「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第20章】基本例題~基本問題348

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

基本例題

基本例題65 ヤングの実験

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(オ)の別解: 光路差を用いて考える解法
      • 模範解答が液体中での「波長の短縮」に着目するのに対し、別解では「光路差」という概念を用いて明線の条件式を立て直し、明線間隔を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 「屈折率\(n\)の媒質中を進む距離\(l\)」は「真空中の距離\(nl\)」に相当するという「光路長」の概念への理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 同じ現象を「波長の短縮」と「光路差」という二つの異なる視点から分析する経験は、問題解決能力を高めます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「ヤングの干渉実験における明線条件と明線間隔の導出」です。2つのスリットを通過した光が干渉しあってスクリーン上に明暗の縞模様を作る現象について、その縞模様の位置や間隔を数式で表現するプロセスを理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 波の干渉と強めあう条件(明線条件): 経路差が波長の整数倍になること。
  2. ヤングの実験における経路差の近似計算: スリット間隔がスクリーンまでの距離に比べて非常に小さい場合の幾何学的な近似。
  3. 三角関数の近似式: 角度が非常に小さい場合に成り立つ \(\sin\theta \approx \tan\theta\) という関係。
  4. 媒質中での光の波長の変化: 屈折率\(n\)の媒質中では、波長が\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)では、まず波が強めあう普遍的な条件を式で表します。
  2. (イ)では、ヤングの実験の装置の幾何学的配置から、経路差を近似的に表現します。
  3. (ウ)では、(ア)と(イ)で得られた2つの式を結びつけ、与えられた近似式を用いて明線の位置\(x\)を導出します。
  4. (エ)では、(ウ)の結果を利用して、隣りあう明線の位置の差(間隔)を計算します。
  5. (オ)では、媒質が変わることによる波長の変化が、(エ)で求めた明線間隔にどのような影響を与えるかを考察します。

問(ア)

思考の道筋とポイント
2つのスリット \(S_1\), \(S_2\) から出た光がスクリーン上の点Pで出会い、強めあって「明線」を作るための条件を問うています。2つの波が強めあうためには、その波源が同位相の場合、経路差が波長の整数倍になる必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 明線(強めあい)の条件: 経路差 = \(m\lambda\) (ここで \(m=0, 1, 2, \dots\))
  • 暗線(弱めあい)の条件: 経路差 = \((m+\displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (ここで \(m=0, 1, 2, \dots\))
  • 本問では明線の条件を問われているため、前者の式を用います。

具体的な解説と立式
スリット\(S_1\)と\(S_2\)から出る光は、単一のスリット\(S_0\)を通過した光が分かれたものであるため、互いに位相がそろっています(同位相)。これらの同位相の2つの光がスクリーン上の点Pで干渉して強めあう(明線となる)条件は、点Pまでの経路の差、すなわち経路差 \(S_2P – S_1P\) が、波長\(\lambda\)の整数倍になることです。問題文でm番目の明線と指定されているので、この整数として\(m\)を用います。
$$ S_2P – S_1P = m\lambda $$

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(同位相の波源が強めあう条件)
計算過程

この設問では、条件式を立てるだけで計算は不要です。

この設問の平易な説明

2つの波がぴったり重なって強くなる(明るくなる)ためには、波の「山と山」または「谷と谷」が出会う必要があります。そうなるためには、2つの波が進む「道のりの差」が、ちょうど波1個分、2個分、3個分…というように、波長の長さのぴったり整数倍になっていればよいのです。問題では「m番目」の明線と言われているので、道のりの差は「\(m \times \text{波長}\)」と表せます。

結論と吟味

m番目の明線の条件は、経路差が\(m\lambda\)となることです。これは干渉の基本原理そのものであり、妥当な結果です。

解答 (ア) \(m\lambda\)

問(イ)

思考の道筋とポイント
次に、この経路差 \(S_2P – S_1P\) を、実験装置の寸法であるスリット間隔\(d\)と角度\(\theta\)を用いて具体的に表します。問題文にある「\(d\)が\(L\)に比べて十分小さい」という条件が、幾何学的な近似を可能にする鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 近似条件: \(d \ll L\) のとき、2本の光線 \(S_1P\) と \(S_2P\) はほぼ平行とみなせます。
  • 経路差の近似: このとき、経路差は\(S_1\)から\(S_2P\)に下ろした垂線\(S_1A\)によって作られる線分\(S_2A\)の長さで近似できます。
  • 三角比の利用: 直角三角形\(S_1AS_2\)に着目し、三角比を用いて\(S_2A\)の長さを求めます。

具体的な解説と立式
「\(d\)が\(L\)に比べて十分小さい」という条件は、スリット間隔がスクリーンまでの距離に比べて非常に小さいことを意味します。このため、2つのスリットから点Pに向かう2本の光線 \(S_1P\) と \(S_2P\) は、ほぼ平行であるとみなすことができます。
この近似のもとで、スリット\(S_1\)から光線\(S_2P\)に垂線を下ろし、その交点をAとすると、2つの光線の経路差 \(S_2P – S_1P\) は、線分\(S_2A\)の長さにほぼ等しくなります。
$$ S_2P – S_1P \approx S_2A $$
図中の直角三角形\(S_1AS_2\)に注目すると、辺\(S_1S_2\)の長さは\(d\)であり、\(\angle AS_2S_1 = \theta\) となっています。したがって、三角比の定義から、
$$ S_2A = d\sin\theta $$
よって、経路差は \(d\sin\theta\) と表すことができます。

使用した物理公式

  • 三角比の定義 (\(\sin\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}}\))
計算過程

この設問では、式を導出するだけで計算は不要です。

この設問の平易な説明

スリットからスクリーンまでがとても遠いので、2本の光の筋はほとんど平行線のように進んでいると考えることができます。このとき、2本の光の「道のりの差」は、図に描かれている小さな直角三角形の辺\(S_2A\)の長さに相当します。三角関数を使うと、この辺の長さは「\(d \times \sin\theta\)」と計算できます。

結論と吟味

ヤングの実験における経路差を装置の寸法で表す、非常に重要で基本的な近似式です。この近似によって、後の計算が大幅に簡略化されます。

解答 (イ) \(d\sin\theta\)

問(ウ)

思考の道筋とポイント
(ア)と(イ)で求めた2種類の経路差の表現は、どちらも同じ物理量を表しているので、等しいとおくことができます。これに、問題文で与えられた近似式 \(\sin\theta \approx \tan\theta = \frac{x}{L}\) を適用することで、スクリーン上の明線の位置\(x\)を、\(\lambda, m, d, L\)といった測定可能な量で表すことを目指します。
この設問における重要なポイント

  • 2つの経路差表現の結合: (ア)と(イ)の結果より、\(d\sin\theta = m\lambda\) が成り立ちます。
  • 近似式の適用: \(\theta\)が十分小さいという条件の下で、\(\sin\theta\)を\(\tan\theta\)で置き換えます。
  • 図形からの関係式: 図中の大きな直角三角形から、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{x}{L}\) の関係を読み取ります。

具体的な解説と立式
(ア)で求めた明線の条件式と、(イ)で求めた経路差の近似式を結びつけると、m番目の明線が観測される条件は次のように表せます。
$$ d\sin\theta = m\lambda \quad \cdots ① $$
ここで、問題文の指示通り、\(\theta\)が十分小さいときに成り立つ近似式 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を用います。
さらに、図において、スリットの中点とスクリーンの中点M、そして点Pを結んでできる大きな直角三角形を考えると、\(\tan\theta\)は次のように表せます。
$$ \tan\theta = \frac{x}{L} \quad \cdots ② $$
したがって、\(\sin\theta \approx \displaystyle\frac{x}{L}\) という近似が成り立ちます。この関係を①式に代入します。
$$ d \cdot \frac{x}{L} = m\lambda $$

使用した物理公式

  • (ア)と(イ)の導出結果
  • 三角関数の近似 (\(\sin\theta \approx \tan\theta\))
計算過程

上記で立式した \(d \displaystyle\frac{x}{L} = m\lambda\) を \(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
d \frac{x}{L} &= m\lambda \\[2.0ex]
x &= m \frac{L\lambda}{d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(ア)でわかった「道のりの差 = \(m\lambda\)」と、(イ)でわかった「道のりの差 = \(d\sin\theta\)」は、結局同じものを指しているので、イコールで結ぶことができます。つまり「\(d\sin\theta = m\lambda\)」です。
次に、角度\(\theta\)がとても小さいときは「\(\sin\theta\)は\(\tan\theta\)とほぼ同じ」という便利な近似が使え、図を見ると「\(\tan\theta\)は\(x/L\)」だとわかります。
これらをすべて合体させると「\(d \times (x/L) = m\lambda\)」という式が出来上がります。この式を「\(x = \dots\)」の形に整理すれば、答えが求まります。

結論と吟味

m番目の明線のスクリーン中心からの距離\(x\)を表す公式が導かれました。\(m=0\)のとき\(x=0\)となり、スクリーン中央が0番目の明線であることと一致します。また、\(m\)が大きくなるほど\(x\)も大きくなり、中心から離れた位置に高次の明線が現れることを正しく示しています。

解答 (ウ) \(m\displaystyle\frac{L\lambda}{d}\)

問(エ)

思考の道筋とポイント
隣りあう明線の間隔\(\Delta x\)を求めます。(ウ)でm番目の明線の位置\(x_m\)が分かったので、その一つ外側にある(m+1)番目の明線の位置\(x_{m+1}\)を計算し、その差を取ることで間隔を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 明線間隔の定義: \(\Delta x = x_{m+1} – x_m\)
  • (ウ)で導出した式のmに、それぞれ\(m\)と\(m+1\)を代入して差を計算します。

具体的な解説と立式
(ウ)で求めたm番目の明線の位置を\(x_m\)と書くことにします。
$$ x_m = m \frac{L\lambda}{d} $$
同様に、その隣の(m+1)番目の明線の位置\(x_{m+1}\)は、上の式の\(m\)を\(m+1\)に置き換えることで得られます。
$$ x_{m+1} = (m+1) \frac{L\lambda}{d} $$
隣りあう明線の間隔\(\Delta x\)は、この2つの位置の差として定義されます。
$$ \Delta x = x_{m+1} – x_m $$

使用した物理公式

  • (ウ)で導出した明線の位置の公式
計算過程

上記で立てた差の式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= x_{m+1} – x_m \\[2.0ex]
&= (m+1) \frac{L\lambda}{d} – m \frac{L\lambda}{d} \\[2.0ex]
&= \left( (m+1) – m \right) \frac{L\lambda}{d} \\[2.0ex]
&= 1 \cdot \frac{L\lambda}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{L\lambda}{d}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スクリーンにできる明るい線は、等しい間隔で並んでいます。その間隔を求めるには、例えば「(m+1)番目の線の位置」から「m番目の線の位置」を引き算すればよいです。(ウ)で求めた位置の式の\(m\)に、\(m+1\)を代入したものから、\(m\)をそのまま代入したものを引きます。すると、\(m\)の部分がうまく消えて、間隔を表すスッキリした式が残ります。

結論と吟味

導出された明線間隔\(\Delta x\)は、\(m\)に依存しない定数となりました。これは、ヤングの実験で観測される明線が等間隔に並ぶという実験事実と一致しており、妥当な結果です。この式は、波長が長いほど、またスクリーンが遠いほど間隔が広がり、スリット間隔が狭いほど間隔が広がることを示しています。

解答 (エ) \(\displaystyle\frac{L\lambda}{d}\)

問(オ)

思考の道筋とポイント
実験装置全体を屈折率\(n\)の液体で満たした場合の変化を考えます。光が真空中(または空気中)から屈折率\(n\)の媒質に入ると、その速さが遅くなり、結果として波長が短くなります。この波長の変化が、明線間隔にどう影響するかを考察します。
この設問における重要なポイント

  • 媒質中での波長の変化: 屈折率\(n\)の媒質中では、光の波長は真空中の\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍、すなわち \(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) となります。
  • 明線間隔の公式への適用: (エ)で求めた明線間隔の公式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{d}\) に含まれる波長\(\lambda\)が、この新しい波長\(\lambda’\)に置き換わります。

具体的な解説と立式
装置全体を屈折率\(n\)の液体で満たすと、光の速さは真空中の\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になります。光の振動数\(f\)は光源によって決まり、媒質中を進んでも変化しません。波の基本式 \(v=f\lambda\) の関係から、液体中での光の速さを\(v’\)、波長を\(\lambda’\)とすると、
$$ v’ = \frac{v}{n} $$
であり、
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \frac{v’}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{v/n}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n} \cdot \frac{v}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda}{n}
\end{aligned}
$$
となります。つまり、液体中での波長は\(\displaystyle\frac{\lambda}{n}\)に短縮されます。

(エ)で求めた明線間隔\(\Delta x\)の式は、波長\(\lambda\)に比例します。したがって、液体で満たした後の新しい明線間隔を\(\Delta x’\)とすると、その式は\(\lambda\)を\(\lambda’\)に置き換えることで得られます。
$$ \Delta x’ = \frac{L\lambda’}{d} $$

使用した物理公式

  • 屈折率と波長の関係 (\(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\))
  • (エ)で導出した明線間隔の公式
計算過程

上記で立てた式に、\(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を代入して、元の間隔\(\Delta x\)との関係を調べます。
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= \frac{L\lambda’}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{L}{d} \left( \frac{\lambda}{n} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n} \left( \frac{L\lambda}{d} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n} \Delta x
\end{aligned}
$$
この結果から、液体で満たしたときの明線の間隔は、元の間隔の\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になることがわかります。

この設問の平易な説明

水のような液体の中では、光の波はギュッと縮みます。波の長さ(波長)が、元の\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍に短くなります。(エ)で見たように、明るい線の間隔は波長に比例するので、波長が\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になれば、当然、線の間隔も\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になります。

結論と吟味

屈折率\(n\)は1より大きいので、\(\displaystyle\frac{1}{n}\)は1より小さくなります。したがって、液体で満たすと明線の間隔は狭くなるという、物理的に妥当な結果が得られました。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{1}{n}\)
別解: 光路差を用いて考える解法

思考の道筋とポイント
主たる解法では「波長の短縮」に着目しましたが、ここでは「光路差」という概念を用いてアプローチします。屈折率\(n\)の媒質中では、幾何学的な経路差に屈折率\(n\)を掛けた「光路差」が、真空中の波長\(\lambda\)の整数倍になることが強めあいの条件となります。この条件から明線間隔を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 光路差の定義: 光路差 = (屈折率) × (経路差)
  • 液体中での明線条件: 光路差 = \(m\lambda\) (ここで\(\lambda\)は真空中の波長)
  • 液体中での経路差は、真空中の場合と同じく \(d\displaystyle\frac{x’}{L}\) で近似できます。

具体的な解説と立式
屈折率\(n\)の液体中で光が干渉する場合、その条件は「光路差」で考えるのが本質的です。光路差とは、実際の経路長を真空中の長さに換算したもので、「(屈折率) × (経路差)」で計算されます。
液体中でのm番目の明線の位置を\(x’_m\)とし、そのときの経路差を\(\Delta l’\)とすると、光路差は\(n \Delta l’\)となります。明線の条件は、この光路差が真空中の波長\(\lambda\)の整数倍になることです。
$$ n \Delta l’ = m\lambda $$
液体中でも装置の幾何学的な配置は変わらないため、経路差\(\Delta l’\)は、真空中の場合と同様に近似できます。
$$ \Delta l’ \approx d \frac{x’_m}{L} $$
これらを組み合わせることで、液体中での明線の条件式を立てることができます。
$$ n \left( d \frac{x’_m}{L} \right) = m\lambda $$

使用した物理公式

  • 光路差を用いた干渉条件
  • ヤングの実験における経路差の近似式
計算過程

上記で立てた条件式を、まず\(x’_m\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
n \left( d \frac{x’_m}{L} \right) &= m\lambda \\[2.0ex]
x’_m &= m \frac{L\lambda}{nd}
\end{aligned}
$$
これが液体中でのm番目の明線の位置を表す式です。

次に、隣りあう明線の間隔\(\Delta x’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= x’_{m+1} – x’_m \\[2.0ex]
&= (m+1) \frac{L\lambda}{nd} – m \frac{L\lambda}{nd} \\[2.0ex]
&= \frac{L\lambda}{nd} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n} \left( \frac{L\lambda}{d} \right)
\end{aligned}
$$
元の間隔 \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{d}\) と比較すると、
$$ \Delta x’ = \frac{1}{n} \Delta x $$
となり、明線の間隔は元の\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になることがわかります。

この設問の平易な説明

物理には「光路差」という考え方があります。液体の中を進む光は、外の世界から見ると「実際に進んだ道のり × 屈折率\(n\)」だけ進んだのと同じ効果があると見なせます。この「見かけの道のりの差」が、真空での波長のちょうど整数倍になるときに、光は強めあって明るくなります。この考え方を使って計算しても、やはり明るい線の間隔は元の\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になる、という同じ結論にたどり着きます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。「波長の短縮」と「光路差」は、媒質中の光の振る舞いを説明する上での表裏一体の概念であり、どちらのアプローチでも正しく現象を記述できることを確認できます。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{1}{n}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 干渉の基本条件と経路差の近似計算:
    • 核心: この問題の根幹は、2つの波が強めあう(明線)条件が「経路差 = \(m\lambda\)」であることを理解し、ヤングの実験の幾何学的配置からその「経路差」を近似的に求めることです。
    • 理解のポイント:
      • 普遍的な条件(原因): 波の干渉という現象の根本原理は、経路差が波長の整数倍か半整数倍か、という点に尽きます。これが全ての出発点です。
      • 具体的な計算(手段): ヤングの実験では、\(d \ll L\) という条件下で、経路差を \(d\sin\theta\) と近似し、さらに \(\sin\theta \approx \tan\theta = \displaystyle\frac{x}{L}\) と近似することで、測定可能な量(\(d, L, x\))と波長\(\lambda\)を結びつけます。この一連の近似計算の流れをマスターすることが不可欠です。
      • 結論: 最終的に得られる明線の位置 \(x = m\displaystyle\frac{L\lambda}{d}\) や明線間隔 \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{d}\) は、この普遍的な条件と具体的な近似計算の組み合わせから導かれる結果です。
  • 媒質中での光の振る舞い:
    • 核心: 屈折率\(n\)の媒質中では、光の波長が\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍に短縮されるという事実を理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 波の基本式: \(v=f\lambda\) という関係において、媒質が変わっても振動数\(f\)は不変です。屈折率\(n\)の媒質では速さ\(v\)が\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になるため、それに伴い波長\(\lambda\)も\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になります。
      • 光路長という視点: (オ)の別解で用いた「光路長」の概念は、この現象をより本質的に捉えるための強力なツールです。屈折率\(n\)の媒質中を距離\(l\)進むことは、真空中で距離\(nl\)進むことに相当するという考え方は、薄膜の干渉など他の問題にも広く応用できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 回折格子: ヤングの実験のスリットを多数並べたものが回折格子です。経路差の考え方は全く同じで、隣りあうスリットからの経路差が \(d\sin\theta\) となり、明線の条件も \(d\sin\theta = m\lambda\) となります。ただし、スリット数が多いことで明線がよりシャープになる点が異なります。
    • 薄膜の干渉: シャボン玉や水に浮いた油膜が色づいて見える現象です。この場合、膜の表面で反射する光と裏面で反射する光の干渉を考えます。経路差は主に膜の厚さによって決まり(往復分の \(2d\))、反射時の位相変化(固定端反射か自由端反射か)を考慮に入れる必要があります。
    • ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置いたときに現れる同心円状の縞模様です。この場合、レンズの下面で反射する光と平面ガラスの上面で反射する光の干渉を考えます。経路差は空気層の厚さによって決まります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. どの波とどの波の干渉か?: まず、干渉しあう2つの波がどこから来たものなのかを特定します(例: ヤングの実験なら2つのスリット、薄膜なら表面と裏面)。
    2. 経路差はどこで生じるか?: 次に、2つの波の経路差が、装置のどの部分の寸法によって決まるのかを図から読み取ります(例: スリット間隔\(d\)、膜の厚さ\(d\)など)。
    3. 位相の変化はあるか?: 反射を伴う干渉(薄膜やニュートンリング)では、屈折率の大小関係を確認し、反射時に位相が\(\pi\)ずれる(波長の半分だけずれる)かどうかを必ずチェックします。ヤングの実験ではこの考慮は不要です。
    4. 近似は使えるか?: ヤングの実験のように、特定の条件下で使える近似式(\(\sin\theta \approx \tan\theta\)など)がないかを確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 経路差の近似式の混同:
    • 誤解: ヤングの実験の経路差を、常に\(d\sin\theta\)と思い込んでしまう。これは\(d \ll L\)の近似が成り立つ場合のみです。もしこの条件がなければ、三平方の定理を使って厳密に経路差を計算する必要があります。
    • 対策: なぜ \(d\sin\theta\) と近似できるのか、その理由(\(S_1P\)と\(S_2P\)がほぼ平行とみなせるから)をセットで理解しておくことが重要です。理由を理解していれば、近似が使えない状況にも対応できます。
  • mの扱いの混乱:
    • 誤解: 明線の条件 \(m\lambda\) の\(m\)に、0を含めるべきか1から始めるべきか混乱する。
    • 対策: スクリーン中央(\(x=0, \theta=0\))では経路差が0なので、\(m=0\)の明線(中央明線)が存在します。したがって、ヤングの実験では\(m=0, 1, 2, \dots\)と考えるのが自然です。問題文で「m番目」と指定されている場合は、その指示に従います。
  • 媒質変化の影響の誤解:
    • 誤解: 液体で満たしたときに、スリット間隔\(d\)やスクリーンまでの距離\(L\)まで変化するように錯覚してしまう。
    • 対策: 変化するのは光の性質(波長)だけであり、装置の幾何学的な寸法(\(d, L\))は変わらないことを明確に意識します。変化する量と不変な量を区別することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 経路差の2段階近似:
    • 選定理由: (イ)と(ウ)で行った近似は、複雑な平方根の計算を避け、最終的に明線の位置\(x\)を簡単な分数式で表現するために不可欠なステップです。
    • 適用根拠:
      1. \(S_2P – S_1P \approx d\sin\theta\) の適用根拠: 物理的な状況設定(\(d \ll L\))に基づいています。これにより、2つの光路がほぼ平行とみなせ、幾何学的な取り扱いが容易になります。
      2. \(\sin\theta \approx \tan\theta\) の適用根拠: 数学的な近似です。干渉縞が観測されるのは通常、スクリーン中央付近の非常に小さい角度の範囲なので、この近似が非常に良い精度で成り立ちます。これにより、角度\(\theta\)を測定しやすい長さ(\(x, L\))に置き換えることができます。
  • 光路差の導入:
    • 選定理由: (オ)の別解で光路差を用いたのは、媒質が異なる複数の経路を光が進むような、より複雑な問題にも対応できる普遍的な考え方を学ぶためです。
    • 適用根拠: 光の位相の進み方は、実際の距離だけでなく、その空間の屈折率にも依存します。光路長(または光路差)は、この効果を取り入れて位相のずれを正しく評価するための物理量です。異なる媒質をまたぐ光の干渉を考える際には、波長の短縮で考えるよりも光路差で考える方が、統一的に問題を扱える場合が多く、より本質的なアプローチと言えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: (エ)の明線間隔の計算のように、具体的な数値を代入する前に、文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。\(x_{m+1} – x_m\) の計算では、共通因数 \(\displaystyle\frac{L\lambda}{d}\) でくくることで、計算が非常に簡潔になり、ミスを防げます。
  • 比を利用する: (オ)のように「何倍になるか」を問う問題では、変化後の量と変化前の量の比を取るのが最も確実で速い方法です。
    $$
    \begin{aligned}
    \frac{\Delta x’}{\Delta x} &= \frac{L\lambda’/d}{L\lambda/d} \\[2.0ex]
    &= \frac{\lambda’}{\lambda} \\[2.0ex]
    &= \frac{1}{n}
    \end{aligned}
    $$
    このように比を考えると、共通する部分(\(L, d\))が自動的に約分され、本質的な変化(波長の変化)だけに注目することができます。
  • 近似の妥当性を意識する: ヤングの実験の公式は、あくまで近似の産物です。例えば、もし \(d\) と \(L\) が同程度の大きさだったら、この公式は使えません。どのような条件下でその公式が成り立つのかを常に意識することで、公式の誤用を防ぎ、物理現象への深い理解につながります。

基本例題66 回折格子

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「回折格子による光の干渉」です。多数の微細なスリット(みぞ)を等間隔に並べた回折格子に光を当てたとき、特定の方向にだけ強い光が観測される現象について、その条件を理解し、定量的な計算に応用することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 波の回折と干渉: スリットを通過した光が広がり(回折)、互いに干渉しあう現象の理解。
  2. 強めあいの条件: 隣りあうスリットから来る光の経路差が、波長の整数倍になること。
  3. 回折格子における経路差の計算: 幾何学的な関係から、経路差を格子定数(みぞの間隔)\(d\)と回折角\(\theta\)で表現すること。
  4. 単位の換算: 計算結果を問題の要求する単位(例: 1cmあたりの本数)に正しく変換する能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)では、図を参考にして、隣りあうスリット(みぞ)から出て特定の方向に進む光の経路差を、格子定数\(d\)と回折角\(\theta\)を用いて幾何学的に求めます。
  2. (イ)では、多数の光が特定の方向で強めあうための普遍的な条件(経路差 = 整数 × 波長)を式で表します。
  3. (ウ)では、(ア)と(イ)で立てた関係式に、問題で与えられた具体的な数値を代入して、まず格子定数\(d\)を計算します。その後、求められた\(d\)の値から、1cmあたりに何本のみぞがあるかを計算します。

問(ア)

思考の道筋とポイント
隣りあう2つの点AとBから出て、角度\(\theta\)の方向に進む平行な光線の間の「光路差」を求めます。回折格子から観測点までは非常に遠いと考えるため、各点から出る光は平行に進むとみなせます。このとき、光路差は幾何学的に求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 平行光線の仮定: 回折格子から観測点(スクリーン)までの距離は、格子定数\(d\)に比べて非常に大きいので、点A, B, C…から同じ方向に進む光は互いに平行とみなせます。
  • 光路差の作図: 点Aから、点Bを通る光線に垂線を下ろし、その交点をHとします。このとき、光路差は線分BHの長さに等しくなります。
  • 三角比の利用: 拡大図に示された直角三角形ABHに着目し、三角比を用いてBHの長さを求めます。

具体的な解説と立式
問題の図にあるように、点Aと点Bから角度\(\theta\)の方向へ進む光は平行光線と考えることができます。点Aから、点Bを出て進む光線に下ろした垂線の足をHとすると、2つの光の光路差は線分BHの長さに等しくなります。

拡大図の直角三角形ABHに注目します。斜辺ABの長さは、みぞの間隔(格子定数)\(d\)に等しいです。また、\(\angle BAH\)は\(\theta\)と等しくなります(平行線の錯角の関係から導かれます)。

したがって、三角比の定義より、光路差であるBHの長さは次のように表せます。
$$ \text{光路差} = BH = AB \sin\theta = d\sin\theta $$
問題文では「ガラス板は空気中にある」と解釈できるため、屈折率は1であり、光路差と経路差は等しくなります。

使用した物理公式

  • 三角比の定義 (\(\sin\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}}\))
計算過程

この設問では、式を導出するだけで計算は不要です。

この設問の平易な説明

遠くから見ると、Aから出る光とBから出る光は平行に進んでいるように見えます。このとき、2つの光が進む「道のりの差」は、図の拡大円の中に描かれている直角三角形の辺BHの長さに相当します。三角関数を使うと、この辺の長さは「\(d \times \sin\theta\)」と計算できます。

結論と吟味

回折格子における隣りあう光の経路差(光路差)を表す基本式です。この式が、回折格子の問題を解く上での出発点となります。

解答 (ア) \(d\sin\theta\)

問(イ)

思考の道筋とポイント
点Aと点Bからの光が強めあう条件を考えます。波の干渉において、同位相の波源から出た波が強めあうのは、その経路差が波長の整数倍になるときです。回折格子では、A, Bだけでなく、C, D, …すべての点からの光がこの条件を満たすことで、特定の方向に非常に強い光が観測されます。
この設問における重要なポイント

  • 強めあいの条件: 経路差 = \(m\lambda\) (ここで\(m=0, 1, 2, \dots\)は「次数」と呼ばれる整数)
  • (ア)で求めた経路差の表現と組み合わせることで、回折格子の基本公式が得られます。

具体的な解説と立式
点Aと点Bから出る光は、もともと1つの平行光線から来ているため、同位相です。これらの光が角度\(\theta\)の方向で強めあう条件は、(ア)で求めた光路差(経路差)\(d\sin\theta\)が、光の波長\(\lambda\)の整数倍になることです。

問題文の指示に従い、この整数を\(m\)とすると、強めあいの条件式は次のようになります。
$$ d\sin\theta = m\lambda $$
この式は、回折格子の「明線の条件式」として知られています。

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(同位相の波源が強めあう条件)
計算過程

この設問では、条件式を立てるだけで計算は不要です。

この設問の平易な説明

Aからの光とBからの光が強めあって明るく見えるためには、(ア)で求めた「道のりの差」が、波長の長さのちょうど1倍、2倍、3倍…といった整数倍になる必要があります。この整数を\(m\)とすると、強めあいの条件は「(ア)の答え = \(m\lambda\)」と表すことができます。

結論と吟味

回折格子の基本公式 \(d\sin\theta = m\lambda\) が導かれました。これは、ヤングの実験の式と非常によく似ていますが、回折格子では多数のスリットからの光が干渉するため、明線がより鋭く、はっきりと分離して観測される点が特徴です。

解答 (イ) \(m\lambda\)

問(ウ)

思考の道筋とポイント
(イ)で導出した回折格子の条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を用いて、具体的な数値を計算する問題です。まず、与えられた数値(\(\lambda, \theta, m\))を代入して、みぞの間隔(格子定数)\(d\)を求めます。次に、その\(d\)の値を使って「1cmあたりに何本のみぞがあるか」を計算します。これは、1cmを\(d\)で割ることで求められます。
この設問における重要なポイント

  • 単位の統一: 計算を行う前に、すべての物理量を基本単位(メートル[m])に揃えることが重要です。
  • 逆数の計算: 「1cmあたりの本数」は、「1本あたりの長さ(cm)」の逆数になります。単位の扱いに注意が必要です。

具体的な解説と立式
(イ)で導出した条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を、みぞの間隔\(d\)について解きます。
$$ d = \frac{m\lambda}{\sin\theta} $$
この式に、問題文で与えられた値を代入します。

  • 波長: \(\lambda = 5.2 \times 10^{-7}\) [m]
  • 次数: \(m = 2\)
  • 角度とsinの値: \(\theta = 3.0^\circ\), \(\sin 3.0^\circ = 0.052\)

これらの値を代入して、まず\(d\)をメートル単位で計算します。

次に、1cmあたりに刻まれたみぞの数\(N\)を求めます。これは、1cm (\(= 1.0 \times 10^{-2}\) m) という長さを、みぞ1本分の間隔\(d\) [m] で割ることで計算できます。
$$ N = \frac{1.0 \times 10^{-2}}{d} $$
あるいは、まず\(d\)をcm単位に変換してから、その逆数を取る方法もあります。
$$ d \text{ [cm]} = d \text{ [m]} \times 100 $$
$$ N = \frac{1}{d \text{ [cm]}} $$
後者の方法で計算を進めます。

使用した物理公式

  • 回折格子の条件式: \(d\sin\theta = m\lambda\)
計算過程

まず、格子定数\(d\)をメートル単位で求めます。
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{m\lambda}{\sin\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2 \times (5.2 \times 10^{-7})}{0.052} \\[2.0ex]
&= \frac{10.4 \times 10^{-7}}{5.2 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 10^{-5} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、この\(d\)をcm単位に変換します。
$$
\begin{aligned}
d \text{ [cm]} &= (2.0 \times 10^{-5} \text{ [m]}) \times 100 \text{ [cm/m]} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 10^{-3} \text{ [cm]}
\end{aligned}
$$
最後に、1cmあたりのみぞの本数\(N\)を求めます。これは\(d\) [cm] の逆数なので、
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{1}{d \text{ [cm]}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2.0 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]
&= 0.5 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^2 \text{ [本/cm]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、(イ)で立てた公式を使って、みぞ1本分の幅\(d\)が何メートルなのかを計算します。問題に書かれている数字を公式に当てはめて計算すると、\(d\)が求まります。

次に、この\(d\)の値をメートルからセンチメートルに直します。

最後に、「1cmの中に、この幅\(d\) [cm] のみぞが何本入るか?」を考えます。これは、単純に「1 ÷ \(d\)」を計算すればよいので、逆数をとって答えを求めます。

結論と吟味

1cmあたり500本のみぞが刻まれているという結果が得られました。これは回折格子として現実的な値です。計算過程で単位を正しく扱うこと、特に最後の逆数計算がポイントとなります。

解答 (ウ) \(5.0 \times 10^2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 回折格子の干渉条件:
    • 核心: この問題の根幹は、回折格子において隣りあうスリット(みぞ)から来る光が特定の方向で強めあう条件が「\(d\sin\theta = m\lambda\)」という一つの式で表されることを理解し、応用することです。
    • 理解のポイント:
      • 経路差の導出(原因): ヤングの実験と同様に、隣りあう波源からの光が平行に進むと仮定したときの経路差が、幾何学的に \(d\sin\theta\) となることが全ての出発点です。この導出過程を自分で再現できることが重要です。
      • 強めあいの条件(法則): 多数の波が強めあうためには、隣りあう波同士の位相がすべて揃う必要があります。そのためには、経路差が波長の整数倍(\(m\lambda\))になるという普遍的な干渉の法則が適用されます。
      • 公式の成立: 上記の2つを組み合わせることで、回折格子の問題を解くための万能ツールである「\(d\sin\theta = m\lambda\)」という公式が完成します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ヤングの実験: スリットが2つだけの場合です。強めあいの条件式は \(d\sin\theta = m\lambda\) と同じ形ですが、ヤングの実験ではさらに \(\sin\theta \approx \tan\theta = \displaystyle\frac{x}{L}\) という近似を用いて、スクリーン上の位置\(x\)を求める問題が多いです。
    • X線の結晶回折(ブラッグの反射): 結晶格子を一種の立体的な回折格子とみなし、X線が原子の層で反射(散乱)される際の干渉を考えます。この場合、強めあいの条件は「ブラッグの条件」として知られる \(2d\sin\theta = m\lambda\) という式で表されます。経路差の考え方は共通していますが、幾何学的な状況が異なるため式も変わります。
    • スペクトル分析: 白色光を回折格子に入射させると、光が波長ごとに異なる角度\(\theta\)に回折されるため、虹のようなスペクトルが観測されます。条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) から、波長\(\lambda\)が長い光(赤色)ほど大きく曲がることがわかります。この性質を利用して、未知の光に含まれる波長を分析する問題に応用されます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 格子定数\(d\)は与えられているか?: 問題文に「1cmあたりN本」のように与えられている場合、まず格子定数 \(d = \displaystyle\frac{1}{N}\) [cm] を計算し、メートルに変換する作業から始めます。逆に、本問のように\(d\)を求める場合は、最後に逆数をとって「1cmあたりの本数」に変換する必要があります。
    2. どの次数の光か?: 条件式の\(m\)(次数)が何番目なのかを問題文から正確に読み取ります。\(m=0\)は入射方向と同じ向きに進む光(中央の明線)、\(m=1\)は1次の回折光、\(m=2\)は2次の回折光を指します。
    3. 単位は何か?: 波長は通常ナノメートル(nm)やメートル(m)、格子定数はミリメートル(mm)やセンチメートル(cm)で与えられることが多いです。計算前にすべての単位をSI基本単位(メートル)に統一するのが最も安全な方法です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 格子定数\(d\)の単位ミス:
    • 誤解: 「1cmあたりN本」という数値を、そのまま\(d\)として計算式に入れてしまう。
    • 対策: \(d\)は「みぞ1本あたりの間隔(長さ)」であり、「1cmあたりの本数」の逆数であることを強く意識します。まず \(d = \displaystyle\frac{1}{N}\) [cm] を計算し、さらに \(d = \displaystyle\frac{1}{N} \times 10^{-2}\) [m] とメートルに変換する、という手順を徹底しましょう。
  • sin\(\theta\)と\(\theta\)の混同:
    • 誤解: ヤングの実験でよく使う近似 \(\sin\theta \approx \theta\) を、回折格子の問題でも無条件で使ってしまう。
    • 対策: 回折格子では、回折角\(\theta\)が比較的大きくなる場合も多く、安易な近似は危険です。問題文で\(\sin\theta\)の値が直接与えられている場合は、必ずその値を使いましょう。近似が許されるのは、\(\theta\)が非常に小さい場合に限られます。
  • 計算の桁間違い:
    • 誤解: \(10^{-7}\)や\(10^{-2}\)といった指数計算でミスをする。
    • 対策: (ウ)の計算のように、まず係数部分(数字の部分)と指数部分(10のべき乗の部分)を分けて計算するのが有効です。例えば、\(\displaystyle\frac{2 \times 5.2}{0.052}\) と \(\displaystyle\frac{10^{-7}}{1}\) のように分離して考え、最後に合体させると、桁数の間違いを減らせます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 回折格子の条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\):
    • 選定理由: この問題は、回折格子による光の干渉という典型的な状況設定であり、この現象を記述する基本法則は \(d\sin\theta = m\lambda\) の一択です。問題文に「回折格子」「みぞの間隔」「角度\(\theta\)」「波長\(\lambda\)」「次数\(m\)」といったキーワードが出てきた瞬間に、この公式を適用することを決定します。
    • 適用根拠: この公式は、「隣りあう波源からの光の経路差が波長の整数倍になるとき、すべての波源からの光が強めあう」という、波の干渉における最も基本的な原理に基づいています。回折格子に刻まれた無数のみぞは、すべて同位相の波源として振る舞うため、この条件が満たされる方向にのみ、光のエネルギーが集中して強い明線が観測されるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位変換を最初に行う: 計算を始める前に、問題で与えられたすべての数値をSI基本単位(この場合はメートル)に変換してメモしておくことを習慣づけましょう。
    • \(\lambda = 5.2 \times 10^{-7}\) [m]
    • 求める\(d\)も[m]で出す。
    • 最終的に「1cmあたり」と聞かれているので、\(1 \text{ cm} = 10^{-2} \text{ m}\) を使う。

    このように最初に単位を整理しておけば、計算途中で混乱することがなくなります。

  • 指数の計算を丁寧に行う:
    (ウ)の計算 \(\displaystyle\frac{2 \times 5.2 \times 10^{-7}}{0.052}\) では、分母を指数形式に直すとミスが減ります。\(0.052 = 5.2 \times 10^{-2}\) と書き換えることで、式は \(\displaystyle\frac{2 \times 5.2 \times 10^{-7}}{5.2 \times 10^{-2}}\) となります。これにより、5.2が約分で消えることが一目瞭然となり、指数部分は \(10^{-7} \div 10^{-2} = 10^{-7 – (-2)} = 10^{-5}\) と、指数の法則に従って安全に計算できます。
  • 逆数計算は最後に行う: 「1cmあたりの本数」を求める問題では、まず格子定数\(d\)を[cm]単位で正確に計算し、その値を確定させてから、最後に「\(1 \div d\)」の計算を行うのが最も明快です。途中で逆数を考えると、式が複雑になりがちです。

基本例題67 薄膜による光の干渉

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「薄膜による光の干渉」です。シャボン玉や水面に浮いた油膜が色づいて見える現象の原理を扱います。光が波としての性質を持つことを示す、重要な現象の一つです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 反射における位相変化: 光が屈折率の異なる媒質の境界で反射する際、屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ向かうときに位相が\(\pi\)(半波長分)ずれる(逆になる)こと。逆の場合は位相は変化しません。
  2. 光路差: 異なる経路を進む光が干渉を考える際には、単なる経路の長さの差(経路差)ではなく、媒質の屈折率を考慮した「光路差」で比較する必要があること。光路差は「屈折率 \(\times\) 経路差」で計算されます。
  3. 干渉条件: 2つの光の位相差が、波長の整数倍か半整数倍かによって、強めあうか弱めあうかが決まること。この位相差は「光路差による位相差」と「反射による位相差」の合計で決まります。
  4. 幾何学的な考察: 薄膜を往復する光の経路差を、図形と三角関数を用いて正しく導出できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、光が反射する各境界面(空気→薄膜、薄膜→物質)において、屈折率が小さい方から大きい方へ進んでいるのか、その逆かを判断し、位相変化のルールを適用します。
  2. (2)では、図に補助線を引くなどして幾何学的に2つの光の「経路差」を求め、それに薄膜の屈折率\(n\)を掛けて「光路差」を計算します。
  3. (3)では、(1)で調べた反射の位相変化と、(2)で求めた光路差を組み合わせて、光が弱めあう(暗く見える)ための条件式を立てます。
  4. (4)では、(3)で立てた条件式に「垂直入射」と「最小の厚さ」という具体的な条件を代入して、厚さ\(d\)を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
光の反射における位相変化のルールを正しく適用できるかが問われます。ルールは「屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ向かう光が境界面で反射するとき、位相が\(\pi\)ずれる(逆になる)」というものです。これは、波における固定端反射に相当します。逆に、大きい方から小さい方への反射(自由端反射に相当)では、位相は変化しません。
この設問における重要なポイント

  • 固定端反射 (位相が逆になる): 屈折率が「小 → 大」の境界での反射。
  • 自由端反射 (位相は変わらない): 屈折率が「大 → 小」の境界での反射。
  • 問題文の媒質の屈折率の関係を正確に把握すること。大気(\(1\)) < 薄膜(\(n\)) < 物質(\(>n\))。

具体的な解説と立式
この設問は物理法則の適用であり、数式を立てる必要はありません。各反射点について、屈折率の大小関係を確認します。

  • 点Cでの反射:
    光は屈折率\(1\)の大気側から、屈折率\(n\) (\(n>1\))の薄膜に入射し、その表面(点C)で反射します。これは屈折率が「小 → 大」の境界での反射に相当します。
    したがって、固定端反射となり、位相は\(\pi\)ずれます(逆になります)。
  • 点Bでの反射:
    光は屈折率\(n\)の薄膜中を進み、その下面(点B)で反射します。下面には屈折率が\(n\)より大きい物質があります。これも屈折率が「小 → 大」の境界での反射に相当します。
    したがって、固定端反射となり、位相は\(\pi\)ずれます(逆になります)。

使用した物理公式

  • 反射における位相変化の法則
計算過程

この設問には計算過程はありません。

この設問の平易な説明

光が鏡のように跳ね返るとき、その跳ね返り方には2種類あります。相手が自分より「硬い」壁(屈折率が大きい媒質)だと、光はひっくり返って(位相が逆になって)跳ね返ります。これを「固定端反射」といいます。逆に相手が「柔らかい」壁(屈折率が小さい媒質)だと、そのままの向きで跳ね返ります。これを「自由端反射」といいます。
今回の問題では、点C(空気→薄膜)も点B(薄膜→物質)も、光は自分より「硬い」相手にぶつかって反射するので、どちらも位相が逆になります。

結論と吟味

点C、点Bともに屈折率が小さい媒質から大きい媒質への境界面での反射であるため、位相は逆になります。この結果は、(3)で干渉条件を考える際の重要な前提となります。

解答 (1) 点C: 逆になる
点B: 逆になる

問(2)

思考の道筋とポイント
干渉を考える2つの光(点Cで反射する光と、薄膜内を進んで点Bで反射する光)の経路の長さの差(経路差)を求め、さらに屈折率を考慮した光路差を計算します。ここでは、光路差の定義に立ち返り、幾何学的な関係から各経路の長さを求めて計算する方法で解説します。
この設問における重要なポイント

  • 光路差は、2つの光の光路長の差。光路長は「屈折率 \(\times\) 経路長」。
  • 経路差は、光路差を屈折率で割ったもの、あるいは単純な経路の長さの差。
  • 図に補助線を引いて、直角三角形を見つけ、三角比と屈折の法則を利用する。

具体的な解説と立式
薄膜の上面で反射する光(光線1)と、下面で反射する光(光線2)の光路差を求めます。
図のように、点Cから光線ABに垂線を下ろし、その足をDとします。
光路差は、光線2が薄膜中を進む光路長 \(n \times (AB+BC)\) と、その間に光線1が空気中を進む光路長 \(1 \times AD\) の差で与えられます。
$$ \text{光路差} = n(AB+BC) – AD \quad \cdots ① $$
ここで、図の幾何学的関係から、各辺の長さを膜の厚さ\(d\)と屈折角\(r\)を用いて表します。
直角三角形ABH(HはBからACに下ろした垂線の足)などを考えると、
$$ AB = BC = \displaystyle\frac{d}{\cos r} \quad \cdots ② $$
また、点Aと点Cの間の距離ACは、
$$ AC = 2d \tan r \quad \cdots ③ $$
次に、空気中の経路ADの長さを求めます。直角三角形ADCにおいて、\(AD = AC \sin i\) です。ここに③を代入し、さらに屈折の法則 \(1 \times \sin i = n \times \sin r\) を用いて \(\sin i\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
AD &= (2d \tan r) \sin i \\[2.0ex]
&= \left(2d \displaystyle\frac{\sin r}{\cos r}\right) (n \sin r) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2nd \sin^2 r}{\cos r} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 光路差の定義
  • 屈折の法則: \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)
  • 三角関数の関係式
計算過程

①式に、②と④で求めた関係式を代入して、光路差を計算します。
$$
\begin{aligned}
\text{光路差} &= n \left( \displaystyle\frac{2d}{\cos r} \right) – \displaystyle\frac{2nd \sin^2 r}{\cos r} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2nd}{\cos r} (1 – \sin^2 r) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2nd (\cos^2 r)}{\cos r} \\[2.0ex]
&= 2nd \cos r
\end{aligned}
$$
これが求める光路差です。
設問では「経路差」も問われています。これは、光路差 \(2nd \cos r\) を薄膜の屈折率 \(n\) で割ったもので、\(2d \cos r\) となります。

この設問の平易な説明

光のレースで、一方は薄膜の表面でUターンし、もう一方は薄膜の中まで潜ってからUターンして戻ってきます。当然、後者の方が長い距離を走るので、ゴール(私たちの目)に届くのが遅れます。この「道のりの差」が干渉の鍵です。
ただし、光は媒質の中では進むのが遅くなる(屈折率nが大きいほど遅い)ので、単純な長さの差ではなく、「進みにくさ(屈折率)」を考慮した「光路差」で比較します。
図形を使って厳密に計算すると、この光路差は \(2nd \cos r\) となります。
そして、この光路差を生み出した幾何学的な長さの差(経路差)は \(2d \cos r\) となります。計算を簡単にするための裏ワザとして、薄膜の底面を鏡に見立てて光の進む道をまっすぐに伸ばして考える「鏡像法」という方法もあります。

結論と吟味

経路差と光路差を正しく導出できました。光路差の式 \(2nd \cos r\) は薄膜の干渉を扱う上で非常に重要な基本公式であり、導出過程とともに確実に理解しておくことが重要です。

解答 (2) 経路差: \(2d \cos r\), 光路差: \(2nd \cos r\)

問(3)

思考の道筋とポイント
干渉条件を立てる問題。光が強めあうか弱めあうかは、2つの光の「位相差」で決まる。位相差は「光路差による位相差」と「反射による位相差」の和で考える。
(1)で調べたように、今回は点Cと点Bの両方で位相が\(\pi\)(逆位相)ずれる。2つの光が両方とも位相がずれるので、反射による位相のズレは差し引きゼロになる。
したがって、干渉条件は光路差のみで決まる。
この設問における重要なポイント

  • 位相差 = (光路差による位相差) + (反射による位相差の差)
  • 光路差が\(\lambda\)のとき、位相差は\(2\pi\)。光路差が\(L\)のとき、位相差は \(2\pi \displaystyle\frac{L}{\lambda}\)。
  • 反射で位相が\(\pi\)ずれると、光路長が\(\lambda/2\)だけ変化したのと同じ効果がある。
  • 今回は2つの光が両方とも固定端反射(位相が\(\pi\)ずれる)なので、反射による位相差の「差」は \( \pi – \pi = 0 \)。
  • したがって、干渉条件は光路差だけで決まる。弱めあう条件は、光路差が半波長の奇数倍。

具体的な解説と立式
(1)より、点Cでの反射(空気→薄膜)と点Bでの反射(薄膜→物質)は、どちらも屈折率が小→大の境界で起こるため、位相が\(\pi\)(逆位相に)ずれる。
観測される光は、この2つの反射光が重なり合ったものである。
両方の光が同じだけ位相がずれるので、反射による位相のずれは互いに打ち消しあい、干渉条件を考える上では無視できる。
したがって、干渉条件は光路差のみによって決まる。
光が弱めあう(暗く見える)条件は、2つの光が逆位相で重なり合うこと、すなわち光路差が半波長\(\lambda/2\)の奇数倍になることである。
光路差は(2)で求めた \(2nd \cos r\)。
よって、弱めあう条件は、
$$ 2nd \cos r = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$

使用した物理公式

  • 光の干渉条件(弱めあい): 光路差 = \((m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
  • (1), (2)の結果
計算過程

立式したものがそのまま答えとなる。
$$ 2nd \cos r = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$

この設問の平易な説明

2つの光が合わさったとき、山と山、谷と谷が重なれば強めあい(明るく)、山と谷が重なれば弱めあい(暗く)ます。
(1)で、2つの光はどちらも反射の際に「ひっくり返る」ことがわかりました。つまり、反射によるスタート条件は同じです。
となると、明るくなるか暗くなるかは、純粋に「道のりの差(光路差)」だけで決まります。
暗くなるのは、道のりの差がちょうど半波長、1.5波長、2.5波長…のときです。これを式で書くと、光路差 = \((m + 1/2)\lambda\) となります。

結論と吟味

弱めあう条件式は \(2nd \cos r = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) となる。ここでmは0以上の整数。この式は、膜の厚さd、屈折率n、入射角(屈折角r)、光の波長\(\lambda\)によって、どの場所が暗くなるかが決まることを示している。

解答 (3) \(2nd \cos r = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)で導いた弱めあいの条件式に、問題で与えられた具体的な条件を代入して、厚さ\(d\)を求める。
与えられた条件は「垂直に入射」と「最小の膜の厚さ」。
「垂直に入射」は、入射角 \(i=0^\circ\) を意味する。屈折の法則から、屈折角 \(r=0^\circ\) となる。
「最小の膜の厚さ」は、条件式を満たす整数\(m\)のうち、\(d\)が最も小さくなるものを選ぶことを意味する。
この設問における重要なポイント

  • 垂直入射 \(\rightarrow i=0^\circ \rightarrow r=0^\circ \rightarrow \cos r = \cos 0^\circ = 1\)。
  • 最小の厚さ \(\rightarrow\) 条件式を満たす\(m\)の中で、\(d\)が正で最小となるものを探す。通常は \(m=0\) の場合。

具体的な解説と立式
(3)で求めた、反射光が最も弱められる(暗くなる)条件式を用いる。
$$ 2nd \cos r = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
ここに、問題の条件を適用する。
まず、「垂直に入射させた」とあるので、入射角 \(i=0^\circ\)。
屈折の法則 \(n_1 \sin i = n_2 \sin r\) より、\(1 \times \sin 0^\circ = n \times \sin r\)。
\(0 = n \sin r\) であり、\(n \neq 0\) なので \(\sin r = 0\)。よって屈折角 \(r=0^\circ\)。
したがって、\(\cos r = \cos 0^\circ = 1\)。
この結果を条件式に代入すると、
$$ 2nd = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda $$
次に、「最小の膜の厚さ\(d\)」を求める。
この式を\(d\)について解くと、
$$ d = \displaystyle\frac{(m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda}{2n} $$
\(d\)が正で最小となるのは、\(m\)が最小の非負整数である \(m=0\) のときである。
\(m=0\) を代入して、最小の厚さ \(d\) を求める。

使用した物理公式

  • (3)で導出した弱めあいの条件式
  • 屈折の法則
計算過程

\(d = \displaystyle\frac{(m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda}{2n}\) の式に \(m=0\) を代入する。
$$
\begin{aligned}
d_{\text{min}} &= \displaystyle\frac{(0 + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda}{2n} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{\lambda/2}{2n} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{\lambda}{4n}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(3)で作った「暗くなるための設計図」の式に、具体的な条件を入れていきます。
「垂直に入射」というのは、真上から光を当てることなので、角度 \(r=0^\circ\) となります。\(\cos 0^\circ = 1\) なので、式が少し簡単になります。
「厚さdを最小にしたい」ので、式の中の整数\(m\)に、\(d\)が一番小さくなる数字を入れます。\(d\)は厚さなので0より大きい必要がありますから、\(m=0\) を入れるのが最適です。
これらの条件を入れて計算すると、最小の厚さ\(d\)が求まります。

結論と吟味

反射光が最も弱められる最小の膜の厚さは \(\displaystyle\frac{\lambda}{4n}\) となる。この厚さは、光が薄膜を1往復する際の光路長 \(2nd\) が、ちょうど半波長 \(\lambda/2\) になる厚さである。反射による位相のずれがないため、光路差が半波長分になることで打ち消しあいが最大になる、という物理的な意味と一致する。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{\lambda}{4n}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 光の波動性と干渉条件:
    • 核心: この問題の根幹は、光を波として捉え、複数の波が重なり合う「干渉」という現象を理解することにあります。特に、薄膜の表と裏で反射した2つの光が、どのような条件で強めあい(明るく見え)、弱めあう(暗く見える)のかを定量的に分析することが求められます。
    • 理解のポイント:
      • 位相の一致・不一致: 干渉の結果は、重なり合う波の「位相」がどれだけ揃っているかで決まります。山と山が重なれば強めあい、山と谷が重なれば弱めあいます。
      • 位相差の要因: この位相のズレ(位相差)を生み出す要因は2つあります。
        1. 光路差: 2つの光が進む道のりの差。ただし、媒質中では光速が遅くなるため、単純な長さではなく屈折率を考慮した「光路長」の差で考えます。
        2. 反射による位相変化: 屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ向かう境界での反射(固定端反射)では、位相が\(\pi\)(半波長分)ずれます。
      • 総合的な判断: 最終的な干渉条件は、これら2つの要因による位相差を合計して判断する必要があります。
  • 光路差の幾何学的導出:
    • 核心: 干渉条件を式で表すためには、まず2つの光の光路差を、膜の厚さ\(d\)や屈折角\(r\)といった幾何学的な量で正確に表現する必要があります。
    • 理解のポイント:
      • 基本公式: 薄膜の干渉における光路差は \(2nd \cos r\) となります。この式は非常に重要なので、結論を覚えるだけでなく、なぜそうなるのかを図形(直角三角形と三角比)と屈折の法則を使って自力で導出できるようにしておくことが不可欠です。
      • 物理的意味: \(2d\)は光が膜を往復する距離、\(\cos r\)は斜めに入ることで距離が伸びる効果の補正、\(n\)は媒質中で光速が遅くなる効果の補正、と各項の物理的な意味を理解すると、公式を忘れにくくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • くさび形空気層: 2枚のガラス板を重ね、一端に薄い紙を挟んで作るくさび形の空気層による干渉。この場合、薄膜が「空気」(\(n=1\))になります。反射の位相変化(ガラス→空気では変化なし、空気→ガラスでは\(\pi\)ずれる)に注意が必要です。
    • ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置いたときに現れる同心円状の干渉縞。これも、レンズとガラスの間の「空気層」が厚さを変える薄膜とみなせます。中心から離れるほど空気層の厚さ\(d\)が大きくなるため、干渉条件が変化します。
    • CDやDVDの虹色: CDの記録面にある微細な凹凸(ピット)が薄膜のように働き、反射光が干渉して虹色に見えます。これも薄膜の干渉の一種です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 位相変化のチェック: まず、干渉する2つの光が、それぞれどの境界面で反射しているかを確認します。そして、各反射が「屈折率 小→大」か「大→小」かを判断し、位相が\(\pi\)ずれるか否かをメモします。2つの反射で位相変化の有無が異なる場合(例:一方はずれ、もう一方はずれない)、干渉条件が逆転することに注意します。
    2. 光路差の式の確認: 問題の状況が、基本的な薄膜(光路差 \(2nd \cos r\))と同じか、くさび形空気層など少し異なる形状かを判断します。形状が異なれば、光路差の式も変わる可能性があります。
    3. 強めあいか、弱めあいか?: 問題文が「明るく見える」「強めあう」条件を問うているのか、「暗く見える」「弱めあう」条件を問うているのかを明確にします。これによって、光路差 = \(m\lambda\) なのか、\((m+1/2)\lambda\) なのかが決まります。
    4. 変数は何か?: 問題で変化するパラメータが何かを意識します。膜の厚さ\(d\)が場所によって変わるのか(ニュートンリング)、入射する光の波長\(\lambda\)が変わるのか(白色光を入射させる場合)、見る角度\(r\)が変わるのか、などです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 反射の位相変化の勘違い:
    • 誤解: どの反射でも位相がずれる、あるいは全くずれないと勘違いしてしまう。特に、片方だけがずれる「くさび形空気層」などでミスが頻発します。
    • 対策: 反射のたびに「今、光は屈折率がどちらからどちらへ向かっているか?」を自問自答する癖をつけます。「小→大なら固定端反射で\(\pi\)ずれる」というルールを機械的に適用しましょう。
  • 経路差と光路差の混同:
    • 誤解: 経路差 \(2d \cos r\) のまま干渉条件を立ててしまう。
    • 対策: 「干渉を考えるときは、必ず光路差で!」と強く意識します。媒質中を進む光については、必ず屈折率\(n\)を掛けて「真空中の長さに換算する」という操作を忘れないようにします。光路差は「ものさしを統一する」作業だと考えましょう。
  • 干渉条件式の丸暗記によるミス:
    • 誤解: 「強めあいは\(m\lambda\)、弱めあいは\((m+1/2)\lambda\)」とだけ暗記し、反射の位相変化を考慮せずに適用してしまう。
    • 対策: 干渉条件は、以下の2ステップでその都度判断するのが最も安全です。
      1. 反射による位相差: 2つの光の反射で、位相がずれる回数の差を数える。差が0回または2回なら同位相。差が1回なら逆位相。
      2. 条件式の決定:
        • 反射が同位相の場合 → 光路差が \(m\lambda\) で強めあい、\((m+1/2)\lambda\) で弱めあう。
        • 反射が逆位相の場合 → 光路差が \(m\lambda\) で弱めあい、\((m+1/2)\lambda\) で強めあう。(条件が逆転する)
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 光路差 \(2nd \cos r\) の導出:
    • 選定理由: 2つの光の位相差を計算するために、その原因となる「道のりの差」を定量化する必要があるため、この式を導出します。
    • 適用根拠: この式は、幾何学(三角比)と光学の基本法則(屈折の法則)に基づいています。図形的な関係から各光線の経路長を求め、それらの差を計算し、最後に屈折率を掛けて光路長に変換するという、物理的に正当な手続きを経て導かれています。一つ一つのステップが基本法則に基づいているため、論理的に正しい結論と言えます。
  • 弱めあいの条件式 \(光路差 = (m+1/2)\lambda\):
    • 選定理由: (3)では「暗く見える」条件、すなわち波の山と谷が重なって打ち消しあう条件を数式で表現する必要がありました。
    • 適用根拠: 波の位相が\(\pi\) (180°) ずれると、山と谷がちょうど重なります。波長\(\lambda\)の道のりは位相\(2\pi\)に相当するため、位相が\(\pi\)ずれるのは、道のりが半波長\(\lambda/2\)ずれたことに相当します。したがって、光路差が\(\lambda/2, 3\lambda/2, 5\lambda/2, \dots\)となるときに弱めあいが起こります。これを一般式で表したのが \((m+1/2)\lambda\) です。今回は反射による位相差がなかったので、この光路差の条件がそのまま弱めあいの条件となりました。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図を大きく丁寧に描く: 干渉の問題は、図の幾何学的な関係がすべての出発点です。問題用紙の余白に、フリーハンドでも良いので、補助線や角度を書き込める大きな図を描きましょう。特に、直角三角形を見つけ、角度\(r\)がどこに現れるかを正確に把握することが重要です。
  • 文字式のまま計算を進める: (4)のように数値を代入する問題でも、まずは文字式(\(d, n, r, \lambda, m\))のまま条件式を整理し、最後に値を代入するのが鉄則です。途中で具体的な数値を代入すると、式全体の物理的な意味が見えにくくなり、ミスをしやすくなります。
  • \(m=0\) の意味を理解する: 干渉条件の整数\(m\)は、光路差が波長の何倍かを表す「次数」です。\(m=0\)は最も光路差が小さい(0次の)干渉を意味します。「最小の厚さ」や「最初の干渉縞」などを問われた場合は、通常\(m=0\)を代入することになります。\(d\)が正の値をとる範囲で、\(m\)が最小になるケースを探す、と意識しましょう。
  • 三角関数の扱いに慣れる: 光路差の導出では、\(\sin, \cos, \tan\) や \(1-\sin^2 r = \cos^2 r\) といった三角関数の関係式をスムーズに使えることが必須です。特に、屈折の法則と組み合わせて \(\sin i\) を \(\sin r\) で表すような式変形は頻出なので、練習しておきましょう。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]

基本問題

347 ヤングの実験

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(エ)の別解: 幾何学的な近似を用いる解法
      • 模範解答が三平方の定理と近似式を用いて代数的に光路差を導出するのに対し、別解ではスリットからの光がほぼ平行であるとみなし、図形の相似関係から幾何学的に光路差を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的描像の理解: 光路差がなぜ \(\displaystyle\frac{dx}{l}\) と近似できるのか、その幾何学的な意味(垂線を下ろした部分の長さ)を直感的に把握できます。
    • 近似の妥当性の学習: \(l \gg x, d\) という条件が、なぜ \(\sin\theta \approx \tan\theta\) という近似を可能にするのか、物理的な状況と数学的な近似の関係を深く理解できます。
    • 解法の多様性: 同じ結果を異なるアプローチで導く経験は、物理問題への対応力を高めます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる光路差の式は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「ヤングの干渉実験における光路差と干渉条件」です。2つのスリットを通過した光が、スクリーン上で強め合ったり弱め合ったりする現象の基本的な仕組みを、数式を用いて定量的に理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光の干渉: 2つの波が重なるとき、位相がそろっていれば強め合い(明線)、位相がずれていれば弱め合う(暗線)という、波の基本的な性質を理解していること。
  2. 光路差: 2つの光源からある点までの距離の差。干渉の条件は、この光路差が波長の整数倍か半整数倍かで決まる。
  3. 三平方の定理: 光路差を計算するために、図形から距離を正確に求める幾何学の知識。
  4. 近似計算: 物理で頻出する「ある長さが他の長さに比べて非常に大きい」という条件下での近似式(例: \(\sqrt{1+\alpha} \approx 1+\alpha/2\))を正しく使えること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)~(ウ)では、問題文の指示と図に従い、実験の名称と各スリットから点Pまでの距離を幾何学的に表現します。
  2. (エ)では、(イ)(ウ)の結果を用いて2つの光の経路の差(光路差)を計算します。この際、問題文で与えられた近似式を適用します。
  3. (オ)では、(エ)で求めた光路差と、光が強め合う(明線となる)条件を結びつけて立式します。
  4. (a)では、(オ)の条件式から隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) を求め、与えられた数値を代入して計算します。
  5. (b)では、波長の異なる2つの光について、それぞれの明線が現れる位置の規則性を見つけ、両者の明線が重なる位置を求めます。

問(ア)

ここから先を閲覧するためには有料会員登録ログインが必要です。

PVアクセスランキング にほんブログ村