問題の確認
dynamics#18各設問の思考プロセス
この問題は、物体にはたらく基本的な力である「重力」と、流体(この場合は水)中にある物体特有の力である「浮力」に関する基本的な理解を問うものです。それぞれの力を定義から正しく計算できるかがポイントとなります。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- 重力の定義: 物体が地球(あるいは他の天体)から受ける引力のことで、その大きさは物体の質量に比例します。
- アルキメデスの原理: 流体中の物体は、その物体が押しのけている流体の重さに等しい大きさの浮力を受けます。
この問題を解くための手順は非常にシンプルです。
- (1) 重力の計算:
物体の質量 \(m\) と重力加速度の大きさ \(g\) が与えられているので、重力の定義式 \(W = mg\) を用いて直接計算します。 - (2) 浮力の計算:
アルキメデスの原理 \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{流体}} V_{\text{水中部分}} g\) を適用します。この問題では、物体は「全体を沈め」られているため、物体が押しのけている水の体積は物体の体積 \(V\) に等しくなります。また、水の密度は \(\rho_0\) と与えられています。
思考プロセスとしては、まず問われている力が何であるかを確認し、次に対応する物理法則や定義を思い出すことが重要です。そして、問題文で与えられた記号を正しく用いて立式し、計算を進めます。特に浮力に関しては、アルキメデスの原理を正確に適用することが求められます。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 物体が受けている重力の大きさを求めよ。
問われている内容の明確化
この設問では、地球が物体を引く力、すなわち物体にはたらく「重力」の大きさを求めます。
具体的な解説と立式
物体が地球から受ける重力の大きさ \(W\) は、物体の質量 \(m\) と重力加速度の大きさ \(g\) の積で表されます。これは物理学における重力の基本的な定義です。
$$W = mg \quad \cdots ①$$
この式は、質量を持つ全ての物体が重力場(この場合は地球の重力場)から受ける力を示しています。問題文で物体の質量は \(m\)、重力加速度の大きさは \(g\) と与えられていますので、これらの記号を用いて重力の大きさを表します。
質量 \(m\) の物体が受ける重力の大きさ \(W\) は、重力加速度の大きさを \(g\) とすると、
$$W = mg$$
である。
計算過程
「具体的な解説と立式」で示した式①が、そのまま解答となります。
物体の質量は \(m\)、重力加速度の大きさは \(g\) と与えられています。
したがって、物体が受けている重力の大きさ \(W\) は、これらの積で表されます。
$$W = mg$$
特別な計算は必要ありません。定義に基づいて記号を組み合わせるだけです。
計算方法の平易な説明
- 物体がどれくらいの力で地球に引かれるか(重力)は、その物体の「重さ」のことです。
- 物理では、重力の大きさは「物体の質量 \(m\)」に「重力加速度 \(g\)」(地球が物体を引っ張る力の強さの度合い)を掛けることで計算できます。
- したがって、重力の大きさは \(mg\) となります。
結論と吟味
物体が受けている重力の大きさは \(mg\) です。
単位について考えてみましょう。質量 \(m\) の単位がキログラム [kg]、重力加速度 \(g\) の単位がメートル毎秒毎秒 [m/s²] であるとき、重力の大きさの単位はニュートン [N] (または [kg・m/s²]) となります。これは力の単位として適切です。
この設問における重要なポイント
- 重力の大きさは、物体の質量 \(m\) と重力加速度の大きさ \(g\) の積 \(mg\) で表されることを理解しているか。
- 問題文で与えられた記号を正しく用いて解答できているか。
\(mg\)
(2) 物体が受けている浮力の大きさを求めよ。
問われている内容の明確化
この設問では、物体が水中にあることによって、水から受ける鉛直上向きの力、すなわち「浮力」の大きさを求めます。
具体的な解説と立式
流体中の物体が受ける浮力の大きさ \(F_{\text{浮力}}\) は、アルキメデスの原理によって与えられます。アルキメデスの原理によれば、浮力の大きさは、物体が押しのけた流体の重さに等しくなります。
これを数式で表すと、流体の密度を \(\rho_{\text{流体}}\)、物体が流体中に沈んでいる部分の体積を \(V_{\text{水中部分}}\)、重力加速度の大きさを \(g\) とすると、
$$F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{流体}} V_{\text{水中部分}} g \quad \cdots ②$$
となります。
この問題では、物体は水中に「全体を沈め」られています。したがって、物体が押しのけている水の体積は、物体の体積 \(V\) そのものです。また、水の密度は \(\rho_0\) と与えられています。
これらの情報を式②に適用すると、この物体が受ける浮力の大きさ \(F_{\text{浮力}}\) は、
$$F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g \quad \cdots ③$$
と表すことができます。ここで、\(\rho_0\) は水の密度、\(V\) は物体の体積(この場合は押しのけた水の体積に等しい)、\(g\) は重力加速度の大きさです。
流体中の物体が受ける浮力の大きさ \(F_{\text{浮力}}\) は、流体の密度を \(\rho_{\text{流体}}\)、物体が流体中に沈んでいる部分の体積(=押しのけた流体の体積)を \(V_{\text{水中部分}}\)、重力加速度の大きさを \(g\) とすると、
$$F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{流体}} V_{\text{水中部分}} g$$
である。この問題では、\(\rho_{\text{流体}} = \rho_0\)、\(V_{\text{水中部分}} = V\) に対応する。
計算過程
「具体的な解説と立式」で示した式③が、そのまま解答の基礎となります。
問題の条件を確認します。
- 水の密度: \(\rho_0\)
- 物体が押しのけた水の体積 (物体全体が沈んでいるため、物体の体積に等しい): \(V\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
これらの値をアルキメデスの原理の式 \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{流体}} V_{\text{水中部分}} g\) に代入します。
$$F_{\text{浮力}} = \rho_0 \times V \times g$$
したがって、物体が受けている浮力の大きさは、
$$F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g$$
となります。
特別な計算は必要ありません。アルキメデスの原理の公式に、問題で与えられた記号を正しく当てはめるだけです。
計算方法の平易な説明
- 物体が水のような液体の中にあると、液体から押し上げるような力(浮力)を受けます。
- この浮力の大きさは、「液体の密度 \(\rho_0\)」\(\times\)「物体が液体中に沈んでいる部分の体積 \(V_{\text{水中部分}}\)」\(\times\)「重力加速度 \(g\)」で計算できます(アルキメデスの原理)。
- この問題では、物体は完全に水に沈んでいるので、\(V_{\text{水中部分}}\) は物体の体積 \(V\) そのものです。水の密度は \(\rho_0\) です。
- したがって、浮力の大きさは \(\rho_0 V g\) となります。
結論と吟味
物体が受けている浮力の大きさは \(\rho_0 V g\) です。
単位について考えてみましょう。水の密度 \(\rho_0\) の単位がキログラム毎立方メートル [kg/m³]、物体の体積 \(V\) の単位が立方メートル [m³]、重力加速度 \(g\) の単位がメートル毎秒毎秒 [m/s²] であるとき、浮力の大きさの単位は、
[kg/m³] \(\times\) [m³] \(\times\) [m/s²] = [kg・m/s²]となり、これはニュートン [N]、つまり力の単位と一致します。これは物理的に妥当な結果です。
この設問における重要なポイント
- アルキメデスの原理 \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{流体}} V_{\text{水中部分}} g\) を正しく理解し、適用できるか。
- 問題の状況(物体が全体を水中に沈められている)から、\(V_{\text{水中部分}}\) が物体の体積 \(V\) に等しいことを把握できるか。
- 浮力の計算に用いる密度は、物体の密度ではなく「流体の密度(この場合は水の密度 \(\rho_0\))」であることを理解しているか。
\(\rho_0 V g\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 重力: 質量を持つ物体が互いに引き合う力、または惑星などがその表面近くの物体を引く力のこと。地表付近では、物体の質量 \(m\) に比例し、その大きさは \(mg\)(\(g\) は重力加速度)で与えられます。鉛直下向きにはたらきます。
- 浮力: 流体(液体や気体)中にある物体が、その物体によって押しのけられた流体の重さに等しい大きさの力を、鉛直上向きに受けるという現象、またはその力のこと。船が水に浮いたり、熱気球が空に昇ったりする原理です。
- アルキメデスの原理: 浮力の大きさを具体的に計算するための法則です。浮力の大きさ \(F_{\text{浮力}}\) は、流体の密度を \(\rho_{\text{流体}}\)、物体が流体中に沈んでいる部分の体積を \(V_{\text{水中部分}}\)(これは物体が押しのけた流体の体積に等しい)、重力加速度の大きさを \(g\) とすると、\(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{流体}} V_{\text{水中部分}} g\) と表されます。この公式は非常に重要なので、必ず覚えて使えるようにしましょう。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 力の図示: 物体にはたらく力を図に描き込むことは、問題を理解する上で非常に有効です。重力、浮力、そしてこの問題では糸の張力も考えられますが、問われている力に集中しましょう。
- 記号の確認: 問題文で与えられている記号(\(m, V, \rho_0, g\) など)が何を表しているのかを正確に把握し、解答にはこれらの記号を用いるようにしましょう。
- 体積の扱いに注意: アルキメデスの原理を用いる際、\(V_{\text{水中部分}}\) は「物体全体」の体積ではなく、「流体中に沈んでいる部分」の体積であることに注意が必要です。この問題では物体全体が沈んでいるため \(V\) となりましたが、一部だけが沈んでいる場合はその部分の体積を用います。
- 密度の区別: 浮力の計算で用いる密度は、常に「流体の密度」です。物体の密度と混同しないようにしましょう。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- (2) 浮力の計算における密度の誤り: 浮力の計算 \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\) において、水の密度 \(\rho_0\) の代わりに、もし物体の密度(この問題では与えられていませんが、もし与えられていたら)を使ってしまう間違いがあります。浮力は周囲の流体が物体を押し上げる力なので、流体の密度を使います。
- (2) 浮力の計算における体積の誤り: 物体が部分的にしか沈んでいない場合に、物体の全体の体積を使って浮력을計算してしまう間違いがあります。アルキメデスの原理で使う体積は、あくまで「流体中にある部分の体積」です。この問題では全体が沈んでいるので結果的に物体の体積 \(V\) で正しいですが、原理の理解としては区別が重要です。
- 力の方向: 重力は鉛直下向き、浮力は鉛直上向きにはたらきます。力のつりあいを考える問題では、これらの方向が重要になります。
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