問題40 (北海道大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一定角速度で回転する円板上の溝の中におかれた、ばねにつながれた小球の運動を扱います。円板上の観測者から見たときの力のつり合いや運動、特に単振動について考察する問題です。
- 水平面内を一定の角速度 \(\omega\) で回転する円板。
- 円板上には半径方向にみぞが掘られている。
- みぞの中に、ばね定数 \(k\)、自然長 \(l\) のばねが置かれている。
- ばねの一端は円板の中心 O に固定されている。
- ばねの他端には質量 \(M\) の小球 P がつけられている。
- 小球 P はみぞの中を滑らかに動くことができる。
- 中心 O から小球 P までの距離を \(r\) を用いておもりの位置を表す。
- 円板上で静止している観測者 A には、P が \(r=r_0\) の点に静止して見えた。
- その後、P をみぞに沿って外側に動かし、点 O からの距離 \(r_1\) の点で静かに P を放した。
- (1) 静止して見えたときの P の位置 \(r_0\) を、\(l, k, M, \omega\) を用いて表すこと。
- (2) (1)の状況が成立するために必要な角速度 \(\omega\) に対する条件。
- (3) P が位置 \(r\) にあるとき、観測者 A が見る P の加速度を \(a\) とすると、A が書くべき運動方程式。みぞ方向外向きを正とする。
- (4) P の位置を \(r_0\) から測った変位 \(x=r-r_0\) を用いて表したとき、運動方程式の右辺の力が \(-Lx\) の形になる場合の \(L\) を \(k, M, \omega\) を用いて表すこと。
- (5) P を放してからばねの長さが最小となるまでの時間、ばねの長さの最小値、および A が見る P の最大の速さを、\(k, M, \omega, r_0, r_1\) のうち必要なものを用いて表すこと。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。回転座標系における運動方程式を立て、それを単振動の形に整理するという一連の流れは、この種の問題を解く上での王道と言えます。
この問題のテーマは、回転座標系における力のつり合いと単振動です。円板と共に回転する観測者から見た運動を考えるため、見かけの力である「遠心力」を導入することが不可欠です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 遠心力: 回転する座標系(非慣性系)で物体に働く見かけの力。向きは回転中心から遠ざかる向き、大きさは \(mr\omega^2\) です。
- フックの法則: ばねの弾性力は、自然長からの伸びや縮みに比例します。
- 力のつり合い: 物体が(その座標系で)静止しているとき、働く力の合力はゼロです。
- 運動方程式: 物体の運動(加速度)と働く力の関係を結びつける基本法則。非慣性系で立てる場合は、見かけの力も加える必要があります。
- 単振動: 運動方程式が \(ma = -Kx\) の形(復元力)で表される運動。その周期、振幅、最大速度などの基本性質を理解していることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、回転座標系における力のつり合い(弾性力 = 遠心力)の式を立てて、つり合いの位置 \(r_0\) を求めます。
- 問(2)では、問(1)で求めた \(r_0\) の式が物理的に意味を持つための条件(\(r_0 > 0\))から、角速度 \(\omega\) の条件を導きます。
- 問(3)では、一般の位置 \(r\) における運動方程式を、遠心力と弾性力を用いて立てます。
- 問(4)では、問(3)の運動方程式をつり合い位置からの変位 \(x = r-r_0\) を用いて書き直し、\(Ma = -Lx\) の形に整理して \(L\) を特定します。
- 問(5)では、問(4)の結果から運動が単振動であることを見抜き、その性質(周期、振幅、最大速度)を利用して各値を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
観測者Aは円板と共に回転しているため、非慣性系にいます。Aから見ると、小球Pには円板の中心Oから遠ざかる向きに遠心力が働いているように見えます。Pが \(r=r_0\) の位置で静止しているということは、この位置でPに働く力がつり合っていることを意味します。みぞの方向に働く力は、ばねの弾性力と遠心力です。これらの力のつり合いの式を立てて、\(r_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 回転座標系(観測者Aの系)で力のつり合いを考える。
- 遠心力の向き(中心Oから遠ざかる向き)と大きさ(\(Mr_0\omega^2\))を正確に把握する。
- ばねの弾性力の向き(中心O向き)と大きさ(\(k(r_0-l)\))を正確に把握する。
具体的な解説と立式
観測者Aにとって、小球Pは距離 \(r_0\) の位置で静止しています。Aの系では、Pにはみぞ方向外向きに遠心力が働きます。その大きさは \(F_{\text{遠心力}} = Mr_0\omega^2\) です。
一方、ばねは自然長 \(l\) から \(r_0-l\) だけ伸びており、みぞ方向内向きに弾性力が働きます。その大きさは \(F_{\text{弾性力}} = k(r_0-l)\) です。
Pが静止しているため、これらの力はつり合っています。
(外向きの力)=(内向きの力)
$$
\begin{aligned}
Mr_0\omega^2 &= k(r_0-l) \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
- フックの法則: \(F = kx\)
- 力のつり合い
式①を \(r_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
Mr_0\omega^2 &= kr_0 – kl \\[2.0ex]
kl &= kr_0 – Mr_0\omega^2 \\[2.0ex]
kl &= (k – M\omega^2)r_0
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
r_0 &= \frac{kl}{k – M\omega^2}
\end{aligned}
$$
メリーゴーランドに乗っている人(観測者A)から、ばねにつながれたボール(小球P)を見ている状況を想像してください。Aさんには、ボールが外へ飛び出そうとする力(遠心力)と、ばねが中心へ引き戻そうとする力(弾性力)が見えます。ボールが特定の場所で静止して見えるのは、この「外向きの力」と「内向きの力」がちょうど引き分けになっているからです。この力のつり合いの式を立てて、静止する位置 \(r_0\) を計算します。
つり合いの位置 \(r_0\) は、\(r_0 = \displaystyle\frac{kl}{k – M\omega^2}\) と表されます。
この結果において、\(k, l, M\) は全て正の定数です。\(r_0\) が物理的に意味のある正の値をとるためには、分母である \(k – M\omega^2\) も正である必要があります。この点については問(2)で詳しく考えます。
問(2)
思考の道筋とポイント
問(1)で求めた \(r_0\) の式が物理的に意味を持つための条件を考えます。小球Pが実在するためには、その位置 \(r_0\) は正の値でなければなりません (\(r_0 > 0\))。また、ばねが無限に伸びることはできないため、つり合いの位置が存在するための条件、つまり \(r_0\) が有限の値をとるための条件も考慮します。これらの条件から、角速度 \(\omega\) が満たすべき不等式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 問(1)で得られた \(r_0\) の式の物理的妥当性を検討する。
- \(r_0 > 0\) という条件から、式の分母が正でなければならないことを導く。
具体的な解説と立式
問(1)で求めたつり合いの位置 \(r_0\) は、 \(\displaystyle r_0 = \frac{kl}{k – M\omega^2}\) です。
ばね定数 \(k\) および自然長 \(l\) は正の定数なので、分子の \(kl\) は正です。
小球Pが円板の中心Oから正の距離の位置に存在するためには、\(r_0 > 0\) である必要があります。
分子 \(kl > 0\) であるため、\(r_0 > 0\) が成り立つためには、分母 \(k – M\omega^2\) も正でなければなりません。
$$
\begin{aligned}
k – M\omega^2 &> 0 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
(特になし。問(1)の結果に基づく数学的・物理的考察)
式②を \(\omega\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
k &> M\omega^2 \\[2.0ex]
\frac{k}{M} &> \omega^2
\end{aligned}
$$
角速度 \(\omega\) はその大きさを表すので、\(\omega \ge 0\) です。したがって、上記の不等式を満たす \(\omega\) の範囲は、
$$
\begin{aligned}
0 \le \omega &< \sqrt{\frac{k}{M}} \end{aligned} $$ 問題文では「一定の角速度で回転している」とあるため、通常 \(\omega > 0\) を考えます。
問(1)で求めた \(r_0\) の式を見ると、分母に \(k – M\omega^2\) という項があります。もし回転が速すぎて \(\omega\) が大きくなると、この分母がゼロになったり、マイナスになったりする可能性があります。分母がゼロだと \(r_0\) は無限大に、マイナスだと \(r_0\) は負の値になってしまい、どちらも物理的におかしいです。そうならないためには、分母がプラスの値でなければなりません。この「\(k – M\omega^2 > 0\)」という条件から、回転の速さ \(\omega\) の上限が決まります。
Pが \(r=r_0\) の点に静止して見えるために必要な角速度 \(\omega\) に対する条件は、\(\omega < \sqrt{\displaystyle\frac{k}{M}}\) です。
この条件は、物理的に次のように解釈できます。角速度 \(\omega\) が大きすぎると、遠心力が非常に強くなります。もし \(\omega\) が \(\sqrt{k/M}\) 以上になると、どんなにばねが伸びても、ばねの弾性力が遠心力に打ち勝つことができなくなり、つり合いの位置が存在しなくなってしまいます。
問(3)
思考の道筋とポイント
観測者Aから見た小球Pの運動を考えます。Pが一般の位置 \(r\) にあるとき、Pに働く力は、みぞ方向外向きの遠心力と、ばねの弾性力です。これらの合力が、観測者Aから見たPの運動を引き起こす力となります。ニュートンの運動方程式 \(Ma = F\)(ここで \(a\) はAから見たPの加速度、\(F\) はAから見たPに働く合力)を立てます。
この設問における重要なポイント
- 回転座標系(観測者Aの系)における運動方程式を立てる。
- 遠心力は物体の位置 \(r\) に依存して \(Mr\omega^2\) と表される。
- ばねの弾性力は、ばねの伸び \((r-l)\) に比例し、その向きは中心向きである。
具体的な解説と立式
小球Pが中心Oからの距離 \(r\) の位置にあり、観測者Aから見た加速度が \(a\) であるとします。みぞ方向外向きを正の向きとします。
Pに働く力は以下の通りです。
1. 遠心力: 外向き(正)に \(Mr\omega^2\)。
2. ばねの弾性力: 内向き(負)に \(k(r-l)\)。
観測者Aの系におけるPの運動方程式 \(Ma = F_{\text{合力}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Ma &= Mr\omega^2 – k(r-l) \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
- フックの法則: \(F = kx\)
(この設問は運動方程式を立てることが目的なので、計算は不要です。)
ボールPが動いているとき、その動きの原因となる力を考えます。観測者Aさんから見ると、Pには相変わらず「外向きの遠心力」と「内向きのばねの力」が働いています。ただし、今度はつり合っていないので、これらの力の合計(合力)が、Pを加速させたり減速させたりします。物理の基本ルールである運動方程式「質量 × 加速度 = 合力」に従って、この状況を数式で表現します。
観測者Aが書くべき運動方程式は、\(Ma = Mr\omega^2 – k(r-l)\) です。この方程式の右辺は、Pの位置 \(r\) の関数になっています。これは、Pに働く力が一定ではないことを意味しており、Pは等加速度運動をするわけではないことが示唆されます。
問(4)
思考の道筋とポイント
問(3)で得られた運動方程式を、新しい変数 \(x = r-r_0\)(つり合いの位置 \(r_0\) からの変位)を使って書き換えます。目標は、運動方程式の右辺の力を \(-Lx\) という形(単振動の復元力の形)にすることです。これを行うために、\(r = x+r_0\) を問(3)の運動方程式に代入し、さらに問(1)で導いた \(r_0\) での力のつり合いの条件を巧みに利用して式を整理します。
この設問における重要なポイント
- 変数の置換 (\(r = x+r_0\)) を正確に行う。
- つり合いの位置 \(r_0\) で成り立っていた条件式を、式の整理の途中でうまく活用する。
具体的な解説と立式
問(3)で得られた運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
Ma &= Mr\omega^2 – k(r-l) \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
です。\(r = x+r_0\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
Ma &= M(x+r_0)\omega^2 – k((x+r_0)-l) \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
となります。この式を \(Ma = -Lx\) の形に整理し、\(L\) を求めます。
使用した物理公式
(特になし。代数的な変形と、問(1)のつり合い条件の利用)
式④を展開します。
$$
\begin{aligned}
Ma &= Mx\omega^2 + Mr_0\omega^2 – kx – k(r_0-l)
\end{aligned}
$$
項を並べ替えて、\(x\) を含む項と含まない項にまとめます。
$$
\begin{aligned}
Ma &= (M\omega^2 – k)x + (Mr_0\omega^2 – k(r_0-l))
\end{aligned}
$$
ここで、問(1)のつり合いの条件式 \(Mr_0\omega^2 = k(r_0-l)\) より、\(Mr_0\omega^2 – k(r_0-l) = 0\) なので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
Ma &= (M\omega^2 – k)x + 0 \\[2.0ex]
&= -(k – M\omega^2)x
\end{aligned}
$$
この式を目標の形である \(Ma = -Lx\) と比較して、係数 \(L\) は、
$$
\begin{aligned}
L &= k – M\omega^2
\end{aligned}
$$
と求められます。
(3)で作ったPの運動の式は、中心Oからの距離 \(r\) を使っていて少し複雑です。そこで、つり合いの位置 \(r_0\) を基準にした新しい座標 \(x\)(\(r_0\) からどれだけズレているかを表す量)を導入します。\(r\) の代わりに \(x+r_0\) を(3)の式に入れて計算を進めると、(1)で見つけた「\(r_0\) の位置では力がつり合っている」という関係のおかげで、式がとてもシンプルな「\(Ma = -(\text{ある定数}) \times x\)」という形になります。この「ある定数」が求めたい \(L\) です。
係数 \(L\) は、\(L = k – M\omega^2\) と表されます。
問(2)の条件より \(k – M\omega^2 > 0\) なので、この \(L\) は正の定数です。運動方程式が \(Ma = -Lx\)(ただし \(L>0\))と書けることは、小球Pの運動が、\(x=0\)(すなわち \(r=r_0\))を中心とする単振動であることを示しています。この \(L\) は、この単振動における「実効的なばね定数」と解釈できます。
問(5)
思考の道筋とポイント
問(4)の結果から、小球Pは \(r_0\) を中心とする単振動をすることがわかりました。この単振動の特性(角振動数、周期、振幅)をまず把握します。
Pは \(r=r_1\) の点で静かに放されるので、この位置が単振動の一方の端点となり、\(r_1-r_0\) が振幅 \(A\) となります。
1. 時間: 端点からもう一方の端点に到達するまでの時間なので、周期の半分 (\(T/2\)) に相当します。
2. 最小値: 振動中心 \(r_0\) から振幅 \(A\) だけ内側の位置、つまり \(r_0 – A\) です。
3. 最大速度: 振動中心を通過するときに最大となり、その値は \(A \omega_{\text{単}}\) です。
この設問における重要なポイント
- Pの運動が、\(r_0\) を中心とする単振動であることを理解する。
- 単振動の基本量である角振動数 \(\omega_{\text{単}}\)、周期 \(T\)、振幅 \(A\) を正しく求める。
- 初期条件(\(r=r_1\) で静かに放す)から振幅 \(A = r_1-r_0\) を決定する。
具体的な解説と立式
問(4)より、Pの運動は運動方程式 \(Ma = -Lx\) で記述される単振動です。
この単振動の角振動数を \(\omega_{\text{単}}\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\omega_{\text{単}} &= \sqrt{\frac{L}{M}}
\end{aligned}
$$
周期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega_{\text{単}}}
\end{aligned}
$$
Pは \(r=r_1\) で静かに放されるので、この単振動の振幅 \(A\) は、
$$
\begin{aligned}
A &= r_1 – r_0
\end{aligned}
$$
1. ばねの長さが最小となるまでの時間 \(t_{\text{最小}}\):
端から端までの時間なので、周期の半分です。
$$
\begin{aligned}
t_{\text{最小}} &= \frac{T}{2}
\end{aligned}
$$
2. ばねの長さの最小値 \(r_{\text{最小}}\):
振動中心 \(r_0\) から振幅 \(A\) だけ内側の位置です。
$$
\begin{aligned}
r_{\text{最小}} &= r_0 – A
\end{aligned}
$$
3. 最大の速さ \(v_{\text{最大}}\):
振動中心で最大となり、その値は、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A \omega_{\text{単}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 単振動の角振動数: \(\omega_{\text{単}} = \sqrt{K/m}\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi/\omega\)
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
各値を \(k, M, \omega, r_0, r_1\) を用いて表します。
\(L=k-M\omega^2\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
\omega_{\text{単}} &= \sqrt{\frac{k-M\omega^2}{M}} \\[2.0ex]
T &= 2\pi\sqrt{\frac{M}{k-M\omega^2}}
\end{aligned}
$$
1. 時間 \(t_{\text{最小}}\):
$$
\begin{aligned}
t_{\text{最小}} &= \frac{1}{2} \left( 2\pi\sqrt{\frac{M}{k-M\omega^2}} \right) = \pi\sqrt{\frac{M}{k-M\omega^2}}
\end{aligned}
$$
2. 最小値 \(r_{\text{最小}}\):
$$
\begin{aligned}
r_{\text{最小}} &= r_0 – (r_1 – r_0) = 2r_0 – r_1
\end{aligned}
$$
3. 最大速度 \(v_{\text{最大}}\):
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= (r_1 – r_0) \sqrt{\frac{k-M\omega^2}{M}}
\end{aligned}
$$
(4)で、Pの運動はつり合い位置 \(r_0\) を中心とした単振動だとわかりました。この問題は、その単振動の性質について聞いているだけです。
1. 時間: Pを \(r_1\) で放すと、そこが振動のスタート地点(端っこ)です。ばねが一番短くなるのは、反対側の端っこに着いたときです。端から端まで行く時間は、1往復(周期)のちょうど半分です。
2. 最小の長さ: 振動の中心は \(r_0\) で、振れ幅(振幅)はスタート地点と中心の距離 \(r_1 – r_0\) です。一番内側に来たときの長さは、中心から振れ幅だけ内側に入った \(r_0 – (r_1 – r_0)\) になります。
3. 最大の速さ: 単振動では、真ん中を通過するときが一番速くなります。その速さは「振れ幅 × 角振動数」という公式で計算できます。
各値は、単振動の基本的な性質を適用することで求められました。
時間: \(\displaystyle \pi\sqrt{\frac{M}{k-M\omega^2}}\), 最小値: \(2r_0 – r_1\), 最大の速さ: \(\displaystyle (r_1 – r_0) \sqrt{\frac{k-M\omega^2}{M}}\)。
これらの結果は、すべて問題で与えられた文字で表されており、物理的に妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回転座標系における運動方程式と見かけの力(遠心力)
- 核心: この問題は、回転する円板上の観測者Aから見た運動を記述することが中心です。回転座標系は非慣性系であるため、ニュートンの運動法則を適用するには「見かけの力」である遠心力を導入する必要があります。この遠心力と、実際に働く力(ばねの弾性力)の合力によって、Pの運動が決定されます。
- 理解のポイント:
- 座標系の選択: 問題が「円板上で静止している観測者Aには…」と指定しているため、回転座標系で考えるのが最も自然で効率的です。
- 遠心力の導入: 回転座標系で運動方程式を立てる際は、必ず遠心力 \(F=mr\omega^2\) を力の一つとして加えることを忘れないようにします。向きは常に回転中心から遠ざかる向きです。
- 力のつり合いと運動: 観測者から見て物体が静止している場合は、見かけの力を含めた全ての力の合力がゼロ(力のつり合い)になります。運動している場合は、見かけの力を含めた合力が物体の加速度を生む(運動方程式)と考えます。
- 単振動
- 核心: 一見複雑に見える回転系でのばねの運動も、つり合いの位置からの変位 \(x\) を用いて運動方程式を整理すると、\(Ma = -Lx\) という復元力の形に帰着します。これは、その運動が紛れもなく単振動であることを示しており、周期や振幅といった単振動の性質を適用して解析することができます。
- 理解のポイント:
- 振動中心の特定: 単振動の解析は、まず振動の中心(力がつり合う点)を見つけることから始まります。本問では、遠心力と弾性力がつり合う \(r=r_0\) が振動中心です。
- 実効的なばね定数: 運動方程式を \(Ma=-Lx\) の形に整理したときの係数 \(L\) が、その単振動の「硬さ」を表す実効的なばね定数となります。本問では遠心力の影響で、ばね定数が \(k\) から \(k-M\omega^2\) に変化したように見えます。
- 初期条件と振幅: 単振動の振幅は、物体の運動の開始の仕方(初期条件)で決まります。「静かに放す」場合、その位置が振動の端点となり、振動中心との距離が振幅になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 回転する円錐振り子: 回転する円錐面の内側を運動するおもりの問題。これも回転座標系で考え、遠心力、重力、垂直抗力のつり合いや運動を考えます。
- 人工衛星内の物体の運動: 人工衛星も地球の周りを回転(公転)しているため、内部は一種の回転座標系と見なせます。遠心力と万有引力がつり合うことで、無重力状態が実現されることを解析する問題。
- 回転する液体表面: 回転するバケツの中の水の表面が放物面になる問題。水の一部分に着目し、遠心力と重力の合力が液面に垂直になる条件から形を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 観測者の指定: 問題文で「誰から見て」運動を記述するかが指定されているかを確認します。もし回転系にいる観測者が指定されていれば、遠心力(やコリオリの力)を導入するサインです。
- 力のリストアップ: 慣性系・非慣性系を問わず、物体に働く力をすべてリストアップするのが基本です。非慣性系の場合は、「実際に働く力」に加えて「見かけの力」を忘れずに加えます。
- つり合いの位置の重要性: 振動の問題では、まず「力のつり合いの位置」を求めることが極めて重要です。この位置が振動の中心となり、全ての運動はこの点を基準に記述されるからです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 遠心力の公式の誤用:
- 誤解: 遠心力の式 \(mr\omega^2\) の \(r\) に、つり合いの位置 \(r_0\) ではなく、ばねの伸び \((r-l)\) などを代入してしまう。
- 対策: 遠心力は、常に「回転中心からの距離」に比例することを強く意識する。図を描いて、どの長さが \(r\) に対応するのかを明確に確認する。
- 慣性系と非慣性系の混同:
- 誤解: 床から見た静止系で運動方程式を立てようとしながら、遠心力を加えてしまう。
- 対策: 遠心力は、あくまで回転座標系という「非慣性系」で運動を記述するための「見かけの力」であることを理解する。静止系で解く場合は、向心力(この場合はばねの弾性力)が向心加速度 \(a=r\omega^2\) を生む、という \(ma=F\) の形で立式します。どちらの立場で解くのかを最初に明確に決めることが重要です。
- 単振動のばね定数の誤認:
- 誤解: 問(5)で、単振動の周期を計算する際に、実効的なばね定数 \(L=k-M\omega^2\) ではなく、元のばね定数 \(k\) を使ってしまう。
- 対策: 運動方程式を \(Ma=-Lx\) の形に整理したときの \(x\) の係数 \(-L\) が復元力を決める、という単振動の定義に立ち返る。遠心力のような位置に依存する力が加わると、見かけのばね定数が変化する場合があることを知っておく。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 遠心力 \(F=mr\omega^2\):
- 選定理由: 問題が「回転円板上の観測者A」の視点で記述されているため。非慣性系で運動を記述するための必須のツールです。
- 適用根拠: 回転座標系でニュートンの運動法則を成り立たせるために導入される見かけの力。静止系から見れば、これは物体が円運動を続けるために必要な向心力に対する反作用(のようなもの)と解釈できますが、回転系では外向きに働く一つの力として扱います。
- 運動方程式 \(Ma = -Lx\):
- 選定理由: 問(4), (5)で、つり合いの位置の周りでの運動を解析するため。
- 適用根拠: 問(3)で立てた一般の運動方程式を、つり合いの位置からの変位 \(x\) で整理し直すと、この形になることが数学的に示されます。この形に帰着できれば、その運動が単振動であることが確定し、周期や振幅などの性質を論じることができます。
- 単振動の公式群(周期、最大速度など):
- 選定理由: 問(5)で、単振動の具体的な数値を問われているため。
- 適用根拠: 運動が \(Ma=-Lx\) で表される単振動であることが確定した後、その性質を記述するために用いられる一連の公式です。運動方程式そのものを解かなくても、これらの公式を知っていれば運動の様子を詳細に知ることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の管理:
- 特に注意すべき点: 運動方程式を立てる際、座標軸の正の向きと、各力の向き(正負)を正確に対応させることが重要です。特にばねの力は、伸び \((r-l)\) が正でも力は負の向き、といったように符号が逆転することが多いので注意が必要です。
- 日頃の練習: 必ず図に座標軸(原点と正の向き)を描き込み、力のベクトルも矢印で図示する。式を立てる際は、図を見ながら一つ一つの力の符号を確認する癖をつける。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: \(r, r_0, r_1, l, x\) など、長さを表す文字が多く登場します。どの文字が何を表しているのかを常に意識し、混同しないようにする。
- 日頃の練習: 問(4)のように、式の変形を行う際は、どの関係式(ここでは問(1)のつり合いの式)を利用したかを明確に意識しながら、途中式を省略せずに丁寧に書く。
- 物理的条件の確認:
- 特に注意すべき点: 問(2)のように、計算結果が物理的に意味を持つための条件を考える問題では、数式だけでなく、その物理的な意味を考えることが重要です。
- 日頃の練習: 計算結果が出たら、例えば「もし\(\omega\)が非常に大きかったらどうなるか?」といった極端な場合を考えてみる。\(r_0\) の式で分母が0に近づくと \(r_0\) が発散することから、「つり合いが保てなくなる限界がある」という物理的な描像と結びつける練習をする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) つり合い位置 \(r_0\): \(r_0 = \frac{kl}{k-M\omega^2}\)。\(\omega\) が大きいほど分母が小さくなり、\(r_0\) は大きくなる。回転が速いほど遠心力が強くなり、より外側でつり合うというのは直感と一致する。
- (4) 実効的なばね定数 \(L\): \(L=k-M\omega^2\)。回転することで、遠心力が常に外向きに物体を引っ張ろうとするため、ばねが中心に引き戻す力の一部が相殺される。その結果、見かけのばね定数が元の \(k\) より小さくなる、と解釈でき、物理的に妥当。
- (5) 周期: \(T = 2\pi\sqrt{M/L} = 2\pi\sqrt{M/(k-M\omega^2)}\)。\(\omega\) が大きいほど分母が小さくなり、周期は長くなる(振動がゆっくりになる)。見かけのばねが弱くなるので、振動がゆっくりになるのは妥当。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし回転がなければ (\(\omega=0\))?
- (1) \(r_0 = kl/k = l\)。つり合いの位置は自然長の位置。正しい。
- (4) \(L = k\)。実効的なばね定数は元のばね定数と同じ。正しい。
- (5) 周期は \(T=2\pi\sqrt{M/k}\)。これは通常のばね振り子の周期。正しい。
- もし \(\omega\) が限界値 \(\sqrt{k/M}\) に近づくと?
- (1) \(r_0 \to \infty\)。つり合いの位置が無限遠に発散する。
- (5) 周期 \(T \to \infty\)。振動が無限にゆっくりになり、事実上振動しなくなる。
これらは、つり合いが保てなくなる限界状況を正しく示している。
- もし回転がなければ (\(\omega=0\))?
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問題41 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、粗い水平面上に置かれたばね振り子の運動を扱います。静止摩擦力と動摩擦力が存在するため、物体の運動は単なる単振動ではなく、減衰していく振動となります。特に、動き出す条件、運動中の振動中心の変化、そして最終的に静止する条件などを考察する必要があります。
- 粗い水平床面に左端を固定したばね(ばね定数 \(k\))。
- ばねの右端に物体M(質量 \(m\))。
- ばねが自然長のときのMの位置を原点 \(x=0\) とし、右向きに \(x\) 軸をとる。
- Mを位置 \(x (>0)\) で放すと、\(x \le d\) では動かず、\(x > d\) では滑りだす。
- Mを位置 \(x_{0}(>d)\) で静かに放し、運動を観測する。
- 最初の折り返し点(速度が0になる位置)は \(x_{1}(<0)\)。
- 最終的に \(n\) 回目の折り返し点 \(x_n\) で静止した。
- 重力加速度を \(g\) とする。
- (5)では \(x_{0}=3.5d, x_{1}=-2.5d\) とする。
- (1) 静止摩擦係数 \(\mu_0\) と動摩擦係数 \(\mu\)。
- (2) 位置 \(x_{1}\) に達するまでの時間 \(t_1\)。
- (3) はじめて速さが最大になる位置と、そのときの速さ。
- (4) 運動開始から静止するまでの全移動距離 \(L\) と最終停止位置 \(x_n\) の関係。
- (5) \(x_{0}=3.5d, x_{1}=-2.5d\) のときの \(x-t\) グラフの図示。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)の動摩擦係数を求める別解: エネルギーと仕事の関係から求める解法
- 主たる解法が運動方程式を立て、運動が「振動中心のずれた単振動」であることに着目するのに対し、別解では運動の始点と終点での力学的エネルギーの変化が、その間に動摩擦力がした仕事に等しいという、エネルギーの大局的な観点から動摩擦係数を導出します。
- 問(3)の最大速度を求める別解: 単振動のエネルギー保存則を用いる解法
- 主たる解法が最大速度の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を用いるのに対し、別解では振動中心を基準とした単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\) を適用します。これは公式の導出過程そのものであり、より根源的なアプローチです。
- 問(1)の動摩擦係数を求める別解: エネルギーと仕事の関係から求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 摩擦力が働くばねの運動を、「運動方程式と振動中心」という力学的な視点と、「エネルギー収支」という熱力学的な視点の両方から捉えることで、現象への理解が深まります。
- 解法の多角化: 同じ物理量を、異なる物理法則から導出する経験は、思考の柔軟性を養い、問題に応じて最適なアプローチを選択する能力が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、摩擦のある水平面上でのばね振り子の運動(減衰振動)です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 摩擦力: 静止摩擦力、最大静止摩擦力、動摩擦力の性質を正しく理解し、区別して使うことが不可欠です。
- 力のつり合いと運動方程式: 物体が静止している、または動き出す瞬間の力のつり合いと、運動中の運動方程式を正しく立式することが基本です。
- 単振動: 動摩擦力が働く場合、運動は「振動中心がずれた単振動」として扱えます。運動方向によって振動中心が切り替わる点に注意が必要です。
- 仕事とエネルギーの関係: 動摩擦力は非保存力なので、その仕事の分だけ力学的エネルギーが減少します。このエネルギー収支の考え方は、運動の全体像を捉えるのに有効です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、動き出す瞬間の力のつり合いから静止摩擦係数を、そして運動方程式から特定される振動中心と端点の関係から動摩擦係数を求めます。
- 問(2)では、運動が単振動の半周期であることから時間を計算します。
- 問(3)では、単振動の振動中心で速さが最大になることを利用します。
- 問(4)では、運動の始点から終点までのエネルギー変化と摩擦力の仕事の関係を考えます。
- 問(5)では、具体的な数値を用いて、運動方向ごとに振動中心と振幅を計算し、運動を段階的に追跡してグラフ化します。