問題の確認
electromagnetic#01各設問の思考プロセス
(1) 電子はどちらからどちらへ移動したか。
- 帯電状態の確認: エボナイト棒が負 (\(-8.0 \times 10^{-10}\) C) に帯電したことを確認します。
- 負帯電の原因理解: 物体が負に帯電するのは、負の電荷を持つ電子が外部から供給され、電子が過剰な状態になったためであることを理解します。
- 電子の供給源の特定: こすり合わせた相手である毛皮からエボナイト棒へ電子が移動したと結論付けます。
(2) このとき移動した電子の数は何個か。
- 関連する量の確認: エボナイト棒が帯びた総電気量 \(Q = -8.0 \times 10^{-10}\) C と、電子1個の電荷 \(q_e\) を確認します。電子の電荷は、電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C を用いて \(q_e = -e = -1.6 \times 10^{-19}\) C となります。
- 基本公式の適用: 物体が帯びた総電気量 \(Q\) は、移動した電子の数 \(N\) と電子1個の電荷 \(q_e\) の積、すなわち \(Q = N \times q_e\) で表されることを利用します。
- 電子の数の算出: 上記の式を \(N\) について解き、\(\displaystyle N = \frac{Q}{q_e}\) に値を代入して計算します。計算の際には、指数計算と有効数字の扱いに注意します。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 電子はどちらからどちらへ移動したか。
問われている内容の明確化:
摩擦帯電の際に、電子がエボナイト棒と毛皮の間で、どちらの物体からどちらの物体へ移動したのかを特定します。
具体的な解説と計算手順:
問題文より、エボナイト棒は \(-8.0 \times 10^{-10}\) C に帯電しました。この電気量の符号が負であることは、エボナイト棒が負の電荷を帯びたことを意味します。
物質が電気的に中性な状態から負に帯電するのは、原子の構成要素である電子(負の電荷を持つ粒子)を外部から余分に受け取った場合です。逆に、電子を失うと、物質は正に帯電します。
今回、エボナイト棒と毛皮をこすり合わせた結果、エボナイト棒が負に帯電したということは、エボナイト棒が電子を受け取った(電子の数が増えた)と考えられます。その電子は、こすり合わせた相手である毛皮から供給されたものです。よって、電子は毛皮からエボナイト棒へ移動したことになります。
このとき、毛皮は電子を失ったため、正に帯電することになります。
計算方法の平易な説明:
物体がマイナスの電気を帯びるということは、マイナスの電気の「つぶ」である電子がたくさんやって来た、ということです。エボナイト棒がマイナスになったので、こすり合わせた毛皮からエボナイト棒へと、電子がお引越ししてきたと考えられます。
この設問における重要なポイント:
- 物体の帯電の正負と、電子の過不足の関係を理解すること(負に帯電 \(\Rightarrow\) 電子過剰、正に帯電 \(\Rightarrow\) 電子不足)。
- 摩擦によって移動するのは主に電子であること。
電子は毛皮からエボナイト棒へ移動した。
(2) このとき移動した電子の数は何個か。
問われている内容の明確化:
毛皮からエボナイト棒へ移動した電子の総数を求めます。
具体的な解説と計算手順:
エボナイト棒が帯びた総電気量を \(Q\) とすると、\(Q = -8.0 \times 10^{-10}\) C です。
電子1個が持つ電気量(電荷)を \(q_e\) とします。問題文で「電子の電気量を \(1.6 \times 10^{-19}\) C とする」とありますが、これは電気素量の大きさ \(e\) を示しており、電子は負の電荷を持つため、電子1個の電荷は \(q_e = -e = -1.6 \times 10^{-19}\) C となります。
移動した電子の数を \(N\) 個とすると、エボナイト棒が受け取った(または移動した)総電荷 \(Q\) は、電子 \(N\) 個分の電荷に等しくなります。したがって、以下の関係式が成り立ちます。
$$Q = N \times q_e$$
この式を \(N\) について解くと、
$$N = \frac{Q}{q_e}$$
値を代入して計算します。
$$N = \frac{-8.0 \times 10^{-10} \text{ C}}{-1.6 \times 10^{-19} \text{ C}}$$
まず、数値部分と指数部分を分けて計算します。
数値部分:
$$\frac{-8.0}{-1.6} = \frac{8.0}{1.6} = \frac{80}{16} = 5.0$$
指数部分:
$$\frac{10^{-10}}{10^{-19}} = 10^{-10 – (-19)} = 10^{-10 + 19} = 10^9$$
したがって、移動した電子の数 \(N\) は、
$$N = 5.0 \times 10^9 \text{ 個}$$
使用した物理公式:
物体の帯びた電気量 \(Q\)、移動した電子の数 \(N\)、電子1個の電荷 \(q_e\) の関係:
$$Q = N \times q_e$$
計算方法の平易な説明:
エボナイト棒に集まったマイナスの電気全体の量が \(-8.0 \times 10^{-10}\) C だと分かっています。そして、電子1個が持つマイナスの電気の量は \(-1.6 \times 10^{-19}\) C です。
全体の電気の量を、電子1個あたりの電気の量で割り算すれば、何個の電子が集まったのか(移動したのか)が分かります。
具体的には、(\(-8.0 \times 10^{-10}\)) ÷ (\(-1.6 \times 10^{-19}\)) を計算します。
まず、(\(-8.0)\) ÷ (\(-1.6)\) = \(5.0\) です。
次に、\(10^{-10}\) ÷ \(10^{-19}\) は、指数のルールから \(10^{(-10 – (-19))} = 10^{(-10 + 19)} = 10^9\) となります。
合わせて、\(5.0 \times 10^9\) 個の電子が移動したことになります。これは50億個という大変な数です!
この設問における重要なポイント:
- エボナイト棒が帯びた電気量の合計を、電子1個の電気量(の絶対値ではなく、符号も含めた値)で割ることで電子の数が求められる。
- 指数計算(特に割り算)を正確に行うこと。
- 電子の電荷は負であるため、\(q_e = -1.6 \times 10^{-19}\) C を用いる。結果として、電子の数 \(N\) は正の値になる。
移動した電子の数は \(5.0 \times 10^9\) 個である。
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 摩擦帯電: 異なる物質同士をこすり合わせると、一方の物質から他方の物質へ電子が移動し、それぞれが正または負に帯電する現象です。どちらの物質が電子を受け取りやすいか(または失いやすいか)は、物質の組み合わせ(帯電列)によって決まります。
- 電荷の保存則: 閉じた系(外部との電気の出入りがない系)において、電気量の総和は常に一定に保たれます。この問題では、毛皮が失った電子の総量とエボナイト棒が得た電子の総量は等しくなります。
- 電気量の量子性: 物体が持つ電気量は、電気素量 \(e\) (約 \(1.6 \times 10^{-19}\) C) の整数倍になります。つまり、電気量は連続的な値をとらず、とびとびの値をとります。これは、電気の基本的な担い手が電子(または陽子)であることに起因します。
- 電子の電荷: 電子は負の電荷を持ち、その大きさは電気素量 \(e\) に等しい(つまり、電子1個の電荷は \(-e\))。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 帯電の符号の確認: 物体が正に帯電したか負に帯電したかによって、電子の移動方向が逆になります。問題文をよく読み、帯電の符号を正確に把握しましょう。
- 電子の電荷の扱い: 電子の電気量の「大きさ」が与えられているのか、それとも「電荷」そのものが与えられているのかを確認しましょう。電子の電荷は負なので、計算時には \(-1.6 \times 10^{-19}\) C を用いるのが適切です。
- 有効数字: 問題文で与えられている数値の有効数字を確認し、計算結果も適切な有効数字で答えましょう。この問題では、\(8.0 \times 10^{-10}\) と \(1.6 \times 10^{-19}\) がそれぞれ有効数字2桁なので、結果も \(5.0 \times 10^9\) と有効数字2桁で表すのが適切です。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 電子の移動方向の混同: 「正に帯電したから電子が集まった」というような誤解をしないように注意しましょう。正の帯電は電子が不足した状態、負の帯電は電子が過剰な状態です。
- 陽子の移動の誤解: 通常の摩擦帯電では、原子核を構成する陽子が移動することはなく、比較的動きやすい電子が移動します。
- 電気量の符号の扱いミス: 移動した電子の数を計算する際に、電気量の符号を考慮し忘れると、答えの符号がおかしくなったり、計算途中で混乱したりすることがあります。\(N = Q/q_e\) で \(Q\) と \(q_e\) が同符号であれば \(N\) は正しく正の値になります。
- 指数計算のケアレスミス: \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\) のような指数法則の適用を誤らないようにしましょう。特に、負の指数が含まれる場合の計算には注意が必要です。
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