問題の確認
thermodynamicsall#03各設問の思考プロセス
この問題は熱量の保存則を適用して解く典型的な問題です。「高温の物体が失った熱量」と「低温の物体が得た熱量」が等しくなるという関係(熱平衡)を利用します。状態変化(氷から水への融解)が関わる場合は、そのために必要な熱量(融解熱)も考慮に入れる必要があります。
- 熱量の計算方法の確認:
- 温度変化のみの場合: \(Q = mc\Delta T\)
- \(m\): 質量
- \(c\): 比熱
- \(\Delta T\): 温度変化(変化後の温度 – 変化前の温度、または高温と低温の差)
- 状態変化のみの場合(融解): \(Q = mL_f\)
- \(m\): 質量
- \(L_f\): 融解熱
- 温度変化のみの場合: \(Q = mc\Delta T\)
- 各物質の熱の出入りを整理:
- 低温側(氷): 温度上昇(氷の比熱を使用) \(\rightarrow\) 融解(融解熱を使用)
- 高温側(湯): 温度降下(水の比熱を使用)
- 最終的にすべての物質が \(0^{\circ}\text{C}\) の水になることを確認します。
- 熱量保存則の立式:
- (低温物体が得た熱量の合計) = (高温物体が失った熱量の合計)
- 水熱量計の熱容量は無視できるため、氷と湯の間でのみ熱のやり取りを考えます。
- 方程式を解く:
- 設問(1)では、氷の比熱 \(c\) を未知数として方程式を解きます。
- 設問(2)では、設問(1)で求めた氷の比熱 \(c\) を用い、氷の質量 \(m\) を未知数として方程式を解きます。
- 有効数字の考慮:
問題文で与えられた数値の有効数字に合わせて、最終的な答えを丸めます。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 氷の比熱 \(c \, \text{[J/(g}\cdot\text{K)]}\) を求めよ。
問われている内容の明確化:
状況1における熱量のやり取りから、氷の比熱 \(c\) を求めます。
具体的な解説と計算手順:
最終的にすべての物質が \(0^{\circ}\text{C}\) の水になります。熱量保存則より、「氷が得た熱量」=「湯が失った熱量」で立式します。
氷が得た熱量 \(Q_{\text{氷側}}\):
- \(-15^{\circ}\text{C}\) の氷 (\(50\,\text{g}\)) が \(0^{\circ}\text{C}\) の氷になるまでに得る熱量 \(Q_1\):使用した物理公式: 温度変化による熱量 \(Q = mc\Delta T\)
\(\Delta T_1 = 0^{\circ}\text{C} – (-15^{\circ}\text{C}) = 15 \, \text{K}\)
$$Q_1 = 50 \, \text{g} \times c \times 15 \, \text{K} = 750c \, \text{J}$$ - \(0^{\circ}\text{C}\) の氷 (\(50\,\text{g}\)) が \(0^{\circ}\text{C}\) の水になるまでに得る熱量(融解熱) \(Q_2\):使用した物理公式: 融解熱による熱量 \(Q = mL_f\)
$$Q_2 = 50 \, \text{g} \times (3.3 \times 10^2 \, \text{J/g}) = 50 \times 330 \, \text{J} = 16500 \, \text{J}$$
氷が得た熱量の合計は \(Q_{\text{氷側}} = Q_1 + Q_2 = (750c + 16500) \, \text{J}\)。
湯が失った熱量 \(Q_{\text{湯側}}\):
\(43^{\circ}\text{C}\) の湯 (\(100\,\text{g}\)) が \(0^{\circ}\text{C}\) の水になるまでに失う熱量 \(Q_3\):
\(\Delta T_2 = 43^{\circ}\text{C} – 0^{\circ}\text{C} = 43 \, \text{K}\)
$$Q_3 = 100 \, \text{g} \times 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)} \times 43 \, \text{K} = 18060 \, \text{J}$$
熱量保存則の適用:
$$Q_{\text{氷側}} = Q_{\text{湯側}}$$
$$750c + 16500 = 18060$$
$$750c = 18060 – 16500$$
$$750c = 1560$$
$$c = \frac{1560}{750} = 2.08$$
問題文の有効数字は2桁なので、\(c \approx 2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) となります。
計算方法の平易な説明:
- 氷がもらう熱:
- 氷が \(-15^{\circ}\text{C}\) から \(0^{\circ}\text{C}\) に温まる熱: \(50 \text{ g} \times c \times 15 \text{ K} = 750c \text{ J}\)
- 氷が \(0^{\circ}\text{C}\) で水にとける熱: \(50 \text{ g} \times 330 \text{ J/g} = 16500 \text{ J}\)
- 合計: \((750c + 16500) \text{ J}\)
- 湯があげる熱:
- 湯が \(43^{\circ}\text{C}\) から \(0^{\circ}\text{C}\) に冷める熱: \(100 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times 43 \text{ K} = 18060 \text{ J}\)
- 熱のつりあい: もらう熱 = あげる熱
$$750c + 16500 = 18060$$
これを解いて \(c = 2.08\)。有効数字2桁で \(2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)。
この設問における重要なポイント:
- 熱量保存則を正しく立式すること。
- 氷が得る熱量を「温度上昇」と「融解」の2段階で考えること。
- 単位と有効数字に注意して計算すること。
氷の比熱 \(c \approx 2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
(2) 湯に入れた氷の塊の質量 \(m \, \text{[g]}\) を求めよ。
問われている内容の明確化:
状況2における熱量のやり取りから、氷の塊の質量 \(m\) を求めます。この際、(1)で求めた氷の比熱 \(c\) の値(計算途中では \(c=2.08\) を用いるのが望ましい)を使用します。
具体的な解説と計算手順:
最終的にすべての物質が \(0^{\circ}\text{C}\) の水になります。
(1)で得た \(c = 2.08 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) を用います。
氷 (\(m\,\text{g}\)) が得た熱量 \(Q’_{\text{氷側}}\):
- \(-20^{\circ}\text{C}\) の氷が \(0^{\circ}\text{C}\) の氷になるまでに得る熱量 \(Q’_1\):
\(\Delta T’_1 = 0^{\circ}\text{C} – (-20^{\circ}\text{C}) = 20 \, \text{K}\)
$$Q’_1 = m \times 2.08 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)} \times 20 \, \text{K} = 41.6m \, \text{J}$$ - \(0^{\circ}\text{C}\) の氷が \(0^{\circ}\text{C}\) の水になるまでに得る熱量(融解熱) \(Q’_2\):
$$Q’_2 = m \times (3.3 \times 10^2 \, \text{J/g}) = 330m \, \text{J}$$
氷が得た熱量の合計は \(Q’_{\text{氷側}} = Q’_1 + Q’_2 = (41.6m + 330m) \, \text{J} = 371.6m \, \text{J}\)。
湯が失った熱量 \(Q’_{\text{湯側}}\):
\(70^{\circ}\text{C}\) の湯 (\(80\,\text{g}\)) が \(0^{\circ}\text{C}\) の水になるまでに失う熱量 \(Q’_3\):
\(\Delta T’_2 = 70^{\circ}\text{C} – 0^{\circ}\text{C} = 70 \, \text{K}\)
$$Q’_3 = 80 \, \text{g} \times 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)} \times 70 \, \text{K} = 23520 \, \text{J}$$
熱量保存則の適用:
$$Q’_{\text{氷側}} = Q’_{\text{湯側}}$$
$$371.6m = 23520$$
$$m = \frac{23520}{371.6} \approx 63.2669…$$
問題文の有効数字は2桁なので、\(m \approx 63 \, \text{g}\) となります。
計算方法の平易な説明:
- 氷 (\(m\,\text{g}\)) がもらう熱: (氷の比熱は \(2.08 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) を使う)
- 氷が \(-20^{\circ}\text{C}\) から \(0^{\circ}\text{C}\) に温まる熱: \(m \times 2.08 \times 20 = 41.6m \text{ J}\)
- 氷が \(0^{\circ}\text{C}\) で水にとける熱: \(m \times 330 = 330m \text{ J}\)
- 合計: \((41.6m + 330m) = 371.6m \text{ J}\)
- 湯があげる熱:
- 湯が \(70^{\circ}\text{C}\) から \(0^{\circ}\text{C}\) に冷める熱: \(80 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times 70 \text{ K} = 23520 \text{ J}\)
- 熱のつりあい: もらう熱 = あげる熱
$$371.6m = 23520$$
これを解いて \(m \approx 63.2669…\)。有効数字2桁で \(63 \, \text{g}\)。
この設問における重要なポイント:
- (1)で求めた氷の比熱 \(c\) の値(計算途中では丸める前の値を用いるとより正確)を使って計算を進める。
- 未知数が氷の質量 \(m\) である以外は、(1)と同様に熱量保存則を適用する。
- 最終的な答えは有効数字2桁で示す。
氷の塊の質量 \(m \approx 63 \, \text{g}\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 熱量保存の法則: 外部との熱の出入りがない場合、系内部での熱の移動において、高温物体が失う熱量と低温物体が得る熱量は等しい。
- 比熱: 物質 \(1\,\text{g}\) の温度を \(1\,\text{K}\) 上昇させるのに必要な熱量。\(Q=mc\Delta T\)。
- 融解熱: 固体 \(1\,\text{g}\) が融点で液体に変わるときに必要な熱量。\(Q=mL_f\)。状態変化中は温度は一定。
- 温度変化 \(\Delta T\): セルシウス温度(\(^{\circ}\text{C}\))の差もケルビン(K)の差も等しい。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 熱の移動プロセスを図示する: 各物質がどの温度からどの温度へ変化し、途中で状態変化があるかなどを簡単な図で整理すると、立式しやすくなる。
- 単位の統一: 計算前に質量(g)、温度(Kまたは\(^{\circ}\text{C}\)差)、エネルギー(J)の単位が揃っているか確認する。
- 有効数字: 問題文の数値の有効数字を確認し、計算結果もそれに合わせる。計算途中では多めの桁で計算し、最後に丸める。
- 水熱量計の熱容量: この問題では無視できるが、無視できない場合は容器の熱容量も熱量計算に含める必要がある。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 融解熱の見落とし: 氷がとける際には、温度上昇だけでなく融解のための熱量が必要なことを見落とす。
- 比熱の使い分けミス: 氷の比熱と水の比熱は異なるため、適切なものを使う。
- \(\Delta T\) の計算ミス: 特にマイナスの温度からの変化で符号を誤る。
- 最終温度の確認: 問題文で「\(0^{\circ}\text{C}\) の水になった」とある場合は、これが最終温度。混合後の最終温度が未知の場合は、それを文字で置いて解くことになる。
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