基本例題
基本例題29 運動量と力積
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力積と運動量の変化の関係」です。物体が受けた力積とその結果生じる運動量の変化を、ベクトル量として正しく計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量: 物体の運動の勢いを表すベクトル量で、質量\(m\)と速度\(\vec{v}\)の積、\(\vec{p} = m\vec{v}\)で定義されます。
- 力積: 物体が受けた力の時間的効果を表すベクトル量で、力\(\vec{F}\)と作用時間\(\Delta t\)の積、\(\vec{I} = \vec{F}\Delta t\)で定義されます。
- 力積と運動量の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しいという、運動量変化の原理(\(\vec{I} = \Delta\vec{p} = m\vec{v}_{\text{後}} – m\vec{v}_{\text{前}}\))が中心的な役割を果たします。
- ベクトルの計算: 運動量と力積は向きを持つベクトル量です。一直線上の運動では符号で向きを区別し、平面上の運動ではベクトル図や成分分解を用いて計算する必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、運動が一直線上で起こるため、飛んできた向きを正として速度を符号で表し、力積と運動量の関係式に代入して力積を計算します。
- (3)では、運動が平面上で起こるため、ベクトルとして力積を求める必要があります。衝突前後の運動量ベクトルを図示し、ベクトルの引き算(\(\vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\))を実行して力積の大きさと向きを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
ボールを受け止める状況での力積を求める問題です。基本に立ち返り、「力積は運動量の変化に等しい」という関係式を適用します。この問題は一直線上での運動なので、ベクトルの向きは正負の符号で扱うことができます。まず、どちらかの向きを正と定め、衝突前後の速度を符号付きで表すことが第一歩です。「受け止める」という状況が、物理的に「衝突後の速度が0になる」ことを意味すると解釈できるかが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 力積と運動量はベクトル量であり、一直線上の運動では符号で向きを表す。
- 「受け止める」という現象は、衝突後の速度が \(v_{\text{後}} = 0\) であることを意味する。
- 力積の向きは、運動量の変化ベクトル(\(\Delta \vec{p}\))の向きと一致する。
具体的な解説と立式
力積\(I\)は、運動量の変化\(\Delta p\)に等しいので、\(I = p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\)と表せます。ここで、\(p = mv\)です。
まず、ボールが飛んできた向きを正の向きとします。
与えられた値は以下の通りです。
- ボールの質量: \(m = 0.20 \, \text{kg}\)
- 衝突前のボールの速度: \(v_{\text{前}} = +10 \, \text{m/s}\)
- 衝突後のボールの速度(受け止められたので): \(v_{\text{後}} = 0 \, \text{m/s}\)
これらの値を力積と運動量の関係式に代入します。
$$ I = m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}} $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}} = m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}}\)
$$
\begin{aligned}
I &= (0.20 \times 0) – (0.20 \times 10) \\[2.0ex]
&= 0 – 2.0 \\[2.0ex]
&= -2.0 \, \text{[N·s]}
\end{aligned}
$$
力積は「運動量の変化」です。ボールは最初、\(0.20 \times 10 = 2.0\) という大きさの運動量を持っていました。手で受け止められた後、運動量は \(0\) になりました。変化量は「後の量」から「前の量」を引けば求まるので、\(0 – 2.0 = -2.0\) となります。マイナスの符号は、最初に決めた「飛んできた向き」とは反対向きであることを示しています。つまり、ボールを止めるために、飛んできた向きと逆向きに力積が加えられたということです。
計算結果から、力積は \(-2.0 \, \text{N·s}\) となります。負の符号は、最初に設定した正の向き(ボールが飛んできた向き)とは反対向きであることを意味します。したがって、力積の大きさは \(2.0 \, \text{N·s}\) で、向きは「飛んできたボールの向きと反対の向き」となります。ボールを止めるためには、その進行方向と逆向きに力を加える必要があるという日常的な感覚とも一致しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
今度はボールを逆向きに打ち返す状況です。(1)と同様に、一直線上の運動として考え、「力積 = 運動量の変化」の公式を使います。ここでのポイントは、「逆向きに同じ速さ」という条件を、符号を使って正しく速度に反映させることです。衝突前の速度を正とした場合、衝突後の速度は負の値になることを理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント
- (1)と同様に、一直線上の運動は符号で向きを区別する。
- 「逆向きに同じ速さ」という条件を、速度の符号で正確に表現することが重要。衝突前の速度を \(+v\) とした場合、衝突後の速度は \(-v\) となる。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、ボールが飛んできた向きを正の向きとします。
与えられた値は以下の通りです。
- ボールの質量: \(m = 0.20 \, \text{kg}\)
- 衝突前のボールの速度: \(v_{\text{前}} = +10 \, \text{m/s}\)
- 衝突後のボールの速度(逆向きに同じ速さなので): \(v_{\text{後}} = -10 \, \text{m/s}\)
これらの値を力積と運動量の関係式に代入します。
$$ I = m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}} $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}} = m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}}\)
$$
\begin{aligned}
I &= \{0.20 \times (-10)\} – (0.20 \times 10) \\[2.0ex]
&= -2.0 – 2.0 \\[2.0ex]
&= -4.0 \, \text{[N·s]}
\end{aligned}
$$
(1)と同じように「後の運動量」から「前の運動量」を引いて力積を計算します。飛んできた向きをプラスとすると、前の運動量は \(+2.0\) です。打ち返された後は、向きが逆なので後の運動量は \(-2.0\) となります。したがって、運動量の変化は「後の運動量(\(-2.0\))」-「前の運動量(\(+2.0\))」で、\(-4.0\) となります。マイナスの符号は、やはり飛んできた向きと反対向きであることを示します。ボールを止めるだけでなく、逆向きに加速させるため、(1)よりも大きな力積が必要になることがわかります。
計算結果から、力積は \(-4.0 \, \text{N·s}\) となります。負の符号は、ボールが飛んできた向きと反対向きであることを示します。したがって、力積の大きさは \(4.0 \, \text{N·s}\) で、向きは「飛んできたボールの向きと反対の向き」です。ボールを単に止める(1)の場合と比較して、運動量の変化が大きいため、力積の大きさも大きくなっています。これは物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
ボールの進行方向が\(90^\circ\)変わる、平面上の運動です。このような場合、運動量と力積をベクトルとして扱う必要があります。力積ベクトル \(\vec{I}\) は、運動量の変化ベクトル \(\Delta\vec{p}\) に等しく、\(\vec{I} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\) と表せます。この「ベクトルの引き算」をどう実行するかが核心です。一つの方法は、\(\vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}} + (-\vec{p}_{\text{前}})\) と考え、ベクトル図を描いて作図により解く方法です。
この設問における重要なポイント
- 平面上の運動では、運動量と力積をベクトルとして扱う。
- ベクトルの引き算 \(\vec{A} – \vec{B}\) は、「ベクトル\(\vec{A}\)の始点とベクトル\(\vec{B}\)の始点をそろえ、\(\vec{B}\)の終点から\(\vec{A}\)の終点へ向かうベクトル」として作図できる。
- あるいは、\(\vec{A} – \vec{B} = \vec{A} + (-\vec{B})\) と考え、「ベクトル\(\vec{A}\)に、ベクトル\(\vec{B}\)の逆ベクトルを足す」と考えることもできる。
- 作図したベクトル図の幾何学的な関係(三平方の定理や三角比)を利用して、大きさと向きを求める。
具体的な解説と立式
衝突前の運動量を\(\vec{p}_{\text{前}}\)、衝突後の運動量を\(\vec{p}_{\text{後}}\)とします。力積\(\vec{I}\)はこれらのベクトルの差として求められます。
$$ \vec{I} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}} $$
まず、それぞれの運動量の大きさを計算します。速さは衝突前後で同じ \(v = 10 \, \text{m/s}\) なので、
$$ p_{\text{前}} = p_{\text{後}} = mv = 0.20 \times 10 = 2.0 \, \text{[N·s]} $$
次に、ベクトル図を描きます。\(\vec{p}_{\text{前}}\)と\(\vec{p}_{\text{後}}\)は大きさが等しく、互いに\(90^\circ\)の角度をなしています。
力積\(\vec{I}\)は、\(\vec{p}_{\text{前}}\)の終点から\(\vec{p}_{\text{後}}\)の終点へ向かうベクトルとして描かれます。このとき、\(\vec{p}_{\text{前}}\)、\(\vec{p}_{\text{後}}\)、\(\vec{I}\)の3つのベクトルで三角形ができます。
あるいは、\(\vec{I} = \vec{p}_{\text{後}} + (-\vec{p}_{\text{前}})\)と考えて、\(\vec{p}_{\text{後}}\)ベクトルと\(-\vec{p}_{\text{前}}\)ベクトルの合成ベクトルとして\(\vec{I}\)を求めることもできます。\(-\vec{p}_{\text{前}}\)は\(\vec{p}_{\text{前}}\)と大きさが同じで向きが逆のベクトルです。
どちらの方法で描いても、力積\(\vec{I}\)は、大きさが\(p_{\text{前}}\)と\(p_{\text{後}}\)の2辺からなる直角二等辺三角形の斜辺となります。
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係(ベクトル版): \(\vec{I} = \Delta\vec{p} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\)
- 三平方の定理
ベクトル図は、2辺の長さがともに\(2.0\)で、その間の角が\(90^\circ\)である直角二等辺三角形となります。力積\(\vec{I}\)の大きさ\(I\)は、この三角形の斜辺の長さに相当します。三平方の定理を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= \sqrt{p_{\text{前}}^2 + p_{\text{後}}^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(2.0)^2 + (2.0)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4.0 + 4.0} \\[2.0ex]
&= \sqrt{8.0} = 2\sqrt{2} \\[2.0ex]
& \approx 2 \times 1.414 \dots \\[2.0ex]
& \approx 2.8 \, \text{[N·s]}
\end{aligned}
$$
向きについては、この直角二等辺三角形の角度を考えます。力積\(\vec{I}\)の向きは、\(-\vec{p}_{\text{前}}\)の向き(飛んできたボールの向きと反対)と、\(\vec{p}_{\text{後}}\)の向き(進行方向と\(90^\circ\)の向き)の両方から\(45^\circ\)をなす方向です。これは、問題の図で示されているように「飛んできたボールに向かって角度\(45^\circ\)の向き」と表現できます。
ボールが曲がる運動なので、運動量を矢印(ベクトル)で考えます。力積は「後の運動量の矢印」から「前の運動量の矢印」を引いたものです。矢印の引き算は、「『前の矢印』の始点から『後の矢印』の始点をそろえて、『前の矢印』の先端から『後の矢印』の先端へ向かう新しい矢印を描く」ことで求められます。今回の場合、前の矢印と後の矢印は直角に交わっているので、力積の矢印は直角三角形の斜辺になります。あとは、三平方の定理を使って斜辺の長さ(力積の大きさ)を計算し、図形から矢印の向きを読み取ればOKです。
力積の大きさは約\(2.8 \, \text{N·s}\)となります。向きは、ベクトル図から、飛んできたボールの進行方向と反対の向き(\(-\vec{p}_{\text{前}}\)の向き)から\(45^\circ\)の角度をなす方向です。これは解答の「飛んできたボールに向かって角度\(45^\circ\)の向き」という表現と一致します。ベクトル図を用いて、平面上の運動量変化を正しく計算できました。
思考の道筋とポイント
ベクトル図を描く代わりに、座標軸を設定し、ベクトルを成分で表して計算する方法です。機械的な計算で答えを導き出せるため、複雑な角度の問題で特に有効です。まず、飛んできた方向をx軸、それに垂直な方向をy軸などと設定します。次に、衝突前後の速度ベクトルを成分で表し、各成分について運動量の変化(=力積の成分)を計算します。最後に、得られた力積のx成分とy成分から、全体の大きさと向きを求めます。
この設問における重要なポイント
- 計算に適した座標軸を設定する(例:飛んできた方向をx軸正の向きとする)。
- 衝突前後の速度ベクトルを、設定した座標軸の成分で正しく表現する。
- 力積のx成分 \(I_x\) はx方向の運動量の変化、y成分 \(I_y\) はy方向の運動量の変化に等しい。
- ベクトルの大きさは \(I = \sqrt{I_x^2 + I_y^2}\)、向きは \(\tan\theta = I_y/I_x\) などから求める。
具体的な解説と立式
ボールが飛んできた向きをx軸の正の向き、\(90^\circ\)曲がった後の進行方向をy軸の正の向きと設定します。
- 衝突前の速度ベクトル: \(\vec{v}_{\text{前}} = (10, 0) \, \text{[m/s]}\)
- 衝突後の速度ベクトル: \(\vec{v}_{\text{後}} = (0, 10) \, \text{[m/s]}\)
- ボールの質量: \(m = 0.20 \, \text{kg}\)
力積のx成分 \(I_x\) とy成分 \(I_y\) は、それぞれ運動量のx成分、y成分の変化として計算します。
$$ I_x = m v_{\text{後x}} – m v_{\text{前x}} $$
$$ I_y = m v_{\text{後y}} – m v_{\text{前y}} $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係(成分表示): \(I_x = \Delta p_x\), \(I_y = \Delta p_y\)
- ベクトルの大きさを求める公式: \(I = \sqrt{I_x^2 + I_y^2}\)
各成分を計算します。
x成分:
$$
\begin{aligned}
I_x &= (0.20 \times 0) – (0.20 \times 10) \\[2.0ex]
&= -2.0 \, \text{[N·s]}
\end{aligned}
$$
y成分:
$$
\begin{aligned}
I_y &= (0.20 \times 10) – (0.20 \times 0) \\[2.0ex]
&= +2.0 \, \text{[N·s]}
\end{aligned}
$$
したがって、力積ベクトルは \(\vec{I} = (-2.0, 2.0)\) となります。
このベクトルの大きさ \(I\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= \sqrt{I_x^2 + I_y^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(-2.0)^2 + (2.0)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4.0 + 4.0} = \sqrt{8.0} = 2\sqrt{2} \\[2.0ex]
& \approx 2.8 \, \text{[N·s]}
\end{aligned}
$$
向きは、\(I_x\)が負、\(I_y\)が正なので、第2象限の向きです。x軸の負の向きとなす角を\(\theta\)とすると、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{|I_y|}{|I_x|} = \displaystyle\frac{2.0}{2.0} = 1\) となり、\(\theta = 45^\circ\)です。これはx軸の正の向き(飛んできた向き)とは\(135^\circ\)の角度をなしており、「飛んできたボールに向かって角度\(45^\circ\)の向き」と同じです。
図を描く代わりに、計算だけで解く方法です。ボールの運動を「横方向(x方向)」と「縦方向(y方向)」に分解して考えます。飛んできた向きを横方向とすると、衝突前は「横に10」の速さ、衝突後は「縦に10」の速さで動いています。横方向と縦方向、それぞれで「運動量の変化」を計算します。横方向の変化は-2.0、縦方向の変化は+2.0となります。これが力積の「横成分」と「縦成分」です。最後に、この2つの成分を三平方の定理で合成して、全体の力積の大きさと向きを求めます。
力積の大きさは約\(2.8 \, \text{N·s}\)、向きはx軸負の向きからy軸正の向きへ\(45^\circ\)の方向となります。この結果は、ベクトル図を用いて解いた主解法の結果と完全に一致します。成分計算は、図形的な直感が働きにくい複雑な問題でも、機械的かつ正確に解を進められるという利点があります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力積と運動量の関係:
- 核心: 物体が受けた「力積」は、その物体の「運動量の変化」に等しい、という関係式 \(\vec{I} = \Delta\vec{p}\) が全ての設問の基礎となります。
- 理解のポイント:
- ベクトル量としての理解: 力積と運動量はどちらも大きさと向きを持つ「ベクトル量」です。したがって、計算はベクトルの足し算・引き算として行う必要があります。
- 運動量の変化の定義: 運動量の変化 \(\Delta\vec{p}\) は、常に「衝突後の運動量 \(\vec{p}_{\text{後}}\)」から「衝突前の運動量 \(\vec{p}_{\text{前}}\)」を引いたもの(\(\vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\))です。この引き算の順序が重要です。
- 運動の次元による扱いの違い:
- 核心: 運動が一直線上か、平面上かによって、ベクトル計算の具体的な手法が変わります。
- 理解のポイント:
- 一直線上の運動 (1), (2): 飛んできた向きを正(+)とすれば、逆向きは負(-)で表せます。このように、ベクトル計算を符号付きのスカラー(1次元ベクトル)の計算として単純化できます。
- 平面上の運動 (3): 運動量ベクトルを図示し、幾何学的に解く(ベクトル図)か、座標軸を設定して成分ごとに計算する(成分分解)必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜め衝突: (3)のように\(90^\circ\)ではなく、任意の角度でボールが打ち返される問題。この場合、ベクトル図が直角三角形にならないため、成分分解で解く方が計算が楽になることが多いです。
- 力と作用時間から運動の変化を予測する問題: 逆に「力\(\vec{F}\)が\(\Delta t\)秒間加わったときの後の速度は?」という形式の問題。まず力積\(\vec{I} = \vec{F}\Delta t\)を計算し、\(\vec{p}_{\text{後}} = \vec{p}_{\text{前}} + \vec{I}\)から後の速度を求めます。
- 運動量保存則との組み合わせ: 2物体が衝突する問題では、系全体で「運動量保存則」が成り立ちます。本問は壁やバットから「外力」の力積を受ける問題ですが、衝突現象では運動量保存則もセットで問われることが多いので、関連知識として重要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の次元を把握する: まず、問題が一直線上(1次元)か、平面上(2次元)の運動かを判断します。これが解法選択の最初の分岐点です。
- 「前」と「後」の状態を明確にする: 衝突前後の速度と質量をそれぞれ整理します。特に速度はベクトルなので、向きを意識することが重要です。
- ベクトル計算の方針を立てる: 2次元の場合、(3)のように角度が\(90^\circ\)など綺麗な場合は「ベクトル図」が直感的で速いことがあります。角度が複雑な場合や、図形的な考察が苦手な場合は、機械的に計算できる「成分分解」が確実です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 一直線上での符号の扱いミス:
- 誤解: (2)で、速さが同じなので運動量の大きさも同じと考え、運動量の変化を \(mv – mv = 0\) と計算してしまう。
- 対策: 速度はベクトル量であることを常に意識する。一直線上の運動では、最初に正の向きを決めたら、逆向きの速度は負の符号をつけて \(v_{\text{後}} = -10 \, \text{m/s}\) と表現するルールを徹底する。
- ベクトルの引き算とスカラーの引き算の混同:
- 誤解: (3)で、力積の大きさを運動量の「大きさ」の差、つまり \(|p_{\text{後}}| – |p_{\text{前}}| = 2.0 – 2.0 = 0\) と計算してしまう。あるいは、単純に足して \(|p_{\text{後}}| + |p_{\text{前}}| = 4.0\) と計算してしまう。
- 対策: 「ベクトルの差」は「大きさの差」とは全く異なることを肝に銘じる。\(\vec{I} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\) は、あくまでベクトルとしての引き算であり、図を描くか成分で計算する必要があると覚える。
- 向きの答え方の曖昧さ:
- 誤解: (3)で力積の大きさを \(2.8 \, \text{N·s}\) と正しく計算できても、向きを「左斜め上」のように曖昧に答えてしまう。
- 対策: 物理では向きも定量的に示す必要がある。ベクトル図や成分計算の結果から、「どの方向から測って何度か」を明確に記述する癖をつける。(例:「飛んできた向きに対し\(135^\circ\)の向き」「飛んできたボールに向かって\(45^\circ\)の向き」など)
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力積と運動量の関係式 (\(\vec{I} = \Delta\vec{p}\)):
- 選定理由: この問題は、物体が受けた「力積」を問うています。力積を直接定義 (\(\vec{I} = \vec{F}\Delta t\)) から求めるには力や時間が不明ですが、衝突による「速度の変化」は分かっています。速度の変化は運動量の変化に直結するため、運動量の変化から力積を求めるこの公式が最適となります。
- 適用根拠: この関係式は、運動の第二法則(運動方程式)\(\vec{F} = m\vec{a}\) から直接導かれます。加速度の定義 \(\vec{a} = \displaystyle\frac{\Delta\vec{v}}{\Delta t}\) を代入し、式を整理すると \(\vec{F}\Delta t = m\Delta\vec{v} = \Delta(m\vec{v})\) となり、\(\vec{I} = \Delta\vec{p}\) が得られます。これは物理学の基本法則から導かれる普遍的な関係です。
- ベクトル演算(作図 or 成分分解):
- 選定理由: (3)で運動が平面(2次元)に拡張されたため、スカラー計算では向きの情報を扱いきれません。そのため、向きを正しく扱うための数学的な手法であるベクトル演算が必要になります。
- 適用根拠: 平面上のベクトルは、互いに直交する2つの基底ベクトル(x方向とy方向の単位ベクトル)の線形結合で一意に表現できます。したがって、1つのベクトル方程式 \(\vec{I} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\) は、2つの独立した成分ごとのスカラー方程式 \(I_x = p_{\text{後x}} – p_{\text{前x}}\) と \(I_y = p_{\text{後y}} – p_{\text{前y}}\) に分解できます。これにより、複雑なベクトルの問題を、単純な一次元(スカラー)の問題の組み合わせとして解くことが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 正の向きの宣言と符号チェック: (1), (2)のような一次元の問題では、計算を始める前に「飛んできた向きを正とする」などと、自分で基準を明確に宣言する。そして、代入する各速度の符号がその基準に合っているか、一つ一つ確認する。
- 有効数字の意識: 問題文で与えられている数値が「0.20」「10」であり、有効数字2桁と考えられます。したがって、最終的な答えも有効数字2桁((3)では \(2.8 \, \text{N·s}\))で答えるのが適切です。途中の計算では少し多めの桁で計算し、最後に丸めるようにします。
- ベクトル図の丁寧な作図: (3)を図で解く場合、ベクトルの始点をそろえて描くこと。\(\vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\) は「\(\vec{p}_{\text{前}}\)の終点から\(\vec{p}_{\text{後}}\)の終点へ向かうベクトル」になることを、指でなぞって確認する。
- 単位の確認: 最終的な答えに「N·s」という力積の単位を忘れずに付ける。単位は物理量の種類を示す重要な情報です。
基本例題30 直線上の運動量の保存(合体と分裂)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「運動量保存則」です。物体同士が衝突して「合体」する現象と、一体だった物体が「分裂」する現象の両方で、この法則がどのように適用されるかを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 複数の物体からなる系(グループ)に外力が働かない、あるいは働く外力の合力が0の場合、その系の運動量の総和は、物体同士が力を及ぼしあう前後で一定に保たれます。
- 運動量: 物体の運動の勢いを示すベクトル量で、質量\(m\)と速度\(\vec{v}\)の積 \(\vec{p} = m\vec{v}\) で表されます。
- 一直線上での運動の扱い: 運動が一直線上で起こる場合、運動の向きを正(+)と負(-)の符号で区別して、ベクトル計算をスカラー計算のように扱うことができます。
- 内力と外力: 衝突時に物体同士が及ぼしあう力や、分裂時にばねが及ぼす力は、系内部の力である「内力」です。内力は系の全運動量を変化させません。運動量保存則が成り立つのは、このためです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、2つの台車が衝突して一体になる「合体」の問題です。衝突前と衝突後で、2つの台車を合わせた系の運動量の総和が等しいとして式を立てます。
- (2)では、一体で動いていた物体がばねの力で2つに分かれる「分裂」の問題です。分裂の前後で、系の運動量の総和が等しいとして式を立てます。
- どちらの設問でも、まず計算の基準となる「正の向き」を決め、それに基づいて各物体の速度を符号付きで表現することが重要です。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つの台車が衝突して一体となる「完全非弾性衝突」の典型的な問題です。なめらかな水平面上での運動であり、台車に働く重力と垂直抗力はつり合っているため、水平方向には外力が働きません。したがって、AとBを一つの「系」として考えると、系の全運動量は衝突の前後で保存されます。この「運動量保存則」を用いて、衝突後の速度を求めます。計算の第一歩として、まず正の向きを定義し、逆向きに進む物体の速度を負の符号で表すことが重要です。
この設問における重要なポイント
- 外力が働かない系の衝突では、運動量が保存される。
- 運動量はベクトル量であり、一直線上の運動では向きを正負の符号で表す。
- 「一体になる」とは、衝突後の2物体の速度が共通になることを意味する。
具体的な解説と立式
運動量保存則「衝突前の運動量の総和 = 衝突後の運動量の総和」を適用します。
まず、台車Aの初めの進行方向(図の右向き)を正の向きとします。
各物体の質量と速度は以下の通りです。
- 台車Aの質量: \(m_{\text{A}} = 1.0 \, \text{kg}\)
- 台車Bの質量: \(m_{\text{B}} = 2.0 \, \text{kg}\)
- 衝突前のAの速度: \(v_{\text{A}} = +0.25 \, \text{m/s}\)
- 衝突前のBの速度: \(v_{\text{B}} = -0.35 \, \text{m/s}\) (Aと逆向きなので負)
- 衝突後の共通の速度: \(v\) (未知数)
運動量保存則の式は次のように立てられます。
$$ m_{\text{A}}v_{\text{A}} + m_{\text{B}}v_{\text{B}} = (m_{\text{A}} + m_{\text{B}})v $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = (m_1 + m_2) V\) (合体の場合)
立式した運動量保存則の式に、具体的な数値を代入して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
1.0 \times (+0.25) + 2.0 \times (-0.35) &= (1.0 + 2.0)v \\[2.0ex]
0.25 – 0.70 &= 3.0v \\[2.0ex]
-0.45 &= 3.0v \\[2.0ex]
v &= \frac{-0.45}{3.0} \\[2.0ex]
v &= -0.15 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
「衝突前の運動量の合計」と「衝突後の運動量の合計」が等しくなる、というルールを使います。まず、右向きをプラスの方向と決めます。
衝突前のAの運動量は「質量1.0 kg × 速度+0.25 m/s」、Bの運動量は「質量2.0 kg × 速度-0.35 m/s」です。この2つを足したものが、衝突前の運動量の合計です。
衝突後は、AとBが合体して質量が「1.0 + 2.0 = 3.0 kg」になり、速度が \(v\) になります。衝突後の運動量の合計は「質量3.0 kg × 速度v」です。
「前の合計」=「後の合計」という式を立てて、未知数 \(v\) を計算します。
計算結果は \(v = -0.15 \, \text{m/s}\) となりました。負の符号は、最初に設定した正の向き(初めのAの進行方向)とは逆向きであることを意味します。これは、初めのBの進行方向と同じ向きです。したがって、一体となった台車は「初めのBの速度の向きに、速さ 0.15 m/s」で進みます。
衝突前、Bの方が運動量の絶対値(\(|2.0 \times (-0.35)| = 0.70\))がAの運動量の絶対値(\(|1.0 \times 0.25| = 0.25\))よりも大きいため、衝突後もBの進行方向に進むという結果は物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
一体で動いていた物体が、内力(ばねの弾性力)によって2つに分裂する問題です。分裂も衝突と同様に、水平方向には外力が働かないため、系の全運動量は保存されます。分裂前の状態と分裂後の状態を整理し、運動量保存則を適用して未知の速度を求めます。ここでも、分裂前の進行方向を正として、各物体の速度を符号で正しく表現することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 分裂の前後でも、系の運動量は保存される。
- ばねの弾性力は、AとBの間で働く「内力」なので、系の全運動量を変化させない。
- 分裂前の進行方向を正として、各速度を符号で表すことが重要。
具体的な解説と立式
運動量保存則「分裂前の運動量の総和 = 分裂後の運動量の総和」を適用します。
まず、分裂前の全体の進行方向(図の右向き)を正の向きとします。
各物体の質量と速度は以下の通りです。
- 台車Aの質量: \(m_{\text{A}} = 1.0 \, \text{kg}\)
- 台車Bの質量: \(m_{\text{B}} = 2.0 \, \text{kg}\)
- 分裂前の全体の速度: \(V = +0.50 \, \text{m/s}\)
- 分裂後のAの速度: \(v’_{\text{A}} = -0.30 \, \text{m/s}\) (逆向きに進んだので負)
- 分裂後のBの速度: \(v’_{\text{B}}\) (未知数)
運動量保存則の式は次のように立てられます。
$$ (m_{\text{A}} + m_{\text{B}})V = m_{\text{A}}v’_{\text{A}} + m_{\text{B}}v’_{\text{B}} $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \((m_1 + m_2) V = m_1 v’_1 + m_2 v’_2\) (分裂の場合)
立式した運動量保存則の式に、具体的な数値を代入して \(v’_{\text{B}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(1.0 + 2.0) \times (+0.50) &= 1.0 \times (-0.30) + 2.0 v’_{\text{B}} \\[2.0ex]
3.0 \times 0.50 &= -0.30 + 2.0 v’_{\text{B}} \\[2.0ex]
1.5 &= -0.30 + 2.0 v’_{\text{B}} \\[2.0ex]
1.5 + 0.30 &= 2.0 v’_{\text{B}} \\[2.0ex]
1.8 &= 2.0 v’_{\text{B}} \\[2.0ex]
v’_{\text{B}} &= \frac{1.8}{2.0} \\[2.0ex]
v’_{\text{B}} &= 0.90 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
これも(1)と同じく「分裂前の運動量の合計」と「分裂後の運動量の合計」が等しい、というルールを使います。右向きをプラスと決めます。
分裂前は、AとBが一体で質量が「1.0 + 2.0 = 3.0 kg」、速度が「+0.50 m/s」なので、運動量の合計は「3.0 × 0.50」です。
分裂後は、AとBがバラバラになります。Aの運動量は「質量1.0 kg × 速度-0.30 m/s」、Bの運動量は「質量2.0 kg × 速度\(v’_{\text{B}}\)」です。この2つを足したものが、分裂後の運動量の合計です。
「前の合計」=「後の合計」という式を立てて、未知数 \(v’_{\text{B}}\) を計算します。
計算結果は \(v’_{\text{B}} = +0.90 \, \text{m/s}\) となりました。正の符号は、最初に設定した正の向き(分裂前の進行方向)と同じ向きであることを意味します。したがって、分裂後のBは「初めの速度の向きに、速さ 0.90 m/s」で進みます。
分裂によってAが逆向きに押し出された分、運動量保存則を満たすためにBは前方に加速されるという結果は、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則:
- 核心: 複数の物体からなる系(物体グループ)に、外部から力が加わらない(あるいは加わる力がつり合っている)場合、その系全体の運動量の総和は、物体同士が衝突したり分裂したりする前後で変化しない、という法則です。
- 理解のポイント:
- 適用条件: この法則が使えるのは「外力が働かない、または無視できる」場合に限られます。この問題では、なめらかな水平面上で、重力と垂直抗力がつり合っているため、水平方向には外力が働かず、運動量保存則が適用できます。
- 内力と外力: 衝突時に台車同士が及ぼしあう力や、分裂時にばねが及ぼす力は、系内部の力「内力」です。内力は作用・反作用の関係にあり、系全体の運動量を変化させることはありません。運動量保存則は、この内力の詳細が分からなくても衝突や分裂の結果を予測できる強力なツールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 反発係数(はねかえり係数)が関わる衝突: (1)は一体となる「完全非弾性衝突」(\(e=0\))ですが、弾性衝突(\(e=1\))や非弾性衝突(\(0 < e < 1\))の問題では、「運動量保存則」の式と「反発係数の式」を連立させて解きます。
- 静止している物体への衝突・静止状態からの分裂: 片方の初速度が0の場合や、全体が静止している状態から分裂する場合(例:ロケットの燃料噴射、大砲の発射)は、運動量保存則の式がよりシンプルになります。特に静止状態からの分裂では、分裂後の各物体の運動量の和が0になるため、互いに逆向きに進むことが分かります。
- 2次元での衝突・分裂: 運動が平面上で起こる場合、運動量保存則をx成分とy成分に分けて、それぞれの方向で式を立てる必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「系」として見る: 衝突・分裂する物体全体を一つのグループ(系)として捉えます。
- 運動量保存則の適用可否を判断: その系に外力が働くか(特に運動の方向に)を確認します。なめらかな床、宇宙空間などは適用できる典型例です。摩擦力や空気抵抗が働く場合は、厳密には保存されませんが、衝突時間が極めて短ければ近似的に成り立つと考えることが多いです。
- 「前」と「後」の状態を整理: 衝突・分裂の直前と直後の各物体の質量と速度を、図を描くなどして整理します。特に、一直線上の運動では、正の向きを決め、速度の符号を間違えないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 符号のミス:
- 誤解: (1)で、Bの速度を正の値のまま \(0.35\) として計算してしまう。
- 対策: 計算を始める前に、必ず「右向きを正とする」などと座標軸の向きを自分で宣言する癖をつける。そして、その向きと逆向きの速度には必ず負の符号「-」を付けることを徹底する。
- 運動エネルギー保存則との混同:
- 誤解: 衝突問題で、運動量保存則だけでなく運動エネルギー保存則も常に成り立つと勘違いする。
- 対策: 運動エネルギーが保存されるのは、反発係数\(e=1\)の「弾性衝突」のみです。(1)のような合体(完全非弾性衝突)や(2)の分裂(ばねに蓄えられたエネルギーが運動エネルギーに変わる)では、運動エネルギーは保存されません。衝突・分裂で常に頼れるのは「運動量保存則」であると覚える。
- 質量の扱いミス:
- 誤解: (1)の衝突後や(2)の分裂前で、一体となっている物体の質量を、AかBのどちらか一方の質量で計算してしまう。
- 対策: 「一体となっている」状態では、質量は各物体の質量の和 (\(m_{\text{A}} + m_{\text{B}}\)) になることを意識する。図に書き込むなどして、状態ごとの質量を明確にすることが有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則 (\(m_1\vec{v}_1 + m_2\vec{v}_2 = m_1\vec{v’}_1 + m_2\vec{v’}_2\)):
- 選定理由: この問題は、衝突や分裂といった、物体同士が互いに力を及ぼしあう現象を扱っています。このとき働く「内力」は非常に複雑で、その大きさや作用時間を直接求めるのは困難です。しかし、運動量保存則を使えば、この複雑な内力の詳細に立ち入ることなく、「現象の前後」の状態量だけで結果を予測できます。これが、この法則を選ぶ最大の理由です。
- 適用根拠: 運動の第三法則(作用・反作用の法則)から導かれます。物体AがBから受ける力積を\(\vec{I}_{\text{B} \to \text{A}}\)、BがAから受ける力積を\(\vec{I}_{\text{A} \to \text{B}}\)とすると、\(\vec{I}_{\text{B} \to \text{A}} = -\vec{I}_{\text{A} \to \text{B}}\)が成り立ちます。それぞれの力積は各物体の運動量変化に等しいので、\(\Delta\vec{p}_{\text{A}} = -\Delta\vec{p}_{\text{B}}\)となり、移項すると\(\Delta\vec{p}_{\text{A}} + \Delta\vec{p}_{\text{B}} = 0\)となります。これは、2物体の運動量の「変化の和」が0、つまり「運動量の総和」が変化しないことを意味します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を含めた立式: 慣れるまでは、\(1.0 \, \text{kg} \times 0.25 \, \text{m/s}\) のように単位も書きながら立式すると、物理量の種類を間違えにくくなります。
- 小数点の計算: この問題のように小数が含まれる計算では、位取りのミスが起こりやすいです。\(0.25 – 0.70\) や \(1.5 + 0.30\) のような計算は、暗算に頼らず筆算で確認する、あるいは電卓で検算する習慣をつけることが有効です。
- 移項の符号ミス: \(1.5 = -0.30 + 2.0 v’_{\text{B}}\) から \(2.0 v’_{\text{B}} = 1.5 + 0.30\) への移項など、基本的な方程式の変形で符号を間違えないよう、一つ一つのステップを慎重に行う。
- 答えの吟味: (1)で、Bの方が運動量が大きいからBの向きに進むはずだ、(2)でAが後ろに下がった分、Bは前に加速されるはずだ、といった物理的な直感と、計算結果の符号が一致するかを最後に確認する。この一手間がミスを発見するのに役立ちます。
基本例題31 平面上の運動量の保存
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平面上での運動量保存則」です。2次元空間での衝突現象において、運動量保存則をベクトルとして正しく扱い、成分に分解して計算する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 2つの小球AとBからなる系には、水平方向の外力が働かないため、衝突の前後で系の全運動量は保存されます。
- 運動量のベクトル性: 運動量は大きさと向きを持つベクトル量です。平面上の運動では、このベクトル性を考慮する必要があります。
- ベクトルの成分分解: ベクトルである運動量保存則を、計算しやすいスカラーの式に落とし込むために、運動量をx成分とy成分に分解します。x方向の運動量の総和と、y方向の運動量の総和は、それぞれ独立に保存されます。
- ベクトルの合成: 計算によって得られた速度のx成分とy成分から、三平方の定理を用いて速さ(ベクトルの大きさ)を、三角比を用いて向きを求めます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 衝突後の小球Bの速度を、未知のx成分 \(v’_{Bx}\) とy成分 \(v’_{By}\) を用いて表します。
- 「x方向の運動量の総和は保存される」という式を立てます。
- 「y方向の運動量の総和は保存される」という式を立てます。
- 上記2本の連立方程式を解いて、\(v’_{Bx}\) と \(v’_{By}\) の値を求めます。
- 求めた2つの成分から、三平方の定理を用いて速さを、成分の比から \(\tan\theta\) を計算します。
平面上の衝突における運動量保存
思考の道筋とポイント
2つの小球が平面上で衝突する問題です。一直線上の運動と異なり、運動量をベクトルとして扱う必要があります。ベクトルそのものを図で扱うのは複雑なため、ベクトルを互いに直交するx成分とy成分に分解して考えるのが定石です。運動量保存則という一つのベクトル方程式は、「x成分についての保存則」と「y成分についての保存則」という二つのスカラー方程式に分けて考えることができます。これにより、問題を2つの独立した一次元の問題として解くことが可能になります。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則はベクトルについての法則である。(\(\vec{P}_{\text{前}} = \vec{P}_{\text{後}}\))
- ベクトル方程式は、各成分について独立に成り立つ。(\(P_{\text{前}x} = P_{\text{後}x}\) かつ \(P_{\text{前}y} = P_{\text{後}y}\))
- 速さ(ベクトルの大きさ)と向きは、計算で求めた速度の成分から合成して求める。
具体的な解説と立式
衝突後の小球Bの速度を \(\vec{v’}_{\text{B}}\) とし、そのx成分を \(v’_{\text{B}x}\)、y成分を \(v’_{\text{B}y}\) とおきます。
衝突前の各物体の質量と速度成分は以下の通りです。
- 小球A: \(m_{\text{A}} = 0.10 \, \text{kg}\), \(v_{\text{A}x} = 6.0 \, \text{m/s}\), \(v_{\text{A}y} = 0 \, \text{m/s}\)
- 小球B: \(m_{\text{B}} = 0.20 \, \text{kg}\), \(v_{\text{B}x} = 0 \, \text{m/s}\), \(v_{\text{B}y} = 4.0 \, \text{m/s}\)
衝突後の各物体の速度成分は以下の通りです。
- 小球A: \(v’_{\text{A}x} = 2.0 \, \text{m/s}\), \(v’_{\text{A}y} = 5.0 \, \text{m/s}\)
- 小球B: \(v’_{\text{B}x}\), \(v’_{\text{B}y}\) (未知数)
x方向とy方向それぞれについて、運動量保存則の式を立てます。
x方向の運動量保存則:
$$ m_{\text{A}}v_{\text{A}x} + m_{\text{B}}v_{\text{B}x} = m_{\text{A}}v’_{\text{A}x} + m_{\text{B}}v’_{\text{B}x} \quad \cdots ① $$
y方向の運動量保存則:
$$ m_{\text{A}}v_{\text{A}y} + m_{\text{B}}v_{\text{B}y} = m_{\text{A}}v’_{\text{A}y} + m_{\text{B}}v’_{\text{B}y} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則(成分表示):
\(m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x} = m_1 v’_{1x} + m_2 v’_{2x}\)
\(m_1 v_{1y} + m_2 v_{2y} = m_1 v’_{1y} + m_2 v’_{2y}\) - 三平方の定理: \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)
- 正接の定義: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\)
式①に数値を代入して、\(v’_{\text{B}x}\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
0.10 \times 6.0 + 0.20 \times 0 &= 0.10 \times 2.0 + 0.20 v’_{\text{B}x} \\[2.0ex]
0.60 &= 0.20 + 0.20 v’_{\text{B}x} \\[2.0ex]
0.20 v’_{\text{B}x} &= 0.60 – 0.20 \\[2.0ex]
0.20 v’_{\text{B}x} &= 0.40 \\[2.0ex]
v’_{\text{B}x} &= \frac{0.40}{0.20} \\[2.0ex]
v’_{\text{B}x} &= 2.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、式②に数値を代入して、\(v’_{\text{B}y}\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
0.10 \times 0 + 0.20 \times 4.0 &= 0.10 \times 5.0 + 0.20 v’_{\text{B}y} \\[2.0ex]
0.80 &= 0.50 + 0.20 v’_{\text{B}y} \\[2.0ex]
0.20 v’_{\text{B}y} &= 0.80 – 0.50 \\[2.0ex]
0.20 v’_{\text{B}y} &= 0.30 \\[2.0ex]
v’_{\text{B}y} &= \frac{0.30}{0.20} \\[2.0ex]
v’_{\text{B}y} &= 1.5 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
衝突後の小球Bの速度成分が \((v’_{\text{B}x}, v’_{\text{B}y}) = (2.0, 1.5)\) [m/s] と求まりました。
この成分から、速さ \(v’_{\text{B}}\) を三平方の定理で求めます。
$$
\begin{aligned}
v’_{\text{B}} &= \sqrt{(v’_{\text{B}x})^2 + (v’_{\text{B}y})^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(2.0)^2 + (1.5)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4.0 + 2.25} \\[2.0ex]
&= \sqrt{6.25} \\[2.0ex]
&= 2.5 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
向きを表す \(\tan\theta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{v’_{\text{B}y}}{v’_{\text{B}x}} \\[2.0ex]
&= \frac{1.5}{2.0} \\[2.0ex]
&= 0.75
\end{aligned}
$$
平面上の運動は、x方向(横方向)とy方向(縦方向)に分けて考えるのがコツです。
まず「横方向だけ」に注目して、衝突の前後で「運動量の合計」が変わらないという式を立てます。この式を解くと、衝突後のBの「横方向の速度」がわかります。
次に「縦方向だけ」に注目して、同じように運動量保存の式を立てます。これを解くと、衝突後のBの「縦方向の速度」がわかります。
Bの「横方向の速度」と「縦方向の速度」がわかったので、これらを2辺とする直角三角形を考え、三平方の定理を使って斜辺の長さ(これがBの本当の速さ)を計算します。
向きについては、(\(\text{縦方向の速度}\)) ÷ (\(\text{横方向の速度}\)) を計算することで、\(\tan\theta\) の値が求まります。
衝突後の小球Bの速さは \(2.5 \, \text{m/s}\)、向きはx軸の正の向きとなす角 \(\theta\) の正接が \(\tan\theta = 0.75\) となる方向です。
速度のx成分、y成分がともに正の値であることから、小球Bは第1象限(図の右上の領域)へ進んでいくことがわかります。これは、x軸方向とy軸方向から来た物体が衝突した結果として、物理的に自然な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則のベクトル性(成分分解):
- 核心: 運動量保存則は、本来\(\vec{P}_{\text{前}} = \vec{P}_{\text{後}}\)というベクトルについての法則です。平面(2次元)上のベクトルは、互いに直交する2つの成分(例: x成分とy成分)に分解できます。そして、ベクトルが等しいということは、その各成分もそれぞれ等しいことを意味します。
- 理解のポイント:
- x方向の独立性: x方向の運動量の総和は、y方向の運動とは無関係に、衝突の前後で保存されます。(\(P_{\text{前}x} = P_{\text{後}x}\))
- y方向の独立性: 同様に、y方向の運動量の総和も、x方向の運動とは無関係に、衝突の前後で保存されます。(\(P_{\text{前}y} = P_{\text{後}y}\))
- 2つの1次元問題への帰着: このように、1つの2次元の問題を、2つの独立した1次元(直線)の問題として扱えることが、成分分解を用いる最大の利点です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜め衝突: 衝突前の物体がx軸やy軸上ではなく、斜め方向に進んでくる問題。この場合、衝突前の速度ベクトルも \(v_x = v\cos\alpha\), \(v_y = v\sin\alpha\) のように成分分解してから、運動量保存則の式を立てる必要があります。
- 分裂: 静止している1つの物体が、内力によって2つ以上の破片に分裂する問題(例:爆弾の破裂)。この場合、分裂前の運動量は0なので、分裂後の全運動量も0になります。つまり、x成分の和もy成分の和も0になるという式を立てます。
- 反発係数との組み合わせ: 平面衝突でも反発係数(はねかえり係数)を考える問題があります。その場合、反発係数の式は「衝突面に垂直な方向の相対速度」について立てます。運動量保存則はx, y両成分で成り立ちますが、反発係数の式は特定の方向についてのみ成り立つ点に注意が必要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸の設定: 問題で座標軸が与えられていればそれに従い、なければ計算が最も簡単になるように自分で設定します(例:一方の物体の進行方向をx軸にする)。
- 「前」と「後」の全情報をリストアップ: 衝突前後の各物体の質量、速度のx成分、y成分をすべて書き出します。未知の量には文字(\(v_x, v_y\)など)を割り当てます。
- 成分ごとに式を立てる: 「x方向の運動量保存」と「y方向の運動量保存」の2本の式を、機械的に立てます。この段階では、物理的なイメージよりも、式の正確さを優先します。
- 連立方程式を解く: 立てた2本の式を、純粋な数学の連立方程式として解き、未知数を求めます。
- 大きさと向きを合成: 求めた成分から、三平方の定理と三角関数を使って、最終的な速さ(大きさ)と向きを計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ベクトルとスカラーの混同:
- 誤解: 運動量の大きさが保存されると勘違いし、\(m_{\text{A}}v_{\text{A}} + m_{\text{B}}v_{\text{B}} = m_{\text{A}}v’_{\text{A}} + m_{\text{B}}v’_{\text{B}}\) のようなスカラーの式を立ててしまう。
- 対策: 平面上の運動では、運動量はベクトルであり、その「総和ベクトル」が保存されると強く意識する。ベクトルの和は、単純な大きさの和ではないことを常に思い出す。
- 成分の計算ミス:
- 誤解: 衝突前のAの運動量をx方向の式に入れるべきところを、y方向の式に入れてしまう。あるいは、衝突前のBの運動量を考慮し忘れる。
- 対策: 衝突前後の状態をまとめた表を作成すると効果的です。
質量 前の速度x 前の速度y 後の速度x 後の速度y A \(m_A\) \(v_{Ax}\) \(v_{Ay}\) \(v’_{Ax}\) \(v’_{Ay}\) B \(m_B\) \(v_{Bx}\) \(v_{By}\) \(v’_{Bx}\) \(v’_{By}\) この表を見ながら、x方向の保存則では「前の速度x」と「後の速度x」の列を、y方向では「前の速度y」と「後の速度y」の列を使って機械的に立式することで、混同を防げます。
- \(\tan\theta\) の分子・分母の逆転:
- 誤解: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_x}{v_y}\) のように、x成分とy成分を逆にしてしまう。
- 対策: \(\theta\) がx軸となす角であることを確認し、三角関数の定義(\(\tan\theta = \text{y成分} / \text{x成分}\))を思い出す。簡単なベクトル図(x成分を底辺、y成分を高さとする直角三角形)を描いて確認する癖をつける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則の成分分解:
- 選定理由: 平面上のベクトル演算は複雑ですが、ベクトルを直交する成分に分解することで、1つの2次元の問題を2つの独立した1次元の問題に変換できます。我々が扱い慣れているスカラー(1次元)の方程式で処理できるため、この手法が選ばれます。
- 適用根拠: ベクトル\(\vec{A} = (A_x, A_y)\)と\(\vec{B} = (B_x, B_y)\)について、\(\vec{A} = \vec{B}\)であるための必要十分条件は、\(A_x = B_x\) かつ \(A_y = B_y\) である、という数学的な性質に基づいています。運動量保存則 \(\vec{P}_{\text{前}} = \vec{P}_{\text{後}}\) にこの性質を適用すると、\(P_{\text{前}x} = P_{\text{後}x}\) と \(P_{\text{前}y} = P_{\text{後}y}\) が導かれます。物理法則を、計算可能な数学の形式に翻訳していると言えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 数値の代入を丁寧に行う: 質量(0.10, 0.20)、速度(6.0, 4.0, 2.0, 5.0)など、多くの数値を扱うため、代入する場所を間違えないように慎重に行う。立式した直後に、指差し確認をすると良い。
- 小数点の計算: \(0.10 \times 6.0 = 0.60\), \(0.80 – 0.50 = 0.30\) のような小数点の計算は、位取りに注意する。特に、\(1.5^2 = 2.25\) のような計算は暗算せず、筆算などで確かめる。
- 方程式の整理: \(0.60 = 0.20 + 0.20 v’_{\text{B}x}\) のような式を解く際、移項や割り算の順序を焦らず、一行ずつ着実に変形する。
- 最終的な答えの形式を確認: 問題では「速さ」と「\(\tan\theta\)」が問われています。成分 \((v_x, v_y)\) を求めたところで満足せず、最後まで計算しきる。また、\(\tan\theta = 1.5/2.0 = 3/4 = 0.75\) のように、分数でも小数でも表現できる場合は、問題の解答形式に合わせる。
基本例題32 反発係数 (2物体の衝突)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「運動量保存則と反発係数」です。一直線上の2物体の衝突において、衝突後の各物体の速度を求める典型的な問題です。未知数が2つ(衝突後の速度 \(v’_1, v’_2\))あるため、2つの独立した物理法則を用いて連立方程式を立てる必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 衝突の前後で、2物体を合わせた系全体の運動量の総和は一定に保たれます。これは、衝突時に働く力が内力のみであるためです。
- 反発係数(はねかえり係数)の式: 衝突によってどれだけ運動エネルギーが失われるか(どれだけ弾性的に衝突するか)を示す指標で、衝突前後の相対速度の比で定義されます。
- 運動エネルギー: 衝突が非弾性(反発係数 \(e < 1\))の場合、運動エネルギーの一部が熱や音のエネルギーに変換されるため、力学的エネルギーは保存されません。
- 連立方程式の解法: 物理法則から立てた2本の式を、数学的に解いて未知数を決定します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず正の向きを定め、運動量保存則の式と反発係数の式を立てます。この2つの式を連立させて解くことで、衝突後の2球の速度を求めます。
- (2)では、(1)で求めた速度を使って、衝突前と衝突後の系の全運動エネルギーをそれぞれ計算します。その差を求めることで、衝突によって失われたエネルギーを算出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
衝突後の2球の速度 \(v’_1\) と \(v’_2\) はどちらも未知数です。このように未知数が2つある場合、それらを求めるためには独立した方程式が2本必要になります。物体の衝突問題で利用できる2大ツールが「運動量保存則」と「反発係数の式」です。この2つの法則から式を立て、連立方程式として解くのが定石です。計算を始める前に、必ず一直線上のどちらかの向きを「正」と定め、速度を符号付きで扱うことが重要です。
この設問における重要なポイント
- 未知数が2つなので、式も2つ必要。
- 式1: 運動量保存則 (\(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v’_1 + m_2v’_2\))
- 式2: 反発係数の式 (\((v_1 – v_2)(-e) = v’_1 – v’_2\))
- 速度はベクトル量なので、正の向きを決め、逆向きの速度は負の符号で表す。
具体的な解説と立式
まず、衝突前の小球Aの進行方向(図の右向き)を正の向きとします。
各物体の質量と速度は以下の通りです。
- 小球A: \(m_1 = 2.0 \, \text{kg}\), \(v_1 = +4.0 \, \text{m/s}\)
- 小球B: \(m_2 = 1.0 \, \text{kg}\), \(v_2 = -6.0 \, \text{m/s}\)
- 反発係数: \(e = 0.50\)
- 衝突後のA, Bの速度: \(v’_1\), \(v’_2\) (未知数)
運動量保存則の式を立てます。
$$ m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v’_1 + m_2 v’_2 \quad \cdots ① $$
次に、反発係数の式を立てます。「衝突後の相対速度は、衝突前の相対速度の\(-e\)倍になる」という関係を使います。
$$ (v_1 – v_2)(-e) = v’_1 – v’_2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v’_1 + m_2v’_2\)
- 反発係数の式: \((v_1 – v_2)(-e) = v’_1 – v’_2\)
式①に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 \times (+4.0) + 1.0 \times (-6.0) &= 2.0 v’_1 + 1.0 v’_2 \\[2.0ex]
8.0 – 6.0 &= 2.0 v’_1 + v’_2 \\[2.0ex]
2.0 &= 2.0 v’_1 + v’_2 \quad \cdots ①’
\end{aligned}
$$
式②に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\{4.0 – (-6.0)\} \times (-0.50) &= v’_1 – v’_2 \\[2.0ex]
10.0 \times (-0.50) &= v’_1 – v’_2 \\[2.0ex]
-5.0 &= v’_1 – v’_2 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
①’と②’を連立方程式として解きます。②’を \(v’_2 = v’_1 + 5.0\) と変形して①’に代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 &= 2.0 v’_1 + (v’_1 + 5.0) \\[2.0ex]
2.0 &= 3.0 v’_1 + 5.0 \\[2.0ex]
3.0 v’_1 &= 2.0 – 5.0 \\[2.0ex]
3.0 v’_1 &= -3.0 \\[2.0ex]
v’_1 &= -1.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
この結果を \(v’_2 = v’_1 + 5.0\) に代入して \(v’_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v’_2 &= -1.0 + 5.0 \\[2.0ex]
&= 4.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
衝突後の2つのボールの速度という、2つの分からないことを知りたいので、2つのルール(運動量保存と反発係数)を使って式を2本作ります。
1本目の式は「運動量保存の法則」から作ります。2本目の式は「反発係数のルール」から作ります。
あとは、この2本の式を中学校で習った連立方程式として解くだけです。計算すると、Aの速度は-1.0 m/s、Bの速度は+4.0 m/sと求まります。
計算結果は \(v’_1 = -1.0 \, \text{m/s}\)、\(v’_2 = 4.0 \, \text{m/s}\) となりました。
\(v’_1\) が負の値なので、小球Aは衝突後、最初に設定した正の向きとは逆向き(つまり衝突前とは逆向き)に進みます。その速さは \(1.0 \, \text{m/s}\) です。
\(v’_2\) が正の値なので、小球Bは衝突後、正の向きに進みます。Bは衝突前、負の向きに進んでいたので、これも衝突前とは逆向きです。その速さは \(4.0 \, \text{m/s}\) です。
したがって、A, Bはどちらも衝突前の速度と逆向きにはね返ることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
「失われた力学的エネルギー」を求める問題です。反発係数が \(e=0.50\) であり、1より小さい「非弾性衝突」であるため、運動エネルギーの一部が熱や音に変換され、系の力学的エネルギーは保存されません。失われたエネルギーの量は、「衝突前の運動エネルギーの総和」から「衝突後の運動エネルギーの総和」を引くことで計算できます。水平面上の運動なので、位置エネルギーは変化しないため、運動エネルギーだけを考えれば十分です。
この設問における重要なポイント
- 失われたエネルギー = \(E_{\text{前}} – E_{\text{後}}\)
- 運動エネルギーの公式は \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 非弾性衝突(\(e < 1\))では力学的エネルギーは減少し、その差が「失われたエネルギー」となる。
具体的な解説と立式
衝突前の系の全運動エネルギーを \(E_{\text{前}}\)、衝突後の系の全運動エネルギーを \(E_{\text{後}}\) とします。
衝突前のエネルギー \(E_{\text{前}}\) は、AとBの運動エネルギーの和です。
$$ E_{\text{前}} = \frac{1}{2}m_1 v_1^2 + \frac{1}{2}m_2 v_2^2 $$
衝突後のエネルギー \(E_{\text{後}}\) も同様に、AとBの運動エネルギーの和です。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}m_1 (v’_1)^2 + \frac{1}{2}m_2 (v’_2)^2 $$
失われた力学的エネルギー \(\Delta E\) は、これらの差として求められます。
$$ \Delta E = E_{\text{前}} – E_{\text{後}} $$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
衝突前の運動エネルギー \(E_{\text{前}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{前}} &= \frac{1}{2} \times 2.0 \times (4.0)^2 + \frac{1}{2} \times 1.0 \times (-6.0)^2 \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 16 + 0.5 \times 36 \\[2.0ex]
&= 16 + 18 \\[2.0ex]
&= 34 \, \text{[J]}
\end{aligned}
$$
衝突後の運動エネルギー \(E_{\text{後}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= \frac{1}{2} \times 2.0 \times (-1.0)^2 + \frac{1}{2} \times 1.0 \times (4.0)^2 \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 1.0 + 0.5 \times 16 \\[2.0ex]
&= 1.0 + 8.0 \\[2.0ex]
&= 9.0 \, \text{[J]}
\end{aligned}
$$
失われたエネルギー \(\Delta E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E &= E_{\text{前}} – E_{\text{後}} \\[2.0ex]
&= 34 – 9.0 \\[2.0ex]
&= 25 \, \text{[J]}
\end{aligned}
$$
「失われたエネルギー」は、「前のエネルギー」から「後のエネルギー」を引けば求まります。
まず、衝突前のAとBが持っていた運動エネルギーをそれぞれ計算して足し合わせます。これが「前のエネルギー」です。
次に、(1)で求めた衝突後の速度を使って、衝突後のAとBが持つ運動エネルギーをそれぞれ計算し、足し合わせます。これが「後のエネルギー」です。
最後に、「前のエネルギー」から「後のエネルギー」を引き算すれば、答えが求まります。
衝突によって失われた力学的エネルギーは \(25 \, \text{J}\) となりました。反発係数が1ではない非弾性衝突なので、エネルギーが失われる(\(\Delta E > 0\))という結果は物理的に妥当です。もし \(e=1\) の弾性衝突であれば、この値は0になるはずです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則と反発係数の式の連立:
- 核心: 一直線上の2物体の衝突後、それぞれの物体の速度(未知数2つ)を決定するためには、2つの独立した法則に基づく式が必要です。その2つの法則が「運動量保存則」と「反発係数の式」です。この2つをセットで用いることが、衝突問題を解く上での最も基本的なアプローチとなります。
- 理解のポイント:
- 運動量保存則: 衝突時に働く力が内力のみであることから、系の運動量の総和が不変であることを保証します。
- 反発係数の式: 衝突の「弾性度」を規定する式です。衝突前後の相対速度の関係を示し、どれだけ運動エネルギーが保存されるかを間接的に表現しています。
- エネルギーの非保存(非弾性衝突):
- 核心: 反発係数が1未満の衝突(非弾性衝突)では、運動エネルギーは保存されません。運動エネルギーの一部が、衝突時の変形や音、熱などのエネルギーに変換されるためです。
- 理解のポイント:
- 「失われたエネルギー」は、衝突前の運動エネルギーの総和と衝突後の運動エネルギーの総和の差として計算されます。
- 力学的エネルギーが保存されるのは、弾性衝突(\(e=1\))の場合のみです。衝突問題で安易にエネルギー保存則を使わないよう注意が必要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁との衝突: 物体が動かない壁(質量が無限大と見なせる)に衝突する場合。運動量保存則は使えませんが、反発係数の式は \(v’ = -ev\) という非常にシンプルな形で適用できます。
- 完全非弾性衝突(合体): 反発係数 \(e=0\) の場合。反発係数の式から \(v’_1 = v’_2\) が導かれ、2物体が一体となって運動することがわかります。この場合は運動量保存則だけで解けます。
- 弾性衝突: 反発係数 \(e=1\) の場合。運動量保存則と反発係数の式を連立させることで解けますが、この場合に限り「運動エネルギー保存則」も成立するため、反発係数の式の代わりにエネルギー保存則の式を使っても解くことができます(ただし計算は煩雑になりがちです)。
- 初見の問題での着眼点:
- 未知数の数を確認: 衝突後の速度など、求めたい未知数がいくつあるかを確認します。未知数が2つなら、式も2つ必要だと判断します。
- 法則の選択: 衝突問題では、まず「運動量保存則」を第一候補とします。未知数がまだ残る場合、「反発係数の式」が使えないかを確認します。
- 正の向きを設定: 計算を始める前に、必ず座標軸の正の向きを決め、図に書き込みます。これにより、速度の符号ミスを防ぎます。
- エネルギーに関する問いかを確認: (2)のようにエネルギーについて問われている場合は、衝突前後の運動エネルギーをそれぞれ計算し、その差を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反発係数の式の符号ミス:
- 誤解: 反発係数の式の定義 \(e = -\displaystyle\frac{v’_1 – v’_2}{v_1 – v_2}\) のマイナス符号を忘れたり、分子・分母の引き算の順序を間違えたりする。
- 対策: 「衝突後の相対速度は、衝突前の相対速度の\(-e\)倍」という日本語の形で覚えるのがおすすめです。つまり、\((v_1 – v_2)(-e) = v’_1 – v’_2\) という形です。この形なら、分数がなくなり、引き算の順序も揃っているため、ミスが減ります。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: 式の代入や加減法で、符号や係数の計算を間違える。
- 対策: 2本の式をきれいに書き並べ、どの文字を消去するか方針を決めてから計算に入る。計算過程を省略せず、一行ずつ丁寧に書く。求めた答えを元の式に代入して検算する習慣をつける。
- 運動エネルギー計算での符号ミス:
- 誤解: 運動エネルギーの公式 \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) の速度 \(v\) に、負の値をそのまま代入して \(K\) が負になると考えてしまう(例:\(\frac{1}{2}m(-6.0)^2\) を \(\frac{1}{2}m(-36)\) と計算する)。
- 対策: 速度 \(v\) は2乗されるため、運動エネルギーは必ず0以上の値になることを理解する。速度の符号(向き)に関わらず、速さ(大きさ)の2乗で計算すると意識する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則と反発係数の式の組み合わせ:
- 選定理由: 衝突現象では、衝突中に働く「撃力」が非常に複雑で、運動方程式を直接解くことは困難です。そこで、衝突の「前後」の状態だけに着目して現象を記述する法則が必要になります。「運動量保存則」は運動の法則(作用・反作用)から導かれる普遍的な保存則であり、「反発係数の式」は衝突の特性(弾性度)をモデル化・単純化した実験則です。この性質の異なる2つの法則を組み合わせることで、複雑な衝突現象をうまく扱うことができます。
- 適用根拠:
- 運動量保存則: 系の外部から力が働かない限り、常に成立する基本法則。
- 反発係数の式: 衝突におけるエネルギー損失の度合いを、速度の関係式に落とし込んだもの。これは経験的に得られた関係式(実験則)ですが、高校物理の範囲では法則として扱います。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の整理: (1)で連立方程式を解く際、①’ \(2v’_1 + v’_2 = 2\) と ②’ \(v’_1 – v’_2 = -5\) のように、変数を左辺、定数を右辺にそろえてから加減法を用いると、見通しが良くなり計算ミスを減らせます。
- 単位の統一: 問題で与えられている単位(kg, m/s)がSI単位系で統一されていることを確認する。もし単位が混在している場合は、計算前に統一する。
- 二乗の計算: (2)のエネルギー計算では、\(4.0^2=16\), \(6.0^2=36\) のような基本的な二乗計算を間違えないように注意する。
- 物理的な妥当性の確認: (1)で求めた速度を使って、衝突後の相対速度 \(v’_1 – v’_2 = -1.0 – 4.0 = -5.0\) を計算し、これが衝突前の相対速度 \(v_1 – v_2 = 4.0 – (-6.0) = 10.0\) の \(-e = -0.50\) 倍になっているか検算する。この一手間が、連立方程式の解が正しいかを保証します。
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