無料でしっかり基礎固め!高校物理 問題演習「摩擦帯電:電子の移動方向と移動した電子の数の計算」

今回の問題

electromagnetic01

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「摩擦帯電と電気量の量子性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 摩擦帯電: 異なる物質をこすり合わせることで、一方から他方へ電子が移動し、物体が電気を帯びる現象です。
  • 電荷の正負: 物体が負の電荷を持つ電子を受け取ると負に帯電し、電子を失うと正に帯電します。
  • 電気量の量子性: 物体が帯びる電気量は、電気の最小単位である電気素量 \(e\) の整数倍になります。これは、電荷の担い手が電子であるためです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. エボナイト棒が負に帯電したという事実から、電子がどちらからどちらへ移動したのかを判断します。
  2. エボナイト棒が帯びた総電気量を、電子1個が持つ電気量(電気素量)で割ることで、移動した電子の総数を計算します。

電子はどちらからどちらへ移動したか。また、このとき移動した電子の数は何個か。

思考の道筋とポイント
この問題は2つのパートに分かれています。
前半は、帯電の符号から電子の移動方向を特定する定性的な問いです。物体が負に帯電する原因が、負の電荷を持つ電子の過剰であることを理解しているかがポイントです。
後半は、帯電した総電気量と電子1個の電気量の関係から、移動した電子の個数を計算する定量的な問いです。総電気量は「電子1個の電気量 × 電子の個数」で表されることを利用します。
この設問における重要なポイント

  • 物体の帯電の正負と、電子の過不足の関係を理解すること(負に帯電 \(\rightarrow\) 電子過剰、正に帯電 \(\rightarrow\) 電子不足)。
  • 摩擦によって移動するのは主に電子であること。
  • 電子1個の電荷は、電気素量 \(e\) を用いて \(-e\) と表されること。

具体的な解説と立式
電子の移動方向
問題文より、エボナイト棒は \(-8.0 \times 10^{-10}\) C に帯電しました。この電気量の符号が負であることは、エボナイト棒が負の電荷を帯びたことを意味します。
物質が電気的に中性な状態から負に帯電するのは、原子の構成要素である電子(負の電荷を持つ粒子)を外部から余分に受け取った場合です。
今回、エボナイト棒と毛皮をこすり合わせた結果、エボナイト棒が負に帯電したということは、エボナイト棒が電子を受け取ったと考えられます。その電子は、こすり合わせた相手である毛皮から供給されたものです。
したがって、電子は毛皮からエボナイト棒へ移動したことになります。(このとき、毛皮は電子を失ったため、正に帯電します。)

移動した電子の数
エボナイト棒が帯びた総電気量を \(Q\)、移動した電子の数を \(N\) 個、電子1個の電荷を \(-e\) とします。
ここで、\(Q = -8.0 \times 10^{-10}\) C、電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C です。
総電気量 \(Q\) は、電子 \(N\) 個分の電荷に等しくなるため、以下の関係式が成り立ちます。
$$Q = N \times (-e)$$
この式を \(N\) について解くと、
$$N = \frac{Q}{-e}$$
となります。

使用した物理公式

  • 電気量の量子性: \(Q = n \cdot q\) (\(n\): 粒子数, \(q\): 粒子1個の電荷)
計算過程

値を代入して \(N\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{-8.0 \times 10^{-10}}{-1.6 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]&= \frac{8.0}{1.6} \times \frac{10^{-10}}{10^{-19}}
\end{aligned}
$$
まず、数値部分と指数部分を分けて計算します。
数値部分:
$$ \frac{8.0}{1.6} = \frac{80}{16} = 5.0 $$
指数部分:
$$ \frac{10^{-10}}{10^{-19}} = 10^{-10 – (-19)} = 10^{-10 + 19} = 10^9 $$
したがって、移動した電子の数 \(N\) は、
$$ N = 5.0 \times 10^9 \text{ 個} $$
となります。

計算方法の平易な説明

物体がマイナスの電気を帯びるのは、マイナスの電気の「つぶ」である電子がたくさんやって来たからです。エボナイト棒がマイナスになったので、電子は毛皮からエボナイト棒へ移動しました。
次に、集まった電気の総量を、電子1個あたりの電気の量で割り算すれば、何個の電子が移動したのかが分かります。
(\(-8.0 \times 10^{-10}\)) ÷ (\(-1.6 \times 10^{-19}\)) を計算すると、\(5.0 \times 10^9\) となります。これは50億個という大変な数です。

結論と吟味

電子は毛皮からエボナイト棒へ移動し、その数は \(5.0 \times 10^9\) 個です。電子の数は正の整数になるはずであり、計算結果も正の値となっているため妥当です。また、有効数字も問題文に合わせて2桁で表現しています。

解答 電子は毛皮からエボナイト棒へ移動した。移動した電子の数は \(5.0 \times 10^9\) 個。

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電気量の量子性と電荷の担い手:
    • 核心: この問題の根底にあるのは、「電気」というものが「電子」という粒子によって運ばれる、という現代物理学の基本概念です。そして、どんな物体の電気量も、電子1個が持つ電気量(電気素量 \(e\))の整数倍になる(電気量の量子性)という事実です。
    • 理解のポイント:
      • 帯電の正体: 物体が帯電するのは、電子が移動して過不足が生じるからです。電子が増えれば負に、減れば正に帯電します。
      • 総電気量の計算: 物体の総電気量 \(Q\) は、電子の過不足数 \(N\) を使って \(Q = -Ne\)(電子が過剰な場合)または \(Q = +Ne\)(電子が不足な場合)と表せます。この関係式が、ミクロな電子の数とマクロな電気量を結びつけています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 正に帯電した場合: もしガラス棒を絹でこすって、ガラス棒が \(+3.2 \times 10^{-12}\) C に帯電した場合、電子はガラス棒から絹へ移動したことになります。移動した電子の数は、\(N = \frac{Q}{e} = \frac{3.2 \times 10^{-12}}{1.6 \times 10^{-19}} = 2.0 \times 10^7\) 個と計算できます。(この場合、失った電子の数を計算するので、正の電気素量 \(e\) で割ります)
    • 電流との関連: 導線に \(I\) [A] の電流が \(t\) [s] 間流れたとき、通過した電気量は \(Q=It\) [C] です。この間に通過した電子の数は、\(N = \frac{Q}{e} = \frac{It}{e}\) で計算できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 帯電の符号を確認: まず、物体の電気量が正か負かを確認します。これが電子の移動方向を決める最大のヒントです。
    2. 「電子の数」を問われたら割り算: 「電子の数は何個か?」と問われたら、ほぼ間違いなく「総電気量 ÷ 電気素量」の計算を行います。
    3. 電気素量の符号に注意: 計算に使う電気素量は、電子の電荷を考えるなら \(-e\)、失った電子の数を考えるなら \(e\) のように、状況に応じて符号を正しく設定します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の移動方向の混同:
    • 誤解: 「正に帯電したから、正の電気を持つ粒子が集まった」と考えてしまう。
    • 対策: 摩擦帯電や導線内の電流で移動するのは、基本的に負の電荷を持つ「電子」だけである、と覚えましょう。正の電荷を持つ陽子は原子核に強く束縛されているため、簡単には移動しません。正の帯電は「電子が出て行った抜け殻」の状態です。
  • 電気素量の符号ミス:
    • 誤解: 電子の数を計算する際に、\(N = \frac{-8.0 \times 10^{-10}}{1.6 \times 10^{-19}}\) のように、分母の符号を正にしてしまい、答えが負になってしまう。
    • 対策: 電子の「数」は必ず正の値になるはずです。計算結果が負になったら、どこかで符号の扱いを間違えたと気づくことができます。電子の電荷は \(-e\) であることを明確に意識して立式しましょう。
  • 指数計算のケアレスミス:
    • 誤解: \(\frac{10^{-10}}{10^{-19}}\) を \(10^{-10-19} = 10^{-29}\) や \(10^{10-19} = 10^{-9}\) のように間違える。
    • 対策: 指数の割り算は「上の指数 – 下の指数」です。\(a – (-b) = a+b\) となることを落ち着いて確認しましょう。不安な場合は、\(10^{-19}\) を分子に持ってくると \(10^{+19}\) になると考えて、\(10^{-10} \times 10^{19} = 10^{-10+19} = 10^9\) と計算するのも有効です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • なぜ \(Q=Ne\) なのか?:
    • 選定理由: これは公式というより、電気量の定義そのものです。
    • 適用根拠: 20世紀初頭のミリカンの油滴実験などにより、すべての電気現象の根源は「電気素量 \(e\)」という最小単位を持つ粒子(電子や陽子)の振る舞いであることが突き止められました。水道の蛇口から出る水が、目には連続的に見えても実際には膨大な数の水分子の集まりであるように、物体の電気量も、目には見えない電子という粒子の集合体です。したがって、全体の量(総電気量 \(Q\))は、単位量(電子1個の電荷 \(e\))と個数(\(N\))の掛け算で表される、というのは極めて自然な考え方です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 数値を分離して計算: \( \frac{8.0 \times 10^{-10}}{1.6 \times 10^{-19}} \) のような計算では、まず「係数部分(\(8.0/1.6\))」と「指数部分(\(10^{-10}/10^{-19}\))」に分けて、それぞれを個別に計算してから最後に合体させると、ミスが減り、検算もしやすくなります。
  • 有効数字を最後に意識する: 計算の途中では有効数字を気にせず、\(8.0/1.6 = 5\) のように計算を進め、最終的な答えを出す段階で「問題文が2桁だから、答えも5.0と2桁にしよう」と判断するのが効率的です。
  • 概算で見当をつける: 電気素量 \(e\) はおよそ \(10^{-19}\) C という非常に小さな値です。したがって、日常的な電気量(たとえ \(10^{-10}\) C でも)を生み出す電子の数は、非常に大きな数(\(10^9\) のオーダー)になるはずだ、と予測できます。計算結果が \(10^{-29}\) のような小さな値になったら、どこかで指数計算を間違えた可能性が高いと判断できます。

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