))、
$$nRT = P_2 \cdot 2^\gamma V$$
したがって、終状態の圧力 \(P_2\) は、
$$P_2 = \frac{nRT}{2^\gamma V}$$
(模範解答では、終状態の圧力を \(P’\)、温度を \(T’\) と表記しているので、これに合わせて \(P_2 \rightarrow P’\)、\(T_2 \rightarrow T’\) と読み替えます。)
(2) まず、ピストンDは固定したままです。最初にAとBの間の弁Cを全開にします。このとき、気体はまだAの部分(体積\(V\)、温度\(T\))にだけ入っています。
次に、弁Cを開けたままの状態で、ピストンEを「ゆっくり」と引っ張って、Bの部分の体積がVになるようにします。この操作の結果、気体はAとBの両方にまたがって存在し、全体の体積は \(V+V=2V\) になります。
「円筒とピストンは断熱材でできている」そして「ゆっくり動かす」という記述から、この気体が膨張する過程は、外部との熱のやり取りがない「断熱変化」であると考えられます。
断熱変化のときには、特別な関係式(ポアソンの法則)が成り立ちます。例えば、「温度 × 体積の(\(\gamma-1\))乗」という量が変化の前後で一定に保たれる、あるいは「圧力 × 体積の\(\gamma\)乗」という量が一定に保たれる、というものです。(\(\gamma\)は比熱比といい、単原子分子の理想気体の場合は \(\frac{5}{3}\) という決まった値です。)
最初の状態(体積\(V\)、温度\(T\))と、最後の状態(体積\(2V\)、求めたい温度を\(T’\)とします)の間で、この法則を使って \(T’\) を計算します。
同様に、最初の圧力(これは状態方程式から計算できます)と最後の圧力(求めたい圧力を\(P’\)とします)の間で、もう一つのポアソンの法則を使って \(P’\) を計算することもできます。あるいは、\(T’\) が分かれば、最後の状態について状態方程式(\(P’ \times (2V) = nRT’\))を使って \(P’\) を計算することもできます。
終りの状態(図2)の気体の圧力は \(P’ = \displaystyle\frac{nRT}{2^\gamma V}\)、温度は \(T’ = \displaystyle\frac{T}{2^{\gamma-1}}\) です。
断熱膨張なので、体積が増加すると圧力と温度は低下します。比熱比 \(\gamma\) は常に1より大きい(単原子分子理想気体では \(\gamma = 5/3\))ため、\(\gamma-1 > 0\) です。したがって、\(2^{\gamma-1} > 1\) となり、終状態の温度 \(T’ = T/2^{\gamma-1}\) は初期温度 \(T\) よりも低くなります。これは物理的に妥当な結果です。同様に、体積が増加し温度が低下するため、圧力も \(P’ = P_1/2^\gamma\)(\(P_1 = nRT/V\))と初期圧力 \(P_1\) より低くなります。
問(3)
思考の道筋とポイント
この設問の操作は複雑なので、順を追って慎重に考えます。
1. 初期状態: 部分Aに体積\(V\)、温度\(T\)、圧力\(P_0 = \frac{nRT}{V}\) で\(n\)モルの気体。部分Bは真空。
2. 操作1: ピストンEを、部分Bの体積が\(V\)になるまで引いて固定します。弁Cはまだ閉じています。
3. 操作2: 弁Cを「ごくわずかに開ける」と同時に、部分Aの圧力が初期の圧力 \(P_0\) と等しい値に保たれるようにピストンDを押していきます。
4. 終了条件: 部分Aの体積が \(V_A” = V-\Delta V\) になったところで、部分Bの圧力も部分Aの圧力と等しく (\(P_0\)) なった時点で操作を終了します。このときのAとB全体の気体の最終温度を \(T”\) とします。
気体になされた仕事 \(W\):
仕事はピストンDによってなされます。部分A内の気体は、圧力 \(P_0\) を一定に保ったまま、体積が \(V\) から \(V-\Delta V\) へと \(\Delta V\) だけ減少します。したがって、この間に部分Aの気体がピストンDから「された」仕事 \(W\) は、定圧変化の仕事の公式から \(W = P_0 \times (\text{体積減少量}) = P_0 \Delta V\) となります。
終りの状態の気体の温度 \(T”\) と体積変化 \(\Delta V\):
終状態では、
部分A: 圧力 \(P_A” = P_0\), 体積 \(V_A” = V-\Delta V\), 温度 \(T”\).
部分B: 圧力 \(P_B” = P_0\), 体積 \(V_B” = V\), 温度 \(T”\). (壁Sは熱を通すので最終的にAとBの温度は等しく \(T”\) になると考えられます。)
気体全体の総体積は \(V_{\text{total}}” = V_A” + V_B” = (V-\Delta V) + V = 2V – \Delta V\)。
気体全体の圧力は \(P_0\) で均一です。気体全体の総物質量 \(n\) は変わりません。
したがって、気体全体について状態方程式を立てると、
$$P_0 (2V – \Delta V) = nRT”$$
次に、エネルギーの収支を考えます。「円筒とピストンは断熱材でできている」とあるため、この操作全体(操作2と3)を通じて、外部との熱のやり取りはない (\(Q=0\)) と考えられます。
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\) を、気体全体に対して適用します。
初期の内部エネルギー \(U_{\text{initial}}\) は、部分Aにのみ気体が存在し、その温度は \(T\) なので、\(U_{\text{initial}} = \frac{3}{2}nRT\) (単原子分子理想気体)。
終状態の内部エネルギー \(U_{\text{final}}\) は、気体全体が温度 \(T”\) になっているので、\(U_{\text{final}} = \frac{3}{2}nRT”\)。
したがって、内部エネルギーの変化 \(\Delta U = U_{\text{final}} – U_{\text{initial}} = \frac{3}{2}nR(T” – T)\)。
熱力学第一法則は、\(\frac{3}{2}nR(T” – T) = 0 + P_0 \Delta V\) となります。
ここで、初期圧力 \(P_0 = \frac{nRT}{V}\) の関係から \(nR = \frac{P_0V}{T}\) と書けるので、これを代入します。
得られた2つの関係式(状態方程式と熱力学第一法則の式)を連立させて、未知数である \(T”\) と \(\Delta V\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 操作の複雑なシーケンスを正確に追跡し、各時点での状態を把握すること。
- Aの部分が定圧 (\(P_0\)) で圧縮されるため、気体が「される」仕事は \(P_0 \Delta V\) となること。
- 系全体(AとBを合わせた気体)は、円筒とピストンが断熱材であることから、外部との熱のやり取りがない (\(Q=0\)) と解釈すること。
- 終状態では、AとBの圧力が等しく (\(P_0\))、壁Sが熱を通すため温度も均一 (\(T”\)) になっていると考えること。
- 熱力学第一法則と、終状態における気体全体の状態方程式を連立させて解くこと。
- 単原子分子理想気体なので、内部エネルギーの計算には係数 \(\frac{3}{2}\) を用いる(または比熱比 \(\gamma=5/3\) から \(C_V = \frac{R}{\gamma-1} = \frac{3}{2}R\) を使う)。
具体的な解説と立式
初期状態(操作開始前): 部分Aに体積\(V\)、温度\(T\)、圧力\(P_0 = \frac{nRT}{V}\) で\(n\)モルの気体。部分Bは真空で体積\(V\)が確保されている(Eは固定)。
気体になされた仕事 \(W\):
部分A内の気体は、圧力 \(P_0\) を一定に保ったまま、ピストンDによって体積が \(\Delta V\) だけ減少させられます。したがって、この間に気体が外部(ピストンD)から「された」仕事 \(W\) は、
$$W = P_0 \Delta V \quad \cdots ④$$
終りの状態の気体の温度 \(T”\) と体積変化 \(\Delta V\):
操作終了時(終状態)では、
部分Aの圧力: \(P_A” = P_0\)
部分Aの体積: \(V_A” = V-\Delta V\)
部分Bの圧力: \(P_B” = P_0\) (Aの圧力と等しくなったため)
部分Bの体積: \(V_B” = V\) (Eは固定されているため)
壁Sは熱を通すので、最終的にAとBの気体の温度は等しくなり、これを \(T”\) とします。
気体全体の総体積は \(V_{\text{total}}” = V_A” + V_B” = (V-\Delta V) + V = 2V – \Delta V\)。
気体全体の圧力は \(P_0\) で均一です。気体全体の総物質量 \(n\) は変わりません。
したがって、気体全体について状態方程式を立てると、
$$P_0 (2V – \Delta V) = nRT” \quad \cdots ⑤$$
次に、熱力学第一法則を気体全体に適用します。円筒とピストンは断熱材でできているため、この操作全体を通じて外部との熱のやり取りはない (\(Q=0\)) と考えます。気体が外部からされた仕事は \(W = P_0 \Delta V\) です。
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\) より、
$$\Delta U = 0 + P_0 \Delta V = P_0 \Delta V$$
内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、\(\Delta U = U_{\text{final}} – U_{\text{initial}}\)。
初期の内部エネルギー \(U_{\text{initial}}\) は、部分Aにのみ気体が存在し、その温度は \(T\) なので、
$$U_{\text{initial}} = \frac{3}{2}nRT \quad \text{(単原子分子理想気体)}$$
終状態の内部エネルギー \(U_{\text{final}}\) は、気体全体が温度 \(T”\) になっているので、
$$U_{\text{final}} = \frac{3}{2}nRT” \quad \text{(単原子分子理想気体)}$$
よって、内部エネルギーの変化は、
$$\Delta U = \frac{3}{2}nR(T” – T)$$
したがって、熱力学第一法則は次のように書けます。
$$\frac{3}{2}nR(T” – T) = P_0 \Delta V \quad \cdots ⑥$$
ここで、初期圧力 \(P_0 = \frac{nRT}{V}\) の関係から \(nR = \frac{P_0V}{T}\) となります。この関係を式⑥に代入します。
式⑤と、nRを代入した式⑥を連立させて、未知数 \(T”\) と \(\Delta V\) を求めます。
使用した物理公式
- 仕事 (定圧変化で気体がされる仕事): \(W = P_0 \times (\text{体積減少量})\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\) (今回は \(Q=0\))
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}nRT\) (よって \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\))
気体になされた仕事 \(W\):
$$W = P_0 \Delta V$$
終状態の温度 \(T”\) と体積変化 \(\Delta V\):
まず、式⑥の \(nR\) を \(\frac{P_0V}{T}\) で置き換えます。
$$\frac{3}{2} \left(\frac{P_0V}{T}\right) (T” – T) = P_0 \Delta V$$両辺の \(P_0\) を消去します(\(P_0 \neq 0\))。$$\frac{3}{2} \frac{V}{T} (T” – T) = \Delta V \quad \cdots ⑦$$次に、式⑤ \(P_0 (2V – \Delta V) = nRT”\) の \(nR\) も \(\frac{P_0V}{T}\) で置き換えます。$$P_0 (2V – \Delta V) = \left(\frac{P_0V}{T}\right) T”$$両辺の \(P_0\) を消去します。$$(2V – \Delta V) = \frac{V}{T} T” \quad \cdots ⑧$$式⑦で得られた \(\Delta V = \frac{3}{2} \frac{V}{T} (T” – T)\) を式⑧に代入します。
$$2V – \left( \frac{3}{2} \frac{V}{T} (T” – T) \right) = \frac{V}{T} T”$$
両辺に \(\frac{T}{V}\) を掛けます(\(V \neq 0, T \neq 0\))。
$$2T – \frac{3}{2} (T” – T) = T”$$
展開して \(T”\) について解きます。
$$2T – \frac{3}{2}T” + \frac{3}{2}T = T”$$
$$2T + \frac{3}{2}T = T” + \frac{3}{2}T”$$
$$\frac{4T + 3T}{2} = \frac{2T” + 3T”}{2}$$
$$\frac{7}{2}T = \frac{5}{2}T”$$
したがって、終状態の温度 \(T”\) は、
$$T” = \frac{7}{5}T$$
次に、この \(T” = \frac{7}{5}T\) を式⑦に代入して \(\Delta V\) を求めます。
$$\Delta V = \frac{3}{2} \frac{V}{T} \left(\frac{7}{5}T – T\right)$$
$$\Delta V = \frac{3}{2} \frac{V}{T} \left(\frac{7T – 5T}{5}\right) = \frac{3}{2} \frac{V}{T} \left(\frac{2T}{5}\right)$$
\(T\) が約分され、\(2\) も約分されます。
$$\Delta V = \frac{3}{5}V$$
これで、気体になされた仕事 \(W\) も確定できます。\(P_0 = \frac{nRT}{V}\) を用いて、
$$W = P_0 \Delta V = \left(\frac{nRT}{V}\right) \left(\frac{3}{5}V\right) = \frac{3}{5}nRT$$
問題文では「\(\Delta V\) を用いて表せ」なので、\(W = P_0\Delta V\) または \(W = \frac{nRT}{V}\Delta V\) となります。
(3) この操作は少し複雑です。まずEを引いてBの部屋(体積V)を空けておきます(Cは閉じたまま)。次に、AとBの間の弁Cをほんの少しだけ開けて、Aの中の気体がBへゆっくりと流れ出るようにします。それと同時に、Aの中の圧力が最初の圧力 \(P_0\) で一定に保たれるように、ピストンDを外からグーッと押していきます。この操作は、Aの体積が最初の \(V\) から \(\Delta V\) だけ小さくなって \(V-\Delta V\) になったとき、ちょうどBの部屋の圧力もAと同じ \(P_0\) になった時点で終わりです。
まず、気体が「された」仕事です。Aの部屋の気体は、圧力 \(P_0\) で一定のまま、ピストンDによって体積が \(\Delta V\) だけギュッと縮められました。このとき気体がされた仕事は、単純に「圧力 \(P_0 \times\) 縮んだ体積 \(\Delta V\)」で計算できます。
次に、この操作が終わったときの気体の全体の温度 \(T”\) と、どれだけ縮んだか \(\Delta V\) を求めます。
この一連の操作中、容器全体は断熱材でできているので、外部との熱のやりとりはない (\(Q=0\)) と考えます。ここで「熱力学第一法則」という大事なルールを使います。これは「気体の内部エネルギーの変化 = もらった熱 + された仕事」というものです。今回はもらった熱がゼロなので、「内部エネルギーの変化 = された仕事」となります。
内部エネルギーの変化は、最初の状態(Aに温度Tの気体だけがあった状態)と、最後の状態(AとB全体に同じ温度 \(T”\) の気体がある状態)の内部エネルギーの差から計算できます。単原子分子の理想気体の場合、内部エネルギーは「\(\frac{3}{2} \times \text{物質量} \times R \times \text{温度}\)」で表せます。
また、最後の状態では、AとBを合わせた全体の気体について「状態方程式」(圧力 \(P_0\)、全体の体積 \((V-\Delta V)+V = 2V-\Delta V\)、全体の物質量 \(n\)、全体の温度 \(T”\))が成り立ちます。
これで2つの重要な関係式(熱力学第一法則からくる式と、最後の状態での状態方程式)が手に入りました。これらを連立方程式として解くと、未知数である \(T”\) と \(\Delta V\) の両方を求めることができます。
この間に気体になされた仕事は \(W = P_0 \Delta V\)。\(\Delta V = \frac{3}{5}V\) を代入すると \(W = \frac{3}{5}P_0V\)。また、初期条件 \(P_0V = nRT\) を使うと、\(W = \frac{nRT}{V}\Delta V = \frac{3}{5}nRT\) とも表せます。
終りの状態の気体の温度は \(T” = \displaystyle\frac{7}{5}T\)、Aの体積変化は \(\Delta V = \displaystyle\frac{3}{5}V\) です。
終状態の温度 \(T” = \frac{7}{5}T = 1.4T\) は、初期温度 \(T\) よりも高くなっています。これは、外部から \(W = P_0 \Delta V\) の正の仕事をされ、かつ系全体が断熱的(\(Q=0\))であったため、その仕事が全て内部エネルギーの増加(すなわち温度上昇)に使われたと解釈でき、物理的に妥当です。\(\Delta V = \frac{3}{5}V\) は正の値であり、Aの体積が \(V\) から \(V – \frac{3}{5}V = \frac{2}{5}V > 0\) へと減少したことを意味しており、これも物理的に可能な範囲です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)): 全ての設問において、気体のマクロな状態量(圧力、体積、温度、物質量)の関係を記述する基本法則として用いられました。
- 真空への自由膨張 (問1): 断熱容器中での理想気体の自由膨張では、外部への仕事がなく (\(W=0\))、熱の出入りもなければ (\(Q=0\))、内部エネルギーが変化せず (\(\Delta U=0\))、結果として温度も変化しないという重要な性質。
- 断熱変化とポアソンの法則 (問2): 気体が外部と熱のやり取りなしに状態変化する際 (\(Q=0\)) に成り立つ \(PV^\gamma = \text{一定}\) や \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) という関係式。比熱比 \(\gamma\) の理解も含む。
- 定圧変化における仕事 (問3): 圧力が一定のまま体積が変化する際に気体がする(またはされる)仕事は \(W = P\Delta V\) で計算されること。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}nRT\)。また、その変化 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。比熱比 \(\gamma=5/3\) から定積モル比熱 \(C_V = \frac{R}{\gamma-1} = \frac{3}{2}R\) が導かれることも背景にあります。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W_{out} = Q + W_{in}\)): 内部エネルギーの変化、熱の出入り、仕事の間のエネルギー保存則。特に(3)では、断熱的な系(\(Q=0\))で外部から仕事をされた結果、内部エネルギーが増加するという形で適用されました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか。
- コックや弁で連結された複数の容器間での気体の移動、混合、状態変化を扱う問題。
- ピストンの操作(固定、ゆっくり動かす、特定の条件下で動かす)が伴う気体の状態変化問題。
- 断熱変化、自由膨張、定圧変化などが複合的に現れるプロセス。
- 外部から仕事をされたり、外部へ仕事をしたりする系全体のエネルギー収支を考える問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか。
- 操作のシーケンスの正確な把握: 問題文を丁寧に読み、どのような順序で、どのような操作(弁を開く、ピストンを動かす、加熱する、断熱する等)が行われるのかを時系列で正確に把握する。
- 変化の種類(プロセス)の特定: 各操作の結果、気体がどのような状態変化(自由膨張、断熱、定圧、定積、等温など)を経るのかを見極める。「ゆっくり」なら準静的過程、「断熱材」なら\(Q=0\)、「真空へ」なら自由膨張、といったキーワードに注目する。
- 保存則の適用可能性の検討: 物質量保存、エネルギー保存(熱力学第一法則、力学的エネルギー保存則、内部エネルギー保存則)が、どの範囲(個々の容器か、系全体か)で、どの条件下で適用できるかを慎重に判断する。
- 状態方程式の万能性: どの状態、どのプロセスにおいても、理想気体であれば状態方程式 \(PV=nRT\) は常に成り立つ基本法則として活用する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か。
- 「壁Sは熱をよく通す」と「円筒とピストンは断熱材」のように、部分によって熱的な性質が異なる場合、それがプロセス全体にどう影響するかを考える。例えば(1)や(3)の最終平衡状態ではAとBの温度は等しくなるが、(2)の断熱膨張では系全体で外部との熱のやり取りがない。
- 「ごくわずかに開ける」という表現は、準静的な変化を示唆し、変化の途中で圧力や温度が均一に近づきながら変化すると解釈できる場合がある。
- 仕事の向き(気体がしたか、されたか)と熱力学第一法則の符号規約に注意する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 自由膨張と断熱膨張の混同:
- 現象: (1)は自由膨張(温度不変)、(2)は断熱膨張(温度低下)であり、これらの違いを明確に区別できないと誤答につながる。自由膨張は外部に仕事をしないが、断熱膨張では外部に仕事をする(結果、内部エネルギーが減少し温度が下がる)。
- 対策: それぞれの定義(自由膨張:真空への拡散、断熱膨張:\(Q=0\) での膨張)と、それに伴う仕事や内部エネルギー変化の特徴を正確に理解する。
- ポアソンの法則の適用条件:
- 現象: \(PV^\gamma=\text{一定}\) や \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) は断熱変化(かつ準静的変化)でのみ成り立つ。他の変化(例えば(1)や(3)の一部)に誤って適用しないこと。
- 対策: ポアソンの法則が導出される前提(断熱過程、\(dQ=0\))を常に意識する。
- 熱力学第一法則の \(W\) の符号:
- 現象: 気体が「した仕事」を正とするか、「された仕事」を正とするかで式の形が変わる。一貫した定義で用いる必要がある。
- 対策: 自分が使う熱力学第一法則の \(W\) がどちらを表すのかを明確にし、問題文の問い(「なされた仕事」か「した仕事」か)と整合させる。
- (3)の複雑なプロセス:
- 現象: Aの定圧圧縮とBへの気体流入が同時に起こるため、系全体の状態変化を正しくモデル化するのが難しい。
- 対策: AとBの気体が最終的に同じ圧力・温度になること、全体の物質量が保存されること、系全体が断熱的であることなど、複数の条件を組み合わせて丁寧に考える。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか。
- (1) 自由膨張のイメージ: 気体が何の抵抗もなく真空空間へ急速に広がっていく様子をイメージする。このとき分子の速さが変わらない(温度不変)という描像。
- (2) 断熱膨張のイメージ: 気体がピストンを押して体積を広げ、そのためにエネルギーを消費し(仕事をし)、結果として温度が下がるというプロセスをイメージする。風船から空気を抜くと風船が冷たくなる現象と関連付ける。
- (3) 気体の移動と圧縮の同時進行: ピストンDがAを圧縮する力と、弁CからBへ気体が流れ出る勢いのバランスを取りながらAの圧力を一定に保つ、という微妙な操作をイメージする。
- P-V図の活用: (2)の断熱変化はP-V図上で \(PV^\gamma=\text{一定}\) の曲線、(3)のAの定圧変化はP-V図上で水平な線として描かれる。これらの図は仕事の計算や変化の概要を把握するのに役立つ。
- 図を描く際に注意すべき点は何か。
- P-V図では、状態点と変化の経路(矢印で方向も)を明確に描く。
- 断熱曲線は等温曲線よりも傾きが急であることを意識する(今回は直接比較はないが)。
- 力のつり合いを考える場合は、ピストンに働く全ての力をベクトルで図示する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 自由膨張で \(\Delta T = 0\) (問1):
- 選定理由: 真空への拡散という記述から。
- 適用根拠: 理想気体が外部に仕事をせず (\(W=0\))、断熱的な容器内で外部との熱のやり取りもなければ (\(Q=0\))、熱力学第一法則より \(\Delta U=0\)。理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存するため、\(\Delta T=0\)。
- ポアソンの法則 \(PV^\gamma=\text{一定}\) (問2):
- 選定理由: 「断熱材」「ゆっくり動かす」から準静的断熱変化と判断。
- 適用根拠: 断熱過程 (\(Q=0\)) における理想気体の状態変化を表す関係式。
- 仕事 \(W=P_0\Delta V\) (問3のAの圧縮):
- 選定理由: Aの圧力が \(P_0\) で一定に保たれる定圧変化。
- 適用根拠: 定圧過程における仕事の定義。
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = W_{\text{された}}\) (問3の全体):
- 選定理由: 系全体が断熱的 (\(Q=0\)) であり、外部から仕事をされる状況。
- 適用根拠: エネルギー保存則の表現。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期条件と変化の把握: 各設問の冒頭で、気体がどのような状態からスタートし、どのような操作が加えられるのかを正確に把握する。
- 変化の種類の特定: 操作から、気体の変化が自由膨張、断熱変化、定圧変化、あるいはそれらの組み合わせなのかを判断する。
- 状態量の関連付け: 状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて、各状態や変化の前後でのP, V, T, nの関係を記述する。未知数は何か、既知数は何かを整理する。
- エネルギー収支の考慮: 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を基本に、系のエネルギーがどのように変化し、やり取りされるかを考える。特に \(Q=0\)(断熱)や \(W=0\)(定積、自由膨張)といった条件に注目する。
- 連立方程式の解決: 複数の未知数と複数の関係式が得られた場合、それらを数学的に解いて答えを導く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- ポアソンの法則の指数: \(PV^\gamma\) と \(TV^{\gamma-1}\) の指数 \(\gamma\) と \(\gamma-1\) を混同しない。
- 文字計算の煩雑さ: \(n, R, T, V, P_0, \gamma, \Delta V\) など多くの文字が登場し、式が長くなりがちなので、整理しながら慎重に計算する。
- 連立方程式の解法: (3)では \(T”\) と \(\Delta V\) に関する連立方程式を解く必要があり、代入や消去の過程でミスしやすい。
- 単位(次元)の一貫性: 文字式が中心だが、各項がエネルギーや圧力などの正しい次元を持っているか、頭の中でチェックする。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 途中式を丁寧に書く: 特に複雑な代数計算や指数計算では、省略せずに各ステップを記述する。
- 定義に立ち返る: 例えば \(\gamma\) の定義や、\(C_V\) と \(\gamma, R\) の関係 (\(C_V = R/(\gamma-1)\)) などを必要に応じて確認する。
- 物理量の置き換え: 例えば \(nR = P_0V/T\) のような関係を用いて、式の変数を減らしたり、見通しを良くしたりする。
- 検算: 可能であれば、別の方法で同じ量を計算してみる(例:仕事とエネルギーの関係)、あるいは極端な場合を代入して結果が妥当か確認する。
解の吟味の習慣化
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性。
- (1) 温度不変: 自由膨張で温度が変わらないのは理想気体の基本的な性質。
- (2) 温度低下、圧力低下: 断熱膨張なので、外部に仕事をし、内部エネルギーが減少するため温度が下がる。体積が増えて温度が下がれば圧力も下がる。これらの傾向と結果が一致するか。
- (3) 仕事と温度上昇: 気体が外部から仕事をされ (\(W>0\))、断熱的であれば (\(Q=0\))、内部エネルギーは増加し (\(\Delta U > 0\))、温度は上昇するはず (\(T” > T\))。この関係と結果が一致するか。\(\Delta V\) が正の値で、かつ \(V-\Delta V > 0\) を満たすか。
- 「解の吟味」を通じて得られること:
- 計算ミスや立式の根本的な誤りに気づくことができる。
- 物理法則や概念の理解が深まり、数式の背後にある物理的な意味を読み解く力が養われる。
- 問題の状況設定や条件の重要性を再認識し、より慎重な考察ができるようになる。
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