基礎CHECK
1 水素原子のエネルギー準位
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ボーアの原子模型におけるエネルギー準位と光子の放出」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- エネルギー準位の量子化: 原子内の電子は、とびとびの特定のエネルギー値(エネルギー準位)しかとることができない。
- 量子数 \(n\): エネルギー準位を指定する整数 (\(n=1, 2, 3, \dots\))。主量子数とも呼ばれる。
- 基底状態と励起状態: 電子が最もエネルギーの低い安定な状態(\(n=1\))を基底状態、それよりもエネルギーが高い状態(\(n \ge 2\))を励起状態という。
- ボーアの振動数条件: 電子がエネルギー準位間を遷移するとき、そのエネルギー差に等しいエネルギーを持つ光子を放出または吸収する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、基底状態が量子数 \(n=1\) に対応することを理解し、与えられた公式に代入する。
- 問(2)では、まず \(n=2\) の励起状態のエネルギーを計算し、次に \(n=1\) の状態とのエネルギー差を計算して放出される光子のエネルギーを求める。
問(1)
思考の道筋とポイント
ボーアの原子模型によれば、原子内の電子は、原子核の周りの特定の「軌道」にしか存在できず、それぞれの軌道が固有のエネルギー値(エネルギー準位)を持っています。このエネルギー準位は、主量子数 \(n\) という整数でラベリングされます。
「基底状態」とは、電子が最も内側の軌道(\(n=1\))に存在し、原子全体としてエネルギーが最も低く安定している状態を指します。したがって、この問題では、与えられたエネルギー準位の公式に \(n=1\) を代入するだけで、基底状態のエネルギーを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー準位の公式: \(E_n = -\displaystyle\frac{13.6}{n^2} \, \text{eV}\)。
- 基底状態 (Ground State): 量子数 \(n=1\) の状態。原子が最も安定な状態です。
- エネルギーが負の値である理由: これは、電子が原子核に束縛されていることを示しています。無限遠(\(n=\infty\))で電子が原子核の束縛から完全に解放された状態のエネルギーを基準(\(0 \, \text{eV}\))と定義しているため、束縛されている状態のエネルギーはそれよりも低く、負の値で表されます。
具体的な解説と立式
水素原子の基底状態とは、量子数 \(n\) が \(1\) の状態のことです。
与えられたエネルギー準位の公式
$$ E_n = -\frac{13.6}{n^2} \, [\text{eV}] $$
に、\(n=1\) を代入して基底状態のエネルギー \(E_1\) を求めます。
使用した物理公式
- 水素原子のエネルギー準位: \(E_n = -\displaystyle\frac{13.6}{n^2} \, \text{eV}\)
「具体的な解説と立式」で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
E_1 &= -\frac{13.6}{1^2} \\[2.0ex]&= -13.6 \, [\text{eV}]\end{aligned}
$$
原子の中の電子は、決まった高さの「エネルギーの階段」しか上がったり下りたりできない、とイメージしてください。
「基底状態」とは、電子がその階段の一番下の段(\(n=1\))にいる、最も落ち着いた状態のことです。
問題で与えられた公式は、この階段の各段のエネルギー(高さ)を計算するためのものです。したがって、\(n=1\) を公式に入れるだけで、一番下の段のエネルギーが計算できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
「励起状態」とは、電子が外部からエネルギーを吸収して、基底状態(\(n=1\))よりも高いエネルギー準位(\(n=2, 3, \dots\))にジャンプした、エネルギーの高い不安定な状態のことです。まず、\(n=2\) の励起状態のエネルギーを、問(1)と同様に公式から計算します。
次に、電子が高いエネルギー準位(\(E_2\))から低いエネルギー準位(\(E_1\))に落ちるとき、そのエネルギー差 \(\Delta E = E_2 – E_1\) に相当するエネルギーを持つ光子を放出します。この原理は「ボーアの振動数条件」として知られており、これを用いて放出される光子のエネルギーを計算します。
この設問における重要なポイント
- 励起状態 (Excited State): 量子数 \(n \ge 2\) の状態。基底状態よりもエネルギーが高く、不安定な状態です。
- ボーアの振動数条件: \(E_{\text{光子}} = h\nu = E_{\text{高}} – E_{\text{低}}\)。放出(または吸収)される光子のエネルギーは、遷移する前後のエネルギー準位の差に等しくなります。
- エネルギー差の計算: エネルギー準位は負の値なので、差を計算する際には符号に注意が必要です。\(E_2 – E_1 = (-3.40) – (-13.6)\) のように、大きい方のエネルギー(より0に近い負の値)から小さい方のエネルギー(より負に大きい値)を引くことで、正の値である光子のエネルギーが求まります。
具体的な解説と立式
まず、\(n=2\) の励起状態のエネルギー \(E_2\) を、与えられた公式を用いて求めます。
$$ E_2 = -\frac{13.6}{2^2} \quad \cdots ① $$
次に、電子が \(n=2\) の状態から \(n=1\) の状態へ遷移するときに放出される光子のエネルギー \(E_{\text{光子}}\) は、ボーアの振動数条件より、2つの準位のエネルギー差に等しくなります。
$$ E_{\text{光子}} = E_2 – E_1 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 水素原子のエネルギー準位: \(E_n = -\displaystyle\frac{13.6}{n^2} \, \text{eV}\)
- ボーアの振動数条件: \(E_{\text{光子}} = E_{\text{高}} – E_{\text{低}}\)
まず、式①を用いて \(n=2\) のエネルギー準位 \(E_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E_2 &= -\frac{13.6}{2^2} \\[2.0ex]&= -\frac{13.6}{4} \\[2.0ex]&= -3.40 \, [\text{eV}]\end{aligned}
$$
次に、式②を用いて放出される光子のエネルギーを計算します。問(1)で求めた \(E_1 = -13.6 \, \text{eV}\) を使います。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{光子}} &= E_2 – E_1 \\[2.0ex]&= (-3.40) – (-13.6) \\[2.0ex]&= -3.40 + 13.6 \\[2.0ex]&= 10.2 \, [\text{eV}]\end{aligned}
$$
「励起状態」とは、電子がエネルギーをもらって、階段の高い段(\(n=2\))にいる状態のことです。この2段目のエネルギーも、公式に \(n=2\) を入れて計算できます。
電子は高いところにいると不安定なので、すぐに下の段(\(n=1\))に落ちようとします。このとき、階段を落ちた分の「高さの差」に相当するエネルギーを、光(光子)として体の外に放出します。
したがって、放出される光のエネルギーは、2段目のエネルギーと1段目のエネルギーの差(引き算)で求めることができます。
2 原子核
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「原子核の構造と放射性崩壊」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 原子核の構成: 原子核は陽子と中性子から構成される。
- 原子番号(\(Z\))と質量数(\(A\)): 原子番号は陽子の数、質量数は陽子と中性子の数の合計を表す。
- \(\alpha\)崩壊: 原子核が\(\alpha\)粒子(ヘリウムの原子核)を放出して、別の原子核に変わる現象。
- \(\beta\)崩壊: 原子核内の中性子が陽子と電子に変わり、電子を外部に放出する現象。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問①では、原子番号と質量数の定義から、陽子と中性子の数を求める。
- 問②では、\(\alpha\)崩壊によって原子番号と質量数がどのように変化するかのルールを適用する。
- 問③では、\(\beta\)崩壊によって原子番号と質量数がどのように変化するかのルールを適用する。
問①
思考の道筋とポイント
原子核の表記 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) は、原子核の構成を理解するための基本です。左下の数字 \(Z\) は原子番号で、陽子の数を表します。左上の数字 \(A\) は質量数で、陽子の数と中性子の数の和を表します。したがって、陽子の数は原子番号 \(Z\) を見ればすぐに分かり、中性子の数は質量数 \(A\) から陽子の数 \(Z\) を引き算することで求められます。
この設問における重要なポイント
- 原子の表記: \({}_{Z}^{A}\text{X}\)
- \(X\): 元素記号
- \(Z\): 原子番号 = 陽子の数
- \(A\): 質量数 = (陽子の数) + (中性子の数)
- 中性子の数の計算: 中性子の数 \(N\) は、\(N = A – Z\) で計算できます。
具体的な解説と立式
問題で与えられた原子核は \({}_{82}^{210}\text{Pb}\) です。この表記から、原子番号 \(Z\) と質量数 \(A\) を読み取ります。
- 原子番号: \(Z=82\)
- 質量数: \(A=210\)
陽子の数は原子番号 \(Z\) に等しいです。中性子の数 \(N\) は、質量数 \(A\) から原子番号 \(Z\) を引くことで求められます。
$$ \text{陽子数} = Z $$
$$ \text{中性子数} = A – Z $$
使用した物理公式
- 陽子数 = 原子番号 \(Z\)
- 中性子数 = 質量数 \(A\) – 原子番号 \(Z\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に、値を代入して計算します。
$$ \text{陽子数} = 82 \, \text{個} $$
$$ \text{中性子数} = 210 – 82 = 128 \, \text{個} $$
原子核の表記 \({}_{82}^{210}\text{Pb}\) は、原子核の「自己紹介カード」のようなものです。
- 左下の「\(82\)」は「陽子の数」で、これが元素の種類(この場合は鉛 Pb)を決めます。
- 左上の「\(210\)」は「陽子と中性子の合計数」です。
したがって、陽子の数はカードを見ればすぐに「\(82\)個」と分かります。中性子の数は、合計数から陽子の数を引けばいいので、「\(210 – 82 = 128\)個」となります。
問②
思考の道筋とポイント
\(\alpha\)崩壊とは、原子核が\(\alpha\)粒子を放出する現象です。\(\alpha\)粒子は、陽子2個と中性子2個からなるヘリウムの原子核 (\({}_{2}^{4}\text{He}\)) です。したがって、\(\alpha\)崩壊が起こると、元の原子核は陽子を2個、中性子を2個失います。これにより、原子番号 \(Z\) は2減少し、質量数 \(A\)(陽子と中性子の合計数)は4減少します。このルールを元の原子核に適用すれば、崩壊後の原子番号と質量数が分かります。
この設問における重要なポイント
- \(\alpha\)崩壊: \(\alpha\)粒子 (\({}_{2}^{4}\text{He}\)) を放出する。
- 原子番号と質量数の変化:
- 原子番号: \(Z \rightarrow Z – 2\)
- 質量数: \(A \rightarrow A – 4\)
- 反応式: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z-2}^{A-4}\text{Y} + {}_{2}^{4}\text{He}\)
具体的な解説と立式
元の原子核 \({}_{82}^{210}\text{Pb}\) が\(\alpha\)崩壊すると、原子番号 \(Z\) は2減り、質量数 \(A\) は4減ります。
崩壊後の原子番号を \(Z’\)、質量数を \(A’\) とすると、
$$ Z’ = Z – 2 $$
$$ A’ = A – 4 $$
となります。元の原子核は \(Z=82\), \(A=210\) なので、これらの値を代入します。
使用した物理公式
- \(\alpha\)崩壊の法則: \(Z \rightarrow Z-2\), \(A \rightarrow A-4\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に、値を代入して計算します。
$$ Z’ = 82 – 2 = 80 $$
$$ A’ = 210 – 4 = 206 $$
したがって、崩壊後の原子番号は \(80\)、質量数は \(206\) となります。
\(\alpha\)崩壊は、原子核の中から「陽子2個と中性子2個のかたまり」が飛び出してくる現象です。
元の原子核を、陽子と中性子という人がいる部屋だと考えてみましょう。\(\alpha\)崩壊は、この部屋から陽子2人と中性子2人が出ていくことに相当します。
その結果、部屋の中にいる陽子の数は2人減り、陽子と中性子の合計人数は4人減ることになります。
問③
思考の道筋とポイント
\(\beta\)崩壊とは、原子核の中にある中性子1個が、陽子1個と電子1個 (\({}_{-1}^{0}\text{e}\)) に変化する現象です。このとき、新しくできた陽子は原子核内にとどまり、電子はものすごい速さで原子核の外へ放出されます。
結果として、原子核内の陽子の数は1個増え、中性子の数は1個減ります。陽子と中性子の合計数である質量数は、(1増えて1減るので)変化しません。このルールを元の原子核に適用します。
この設問における重要なポイント
- \(\beta\)崩壊: 原子核内の中性子が陽子と電子に変化し、電子 (\({}_{-1}^{0}\text{e}\)) を放出する。(\(n \rightarrow p + e^-\))
- 原子番号と質量数の変化:
- 原子番号: \(Z \rightarrow Z + 1\) (陽子が1個増えるため)
- 質量数: \(A \rightarrow A\) (陽子と中性子の合計数は変わらないため)
- 反応式: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z+1}^{A}\text{Y} + {}_{-1}^{0}\text{e}\)
具体的な解説と立式
元の原子核 \({}_{82}^{210}\text{Pb}\) が\(\beta\)崩壊すると、原子番号 \(Z\) は1増え、質量数 \(A\) は変化しません。
崩壊後の原子番号を \(Z’\)、質量数を \(A’\) とすると、
$$ Z’ = Z + 1 $$
$$ A’ = A $$
となります。元の原子核は \(Z=82\), \(A=210\) なので、これらの値を代入します。
使用した物理公式
- \(\beta\)崩壊の法則: \(Z \rightarrow Z+1\), \(A \rightarrow A\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に、値を代入して計算します。
$$ Z’ = 82 + 1 = 83 $$
$$ A’ = 210 $$
したがって、崩壊後の原子番号は \(83\)、質量数は \(210\) となります。
\(\beta\)崩壊は、原子核の中の「中性子」の1人が、突然「陽子」に変身する現象です。この変身の際に、オマケとして電子が1個飛び出してきます。
先ほどの部屋の例えで言うと、部屋の中にいた中性子(人B)の1人が、陽子(人A)に変わってしまった、ということです。
その結果、部屋の中にいる陽子の数は1人増えますが、中性子が1人減ったので、陽子と中性子の合計人数は変わりません。
3 放射線
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射線の種類と性質」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 放射線の正体: \(\alpha\)線、\(\beta\)線、\(\gamma\)線がそれぞれどのような粒子や波であるかの理解。
- 透過力: 放射線が物質を通り抜ける能力。
- 電離作用: 放射線が物質を通過する際に、その原子から電子を弾き飛ばしてイオンに変える(電離させる)能力。
- 透過力と電離作用の関係: 一般に、電離作用が強い放射線ほど、物質との相互作用が激しいためエネルギーを失いやすく、透過力は弱くなる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、\(\alpha\)線、\(\beta\)線、\(\gamma\)線の正体をそれぞれ明確にする。
- 次に、それぞれの放射線の性質(質量、電荷、エネルギーなど)を基に、透過力と電離作用の大小関係を比較する。
- 問①、②で問われている「最も大きいもの」をそれぞれ選び出す。
放射線の実体について
思考の道筋とポイント
放射線は、不安定な原子核が崩壊してより安定な状態になろうとするときに放出される粒子や電磁波の総称です。主なものに\(\alpha\)線、\(\beta\)線、\(\gamma\)線があります。これらの正体を正確に覚えることが、放射線の性質を理解する第一歩です。
この設問における重要なポイント
- \(\alpha\)線(アルファ線): 正体は「ヘリウム原子核 (\({}_{2}^{4}\text{He}\))」。陽子2個と中性子2個からなる粒子で、電荷は \(+2e\)。質量が大きく、放射線の中では「重戦車」のような存在。
- \(\beta\)線(ベータ線): 正体は「高速の電子 (\({}_{-1}^{0}\text{e}\))」。電荷は \(-e\)。\(\alpha\)線よりはるかに軽いが、電荷を持つ粒子。
- \(\gamma\)線(ガンマ線): 正体は「波長の短い(エネルギーの高い)電磁波」。X線よりもさらに波長が短い。光子であり、電荷も質量も持たない。
具体的な解説と立式
この問題は知識を問うものであり、立式はありません。各放射線の実体は以下の通りです。
- \(\alpha\)線: ヘリウム原子核 (\({}_{2}^{4}\text{He}\))
- \(\beta\)線: 電子 (\(e^-\))
- \(\gamma\)線: 電磁波
使用した物理公式
この設問には計算式はありません。
この設問には計算過程はありません。
放射線には色々な種類がありますが、代表的な3兄弟がいます。
- 長男の「\(\alpha\)線」くんは、ヘリウムの原子核でできていて、とても体が大きく重い(陽子2つ、中性子2つ)。プラスの電気を持っています。
- 次男の「\(\beta\)線」くんは、電子でできていて、身軽で素早い。マイナスの電気を持っています。
- 三男の「\(\gamma\)線」くんは、体(質量)も電気も持たない、光の仲間(電磁波)です。目に見えない光線のようなものです。
問① 透過力
思考の道筋とポイント
透過力は、放射線が物質中をどれだけ深く進めるかという能力です。これは、放射線が物質中の原子とどれだけ相互作用しにくいか、で決まります。
\(\alpha\)線は電荷が大きく質量も重いため、物質中の原子と激しく相互作用し、すぐにエネルギーを失って止まってしまいます。紙一枚で止まるほどです。
\(\beta\)線は\(\alpha\)線より電荷が小さく質量も軽いので、相互作用は比較的弱く、数ミリメートルのアルミニウム板程度は透過できます。
\(\gamma\)線は電荷を持たないため、物質と相互作用しにくく、非常に高い透過力を持ちます。止めるには分厚い鉛やコンクリートが必要です。
この大小関係から、最も透過力が大きいものを判断します。
この設問における重要なポイント
- 透過力の順序: \(\gamma\)線 > \(\beta\)線 > \(\alpha\)線
- 相互作用のしやすさ: 物質との相互作用のしやすさは、透過力と逆の関係にあります。(\(\alpha\)線 > \(\beta\)線 > \(\gamma\)線)
- 遮蔽: \(\alpha\)線は紙、\(\beta\)線は薄い金属板、\(\gamma\)線は厚い鉛などで遮蔽します。
具体的な解説と立式
この問題は知識を問うものであり、立式はありません。透過力の大小関係は以下の通りです。
$$ \text{透過力}: \gamma\text{線} > \beta\text{線} > \alpha\text{線} $$
したがって、最も透過力が大きいのは\(\gamma\)線です。
使用した物理公式
この設問には計算式はありません。
この設問には計算過程はありません。
放射線が物を通り抜ける力を「透過力」といいます。
- \(\alpha\)線くんは体が大きいので、すぐに何かにぶつかってしまい、紙一枚すら通り抜けられません。透過力は最も弱いです。
- \(\beta\)線くんは身軽なので、薄いアルミホイルくらいなら通り抜けられます。透過力は中間です。
- \(\gamma\)線くんは体がない光線なので、スルスルと物を通り抜けていきます。分厚い鉛の壁でないと止められません。透過力は最も強いです。
問② 電離作用
思考の道筋とポイント
電離作用は、放射線が物質中の原子から電子を弾き飛ばす能力です。これは、放射線が物質中の原子とどれだけ強く相互作用するか、で決まります。
\(\alpha\)線は電荷が\(+2e\)と大きく、質量も重いため、物質中の原子に大きな電磁気的な影響を与え、非常に効率よく電子を弾き飛ばします。電離作用は極めて強いです。
\(\beta\)線は電荷が\(-e\)で\(\alpha\)線より小さいため、電離作用は\(\alpha\)線より弱くなります。
\(\gamma\)線は電荷を持たず、物質との相互作用が弱いため、電離作用も最も弱くなります。
この大小関係から、最も電離作用が大きいものを判断します。
この設問における重要なポイント
- 電離作用の順序: \(\alpha\)線 > \(\beta\)線 > \(\gamma\)線
- 透過力との関係: 電離作用と透過力は、おおむね逆の関係にあります。電離作用が強いということは、物質にエネルギーをたくさん与えるということなので、自分自身はすぐにエネルギーを失い、遠くまで進めない(透過力が弱い)のです。
具体的な解説と立式
この問題は知識を問うものであり、立式はありません。電離作用の大小関係は以下の通りです。
$$ \text{電離作用}: \alpha\text{線} > \beta\text{線} > \gamma\text{線} $$
したがって、最も電離作用が大きいのは\(\alpha\)線です。
使用した物理公式
この設問には計算式はありません。
この設問には計算過程はありません。
放射線が原子にぶつかって、原子が持っている電子を弾き飛ばす力を「電離作用」といいます。
- \(\alpha\)線くんは体が大きくて電気も強いので、すれ違うだけで周りの原子から電子をたくさん弾き飛ばします。電離作用は最も強いです。
- \(\beta\)線くんは\(\alpha\)線くんよりは小柄なので、電子を弾き飛ばす力も少し弱まります。電離作用は中間です。
- \(\gamma\)線くんは電気を持っていないので、なかなか電子を弾き飛ばすことができません。電離作用は最も弱いです。
4 半減期
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「半減期の基本的な計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 放射性崩壊: 不安定な原子核が、放射線を放出して別の原子核に変わる現象。
- 半減期: 放射性物質の原子核の数が、崩壊によって元の数の半分になるまでにかかる時間。
- 崩壊の公式: 経過時間と半減期から、残存する放射性物質の割合を計算する式。
- 指数法則: 同じ数を繰り返し掛ける計算。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 経過時間が、半減期の何倍にあたるかを計算する。
- 半減期が経過するごとに原子核の数が \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になることを利用して、残っている量を計算する。
思考の道筋とポイント
放射性物質は、時間とともに崩壊して数が減っていきます。「半減期」とは、その数がちょうど半分になるまでにかかる時間のことです。この問題では、半減期が1時間なので、1時間経つごとに放射性物質の量は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になります。
3時間後には、この「半分になる」というプロセスが3回繰り返されることになります。したがって、元の量の \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right) \times \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right) \times \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)\) 倍になる、と直感的に考えることができます。この考え方を数式で整理するのが、崩壊の公式です。
この設問における重要なポイント
- 半減期の定義: 半減期を \(T\) とすると、\(T\) 時間後には原子核の数は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になる。\(2T\) 時間後には \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^2 = \displaystyle\frac{1}{4}\) に、\(3T\) 時間後には \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^3 = \displaystyle\frac{1}{8}\) になる。
- 放射性崩壊の公式: 初めの原子核の数を \(N_0\)、半減期を \(T\)、時間 \(t\) が経過した後の原子核の数を \(N\) とすると、次の関係が成り立つ。
$$ N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}} $$ - 指数の意味: 公式の指数部分 \(\displaystyle\frac{t}{T}\) は、「経過時間 \(t\) の間に、半減期 \(T\) が何回あったか」を表しています。
具体的な解説と立式
現在の放射性物質の原子核の数を \(N_0\)、\(t\) 時間後の原子核の数を \(N\) とします。半減期を \(T\) とすると、これらの間には以下の関係式が成り立ちます。
$$ N = N_0 \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}} $$
この問題では、\(3\) 時間後に現在の量の何倍になるかを問われているので、求める量は \(\displaystyle\frac{N}{N_0}\) です。上の式を変形すると、
$$ \frac{N}{N_0} = \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}} $$
となります。問題文より、半減期は \(T=1 \, \text{時間}\)、経過時間は \(t=3 \, \text{時間}\) なので、これらの値を代入します。
使用した物理公式
- 放射性崩壊の公式: \(N = N_0 \left( \displaystyle\frac{1}{2} \right)^{\frac{t}{T}}\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に、与えられた値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{N}{N_0} &= \left( \frac{1}{2} \right)^{\frac{3}{1}} \\[2.0ex]&= \left( \frac{1}{2} \right)^3 \\[2.0ex]&= \frac{1^3}{2^3} \\[2.0ex]&= \frac{1}{8}
\end{aligned}
$$
したがって、3時間後には現在の量の \(\displaystyle\frac{1}{8}\) 倍になります。
「半減期が1時間」というのは、1時間ごとに量が半分になっていく、という意味です。
これを、ピザで例えてみましょう。
- スタート時:ピザが1枚まるごとあります。(\(1\))
- 1時間後:半分食べたので、残りは \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 枚です。
- 2時間後:さらに残りの半分を食べたので、残りは \(\displaystyle\frac{1}{2} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{4}\) 枚です。
- 3時間後:さらにさらに残りの半分を食べたので、残りは \(\displaystyle\frac{1}{4} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{8}\) 枚です。
このように、3時間後には、放射性物質は元の量の \(\displaystyle\frac{1}{8}\) になります。
思考の道筋とポイント
崩壊の公式を直接使わなくても、半減期の定義「一定時間経つと半分になる」を段階的に適用することで答えを導き出せます。この問題のように経過時間が半減期の簡単な整数倍である場合は、この方法が直感的で分かりやすいです。
この設問における重要なポイント
- 半減期が1回経過するごとに、量は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になる、という基本原則を繰り返し使います。
具体的な解説と立式
現在の放射性物質の量を \(N_0\) とします。
- 1時間後(半減期1回経過)の量 \(N_1\) は、
$$ N_1 = N_0 \times \frac{1}{2} $$ - 2時間後(半減期2回経過)の量 \(N_2\) は、\(N_1\) のさらに半分なので、
$$
\begin{aligned}
N_2 &= N_1 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= \left( N_0 \times \frac{1}{2} \right) \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= N_0 \times \left( \frac{1}{2} \right)^2
\end{aligned}
$$ - 3時間後(半減期3回経過)の量 \(N_3\) は、\(N_2\) のさらに半分なので、
$$
\begin{aligned}
N_3 &= N_2 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= \left( N_0 \times \left( \frac{1}{2} \right)^2 \right) \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= N_0 \times \left( \frac{1}{2} \right)^3
\end{aligned}
$$
求めるのは、3時間後の量が現在の量の何倍か、つまり \(\displaystyle\frac{N_3}{N_0}\) です。
使用した物理公式
- 半減期の定義そのもの
$$
\begin{aligned}
\frac{N_3}{N_0} &= \left( \frac{1}{2} \right)^3 \\[2.0ex]&= \frac{1}{8}
\end{aligned}
$$
よって、\(\displaystyle\frac{1}{8}\) 倍になります。
公式を使わなくても、1時間ごとに量を半分にしていく、という計算を3回繰り返すだけで答えが出ます。
- 1回目(1時間後): \(\displaystyle\frac{1}{2}\) になる
- 2回目(2時間後): さらに半分で \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になる
- 3回目(3時間後): さらに半分で \(\displaystyle\frac{1}{8}\) になる
このように、簡単なステップで考えることができます。
5 核反応式
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「核反応式の成立条件」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量数保存則: 核反応の前後で、質量数(陽子と中性子の数の合計)の総和は変わらない。
- 電荷保存則(原子番号保存則): 核反応の前後で、電荷(原子番号)の総和は変わらない。
- 原子核・素粒子の表記法: \({}_{Z}^{A}\text{X}\) の意味を正しく理解していること。(\(A\): 質量数, \(Z\): 原子番号)
- 主要な粒子の特定: 計算で求めた質量数と原子番号から、それがどの粒子(\(\alpha\)粒子、電子、陽子、中性子など)に対応するかを判断できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各反応式の空欄に入る粒子を \({}_{Z}^{A}\text{X}\) と仮定する。
- 質量数保存則を適用して、反応式の矢印の左辺と右辺で質量数の総和が等しくなるように \(A\) の値を求める。
- 原子番号保存則を適用して、矢印の左辺と右辺で原子番号の総和が等しくなるように \(Z\) の値を求める。
- 求めた \(A\) と \(Z\) の値から、粒子 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) を特定し、その名称を答える。
問(ア)
思考の道筋とポイント
核反応式は、化学反応式と同様に、反応の前後で特定の量が保存されるというルールに基づいています。核反応では「質量数」と「原子番号(電荷)」の2つの量が保存されます。この問題は、ラジウム(\(\text{Ra}\))がラドン(\(\text{Rn}\))に変わる崩壊反応です。反応の前後で、原子核記号の左上の数字(質量数)の合計と、左下の数字(原子番号)の合計がそれぞれ等しくなるように、未知の粒子「ア」の正体を突き止めます。
この設問における重要なポイント
- 質量数保存: (左辺の質量数の和) = (右辺の質量数の和)
- 原子番号保存: (左辺の原子番号の和) = (右辺の原子番号の和)
- この反応は、原子核が\(\alpha\)粒子を放出する「\(\alpha\)崩壊」の典型例です。
具体的な解説と立式
反応式 \({}_{88}^{226}\text{Ra} \rightarrow {}_{86}^{222}\text{Rn} + \text{ア}\) について考えます。
未知の粒子アを \({}_{Z}^{A}\text{X}\) とおきます。
質量数保存則より、反応の前後で左上の数字の和は等しくなります。
$$ 226 = 222 + A \quad \cdots ① $$
原子番号保存則より、反応の前後で左下の数字の和は等しくなります。
$$ 88 = 86 + Z \quad \cdots ② $$
これらの連立方程式を解くことで、粒子アの正体がわかります。
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
式①より、粒子アの質量数 \(A\) を求めます。
$$ A = 226 – 222 = 4 $$
式②より、粒子アの原子番号 \(Z\) を求めます。
$$ Z = 88 – 86 = 2 $$
したがって、粒子アは質量数が\(4\)、原子番号が\(2\)の粒子、すなわちヘリウムの原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) であることがわかります。これは\(\alpha\)粒子とも呼ばれます。
核反応式は、左上の数字と左下の数字に関する、簡単な足し算・引き算のパズルです。
\({}_{88}^{226}\text{Ra} \rightarrow {}_{86}^{222}\text{Rn} + \text{ア}\)
- 左上の数字(質量数)に注目すると、「\(226 = 222 + ?\)」となります。答えは \(4\) です。
- 左下の数字(原子番号)に注目すると、「\(88 = 86 + ?\)」となります。答えは \(2\) です。
よって、アは左上が\(4\)、左下が\(2\)の粒子、つまりヘリウムの原子核(\(\alpha\)粒子)だと分かります。
問(イ)
思考の道筋とポイント
この反応は、ビスマス(\(\text{Bi}\))がポロニウム(\(\text{Po}\))に変わる崩壊反応です。問(ア)と同様に、質量数保存則と原子番号保存則を用いて、未知の粒子「イ」の正体を特定します。質量数が0で原子番号が-1となる粒子が何かを考えるのがポイントです。
この設問における重要なポイント
- この反応は、原子核内の中性子が陽子に変化し、電子を放出する「\(\beta\)崩壊」の典型例です。
- 電子は核子(陽子や中性子)ではないため質量数は\(0\)、電荷は\(-e\)なので原子番号に相当する数は\(-1\)として表記されます (\({}_{-1}^{0}\text{e}\))。
具体的な解説と立式
反応式 \({}_{83}^{214}\text{Bi} \rightarrow {}_{84}^{214}\text{Po} + \text{イ}\) について考えます。
未知の粒子イを \({}_{Z}^{A}\text{X}\) とおきます。
質量数保存則より、
$$ 214 = 214 + A \quad \cdots ① $$
原子番号保存則より、
$$ 83 = 84 + Z \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
式①より、粒子イの質量数 \(A\) を求めます。
$$ A = 214 – 214 = 0 $$
式②より、粒子イの原子番号 \(Z\) を求めます。
$$ Z = 83 – 84 = -1 $$
質量数が\(0\)、原子番号が\(-1\)の粒子は電子 (\({}_{-1}^{0}\text{e}\)) です。
\({}_{83}^{214}\text{Bi} \rightarrow {}_{84}^{214}\text{Po} + \text{イ}\)
- 左上の数字(質量数): 「\(214 = 214 + ?\)」 → 答えは \(0\) です。
- 左下の数字(原子番号): 「\(83 = 84 + ?\)」 → 答えは \(-1\) です。
左上が\(0\)、左下が\(-1\)の粒子は、電子のことです。原子核の中から電子が飛び出してくることを「\(\beta\)崩壊」と呼びます。
問(ウ)
思考の道筋とポイント
この反応は、窒素(\(\text{N}\))の原子核にヘリウムの原子核(\(\alpha\)粒子)を衝突させ、酸素(\(\text{O}\))の原子核と未知の粒子「ウ」を生成する、人工的な核変換反応です。これも同様に、質量数と原子番号の保存則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 反応の矢印の左辺に複数の粒子がある場合でも、それぞれの総和が保存されるというルールは同じです。
- この反応は、ラザフォードが世界で初めて成功させた人工核変換です。
具体的な解説と立式
反応式 \({}_{7}^{14}\text{N} + {}_{2}^{4}\text{He} \rightarrow {}_{8}^{17}\text{O} + \text{ウ}\) について考えます。
未知の粒子ウを \({}_{Z}^{A}\text{X}\) とおきます。
質量数保存則より、
$$ 14 + 4 = 17 + A \quad \cdots ① $$
原子番号保存則より、
$$ 7 + 2 = 8 + Z \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
式①を解いて、粒子ウの質量数 \(A\) を求めます。
$$ 18 = 17 + A $$
$$ A = 1 $$
式②を解いて、粒子ウの原子番号 \(Z\) を求めます。
$$ 9 = 8 + Z $$
$$ Z = 1 $$
質量数が\(1\)、原子番号が\(1\)の粒子は陽子(水素の原子核 \({}_{1}^{1}\text{H}\))です。
\({}_{7}^{14}\text{N} + {}_{2}^{4}\text{He} \rightarrow {}_{8}^{17}\text{O} + \text{ウ}\)
- 左上の数字(質量数): 左辺の合計は \(14+4=18\)。右辺の合計も \(18\) になるはずなので、「\(18 = 17 + ?\)」 → 答えは \(1\) です。
- 左下の数字(原子番号): 左辺の合計は \(7+2=9\)。右辺の合計も \(9\) になるはずなので、「\(9 = 8 + ?\)」 → 答えは \(1\) です。
左上が\(1\)、左下が\(1\)の粒子は、陽子のことです。
問(エ)
思考の道筋とポイント
この反応は、ベリリウム(\(\text{Be}\))に\(\alpha\)粒子を衝突させ、炭素(\(\text{C}\))と未知の粒子「エ」を生成する反応です。これも質量数と原子番号の保存則を適用します。質量数がありながら原子番号が0となる粒子が何かを考えるのがポイントです。
この設問における重要なポイント
- この反応は、チャドウィックによる中性子の発見につながった重要な実験です。
- 中性子は電荷を持たないため原子番号は\(0\)、核子の一つなので質量数は\(1\)と表記されます (\({}_{0}^{1}\text{n}\))。
具体的な解説と立式
反応式 \({}_{4}^{9}\text{Be} + {}_{2}^{4}\text{He} \rightarrow {}_{6}^{12}\text{C} + \text{エ}\) について考えます。
未知の粒子エを \({}_{Z}^{A}\text{X}\) とおきます。
質量数保存則より、
$$ 9 + 4 = 12 + A \quad \cdots ① $$
原子番号保存則より、
$$ 4 + 2 = 6 + Z \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
式①を解いて、粒子エの質量数 \(A\) を求めます。
$$ 13 = 12 + A $$
$$ A = 1 $$
式②を解いて、粒子エの原子番号 \(Z\) を求めます。
$$ 6 = 6 + Z $$
$$ Z = 0 $$
質量数が\(1\)、原子番号が\(0\)の粒子は中性子 (\({}_{0}^{1}\text{n}\)) です。
\({}_{4}^{9}\text{Be} + {}_{2}^{4}\text{He} \rightarrow {}_{6}^{12}\text{C} + \text{エ}\)
- 左上の数字(質量数): 左辺の合計は \(9+4=13\)。右辺の合計も \(13\) になるはずなので、「\(13 = 12 + ?\)」 → 答えは \(1\) です。
- 左下の数字(原子番号): 左辺の合計は \(4+2=6\)。右辺の合計も \(6\) になるはずなので、「\(6 = 6 + ?\)」 → 答えは \(0\) です。
左上が\(1\)、左下が\(0\)の粒子は、中性子のことです。
6 核エネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「質量とエネルギーの等価性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アインシュタインの特殊相対性理論: 質量とエネルギーが本質的に同じものであり、相互に変換可能であることを示す理論。
- 質量とエネルギーの等価性の公式: \(E=mc^2\)。物理学で最も有名な公式の一つ。
- 単位の換算: 計算を行う前に、すべての物理量を国際単位系(SI)の基本単位(この場合はkg)に統一することの重要性。
- 指数計算: 科学的記数法で表された数値の計算。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 質量をグラム[\(\text{g}\)]からキログラム[\(\text{kg}\)]に変換する。
- 質量とエネルギーの等価性を表す公式 \(E=mc^2\) に、質量 \(m\) と光速 \(c\) の値を代入する。
- 計算結果を、与えられた数値の有効数字に注意してまとめる。
思考の道筋とポイント
アインシュタインは特殊相対性理論の中で、「質量はエネルギーの非常に凝縮された一形態である」という、革命的な考え方を提唱しました。これは、質量とエネルギーが等価であり、互いに変換できることを意味します。その関係を表すのが、有名な公式 \(E=mc^2\) です。
この式は、わずかな質量 \(m\) であっても、光速の2乗 (\(c^2\)) という非常に大きな係数が掛け合わされるため、莫大なエネルギー \(E\) に相当することを示しています。原子力発電や核兵器は、この原理を応用したものです。この問題を解く上での注意点は、公式に代入する前に、質量の単位をSI基本単位であるキログラム[\(\text{kg}\)]に変換することです。
この設問における重要なポイント
- 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
- \(E\): エネルギー [\(\text{J}\)]
- \(m\): 質量 [\(\text{kg}\)]
- \(c\): 真空中の光速 [\(\text{m/s}\)]
- 単位の統一: 物理の計算では、特に断りがない限り、すべての量をSI基本単位(メートル、キログラム、秒など)に揃えてから計算するのが原則です。この問題では、質量をグラムからキログラムに変換する必要があります。
$$ 1 \, \text{g} = 10^{-3} \, \text{kg} $$ - 有効数字: 問題で与えられている質量 \(1.0 \, \text{g}\) と光速 \(3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\) は、どちらも有効数字が2桁です。したがって、計算結果も有効数字2桁で答える必要があります。
具体的な解説と立式
アインシュタインの特殊相対性理論によれば、質量 \(m\) を持つ物体は、それだけで \(E\) のエネルギーを持つと考えることができます。その関係は以下の式で与えられます。
$$ E = mc^2 $$
この式に、問題で与えられた値を代入します。
まず、質量 \(m\) をSI基本単位である \(\text{kg}\) に変換します。
$$ m = 1.0 \, \text{g} = 1.0 \times 10^{-3} \, \text{kg} $$
光速 \(c\) は、\(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\) です。これらの値を公式に代入する準備ができました。
使用した物理公式
- 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に、値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= mc^2 \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^{-3}) \times (3.0 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^{-3}) \times (3.0^2 \times (10^8)^2) \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^{-3}) \times (9.0 \times 10^{16}) \\[2.0ex]&= (1.0 \times 9.0) \times (10^{-3} \times 10^{16}) \\[2.0ex]&= 9.0 \times 10^{-3+16} \\[2.0ex]&= 9.0 \times 10^{13} \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
計算結果は有効数字2桁で \(9.0 \times 10^{13} \, \text{J}\) となります。
アインシュタインが発見した、世界で最も有名な公式 \(E=mc^2\) を使う問題です。この式は、「質量は、実はものすごくたくさんのエネルギーがギュッと固まった姿なんだ」ということを教えてくれています。
この問題は、「もし \(1.0 \, \text{g}\) の質量を100%エネルギーに変えることができたら、どれくらいのエネルギーになりますか?」と聞いています。
計算は、公式に質量 \(m\) と光の速さ \(c\) を入れるだけです。ただし、一つだけ注意点があります。物理の計算では単位を揃えるのがルールなので、質量を「グラム(\(\text{g}\))」から「キログラム(\(\text{kg}\))」に直してから計算します。
光の速さはとてつもなく大きいので、それを2乗するとさらに巨大な数になります。そのため、たった \(1.0 \, \text{g}\) の質量でも、非常に莫大なエネルギーになることが計算結果からわかります。
7 素粒子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「素粒子の分類」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 素粒子の標準模型: 現代物理学における、物質を構成する基本的な粒子と、それらの間に働く力を記述する理論。
- 物質粒子(フェルミ粒子): 物質を構成する粒子。クォークとレプトンに大別される。
- 力を媒介する粒子(ゲージ粒子): 粒子間に働く力を伝える粒子。
- ハドロン: クォークが複数個集まってできた複合粒子の総称。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 素粒子の分類(ハドロン、レプトン、ゲージ粒子)の定義をそれぞれ確認する。
- 陽子・中性子、電子、光子が、それぞれの定義に基づきどの分類に属するかを判断する。
思考の道筋とポイント
現代の物理学では、自然界に存在するすべての物質や力は、ごく少数の基本的な粒子「素粒子」とその相互作用によって説明できると考えられています。この理論体系を「標準模型」と呼びます。
標準模型では、素粒子は大きく分けて、物質を形作る「物質粒子」と、粒子間に働く力を伝える「ゲージ粒子」に分類されます。
さらに、物質粒子は、原子核を構成する陽子や中性子の材料となる「クォーク」と、電子やニュートリノなどの仲間である「レプトン」に分けられます。
陽子や中性子は、クォークが3つ集まってできた複合粒子であり、このようなクォークからなる粒子を総称して「ハドロン」と呼びます。
この問題は、これらの基本的な分類の知識を問うものです。
この設問における重要なポイント
- 素粒子の分類:
- ハドロン: 強い力で結びついた、クォークからなる複合粒子のグループ。
例: 陽子、中性子 - レプトン: 強い力の影響を受けない、それ以上分割できない粒子のグループ。
例: 電子、ニュートリノ - ゲージ粒子: 粒子間に働く「力」を媒介する(伝える)粒子のグループ。
例: 光子(電磁気力を媒介)、グルーオン(強い力を媒介)
- ハドロン: 強い力で結びついた、クォークからなる複合粒子のグループ。
具体的な解説と立式
この問題は、素粒子の分類に関する知識を問うものであり、計算式はありません。各粒子がどの分類に属するかを、定義に基づいて判断します。
- (ア) 陽子や中性子: これらは、クォークと呼ばれるさらに基本的な粒子が3つ集まってできています。クォークから構成される粒子は「ハドロン」に分類されます。したがって、(ア)はハドロンです。
- (イ) 電子: 電子は、それ以上分解することができない基本的な粒子であり、クォークの仲間ではありません。このような粒子は「レプトン」に分類されます。したがって、(イ)はレプトンです。
- (ウ) 光子: 光子は、電荷を持つ粒子間に働く電磁気力を媒介する粒子です。このように、力を媒介する役割を持つ粒子は「ゲージ粒子」に分類されます。したがって、(ウ)はゲージ粒子です。
使用した物理公式
この設問には計算式はありません。
この設問には計算過程はありません。
世の中のすべての物質や力は、とても小さな「つぶつぶ」からできています。このつぶつぶを「素粒子」と呼び、その性質によっていくつかのグループに分けられています。
- ハドロン: 陽子や中性子などが属するグループです。彼らは「強い力」という非常に強力な接着剤で結びついています。
- レプトン: 「軽い粒子」という意味で、電子などがこのグループの代表です。ハドロンとは異なり、強い力の影響を受けません。
- ゲージ粒子: 粒子同士が力を及ぼし合うときの「力のキャッチボール」で、ボールの役目をする粒子です。光(光子)は、電気の力を伝えるボールの役割をしています。
この問題は、陽子・中性子、電子、光子が、それぞれどのグループに所属しているかを答える、素粒子の世界のグループ分けクイズです。
解答 (イ) レプトン
解答 (ウ) ゲージ粒子
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