「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第18章】基本問題319~324

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基本問題

319 音源が動く場合のドップラー効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている、ドップラー効果の公式から得られる2つの式を割り算して解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 「逆数の和と差」を利用する解法
      • 模範解答が2つの式を割り算して連立方程式を解くのに対し、別解では各式の逆数をとり、その和と差を考えることで未知数 \(v\) と \(f_0\) を分離して求める、より数学的でエレガントなアプローチを紹介します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 振動数の逆数をとることで、速度 \(v\) との関係が線形になるという、より深い数学的構造が明らかになります。これは、周波数変移が速度に比例するという近似とも関連する高度な視点を提供します。
    • 思考の柔軟性向上: 連立方程式の解法として、割り算や代入以外のテクニックを学ぶことで、数学的な問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の見通し改善: このアプローチを用いると、電車の速さ \(v\) と元の振動数 \(f_0\) が、観測される2つの振動数 \(f_{\text{近}}\) と \(f_{\text{遠}}\) を用いて、それぞれ \(v = V \displaystyle\frac{f_{\text{近}} – f_{\text{遠}}}{f_{\text{近}} + f_{\text{遠}}}\) と \(f_0 = \displaystyle\frac{2 f_{\text{近}} f_{\text{遠}}}{f_{\text{近}} + f_{\text{遠}}}\) という対称性の高い美しい形で表現できることがわかります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「観測された振動数から未知の速さと元の振動数を求める」という、ドップラー効果の逆問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ドップラー効果の公式(音源が動く場合): 音源が動く場合の振動数変化の公式を正しく理解していること。
  2. 状況に応じた符号設定: 音源が「近づく」場合と「遠ざかる」場合で、公式に用いる速度の符号を正しく設定できること。
  3. 連立方程式の解法: 未知数が「電車の速さ \(v\)」と「元の振動数 \(f_0\)」の2つであるため、2つの状況(近づく・遠ざかる)から2本の式を立て、連立方程式として解く数学的な能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 「電車が近づくとき」と「電車が遠ざかるとき」の2つの状況について、それぞれドップラー効果の振動数の公式を用いて立式します。
  2. 得られた2本の式を連立方程式とみなし、未知数である電車の速さ \(v\) と警笛の振動数 \(f_0\) を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題では、電車の速さ \(v\) と、警笛の本来の振動数 \(f_0\) という、2つの未知数を求める必要があります。一方、問題文には「近づくときの振動数 \(918\) Hz」と「遠ざかるときの振動数 \(816\) Hz」という2つの情報が与えられています。未知数が2つ、独立した情報が2つなので、連立方程式を立てれば解ける、という方針が立てられます。
この設問における重要なポイント

  • 観測者は静止しているので、観測者の速度は \(v_o = 0\)。
  • 音源(電車)が動く場合のドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v_s}f_0\) を用いる。
  • 近づくとき: 音源は観測者に向かってくる。音の伝わる向きを正とすると、音源の速度は \(v_s = v\)。公式の分母は \(V-v\) となる。
  • 遠ざかるとき: 音源は観測者から離れていく。音の伝わる向きを正とすると、音源の速度は \(v_s = -v\)。公式の分母は \(V-(-v) = V+v\) となる。

具体的な解説と立式
電車が近づくとき、観測される振動数は \(f_{\text{近}} = 918\) Hz です。音源が速さ \(v\) で近づく場合の公式を適用します。
$$ 918 = \frac{V}{V-v} f_0 $$
音速 \(V=340\) m/s を代入すると、
$$ 918 = \frac{340}{340-v} f_0 \quad \cdots ① $$
電車が遠ざかるとき、観測される振動数は \(f_{\text{遠}} = 816\) Hz です。音源が速さ \(v\) で遠ざかる場合の公式を適用します。
$$ 816 = \frac{V}{V+v} f_0 $$
音速 \(V=340\) m/s を代入すると、
$$ 816 = \frac{340}{340+v} f_0 \quad \cdots ② $$
これで、未知数 \(v, f_0\) を含む2本の式が立ちました。

使用した物理公式

  • ドップラー効果の振動数公式(音源が近づく場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v}f_0\)
  • ドップラー効果の振動数公式(音源が遠ざかる場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V+v}f_0\)
計算過程

未知数 \(f_0\) を消去するために、①式を②式で割ります(① ÷ ②)。
$$
\begin{aligned}
\frac{918}{816} &= \frac{\displaystyle\frac{340}{340-v} f_0}{\displaystyle\frac{340}{340+v} f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{340}{340-v} \cdot \frac{340+v}{340} \\[2.0ex]
&= \frac{340+v}{340-v}
\end{aligned}
$$
左辺の分数 \(\displaystyle\frac{918}{816}\) を約分します。両辺はともに \(102\) で割り切れます(\(918 = 9 \times 102, 816 = 8 \times 102\))。
$$ \frac{9}{8} = \frac{340+v}{340-v} $$
この方程式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
9(340-v) &= 8(340+v) \\[2.0ex]
9 \times 340 – 9v &= 8 \times 340 + 8v \\[2.0ex]
(9-8) \times 340 &= 8v + 9v \\[2.0ex]
340 &= 17v \\[2.0ex]
v &= \frac{340}{17} \\[2.0ex]
&= 20 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、求まった \(v=20\) m/s を①式に代入して \(f_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
918 &= \frac{340}{340-20} f_0 \\[2.0ex]
918 &= \frac{340}{320} f_0 \\[2.0ex]
918 &= \frac{17}{16} f_0 \\[2.0ex]
f_0 &= 918 \times \frac{16}{17} \\[2.0ex]
&= (17 \times 54) \times \frac{16}{17} \\[2.0ex]
&= 54 \times 16 \\[2.0ex]
&= 864 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「近づくときの音の高さ」と「遠ざかるときの音の高さ」の2つの情報を、それぞれ物理の公式(ドップラー効果の式)に当てはめて、2本の数式を作ります。すると、未知数が「電車の速さ \(v\)」と「本当の音の高さ \(f_0\)」の2つ、数式も2本なので、中学校で習った連立方程式の問題になります。2つの式を割り算すると、未知数の \(f_0\) がうまく消えてくれるので、先に \(v\) を求めることができます。\(v\) がわかれば、それを最初の式のどちらかに代入して、残りの \(f_0\) も計算できます。

結論と吟味

電車の速さは \(v=20\) m/s、警笛の本来の振動数は \(f_0=864\) Hz と求められました。元の振動数 \(864\) Hz は、観測された振動数 \(918\) Hz と \(816\) Hz の間の値となっており、物理的に妥当な結果です。

解答 \(v=20\) m/s, \(f_0=864\) Hz
別解: 「逆数の和と差」を利用する解法

思考の道筋とポイント
主たる解法では式を割り算しましたが、ここでは別の数学的アプローチで連立方程式を解きます。2つの公式の「逆数」をとると、足し算や引き算によって未知数を綺麗に分離できるという性質を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 近づくときの公式の逆数: \(\displaystyle\frac{1}{f_{\text{近}}} = \frac{V-v}{Vf_0}\)
  • 遠ざかるときの公式の逆数: \(\displaystyle\frac{1}{f_{\text{遠}}} = \frac{V+v}{Vf_0}\)
  • この2式の和をとると \(v\) の項が消え、差をとると \(V\) の項が消える。

具体的な解説と立式
主たる解法で立てた①式と②式の逆数をとります。
$$ \frac{1}{918} = \frac{340-v}{340 f_0} \quad \cdots ③ $$
$$ \frac{1}{816} = \frac{340+v}{340 f_0} \quad \cdots ④ $$
まず、④式から③式を引いて、\(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{816} – \frac{1}{918} &= \frac{340+v}{340 f_0} – \frac{340-v}{340 f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{(340+v)-(340-v)}{340 f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{2v}{340 f_0}
\end{aligned}
$$
次に、③式と④式を足して、\(f_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{918} + \frac{1}{816} &= \frac{340-v}{340 f_0} + \frac{340+v}{340 f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{(340-v)+(340+v)}{340 f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{2 \times 340}{340 f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{f_0}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 主たる解法と同じ。
計算過程

まず、和の式 \(\displaystyle\frac{1}{f_0} = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{918} + \frac{1}{816} \right)\) から \(f_0\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{f_0} &= \frac{1}{2} \left( \frac{816 + 918}{918 \times 816} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \frac{1734}{918 \times 816}
\end{aligned}
$$
逆数をとって \(f_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f_0 &= \frac{2 \times 918 \times 816}{1734} \\[2.0ex]
&= \frac{2 \times (9 \times 102) \times (8 \times 102)}{17 \times 102} \\[2.0ex]
&= \frac{2 \times 9 \times 8 \times 102}{17} \\[2.0ex]
&= \frac{2 \times 9 \times 8 \times (17 \times 6)}{17} \\[2.0ex]
&= 2 \times 9 \times 8 \times 6 \\[2.0ex]
&= 864 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
次に、差の式から \(v\) を求めます。\(v = \displaystyle\frac{340 f_0}{2} \left( \frac{1}{816} – \frac{1}{918} \right)\) に \(f_0=864\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{340 \times 864}{2} \left( \frac{918 – 816}{816 \times 918} \right) \\[2.0ex]
&= 170 \times 864 \times \frac{102}{816 \times 918} \\[2.0ex]
&= 170 \times 864 \times \frac{102}{(8 \times 102) \times (9 \times 102)} \\[2.0ex]
&= 170 \times 864 \times \frac{1}{72 \times 102} \\[2.0ex]
&= 170 \times \frac{12}{102} \\[2.0ex]
&= 170 \times \frac{2}{17} \\[2.0ex]
&= 10 \times 2 \\[2.0ex]
&= 20 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
(別解の別ルート)
\(v = V \displaystyle\frac{f_{\text{近}} – f_{\text{遠}}}{f_{\text{近}} + f_{\text{遠}}}\) の関係式を導き、先に \(v\) を求めることもできます。
$$
\begin{aligned}
v &= 340 \times \frac{918 – 816}{918 + 816} \\[2.0ex]
&= 340 \times \frac{102}{1734} \\[2.0ex]
&= 340 \times \frac{1}{17} \\[2.0ex]
&= 20 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
この \(v\) を使って \(f_0\) を求めると、主たる解法と同じ計算になります。

計算方法の平易な説明

連立方程式を解くための、ちょっと変わった「裏ワザ」のような方法です。2つの公式をひっくり返して「逆数」の形にすると、面白い性質が見えてきます。逆数同士を「足し算」すると、電車の速さ\(v\)が式からきれいに消えてくれて、\(f_0\)だけを先に計算できます。逆に、逆数同士を「引き算」すると、\(f_0\)が消えてくれて、\(v\)だけを計算できます。このように、足し算・引き算で未知数を一つずつ消していく、という解き方です。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。この解法は、連立方程式を解く上での数学的な見通しを良くする強力な手法ですが、数値計算はやや煩雑になる場合もあります。

解答 \(v=20\) m/s, \(f_0=864\) Hz

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ドップラー効果の「逆問題」という構造:
    • 核心: この問題は、通常のドップラー効果の問題(原因である速さや元の振動数から、結果である観測振動数を求める)とは逆に、観測された結果(近づくときと遠ざかるときの振動数)から、原因(電車の速さと元の振動数)を推定する「逆問題」です。
    • 理解のポイント:
      • 未知数2つ、情報2つ: 求めるべき未知数が「電車の速さ \(v\)」と「元の振動数 \(f_0\)」の2つです。これに対し、問題文には「近づくときの振動数 \(f_{\text{近}}\)」と「遠ざかるときの振動数 \(f_{\text{遠}}\)」という2つの独立した情報が与えられています。この構造から、「連立方程式を立てれば解ける」という数学的な見通しを立てることが、問題解決の第一歩となります。
  • 近づく場合と遠ざかる場合の公式の対称性:
    • 核心: 音源が動く場合、近づくときの公式 \(f_{\text{近}} = \displaystyle\frac{V}{V-v}f_0\) と、遠ざかるときの公式 \(f_{\text{遠}} = \displaystyle\frac{V}{V+v}f_0\) は、分母の \(v\) の符号が異なるだけで、非常に対称的な形をしています。
    • 理解のポイント:
      • 割り算による消去: この対称性のおかげで、2つの式を割り算すると、共通部分である \(V\) や \(f_0\) が綺麗に消去され、未知数 \(v\) だけの関係式をシンプルに導くことができます。
      • 物理的意味: この対称性は、音源の速度 \(v\) が、音速 \(V\) に対して加わるか引かれるかで、波長の圧縮・伸長の度合いが決まるという物理現象を反映しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 観測者が動く場合: 踏切の観測者が静止せず、線路と平行に動いている場合も、近づくときと遠ざかるときの2つの状況で立式すれば、同様に連立方程式で解くことができます。
    • 反射音を利用した速度測定: 自動車などが壁に向かって音を出し、自身がその反射音を聞くことで速度を測定するスピードガンなどの原理も、この問題と考え方は同じです。行き(自動車→壁)と帰り(壁→自動車)の2回のドップラー効果を考え、観測された振動数から自動車の速さを逆算します。
    • 元の振動数が既知の場合: もし \(f_0\) が分かっていれば、未知数は \(v\) のみになるため、近づくときか遠ざかるときのどちらか一方の情報だけで \(v\) を求めることができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 未知数と情報の数を数える: まず、問題で何を求めたいのか(未知数)をリストアップします。次に、問題文から読み取れる独立した物理的状況や観測値(情報)をリストアップします。
    2. 連立方程式を想定する: 未知数の数と情報の数が一致していれば(今回は2つずつ)、連立方程式を立てる方針を固めます。
    3. 状況ごとに立式: 「近づくとき」「遠ざかるとき」など、情報が与えられている状況ごとに、ドップラー効果の公式を一つずつ丁寧に立てます。
    4. 最も簡単な解法を選択: 立てた連立方程式の形を見て、どうすれば最も計算が楽になるかを考えます。この問題のように、共通の未知数が掛け算で含まれている場合は、「割り算」で消去するのが定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 符号の混同:
    • 誤解: 近づくときと遠ざかるときの分母 \(V-v\) と \(V+v\) を逆にしてしまう。
    • 対策: 「近づくと音は高くなる(振動数が大きくなる) \(\rightarrow\) 公式の分数は1より大きくなる \(\rightarrow\) 分母は \(V-v\) で小さくなる」というように、物理現象と式の形をセットで確認する癖をつけましょう。
  • 元の振動数を安易に平均で計算する:
    • 誤解: 元の振動数 \(f_0\) は、観測された2つの振動数 \(f_{\text{近}}\) と \(f_{\text{遠}}\) の単純な平均値 \((918+816)/2\) で求まるだろう、と勘違いしてしまう。
    • 対策: ドップラー効果の公式は、\(v\) に対して反比例のような非線形な関係を含んでいるため、単純な算術平均は成り立ちません。必ず連立方程式を解く必要があります。ちなみに、この場合の \(f_0\) は、\(f_{\text{近}}\) と \(f_{\text{遠}}\) の「調和平均」という特殊な平均値で与えられます。
  • 連立方程式の計算ミス:
    • 誤解: \(9(340-v) = 8(340+v)\) のような式を、焦って \(3060 – 9v = 2720 + 8v\) のように、大きな数をいきなり計算してしまい、ミスを誘発する。
    • 対策: \(9 \times 340 – 9v = 8 \times 340 + 8v\) のように、共通の塊(ここでは340)を保ったまま移項し、\((9-8) \times 340 = 17v\) とすることで、大きな数の掛け算を避け、計算ミスを減らすことができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 連立方程式というアプローチの選定:
    • 選定理由: 物理法則から未知数を決定する際、未知数の数と独立な方程式の数が一致する必要がある、というのは数学的な大原則です。この問題では未知数が \(v, f_0\) の2つなので、方程式も2本必要です。幸い、「近づくとき」「遠ざかるとき」という2つの独立した物理状況が与えられているため、それぞれについてドップラー効果の公式を立てることで、解を持つ連立方程式を組むことができます。
    • 適用根拠: 「近づくとき」と「遠ざかるとき」は、どちらもドップラー効果の法則が成り立つ状況です。したがって、それぞれの状況について立てた2本の式は、両方とも物理的に真実であり、それらを数学的に連立させて解くことは完全に正当化されます。
  • 割り算による解法の選択:
    • 選定理由: 立てた2本の式 \(918 = \frac{V}{V-v} f_0\) と \(816 = \frac{V}{V+v} f_0\) を見比べたとき、両方の式に共通して \(f_0\) が掛け算の形で含まれています。このような場合、連立方程式を解くテクニックとして、2式を「割り算」することで共通因数 \(f_0\) を消去し、まず \(v\) だけの式に単純化するのが最も見通しの良い方法です。
    • 適用根拠: 数学的に、方程式の両辺を0でない同じ数で割る操作は常に等価な変形です。この操作によって、より単純で解きやすい方程式を導くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 大きな数の分数の約分: \(\displaystyle\frac{918}{816}\) のような大きな数の分数が出てきた場合、すぐに筆算で割り算を始めるのではなく、まず約分できないか試みることが重要です。両方が偶数なので2で割る、各位の和が3の倍数か確認する、などの基本的な方法を試しましょう。この問題では、\(918 = 9 \times 102\), \(816 = 8 \times 102\) という関係に気づけるかが、計算を大幅に楽にする鍵となります。
  • 分配法則の工夫: \(9(340-v) = 8(340+v)\) のような式では、いきなり括弧を外すのではなく、\(340\) を一つの文字のように扱って移項する(\(9 \times 340 – 8 \times 340 = 8v + 9v\))ことで、大きな数の掛け算を避け、計算ミスを減らすことができます。
  • 丁寧な検算: 求まった答え(\(v=20, f_0=864\))を、元の2本の式の両方に代入して、等式が成り立つかを確認する作業を惜しまないようにしましょう。
    • ①式: \(\frac{340}{340-20} \times 864 = \frac{17}{16} \times 864 = 17 \times 54 = 918\)。OK。
    • ②式: \(\frac{340}{340+20} \times 864 = \frac{17}{18} \times 864 = 17 \times 48 = 816\)。OK。

    この一手間が、テストでの失点を防ぐ確実な方法です。

320 音源と観測者が動く場合のドップラー効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されているドップラー効果の一般公式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 「波長の変化」と「観測される相対速度」の2段階で考える解法
      • 模範解答が一般公式に速度を代入して一気に解くのに対し、別解では「Step1: 音源の運動による波長の変化を計算」し、「Step2: 観測者の運動を考慮して、その波から聞こえる振動数を計算する」という、より物理現象に即した2段階のアプローチで解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ドップラー効果の公式の分母が「音源の運動による波長の変化」に、分子が「観測者の運動による相対速度の変化」に対応していることを明確に理解でき、公式の丸暗記から脱却できます。
    • 思考の柔軟性向上: 公式を忘れてしまった場合でも、物理現象のステップを一つずつ追うことで、自力で答えを導き出す論理的な思考力が養われます。
    • 応用力の養成: 風が吹く問題や、音が壁で反射する問題など、より複雑な状況設定になった際に、現象を要素に分解して考える力が身につきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「音源と観測者の両方が動く場合のドップラー効果(すれ違い)」です。音源と観測者が互いに反対方向に動く状況で、ドップラー効果の一般公式を正しく適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ドップラー効果の一般公式: 観測される振動数 \(f’\) が、音速 \(V\)、観測者の速度 \(v_o\)、音源の速度 \(v_s\)、元の振動数 \(f_0\) を用いて \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) と表されることを理解していること。
  2. 速度の符号ルール: 公式を正しく適用するための「音源から観測者へ向かう向きを正とする」というルールを一貫して適用できること。
  3. 状況変化の把握: 「すれ違う前」と「すれ違った後」で、音源と観測者の相対的な位置関係が変わり、音の伝わる向きが逆になることを正確に把握すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 「すれ違う前」の状況について、音源から観測者への向きを正と定め、各電車の速度の符号を決定して一般公式に代入します。
  2. 「すれ違った後」の状況について、音の伝わる向きが逆になるため、正の向きを再設定し、同様に速度の符号を決定して一般公式に代入します。

すれ違う前の振動数

思考の道筋とポイント
音源(電車A)と観測者(電車Bの人)が互いに近づいてくる状況です。このような両者が動く問題では、ドップラー効果の一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) を用いるのが最も確実です。最大のポイントは、公式に代入する速度 \(v_s\) と \(v_o\) の符号を、物理的な状況に合わせて正しく設定することです。
この設問における重要なポイント

  • ドップラー効果の一般公式は \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) である。
  • 速度の符号は「音源(A)から観測者(B)へ向かう向きを正」と定義する。
  • すれ違う前は、AとBが対面している。AからBへの向きは、Aの進行方向と同じであり、Bの進行方向とは逆である。
  • 音源Aの速度 \(v_s\) は、正の向きに 20 m/s なので、\(v_s = +20\) m/s。
  • 観測者Bの速度 \(v_o\) は、正の向きとは逆向きに 10 m/s なので、\(v_o = -10\) m/s。

具体的な解説と立式
ドップラー効果の一般公式は以下のように与えられます。
$$ f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_0 \quad \cdots ① $$
すれ違う前の状況を考えます。音源である電車Aから観測者のいる電車Bへ向かう向きを正とします。

  • 音源Aは、正の向きに速さ 20 m/s で運動しているので、その速度は \(v_s = 20\) m/s。
  • 観測者Bは、正の向きとは逆向きに速さ 10 m/s で運動しているので、その速度は \(v_o = -10\) m/s。

これらの速度を①式に代入します。

使用した物理公式

  • ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\)
計算過程

上記で設定した値を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{340 – (-10)}{340 – 20} \times 576 \\[2.0ex]
&= \frac{350}{320} \times 576 \\[2.0ex]
&= \frac{35}{32} \times 576 \\[2.0ex]
&= 35 \times \frac{576}{32} \\[2.0ex]
&= 35 \times 18 \\[2.0ex]
&= 630 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電車AとBが向かい合って近づいてくるので、音はかなり高く聞こえるはずです。この状況をドップラー効果の公式に入力します。「AからBへ向かう向きをプラス」と決めると、Aはプラス方向に、Bはマイナス方向に進んでいます。このプラス・マイナスを間違えないように公式に代入すれば、答えが計算できます。

結論と吟味

すれ違う前に観測される振動数は \(630\) Hz となります。音源と観測者が互いに近づいているため、振動数は元の \(576\) Hz よりも高くなっており、物理的に妥当な結果です。

解答 すれ違う前:630 Hz
別解: 「波長の変化」と「観測される相対速度」の2段階で考える解法

思考の道筋とポイント
公式を直接使わず、ドップラー効果の現象を2つのステップに分解して考えます。

  • Step 1: 音源(電車A)が動くことで、進行方向の音の波長 \(\lambda’\) がどう変化するかを求めます。
  • Step 2: その変化した波長の音を、動いている観測者(電車B)が聞くと、振動数 \(f’\) はどうなるかを求めます。

この設問における重要なポイント

  • Step 1: 音源Aが速さ \(v_A=20\) m/s で音を圧縮しながら進むため、前方の波長は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_A}{f_0}\) と短くなる。
  • Step 2: 観測者Bは速さ \(v_B=10\) m/s で、その圧縮された波に向かって進む。そのため、観測者が感じる音の相対的な速さは \(V_{\text{相対}} = V+v_B\) となる。
  • 観測される振動数 \(f’\) は、この新しい相対速度と新しい波長から、波の基本式 \(f’ = \displaystyle\frac{V_{\text{相対}}}{\lambda’}\) で決まる。

具体的な解説と立式
Step 1: 波長の変化
音源である電車Aが速さ \(v_A = 20\) m/s で進行方向に進むため、前方の波は圧縮されます。このときの波長 \(\lambda’\) は、
$$ \lambda’ = \frac{V-v_A}{f_0} \quad \cdots ① $$
Step 2: 観測される振動数
観測者である電車Bの人は、この波長 \(\lambda’\) の音を観測します。Bは速さ \(v_B = 10\) m/s で音に向かって進んでいるため、Bにとっての音の相対速度 \(V_{\text{相対}}\) は、
$$ V_{\text{相対}} = V + v_B \quad \cdots ② $$
観測される振動数 \(f’\) は、\(f’ = \displaystyle\frac{(\text{相対速度})}{(\text{波長})}\) で求められます。
$$ f’ = \frac{V_{\text{相対}}}{\lambda’} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 音源が動くときの波長変化: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_s}{f_0}\)
  • 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
計算過程

③式に①式と②式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{V+v_B}{\left( \displaystyle\frac{V-v_A}{f_0} \right)} \\[2.0ex]
&= \frac{V+v_B}{V-v_A}f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{340+10}{340-20} \times 576 \\[2.0ex]
&= \frac{350}{320} \times 576 \\[2.0ex]
&= 630 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題は2つの「音が高くなる効果」の組み合わせです。まず「電車Aが音を押し縮める効果」で、音の波長が短くなります。次に「電車Bがその縮んだ音に自分から突っ込んでいく効果」で、1秒間にたくさんの波とすれ違います。この2つの効果を掛け合わせることで、最終的に聞こえる振動数が計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果 \(630\) Hz が得られました。この解法は、一般公式の分母が音源の運動、分子が観測者の運動に由来することを物理的に示しており、理解を深める上で非常に有益です。

解答 すれ違う前:630 Hz

すれ違った後の振動数

思考の道筋とポイント
電車AがBを通り過ぎた後の状況を考えます。ここでも一般公式 \(f” = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) を使いますが、すれ違う前との最大の違いは「音の伝わる向き」です。すれ違い後は、音源Aから観測者Bへの向きが、Aの進行方向と逆になります。この新しい音の伝わる向きを「正」として、速度の符号を再設定する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • すれ違った後は、音源Aと観測者Bが互いに遠ざかる。
  • 速度の符号ルール「音源(A)から観測者(B)へ向かう向きを正」に従うと、今回はAの進行方向と「逆向き」が正の向きとなる。
  • 音源Aの速度 \(v_s\) は、正の向きとは逆向きに 20 m/s なので、\(v_s = -20\) m/s。
  • 観測者Bの速度 \(v_o\) は、正の向きと同じ向きに 10 m/s なので、\(v_o = +10\) m/s。

具体的な解説と立式
ドップラー効果の一般公式は同じです。
$$ f” = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_0 \quad \cdots ① $$
すれ違った後の状況を考えます。音源Aから観測者Bへ向かう向き(Aの進行方向と逆向き)を正とします。

  • 音源Aは、正の向きとは逆向きに速さ 20 m/s で運動しているので、その速度は \(v_s = -20\) m/s。
  • 観測者Bは、正の向きと同じ向きに速さ 10 m/s で運動しているので、その速度は \(v_o = 10\) m/s。

これらの速度を①式に代入します。

使用した物理公式

  • ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\)
計算過程

上記で設定した値を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
f” &= \frac{340 – 10}{340 – (-20)} \times 576 \\[2.0ex]
&= \frac{330}{360} \times 576 \\[2.0ex]
&= \frac{11}{12} \times 576 \\[2.0ex]
&= 11 \times \frac{576}{12} \\[2.0ex]
&= 11 \times 48 \\[2.0ex]
&= 528 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

すれ違った後は、お互いに背を向けて遠ざかっていくので、音は低く聞こえるはずです。この状況を公式に入力します。今度は「AからBへ向かう向き(Aの進行方向と逆)」をプラスと決め直します。すると、Aはマイナス方向に、Bはプラス方向に進んでいることになります。この符号を公式に代入して計算します。

結論と吟味

すれ違った後に観測される振動数は \(528\) Hz となります。音源と観測者が互いに遠ざかっているため、振動数は元の \(576\) Hz よりも低くなっており、物理的に妥当な結果です。

解答 すれ違った後:528 Hz
別解: 「波長の変化」と「観測される相対速度」の2段階で考える解法

思考の道筋とポイント
すれ違った後の状況も、2ステップで考えます。

  • Step 1: 音源(電車A)が動くことで、後方に伝わる音の波長 \(\lambda”\) がどう変化するかを求めます。
  • Step 2: その変化した波長の音を、動いている観測者(電車B)が聞くと、振動数 \(f”\) はどうなるかを求めます。

この設問における重要なポイント

  • Step 1: 音源Aは後方に音を伝えながら、自身は前方へ速さ \(v_A=20\) m/s で進む。つまり、音を「引き伸ばし」ながら進む。後方の波長は \(\lambda” = \displaystyle\frac{V+v_A}{f_0}\) と長くなる。
  • Step 2: 観測者Bは速さ \(v_B=10\) m/s で、その引き伸ばされた波からさらに遠ざかる。そのため、観測者が感じる音の相対的な速さは \(V_{\text{相対}} = V-v_B\) となる。
  • 観測される振動数 \(f”\) は、\(f” = \displaystyle\frac{V_{\text{相対}}}{\lambda”}\) で決まる。

具体的な解説と立式
Step 1: 波長の変化
音源である電車Aは前方に速さ \(v_A = 20\) m/s で進みながら、後方にいるBへ音を伝えます。このとき、後方の波は引き伸ばされます。このときの波長 \(\lambda”\) は、
$$ \lambda” = \frac{V+v_A}{f_0} \quad \cdots ① $$
Step 2: 観測される振動数
観測者である電車Bの人は、この波長 \(\lambda”\) の音を観測します。Bは速さ \(v_B = 10\) m/s で音から遠ざかる向きに進んでいるため、Bにとっての音の相対速度 \(V_{\text{相対}}\) は、
$$ V_{\text{相対}} = V – v_B \quad \cdots ② $$
観測される振動数 \(f”\) は、\(f” = \displaystyle\frac{(\text{相対速度})}{(\text{波長})}\) で求められます。
$$ f” = \frac{V_{\text{相対}}}{\lambda”} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 音源が動くときの波長変化: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_s}{f_0}\) (遠ざかる場合)
  • 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
計算過程

③式に①式と②式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f” &= \frac{V-v_B}{\left( \displaystyle\frac{V+v_A}{f_0} \right)} \\[2.0ex]
&= \frac{V-v_B}{V+v_A}f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{340-10}{340+20} \times 576 \\[2.0ex]
&= \frac{330}{360} \times 576 \\[2.0ex]
&= 528 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

すれ違った後は、2つの「音が低くなる効果」の組み合わせです。まず「電車Aが音を引き伸ばす効果」で、音の波長が長くなります。次に「電車Bがその伸びた音からさらに逃げていく効果」で、1秒間にすれ違う波の数が減ります。この2つの効果を掛け合わせることで、最終的に聞こえる振動数が計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果 \(528\) Hz が得られました。すれ違う前と後で、波長の圧縮・伸長、相対速度の増減がどのように組み合わさるかを物理的に理解することで、より深くドップラー効果をマスターできます。

解答 すれ違った後:528 Hz

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ドップラー効果の一般公式と符号ルールの一貫した適用:
    • 核心: この問題は、音源と観測者の両方が動く複雑な状況(すれ違い)を、ドップラー効果の一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) を用いて体系的に解く能力を試しています。公式を覚えているだけでは不十分で、その真価を発揮させるための「速度の符号ルール」をいかに正確に適用できるかが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 絶対的なルールの設定: 最も強力で間違いが少ないルールは「音源から観測者へ向かう向き(=音の伝わる向き)を正とする」です。このルールを機械的に適用することで、直感的な混乱(近づく、遠ざかるなど)を排除し、一貫した論理で問題を解くことができます。
      • 状況変化への対応: 「すれ違う前」と「すれ違った後」では、音源と観測者の位置関係が逆転し、「音の伝わる向き」も逆になります。このとき、ためらわずに「正の向き」を再定義することが核心です。同じ電車Aの運動でも、すれ違う前は \(v_s=+20\) m/s だったものが、すれ違った後では \(v_s=-20\) m/s となる理由を、この符号ルールの観点から完全に理解することが重要です。
  • 公式の構造の物理的意味:
    • 核心: 一般公式の分母 \(V-v_s\) が「音源の運動による波長の変化」を、分子 \(V-v_o\) が「観測者の運動による、観測される音の相対速度の変化」を表しているという、公式の構造的意味を理解すること。
    • 理解のポイント:
      • 分母=波長効果: 音源Aが動くと、波が圧縮されたり引き伸ばされたりして、媒質中を伝わる波長そのものが変化します。この効果が分母に現れます。
      • 分子=相対速度効果: 観測者Bが動くと、波長は変わりませんが、波とすれ違う速さが変わります。音に向かえば速く、音から逃げれば遅く感じます。この効果が分子に現れます。
      • 別解との関連: 別解で示した2ステップのアプローチは、まさにこの分母と分子の効果を別々に計算していることに他なりません。この関連性を理解することで、公式は単なる暗記対象ではなく、物理現象そのものを表すツールとして捉えられます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 追い越し問題: 速い電車が遅い電車に追いつき、追い越していく状況。すれ違いと同様に、「追い越し前」と「追い越し後」で2回計算します。
    • 反射板の問題: 動く電車が、静止した壁や山に向かって音を出し、その反射音を聞く問題。これは「行き(電車→壁)」と「帰り(壁→電車)」の2段階のドップラー効果として考えます。
    • 風が吹いている場合: 線路に沿って風が吹いている場合、音速が変化します。音の伝わる向きと風の向きに応じて、公式の \(V\) を \(V+w\) や \(V-w\) に置き換えて計算します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状況の図解: まず、音源と観測者の位置関係、運動の向きを簡単な図で描きます。「すれ違う前」と「すれ違った後」の2つの図を描くことが重要です。
    2. 役割の確定: 「誰が音源(S)で、誰が観測者(O)か」を明確にします。(この問題ではAが音源、Bが観測者)
    3. 各状況で「正の向き」を宣言: 各図の中に「S→O」の矢印を描き、その向きを「正の向き」として明記します。すれ違う前後で、この向きが逆になることに注意します。
    4. 速度の符号決定: 宣言した「正の向き」を基準に、\(v_s\) と \(v_o\) の値を符号付きで書き出します。
    5. 公式への代入: 書き出した符号付きの速度を、一般公式に慎重に代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • すれ違った後も同じ符号で計算してしまう:
    • 誤解: すれ違う前で使った \(v_s=+20, v_o=-10\) という設定を、すれ違った後でもそのまま使ってしまう。
    • 対策: 「状況が変われば、音の伝わる向きも変わる」と常に意識することです。「すれ違い」や「追い越し」というキーワードを見たら、必ず前後で別々の図を描き、「音源→観測者」の向きを確認して、正の向きを再設定する作業を儀式化しましょう。
  • 「近づく/遠ざかる」で直感的に符号を決めようとする:
    • 誤解: 「すれ違う前は互いに近づくから、分母は \(V-20\)、分子は \(V+10\) だな」のように、複数の要素を直感で組み合わせようとして混乱し、分子の符号を間違える(正しくは \(V-(-10)\))。
    • 対策: 直感は捨て、「音源→観測者 の向きを正とする」という一つの機械的なルールに徹することです。このルールに従えば、複雑な状況でも悩むことなく、一意に符号が決まります。
  • 速度の定義の混同:
    • 誤解: \(v_s\) や \(v_o\) に、地面に対する速度ではなく、相手に対する相対速度(この場合は \(20+10=30\) m/s)を代入してしまう。
    • 対策: 公式における \(V, v_s, v_o\) は、すべて「媒質(静止した空気)に対する速度」であると定義を正確に覚えておくことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 一般公式の選定:
    • 選定理由: この問題のように、音源と観測者の両方が運動し、さらにその関係性が途中で変化するような状況では、部分的な公式(音源だけが動く場合など)をその都度考えるよりも、全ての状況を統一的に扱える一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) を使うのが最も効率的かつ安全です。
    • 適用根拠: この公式は、1次元のドップラー効果に関する物理現象を過不足なく表現しています。速度の符号ルールを正しく適用しさえすれば、近づく、遠ざかる、追い越す、すれ違うといったあらゆる状況を、この一つの式で記述できるという高い汎用性を持っています。
  • 別解(2ステップアプローチ)の論理:
    • 選定理由: このアプローチは、公式の成り立ちを物理現象に立ち返って理解するために選びました。公式を忘れたり、符号に自信がなくなったときの「原理原則」として非常に強力な思考法です。
    • 適用根拠: 「音源の運動が波長を変える」ことと、「観測者の運動が観測する相対速度を変える」ことは、それぞれ独立した物理現象として捉えることができます。最終的に観測される振動数は、これら2つの効果の組み合わせ(\(f’ = V_{\text{相対}} / \lambda’\))で決まるため、ステップを分けて考えることは物理的に完全に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の代入は括弧をつけて: \(v_o = -10\) を代入する際、\(V-v_o \rightarrow V-(-10)\) のように、必ず括弧をつけて代入する癖をつけましょう。これにより、マイナスのマイナスがプラスになる計算を確実に行うことができ、符号ミスを劇的に減らせます。
  • 分数の計算を丁寧に行う: \(\displaystyle\frac{350}{320} \times 576\) のような計算では、まず分数部分 \(\displaystyle\frac{35}{32}\) のように約分してから、\(576 \div 32\) の割り算を実行するなど、計算しやすい順序を考えることが大切です。
  • 物理的な結果の吟味(検算): 計算後に必ず物理的な妥当性をチェックします。
    • すれ違う前: 互いに近づくので、音は高く聞こえるはず (\(f’ > 576\) Hz)。計算結果は 630 Hz。OK。
    • すれ違った後: 互いに遠ざかるので、音は低く聞こえるはず (\(f” < 576\) Hz)。計算結果は 528 Hz。OK。

    この簡単なチェックだけで、符号ミスなどの大きな誤りを防ぐことができます。

321 反射板のある場合のドॉपラー効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 「波長の変化」と「観測される相対速度」の2段階で考える解法
      • 模範解答がドップラー効果の公式を2回適用して解くのに対し、別解では「Step1: 反射板Rが音源となって出す波の波長を計算」し、「Step2: 静止した観測者Pがその波を観測する」という、より物理現象に即した2段階のアプローチで解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 反射音の問題が「音源→反射板」と「反射板→観測者」という2段階のプロセスで構成されていることを明確に理解できます。特に、反射板が動くことで「波長が変化する」という効果が、観測される振動数にどう影響するかを深く理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 公式を機械的に適用するだけでなく、現象をステップに分解して考えることで、より複雑な問題(例えば観測者Pも動く場合など)にも対応できる応用力が養われます。
    • 解法の多角化: ドップラー効果の問題を「振動数公式で解く」方法と、「波長と相対速度で解く」方法の両方を学ぶことで、状況に応じて最適なアプローチを選択する力が身につきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「動く反射板によるドップラー効果とうなり」です。静止した音源から出た音を、動いている反射板が反射し、それを静止した観測者が聞くという、応用的な状況設定です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 反射問題のモデル化: 反射板Rによる反射を、「(A) 音源S → 反射板R」と「(B) 反射板R → 観測者P」という2段階のドップラー効果として捉えること。
  2. 音源と観測者の役割: 各プロセスで、誰が音源で誰が観測者か、その役割が入れ替わることを正しく理解すること。
  3. うなりの公式: 2つのわずかに異なる振動数 \(f_a, f_b\) の音を同時に聞いたとき、1秒あたりのうなりの回数 \(N\) は \(N = |f_a – f_b|\) で与えられること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、「音源S → 反射板R」のプロセスを考えます。音源Sは静止、観測者Rが動いている場合のドップラー効果を適用します。
  2. (2)では、「反射板R → 観測者P」のプロセスを考えます。このとき、Rは(1)で観測した振動数 \(f_1\) の音を発しながら動く「新しい音源」となります。この動く音源からの音を、静止した観測者Pが聞く場合のドップラー効果を適用します。
  3. (3)では、観測者Pが聞く2つの音(Sからの直接音 \(f_0\) と、Rからの反射音 \(f_2\))の振動数の差を計算し、うなりの回数を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
「音源S → 反射板R」のプロセスを考えます。音源Sは静止しており、観測者である反射板Rが音源から遠ざかっています。これは「観測者が動く」場合のドップラー効果です。
この設問における重要なポイント

  • 波長 \(\lambda_1\): 音源Sが静止しているので、媒質中を伝わる波の波長は変化しません。したがって、Rが受け取る音の波長 \(\lambda_1\) は、Sが発する音の波長 \(\lambda_0\) と等しくなります。
  • 振動数 \(f_1\): 観測者Rが音源から遠ざかるので、聞く音は低くなります。ドップラー効果の一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\) を使って計算します。

具体的な解説と立式
波長 \(\lambda_1\) の計算
音源Sは静止しています。音源が動かない限り、媒質中を伝わる波の波長は変化しません。したがって、反射板Rが受け取る音の波長 \(\lambda_1\) は、音源Sが発する音の波長 \(\lambda_0\) に等しくなります。波の基本式より、
$$ \lambda_1 = \lambda_0 = \frac{V}{f_0} $$
振動数 \(f_1\) の計算
ドップラー効果の一般公式を適用します。音源Sから観測者Rへ向かう向きを正とします。

  • 音源Sは静止しているので、\(v_s = 0\)。
  • 観測者Rは、正の向きに速さ \(v\) で運動しているので、\(v_o = v\)。

Rが受け取る振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_0 = \frac{V-v}{V-0}f_0 = \frac{V-v}{V}f_0 $$

使用した物理公式

  • 波の基本式: \(V=f\lambda\)
  • ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f_0\)
計算過程

これ以上の計算は不要です。

計算方法の平易な説明

波長について:音を出すおんさSが止まっているので、音の波の間隔(波長)はどこでも同じです。なので、Rが受け取る波長は、Sが出した波長そのものです。
振動数について:Rは音から逃げるように遠ざかっています。そのため、1秒間に受け取る波の数が減り、聞こえる音は元の音より低くなります。その低くなった振動数を公式で計算します。

結論と吟味

Rが受け取る音の波長は \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V}{f_0}\)、振動数は \(f_1 = \displaystyle\frac{V-v}{V}f_0\) となります。観測者Rが遠ざかっているため、振動数が元の \(f_0\) より小さくなっており(\(V-v < V\) なので)、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V}{f_0}\), \(f_1 = \displaystyle\frac{V-v}{V}f_0\)

問(2)

思考の道筋とポイント
「反射板R → 観測者P」のプロセスを考えます。このとき、反射板Rは「新しい音源」としての役割を担います。重要なのは、この新しい音源Rは、「振動数 \(f_1\) の音を出しながら、速さ \(v\) で遠ざかっている」とモデル化することです。
この設問における重要なポイント

  • 新しい音源: 反射板Rは、(1)で求めた振動数 \(f_1\) の音を発する音源とみなせる。
  • 音源の運動: この音源Rは、観測者Pから見て、速さ \(v\) で遠ざかっている。
  • 観測者: 観測者Pは静止している。
  • これは「音源が動く」場合のドップラー効果の問題となる。

具体的な解説と立式
波長 \(\lambda_2\) と振動数 \(f_2\) の計算
模範解答では波長と振動数を別々に計算していますが、ここでは振動数を先に求め、それから波長を計算します。
動く音源Rからの音を、静止している観測者Pが聞きます。音源が速さ \(v\) で遠ざかる場合の公式を適用します。このとき、音源の振動数は \(f_1\) であることに注意します。
$$ f_2 = \frac{V}{V+v}f_1 $$
ここに、(1)で求めた \(f_1 = \displaystyle\frac{V-v}{V}f_0\) を代入します。
振動数 \(f_2\) が求まれば、Pが観測する波長 \(\lambda_2\) は波の基本式から計算できます。
$$ \lambda_2 = \frac{V}{f_2} $$

使用した物理公式

  • ドップラー効果における振動数の公式(音源が遠ざかる場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V+v_s}f_{\text{音源}}\)
  • 波の基本式: \(V=f\lambda\)
計算過程

まず、振動数 \(f_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{V+v}f_1 \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V+v} \left( \frac{V-v}{V}f_0 \right) \\[2.0ex]
&= \frac{V-v}{V+v}f_0
\end{aligned}
$$
次に、この結果を使って波長 \(\lambda_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{V}{f_2} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{\displaystyle\frac{V-v}{V+v}f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{V(V+v)}{(V-v)f_0}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

反射板Rは、(1)で受け取った「低い音(振動数\(f_1\))」を、今度はスピーカーのように自分で出し始めます。しかも、R自身がPから遠ざかりながら音を出すので、音はさらに引き伸ばされ(波長が長くなり)、さらに低い音(振動数\(f_2\))になってPに届きます。

結論と吟味

Pが聞く反射音の振動数は \(f_2 = \displaystyle\frac{V-v}{V+v}f_0\)、波長は \(\lambda_2 = \displaystyle\frac{V(V+v)}{(V-v)f_0}\) となります。\(V>v\) なので、\(V-v < V+v\) であり、\(f_2 < f_0\) となります。元の音より低い音が聞こえるという結果は、物理的に妥当です。

解答 (2) \(\lambda_2 = \displaystyle\frac{V(V+v)}{(V-v)f_0}\), \(f_2 = \displaystyle\frac{V-v}{V+v}f_0\)
別解: 「波長の変化」と「観測される相対速度」の2段階で考える解法

思考の道筋とポイント
主たる解法とは異なり、まず「反射板Rが音源となって出す波の波長」を計算し、次に「その波を静止した観測者Pが聞く」というステップで考えます。
この設問における重要なポイント

  • Step 1: 音源Rは振動数 \(f_1\) の音を出しながら速さ \(v\) で遠ざかる。そのため、後方に伝わる波は引き伸ばされ、その波長 \(\lambda_2\) は \(\lambda_2 = \displaystyle\frac{V+v}{f_1}\) となる。
  • Step 2: 観測者Pは静止しているので、この波長 \(\lambda_2\) の波を音速 \(V\) で聞く。
  • 観測される振動数 \(f_2\) は、波の基本式から \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{\lambda_2}\) で求められる。

具体的な解説と立式
Step 1: 波長 \(\lambda_2\) の計算
音源Rは、振動数 \(f_1\) の音を出しながら、観測者Pから速さ \(v\) で遠ざかっています。音源が動くため、波長は変化します。Pの方向に伝わる音は、音源Rの後方に伝わる音なので、波長は引き伸ばされます。
$$ \lambda_2 = \frac{V+v}{f_1} $$
ここに、(1)で求めた \(f_1 = \displaystyle\frac{V-v}{V}f_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{V+v}{\displaystyle\frac{V-v}{V}f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{V(V+v)}{(V-v)f_0}
\end{aligned}
$$
Step 2: 振動数 \(f_2\) の計算
観測者Pは静止しており、この波長 \(\lambda_2\) の波が音速 \(V\) で届くのを観測します。観測される振動数 \(f_2\) は、
$$ f_2 = \frac{V}{\lambda_2} $$
ここに、上で求めた \(\lambda_2\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{\displaystyle\frac{V(V+v)}{(V-v)f_0}} \\[2.0ex]
&= V \cdot \frac{(V-v)f_0}{V(V+v)} \\[2.0ex]
&= \frac{V-v}{V+v}f_0
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 音源が遠ざかるときの波長変化: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_s}{f_{\text{音源}}}\)
  • 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
計算過程

上記で計算は完了しています。

計算方法の平易な説明

まず、Rが遠ざかりながら音を出すことで、波の間隔(波長)がどれだけ伸びるかを計算します。これが \(\lambda_2\) です。次に、Pさんは止まっているので、その伸びた間隔の波が、通常の音速 \(V\) で自分の前を通り過ぎていくのを聞きます。1秒間に通り過ぎる波の数(振動数)は、「速さ ÷ 波の間隔」で計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。このアプローチは、反射板が動くことでまず「波長が変化する」という物理現象を明確にし、それを観測者がどう聞くか、というステップで考えるため、現象の理解が深まります。

解答 (2) \(\lambda_2 = \displaystyle\frac{V(V+v)}{(V-v)f_0}\), \(f_2 = \displaystyle\frac{V-v}{V+v}f_0\)

問(3)

思考の道筋とポイント
観測者Pは、2つの音を同時に聞いています。1つは音源Sから直接届く音、もう1つは反射板Rから反射してくる音です。これらの振動数が異なるため、うなりが生じます。1秒あたりのうなりの回数は、2つの振動数の差の絶対値で計算できます。
この設問における重要なポイント

  • Pが聞く直接音の振動数は、音源Sも観測者Pも静止しているので、元の振動数 \(f_0\) のままである。
  • Pが聞く反射音の振動数は、(2)で求めた \(f_2\) である。
  • うなりの回数 \(N\) は、\(N = |f_0 – f_2|\) で計算される。

具体的な解説と立式
観測者Pが聞く2つの音の振動数は、

  • 直接音: \(f_0\)
  • 反射音: \(f_2 = \displaystyle\frac{V-v}{V+v}f_0\)

1秒あたりのうなりの回数 \(N\) は、これらの差の絶対値です。
$$ N = |f_0 – f_2| $$
\(V>v>0\) より、\(V-v < V+v\) なので、\(\displaystyle\frac{V-v}{V+v} < 1\) です。したがって \(f_2 < f_0\) なので、絶対値はそのまま外せます。
$$ N = f_0 – f_2 $$

使用した物理公式

  • うなりの公式: \(N = |f_a – f_b|\)
計算過程

上記で立式した関係に、\(f_2\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= f_0 – \frac{V-v}{V+v}f_0 \\[2.0ex]
&= \left( 1 – \frac{V-v}{V+v} \right) f_0 \\[2.0ex]
&= \left( \frac{(V+v)-(V-v)}{V+v} \right) f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{2v}{V+v}f_0
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

Pさんの耳には、おんさSからの「普通の高さの音」と、反射板Rからの「すごく低くなった音」が同時に届きます。この2つの音の高さが微妙に違うため、「ワーン、ワーン」といううなりが聞こえます。1秒間に何回「ワーン」と聞こえるかは、2つの音の振動数を引き算すればわかります。

結論と吟味

1秒当たりのうなりの回数は \(N = \displaystyle\frac{2v}{V+v}f_0\) となります。反射板の速さ \(v\) が大きいほどうなりの回数が増えるという、直感とも一致する妥当な結果です。

解答 (3) \(N = \displaystyle\frac{2v}{V+v}f_0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 反射現象の2段階ドップラー効果モデル化:
    • 核心: この問題の最も重要なポイントは、反射板による音の反射を、単一の現象としてではなく、「(A) 音源S → 反射板R」と「(B) 反射板R → 観測者P」という、連続した2段階のドップラー効果としてモデル化することです。
    • 理解のポイント:
      • 反射板の2つの役割: 反射板Rは、物理的には2つの役割を担っています。まず「動く観測者」として、Sからの音波を受け取ります(プロセスA)。次に、その受け取った(ドップラー効果で変化した)振動数で、今度は自らが「動く音源」となって音波を再放射します(プロセスB)。この役割の変化を理解することが不可欠です。
      • 情報の引き継ぎ: プロセスAで計算した「反射板Rが観測する振動数 \(f_1\)」が、プロセスBにおける「新しい音源Rが発する振動数」になる、という情報の流れを正確に追うことが、問題を解く鍵となります。
  • 音源の運動と観測者の運動による効果の違いの適用:
    • 核心: この問題は、音源が動く場合と観測者が動く場合の効果の違いを、一つの問題の中で両方適用する応用問題です。
    • 理解のポイント:
      • プロセスA (S→R): 音源Sが静止し、観測者Rが動く状況です。このとき、媒質中の波長は変化しませんが、Rが波から遠ざかるため、観測する振動数 \(f_1\) が低下します。
      • プロセスB (R→P): 音源Rが動き、観測者Pが静止する状況です。Rが動くため、媒質中の波長そのものが引き伸ばされます (\(\lambda_2 > \lambda_1\))。この長い波長の波がPに届くため、観測する振動数 \(f_2\) がさらに低下します。

      この2つのプロセスの違いを明確に区別することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 反射板が近づく場合: もし反射板Rが音源Sに近づくなら、プロセスAでは \(f_1\) が高くなり、プロセスBでは波長が圧縮されて \(f_2\) がさらに高くなります。
    • 観測者Pも動く場合: 観測者PがSやRに対して動いている場合でも、2段階モデルは有効です。各プロセスで \(v_o \neq 0\) として一般公式を適用すれば解くことができます。
    • 音源Sも動く場合: 音源Sも動いている場合は、プロセスAで \(v_s \neq 0\) となります。全ての登場人物が動く最も複雑な設定ですが、一つずつプロセスを分解すれば必ず解けます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 音の経路を特定する: 観測者Pに届く音の経路がいくつあるかを確認します。この問題では「S→Pの直接音」と「S→R→Pの反射音」の2つがあります。
    2. 反射経路を分解する: 「反射」というキーワードを見たら、即座に「音源→反射体」「反射体→観測者」の2つのプロセスに思考を分解します。
    3. 各プロセスの役割と運動を確定: 各プロセスについて、「音源は誰か?」「観測者は誰か?」「それぞれの速度は?」を図に書き込み、符号ルールに従って速度を決定します。
    4. うなりを問われたら: 「うなり」という言葉を見たら、観測者が聞く2つの音の振動数をそれぞれ求め、最後にその差の絶対値をとる、という最終目標を設定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 反射を1段階の現象と勘違いする:
    • 誤解: 音源Sと観測者Pが静止しているので、反射板Rの運動だけを考えて、ドップラー効果の公式を1回だけ使って反射音の振動数を計算しようとする。
    • 対策: 「反射音=2段階のドップラー効果」と機械的に覚えることが有効です。反射板は音を「聞く」役割と「話す」役割の両方を持っている、と擬人化して考えると、2段階のプロセスが必要な理由が理解しやすくなります。
  • 反射音の計算で、元の振動数 \(f_0\) を使ってしまう:
    • 誤解: (2)の計算(プロセスB)で、反射板Rが発する音の振動数を、おんさの元の振動数 \(f_0\) だと勘違いして計算を進めてしまう。
    • 対策: 反射板は「ドップラー効果で変化した後の音」をオウム返しする、と強く意識することが重要です。「プロセスAで計算した \(f_1\) を、プロセスBの計算に使う」という情報の流れを、計算用紙に矢印などで明記しておくとミスを防げます。
  • (1)と(2)で波長と振動数の関係を混同する:
    • 誤解: (1)で音源が静止しているので波長は不変だったが、(2)でも波長は不変だと考えてしまう。
    • 対策: 「波長が変わるのは音源が動くときだけ」という大原則を常に意識しましょう。プロセスAでは音源Sは静止しているので波長は不変ですが、プロセスBでは音源Rが動いているので波長は変化します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 2段階ドップラー効果モデルの選定:
    • 選定理由: 壁による反射という物理現象は、実際には壁の面で無数の素元波がホイヘンスの原理に従って再放射される複雑なプロセスです。これを高校物理の範囲で扱うために、「反射板が音を一度観測し、その振動数で再放射する」というモデルは、現象の本質を捉えつつ計算を可能にする、非常に優れた物理的近似(モデル化)です。
    • 適用根拠: このモデル化により、複雑な反射現象を、我々がすでに知っている「ドップラー効果の公式が適用できる形」に変換することができます。第1段階(S→R)、第2段階(R→P)は、それぞれがドップラー効果の公式が成り立つ基本的な状況であるため、このモデル全体の論理的正当性が保証されます。
  • うなりの公式の選定:
    • 選定理由: (3)では、観測者Pが聞く「1秒当たりのうなりの回数」を求めます。これは、2つの異なる周波数の波が干渉して生じる現象であり、その回数は2つの周波数の差の絶対値で与えられる、というのが「うなり」の定義そのものです。
    • 適用根拠: Pの耳には、Sからの直接音(振動数 \(f_0\))とRからの反射音(振動数 \(f_2\))という2つの波が同時に到達し、重ね合わさります。したがって、うなりの公式を適用する条件を完全に満たしています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように、具体的な数値が与えられていない場合は、最後まで文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。これにより、途中の計算ミスを防ぎ、物理的な意味を見失いにくくなります。
  • 分数の計算を丁寧に行う: (2)や(3)のように、分数の中に分数が含まれる計算(繁分数)では、焦らずに一つずつ処理することが大切です。例えば、\(\frac{A}{\frac{B}{C}}\) は \(A \times \frac{C}{B}\) と変形するなど、基本的な計算ルールを丁寧に行いましょう。
  • 物理的な結果の吟味(検算): 計算結果が出たら、必ず物理的な妥当性をチェックします。
    • (1) Rは遠ざかる → \(f_1 < f_0\)。計算結果は \(\frac{V-v}{V}f_0\) であり、\(\frac{V-v}{V} < 1\) なのでOK。
    • (2) 音源Rが遠ざかる → \(f_2 < f_1\)。計算結果は \(\frac{V-v}{V+v}f_0\) であり、\(f_1 = \frac{V-v}{V}f_0\) と比較すると、分母が \(V+v > V\) となっているため、\(f_2 < f_1\) であることがわかりOK。
    • (3) \(f_2 < f_0\) なので、うなりは生じる。結果が \(v\) に比例し、\(f_0\) に比例するのも妥当。

    この定性的なチェックが、ミスを発見するのに役立ちます。

322 風がある場合のドップラー効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 「波長の変化」という物理現象から直接導出する解法
      • 模範解答がドップラー効果の公式の「音速」を風速で補正して適用するのに対し、別解では、風がある中で音源が動くことで波長がどのように引き伸ばされるかを1秒間の思考実験から直接計算し、その波長と風に流された音速から振動数を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ドップラー効果の公式が、風のような媒質の運動がある状況でどのように修正されるべきか、その根源的な理由(波長の伸縮と音速の変化)を深く理解できます。
    • 解法の多角化: 公式を暗記に頼るだけでなく、物理現象の基本(1秒間に何個の波がどれだけの空間に広がるか)から考えることで、より応用力の高い思考法が身につきます。
    • 複雑な状況への対応力: 音源、観測者、風がそれぞれ異なる方向に動くような複雑な問題に直面した際に、現象を要素に分解して考える力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「風がある場合のドップラー効果」です。風は音を伝える媒質(空気)そのものを動かすため、地面に対する音の速さが変化します。この効果を正しく理解し、ドップラー効果の法則に組み込めるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 風による音速の変化: 風は媒質全体の運動であるため、地面から見た音の速さは、無風状態の音速\(V\)に風速\(w\)を加算または減算したものになること。
  2. ドップラー効果の公式の適用: 風がある場合、ドップラー効果の公式で使われる「音速」を、風の影響で変化した後の速さに置き換えて考える必要があること。
  3. 速度の符号ルール: 音源や観測者の運動を公式に適用する際、「音源から観測者へ向かう向きを正とする」というルールを一貫して適用できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、風の向きと音の進行方向の関係から、追い風の場合と向かい風の場合で、地面に対する音の速さがそれぞれどうなるかを計算します。
  2. (2)では、まず音源から観測者へ音が進む状況が追い風か向かい風かを判断し、(1)で考えた「風がある中での音速」をドップラー効果の公式に適用して、観測される振動数を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
風は音を伝える媒質である空気そのものを動かします。したがって、地面にいる人から見た音の速さは、空気に対する音の速さ(無風状態での音速\(V\))に、空気の速さ(風速\(w\))を合成したものになります。「川の流れに乗って進む船」の速さを考えるのと同じです。
この設問における重要なポイント

  • 風は媒質(空気)の地面に対する運動である。
  • 地面に対する音の速さは、「空気に対する音の速さ」と「地面に対する空気の速さ(風速)」のベクトル和で与えられる。
  • 追い風(音の進行方向と風の向きが同じ)の場合、速さは単純な足し算になる。
  • 向かい風(音の進行方向と風の向きが逆)の場合、速さは単純な引き算になる。

具体的な解説と立式
右向きに進む音の速さ \(V_R\)
音の進行方向(右向き)と風の向き(右向き)が同じなので、追い風となります。したがって、地面に対する音の速さ \(V_R\) は、無風状態の音速 \(V\) と風速 \(w\) の和になります。
$$ V_R = V + w $$
左向きに進む音の速さ \(V_L\)
音の進行方向(左向き)と風の向き(右向き)が逆なので、向かい風となります。したがって、地面に対する音の速さ \(V_L\) は、無風状態の音速 \(V\) から風速 \(w\) を引いたものになります。
$$ V_L = V – w $$

使用した物理公式

  • 速度の合成: \(v_{\text{合成}} = v_1 + v_2\)
計算過程

これ以上の計算は不要です。

計算方法の平易な説明

「流れるプール」をイメージすると分かりやすいです。音を「泳ぐ人」、風を「プールの水の流れ」と考えます。流れと同じ向きに泳げば(追い風)、自分の泳ぐ速さに流れの速さがプラスされて速くなります。流れに逆らって泳げば(向かい風)、自分の泳ぐ速さから流れの速さがマイナスされて遅くなります。

結論と吟味

右向きに進む音の速さは \(V_R = V+w\)、左向きに進む音の速さは \(V_L = V-w\) となります。これは物理的な直感と一致する妥当な結果です。

解答 (1) \(V_R: V+w\), \(V_L: V-w\)

問(2)

思考の道筋とポイント
風が吹いている中でのドップラー効果を考えます。基本的なアプローチは、ドップラー効果の一般公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V_{\text{音速}}-v_o}{V_{\text{音速}}-v_s}f\) を使うことですが、この公式の \(V_{\text{音速}}\) には、無風状態の音速 \(V\) ではなく、「風の影響を受けた後の、地面に対する音速」を代入する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 音は音源Sから観測者Oへ、つまり「左向き」に進む。
  • したがって、この状況は「向かい風」であり、公式で用いるべき音速は(1)で求めた \(V_L = V-w\) である。
  • 速度の符号ルール「音源から観測者へ向かう向き(左向き)」を正とする。
  • 音源Sは右向き(負の向き)に速さ \(v_S\) で遠ざかるので、その速度は \(v_s = -v_S\)。
  • 観測者Oは静止しているので、その速度は \(v_o = 0\)。

具体的な解説と立式
ドップラー効果の一般公式を、風がある状況に合わせて適用します。
$$ f’ = \frac{V_{\text{地面に対する音速}}-v_o}{V_{\text{地面に対する音速}}-v_s}f $$
今回の状況では、音はSからOへ、すなわち左向きに進むため、向かい風です。よって、\(V_{\text{地面に対する音速}} = V_L = V-w\)。
また、音の進む向きである左向きを正とすると、

  • 観測者Oの速度: \(v_o = 0\)
  • 音源Sの速度: \(v_s = -v_S\)

これらを公式に代入します。
$$ f’ = \frac{(V-w)-0}{(V-w)-(-v_S)}f $$

使用した物理公式

  • ドップラー効果の一般公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V_{\text{音速}}-v_o}{V_{\text{音速}}-v_s}f\)
計算過程

上記で立式した式を整理します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{V-w}{V-w+v_S}f
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ドップラー効果の公式という計算機を使う前に、まず「風が吹いているので、今回の音の速さは \(V\) ではなく \(V-w\) です」と、音速の値をアップデートします。あとは、音源Sが自分から遠ざかっていく状況を、速度の符号(今回は \(-v_S\))で正しく表現して、アップデートした音速と一緒に公式に代入すれば計算できます。

結論と吟味

観測される振動数は \(f’ = \displaystyle\frac{V-w}{V-w+v_S}f\) となります。音源が遠ざかっているので、振動数は元の \(f\) より小さくなるはずです。分母の \(V-w+v_S\) は分子の \(V-w\) より大きいので、分数全体は1より小さくなり、\(f’ < f\) となります。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{V-w}{V-w+v_S}f\)
別解: 「波長の変化」という物理現象から直接導出する解法

思考の道筋とポイント
公式に頼らず、風がある中で音源が動くことで波長がどう変化するかを、物理現象の基本に立ち返って考えます。

  • Step 1: 音源Sが遠ざかることで、後方(O側)の波がどのように引き伸ばされるかを計算し、波長 \(\lambda’\) を求めます。
  • Step 2: その引き伸ばされた波長の波が、風で遅くなった音速で観測者Oを通過するときの振動数 \(f’\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 1秒間に、音源Sは右へ \(v_S\) 移動する。
  • 1秒間に、Sから出た音の先頭は、Sの初期位置から左へ \(V-w\) 移動する。
  • したがって、1秒間に出された \(f\) 個の波は、後方では \((V-w) + v_S\) の長さの区間に引き伸ばされて存在する。
  • この引き伸ばされた波が、速さ \(V-w\) で静止した観測者Oを通過する。

具体的な解説と立式
Step 1: 波長 \(\lambda’\) の計算
1秒という時間を考えます。

  • 時刻0にSから左向きに出た音の先頭は、1秒後にはSの初期位置から \(V_L = V-w\) だけ左の位置に達します。
  • その1秒間に、音源S自身は右向きに \(v_S\) だけ移動します。

結果として、1秒間に出された \(f\) 個の波は、音の先頭と音源Sの間の空間、すなわち長さ \((V-w) + v_S\) の区間に存在することになります。
したがって、観測者Oがいる後方での波長 \(\lambda’\) は、
$$ \lambda’ = \frac{(V-w)+v_S}{f} $$
Step 2: 振動数 \(f’\) の計算
観測者Oは静止しており、この波長 \(\lambda’\) の波が、地面に対して速さ \(V_L = V-w\) で通過するのを観測します。観測される振動数 \(f’\) は、波の基本式より、
$$ f’ = \frac{V_L}{\lambda’} $$

使用した物理公式

  • 波長の定義: \(\lambda = \displaystyle\frac{(\text{波全体の長さ})}{(\text{波の個数})}\)
  • 波の基本式: \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\)
計算過程

上記の関係式に、\(\lambda’\) と \(V_L\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{V-w}{\left( \displaystyle\frac{V-w+v_S}{f} \right)} \\[2.0ex]
&= (V-w) \cdot \frac{f}{V-w+v_S} \\[2.0ex]
&= \frac{V-w}{V-w+v_S}f
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、波の間隔(波長)がどうなるかを考えます。音は秒速 \(V-w\) で左に進もうとしますが、音源が秒速 \(v_S\) で右に逃げるので、波はかなり引き伸ばされます。この引き伸ばされた波長を計算します。次に、その伸びた波が、風に邪魔されて遅くなったスピード(秒速 \(V-w\))で自分の前を通り過ぎていくので、1秒間に何個の波が来るか(振動数)を「速さ÷波長」で計算します。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。このアプローチは、風がある場合のドップラー効果の公式が、波長の伸縮と音速の変化という2つの物理現象を組み合わせたものであることを明確に示しており、理解を深める上で非常に有効です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{V-w}{V-w+v_S}f\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 媒質の運動(風)による音速の変化:
    • 核心: この問題の根幹は、風が音を伝える媒質(空気)そのものの運動であると理解することです。これにより、地面にいる静止した観測者から見た音の速さ(対地速度)は、無風状態での音速(対気速度)\(V\) とは異なる値になります。
    • 理解のポイント:
      • 速度の合成: 地面に対する音の速さは、「地面に対する空気の速さ(風速 \(w\))」と「空気に対する音の速さ(\(V\))」のベクトル和で決まります。
      • 追い風と向かい風: 音の進行方向と風の向きが同じ「追い風」なら \(V+w\)、逆向きの「向かい風」なら \(V-w\) となります。これは川を泳ぐ人の速さの考え方と同じです。
  • ドップラー効果の公式の一般化:
    • 核心: 風がある場合、ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) に含まれる音速 \(V\) は、全て「地面に対する音の速さ」に置き換えて適用する必要があります。
    • 理解のポイント:
      • 公式の \(V\) の正体: ドップラー効果の公式に出てくる \(V\) は、本来「静止した媒質中を伝わる波の速さ」を意味します。しかし、媒質自体が動いている場合、公式の全ての速度(\(V, v_o, v_s\))は、共通の静止系(地面)から見た速度で記述されなければなりません。
      • (2)での適用: 音はSからOへ(左向き)に進むため、向かい風です。したがって、公式の \(V\) を全て \(V-w\) に置き換えて、\(f’ = \displaystyle\frac{(V-w)-v_o}{(V-w)-v_s}f\) という形で適用することが、この問題の最大のポイントです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 音源が風上、観測者が風下: この問題とは逆に、音源Sが左、観測者Oが右にいる場合、音は右向きに進むので「追い風」となります。この場合、公式の \(V\) は \(V+w\) に置き換えて計算します。
    • 観測者が動く場合: もし観測者Oが風と同じ向き(右向き)に動いている場合、音の進む向き(左向き)を正とすると、\(v_o = -v_O\) となります。これを \(f’ = \displaystyle\frac{(V-w)-v_o}{(V-w)-v_s}f\) に代入して計算します。
    • 風が斜めに吹く場合: 風や音源の運動が一直線上ではない場合、全ての速度ベクトルを音の伝播方向に平行な成分と垂直な成分に分解し、平行な成分だけを使ってドップラー効果を計算します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 風の存在を確認: 問題文に「風」というキーワードがあったら、まず音速が変化することに注意します。
    2. 音の進行方向を特定: 「誰から誰へ」音が伝わるのかを確認し、音の進行方向を確定します。
    3. 追い風か向かい風かを判断: 音の進行方向と風の向きを比較し、追い風(\(V+w\))か向かい風(\(V-w\))かを判断します。これが、公式で使う「実効的な音速」になります。
    4. ドップラー効果の適用: 通常通り、音の進行方向を正として \(v_s, v_o\) の符号を決定し、実効的な音速とともに公式に代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 公式の \(V\) の一部だけを置き換えてしまう:
    • 誤解: \(f’ = \displaystyle\frac{(V-w)-v_o}{V-v_s}f\) のように、分子の \(V\) だけを \(V-w\) に置き換え、分母は元の \(V\) のまま計算してしまう。
    • 対策: 「風が吹く=世界のルールが変わる」と捉え、公式に出てくる全ての \(V\) を、機械的に \(V+w\) または \(V-w\) に置き換える、と徹底することが重要です。
  • 音源や観測者の速度を、空気に対する相対速度で考えてしまう:
    • 誤解: 風が吹いているので、音源の速度も \(v_s-w\) のように補正が必要だと考えてしまう。
    • 対策: ドップラー効果の公式は、地面のような一つの静止した座標系から見た速度で記述するのが基本です。問題文で与えられる \(v_s\) や \(v_o\) は、通常「地面に対する速度」なので、そのまま使います。補正が必要なのは「音速」だけ、と覚えましょう。
  • (2)で追い風と向かい風を間違える:
    • 誤解: 風が右向きに吹いているので、追い風だと勘違いし、音速を \(V+w\) で計算してしまう。
    • 対策: 必ず「音の進行方向」を基準に考える癖をつけましょう。この問題では、音は音源Sから観測者Oへ、つまり「左向き」に進みます。風は「右向き」なので、これは「向かい風」です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 速度の合成則の選定:
    • 選定理由: (1)では、地面に対する音の速さを求めます。これは、異なる座標系(空気と地面)における速度の関係を問う問題であり、ガリレイの速度合成則(単純なベクトルの足し算)が適用できる最も基本的な状況です。
    • 適用根拠: 日常的な速さの範囲では、速度の合成は単純な足し算・引き算で正確に記述できます。
  • 風がある場合のドップラー効果公式の適用:
    • 選定理由: (2)は、媒質が運動している状況でのドップラー効果を問う問題です。この現象を最も体系的に、かつ間違いなく扱う方法は、無風状態のドップラー効果の公式を「媒質の運動」という観点から一般化(修正)して適用することです。
    • 適用根拠: ドップラー効果の公式は、音源や観測者の「媒質に対する相対的な運動」と、波が伝わる「媒質の速さ」の組み合わせで記述されます。これを地面基準の速度に書き換えると、結果的に公式の音速 \(V\) を \(V \pm w\) に置き換えるという操作と等価になります。別解で示したように、波長の伸縮という物理現象の基本に立ち返って考えても同じ結論が導かれるため、この公式の適用は物理的に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように、具体的な数値が与えられていない場合は、最後まで文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。これにより、物理的な意味を見失いにくく、計算ミスも減らせます。
  • 符号の代入は括弧をつけて: \(v_s = -v_S\) を代入する際、\((V-w)-v_s \rightarrow (V-w)-(-v_S)\) のように、必ず括弧をつけて代入する癖をつけましょう。これにより、符号ミスを劇的に減らせます。
  • 物理的な結果の吟味(検算): 計算結果が出たら、必ず物理的な妥当性をチェックします。
    • (2) 音源SはOから遠ざかっているので、音は低く聞こえるはず (\(f’ < f\))。
    • 計算結果は \(f’ = \displaystyle\frac{V-w}{V-w+v_S}f\)。分母は分子より \(v_S\) だけ大きいので、分数は1より小さく、\(f’ < f\) となっています。OK。
    • もし風がなければ \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V+v_S}f\)。風がある場合と比較すると、分子と分母の両方から \(w\) が引かれているため、どちらが大きいかは一概には言えませんが、少なくとも定性的な傾向(振動数が低くなる)が合っているかを確認することは重要です。
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323 斜め方向のドップラー効果

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 距離の変化率という幾何学的な視点から考察する解法
      • 模範解答が速度の成分分解とドップラー効果の公式を用いて数学的に変化を追うのに対し、別解では、飛行機と観測者の間の距離が「どのように変化するか(縮まり方・離れ方)」という、より直感的・幾何学的なイメージから振動数の変化を考察します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ドップラー効果の大きさの正体が、音源と観測者を結ぶ直線方向の相対速度(距離の変化率)であることを、数式だけでなく具体的なイメージとして理解できます。
    • 直感との接続: 「救急車が通り過ぎるとき、音は常に低くなり続ける」という日常的な経験が、なぜそうなるのかを幾何学的な理由で説明できるようになり、知識が定着しやすくなります。
    • 思考の柔軟性向上: 数式による厳密な分析と、現象の幾何学的なイメージングという2つの異なる視点からアプローチする経験は、複雑な物理現象を理解する上で強力な武器となります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「斜め方向のドップラー効果」です。音源が観測者の真横を通過するような状況で、ドップラー効果に寄与するのは音源の速度そのものではなく、音源と観測者を結ぶ直線方向の速度成分であることを理解しているかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度の成分分解: ドップラー効果に影響を与えるのは、音源の速度ベクトルのうち、音源と観測者を結ぶ直線(視線)方向の成分のみであること。
  2. 幾何学的な状況変化: 飛行機の位置によって、観測者に対する視線の角度が変化し、それに伴って視線方向の速度成分も連続的に変化すること。
  3. ドップラー効果の公式の適用: 算出した視線方向の速度成分を、近づく場合・遠ざかる場合のドップラー効果の公式に正しく適用できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、点Aと点Bにおける飛行機の速度ベクトルを、観測者Oとの視線方向に分解し、その速度成分を用いてドップラー効果の公式を適用します。
  2. (2)では、飛行機が遠方から飛来し、遠方へ飛び去るまでの間、視線方向の速度成分がどのように連続的に変化するかを分析し、観測される振動数の変化の傾向を判断します。
  3. (3)では、振動数が最小になる条件(最も速く遠ざかる状況)を考え、そのときの速度成分を用いて振動数を計算します。

問(1)

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