「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第15章】基本例題~基本問題283

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基本例題

基本例題53 正弦波の式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 角振動数 \(\omega\) と速さ \(v\) を用いる解法
      • 模範解答が与式を \(y=A\sin 2\pi(\displaystyle\frac{t}{T}-\displaystyle\frac{x}{\lambda})\) の形に変形して周期 \(T\) と波長 \(\lambda\) を求めるのに対し、別解では与式を \(y=A\sin\omega(t-\displaystyle\frac{x}{v})\) の形と直接比較して角振動数 \(\omega\) と速さ \(v\) を先に求め、そこから他の量を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 角振動数 \(\omega\) の物理的意味(\(1\) 秒あたりの位相の変化量)と、それが周期 \(T\) や振動数 \(f\) とどう結びつくか (\(\omega=2\pi f = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)) の理解が深まります。
    • 解法の多様性: 波の式の表現には複数の基本形があることを認識し、与えられた式の形に応じて最も効率的な形を選択する能力が養われます。
    • 思考の効率化: 今回の問題のように、与式が \(\sin \omega(t – \dots)\) の形に近い場合、この別解のアプローチの方が式変形が少なく、より直感的に解くことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「正弦波の式の解釈」です。与えられた波の式から、振幅、周期、波長、速さといった波の基本的な物理量を読み取る能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 正弦波の基本式: 波の式にはいくつかの表現形式があり、代表的なものは \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) や \(y = A \sin \omega \left( t – \displaystyle\frac{x}{v} \right)\) です。これらの式の各パラメータが何を表すかを正確に理解していることが重要です。
  2. 係数比較: 与えられた式を基本式の一つと同じ形に変形し、各項の係数を比較することで、未知の物理量を特定します。
  3. 波の基本関係式: 周期 \(T\) と振動数 \(f\) の関係 (\(f=\displaystyle\frac{1}{T}\))、波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の関係 (\(v=f\lambda\)) を使いこなせること。
  4. 波の進行方向: 式中の \(t\) と \(x\) の項の符号で判断します。\(t – \displaystyle\frac{x}{v}\) のように符号が異なる場合は \(x\) 軸の正の向き、\(t + \displaystyle\frac{x}{v}\) のように符号が同じ場合は \(x\) 軸の負の向きに進みます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた波の式を、よく知られた基本式の形に変形します。そして、振幅や \(t\), \(x\) の係数を比較することで、波の物理量を一つずつ特定していきます。
  2. (2)では、(1)で得られた波の式に、原点の条件である \(x=0\) を代入して、原点の媒質の振動の様子を表す式を導きます。
  3. (3)では、与えられた波の式に、指定された時刻 \(t\) と位置 \(x\) の値を代入し、その瞬間の変位を具体的に計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
与えられた波の式 \(y = 1.0 \sin 50\pi \left( t – \displaystyle\frac{x}{10} \right)\) と、正弦波の基本式 \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) を比較できるように、与式を変形することが出発点です。具体的には、\(\sin\) の中身を \(2\pi(\dots)\) の形にすることで、周期 \(T\) と波長 \(\lambda\) に対応する部分が明確になります。
この設問における重要なポイント

  • 与えられた式を基本式の形に合わせるための式変形(特に \(50\pi\) を \(2\pi \times 25\) と見る)。
  • 基本式 \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) の各文字(\(A, T, \lambda\))が何を表すかを理解していること。
  • \(t\) の係数が \(\displaystyle\frac{1}{T}\) に、\(x\) の係数が \(\displaystyle\frac{1}{\lambda}\) に対応することを見抜く。
  • \(t\) と \(x\) の項の符号が異なるとき、波は \(x\) 軸の正の向きに進むことを知っていること。

具体的な解説と立式
与えられた波の式は、
$$ y = 1.0 \sin 50\pi \left( t – \frac{x}{10} \right) \quad \cdots ① $$
です。
この式を、正弦波の基本式 \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) と比較するために、①式の \(\sin\) の中身を \(2\pi(\dots)\) の形に変形します。
\(50\pi = 2\pi \times 25\) なので、これを①式に代入して括弧の中を展開します。
$$
\begin{aligned}
y &= 1.0 \sin \left\{ 2\pi \cdot 25 \left( t – \frac{x}{10} \right) \right\} \\[2.0ex]
&= 1.0 \sin 2\pi \left( 25t – \frac{25}{10}x \right) \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
この式②と、基本式
$$ y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right) \quad \cdots ③ $$
を比較します。

使用した物理公式

  • 正弦波の変位の式: \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\)
  • 周期と振動数の関係: \(f = \displaystyle\frac{1}{T}\)
  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
計算過程

式②と式③を比較して、各物理量を求めます。
まず、振幅 \(A\) は \(\sin\) の前の係数なので、
$$ A = 1.0 \, \text{[m]} $$
次に、\(t\) の係数を比較すると、\(\displaystyle\frac{1}{T} = 25\) となります。よって、周期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{25} \\[2.0ex]
&= 0.040 \, \text{[s]}
\end{aligned}
$$
続いて、\(x\) の係数を比較すると、\(\displaystyle\frac{1}{\lambda} = \displaystyle\frac{25}{10}\) となります。よって、波長 \(\lambda\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{10}{25} \\[2.0ex]
&= 0.40 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
振動数 \(f\) は周期 \(T\) の逆数なので、
$$ f = \frac{1}{T} = 25 \, \text{[Hz]} $$
波の速さ \(v\) は \(v=f\lambda\) の関係式から、
$$
\begin{aligned}
v &= f\lambda \\[2.0ex]
&= 25 \times 0.40 \\[2.0ex]
&= 10 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
最後に、波の進行方向は、式の形が \(t – \displaystyle\frac{x}{\lambda}\) のように、\(t\) の項と \(x\) の項の符号が異なっているため、\(x\) 軸の正の向きに進みます。

計算方法の平易な説明

波の式は、波の性質をすべて詰め込んだ「設計図」のようなものです。この設計図を読み解くには、標準的なフォーマットに合わせる必要があります。
今回は、与えられた式 \(y = 1.0 \sin 50\pi(t – x/10)\) を、標準フォーマットの一つである \(y = A \sin 2\pi (t/T – x/\lambda)\) と見比べられるように変形します。
まず、\(50\pi\) を \(2\pi \times 25\) と分解して、\(25\) をカッコの中に入れると、\(y = 1.0 \sin 2\pi (25t – 25x/10)\) となります。
この式と標準フォーマットを並べて見比べると、
・振幅 \(A\) は \(1.0\)
・\(t\) のお供である \(1/T\) が \(25\) に対応
・\(x\) のお供である \(1/\lambda\) が \(25/10\) に対応
ということが分かります。ここから、\(T\) や \(\lambda\) が計算でき、さらに振動数 \(f\) や速さ \(v\) も芋づる式に求まります。

結論と吟味

この波は、振幅 \(A=1.0\) m, 周期 \(T=0.040\) s, 波長 \(\lambda=0.40\) m, 振動数 \(f=25\) Hz, 速さ \(v=10\) m/s で、\(x\) 軸の正の向きに進む波であることがわかります。各物理量の値は、基本的な関係式 \(f=\displaystyle\frac{1}{T}\) や \(v=f\lambda\) を満たしており、整合性が取れています。

解答 (1) 振幅 \(A=1.0\) m, 周期 \(T=0.040\) s, 波長 \(\lambda=0.40\) m, 振動数 \(f=25\) Hz, 速さ \(v=10\) m/s, \(x\) 軸の正の向き
別解: 角振動数 \(\omega\) と速さ \(v\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
正弦波のもう一つの基本式 \(y = A \sin \omega \left( t – \displaystyle\frac{x}{v} \right)\) を利用します。与えられた式 \(y = 1.0 \sin 50\pi \left( t – \displaystyle\frac{x}{10} \right)\) は、この基本式の形に非常によく似ています。そのため、式を大きく変形することなく、直接比較することで角振動数 \(\omega\) と速さ \(v\) を先に求めることができます。その後、\(\omega\) と \(v\) から他の物理量(\(T, f, \lambda\))を導出します。
この設問における重要なポイント

  • 基本式 \(y = A \sin \omega \left( t – \displaystyle\frac{x}{v} \right)\) を知っていること。
  • 角振動数 \(\omega\) と振動数 \(f\)、周期 \(T\) の関係式 (\(\omega = 2\pi f = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)) を理解していること。
  • 与式と基本式を直接比較して、\(A, \omega, v\) を読み取る。

具体的な解説と立式
与えられた波の式は、
$$ y = 1.0 \sin 50\pi \left( t – \frac{x}{10} \right) \quad \cdots ① $$
です。
この式を、正弦波のもう一つの基本式
$$ y = A \sin \omega \left( t – \frac{x}{v} \right) \quad \cdots ④ $$
と直接比較します。

使用した物理公式

  • 正弦波の変位の式: \(y = A \sin \omega \left( t – \displaystyle\frac{x}{v} \right)\)
  • 角振動数と振動数・周期の関係: \(\omega = 2\pi f = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
計算過程

式①と式④を比較して、各物理量を求めます。
まず、振幅 \(A\) は \(\sin\) の前の係数なので、
$$ A = 1.0 \, \text{[m]} $$
次に、括弧の前の係数を比較すると、角振動数 \(\omega\) がわかります。
$$ \omega = 50\pi \, \text{[rad/s]} $$
括弧の中の \(x\) の項を比較すると、波の速さ \(v\) がわかります。
$$ \frac{x}{v} = \frac{x}{10} \quad \text{より} \quad v = 10 \, \text{[m/s]} $$
次に、これらの値から残りの物理量を求めます。
角振動数 \(\omega\) と振動数 \(f\) の関係 \(\omega = 2\pi f\) より、\(50\pi = 2\pi f\) となります。よって、振動数 \(f\) は、
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{50\pi}{2\pi} \\[2.0ex]
&= 25 \, \text{[Hz]}
\end{aligned}
$$
周期 \(T\) は振動数 \(f\) の逆数なので、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{25} \\[2.0ex]
&= 0.040 \, \text{[s]}
\end{aligned}
$$
波長 \(\lambda\) は波の基本式 \(v=f\lambda\) より、
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{v}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{10}{25} \\[2.0ex]
&= 0.40 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
波の進行方向は、式の形が \(t – \displaystyle\frac{x}{v}\) であることから、\(x\) 軸の正の向きです。

計算方法の平易な説明

波の式の「設計図」には、実はいくつかのフォーマットがあります。今回の問題の式 \(y = 1.0 \sin 50\pi(t – x/10)\) は、\(y = A \sin \omega (t – x/v)\) というフォーマットにそっくりです。
このフォーマットと見比べると、
・振幅 \(A\) は \(1.0\)
・\(t\) の外にある係数 \(\omega\) が \(50\pi\) に対応
・\(x\) の分母にある速さ \(v\) が \(10\) に対応
ということが一目でわかります。
こうして先に \(A, \omega, v\) を特定してしまえば、あとは公式 \(\omega = 2\pi f\) や \(v=f\lambda\) を使って、残りの \(f, T, \lambda\) も簡単に計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。与えられた式の形によっては、こちらの基本式と比較する方が、計算の見通しが良く、素早く解ける場合があります。どちらの基本式も自在に使いこなせることが理想です。

解答 (1) 振幅 \(A=1.0\) m, 周期 \(T=0.040\) s, 波長 \(\lambda=0.40\) m, 振動数 \(f=25\) Hz, 速さ \(v=10\) m/s, \(x\) 軸の正の向き

問(2)

思考の道筋とポイント
「原点」とは、位置座標が \(x=0\) の点のことです。したがって、与えられた波の式に \(x=0\) を代入するだけで、原点の媒質の振動を表す式(単振動の式)が得られます。
この設問における重要なポイント

  • 「原点」が \(x=0\) を意味することを理解している。
  • 与えられた式に特定の値を代入するだけの単純な計算である。

具体的な解説と立式
原点における変位を求めるには、与えられた波の式
$$ y = 1.0 \sin 50\pi \left( t – \frac{x}{10} \right) $$
に、\(x=0\) [m] を代入します。

使用した物理公式

  • 与えられた波の式
計算過程

$$
\begin{aligned}
y &= 1.0 \sin 50\pi \left( t – \frac{0}{10} \right) \\[2.0ex]
&= 1.0 \sin 50\pi t
\end{aligned}
$$
これが原点の変位を表す式です。

計算方法の平易な説明

波の式は、どの場所(\(x\))の、どの時刻(\(t\))における揺れ(\(y\))でも計算できる万能な式です。今回は「原点」の揺れを知りたいので、場所の指定として \(x=0\) をこの万能な式に代入するだけです。

結論と吟味

得られた式 \(y = 1.0 \sin 50\pi t\) は、原点の媒質が振幅 \(1.0\) m、角振動数 \(50\pi\) rad/s で単振動していることを示しています。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(y = 1.0 \sin 50\pi t\)

問(3)

思考の道筋とポイント
特定の時刻 \(t\) と特定の位置 \(x\) における媒質の変位 \(y\) を求める問題です。(2)と同様に、与えられた波の式に指定された \(t=1.0\) s と \(x=5.0\) m を代入して、\(y\) の値を計算します。三角関数の計算、特に \(\sin(n\pi)\) (\(n\) は整数)の値が \(0\) になることを知っているかがポイントです。
この設問における重要なポイント

  • 与えられた式に、指定された \(t\) と \(x\) の値を代入する。
  • \(\sin(n\pi) = 0\) (\(n\) は整数)という三角関数の性質を正しく適用する。

具体的な解説と立式
時刻 \(t=1.0\) s, 位置 \(x=5.0\) m における変位 \(y\) を求めるには、与えられた波の式
$$ y = 1.0 \sin 50\pi \left( t – \frac{x}{10} \right) $$
に、\(t=1.0\) と \(x=5.0\) を代入します。

使用した物理公式

  • 与えられた波の式
  • 三角関数の性質: \(\sin(n\pi) = 0\) (\(n\) は整数)
計算過程

$$
\begin{aligned}
y &= 1.0 \sin 50\pi \left( 1.0 – \frac{5.0}{10} \right) \\[2.0ex]
&= 1.0 \sin 50\pi \left( 1.0 – 0.5 \right) \\[2.0ex]
&= 1.0 \sin 50\pi \left( 0.5 \right) \\[2.0ex]
&= 1.0 \sin (25\pi)
\end{aligned}
$$
ここで、\(25\) は整数なので、\(\sin(25\pi) = 0\) となります。したがって、
$$
\begin{aligned}
y &= 1.0 \times 0 \\[2.0ex]
&= 0 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(2)と同じように、波の万能式に、今回は時刻 \(t=1.0\)、場所 \(x=5.0\) という具体的な条件を代入します。計算を進めると、\(\sin(25\pi)\) という形が出てきます。\(\sin\) のグラフを思い出すと、\(\pi, 2\pi, 3\pi, \dots\) のように \(\pi\) の整数倍のところでは、必ず値が \(0\) になります。したがって、答えは \(0\) です。

結論と吟味

\(t=1.0\) s, \(x=5.0\) m の点では、媒質の変位は \(0\) m であることがわかりました。これは、その瞬間にその場所の媒質が振動のつり合いの位置を通過していることを意味します。計算結果は妥当です。

解答 (3) 0 m

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 正弦波の式の構造理解:
    • 核心: この問題の根幹は、正弦波を表す数式 \(y(x, t)\) が、波の物理的性質(振幅、周期、波長、速さ、進行方向)をどのように内包しているかを理解することです。
    • 理解のポイント:
      • 振幅 \(A\): \(\sin\) 関数の最大値が1であるため、変位 \(y\) の最大値、すなわち振幅は、\(\sin\) の前にかかる係数 \(A\) で決まります。
      • 位相部分: \(\sin\) の中身全体を「位相」と呼び、波の振動状態を表します。位相は時間 \(t\) と位置 \(x\) の関数です。
      • 進行方向: 位相部分が \((t – x/v)\) や \((t/\lambda – x/T)\) のように、\(t\) と \(x\) の項の符号が異なる場合、波は \(x\) 軸の正方向に進みます。これは「同じ位相を保つためには、時間 \(t\) が進むにつれて位置 \(x\) も大きくならなければならない」と解釈できます。逆もまた然りです。
      • 周期 \(T\) と波長 \(\lambda\): 位相が \(2\pi\) 変化すると波は1サイクル分進みます。時間 \(t\) が \(T\) だけ変化したとき、または位置 \(x\) が \(\lambda\) だけ変化したときに位相が \(2\pi\) 変化するように、基本式 \(y = A \sin 2\pi (\displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda})\) は作られています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 波の式を自分で立てる問題: 「振幅、周期、波長が与えられ、\(x\) 軸負の向きに進む波の式を立てよ」といった問題。基本式に各値を代入し、進行方向に応じて \(x\) の項の符号を `+` にするだけで対応できます。
    • 媒質の速度・加速度を求める問題: 媒質の変位 \(y(t)\) の式(特定の \(x\) での式)を時間 \(t\) で微分すると、媒質の速度 \(v_y(t)\) が求まります。さらにもう一度微分すると加速度 \(a_y(t)\) が求まります。「\(x=0\) における媒質の最大速度を求めよ」といった問題に応用できます。
    • 2つの波の干渉: 同じ媒質を伝わる2つの波の式 \(y_1, y_2\) が与えられた場合、重ね合わせの原理により、合成波の変位は \(y = y_1 + y_2\) となります。三角関数の和積公式などを用いて合成波の式を分析する問題につながります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 式の形を特定する: 与えられた波の式が、どの基本フォーマットに近いかを見極めます。\(y = A \sin 2\pi (\displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda})\) 型か、\(y = A \sin \omega (t – \displaystyle\frac{x}{v})\) 型か、あるいは \(y = A \sin (kx – \omega t)\) 型(\(k\) は波数 \(2\pi/\lambda\))か。
    2. \(2\pi\) を括り出す/中に入れる: 式の形を基本フォーマットに合わせるため、\(\sin\) の中身の係数を \(2\pi\) で括ったり、逆に括弧の外の係数を中に入れたりする変形が頻出します。
    3. 単位を確認する: 問題文で与えられている単位(例: cm, s)と、求めるべき物理量の単位(例: m, s)が一致しているかを確認し、必要であれば単位換算を行います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(t\) と \(x\) の係数の混同:
    • 誤解: \(y = A \sin(at – bx)\) という形の式を見て、\(a\) が周期、\(b\) が波長に関係すると直感的に思うものの、具体的にどう関係するかを混同してしまう。
    • 対策: 必ず基本式 \(y = A \sin 2\pi (\displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda})\) を書き出し、与式を \(y = A \sin 2\pi (\dots)\) の形に変形してから比較する、という手順を徹底します。この手順を踏めば、\(t\) の係数が \(\displaystyle\frac{1}{T}\)、\(x\) の係数が \(\displaystyle\frac{1}{\lambda}\) であることが明確になります。
  • 角振動数 \(\omega\) と振動数 \(f\) の混同:
    • 誤解: \(\omega\) と \(f\) を同じものとして扱ってしまう。
    • 対策: 「角」振動数は「角度」に関係する量で、単位は [rad/s]、「ただの」振動数は「回数」に関係する量で、単位は [Hz] = [1/s] であると区別します。関係式 \(\omega = 2\pi f\) は「1周は \(2\pi\) ラジアン」という定義から来ており、この式を常に意識することで混同を防げます。
  • 波の速さ \(v\) と媒質の速さ \(v_y\) の混同:
    • 誤解: 波の式から計算される \(v=f\lambda\) は、波形そのものが進む速さです。一方で、媒質(例: ロープの一部分)は、その場で上下(あるいは前後)に単振動しているだけで、波と一緒に進んではいません。この2つの「速さ」を混同してしまうことがあります。
    • 対策: 「波の速さ \(v\)」は定数(この問題では 10 m/s)ですが、「媒質の速さ \(v_y\)」は \(y\) を \(t\) で微分して求める、時間と共に変化する量であると明確に区別します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 基本式 \(y = A \sin 2\pi (\displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda})\) の選択:
    • 選定理由: (1)の主たる解法では、この基本式を選びました。なぜなら、問題で問われている物理量が周期 \(T\) と波長 \(\lambda\) であり、この式はそれらを直接パラメータとして含んでいるため、係数比較によって直感的に求められるからです。
    • 適用根拠: この式は、変位 \(y\) が時間 \(t\) に対して周期 \(T\) で、空間 \(x\) に対して周期 \(\lambda\) で、同じ形を繰り返すという正弦波の定義そのものを数学的に表現したものです。与えられた波も正弦波であるため、この形式で表現できるはずだ、という物理的要請に基づいて適用しています。
  • 基本式 \(y = A \sin \omega (t – \displaystyle\frac{x}{v})\) の選択:
    • 選定理由: (1)の別解では、この基本式を選びました。与えられた式 \(y = 1.0 \sin 50\pi (t – \displaystyle\frac{x}{10})\) が、この基本式の形に極めて近かったため、式変形の手間を最小限に抑え、速さ \(v\) を直接読み取れるというメリットがあったからです。
    • 適用根拠: この式は、\(x\) 軸の正の向きに速さ \(v\) で進む波形は、原点 (\(x=0\)) での振動 \(y(0, t) = f(t)\) に対して、位置 \(x\) での振動が時間 \(\displaystyle\frac{x}{v}\) だけ遅れること、すなわち \(y(x, t) = f(t – \displaystyle\frac{x}{v})\) で表されるという、波の伝播の普遍的な性質に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を書きながら計算する: (1)の計算で \(A=1.0\) [m], \(T=0.040\) [s] のように、各物理量を求めた段階で単位を明記する癖をつけましょう。これにより、自分が今何を計算しているのかが明確になり、ミスを防げます。
  • 括弧の展開・整理は慎重に: (1)の主たる解法のように、\(y = 1.0 \sin 50\pi (t – \displaystyle\frac{x}{10})\) を変形する際、\(50\pi\) を括弧の中の両方の項に正しく掛ける (\(50\pi t – \displaystyle\frac{50\pi x}{10}\)) ことが重要です。焦って計算すると、片方に掛け忘れるミスが起こりがちです。
  • 三角関数の値の確認: (3)で \(\sin(25\pi)\) の値を求める場面では、頭の中だけで考えず、単位円や \(\sin\) カーブのグラフを頭に思い浮かべるか、実際に描いてみるのが確実です。「\(\pi\) の整数倍の \(\sin\) は0」「\(\displaystyle\frac{\pi}{2} + 2n\pi\) の \(\sin\) は1」といった基本的な値を素早く正確に思い出せるようにしておくことが大切です。

基本例題54 正弦波の式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 波の基本式から直接導出する解法
      • 模範解答が(1)で求めた原点の振動の式 \(y(0, t)\) の時刻 \(t\) を \((t – x/v)\) に置き換えることで波の式 \(y(x, t)\) を導出するのに対し、別解ではまず波の基本情報(\(A, T, \lambda\))を全て求め、それらを波の基本式 \(y = A \sin 2\pi(\displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda})\) に代入して直接的に式を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 解法の体系的理解: 波の式を立てるための2つの主要なアプローチ(「時間差からの導出」と「基本式への代入」)を両方学ぶことで、問題の状況に応じた最適な解法選択が可能になります。
    • 物理量の関連性の確認: 別解のアプローチでは、周期 \(T\) と速さ \(v\) から波長 \(\lambda\) を計算するステップが含まれるため、\(v=f\lambda\) という波の最重要公式を再確認する良い機会となります。
    • 思考の柔軟性向上: 設問(1)がなかったとしても、与えられた情報から直接(2)の答えを導き出す力を養うことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「グラフ情報からの正弦波の立式」です。与えられたグラフ(\(y-t\)グラフ)と文章情報(速さ、進行方向)を組み合わせて、波の運動全体を表す式を構築する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(y-t\)グラフの読解: グラフの縦軸の最大値が振幅 \(A\) を、横軸で1サイクルにかかる時間が周期 \(T\) を表すことを理解していること。
  2. 単振動の式: 原点(\(x=0\))など、ある特定の位置における媒質の振動は単振動であり、その変位は \(y = A \sin \omega t\) や \(y = A \sin \displaystyle\frac{2\pi}{T}t\) と表せること。
  3. 波の伝播と時間の遅れ: \(x\) 軸の正の向きに速さ \(v\) で進む波において、位置 \(x\) での振動は、原点での振動よりも時間 \(\displaystyle\frac{x}{v}\) だけ遅れること。この「時間の遅れ」を、原点の式の時刻 \(t\) を \((t – \displaystyle\frac{x}{v})\) に置き換えることで表現できること。
  4. 波の基本関係式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の関係 (\(v=f\lambda\)) を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた \(y-t\) グラフから、原点の媒質の振動の振幅 \(A\) と周期 \(T\) を直接読み取ります。そして、単振動の基本式にこれらの値を代入して、原点の変位の式を立てます。
  2. (2)では、(1)で求めた原点の振動の式を利用します。波が速さ \(v\) で進むことによる「時間の遅れ」を考慮し、(1)の式の時刻 \(t\) を \((t – \displaystyle\frac{x}{v})\) に置き換えることで、任意の位置 \(x\) と時刻 \(t\) における変位の式を導出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
問題で与えられているのは「原点(\(x=0\))の媒質の変位 \(y\) と時刻 \(t\) の関係」を示す \(y-t\) グラフです。このグラフは、原点という一点に注目したときの単振動の様子を表しています。したがって、グラフから単振動の振幅 \(A\) と周期 \(T\) を読み取り、単振動の基本式 \(y = A \sin \displaystyle\frac{2\pi}{T}t\) に代入することで、関係式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 与えられたグラフが、波形のスナップショット(\(y-x\)グラフ)ではなく、ある一点の振動の記録(\(y-t\)グラフ)であることを正しく認識する。
  • \(y-t\)グラフの縦軸の最大値が振幅 \(A\)、横軸の1サイクルの長さが周期 \(T\) であることを理解している。
  • グラフが原点(\(t=0, y=0\))から始まり、\(y\) が正の方向に増加しているため、基本形は \(\sin\) 型であると判断する。

具体的な解説と立式
与えられた \(y-t\) グラフから、原点の媒質の振動に関する情報を読み取ります。
グラフの縦軸の最大値から、振幅 \(A\) は、
$$ A = 0.20 \, \text{[m]} $$
グラフの横軸で、波が1回振動して元の状態に戻るまでの時間(1サイクル)から、周期 \(T\) は、
$$ T = 0.50 \, \text{[s]} $$
原点の媒質の運動は単振動なので、その関係式は \(y = A \sin \displaystyle\frac{2\pi}{T}t\) で表されます。
この式に、読み取った \(A\) と \(T\) の値を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動の変位の式: \(y = A \sin \frac{2\pi}{T}t\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
y &= 0.20 \sin \left( \frac{2\pi}{0.50}t \right) \\[2.0ex]
&= 0.20 \sin 4.0\pi t
\end{aligned}
$$
これが原点の媒質の \(y\) と \(t\) の関係を表す式です。

計算方法の平易な説明

この問題のグラフは、海の上のブイ(浮き)が時間と共にどう上下するかを記録したものです。
(1)では、まずこのブイの動きだけを数式で表します。
グラフを見ると、ブイは最大で \(0.20\) mの高さまで上がり、1回の上下運動に \(0.50\) 秒かかっていることがわかります。つまり、振幅 \(A\) が \(0.20\) m、周期 \(T\) が \(0.50\) s です。
この単振動の動きは、標準的な数式 \(y = A \sin (\frac{2\pi}{T} t)\) に、今読み取った \(A\) と \(T\) の値を代入することで表現できます。

結論と吟味

原点の媒質の変位と時刻の関係は \(y = 0.20 \sin 4.0\pi t\) と表されます。この式に \(t=0\) を代入すると \(y=0\)、\(t=0.125\) s (\(=T/4\)) を代入すると \(y = 0.20 \sin(0.5\pi) = 0.20\) となり、グラフの読み取りと一致するため、妥当な式であることが確認できます。

解答 (1) \(y = 0.20 \sin 4.0\pi t\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めたのは原点(\(x=0\))での振動の式です。(2)では、任意の位置 \(x\) における振動の式、すなわち波全体の式を求めます。
波は \(x\) 軸の正の向きに速さ \(v=40\) m/s で進んでいます。これは、位置 \(x\) での振動が、原点での振動よりも時間 \(\Delta t = \displaystyle\frac{x}{v}\) だけ遅れて起こることを意味します。
この「時間の遅れ」を数式に反映させるには、(1)で求めた式の時刻 \(t\) を、遅れた時間だけ過去にさかのぼらせた \((t – \Delta t)\) すなわち \((t – \displaystyle\frac{x}{v})\) に置き換えます。
この設問における重要なポイント

  • 波の伝播が「時間の遅れ」として表現できることを理解している。
  • \(x\) 軸正の向きに進む波では、位置 \(x\) での振動は原点より \(\displaystyle\frac{x}{v}\) だけ遅れる。
  • この時間の遅れを、原点の式の \(t\) を \((t – \displaystyle\frac{x}{v})\) に置き換えることで表現する。

具体的な解説と立式
(1)で求めた原点(\(x=0\))での変位の式は、
$$ y(0, t) = 0.20 \sin 4.0\pi t $$
です。
波は速さ \(v=40\) m/s で \(x\) 軸の正の向きに進んでいるので、位置 \(x\) での振動は、原点での振動よりも \(\displaystyle\frac{x}{v}\) [s] だけ遅れて伝わります。
したがって、任意の位置 \(x\) と時刻 \(t\) における変位 \(y(x, t)\) を求めるには、原点の式の時刻 \(t\) を \((t – \displaystyle\frac{x}{v})\) で置き換えます。
$$ y(x, t) = y \left( 0, t – \frac{x}{v} \right) $$
ここに、\(v=40\) m/s を代入します。

使用した物理公式

  • 波の伝播による時間の遅れ: \(t \rightarrow t – \displaystyle\frac{x}{v}\)
計算過程

(1)で求めた式の \(t\) を \((t – \displaystyle\frac{x}{40})\) に置き換えます。
$$
\begin{aligned}
y &= 0.20 \sin 4.0\pi \left( t – \frac{x}{40} \right)
\end{aligned}
$$
これが求める波の式です。

計算方法の平易な説明

(1)で、原点にあるブイの動きを数式化しました。(2)では、その波全体の動きを数式にします。
波は、原点での揺れが少しずつ遅れて隣に伝わっていく現象です。速さが \(40\) m/s なので、原点から \(x\) m 離れた場所には、\(\displaystyle\frac{x}{40}\) 秒遅れて揺れが到着します。
つまり、位置 \(x\) での \(t\) 秒後の揺れは、原点での \((t – \displaystyle\frac{x}{40})\) 秒後の揺れと同じはずです。
この考え方を使って、(1)で求めた式の \(t\) を、\((t – \displaystyle\frac{x}{40})\) に書き換えるだけで、波全体の式が完成します。

結論と吟味

得られた式 \(y = 0.20 \sin 4.0\pi (t – \displaystyle\frac{x}{40})\) は、\(x\) と \(t\) の両方を含む、波の運動を表す式です。\(x=0\) を代入すると(1)の式に一致し、\(t\) と \(x\) の項の符号が異なることから \(x\) 軸正の向きに進む波を表しており、すべての条件を満たす妥当な結果です。

解答 (2) \(y = 0.20 \sin 4.0\pi \left( t – \frac{x}{40} \right)\)
別解: 波の基本式から直接導出する解法

思考の道筋とポイント
波の式を立てるもう一つの基本的なアプローチは、波の物理量(振幅 \(A\)、周期 \(T\)、波長 \(\lambda\))をすべて特定し、それらを正弦波の基本式 \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) に代入する方法です。
(1)と同様にグラフから \(A\) と \(T\) を読み取り、問題文で与えられた速さ \(v\) との関係式 \(v=f\lambda\)(ここで \(f=1/T\))を用いて波長 \(\lambda\) を計算します。すべてのパラメータが揃ったら、基本式に代入して答えを導きます。
この設問における重要なポイント

  • 波の基本式 \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) を利用する。
  • グラフと与えられた情報から、式に必要なパラメータ \(A, T, \lambda\) をすべて求める。
  • 周期 \(T\) と速さ \(v\) から波長 \(\lambda\) を計算するために、\(v=f\lambda\) と \(f=1/T\) の関係を正しく使う。

具体的な解説と立式
まず、波の基本情報を整理します。
(1)と同様に、\(y-t\)グラフから振幅 \(A\) と周期 \(T\) を読み取ります。
$$ A = 0.20 \, \text{[m]} $$
$$ T = 0.50 \, \text{[s]} $$
次に、振動数 \(f\) を計算します。
$$ f = \frac{1}{T} = \frac{1}{0.50} = 2.0 \, \text{[Hz]} $$
問題文より、波の速さ \(v\) は、
$$ v = 40 \, \text{[m/s]} $$
波の基本式 \(v=f\lambda\) を用いて、波長 \(\lambda\) を計算します。
$$ \lambda = \frac{v}{f} = \frac{40}{2.0} = 20 \, \text{[m]} $$
これで、波の式を立てるためのパラメータ \(A, T, \lambda\) がすべて揃いました。
波は \(x\) 軸の正の向きに進むので、基本式 \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) を用います。

使用した物理公式

  • 波の基本関係式: \(f = \displaystyle\frac{1}{T}\), \(v = f\lambda\)
  • 正弦波の変位の式: \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\)
計算過程

求めた \(A=0.20\), \(T=0.50\), \(\lambda=20\) を基本式に代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= 0.20 \sin 2\pi \left( \frac{t}{0.50} – \frac{x}{20} \right) \\[2.0ex]
&= 0.20 \sin 2\pi \left( 2.0t – \frac{x}{20} \right)
\end{aligned}
$$
\(\sin\) の中の \(2\pi\) を括弧の外に出す形(模範解答の形)に合わせるため、\(2.0\) を括り出します。
$$
\begin{aligned}
y &= 0.20 \sin \left\{ 2\pi \cdot 2.0 \left( t – \frac{x}{20 \times 2.0} \right) \right\} \\[2.0ex]
&= 0.20 \sin 4.0\pi \left( t – \frac{x}{40} \right)
\end{aligned}
$$
これが求める波の式です。

計算方法の平易な説明

波の式を作るには、波の「スペック」をすべて調べて、それを標準的な「設計図」に書き込む方法もあります。
まず、グラフから振幅 \(A=0.20\) m、周期 \(T=0.50\) s であることがわかります。
次に、周期から振動数 \(f=1/T=2.0\) Hz が計算できます。
問題文に速さ \(v=40\) m/s とあるので、波の基本公式 \(v=f\lambda\) から、波長 \(\lambda = v/f = 40/2.0 = 20\) m もわかります。
これでスペック(\(A, T, \lambda\))が全て揃ったので、標準的な設計図の式 \(y = A \sin 2\pi (t/T – x/\lambda)\) にこれらの値を書き込めば、波全体の式が完成します。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ式 \(y = 0.20 \sin 4.0\pi (t – \displaystyle\frac{x}{40})\) が得られました。このアプローチは、波の基本的な物理量(\(A, T, \lambda, v, f\))の関係性を体系的に理解していることを確認しながら式を立てることができる、非常にオーソドックスで確実な方法です。

解答 (2) \(y = 0.20 \sin 4.0\pi \left( t – \frac{x}{40} \right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • \(y-t\)グラフと波の伝播の関連付け:
    • 核心: この問題の根幹は、ある一点の振動の様子(\(y-t\)グラフ)と、波が空間を伝わるという現象(速さ \(v\))を結びつけて、波全体の運動を表す式 \(y(x, t)\) を構築することです。
    • 理解のポイント:
      • \(y-t\)グラフは「ある一点」の記録: まず、与えられたグラフが、波形そのもの(\(y-x\)グラフ)ではなく、原点(\(x=0\))という特定の位置の媒質が時間とともにどう振動するかを示したものであることを明確に理解する必要があります。このグラフから読み取れるのは、その点の振動の振幅 \(A\) と周期 \(T\) です。
      • 波の伝播は「時間の遅れ」: 波が速さ \(v\) で \(x\) 軸の正の向きに進むということは、原点で起きた振動が、時間 \(\Delta t = x/v\) をかけて位置 \(x\) に到達することを意味します。つまり、位置 \(x\) での振動は、原点の振動より \(x/v\) だけ「遅れ」ます。
      • 「時間の遅れ」の数式化: この物理的な「遅れ」を数式に反映させる操作が、原点の振動の式 \(y(0, t)\) の中の時刻 \(t\) を \((t – x/v)\) に置き換えることです。これにより、一点の振動の式が、空間全体に広がる波の式へと拡張されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • \(y-x\)グラフが与えられる問題: 波のある瞬間の形(\(y-x\)グラフ)が与えられるパターンです。この場合、グラフから振幅 \(A\) と波長 \(\lambda\) を読み取ることができます。周期 \(T\) や速さ \(v\) は、文章で与えられる他の情報(例:「この後、0.1秒後に波形は初めて元の形と重なった」→ \(T=0.1\)s)から求める必要があります。
    • 負の向きに進む波: 波が \(x\) 軸の負の向きに進む場合、位置 \(x\)(\(x<0\) を含む)での振動は、原点での振動よりも「進んで」いると考えられます(あるいは、原点での振動が位置 \(x\) より遅れている)。この場合、時間の置き換えは \(t \rightarrow (t – x/v)\) のままで、\(x\) に負の値を代入すれば自動的に正しい位相になります。あるいは、\(t \rightarrow (t + |x|/v)\) と考えてもよく、結果として波の式は \(y = A \sin \omega (t + x/v)\) の形になります。
    • 初期位相がある問題: \(t=0\) での原点の変位が \(y=0\) でない場合(例:\(y=A\) から振動が始まる場合)、位相のずれ(初期位相)を考慮する必要があります。式は \(y = A \sin(\omega t + \phi)\) や \(y = A \cos(\omega t)\) の形になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの種類の特定: まず、与えられたグラフが \(y-t\) グラフなのか \(y-x\) グラフなのかを横軸のラベルを見て確認します。これが全ての出発点です。
    2. 読み取れる情報を全てリストアップ: グラフから読み取れる物理量(\(A, T\) または \(\lambda\))と、問題文から読み取れる情報(\(v\), 進行方向など)を全て書き出します。
    3. 立式の戦略を立てる:
      • 時間差アプローチ(模範解答の方法): \(y-t\)グラフがある場合、まず原点の式 \(y(0,t)\) を立て、\(t \rightarrow (t-x/v)\) で波の式に拡張するのが直感的で速い。
      • 基本式アプローチ(別解の方法): 必要なパラメータ(\(A, T, \lambda\))を全て計算で求めてから、基本式 \(y=A\sin 2\pi(t/T – x/\lambda)\) に代入する方法。時間はかかるが、物理量の関係性を確認しながら進められるため確実性が高い。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(y-t\)グラフと\(y-x\)グラフの混同:
    • 誤解: 横軸が \(t\) なのに、波長 \(\lambda\) を読み取ろうとしてしまう、あるいは横軸が \(x\) なのに周期 \(T\) を読み取ろうとしてしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、必ずグラフの縦軸と横軸の物理量を確認する癖をつけます。「\(y-t\)グラフ → 周期 \(T\)」「\(y-x\)グラフ → 波長 \(\lambda\)」という対応を強く意識します。
  • 時間の置き換えの符号ミス:
    • 誤解: \(x\) 軸の正の向きに進むのに、\(t\) を \((t + x/v)\) と置き換えてしまう。
    • 対策: 「正の向きに進む \(\rightarrow\) 遠くの点ほど揺れが『遅れる』\(\rightarrow\) 時間を『引く』\((t-x/v)\)」という論理的な連想を確立します。あるいは、\(y(x,t)\) の位相部分 \((t-x/v)\) が一定となる点が波の同じ高さの点だと考えると、\(t\) が増えたら \(x\) も増えないと等式が成り立たないので、正の向きに進む、と機械的に判断することも有効です。
  • 角振動数 \(\omega\) の計算ミス:
    • 誤解: \(y = A \sin \omega t\) の \(\omega\) を計算する際に、\(\omega = 2\pi T\) や \(\omega = T/(2\pi)\) のように、\(2\pi\) と \(T\) の関係を間違える。
    • 対策: \(\omega = 2\pi f\) と \(f=1/T\) という2つの基本関係から、毎回 \(\omega = 2\pi/T\) を導出するようにします。「\(f\) は1秒あたりの回数、\(\omega\) は1秒あたりの回転角度。1回は \(2\pi\) ラジアン」という物理的イメージを持つと間違いにくくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 原点の単振動の式 \(y = A \sin(\frac{2\pi}{T}t)\) の選択:
    • 選定理由: (1)では、原点という特定の位置の振動にのみ注目していました。時間と共に変位が正弦関数的に変化する運動は単振動であり、その最も基本的な表現がこの式です。グラフから読み取れる \(A\) と \(T\) を直接代入できるため、最も合理的な選択です。
    • 適用根拠: グラフは \(t=0\) で \(y=0\) であり、その後 \(y\) は増加しています。これは三角関数の \(\sin\) カーブの原点付近の振る舞いと一致するため、\(\cos\) 型ではなく \(\sin\) 型が適切であると判断できます。
  • 時間の置き換え \(t \rightarrow t – x/v\) の適用:
    • 選定理由: (2)の主たる解法では、(1)で得た「部品(原点の式)」を元に全体像(波の式)を組み立てるために、この操作を選びました。これは、波の物理的性質である「伝播による時間の遅れ」を、最も直接的に数式に反映させる方法だからです。
    • 適用根拠: 波の定義は「ある場所で生じた振動が、形を保ったまま、一定の速さで周囲に伝わっていく現象」です。速さ \(v\) で伝わる場合、位置 \(x\) での時刻 \(t\) の変位は、原点での時刻 \((t-x/v)\) の変位と等しくなるはずです。この物理的な同一性を数式で表現したのが \(y(x,t) = y(0, t-x/v)\) であり、この置き換え操作の正当性の根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • グラフの数値を丁寧に読み取る: 振幅が \(0.20\) なのか \(0.2\) なのか、周期が \(0.50\) なのか \(0.5\) なのか、問題の有効数字を意識して読み取ります。特に物理では有効数字が採点基準になることがあるため、日頃から意識することが重要です。
  • 分数の計算を確実に行う: (1)で \(\displaystyle\frac{2\pi}{0.50}\) を計算する際、\(0.50 = 1/2\) であることから、\(2\pi \div (1/2) = 2\pi \times 2 = 4\pi\) と、落ち着いて計算します。小数を含む分数は、一度分数に直してから計算するとミスが減ります。
  • 式の変形は一段階ずつ: 別解のように、\(y = 0.20 \sin 2\pi ( 2.0t – \displaystyle\frac{x}{20} )\) から \(y = 0.20 \sin 4.0\pi ( t – \displaystyle\frac{x}{40} )\) へ変形する際は、まず \(2\pi\) を中に入れる操作と、括弧の中から \(2.0\) を括り出す操作を分けて考えるなど、複数の操作を同時に行わず、一段階ずつ丁寧に進めることが計算ミスを防ぐ鍵です。
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基本問題

282 正弦波の式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解1: 角振動数 \(\omega\) と波数 \(k\) を用いる解法
      • 模範解答が与式を \(y=A\sin 2\pi(\displaystyle\frac{t}{T}-\displaystyle\frac{x}{\lambda})\) の形に変形して比較するのに対し、この別解では与式を \(y=A\sin(\omega t – kx)\) の形と直接比較して角振動数 \(\omega\) と波数 \(k\) を求め、そこから他の量を導出します。
    • 別解2: 模範解答に記載の別解(\(y=A\sin\pi(\frac{2}{T}t – \frac{2}{\lambda}x)\) との比較)
      • この別解は、模範解答の主たる解法とは異なる形の基本式と比較するアプローチです。与式が \(\sin\pi(\dots)\) の形であることに着目し、基本式も \(\sin\pi(\dots)\) の形に変形して係数比較を行います。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 別解1を通じて、角振動数 \(\omega\)(時間の周期性)と波数 \(k\)(空間の周期性)という、波を特徴づける重要な物理概念への理解が深まります。
    • 解法の多様性: 波の式の表現には複数の基本形があることを再認識し、与えられた式の形に応じて最も効率的な変形を選択する能力が養われます。
    • 思考の効率化: 別解1のように、与式を \(y=A\sin(\omega t – kx)\) と見なすアプローチは、式変形が最も少なく、直感的に解くことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「正弦波の式の解釈と物理量の導出」です。与えられた波の式から、振幅、周期、波長、振動数、速さといった波の基本的な物理量を正確に読み取る能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 正弦波の基本式: 波の式には複数の表現形式があり、代表的なものは \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\) や \(y = A \sin (\omega t – kx)\) です。これらの式の各パラメータが何を表すかを正確に理解していることが重要です。
  2. 係数比較: 与えられた式を基本式の一つと同じ形に変形し、各項の係数を比較することで、未知の物理量を特定します。
  3. 波の基本関係式: 周期 \(T\) と振動数 \(f\) の関係 (\(f=\displaystyle\frac{1}{T}\))、波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の関係 (\(v=f\lambda\)) を使いこなせること。
  4. 角振動数 \(\omega\) と波数 \(k\) の定義: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T} = 2\pi f\)、\(k = \displaystyle\frac{2\pi}{\lambda}\) という定義と、それらから導かれる関係式 \(v = \displaystyle\frac{\omega}{k}\) を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 与えられた波の式を、よく知られた基本式の形(ここでは \(y = A \sin 2\pi \left( \displaystyle\frac{t}{T} – \displaystyle\frac{x}{\lambda} \right)\))に変形します。
  2. 振幅や \(t\), \(x\) の係数を比較することで、振幅 \(A\)、周期 \(T\)、波長 \(\lambda\) を特定します。
  3. 周期 \(T\) から振動数 \(f\) を、そして振動数 \(f\) と波長 \(\lambda\) から速さ \(v\) を、それぞれ基本関係式を用いて計算します。

設問

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