「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第17章】応用問題

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311 音の干渉

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2つの点音源から出る音波が重なり合うことで生じる「波の干渉」を扱います。特に、観測する場所によって音が強まったり弱まったりする現象について、その条件を正しく理解し、計算する能力が問われます。
この問題の核心は、2つの音源からの「経路差」と音波の「波長」の関係から、干渉の条件(強めあい・弱めあい)を判断することです。

与えられた条件
  • 2つのスピーカーA, Bは \(3.0 \text{ m}\) 離れている。
  • 観測線XYは、直線ABから \(4.0 \text{ m}\) 離れており、ABに平行。
  • 初期の振動数: \(f = 1.7 \times 10^2 \text{ Hz}\)
  • 点O (A, Bから等距離) では音が極大。
  • 点P (OからY方向に \(1.5 \text{ m}\)) では音が極小。
問われていること
  • (1) 音源A, Bの振動の位相関係(同位相か逆位相か)。
  • (2) このときの音波の波長 \(\lambda\) と音速 \(V\)。
  • (3) 振動数を上げていったとき、点Pで次に音が極小になる振動数 \(f’\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 位相差を用いて解く方法
      • 模範解答が経路差と波長の関係から振動数を求めるのに対し、別解では点Pにおける2つの波の「位相差」に注目し、その変化から直接、振動数の比を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 概念的理解の深化: 経路差と位相差の間の関係式 \((\Delta\phi = 2\pi \Delta l / \lambda)\) という、波動の基本概念への理解が深まります。
    • 物理量の関係性の把握: 音速が一定のとき、位相差、波長、振動数の間には「位相差は波長の逆数に比例し、振動数に比例する」(\(\Delta\phi \propto 1/\lambda \propto f\))という関係があることを明確に捉えられ、物理的な見通しが良くなります。
    • 計算の簡略化: 中間変数である波長や音速を具体的に計算せず、物理量の比の関係だけで解けるため、計算がシンプルになる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「2つの点音源による音の干渉」です。経路差を正確に計算し、干渉条件を正しく適用することがポイントです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 三平方の定理: 幾何学的な位置関係から、各音源から観測点までの距離を正確に計算するために用います。
  2. 干渉条件: 2つの波が出会う点での経路差 \(\Delta l\) と波長 \(\lambda\) の関係によって、波が強めあうか弱めあうかが決まります。音源の位相関係(同位相か逆位相か)によって条件式が異なります。
  3. 波の基本式: 音速 \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には \(V = f\lambda\) という関係が成り立ちます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)で経路差が0である点Oでの観測結果から、2つのスピーカーが同位相か逆位相かを判断します。
  2. 次に、(2)で点Pにおける2つのスピーカーからの経路差を計算し、問題文から読み取れる干渉条件(最初の極小点)を適用して、波長 \(\lambda\) と音速 \(V\) を求めます。
  3. 最後に、(3)で点Pの位置(つまり経路差)は変えずに、振動数だけを変化させた場合に次に極小となる条件を考え、新しい振動数 \(f’\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
この設問は、干渉の基本原理を問うものです。点Oは2つのスピーカーA, Bから等しい距離にあります。つまり、2つの波が点Oに到達するまでにかかる時間は同じで、経路差は0です。この「経路差0」の点で音が強めあっているという事実から、音源での振動の仕方を結論付けます。

この設問における重要なポイント

  • 経路差と位相: 経路差が0の点では、音源での位相関係がそのまま波の重なり方に反映されます。
  • 強めあいの条件: 音源が同位相なら、経路差0の点で波の山と山(谷と谷)が重なり、強めあいます。音源が逆位相なら、山と谷が重なり、弱めあいます。

具体的な解説と立式
問題文より、点OはスピーカーA, Bから等距離の点です。したがって、点Oにおける2つの音波の経路差 \(\Delta l_{\text{O}}\) は0です。
$$ \Delta l_{\text{O}} = 0 $$
この点で音が極大になった(強めあった)と記述されています。経路差が0の点で波が強めあうのは、2つの波が山と山、谷と谷というように、同じ位相で重なり合った場合です。そのためには、音源であるスピーカーAとBが同じタイミングで振動している、すなわち「同位相」である必要があります。

使用した物理公式

  • 干渉条件の基本原理
計算過程

この設問は論理的な推論によるもので、数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明

2つの波が重なって音が大きくなるのは、波の「山」と「山」、または「谷」と「谷」がぴったり重なるときです。点Oは両方のスピーカーから全く同じ距離にあるので、もしスピーカーが全く同じタイミングで音を送り出していれば(同位相)、点Oには波がずれることなく到着し、必ず強めあいます。問題文で「極大であった」と書かれているので、スピーカーは同位相で振動していると判断できます。

結論と吟味

音源A, Bでの振動は「同位相」です。この結果は、続く(2)と(3)で正しい干渉条件式を選択するための大前提となります。

解答 (1) 同位相

問(2)

思考の道筋とポイント
点Pで音が極小になるという条件を利用します。まず、点PがスピーカーAとBからそれぞれどれだけ離れているかを、問題の図と三平方の定理を使って計算します。その2つの距離の差が「経路差」です。問(1)で音源は同位相だと分かったので、「同位相音源による弱めあいの条件」に、計算した経路差を当てはめて波長 \(\lambda\) を求めます。最後に、波の基本式 \(V=f\lambda\) を使って音速 \(V\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 経路差の計算: 図の寸法から、三平方の定理を用いてAPとBPの長さを正確に求め、その差 \(\Delta l = |AP – BP|\) を計算します。
  • 弱めあいの条件(同位相音源): 経路差が半波長の奇数倍になるとき、波は弱めあいます。式は \(\Delta l = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (ただし \(m=0, 1, 2, \dots\))です。
  • 「最初の極小点」の解釈: 点O(経路差0)から離れていって「最初に」極小となる点なので、整数 \(m\) には最も小さい \(m=0\) を代入します。

具体的な解説と立式
問題の図より、A, B, Pの位置関係を考えます。直線ABと直線XYは平行で、その距離は \(4.0 \text{ m}\) です。点Pは、点Bと同じ高さにあり、Bからの水平距離が \(4.0 \text{ m}\) の位置にあると解釈できます。
したがって、\(\triangle ABP\) は \(\angle B = 90^\circ\) の直角三角形と見なせます。
辺の長さは \(AB = 3.0 \text{ m}\), \(BP = 4.0 \text{ m}\) です。
三平方の定理より、APの長さは、
$$ AP = \sqrt{AB^2 + BP^2} $$
点Pにおける経路差 \(\Delta l\) は、
$$ \Delta l = AP – BP \quad \cdots ① $$
問(1)より音源は同位相なので、音が極小になる(弱めあう)条件は、
$$ \Delta l = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ② $$
点PはOから移動して「最初の」極小点なので、\(m=0\) を適用します。
$$ \Delta l = \frac{1}{2}\lambda \quad \cdots ③ $$
波長 \(\lambda\) が求まれば、音速 \(V\) は波の基本式で計算できます。
$$ V = f\lambda \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 三平方の定理
  • 波の干渉条件(同位相音源・弱めあい): \(\Delta l = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
  • 波の基本式: \(V = f\lambda\)
計算過程

まず、APの長さを計算します。
$$
\begin{aligned}
AP &= \sqrt{(3.0)^2 + (4.0)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{9.0 + 16.0} \\[2.0ex]
&= \sqrt{25.0} \\[2.0ex]
&= 5.0 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
①式を用いて経路差 \(\Delta l\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta l &= 5.0 – 4.0 \\[2.0ex]
&= 1.0 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
この値を③式に代入して、波長 \(\lambda\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
1.0 &= \frac{1}{2}\lambda \\[2.0ex]
\lambda &= 2.0 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
最後に、④式に \(f = 1.7 \times 10^2 \text{ Hz}\) と \(\lambda = 2.0 \text{ m}\) を代入して、音速 \(V\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V &= (1.7 \times 10^2) \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 3.4 \times 10^2 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

点Pに届く音について、スピーカーAからの道のりは、スピーカーBからより長くなっています。この「道のりの差(経路差)」を、まず図形の問題として三平方の定理を使って計算すると、\(1.0 \text{ m}\) だと分かります。音が弱まって聞こえなくなるのは、この道のりの差のせいで、片方の波の「山」ともう片方の波の「谷」がちょうどP点で出会ってしまうときです。一番最初に音が弱まるのは、この道のりの差がちょうど「波長の半分」になるときです。つまり「\(1.0 \text{ m}\) = 波長の半分」という関係から、波長は \(2.0 \text{ m}\) だと分かります。波長が分かれば、「速さ = 振動数 × 波長」の公式から音の速さも計算できます。

結論と吟味

音波の波長は \(\lambda = 2.0 \text{ m}\)、音速は \(V = 3.4 \times 10^2 \text{ m/s}\) です。これは、常温の空気中の音速(約340 m/s)と一致しており、物理的に妥当な値です。

解答 (2) \(2.0 \text{ m}\), \(3.4 \times 10^2 \text{ m/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
点Pの位置は固定されているため、経路差 \(\Delta l = 1.0 \text{ m}\) は変わりません。振動数 \(f\) を上げていくと、音速 \(V\) は一定なので、波の基本式 \(V=f\lambda\) より、波長 \(\lambda\) は短くなっていきます。弱めあいの条件式 \(\Delta l = (m + \frac{1}{2})\lambda\) を、この新しい波長 \(\lambda’\) を使って再び満たすときを考えます。最初の極小は \(m=0\) でしたので、「次に」極小になるのは \(m=1\) の場合です。この条件から新しい波長 \(\lambda’\) を求め、音速 \(V\) を使って新しい振動数 \(f’\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 不変量と変化量: 経路差 \(\Delta l\) と音速 \(V\) は不変ですが、振動数 \(f\) と波長 \(\lambda\) は変化します。
  • 「次の極小」の解釈: 弱めあいの条件式 \(\Delta l = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) において、\(m=0\) の次である \(m=1\) を適用します。
  • 音速の保存: 媒質(空気)が変わらない限り音速は一定なので、初期状態と後の状態で \(V = f\lambda = f’\lambda’\) という関係が成り立ちます。

具体的な解説と立式
点Pでの経路差 \(\Delta l = 1.0 \text{ m}\) は変化しません。
振動数を \(f’\) に上げたときの波長を \(\lambda’\) とします。
点Pで「次に」音が極小になるのは、弱めあいの条件式 \(\Delta l = (m + \frac{1}{2})\lambda’\) で、\(m=0\) の次の整数である \(m=1\) を満たすときです。
$$ \Delta l = \left(1 + \frac{1}{2}\right)\lambda’ = \frac{3}{2}\lambda’ \quad \cdots ⑤ $$
媒質は同じなので音速 \(V\) は変わりません。したがって、初期状態と後の状態で次の関係が成り立ちます。
$$ V = f\lambda = f’\lambda’ \quad \cdots ⑥ $$
この関係を用いると、\(f’\) を求めることができます。

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(同位相音源・弱めあい): \(\Delta l = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
  • 波の基本式: \(V = f\lambda\)
計算過程

まず、⑤式に \(\Delta l = 1.0 \text{ m}\) を代入して、新しい波長 \(\lambda’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
1.0 &= \frac{3}{2}\lambda’ \\[2.0ex]
\lambda’ &= \frac{2}{3} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、⑥式の \(f\lambda = f’\lambda’\) の関係を使います。(2)で求めた \(\lambda = 2.0 \text{ m}\) と、今求めた \(\lambda’ = \frac{2}{3} \text{ m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
(1.7 \times 10^2) \times 2.0 &= f’ \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]
3.4 \times 10^2 &= f’ \times \frac{2}{3}
\end{aligned}
$$
\(f’\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
f’ &= (3.4 \times 10^2) \times \frac{3}{2} \\[2.0ex]
&= 1.7 \times 10^2 \times 3 \\[2.0ex]
&= 5.1 \times 10^2 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

P地点で音が消えるのは、道のりの差(\(1.0 \text{ m}\))が波長の「0.5個分」「1.5個分」「2.5個分」…になるときです。最初の状態では「0.5個分」でした。スピーカーの音を高くしていくと、波長はだんだん短くなります。そして、道のりの差(\(1.0 \text{ m}\))が、短くなった新しい波長のちょうど「1.5個分」になったとき、再び音が消えます。この関係から、新しい振動数は元の振動数の3倍になることが計算できます。

結論と吟味

次に音が極小になるときの振動数は \(f’ = 5.1 \times 10^2 \text{ Hz}\) です。問題文の通り振動数を「上げて」いるので、求まった値が初期値 \(1.7 \times 10^2 \text{ Hz}\) よりも大きくなっており、結果は妥当です。

別解: 位相差を用いて解く方法

思考の道筋とポイント
点Pでの経路差 \(\Delta l\) は一定です。2つの波の位相差 \(\Delta\phi\) は \(\Delta\phi = 2\pi \Delta l / \lambda\) で与えられます。弱めあう条件は、この位相差が \(\pi\) の奇数倍 (\(\pi, 3\pi, 5\pi, \dots\)) になることです。初期状態と振動数を上げた後の状態で、それぞれが何番目の弱めあい条件に対応するかを考え、位相差の比から振動数の比を直接求めます。

この設問における重要なポイント

  • 位相差と経路差の関係: \(\Delta\phi = \displaystyle\frac{2\pi \Delta l}{\lambda}\)。
  • 弱めあいの条件(位相差): \(\Delta\phi = (2m+1)\pi\)。
  • 位相差と振動数の関係: 音速が一定のとき、\(\lambda = V/f\) なので、\(\Delta\phi = \displaystyle\frac{2\pi \Delta l}{V}f\) となり、位相差 \(\Delta\phi\) は振動数 \(f\) に比例します。

具体的な解説と立式
点Pに到達する2つの波の位相差を \(\Delta\phi\) とします。経路差 \(\Delta l = 1.0 \text{ m}\) を用いて、
$$ \Delta\phi = \frac{2\pi \Delta l}{\lambda} $$
波の基本式 \(V=f\lambda\) より \(\lambda = V/f\) なので、
$$ \Delta\phi = \frac{2\pi \Delta l}{V} f \quad \cdots ① $$
この式から、音速 \(V\) と経路差 \(\Delta l\) が一定のとき、位相差 \(\Delta\phi\) は振動数 \(f\) に比例することがわかります。
初期状態(振動数 \(f\), 位相差 \(\Delta\phi_{\text{初}}\))では、最初の極小点 (\(m=0\)) なので、
$$ \Delta\phi_{\text{初}} = (2 \times 0 + 1)\pi = \pi \quad \cdots ② $$
振動数を上げた状態(振動数 \(f’\), 位相差 \(\Delta\phi_{\text{次}}\))では、次の極小点 (\(m=1\)) なので、
$$ \Delta\phi_{\text{次}} = (2 \times 1 + 1)\pi = 3\pi \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 位相差と経路差の関係: \(\Delta\phi = \displaystyle\frac{2\pi \Delta l}{\lambda}\)
  • 波の干渉条件(位相差)
  • 波の基本式: \(V = f\lambda\)
計算過程

①式より、位相差は振動数に比例するので、次の関係が成り立ちます。
$$ \frac{\Delta\phi_{\text{次}}}{\Delta\phi_{\text{初}}} = \frac{f’}{f} $$
この式に②と③を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{3\pi}{\pi} &= \frac{f’}{f} \\[2.0ex]
3 &= \frac{f’}{f}
\end{aligned}
$$
よって、\(f’ = 3f\) となります。
$$
\begin{aligned}
f’ &= 3 \times (1.7 \times 10^2) \\[2.0ex]
&= 5.1 \times 10^2 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

2つの音が打ち消しあって聞こえなくなるのは、波のタイミングが「半周期ぶん(位相差 \(\pi\))」ずれたとき、「1.5周期ぶん(位相差 \(3\pi\))」ずれたとき…です。最初の状態では、P点で「半周期ぶん」のずれが生じていました。音を高くしていくと、この「ずれ」の度合いが大きくなり、次に打ち消しあうのは「1.5周期ぶん」ずれたときです。ずれの大きさがちょうど3倍 (\(3\pi / \pi\)) になっているので、音の振動数も3倍になります。

結論と吟味

振動数は \(f’ = 5.1 \times 10^2 \text{ Hz}\) となり、主たる解法と完全に一致しました。位相差という、より本質的な量に着目することで、物理的な見通しよく問題を解くことができました。

解答 (3) \(5.1 \times 10^2 \text{ Hz}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 波の干渉条件:
    • 核心: 2つの波源からの距離の差である「経路差 \(\Delta l\)」と「波長 \(\lambda\)」の関係が、波が強めあうか弱めあうかを決定します。この問題の全ての設問は、この原理に基づいています。
    • 理解のポイント: (1)で音源が「同位相」と分かったため、以下の条件式を適用します。
      • 強めあう(極大)条件: \(\Delta l = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
      • 弱めあう(極小)条件: \(\Delta l = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
  • 波の基本式 \(V = f\lambda\):
    • 核心: 波の速さ \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) という3つの基本量を結びつける、波動分野で最も基本的な関係式です。
    • 理解のポイント: (2)では \(f\) と求めた \(\lambda\) から \(V\) を計算し、(3)では \(V\) が一定という条件の下で、変化した \(\lambda’\) から新しい \(f’\) を求めるために使います。
  • 三平方の定理:
    • 核心: 物理法則そのものではありませんが、図形的に配置された音源と観測点の間の距離を正確に計算し、「経路差」という物理量を求めるために不可欠な数学的ツールです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ヤングの干渉実験: 2つのスリットを通過した光が干渉する現象。音波が光に変わっただけで、考えるべき物理原理(経路差と干渉条件)は全く同じです。
    • 薄膜による光の干渉: シャボン玉や水に浮いた油膜が色づいて見える現象。膜の表面で反射する光と裏面で反射する光の経路差(と位相のずれ)によって干渉が起こります。
    • 回折格子: 多数のスリットを通過した光が干渉する現象。これも隣り合うスリットからの光の経路差が基本となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 波源の位相関係を特定する: まず、2つの波源が「同位相」か「逆位相」かを確認します。問題文に「等距離の点で強めあう」とあれば同位相、「弱めあう」とあれば逆位相です。これにより、使うべき干渉条件式が決まります。
    2. 経路差 \(\Delta l\) を正確に計算する: 問題の幾何学的な配置を正確に把握し、三平方の定理などを用いて、観測点までの2つの経路の長さの差を計算します。
    3. 干渉の次数 \(m\) を特定する: 「最初の」「n番目の」といった言葉に注目します。特に断りがなく、経路差が0の点から最も近い極大・極小点は \(m=0\) に対応します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 干渉条件式の混同:
    • 誤解: 同位相音源の問題なのに、逆位相の干渉条件式(強めあいと弱めあいの式が逆になる)を誤って使ってしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、(1)の結果などから「今回は同位相だから、強めあいは \(\Delta l = m\lambda\), 弱めあいは \(\Delta l = (m+1/2)\lambda\)」と、使う公式をはっきり書き出しておく習慣をつけましょう。
  • 干渉の次数 \(m\) の数え間違い:
    • 誤解: 「最初の極小点」を \(m=1\) と勘違いしてしまう。
    • 対策: 干渉の次数 \(m\) は \(0, 1, 2, \dots\) と0から始まることを常に意識してください。経路差が0の点(中心)から数えて「1番目の極小点」が \(m=0\)、「2番目の極小点」が \(m=1\) に対応します。
  • 経路差の計算ミス:
    • 誤解: 三平方の定理の計算で、足し算や平方根の計算を間違える。
    • 対策: この問題のように、辺の比が3:4:5の直角三角形は頻出します。これに気づけば、計算を省略でき、ミスも防げます。複雑な計算の場合は、焦らず一つ一つのステップを丁寧に行いましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 波紋の広がりをイメージする: 2つのスピーカーA, Bから、池に石を投げ込んだときのように、同心円状の波紋(波の山)が広がる様子を想像します。
    • 腹と節の線をイメージする: 波の山同士が交わる点の連なりが「腹線(強めあう線)」、山と谷が交わる点の連なりが「節線(弱めあう線)」となります。点Oは中心の腹線上、点Pは中心から数えて最初の節線上に位置します。
    • 振動数を上げるイメージ: 振動数 \(f\) を上げると、波長 \(\lambda\) が短くなります (\(V=f\lambda\))。これは、広がる波紋の間隔が狭くなることに相当します。その結果、腹線や節線の作る干渉縞の模様が、全体的により密になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 問題で与えられた図に、スピーカーAから点Pへの経路(AP)と、Bから点Pへの経路(BP)を実線で書き込みます。
    • 経路差 \(\Delta l = AP – BP\) が、2つの線の長さの差であることを視覚的に確認します。
    • (3)を考える際は、同じ図の上で、波長が短くなった波(波線などをより細かく描く)が、同じ経路差の条件をどのように満たすかを考えると、理解が深まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 干渉条件式 \(\Delta l = (m + \frac{1}{2})\lambda\):
    • 選定理由: この問題は「音が極小になる」という、波の干渉による弱めあいの現象を扱っているため、それを記述するこの公式を選びます。
    • 適用根拠: (1)で音源が「同位相」であることが確定しました。同位相の波が弱めあうのは、経路差によって一方の波が半周期分(位相が\(\pi\))ずれるとき、つまり経路差が半波長 \(\lambda/2\) の奇数倍になるときです。この物理原理を数式で表現したのがこの公式です。
  • 波の基本式 \(V = f\lambda\):
    • 選定理由: 波の基本的な性質である「速さ」「振動数」「波長」の3つの物理量の間の関係を問われている、あるいは利用する必要があるため、この普遍的な公式を選択します。
    • 適用根拠: この関係は、波が1周期(\(1/f\)秒)の間に1波長(\(\lambda\))進むという、波の定義そのものから導かれるものであり、あらゆる波に適用できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 位相の決定:
    • 戦略: 経路差が0の点での干渉結果から、波源の位相関係を特定する。
    • フロー: ①点OはA, Bから等距離 \(\rightarrow\) 経路差 \(\Delta l = 0\)。 ②問題文より点Oで「極大」。 ③経路差0で強めあうのは「同位相」であると結論づける。
  2. (2) 波長と音速の計算:
    • 戦略: 点Pの幾何学的な位置から経路差を計算し、弱めあいの条件式を適用して波長を求め、波の基本式で音速を計算する。
    • フロー: ①三平方の定理でAPの長さを計算。 ②経路差 \(\Delta l = AP – BP\) を求める。 ③同位相音源の弱めあい条件 \(\Delta l = (m+1/2)\lambda\) を立てる。 ④「最初の極小」なので \(m=0\) を代入し、\(\lambda\) を解く。 ⑤ \(V=f\lambda\) に数値を代入し、\(V\) を計算する。
  3. (3) 次の振動数の計算:
    • 戦略: 点Pの位置(経路差)と音速は不変であることから、「次に」弱めあう条件(\(m=1\))を満たす新しい波長 \(\lambda’\) を求め、そこから新しい振動数 \(f’\) を計算する。
    • フロー: ①経路差 \(\Delta l\) と音速 \(V\) は変わらないことを確認。 ②弱めあい条件で \(m=1\) を適用し、\(\Delta l = (1+1/2)\lambda’\) から \(\lambda’\) を求める。 ③音速が一定である関係 \(f\lambda = f’\lambda’\) を利用して、\(f’\) を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 有名な直角三角形の活用: \(3.0^2 + 4.0^2 = 5.0^2\) という、辺の比が3:4:5の直角三角形は物理の問題で頻出します。これに気づけば、\(\sqrt{9+16}=\sqrt{25}=5\) という計算を瞬時に行うことができ、時間短縮とミス防止につながります。
  • 比の関係を最大限に利用する: (3)の計算では、\(V = f’\lambda’\) に \(V=3.4 \times 10^2\) と \(\lambda’ = 2/3\) を代入して \(f’\) を求めることもできますが、\(f\lambda = f’\lambda’\) という比の関係を使う方がスマートです。これにより、(2)で計算した音速 \(V\) の値を使わずに済むため、もし(2)で計算ミスをしていても(3)は正解できる可能性があり、計算も簡単になります。
  • 指数の扱いを丁寧に: \(1.7 \times 10^2\) のような指数を含む計算では、指数部分と係数部分を分けて慎重に計算しましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 音速: 計算結果の \(V = 3.4 \times 10^2 \text{ m/s}\) は、約 \(340 \text{ m/s}\) であり、これは標準的な気温・気圧における空気中の音速とほぼ一致します。このことから、計算結果が現実的な値であることがわかります。
    • (3) 振動数: 問題文には「振動数を徐々に上げていく」とあります。計算結果の \(f’ = 5.1 \times 10^2 \text{ Hz}\) は、元の振動数 \(f = 1.7 \times 10^2 \text{ Hz}\) よりも大きくなっています。これは問題の条件と矛盾せず、妥当な結果と言えます。
  • 物理的なイメージとの照合:
    • 振動数を上げると波長は短くなります。同じ経路差 \(1.0 \text{ m}\) の中に、より多くの波が含まれるようになります。弱めあいの条件は、経路差が半波長の \(0.5, 1.5, 2.5, \dots\) 倍になるときです。振動数を上げていくと、この条件を満たす \(m\) の値が \(m=0\) から \(m=1\) へと大きくなるはずで、計算結果と物理的なイメージが一致します。
  • 別解との比較:
    • (3)は、経路差と波長の関係から解く方法と、位相差の関係から解く別解がありました。全く異なるアプローチにもかかわらず、同じ \(f’ = 3f\) という結論に至ったことは、両方の解法の正しさと、自身の計算の正確さを強く裏付けています。

312 音の干渉

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、1つの音源からの音を2つの異なる経路に分け、再び合流させることで干渉を観察する「クインケ管」を扱います。一方の経路の長さを変えることで、音が強まったり弱まったりする現象を分析し、音の振動数や速さを求める能力が問われます。
この問題の核心は、「管を引き出した長さ」と、それによって生じる「2つの経路の長さの差(経路差)の変化」の関係を正しく理解することです。

与えられた条件
  • Aに置かれた発音体の振動数は一定。
  • (1) C部を \(9.00 \text{ cm}\) 引き出すごとに音が極小になる。このときの音速は \(V_1 = 342 \text{ m/s}\)。
  • (2) 空気の温度を上昇させた後、C部を \(9.50 \text{ cm}\) 引き出すごとに音が極小になる。クインケ管自体の熱膨張は無視する。
問われていること
  • (1) 発音体の振動数 \(f\)。
  • (2) 温度上昇後の音速 \(V_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(1), (2)の別解: 弱めあいの条件式を直接利用する解法
      • 模範解答が「引き出す距離と波長の関係」から直感的に波長を求めるのに対し、別解では「ある引き出し位置での弱めあい」と「次の引き出し位置での弱めあい」の2つの状態について、それぞれ干渉の条件式を立て、それらを連立させて解くという、より厳密で代数的なアプローチを取ります。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 論理的思考力の養成: 「\(n\)回目の極小」と「\(n+1\)回目の極小」という2つの状況を数式で表現し、それらの差分から物理量を導き出すという、物理学で頻繁に用いられる思考プロセスを学ぶことができます。
    • 公式の深い理解: なぜ「引き出した距離の2倍が波長に等しい」のかを、干渉条件式 \(\Delta l = (m+1/2)\lambda\) から論理的に導出する過程を追体験でき、公式の丸暗記から脱却できます。
    • 応用力の向上: 初期状態の経路差が不明な場合や、より複雑な条件が与えられた場合にも対応できる、汎用性の高い解法を身につけることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「クインケ管による音の干渉」です。管を引き出すことによる経路差の変化と、干渉条件の関係を理解することが最大のポイントです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 経路差の変化: クインケ管のC部を距離 \(x\) だけ引き出すと、A→C→Bの経路は \(2x\) だけ長くなります。これがそのまま2つの経路の経路差の変化量となります。
  2. 干渉条件: 1つの音源を2つに分けているため、2つの波は常に同位相です。したがって、弱めあう(音が小さくなる)条件は、経路差が半波長の奇数倍になるときです。(\(\Delta l = (m + \frac{1}{2})\lambda\))
  3. 波の基本式: 音速 \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には \(V = f\lambda\) という関係が成り立ちます。
  4. 音速と温度の関係: 気体中の音速は、温度が上がると速くなります。また、発音体の振動数は、媒質の状態(温度や音速)が変わっても変化しません。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)で「\(9.00 \text{ cm}\) 引き出すごとに音が再び極小になる」という情報から、経路差がどれだけ変化したかを考えます。この経路差の変化量がちょうど1波長分に相当することを利用して、音の波長 \(\lambda_1\) を求めます。
  2. 次に、波の基本式 \(V_1 = f\lambda_1\) を使って、発音体の振動数 \(f\) を計算します。
  3. (2)でも同様に、「\(9.50 \text{ cm}\) 引き出すごとに音が再び極小になる」という情報から、温度上昇後の新しい波長 \(\lambda_2\) を求めます。
  4. 最後に、発音体の振動数 \(f\) は変わらないことを利用し、波の基本式 \(V_2 = f\lambda_2\) から新しい音速 \(V_2\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
「\(9.00 \text{ cm}\) 引き出すごとに音が小さくなる」という現象に着目します。音が小さくなるのは、2つの経路を通ってきた波が弱めあう干渉を起こすときです。ある引き出し位置で音が小さくなり、そこからさらに管を \(9.00 \text{ cm}\) 引き出すと、再び音が小さくなった、という状況です。この「隣り合う弱めあいの点」の間の経路差の変化が、ちょうど1波長分に相当することを利用します。

この設問における重要なポイント

  • 経路差の変化量: C部を \(x = 9.00 \text{ cm}\) 引き出すと、A→C→Bの経路は往復分、つまり \(2x = 18.0 \text{ cm}\) 長くなります。これが経路差の変化量です。
  • 隣り合う極小点: 音が極小になる状態から、次に極小になる状態へは、経路差がちょうど1波長分変化したことに対応します。
  • 波長と経路差変化の関係: したがって、経路差の変化量 \(2x\) が、このときの音の波長 \(\lambda_1\) に等しくなります。

具体的な解説と立式
発音体から出た音は、A→D→B の固定経路と、A→C→B の可変経路の2つに分かれて進みます。
C部を \(x_1 = 9.00 \text{ cm}\) 引き出すごとに、音が極小から次の極小へと変化します。
C部を \(x_1\) 引き出すと、A→C→Bの経路の長さは \(2x_1\) だけ長くなります。これが、2つの経路の経路差の変化量 \(\Delta L\) となります。
$$ \Delta L = 2x_1 \quad \cdots ① $$
音が極小になる状態から、次に極小になる状態へ移るということは、経路差がちょうど1波長分だけ変化したことを意味します。したがって、このときの波長を \(\lambda_1\) とすると、
$$ \Delta L = \lambda_1 \quad \cdots ② $$
①と②から、波長 \(\lambda_1\) が求まります。
$$ \lambda_1 = 2x_1 $$
振動数 \(f\) は、波の基本式を用いて計算できます。
$$ V_1 = f\lambda_1 \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(隣り合う極小点間の経路差変化は \(\lambda\))
  • 波の基本式: \(V = f\lambda\)
計算過程

まず、波長 \(\lambda_1\) を計算します。\(x_1 = 9.00 \text{ cm} = 0.0900 \text{ m}\) です。
$$
\begin{aligned}
\lambda_1 &= 2 \times 0.0900 \\[2.0ex]
&= 0.180 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、③式を \(f\) について解き、数値を代入します。音速は \(V_1 = 342 \text{ m/s}\) です。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{V_1}{\lambda_1} \\[2.0ex]
&= \frac{342}{0.180} \\[2.0ex]
&= \frac{34200}{18} \\[2.0ex]
&= 1900 \\[2.0ex]
&= 1.90 \times 10^3 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

クインケ管のU字部分を \(9.00 \text{ cm}\) 引き出すと、音の通り道は「行き」と「帰り」で合計 \(18.0 \text{ cm}\) 長くなります。音が弱まる状態から、次にまた弱まる状態になるのは、この長くなった道のりが、ちょうど音の「1波長」分に相当するときです。つまり、この音の波長は \(18.0 \text{ cm} = 0.180 \text{ m}\) だと分かります。あとは「振動数 = 速さ ÷ 波長」の公式に、与えられた音速 \(342 \text{ m/s}\) と計算した波長 \(0.180 \text{ m}\) を当てはめれば、振動数が求まります。

結論と吟味

発音体の振動数は \(1.90 \times 10^3 \text{ Hz}\) です。これは一般的な可聴音の範囲内にあり、妥当な値です。

解答 (1) \(1.90 \times 10^3 \text{ Hz}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)と考え方は全く同じです。ただし、今回は空気の温度が上昇しているため、音速が変化しています。発音体は同じものを使っているので、振動数 \(f\) は(1)で求めた値のまま変化しません。温度上昇後の環境で、「\(9.50 \text{ cm}\) 引き出すごとに音が小さくなる」という新しい条件から、新しい波長 \(\lambda_2\) を求め、波の基本式を使って新しい音速 \(V_2\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 不変量と変化量: 発音体の振動数 \(f\) は不変です。一方、温度が上がったことで音速 \(V\) と波長 \(\lambda\) は変化します。
  • 新しい波長の計算: (1)と同様に、C部を \(x_2 = 9.50 \text{ cm}\) 引き出すと経路差が \(2x_2\) 変化し、これが新しい波長 \(\lambda_2\) に等しくなります。
  • 音速と温度: 気体中の音速は温度が高いほど速くなるため、計算結果は \(342 \text{ m/s}\) より大きくなるはずです。

具体的な解説と立式
温度上昇後、C部を \(x_2 = 9.50 \text{ cm}\) 引き出すごとに音が極小になりました。
(1)と同様に、隣り合う極小点間の経路差の変化は1波長分なので、温度上昇後の波長を \(\lambda_2\) とすると、
$$ \lambda_2 = 2x_2 \quad \cdots ④ $$
発音体は変わらないので、振動数 \(f\) は(1)で求めた \(1.90 \times 10^3 \text{ Hz}\) のままです。
温度上昇後の音速を \(V_2\) とすると、波の基本式は、
$$ V_2 = f\lambda_2 \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(隣り合う極小点間の経路差変化は \(\lambda\))
  • 波の基本式: \(V = f\lambda\)
計算過程

まず、新しい波長 \(\lambda_2\) を計算します。\(x_2 = 9.50 \text{ cm} = 0.0950 \text{ m}\) です。
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= 2 \times 0.0950 \\[2.0ex]
&= 0.190 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、⑤式に \(f = 1.90 \times 10^3 \text{ Hz}\) と \(\lambda_2 = 0.190 \text{ m}\) を代入して、新しい音速 \(V_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= (1.90 \times 10^3) \times 0.190 \\[2.0ex]
&= 1900 \times 0.190 \\[2.0ex]
&= 19 \times 19 \\[2.0ex]
&= 361 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)と同じように考えます。今度はU字部分を \(9.50 \text{ cm}\) 引き出すと、道のりが \(19.0 \text{ cm}\) 長くなったときに、再び音が弱まりました。つまり、温度が上がった後の音の波長は \(19.0 \text{ cm} = 0.190 \text{ m}\) になったということです。スピーカーの振動数は変わらないので、「速さ = 振動数 × 波長」の公式に、(1)で求めた振動数と、この新しい波長を当てはめれば、温度が上がった後の音の速さが計算できます。

結論と吟味

温度上昇後の音速は \(361 \text{ m/s}\) です。この値は、初期の音速 \(342 \text{ m/s}\) よりも大きくなっています。気体中の音速は温度が上がると速くなるという物理法則と一致しており、この結果は妥当です。

別解: 弱めあいの条件式を直接利用する解法

思考の道筋とポイント
模範解答のように「隣り合う極小点間の経路差の変化が1波長」という関係を直感的に使うのではなく、干渉の基本条件式から出発して、この関係を導出します。ある引き出し位置で \(m\) 番目の弱めあいが起こり、そこから管を \(x\) だけ引き出した次の位置で \(m+1\) 番目の弱めあいが起こる、という2つの状態を立式し、連立させて解きます。

この設問における重要なポイント

  • 状態のモデル化: 「\(n\)回目の極小」と「\(n+1\)回目の極小」という2つの状態を、それぞれ数式で表現します。
  • 経路差の表現: 引き出す前の初期経路差を \(\Delta l_0\) とし、管を \(d\) だけ引き出したときの経路差を \(\Delta l = \Delta l_0 + 2d\) と表現します。
  • 代数的な処理: 2つの状態について立てた条件式の差を取ることで、未知の初期経路差 \(\Delta l_0\) や次数 \(m\) を消去し、波長を求めます。

具体的な解説と立式
(1)の別解

C部を引き出す前の初期状態での経路差を \(\Delta l_0\) とします。
ある引き出し量 \(d_m\) [m] のときに \(m\) 番目の弱めあいが生じたとすると、そのときの全経路差は \(\Delta l_0 + 2d_m\) なので、弱めあいの条件式は、
$$ \Delta l_0 + 2d_m = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda_1 \quad \cdots ⑥ $$
次に、そこから管をさらに引き出し、引き出し量が \(d_{m+1}\) になったときに \(m+1\) 番目の弱めあいが生じたとします。
$$ \Delta l_0 + 2d_{m+1} = \left((m+1) + \frac{1}{2}\right)\lambda_1 \quad \cdots ⑦ $$
問題文の「\(9.00 \text{ cm}\) 引き出すごとに」という記述は、隣り合う極小点間の引き出し距離の差、つまり \(d_{m+1} – d_m = 9.00 \text{ cm} = 0.0900 \text{ m}\) を意味します。

(2)の別解

(1)と全く同様に考えます。温度上昇後の波長を \(\lambda_2\) とし、隣り合う極小点間の引き出し距離の差が \(0.0950 \text{ m}\) であることから、
$$ 2 \times 0.0950 = \lambda_2 \quad \cdots ⑧ $$
が導かれます。

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(同位相・弱めあい): \(\Delta l = (m + \frac{1}{2})\lambda\)
  • 波の基本式: \(V = f\lambda\)
計算過程

(1)の計算

⑦式から⑥式を引きます。
$$
\begin{aligned}
(\Delta l_0 + 2d_{m+1}) – (\Delta l_0 + 2d_m) &= \left(m + 1 + \frac{1}{2}\right)\lambda_1 – \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda_1 \\[2.0ex]
2(d_{m+1} – d_m) &= \lambda_1
\end{aligned}
$$
ここに \(d_{m+1} – d_m = 0.0900 \text{ m}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
2 \times 0.0900 &= \lambda_1 \\[2.0ex]
\lambda_1 &= 0.180 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で得られた波長と一致します。以降の振動数 \(f\) の計算は主たる解法と同じで、\(f = 1.90 \times 10^3 \text{ Hz}\) となります。

(2)の計算

⑧式より、\(\lambda_2 = 2 \times 0.0950 = 0.190 \text{ m}\) となります。
以降の音速 \(V_2\) の計算は主たる解法と同じで、\(V_2 = f\lambda_2 = (1.90 \times 10^3) \times 0.190 = 361 \text{ m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

音が弱まる場所を「弱ポイント」と呼びます。管を少しずつ引き出していくと、この「弱ポイント」が次々と現れます。この別解では、ある「弱ポイント」と、その次の「弱ポイント」について、それぞれ干渉が起こる数式を立てます。そして、後の式から前の式を引き算します。すると、最初の管の長さなどのよく分からない情報がうまく消えてくれて、「管を引き出した長さの2倍が、ちょうど波長1つ分になる」という、とてもシンプルな関係式が導き出せます。これは、より丁寧で間違いのない方法で、主たる解法と同じ結論にたどり着くアプローチです。

結論と吟味

振動数は \(1.90 \times 10^3 \text{ Hz}\)、温度上昇後の音速は \(361 \text{ m/s}\) となり、主たる解法と完全に一致しました。この解法は、なぜ「引き出した距離の2倍が波長になるのか」という物理的な意味を、数式を用いて論理的に証明する過程を含んでおり、現象の根本的な理解を深める上で非常に有益です。

解答 (2) \(361 \text{ m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 経路差の変化と干渉条件の関係:
    • 核心: クインケ管の可動部を \(x\) だけ引き出すと、2つの波の経路差が \(2x\) だけ変化します。音が極小になる状態から、次に再び極小になるのは、この経路差の変化量 \(2x\) がちょうど1波長 \(\lambda\) に等しくなったときです。つまり、\(2x = \lambda\) という関係がこの問題の全てを解く鍵となります。
    • 理解のポイント: 1つの音源から出た波を2つに分けているため、波源は「同位相」です。弱めあいの条件は \(\Delta l = (m+1/2)\lambda\) です。隣り合う弱めあいの点(次数が \(m\) と \(m+1\))では、経路差の差が \(\lambda\) となります。この経路差の差が、管の引き出しによって生じる \(2x\) に等しいのです。
  • 波の基本量とその関係:
    • 核心: 波の速さ \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には、常に \(V=f\lambda\) という関係が成り立ちます。
    • 理解のポイント: (1)では \(V_1\) と求めた \(\lambda_1\) から \(f\) を求め、(2)では不変である \(f\) と求めた \(\lambda_2\) から \(V_2\) を求めます。
  • 物理量の不変性と変化:
    • 核心: 物理現象を分析する上で、「何が変わり、何が変わらないのか」を明確に区別することが重要です。
    • 理解のポイント: この問題では、発音体は同じなので「振動数 \(f\)」は不変です。一方、(2)で温度を上げたことで媒質(空気)の状態が変わり、「音速 \(V\)」と「波長 \(\lambda\)」が変化します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • マイケルソン干渉計: 光の干渉を利用して、光の波長や微小な距離を精密に測定する装置。クインケ管の音波を光に、可動管を可動鏡に置き換えたもので、原理は全く同じです。鏡を \(\Delta x\) 動かすと、光の経路差は \(2\Delta x\) 変化します。
    • ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置き、上から光を当てると同心円状の干渉縞が見える現象。レンズを上下に動かすことで、空気層の厚さが変わり、経路差が変化します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 経路差がどう変化するかを特定する: 問題の装置の構造を理解し、操作(管を引く、鏡を動かすなど)によって2つの経路の長さの差がどのように変化するかを、まず最初に考えます。クインケ管やマイケルソン干渉計では「動かした距離の2倍」が基本です。
    2. 「〜ごとに」という言葉に注目する: 「\(x\) cm動かすごとに音が小さくなった(暗くなった)」という記述は、「隣り合う極小(暗線)の間の操作量」を意味します。これは、経路差の変化量がちょうど1波長分 \(\lambda\) に対応することを示唆しています。
    3. 不変量を見抜く: 「発音体は同じ」「光源は同じ」とあれば振動数 \(f\) は不変です。「媒質が変わらない」なら音速 \(V\) は不変です。何が一定で何が変化するのかを整理することが、立式の第一歩です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 経路差の変化量の誤解:
    • 誤解: 管を \(x\) 引き出したときの経路差の変化を、\(x\) だと勘違いしてしまう。
    • 対策: クインケ管のU字部分は、音が行って戻ってくる「往復」経路です。必ず「動かした距離の2倍」である \(2x\) が経路差の変化量になると覚えましょう。図を描いて、長くなった部分を矢印で示すと視覚的に理解できます。
  • 振動数と音速の関係の混同:
    • 誤解: (2)で温度が上がったので、振動数が変わると考えてしまう。
    • 対策: 振動数 \(f\) は「波源が1秒間に振動する回数」であり、波源そのものの性質で決まります。媒質(空気)の温度が変わっても、波源の振動の仕方は変わりません。変わるのは、波が伝わる速さ \(V\) と、その結果としての波長 \(\lambda\) (\(=V/f\)) です。「\(f\) は波源で決まり、\(V\) は媒質で決まる」と整理しておきましょう。
  • 単位の換算ミス:
    • 誤解: 引き出した距離が cm で与えられているのに、m に直さずに計算してしまう。
    • 対策: 音速は m/s で与えられているため、計算に使う長さの単位は全て m に統一する必要があります。\(9.00 \text{ cm} = 0.0900 \text{ m}\) のように、計算を始める前に単位換算を済ませておく習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 2つの波のレースに例える: A地点を同時にスタートした2人のランナーが、Dコース(固定)とCコース(可変)に分かれて走り、B地点でゴールするイメージです。CコースのU字部分を引き出すのは、Cコースの距離を伸ばすことに相当します。
    • ゴールのタイミングのずれ: 2人がB地点に同時にゴールすれば強めあい(音が大きい)、半周ずれてゴールすれば弱めあい(音が小さい)です。
    • 「〜ごとに」のイメージ: Cコースを伸ばしていくと、ゴールのずれが「半周ずれた状態」→「1周ずれた状態」→「1周半ずれた状態」…と変化します。音が小さいのは「半周ずれ」「1周半ずれ」「2周半ずれ」のときです。ある音が小さい状態から、次に音が小さい状態になるのは、ゴールのずれがちょうど「1周分」大きくなったときです。この「1周分のずれ」が「1波長」に相当します。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 問題の図に、C部を引き出した後の状態を点線などで描き加えます。
    • 引き出した距離を \(x\) とし、A→C→Bの経路が \(2x\) 長くなることを、矢印などを使って明記すると、ミスを防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 隣り合う極小点間の関係式 \(2x = \lambda\):
    • 選定理由: この問題の「\(x\) 引き出すごとに音が小さくなる」という、特有の実験条件を最も直接的に表現する関係式だからです。
    • 適用根拠: 別解で示したように、この関係式は、より基本的な弱めあいの条件式 \(\Delta l = (m+1/2)\lambda\) から導出されます。隣り合う2つの極小点(次数 \(m\) と \(m+1\))について条件式を立てて差を取ると、\((\text{経路差の変化}) = \lambda\) という関係が得られます。クインケ管では経路差の変化が \(2x\) なので、\(2x = \lambda\) となります。
  • 波の基本式 \(V = f\lambda\):
    • 選定理由: 波の3つの基本量(速さ、振動数、波長)のうち2つが分かっており、残りの1つを求めるという、典型的な状況だからです。
    • 適用根拠: この公式は、波の定義から導かれる普遍的な関係式であり、音波、光波、弦を伝わる波など、あらゆる波に適用できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 振動数の計算:
    • 戦略: 隣り合う極小点間の引き出し距離から波長を求め、波の基本式で振動数を計算する。
    • フロー: ①引き出し距離 \(x_1 = 9.00 \text{ cm}\) を確認。 ②経路差の変化が \(2x_1\) であり、これが波長 \(\lambda_1\) に等しいとして立式 (\(\lambda_1 = 2x_1\))。 ③\(\lambda_1\) を計算。 ④波の基本式 \(f = V_1 / \lambda_1\) に数値を代入し、\(f\) を計算。
  2. (2) 新しい音速の計算:
    • 戦略: (1)と同様に新しい波長を求め、不変である振動数を使って新しい音速を計算する。
    • フロー: ①振動数 \(f\) は(1)の値で不変であることを確認。 ②新しい引き出し距離 \(x_2 = 9.50 \text{ cm}\) から、新しい波長 \(\lambda_2 = 2x_2\) を計算。 ③波の基本式 \(V_2 = f\lambda_2\) に数値を代入し、\(V_2\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位換算を最初に行う: 計算を始める前に、全ての物理量を基本単位(m, s, Hz)に揃えましょう。\(9.00 \text{ cm} \rightarrow 0.0900 \text{ m}\)、\(9.50 \text{ cm} \rightarrow 0.0950 \text{ m}\) のように、問題用紙の数値の横に書き込んでおくとミスが減ります。
  • 分数の計算を工夫する: \(f = 342 / 0.180\) のような計算では、分母分子を1000倍して \(34200 / 180 = 3420 / 18\) のように整数の割り算に直すと、筆算がしやすくなります。さらに、\(18 = 2 \times 9\) なので、まず2で割り(\(1710\))、次に9で割る(\(190\))と、より簡単に計算できます。
  • 計算の見通しを立てる: (2)の \(V_2 = (1.90 \times 10^3) \times 0.190\) の計算では、\(1900 \times 0.19 = 19 \times 100 \times 0.19 = 19 \times 19\) と変形できることに気づけば、\(19^2\) の暗算(または筆算)だけで答えが出せます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 音速: 計算結果の \(V_2 = 361 \text{ m/s}\) は、(1)の音速 \(V_1 = 342 \text{ m/s}\) よりも大きくなっています。問題文には「温度を上昇させ」とあり、気体中の音速は温度が高いほど速くなるという物理法則 (\(V \approx 331.5 + 0.6t\)) と整合性が取れています。したがって、この結果は妥当です。
  • 物理的な関係から吟味する:
    • (1)と(2)を比較すると、振動数 \(f\) が一定のとき、引き出し距離 \(x\) が \(9.00 \text{ cm} \rightarrow 9.50 \text{ cm}\) と長くなっています。\(2x = \lambda\) なので、これは波長 \(\lambda\) が長くなったことを意味します。波の基本式 \(V=f\lambda\) より、\(f\) が一定で \(\lambda\) が長くなったなら、音速 \(V\) も速くなったはずです。この定性的な考察と、\(342 \text{ m/s} \rightarrow 361 \text{ m/s}\) という計算結果が一致していることを確認できます。
  • 別解との比較:
    • この問題では、直感的な解法と、条件式を連立させる厳密な別解がありました。別解によって「\(2x=\lambda\)」という関係式が、より基本的な干渉の条件式から導出されることを確認できました。これにより、解法の正しさに対する信頼性が高まり、物理現象への理解も深まります。

313 弦の振動とうなり

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、「弦の振動(定常波)」と、それによって発生する音と別の音源(おんさ)との間で生じる「うなり」という2つの物理現象を組み合わせたものです。弦の長さを変えると振動数がどう変わるか、そしてその振動数の変化がうなりにどう影響するかを正しく理解する能力が問われます。
この問題の核心は、「弦を長くすると、弦の振動数がどうなるか」という定性的な変化を正しく捉え、うなりの情報と結びつけて、弦の振動数を特定することです。

与えられた条件
  • 弦の張力 \(S\) と線密度 \(\rho\) は一定。
  • 弦から出る音は基本音(基本振動)。
  • おんさの振動数: \(f_{\text{おんさ}} = 200 \text{ Hz}\)。
  • 状態1: 弦の長さ \(l_1 = 1.00 \text{ m}\) のとき、毎秒8回のうなりが生じる。
  • 状態2: 弦の長さ \(l_1\) を少し長くすると、うなりが生じなくなった。
問われていること
  • (1) 状態1での弦の振動数 \(f_1\)。
  • (2) 弦を伝わる波の速さ \(v\)。
  • (3) うなりが生じなかったときの弦の長さ \(l_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2), (3)の別解: 弦を伝わる波の速さの公式を用いる解法
      • 模範解答が(1)で求めた振動数と波長から波の速さを計算するのに対し、別解ではまず(2)で弦の基本振動数の公式 \(f = \frac{1}{2l}\sqrt{\frac{S}{\rho}}\) を用いて、弦の長さ \(l\) と振動数 \(f\) の関係 (\(fl = \text{一定}\)) を導き、それを使って(3)の弦の長さを先に求め、最後に(2)の波の速さを計算するという、異なる順序で解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の包括的理解: 弦の振動数を決定する物理量(長さ、張力、線密度)の関係を示す公式に触れることで、弦の振動に対するより深い理解が得られます。
    • 不変量の発見と活用: 「張力と線密度が一定ならば、\(fl\) の値は常に一定である」という、問題の背後にある重要な不変量を見抜く力を養うことができます。これは、比の計算に持ち込むことで計算を簡略化するテクニックにつながります。
    • 異なる解法アプローチの学習: 問題の条件から物理的な関係式を立て、未知数を代数的に解いていくアプローチを学ぶことができます。これにより、単に数値を代入するだけでなく、物理法則に基づいた論理的な思考を展開する訓練になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「弦の基本振動」と「うなり」です。2つの現象の基本法則を理解し、それらを結びつけることが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 弦の基本振動: 両端が固定された長さ \(l\) の弦が基本振動するとき、弦の長さが半波長に等しくなります (\(l = \lambda/2\))。
  2. 波の基本式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には \(v = f\lambda\) という関係が成り立ちます。
  3. うなりの公式: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に聞くと、音の強弱が周期的に変化する「うなり」が聞こえます。1秒あたりのうなりの回数 \(f_{\text{うなり}}\) は、2つの音の振動数の差の絶対値に等しくなります (\(f_{\text{うなり}} = |f_1 – f_2|\))。
  4. 弦の振動数と長さの関係: 弦を伝わる波の速さ \(v\) が一定(張力と線密度が一定)のとき、基本振動数 \(f\) は弦の長さ \(l\) に反比例します (\(f \propto 1/l\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)でうなりの公式を立てます。弦の振動数 \(f_1\) は \(200 \pm 8\) の2つの可能性があります。どちらが正しいかを、「弦を長くするとうなりが消えた」という情報から判断します。
  2. 次に、(2)で(1)で求めた振動数 \(f_1\) と、基本振動の条件からわかる波長 \(\lambda_1\) を使って、波の基本式 \(v = f_1\lambda_1\) から弦を伝わる波の速さ \(v\) を求めます。
  3. 最後に、(3)で「うなりが生じなかった」ときの弦の振動数 \(f_2\) を特定し、(2)で求めた速さ \(v\) を使って、そのときの弦の長さ \(l_2\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
おんさの振動数 \(200 \text{ Hz}\) と、弦の振動数 \(f_1\) との間で、毎秒8回のうなりが生じたという事実から、うなりの公式を適用します。これにより、\(f_1\) の候補が2つに絞られます。次に、「弦を少し長くしたら、うなりが生じなくなった(つまり弦の振動数が \(200 \text{ Hz}\) になった)」という重要な情報を利用します。弦の長さと振動数の関係(長くすると振動数は低くなる)を考えることで、元の \(f_1\) が \(200 \text{ Hz}\) より高かったのか低かったのかを判断し、正しい値を特定します。

この設問における重要なポイント

  • うなりの公式: \(f_{\text{うなり}} = |f_1 – f_{\text{おんさ}}|\) より、\(8 = |f_1 – 200|\) という関係が成り立ちます。
  • 振動数候補の特定: 上の式から、\(f_1 = 200 + 8 = 208 \text{ Hz}\) または \(f_1 = 200 – 8 = 192 \text{ Hz}\) の2つの可能性が考えられます。
  • 弦の性質: 弦の基本振動数 \(f\) は、弦の長さ \(l\) に反比例します (\(f \propto 1/l\))。つまり、弦を「長くする」と振動数は「小さく」なります。
  • 大小関係の判断: 弦を長くした結果、振動数が \(200 \text{ Hz}\) になったのですから、長くする前の振動数 \(f_1\) は \(200 \text{ Hz}\) よりも高かったはずです。

具体的な解説と立式
おんさの振動数を \(f_{\text{おんさ}} = 200 \text{ Hz}\)、弦の長さを \(l_1 = 1.00 \text{ m}\) としたときの弦の振動数を \(f_1\) とします。
1秒間に8回のうなりが生じたので、うなりの公式より、
$$ |f_1 – f_{\text{おんさ}}| = 8 $$
$$ |f_1 – 200| = 8 \quad \cdots ① $$
この式を満たす \(f_1\) は、
$$ f_1 = 200 + 8 = 208 \text{ Hz} $$
または
$$ f_1 = 200 – 8 = 192 \text{ Hz} $$
次に、弦の長さ \(l\) を長くすると、うなりが生じなくなったとあります。うなりが生じないのは、弦の振動数が \(f_{\text{おんさ}} = 200 \text{ Hz}\) になったときです。
弦の基本振動数 \(f\) は、弦を伝わる波の速さ \(v\) と弦の長さ \(l\) を用いて \(f = v/(2l)\) と表されるため、\(v\) が一定ならば \(f\) は \(l\) に反比例します。
したがって、弦の長さ \(l\) を「長く」すると、振動数 \(f\) は「小さく」なります。
この変化によって、弦の振動数が \(f_1\) から \(200 \text{ Hz}\) になったのですから、\(f_1\) は \(200 \text{ Hz}\) よりも大きかったはずです。
$$ f_1 > 200 \text{ Hz} $$
よって、2つの候補のうち、この条件を満たすのは \(208 \text{ Hz}\) です。

使用した物理公式

  • うなりの公式: \(f_{\text{うなり}} = |f_1 – f_2|\)
  • 弦の基本振動数と長さの関係: \(f \propto 1/l\)
計算過程

①式より、\(f_1 = 208 \text{ Hz}\) または \(f_1 = 192 \text{ Hz}\)。

問題の条件「弦を長くするとうなりが消えた」から、弦の振動数が減少して \(200 \text{ Hz}\) になったことがわかる。
したがって、元の振動数 \(f_1\) は \(200 \text{ Hz}\) より大きい。
よって、
$$ f_1 = 208 \text{ Hz} $$

計算方法の平易な説明

うなりが毎秒8回聞こえるということは、弦の音とおんさの音の振動数の差が8 Hzだということです。おんさが200 Hzなので、弦の音は208 Hzか192 Hzのどちらかです。ここで、「弦を少し長くしたらうなりが消えた」というヒントを使います。弦は、ギターの弦をイメージすると分かりやすいですが、長くすると低い音(振動数が小さい)が出ます。つまり、弦を長くして振動数が小さくなったら、おんさと同じ200 Hzになった、ということです。ということは、元の弦の音は200 Hzより高かったはずなので、208 Hzが正解だと分かります。

結論と吟味

\(l=1.00 \text{ m}\) のときの弦の振動数は \(208 \text{ Hz}\) です。論理的な推論によって、2つの可能性から1つに絞り込むことができました。

解答 (1) \(208 \text{ Hz}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
弦を伝わる波の速さ \(v\) を求めます。速さ \(v\) は、波の基本式 \(v=f\lambda\) で計算できます。(1)で弦の振動数 \(f_1 = 208 \text{ Hz}\) が分かりました。あとは波長 \(\lambda_1\) が分かれば計算できます。弦の振動は「基本振動」であるという条件から、弦の長さ \(l_1 = 1.00 \text{ m}\) と波長 \(\lambda_1\) の関係を導き、速さを計算します。

この設問における重要なポイント

  • 基本振動の条件: 両端が固定された弦の基本振動では、弦全体で腹が1つの定常波ができます。このとき、弦の長さ \(l\) は、波長の半分に等しくなります (\(l = \lambda/2\))。
  • 波の基本式: \(v = f\lambda\) を使います。

具体的な解説と立式
弦の長さが \(l_1 = 1.00 \text{ m}\) のとき、弦は基本振動しています。
このときの波長を \(\lambda_1\) とすると、基本振動の条件から、
$$ l_1 = \frac{\lambda_1}{2} \quad \cdots ② $$
弦を伝わる波の速さ \(v\) は、(1)で求めた振動数 \(f_1 = 208 \text{ Hz}\) と、この波長 \(\lambda_1\) を用いて、波の基本式から求められます。
$$ v = f_1 \lambda_1 \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 弦の基本振動の条件: \(l = \lambda/2\)
  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
計算過程

②式から波長 \(\lambda_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_1 &= 2l_1 \\[2.0ex]
&= 2 \times 1.00 \\[2.0ex]
&= 2.00 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
この値を③式に代入して、速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= 208 \times 2.00 \\[2.0ex]
&= 416 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

弦が「基本振動」で震えるとき、その形はきれいな弧を1つ描きます。このとき、弦の長さは、波の「波長」のちょうど半分になります。弦の長さが \(1.00 \text{ m}\) なので、波長は \(2.00 \text{ m}\) です。(1)でこのときの振動数は \(208 \text{ Hz}\) だと分かっているので、「速さ = 振動数 × 波長」の公式に当てはめれば、弦を伝わる波の速さが計算できます。

結論と吟味

弦を伝わる波の速さは \(416 \text{ m/s}\) です。弦の張力と線密度が一定なので、この速さは弦の長さを変えても一定です。この値は(3)の計算で使います。

解答 (2) \(416 \text{ m/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「うなりが生じなかった」ときの弦の長さ \(l_2\) を求めます。うなりが生じないということは、弦の振動数 \(f_2\) がおんさの振動数 \(200 \text{ Hz}\) と等しくなったことを意味します。弦を伝わる波の速さ \(v\) は(2)で求めた \(416 \text{ m/s}\) で一定です。この速さ \(v\) と、目標とする振動数 \(f_2 = 200 \text{ Hz}\) から、そのときの波長 \(\lambda_2\) を計算し、最後に基本振動の条件を使って弦の長さ \(l_2\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • うなりゼロの条件: 弦の振動数 \(f_2\) がおんさの振動数 \(200 \text{ Hz}\) に等しい。
  • 不変量: 弦を伝わる波の速さ \(v\) は、(2)で求めた値のままである。
  • 逆算: (2)とは逆に、\(v\) と \(f_2\) から \(\lambda_2\) を求め、\(\lambda_2\) から \(l_2\) を求めるという手順をたどります。

具体的な解説と立式
うなりが生じなかったとき、弦の振動数 \(f_2\) はおんさの振動数に等しくなります。
$$ f_2 = 200 \text{ Hz} $$
このときの弦の長さを \(l_2\)、波長を \(\lambda_2\) とします。
弦を伝わる波の速さ \(v = 416 \text{ m/s}\) は一定なので、波の基本式より、
$$ v = f_2 \lambda_2 \quad \cdots ④ $$
また、このときも基本振動しているので、
$$ l_2 = \frac{\lambda_2}{2} \quad \cdots ⑤ $$
④式から \(\lambda_2\) を求め、⑤式に代入することで \(l_2\) を計算します。

使用した物理公式

  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
  • 弦の基本振動の条件: \(l = \lambda/2\)
計算過程

④式を \(\lambda_2\) について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{v}{f_2} \\[2.0ex]
&= \frac{416}{200} \\[2.0ex]
&= 2.08 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
この値を⑤式に代入して、弦の長さ \(l_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
l_2 &= \frac{2.08}{2} \\[2.0ex]
&= 1.04 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

うなりが消えたとき、弦の振動数は、おんさと同じ \(200 \text{ Hz}\) になっています。弦を伝わる波の速さは、(2)で計算した \(416 \text{ m/s}\) のまま変わりません。「波長 = 速さ ÷ 振動数」の公式から、このときの波長は \(2.08 \text{ m}\) だと分かります。弦の長さは、この波長の半分なので、\(1.04 \text{ m}\) となります。

結論と吟味

うなりが生じなかったときの弦の長さは \(1.04 \text{ m}\) です。この値は、元の長さ \(1.00 \text{ m}\) よりも長くなっており、「弦を少し長くして」という問題文の記述と一致しています。したがって、結果は妥当です。

別解: 弦を伝わる波の速さの公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
弦の基本振動数 \(f\) は、弦の長さ \(l\)、張力 \(S\)、線密度 \(\rho\) を用いて \(f = \frac{1}{2l}\sqrt{\frac{S}{\rho}}\) と表せます。この問題では張力 \(S\) と線密度 \(\rho\) が一定なので、弦を伝わる波の速さ \(v = \sqrt{S/\rho}\) も一定です。したがって、\(f = v/(2l)\) より、\(fl = v/2 = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。この関係を利用して、(1)の状態と(3)の状態で \(fl\) の値が等しいことから、(3)の弦の長さを先に求め、その後で(2)の速さを計算します。

この設問における重要なポイント

  • 弦の振動数の公式: \(f = \displaystyle\frac{1}{2l}\sqrt{\frac{S}{\rho}}\) を利用します。
  • 不変量の発見: 張力 \(S\) と線密度 \(\rho\) が一定であることから、\(v = \sqrt{S/\rho}\) が一定であり、さらに \(fl\) も一定であることを見抜きます。
  • 比の計算: \(f_1 l_1 = f_2 l_2\) という関係式を立てて、未知数を求めます。

具体的な解説と立式
弦の張力を \(S\)、線密度を \(\rho\) とすると、弦を伝わる波の速さ \(v\) は \(v = \sqrt{S/\rho}\) で与えられます。
弦の基本振動数 \(f\) は \(f = v/(2l)\) なので、
$$ f = \frac{1}{2l}\sqrt{\frac{S}{\rho}} $$
この問題では \(S\) と \(\rho\) が一定なので、\(v\) も一定です。したがって、\(f\) と \(l\) の間には次の関係が成り立ちます。
$$ fl = \frac{v}{2} \quad \cdots ⑥ $$
この \(fl\) の値は一定となります。この関係を、(1)の状態(振動数 \(f_1\), 長さ \(l_1\))と、(3)の状態(振動数 \(f_2\), 長さ \(l_2\))に適用します。
$$ f_1 l_1 = f_2 l_2 \quad \cdots ⑦ $$

使用した物理公式

  • 弦の基本振動数の公式: \(f = \displaystyle\frac{1}{2l}\sqrt{\frac{S}{\rho}}\)
  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
計算過程

まず、(3)の弦の長さ \(l_2\) を求めます。

(1)より \(f_1 = 208 \text{ Hz}\), \(l_1 = 1.00 \text{ m}\)。

(3)の状態では、うなりが消えたので \(f_2 = 200 \text{ Hz}\)。

これらの値を⑦式に代入します。
$$
\begin{aligned}
208 \times 1.00 &= 200 \times l_2 \\[2.0ex]
l_2 &= \frac{208}{200} \\[2.0ex]
&= 1.04 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
これで(3)の答えが求まりました。

次に、(2)の波の速さ \(v\) を求めます。

⑥式 \(fl = v/2\) を使います。(1)の状態の値を使っても、(3)の状態の値を使っても同じ結果になります。ここでは(1)の状態の値を使います。
$$
\begin{aligned}
f_1 l_1 &= \frac{v}{2} \\[2.0ex]
v &= 2 f_1 l_1 \\[2.0ex]
&= 2 \times 208 \times 1.00 \\[2.0ex]
&= 416 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
これで(2)の答えも求まりました。

計算方法の平易な説明

弦の音の高さ(振動数)は、弦の長さに反比例します。つまり、「振動数 × 長さ」の値は、弦の材質や張り具合が同じなら、常に一定になります。この性質を使うと、(1)のときの「\(208 \text{ Hz} \times 1.00 \text{ m}\)」という値と、うなりが消えた(3)のときの「\(200 \text{ Hz} \times l_2\)」という値が等しくなるはずです。この等式から、うなりが消えたときの弦の長さ \(l_2\) を直接計算できます。その後、この関係を使って波の速さを計算します。

結論と吟味

(3)の長さは \(1.04 \text{ m}\)、(2)の速さは \(416 \text{ m/s}\) となり、主たる解法と完全に一致しました。この別解は、問題の背後にある \(fl=\text{一定}\) という物理法則に気づくことで、より見通しよく、また異なる順序で問題を解くことができることを示しています。

解答 (3) \(1.04 \text{ m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • うなりの公式と大小関係の判断:
    • 核心: 1秒あたりのうなりの回数は、2つの音源の振動数の差の絶対値 \(|f_1 – f_2|\) で与えられます。これにより振動数の候補が2つに絞られますが、どちらが正しいかを判断するために、「弦を長くすると振動数が下がる」という物理的な性質を論理的に適用することが、この問題最大のポイントです。
    • 理解のポイント: \(f_1\) の候補が \(208 \text{ Hz}\) と \(192 \text{ Hz}\) のとき、「弦を長くする(\(l \uparrow\))と振動数が下がる(\(f \downarrow\))」ことで \(200 \text{ Hz}\) になった、という事実から、元の \(f_1\) は \(200 \text{ Hz}\) より高かった、と結論付ける思考プロセスが重要です。
  • 弦の基本振動:
    • 核心: 両端が固定された長さ \(l\) の弦が基本振動するとき、その波長 \(\lambda\) は弦の長さの2倍、\(\lambda = 2l\) となります。これは、弦全体に腹が1つの定常波が形成されることに対応します。
    • 理解のポイント: この関係式と波の基本式 \(v=f\lambda\) を組み合わせることで、弦の振動数 \(f = v/(2l)\) という、弦の振動を扱う上での基本公式が導かれます。
  • 物理量の不変性:
    • 核心: 弦の「張力」と「線密度」が一定に保たれているため、弦を伝わる波の速さ \(v\) は、弦の長さを変えても一定である、という点が重要です。
    • 理解のポイント: この \(v\) が不変であるからこそ、(2)で求めた速さを(3)で使うことができ、また別解のように \(fl = v/2 = \text{一定}\) という関係式を導くことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 気柱の共鳴とうなり: 開管や閉管の長さを変えながらおんさと共鳴させ、うなりを観測する問題。弦の振動が気柱の共鳴に変わっただけで、「管を長くすると基本振動数が下がる」という性質は同じであり、全く同様の論理で解くことができます。
    • ドップラー効果とうなり: 近づいてくる音源(救急車など)の音とおんさを同時に鳴らし、うなりを観測する問題。ドップラー効果によって音源の振動数が変化しますが、うなりの公式と組み合わせることで、音源の速さなどを求めることができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. うなりの情報から振動数の候補を挙げる: まず \(f_{\text{うなり}} = |f_1 – f_2|\) の式から、未知の振動数の候補を2つ(\(f_2 \pm f_{\text{うなり}}\))特定します。
    2. 大小関係を決定するヒントを探す: 問題文の中から「〜を長く(大きく)したら」「〜を短く(小さく)したら」うなりが「消えた(減った、増えた)」という記述を探します。これが、2つの候補から正しい方を選ぶための決定的なヒントになります。
    3. 変化させた物理量と振動数の関係を考える: 「弦を長くする \(\rightarrow\) \(f\) は下がる」「気柱を長くする \(\rightarrow\) \(f\) は下がる」「温度を上げる \(\rightarrow\) 音速 \(v\) が上がり、\(f=v/\lambda\) なので \(f\) は上がる」など、操作と振動数の関係を正しく把握します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 振動数の大小関係の判断ミス:
    • 誤解: 「弦を長くすると振動数が下がる」という関係を逆に考えたり、うっかり忘れたりして、\(192 \text{ Hz}\) を選んでしまう。
    • 対策: ギターやバイオリンなどの弦楽器をイメージしましょう。「弦が短い(ハイポジションを押さえる)と高い音」「弦が長い(開放弦)と低い音」という具体的なイメージを持つと、関係を間違えにくくなります。
  • 波長と弦の長さの関係の誤解:
    • 誤解: 基本振動の条件を \(l=\lambda\) と勘違いしてしまう。
    • 対策: 定常波の図を必ず描く習慣をつけましょう。両端が節となる基本振動の図を描けば、弦の長さ \(l\) が半波長 \(\lambda/2\) に等しいことは一目瞭然です。
  • 不変量の見落とし:
    • 誤解: (3)で弦の長さを変えたので、波の速さ \(v\) も変わるのではないかと考えてしまう。
    • 対策: 弦を伝わる波の速さ \(v\) は、弦の性質(張力と線密度)だけで決まります。問題文に「張力は一定に保たれている」と明記されていることを見落とさないようにしましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 数直線上での振動数の変化をイメージする: 横軸に振動数をとり、おんさの \(200 \text{ Hz}\) を中心に置きます。うなりの情報から、弦の振動数 \(f_1\) は \(192 \text{ Hz}\) か \(208 \text{ Hz}\) の点にプロットされます。次に、「弦を長くすると振動数が下がる」という変化を、数直線上を左に動く矢印で表現します。この矢印の動きによって \(200 \text{ Hz}\) の点に到達するためには、スタート地点は \(208 \text{ Hz}\) でなければならない、と視覚的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • (2)と(3)で弦の長さが変わるので、それぞれの状態について基本振動の定常波の図を描くと良いでしょう。(3)の弦は(2)より少し長く描き、その結果、波長 \(\lambda\) も長くなっていることを図で確認すると、理解が深まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • うなりの公式 \(f_{\text{うなり}} = |f_1 – f_2|\):
    • 選定理由: 問題文に「うなり」というキーワードが明確にあり、その回数が与えられているため、この現象を記述する基本公式を選択します。
    • 適用根拠: 2つの波の重ね合わせによって、振幅が周期的に変化する現象の周期(の逆数)を数式化したものです。
  • 弦の基本振動の条件 \(\lambda = 2l\):
    • 選定理由: 問題文に「弦」「両端が固定」「基本音」というキーワードがあり、弦の定常波の問題であることがわかるため、その最も基本的な状態を表すこの公式を選択します。
    • 適用根拠: 両端が動けないという境界条件を満たす定常波のうち、最も波長が長く、振動数が低い(=基本振動)モードの波形から導かれる幾何学的な関係です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 弦の振動数の特定:
    • 戦略: うなりの情報から振動数の候補を2つ出し、弦の長さと振動数の関係を使って正しい方を特定する。
    • フロー: ①うなりの公式 \(|f_1 – 200| = 8\) を立てる → ②\(f_1\) の候補として \(208 \text{ Hz}\) と \(192 \text{ Hz}\) を得る → ③「弦を長く(\(l\uparrow\))すると振動数が下がる(\(f\downarrow\))」ことで \(200 \text{ Hz}\) になった、という事実を適用 → ④\(f_1 > 200\) であると判断し、\(f_1 = 208 \text{ Hz}\) を選択。
  2. (2) 波の速さの計算:
    • 戦略: (1)で求めた振動数と、基本振動の条件から求まる波長を、波の基本式に代入する。
    • フロー: ①基本振動の条件 \(\lambda_1 = 2l_1\) から波長 \(\lambda_1\) を計算 → ②波の基本式 \(v = f_1 \lambda_1\) に数値を代入し、\(v\) を計算。
  3. (3) 新しい弦の長さの計算:
    • 戦略: うなりゼロの条件から目標の振動数を特定し、不変である速さ \(v\) を使って、波長、弦の長さを逆算する。
    • フロー: ①うなりゼロより \(f_2 = 200 \text{ Hz}\) → ②速さ \(v\) は(2)の値で一定であることを確認 → ③波の基本式 \(\lambda_2 = v/f_2\) から新しい波長 \(\lambda_2\) を計算 → ④基本振動の条件 \(l_2 = \lambda_2/2\) から弦の長さ \(l_2\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 計算しやすい順序を選ぶ: 別解で示したように、\(fl = \text{一定}\) という関係に気づけば、(3)の長さを先に \(l_2 = f_1 l_1 / f_2 = 208 \times 1.00 / 200 = 1.04 \text{ m}\) と簡単に計算できます。このように、問題の構造を見抜くことで、計算が楽になることがあります。
  • 暗算と筆算の使い分け: \(208 \times 2\) や \(416 / 200\)、\(208/2\) のような計算は、暗算でも可能ですが、試験本番では焦りからミスをしがちです。少しでも不安なら、手間を惜しまずに筆算で検算する習慣をつけましょう。
  • 有効数字の意識: この問題では \(1.00 \text{ m}\) や \(200 \text{ Hz}\) など、有効数字3桁で与えられている数値が多いです。最終的な答えも、特に指示がなければ有効数字を揃えるのが望ましいです(この問題の解答はそうなっています)。計算途中では多めの桁数で計算し、最後に四捨五入しましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 振動数: \(f_1 = 208 \text{ Hz}\) は、おんさの \(200 \text{ Hz}\) と近い値であり、うなりが生じる状況として妥当です。
    • (3) 弦の長さ: \(l_2 = 1.04 \text{ m}\) は、元の長さ \(l_1 = 1.00 \text{ m}\) より長くなっています。これは「弦を少し長くして」という問題文の操作と一致しており、矛盾がありません。
  • 定性的な関係との照合:
    • 弦の長さが \(1.00 \text{ m} \rightarrow 1.04 \text{ m}\) と長くなったとき、振動数は \(208 \text{ Hz} \rightarrow 200 \text{ Hz}\) と下がっています。これは「弦を長くすると振動数が下がる」という物理法則と完全に一致しています。このように、複数の設問の答えを並べて、それらの関係が物理的に正しいかを確認する習慣は非常に有効です。
  • 別解との比較:
    • 主たる解法と別解は、(2)と(3)を解く順序が逆でした。しかし、どちらのアプローチでも同じ答えにたどり着いたことは、両方の解法の正しさと、計算の正確さを裏付ける強力な証拠となります。
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314 弦の振動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一端が固定され、もう一端がおもりで引かれた弦に生じる定常波(定在波)を扱います。弦の振動数がおもりの質量(張力)や弦の長さ、そして定常波のモード(腹の数)によってどのように決まるかを理解しているかが問われます。
この問題の核心は、「弦を伝わる波の速さの公式」と「定常波の波長と弦の長さの関係」を正しく組み合わせ、各設問の条件に合わせて物理量を計算することです。

与えられた条件
  • 弦の振動部分の長さ: \(L\)
  • 弦の線密度(単位長さあたりの質量): \(\rho\)
  • 重力加速度: \(g\)
  • 状態1: 質量 \(m\) のおもりを吊るし、腹が2つの定常波を作る。
  • 状態2: 質量 \(M\) のおもりを取り替え、腹が1つの定常波を作る。このとき、振動数は状態1と変わらない。
問われていること
  • (1) 弦を伝わる波の速さ \(v\) を、\(m, g, \rho\) を用いて表す。
  • (2) 状態1(腹が2つ)のときの定常波の波長 \(\lambda_1\) を、\(L\) を用いて表す。
  • (3) 状態1のときの振動数 \(f_1\) を、\(m, g, \rho, L\) を用いて表す。
  • (4) 状態2のおもりの質量 \(M\) を、\(m\) を用いて表す。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(4)の別解: 弦の振動数の公式から直接関係を導く解法
      • 模範解答が、2つの状態(腹が2つ、腹が1つ)の振動数をそれぞれ計算し、それらが等しいとおいて解くのに対し、別解では弦の振動数の一般式 \(f_n = \frac{n}{2L}\sqrt{\frac{S}{\rho}}\) を用いて、振動数 \(f\) が一定という条件の下で、腹の数 \(n\) と張力 \(S\)(おもりの質量)の間の関係を直接導き出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の体系的理解: 弦の振動を、基本振動だけでなくn倍振動まで含めた一般式で捉えることで、より体系的で深い理解が得られます。
    • 問題構造の洞察: 「振動数が一定」という条件が、物理量の間にどのような関係を要求するのかを直接的に見抜く力を養います。この問題では、\(n \propto \sqrt{M}\) という関係が導かれ、問題の本質的な構造が明確になります。
    • 計算の効率化: 物理法則から直接、変数の関係式を導くことで、中間的な計算を省略し、より少ないステップで結論に到達できる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「弦の定常波」です。弦の張力、波の速さ、波長、振動数の関係を正確に把握することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 弦を伝わる波の速さ: 速さ \(v\) は、弦の張力 \(S\) と線密度 \(\rho\) を用いて \(v = \sqrt{S/\rho}\) と表されます。
  2. 張力の決定: この装置では、弦の張力 \(S\) は滑車に吊るされたおもりの重力に等しくなります。
  3. 定常波の波長: 弦にできる定常波では、両端の固定点(壁と支柱)が節になります。節と節の間の距離は、波長の半分 (\(\lambda/2\)) に等しくなります。
  4. 波の基本式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には \(v = f\lambda\) という関係が成り立ちます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)でおもりの重力が弦の張力になることを理解し、弦を伝わる波の速さの公式に代入します。
  2. 次に、(2)で腹が2つの定常波の様子を図示し、弦の長さ \(L\) と波長 \(\lambda_1\) の関係を求めます。
  3. (3)では、(1)で求めた速さ \(v\) と(2)で求めた波長 \(\lambda_1\) を、波の基本式 \(f_1 = v/\lambda_1\) に代入して振動数を計算します。
  4. 最後に、(4)で腹が1つの場合の振動数 \(f_2\) を、新しいおもりの質量 \(M\) を使って同様に表し、「振動数が変わらない」(\(f_1=f_2\)) という条件から \(M\) を求めます。

問(1)

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