「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第19章】応用問題

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341 光の屈折と全反射

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、光ファイバーの基本原理である「屈折」と「全反射」を扱います。2種類の媒質の境界で起こる現象を、屈折の法則を用いて段階的に解析する能力が問われます。
この問題の核心は、2つの異なる境界(空気→ガラスA、ガラスA→ガラスB)で起こる屈折現象を正しく立式し、それらを連立させて解くことです。特に、ガラスAからガラスBへ入射する際の「入射角」を、図から幾何学的に正しく読み取ることが最大のポイントとなります。

与えられた条件
  • ガラスAの屈折率: \(n_1\)
  • ガラスBの屈折率: \(n_2\)
  • 空気の屈折率: \(1\)
  • 屈折率の大小関係: \(n_1 > n_2\)
  • 空気からガラスAへの入射角: \(i\)
  • ガラスA内での屈折角: \(r\)
問われていること
  • (1) \( \sin r \) を \(n_1\) と \(i\) を用いて表す。
  • (2) ガラスAからBへの入射が臨界角になるときの、空気からの入射角を \(i_0\) とする。
    • \( \sin i_0 \) を \(n_1\) と \(n_2\) を用いて表す。
    • AとBの境界で全反射が起こるのは、\(i\) が \(i_0\) より大きいときか、小さいときか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2)の別解: 屈折角 \(r\) を先に消去する代数的解法
      • 模範解答が「A→Bの臨界角条件から屈折角 \(r\) の三角比を求め、それを空気→Aの屈折の式に代入する」という物理的なステップを追うのに対し、別解では「空気→A」と「A→B」の2つの屈折の法則を連立方程式とみなし、媒介変数である屈折角 \(r\) を代数的に消去して直接 \( \sin i_0 \) を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 代数的解法の習得: 物理現象を複数の数式で表現し、それらを連立させて未知数を求めるという、より汎用的な問題解決アプローチを学ぶことができます。
    • 視点の転換: 模範解答が物理的なステップ(空気→A、A→B)を順に追うのに対し、別解は問題全体を一つのシステムとして捉え、関係式から直接ゴールを目指す視点を提供します。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「異なる媒質の境界における光の屈折と全反射」です。2段階の屈折を正しく扱うことが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 屈折の法則: 2つの媒質の境界において、入射角を \(\theta_1\)、屈折角を \(\theta_2\)、各媒質の屈折率を \(n_1, n_2\) とすると、\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という関係が成り立ちます。
  2. 全反射: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むとき、入射角がある角度(臨界角)を超えると、光は屈折せずにすべて反射されます。
  3. 臨界角の条件: 全反射が起こるかどうかの境界となる角度で、屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角として定義されます。
  4. 幾何学と三角関数: 図から角度の関係(特にA→Bへの入射角)を正しく読み取り、\( \sin(90^\circ – \theta) = \cos \theta \) や \( \sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1 \) といった公式を駆使して計算を進めます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)では空気とガラスAの境界に注目し、屈折の法則を適用します。
  2. 次に、(2)ではガラスAとガラスBの境界に注目します。ここで全反射が起こるギリギリの条件、すなわち入射角が臨界角となる条件を、屈折の法則を用いて立式します。
  3. 最後に、(1)と(2)で立てた2つの式を連立させ、中間の変数である屈折角 \(r\) を消去することで、求めたい \( \sin i_0 \) を導出します。

問(1) ガラスA内での屈折角 \(r\) について、\( \sin r \) を求める

思考の道筋とポイント
光が空気からガラスAに入射する、1段階目の屈折現象に注目します。与えられた物理量(空気の屈折率1, ガラスAの屈折率 \(n_1\), 入射角 \(i\), 屈折角 \(r\))を、屈折の法則に当てはめて立式します。

この設問における重要なポイント

  • 光は「空気(屈折率 \(1\))」から「ガラスA(屈折率 \(n_1\))」へと進みます。
  • 入射角は \(i\)、屈折角は \(r\) です。
  • 屈折の法則 \(n_a \sin\theta_a = n_b \sin\theta_b\) を、この状況に合わせて適用します。

具体的な解説と立式
空気の屈折率を \(n_{\text{空気}} = 1\)、ガラスAの屈折率を \(n_1\) とします。
空気中での入射角が \(i\)、ガラスA中での屈折角が \(r\) なので、屈折の法則を適用すると以下の関係式が成り立ちます。
$$ 1 \cdot \sin i = n_1 \sin r \quad \cdots ① $$
この式を、問われている \( \sin r \) について解きます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
計算過程

①式を変形して \( \sin r \) を求めます。
$$ \sin r = \frac{\sin i}{n_1} $$

この設問の平易な説明

光が空気というプールから、水(ガラスA)というもっと密なプールに入るとき、光の進む向きは少し折れ曲がります。この曲がり方には「屈折の法則」という決まったルールがあります。このルールを使って、ガラスの中での光の角度(のサイン)を、外から入ってきたときの角度(のサイン)を使って表すのがこの問題です。

結論と吟味

\( \sin r = \displaystyle\frac{\sin i}{n_1} \) となります。
問題の条件より \(n_1 > 1\) なので、\( \sin r < \sin i \) となり、\(r < i\) であることが分かります。これは、光が屈折率の小さい媒質(空気)から大きい媒質(ガラスA)に入射するとき、屈折角は入射角より小さくなるという物理現象と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{\sin i}{n_1}\)

問(2) 臨界角になるときの \( \sin i_0 \) と、全反射が起こる条件

思考の道筋とポイント
次に、ガラスAからガラスBへ光が進む、2段階目の屈折現象に注目します。ここで「全反射」が起こるギリギリの状態、すなわちAからBへの入射角が「臨界角」になる条件を考えます。このときの空気からの入射角が \(i_0\) であることから、(1)で求めた関係式と連立させて \( \sin i_0 \) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • A→Bへの入射角: 図をよく見ると、ガラスAとBの境界での法線と光のなす角は、屈折角 \(r\) を用いて \(90^\circ – r\) と表せます。これがこの問題最大の鍵です。
  • 臨界角の条件: 屈折率の大きい媒質A(\(n_1\))から小さい媒質B(\(n_2\))へ光が進むとき、屈折角が \(90^\circ\) になることが臨界角の条件です。
  • 関係式の連立: 「空気→A」の屈折の式と、「A→B」の臨界角の条件式を、三角関数の公式を駆使して連立させます。

具体的な解説と立式
空気からの入射角が \(i_0\) のとき、ガラスA内での屈折角を \(r_0\) とします。
このとき、ガラスAからガラスBへの入射角は \(90^\circ – r_0\) となります。この角が臨界角になるとき、ガラスBへの屈折角は \(90^\circ\) となります。
このA→Bの境界での屈折の法則より、
$$ n_1 \sin(90^\circ – r_0) = n_2 \sin 90^\circ \quad \cdots ② $$
ここで、三角関数の公式 \( \sin(90^\circ – r_0) = \cos r_0 \) と、\( \sin 90^\circ = 1 \) を用いると、②式は以下のように簡単になります。
$$ n_1 \cos r_0 = n_2 $$
よって、
$$ \cos r_0 = \frac{n_2}{n_1} \quad \cdots ③ $$
一方、(1)で求めた関係式は、\(i=i_0\), \(r=r_0\) のときも当然成り立ちます。
$$ \sin r_0 = \frac{\sin i_0}{n_1} \quad \cdots ④ $$
③式と④式、そして三角関数の恒等式 \( \sin^2 r_0 + \cos^2 r_0 = 1 \) を用いて、媒介変数である \(r_0\) を消去し、\( \sin i_0 \) を求めます。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
  • 三角関数の公式: \( \sin(90^\circ – \theta) = \cos \theta \), \( \sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1 \)
計算過程

まず、③式と \( \sin^2 r_0 + \cos^2 r_0 = 1 \) から \( \sin r_0 \) を求めます。\(r_0\) は鋭角なので \( \sin r_0 > 0 \) です。
$$
\begin{aligned}
\sin r_0 &= \sqrt{1 – \cos^2 r_0} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1 – \left(\frac{n_2}{n_1}\right)^2}
\end{aligned}
$$
この結果を④式に代入します。
$$ \frac{\sin i_0}{n_1} = \sqrt{1 – \left(\frac{n_2}{n_1}\right)^2} $$
この式を \( \sin i_0 \) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\sin i_0 &= n_1 \sqrt{1 – \frac{n_2^2}{n_1^2}} \\[2.0ex]
&= n_1 \sqrt{\frac{n_1^2 – n_2^2}{n_1^2}} \\[2.0ex]
&= n_1 \frac{\sqrt{n_1^2 – n_2^2}}{\sqrt{n_1^2}} \\[2.0ex]
&= n_1 \frac{\sqrt{n_1^2 – n_2^2}}{n_1} \\[2.0ex]
&= \sqrt{n_1^2 – n_2^2}
\end{aligned}
$$
次に、全反射が起こる条件を考えます。
全反射は、AからBへの入射角 \( (90^\circ – r) \) が、臨界角 \( (90^\circ – r_0) \) よりも大きいときに起こります。
$$ 90^\circ – r > 90^\circ – r_0 $$
この不等式の両辺から \(90^\circ\) を引き、両辺に \(-1\) を掛けると、不等号の向きが逆転します。
$$ -r > -r_0 \quad \rightarrow \quad r < r_0 $$
(1)の関係式 \( \sin i = n_1 \sin r \) より、\(i\) と \(r\) は(鋭角の範囲で)同じように増減します。したがって、\(r < r_0\) となるのは \(i < i_0\) のときです。
よって、全反射は \(i\) が \(i_0\) より小さいときに起こります。

この設問の平易な説明

ガラスAからBへ光が進むとき、あまりにも浅い角度で入ろうとすると、Bの中に入れずに全部跳ね返されてしまいます(全反射)。この問題では、まず、その「限界となる浅い角度(臨界角)」で入ったときの、最初の空気からの入射角 \(i_0\) を計算します。
次に、全反射が起こる条件を考えます。AからBへの入射角をより浅くする(角度 \(90^\circ-r\) を大きくする)には、図からわかるように、角度 \(r\) を小さくする必要があります。最初の空気からガラスAへの屈折で \(r\) が小さくなるのは、入射角 \(i\) が小さいときです。したがって、全反射は、基準となる \(i_0\) よりも小さい入射角 \(i\) で光を入れたときに起こります。

結論と吟味

\( \sin i_0 = \sqrt{n_1^2 – n_2^2} \) であり、全反射は \(i\) が \(i_0\) より小さいときに起こります。
\(n_1 > n_2\) という条件から、根号の中は正となり、\( \sin i_0 \) は物理的に意味のある実数値をとります。この \( \sin i_0 \) は光ファイバーの性能を示す「開口数(NA)」と呼ばれる量に相当し、物理的に妥当な結果です。
また、入射角 \(i\) を小さくすると屈折角 \(r\) も小さくなり、A-B境界への入射角 \(90^\circ-r\) は大きくなります。入射角が臨界角より大きいときに全反射が起こるため、\(i < i_0\) という条件も論理的に正しいです。

別解: 屈折角 \(r\) を先に消去する代数的解法

思考の道筋とポイント
この問題は、「空気→A」と「A→B」の2つの屈折現象を記述する2つの数式で成り立っています。求めたいのは \(i_0\) で、途中の変数として屈折角 \(r_0\) があります。この2つの式を連立方程式とみなし、不要な変数 \(r_0\) を代数計算によって消去することで、\(i_0\) を直接求めるアプローチです。

この設問における重要なポイント

  • 連立方程式の立式: 以下の2つの関係式を基本とします。
    1. 空気→Aの屈折: \( 1 \cdot \sin i_0 = n_1 \sin r_0 \)
    2. A→Bの臨界角条件: \( n_1 \sin(90^\circ – r_0) = n_2 \sin 90^\circ \)
  • 三角関数の恒等式の利用: 2つの式から \( \sin r_0 \) と \( \cos r_0 \) を導き、それらを \( \sin^2 r_0 + \cos^2 r_0 = 1 \) に代入して \(r_0\) を消去します。

具体的な解説と立式
空気からの入射角が \(i_0\) のときの、ガラスA内での屈折角を \(r_0\) とします。
「空気→A」の境界における屈折の法則は、
$$ \sin i_0 = n_1 \sin r_0 \quad \cdots ①’ $$
「A→B」の境界で臨界角になる条件は、
$$ n_1 \sin(90^\circ – r_0) = n_2 \sin 90^\circ $$
これを変形すると、
$$ n_1 \cos r_0 = n_2 \quad \cdots ②’ $$
①’と②’をそれぞれ \( \sin r_0 \) と \( \cos r_0 \) について解きます。
$$ \sin r_0 = \frac{\sin i_0}{n_1} $$
$$ \cos r_0 = \frac{n_2}{n_1} $$
これらの式を、三角関数の恒等式 \( \sin^2 r_0 + \cos^2 r_0 = 1 \) に代入します。
$$ \left(\frac{\sin i_0}{n_1}\right)^2 + \left(\frac{n_2}{n_1}\right)^2 = 1 \quad \cdots ③’ $$
この式には \(r_0\) が含まれていないため、これを解けば \( \sin i_0 \) が直接求まります。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
  • 三角関数の公式: \( \sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1 \)
計算過程

③’式を \( \sin i_0 \) について解きます。
$$ \frac{\sin^2 i_0}{n_1^2} + \frac{n_2^2}{n_1^2} = 1 $$
まず、両辺に \(n_1^2\) を掛けます。
$$ \sin^2 i_0 + n_2^2 = n_1^2 $$
次に、\(n_2^2\) を右辺に移項します。
$$ \sin^2 i_0 = n_1^2 – n_2^2 $$
最後に、平方根をとります(\(i_0\)は鋭角なので \( \sin i_0 > 0 \))。
$$ \sin i_0 = \sqrt{n_1^2 – n_2^2} $$
全反射が起こる条件についての考察は、主たる解法と同じです。A→Bへの入射角 \(90^\circ-r\) が臨界角より大きくなるのは \(r\) が小さいとき、すなわち \(i\) が小さいときなので、\(i < i_0\) のときに全反射が起こります。

この設問の平易な説明

この問題で起きている2つの屈折現象を、それぞれ数式で表します。すると、未知数が2つ(求めたい \(i_0\) と、途中の角度 \(r_0\))で、式が2つある連立方程式ができます。中学校で習ったように、連立方程式は片方の文字を消去して解くことができます。ここでは、途中の角度 \(r_0\) を三角関数の公式を使ってうまく消去する計算をすることで、求めたい \(i_0\) の答えを直接導き出します。

結論と吟味

\( \sin i_0 = \sqrt{n_1^2 – n_2^2} \) であり、全反射は \(i\) が \(i_0\) より小さいときに起こります。
主たる解法とは異なる計算手順で、同じ結果が導かれました。これは、立式と計算の妥当性を強く裏付けるものです。この代数的なアプローチは、物理的なステップを一つずつ追うのではなく、問題全体の関係式から機械的に解を求める方法であり、別の視点から問題を理解する助けとなります。

解答 (2) \( \sin i_0 = \sqrt{n_1^2 – n_2^2} \), 小さい

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 屈折の法則の連続適用:
    • 核心: この問題は、光が「空気→ガラスA」と「ガラスA→ガラスB」という2つの異なる境界を連続して通過する状況を扱います。核心となるのは、それぞれの境界で「屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)」が独立に成り立つことを理解し、正しく適用することです。
    • 理解のポイント: 1段階目の屈折における「屈折角 \(r\)」が、2段階目の屈折における「入射角 \(90^\circ – r\)」を決定する媒介変数となっている点です。この2つの現象のつながりを幾何学的に把握することが、問題を解く上での最大の鍵となります。
  • 全反射と臨界角の条件:
    • 核心: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むとき(この問題では \(n_1 > n_2\) のA→B)、入射角がある角度(臨界角)を超えると光は透過せず、すべて反射されます(全反射)。
    • 理解のポイント: 臨界角とは、屈折角が \(90^\circ\) になる特別な場合の入射角である、と定義から理解することが重要です。屈折の法則の式に \(\theta_2 = 90^\circ\) を代入することで、臨界角の条件式を導出できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 光ファイバーの原理: この問題は、光ファイバーがどのように光を閉じ込めて伝送するかの基本原理そのものです。コア(ガラスA)とクラッド(ガラスB)の屈折率の関係が重要になります。
    • 水中の物体を見る: 水中から空気中へ、あるいは空気中から水中の物体を見るとき、光は水面で屈折します。見かけの深さが実際と異なる現象を計算する問題は、本質的に同じ考え方を使います。
    • プリズムによる光の分散: 白色光をプリズムに入射させると、光は2つの面で屈折し、波長によって屈折率が異なるため色が分かれます(分散)。各面での屈折を段階的に計算する点で類似しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 光の経路を正確に図示する: まず、光がどの媒質からどの媒質へ進むのか、その経路を丁寧に追いかけます。
    2. 法線を引いて角度を定義する: 各境界で「法線」を引き、入射角と屈折角がどこになるかを明確に定義します。特に、この問題のように境界が複数ある場合は、それぞれの角度を \(i, r, \theta_A, \theta_B\) のように区別して図に書き込むことが重要です。
    3. 角度間の幾何学的関係を探す: 図形の中から、直角三角形や錯角・同位角などの関係を見つけ出し、角度間の関係式(この問題ではA→Bの入射角が \(90^\circ – r\) となること)を導き出します。これが立式の土台となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • A→Bの入射角の誤認:
    • 誤解: ガラスAからBへの入射角を、屈折角 \(r\) のまま使ってしまう。
    • 対策: 必ず境界に対して「法線」を引き、「法線と光線のなす角」を入射角・屈折角と定義する基本に立ち返ること。図を丁寧に描けば、入射角が \(90^\circ – r\) であることは一目瞭然です。
  • 屈折率の取り違え:
    • 誤解: 屈折の法則の式 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) で、左右の \(n\) と \(\sin\theta\) の組み合わせを間違える。
    • 対策: 「(その媒質での屈折率)×(その媒質での角度のサイン)」の積が一定、と覚えるのが有効です。空気側なら \(1 \cdot \sin i\)、ガラスA側なら \(n_1 \sin r\) というように、セットで考える習慣をつけましょう。
  • 全反射の条件の混同:
    • 誤解: 全反射が起こるのは \(i > i_0\) のときだと直感的に考えてしまう。
    • 対策: 論理的にステップを追うことが重要です。「全反射が起こる \(\rightarrow\) A→Bの入射角が大きい \(\rightarrow\) \(90^\circ – r\) が大きい \(\rightarrow\) \(r\) が小さい \(\rightarrow\) 空気→Aの入射角 \(i\) が小さい」という連鎖関係を一つずつ確認する。直感に頼らず、数式の関係から結論を導く訓練をしましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 光の気持ちになるイメージ: 自分が光線になったつもりで、空気という広々とした空間から、ガラスAという少し進みにくい(屈折率が大きい)媒質に入り、さらにガラスBというAよりは進みやすい(屈折率が小さい)媒質へ進もうとする、というストーリーを想像します。AからBへ移るときに、角度が浅すぎると「壁に弾かれてしまう(全反射)」というイメージを持つと理解が深まります。
    • 角度の関係を図で確認: 問題の図は非常に重要です。特に、ガラスA内の光線と、水平な境界面、そして垂直な法線が作る直角三角形に注目します。この直角三角形の内角の一つが \(r\) であることから、もう一つの鋭角(A→Bの入射角)が \(90^\circ – r\) になることを視覚的に理解することが、この問題の突破口です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 法線を必ず描く: 屈折の問題では、何よりも先に境界面に垂直な「法線」を点線で描くことが鉄則です。全ての角度は、この法線を基準に測ります。
    • 屈折率の大小関係を反映させる: \(n_1 > 1\) なので、空気からAに入るときは光が法線に近づくように(\(r < i\))、\(n_1 > n_2\) なので、AからBに出るときは法線から遠ざかるように(屈折角 > 入射角)描くと、現象の理解が深まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\):
    • 選定理由: 光が異なる媒質の境界を通過する際の、角度の変化を記述する唯一の基本法則だからです。この問題のように屈折が関わる場合は、まずこの公式の適用を考えます。
    • 適用根拠: この法則は、光の波動性(ホイヘンスの原理)から導出される普遍的な法則であり、媒質中の光速が屈折率に反比例することに基づいています。
  • 三角関数の恒等式 \( \sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1 \)**:
    • 選定理由: 屈折の法則を適用する過程で、\( \sin r \) と \( \cos r \) という2つの異なる三角関数が現れます。これらは独立ではなく、一つの角度 \(r\) に関する量なので、両者を結びつける関係式が必要です。その最も基本的な関係式がこの恒等式です。
    • 適用根拠: この式は、単位円における点の座標の定義そのものであり、数学的に常に成り立ちます。物理の問題で、ある角度のサインとコサインが両方登場したときに、片方をもう片方に変換したり、媒介変数を消去したりするための強力なツールとなります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 空気→Aの屈折:
    • 戦略: 問題の最初の部分に注目し、空気とガラスAの境界での屈折の法則を立てる。
    • フロー: ①光の経路(空気→A)と角度(\(i, r\))、屈折率(\(1, n_1\))を確認 → ②屈折の法則 \(1 \cdot \sin i = n_1 \sin r\) を立式 → ③問われている \( \sin r \) について解く。
  2. (2) A→Bの全反射と \(i_0\) の計算:
    • 戦略: 2つの屈折現象(空気→A、A→B)を連立させて解く。まずA→Bの臨界角の条件を立式し、(1)の結果と組み合わせて媒介変数 \(r\) を消去する。
    • フロー: ①A→Bの入射角が \(90^\circ – r_0\) であることを図から読み取る → ②臨界角の条件(屈折角 \(90^\circ\))を屈折の法則に適用し、\(n_1 \sin(90^\circ – r_0) = n_2 \sin 90^\circ\) を立式 → ③これを \( \cos r_0 \) について解く → ④(1)の結果(\( \sin r_0 = \sin i_0 / n_1 \))と \( \sin^2 r_0 + \cos^2 r_0 = 1 \) を使って \(r_0\) を消去 → ⑤得られた方程式を \( \sin i_0 \) について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 平方根の計算を丁寧に: \( \sin i_0 = n_1 \sqrt{1 – (n_2/n_1)^2} \) のような計算では、焦って計算を進めず、まずルートの中を整理することに集中しましょう。\( \sqrt{1 – n_2^2/n_1^2} = \sqrt{(n_1^2 – n_2^2)/n_1^2} \) と通分し、分母の \( \sqrt{n_1^2} \) が \(n_1\) となって外に出せることを確認してから、外の \(n_1\) と約分する、というように段階的に進めることでミスを防げます。
  • 記号を明確に区別する: \(n_1, n_2\) や \(i, r\) など、似た記号が多く登場します。立式や計算の際に、どの物理量を扱っているのかを常に意識し、書き間違いがないか確認する習慣が重要です。
  • 三角関数の公式の確認: \( \sin(90^\circ – \theta) = \cos \theta \) は頻出ですが、うっかり \(-\cos\theta\) や \( \sin\theta \) と間違える可能性があります。単位円を描いて確認する癖をつけると、符号や関数の間違いが減ります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • \( \sin i_0 \) の値: \( \sin i_0 = \sqrt{n_1^2 – n_2^2} \) という結果について考えます。もし \(n_1 \le n_2\) なら、根号の中が0以下になり、物理的に意味のある \(i_0\) が存在しないことになります。これは、全反射が「屈折率大→小」でしか起こらないという事実と整合しています。問題の \(n_1 > n_2\) という条件が、ここで効いてくるわけです。
    • 全反射の条件: 入射角 \(i\) を大きくすると、ガラスAに入る光の屈折角 \(r\) も大きくなります。すると、A-B境界への入射角 \(90^\circ-r\) は逆に小さくなります。入射角が小さくなると全反射しにくくなるので、「\(i\) が大きいと全反射しない」という結論になります。したがって、全反射が起こるのは \(i\) が \(i_0\) より「小さい」とき、という結果は物理的に妥当です。
  • 別解との比較:
    • この問題では、物理的なステップを追う解法と、代数的に連立方程式を解く別解がありました。全く異なる思考プロセスを経ても同じ答えにたどり着くことは、それぞれの解法の正しさと、計算の正確性を強力に裏付けます。特に、三角関数の複雑な計算が含まれるため、別解での検算は非常に有効です。

342 プリズムの偏角

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、プリズムを通過する光の経路と、その結果生じる「偏角」について、幾何学的な考察と屈折の法則を用いて解析する問題です。特に「最小偏角」という特殊な条件が何を意味するのかを理解することが重要になります。
この問題の核心は、プリズム内部の光の経路に関する幾何学的な関係式を複数導出し、それらと屈折の法則を組み合わせることで、未知の物理量(偏角や屈折率)を求める能力です。

与えられた条件
  • プリズムの頂角: \(\alpha\)
  • 入射光PQと透過光RSのなす角(偏角): \(\delta\)
  • ab面への入射角: \(i\), 屈折角: \(r\)
  • ac面への入射角: \(r’\), 屈折角: \(i’\)
  • プリズムの外側の媒質の屈折率: \(1\)
  • プリズムの屈折率: \(n\)
  • 最小偏角の条件: 光の経路がプリズムの底辺と平行になるとき(PQとRSがab面, ac面に対し等しく傾くとき)。このときの角度を \(i_0, r_0, \delta_0\) とする。
問われていること
  • (1) 偏角 \(\delta\) を \(i, i’, r, r’\) を用いて表す。
  • (2) 偏角 \(\delta\) を \(i, i’, \alpha\) を用いて表す。
  • (3) プリズムの屈折率 \(n\) を、最小偏角 \(\delta_0\) と頂角 \(\alpha\) を用いて表す。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「プリズムによる光の屈折と偏角」です。図形的な性質から角度の関係式を導くことが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 三角形の「外角の定理」: 三角形の一つの外角は、それと隣り合わない二つの内角の和に等しい。
  2. 四角形の内角の和: 四角形の内角の和は \(360^\circ\) である。(または三角形の内角の和が \(180^\circ\) であること)
  3. 屈折の法則: 媒質の境界において、\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) が成り立つ。
  4. 最小偏角の条件の物理的意味: 光がプリズムに対して対称的に通過するとき、偏角は最小となる。このとき、\(i=i’\) かつ \(r=r’\) という関係が成り立つ。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、図中の三角形に注目し、「外角の定理」を用いて偏角 \(\delta\) を他の角度で表します。
  2. (2)では、プリズム内の光路が作る別の図形(四角形または三角形)に注目し、角度の関係式を導出します。これを使って(1)の式から \(r, r’\) を消去します。
  3. (3)では、「最小偏角」という特別な条件(\(i=i’, r=r’\))を(2)で導いた関係式に適用し、\(i_0\) と \(r_0\) を \(\delta_0, \alpha\) で表します。最後に、点Qにおける屈折の法則にこれらを代入して、屈折率 \(n\) を求めます。

問(1) 偏角 \(\delta\) を \(i, i’, r, r’\) を用いて表す

思考の道筋とポイント
偏角 \(\delta\) は、入射光PQの延長線と、透過光RSの延長線のなす角です。これらの延長線とプリズム内の光路QRでできる三角形(図の解説ではAQRとされている点に相当する三角形)に注目します。この三角形の外角が \(\delta\) となるため、「外角の定理」を適用することで、\(\delta\) を他の角度で表すことができます。

この設問における重要なポイント

  • 偏角 \(\delta\) を含む三角形を見つける。
  • その三角形の内角を、入射角や屈折角(\(i, r, i’, r’\))を使って表現する。
  • 三角形の外角の定理「(外角)=(隣り合わない内角の和)」を適用する。

具体的な解説と立式
入射光PQと透過光RSの延長線の交点をTとします。三角形TQRを考えます。
偏角 \(\delta\) は、この三角形TQRの外角にあたります。
三角形TQRの内角は、\(\angle TQR\) と \(\angle TRQ\) です。
図から、\(\angle TQR\) は、対頂角の関係から \(i\) と \(r\) を用いて \(i-r\) と表せます。
同様に、\(\angle TRQ\) は、\(i’\) と \(r’\) を用いて \(i’-r’\) と表せます。
三角形の外角の定理より、外角 \(\delta\) は、それと隣り合わない2つの内角の和に等しいので、
$$ \delta = (i-r) + (i’-r’) \quad \cdots ① $$
この式を整理します。
$$ \delta = (i+i’) – (r+r’) $$

使用した物理公式

  • 幾何学の定理(三角形の外角の定理)
計算過程

立式したものがそのまま答えとなります。
$$ \delta = (i+i’) – (r+r’) $$

この設問の平易な説明

光がプリズムに入るときと出るときで、2回折れ曲がります。最初の光の進む向きと、最終的に出ていく光の進む向きがどれだけズレたか、その角度が「偏角 \(\delta\)」です。この \(\delta\) を、図の中の三角形の角度の関係(外角は、隣にない内角2つの足し算になるというルール)を使って、式で表す問題です。

結論と吟味

偏角 \(\delta\) は \( (i+i’) – (r+r’) \) と表されます。
この式は、偏角が「外側での角度の和」から「内側での角度の和」を引いたものに等しいことを示しており、幾何学的に妥当な関係です。

解答 (1) \((i+i’) – (r+r’)\)

問(2) 偏角 \(\delta\) を \(i, i’, \alpha\) を用いて表す

思考の道筋とポイント
(1)で求めた式には、プリズム内部の角度 \(r\) と \(r’\) が含まれています。これを消去し、代わりにプリズムの頂角 \(\alpha\) を含む式に変形することを目指します。そのために、プリズムの頂点aと、光路上の点Q, R、そしてab面とac面の法線の交点(図にはないが考える)で構成される四角形、あるいは頂点aとQ, Rで構成される三角形に注目し、角度の関係式を導きます。

この設問における重要なポイント

  • (1)の式から \(r+r’\) を消去するのが目標。
  • 頂角 \(\alpha\) と屈折角 \(r, r’\) を結びつける関係式を見つける。
  • 図中の四角形aQAR(Aは法線の交点)や三角形aQRの内角の和に着目する。

具体的な解説と立式
プリズムの頂点a、光路上の点Q、点Rでできる三角形aQRを考えます。
三角形の内角の和は \(180^\circ\) です。
\(\angle aQR\) は、図より \(90^\circ – r\) と表せます。
\(\angle aRQ\) は、図より \(90^\circ – r’\) と表せます。
したがって、三角形aQRの内角の和について、以下の式が成り立ちます。
$$ \alpha + (90^\circ – r) + (90^\circ – r’) = 180^\circ $$
この式を整理します。
$$ \alpha + 180^\circ – r – r’ = 180^\circ $$
$$ \alpha – (r+r’) = 0 $$
よって、
$$ r+r’ = \alpha \quad \cdots ② $$
この関係式を、(1)で求めた式 \(\delta = (i+i’) – (r+r’)\) に代入します。

使用した物理公式

  • 幾何学の定理(三角形の内角の和は \(180^\circ\))
計算過程

②式を①式に代入します。
$$ \delta = (i+i’) – \alpha $$

この設問の平易な説明

(1)で求めた式には、プリズムの中での光の角度 \(r\) と \(r’\) が入っています。これらは直接測るのが難しいので、代わりにプリズムのてっぺんの角度 \(\alpha\) を使った式に書き換えるのがこの問題です。図の中の別の三角形(てっぺんの角 \(\alpha\) を含む三角形)の角度の関係を調べると、ちょうど \(r+r’ = \alpha\) となることが分かります。これを(1)の式に代入すれば完了です。

結論と吟味

偏角 \(\delta\) は \( (i+i’) – \alpha \) と表されます。
この式は、偏角が、測定しやすい量(入射角、出射角、頂角)だけで表せることを示しており、非常に有用な関係式です。

解答 (2) \((i+i’) – \alpha\)

問(3) プリズムの屈折率 \(n\) を \(\delta_0, \alpha\) を用いて表す

思考の道筋とポイント
「最小偏角」という特別な条件を数式で表現することが出発点です。問題文から、このとき光の経路は対称的になり、\(i=i’\) かつ \(r=r’\) となります。この条件を(2)で導いた関係式に適用することで、最小偏角のときの入射角 \(i_0\) と屈折角 \(r_0\) を、それぞれ \(\delta_0\) と \(\alpha\) で表すことができます。最後に、点Qにおける屈折の法則に、求めた \(i_0\) と \(r_0\) を代入すれば、屈折率 \(n\) が求まります。

この設問における重要なポイント

  • 最小偏角の条件: \(i=i’ = i_0\), \(r=r’ = r_0\), \(\delta = \delta_0\)
  • 関係式の適用: (2)で導いた2つの重要な関係式 \(\delta = (i+i’) – \alpha\) と \(r+r’ = \alpha\) に、最小偏角の条件を代入する。
  • 屈折の法則の利用: 最後に、点Qにおける屈折の法則 \(1 \cdot \sin i_0 = n \sin r_0\) を用いて \(n\) を求める。

具体的な解説と立式
最小偏角のとき、\(i=i’ = i_0\), \(r=r’ = r_0\), \(\delta = \delta_0\) となります。
この条件を、(2)で用いた2つの関係式に適用します。

まず、関係式 \(\delta = (i+i’) – \alpha\) に代入すると、
$$ \delta_0 = (i_0 + i_0) – \alpha = 2i_0 – \alpha $$
この式を \(i_0\) について解きます。
$$ 2i_0 = \delta_0 + \alpha $$
$$ i_0 = \frac{\alpha + \delta_0}{2} \quad \cdots ③ $$

次に、関係式 \(r+r’ = \alpha\) に代入すると、
$$ r_0 + r_0 = \alpha $$
$$ 2r_0 = \alpha $$
$$ r_0 = \frac{\alpha}{2} \quad \cdots ④ $$

これで、最小偏角のときの入射角 \(i_0\) と屈折角 \(r_0\) が、与えられた量 \(\delta_0, \alpha\) で表せました。
最後に、点Qにおける屈折の法則を考えます。プリズムの外側の屈折率は1、プリズムの屈折率は \(n\) なので、
$$ 1 \cdot \sin i_0 = n \sin r_0 $$
この式を \(n\) について解くと、
$$ n = \frac{\sin i_0}{\sin r_0} \quad \cdots ⑤ $$
この式に、③と④を代入します。

使用した物理公式

  • 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
  • (2)で導出した幾何学的な関係式
計算過程

③式と④式を⑤式に代入します。
$$ n = \frac{\sin\left(\displaystyle\frac{\alpha + \delta_0}{2}\right)}{\sin\left(\displaystyle\frac{\alpha}{2}\right)} $$
これが求める屈折率 \(n\) です。

この設問の平易な説明

光の向きを色々変えてプリズムに入れると、偏角 \(\delta\) も変わりますが、ある特定の向きで入れたときに、この偏角が一番小さく(最小に)なります。この「最小偏角」が起こるのは、光がプリズムの中を左右対称に進むときです。この「対称」という条件を使うと、(2)までで見つけた角度の式がとてもシンプルになります。そのシンプルな式から、入射角 \(i_0\) と屈折角 \(r_0\) を \(\delta_0\) と \(\alpha\) だけで表すことができます。最後に、プリズムに入るときの屈折の法則の式に、それらを代入すれば、プリズムの材質で決まる屈折率 \(n\) が計算できます。

結論と吟味

プリズムの屈折率 \(n\) は \( \displaystyle\frac{\sin\left(\displaystyle\frac{\alpha + \delta_0}{2}\right)}{\sin\left(\displaystyle\frac{\alpha}{2}\right)} \) と表されます。
この式は、プリズムの頂角 \(\alpha\) と最小偏角 \(\delta_0\) という、実験的に測定しやすい量だけで屈折率 \(n\) を決定できることを示しています。これは「最小偏角法」として知られる、物質の屈折率を精密に測定するための重要な実験原理であり、物理的に非常に価値のある結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{\sin\left(\displaystyle\frac{\alpha + \delta_0}{2}\right)}{\sin\left(\displaystyle\frac{\alpha}{2}\right)}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 幾何光学の複合的応用:
    • 核心: この問題は、単一の物理法則だけでなく、「屈折の法則」という物理法則と、「三角形の角度の性質(内角の和、外角の定理)」という幾何学の知識を融合させて解く点に核心があります。物理現象を、図形の性質を利用して数式に落とし込む能力が問われます。
    • 理解のポイント: (1)と(2)は純粋に幾何学の問題です。光の経路が作る線分を三角形や四角形の一部とみなし、角度の関係式を導出します。物理法則である「屈折の法則」は、(3)でそれらの幾何学的関係と結びつけて初めて登場します。このように、物理と数学がどのように連携するかを体験することが重要です。
  • 「最小偏角」条件の物理的・数学的意味の理解:
    • 核心: 「最小偏角」という言葉が、光の経路がプリズムに対して「対称」になる状態を指すことを理解するのが最重要です。
    • 理解のポイント: この「対称性」を数式に翻訳すると、\(i=i’\) かつ \(r=r’\) となります。このシンプルな条件を、(2)までに導出した一般的な関係式 \(\delta = (i+i’) – \alpha\) と \(r+r’ = \alpha\) に適用することで、問題が一気に解きやすくなります。物理的な条件を数式に置き換える典型的なプロセスです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • レンズの問題: レンズも、光が2つの曲面で2回屈折する光学素子です。レンズメーカーの公式を導出する過程は、本質的に同じ考え方(2回の屈折と幾何学的関係の組み合わせ)を用います。
    • 複雑な反射・屈折の問題: 例えば、水面に浮かぶガラス球に光が入射し、内部で反射して出ていくような問題。光の経路を追いかけ、各点での反射・屈折の法則と、図形全体の幾何学的関係を組み合わせて解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 光の経路を正確に描く: まず、問題で与えられた光の経路をフリーハンドでも良いので描いてみます。
    2. 角度を全て定義し、書き込む: 入射角、屈折角、反射角など、関連する角度を全て図に書き込みます。法線を引くことを忘れないようにします。
    3. 図形を探す: 光の経路と法線、物体の輪郭線などが作る「三角形」や「四角形」を探します。これらの図形に、内角の和や外角の定理、錯角・同位角などの幾何学の知識を適用できないか検討します。
    4. 関係式をリストアップする: 屈折の法則や反射の法則から得られる物理的な式と、幾何学から得られる角度の式を全て書き出し、どの変数を消去すればゴールにたどり着けるか、連立方程式を解く戦略を立てます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 角度の定義の間違い:
    • 誤解: 入射角や屈折角を、境界面と光線のなす角と勘違いする。
    • 対策: 常に「法線と光線のなす角」が定義であることを徹底します。問題を解き始める前に、必ず各界面で法線(点線で描くのが良い)を引く習慣をつけましょう。
  • 外角の定理の適用ミス:
    • 誤解: 偏角 \(\delta\) を、三角形TQRの内角の和と考えてしまう。
    • 対策: 偏角は「入射光の延長線」と「出射光の延長線」のなす角です。この定義から、\(\delta\) が三角形TQRの外角になることを図でしっかり確認します。「外角は、隣り合わない内角の和」という定理を正確に思い出しましょう。
  • 最小偏角の条件の暗記ミス:
    • 誤解: 最小偏角のときに \(i=r\) や \(i=r’\) など、関係を間違って覚えてしまう。
    • 対策: 「対称性」というキーワードで覚えるのが有効です。「入るときの様子(\(i, r\))」と「出るときの様子(\(i’, r’\))」がそっくり同じになる、とイメージすれば、\(i=i’\) かつ \(r=r’\) という正しい関係が導きやすくなります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 角度の関係を分解して図示: 模範解答の図のように、偏角 \(\delta\) が \(i-r\) と \(i’-r’\) の和でできていることを示す補助線を引くと、外角の定理が視覚的に理解しやすくなります。また、三角形aQRに注目し、角度 \(90^\circ-r\) と \(90^\circ-r’\) を書き込むことで、\(r+r’=\alpha\) の関係も明確になります。
    • 最小偏角の対称性をイメージ: プリズムを底辺の中点で垂直に切る線を想像します。最小偏角のとき、光の経路はこの線に対して線対称になります。このイメージがあれば、\(i=i’\) となることが直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度を区別して描く: \(i\) と \(r\)、\(i’\) と \(r’\) など、異なる角度は明確に区別して描きます。特に、屈折率の大小関係から、空気中での角度(\(i, i’\))の方がプリズム内での角度(\(r, r’\))より大きくなるように描くと、より現実に近い図になります。
    • 補助線を活用する: 法線や光線の延長線などの補助線を積極的に引くことで、隠れていた三角形や角度の関係が見つけやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 三角形の外角の定理:
    • 選定理由: 偏角 \(\delta\) の定義が、2つの直線のなす角であり、それらが光路QRと交わることで三角形を形成するため。この三角形の角度の関係を記述するのに最も直接的なのが外角の定理だからです。
    • 適用根拠: ユークリッド幾何学の基本的な定理であり、常に成り立ちます。
  • 三角形の内角の和の定理:
    • 選定理由: (1)で求めた式に含まれる \(r+r’\) を、プリズムの頂角 \(\alpha\) に結びつけるため。図を見ると、\(\alpha, r, r’\) を含む三角形aQR(または四角形aQAR)が存在することから、内角の和の定理が有効だと判断できます。
    • 適用根拠: これもユークリッド幾何学の基本定理です。
  • 屈折の法則:
    • 選定理由: (3)で最終的に求めたいのが「屈折率 \(n\)」だからです。屈折率は、屈折の法則の中にしか現れない物理量なので、この法則の適用は必須となります。
    • 適用根拠: 幾何学的な考察だけでは、物質の光学的性質(屈折率)を決定できません。物理法則である屈折の法則を適用することで初めて、幾何学的な角度(\(i_0, r_0\))と物質の性質(\(n\))が結びつきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 偏角の基本形式の導出:
    • 戦略: 偏角 \(\delta\) を外角とする三角形を見つけ、外角の定理を適用する。
    • フロー: ①光路の延長線が作る三角形TQRを考える → ②内角が \(i-r\) と \(i’-r’\) であることを確認 → ③外角の定理 \(\delta = (i-r) + (i’-r’)\) を立式。
  2. (2) プリズム内部の角度の消去:
    • 戦略: (1)の式から \(r, r’\) を消去するため、\(\alpha, r, r’\) の関係式を導く。
    • フロー: ①三角形aQRの内角の和を考える → ②内角が \(\alpha, 90^\circ-r, 90^\circ-r’\) であることから、\(\alpha + (90^\circ-r) + (90^\circ-r’) = 180^\circ\) を立式 → ③これを整理して \(r+r’=\alpha\) を得る → ④(1)の式に代入して \(\delta = (i+i’) – \alpha\) を得る。
  3. (3) 屈折率の計算:
    • 戦略: 最小偏角の対称性(\(i=i’, r=r’\))を利用して \(i_0, r_0\) を求め、屈折の法則に代入する。
    • フロー: ①最小偏角の条件を(2)の2つの関係式に代入 → ②\(\delta_0 = 2i_0 – \alpha\) から \(i_0\) を求める。 \(\alpha = 2r_0\) から \(r_0\) を求める → ③屈折の法則 \(n = \sin i_0 / \sin r_0\) に、求めた \(i_0, r_0\) を代入する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の扱いに注意: \(\delta = (i-r) + (i’-r’)\) のように、式の中にマイナス符号が多く含まれます。括弧を外したり、まとめたりする際の符号ミスに十分注意しましょう。
  • 式の代入を丁寧に行う: (3)では、\(i_0\) や \(r_0\) に分数が含まれる複雑な式を、さらに \(\sin\) の中に入れることになります。\(n = \sin(i_0) / \sin(r_0)\) のどの部分にどの式が入るのか、落ち着いて一つ一つ代入しましょう。
  • 最終的な答えの形を意識する: (3)のゴールは「\(n\) を \(\delta_0\) と \(\alpha\) で表す」ことです。計算の途中で \(i_0\) や \(r_0\) が残っていたら、まだ計算途中であると認識できます。常にゴールを意識することで、計算の道筋を見失いにくくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2)の式: \(\delta = (i+i’) – \alpha\)。もし光が直進すれば \(i=r, i’=r’\) となり、(1)から \(\delta=0\)。また、\(r+r’=\alpha\) なので \(i+i’=\alpha\) となるはず。これを(2)の式に入れると \(\delta = \alpha – \alpha = 0\) となり、矛盾しません。
    • (3)の式: \(n = \sin((\alpha+\delta_0)/2) / \sin(\alpha/2)\)。屈折が起こるためには \(n>1\) である必要があります。そのためには、分子の \(\sin\) の中身が分母より大きい、つまり \((\alpha+\delta_0)/2 > \alpha/2\) である必要があります。これは \(\delta_0 > 0\) を意味し、光が曲げられる(偏角が正である)限り、\(n>1\) となる妥当な結果を与えます。
  • 極端な場合を考える:
    • もしプリズムがなく、ただのガラス板(\(\alpha=0\))だったらどうなるか。この場合、光は平行移動するだけで偏角はゼロ(\(\delta_0=0\))です。(3)の式に \(\alpha \rightarrow 0, \delta_0 \rightarrow 0\) を代入すると、\(\sin x \approx x\) の近似から \(n \approx ((\alpha+\delta_0)/2) / (\alpha/2) = 1 + \delta_0/\alpha\) となり、うまく扱えませんが、物理的な状況と式の整合性を考える良い練習になります。

343 カメラのレンズ

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、カメラという身近な光学機器を題材に、薄い凸レンズによる結像の性質を問うものです。レンズの写像公式と倍率の公式を基本に、レンズと受光面の距離が可動であるという実践的な条件の下で、撮影可能な範囲や像の大きさを計算する能力が試されます。
この問題の核心は、写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\) を正しく理解し、与えられた変数(特に像距離 \(b\) の可動範囲)の条件と組み合わせて、物体距離 \(a\) がどのようになるかを論理的に考察することです。

与えられた条件
  • レンズL: 薄い凸レンズ
  • 焦点距離: \(f = 55 \text{ mm}\)
  • 受光面Pの大きさ: \(24 \text{ mm} \times 36 \text{ mm}\)
  • レンズから受光面までの距離の可動範囲: \(54 \text{ mm} \le b \le 60 \text{ mm}\)
  • レンズから物体までの距離: \(a\)
  • レンズから受光面までの距離: \(b\)
問われていること
  • (ア) \(a\) を \(b, f\) で表す式
  • (イ) 無限遠の物体を撮影するときの \(b\) の値
  • (ウ) 最も近くの物体を撮影するときの \(a\) の値
  • (エ) (ウ)のときの倍率 \(m\)
  • (オ) (ウ)のときに受光面いっぱいに写る物体の大きさ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(エ)の別解: 倍率と焦点距離の関係式を用いる解法
      • 模範解答が倍率を \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\) で計算するのに対し、別解では物体距離 \(a\) を使わずに、像距離 \(b\) と焦点距離 \(f\) だけから倍率を求める関係式 \(m = \left| \displaystyle\frac{b-f}{f} \right|\) を用いて直接導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 公式の多角的理解: 倍率の公式には複数の表現形式があることを学び、問題の条件に応じて最適な公式を選択する応用力が身につきます。
    • 検算への応用: (ウ)で求めた物体距離 \(a\) の値を使わずに倍率を計算できるため、(ウ)の計算結果が正しかったかを間接的に検証(検算)する手段としても有効です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「凸レンズによる結像とカメラの原理」です。写像公式を、カメラの構造という物理的な制約条件の下で使いこなすことが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンズの写像公式: 物体距離 \(a\)、像距離 \(b\)、焦点距離 \(f\) の間には、\(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\) という関係が成り立つ。
  2. 倍率の公式: 像の大きさと物体の大きさの比(倍率 \(m\))は、像距離と物体距離の比に等しい。すなわち \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\) (実像なので \(a,b\) は正)。
  3. 実像のできる条件: 凸レンズで実像ができるのは、物体が焦点の外側にあるとき(\(a > f\))である。
  4. 物体距離と像距離の関係: 物体をレンズに近づける(\(a\) を小さくする)と、像はレンズから遠ざかる(\(b\) が大きくなる)。逆に物体を遠ざける(\(a\) を大きくする)と、像は焦点に近づく(\(b\) が小さくなる)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)では、レンズの写像公式を \(a\) について解き、式を変形します。
  2. (イ)(ウ)では、(ア)で求めた式と、物体距離 \(a\) と像距離 \(b\) の関係性を考え、与えられた \(b\) の可動範囲の両端がどのような撮影状況に対応するかを考察します。
  3. (エ)(オ)では、(ウ)で求めた条件を使って倍率を計算し、その倍率から実際の物体の大きさを求めます。

問(ア) 物体距離 \(a\) を、像距離 \(b\) と焦点距離 \(f\) を用いて表す

思考の道筋とポイント
レンズに関する問題の基本である「写像公式」から出発します。この公式を、求めたい物理量である \(a\) について解くだけです。代数的な式変形が中心となります。

この設問における重要なポイント

  • 出発点はレンズの写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\) 。
  • この式を \(\displaystyle\frac{1}{a} = \dots\) の形に変形する。
  • 通分を行い、最後に逆数をとって \(a = \dots\) の形にする。

具体的な解説と立式
薄い凸レンズの写像公式は、
$$ \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} \quad \cdots ① $$
この式を \(a\) について解くため、まず \(\displaystyle\frac{1}{b}\) を右辺に移項します。
$$ \frac{1}{a} = \frac{1}{f} – \frac{1}{b} $$
右辺を通分します。
$$ \frac{1}{a} = \frac{b-f}{bf} $$
最後に、両辺の逆数をとって \(a\) を求めます。
$$ a = \frac{bf}{b-f} $$

使用した物理公式

  • レンズの写像公式: \(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\)
計算過程

立式したものがそのまま答えとなります。
$$ a = \frac{bf}{b-f} $$

この設問の平易な説明

レンズには、物体までの距離 \(a\)、像までの距離 \(b\)、そしてレンズ固有の焦点距離 \(f\) の間に成り立つ魔法の公式(写像公式)があります。この問題は、その公式を「\(a=\dots\)」の形になるように、文字式の計算ルールに従って変形するだけです。

結論と吟味

\(a = \displaystyle\frac{bf}{b-f}\) となります。
この式は、写像公式を変形したものであり、物理的に正しい関係を表しています。実像ができる条件は \(a>0\) であり、そのためには分母の \(b-f\) が正、すなわち \(b>f\) である必要があります。これは、凸レンズで実像ができるのは焦点の外側であるという事実と一致しています。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{bf}{b-f}\)

問(イ) 無限遠の物体を撮影するときのレンズから受光面までの距離 \(b\)

思考の道筋とポイント
「無限遠の物体」という条件が、写像公式において何を意味するかを考えます。物体が無限に遠くにある、すなわち \(a \rightarrow \infty\) のとき、\(\displaystyle\frac{1}{a}\) はゼロに近づきます。この条件を写像公式に適用すれば、そのときの像距離 \(b\) が求まります。

この設問における重要なポイント

  • 「無限遠の物体」は、数学的には \(a \rightarrow \infty\) と解釈する。
  • \(a \rightarrow \infty\) のとき、\(\displaystyle\frac{1}{a} \rightarrow 0\) となる。
  • この条件を写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\) に代入する。

具体的な解説と立式
物体が無限遠にあるとき、\(a \rightarrow \infty\) と考えられるので、\(\displaystyle\frac{1}{a} \rightarrow 0\) となります。
これを写像公式①に代入すると、
$$ 0 + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} $$
したがって、
$$ b = f $$
この関係は、平行光線(無限遠の物体からの光)が凸レンズを通ると焦点に集まる、というレンズの定義そのものです。

使用した物理公式

  • レンズの写像公式: \(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\)
計算過程

与えられた焦点距離 \(f = 55 \text{ mm}\) を代入します。
$$ b = 55 \text{ [mm]} $$

この設問の平易な説明

はるか遠く(無限遠)にある星の光などを撮影するとき、その光はレンズに対してまっすぐ平行に入ってきます。凸レンズの性質として、平行な光はレンズを通った後、一点(焦点)に集まります。つまり、フィルム(受光面)をレンズの焦点の位置に置けば、ピントが合うということです。レンズの焦点距離は55mmなので、答えは55mmです。

結論と吟味

無限遠の物体を撮影するときの像距離は \(b = 55 \text{ mm}\) となります。
これは、与えられた \(b\) の可動範囲 \(54 \text{ mm} \le b \le 60 \text{ mm}\) の中に含まれているため、このカメラで無限遠の物体を撮影することは可能です。

解答 (イ) 55

問(ウ) 最も近くの物体を撮影するときの物体距離 \(a\)

思考の道筋とポイント
「最も近くの物体を撮影する」とは、物体距離 \(a\) が最小になる状況を指します。(ア)で求めた関係式 \(a = \displaystyle\frac{bf}{b-f}\) が最小になる条件を考えます。この式を \(a = \displaystyle\frac{f}{1 – f/b}\) と変形すると、\(a\) が最小になるのは、分母の \(1 – f/b\) が最大になるとき、すなわち \(f/b\) が最小になるとき、つまり \(b\) が最大になるときであることが分かります。与えられた \(b\) の可動範囲から、最大の \(b\) を使って \(a\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 物体をレンズに近づける(\(a\) を小さくする)と、ピントが合う位置(像距離 \(b\))はレンズから遠ざかる、という関係を理解する。
  • したがって、「最も近くの物体(\(a\) が最小)」を撮影する状況は、「像距離 \(b\) が最大」の状況に対応する。
  • 与えられた \(b\) の可動範囲 \(54 \le b \le 60 \text{ mm}\) のうち、最大の \(b=60 \text{ mm}\) を用いる。

具体的な解説と立式
物体とレンズの距離 \(a\) と、レンズと像の距離 \(b\) には、一方が小さくなるともう一方が大きくなるという関係があります。
「物体に最も近づいて撮影する」とは、\(a\) を可能な限り小さくすることです。このとき、像距離 \(b\) は可能な限り大きくなります。
カメラの構造上、\(b\) の最大値は \(60 \text{ mm}\) です。したがって、この \(b=60 \text{ mm}\) のときが、撮影可能な最も近い物体距離 \(a\) となります。
(ア)で求めた式に、\(b = 60 \text{ mm}\) と \(f = 55 \text{ mm}\) を代入して、そのときの \(a\) を求めます。
$$ a = \frac{bf}{b-f} $$

使用した物理公式

  • (ア)で導出した関係式: \(a = \displaystyle\frac{bf}{b-f}\)
計算過程

数値を代入して \(a\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{60 \times 55}{60 – 55} \\[2.0ex]
&= \frac{3300}{5} \\[2.0ex]
&= 660 \text{ [mm]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

カメラで近くのものを撮るとき、レンズを前に繰り出してフィルムから遠ざけますよね。これは、物体が近い(\(a\)が小さい)ほど、ピントが合う位置(\(b\))が後ろにずれるからです。この問題では、レンズを一番後ろに下げられるのが60mmの位置まで、と決まっています。この「\(b\)が最大」のときが、「撮影できる一番手前の物体(\(a\)が最小)」ということになります。あとは公式に \(b=60\)mm を入れて計算します。

結論と吟味

最も近くで撮影できる物体距離は \(a = 660 \text{ mm}\) です。
このとき \(a=660 \text{ mm} > f=55 \text{ mm}\) であり、実像ができる条件を満たしています。また、\(b=60 \text{ mm} > f=55 \text{ mm}\) であり、これも実像の条件と整合しています。

解答 (ウ) 660

問(エ) (ウ)のときの倍率 \(m\)

思考の道筋とポイント
レンズの倍率の公式 \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\) を用います。(ウ)で求めた物体距離 \(a\) と、そのときの像距離 \(b\) の値を代入して計算します。

この設問における重要なポイント

  • 倍率の公式は \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\) 。
  • (ウ)の条件、すなわち \(a = 660 \text{ mm}\) と \(b = 60 \text{ mm}\) を代入する。

具体的な解説と立式
倍率 \(m\) は、像距離 \(b\) と物体距離 \(a\) の比で与えられます。
$$ m = \frac{b}{a} $$
ここに、(ウ)で考えた状況、すなわち \(b=60 \text{ mm}\), \(a=660 \text{ mm}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 倍率の公式: \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\)
計算過程

数値を代入して \(m\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{60}{660} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{11}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

倍率とは、写真に写った像が、実際の物体の何分の一の大きさになっているか、という割合です。これは「レンズから像までの距離」を「レンズから物体までの距離」で割ることで計算できます。それぞれの距離は分かっているので、分数で計算するだけです。

結論と吟味

倍率は \(\displaystyle\frac{1}{11}\) となります。
物体がレンズから比較的近い(\(a=660 \text{ mm}\))にもかかわらず、像はかなり縮小されています。これは焦点距離が \(55 \text{ mm}\) と比較的短いためであり、広角レンズに近い特性を示していると考えられます。

別解: 倍率と焦点距離の関係式を用いる解法

思考の道筋とポイント
倍率の公式は \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\) だけでなく、写像公式と組み合わせることで、\(a\) を使わずに \(b\) と \(f\) だけで表すこともできます。この別公式 \(m = \left| \displaystyle\frac{b-f}{f} \right|\) を使うと、(ウ)で求めた \(a\) の値がなくても計算でき、検算にもなります。

この設問における重要なポイント

  • 倍率の別公式 \(m = \left| \displaystyle\frac{b-f}{f} \right|\) を利用する。
  • この公式に \(b = 60 \text{ mm}\) と \(f = 55 \text{ mm}\) を代入する。

具体的な解説と立式
写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} = \frac{1}{f} – \frac{1}{b} = \frac{b-f}{bf}\) より、\(a = \displaystyle\frac{bf}{b-f}\) です。
これを倍率の公式 \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\) に代入すると、
$$ m = b \div \left(\frac{bf}{b-f}\right) = b \times \frac{b-f}{bf} = \frac{b-f}{f} $$
実像の場合、\(b>f\) なので絶対値は不要です。この式に \(b=60 \text{ mm}\), \(f=55 \text{ mm}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 倍率の公式(変形版): \(m = \displaystyle\frac{b-f}{f}\)
計算過程

数値を代入して \(m\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{60 – 55}{55} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{55} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{11}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

倍率を計算する公式には、実はもう一つ別の形があります。この別バージョンを使うと、物体までの距離\(a\)が分からなくても、「像までの距離\(b\)」と「焦点距離\(f\)」だけで計算できます。(ウ)で計算した\(a\)がもし間違っていても、こちらを使えば正しい答えが出せますし、答えが一致すれば(ウ)の計算も合っていたと確認できます。

結論と吟味

倍率は \(\displaystyle\frac{1}{11}\) となり、主たる解法と完全に一致しました。これにより、(ウ)で計算した \(a=660 \text{ mm}\) という値の妥当性も裏付けられました。

解答 (エ) \(\displaystyle\frac{1}{11}\)

問(オ) (ウ)のときに受光面いっぱいに写る物体の大きさ

思考の道筋とポイント
(エ)で求めた倍率は、物体の長さと像の長さの比です。つまり、「(像の長さ) = (倍率) × (物体の長さ)」という関係が成り立ちます。逆に言えば、「(物体の長さ) = (像の長さ) ÷ (倍率)」となります。
「受光面いっぱいに写る」とは、像の大きさが受光面の大きさ(\(24 \text{ mm} \times 36 \text{ mm}\))と等しくなるということです。この像の大きさと倍率を使って、元の物体の大きさを計算します。

この設問における重要なポイント

  • 倍率 \(m = \displaystyle\frac{\text{像の大きさ}}{\text{物体の大きさ}}\) の関係を逆算して使う。
  • 物体の大きさ = \(\displaystyle\frac{\text{像の大きさ}}{m}\)
  • 像の大きさとして、受光面の大きさ \(24 \text{ mm} \times 36 \text{ mm}\) を用いる。

具体的な解説と立式
倍率 \(m\) は、物体の高さ \(h_{\text{物}}\) と像の高さ \(h_{\text{像}}\) の比で定義されます。
$$ m = \frac{h_{\text{像}}}{h_{\text{物}}} $$
これを物体の大きさについて解くと、
$$ h_{\text{物}} = \frac{h_{\text{像}}}{m} $$
この関係が、縦と横の両方について成り立ちます。
受光面いっぱいに像が写るので、像の大きさは受光面の大きさと同じです。

  • 像の縦の長さ: \(24 \text{ mm}\)
  • 像の横の長さ: \(36 \text{ mm}\)

(エ)で求めた倍率 \(m = \displaystyle\frac{1}{11}\) を使って、物体の縦と横の長さをそれぞれ計算します。

使用した物理公式

  • 倍率の定義: \(m = \displaystyle\frac{\text{像の大きさ}}{\text{物体の大きさ}}\)
計算過程

物体の縦の長さを計算します。
$$ \text{物体の縦} = \frac{24 \text{ mm}}{1/11} = 24 \times 11 = 264 \text{ [mm]} $$
物体の横の長さを計算します。
$$ \text{物体の横} = \frac{36 \text{ mm}}{1/11} = 36 \times 11 = 396 \text{ [mm]} $$
よって、物体の大きさは \(264 \text{ mm} \times 396 \text{ mm}\) となります。

この設問の平易な説明

(エ)で、写真に写る像は本物の11分の1の大きさになることが分かりました。では逆に、本物の大きさは、写真に写った像の大きさの11倍ということになります。写真(受光面)の大きさが \(24 \text{ mm} \times 36 \text{ mm}\) なので、その縦と横をそれぞれ11倍してあげれば、そこに写っている本物の物体の大きさが分かります。

結論と吟味

物体の大きさは \(264 \text{ mm} \times 396 \text{ mm}\) となります。
これはおよそ \(26.4 \text{ cm} \times 39.6 \text{ cm}\) であり、A4用紙(\(21.0 \text{ cm} \times 29.7 \text{ cm}\))より少し大きいくらいのサイズ感です。\(66 \text{ cm}\) の距離からこの大きさの物体を撮影するという状況は、日常的なスナップ写真の感覚として妥当なスケールです。

解答 (オ) \(264 \text{ mm} \times 396 \text{ mm}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • レンズの写像公式の応用:
    • 核心: この問題の全ての計算の土台となるのは、薄い凸レンズの写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\) です。この一つの式を、問題の状況に応じて変形し、解釈する能力が問われます。
    • 理解のポイント: この公式は、物体距離 \(a\)、像距離 \(b\)、焦点距離 \(f\) という3つの変数の関係を定めています。問題では、\(b\) に「可動範囲」という制約が与えられます。この制約が、撮影可能な物体距離 \(a\) の範囲をどのように決定するのか、という変数間の連動関係を読み解くことが重要です。
  • 物体距離と像距離の連動関係:
    • 核心: 写像公式が示す重要な性質として、「物体をレンズに近づける(\(a\) を減少させる)と、実像はレンズから遠ざかる(\(b\) が増大する)」という関係があります。
    • 理解のポイント: この定性的な関係を理解していると、「最も近い物体(\(a\) が最小)を撮る」という条件が、カメラの構造上「レンズを最も繰り出した状態(\(b\) が最大)」に対応することが直感的に分かります。この理解があれば、計算の方針を立てやすくなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 顕微鏡・望遠鏡: 対物レンズと接眼レンズという2枚のレンズを組み合わせた光学機器の問題。それぞれのレンズについて写像公式を立て、1枚目のレンズによる像が2枚目のレンズの物体になる、という関係を解いていきます。
    • 人間の眼のピント調節: 眼の水晶体がレンズ、網膜が受光面に相当します。遠くを見るときと近くを見るときで、水晶体の厚み(焦点距離 \(f\))を変化させて網膜上にピントを合わせる仕組みは、本問と考え方が似ています。
    • スライドプロジェクター: スクリーンに像を映す装置。レンズとスクリーンの距離(\(b\))を変えずに、スライド(物体)の位置(\(a\))を微調整してピントを合わせる仕組みなど、変数の扱い方が応用問題として考えられます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 変数を整理する: 問題文に出てくる物理量(\(a, b, f, m\) など)のうち、どれが定数で、どれが変数か、そして変数の可動範囲はどこかを明確に整理します。
    2. 基本公式を書き出す: レンズの問題であれば、まず写像公式と倍率の公式を書き出します。これが思考の出発点になります。
    3. 極端な条件を考える: 「無限遠の物体(\(a \rightarrow \infty\))」や「最も近い物体(\(a\) が最小)」など、問題で問われる極端な状況が、他の変数(この場合は \(b\))にどのような影響を与えるかを考えます。\(b\) の可動範囲の両端(最小値と最大値)が、それぞれどのような撮影状況に対応するのかを考察するのが定石です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • \(a\) と \(b\) の関係の逆転:
    • 誤解: 「最も近い物体(\(a\) が最小)」のときに、「像距離も最小(\(b\) が最小)」だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 日常体験を思い出すこと。近くのものを撮るときはカメラのレンズが前に繰り出される(レンズとフィルムの距離 \(b\) が大きくなる)ことをイメージすれば、\(a\) と \(b\) の関係が逆であることが理解できます。この定性的な理解は、計算ミスを防ぐ上で非常に重要です。
  • 分数の計算ミス:
    • 誤解: \(a = \displaystyle\frac{bf}{b-f}\) のような分数の計算で、足し算や引き算を間違える。特に、\(60-55=5\) のような簡単な計算ほど油断しやすい。
    • 対策: 焦らず、一つ一つのステップを丁寧に行うこと。特に、通分や逆数をとる操作は、計算ミスの多発ポイントなので、注意深く見直す習慣をつけましょう。
  • 倍率の逆数を使ってしまう:
    • 誤解: 物体の大きさを求めるときに、像の大きさに倍率を掛けてしまう(\(h_{\text{物}} = h_{\text{像}} \times m\))。
    • 対策: 倍率 \(m\) が1より小さい(縮小光学系)ことを確認すること。\(m=1/11\) なので、物体は像より大きいはずです。したがって、像の大きさを \(m\) で「割る」(\(1/m\) を掛ける)のが正しい、と判断できます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • レンズの動きとピント位置の連動イメージ: レンズ(L)と受光面(P)の図で、物体が遠くから近づいてくる様子を想像します。物体が遠いときは、像は焦点 \(f\) の近くにできます(\(b \approx f\))。物体が近づくにつれて、像はどんどん後ろ(右側)に下がっていきます(\(b\) が増大)。カメラのレンズが動ける範囲(\(b\) の可動範囲)は、この像の動きを追いかけるためのもの、という動的なイメージを持つと理解が深まります。
    • グラフによる理解: 横軸に物体距離 \(a\)、縦軸に像距離 \(b\) をとると、写像公式は双曲線の一部のようなグラフになります。\(a\) が無限大から \(f\) に近づくにつれて、\(b\) は \(f\) から無限大へと単調に増加します。このグラフを頭に描けると、\(a\) と \(b\) の関係性を視覚的に一発で理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 光線作図: 簡単で良いので、光線作図をしてみると現象の理解が深まります。特に、①レンズの中心を通る光は直進する、②光軸に平行な光は焦点を通る、という2本の光線を描けば、物体と像の位置関係が視覚的に確認できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • レンズの写像公式 \(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\):
    • 選定理由: 物体、レンズ、像の位置関係を記述する、レンズ光学における最も基本的な法則だからです。この問題のように、物体距離や像距離が関わる場合は、まずこの公式の適用を考えます。
    • 適用根拠: この公式は、光の屈折の法則を、レンズの曲面形状という幾何学的条件の下で近似(近軸光線近似)して導かれたものです。薄いレンズであれば、非常に高い精度で成り立ちます。
  • 倍率の公式 \(m = \displaystyle\frac{b}{a}\):
    • 選定理由: 物体と像の「大きさ」の関係を問われているからです。位置関係は写像公式、大きさの関係は倍率の公式、というように役割分担が明確です。
    • 適用根拠: これは光線作図における三角形の相似から導かれます。レンズの中心を通る光線が直進することから、物体と光軸、像と光軸が作る2つの直角三角形が相似になるため、その高さの比(倍率)が底辺の比(\(b/a\))に等しくなります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (ア) 写像公式の変形:
    • 戦略: 基本公式を、求めたい変数 \(a\) について解く。
    • フロー: ①写像公式を立てる → ②\(\displaystyle\frac{1}{a}\) の形にする → ③通分する → ④逆数をとる。
  2. (イ)(ウ) 可動範囲の解釈:
    • 戦略: \(a\) と \(b\) の関係性を考え、\(b\) の可動範囲の両端が、どのような \(a\) の状況に対応するかを特定する。
    • フロー: ①\(a\) が無限大(最も遠い)のとき、\(b\) は焦点距離 \(f\) になることを確認((イ)の答え)。→ ②\(a\) が最小(最も近い)のとき、\(b\) は最大になることを理解する。→ ③\(b\) の最大値(\(60 \text{ mm}\))を(ア)の式に代入して \(a\) の最小値を計算((ウ)の答え)。
  3. (エ)(オ) 倍率と大きさの計算:
    • 戦略: (ウ)の状況における倍率を計算し、それを使って物体の大きさを逆算する。
    • フロー: ①倍率の公式 \(m=b/a\) に、(ウ)の \(a, b\) の値を代入((エ)の答え)。→ ②物体の大きさは、像の大きさ(受光面のサイズ)を倍率で割ることで求められる、と立式 → ③数値を代入して計算((オ)の答え)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位を揃える: この問題では全て mm で与えられているため問題ありませんが、cm や m が混在する問題では、計算前に必ず単位を統一する習慣をつけましょう。
  • 大きな数の掛け算: \(60 \times 55\) のような計算は、\(6 \times 55 \times 10 = 330 \times 10 = 3300\) のように、工夫して計算するとミスが減ります。
  • 分数の約分: \(60/660\) のような分数は、まず両方を10で割り \(6/66\)、さらに6で割って \(1/11\) と、段階的に約分すると確実です。
  • 別解による検算: (エ)のように、別解が存在する問題では、両方のアプローチで計算してみて、答えが一致するか確認するのが最も強力な検算方法です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 撮影距離: 最短撮影距離が \(660 \text{ mm} = 66 \text{ cm}\) となりました。一般的なカメラレンズの最短撮影距離としては、やや長めですが、物理的に非現実的な値ではありません。
    • 倍率: 倍率が \(1/11\) と、1よりかなり小さい値になりました。これは、物体より像が小さい「縮小像」であることを意味し、カメラの一般的な使われ方と一致しています。
    • 物体サイズ: \(26.4 \text{ cm} \times 39.6 \text{ cm}\) という物体の大きさも、\(66 \text{ cm}\) の距離から撮影する対象として、ごく自然なスケール感です。これらの値が極端に大きかったり小さかったりした場合は、計算ミスを疑うべきです。
  • 条件の再確認:
    • (イ)で求めた \(b=55 \text{ mm}\) や、(ウ)で使った \(b=60 \text{ mm}\) は、問題で与えられた \(b\) の可動範囲 \(54 \le b \le 60\) に収まっているか? → 収まっています。もし、計算の結果、この範囲外の値が必要になったとしたら、それは「撮影不可能」を意味するか、あるいは計算が間違っていることになります。
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344 液体中の光源のレンズによる像

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、「見かけの深さ」という光の屈折現象と、「レンズによる結像」という2つの異なる光学現象を組み合わせた応用問題です。それぞれの現象を正しく理解し、段階的に計算を進める能力が問われます。
この問題の核心は、液体中の光源Pが、レンズにとってはあたかも「見かけの深さ」にある点P’から出た光のように扱える、という点に気づけるかどうかです。この「見かけの光源P’」を新たな物体としてレンズの写像公式を適用することが、問題を解く上での最大の鍵となります。

与えられた条件
  • 空気の屈折率: \(1\)
  • (1) 容器が空のとき
    • レンズから光源Pまでの距離: \(a_1 = 15.0 \text{ cm}\)
    • レンズからスクリーンまでの距離: \(b_1 = 30.0 \text{ cm}\)
  • (2) 液体を入れたとき
    • 液体の深さ(光源Pから液面まで): \(h = 10.0 \text{ cm}\)
    • レンズからスクリーンまでの距離: \(b_2 = 50.0 \text{ cm}\)
  • 近似式: 角\(\theta\)が小さいとき \( \sin\theta \approx \tan\theta \)
問われていること
  • (1) レンズの焦点距離 \(f\)
  • (2) (ア) 見かけの深さ \(h’\)(液面から、みかけの光源P’までの距離)
  • (2) (イ) 液体の屈折率 \(n\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「屈折による見かけの深さとレンズによる結像の組み合わせ」です。2つの物理現象を正しく関連付けることが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンズの写像公式: 物体距離 \(a\)、像距離 \(b\)、焦点距離 \(f\) の間には、\(\displaystyle\frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\) という関係が成り立つ。
  2. 見かけの深さ: 水中など屈折率 \(n\) の媒質中にある深さ \(h\) の物体を、真上(空気中)から見ると、深さ \(h’ = \displaystyle\frac{h}{n}\) の位置にあるように見える。
  3. 屈折の法則: 2つの媒質の境界において、入射角を \(\theta_1\)、屈折角を \(\theta_2\)、各媒質の屈折率を \(n_1, n_2\) とすると、\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という関係が成り立つ。
  4. 近似式: 光を真上近くから見る場合、光線と法線のなす角は非常に小さいとみなせるため、\( \sin\theta \approx \tan\theta \) という近似が使える。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、容器が空のときの条件(物体距離、像距離)をレンズの写像公式に代入し、未知数である焦点距離 \(f\) を求めます。
  2. (2)(ア)では、まず液体を入れた後の結像条件(像距離 \(b_2=50.0\) cm)と(1)で求めた焦点距離 \(f\) を使って、レンズにとっての「物体距離」がいくらになるかを逆算します。この物体距離が、レンズから「みかけの光源P’」までの距離に相当します。図から、液面からP’までの距離(見かけの深さ)を計算します。
  3. (2)(イ)では、「見かけの深さ」の公式 \(h’ = h/n\) を使って、(ア)で求めた \(h’\) と与えられた実際の深さ \(h\) から、液体の屈折率 \(n\) を求めます。

問(1) レンズの焦点距離 \(f\)

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