基礎CHECK
1 音源が動く場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「音源が動く場合のドップラー効果」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の基本的な考え方(音源や観測者が動くと、観測される波長や振動数が変化する現象)
- 波の基本式 \(V=f\lambda\) の関係
- 音速は媒質によって決まり、音源や観測者の運動では変化しないこと
- 音源が動くことによる波長の変化の仕組み
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、音源が観測者に近づくことで、音波がどのように「圧縮」されるかを考え、波長がどう変化するかを判断します。
- (2)では、(1)で明らかになった波長の変化と、波の基本式 \(V=f\lambda\) を用いて、観測される振動数がどう変化するかを導き出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、なぜ音源が動くと波長が変わるのか、その物理的なイメージを掴むことが重要です。音源が静止している場合、音波は音源を中心として同心円状に広がっていきます。しかし、音源が移動しながら音を出すと、進行方向では波が「押し縮められ」、進行方向と逆側では波が「引き伸ばされ」ます。この問題では音源が観測者に近づいているので、観測者がいる進行方向の波長がどうなるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 音源が観測者に近づく場合、音源の前方で発生する波は、音源が追いかける形になるため、波と波の間隔(波長)が短くなります。
- 逆に、音源が観測者から遠ざかる場合は、音源の後方に残される波の間隔(波長)が長くなります。
- この現象は、音源が波を出す周期(振動数)そのものは変化していないにもかかわらず、音源の移動によって観測される波長が変化するために起こります。
具体的な解説と立式
音源が静止しているときの音速を \(V\)、振動数を \(f_0\)、波長を \(\lambda_0\) とすると、\(V = f_0 \lambda_0\) が成り立ちます。このときの波長は \(\lambda_0 = \displaystyle\frac{V}{f_0}\) です。
次に、音源が速さ \(v_{\text{音源}}\) で観測者に近づく場合を考えます。
音源が1周期 \(T_0 = \displaystyle\frac{1}{f_0}\) の間に1つの波を出すとします。
この \(T_0\) 秒の間に、先に発せられた波の前面は \(V T_0\) だけ進みます。
一方、音源自身も同じ方向に \(v_{\text{音源}} T_0\) だけ進みます。
その結果、観測者がいる音源の前方では、1波長分の波が占める空間の長さ(観測される波長 \(\lambda’\))は、本来の波の広がる距離から音源が進んだ距離を引いたものになります。
$$ \lambda’ = V T_0 – v_{\text{音源}} T_0 = (V – v_{\text{音源}})T_0 $$
ここに \(T_0 = \displaystyle\frac{1}{f_0}\) を代入すると、
$$ \lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_{\text{音源}}}{f_0} $$
静止時の波長 \(\lambda_0 = \displaystyle\frac{V}{f_0}\) と比較すると、\(v_{\text{音源}} > 0\) であるため、分子が \(V\) から \(V-v_{\text{音源}}\) へと小さくなっています。
したがって、\(\lambda’ < \lambda_0\) となり、観測者が受け取る音の波長は、音源が静止している場合よりも短くなります。
使用した物理公式
- ドップラー効果による波長の変化の考え方
- 観測される波長: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_{\text{音源}}}{f_0}\)
この問題は定性的な判断を求めるものであり、具体的な計算はありません。
上記の「具体的な解説と立式」で示した通り、音源が観測者に近づく (\(v_{\text{音源}} > 0\)) と、観測される波長 \(\lambda’\) は静止時の波長 \(\lambda_0\) よりも短くなります。
よって、選択肢②が正解となります。
音源を、一定の間隔でボールを投げながら前に進む人と考えてみましょう。
静止して投げれば、ボールは等間隔で飛んでいきます。この間隔が「波長」です。
しかし、前に進みながら投げると、2個目のボールを投げるときには1個目のボールを投げた位置より前にいます。そのため、1個目のボールと2個目のボールの間隔は、静止していたときよりも狭くなります。
これと同じで、音源が観測者に近づきながら音を出すと、音の波の間隔(波長)は縮まります。
問(2)
思考の道筋とポイント
設問(1)で、音源が近づくと波長が短くなることがわかりました。次に、この波長の変化が振動数にどう影響するかを考えます。ここで鍵となるのが、波の基本式 \(V=f\lambda\) です。この式を使う上で、「音の速さ \(V\) はどうなるのか?」を正しく理解していることが不可欠です。音の速さは、空気のような音を伝える媒質の状態(温度など)によって決まります。音源や観測者が動いても、媒質自体が動かない限り、音の速さ \(V\) は一定です。
この設問における重要なポイント
- 波の基本式: \(V = f\lambda\) (音速 = 振動数 × 波長)
- 音速 \(V\) は、音源や観測者の運動によらず一定です(媒質が同じ場合)。
- 上の式を \(f = \displaystyle\frac{V}{\lambda}\) と変形すると、音速 \(V\) が一定のとき、振動数 \(f\) は波長 \(\lambda\) に反比例することがわかります。
具体的な解説と立式
観測者が聞く音の振動数を \(f’\)、波長を \(\lambda’\)、音速を \(V\) とします。
これらの間には、波の基本式が成り立ちます。
$$ V = f’ \lambda’ $$
この式を \(f’\) について解くと、
$$ f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’} $$
設問(1)から、音源が近づく場合、観測される波長 \(\lambda’\) は静止時の波長 \(\lambda_0\) よりも短くなります (\(\lambda’ < \lambda_0\))。
音源が静止しているときの振動数を \(f_0\) とすると、\(f_0 = \displaystyle\frac{V}{\lambda_0}\) です。
\(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’}\) の式において、分母である \(\lambda’\) が \(\lambda_0\) より小さくなるため、分数全体の値、すなわち \(f’\) は \(f_0\) よりも大きくなります。
したがって、観測者が受け取る音の振動数は、音源の振動数より大きくなります。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
設問(1)で導出した観測される波長 \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_{\text{音源}}}{f_0}\) を、波の基本式 \(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’}\) に代入して、観測される振動数 \(f’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \displaystyle\frac{V}{\lambda’} \\[2.0ex]&= V \times \displaystyle\frac{1}{\lambda’} \\[2.0ex]&= V \times \displaystyle\frac{f_0}{V-v_{\text{音源}}} \\[2.0ex]&= \left( \displaystyle\frac{V}{V-v_{\text{音源}}} \right) f_0
\end{aligned}
$$
ここで、音源は観測者に近づいているので \(v_{\text{音源}} > 0\) です。また、音源の速さは音速を超えないので \(V > v_{\text{音源}}\) です。
よって、分母の \(V-v_{\text{音源}}\) は分子の \(V\) よりも小さくなります。
したがって、係数部分 \(\displaystyle\frac{V}{V-v_{\text{音源}}}\) は \(1\) よりも大きくなります。
この結果、\(f’ > f_0\) となり、観測される振動数は音源の振動数よりも大きくなることがわかります。
よって、選択肢①が正解となります。
「振動数」とは、1秒間に耳に届く波の個数のことです。
設問(1)で、観測者に届く波はギュッと「縮んでいる」(波長が短い)ことがわかりました。
音の速さは変わらないので、縮んだ波が次々とやってきます。
すると、1秒間に耳を通り過ぎる波の個数は、波が縮んでいないとき(音源が静止しているとき)よりも多くなります。
波の個数が多くなるということは、振動数が大きくなるということです。これが、救急車のサイレンが近づいてくるときに高く聞こえる理由です。
2 観測者が動く場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「観測者が動く場合のドップラー効果」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の基本的な考え方(観測者が動くと観測される振動数が変化する現象)
- 波長の不変性(音源が静止している場合、空間に広がる波の形は変わらない)
- 波の基本式 \(V=f\lambda\) の関係
- 観測者から見た音の相対速度の考え方
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、音源が静止しているという事実に着目し、空間に広がる波の波長が観測者の運動によって変化するかどうかを判断します。
- (2)では、観測者が動くことで、観測者から見た音の相対速度がどう変わるかを考え、それによって単位時間あたりに受け取る波の数(振動数)がどう変化するかを導き出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
この問題の最大のポイントは、「音源が静止している」という点です。波の波長は、音源が音波をどのような間隔で送り出すかによって決まります。音源が動いていれば、進行方向では波が圧縮されて波長が短くなり、後方では引き伸ばされて長くなります(前問のケース)。しかし、音源が静止していれば、音波は常に同じ場所から送り出されるため、空間に広がる波の間隔(波長)は、どの方向でも一定になります。観測者が動いたとしても、それはすでに空間に広がっている波を観測する立場が変わるだけで、波そのものの形(波長)を変えることはできません。
この設問における重要なポイント
- 波長は、音源が音波を送り出す周期と、音源自身の運動によって決まる物理量です。
- 音源が静止している場合、音波は音源を中心として等間隔(一定の波長)で同心円状に広がっていきます。
- 観測者が動いても、空間にすでに存在している波の物理的な間隔(波長)を変えることはできません。
具体的な解説と立式
音源が静止して、振動数 \(f_0\)、音速 \(V\) の音を出しているとします。
このとき、空間に広がる音波の波長 \(\lambda\) は、波の基本式 \(V = f_0 \lambda\) から、
$$ \lambda = \displaystyle\frac{V}{f_0} $$
と表されます。この波長 \(\lambda\) は、音源が静止している限り、観測者がどのような運動をしようとも変化しません。
したがって、観測者が受け取る音の波長は、観測者が静止している場合に受け取る音の波長と等しくなります。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
- 波長不変の原理(音源が静止している場合)
この問題は定性的な判断を求めるものであり、具体的な計算はありません。
上記の「具体的な解説と立式」で述べた通り、音源が静止しているため、観測者が受け取る音の波長は変化しません。
よって、選択肢③が正解となります。
エスカレーターのステップ(段差)を音の「波長」だと考えてみましょう。エスカレーター(音源)が普通に動いている限り、ステップの幅は一定です。
あなたがそのエスカレーターの上を歩いたり走ったり(観測者が動く)しても、ステップそのものの幅が変わることはありません。
これと同じで、音源が静止していれば、空間に広がる音の波長は一定であり、観測者が動いてもその波長は変わりません。
問(2)
思考の道筋とポイント
設問(1)で、観測者が動いても波長は変わらないことがわかりました。では、なぜ振動数は変化するのでしょうか。振動数とは「1秒間に観測者が受け取る波の数」のことです。波長が変わらないのに振動数が変わるということは、観測者から見た「音の速さ」が変わっていると考えられます。観測者が音源から遠ざかると、音波から逃げるような形になるため、観測者にとって音は通常より遅く伝わってくるように感じられます。この「見かけの速さ(相対速度)」の変化が、振動数の変化につながります。
この設問における重要なポイント
- 観測される振動数 \(f’\) は、1秒間に観測者の耳を通過する波の数で決まります。
- 観測者が音源から遠ざかると、音波から「逃げる」動きになるため、1秒間に受け取る波の数は減少します。したがって、振動数は小さくなります。
- 逆に、観測者が音源に近づくと、音波に「向かっていく」動きになるため、1秒間に受け取る波の数は増加します。したがって、振動数は大きくなります。
- この現象は、観測者から見た音の相対速度が変化するために起こります。
具体的な解説と立式
音速を \(V\)、観測者が音源から遠ざかる速さを \(v_{\text{観測者}}\) とします。音源から観測者へ向かう向きを正とします。
音波は速さ \(V\) で観測者に向かってきますが、観測者自身は速さ \(v_{\text{観測者}}\) で逆向き(音波から逃げる向き)に動いています。
したがって、観測者から見た音の相対速度 \(V’\) は、音速から観測者の速さを引いたものになります。
$$ V’ = V – v_{\text{観測者}} $$
観測される振動数 \(f’\) は、この相対速度 \(V’\) で進んでくる波を、波長 \(\lambda\) ごとに1つと数えるものなので、波の基本式と同様の関係が成り立ちます。
$$ V’ = f’ \lambda $$
これを \(f’\) について解くと、
$$ f’ = \displaystyle\frac{V’}{\lambda} = \displaystyle\frac{V – v_{\text{観測者}}}{\lambda} $$
設問(1)より、波長 \(\lambda\) は音源が静止しているときの波長 \(\lambda = \displaystyle\frac{V}{f_0}\) と等しいので、これを代入します。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
- 相対速度の考え方
- ドップラー効果の公式(観測者が動く場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_{\text{観測者}}}{\lambda}\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に、\(\lambda = \displaystyle\frac{V}{f_0}\) を代入して、観測される振動数 \(f’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \displaystyle\frac{V – v_{\text{観測者}}}{\lambda} \\[2.0ex]&= (V – v_{\text{観測者}}) \times \displaystyle\frac{1}{\lambda} \\[2.0ex]&= (V – v_{\text{観測者}}) \times \displaystyle\frac{f_0}{V} \\[2.0ex]&= \left( \displaystyle\frac{V – v_{\text{観測者}}}{V} \right) f_0
\end{aligned}
$$
観測者は音源から遠ざかっているので \(v_{\text{観測者}} > 0\) です。
よって、分子の \(V – v_{\text{観測者}}\) は分母の \(V\) よりも小さくなります。
したがって、係数部分 \(\displaystyle\frac{V – v_{\text{観測者}}}{V}\) は \(1\) よりも小さくなります。
この結果、\(f’ < f_0\) となり、観測される振動数は音源の振動数よりも小さくなることがわかります。
よって、選択肢②が正解となります。
自分に向かってくる「動く歩道」(音波)を想像してください。
あなたがその場で止まっていれば(観測者静止)、動く歩道のステップは一定のペースであなたの足元を通り過ぎていきます。このときの1秒あたりのステップ数が、元の音の「振動数」です。
もしあなたが、動く歩道から逃げるように後ろ向きに歩き始めたら(観測者が遠ざかる)、あなたの足元を通り過ぎるステップの数は減りますよね。これが、振動数が小さくなるということです。救急車のサイレンが遠ざかっていくときに音が低く聞こえるのは、このためです。
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