今回の問題
dynamics#11【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「自由落下と鉛直投げ下ろし」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等加速度直線運動の公式: 自由落下や鉛直投げ下ろしは、加速度が重力加速度\(g\)で一定の等加速度直線運動です。問題の条件に応じて、3つの基本公式(\(v = v_0 + at\), \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\), \(v^2 – v_0^2 = 2ay\))を適切に選択し、適用します。
- 座標軸の設定: 運動を数式で扱うために、原点と正の向きを最初に設定します。落下運動では、鉛直下向きを正とすると計算が簡潔になることが多いです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、鉛直下向きを正とし、塔の上を原点(\(y=0\))とする座標軸を設定します。
- (1), (2)では、自由落下(初速度\(v_0=0\))の条件で、等加速度直線運動の公式を用いて時間と速さを求めます。
- (3), (4)では、鉛直投げ下ろし(初速度\(v_0\)あり)の条件で、同様に公式を用いて初速度と最終的な速さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
自由落下させた小石が地上に達するまでの時間を求めます。自由落下は初速度が0の等加速度直線運動です。落下距離\(H\)と加速度\(g\)が分かっているので、これらの量と時間\(t\)を含む変位の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を用いて時間を計算します。
この設問における重要なポイント
- 自由落下は初速度 \(v_0 = 0\) の運動である。
- 変位、加速度、時間の関係式を正しく選択する。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とし、塔の上を原点(\(y=0\))とします。
小石が地上に達するまでの時間を\(t\)とします。
- 初速度 \(v_0 = 0\)
- 加速度 \(a = g\)
- 変位 \(y = H\)
等加速度直線運動の変位の公式にこれらの値を代入します。
$$ y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2 \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の公式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
式①に条件を代入します。
$$
\begin{aligned}
H &= 0 \cdot t + \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]H &= \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
これを\(t\)について解きます。\(t>0\)なので、
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{2H}{g} \\[2.0ex]t &= \sqrt{\frac{2H}{g}}
\end{aligned}
$$
高さ\(H\)から物が落ちる時間を求める問題です。自由落下の距離の公式は「距離 = \(\frac{1}{2} \times\) 重力加速度 \(\times\) 時間の2乗」です。これに当てはめると \(H = \frac{1}{2}gt^2\) となり、この式を時間\(t\)について解けば答えが求まります。
小石が地上に達するのは \(\sqrt{\frac{2H}{g}}\) 後です。文字式のままであり、物理的に妥当な表現です。
問(2)
思考の道筋とポイント
自由落下させた小石が地上に達した瞬間の速さを求めます。初速度\(v_0=0\)、変位\(H\)、加速度\(g\)が分かっています。時間の情報を使わずに速さを求めることができる公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を使うのが最も効率的です。
この設問における重要なポイント
- 時間の情報が不要な場合、\(v^2 – v_0^2 = 2ay\) の公式が便利である。
- 速さは正の値をとる。
具体的な解説と立式
地上に達したときの速さを\(v\)とします。
- 初速度 \(v_0 = 0\)
- 加速度 \(a = g\)
- 変位 \(y = H\)
時間を含まない等加速度直線運動の公式にこれらの値を代入します。
$$ v^2 – v_0^2 = 2ay \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度と変位の関係式: \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
式②に条件を代入します。
$$
\begin{aligned}
v^2 – 0^2 &= 2gH \\[2.0ex]v^2 &= 2gH
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正なので、
$$ v = \sqrt{2gH} $$
地面に着いたときの速さを求めます。時間の情報を使わない公式「最終的な速さの2乗 – 初めの速さの2乗 = 2 × 加速度 × 距離」を使います。初めの速さは0なので、「最終的な速さの2乗 = 2 × g × H」となり、これを解くと速さは \(\sqrt{2gH}\) となります。
地上に達したときの速さは \(\sqrt{2gH}\) です。この式はエネルギー保存則からも導かれる重要な関係式です。
問(3)
思考の道筋とポイント
今度は、同じ高さ\(H\)から初速度\(v_0\)で投げ下ろした場合を考えます。地上に達するまでの時間\(t_1\)が与えられているので、これらの情報(変位\(H\)、時間\(t_1\)、加速度\(g\))から未知の初速度\(v_0\)を逆算します。変位の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) が適しています。
この設問における重要なポイント
- 鉛直投げ下ろしは初速度が0ではない等加速度直線運動である。
- 変位の公式を用いて、未知の初速度を求める。
具体的な解説と立式
求める初速度を\(v_0\)とします。
- 初速度 \(v_0\) (未知)
- 加速度 \(a = g\)
- 変位 \(y = H\)
- 時間 \(t = t_1\)
等加速度直線運動の変位の公式①にこれらの値を代入します。
$$ H = v_0 t_1 + \frac{1}{2}gt_1^2 \quad \cdots ③ $$
この式を\(v_0\)について解きます。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の公式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
式③を\(v_0\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_0 t_1 &= H – \frac{1}{2}gt_1^2 \\[2.0ex]v_0 &= \frac{H}{t_1} – \frac{1}{2}gt_1
\end{aligned}
$$
距離\(H\)を時間\(t_1\)で落ちるための、最初の速さ\(v_0\)を求めます。距離の公式「距離 = 初速度 × 時間 + \(\frac{1}{2} \times\) 加速度 \(\times\) 時間の2乗」に、分かっている値を当てはめます。\(H = v_0 \times t_1 + \frac{1}{2}gt_1^2\)。この式を\(v_0\)について解けば答えが出ます。
与えた初速度は \(\displaystyle \frac{H}{t_1} – \frac{1}{2}gt_1\) です。もし重力がなければ、距離\(H\)を時間\(t_1\)で進むには速さ \(H/t_1\) が必要ですが、実際には重力が助けてくれるので、その分だけ初速度は小さくて済む、という物理的な意味合いも読み取れます。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)の状況で、地上に達したときの速さを求めます。初速度は(3)で求めた式で表され、加速度と時間が分かっています。これらの情報から最終的な速さを求めるには、速度の公式 \(v = v_0 + at\) を使うのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 前の設問で求めた結果(初速度)を利用する。
- 速度と時間の関係式を適用する。
具体的な解説と立式
地上に達したときの速さを\(v\)とします。
- 初速度 \(v_0 = \displaystyle \frac{H}{t_1} – \frac{1}{2}gt_1\) ((3)の結果)
- 加速度 \(a = g\)
- 時間 \(t = t_1\)
等加速度直線運動の速度の公式にこれらの値を代入します。
$$ v = v_0 + at \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度の公式: \(v = v_0 + at\)
式④に条件を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \left( \frac{H}{t_1} – \frac{1}{2}gt_1 \right) + g t_1 \\[2.0ex]&= \frac{H}{t_1} + \left( -\frac{1}{2} + 1 \right)gt_1 \\[2.0ex]&= \frac{H}{t_1} + \frac{1}{2}gt_1
\end{aligned}
$$
地面に着いたときの速さを求めます。速さの公式は「最終的な速さ = 初めの速さ + 加速度 × 時間」です。(3)で求めた初速度の式に、重力で加速された分の速さ(\(gt_1\))を足し合わせます。
地上に達したときの速さは \(\displaystyle \frac{H}{t_1} + \frac{1}{2}gt_1\) です。初速度に重力による速度増加分が加わった形になっており、妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等加速度直線運動の公式の応用能力:
- 核心: この問題は、自由落下と鉛直投げ下ろしという具体的な物理現象を、等加速度直線運動という抽象的なモデルに当てはめ、3つの基本公式を自在に使いこなせるかどうかが核心です。
- 理解のポイント: 物理現象を数式に翻訳する能力が問われています。「自由落下」→「\(v_0=0, a=g\)」、「投げ下ろし」→「\(v_0>0, a=g\)」のように、言葉と数式の対応を瞬時に行えることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直投げ上げ: 塔の上から物体を上向きに投げ上げる問題。この場合、鉛直上向きを正とすると、初速度は\(+v_0\)、加速度は\(-g\)となります。最高点に達した後、再び塔の高さまで戻ってきて、そこから落下していきます。
- エネルギー保存則の利用: (2)や(4)のように、速さを求める問題では力学的エネルギー保存則も有効です。例えば(2)では、初めの位置エネルギー\(mgH\)が、地面での運動エネルギー\(\frac{1}{2}mv^2\)に変換されるので、\(mgH = \frac{1}{2}mv^2\) から \(v=\sqrt{2gH}\) が直ちに導けます。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸を設定する: まず、原点と正の向きを決めます。落下運動では、運動の向きである鉛直下向きを正とすると、速度や変位が正の値となり、計算が楽になることが多いです。
- 既知の量と未知の量を整理する: 各設問について、「何が分かっていて(\(H, g, t_1\)など)、何を求めたいのか(\(t, v, v_0\)など)」を明確にします。
- 最適な公式を選ぶ: 整理した物理量を見て、どの公式を使えば最も少ない手間で解けるかを考えます。特に「時間の情報がないのに速さを聞かれた」場合は、\(v^2-v_0^2=2ay\)が有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 自由落下と投げ下ろしの混同:
- 誤解: 投げ下ろしの問題なのに、初速度を0として計算してしまう。
- 対策: 問題文の「自由落下」と「投げ下ろし」という言葉を明確に区別しましょう。自由落下は初速度0の特別な場合です。
- 文字計算でのミス:
- 誤解: (3)で\(v_0\)について解く際に、移項や割り算を間違える。例えば、\(v_0 = H/t_1 – \frac{1}{2}gt_1^2\) のように、\(t_1\)で割るのを忘れる。
- 対策: 文字式の計算は、焦らず一段階ずつ行いましょう。\(v_0 t_1 = \dots\) の形にしてから、最後に両辺を\(t_1\)で割る、という手順を踏むと確実です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 3つの公式の役割分担:
- 選定理由: 3つの公式は、5つの物理量(\(y, v_0, v, a, t\))のうち、異なる4つの量の関係を示しています。これにより、問題で与えられていない物理量(例えば時間\(t\))をわざわざ求めなくても、他の量を計算できる場合があります。
- 適用根拠:
- (1)では、\(v\)が未知で不要 → \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を選択。
- (2)では、\(t\)が未知で不要 → \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を選択。
- (3)では、\(v\)が未知で不要 → \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を選択。
- (4)では、\(y\)が未知で不要 → \(v = v_0 + at\) を選択。
このように、「どの物理量が含まれていないか」という視点で公式を選ぶと、最適な選択ができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理は丁寧に: (4)の計算 \(v = (\frac{H}{t_1} – \frac{1}{2}gt_1) + gt_1\) では、\(gt_1\)の項をまとめて \(\frac{1}{2}gt_1\) とすることを忘れないようにしましょう。同類項をまとめる意識が重要です。
- 単位を意識する: 例えば(3)の答え \(\frac{H}{t_1} – \frac{1}{2}gt_1\) の各項の単位を確認すると、\(\frac{[m]}{[s]}\) と \([m/s^2] \times [s] = [m/s]\) となり、どちらも速度の単位になっていることが分かります。このような単位チェックは、式の立て間違いを発見するのに役立ちます。
- 極端な場合を考える: (3)で、もし\(t_1\)が自由落下の時間 \(\sqrt{2H/g}\) と同じなら、初速度\(v_0\)は0になるはずです。実際に代入してみると、\(v_0 = \frac{H}{\sqrt{2H/g}} – \frac{1}{2}g\sqrt{2H/g} = \sqrt{gH/2} – \sqrt{gH/2} = 0\) となり、式が正しいことが確認できます。
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