基本例題
基本例題76 抵抗の接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 各抵抗を流れる電流を個別に計算し、合算する解法
- 模範解答が合成抵抗を先に求めるのに対し、別解では並列回路の性質(電圧が共通)を利用して各電流を直接求め、最後に足し合わせます。
- 設問(2)の別解: 各抵抗を流れる電流を個別に計算し、合算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 並列接続において「各抵抗にかかる電圧が等しく、電流が分岐する」という基本原理の理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 合成抵抗の公式を知らなくても、キルヒホッフの法則とオームの法則という基本法則の組み合わせで解けることを示します。
- 解法の検証: 異なるアプローチで同じ答えを導くことで、計算結果の確からしさを高めることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「オームの法則と抵抗の接続」です。グラフから電気抵抗の値を読み取り、直列接続・並列接続された回路について、合成抵抗や電流を正しく計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則: 電圧\(V\)、電流\(I\)、抵抗\(R\)の関係式 (\(V=IR\)) を理解していること。
- V-Iグラフの解釈: 電圧と電流の関係を表すグラフから、抵抗値を読み取れること。グラフの傾きの逆数が抵抗値に相当します。
- 並列接続の合成抵抗: 合成抵抗\(R\)の逆数が、各抵抗\(R_1, R_2\)の逆数の和になること (\(\displaystyle\frac{1}{R} = \displaystyle\frac{1}{R_1} + \displaystyle\frac{1}{R_2}\))。
- 直列接続の合成抵抗: 合成抵抗\(R’\)が、各抵抗\(R_1, R_2\)の和になること (\(R’ = R_1 + R_2\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、図1のV-Iグラフから、抵抗線PとQについて、それぞれキリの良い電圧と電流の値を読み取り、オームの法則を適用して抵抗値\(R_1, R_2\)を求めます。
- (2)では、並列接続の合成抵抗の公式を用いて全体の抵抗\(R\)を計算し、回路全体にオームの法則を適用して電流\(I\)を求めます。
- (3)では、直列接続の合成抵抗の公式を用いて全体の抵抗\(R’\)を計算し、回路全体にオームの法則を適用して電流\(I’\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
抵抗線PとQの抵抗値を求めるために、図1のV-Iグラフを利用します。このグラフは、横軸が電圧\(V\)、縦軸が電流\(I\)を示しており、原点を通る直線になっています。これは、抵抗線PとQがオームの法則に従うこと(オーム抵抗であること)を示しています。オームの法則 \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) を用いて、グラフから読み取れる対応する電圧と電流の値から抵抗値を計算します。
この設問における重要なポイント
- V-Iグラフ上の、読み取りやすい格子点(座標が整数や簡単な小数になる点)を見つける。
- オームの法則 \(V=IR\) を、抵抗\(R\)を求める形 \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) に変形して使う。
- グラフPと抵抗\(R_1\)、グラフQと抵抗\(R_2\)の対応を間違えない。
具体的な解説と立式
抵抗線Pのグラフ(直線P)に注目します。グラフ上で読み取りやすい点として、電圧が\(4.0\) Vのとき、電流が\(0.20\) Aであることがわかります。これをオームの法則に適用して、抵抗\(R_1\)を求めます。
$$ R_1 = \frac{V_{\text{P}}}{I_{\text{P}}} $$
次に、抵抗線Qのグラフ(直線Q)に注目します。同様に読み取りやすい点として、電圧が\(6.0\) Vのとき、電流が\(0.10\) Aであることがわかります。これをオームの法則に適用して、抵抗\(R_2\)を求めます。
$$ R_2 = \frac{V_{\text{Q}}}{I_{\text{Q}}} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = IR\)
抵抗線Pについて、\(V_{\text{P}} = 4.0\) V, \(I_{\text{P}} = 0.20\) A を代入します。
$$
\begin{aligned}
R_1 &= \frac{4.0}{0.20} \\[2.0ex]
&= 20
\end{aligned}
$$
抵抗線Qについて、\(V_{\text{Q}} = 6.0\) V, \(I_{\text{Q}} = 0.10\) A を代入します。
$$
\begin{aligned}
R_2 &= \frac{6.0}{0.10} \\[2.0ex]
&= 60
\end{aligned}
$$
抵抗というのは「電気の流れにくさ」のことです。図1のグラフは、電圧(電気を流そうとする圧力)と電流(実際に流れる電気の量)の関係を表しています。この関係から「流れにくさ」を計算するのがオームの法則です。グラフPでは「4.0Vの圧力をかけたら0.20A流れた」、グラフQでは「6.0Vの圧力をかけたら0.10A流れた」というデータを読み取り、それぞれ計算することで、PとQの「流れにくさ」の具体的な数値(抵抗値)がわかります。
抵抗線Pの抵抗値は \(R_1 = 20\) Ω、抵抗線Qの抵抗値は \(R_2 = 60\) Ω となります。グラフの傾きは \(I/V\) なので、抵抗 \(R=V/I\) は傾きの逆数に相当します。直線Pの方が傾きが急(傾きが大きい)なので抵抗値は小さく、直線Qの方が傾きが緩やか(傾きが小さい)なので抵抗値は大きい、という見た目の印象とも一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
図2は、抵抗PとQを並列に接続した回路です。この回路全体の抵抗(合成抵抗\(R\))と、回路全体を流れる電流\(I\)を求めます。
まず、並列接続の合成抵抗の公式を用いて、\(R_1\)と\(R_2\)から合成抵抗\(R\)を計算します。次に、この合成抵抗\(R\)を持つ一つの抵抗が、6.0Vの電池に接続されているとみなし、回路全体でオームの法則を適用して電流\(I\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 並列接続の合成抵抗の公式 \(\displaystyle\frac{1}{R} = \displaystyle\frac{1}{R_1} + \displaystyle\frac{1}{R_2}\) を正しく使う。
- 公式で計算した値は \(\displaystyle\frac{1}{R}\) なので、最後に逆数をとって\(R\)を求めることを忘れない。
- 電流計は回路全体を流れる電流(主電流)を測定していることを理解する。
具体的な解説と立式
(1)で求めた抵抗値 \(R_1 = 20\) Ω と \(R_2 = 60\) Ω を用います。
まず、並列接続の合成抵抗\(R\)を求める公式を立てます。
$$ \frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} \quad \cdots ① $$
次に、求めた合成抵抗\(R\)と電源電圧\(V = 6.0\) V を用いて、回路全体を流れる電流\(I\)をオームの法則で求めます。
$$ I = \frac{V}{R} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 並列接続の合成抵抗: \(\displaystyle\frac{1}{R} = \displaystyle\frac{1}{R_1} + \displaystyle\frac{1}{R_2}\)
- オームの法則: \(V = IR\)
①式に \(R_1=20\) Ω, \(R_2=60\) Ω を代入して、合成抵抗\(R\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R} &= \frac{1}{20} + \frac{1}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{60} + \frac{1}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{15}
\end{aligned}
$$
したがって、両辺の逆数をとって、
$$ R = 15 \text{ [Ω]} $$
次に、②式に \(V=6.0\) V, \(R=15\) Ω を代入して、電流\(I\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{6.0}{15} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{150} = \frac{2}{5} \\[2.0ex]
&= 0.40 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
抵抗を「並列」につなぐと、電気が流れる道が2つに分かれるため、全体としては電気が流れやすくなります。つまり、合体後の「流れにくさ(合成抵抗)」は、元のどちらの抵抗よりも小さくなります。まず、この合体後の流れにくさを計算します。その後、回路全体を「6.0Vの電池」と「合体した抵抗」だけのシンプルな回路だと考えて、オームの法則を使えば、電流計が示す全体の電流を計算できます。
合成抵抗は \(R = 15\) Ω、電流は \(I = 0.40\) A となります。合成抵抗の値\(15\) Ωは、\(R_1=20\) Ω と \(R_2=60\) Ω のどちらよりも小さくなっており、並列接続の特徴と一致しています。結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
並列接続では、各抵抗にかかる電圧が等しいという性質を利用します。図2では、抵抗Pと抵抗Qのどちらにも電源電圧と同じ\(6.0\) Vの電圧がかかっています。このことを利用して、まずPとQをそれぞれ流れる電流\(I_1, I_2\)をオームの法則で個別に計算します。電流計は、分岐した電流が合流した後の全体の電流を測定しているので、\(I_1\)と\(I_2\)の和を求めることで電流計の示す値\(I\)が得られます。合成抵抗\(R\)は、求めた全電流\(I\)と電源電圧\(V\)から、オームの法則を使って逆算します。
この設問における重要なポイント
- 並列接続では、各分岐にかかる電圧は電源電圧に等しい。
- 回路全体を流れる電流は、各分岐を流れる電流の和に等しい(キルヒホッフの第1法則)。
具体的な解説と立式
抵抗Pを流れる電流を\(I_1\)、抵抗Qを流れる電流を\(I_2\)とします。並列接続なので、どちらの抵抗にも \(V=6.0\) V の電圧がかかります。
$$ I_1 = \frac{V}{R_1} \quad \cdots ③ $$
$$ I_2 = \frac{V}{R_2} \quad \cdots ④ $$
電流計が示す全体の電流\(I\)は、これらの和となります。
$$ I = I_1 + I_2 \quad \cdots ⑤ $$
最後に、回路全体の合成抵抗\(R\)を、オームの法則を用いて求めます。
$$ R = \frac{V}{I} \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = IR\)
- キルヒホッフの第1法則(電流則)
③式、④式に値を代入して、\(I_1, I_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \frac{6.0}{20} = 0.30 \text{ [A]} \\[2.0ex]
I_2 &= \frac{6.0}{60} = 0.10 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
⑤式より、全体の電流\(I\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= I_1 + I_2 \\[2.0ex]
&= 0.30 + 0.10 \\[2.0ex]
&= 0.40 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
⑥式より、合成抵抗\(R\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{6.0}{0.40} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{4} \\[2.0ex]
&= 15 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
並列回路は、高速道路の料金所が2つあるようなものです。どちらの料金所(抵抗P, Q)にも同じ勢い(電圧6.0V)で車(電気)が向かいます。料金所Pは比較的通りやすく(抵抗20Ω)、料金所Qは通りにくい(抵抗60Ω)ので、それぞれのレーンを流れる車の量(電流)は異なります。それぞれのレーンの交通量を計算し、それらを足し合わせれば、合流地点で測定される全体の交通量(電流計の値)がわかります。
主たる解法と全く同じ、合成抵抗 \(R = 15\) Ω、電流 \(I = 0.40\) A という結果が得られました。異なる物理的な考え方から同じ結論に至ることで、解答の正しさがより確かなものになります。
問(3)
思考の道筋とポイント
図3は、抵抗PとQを直列に接続した回路です。この回路の合成抵抗\(R’\)と、回路を流れる電流\(I’\)を求めます。
まず、直列接続の合成抵抗の公式を用いて、\(R_1\)と\(R_2\)から合成抵抗\(R’\)を計算します。直列接続の場合、合成抵抗は各抵抗の単純な和となります。次に、この合成抵抗\(R’\)を持つ一つの抵抗が、6.0Vの電池に接続されているとみなし、回路全体でオームの法則を適用して電流\(I’\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 直列接続の合成抵抗の公式 \(R’ = R_1 + R_2\) を正しく使う。
- 直列接続では、回路のどの場所でも電流の大きさは同じである。
具体的な解説と立式
(1)で求めた抵抗値 \(R_1 = 20\) Ω と \(R_2 = 60\) Ω を用います。
まず、直列接続の合成抵抗\(R’\)を求める公式を立てます。
$$ R’ = R_1 + R_2 \quad \cdots ① $$
次に、求めた合成抵抗\(R’\)と電源電圧\(V = 6.0\) V を用いて、回路を流れる電流\(I’\)をオームの法則で求めます。
$$ I’ = \frac{V}{R’} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 直列接続の合成抵抗: \(R’ = R_1 + R_2\)
- オームの法則: \(V = IR\)
①式に \(R_1=20\) Ω, \(R_2=60\) Ω を代入して、合成抵抗\(R’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
R’ &= 20 + 60 \\[2.0ex]
&= 80 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
次に、②式に \(V=6.0\) V, \(R’=80\) Ω を代入して、電流\(I’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I’ &= \frac{6.0}{80} \\[2.0ex]
&= \frac{6}{80} = \frac{3}{40} \\[2.0ex]
&= 0.075 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
抵抗を「直列」につなぐと、電気はPとQの両方を順番に通過しなければならず、道が長くなるようなものです。そのため、全体としては電気が流れにくくなります。合体後の「流れにくさ(合成抵抗)」は、単純な足し算で計算できます。この合体後の流れにくさを使って、回路全体を流れる電流をオームの法則で求めます。
合成抵抗は \(R’ = 80\) Ω、電流は \(I’ = 0.075\) A となります。合成抵抗の値\(80\) Ωは、\(R_1=20\) Ω と \(R_2=60\) Ω のどちらよりも大きくなっており、直列接続の特徴と一致しています。結果は妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- オームの法則の多面的な応用:
- 核心: この問題の根幹は、オームの法則 \(V=IR\) を様々な状況で自在に応用できるかどうかにあります。
- 理解のポイント:
- 抵抗の定義として: (1)では、グラフから読み取った電圧\(V\)と電流\(I\)を用いて、抵抗の定義式 \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) として法則を適用します。これは、V-Iグラフの「傾きの逆数」が抵抗であるという幾何学的な意味も内包しています。
- 回路全体の法則として: (2)と(3)では、まず回路全体の「顔」である合成抵抗を求め、その回路全体に対してオームの法則を適用し、全体の電流を求めます。
- 部分的な法則として: (2)の別解では、並列回路の各部分(抵抗Pと抵抗Q)にそれぞれオームの法則を適用し、部分的な電流を求めています。このように、1つの法則を「定義」「全体」「部分」という異なる視点から使い分ける能力が問われます。
- 抵抗の接続方法と物理的意味:
- 核心: 「直列接続」と「並列接続」の合成抵抗の公式を単に暗記するだけでなく、その物理的な意味を理解していることが重要です。
- 理解のポイント:
- 直列接続(障害物の追加): 抵抗を直列につなぐことは、電流の通り道に障害物を次々と追加していくイメージです。そのため、電流はより流れにくくなり、合成抵抗は各抵抗の和 (\(R’ = R_1 + R_2\)) となって大きくなります。
- 並列接続(流路の追加): 抵抗を並列につなぐことは、電流の通り道(流路)を増やすイメージです。たとえ各流路が流れにくくても、道が増える分だけ全体としては流れやすくなります。そのため、合成抵抗は各抵抗よりも小さくなります。この「流れやすさ(コンダクタンス)」の和が全体の流れやすさになる、と考えると \(\displaystyle\frac{1}{R} = \displaystyle\frac{1}{R_1} + \displaystyle\frac{1}{R_2}\) という式の意味が直感的に理解できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 豆電球やダイオードなど非オーム抵抗を含む回路: 豆電球などの抵抗値が電流によって変化する素子(非オーム抵抗)が回路に含まれる問題です。この場合、合成抵抗の公式は使えません。代わりに、回路の接続方法から素子間の電圧や電流の関係式を立て、与えられたV-Iグラフとの連立方程式として解く必要があります。
- キルヒホッフの法則を用いる複雑な回路: 複数の電源があったり、抵抗がブリッジ状に組まれていたりする、直列・並列に単純化できない回路問題です。この場合、キルヒホッフの第1法則(電流則)と第2法則(電圧則)を連立させて解くことになります。
- 内部抵抗を持つ電池: 電池自身が内部抵抗を持つ問題です。この場合、電池は「理想的な電源」と「内部抵抗」の直列接続とみなして回路を考えます。端子電圧(実際に回路にかかる電圧)は、起電力から内部抵抗による電圧降下を引いた値になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 抵抗の種類を判別する: まず、問題中の抵抗がオーム抵抗(抵抗値が一定)か、非オーム抵抗(V-Iグラフが曲線)かを確認します。オーム抵抗なら合成抵抗の公式が使えます。
- 回路の接続形態を把握する: 回路図を見て、どの部分が直列で、どの部分が並列になっているかを正確に把握します。複雑な場合は、回路図をより分かりやすい形に書き直すことも有効です。
- 何を求めるか明確にする: 回路の「部分」の電流や電圧を求めるのか、それとも「全体」の電流や合成抵抗を求めるのかを問題文から読み取ります。それによって、オームの法則を適用する対象が決まります。
- 解法の選択:
- 単純な直列・並列回路 → 合成抵抗を求めてからオームの法則。
- 並列回路の各電流 → 各抵抗に同じ電圧がかかることを利用してオームの法則。
- 複雑な回路 → キルヒホッフの法則。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- V-Iグラフの傾きの誤解:
- 誤解: V-Iグラフ(縦軸I、横軸V)の傾きそのものが抵抗値だと勘違いしてしまう。
- 対策: 常にオームの法則の定義 \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) に立ち返る癖をつけます。V-Iグラフの傾きは \(\displaystyle\frac{I}{V}\) であり、これは抵抗の逆数 (\(\displaystyle\frac{1}{R}\)) です。したがって、抵抗は「傾きの逆数」であると正確に覚えます。グラフの軸が逆(縦軸V、横軸I)の場合もあるので、必ず軸の物理量を確認しましょう。
- 並列接続の合成抵抗の計算ミス:
- 誤解: \(\displaystyle\frac{1}{R} = \displaystyle\frac{1}{R_1} + \displaystyle\frac{1}{R_2}\) を計算して得られた値(例: \(\displaystyle\frac{1}{15}\))を、そのまま答えとしてしまう。
- 対策: 「この公式は、抵抗そのものではなく、抵抗の逆数を求めている」と強く意識します。計算の最後に「逆数をとる!」と指差し確認するくらいの習慣をつけるとミスが防げます。特に、2つの抵抗の並列接続の場合は、和分の積の公式 \(R = \displaystyle\frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}\) を覚えておくと、逆数をとるのを忘れにくくなり、計算も速くなります。
- 直列と並列の公式の混同:
- 誤解: どちらが単純な和で、どちらが逆数の和だったか混乱してしまう。
- 対策: 「直列=抵抗が増える=値が大きくなる→足し算」「並列=道が増える=抵抗が減る=値が小さくなる→逆数の和」というように、公式を物理的なイメージとセットで記憶します。これにより、単純な暗記ミスを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- オームの法則 (R = V/I):
- 選定理由: (1)では、未知の物理量である抵抗\(R_1, R_2\)を、既知の量(グラフから読み取れる\(V, I\))で表現する必要がありました。この3つの量を結びつける唯一の法則がオームの法則であるため、これを選択します。
- 適用根拠: グラフが原点を通る直線であることから、この抵抗線がオームの法則に従うことが保証されています。したがって、グラフ上のどの点の\(V, I\)の組を用いても、同じ抵抗値が計算できるという物理的な裏付けがあります。
- 並列接続の合成抵抗の公式:
- 選定理由: (2)では、回路全体を流れる電流を求めるために、まず回路全体の抵抗値を知る必要がありました。複数の抵抗を一つの抵抗とみなすための道具が「合成抵抗の公式」です。図2は並列接続なので、並列用の公式を選択します。
- 適用根拠: この公式は、キルヒホッフの法則から導出されます。並列接続では各抵抗にかかる電圧\(V\)が等しく、全電流\(I\)が各電流の和 (\(I = I_1 + I_2\)) になるという物理的状況が前提です。\(I = \displaystyle\frac{V}{R}\), \(I_1 = \displaystyle\frac{V}{R_1}\), \(I_2 = \displaystyle\frac{V}{R_2}\) を代入して\(V\)を消去すると、\(\displaystyle\frac{1}{R} = \displaystyle\frac{1}{R_1} + \displaystyle\frac{1}{R_2}\) が導かれます。この導出過程を理解していると、公式の適用に自信が持てます。
- 直列接続の合成抵抗の公式:
- 選定理由: (3)も同様に、回路全体の電流を求めるために、まず回路全体の抵抗値を知る必要があります。図3は直列接続なので、直列用の公式を選択します。
- 適用根拠: 直列接続では、回路を流れる電流\(I’\)がどこでも等しく、全体の電圧\(V\)が各抵抗での電圧降下の和 (\(V = V_1 + V_2\)) になるという物理的状況が前提です。\(V = I’R’\), \(V_1 = I’R_1\), \(V_2 = I’R_2\) を代入して\(I’\)を消去すると、\(R’ = R_1 + R_2\) が導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの読み取りは慎重に: (1)のようにグラフから値を読み取る問題では、必ず格子点を使い、縦軸と横軸の目盛りの大きさを間違えないように注意します。例えば、1目盛りが0.1なのか0.05なのかを最初に確認する癖をつけましょう。
- 分数の計算を制する: (2)の並列抵抗の計算では、分数の足し算と、最後の逆数計算が頻出します。
- 通分: 最小公倍数を見つけて丁寧に計算します。
- 逆数: \(\displaystyle\frac{1}{R} = \displaystyle\frac{1}{15}\) のような形になったら、頭の中で「Rは?」と自問自答し、\(R=15\) と逆数をとる操作を意識的に行います。
- 有効数字と単位の意識:
- 有効数字: 問題文で与えられた数値(例: 6.0V, 0.20A)の有効数字が2桁なので、最終的な答えもそれに合わせるのが基本です。(2)の答えを0.4Aではなく0.40A、(3)の答えを0.075Aとしているのはそのためです。計算途中では多めに桁をとっておき、最後に四捨五入します。
- 単位: 計算の最後に、必ず適切な単位(Ω, A)を付けることを忘れないようにします。単位を書くことで、自分が何を求めたのかを再確認でき、ミス防止につながります。
- 検算の習慣: (2)のように別解が存在する問題では、主たる解法で解いた後、別解でも計算してみて答えが一致するかを確認する(検算する)のが非常に有効です。これにより、計算ミスをほぼ確実に発見できます。
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基本例題77 ジュール熱
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 抵抗と電力の反比例関係から直接比を求める解法
- 模範解答が各抵抗値を具体的に計算して比を求めるのに対し、別解では電圧が一定のとき抵抗は電力に反比例するという関係性から直接比を導きます。
- 設問(3)の別解: 電力\(P\)を直接使わないジュール熱の公式を用いる解法
- 模範解答が\(Q=Pt\)を用いるのに対し、別解では\(Q=I^2Rt\)や\(Q=\displaystyle\frac{V^2}{R}t\)といった、他の設問で求めた電流や抵抗の値を利用する公式で計算します。
- 設問(4)の別解: (1)で求めた抵抗値とオームの法則を用いる解法
- 模範解答が電力の公式\(P=IV\)を用いるのに対し、別解では(1)で算出した抵抗値\(R\)を用いて、オームの法則\(V=IR\)から電流を導きます。
- 設問(2)の別解: 抵抗と電力の反比例関係から直接比を求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 物理量間の比例・反比例関係を見抜く力や、ジュール熱の各公式が等価であることへの理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題を複数の視点から解くことで、設問間の有機的なつながりを意識した、より柔軟な問題解決能力が養われます。
- 解法の選択肢と検算: 与えられた条件に応じて最適な公式を選択する訓練になると同時に、異なるアプローチで同じ答えを導くことで計算の確からしさを検証できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「消費電力とジュール熱の計算」です。電化製品の定格表示(〇V-△W)の意味を正しく理解し、電力やジュール熱に関する様々な公式を状況に応じて使い分ける能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定格消費電力の意味: 「100V用500W」とは、定格電圧100Vで使用したときに500Wの電力を消費するという意味であり、この情報から機器固有の抵抗値を算出できること。
- 電力の公式: 電圧\(V\)、電流\(I\)、抵抗\(R\)を用いて、電力\(P\)が \(P=IV=I^2R=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) と複数の形で表せること。
- ジュール熱の公式: 電力\(P\)と時間\(t\)を用いて、発生する熱量\(Q\)が \(Q=Pt\) と表せること。また、電力の公式と組み合わせることで \(Q=VIt=I^2Rt=\displaystyle\frac{V^2}{R}t\) とも表せること。
- 単位の換算: 物理計算では、時間はSI基本単位である秒(s)を用いるため、問題で「分」で与えられた場合は秒に変換する必要があること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、定格電圧と定格消費電力の値から、電力の公式 \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) を用いて電熱器の抵抗\(R\)を求めます。
- (2)では、(1)と同様の手順で250Wの電熱器の抵抗を求め、500Wの電熱器の抵抗との比を計算します。
- (3)では、ジュール熱の公式 \(Q=Pt\) を用いて発生熱量を計算します。このとき、時間の単位を「分」から「秒」に換算することがポイントです。
- (4)では、電力の公式 \(P=IV\) を用いて、定格通りに使用したときに流れる電流\(I\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
電熱器の仕様である「100V用500W」という定格値から、その電熱器が持つ固有の抵抗値\(R\)を求めます。この定格値は、「電圧\(V=100\) Vをかけると、消費電力\(P=500\) Wとなる」ことを意味します。電圧\(V\)、電力\(P\)、抵抗\(R\)の3つの物理量を関係づける電力の公式の中から、これら3つを含む \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を選択するのが最も直接的です。
この設問における重要なポイント
- 「100V用500W」という定格値の意味を正しく理解する。
- 電力に関する3つの公式 \(P=IV\), \(P=I^2R\), \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) の中から、与えられた量(\(V, P\))と求めたい量(\(R\))に最適なものを選ぶ。
具体的な解説と立式
電力\(P\)、電圧\(V\)、抵抗\(R\)の関係式は以下の通りです。
$$ P = \frac{V^2}{R} $$
この式を抵抗\(R\)について解くと、次のようになります。
$$ R = \frac{V^2}{P} $$
使用した物理公式
- 電力の公式: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
上記で立式した式に、問題で与えられた定格値 \(V=100\) V、\(P=500\) W を代入します。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{100^2}{500} \\[2.0ex]
&= \frac{10000}{500} \\[2.0ex]
&= 20.0
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字(500Wは3桁)を考慮して、20.0 Ωとします。
電化製品に書かれている「〇V用△W」という表示は、その製品の「性能証明書」のようなものです。この証明書に書かれた情報(定格電圧と定格電力)を使うと、その製品の個性である「電気の流れにくさ(抵抗)」という、普段は見えない値を計算で明らかにすることができます。今回は電圧と電力が分かっているので、それらが入った公式 \(P = V^2/R\) を使って抵抗を求めます。
この電熱器のニクロム線の抵抗は \(R = 20.0\) Ω です。この抵抗値は、この電熱器に固有の物理量であり、使用する電圧が変わっても(例えば家庭用の100V以外で使っても)基本的には変化しない値として、他の設問を解く上で利用できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
「100V用250Wの電熱器」と「100V用500Wの電熱器」の抵抗を比較します。まず、(1)と同様の手順で、100V用250Wの電熱器の抵抗\(R’\)を計算します。その後、(1)で求めた500Wの電熱器の抵抗\(R\)で\(R’\)を割り、何倍になるかを求めます。
この設問における重要なポイント
- 2つの電熱器の抵抗値を、それぞれ定格値から正しく計算する。
- 「AはBの何倍か」を問われた場合、\(\displaystyle\frac{A}{B}\) の比を計算する。
具体的な解説と立式
(1)より、100V用500Wの電熱器の抵抗は \(R = 20.0\) Ω です。
次に、100V用250Wの電熱器の抵抗を\(R’\)とします。(1)と同様に、\(P’ = 250\) W, \(V=100\) V として、\(R’\)を計算します。
$$ R’ = \frac{V^2}{P’} $$
最後に、250Wの電熱器の抵抗が500Wの電熱器の抵抗の何倍かを求めるため、比 \(\displaystyle\frac{R’}{R}\) を計算します。
使用した物理公式
- 電力の公式: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
まず、\(R’\)の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
R’ &= \frac{100^2}{250} \\[2.0ex]
&= \frac{10000}{250} \\[2.0ex]
&= 40.0 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
次に、抵抗の比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{R’}{R} &= \frac{40.0}{20.0} \\[2.0ex]
&= 2.00
\end{aligned}
$$
(1)と同じ方法を使って、もう一つの「100V用250W」の電熱器の抵抗も計算します。すると、250Wの電熱器の抵抗は40.0Ωだとわかります。500Wの電熱器の抵抗は20.0Ωでしたから、40.0Ωは20.0Ωの何倍かを割り算で調べるだけです。同じ電圧なのにパワー(ワット数)が小さいということは、それだけ電気が流れにくい、つまり抵抗が大きいというわけです。
100V用250Wの電熱器の抵抗は、100V用500Wの電熱器の2.00倍です。同じ電圧で使う場合、消費電力が小さい方が電流は小さくなります。オームの法則 \(V=IR\) から、電圧\(V\)が一定なら電流\(I\)が小さいほど抵抗\(R\)は大きいので、この結果は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
電力の公式 \(R = \displaystyle\frac{V^2}{P}\) に着目します。この問題では、2つの電熱器を比較する際の電圧\(V\)がともに100Vで一定です。このとき、抵抗\(R\)は消費電力\(P\)に反比例する (\(R \propto \displaystyle\frac{1}{P}\)) ことがわかります。この関係を利用すれば、それぞれの抵抗値を具体的に計算することなく、電力の比から直接、抵抗の比を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 物理量間の比例・反比例の関係を見抜く。
- 電圧\(V\)が一定のとき、抵抗\(R\)は電力\(P\)に反比例する。
具体的な解説と立式
500Wの電熱器の抵抗を\(R_{500}\)、電力を\(P_{500}\)、250Wの電熱器の抵抗を\(R_{250}\)、電力を\(P_{250}\)とします。ともに電圧\(V\)は100Vで共通です。
$$ R_{500} = \frac{V^2}{P_{500}}, \quad R_{250} = \frac{V^2}{P_{250}} $$
求めたい比は \(\displaystyle\frac{R_{250}}{R_{500}}\) なので、
$$ \frac{R_{250}}{R_{500}} = \frac{V^2/P_{250}}{V^2/P_{500}} $$
使用した物理公式
- 電力の公式: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
立式した比の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{R_{250}}{R_{500}} &= \frac{V^2}{P_{250}} \times \frac{P_{500}}{V^2} \\[2.0ex]
&= \frac{P_{500}}{P_{250}}
\end{aligned}
$$
この式に、\(P_{500}=500\) W, \(P_{250}=250\) W を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{R_{250}}{R_{500}} &= \frac{500}{250} \\[2.0ex]
&= 2.00
\end{aligned}
$$
公式 \(R = V^2/P\) をよく見ると、電圧が同じなら、電力\(P\)は分母にあるので、\(P\)が小さいほど抵抗\(R\)は大きくなる(反比例の関係)ことがわかります。今回は電力が500Wから250Wへと半分になっているので、抵抗は逆に2倍になる、と面倒な計算なしで答えを出すことができます。
主たる解法と全く同じく、2.00倍という結果が得られました。この方法は、具体的な数値を計算する手間を省けるだけでなく、物理量間の関係性を本質的に理解していることを示す、エレガントな解法です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電熱器が一定時間内に発生する熱量、すなわちジュール熱\(Q\)を求めます。ジュール熱は、消費電力\(P\)と時間\(t\)の積で計算できます。問題文には消費電力\(P=500\) W、時間\(t=15\)分が与えられています。物理計算における時間の基本単位は秒(s)なので、15分を秒に換算してから計算することが重要です。
この設問における重要なポイント
- ジュール熱の公式 \(Q=Pt\) を使う。
- 時間の単位をSI基本単位である秒(s)に変換する (\(15 \text{分} = 15 \times 60 \text{秒}\))。
具体的な解説と立式
発生する熱量\(Q\)は、消費電力\(P\)と時間\(t\)を用いて次のように表されます。
$$ Q = Pt $$
使用した物理公式
- ジュール熱の公式: \(Q = Pt\)
\(P=500\) W、\(t = 15 \text{分} = 15 \times 60 = 900\) 秒 を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= 500 \times (15 \times 60) \\[2.0ex]
&= 500 \times 900 \\[2.0ex]
&= 450000 \\[2.0ex]
&= 4.5 \times 10^5 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
発生する熱の総量は、「1秒あたりに発生する熱(=電力)」に「時間」を掛ければ計算できます。電車の時速に時間を掛けると進んだ距離がわかるのと同じ考え方です。ただし、物理の世界では時間の単位は「秒」が基本ルールなので、15分を秒に直すのを忘れないようにしましょう。
発生する熱量は \(4.5 \times 10^5\) J となります。単位の換算を忘れなければ、基本的な計算で求めることができます。
思考の道筋とポイント
ジュール熱の公式には \(Q=Pt\) 以外にも、\(Q = \displaystyle\frac{V^2}{R}t\) や \(Q = I^2Rt\) といった形があります。これらの公式を使っても、同じ答えを導くことができます。ここでは、(1)で求めた抵抗\(R\)や(4)で求める電流\(I\)の値を利用して計算してみます。
この設問における重要なポイント
- ジュール熱の公式には複数の表現があることを理解する。
- どの公式を使っても、物理的に正しい値を代入すれば同じ結果になる。
具体的な解説と立式
(A) 抵抗\(R\)を用いる場合:
(1)で求めた \(R=20.0\) Ω を用いて、ジュール熱の公式 \(Q = \displaystyle\frac{V^2}{R}t\) を使います。
$$ Q = \frac{V^2}{R}t $$
(B) 電流\(I\)を用いる場合:
(4)で求める \(I=5.00\) A と(1)で求めた \(R=20.0\) Ω を用いて、ジュール熱の公式 \(Q = I^2Rt\) を使います。
$$ Q = I^2Rt $$
使用した物理公式
- ジュール熱の公式: \(Q = \displaystyle\frac{V^2}{R}t\), \(Q = I^2Rt\)
(A) 抵抗\(R\)を用いる場合:
\(V=100\) V, \(R=20.0\) Ω, \(t=900\) s を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{100^2}{20.0} \times 900 \\[2.0ex]
&= \frac{10000}{20.0} \times 900 \\[2.0ex]
&= 500 \times 900 = 4.5 \times 10^5 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
(B) 電流\(I\)を用いる場合:
\(I=5.00\) A, \(R=20.0\) Ω, \(t=900\) s を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= (5.00)^2 \times 20.0 \times 900 \\[2.0ex]
&= 25.0 \times 20.0 \times 900 \\[2.0ex]
&= 500 \times 900 = 4.5 \times 10^5 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
熱量を計算する公式には、実はいくつかのバージョンがあります。どのバージョンを使うかは、手元にある材料(分かっている物理量)によって選べます。(1)で抵抗を計算したので、抵抗を使ったバージョンの公式でも計算できます。また、(4)で電流を計算すれば、電流を使ったバージョンでも計算できます。どの道を通っても、同じ目的地(答え)にたどり着くことを確認できます。
主たる解法と全く同じ \(4.5 \times 10^5\) J という結果が得られました。これにより、各公式の等価性と、(1)で求めた抵抗値の正しさを再確認することができます。
問(4)
思考の道筋とポイント
電熱器を定格通り100Vで使用したときに流れる電流\(I\)を求めます。定格電力\(P=500\) W と定格電圧\(V=100\) V が分かっているので、これら3つの量を含む電力の公式 \(P=IV\) を使うのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 電力、電圧、電流の関係式 \(P=IV\) を使う。
具体的な解説と立式
電力\(P\)、電圧\(V\)、電流\(I\)の関係式は以下の通りです。
$$ P = IV $$
この式を電流\(I\)について解くと、次のようになります。
$$ I = \frac{P}{V} $$
使用した物理公式
- 電力の公式: \(P = IV\)
上記で立式した式に、\(P=500\) W、\(V=100\) V を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{500}{100} \\[2.0ex]
&= 5.00 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
電力は「電圧と電流の掛け算」で計算できます。今回は電力と電圧が分かっているので、単純な割り算をすれば、流れている電流の大きさを求めることができます。
流れる電流は \(5.00\) A です。これは基本的な公式の適用であり、特に問題はありません。
思考の道筋とポイント
(1)で、この電熱器の抵抗は \(R=20.0\) Ω であるとすでに計算しています。この抵抗を持つ電熱器に \(V=100\) V の電圧をかけているので、物理学の基本法則であるオームの法則 \(V=IR\) を使って、流れる電流\(I\)を計算することができます。
この設問における重要なポイント
- (1)で求めた抵抗値が利用できることに気づく。
- 基本法則であるオームの法則 \(V=IR\) を適用する。
具体的な解説と立式
オームの法則は以下の通りです。
$$ V = IR $$
この式を電流\(I\)について解くと、次のようになります。
$$ I = \frac{V}{R} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = IR\)
上記で立式した式に、\(V=100\) V と、(1)で求めた \(R=20.0\) Ω を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{100}{20.0} \\[2.0ex]
&= 5.00 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
(1)で、この電熱器の「電気の流れにくさ(抵抗)」は20.0Ωだと突き止めました。この流れにくさの道に、100Vという圧力で電気を流そうとしているわけですから、どれくらいの量の電気が流れるか(電流)は、基本ルールであるオームの法則で計算できます。
主たる解法と全く同じ \(5.00\) A という結果が得られました。このことは、設問(1)で求めた抵抗値が正しかったことの裏付けにもなります。電力の公式とオームの法則が、抵抗\(R\)を介して密接に関連していることがよくわかります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電力の多角的表現と状況に応じた選択:
- 核心: この問題の根幹は、電力\(P\)が \(P=IV\), \(P=I^2R\), \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) という3つの異なる形で表現でき、問題の状況に応じて最も効率的な公式を選択する能力にあります。
- 理解のポイント:
- \(P=IV\): 電力の最も基本的な定義式です。(4)のように電力と電圧から電流を求める、あるいはその逆の場合に直接的に使えます。
- \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\): 電圧\(V\)と抵抗\(R\)で電力を表す式です。家庭用のコンセントのように電圧が一定の状況で、抵抗値の異なる機器の電力を比較する際に非常に強力です。(1)や(2)のように、定格電圧と定格電力から機器固有の抵抗値を算出する場面で活躍します。
- \(P=I^2R\): 電流\(I\)と抵抗\(R\)で電力を表す式です。複数の抵抗が直列に接続されている場合など、流れる電流が共通の状況で、各抵抗での消費電力を比較する際に便利です。
- ジュール熱と電力の関係:
- 核心: ジュール熱\(Q\)が、単位時間あたりのエネルギー消費である電力\(P\)に、時間\(t\)を掛け合わせたものである (\(Q=Pt\)) という物理的意味を理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- 電力\(P\)の単位はワット(W)ですが、これはジュール毎秒(J/s)と等価です。つまり、電力とは「1秒間にどれだけの電気エネルギーが熱エネルギーに変換されるか」というエネルギー変換の「速さ」や「割合」を表す量です。
- この「速さ」に「時間」を掛けることで、その時間内に変換されたエネルギーの「総量」であるジュール熱\(Q\)が求まる、という関係性を理解すれば、\(Q=Pt\)という公式は自明のものとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 送電線の電力損失: 送電線にも抵抗があるため、電流を流すと \(P_{\text{損失}}=I^2R_{\text{送電線}}\) の電力損失(ジュール熱)が発生します。同じ電力を送る場合でも、高電圧・低電流で送る方が、低電圧・高電流で送るよりも電力損失を大幅に抑えられる理由を計算させる問題は、この問題の応用形です。
- 異なる電圧での使用: 「100V用500W」の電熱器を「200V」の電源に接続したら、消費電力や流れる電流はどうなるか、といった問題です。この場合、まず(1)のように定格値から抵抗\(R\)を求め、その抵抗値を使って新しい電圧条件での電力 (\(P=\displaystyle\frac{(200)^2}{R}\)) や電流 (\(I=\displaystyle\frac{200}{R}\)) を計算します。
- 効率を考慮した熱量計算: 電熱器で水を温める問題などで、「発生したジュール熱の〇%が水の温度上昇に使われた」といった効率が与えられる場合があります。この場合、まず\(Q=Pt\)で発生した全熱量を計算し、それに効率を掛けて実際に水に与えられた熱量を求め、比熱の公式 \(Q_{\text{水}}=mc\Delta T\) と結びつけます。
- 初見の問題での着眼点:
- 定格表示の解読: 問題文に「〇V-△W」という表示があれば、それは「電圧\(V=〇\)Vのとき、電力\(P=△\)W」という情報であり、すぐに抵抗値 \(R=\displaystyle\frac{V^2}{P}\) が計算できる「宝の山」だと認識します。
- 比較問題の条件整理: (2)のように複数の機器を比較する問題では、「何が一定で、何が違うのか」を明確にします。この問題では電圧が100Vで一定だったので、\(R \propto \displaystyle\frac{1}{P}\) の関係が使えました。もし電流が一定なら \(P \propto R\) の関係が使えます。
- 単位のチェック: 時間の単位が「分」や「時間」になっていないか、電力の単位がkWになっていないかなど、計算を始める前に必ず単位を確認し、必要ならSI基本単位(秒、W)に変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 定格電力の誤用:
- 誤解: 「500Wの電熱器」だから、どんな電圧で使っても消費電力は常に500Wだと勘違いしてしまう。
- 対策: 「定格」とは「指定された条件(定格電圧)で使った場合の性能」であると正確に理解します。電熱器の不変な特性はその「抵抗値」です。異なる電圧で使った場合の消費電力は、まず定格値から抵抗を計算し、その抵抗値と新しい電圧を使って再計算する必要がある、という手順を徹底します。
- 時間の単位換算忘れ:
- 誤解: (3)で、\(Q=500 \times 15\) のように、時間の単位を「分」のまま計算してしまう。
- 対策: 物理の計算を始める前に、与えられた物理量の単位をすべてSI基本単位に直すことを「儀式」として習慣づけます。特に「時間」は、分や時で与えられることが多いため、意識的に「秒(s)に直したか?」と自問自答する癖をつけましょう。
- 公式の混同:
- 誤解: 電力\(P\)と熱量\(Q\)の公式を混同し、単位が合わなくなる。
- 対策: 単位を意識することが最大の対策です。電力\(P\)の単位は[W] = [J/s](エネルギーの速さ)、熱量\(Q\)の単位は[J](エネルギーそのもの)です。\(Q=Pt\) という式は [J] = [J/s] × [s] となり、単位の次元が合っていることを確認できます。常に単位を意識することで、公式の形を間違えるミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)で \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) を選んだ理由:
- 選定理由: 問題で与えられているのは定格電圧\(V\)と定格電力\(P\)で、求めたいのは抵抗\(R\)です。この3つの物理量を直接結びつける公式が \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) であり、電流\(I\)を介さずに一発で答えを導けるため、最も効率的です。
- 適用根拠: 電熱器のような抵抗が主体の機器では、その抵抗値は(温度による多少の変化はあれど)機器固有の定数とみなせます。定格値は、その定数である抵抗値を算出するための基準データとして用いることが物理的に正当化されます。
- (3)で \(Q=Pt\) を選んだ理由:
- 選定理由: 求めたいのは熱量\(Q\)で、問題文に電力\(P\)と時間\(t\)が直接与えられています。この3つを最もシンプルに結びつけるのが \(Q=Pt\) です。わざわざ抵抗や電流を計算してから \(Q=\displaystyle\frac{V^2}{R}t\) や \(Q=I^2Rt\) を使うのは、遠回りになります。
- 適用根拠: この公式は、エネルギー保存則に基づいています。消費された電気エネルギー(\(Pt\))が、すべて熱エネルギー(\(Q\))に変換されると仮定した場合に成り立ちます。電熱器は熱を発生させることが目的の機器なので、この仮定は妥当です。
- (4)で \(P=IV\) を選んだ理由:
- 選定理由: 求めたいのは電流\(I\)で、与えられているのは電力\(P\)と電圧\(V\)です。この3つを直接結びつける \(P=IV\) が最も簡単な選択肢です。(1)で求めた抵抗\(R\)を使ってオームの法則 \(I=\displaystyle\frac{V}{R}\) で解くことも可能ですが、もし(1)で計算ミスをしていた場合、その影響を受けてしまうリスクがあります。与えられた情報だけで解ける \(P=IV\) の方が、より安全で直接的です。
- 適用根拠: この公式は電力の定義そのものであり、オームの法則が成り立つか否かに関わらず、ある回路部分での電圧\(V\)と電流\(I\)が分かっていれば、その部分での消費電力\(P\)を常に正しく与えます。今回は定格電圧と定格電力が与えられているため、この定義式を直接適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- べき乗の計算は慎重に: (1)や(2)で \(100^2\) のような計算が出てきます。\(100 \times 2 = 200\) のような単純なミスをしないよう、\(100^2 = 100 \times 100 = 10000\) と丁寧に計算します。特にゼロの数に注意しましょう。
- 大きな数の割り算: \(10000 \div 500\) のような計算では、まず分数の形 \(\displaystyle\frac{10000}{500}\) に直し、分母と分子のゼロを同じ数だけ消去する (\(\displaystyle\frac{100}{5}\)) と、計算が簡単になりミスが減ります。
- 有効数字の処理: 問題文で与えられた数値の有効数字を確認し、答えの有効数字をそれに合わせる習慣をつけます。この問題では「500 W」「250 W」が3桁、「100 V」も3桁と解釈できるため、答えも「20.0 Ω」「2.00 倍」「5.00 A」のように3桁で答えるのが適切です。「\(4.5 \times 10^5\) J」は2桁ですが、これは \(15\)分という数値が2桁であるため、それに合わせています。計算の最終段階で、どの数値の有効数字に合わせるべきかを判断する意識が大切です。
- 設問間の連携を意識する: (4)の別解のように、前の設問で求めた値を使って後の設問を解くことができます。これは検算にも使えるテクニックです。例えば、(4)を \(P=IV\) で解いた後、(1)で求めた\(R\)を使ってオームの法則でも計算し、答えが一致すれば(1)と(4)の両方の計算が合っている可能性が高いと判断できます。
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基本問題
397 電流
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電流の正体と電気量の計算」です。電流というマクロな現象を、自由電子というミクロな粒子の運動と結びつけて理解することが求められます。電流の定義や電気素量といった基本的な概念を正しく扱えるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の向きの定義: 電流の向きは、歴史的な経緯から「正の電荷が移動する向き」と定義されています。
- 電流の担い手: 金属中を流れる電流の正体(担い手)は、負の電荷を持つ「自由電子」です。そのため、自由電子の移動方向は電流の向きと逆になります。
- 電流と電気量の関係: 電流 \(I\) [A] は、導体の断面を単位時間(1秒)あたりに通過する電気量 \(Q\) [C] と定義されます。この関係は \(Q=It\) という式で表されます。
- 電気素量: 電子1個が持つ電気量の大きさは \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) C であり、これを電気素量と呼びます。あらゆる電気量は、この電気素量の整数倍になっています。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、電流の向きの定義と、金属中での電流の担い手が負の電荷を持つ自由電子であることを基に、その運動方向を判断します。
- (2)では、電流の定義式 \(Q=It\) を用いて、与えられた電流値と時間から、断面を通過する総電気量を計算します。
- (3)では、(2)で求めた総電気量を、電子1個の電気量の大きさ(電気素量)で割ることで、通過した電子の個数を算出します。