問題55 (名古屋大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、鉛直に置かれたシリンダー内で、底とばねで連結されたピストンによって閉じ込められた単原子分子理想気体の状態変化を考察するものです。初期状態(状態1)からゆっくりと熱を加えて気体を膨張させ、ばねが自然長になる状態(状態2)までの変化を追います。力のつり合い、仕事、内部エネルギー、熱力学第一法則といった熱力学の基本概念が総合的に問われます。
- シリンダー内の気体: 単原子分子の理想気体
- ピストン: 質量 \(M\)、断面積 \(S\)、滑らかに動く
- ばね: シリンダーの底とピストンを連結、自然長 \(l_0\)、軽い(質量無視)
- 外部環境: 大気圧 \(p_0\)、重力加速度 \(g\)
- 状態1 (初期状態、図1):
- 気体の圧力は \(p_0\) (大気圧に等しい)
- ピストンはばねの長さ \(l_1\) でつり合っている
- 状態2 (加熱後、図2):
- 気体はゆっくりと加熱され膨張
- ばねの長さがちょうど自然長 \(l_0\) になった
- (1) ばねのばね定数 \(k\)。ばねの長さが \(l\) (\(l_1 \le l \le l_0\)) のときの気体の圧力 \(p\) と \(l\) との関係式、およびそのグラフ。
- (2) 状態1から状態2へ変わる間に、気体がした仕事 \(W\)。
- (3) 状態1から状態2へ変わる間の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)。
- (4) 状態1から状態2へ変わる間に、気体に加えた熱量 \(Q\)。
- 【コラム】Q. 状態2からさらに熱を加えてばねの長さを \(l_2 (>l_0)\) としたとき、この間に気体がする仕事 \(W’\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 気体がした仕事\(W\)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 主たる解法がP-Vグラフの面積(熱力学的な仕事の定義)から求めるのに対し、別解では気体がした仕事が系の力学的エネルギー(ピストンの位置エネルギー、ばねの弾性エネルギー)の変化と大気圧への仕事に変換されるという、力学的なエネルギー保存の観点から解きます。
- 【コラム】Q. 仕事\(W’\)の別解: P-Vグラフの面積を利用する解法
- 主たる解法が力学的なエネルギー保存則から求めるのに対し、別解ではまず力のつり合いから圧力と体積の関係式を導出し、P-Vグラフ上の台形の面積として仕事を計算する、熱力学的なアプローチで解きます。
- 問(2) 気体がした仕事\(W\)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 熱力学的なアプローチ(P-Vグラフ)と力学的なアプローチ(エネルギー保存則)の両方を学ぶことで、同じ物理現象を異なる視点から分析する力が養われます。気体の仕事が具体的に何に変換されたかを明確に理解でき、熱力学と力学の関連性への理解が深まります。
- 解法の選択肢の拡大: 問題の条件によって、どちらかのアプローチが計算しやすい場合があります。両方の解法を習得しておくことで、より効率的に問題を解くための戦略的な思考力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「鉛直シリンダー内のばね付きピストンによる理想気体の状態変化」です。ピストンにはたらく力のつり合いを正確に理解し、それによって気体の圧力がどのように変化するかを把握することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: ピストンがゆっくり動く、または静止している状態では、ピストンにはたらく力の総和はゼロになります。
- P-Vグラフと仕事: 気体が外部にする仕事は、P-Vグラフ上で状態変化の曲線とV軸で囲まれた面積に等しくなります。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: 内部エネルギーは \(U = \frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}PV\) で与えられます。
- 熱力学第一法則: 気体に加えられた熱量\(Q\)、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)、気体がした仕事\(W\)の間には、\(Q = \Delta U + W\) の関係が成り立ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、まず状態1における力のつり合いからばね定数\(k\)を求めます。次に、一般のばねの長さ\(l\)における力のつり合いを考え、気体の圧力\(p\)と\(l\)の関係式を導出します。
- 問(2)では、問(1)で求めた関係からP-Vグラフが直線になることを利用し、台形の面積として気体がした仕事\(W\)を計算します。
- 問(3)では、単原子分子理想気体の内部エネルギーの公式 \(U = \frac{3}{2}PV\) を用いて、状態1と状態2の内部エネルギーの差\(\Delta U\)を計算します。
- 問(4)では、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) に、問(2)と問(3)で求めた値を代入して、加えられた熱量\(Q\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、状態1におけるピストンの力のつり合いを考えます。この状態では気体の圧力と大気圧が等しいため、圧力による力は相殺されます。したがって、ピストンの重力とばねの弾性力がつりあうことから、ばね定数\(k\)を求めます。
次に、ばねの長さが一般の\(l\) (\(l_1 \le l \le l_0\))であるときの力のつり合いを考えます。このときの気体の圧力を\(p\)とし、ピストンにはたらく全ての力(気体の圧力による力、ばねの弾性力、大気圧による力、重力)のつり合いの式を立て、\(p\)と\(l\)の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- ピストンにはたらく力を正確に図示し、力のつり合いの式を正しく立てること。
- ばねの弾性力は、自然長からの変位に比例する。設問の範囲ではばねは縮んでいるため、ピストンを上向きに押す力となる。
- 導出した関係式が\(l\)の1次関数であることを確認し、グラフの始点と終点を明確にして直線を描くこと。
具体的な解説と立式
ばね定数 \(k\):
状態1では、気体の圧力と大気圧がともに\(p_0\)で等しいため、ピストンの上下から圧力によって働く力はつり合っています。したがって、ピストン自身の重力\(Mg\)(下向き)と、ばねが\((l_0 – l_1)\)だけ縮むことによる弾性力(上向き)がつり合います。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの弾性力}) &= (\text{下向きの重力}) \\[2.0ex]
k(l_0 – l_1) &= Mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
気体の圧力 \(p\) とばねの長さ \(l\) の関係式 (\(l_1 \le l \le l_0\)):
ばねの長さが\(l\)のとき、気体の圧力を\(p\)とします。このとき、ピストンにはたらく力のつり合いは次のようになります。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力の和}) &= (\text{下向きの力の和}) \\[2.0ex]
pS + k(l_0 – l) &= p_0S + Mg \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
この式を\(p\)について解くことで、\(p\)と\(l\)の関係式が得られます。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
- フックの法則: \(F = kx\)
ばね定数 \(k\):
式①から\(k\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
k &= \frac{Mg}{l_0 – l_1}
\end{aligned}
$$
気体の圧力 \(p\) とばねの長さ \(l\) の関係式:
式②を\(p\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
pS &= p_0S + Mg – k(l_0 – l) \\[2.0ex]
p &= p_0 + \frac{Mg}{S} – \frac{k}{S}(l_0 – l)
\end{aligned}
$$
この式に、上で求めた\(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
p &= p_0 + \frac{Mg}{S} – \frac{Mg}{S(l_0 – l_1)}(l_0 – l) \\[2.0ex]
&= p_0 + \frac{Mg}{S} \left( 1 – \frac{l_0 – l}{l_0 – l_1} \right) \\[2.0ex]
&= p_0 + \frac{Mg}{S} \left( \frac{(l_0 – l_1) – (l_0 – l)}{l_0 – l_1} \right) \\[2.0ex]
&= p_0 + \frac{Mg}{S} \left( \frac{l – l_1}{l_0 – l_1} \right) \\[2.0ex]
&= p_0 + \frac{Mg(l-l_1)}{S(l_0-l_1)}
\end{aligned}
$$
グラフ:
この関係式は\(p\)が\(l\)の1次関数であることを示しているので、グラフは直線になります。
\(l = l_1\)のとき(状態1): \(p = p_0\)
\(l = l_0\)のとき(状態2): \(p = p_0 + \frac{Mg(l_0-l_1)}{S(l_0-l_1)} = p_0 + \frac{Mg}{S}\)
よって、グラフは点\((l_1, p_0)\)と点\((l_0, p_0 + \frac{Mg}{S})\)を結ぶ右上がりの直線となります。
まず、ばねの硬さ(ばね定数\(k\))を調べます。最初の状態では、ピストンの上下から気体と大気が同じ力で押し合っているので、これは無視できます。すると、ピストンの重さ(\(Mg\))と、縮んだばねが押し返す力とがちょうど釣り合っていることになります。この釣り合いの式から、ばねの硬さ\(k\)が計算できます。
次に、加熱途中の圧力\(p\)を考えます。このときもピストンは釣り合っていますが、今度は4つの力が登場します。「気体が下から押す力」と「ばねが下から押す力」の合計が、「大気が上から押す力」と「ピストンの重さ」の合計と等しくなります。この力の釣り合いの式を\(p\)について整理すれば、圧力とばねの長さ\(l\)の関係式が完成します。
ばね定数は \(k = \displaystyle\frac{Mg}{l_0 – l_1}\) です。
気体の圧力\(p\)とばねの長さ\(l\)の関係式は \(p = p_0 + \displaystyle\frac{Mg(l-l_1)}{S(l_0-l_1)}\) です。
この関係式は\(l\)の1次関数であり、\(l=l_1\)で\(p=p_0\)、\(l=l_0\)で\(p=p_0 + \frac{Mg}{S}\)となり、物理的な状況と一致しています。グラフは点\((l_1, p_0)\)から点\((l_0, p_0 + \frac{Mg}{S})\)へと向かう右上がりの直線です。
問(2)
思考の道筋とポイント
気体がした仕事\(W\)は、P-Vグラフ(圧力-体積グラフ)上で、状態変化の経路とV軸とで囲まれた領域の面積として表されます。問(1)より、圧力\(p\)はばねの長さ\(l\)の1次関数であり、体積\(V\)は\(V=Sl\)と表せるため、圧力\(p\)は体積\(V\)の1次関数でもあります。したがって、P-Vグラフ上の経路は直線となり、仕事\(W\)は台形の面積として計算できます。
この設問における重要なポイント
- 気体がする仕事がP-Vグラフの面積で表されることを理解していること。
- 今回の変化では、P-Vグラフ上の経路は直線となり、仕事は台形の面積として計算できること。
- 状態1と状態2における圧力と体積の値を正確に特定し、台形の面積公式に適用すること。
具体的な解説と立式
状態1の圧力と体積を\(p_1, V_1\)、状態2の圧力と体積を\(p_2, V_2\)とします。
\(p_1 = p_0\), \(V_1 = Sl_1\)
\(p_2 = p_0 + \frac{Mg}{S}\), \(V_2 = Sl_0\)
圧力\(p\)は体積\(V\)の1次関数なので、P-Vグラフ上での経路は直線を形成します。気体がした仕事\(W\)は、この直線とV軸で囲まれた台形の面積に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{p_1 + p_2}{2} (V_2 – V_1) \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事 (P-Vグラフの面積): \(W = \int_{V_1}^{V_2} p dV\)
式③に各値を代入して、仕事\(W\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{p_0 + \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right)}{2} (Sl_0 – Sl_1) \\[2.0ex]
&= \frac{2p_0 + \frac{Mg}{S}}{2} S(l_0 – l_1) \\[2.0ex]
&= \left(p_0 + \frac{Mg}{2S}\right) S(l_0 – l_1) \\[2.0ex]
&= \left(p_0S + \frac{Mg}{2}\right) (l_0 – l_1)
\end{aligned}
$$
気体が膨らむときにする「仕事」は、圧力と体積のグラフ(P-Vグラフ)で囲まれた部分の「面積」として計算できます。今回は圧力が一定の割合で増えていくので、グラフの形は台形になります。台形の面積は「(上の辺+下の辺)× 高さ ÷ 2」で求められますが、これに当てはめると「(始めの圧力+終わりの圧力)÷ 2 ×(体積の変化)」となります。それぞれの値を代入すれば、気体がした仕事が求まります。
気体がした仕事\(W\)は \(\displaystyle \left(p_0S + \frac{Mg}{2}\right) (l_0 – l_1)\) です。
気体は膨張している(\(l_0 > l_1\))ので、外部に正の仕事をしたことになり、\(W>0\)という結果は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
気体がした仕事\(W\)は、系の力学的エネルギー(ピストンの位置エネルギー、ばねの弾性エネルギー)の変化と、ピストンが大気圧に逆らってした仕事の和に等しい、というエネルギー保存の観点から考えます。
この設問における重要なポイント
- エネルギーの収支を考える。気体がした仕事が、何に変換されたかを追跡する。
- ばねの弾性エネルギーは、状態1で最大であり、状態2(自然長)でゼロになるため、この変化の間に減少することに注意する。
具体的な解説と立式
状態1から状態2への変化において、エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を考えます。気体がした仕事\(W\)は、ピストンの位置エネルギーの増加\(\Delta E_g\)、ばねの弾性エネルギーの増加\(\Delta U_s\)、そしてピストンが大気圧にする仕事\(W_{\text{atm}}\)の和に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
W &= \Delta E_g + \Delta U_s + W_{\text{atm}}
\end{aligned}
$$
各項は以下の通りです。
- ピストンの位置エネルギーの増加 \(\Delta E_g = Mg(l_0 – l_1)\)
- ばねの弾性エネルギーの増加 \(\Delta U_s = U_{s2} – U_{s1} = 0 – \frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2 = -\frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2\)
- ピストンが大気圧にする仕事 \(W_{\text{atm}} = p_0 S (l_0 – l_1)\)
よって、
$$
\begin{aligned}
W &= Mg(l_0-l_1) – \frac{1}{2}k(l_0-l_1)^2 + p_0S(l_0-l_1)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- 位置エネルギー \(U_g = mgh\)
- 弾性エネルギー \(U_s = \frac{1}{2}kx^2\)
上の式に、問(1)で求めたばね定数 \(k = \frac{Mg}{l_0-l_1}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= Mg(l_0-l_1) – \frac{1}{2}\left(\frac{Mg}{l_0-l_1}\right)(l_0-l_1)^2 + p_0S(l_0-l_1) \\[2.0ex]
&= Mg(l_0-l_1) – \frac{1}{2}Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}Mg(l_0-l_1) + p_0S(l_0-l_1) \\[2.0ex]
&= \left(p_0S + \frac{1}{2}Mg\right) (l_0-l_1)
\end{aligned}
$$
別の考え方をしてみましょう。気体が仕事をした分、どこかでエネルギーが増えているはずです。今回は、(1)ピストンが高くなって位置エネルギーが増え、(2)外の大気を押しのける仕事をしました。一方で、縮んでいたばねが元に戻るのを手伝ってくれたので、ばねが持っていたエネルギー(弾性エネルギー)は減りました。このエネルギーのプラスマイナスをすべて計算すると、気体がした仕事がいくらだったかが分かります。
結果は主たる解法と完全に一致します。この解法は、気体の仕事が具体的にどのようなエネルギーに変換されたかを力学的に追跡するものであり、物理現象の理解を深める上で有益です。
問(3)
思考の道筋とポイント
気体は単原子分子の理想気体なので、その内部エネルギー\(U\)は \(U = \frac{3}{2}PV\) で与えられます。したがって、状態1から状態2への内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、\(\Delta U = U_2 – U_1 = \frac{3}{2}(P_2V_2 – P_1V_1)\) として計算できます。状態1と状態2における圧力と体積の値は既に分かっているので、これらを代入します。
この設問における重要なポイント
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの表式 \(U = \frac{3}{2}PV\) を正しく用いること。
- 内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、変化後の内部エネルギー\(U_2\)から変化前の内部エネルギー\(U_1\)を引いたものであること。
具体的な解説と立式
単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、状態1の内部エネルギーを\(U_1\)、状態2の内部エネルギーを\(U_2\)とすると、
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= U_2 – U_1
\end{aligned}
$$
内部エネルギーの公式 \(U = \frac{3}{2}PV\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{3}{2}(P_2V_2 – P_1V_1) \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
ここで、各状態の圧力と体積は以下の通りです。
状態1: \(P_1 = p_0\), \(V_1 = Sl_1\)
状態2: \(P_2 = p_0 + \frac{Mg}{S}\), \(V_2 = Sl_0\)
使用した物理公式
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}PV\)
まず、\(P_2V_2\)と\(P_1V_1\)の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_2V_2 &= \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right) (Sl_0) \\[2.0ex]
&= p_0Sl_0 + Mgl_0
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
P_1V_1 &= p_0 (Sl_1) \\[2.0ex]
&= p_0Sl_1
\end{aligned}
$$
これらの結果を式④に代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{3}{2} \left( (p_0Sl_0 + Mgl_0) – p_0Sl_1 \right) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} \left( p_0S(l_0 – l_1) + Mgl_0 \right)
\end{aligned}
$$
気体の「内部エネルギー」とは、気体を構成する分子が持つ運動エネルギーの総和のようなもので、気体の温度と関係があります。単原子分子の理想気体の場合、内部エネルギーは「\(\frac{3}{2} \times \text{圧力} \times \text{体積}\)」という簡単な式で計算できます。内部エネルギーがどれだけ「変化」したかを知りたいので、「終わりの状態の内部エネルギー」から「始めの状態の内部エネルギー」を引き算すればよいわけです。
内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は \(\displaystyle \frac{3}{2} \left( p_0S(l_0 – l_1) + Mgl_0 \right)\) です。
気体は加熱されて膨張しているので、温度は上昇し、内部エネルギーも増加すると考えられます。計算結果の\(\Delta U\)は正の値となり、物理的に妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
気体に加えた熱量\(Q\)を求めるには、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を利用します。これを変形した \(Q = \Delta U + W\) に、問(2)で計算した仕事\(W\)と、問(3)で計算した内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を代入します。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を正しく適用すること。
- 前の設問で計算した\(W\)と\(\Delta U\)の値を正確に用いて計算すること。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、気体に加えられた熱量\(Q\)は次のように求められます。
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta U + W \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
問(2)と問(3)の結果をこの式に代入します。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
式⑤に\(W\)と\(\Delta U\)の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \left[ \frac{3}{2} \left( p_0S(l_0 – l_1) + Mgl_0 \right) \right] + \left[ \left(p_0S + \frac{Mg}{2}\right) (l_0 – l_1) \right] \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \frac{3}{2}Mgl_0 + p_0S(l_0 – l_1) + \frac{1}{2}Mg(l_0 – l_1) \\[2.0ex]
&= \left(\frac{3}{2} + 1\right)p_0S(l_0 – l_1) + \frac{3}{2}Mgl_0 + \frac{1}{2}Mgl_0 – \frac{1}{2}Mgl_1 \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \left(\frac{3}{2} + \frac{1}{2}\right)Mgl_0 – \frac{1}{2}Mgl_1 \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + 2Mgl_0 – \frac{1}{2}Mgl_1 \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \frac{1}{2}Mg(4l_0 – l_1)
\end{aligned}
$$
熱力学の最も重要な法則の一つ、「熱力学第一法則」を使います。これは、「気体に加えた熱(\(Q\))は、気体の内部エネルギーを増やす(\(\Delta U\))のと、気体が外部に仕事をする(\(W\))のに使われる」というエネルギー保存の法則です。式で書くと \(Q = \Delta U + W\) となります。私たちは前の設問で\(\Delta U\)と\(W\)をすでに計算しているので、この二つを足し算するだけで、加えた熱量\(Q\)が求まります。
気体に加えた熱量\(Q\)は \(\displaystyle \frac{5}{2}p_0S(l_0 – l_1) + \frac{1}{2}Mg(4l_0 – l_1)\) です。
気体は加熱されているので、加えられた熱量\(Q\)が正の値となることは物理的に妥当です。
【コラム】Q. 状態2からさらに熱を加えてばねの長さを \(l_2 (>l_0)\) とするときの仕事
思考の道筋とポイント
この設問では、状態2(ばねが自然長)からさらに気体に熱を加え、ばねが伸びる状態にしたときに、気体がする仕事\(W’\)をエネルギー保存則の観点から求めます。気体が仕事\(W’\)をすると、そのエネルギーは周囲の系のエネルギー変化や外部への仕事に使われます。具体的には、ピストンの位置エネルギーの増加、ばねの弾性エネルギーの増加、ピストンが大気圧に逆らってする仕事の3つの合計として考えることができます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則を正しく適用すること。気体がした仕事が、系の他の部分の力学的エネルギーの増加や、大気圧に対する仕事に変換されるという視点を持つこと。
- 各エネルギー変化量を正確に計算すること。特に、ばねの伸びは自然長\(l_0\)からの変位であることに注意する。
- 大気圧がピストンの動きに対してする仕事(または大気圧に逆らってピストンがする仕事)を正しく考慮に入れること。
具体的な解説と立式
状態2(ばねの長さ\(l_0\))から、ばねの長さが\(l_2\) (\(l_2 > l_0\))になるまで気体が外部にする仕事を\(W’\)とします。エネルギー保存則より、気体がした仕事\(W’\)は、以下の3つの和に等しくなります。
- ピストンの位置エネルギーの増加 \(\Delta E_g\):
$$
\begin{aligned}
\Delta E_g &= Mg(l_2 – l_0)
\end{aligned}
$$ - ばねの弾性エネルギーの増加 \(\Delta U_s\):
状態2ではばねは自然長なので弾性エネルギーは0。よって増加量は、
$$
\begin{aligned}
\Delta U_s &= \frac{1}{2}k(l_2 – l_0)^2
\end{aligned}
$$ - ピストンが大気圧に逆らってする仕事 \(W_{\text{atm}}\):
$$
\begin{aligned}
W_{\text{atm}} &= p_0 S (l_2 – l_0)
\end{aligned}
$$
したがって、気体がした仕事\(W’\)は、
$$
\begin{aligned}
W’ &= \Delta E_g + \Delta U_s + W_{\text{atm}} \\[2.0ex]
&= Mg(l_2 – l_0) + \frac{1}{2}k(l_2 – l_0)^2 + p_0S(l_2 – l_0)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- 位置エネルギーの変化: \(\Delta U_g = mg\Delta h\)
- 弾性エネルギーの変化: \(\Delta U_s = \frac{1}{2}kx_後^2 – \frac{1}{2}kx_初^2\)
上の式に、問(1)で求めたばね定数 \(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W’ &= Mg(l_2 – l_0) + \frac{1}{2}\left(\frac{Mg}{l_0 – l_1}\right)(l_2 – l_0)^2 + p_0S(l_2 – l_0)
\end{aligned}
$$
共通因子 \((l_2 – l_0)\) で全体をくくりだします。
$$
\begin{aligned}
W’ &= \left[ Mg + \frac{1}{2}\frac{Mg(l_2 – l_0)}{l_0 – l_1} + p_0S \right] (l_2 – l_0)
\end{aligned}
$$
角括弧の中の\(Mg\)を含む項を通分して整理します。
$$
\begin{aligned}
Mg + \frac{Mg(l_2 – l_0)}{2(l_0 – l_1)} &= \frac{2Mg(l_0 – l_1) + Mg(l_2 – l_0)}{2(l_0 – l_1)} \\[2.0ex]
&= \frac{2Mgl_0 – 2Mgl_1 + Mgl_2 – Mgl_0}{2(l_0 – l_1)} \\[2.0ex]
&= \frac{Mgl_0 + Mgl_2 – 2Mgl_1}{2(l_0 – l_1)} \\[2.0ex]
&= Mg \frac{l_0 + l_2 – 2l_1}{2(l_0 – l_1)}
\end{aligned}
$$
これを元の式に戻すと、気体がする仕事\(W’\)は、
$$
\begin{aligned}
W’ &= \left\{ Mg \frac{l_0 + l_2 – 2l_1}{2(l_0 – l_1)} + p_0S \right\} (l_2 – l_0)
\end{aligned}
$$
今度はばねが自然の長さから伸びる場合を考えます。気体が仕事をした分、そのエネルギーはどこへ行ったのでしょうか?問(2)の別解と同じように、エネルギーの行き先を追いかけます。
1. ピストンがさらに高くなるので、ピストンの「位置エネルギー」が増えます。
2. ばねが自然の長さから伸びるので、ばねの「弾性エネルギー」が増えます。
3. ピストンが上に動くことで、外の大気を押しのけるので、大気に対して「仕事」をします。
気体がした仕事\(W’\)は、これら3つのエネルギーの増加分や仕事の合計に等しくなります。
気体がする仕事\(W’\)は、
\(W’ = \displaystyle \left\{ Mg \frac{l_0 + l_2 – 2l_1}{2(l_0 – l_1)} + p_0S \right\} (l_2 – l_0)\) です。
この結果は、気体が外部に対して正の仕事をしたことを示しており(\(l_2 > l_0\) のため)、その仕事がピストンの位置エネルギー増加、ばねの弾性エネルギー増加、そして大気圧に対する仕事という具体的な物理現象に分配されたことを明確に表しています。
思考の道筋とポイント
主たる解法とは逆に、熱力学の基本に立ち返り、仕事\(W’\)をP-Vグラフの面積として求めます。そのためには、まずばねの長さが\(l\) (\(l \ge l_0\))のときの気体の圧力\(p\)と\(l\)の関係式を、力のつり合いから導出する必要があります。
この設問における重要なポイント
- ばねが伸びている場合の力のつり合いを正しく立式すること。ばねの弾性力は、今度はピストンを下向きに引く力となる。
- 導出した\(p-l\)関係式から、P-Vグラフが直線になることを確認し、台形の面積として仕事を計算する。
具体的な解説と立式
ばねの長さが\(l\) (\(l \ge l_0\))のとき、気体の圧力を\(p\)とします。ばねは\((l-l_0)\)だけ伸びているため、弾性力は下向きに\(k(l-l_0)\)となります。このとき、ピストンにはたらく力のつり合いは次のようになります。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力の和}) \\[2.0ex]
pS &= p_0S + Mg + k(l-l_0)
\end{aligned}
$$
この式から、圧力\(p\)は\(l\)の1次関数であることがわかります。したがって、状態2(長さ\(l_0\))から状態\(l_2\)までの変化もP-Vグラフ上で直線を描きます。仕事\(W’\)は台形の面積として計算できます。
状態2の圧力\(p_2\)と体積\(V_2\):
\(p_2 = p_0 + \frac{Mg}{S}\), \(V_2 = Sl_0\)
状態\(l_2\)の圧力\(p_3\)と体積\(V_3\):
\(V_3 = Sl_2\)
\(p_3\)は、上のつり合いの式で\(l=l_2\)としたもの。
$$
\begin{aligned}
p_3S &= p_0S + Mg + k(l_2-l_0) \\[2.0ex]
p_3 &= p_0 + \frac{Mg}{S} + \frac{k}{S}(l_2-l_0)
\end{aligned}
$$
仕事\(W’\)は、
$$
\begin{aligned}
W’ &= \frac{p_2 + p_3}{2} (V_3 – V_2)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 仕事 (P-Vグラフの面積)
まず\(p_2+p_3\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
p_2 + p_3 &= \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right) + \left(p_0 + \frac{Mg}{S} + \frac{k}{S}(l_2-l_0)\right) \\[2.0ex]
&= 2p_0 + \frac{2Mg}{S} + \frac{k}{S}(l_2-l_0)
\end{aligned}
$$
これを仕事の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
W’ &= \frac{1}{2} \left( 2p_0 + \frac{2Mg}{S} + \frac{k}{S}(l_2-l_0) \right) S(l_2-l_0) \\[2.0ex]
&= \left( p_0S + Mg + \frac{k}{2}(l_2-l_0) \right) (l_2-l_0) \\[2.0ex]
&= p_0S(l_2-l_0) + Mg(l_2-l_0) + \frac{1}{2}k(l_2-l_0)^2
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法の途中の式と完全に一致します。ここに\(k = \frac{Mg}{l_0 – l_1}\)を代入し、整理する計算は主たる解法と同じなので、最終結果も一致します。
問(2)のメインの解き方と同じように、P-Vグラフの面積から仕事を計算してみましょう。そのためには、まずばねが伸びているときの圧力と体積の関係を調べる必要があります。力の釣り合いを考えると、今度はばねが伸びてピストンを下に引っ張るので、気体は「大気圧」「ピストンの重さ」「ばねの引く力」の3つに打ち勝つ必要があります。この釣り合いから圧力の式を作ると、やはり圧力は体積の一次関数(グラフが直線)になることがわかります。あとは、台形の面積の公式を使えば、仕事が計算できます。
結果は主たる解法と完全に一致します。この別解は、問(1), (2)で用いた熱力学的なアプローチ(力のつり合い→P-Vグラフ→面積)が、ばねが伸びる場合にも同様に適用できることを示しています。問題全体を通して一貫した解法で解くことができるという点で、非常に教育的価値が高いです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いと熱力学第一法則の融合:
- 核心: この問題は、ピストンにはたらく力学的な「力のつり合い」から気体の圧力変化を導き出し、その結果を用いて「熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W\))」を適用するという、力学と熱力学が融合した典型問題です。
- 理解のポイント:
- 力の図示: まず、ピストンにはたらく力(気体の圧力、大気圧、重力、ばねの弾性力)をすべて正確に図示することが第一歩です。
- 圧力変化の把握: 気体の圧力は一定ではなく、ピストンの位置(ばねの長さ)に応じて変化します。この\(p-l\)関係を力のつり合いから導出することが、後続の設問を解くための基礎となります。
- 仕事の計算: 圧力が変化する場合の仕事はP-Vグラフの面積で求めます。今回は圧力が体積の1次関数として変化するため、仕事は台形の面積として簡単に計算できます。
- エネルギーの収支: 熱力学第一法則は、エネルギー保存則の熱力学的な表現です。加えられた熱\(Q\)が、内部エネルギー\(\Delta U\)(温度変化に相当)と外部への仕事\(W\)(体積変化に相当)にどう分配されるかを記述します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばね付きピストン(水平・斜め): ピストンが水平や斜めに置かれている問題。重力の扱いが変わるだけで、力のつり合いを考える基本方針は同じです。
- ゴム膜や可動壁で仕切られたシリンダー: 2つの気体が可動壁を挟んでいる問題。壁にはたらく両側からの圧力のつり合いを考えます。
- 断熱変化や等温変化との組み合わせ: 本問は「ゆっくり加熱」でしたが、これが「断熱的に膨張」や「温度を一定に保ちながら膨張」といった条件に変わる問題。ポアソンの法則やボイルの法則が追加で必要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- ピストン(可動壁)の力のつり合いが全ての基本: 問題がどんなに複雑に見えても、まずはピストンや壁にはたらく力のつり合いの式を立てることから始めましょう。これが圧力や体積の関係を解き明かす鍵です。
- 状態変化をP-Vグラフで可視化する: 状態変化の過程をP-Vグラフに描く癖をつけると、仕事の計算(面積)や変化の全体像が直感的に理解でき、ミスを防げます。
- 力学的エネルギー保存則の視点を持つ: 問(2)の別解やコラムQのように、熱力学の問題は力学的なエネルギーの収支からも解ける場合があります。気体がした仕事が「何に変換されたか」を具体的に追跡するこの視点は、複雑な問題で強力な武器になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のつり合いの式の立て方ミス:
- 誤解: ばねの弾性力の向きを間違える。ばねが縮んでいるのに引く力としてしまう、など。
- 対策: 必ず図を描き、ばねが「自然長より長いか短いか」を確認しましょう。ばねは常に自然長に戻ろうとする向きに力を及ぼします。縮んでいれば伸びる向き(押し出す力)、伸びていれば縮む向き(引き込む力)です。
- 仕事の計算ミス:
- 誤解: 圧力が変化しているのに、安易に仕事の公式 \(W=P\Delta V\) を使ってしまう。
- 対策: \(W=P\Delta V\) は「定圧変化」のときだけ使える公式です。圧力が変化する場合は、必ずP-Vグラフを描き、その面積を求める、という基本に立ち返りましょう。
- 内部エネルギーの公式の誤用:
- 誤解: 気体の種類に関わらず、内部エネルギーの公式を \(U = \frac{3}{2}PV\) だと思い込んでしまう。
- 対策: \(U = \frac{3}{2}PV\) は「単原子分子」理想気体の場合です。問題文で「単原子分子」「二原子分子」などの記述を必ず確認する習慣をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式:
- 選定理由: 問題文に「つり合っていた」「ゆっくりと熱を加えた」とあります。「ゆっくり」という記述は、各瞬間でピストンが力のつり合いを保ちながら動く(準静的過程)ことを意味するため、力のつりあいの式が適用できます。
- 適用根拠: ピストンという物体が静止または準静的に動いている物理的状況。
- 仕事 \(W\) = P-Vグラフの面積:
- 選定理由: 気体がする仕事の普遍的な定義です。本問では圧力が一定ではないため、定圧変化の公式 \(W=P\Delta V\) は使えず、この定義に立ち返る必要があります。
- 適用根拠: 圧力が体積の関数として変化する、あらゆる熱力学過程。
- 内部エネルギー \(U = \frac{3}{2}PV\):
- 選定理由: 問題文に「単原子分子の理想気体」と明記されているため、この公式が直接適用できます。
- 適用根拠: 気体の種類が単原子分子であるという問題設定。
- 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\):
- 選定理由: 「気体に加えた熱量\(Q\)を求めよ」という設問に対し、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)と気体がした仕事\(W\)が既に計算できているため、エネルギー保存則であるこの法則を用いるのが最も直接的です。
- 適用根拠: 熱の出入りを含む、あらゆる熱力学的な状態変化。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: 仕事\(W\)(気体が「する」仕事は正)、熱量\(Q\)(気体に「加える」熱は正)、内部エネルギー変化\(\Delta U\)(温度上昇で正)の符号の定義を明確に意識する。特に熱力学第一法則を \(\Delta U = Q + W’\) (W’は「される」仕事) の形で習った場合は、混同しないように注意が必要です。
- 日頃の練習: 物理現象と符号を対応させる。「膨張した」→\(W>0\)、「加熱された」→\(Q>0\)、「温度が上がった」→\(\Delta U>0\) のように、計算結果が直感と合っているか常に確認する。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: この問題のように多くの物理量(\(p_0, S, M, g, l_0, l_1\))が登場する場合、式が長くなりがちです。特に問(4)のように、前の設問の結果を代入する際は、展開や整理を丁寧に行う必要があります。
- 日頃の練習: 途中式を省略せず、丁寧に書く。共通因数でくくる、項を整理するなど、式をできるだけシンプルな形に保ちながら計算を進める癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) ばね定数\(k\): \(Mg > 0\), \(l_0 > l_1\) なので \(k > 0\)。ばね定数は正の値なので妥当。
- (2) 仕事\(W\): 気体は膨張している(\(l_0 > l_1\))ので、外部に正の仕事をするはず。計算結果は正の値となり、妥当。
- (3) 内部エネルギー変化\(\Delta U\): 気体は加熱されて膨張しているので、温度は上昇していると考えられる。したがって内部エネルギーは増加するはず。計算結果は正の値となり、妥当。
- (4) 熱量\(Q\): 内部エネルギーが増加し、かつ外部に仕事をしているので、外部から熱を吸収しているはず。計算結果は正の値となり、妥当。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もしピストンの質量がゼロ (\(M=0\)) だったらどうなるか?
- 問(1)より \(k=0\) となり、ばねは不要。力のつり合いの式②は \(pS = p_0S\) となり、\(p=p_0\) の定圧変化となる。
- このとき、問(2)の仕事は \(W = (p_0S + 0)(l_0-l_1) = p_0S(l_0-l_1) = p_0\Delta V\)。これは定圧変化の仕事の公式と一致。
- 問(3)の\(\Delta U\)は \(\frac{3}{2}(p_0S(l_0-l_1) + 0) = \frac{3}{2}p_0\Delta V\)。これも正しい。
- 問(4)の\(Q\)は \(\frac{5}{2}p_0S(l_0-l_1) + 0 = \frac{5}{2}p_0\Delta V\)。これは定圧モル熱量\(C_p = \frac{5}{2}R\)を用いた \(Q=nC_p\Delta T = \frac{5}{2}nR\Delta T = \frac{5}{2}\Delta(PV) = \frac{5}{2}p_0\Delta V\) と一致する。
- このように、特殊な場合を考えることで、式の妥当性を検証できる。
- もしピストンの質量がゼロ (\(M=0\)) だったらどうなるか?
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問題56 (早稲田大+近畿大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、コックで連結された2つの容器AとBに封入された単原子分子理想気体の状態変化を扱います。コックの開閉や容器の温度変化によって、気体の圧力、物質量の分布、最終的な温度や圧力がどのように変わるかを、理想気体の状態方程式や内部エネルギー保存則を駆使して解析していきます。
- 容器Aの体積: \(2V \text{ [m}^3\text{]}\)
- 容器Bの体積: \(V \text{ [m}^3\text{]}\)
- 連結管: コック付きの細いガラス管(体積は無視)
- 封入気体: 単原子分子の理想気体、総物質量 \(n \text{ [mol]}\)
- 気体定数: \(R \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\)
- (1) コックを開き、容器Aを温度 \(\frac{4}{3}T \text{ [K]}\)、容器Bを温度 \(T \text{ [K]}\) の恒温槽につけたときの定常状態における圧力と、A内の気体の物質量。
- (2) (1)の後コックを閉じ、Aの温度を \(2T \text{ [K]}\) にし(Bは \(T \text{ [K]}\) のまま)、その後全体をすばやく断熱材で囲んでからコックを開いた場合:
- コックを開いた直後の気体の流れの向き((a) AからBへ流れる、(b) 流れない、(c) BからAへ流れる)。
- 十分時間がたった後の気体の温度と圧力。
- 【コラム】Q. (2)で気体が単原子分子気体ではない(定積モル比熱 \(C_v \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\))場合、十分時間がたった後の気体の温度はどうなるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 圧力\(P\)を先に求める別解
- 主たる解法が、2つの状態方程式から物質量\(n_A\)を先に求めてから圧力\(P\)を求めるのに対し、別解では先に圧力\(P\)を求めてから物質量\(n_A\)を導出します。
- 【コラム】Q. 最終温度\(T’\)の別解: 熱量保存則に類似した考え方で解く解法
- 主たる解法が、混合前後の内部エネルギーの総和が等しいという「内部エネルギー保存則」から立式するのに対し、別解では高温気体が失った内部エネルギーと低温気体が得た内部エネルギーが等しいという「熱量保存則」に類似した考え方で立式します。
- 問(1) 圧力\(P\)を先に求める別解
- 上記の別解が有益である理由
- 代数的な処理能力の向上: 問(1)の別解は、未知数の消去順序を変えることで、異なる計算経路を体験でき、連立方程式を解く際の戦略的な思考力を養います。
- 物理モデルの深化: コラムQの別解は、「内部エネルギーの総和が不変」というマクロな視点と、「高温側から低温側へエネルギーが移動する」というミクロな視点の両方を学ぶことで、断熱混合という現象への理解を多角的にします。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を解くための基本戦略は、各状況において理想気体の状態方程式を適用し、物質量の保存、圧力平衡(コックが開いている場合)、そして内部エネルギー保存(断熱混合の場合)の法則を適切に使い分けることです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)。各容器の状態を記述する基本法則です。
- 物質量保存の法則: コックの開閉にかかわらず、系全体の気体の総物質量\(n\)は常に一定です。
- 圧力平衡: コックが開いて定常状態にあるとき、連結された容器内の圧力はどこでも等しくなります。
- 内部エネルギー保存の法則: 断熱された系内で、外部への仕事がない状態で気体が混合する場合、系全体の内部エネルギーの総和は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、コックが開いているため圧力が等しいという条件と、物質量の総和が\(n\)であるという条件を使い、各容器について立てた状態方程式を連立させて解きます。
- 問(2)では、まずコックを開く直前の各容器の圧力を計算し、その大小を比較して気体の流れの向きを判断します。次に、断熱混合における内部エネルギー保存則を用いて混合後の最終温度を求め、最後に気体全体の状態方程式から最終圧力を計算します。