基礎CHECK
1 分子の不規則運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ブラウン運動と熱運動の定義と関係性」です。物理学の基本的な用語の正しい理解が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ブラウン運動の定義:液体や気体中に浮遊する微粒子が、不規則に運動する現象。
- 熱運動の定義:物質を構成する分子や原子が、温度に応じて不規則に行う運動。
- ブラウン運動の原因:目に見えない分子の熱運動による、微粒子への不均一な衝突。
- 現象のスケール感の理解:観測される「微粒子の動き(ブラウン運動)」と、その原因である「分子の動き(熱運動)」を区別する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文の前半で記述されている「微粒子の不規則な運動」が何と呼ばれるかを特定する。
- 問題文の後半で記述されている、その原因となる「分子自体の不規則な運動」が何と呼ばれるかを特定する。
- 両者の因果関係を正しく理解する。
思考の道筋とポイント
まず、問題文が2つの異なる現象について述べていることを把握します。一つは「観測される微粒子の動き」、もう一つはその原因である「目に見えない分子の動き」です。
「微粒子の動き」は、1827年に植物学者のブラウンが、水に浮かべた花粉を顕微鏡で観察している際に発見した現象です。この歴史的背景から「ブラウン運動」という名称を連想することができます。
一方、「分子の動き」は、物質の温度の根源であり、全ての分子が絶えず行っているランダムな運動です。これは「熱運動」と呼ばれます。
ブラウン運動は、それまで仮説であった分子の存在や、その熱運動を間接的に証明した現象として物理学的に非常に重要です。この因果関係(熱運動が原因でブラウン運動が起こる)をしっかり押さえることが、この問題を解く上でのポイントです。
この設問における重要なポイント
- ブラウン運動: あくまで「観測される微粒子」の運動を指します。花粉から出た微粒子や、空気中の煙の粒子などが例です。粒子そのものが自発的に動いているわけではありません。
- 熱運動: 物質を構成する「分子や原子」レベルの、目には見えない運動を指します。温度が高いほど、この運動は激しくなります。理論的には絶対零度で停止します。
- 因果関係: 水分子(目に見えない)が熱運動 → 微粒子(目に見える)に不規則に衝突 → 微粒子が不規則に動く(ブラウン運動)。この流れを理解することが核心です。
具体的な解説と立式
この問題は物理用語の知識を問うものであり、数式を用いた立式はありません。各空欄に当てはまる語句の概念的な解説を行います。
- (ア)について
問題文では「水中で花粉が破裂して出てきた微粒子が不規則にゆれ動く」現象について問われています。
これは、液体や気体中にある微小な粒子(この場合は花粉から出た微粒子)が、周囲の媒体の分子(この場合は水分子)から不規則かつ不均一に衝突されることによって、ランダムに動く現象を指します。
この現象は、発見者であるイギリスの植物学者ロバート・ブラウンの名にちなんで「ブラウン運動」と呼ばれます。
したがって、(ア) に入る言葉は「ブラウン」です。 - (イ)について
問題文では、ブラウン運動が起こる原因として「水分子が不規則に運動して、微粒子に衝突するため」と説明されています。そして、この「水分子の不規則な運動」そのものを何と呼ぶかが問われています。
物質を構成している分子や原子は、静止しているわけではなく、その物質の温度に応じた運動エネルギーを持って絶えず不規則に運動しています。この根源的な運動を「熱運動」と呼びます。
したがって、(イ) に入る言葉は「熱運動」です。
使用した物理公式
- ブラウン運動の定義: 液体や気体中に浮遊する微粒子が、媒体分子の不規則な衝突によってランダムに運動する現象。
- 熱運動の定義: 物質を構成する分子や原子が、温度に応じて行う不規則な運動。
この問題に計算過程はありません。
この問題は計算ではなく、言葉の定義を覚える問題です。イメージで捉えると分かりやすいかもしれません。
- ブラウン運動(ア)を理解するイメージ:
大きな風船(花粉の微粒子)が、目に見えないほど小さな無数のボール(水分子)で満たされた部屋に浮いていると想像してください。小さなボールは、あらゆる方向へランダムに飛び交っています(これが熱運動です)。
ある瞬間には、たまたま右側から風船にぶつかるボールの数が左側からより多ければ、風船は左へ少し動きます。次の瞬間には、下からぶつかるボールが多ければ上へ動くかもしれません。このように、目に見えない小さなボールたちの不規則な衝突によって、大きな風船がふらふらと不規則に動かされます。この「風船の動き」がブラウン運動にあたります。 - 熱運動(イ)を理解するイメージ:
上の例えで、風船を動かしている根本的な原因は「無数の小さなボールが勝手に飛び交っていること」そのものです。この目に見えない「小さなボールたちのランダムな動き」が熱運動にあたります。
つまり、(ア)ブラウン運動は結果として観測される現象、(イ)熱運動はその現象を引き起こすミクロな世界の原因、という関係になっています。
2 絶対温度
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「絶対温度とセルシウス温度の相互変換」です。物理学、特に熱力学で基本となる温度の単位変換を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 絶対温度(ケルビン)の定義:分子の熱運動が理論上停止する温度を基準(\(0\)\(\text{K}\))とする温度尺度。
- セルシウス温度(摂氏)の定義:水の凝固点を\(0\)\(℃\)、沸点を\(100\)\(℃\)とする、日常で使われる温度尺度。
- 両者の関係式の理解:絶対温度 \(T\) とセルシウス温度 \(t\) の間には、\(T = t + 273\) という関係がある。
- 絶対零度の概念:\(0\)\(\text{K}\) は \(-273\)\(℃\) に相当する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- セルシウス温度から絶対温度へ変換する場合は、セルシウス温度の値に \(273\) を加える。
- 絶対温度からセルシウス温度へ変換する場合は、絶対温度の値から \(273\) を引く。
思考の道筋とポイント
物理学、特に気体の状態方程式などを扱う熱力学の分野では、私たちが日常的に使用するセルシウス温度(単位:\(℃\))ではなく、絶対温度(単位:\(\text{K}\))を用いることが原則です。これは、絶対温度が物質の内部エネルギー、すなわち分子の熱運動の激しさに直接比例する量であり、物理法則をよりシンプルで普遍的な形で表現できるためです。
この二つの温度尺度を変換する鍵となるのが「\(273\)」という数値です。セルシウス温度における \(0\)\(℃\) が、絶対温度では \(273\)\(\text{K}\) に対応するという関係を正確に覚えておくことが、すべての計算の出発点となります。この関係さえ押さえておけば、あとは単純な足し算と引き算で双方向の変換が可能です。
この設問における重要なポイント
- 絶対温度 \(T\): 単位はケルビン(\(\text{K}\))。「°」(度)の記号は付けません。
- セルシウス温度 \(t\): 単位はセルシウス度または摂氏度(\(℃\))。
- 変換公式: \(T \text{[K]} = t \text{[℃]} + 273\)。この式は、移項することで \(t \text{[℃]} = T \text{[K]} – 273\) とも書けます。
- 絶対零度: あらゆる熱運動が停止する理論上の最低温度で、\(0\)\(\text{K}\) と定義されます。これは \(-273\)\(℃\) に相当し、絶対温度には負の値は存在しません。
具体的な解説と立式
絶対温度を \(T\)\([\text{K}]\)、セルシウス温度を \(t\)\([\text{℃}]\) とすると、両者の間には以下の関係式が成り立ちます。
$$ T = t + 273 \quad \cdots ① $$
この式を \(t\) について解くと、次のようになります。
$$ t = T – 273 \quad \cdots ② $$
この問題では、この2つの式を用いて計算を行います。
- \(0\)\(℃\) を絶対温度 \(\text{K}\) に変換するには、式①に \(t=0\) を代入します。
- \(400\)\(\text{K}\) をセルシウス温度 \(℃\) に変換するには、式②に \(T=400\) を代入します。
使用した物理公式
- 絶対温度とセルシウス温度の変換式: \(T \text{[K]} = t \text{[℃]} + 273\)
- \(0\)\(℃\) から \(\text{K}\) への変換
式①に \(t = 0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 0 + 273 \\[2.0ex]&= 273 \text{ [K]}
\end{aligned}
$$ - \(400\)\(\text{K}\) から \(℃\) への変換
式②に \(T = 400\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t &= 400 – 273 \\[2.0ex]&= 127 \text{ [℃]}
\end{aligned}
$$
温度の単位を「\(℃\)」から「\(\text{K}\)」に着替えるときは、「\(273\)」を足してあげると考えましょう。
- \(0\)\(℃\) の場合: \(0 + 273 = 273\)\(\text{K}\)
逆に、「\(\text{K}\)」から「\(℃\)」に着替えるときは、「\(273\)」を引いてあげます。
- \(400\)\(\text{K}\) の場合: \(400 – 273 = 127\)\(℃\)
「ケルビン(\(\text{K}\))の方が、いつもセルシウス(\(℃\))より\(273\)だけ数字が大きい」と覚えておくと、足すのか引くのか迷いにくくなります。
3 熱量
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「比熱を用いた熱量の計算」です。物質の温度を変化させるために必要な熱量を求める、熱力学の基本的な計算問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱量\(Q\)、質量\(m\)、比熱\(c\)、温度変化\(\Delta T\)の関係式 \(Q=mc\Delta T\) の理解。
- 比熱の単位 \(\text{J/(g}\cdot\text{K)}\) の意味の把握。
- 温度変化\(\Delta T\)は、絶対温度(ケルビン)でもセルシウス温度(摂氏)でも同じ値になることの理解。
- 有効数字の考慮。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から、質量\(m\)、比熱\(c\)、温度変化\(\Delta T\)の値を特定する。
- 熱量の公式 \(Q=mc\Delta T\) に値を代入する。
- 計算結果を適切な有効数字でまとめる。
思考の道筋とポイント
この問題は、物質を温めるのに必要なエネルギー(熱量)を計算する典型的な問題です。公式 \(Q=mc\Delta T\) を知っていることが大前提となります。
各文字が何を表しているか(\(Q\): 熱量, \(m\): 質量, \(c\): 比熱, \(\Delta T\): 温度変化)を正確に理解することが重要です。
特に、比熱の単位 \(\text{J/(g}\cdot\text{K)}\) に注目しましょう。これは「\(1\)\(\text{g}\)の物質の温度を\(1\)\(\text{K}\)上昇させるのに必要な熱量が何ジュールか」を示しています。この単位の意味を理解していれば、公式を忘れても「(比熱) \(\times\) (質量) \(\times\) (温度変化)」という立式を導き出すことができます。
また、問題文で与えられている数値は \(0.38\) (2桁)、\(20\) (2桁)、\(5.0\) (2桁) であり、すべて有効数字2桁です。したがって、計算結果も有効数字2桁で答えるのが適切です。
この設問における重要なポイント
- 熱量の公式: \(Q = mc\Delta T\)。ここで \(Q\) は熱量[\(\text{J}\)]、\(m\) は質量[\(\text{g}\) または \(\text{kg}\)]、\(c\) は比熱[\(\text{J/(g}\cdot\text{K)}\) または \(\text{J/(kg}\cdot\text{K)}\)]、\(\Delta T\) は温度変化[\(\text{K}\) または \(℃\)]です。
- 単位の整合性: 質量と比熱の単位を合わせることが重要です。この問題では、質量が\(\text{g}\)、比熱が\(\text{J/(g}\cdot\text{K)}\)で与えられているため、そのまま計算できます。もし質量が\(\text{kg}\)で与えられていたら、単位換算が必要になります。
- 温度変化 \(\Delta T\): 絶対温度の「変化量」とセルシウス温度の「変化量」は等しいです。つまり、\(\Delta T[\text{K}] = \Delta t[℃]\)となります。したがって、「\(5.0\)\(\text{K}\)だけ上げる」は「\(5.0\)\(℃\)だけ上げる」と全く同じ意味として扱えます。
具体的な解説と立式
必要な熱量を\(Q\)\([\text{J}]\)、銅の質量を\(m\)\([\text{g}]\)、銅の比熱を\(c\)\([\text{J/(g}\cdot\text{K)}]\)、温度変化を\(\Delta T\)\([\text{K}]\)とします。
これらの量の間には、次の関係式が成り立ちます。
$$ Q = mc\Delta T \quad \cdots ① $$
問題文から、各値は以下の通りです。
- \(m = 20 \, \text{g}\)
- \(c = 0.38 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
- \(\Delta T = 5.0 \, \text{K}\)
これらの値を式①に代入することで、熱量\(Q\)を求めることができます。
使用した物理公式
- 熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\)
式①に、\(m=20\)、\(c=0.38\)、\(\Delta T=5.0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= 20 \times 0.38 \times 5.0 \\[2.0ex]&= (20 \times 5.0) \times 0.38 \\[2.0ex]&= 100 \times 0.38 \\[2.0ex]&= 38
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字はすべて2桁なので、計算結果も有効数字2桁で \(38\)\(\text{J}\) となります。
この計算は、公式 \(Q=mc\Delta T\) に数字を当てはめるだけです。
$$ Q = (\text{質量}) \times (\text{比熱}) \times (\text{温度変化}) $$
$$ Q = 20 \, \text{g} \times 0.38 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)} \times 5.0 \, \text{K} $$
計算のコツとして、掛け算の順番を工夫すると楽になります。
先に \(20 \times 5.0\) を計算すると、ちょうど \(100\) になります。
次に \(100 \times 0.38\) を計算すると、小数点が右に2つずれて \(38\) となります。
よって、答えは \(38\)\(\text{J}\) です。
4 比熱と熱量
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「比熱の概念と、それを用いた温度変化の定性的な比較」です。計算ではなく、物理法則の理解に基づいて大小関係を判断する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱量の公式 \(Q=mc\Delta T\) の理解。
- 比熱の物理的な意味(温まりやすさ・冷めにくさの指標)の把握。
- 与えられた条件下(熱量\(Q\)と質量\(m\)が一定)での、温度変化\(\Delta T\)と比熱\(c\)の関係性の分析。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 熱量の公式 \(Q=mc\Delta T\) を立てる。
- この式を温度上昇\(\Delta T\)について解く。
- 質量\(m\)と熱量\(Q\)が一定であるという条件から、\(\Delta T\)が比熱\(c\)に反比例することを確認する。
- アルミニウムと鉄の比熱を比較し、\(\Delta T\)が大きくなる方(つまり比熱が小さい方)を判断する。
思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「比熱とは何か」を物理的に理解しているかという点にあります。比熱は、しばしば「物質の温まりにくさ(冷めにくさ)」を示す指標と説明されます。
- 比熱が大きい:温まりにくく、冷めにくい。(例:水)
- 比熱が小さい:温まりやすく、冷めやすい。(例:金属)
この直感的な理解があれば、「同じ質量、同じ熱量」という条件なら、比熱が小さい鉄製の鍋の方が温まりやすい、つまり温度上昇が大きいだろうと推測できます。
この問題では、その推測が正しいことを熱量の公式 \(Q=mc\Delta T\) を用いて論理的に示すことが求められています。
この設問における重要なポイント
- 比熱 \(c\): 物質 \(1\)\(\text{g}\) の温度を \(1\)\(\text{K}\)(または\(1\)\(℃\))上昇させるのに必要な熱量のこと。この値が大きいほど、温度を上げるのにより多くの熱が必要になる、つまり「温まりにくい」ことを意味します。
- 熱容量 \(C=mc\): 物体「全体」の温度を \(1\)\(\text{K}\) 上昇させるのに必要な熱量のこと。この問題では質量\(m\)が同じなので、比熱\(c\)が小さい鉄製の鍋の方が熱容量も小さくなります。熱容量が小さいということは、より少ない熱で温度が上がる、つまり「温まりやすい」ということです。
- 公式の変形: \(Q=mc\Delta T\) を \(\Delta T = \displaystyle\frac{Q}{mc}\) と変形することで、各物理量の関係性がより明確になります。
- 反比例の関係: この変形した式から、熱量\(Q\)と質量\(m\)が一定のとき、温度上昇\(\Delta T\)は比熱\(c\)に反比例することが分かります。
具体的な解説と立式
アルミニウム製の鍋と鉄製の鍋について、それぞれ添字を\(\text{Al}\), \(\text{Fe}\)として物理量を表します。
問題の条件より、質量は等しいので \(m_{\text{Al}} = m_{\text{Fe}} = m\) とします。
また、与える熱量も等しいので \(Q_{\text{Al}} = Q_{\text{Fe}} = Q\) とします。
それぞれの鍋について、熱量の公式を立てると次のようになります。
$$ Q = m c_{\text{Al}} \Delta T_{\text{Al}} \quad \cdots ① $$
$$ Q = m c_{\text{Fe}} \Delta T_{\text{Fe}} \quad \cdots ② $$
温度上昇\(\Delta T\)の大小を比較したいので、これらの式を\(\Delta T\)について解きます。
$$ \Delta T = \displaystyle\frac{Q}{mc} $$
この式から、\(Q\)と\(m\)が一定の条件下では、温度上昇\(\Delta T\)は比熱\(c\)に反比例することがわかります。
使用した物理公式
- 熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\)
この問題は定量的な計算ではなく、定性的な比較を行います。
「具体的な解説と立式」で導いた関係式 \(\Delta T = \displaystyle\frac{Q}{mc}\) を用います。
この式において、熱量\(Q\)と質量\(m\)は2つの鍋で共通(一定)です。したがって、温度上昇\(\Delta T\)の大小は、分母にある比熱\(c\)の大小だけで決まります。
分母である比熱\(c\)が小さいほど、分数全体の値である温度上昇\(\Delta T\)は大きくなります。
問題文で与えられた比熱は、
- アルミニウム: \(c_{\text{Al}} = 0.90 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
- 鉄: \(c_{\text{Fe}} = 0.45 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
です。
両者を比較すると、\(c_{\text{Fe}} < c_{\text{Al}}\) です。
したがって、温度上昇は \(\Delta T_{\text{Fe}} > \Delta T_{\text{Al}}\) となります。
よって、温度上昇が大きいのは鉄製の鍋です。
比熱を「温まりにくさ」を表す数値だと考えてみましょう。
- アルミニウムの温まりにくさ:\(0.90\)
- 鉄の温まりにくさ:\(0.45\)
この数字を見ると、アルミニウムは鉄のちょうど2倍、温まりにくいことがわかります。
同じ重さの鍋に、同じ強さの火で同じ時間だけ熱を加えたとき、「温まりにくい」アルミニウムよりも、「温まりやすい」鉄の方が温度はぐんぐん上がります。
したがって、温度上昇が大きいのは鉄製の鍋ということになります。
5 氷の融解
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「状態変化(融解)に必要な熱量(融解熱)の計算」です。温度を変化させずに物質の状態を変化させるために必要な「潜熱」の概念を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 潜熱の概念:温度を変えずに状態を変化させるために必要な熱。
- 融解熱の定義:固体が液体になるときに必要な潜熱。
- 熱量\(Q\)、質量\(m\)、融解熱\(L\)の関係式 \(Q=mL\) の理解。
- 融解熱の単位 \(\text{J/g}\) の意味の把握。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から、質量\(m\)と融解熱\(L\)の値を特定する。
- 融解に必要な熱量の公式 \(Q=mL\) に値を代入する。
- 計算結果を適切な有効数字でまとめる。
思考の道筋とポイント
この問題は、物質の温度を上げるのではなく、その状態を「固体(氷)」から「液体(水)」へ変化させるために必要な熱量を問うています。
重要なのは、この過程で温度が \(0\)\(℃\) のまま一定に保たれるという点です。物体に加えられた熱が、温度を上昇させる(分子の運動エネルギーを増加させる)のではなく、分子間の結合を断ち切って状態を変化させる(分子の位置エネルギーを増加させる)ために使われる場合、この熱を「潜熱」と呼びます。
特に、固体から液体への状態変化(融解)に必要な潜熱を「融解熱」と呼びます。
融解熱の単位 \(\text{J/g}\) は、「\(1\)\(\text{g}\)の物質を融解させるのに必要な熱量(ジュール)」を意味します。この単位の意味を理解していれば、公式を忘れても「(融解熱) \(\times\) (質量)」という立式を自然に導き出すことができます。
この設問における重要なポイント
- 潜熱と顕熱の違い:
- 顕熱: 温度変化を伴う熱。\(Q=mc\Delta T\) で計算されます。
- 潜熱: 状態変化のみを伴い、温度変化はない熱。融解の場合は \(Q=mL\) で計算されます。
- 融解熱 \(L\): 単位質量あたりの融解に必要な潜熱。単位は \(\text{J/g}\) や \(\text{J/kg}\) で与えられます。
- 公式: \(Q=mL\)。ここで \(Q\) は融解に必要な熱量[\(\text{J}\)]、\(m\) は質量[\(\text{g}\) または \(\text{kg}\)]、\(L\) は融解熱[\(\text{J/g}\) または \(\text{J/kg}\)]です。
- 単位の整合性: 質量と融解熱の単位を合わせることが重要です。この問題では、質量が\(\text{g}\)、融解熱が\(\text{J/g}\)で与えられているため、そのまま計算できます。
具体的な解説と立式
必要な熱量を\(Q\)\([\text{J}]\)、氷の質量を\(m\)\([\text{g}]\)、氷の融解熱を\(L\)\([\text{J/g}]\)とします。
これらの量の間には、次の関係式が成り立ちます。
$$ Q = mL \quad \cdots ① $$
問題文から、各値は以下の通りです。
- \(m = 200 \, \text{g}\)
- \(L = 3.3 \times 10^2 \, \text{J/g}\)
これらの値を式①に代入することで、熱量\(Q\)を求めることができます。
使用した物理公式
- 融解熱の計算式: \(Q = mL\)
式①に、\(m=200\)、\(L=3.3 \times 10^2\) を代入します。
計算の際には、\(200\) を \(2.0 \times 10^2\) と指数形式で考えると分かりやすくなります。
$$
\begin{aligned}
Q &= 200 \times (3.3 \times 10^2) \\[2.0ex]&= (2.0 \times 10^2) \times (3.3 \times 10^2) \\[2.0ex]&= (2.0 \times 3.3) \times (10^2 \times 10^2) \\[2.0ex]&= 6.6 \times 10^4
\end{aligned}
$$
問題で与えられた融解熱の有効数字が2桁であるため、計算結果も有効数字2桁で \(6.6 \times 10^4\)\(\text{J}\) となります。
「氷の融解熱が \(3.3 \times 10^2 \, \text{J/g}\)」というのは、「氷を\(1\)\(\text{g}\)だけ溶かして、同じ温度の\(0\)\(℃\)の水にするのに、\(330\)\(\text{J}\)の熱が必要ですよ」という意味です。
今回は氷が \(200\)\(\text{g}\) ありますから、必要な熱量は単純に \(200\) 倍になります。
したがって、計算は次のようになります。
$$ (\text{必要な熱量}) = 200 \times (3.3 \times 10^2) $$
これを計算すると、\(66000\) となります。
物理でよく使う指数形式(\(A \times 10^n\) の形)で、有効数字2桁で表すと \(6.6 \times 10^4\)\(\text{J}\) となります。
6 熱膨張
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「固体の熱膨張(線膨張)の計算」です。温度変化によって物体の長さがどれだけ変化するかを、線膨張の公式を用いて求めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 線膨張の公式: \(l = l_0(1+\alpha \Delta T)\) の理解。
- 線膨張率 \(\alpha\) の定義:温度が \(1\)\(\text{K}\) 上昇したときの長さの増加率。
- 「伸びた長さ(変化分)」の求め方:\(\Delta l = l – l_0\)。
- 温度変化 \(\Delta T\) は、セルシウス温度 \(t\) の変化量に等しいことの理解。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から、基準となる長さ \(l_0\)、線膨張率 \(\alpha\)、温度変化 \(\Delta T\) を特定する。
- 線膨張の公式 \(l = l_0(1+\alpha \Delta T)\) を用いて、\(t\)[℃]での長さ \(l\) を表す式を立てる。
- 変化後の長さ \(l\) から元の長さ \(l_0\) を引いて、伸びた長さ \(\Delta l\) を求める。
思考の道筋とポイント
物体の温度が上がると、それを構成する原子の熱運動が激しくなり、原子間の平均距離が大きくなります。その結果、物体全体が膨張します。これが熱膨張の原理です。特に、レールのような棒状の物体の長さの膨張を「線膨張」と呼びます。
この問題で注意すべき点は、問われているのが「\(t\)[℃]でのレールの全長 \(l\)」ではなく、「\(0\)[℃]のときに比べてどれだけ長くなるか」、つまり「長さの変化分 \(\Delta l\)」であるという点です。
まず線膨張の公式 \(l = l_0(1+\alpha \Delta T)\) を使って温度 \(t\)[℃]での長さ \(l\) を表し、そこから元の長さ \(l_0\) を引き算することで、伸びた長さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 線膨張の公式: \(l = l_0(1+\alpha \Delta T)\)。ここで \(l\) は温度変化後の長さ、\(l_0\) は基準温度での長さ、\(\alpha\) は線膨張率、\(\Delta T\) は温度変化です。
- 線膨張率 \(\alpha\): 単位は \([1/\text{K}]\) または \([1/℃]\) です。これは「温度が \(1\)\(\text{K}\) (または \(1\)\(℃\)) 上昇したときに、元の長さに対してどれだけの割合で長さが変化するか」を示します。
- 伸びた長さ \(\Delta l\): \(\Delta l = l – l_0\) で計算されます。公式を変形すると \(\Delta l = l_0 \alpha \Delta T\) となり、この形で覚えておくと直接伸びを計算できて便利です。
- 温度変化の扱い: 温度変化 \(\Delta T\) は、絶対温度でもセルシウス温度でも同じ値になります(例:\(10\)\(℃\)から\(30\)\(℃\)への変化は\(20\)\(℃\)。これをケルビンに直すと\(283\)\(\text{K}\)から\(303\)\(\text{K}\)への変化となり、差は同じく\(20\)\(\text{K}\))。そのため、線膨張率の単位が \([1/\text{K}]\) で、温度が \([℃]\) で与えられていても、そのまま計算して問題ありません。
具体的な解説と立式
\(0\)[℃]のときのレールの長さを \(l_0\)\([\text{m}]\)、\(t\)[℃]のときのレールの長さを \(l\)\([\text{m}]\)とします。
鉄の線膨張率は \(\alpha\)\([1/\text{K}]\) です。
温度変化 \(\Delta T\) は、基準の \(0\)[℃] から \(t\)[℃] への変化なので、\(\Delta T = t – 0 = t\) となります。
線膨張の公式は、
$$ l = l_0(1 + \alpha \Delta T) \quad \cdots ① $$
であり、ここに \(\Delta T = t\) を代入すると、\(t\)[℃]での長さ \(l\) は次のように表せます。
$$ l = l_0(1 + \alpha t) \quad \cdots ② $$
この問題で求めたいのは、「どれだけ長くなるか」、すなわち長さの変化分 \(\Delta l = l – l_0\) です。
使用した物理公式
- 線膨張の公式: \(l = l_0(1 + \alpha \Delta T)\)
長さの変化分 \(\Delta l\) を、式②を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta l &= l – l_0 \\[2.0ex]&= l_0(1 + \alpha t) – l_0 \\[2.0ex]&= l_0 + l_0 \alpha t – l_0 \\[2.0ex]&= l_0 \alpha t
\end{aligned}
$$
したがって、レールが長くなる分は \(l_0 \alpha t\)\([\text{m}]\) となります。
「線膨張率 \(\alpha\)」というのは、「温度が \(1\)[℃] 上がるごとに、元の長さの \(\alpha\) 倍だけ伸びますよ」という「伸び率」のことです。
- \(1\)[℃] 上昇すると、\(l_0 \times \alpha\) だけ伸びる。
- \(2\)[℃] 上昇すると、\(l_0 \times \alpha \times 2\) だけ伸びる。
- 今回は \(t\)[℃] 上昇したので、\(l_0 \times \alpha \times t\) だけ伸びることになります。
つまり、伸びた長さは \(l_0 \alpha t\) となります。
7 熱と仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「仕事と熱の等価性」、具体的には運動エネルギーが熱エネルギーに変換される量の計算です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動エネルギーの公式 \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) の理解。
- エネルギー保存則の概念:エネルギーは形態を変えるだけで、その総量は保存される。
- 仕事と熱の等価性:力学的エネルギー(運動エネルギー)と熱エネルギーが相互に変換可能であり、単位が同じジュール(\(\text{J}\))で表せることの理解。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から、自動車の質量\(m\)と速さ\(v\)の値を特定する。
- 自動車が停止する前に持っていた運動エネルギー \(K\) を公式を用いて計算する。
- 「運動エネルギーがすべて熱に変化した」という条件に基づき、発生した熱量\(Q\)は、失われた運動エネルギー\(K\)に等しいと考える。
思考の道筋とポイント
この問題は、力学の分野で学んだ「運動エネルギー」と、熱力学の分野で学ぶ「熱」とを結びつける、物理学の重要な概念を扱っています。
自動車がブレーキをかけると、ブレーキパッドとディスク(またはドラム)との間に大きな摩擦力が働きます。この摩擦力が自動車に対して負の仕事をすることで、自動車の運動エネルギーが減少し、最終的に停止します。このとき、失われた運動エネルギーはどこへ消えたのでしょうか。それは、摩擦によって熱エネルギーに変換され、ブレーキ装置やタイヤ、路面などの温度を上昇させます。
問題文の「運動エネルギーがすべて熱に変化した」という記述は、まさにこのエネルギー変換のプロセスを表しています。これはエネルギー保存則の一つの現れであり、ある形態のエネルギーが失われたとき、それは別の形態のエネルギーに等量だけ変換される、という考え方に基づいています。
したがって、この問題は、自動車が最初に持っていた運動エネルギーを計算することで、そのまま発生した熱量を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 運動エネルギー \(K\): 質量\(m\)、速さ\(v\)の物体が持つエネルギーで、\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で計算されます。単位はジュール[\(\text{J}\)]です。
- 熱量 \(Q\): 物体に与えられた、あるいは物体から奪われた熱エネルギーの量。単位は同じくジュール[\(\text{J}\)]です。
- エネルギーの変換: この問題では、[力学的エネルギー(運動エネルギー)] → [熱エネルギー] という変換が起きています。エネルギー保存則により、変換の前後でエネルギーの総量は変わりません。
- 単位の確認: 問題で与えられている質量は\(\text{kg}\)、速さは\(\text{m/s}\)であり、これらは国際単位系(SI)の基本単位です。これらを用いて計算したエネルギーの単位は、自動的にジュール[\(\text{J}\)]となります。
具体的な解説と立式
発生した熱量を\(Q\)\([\text{J}]\)、自動車の質量を\(m\)\([\text{kg}]\)、速さを\(v\)\([\text{m/s}]\)とします。
自動車が持っていた運動エネルギーを\(K\)\([\text{J}]\)とすると、その大きさは次の式で与えられます。
$$ K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \quad \cdots ① $$
問題の条件から、この運動エネルギー\(K\)がすべて熱量\(Q\)に変換されたので、
$$ Q = K \quad \cdots ② $$
が成り立ちます。
したがって、求める熱量\(Q\)は、自動車が持っていた運動エネルギーに等しく、次のように立式できます。
$$ Q = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \quad \cdots ③ $$
問題文から、\(m = 2.0 \times 10^3 \, \text{kg}\)、\(v = 20 \, \text{m/s}\) をこの式に代入します。
使用した物理公式
- 運動エネルギーの公式: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- エネルギー保存則(運動エネルギーから熱への変換)
式③に、\(m = 2.0 \times 10^3\)、\(v = 20\) を代入して熱量\(Q\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \displaystyle\frac{1}{2} \times (2.0 \times 10^3) \times 20^2 \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2} \times (2.0 \times 10^3) \times 400 \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^3 \times 400 \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^3 \times (4.0 \times 10^2) \\[2.0ex]&= (1.0 \times 4.0) \times (10^3 \times 10^2) \\[2.0ex]&= 4.0 \times 10^5
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁(\(2.0\)、\(20\))なので、計算結果も有効数字2桁で \(4.0 \times 10^5\)\(\text{J}\) となります。
ブレーキをかけて発生する熱は、もともと自動車が走っていた勢い、すなわち「運動エネルギー」が形を変えたものです。
ですから、まず自動車が持っていた運動エネルギーがどれくらいかを計算します。
運動エネルギーの公式は、
$$ (\text{運動エネルギー}) = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{質量}) \times (\text{速さ}) \times (\text{速さ}) $$
です。ここに、質量 \(2000 \, \text{kg}\)、速さ \(20 \, \text{m/s}\) を当てはめます。
$$
\begin{aligned}
\text{運動エネルギー} &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 2000 \times 20^2 \\[2.0ex]&= 1000 \times 400 \\[2.0ex]&= 400000 \, \text{J}
\end{aligned}
$$
問題では、この運動エネルギーが「すべて」熱に変わったとされているので、発生した熱量は \(400000 \, \text{J}\) となります。
これを物理でよく使われる「\(A \times 10^n\)」の形で、有効数字2桁で表すと \(4.0 \times 10^5 \, \text{J}\) となります。
8 熱力学第一法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱力学第一法則の適用」です。気体の内部エネルギーの変化、気体が吸収する熱量、気体がされる仕事の関係性を正しく理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) の理解。
- 各物理量(\(\Delta U\), \(Q\), \(W\))の符号のルールの正確な把握。
- 「気体がした仕事」と「気体がされた仕事」の関係性の理解。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 問題文で与えられた「気体が外部にした仕事」から、熱力学第一法則で用いる「気体が外部からされた仕事 \(W\)」を、符号に注意して求める。
- (2) 熱力学第一法則の式に、与えられた熱量 \(Q\) と(1)で求めた仕事 \(W\) を代入し、内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) を計算する。
問(1)
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) で使われる仕事 \(W\) は、「気体が外部からされた仕事」を指します。しかし、問題文で与えられているのは「気体が外部にした仕事」です。この2つの仕事は、視点が異なるだけで、物理的な現象は同じです。
気体が膨張して外部に仕事をする場合、気体はエネルギーを消費して外部の物体を動かします。このとき「気体がした仕事」は正の値となります。一方で、気体の立場から見ると、外部から仕事を「された」わけではないため、「気体がされた仕事」は負の値として扱います。この2つの仕事は、大きさが等しく符号が逆の関係にあります。
この設問における重要なポイント
- 気体が外部から「された」仕事 \(W\)
- 気体が圧縮される(体積が減少する)とき、外部から力を加えられてエネルギーを受け取るので \(W > 0\)。
- 気体が膨張する(体積が増加する)とき、外部にエネルギーを放出するので \(W < 0\)。
- 気体が外部へ「した」仕事 \(W’\)
- 気体が膨張するとき、外部に力を加えてエネルギーを与えるので \(W’ > 0\)。
- 気体が圧縮されるとき、外部からエネルギーを受け取るので \(W’ < 0\)。
- 両者の関係: \(W = -W’\)
具体的な解説と立式
気体が外部からされた仕事を \(W\)、気体が外部にした仕事を \(W’\) とします。
問題文より、気体は膨張して外部に \(20\)\(\text{J}\) の仕事をしたので、
$$ W’ = 20 \, \text{[J]} $$
となります。
求めたいのは「された仕事 \(W\)」であり、\(W\) と \(W’\) の間には次の関係があります。
$$ W = -W’ \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 「された仕事」と「した仕事」の関係: \(W = -W’\)
式①に \(W’ = 20\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= -20 \, \text{[J]}
\end{aligned}
$$
物理で使う熱力学第一法則の仕事 \(W\) は「された」仕事です。
「した仕事」と「された仕事」は、言葉が違うだけで、プラスとマイナスが逆の関係になっています。
今回は、気体が「\(20\)\(\text{J}\) の仕事をした」ので、プラスの仕事です。
したがって、気体が「された仕事」は、符号を逆にして \(-20\)\(\text{J}\) となります。
問(2)
思考の道筋とポイント
気体の内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) は、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を用いて計算します。この法則は、気体のエネルギー収支を表す式と考えることができます。
\(\Delta U\)(内部エネルギーの増加分)は、\(Q\)(外部から得た熱エネルギー)と \(W\)(外部からされた仕事によるエネルギー)の合計に等しくなります。
問題文から \(Q\) の値を、設問(1)の結果から \(W\) の値を、それぞれ符号に注意して代入することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)
- \(\Delta U\) (内部エネルギーの増加量)
- \(\Delta U > 0\): 内部エネルギーが増加(単原子分子理想気体なら温度が上昇)
- \(\Delta U < 0\): 内部エネルギーが減少(単原子分子理想気体なら温度が低下)
- \(Q\) (気体が吸収した熱量)
- 気体が熱を吸収するとき(熱せられるとき)、\(Q > 0\)。
- 気体が熱を放出するとき(冷やされるとき)、\(Q < 0\)。
- \(W\) (気体がされた仕事)
- 気体が圧縮されるとき、\(W > 0\)。
- 気体が膨張するとき、\(W < 0\)。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則の公式は次の通りです。
$$ \Delta U = Q + W \quad \cdots ② $$
問題文より、気体に \(50\)\(\text{J}\) の熱量を与えたので、気体は熱を吸収しています。したがって、
$$ Q = 50 \, \text{[J]} $$
となります。
設問(1)より、気体が外部からされた仕事は、
$$ W = -20 \, \text{[J]} $$
です。これらの値を式②に代入します。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)
式②に \(Q=50\)、\(W=-20\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= 50 + (-20) \\[2.0ex]&= 30 \, \text{[J]}
\end{aligned}
$$
気体のエネルギーをお金の出入りに例えてみましょう。
- 気体は、外部から熱という形で \(50\)\(\text{J}\) のお小遣いをもらいました(収入)。
- しかし、膨張して外部に仕事をするために、\(20\)\(\text{J}\) のエネルギーを使ってしまいました(支出)。
結局、気体の手元に残ったお金(エネルギー)はいくら増えたでしょうか?
$$ (\text{収入}) – (\text{支出}) = 50 – 20 = 30 \, \text{[J]} $$
この \(30\)\(\text{J}\) が、気体の内部エネルギーの増加分となります。
9 不可逆変化
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱力学における不可逆変化の概念」です。自然現象が進行する向きに関する基本的な法則を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 不可逆変化の定義:自然に元の状態に戻らない変化。
- 可逆変化の定義:外部に何の変化も残さずに、完全に元の状態に戻れる理想的な変化。
- 熱力学第二法則:熱は高温の物体から低温の物体へ移動し、その逆は自然には起こらないという法則。
- 身の回りの現象と物理法則の結びつけ。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文で示された現象(氷が水に溶けるが、その逆は自然に起こらない)が、どのような性質を持つ変化かを考える。
- その「一方通行で元に戻れない」という性質を表す適切な物理用語を選択する。
思考の道筋とポイント
この問題は、私たちが日常的に経験する現象の背後にある物理法則についての理解を問うています。20℃の部屋に置かれた氷が溶けて水になるのはごく自然な光景ですが、その水がひとりでに凍って氷に戻ることは決してありません。
このように、ある方向へは自然に進むが、その逆方向へは自然に進むことがないような「一方通行の変化」を、物理学では何と呼ぶかを知っているかがポイントです。
「元に戻すことができない」という意味を持つ言葉を考えれば、答えは自ずと導かれます。この現象の根本には、熱力学第二法則という、自然界の全ての変化の方向性を支配する極めて重要な法則が存在します。
この設問における重要なポイント
- 不可逆変化 (Irreversible process): 自然界で実際に起こる変化は、ほとんどすべてが不可逆変化です。一度その変化が起こると、外部から何らかの操作(仕事)をしない限り、ひとりでに元の状態に戻ることはありません。例:摩擦による熱の発生、インクが水に広がる拡散、熱伝導など。
- 可逆変化 (Reversible process): 外部環境に一切の変化を残さずに、完全に元の状態に戻ることができる、理論上の理想的な変化です。現実には摩擦や熱の拡散などが必ず伴うため、厳密な意味での可逆変化は存在しません。
- 熱力学第二法則: 「熱は高温の物体から低温の物体へと自発的に移動するが、その逆は起こらない」「孤立した系では、エントロピー(乱雑さの度合い)が増大する方向に変化が進む」といった形で表現される、自然現象の方向性を定める法則です。氷(分子が規則正しく並んだ固体)が水(分子が不規則に動き回る液体)になるのは、乱雑さが増す方向への変化であり、この法則に従っています。
具体的な解説と立式
この問題は物理用語の定義を問うものであり、数式を用いた立式はありません。問題文の現象を物理的に解釈します。
- 氷が水になる過程: 20℃の部屋の空気(高温の熱源)から、0℃の氷(低温の物体)へと熱が自発的に移動します。これにより氷は融解して水になります。これは熱力学第二法則に沿った、自然に起こる変化です。
- 水が氷になる過程: もしコップの水がひとりでに氷に戻るとしたら、0℃の水から20℃の部屋の空気へと熱が自発的に移動しなければなりません。これは、低温の物体から高温の物体へ熱がひとりでに移動することを意味し、熱力学第二法則に反します。したがって、この逆の変化は自然には起こり得ません。
このように、一方にしか進むことができず、自然には元に戻れない変化のことを「不可逆変化」と呼びます。
使用した物理公式
- 不可逆変化の定義: ある状態から別の状態へ変化した後、外部に何の変化も残さずに、自然には元の状態に戻らない変化。
- 関連法則: 熱力学第二法則
この問題に計算過程はありません。
「可逆」という言葉は「元に戻すことが可能」という意味です。その反対の「不可逆」は「元に戻すことが不可能」という意味になります。
私たちの身の回りの出来事で考えてみましょう。
- コーヒーにミルクを混ぜたら、もう元のコーヒーとミルクに分けることはできません。
- 卵を焼いて目玉焼きにしたら、二度と生卵には戻せません。
問題文の例も同じです。20℃の部屋で氷が溶けるのは当たり前ですが、その水が勝手に凍って氷に戻ることはありません。
このように、自然に放っておくと一方通行で進んでしまい、元には戻れない変化のことを「不可逆変化」と呼びます。
10 熱効率
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱機関の仕事と熱効率の計算」です。熱機関のエネルギー収支と効率の定義に基づいて、基本的な計算を行います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱機関のエネルギー保存則:吸収した熱エネルギーの一部が仕事に変換され、残りが放出される。
- 熱機関がした仕事の計算式:\(W’ = Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}\)。
- 熱効率の定義:吸収した熱量に対して、どれだけの割合の仕事を取り出せたかを示す指標。
- 熱効率の計算式:\(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{\text{in}}}\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 問題文で与えられた「吸収した熱量」と「放出した熱量」の差を計算して、熱機関が外部にした仕事を求める。
- (2) (1)で求めた仕事の値を、吸収した熱量で割ることで、熱効率を計算する。
問(1)
思考の道筋とポイント
熱機関は、高温の熱源から熱を受け取り、そのエネルギーを使って外部に仕事をします。しかし、受け取った熱のすべてを仕事に変換することはできず、一部は低温の熱源へ熱として放出(排出)されます。
この一連の過程におけるエネルギーの収支を考えます。エネルギー保存則から、「熱機関に入ってきたエネルギー」と「熱機関から出ていったエネルギーの合計」は等しくなります。
入ってきたエネルギーは、高温熱源から吸収した熱量 \(Q_{\text{in}}\) です。
出ていったエネルギーは、外部にした仕事 \(W’\) と、低温熱源へ放出した熱量 \(Q_{\text{out}}\) の合計です。
したがって、\(Q_{\text{in}} = W’ + Q_{\text{out}}\) という関係が成り立ちます。この式を \(W’\) について解くことで、した仕事を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 熱機関のエネルギー収支: \(Q_{\text{in}} = W’ + Q_{\text{out}}\)
- した仕事 \(W’\): 上の式を変形して、\(W’ = Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}\) となります。これは、吸収した熱から捨てられた熱を引いた「正味」のエネルギーが仕事に変わったことを意味します。
- 各記号の意味:
- \(Q_{\text{in}}\): 高温熱源から吸収した熱量。
- \(Q_{\text{out}}\): 低温熱源へ放出した熱量。
- \(W’\): 熱機関が外部にした仕事。
具体的な解説と立式
熱機関が高温熱源から吸収した熱量を \(Q_{\text{in}}\)、低温熱源へ放出した熱量を \(Q_{\text{out}}\)、外部にした仕事を \(W’\) とします。
エネルギー保存則より、次の関係式が成り立ちます。
$$ W’ = Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}} \quad \cdots ① $$
問題文より、\(Q_{\text{in}} = 90 \, \text{J}\)、\(Q_{\text{out}} = 63 \, \text{J}\) ですので、これらの値を式①に代入します。
使用した物理公式
- 熱機関がした仕事: \(W’ = Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}\)
式①に \(Q_{\text{in}} = 90\)、\(Q_{\text{out}} = 63\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W’ &= 90 – 63 \\[2.0ex]&= 27 \, \text{[J]}
\end{aligned}
$$
熱機関の働きをお金のやりくりに例えてみましょう。
- \(90\)\(\text{J}\) のお小遣い(吸収した熱)をもらいました。
- そのうち、\(63\)\(\text{J}\) は使わずに捨ててしまいました(放出した熱)。
実際に活動に使えたお金(仕事)は、もらったお小遣いから捨てた分を引いた残りです。
$$ 90 – 63 = 27 \, \text{[J]} $$
この \(27\)\(\text{J}\) が、熱機関が外部にした仕事になります。
問(2)
思考の道筋とポイント
熱効率 \(e\) とは、「投入したエネルギーのうち、どれだけの割合を有効な仕事に変換できたか」を示す指標です。これは一般的な「効率」の考え方と同じで、「得られた成果 ÷ 投入したコスト」で計算できます。
熱機関の場合、「投入したコスト」は高温熱源から吸収した熱量 \(Q_{\text{in}}\) であり、「得られた成果」は外部にした仕事 \(W’\) です。
したがって、熱効率 \(e\) は \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{\text{in}}}\) という式で定義されます。
この設問における重要なポイント
- 熱効率の定義式: \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{\text{in}}}\)
- 熱効率の別の表現: (1)で用いた \(W’ = Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}\) を定義式に代入すると、\(e = \displaystyle\frac{Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}}{Q_{\text{in}}} = 1 – \displaystyle\frac{Q_{\text{out}}}{Q_{\text{in}}}\) とも書けます。この形も重要です。
- 熱効率の範囲: 熱力学第二法則により、吸収した熱を100%仕事に変換することは不可能なため、熱効率 \(e\) は必ず1より小さくなります (\(0 \le e < 1\))。
具体的な解説と立式
熱効率 \(e\) は、吸収した熱量 \(Q_{\text{in}}\) に対する、外部にした仕事 \(W’\) の割合として、次の式で定義されます。
$$ e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{\text{in}}} \quad \cdots ② $$
問題文より \(Q_{\text{in}} = 90 \, \text{J}\)、そして設問(1)で求めた \(W’ = 27 \, \text{J}\) をこの式に代入します。
使用した物理公式
- 熱効率: \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{\text{in}}}\)
式②に \(W’=27\)、\(Q_{\text{in}}=90\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
e &= \displaystyle\frac{27}{90} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{3}{10} \\[2.0ex]&= 0.30
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁(\(90\), \(63\))なので、計算結果も有効数字2桁で \(0.30\) とします。
「効率」とは、「投入したコストに対して、どれだけの成果があったか」の割合です。
- 投入したコスト(吸収した熱): \(90\)\(\text{J}\)
- 得られた成果(した仕事): \(27\)\(\text{J}\)
効率を計算するには、「成果 ÷ コスト」を計算します。
$$ \text{効率} = 27 \div 90 = 0.3 $$
これは、投入した熱エネルギーの \(0.3\) 倍、つまり30%を有効な仕事に変換できた、ということを意味します。
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