「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第29章】基本例題~基本問題505

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基本例題

基本例題99 水素原子の構造

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ボーアの原子模型と水素原子のスペクトル」です。古典的な力学と電磁気学だけでは説明できない原子の安定性や、特定の波長の光しか放出しない線スペクトルといった現象を、量子条件という新しい考え方を導入して説明する、量子力学の入り口となる重要な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ド・ブロイ波の量子条件: 電子を波と考え、その波が原子核の周りで安定な定常波を作るための条件 (\(2\pi r = n\lambda\)) を理解していること。
  2. 円運動の運動方程式: 電子が陽子から受ける静電気力(クーロン力)を向心力として、等速円運動していると考えること。
  3. 静電気力による位置エネルギー: 点電荷の作る電位と、その中にある電荷の位置エネルギーの関係 (\(U=qV\)) を正しく適用できること。特に符号の扱いに注意が必要です。
  4. 振動数条件: 電子がエネルギー準位間を遷移する際に放出(または吸収)する光子のエネルギーと、準位のエネルギー差の関係 (\(h\nu = |E_m – E_n|\)) を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、ボーアの量子条件を立式します。
  2. (2)では、電子の円運動について、向心力が静電気力であるとして運動方程式を立てます。
  3. (3)では、(1)と(2)で立てた2つの式を連立させ、速さ \(v\) を消去して軌道半径 \(r\) を求めます。
  4. (4)では、運動エネルギーと位置エネルギーの定義に従って式を立て、(2)の結果を利用して \(k_0\) と \(r\) で表します。
  5. (5)では、(4)で求めた全エネルギーの式に、(3)で求めた軌道半径の式を代入し、エネルギーを量子数 \(n\) で表します。
  6. (6)では、(5)の結果を振動数条件に代入し、問題文で与えられたスペクトルの公式と比較することで、リュードベリ定数 \(R\) を導出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
ド・ブロイによれば、運動する粒子は波としての性質も持ちます。原子核の周りを回る電子が安定して存在するためには、その電子の物質波が円軌道上で打ち消し合うことなく、強め合う定常波を形成している必要があります。この条件は、円周の長さが物質波の波長のちょうど整数倍になること、と表されます。これを「量子条件」と呼びます。
この設問における重要なポイント

  • 速さ \(v\)、質量 \(m\) の粒子の物質波の波長(ド・ブロイ波長)は \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{mv}\) で与えられる。
  • ボーアの量子条件:円周の長さが、物質波の波長の整数倍になる。\(2\pi r = n\lambda\) (\(n\) は量子数で \(1, 2, 3, \dots\))。

具体的な解説と立式
速さ \(v\) で運動する質量 \(m\) の電子の物質波の波長 \(\lambda\) は、プランク定数 \(h\) を用いて次のように表されます。
$$ \lambda = \frac{h}{mv} $$
電子が安定な軌道にあるための量子条件は、円周 \(2\pi r\) がこの波長 \(\lambda\) の整数 (\(n\)) 倍になることです。
$$ 2\pi r = n\lambda $$

使用した物理公式

  • ド・ブロイ波長: \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p} = \displaystyle\frac{h}{mv}\)
  • ボーアの量子条件: \(2\pi r = n\lambda\)
計算過程

量子条件の式 \(2\pi r = n\lambda\) に、ド・ブロイ波長の式 \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{mv}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2\pi r &= n \cdot \left( \frac{h}{mv} \right) \\[2.0ex]
2\pi r &= \frac{nh}{mv}
\end{aligned}
$$
これ以上の変形は不要です。

この設問の平易な説明

電子は「粒」でありながら「波」の性質も持っています。原子の中で電子が安定して存在できるのは、電子の波が軌道を一周したときに、波の山と山、谷と谷がぴったり重なり合う「定常波」になるときだけです。これは、円周の長さが波長のちょうど1倍、2倍、3倍…になっている状態に対応します。この条件を数式で表したものが答えとなります。

結論と吟味

電子の円運動の円周の長さは \(2\pi r = \displaystyle\frac{nh}{mv}\) と表せます。この式は、電子がとりうる軌道半径 \(r\) と速さ \(v\) の関係が、量子数 \(n\) によって制限される、とびとびの値になることを示しており、量子論の基本的な考え方を示しています。

解答 (1) \(2\pi r = \displaystyle\frac{nh}{mv}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
電子は、陽子との間に働く静電気力(クーロン力)を向心力として、等速円運動をしています。運動方程式「質量 × 加速度 = 力」を立てることを考えます。円運動の加速度は \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\) で与えられ、力はクーロンの法則から求められます。
この設問における重要なポイント

  • 等速円運動の向心力の大きさは \(F = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)。
  • 電気量 \(q_1, q_2\) の2つの点電荷が距離 \(r\) だけ離れているときに及ぼしあう静電気力の大きさは \(F_c = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)。
  • 電子の電気量は \(-e\)、陽子の電気量は \(+e\)。力の大きさは \(k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r^2}\)。

具体的な解説と立式
電子の質量を \(m\)、速さを \(v\)、軌道半径を \(r\) とすると、円運動に必要な向心力の大きさは \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) です。

この向心力は、電子(電気量 \(-e\))と陽子(電気量 \(+e\))の間に働く静電気力(引力)によって供給されます。クーロンの法則より、その力の大きさは、
$$ F_c = k_0 \frac{|(-e)(+e)|}{r^2} $$
これを計算すると、
$$ F_c = k_0 \frac{e^2}{r^2} $$
したがって、運動方程式は以下のように立てられます。
$$ m\frac{v^2}{r} = k_0 \frac{e^2}{r^2} $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}\)
  • 円運動の加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)
  • クーロンの法則: \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
計算過程

この設問では、立式したものがそのまま答えとなります。

この設問の平易な説明

電子が原子核の周りを回り続けるためには、常に中心に向かって引っ張られる力(向心力)が必要です。この力の正体は、プラスの電気を持つ陽子とマイナスの電気を持つ電子が引き合う静電気力(クーロン力)です。この「円運動に必要な力」と「静電気力」が等しいですよ、という関係を数式で表したのが運動方程式です。

結論と吟味

電子の運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r^2}\) となります。この式は古典的な力学と電磁気学の法則に基づいています。これを(1)の量子条件と組み合わせることで、原子の世界の謎に迫ることができます。

解答 (2) \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r^2}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(1)で得た量子条件の式と、(2)で得た運動方程式には、未知の物理量として軌道半径 \(r\) と速さ \(v\) が含まれています。この2つの式を連立方程式とみなし、設問の指示に従って \(v\) を消去することで、\(r\) を他の基本定数と量子数 \(n\) で表します。
この設問における重要なポイント

  • 2つの未知数 (\(r, v\)) を含む2つの独立な方程式があるので、連立して解くことができる。
  • 式変形が複雑になるため、計算ミスに注意する。

具体的な解説と立式
(1)の量子条件の式 \(2\pi r = \displaystyle\frac{nh}{mv}\) を \(v\) について解きます。
$$ v = \frac{nh}{2\pi mr} \quad \cdots ① $$
(2)の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r^2}\) を \(v^2\) について解きます。
$$ v^2 = \frac{k_0 e^2}{mr} \quad \cdots ② $$
①の式を2乗して \(v^2\) の形にし、②の式と等しいとおくことで \(v\) を消去します。

使用した物理公式

  • (1)の結果: \(2\pi r = \displaystyle\frac{nh}{mv}\)
  • (2)の結果: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r^2}\)
計算過程

式①の両辺を2乗します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \left( \frac{nh}{2\pi mr} \right)^2 \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m^2 r^2}
\end{aligned}
$$
この式と式②から、
$$
\begin{aligned}
\frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m^2 r^2} &= \frac{k_0 e^2}{mr}
\end{aligned}
$$
この式を \(r\) について解きます。両辺に \(4\pi^2 m^2 r^2\) を掛けて分母を払います。
$$
\begin{aligned}
n^2 h^2 &= \frac{k_0 e^2}{mr} \cdot (4\pi^2 m^2 r^2) \\[2.0ex]
n^2 h^2 &= 4\pi^2 m r k_0 e^2
\end{aligned}
$$
最後に、両辺を \(4\pi^2 m k_0 e^2\) で割って \(r\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} \\[2.0ex]
r &= \frac{h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} n^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)と(2)で、電子の軌道に関する2つのルール(量子条件と運動方程式)が式になりました。これらは数学でいう連立方程式のようなものです。2つの式を使って、知りたいもの(今回は軌道半径\(r\))以外の文字(速さ\(v\))を消去する計算をします。少し複雑な計算ですが、手順通りに進めると、電子が存在できる軌道の半径は、\(n=1, 2, 3, \dots\) というとびとびの番号(量子数)によって決まる、という驚きの結果が導かれます。

結論と吟味

電子の軌道半径は \(r = \displaystyle\frac{h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} n^2\) と表せます。この式は、電子の軌道が連続的な値をとるのではなく、量子数 \(n\) の2乗に比例した、とびとびの特定の値しかとれないことを示しています。これを「軌道の量子化」といい、\(n=1\) の最も内側の軌道が最も安定した状態(基底状態)となります。

解答 (3) \(r = \displaystyle\frac{h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} n^2\)

問(4)

思考の道筋とポイント
電子が持つエネルギーを、運動エネルギー \(K\) と静電気力による位置エネルギー \(U\) に分けて考え、それぞれの定義式から導出します。最後に、それらを合計して全エネルギー \(E\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーの定義: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
  • 静電気力による位置エネルギーの定義: \(U = qV\)。ここで \(V\) は電荷 \(q\) が置かれている点の電位。
  • 点電荷 \(Q\) が距離 \(r\) の点につくる電位は \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)。
  • 位置エネルギーの符号に注意。引力の場合、位置エネルギーは負の値をとる。

具体的な解説と立式
1. 運動エネルギー \(K\)
運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) です。(2)の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r^2}\) の両辺に \(r\) を掛けると、\(mv^2 = k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r}\) が得られます。これを \(K\) の式に代入します。

2. 位置エネルギー \(U\)
陽子(電気量 \(+e\))が、自身から距離 \(r\) の点につくる電位 \(V\) は、
$$ V = k_0 \frac{e}{r} $$
この電位 \(V\) の場所に電子(電気量 \(-e\))が存在するので、その位置エネルギー \(U\) は、
$$ U = (-e)V $$
これに \(V\) の式を代入すると、
$$ U = -e \left( k_0 \frac{e}{r} \right) = -k_0 \frac{e^2}{r} $$

3. 全エネルギー \(E\)
全エネルギー \(E\) は、運動エネルギー \(K\) と位置エネルギー \(U\) の和です。
$$ E = K + U $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
  • 点電荷のつくる電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
計算過程

運動エネルギー \(K\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
K &= \frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left( k_0 \frac{e^2}{r} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{k_0 e^2}{2r}
\end{aligned}
$$
位置エネルギー \(U\) は立式した通りです。
$$ U = -k_0 \frac{e^2}{r} $$
全エネルギー \(E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= K + U \\[2.0ex]
&= \frac{k_0 e^2}{2r} + \left( -k_0 \frac{e^2}{r} \right) \\[2.0ex]
&= -\frac{k_0 e^2}{2r}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子のエネルギーは、その「動き」による運動エネルギーと、「場所」による位置エネルギーの2種類で構成されます。運動エネルギーは電子の速さから、位置エネルギーは陽子との距離から計算できます。計算してみると、面白いことに関係性が見えてきます。運動エネルギーを1とすると、位置エネルギーは-2となり、合計した全エネルギーは-1となります。全エネルギーがマイナスになるのは、電子が陽子に「束縛されている(捕まっている)」ことを意味しています。

結論と吟味

電子の運動エネルギー、位置エネルギー、全エネルギーはそれぞれ、
\(K = \displaystyle\frac{k_0 e^2}{2r}\), \(U = -k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r}\), \(E = -\displaystyle\frac{k_0 e^2}{2r}\)
と表せます。\(E = -K = \displaystyle\frac{1}{2}U\) という関係が成り立ちます。全エネルギーが負であることは、電子が原子核に束縛されている状態を示しており、外部からエネルギーを与えられない限り、電子は原子から離れることができないことを意味します。

解答 (4) \(K = \displaystyle\frac{k_0 e^2}{2r}\), \(U = -k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r}\), \(E = -\displaystyle\frac{k_0 e^2}{2r}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(3)で軌道半径 \(r\) が量子数 \(n\) によってとびとびの値をとることがわかりました。(4)で全エネルギー \(E\) が軌道半径 \(r\) で決まることがわかりました。この2つの結果を組み合わせることで、全エネルギー \(E\) もまた、量子数 \(n\) によって決まるとびとびの値(エネルギー準位)になることを導きます。具体的には、(4)で求めた \(E\) の式に、(3)で求めた \(r\) の式を代入します。
この設問における重要なポイント

  • (3)と(4)の結果を正しく代入する。
  • 分数の分母に分数を代入する計算を慎重に行う。\(1/r\) は \(r\) の逆数と考えると計算しやすい。

具体的な解説と立式
(4)で求めた全エネルギーの式は、
$$ E = -\frac{k_0 e^2}{2r} $$
(3)で求めた軌道半径の式は、
$$ r = \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} $$
エネルギーの式には \(1/r\) が含まれているので、軌道半径の式の逆数を求めます。
$$ \frac{1}{r} = \frac{4\pi^2 m k_0 e^2}{n^2 h^2} $$
これをエネルギーの式に代入します。

使用した物理公式

  • (3)の結果: \(r = \displaystyle\frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2}\)
  • (4)の結果: \(E = -\displaystyle\frac{k_0 e^2}{2r}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
E &= -\frac{k_0 e^2}{2} \cdot \frac{1}{r} \\[2.0ex]
&= -\frac{k_0 e^2}{2} \cdot \left( \frac{4\pi^2 m k_0 e^2}{n^2 h^2} \right) \\[2.0ex]
&= -\frac{4\pi^2 m k_0^2 e^4}{2n^2 h^2} \\[2.0ex]
&= -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「電子の軌道はとびとびの値しかとれない」(3)ことと、「エネルギーは軌道半径で決まる」(4)ことを、ここで合体させます。すると、「電子が持てるエネルギーも、とびとびの値になる」という結論が導かれます。この、電子が存在できる特定のエネルギーの状態を「エネルギー準位」と呼びます。この答えは、そのエネルギー準位が量子数\(n\)を使ってどのように表せるかを示した式です。

結論と吟味

電子の全エネルギーは \(E_n = -\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \displaystyle\frac{1}{n^2}\) と表せます。エネルギーは量子数 \(n\) の2乗の逆数に比例し、負の値をとります。\(n\) が大きいほどエネルギーは0に近づき、高くなります。\(n=1\) の基底状態が最もエネルギーが低く、安定な状態です。

解答 (5) \(E = -\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n^2}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
原子が光を放出するのは、電子がエネルギーの高い状態(量子数 \(n\))から低い状態(量子数 \(n’\))へ遷移(ジャンプ)するときです。このとき、2つの状態のエネルギー差に等しいエネルギーを持つ光子が1個放出されます。これを「振動数条件」といいます。この法則を用いて理論的に光の波長を計算する式を導き、問題文で与えられている実験式と比較することで、リュードベリ定数 \(R\) の正体を明らかにします。
この設問における重要なポイント

  • 振動数条件: 放出される光子のエネルギー \(h\nu\) は、遷移前後のエネルギー準位の差に等しい。\(h\nu = E_{\text{高}} – E_{\text{低}}\)。
  • 光の振動数 \(\nu\) と波長 \(\lambda\)、光速 \(c\) の関係: \(\nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\)。
  • (5)で求めたエネルギー準位の式を代入し、与式と比較する。

具体的な解説と立式
電子がエネルギー準位 \(E_n\)(量子数 \(n\))から、より低いエネルギー準位 \(E_{n’}\)(量子数 \(n’\), ただし \(n > n’\))へ遷移するとき、そのエネルギー差に等しいエネルギーを持つ光子が放出されます。放出される光子の振動数を \(\nu\)、波長を \(\lambda\) とすると、振動数条件は次のように書けます。
$$ h\nu = E_n – E_{n’} $$
ここに \(\nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\) を代入すると、
$$ h\frac{c}{\lambda} = E_n – E_{n’} $$
これを \(\displaystyle\frac{1}{\lambda}\) について解くと、
$$ \frac{1}{\lambda} = \frac{E_n – E_{n’}}{hc} $$
この式に、(5)で求めた \(E_n = -\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \displaystyle\frac{1}{n^2}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 振動数条件: \(h\nu = E_n – E_{n’}\)
  • 光速と波長、振動数の関係: \(c = \nu\lambda\)
  • (5)の結果: \(E_n = -\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \displaystyle\frac{1}{n^2}\)
計算過程

まず、エネルギー差 \(E_n – E_{n’}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E_n – E_{n’} &= \left( -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n^2} \right) – \left( -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n’^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right)
\end{aligned}
$$
この結果を \(\displaystyle\frac{1}{\lambda}\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda} &= \frac{1}{hc} \left[ \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right) \right] \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{ch^3} \left( \frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2} \right)
\end{aligned}
$$
問題文で与えられた水素原子のスペクトルの式 \(\displaystyle\frac{1}{\lambda} = R \left( \displaystyle\frac{1}{n’^2} – \displaystyle\frac{1}{n^2} \right)\) と、上で導出した式を比較します。
係数部分がリュードベリ定数 \(R\) に対応するので、
$$ R = \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{ch^3} $$

この設問の平易な説明

電子が高いエネルギーの軌道から低い軌道へ「ジャンプ」するとき、その差額のエネルギーを光として放出します。これが原子が光る原理です。この光の波長(色)を計算する式を、これまでの結果を使って理論的に導き出します。一方で、実験で得られた水素原子の光の波長を説明する有名な公式が問題文に与えられています。この2つの式を見比べると、実験式の「リュードベリ定数 \(R\)」という正体不明だった定数が、実は電子の質量や電気量、プランク定数といった基本的な物理定数の組み合わせで書けることがわかります。これは、ボーアの原子模型が非常にうまく現実を説明している証拠となります。

結論と吟味

リュードベリ定数は \(R = \displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{ch^3}\) と表せます。電子の質量 \(m\)、電気素量 \(e\)、クーロンの法則の比例定数 \(k_0\)、光速 \(c\)、プランク定数 \(h\) という、物理学の根幹をなす定数だけで構成されています。これらの定数の値を代入して計算すると、実験的に測定されたリュードベリ定数の値と驚くほどよく一致します。これは、ボーアの原子模型の大きな成功を示すものです。

解答 (6) \(R = \displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{ch^3}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 古典論と量子論の融合:
    • 核心: この問題の根幹は、電子の運動を古典的な「円運動」(問2)として捉えつつ、その軌道が安定に存在するための条件として量子的な「定常波の条件(量子条件)」(問1)を導入する点にあります。この2つの異なる世界の法則を連立させることで、原子の構造というミクロな世界の謎を解き明かします。
    • 理解のポイント:
      • 古典論の限界: 古典電磁気学に従うと、円運動する電子は電磁波を放出してエネルギーを失い、瞬時に原子核に墜落してしまいます。原子が安定に存在するという事実を説明できません。
      • 量子論の導入: ボーアは、電子が特定の軌道(定常状態)にいるときだけは、なぜか電磁波を出さない、という大胆な仮説を立てました。その「特定の軌道」を、ド・ブロイの物質波の考え方を用いて「電子波が定常波を作る軌道」と解釈したのがこの問題のアプローチです。
  • エネルギーの量子化:
    • 核心: 「電子がとりうるエネルギーは、とびとびの値(エネルギー準位)しかとれない」という概念を、数式を通して導出・理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 関係性の連鎖: 「量子条件によって軌道半径 \(r\) がとびとびになる(問3)」→「エネルギー \(E\) は \(r\) で決まる(問4)」→「したがって、エネルギー \(E\) もとびとびの値になる(問5)」という論理の流れを掴むことが核心です。
      • 物理的意味: エネルギーがとびとびになるからこそ、電子が準位間を遷移するときに放出する光のエネルギーも特定の値になり、結果として原子スペクトルが「線スペクトル」になるのです。
  • 振動数条件:
    • 核心: 原子が光を放出・吸収する現象は、電子が異なるエネルギー準位間を「ジャンプ」することであり、その際にやり取りされる光子1個のエネルギーが、準位間のエネルギー差に等しい (\(h\nu = E_m – E_n\)) という関係です。
    • 応用: この法則は、原子から出る光の波長(スペクトル)を理論的に計算するための唯一の手段であり、(6)のように理論式と実験式を結びつける鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水素以外の原子イオン: ヘリウムイオン (\(\text{He}^+\)) やリチウムイオン (\(\text{Li}^{2+}\)) など、電子が1個しかないイオンにも、同様の理論が適用できます。この場合、原子核の電気量が \(+Ze\) (\(Z\) は原子番号) になるため、クーロン力の式が \(k_0 \displaystyle\frac{(Ze)e}{r^2}\) に変わります。エネルギー準位の式に \(Z^2\) がかかるなど、結果がどう変わるかを考察する問題に応用できます。
    • 電離エネルギーを求める問題: 「電離」とは、電子が原子核の束縛から完全に解放されることです。これは、電子を最も安定な基底状態 (\(n=1\)) から、無限遠 (\(n \to \infty\), \(E=0\)) まで引き離すのに必要なエネルギーに相当します。したがって、電離エネルギーは \(E_{\text{電離}} = E_{\infty} – E_1 = 0 – E_1 = -E_1\) として計算できます。
    • スペクトル系列の問題: 水素原子のスペクトルには、遷移先の準位 \(n’\) によって名前がついています。ライマン系列 (\(n’ = 1\))、バルマー系列 (\(n’ = 2\))、パッシェン系列 (\(n’ = 3\)) などです。各系列の「最も波長が長い光(エネルギーが最小)」や「最も波長が短い光(エネルギーが最大)」を求める問題は、本質的にこの問題の(6)の応用です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 2つの基本式の立式: 原子構造の問題を見たら、まず機械的に「①量子条件 (\(2\pi r = n\lambda\))」と「②円運動の運動方程式 (\(m v^2/r = \text{クーロン力}\))」の2本を立てることから始めます。これが全ての計算の出発点です。
    2. 消去する文字の特定: 設問が何を求めているかに応じて、2つの基本式からどの文字を消去するかを判断します。半径 \(r\) を求めたいなら \(v\) を消去、速さ \(v\) を求めたいなら \(r\) を消去、エネルギーを求めたいならまず \(v\) を消去して \(r\) を求め、その \(r\) をエネルギーの式に代入する、という流れになります。
    3. エネルギーの関係式の活用: (4)で導出した \(E = -K = \displaystyle\frac{1}{2}U\) という関係は非常に便利です。例えば運動エネルギー \(K\) がわかれば、全エネルギー \(E\) はそれにマイナスをつけるだけですぐに求まります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 位置エネルギーの符号ミス:
    • 誤解: 位置エネルギーを \(U = k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r}\) と正の符号で計算してしまう。
    • 対策: 電子(負電荷)と陽子(正電荷)の間には引力が働きます。引力による位置エネルギーは、無限遠を基準(0)とすると、必ず負の値になります。公式 \(U=qV\) に、電子の電荷 \(q=-e\) を正しく代入する癖をつけましょう。「引力なら負、斥力なら正」と覚えておくのも有効です。
  • エネルギー差の計算ミス:
    • 誤解: 振動数条件で \(E_n – E_{n’}\) を計算する際に、\(E_n\) 自体が負の値であるため、符号の扱いで混乱する。
    • 対策: (5)で求めたエネルギーの式 \(E_n = -C \cdot \displaystyle\frac{1}{n^2}\) (\(C\) は正の定数)を代入する際、\(E_n – E_{n’} = (-C/n^2) – (-C/n’^2) = C(1/n’^2 – 1/n^2)\) と、必ず括弧をつけて丁寧に計算します。エネルギーの高い状態 (\(n\)) から低い状態 (\(n’\)) への遷移では、エネルギー差は必ず正になるはず、と確認するのも良い方法です。
  • リュードベリ定数の式の混同:
    • 誤解: \(h\nu = E_n – E_{n’}\) の計算結果を、そのままリュードベリ定数 \(R\) と勘違いしてしまう。
    • 対策: リュードベリ定数 \(R\) が現れるのは、波長の逆数を求める式 \(\displaystyle\frac{1}{\lambda} = R(\dots)\) です。振動数条件 \(h\nu = \dots\) から、\(h\displaystyle\frac{c}{\lambda} = \dots\) と変形し、最後に両辺を \(hc\) で割る、という一手間を忘れないようにしましょう。\(R\) の式の分母には \(ch^3\) が来ることを覚えておくと検算に役立ちます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 量子条件と運動方程式の連立:
    • 選定理由: 未知数が軌道半径 \(r\) と速さ \(v\) の2つであるため、これらを決定するには独立した2つの関係式が必要です。運動方程式は古典力学的な拘束条件を、量子条件は量子論的な拘束条件を与えており、この2つを組み合わせることで初めて、原子内で許される電子の状態(\(r\) と \(v\) の組)が一意に定まります。
    • 適用根拠: ボーア模型そのものが「古典論と量子論のハイブリッドモデル」であるため、両者の法則を同時に適用することが、このモデルの根幹をなす思考法となります。
  • 静電気力による位置エネルギー \(U=qV\):
    • 選定理由: (4)でエネルギーを求めるには、運動エネルギー \(K\) と位置エネルギー \(U\) が必要です。\(K\) は \(v\) から求まりますが、\(U\) は電子と陽子の相互作用に起因します。静電気的な相互作用のエネルギーを最も体系的に扱う方法が、電位 \(V\) を用いた \(U=qV\) という定義式です。
    • 適用根拠: 電位 \(V\) は、基準点(無限遠)からその点まで単位電荷を運ぶのに必要な仕事として定義されており、\(U=qV\) はその定義から直接導かれる、電磁気学の基本法則です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 定数部分のまとめ置き: (3)や(5)のように、多くの物理定数が含まれる式を扱う場合、計算の途中で \(A = \displaystyle\frac{h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2}\) のように、定数部分を一つの文字で置き換えておくと、式全体の見通しが良くなります。例えば(3)は \(r = A n^2\)、(5)は \(E = -\displaystyle\frac{k_0 e^2}{2An^2}\) のようにスッキリし、代入や変形の際のミスを減らせます。
  • 逆数の活用: (5)で \(E = -\displaystyle\frac{k_0 e^2}{2r}\) に \(r\) の式を代入する際、分数の分母にさらに分数が来る形は計算ミスを誘発します。\(E = -\displaystyle\frac{k_0 e^2}{2} \cdot \left(\displaystyle\frac{1}{r}\right)\) と考え、先に \(r\) の逆数 \(\displaystyle\frac{1}{r}\) を計算してから代入すると、単純な掛け算になり、計算が安全かつ迅速になります。
  • 単位と次元の確認: 最終的に得られた答えの単位(次元)が、求められている物理量の単位と一致するかを確認する癖をつけましょう。例えば、(6)で求めたリュードベリ定数 \(R\) は、\(\displaystyle\frac{1}{\lambda}\) の係数なので、長さの逆数 \([\text{m}^{-1}]\) の次元を持つはずです。右辺の \(\displaystyle\frac{m k_0^2 e^4}{ch^3}\) の各定数の単位を代入して、次元が合うかを確認することで、大きな間違い(例えば \(h\) の次数を間違えるなど)に気づくことができます。

基本例題100 放射性崩壊

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「放射性崩壊と保存則」です。原子核が不安定な場合に、放射線(α線、β線など)を放出して別の原子核に変わる現象(放射性崩壊)について、その前後で保存される物理量を正しく理解し、適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 原子核の表記: 原子核を \({}_{Z}^{A}\text{X}\) と表したとき、\(A\) が質量数(陽子数+中性子数)、\(Z\) が原子番号(陽子数)であることを理解していること。
  2. α崩壊の法則: α粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\) の原子核)を放出する崩壊。崩壊の前後で、質量数 \(A\) が \(4\) 減少し、原子番号 \(Z\) が \(2\) 減少することを理解していること。
  3. β崩壊の法則: β粒子(電子 \({}_{-1}^{0}\text{e}\))を放出する崩壊。中性子が陽子に変わる反応で、崩壊の前後で質量数 \(A\) は変化せず、原子番号 \(Z\) が \(1\) 増加することを理解していること。
  4. 運動量保存則: 外力が働かない系では、分裂や合体の前後で系の全運動量が保存されること。特に、静止している原子核が分裂する場合、分裂後の各粒子の運動量の和はゼロになること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、原子核の表記から陽子数と中性子数を計算します。
  2. (2)では、α崩壊とβ崩壊の法則に従って、生成される原子核の原子番号と質量数を計算します。
  3. (3)では、同位体の定義(原子番号が同じで質量数が異なる)に基づいて、与えられた原子核の中から同位体を探します。
  4. (4)では、α崩壊とβ崩壊の回数を未知数とし、質量数と原子番号の変化について連立方程式を立てて解きます。
  5. (5)では、静止した原子核の分裂に運動量保存則を適用して、分裂後の粒子の速さの比を求め、それを用いて運動エネルギーの比を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
原子核の記号 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) の意味を正しく理解することが全てです。左下の数字 \(Z\) は原子番号であり、陽子の数を表します。左上の数字 \(A\) は質量数であり、陽子の数と中性子数の和を表します。これらの関係から中性子数を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 陽子数 \( = \) 原子番号 \(Z\)
  • 中性子数 \( = \) 質量数 \(A – \) 原子番号 \(Z\)

具体的な解説と立式
問題で与えられた原子核は \({}_{84}^{218}\text{Po}\) です。
この表記から、原子番号 \(Z\) と質量数 \(A\) を読み取ります。
$$ Z = 84 $$
$$ A = 218 $$
陽子数は原子番号 \(Z\) に等しいです。
中性子数は、質量数 \(A\) から陽子数 \(Z\) を引くことで求められます。
$$ (\text{中性子数}) = A – Z $$

使用した物理公式

  • 原子核の構成の定義
計算過程

陽子数は、
$$ (\text{陽子数}) = 84 $$
中性子数は、
$$
\begin{aligned}
(\text{中性子数}) &= 218 – 84 \\[2.0ex]
&= 134
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

原子核の記号 \({}_{84}^{218}\text{Po}\) は、原子核の「戸籍」のようなものです。左下の「84」は陽子の数(戸籍でいう名前のようなもの、これで元素の種類が決まる)を表します。左上の「218」は陽子と中性子を合わせた総数(家族の総人数のようなもの)を表します。したがって、総数から陽子の数を引けば、残った中性子の数がわかります。

結論と吟味

\({}_{84}^{218}\text{Po}\) の原子核に含まれる陽子数は \(84\) 個、中性子数は \(134\) 個です。これらの値は正の整数であり、妥当な結果です。

解答 (1) 陽子数: \(84\), 中性子数: \(134\)

問(2)

思考の道筋とポイント
α崩壊とβ崩壊が起こると、原子核の質量数 \(A\) と原子番号 \(Z\) がどのように変化するかのルールを適用します。
①の過程は \({}_{84}^{218}\text{Po}\) がα崩壊する反応です。
②の過程は、①で生成されたPb(鉛)がβ崩壊する反応です。
この設問における重要なポイント

  • α崩壊: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
  • β崩壊: \(A \rightarrow A\), \(Z \rightarrow Z+1\)

具体的な解説と立式
① \({}_{84}^{218}\text{Po}\) のα崩壊
崩壊前の原子核は \(A=218, Z=84\) です。
α崩壊の法則により、崩壊後の原子核(Pb)の質量数 \(A’\) と原子番号 \(Z’\) は、
$$ A’ = A – 4 $$
$$ Z’ = Z – 2 $$

② ①で生成されたPbのβ崩壊
崩壊前の原子核は、①で求めた \(A’, Z’\) です。
β崩壊の法則により、崩壊後の原子核(Bi)の質量数 \(A”\) と原子番号 \(Z”\) は、
$$ A” = A’ $$
$$ Z” = Z’ + 1 $$

使用した物理公式

  • α崩壊の法則: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z-2}^{A-4}\text{Y} + {}_{2}^{4}\text{He}\)
  • β崩壊の法則: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z+1}^{A}\text{Y} + {}_{-1}^{0}\text{e}\)
計算過程

① Pbの原子番号と質量数
$$
\begin{aligned}
Z’ &= 84 – 2 \\[2.0ex]
&= 82
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
A’ &= 218 – 4 \\[2.0ex]
&= 214
\end{aligned}
$$
よって、生成されるPbは \({}_{82}^{214}\text{Pb}\) です。

② Biの原子番号と質量数
$$
\begin{aligned}
Z” &= 82 + 1 \\[2.0ex]
&= 83
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
A” &= 214
\end{aligned}
$$
よって、生成されるBiは \({}_{83}^{214}\text{Bi}\) です。

この設問の平易な説明

α崩壊は、原子核から陽子2個と中性子2個のかたまり(α粒子)が飛び出す変化です。そのため、陽子数は2減り、陽子と中性子の合計数(質量数)は4減ります。
β崩壊は、原子核の中の中性子1個が陽子1個に変化し、電子(β粒子)を放出する変化です。そのため、陽子数が1増えますが、陽子と中性子の合計数は変わりません。このルールに従って計算します。

結論と吟味

①のPbは原子番号 \(82\)、質量数 \(214\)。②のBiは原子番号 \(83\)、質量数 \(214\)。計算結果はルール通りであり、妥当です。

解答 (2) ① 原子番号: \(82\), 質量数: \(214\) ② 原子番号: \(83\), 質量数: \(214\)

問(3)

思考の道筋とポイント
同位体(アイソトープ)の定義を正確に理解しているかが問われます。同位体とは、原子番号 \(Z\) が同じで、質量数 \(A\) が異なる原子核(または原子)のことです。原子番号が同じなので、化学的な性質は同じ(同じ元素)ですが、中性子の数が異なるため質量が異なります。
この設問における重要なポイント

  • 同位体の定義: 原子番号 \(Z\) が同じで、質量数 \(A\) が異なる。

具体的な解説と立式
問題の図に登場するPo(ポロニウム)の原子核を探します。
出発点に \({}_{84}^{218}\text{Po}\) があります。
③の過程で生成されるのもPoです。
③の過程は、②で生成された \({}_{83}^{214}\text{Bi}\) がβ崩壊する反応です。
崩壊前の原子核は \(A=214, Z=83\) です。
β崩壊後の原子核(③のPo)の質量数 \(A”’\) と原子番号 \(Z”’\) は、
$$ A”’ = A = 214 $$
$$ Z”’ = Z + 1 $$
これを計算すると、
$$ Z”’ = 83 + 1 = 84 $$
よって、③のPoは \({}_{84}^{214}\text{Po}\) です。
この \({}_{84}^{214}\text{Po}\) と同位体の関係にあるものを、図の中から探します。同位体は原子番号が同じ(\(Z=84\))である必要があります。
図の中には、出発物質である \({}_{84}^{218}\text{Po}\) があります。
これらは原子番号がともに \(84\) で、質量数が \(214\) と \(218\) で異なるため、互いに同位体です。

使用した物理公式

  • 同位体の定義
  • β崩壊の法則
計算過程

上記の解説の通り、③のPoは \({}_{84}^{214}\text{Po}\) です。
これと同位体の関係にあるのは、同じ原子番号 \(84\) を持つ \({}_{84}^{218}\text{Po}\) です。

この設問の平易な説明

「同位体」とは、同じ元素(陽子の数が同じ)だけど、重さ(質量数)が違う、いわば「兄弟」のような原子核のことです。問題の図に出てくるポロニウム(Po)原子核をすべて見つけ出し、それらが互いに同位体の関係にあるかを確認します。

結論と吟味

③のPoは \({}_{84}^{214}\text{Po}\) であり、その同位体は \({}_{84}^{218}\text{Po}\) です。定義に合致しており、妥当な結論です。

解答 (3) \({}_{84}^{218}\text{Po}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
\({}_{84}^{218}\text{Po}\) が最終的に \({}_{82}^{206}\text{Pb}\) になるまでに、α崩壊が \(a\) 回、β崩壊が \(b\) 回起こったとします。このとき、質量数 \(A\) と原子番号 \(Z\) の変化について、それぞれ方程式を立てて連立させて解きます。
この設問における重要なポイント

  • α崩壊1回で \(A\) は \(4\) 減り、\(Z\) は \(2\) 減る。
  • β崩壊1回で \(A\) は変わらず、\(Z\) は \(1\) 増える。
  • 質量数の変化と原子番号の変化について、2本の連立方程式を立てる。

具体的な解説と立式
α崩壊の回数を \(a\)、β崩壊の回数を \(b\) とします。
出発する原子核は \({}_{84}^{218}\text{Po}\) (\(A=218, Z=84\))。
最終的な原子核は \({}_{82}^{206}\text{Pb}\) (\(A=206, Z=82\))。

質量数 \(A\) の変化に着目します。質量数はα崩壊によってのみ変化します。
$$ 218 – 4a = 206 \quad \cdots ① $$
原子番号 \(Z\) の変化に着目します。原子番号はα崩壊とβ崩壊の両方で変化します。
$$ 84 – 2a + b = 82 \quad \cdots ② $$
この2つの式を連立して \(a\) と \(b\) を求めます。

使用した物理公式

  • 質量数と原子番号の保存(崩壊法則の応用)
計算過程

まず、式①を解いて \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
218 – 4a &= 206 \\[2.0ex]
4a &= 218 – 206 \\[2.0ex]
4a &= 12 \\[2.0ex]
a &= 3
\end{aligned}
$$
次に、求めた \(a=3\) を式②に代入して \(b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
84 – 2(3) + b &= 82 \\[2.0ex]
84 – 6 + b &= 82 \\[2.0ex]
78 + b &= 82 \\[2.0ex]
b &= 82 – 78 \\[2.0ex]
b &= 4
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スタート地点の原子核とゴール地点の原子核が決まっています。α崩壊とβ崩壊という2種類の「乗り物」をそれぞれ何回使えばゴールにたどり着けるか、というパズルのような問題です。「質量数」と「原子番号」という2つの情報について、それぞれ「スタート地点の値」から「乗り物による変化」を計算した結果が「ゴール地点の値」になる、という2本の式を立てて解きます。

結論と吟味

α崩壊は \(3\) 回、β崩壊は \(4\) 回起こることがわかりました。回数は自然数であり、妥当な結果です。

解答 (4) α崩壊: \(3\) 回, β崩壊: \(4\) 回

問(5)

思考の道筋とポイント
静止していた \({}_{84}^{218}\text{Po}\) が、α粒子と①のPb(\({}_{82}^{214}\text{Pb}\))に分裂します。この分裂は原子核内部の力によるもので、外力は働かないため、分裂の前後で運動量が保存されます。この運動量保存則から、分裂後のα粒子とPbの速さの比を求め、それを使って運動エネルギーの比を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則: 分裂前の運動量は \(0\)。分裂後の運動量の和も \(0\)。
  • 運動エネルギーの定義: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
  • 原子核の質量の比は、その質量数の比で近似できる。

具体的な解説と立式
分裂する原子核は \({}_{84}^{218}\text{Po}\)。
分裂後の粒子は、α粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\))と、①のPb(\({}_{82}^{214}\text{Pb}\))です。
α粒子の質量を \(m_{\alpha}\)、速さを \(v_{\alpha}\) とします。
Pbの質量を \(m_{\text{Pb}}\)、速さを \(v_{\text{Pb}}\) とします。

分裂前の \({}_{84}^{218}\text{Po}\) は静止しているので、運動量は \(0\) です。
運動量保存則より、分裂後の運動量の和も \(0\) になります。α粒子とPbは互いに逆向きに飛び出すので、運動量の大きさが等しくなります。
$$ m_{\alpha} v_{\alpha} = m_{\text{Pb}} v_{\text{Pb}} \quad \cdots ① $$
この式から、速さの比が質量の逆比になることがわかります。
$$ \frac{v_{\alpha}}{v_{\text{Pb}}} = \frac{m_{\text{Pb}}}{m_{\alpha}} $$
次に、運動エネルギー \(K_{\alpha}\) と \(K_{\text{Pb}}\) の比を考えます。
$$ K_{\alpha} = \frac{1}{2} m_{\alpha} v_{\alpha}^2 $$
$$ K_{\text{Pb}} = \frac{1}{2} m_{\text{Pb}} v_{\text{Pb}}^2 $$
質量の比は質量数の比で近似できるので、
$$ m_{\alpha} : m_{\text{Pb}} \approx 4 : 214 = 2 : 107 $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

運動エネルギーの比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{K_{\alpha}}{K_{\text{Pb}}} &= \frac{\frac{1}{2} m_{\alpha} v_{\alpha}^2}{\frac{1}{2} m_{\text{Pb}} v_{\text{Pb}}^2} \\[2.0ex]
&= \frac{m_{\alpha}}{m_{\text{Pb}}} \left( \frac{v_{\alpha}}{v_{\text{Pb}}} \right)^2
\end{aligned}
$$
ここに、運動量保存則から得られる速さの比 \(\displaystyle\frac{v_{\alpha}}{v_{\text{Pb}}} = \displaystyle\frac{m_{\text{Pb}}}{m_{\alpha}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{K_{\alpha}}{K_{\text{Pb}}} &= \frac{m_{\alpha}}{m_{\text{Pb}}} \left( \frac{m_{\text{Pb}}}{m_{\alpha}} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{m_{\text{Pb}}}{m_{\alpha}}
\end{aligned}
$$
質量の比を質量数の比で近似します。
$$
\begin{aligned}
\frac{K_{\alpha}}{K_{\text{Pb}}} &\approx \frac{214}{4} \\[2.0ex]
&= \frac{107}{2}
\end{aligned}
$$
よって、求める比は \(K_{\alpha} : K_{\text{Pb}} = 107 : 2\) となります。

この設問の平易な説明

静止していた一つの物体が2つに分裂するとき、軽い破片は速く、重い破片はゆっくり飛び出します(運動量保存則)。運動エネルギーは「質量×速さの2乗」に比例しますが、この関係を計算すると、最終的に運動エネルギーは質量の逆比で分配されることがわかります。つまり、軽いα粒子の方が、重いPb原子核よりもずっと大きな運動エネルギーをもらって飛び出していく、ということです。

結論と吟味

運動エネルギーの比は \(K_{\alpha} : K_{\text{Pb}} = 107 : 2\) となりました。軽いα粒子が分裂で放出されるエネルギーの大部分を持っていくという結果は、物理的に妥当です。

解答 (5) \(107 : 2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 核反応における保存則:
    • 核心: この問題の根幹は、原子核の崩壊というミクロな現象が、いくつかの厳密な「保存則」に支配されていることを理解し、適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 電荷保存(原子番号の和の保存): 核反応の前後で、全電荷は必ず保存されます。これは、反応式の各項の左下の数字(原子番号 \(Z\))の和が、反応の前後で等しいことに対応します。β崩壊で \(Z\) が \(+1\) されるのは、\(-1\) の電荷を持つ電子が放出されるため、合計の電荷は変わらない、という形で現れます。
      • 核子数保存(質量数の和の保存): 核反応の前後で、陽子と中性子の総数(核子数)は保存されます。これは、反応式の各項の左上の数字(質量数 \(A\))の和が、反応の前後で等しいことに対応します。
      • 運動量保存: (5)のように、原子核の分裂においては、外力が働かないため、分裂前後の系の全運動量は保存されます。静止状態からの分裂では、分裂後の粒子は逆向きに、運動量の大きさが等しくなるように飛び出します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人工核反応: α粒子などを原子核に衝突させて別の原子核を作り出す問題。例えば、\({}_{7}^{14}\text{N} + {}_{2}^{4}\text{He} \rightarrow {}_{8}^{17}\text{O} + {}_{1}^{1}\text{H}\) のような反応で、未知の生成物を特定する問題。これも、原子番号と質量数の和が前後で保存されることを利用して解きます。
    • 核分裂・核融合のエネルギー計算: 核反応の前後で質量が僅かに変化し、その質量欠損が \(E=mc^2\) の関係式に従って莫大なエネルギーに変換される問題。本問では質量変化は問いませんでしたが、保存則は同様に基本となります。
    • γ崩壊を含む問題: α崩壊やβ崩壊の後に、励起状態にある原子核が、より安定な状態に移る際にγ線(高エネルギーの光子)を放出することがあります(γ崩壊)。γ崩壊では、原子番号 \(Z\) も質量数 \(A\) も変化しません。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 反応の種類を特定する: 問題文で「α崩壊」「β崩壊」「核分裂」など、どのような核反応が起きているかを正確に把握します。
    2. 保存則の選択:
      • 原子核の種類や回数を問われたら → 「原子番号の和」と「質量数の和」の保存則を連立方程式に利用します((2), (4))。
      • 分裂後の速さやエネルギーを問われたら → 「運動量保存則」から考え始めます((5))。多くの場合、エネルギー保存則も関わってきます。
    3. 質量の近似: (5)のように、粒子の運動エネルギーを扱う問題で、厳密な質量が与えられていない場合、「原子核の質量の比は、質量数の比で近似できる」というテクニックを使うことが多いです。これは必ず頭に入れておきましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • β崩壊のルールの混同:
    • 誤解: β崩壊で電子が放出されるので、原子番号が \(1\) 減る(\(Z \rightarrow Z-1\))と勘違いしてしまう。
    • 対策: β崩壊の本質は「中性子 \(\rightarrow\) 陽子 \(+\) 電子」という変化であると理解することが重要です。原子核の中では中性子が1個減り、陽子が1個増えるので、結果として原子番号(陽子数)は \(Z \rightarrow Z+1\) となります。質量数(陽子+中性子)は変わりません。
  • 同位体の定義の誤解:
    • 誤解: 質量数が同じものを同位体と勘違いする(これらは同重体と呼びます)。
    • 対策: 「同位体」は「置が同じ」と覚えます。周期表での位置は原子番号(陽子数)で決まるので、「原子番号が同じもの」が同位体です。元素記号が同じなら、必ず同位体か同じ原子核のどちらかです。
  • 運動エネルギー比の計算ミス:
    • 誤解: 運動量保存則から \(m_{\alpha} v_{\alpha} = m_{\text{Pb}} v_{\text{Pb}}\) までは導けても、運動エネルギーの比を計算する際に、速さの比を2乗し忘れたり、質量の比を掛け忘れたりする。
    • 対策: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) という関係式を使うと、より安全に計算できます。運動量保存則から \(p_{\alpha} = p_{\text{Pb}} (=p)\) なので、\(K_{\alpha} = \displaystyle\frac{p^2}{2m_{\alpha}}\), \(K_{\text{Pb}} = \displaystyle\frac{p^2}{2m_{\text{Pb}}}\) となります。この比をとると、\(K_{\alpha} : K_{\text{Pb}} = \displaystyle\frac{1}{m_{\alpha}} : \displaystyle\frac{1}{m_{\text{Pb}}} = m_{\text{Pb}} : m_{\alpha}\) となり、運動エネルギーの比は質量の「逆比」になることが直感的にわかります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 質量数と原子番号の連立方程式:
    • 選定理由: (4)では、未知数がα崩壊の回数 \(a\) とβ崩壊の回数 \(b\) の2つです。これらを決定するには、独立した2つの方程式が必要です。質量数の変化は \(a\) のみに依存し、原子番号の変化は \(a\) と \(b\) の両方に依存するため、これらは互いに独立した情報源となります。したがって、この2つの保存則を連立させるのが最も合理的な解法となります。
    • 適用根拠: 質量数(核子数)と原子番号(電荷)は、核反応において厳密に保存される量であり、この保存則は物理学の基本法則に基づいています。
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: (5)では、分裂後の粒子のエネルギー比が問われています。エネルギーは速さ \(v\) に依存しますが、その \(v\) を直接求める情報はありません。しかし、分裂という現象は、系に外力が働かない典型的な例であり、運動量保存則が使えます。この法則によって、分裂後の粒子の速さの「比」が、質量の比から求められます。この「速さの比」が分かれば、エネルギーの比も計算できる、という流れです。
    • 適用根拠: 運動量保存則は、ニュートンの運動の法則から導かれる、物理学で最も基本的な保存則の一つです。原子核の分裂のような内部の力(内核力)のみが働く現象には、強力な武器となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 核反応式を書き下す: (2)や(3)のような問題では、頭の中だけで考えず、\({}_{84}^{218}\text{Po} \rightarrow {}_{82}^{214}\text{Pb} + {}_{2}^{4}\text{He}\) のように、実際に核反応式を書き下す習慣をつけましょう。これにより、左辺と右辺で質量数と原子番号の和が等しくなっているかを視覚的に確認でき、ケアレスミスを防げます。
  • 連立方程式の単純化: (4)の方程式を立てる際、まず質量数の方程式 \(218 – 4a = 206\) から解き始めるのが定石です。こちらの方が未知数が \(a\) のみで単純だからです。簡単な方から手をつけることで、計算が楽になり、ミスも減ります。
  • 比の計算の徹底: (5)では、具体的な質量や速さの値を求める必要はなく、「比」だけが問われています。\(m_{\alpha} : m_{\text{Pb}} = 2:107\) や \(v_{\alpha} : v_{\text{Pb}} = 107:2\) のように、常に比の関係を意識して計算を進めると、余計な文字を扱わずに済み、思考がシンプルになります。最終的に \(K_{\alpha} : K_{\text{Pb}} = m_{\text{Pb}} : m_{\alpha}\) という関係にたどり着けば、あとは質量数の比を代入するだけです。

基本例題101 半減期

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「半減期の概念と計算」です。放射性原子核が時間とともに指数関数的に減少していく様子を、半減期という重要な指標を用いて理解し、計算することが目的です。グラフの読み取りと、半減期の公式の正しい運用が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 半減期の定義: 放射性原子核の数が、元の数の半分になるまでにかかる時間のこと。この時間は、原子核の量や周りの環境によらず、核種ごとに決まった固有の値です。
  2. 残留率と経過時間の関係: 時間 \(t\) が経過した後の原子核の数 \(N\) は、元の数 \(N_0\) と半減期 \(T\) を用いて、\(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) と表されます。この式の両辺を \(N_0\) で割った \(\displaystyle\frac{N}{N_0}\) が残留率です。
  3. グラフの解釈: 横軸が時間、縦軸が残留率を表すグラフから、特定の時間における残留率や、特定の残留率になる時間を読み取る能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、半減期の定義「残留率が \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になる時間」をグラフから直接読み取ります。
  2. (2)では、(1)で求めた半減期を使い、経過時間 \(t=16\) 日が半減期の何倍にあたるかを考え、残留率を計算します。
  3. (3)では、残留率が \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になるのが、半減期を何回繰り返した状態かを考え、必要な時間を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
半減期の定義を理解し、それをグラフ上で見つけることが求められます。半減期とは、原子核の数が半分になる、すなわち「残留率」が \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になるまでにかかる時間です。
この設問における重要なポイント

  • 半減期の定義:残留率が \(1 \rightarrow \displaystyle\frac{1}{2}\) になる時間。
  • グラフの縦軸が「残留率」、横軸が「時間」であることを確認する。

具体的な解説と立式
グラフの縦軸で残留率が \(\displaystyle\frac{1}{2}\) となる点を探します。その点から横に直線を伸ばし、グラフの曲線と交わる点を見つけます。さらに、その交点から真下に直線を下ろし、横軸(時間)の値を読み取ります。

使用した物理公式

  • 半減期の定義
計算過程

グラフから、残留率が \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になるときの時間は \(8.0\) 日であることが直接読み取れます。

この設問の平易な説明

「半減期」とは、その名の通り、原子核の数が「半分に減る期間」のことです。グラフは、時間とともに原子核がどれくらいの割合で残っているかを示しています。縦軸の「残留率」が、スタート時の「1」から「\(\displaystyle\frac{1}{2}\)」(半分)になったところを探し、そのときの横軸の「時間」を読めば、それが半減期です。

結論と吟味

グラフから読み取った半減期は \(8.0\) 日です。この値が、以降の設問(2), (3)の計算の基礎となります。

解答 (1) \(8.0\) 日

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた半減期 \(T=8.0\) 日を使って、\(16\) 日後の残留率を計算します。\(16\) 日という時間が、半減期の何倍にあたるかを考えるのが最も簡単です。半減期が1回過ぎるごとに、残留率は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になります。
この設問における重要なポイント

  • 経過時間 \(t\) が半減期 \(T\) の \(n\) 倍 (\(t=nT\)) のとき、残留率は \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^n\) となる。
  • 公式 \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) を直接使ってもよい。

具体的な解説と立式
半減期 \(T\) は \(8.0\) 日です。経過時間 \(t\) は \(16\) 日です。
経過時間は半減期の \(n\) 倍と考えると、
$$ n = \frac{t}{T} = \frac{16}{8.0} = 2 $$
つまり、半減期を \(2\) 回繰り返したことになります。
残留率は、半減期を1回経るごとに \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になるので、2回経ると、
$$ (\text{残留率}) = \left(\frac{1}{2}\right)^2 $$

あるいは、公式に直接値を代入します。
$$ \frac{N}{N_0} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} $$
ここに \(t=16\), \(T=8.0\) を代入します。

使用した物理公式

  • 残留率の公式: \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
(\text{残留率}) &= \left(\frac{1}{2}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4}
\end{aligned}
$$
公式を用いた場合も、
$$
\begin{aligned}
\frac{N}{N_0} &= \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{16}{8.0}} \\[2.0ex]
&= \left(\frac{1}{2}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

半減期は \(8.0\) 日でした。今知りたいのは \(16\) 日後のことです。\(16\) 日は、\(8.0\) 日がちょうど2回分です。つまり、原子核の数が半分になるイベントが2回起こった、ということです。
スタート時を1とすると、1回目の半減期(8.0日後)で \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になり、2回目の半減期(さらに8.0日後の計16日後)で、そのまた半分、つまり \(\displaystyle\frac{1}{2} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{4}\) になります。

結論と吟味

\(16\) 日後における残留率は \(\displaystyle\frac{1}{4}\) となります。半減期を2回経過しているので、元の量の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になるというのは、直感的にも妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{1}{4}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
今度は(2)の逆で、残留率が与えられて、そこに至るまでの時間を求めます。残留率が \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になるのは、半減期を何回繰り返した状態なのかをまず考えます。
この設問における重要なポイント

  • 残留率が \(\displaystyle\frac{1}{16}\) は、\(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^4\) と変形できる。
  • 指数の \(4\) が、半減期を繰り返した回数に対応する。

具体的な解説と立式
残留率の公式 \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) を使います。
残留率 \(\displaystyle\frac{N}{N_0}\) が \(\displaystyle\frac{1}{16}\) となる時間 \(t\) を求めます。半減期 \(T\) は \(8.0\) 日です。
$$ \frac{1}{16} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{8.0}} $$
ここで、左辺の \(\displaystyle\frac{1}{16}\) を \(\displaystyle\frac{1}{2}\) のべき乗の形で表します。
$$ \frac{1}{16} = \frac{1}{2^4} = \left(\frac{1}{2}\right)^4 $$
したがって、方程式は次のようになります。
$$ \left(\frac{1}{2}\right)^4 = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{8.0}} $$
両辺の底が \(\displaystyle\frac{1}{2}\) で等しいので、指数部分を比較することができます。
$$ 4 = \frac{t}{8.0} $$

使用した物理公式

  • 残留率の公式: \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
計算過程

指数を比較して得られた式 \(4 = \displaystyle\frac{t}{8.0}\) を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t &= 4 \times 8.0 \\[2.0ex]
&= 32
\end{aligned}
$$
よって、\(32\) 日後となります。

この設問の平易な説明

残留率が \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になる時間を知りたい、という問題です。まず、\(\displaystyle\frac{1}{16}\) というのが、\(\displaystyle\frac{1}{2}\) を何回掛け合わせたものかを考えます。
\(\displaystyle\frac{1}{2} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{4}\) (2回)
\(\displaystyle\frac{1}{4} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{8}\) (3回)
\(\displaystyle\frac{1}{8} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{16}\) (4回)
つまり、半分になるイベントが4回起こればよいことがわかります。1回のイベント(半減期)にかかる時間は \(8.0\) 日なので、\(8.0\) 日 \(\times 4\) 回 \( = 32\) 日後、と計算できます。

結論と吟味

残留率が \(\displaystyle\frac{1}{16}\) になるのは \(32\) 日後であると計算できました。これは半減期 \(8.0\) 日のちょうど4倍の時間であり、\(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^4 = \displaystyle\frac{1}{16}\) という関係と一致しており、妥当な結果です。

解答 (3) \(32\) 日

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 半減期の普遍性:
    • 核心: 放射性崩壊の最も重要な特徴は、「原子核が崩壊する確率は、その原子核がいつ作られたかや、周りの環境(温度、圧力など)に一切依存しない」という点です。この結果として、「どんなに大量にあっても、その数が半分になるまでにかかる時間(半減期)は常に一定である」という法則が成り立ちます。
    • 理解のポイント:
      • この問題は、この半減期の普遍性を数式で表現した \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) という関係式を、グラフや具体的な数値に適用する能力を試しています。
      • \(t/T\) という指数部分は「経過時間 \(t\) の中に、半減期 \(T\) が何回分含まれているか」を意味しており、この回数だけ \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を掛ける、という半減期の概念そのものを表しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 放射能(ベクレル)の減衰: 放射能の強さ(単位時間あたりの崩壊数)も、原子核の数に比例するため、原子核の数と全く同じ半減期で減衰します。\(A = A_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) という式を使って、将来の放射能の強さを予測したり、過去の放射能を推定したりする問題に応用できます。
    • 放射性年代測定: 化石や遺跡に含まれる特定の放射性同位体(例えば炭素14)の残留率を測定することで、その試料が活動を停止してからの年代を推定する問題。これは(3)の応用で、現在の残留率から経過時間 \(t\) を逆算するものです。
    • 崩壊定数との関係: 半減期 \(T\) は、より専門的な指標である崩壊定数 \(\lambda\) と \(T = \displaystyle\frac{\ln 2}{\lambda} \approx \displaystyle\frac{0.693}{\lambda}\) という関係で結ばれています。崩壊定数 \(\lambda\) が与えられて、半減期を求めたり、特定の時間後の残留率を \(N = N_0 e^{-\lambda t}\) の式で計算したりする、より進んだ問題に応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 半減期(T)の特定: まず、問題文やグラフから半減期 \(T\) の値を確定させます。これが全ての計算の基本です。
    2. 問われているのは「時間(t)」か「残留率(N/N_0)」か:
      • 「\(t\) 日後の残留率は?」と聞かれたら → 経過時間 \(t\) が半減期 \(T\) の何倍かを計算し (\(n=t/T\))、\(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^n\) を求めます。
      • 「残留率が \(1/X\) になるのはいつ?」と聞かれたら → \(1/X\) が \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)\) の何乗 (\(n\) 乗) になるかを考え、\(t = n \times T\) を計算します。
    3. \(1/2\) のべき乗に変換: \(1/4, 1/8, 1/16, 1/32, \dots\) といった数値が出てきたら、機械的に \((\frac{1}{2})^2, (\frac{1}{2})^3, (\frac{1}{2})^4, (\frac{1}{2})^5, \dots\) と変換する癖をつけましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 線形的な減少との混同:
    • 誤解: 半減期で半分になるのだから、半減期の半分の時間では \(1/4\) 減って \(3/4\) になる、と線形的に考えてしまう。
    • 対策: 放射性崩壊のグラフは直線ではなく、下に凸の曲線(指数関数)です。減少するペースは、残っている原子核の数に比例するため、時間とともに緩やかになります。常に「\(\times \displaystyle\frac{1}{2}\)」という掛け算で量が変化することを意識し、安易な割り算や引き算で考えないようにしましょう。
  • 公式の指数の混同:
    • 誤解: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{tT}\) や \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{T}{t}}\) のように、公式の指数部分を間違えて覚えてしまう。
    • 対策: 指数 \(\displaystyle\frac{t}{T}\) の意味を「経過時間 \(t\) の中に半減期 \(T\) が何回入っているか」という回数だと理解すれば、混同を防げます。例えば、時間が \(t=2T\)(半減期の2倍)なら、指数は \(2\) になり、\(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^2\) となって自然な結果が得られます。意味を理解することが、丸暗記によるミスを防ぐ最善策です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 残留率の公式 \(\displaystyle\frac{N}{N_0} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\):
    • 選定理由: この公式は、半減期の概念を最も直接的かつ汎用的に表現したものです。半減期 \(T\) と経過時間 \(t\) が分かれば残留率が、残留率と半減期 \(T\) が分かれば経過時間 \(t\) が求められるため、この種の問いに万能に対応できます。
    • 適用根拠: この数式は、個々の原子核が一定確率 \(\lambda\) で崩壊するという物理的な仮定(\(dN = -\lambda N dt\))から導かれる指数関数 \(N(t) = N_0 e^{-\lambda t}\) を、より直感的な「半減期」という言葉で書き直したものです。数学的には同等であり、物理的現象を正しくモデル化しています。設問(2)や(3)は、この公式の \(t\) と \(\displaystyle\frac{N}{N_0}\) のどちらを未知数にするかの違いに過ぎません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 整数倍の関係を見抜く: この種の問題では、多くの場合、経過時間 \(t\) が半減期 \(T\) の簡単な整数倍や分数倍になったり、残留率が \(\displaystyle\frac{1}{2^n}\) という形になったりします。まず、この単純な関係がないかを探すのが計算を簡略化するコツです。
  • 指数の計算を丁寧に行う: (3)のように \( \displaystyle\frac{1}{16} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^4 \) といった変形は、焦っていると間違えやすいポイントです。\(2^1=2, 2^2=4, 2^3=8, 2^4=16, 2^5=32, \dots\) という関係は、すぐに引き出せるように普段から慣れておきましょう。
  • 単位の確認: (1)で半減期を「\(8.0\) 日」と求めたら、(2)や(3)の計算でも時間の単位が「日」で揃っているかを確認します。もし問題で「何時間後か?」と聞かれていれば、最後に単位換算が必要です。この問題では一貫して「日」なのでその必要はありませんが、常に単位を意識する癖は重要です。

基本例題102 原子核反応と核エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「質量欠損と結合エネルギー、および核反応エネルギー」です。原子核物理学の根幹をなすアインシュタインの有名な公式 \(E=mc^2\) を用い、質量の変化がどのようにエネルギーに変換されるかを具体的に計算する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 質量欠損: 原子核の質量は、それを構成する陽子と中性子の質量の総和よりも常に小さくなるという事実。この質量の差が「質量欠損」です。
  2. 結合エネルギー: バラバラの陽子と中性子をまとめて一つの原子核を作るときに、質量欠損に相当するエネルギーが外部に放出されます。逆に、原子核をバラバラの構成粒子に分解するために必要なエネルギーが「結合エネルギー」です。
  3. 質量とエネルギーの等価性: 質量 \(m\) とエネルギー \(E\) は、\(E=mc^2\)(\(c\) は光速)という関係で相互に変換可能であるという、アインシュタインの特殊相対性理論の帰結。
  4. 核反応エネルギー(Q値): 核反応の前後で、系の全質量が変化することがあります。この質量の減少分 \(\Delta m_{\text{反応}}\) が、\(E = (\Delta m_{\text{反応}})c^2\) の関係に従ってエネルギーとして放出されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1), (2)では、質量欠損と結合エネルギーの定義を答えます。
  2. (3)では、まず \({}_{3}^{7}\text{Li}\) 原子核の構成粒子(陽子、中性子)を特定し、それらの質量の総和と \({}_{3}^{7}\text{Li}\) 原子核自身の質量の差から、質量欠損 \(\Delta m\) を計算します。次に、\(E_1 = (\Delta m)c^2\) の公式を使って結合エネルギーをジュール\([\text{J}]\)単位で求め、最後に単位換算を行ってメガ電子ボルト\([\text{MeV}]\)単位で表します。
  3. (4)では、核反応式の反応前(左辺)の質量の総和と、反応後(右辺)の質量の総和を計算し、その差(質量の減少分)を求めます。この質量減少分に相当するエネルギーを、(3)と同様に \(E_2 = (\Delta m_{\text{反応}})c^2\) を用いて計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
原子核を構成する陽子と中性子(これらを総称して核子と呼びます)は、原子核の中で強い力によって固く結びついています。このとき、バラバラの状態よりも安定化するため、エネルギーを放出します。質量とエネルギーの等価性により、エネルギーを放出した分だけ、全体の質量が減少します。この質量の差についての名称を答える問題です。
この設問における重要なポイント

  • (原子核の質量)\( < \)(構成粒子の質量の和)
  • この質量の差を「質量欠損」と呼ぶ。

具体的な解説と立式
問題文で問われている、原子核の構成粒子の質量の和と、原子核自身の質量の差 \(\Delta m\) は、「質量欠損」と呼ばれます。

使用した物理公式

  • 質量欠損の定義
計算過程

この設問は知識を問う問題であり、計算は不要です。

この設問の平易な説明

陽子と中性子という「部品」を集めて原子核という「製品」を作ると、なぜか「部品の重さの合計」よりも「製品の重さ」の方が軽くなってしまいます。この、どこかへ消えてしまったかのように見える質量のことを「質量欠損」と呼びます。

結論と吟味

この質量の差 \(\Delta m\) は質量欠損といいます。

解答 (1) 質量欠損

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で述べた質量欠損 \(\Delta m\) は、原子核が形成される際にエネルギーとして放出されたものです。逆に言えば、原子核をバラバラの構成粒子に分解するには、このエネルギーを外部から与える必要があります。このエネルギーを「結合エネルギー」と呼びます。アインシュタインの質量とエネルギーの等価性の関係式 \(E=mc^2\) を用いて、質量欠損 \(\Delta m\) に相当するエネルギーを表します。
この設問における重要なポイント

  • 結合エネルギーは、質量欠損に相当するエネルギーである。
  • 質量 \(m\) が持つエネルギーは \(E=mc^2\) で与えられる。

具体的な解説と立式
質量欠損を \(\Delta m\) とすると、それに相当する結合エネルギー \(E\) は、質量とエネルギーの等価性の公式より、
$$ E = (\Delta m) c^2 $$
と表せます。

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
計算過程

この設問は公式を記述する問題であり、これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

(1)で消えてしまった質量「質量欠損」は、実はエネルギーに姿を変えて放出されています。そのエネルギーの量が、原子核の粒子同士を強く結びつけている「結合エネルギー」の正体です。その量は、有名な公式 \(E=mc^2\) を使って、質量欠損 \(\Delta m\) から計算できます。

結論と吟味

原子核の結合エネルギーは \((\Delta m)c^2\) と表せます。

解答 (2) \((\Delta m)c^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
\({}_{3}^{7}\text{Li}\) 原子核の結合エネルギーを計算します。手順は以下の通りです。
\(1\). \({}_{3}^{7}\text{Li}\) の構成粒子(陽子と中性子の数)を特定する。
\(2\). 構成粒子の質量の総和を計算する。
\(3\). 構成粒子の質量の総和から \({}_{3}^{7}\text{Li}\) の質量を引いて、質量欠損 \(\Delta m\) を原子質量単位\([\text{u}]\)で求める。
\(4\). \(\Delta m\) をキログラム\([\text{kg}]\)単位に換算する。
\(5\). \(E_1 = (\Delta m)c^2\) を計算して、エネルギーをジュール\([\text{J}]\)で求める。
\(6\). ジュール\([\text{J}]\)をメガ電子ボルト\([\text{MeV}]\)に換算する。
この設問における重要なポイント

  • \({}_{3}^{7}\text{Li}\) は陽子\(3\)個、中性子\(4\)個 (\(7-3=4\)) からなる。
  • 単位換算(\(\text{u} \rightarrow \text{kg}\), \(\text{J} \rightarrow \text{MeV}\))を正確に行う。
  • \(1 \, \text{MeV} = 10^6 \, \text{eV}\)

具体的な解説と立式
\(1\). \({}_{3}^{7}\text{Li}\) は陽子 \(3\) 個、中性子 \(4\) 個から構成されます。

\(2\). 構成粒子の質量の総和を計算します。
$$ (\text{質量の総和}) = 3 \times (\text{陽子の質量}) + 4 \times (\text{中性子の質量}) $$

\(3\). 質量欠損 \(\Delta m\) を計算します。
$$ \Delta m = (\text{質量の総和}) – ({}_{3}^{7}\text{Li}\text{の質量}) $$

\(4\). 結合エネルギー \(E_1\) を計算します。
$$ E_1 = (\Delta m) c^2 $$

\(5\). 単位を\([\text{MeV}]\)に換算します。
$$ E_1 \, [\text{MeV}] = \frac{E_1 \, [\text{J}]}{1.60 \times 10^{-19} \times 10^6} $$

使用した物理公式

  • 質量欠損の定義
  • 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
計算過程

与えられた値を用いて質量欠損 \(\Delta m\) を\([\text{u}]\)単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= (3 \times 1.0073 + 4 \times 1.0087) – 7.0144 \\[2.0ex]
&= (3.0219 + 4.0348) – 7.0144 \\[2.0ex]
&= 7.0567 – 7.0144 \\[2.0ex]
&= 0.0423 \, \text{u}
\end{aligned}
$$
次に、\(\Delta m\) を\([\text{kg}]\)単位に換算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= 0.0423 \times (1.66 \times 10^{-27}) \, \text{kg}
\end{aligned}
$$
結合エネルギー \(E_1\) を\([\text{J}]\)単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
E_1 &= \Delta m c^2 \\[2.0ex]
&= \{ 0.0423 \times (1.66 \times 10^{-27}) \} \times (3.00 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]
&= 0.0423 \times 1.66 \times 10^{-27} \times 9.00 \times 10^{16} \\[2.0ex]
&= (0.0423 \times 1.66 \times 9.00) \times 10^{-11} \\[2.0ex]
&= 0.6319… \times 10^{-11} \, \text{J} \\[2.0ex]
&\approx 6.32 \times 10^{-12} \, \text{J}
\end{aligned}
$$
最後に、\(E_1\) を\([\text{MeV}]\)単位に換算します。
$$
\begin{aligned}
E_1 &= \frac{6.319… \times 10^{-12}}{1.60 \times 10^{-19} \times 10^6} \\[2.0ex]
&= \frac{6.319… \times 10^{-12}}{1.60 \times 10^{-13}} \\[2.0ex]
&= \frac{63.19…}{1.60} \, \text{MeV} \\[2.0ex]
&\approx 39.5 \, \text{MeV}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

リチウム原子核の結合エネルギーを求めます。まず、リチウムの「部品」(陽子\(3\)個、中性子\(4\)個)の重さを合計します。次に、完成品であるリチウム原子核の重さを引きます。この差が「質量欠損」です。この質量欠損を \(E=mc^2\) の公式に代入すれば、結合エネルギーが計算できます。最後に、物理の世界でよく使われるエネルギーの単位「MeV」に変換します。

結論と吟味

\({}_{3}^{7}\text{Li}\) 原子核の結合エネルギーは \(6.32 \times 10^{-12} \, \text{J}\)、または \(39.5 \, \text{MeV}\) です。計算過程は多いですが、一つ一つの手順は基本的です。

解答 (3) \(6.32 \times 10^{-12} \, \text{J}\), \(39.5 \, \text{MeV}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
核反応で放出されるエネルギー \(E_2\) を計算します。これは、反応前の全質量と反応後の全質量の差(質量減少)を求め、それに \(c^2\) を掛けることで得られます。手順は(3)とほぼ同じです。
この設問における重要なポイント

  • 反応エネルギー \( = (\text{反応前の質量の和} – \text{反応後の質量の和}) \times c^2\)
  • 反応式 \({}_{1}^{1}\text{H} + {}_{3}^{7}\text{Li} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{2}^{4}\text{He}\) の各粒子の質量を正しく代入する。

具体的な解説と立式
核反応の前後での質量の減少 \(\Delta m_{\text{反応}}\) を計算します。
$$ \Delta m_{\text{反応}} = (\text{反応前の質量の和}) – (\text{反応後の質量の和}) $$
$$ \Delta m_{\text{反応}} = (m_{{}^{1}\text{H}} + m_{{}^{7}\text{Li}}) – (m_{{}^{4}\text{He}} + m_{{}^{4}\text{He}}) $$
放出されるエネルギー \(E_2\) は、
$$ E_2 = (\Delta m_{\text{反応}}) c^2 $$
(3)と同様に、ジュール\([\text{J}]\)で計算した後にメガ電子ボルト\([\text{MeV}]\)に換算します。

使用した物理公式

  • 核反応エネルギーの計算式
  • 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
計算過程

与えられた値を用いて質量の減少 \(\Delta m_{\text{反応}}\) を\([\text{u}]\)単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta m_{\text{反応}} &= (1.0073 + 7.0144) – (2 \times 4.0015) \\[2.0ex]
&= 8.0217 – 8.0030 \\[2.0ex]
&= 0.0187 \, \text{u}
\end{aligned}
$$
エネルギー \(E_2\) を\([\text{J}]\)単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
E_2 &= \{ 0.0187 \times (1.66 \times 10^{-27}) \} \times (3.00 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]
&= 0.0187 \times 1.66 \times 10^{-27} \times 9.00 \times 10^{16} \\[2.0ex]
&= (0.0187 \times 1.66 \times 9.00) \times 10^{-11} \\[2.0ex]
&= 0.2793… \times 10^{-11} \, \text{J} \\[2.0ex]
&\approx 2.79 \times 10^{-12} \, \text{J}
\end{aligned}
$$
最後に、\(E_2\) を\([\text{MeV}]\)単位に換算します。
$$
\begin{aligned}
E_2 &= \frac{2.793… \times 10^{-12}}{1.60 \times 10^{-19} \times 10^6} \\[2.0ex]
&= \frac{2.793… \times 10^{-12}}{1.60 \times 10^{-13}} \\[2.0ex]
&= \frac{27.93…}{1.60} \, \text{MeV} \\[2.0ex]
&\approx 17.5 \, \text{MeV}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

核反応は、原子核の「組み替え」です。この組み替えの前後で、全体の重さがどう変わるかを調べます。反応前の材料(陽子とリチウム)の重さの合計と、反応後の生成物(ヘリウム\(2\)個)の重さの合計を比べると、反応後の方が軽くなっています。この減った分の質量が、エネルギーに変わって放出されます。このエネルギーの量を、(3)と同じように \(E=mc^2\) で計算します。

結論と吟味

この核反応で放出されるエネルギーは \(2.79 \times 10^{-12} \, \text{J}\)、または \(17.5 \, \text{MeV}\) です。反応前後で質量がエネルギーに変換されるという、原子核物理学の基本的な現象を計算で確認できました。

解答 (4) \(2.79 \times 10^{-12} \, \text{J}\), \(17.5 \, \text{MeV}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)):
    • 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則は、アインシュタインによって示された「質量はエネルギーの一形態である」という概念です。原子核の世界では、質量の変化が無視できないほどのエネルギーの出入りとして現れます。この \(E=mc^2\) という関係式を、原子核の「結合」と「反応」という2つの場面で正しく適用できるかが問われます。
    • 理解のポイント:
      • 結合エネルギー: バラバラの粒子が原子核として結合する際に「失われる質量(質量欠損)」が、原子核を安定に保つ「結合エネルギー」に変換されます。
      • 核反応エネルギー: 核反応の前後で系の総質量が減少した場合、その「減少した質量」が、運動エネルギーなどの形で「放出エネルギー」に変換されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 核子あたりの結合エネルギー: 原子核の安定性を比較するために、「結合エネルギーをその核子の数(質量数)で割った値」を計算する問題。この値が大きいほど、原子核は安定であると言えます。鉄(\({}^{56}\text{Fe}\))付近でこの値が最大になることを知っていると役立ちます。
    • 核分裂と核融合:
      • 核分裂: ウランのような重い原子核が、中性子を吸収して軽い原子核に分裂する反応。反応前後で質量が減少し、莫大なエネルギーを放出します(原子力発電の原理)。
      • 核融合: 水素のような軽い原子核同士が、高温・高圧下で合体してより重い原子核になる反応。この際にも質量が減少し、エネルギーを放出します(太陽エネルギーの源)。
    • これらの問題も、本質的には(4)と同様に、反応前後の質量差から放出エネルギーを計算します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「結合エネルギー」か「反応エネルギー」かを見極める:
      • 問題が「一つの原子核」とその「構成粒子(陽子・中性子)」の関係について問うていれば → 「結合エネルギー」の問題です。(3)のように、構成粒子の質量の和から原子核の質量を引いて質量欠損を求めます。
      • 問題が「核反応式 (\(A+B \rightarrow C+D\))」で表される現象について問うていれば → 「反応エネルギー」の問題です。(4)のように、反応式の左辺の質量の和と右辺の質量の和を比べ、その差を計算します。
    2. 単位系の確認: 問題で与えられている質量の単位が\([\text{u}]\)か\([\text{kg}]\)か、エネルギーの単位が\([\text{J}]\)か\([\text{eV}]\)か\([\text{MeV}]\)かを最初に確認します。計算の途中で適切な単位換算が必要になります。特に、\(1\,\text{u} \leftrightarrow \text{kg}\) と \( \text{J} \leftrightarrow \text{eV(MeV)}\) の換算は必須です。
    3. 有効数字の桁数: 問題で与えられている数値(質量、物理定数)の有効数字を確認し、最終的な答えもそれに合わせるように意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 質量欠損の計算での足し引きの間違い:
    • 誤解: (3)で「原子核の質量」から「構成粒子の質量の和」を引いてしまう、(4)で「反応後」から「反応前」の質量を引いてしまうなど、引き算の順序を間違える。
    • 対策: 「欠損」や「減少」という言葉の意味を考え、「大きい方から小さい方を引く」と意識することが重要です。必ず「(部品の和)\( > \)(完成品)」であり、「(反応前)\( > \)(反応後)」(エネルギー放出の場合)となります。計算結果が負になったら、引き算の順序が逆である可能性を疑いましょう。
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \([\text{J}]\)から\([\text{MeV}]\)への換算で、\(1.60 \times 10^{-19}\) で割るだけで、\(10^6\) (メガ) の分を忘れてしまう。
    • 対策: \(1 \, \text{MeV} = 10^6 \times (1 \, \text{eV}) = 10^6 \times (1.60 \times 10^{-19} \, \text{J}) = 1.60 \times 10^{-13} \, \text{J}\) という関係を一度自分で導き、\([\text{J}]\)から\([\text{MeV}]\)に換算するには「\(1.60 \times 10^{-13}\) で割る」と覚えておくと、計算が一段階減り、ミスが少なくなります。
  • \(c^2\) の計算ミス:
    • 誤解: 光速 \(c = 3.00 \times 10^8\) を2乗する際に、指数部分を \(10^{16}\) にし忘れたり、係数部分の \(3.00\) を2乗し忘れて \(3.00\) のまま計算したりする。
    • 対策: \((3.00 \times 10^8)^2 = 3.00^2 \times (10^8)^2 = 9.00 \times 10^{16}\) と、係数部分と指数部分を分けて、落ち着いて計算する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(E = (\Delta m) c^2\) の適用:
    • 選定理由: この問題は、質量の変化とエネルギーの出入りを直接結びつけることを要求しています。この2つの物理量を結びつけることができる唯一の法則が、質量とエネルギーの等価性を示す \(E=mc^2\) です。
    • 適用根拠: (3)の結合エネルギーは、原子核が形成される際に質量欠損 \(\Delta m\) がエネルギーに転化したものです。(4)の反応エネルギーは、核反応の前後での質量変化 \(\Delta m_{\text{反応}}\) がエネルギーに転化したものです。どちらの現象も、根源は「質量のエネルギーへの変換」であり、同じ公式が適用されます。文脈に応じて \(\Delta m\) の意味(質量欠損か、反応による質量変化か)を正しく解釈することが重要です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 計算プロセスの構造化: (3)や(4)のような多段階の計算では、いきなり一つの長い式で計算しようとせず、
    1. まず、質量変化 \(\Delta m\) を\([\text{u}]\)単位で正確に計算する。
    2. 次に、\(\Delta m\) を\([\text{kg}]\)単位に換算する。
    3. 最後に、\(E = (\Delta m_{[\text{kg}]}) c^2\) を計算して\([\text{J}]\)を求める。

    というように、ステップを明確に分けて計算を進めると、どこで間違えたかを見つけやすくなります。

  • 原子質量単位[u]ベースでの計算: \(1\,\text{u}\) の質量が持つエネルギーをあらかじめ計算しておくと便利です。\(E_{\text{u}} = (1\,\text{u})c^2 = (1.66 \times 10^{-27}) \times (3.00 \times 10^8)^2 \approx 1.49 \times 10^{-10} \, \text{J} \approx 931.5 \, \text{MeV}\) となります(\(1\,\text{u} \cdot c^2 \approx 931.5 \, \text{MeV}\) は非常に有名な値)。この値を使えば、(3)では \(E_1 = 0.0423 \times 931.5 \, \text{MeV}\)、(4)では \(E_2 = 0.0187 \times 931.5 \, \text{MeV}\) のように、\([\text{u}]\)から\([\text{MeV}]\)へ直接変換でき、計算が大幅に簡略化されます。
  • 概算による検算: 計算の最後に、大まかな桁数が合っているかを確認する癖をつけましょう。例えば、(3)の質量欠損は約 \(0.0423\,\text{u}\) です。\(1\,\text{u}\) が約 \(931.5 \, \text{MeV}\) なので、答えは \(0.0423 \times 931.5 \approx 40 \, \text{MeV}\) 程度になるはずだ、と予測できます。計算結果の \(39.5 \, \text{MeV}\) はこの予測と非常に近く、大きな間違いはないだろうと判断できます。

基本例題103 核分裂

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「核分裂における質量とエネルギーの変換、およびエネルギーの利用」です。核分裂によって減少した質量がエネルギーに変わるという \(E=mc^2\) の関係と、そのエネルギーの一部が電力として利用されるという、より実用的な場面設定での計算が求められます。単位の扱いやパーセンテージの計算が鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 質量とエネルギーの等価性: 質量 \(m\) がエネルギー \(E\) に変換されるとき、その関係は \(E=mc^2\) で与えられること。
  2. 仕事率(電力)の定義: 電力 \(P\) は、単位時間あたりになされる仕事(または変換されるエネルギー)のこと。単位はワット\([\text{W}]\)であり、\(1 \, \text{W} = 1 \, \text{J/s}\) であること。
  3. 単位の統一: 計算を行う際には、質量をキログラム\([\text{kg}]\)、時間を秒\([\text{s}]\)、エネルギーをジュール\([\text{J}]\)といったSI基本単位系に統一することが重要であること。
  4. 割合の計算: パーセンテージ(%)や割合を正しく計算式に反映させる能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 求めたい量である「\(1\)秒あたりに必要なウランの質量」を \(m \, \text{[g]}\) とおく。
  2. このウラン \(m \, \text{[g]}\) が核分裂したときに「質量が減少する割合」(\(8.5 \times 10^{-2} \, \%\)) を使って、実際にエネルギーに変換される質量 \(\Delta m\) を \(m\) を用いて表す。この際、単位を\([\text{g}]\)から\([\text{kg}]\)に変換する。
  3. 質量 \(\Delta m\) がエネルギーに変換されたときの総エネルギー \(E_{\text{総}}\) を、\(E_{\text{総}} = (\Delta m)c^2\) で計算する。
  4. この総エネルギーのうち、電力に変換されるのは \(20 \, \%\) なので、実際に電力として利用されるエネルギー \(E_{\text{電力}}\) を計算する。
  5. この \(E_{\text{電力}}\) が、\(1\)秒あたりの発電量(電力 \(P \times 1 \, \text{s}\))に等しいとおき、\(m\) についての方程式を立てて解く。

核分裂による発電

思考の道筋とポイント
この問題は、ゴールから逆算して考えると分かりやすいです。ゴールは「\(30\)万\( \text{kW}\) の電力を得る」ことです。これは、\(1\)秒あたりに \(30 \times 10^4 \times 10^3 = 3.0 \times 10^8 \, \text{J}\) の電気エネルギーが必要であることを意味します。この電気エネルギーは、核分裂で発生したエネルギーの一部 (\(20\%\)) です。したがって、核分裂で発生すべき総エネルギーが計算できます。さらに、その総エネルギーは、失われた質量(質量欠損)から生み出されたものです。この関係から、\(1\)秒あたりに失われるべき質量がわかります。最後に、この質量減少は、核分裂したウラン全体の質量の \(8.5 \times 10^{-2} \, \%\) にあたるので、元のウランの質量を逆算することができます。
この設問における重要なポイント

  • 電力の単位「kW」(キロワット)を「W」(ワット)に変換する。\(1 \, \text{kW} = 10^3 \, \text{W}\)。
  • 電力 \(P \, \text{[W]}\) は、\(1\)秒あたりのエネルギー \(P \, \text{[J/s]}\) を意味する。
  • 求めるウランの質量を \(m \, \text{[g]}\) とおき、計算の途中でSI基本単位である\([\text{kg}]\)に変換する。\(1 \, \text{g} = 10^{-3} \, \text{kg}\)。
  • パーセント(%)は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) を掛ける計算である。

具体的な解説と立式
\(1\)秒間に核分裂する \({}^{235}\text{U}\) の質量を \(m \, \text{[g]}\) とおきます。
このとき、核分裂によって減少する質量 \(\Delta m\) は、元の質量の \(8.5 \times 10^{-2} \, \%\) です。計算をSI単位系で行うため、\(m\) を\([\text{kg}]\)に、パーセントを小数に直します。
$$ \Delta m = (m \times 10^{-3}) \times \frac{8.5 \times 10^{-2}}{100} \, [\text{kg}] $$
この質量減少 \(\Delta m\) によって発生する総エネルギー \(E_{\text{総}}\) は、
$$ E_{\text{総}} = (\Delta m) c^2 $$
このうち、電力に変換されるのは \(20 \, \%\) なので、\(1\)秒あたりに得られる電気エネルギー \(E_{\text{電力}}\) は、
$$ E_{\text{電力}} = E_{\text{総}} \times \frac{20}{100} $$
一方、発電所の電力は \(30\)万\(\text{kW}\) なので、\(1\)秒あたりに発電する電気エネルギーは、
$$ P \times (1 \, \text{s}) = (30 \times 10^4 \times 10^3 \, \text{W}) \times (1 \, \text{s}) = 3.0 \times 10^8 \, \text{J} $$
これらが等しいとおくことで、\(m\) に関する方程式を立てます。
$$ (\Delta m) c^2 \times \frac{20}{100} = 3.0 \times 10^8 $$

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
  • 仕事率(電力)とエネルギーの関係: \(E = Pt\)
計算過程

まず、質量減少 \(\Delta m\) を \(m\) を使って整理します。
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= (m \times 10^{-3}) \times \frac{8.5 \times 10^{-2}}{100} \\[2.0ex]
&= m \times 10^{-3} \times 8.5 \times 10^{-4} \\[2.0ex]
&= 8.5 m \times 10^{-7} \, [\text{kg}]
\end{aligned}
$$
次に、この \(\Delta m\) をエネルギーに関する方程式に代入します。
$$ (8.5 m \times 10^{-7}) \times c^2 \times \frac{20}{100} = 3.0 \times 10^8 $$
与えられた \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\) を代入し、\(m\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
(8.5 m \times 10^{-7}) \times (3.0 \times 10^8)^2 \times 0.20 &= 3.0 \times 10^8 \\[2.0ex]
8.5 m \times 10^{-7} \times (9.0 \times 10^{16}) \times 0.20 &= 3.0 \times 10^8 \\[2.0ex]
m \times (8.5 \times 9.0 \times 0.20) \times 10^{9} &= 3.0 \times 10^8 \\[2.0ex]
m \times 15.3 \times 10^{9} &= 3.0 \times 10^8 \\[2.0ex]
m &= \frac{3.0 \times 10^8}{15.3 \times 10^9} \\[2.0ex]
m &= \frac{3.0}{15.3} \times 10^{-1} \\[2.0ex]
m &\approx 0.196 \times 10^{-1} \\[2.0ex]
m &\approx 0.0196 \, \text{g}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えると、
$$ m \approx 2.0 \times 10^{-2} \, \text{g} $$

この設問の平易な説明

原子力発電所が \(1\) 秒間に \(30\)万\(\text{kW}\) の電気を作るために、どれくらいのウランが必要かを計算する問題です。
まず、\(30\)万\(\text{kW}\) というのは、\(1\)秒間に \(3\)億\(\text{J}\) の電気エネルギーを作ることに相当します。
問題の条件から、この電気エネルギーは、核分裂で発生した全エネルギーの \(20\%\) です。つまり、核分裂では \(5\) 倍の \(15\)億\(\text{J}\) のエネルギーが \(1\) 秒間に発生しているはずです。
この \(15\)億\(\text{J}\) のエネルギーは、\(E=mc^2\) の法則に従って、ある質量の減少によって生み出されます。この法則から、\(1\)秒間に消えるべき質量が計算できます。
最後に、この消えた質量は、燃やしたウラン全体の質量のわずか \(0.00085\%\) に過ぎません。この関係から、元々燃やしたウランの質量を逆算することができます。

結論と吟味

\(1\)秒あたりに必要な \({}^{235}\text{U}\) の質量は、約 \(2.0 \times 10^{-2} \, \text{g}\) と計算できました。これは \(0.02 \, \text{g}\) という非常にわずかな量です。ごく少量の質量から莫大なエネルギーが生み出される核分裂の特徴をよく表している、妥当な結果と言えます。

解答 \(2.0 \times 10^{-2} \, \text{g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)) の定量的応用:
    • 核心: この問題は、\(E=mc^2\) という法則を、単なる概念としてではなく、具体的な数値を伴う工学的な問題(発電)に適用する能力を問うています。特に、「発生したエネルギーの一部だけが有効に利用される」という現実的な条件(エネルギー変換効率)を考慮に入れる点が重要です。
    • 理解のポイント:
      • 質量減少 \(\rightarrow\) 総エネルギー: 核分裂したウランの質量 \(m\) のうち、ごく一部の質量 \(\Delta m\) が消滅し、それが莫大な「総エネルギー」 \(E_{\text{総}} = (\Delta m)c^2\) に変換されます。
      • 総エネルギー \(\rightarrow\) 電気エネルギー: 発生した総エネルギーの全てが電力になるわけではなく、熱などとして失われます。そのうち、実際に電力に変換される割合(この問題では\(20\%\))を掛け合わせたものが「電気エネルギー」 \(E_{\text{電力}}\) となります。
      • 電気エネルギー \(\leftrightarrow\) 電力: 「電力」とは単位時間あたりの電気エネルギーのことです。\(1\)秒あたりの電気エネルギーが、電力\([\text{W}]\)の値と等しくなります。この関係を逆に使い、必要な電力から必要なエネルギーを算出します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 太陽のエネルギー放出: 太陽が核融合反応によって、毎秒どれくらいの質量をエネルギーに変換して放出しているかを計算する問題。太陽の光度(単位時間あたりに放出する全エネルギー)が与えられ、本問と同様に \(E=mc^2\) から質量減少率を求めます。
    • 他のエネルギー源との比較: 同じエネルギーを得るために、核燃料(ウラン)と化石燃料(石油、石炭など)では、どれくらいの質量の燃料が必要になるかを比較する問題。核燃料がいかに質量あたりのエネルギー効率が高いかを定量的に示すことができます。
    • ロケットの推進: 燃料の質量をエネルギーに変換して推進力を得る、といった空想的なロケットの性能計算などにも、同じ考え方が応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位時間あたりで考える: 問題文に「電力(kW)」や「\(1\)秒あたり」という言葉が出てきたら、全ての量を「\(1\)秒あたり」に換算して考えるのが基本戦略です。求める量も「\(1\)秒あたりの質量」とし、与えられた電力も「\(1\)秒あたりのエネルギー」に直します。
    2. エネルギーの流れを追う: 「ウランの質量 \(\rightarrow\) 質量減少 \(\Delta m\) \(\rightarrow\) 総発生エネルギー \(E_{\text{総}}\) \(\rightarrow\) 電気エネルギー \(E_{\text{電力}}\) \(\rightarrow\) 電力 \(P\)」というエネルギー変換の連鎖を意識します。そして、問題で求めたいのが最初の「ウランの質量」で、与えられているのが最後の「電力」なので、この連鎖を逆向きにたどって計算計画を立てます。
    3. 単位の統一を徹底する: 計算を始める前に、全ての単位をSI基本単位(質量は\([\text{kg}]\)、エネルギーは\([\text{J}]\)、時間は\([\text{s}]\)、電力は\([\text{W}]\))に変換することを徹底します。特に、\([\text{g}]\)と\([\text{kg}]\)、\([\text{kW}]\)と\([\text{W}]\)、パーセント(%)の扱いは間違いやすいので注意が必要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単位換算の漏れ・間違い:
    • 誤解: 求める質量の単位が\([\text{g}]\)なので、最初から最後まで\([\text{g}]\)で計算してしまう。あるいは、電力の\([\text{kW}]\)を\([\text{W}]\)に直し忘れる。
    • 対策: \(E=mc^2\) の公式を使う際は、質量 \(m\) は必ず\([\text{kg}]\)、光速 \(c\) は\([\text{m/s}]\)でなければ、エネルギー \(E\) が\([\text{J}]\)になりません。計算の基本はSI単位系であると肝に銘じ、「計算前に全てSI単位に直し、答えを出す直前に指定された単位に戻す」という手順を儀式化しましょう。
  • パーセンテージの計算ミス:
    • 誤解: \(8.5 \times 10^{-2} \, \%\) を \(8.5 \times 10^{-2}\) として計算してしまう(\(\div 100\) を忘れる)。あるいは、エネルギー変換効率の \(20\%\) を掛け忘れる。
    • 対策: 「\%」という記号は「\(\times \displaystyle\frac{1}{100}\)」という操作に置き換える、と機械的に処理する癖をつけます。また、問題文の「質量の \(A\%\) が減少し、そのエネルギーの \(B\%\) が電力に変わる」という条件文を、\(\Delta m = m \times \frac{A}{100}\), \(E_{\text{電力}} = (\Delta m c^2) \times \frac{B}{100}\) のように、一つずつ丁寧に数式に落とし込むことが重要です。
  • 求めるものと立式の変数の混同:
    • 誤解: \(1\)秒間に核分裂するウランの質量 \(m\) と、その際にエネルギーに変わる質量 \(\Delta m\) を混同し、\(E = mc^2\) の \(m\) に、求めるウランの質量を直接代入してしまう。
    • 対策: 物理量を文字で置く際に、「\(m\):\(1\)秒間に消費するウランの質量」「\(\Delta m\):\(1\)秒間にエネルギーに変換される質量」のように、意味を明確に区別して定義することが不可欠です。両者の関係は \(\Delta m = m \times (\text{減少率})\) であることを常に意識します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(E=mc^2\) と \(E=Pt\) の組み合わせ:
    • 選定理由: この問題は「質量」の世界と「電力」の世界を結びつける必要があります。この2つの世界を直接つなぐ公式はありません。そこで、「エネルギー」という共通の概念を仲介役として使います。
      • 「質量」から「エネルギー」へ変換するのが \(E=mc^2\)。
      • 「電力」から「エネルギー」へ変換するのが \(E=Pt\)。
    • 適用根拠: \(1\)秒間に減少する質量 \(\Delta m\) から生じるエネルギー (\((\Delta m)c^2\)) の一部が、\(1\)秒間に発電される電気エネルギー (\(P \times 1\text{s}\)) に等しい、というエネルギー保存の考えに基づいています。異なる物理法則から導かれたエネルギーの表現を、同じ現象(\(1\)秒間に起きること)に対して等しいとおくことで、未知数を求める方程式が立てられます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 方程式を立ててから代入する: いきなり数値を代入して計算を始めると、式が複雑になり、間違いやすくなります。まずは「\( (m \times 10^{-3} \times \frac{\text{減少率}}{100}) c^2 \times \frac{\text{変換効率}}{100} = P \)」のように、全ての関係を文字や記号のまま一つの式にまとめてしまいます。その上で、求めたい変数(この場合は \(m\))について式を解いてから、最後にまとめて数値を代入する方が、計算の見通しが良くなり、ミスを減らせます。
  • 指数の計算をまとめる: \(10\)のべき乗が多数出てくる計算では、係数部分と指数部分を分けて計算するのが鉄則です。
    • 係数部分: \(8.5 \times 9.0 \times 0.20\)
    • 指数部分: \(10^{-7} \times 10^{16}\)

    このように分離して計算し、最後に合体させることで、桁数の間違いを防ぎます。

  • 逆算による検算: もし時間に余裕があれば、得られた答え(\(m \approx 0.02 \, \text{g}\))を使って、逆に発電される電力を計算してみます。その結果が \(30\)万\(\text{kW}\) に近くなれば、計算が正しかったことの強力な裏付けになります。

基本例題104 結合エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「核子1個あたりの結合エネルギーと原子核の安定性」です。原子核全体の結合エネルギーを、それを構成する核子(陽子や中性子)の数で割った「核子1個あたりの結合エネルギー」という指標が、原子核の安定性を考える上で非常に重要であることを、グラフの読み取りと具体的な計算を通して理解する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 核子1個あたりの結合エネルギーの定義: 原子核の結合エネルギー全体を、その原子核の質量数(核子数)で割った値。この値が大きいほど、原子核は安定であると言えます。
  2. 結合エネルギーと質量欠損の関係: 原子核の結合エネルギーは、その原子核の質量欠損に相当するエネルギー (\(E=(\Delta m)c^2\)) です。
  3. 核反応で放出されるエネルギー: 核反応でエネルギーが放出されるのは、反応後の生成物の結合エネルギーの総和が、反応前の反応物の結合エネルギーの総和よりも大きくなる(より安定な状態になる)ためです。放出されるエネルギーは、その結合エネルギーの差に相当します。
  4. グラフの解釈: 「核子1個あたりの結合エネルギー」のグラフは、質量数 \(A\) が \(60\) 付近の鉄(\(\text{Fe}\))のあたりで最大値をとります。軽い原子核は「核融合」で、重い原子核は「核分裂」で、このグラフの山の頂上付近にある、より安定な原子核に近づこうとします。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、表から \({}^{12}\text{C}\) の核子\(1\)個あたりの結合エネルギーを読み取り、核子の数(質量数)を掛けて、原子核全体の結合エネルギーを計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた結合エネルギーが質量欠損に相当するエネルギーであることを利用し、電子の静止エネルギーと比較します。
  3. (3)では、核融合反応の前後での、原子核全体の結合エネルギーの総和をそれぞれ計算し、その差を求めることで放出エネルギーを算出します。
  4. (4)では、グラフから核分裂の前(ウラン)と後(分裂生成物)の核子\(1\)個あたりの結合エネルギーを大まかに読み取り、(3)と同様に全体の結合エネルギーの差を計算して、放出エネルギーを概算します。
  5. (5)では、(3)の核融合と(4)の核分裂がなぜ起こるのかを、原子核がより安定な状態(グラフの山の頂上)を目指すという観点から説明します。

問(1)

思考の道筋とポイント
問題で与えられている表の値は、あくまで「核子\(1\)個あたり」の結合エネルギーです。原子核 \({}^{12}\text{C}\) 全体の結合エネルギーを求めるには、この値に、\({}^{12}\text{C}\) に含まれる核子の総数(=質量数)を掛ける必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 原子核全体の結合エネルギー \( = \) (核子\(1\)個あたりの結合エネルギー) \( \times \) (質量数)
  • \({}^{12}\text{C}\) の質量数は \(12\) である。

具体的な解説と立式
表から、原子核 \({}^{12}\text{C}\) の核子\(1\)個あたりの結合エネルギーを読み取ります。その値は \(7.7 \, \text{MeV}\) です。
原子核 \({}^{12}\text{C}\) は、\(12\) 個の核子(陽子\(6\)個、中性子\(6\)個)から構成されています。
したがって、\({}^{12}\text{C}\) 全体の結合エネルギー \(E\) は、
$$ E = (\text{核子1個あたりの結合エネルギー}) \times (\text{質量数}) $$

使用した物理公式

  • 結合エネルギーの定義
計算過程

$$
\begin{aligned}
E &= 7.7 \times 12 \\[2.0ex]
&= 92.4 \, \text{MeV}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えると、\(92 \, \text{MeV}\) となります。

この設問の平易な説明

表に書かれているのは、いわば「従業員一人当たりの給料」のようなものです。知りたいのは「会社全体の総人件費」です。したがって、「一人当たりの給料」に「従業員の人数(核子の数)」を掛ければ、全体の金額が計算できます。

結論と吟味

原子核 \({}^{12}\text{C}\) の結合エネルギーは \(92 \, \text{MeV}\) です。表の値を正しく使い、単純な掛け算で求めることができました。

解答 (1) \(92 \, \text{MeV}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
原子核の結合エネルギーは、その原子核の質量欠損に相当するエネルギーです。したがって、(1)で求めた \({}^{12}\text{C}\) の結合エネルギー \(92.4 \, \text{MeV}\) が、質量欠損に等しいエネルギーと考えることができます。このエネルギーが、電子\(1\)個の静止エネルギー \(0.51 \, \text{MeV}\) の何倍になるかを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 結合エネルギー \( = \) 質量欠損に相当するエネルギー
  • エネルギーの単位が \([\text{MeV}]\) で揃っているので、そのまま割り算で倍率を求めることができる。

具体的な解説と立式
(1)より、\({}^{12}\text{C}\) の質量欠損に相当するエネルギーは \(92.4 \, \text{MeV}\) です。
電子の質量に相当するエネルギー(静止エネルギー)は \(0.51 \, \text{MeV}\) です。
求める倍率は、これらのエネルギーの比で与えられます。
$$ (\text{倍率}) = \frac{{}^{12}\text{C}\text{の質量欠損に相当するエネルギー}}{\text{電子の静止エネルギー}} $$

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性
計算過程

$$
\begin{aligned}
(\text{倍率}) &= \frac{92.4}{0.51} \\[2.0ex]
&\approx 181.1…
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えると、\(1.8 \times 10^2\) 倍となります。

この設問の平易な説明

原子核を作るときにエネルギーに変わってしまった質量(質量欠損)は、電子何個分の重さに相当しますか?という問題です。エネルギーと質量は \(E=mc^2\) の関係で対応しているので、エネルギーの比を計算すれば、それがそのまま質量の比になります。

結論と吟味

\({}^{12}\text{C}\) の質量欠損は電子の質量の約 \(180\) 倍に相当するという、非常に大きな値であることがわかります。これは原子核内部の結合が非常に強いことを示唆しています。

解答 (2) \(1.8 \times 10^2\) 倍

問(3)

思考の道筋とポイント
核反応で放出されるエネルギーは、反応後の全結合エネルギーと反応前の全結合エネルギーの差で与えられます。エネルギーが放出されるのは、反応によって、より結合が強い(=結合エネルギーが大きい)安定な状態に変化したことを意味します。
反応式は \({}_{1}^{2}\text{H} + {}_{1}^{3}\text{H} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{0}^{1}\text{n}\) です。(質量数と原子番号の保存から、中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\) が生成されることがわかります)
この設問における重要なポイント

  • 放出エネルギー \( = \) (反応後の結合エネルギーの総和) \( – \) (反応前の結合エネルギーの総和)
  • 単独の中性子は核子そのものであり、結合していないので結合エネルギーは \(0\) である。

具体的な解説と立式
まず、反応物と生成物、それぞれの原子核全体の結合エネルギーを計算します。

  • 反応物:
    • \({}^{2}\text{H}\) の結合エネルギー: \(1.1 \, \text{MeV/核子} \times 2 \, \text{核子} = 2.2 \, \text{MeV}\)
    • \({}^{3}\text{H}\) の結合エネルギー: \(2.7 \, \text{MeV/核子} \times 3 \, \text{核子} = 8.1 \, \text{MeV}\)
    • 反応前の結合エネルギーの総和: \(2.2 \, \text{MeV} + 8.1 \, \text{MeV} = 10.3 \, \text{MeV}\)
  • 生成物:
    • \({}^{4}\text{He}\) の結合エネルギー: \(7.1 \, \text{MeV/核子} \times 4 \, \text{核子} = 28.4 \, \text{MeV}\)
    • 中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\) の結合エネルギー: \(0 \, \text{MeV}\)
    • 反応後の結合エネルギーの総和: \(28.4 \, \text{MeV} + 0 \, \text{MeV} = 28.4 \, \text{MeV}\)

放出されるエネルギー \(E\) は、これらの差です。
$$ E = (\text{反応後の結合エネルギーの総和}) – (\text{反応前の結合エネルギーの総和}) $$

使用した物理公式

  • 核反応エネルギーと結合エネルギーの関係
計算過程

$$
\begin{aligned}
E &= 28.4 – 10.3 \\[2.0ex]
&= 18.1 \, \text{MeV}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えると、\(18 \, \text{MeV}\) となります。

この設問の平易な説明

原子核の「安定度」は結合エネルギーで測れます。この反応は、不安定な材料(\({}^{2}\text{H}\)と\({}^{3}\text{H}\))から、より安定な製品(\({}^{4}\text{He}\))を作るプロセスです。製品の安定度の総計から材料の安定度の総計を引いた「差額」が、エネルギーとして放出されます。

結論と吟味

核融合反応によって \(18 \, \text{MeV}\) という大きなエネルギーが放出されることがわかりました。これは、軽い原子核が核融合することで、より安定な原子核になるという典型的な例です。

解答 (3) \(18 \, \text{MeV}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)と考え方は同じです。核分裂によって放出されるエネルギーを、分裂前後の結合エネルギーの差から概算します。ただし、今回は具体的な原子核が与えられていないため、グラフから核子\(1\)個あたりの結合エネルギーを読み取って計算します。
この設問における重要なポイント

  • 核分裂の前後で、核子の総数(この場合は \(235\) 個)は保存される。
  • 放出エネルギーは、核子 \(1\) 個あたりの結合エネルギーの増加分に、全核子数を掛けることで計算できる。
  • 分裂前: \({}^{235}\text{U}\) の核子\(1\)個あたりの結合エネルギーをグラフから読み取る。
  • 分裂後: 質量数がほぼ等しい\(2\)つの原子核に分裂するので、質量数 \(A \approx 235/2 \approx 117.5\) 付近の核子\(1\)個あたりの結合エネルギーをグラフから読み取る。

具体的な解説と立式
\(1\). 分裂前の状態:
グラフから、質量数 \(A=235\) 付近の核子\(1\)個あたりの結合エネルギーを読み取ると、およそ \(7.6 \, \text{MeV}\) です。
分裂前の \({}^{235}\text{U}\) の全結合エネルギーは、およそ \(7.6 \, \text{MeV} \times 235\)。

\(2\). 分裂後の状態:
質量数 \(235\) の原子核がほぼ等しい\(2\)つに分裂するので、生成される原子核の質量数は \(A \approx 235/2 \approx 117.5\) となります。グラフから、質量数 \(A=120\) 付近の核子\(1\)個あたりの結合エネルギーを読み取ると、およそ \(8.5 \, \text{MeV}\) です。
分裂後の\(2\)つの原子核の全結合エネルギーは、およそ \(8.5 \, \text{MeV} \times 235\)。(核子の総数は変わらないため)

\(3\). 放出エネルギー:
放出されるエネルギー \(E\) は、分裂後の全結合エネルギーと分裂前の全結合エネルギーの差です。
$$ E \approx (8.5 \, \text{MeV} \times 235) – (7.6 \, \text{MeV} \times 235) $$
$$ E \approx (8.5 – 7.6) \times 235 $$

使用した物理公式

  • 核反応エネルギーと結合エネルギーの関係
計算過程

$$
\begin{aligned}
E &\approx (8.5 – 7.6) \times 235 \\[2.0ex]
&= 0.9 \times 235 \\[2.0ex]
&= 211.5 \, \text{MeV}
\end{aligned}
$$
この値に最も近い選択肢は \(200 \, \text{MeV}\) です。

理由:グラフから、核分裂前のウラン(\(A \approx 235\))における核子\(1\)個あたりの結合エネルギーは約\(7.6 \, \text{MeV}\)、分裂後の生成核(\(A \approx 120\))におけるそれは約\(8.5 \, \text{MeV}\)である。核分裂の前後で核子の総数(\(235\)個)は変わらないため、放出されるエネルギーは核子\(1\)個あたりの結合エネルギーの増加分に総核子数を掛けたものとなり、\((8.5 – 7.6) \times 235 \approx 212 \, \text{MeV}\) と計算できる。したがって、最も近い値は \(200 \, \text{MeV}\) となる。

この設問の平易な説明

重いウラン原子核が\(2\)つに分裂する際にもエネルギーが出ます。これも、分裂後の生成物の方が分裂前のウランよりも「安定的」だからです。グラフを見ると、ウラン(\(A=235\))の核子\(1\)人あたりの安定度(結合エネルギー)は約\(7.6\)点、分裂後の原子核(\(A \approx 120\))の安定度は約\(8.5\)点です。\(1\)人あたり \(8.5 – 7.6 = 0.9\) 点だけ安定度がアップします。この反応には全部で\(235\)人の核子が関わっているので、全体の安定度のアップ分、つまり放出されるエネルギーは \(0.9 \times 235 \approx 212 \, \text{MeV}\) と概算できます。

結論と吟味

計算結果は約 \(212 \, \text{MeV}\) となり、選択肢の中では \(200 \, \text{MeV}\) が最も近い値です。グラフの読み取りによる概算ですが、核分裂で放出されるエネルギーの典型的な大きさとして妥当な値です。

解答 (4) \(200 \, \text{MeV}\)
(理由) グラフから、核分裂前のウラン(\(A \approx 235\))における核子\(1\)個あたりの結合エネルギーは約\(7.6 \, \text{MeV}\)、分裂後の生成核(\(A \approx 120\))におけるそれは約\(8.5 \, \text{MeV}\)である。核分裂の前後で核子の総数(\(235\)個)は変わらないため、放出されるエネルギーは核子\(1\)個あたりの結合エネルギーの増加分に総核子数を掛けたものとなり、\((8.5 – 7.6) \times 235 \approx 212 \, \text{MeV}\) と計算できる。したがって、最も近い値は \(200 \, \text{MeV}\) となる。

問(5)

思考の道筋とポイント
グラフ全体の形が持つ物理的な意味を説明する問題です。自然界の現象は、よりエネルギー的に安定な状態へ移行する方向に進みます。原子核の世界では、「核子\(1\)個あたりの結合エネルギーが大きい」状態がより安定な状態です。グラフのどこが最も安定で、軽い原子核や重い原子核がどのようにしてその安定な領域に近づけるのかを述べます。
この設問における重要なポイント

  • グラフの山の頂上付近(質量数 \(A \approx 60\))が最も安定な領域である。
  • 軽い原子核(山の左側)は、核融合によって質量数を増やし、山を登ることで安定化する。
  • 重い原子核(山の右側)は、核分裂によって質量数を減らし、山を登ることで安定化する。

具体的な解説と立式
この設問は記述問題であり、数式は不要です。
グラフを見ると、核子\(1\)個あたりの結合エネルギーは、質量数 \(A\) が \(60\) 付近で最大値をとる。これは、この付近の原子核が最も安定であることを意味する。

  • 質量数の小さい軽い原子核(グラフの左側の裾野)は、核融合を起こして合体し、より質量数の大きい原子核になることで、グラフの山を登るように、核子\(1\)個あたりの結合エネルギーが大きい、より安定な状態に変化することができる。その際に、結合エネルギーの差が外部にエネルギーとして放出される。
  • 質量数の大きい重い原子核(グラフの右側の裾野)は、核分裂を起こして、より質量数の小さい中程度の原子核になることで、こちらもグラフの山を登るように、核子\(1\)個あたりの結合エネルギーが大きい、より安定な状態に変化することができる。その際にも、結合エネルギーの差がエネルギーとして放出される。
この設問の平易な説明

このグラフは「原子核の安定度ランキング」のようなものです。真ん中あたりの質量数\(60\)付近が最も安定な「チャンピオン地帯」です。
軽い原子核たちは、お互いに合体(核融合)してチャンピオンに近づこうとします。
一方、重すぎる原子核たちは、分裂(核分裂)して身軽になることでチャンピオンに近づこうとします。
どちらのプロセスも、より安定な状態に向かう変化なので、その過程で余ったエネルギーが放出されるのです。

結論と吟味

軽い原子核は核融合、重い原子核は核分裂によって、より核子\(1\)個あたりの結合エネルギーが大きい安定な原子核に変化する。この説明は、グラフの形状から導かれる物理的に正しい結論です。

解答 (5) 軽い原子核では核融合することにより、また、重い原子核では核分裂することにより、核子\(1\)個あたりの結合エネルギーの大きい、より安定な原子核に変化するため。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 核子\(1\)個あたりの結合エネルギーと原子核の安定性:
    • 核心: この問題の根幹は、原子核の安定性を評価するための指標として「核子\(1\)個あたりの結合エネルギー」を理解し、利用することです。この値が大きいほど、核子はより強く束縛されており、原子核はより安定な状態にあることを意味します。
    • 理解のポイント:
      • グラフの物理的意味: グラフが質量数 \(A \approx 60\) の鉄(\(\text{Fe}\))付近でピーク(最大値)を持つことは、この付近の原子核が最も安定であることを示しています。
      • 安定化への道筋: 自然界のあらゆる現象は、より安定な状態へ向かおうとします。原子核も同様で、グラフのピークよりも左側にある軽い原子核は「核融合」で、右側にある重い原子核は「核分裂」で、より安定なピーク付近の原子核に変化しようとします。
  • 核反応におけるエネルギー保存:
    • 核心: 核反応でエネルギーが放出されるのは、反応によって系全体がより安定な状態(全結合エネルギーが大きい状態)になるためです。放出されるエネルギーの大きさは、反応前後の全結合エネルギーの差に等しくなります。
    • 理解のポイント:
      • 放出エネルギーの計算式: \((\text{放出エネルギー}) = (\text{反応後の全結合エネルギーの和}) – (\text{反応前の全結合エネルギーの和})\) という関係を正しく適用できることが重要です。これは、質量欠損の考え方(放出エネルギー \( = (\text{反応前後の質量差})c^2\))と本質的に同じことを別の視点から見ているだけです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 具体的な核分裂・核融合反応: 問題で与えられた反応以外にも、太陽内部で起きている陽子-陽子連鎖反応(\(4\)つの\({}^{1}\text{H}\)から\({}^{4}\text{He}\)が生成)や、核融合炉で研究されているD-D反応(\({}^{2}\text{H}\)同士の反応)など、様々な核反応のエネルギー計算に応用できます。
    • 原子核の安定性比較: いくつかの原子核が提示され、どれが最も安定かを問う問題。核子\(1\)個あたりの結合エネルギーを計算(またはグラフから読み取り)、その値が最も大きいものが最も安定であると判断します。
    • 質量データが与えられた場合: 本問では結合エネルギーのデータが与えられましたが、代わりに各原子核の精密な質量\([\text{u}]\)が与えられる場合もあります。その場合は、反応前後の質量の総和を計算し、その差 \(\Delta m\) を求めてから \(E = (\Delta m)c^2\) で放出エネルギーを計算します。どちらのデータが与えられても対応できるようにしておくことが重要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 与えられたデータ形式の確認: 問題で与えられているのが「核子\(1\)個あたりの結合エネルギー\([\text{MeV}]\)\(」\)か、「原子核の質量\([\text{u}]\)\(」\)かを最初に確認します。これにより、計算のアプローチが決まります。
    2. グラフの全体像の把握: グラフが出てきたら、まず縦軸と横軸の物理量と単位を確認します。次に、グラフのピーク(最も安定な領域)はどこか、グラフの左側(軽い核)と右側(重い核)がどのような反応(核融合/核分裂)でピークに近づくかを大まかに把握します。
    3. 核子数(質量数)の保存: いかなる核反応でも、反応の前後で核子の総数は変わりません。この「核子数保存則」は、計算の前提として常に頭に置いておくべき基本原則です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 「結合エネルギー」と「核子\(1\)個あたりの結合エネルギー」の混同:
    • 誤解: (1)で表の \(7.7 \, \text{MeV}\) をそのまま答えとしてしまう。また、(3)の計算で、核子\(1\)個あたりの結合エネルギーをそのまま足し引きしてしまう。
    • 対策: 単位を常に確認する癖をつけましょう。表やグラフの単位は「\([\text{MeV/核子}]\)\(」\)(核子\(1\)個あたり)です。原子核全体の結合エネルギー\([\text{MeV}]\)を求めるには、必ず質量数(核子数)を掛ける必要があります。
  • 放出エネルギーの計算での引き算の順序ミス:
    • 誤解: (3)や(4)で、無意識に「反応前」から「反応後」の結合エネルギーを引いてしまい、答えの符号が負になって混乱する。
    • 対策: 「エネルギーが放出される \(\Leftrightarrow\) より安定になる \(\Leftrightarrow\) 結合エネルギーが増加する」という物理的な意味を理解することが根本的な対策です。したがって、放出エネルギーは必ず「(安定な状態のエネルギー)\(-\)(不安定な状態のエネルギー)」、つまり「(反応後の結合エネルギーの和)\(-\)(反応前の結合エネルギーの和)」で計算すると覚えましょう。
  • 単一の核子の結合エネルギー:
    • 誤解: (3)で生成される中性子に、何らかの結合エネルギーがあると考えてしまう。
    • 対策: 「結合」エネルギーは、複数の粒子がくっついて原子核を形成するときに生じるものです。陽子や中性子が\(1\)個だけで存在している場合、それは「結合」していないので、結合エネルギーは \(0\) です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 放出エネルギー = 結合エネルギーの差:
    • 選定理由: (3)や(4)では、反応に関わる原子核の質量が直接与えられていません。代わりに、原子核の安定性を示す「結合エネルギー」に関するデータ(表やグラフ)が与えられています。したがって、質量差からエネルギーを計算する \(E=(\Delta m)c^2\) のアプローチではなく、安定性の度合いの変化、すなわち結合エネルギーの差から放出エネルギーを計算するアプローチを選択するのが最も合理的です。
    • 適用根拠: この計算方法は、エネルギー保存則に基づいています。原子核の静止エネルギーは「もしバラバラだったら持つはずの全核子の静止エネルギーの和」から「結合エネルギー」を引いたものと考えることができます。この考え方を用いると、反応前後のエネルギー保存の式から、最終的に「放出エネルギー \(=\) 結合エネルギーの増加分」という関係が導かれます。これは、より安定な状態になるために余分になったエネルギーが放出される、という直感的なイメージとも一致します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 情報を表に整理する: (3)のような計算では、間違いを防ぐために、以下のように情報を整理する癖をつけると非常に有効です。
    \({}^{2}\text{H}\)\({}^{3}\text{H}\)\(\rightarrow\)\({}^{4}\text{He}\)\({}^{1}\text{n}\)
    核子数\(2\)\(3\)\(4\)\(1\)
    BE/核子 \([\text{MeV}]\)\(1.1\)\(2.7\)\(7.1\)\(0\)
    全BE \([\text{MeV}]\)\(2.2\)\(8.1\)\(28.4\)\(0\)

    このように表にすれば、あとは反応前後の「全BE」の和を計算して差をとるだけなので、ミスが劇的に減ります。

  • 概算力を鍛える: (4)のようなグラフ読み取り問題では、精密な計算よりも「おおよその桁感」を掴むことが重要です。\( (8.5 – 7.6) \times 235 = 0.9 \times 235 \) を計算する際も、\(0.9 \approx 1\), \(235 \approx 200\) と考えれば、答えは \(200 \, \text{MeV}\) に近いだろうと瞬時に予測できます。この概算能力は、検算や選択肢問題で絶大な効果を発揮します。
  • 物理的意味から説明を組み立てる: (5)のような記述問題では、単に「グラフがこうなっているから」と答えるのではなく、そのグラフが示す物理的な意味(安定性)と結びつけて説明することが求められます。「核子\(1\)個あたりの結合エネルギーが大きいほど安定」というキーワードを軸に、「軽い原子核も重い原子核も、核反応によってこの値が大きい領域(グラフのピーク)に近づこうとする」という論理を展開しましょう。
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基本問題

501 水素原子のエネルギー準位

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ボーアの水素原子模型とエネルギー準位」です。古典的な力学と、ド・ブロイ波の考え方に基づく量子条件を組み合わせることで、原子内の電子が持つエネルギーがとびとびの値になることを導出する、原子物理の根幹をなす問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 量子条件(定常波の条件): 電子の物質波が軌道上で安定に存在するための条件 (\(2\pi a = n\lambda\)) を理解していること。
  2. 円運動の運動方程式: 電子に働く静電気力を向心力として、円運動の運動方程式を立てられること。
  3. 静電気力による位置エネルギー: 点電荷が作る電位と、そこにある電荷から位置エネルギーを正しく計算できること(特に符号の扱いに注意)。
  4. 振動数条件とリュードベリの公式: エネルギー準位間の遷移で放出・吸収される光子のエネルギーと振動数(波長)の関係 (\(E_n – E_{n’} = h\nu\)) と、それによって導かれるスペクトル線の波長の公式を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)~(ウ)では、問題文の誘導に従い、量子条件と円運動の運動方程式を立式します。
  2. (エ)~(キ)では、立式した関係式を連立させ、変数(速さ\(v\)や半径\(a\))を消去することで、軌道半径\(a\)とエネルギー準位\(E_n\)を量子数\(n\)などの基本定数で表します。
  3. (1), (2)では、導出したエネルギー準位の公式やリュードベリの公式を用いて、具体的な光のエネルギーや、遷移に関わる量子数を計算します。

問(ア)~(キ)

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