問題の確認
electromagnetic#17各設問の思考プロセス
この問題は、平行板コンデンサーに関する基本的な物理量(電場、電位差、電気容量、静電エネルギー)と、極板間に働く力を、基本法則から順を追って導出していく、理論の理解を問う問題です。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- ガウスの法則から導かれる電場: 平行板コンデンサー内部の電場の強さは \(E = \frac{Q}{\epsilon_0 S}\) で与えられます。
- 一様な電場と電位差の関係: 電位差 \(V\) は \(V = Ed\) で計算できます。
- 電気容量と静電エネルギーの定義: 電気容量は \(C = Q/V\)、静電エネルギーは \(U = \frac{1}{2}QV\) などの式で定義されます。
- 仕事とエネルギーの関係: 物体を動かすのに要する仕事は、その物体系が持つポテンシャルエネルギー(ここでは静電エネルギー)の変化量に等しい、という関係 (\(F\Delta d = \Delta U\)) を用いて、力を求めることができます。
この思考プロセスに従い、各空欄を順番に埋めていきます。
- (1)の空欄 ア→イ→ウ→エ: まず電場\(E\)の公式を書き、それを使って電位差\(V\)を求め、さらに\(V\)を使って電気容量\(C\)を、そして最後に静電エネルギー\(U\)を求める、という数珠つなぎの計算を行います。
- (2)の空欄 オ→カ: まず(1)で求めたエネルギー\(U\)の式を使い、極板間距離が\(d\)から\(d+\Delta d\)に変化したときのエネルギーの変化量\(\Delta U\)を計算します。このとき、コンデンサーは孤立している(電荷Qが一定)と考えるのがポイントです。そして、仕事とエネルギーの関係 \(F\Delta d = \Delta U\) から、力\(F\)を導出します。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 電場・電位差・電気容量・静電エネルギー
問われている内容の明確化
平行板コンデンサーの基本的な4つの物理量、電場の強さ(ア)、電位差(イ)、電気容量(ウ)、静電エネルギー(エ)を、与えられた文字(\(Q, S, d, \epsilon_0\))を用いて表します。
具体的な解説と立式
(ア)電場の強さ \(E\)
ガウスの法則より、電荷\(Q\)が面積\(S\)の極板に分布しているとき、極板間の電場の強さ\(E\)は、
$$E = \frac{Q}{\epsilon_0 S}$$
で与えられます。
(イ)電位差 \(V\)
極板間の電場は一様なので、電位差\(V\)は電場の強さ\(E\)と距離\(d\)の積で表せます。
$$V = Ed$$
これに(ア)で求めた\(E\)を代入します。
(ウ)電気容量 \(C\)
電気容量の定義は \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) です。これに(イ)で求まる\(V\)の式を代入します。
(エ)静電エネルギー \(U\)
静電エネルギーの公式の一つ \(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV\) を使います。これに(イ)で求まる\(V\)の式を代入します。
使用した物理公式:
- コンデンサーの電場: \(E = \frac{Q}{\epsilon_0 S}\)
- 一様な電場と電位差: \(V = Ed\)
- 電気容量の定義: \(C = Q/V\)
- 静電エネルギー: \(U = \frac{1}{2}QV\)
計算過程
それぞれの立式したものを整理して、解答の形にします。
(ア)電場の強さ \(E\)
$$E = \frac{Q}{\epsilon_0 S}$$
(イ)電位差 \(V\)
$$
\begin{aligned}
V &= Ed \\[2.0ex]&= \left(\frac{Q}{\epsilon_0 S}\right)d \\[2.0ex]&= \frac{Qd}{\epsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
(ウ)電気容量 \(C\)
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{Q}{V} \\[2.0ex]&= \frac{Q}{\frac{Qd}{\epsilon_0 S}} \\[2.0ex]&= Q \cdot \frac{\epsilon_0 S}{Qd} \\[2.0ex]&= \frac{\epsilon_0 S}{d}
\end{aligned}
$$
(エ)静電エネルギー \(U\)
$$
\begin{aligned}
U &= \frac{1}{2}QV \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}Q \left(\frac{Qd}{\epsilon_0 S}\right) \\[2.0ex]&= \frac{Q^2 d}{2\epsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
ア: \(\displaystyle\frac{Q}{\epsilon_0 S}\)
イ: \(\displaystyle\frac{Qd}{\epsilon_0 S}\)
ウ: \(\displaystyle\frac{\epsilon_0 S}{d}\)
エ: \(\displaystyle\frac{Q^2 d}{2\epsilon_0 S}\)
(2) 極板間に作用する力の大きさ
問われている内容の明確化
極板間に働く力の大きさ \(F\) を、静電エネルギーの変化から導出します。
具体的な解説と立式
(オ)静電エネルギーの変化量 \(\Delta U\) の係数
極板を \(\Delta d\) だけ動かすとき、コンデンサーは電気的に孤立していると考えるため、電荷 \(Q\) は一定です。
(1)のエで求めた静電エネルギーの式 \(U = \frac{Q^2 d}{2\epsilon_0 S}\) を、距離 \(d\) の関数 \(U(d)\) とみなします。
距離が \(d + \Delta d\) になったときの新しいエネルギー \(U’\) は、
$$U’ = U(d+\Delta d) = \frac{Q^2 (d+\Delta d)}{2\epsilon_0 S}$$
エネルギーの変化量 \(\Delta U\) は、\(U’ – U\) で計算できます。
$$\Delta U = \frac{Q^2 (d+\Delta d)}{2\epsilon_0 S} – \frac{Q^2 d}{2\epsilon_0 S}$$
この式を整理し、\(\Delta U = \fbox{オ} \times \Delta d\) の形にします。
(カ)力の大きさ \(F\)
極板を動かす外力がした仕事 \(W_{\text{外力}} = F\Delta d\) は、静電エネルギーの増加量 \(\Delta U\) に等しくなります。
$$F \Delta d = \Delta U$$
この関係式から、力 \(F\) を求めます。
$$W_{\text{外力}} = F \Delta d = \Delta U$$
計算過程
(オ)の計算
\(\Delta U\) の式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{Q^2 (d+\Delta d)}{2\epsilon_0 S} – \frac{Q^2 d}{2\epsilon_0 S} \\[2.0ex]&= \frac{Q^2 d + Q^2 \Delta d – Q^2 d}{2\epsilon_0 S} \\[2.0ex]&= \frac{Q^2 \Delta d}{2\epsilon_0 S} \\[2.0ex]&= \left(\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}\right) \Delta d
\end{aligned}
$$
この結果を \(\Delta U = \fbox{オ} \times \Delta d\) と比較すると、オに当てはまるのは \(\displaystyle\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}\) であることがわかります。
(カ)の計算
仕事とエネルギーの関係式 \(F\Delta d = \Delta U\) に、上で求めた \(\Delta U\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
F \Delta d &= \left(\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}\right) \Delta d
\end{aligned}
$$
両辺の \(\Delta d\) を消去すると、
$$F = \frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}$$
となります。
計算方法の平易な説明
- (オ): 極板を引き離すとき、電荷Qは一定です。エネルギーの式 \(U = \frac{Q^2 d}{2\epsilon_0 S}\)を見ると、エネルギーUは距離dに比例することがわかります。距離が\(\Delta d\)増えれば、エネルギーもそれに比例して\(\Delta U\)だけ増えます。その比例係数が(オ)です。
- (カ): 極板間に働く力に逆らって、\(\Delta d\)だけ動かすのに必要な仕事は「\(F \times \Delta d\)」です。この仕事は、コンデンサーのエネルギーの増加分\(\Delta U\)と等しくなります。つまり、\(F \Delta d = \Delta U\)です。この式と(オ)の結果を比べると、力が求まります。
オ: \(\displaystyle\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}\)
カ: \(\displaystyle\frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- コンデンサーの基本物理量: 電場\(E\)、電位差\(V\)、電気容量\(C\)、静電エネルギー\(U\)の4つの量は、互いに密接に関連しています。\(E=\frac{Q}{\epsilon_0 S}\), \(V=Ed\), \(C=Q/V\), \(U=\frac{1}{2}QV\) の関係を理解し、自在に導出・変換できることが重要です。
- 仕事とエネルギーの関係: \(W = \Delta U\) や \(F = -\frac{dU}{dx}\) のように、力とエネルギー(ポテンシャルエネルギー)は密接な関係にあります。エネルギーの変化量から力を求めるこの手法は、物理学で広く用いられる強力なアプローチです。
- 極板間引力の起源: (2)で求めた力 \(F\) は、片方の極板が、もう片方の極板だけが作る電場から受ける力です。もう片方の極板が作る電場の強さは \(E’ = \frac{Q}{2\epsilon_0 S}\)(全体の電場Eの半分)なので、力は \(F=QE’ = Q \times \frac{Q}{2\epsilon_0 S} = \frac{Q^2}{2\epsilon_0 S}\) と計算することもでき、結果が一致します。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 導出の流れを理解する: この問題は、コンデンサーに関する一連の公式を導出するプロセスそのものです。公式を単に暗記するのではなく、なぜその形になるのか、という導出の流れを理解しておくことが応用力を高めます。
- どの変数が一定かを見極める: (2)の計算では、コンデンサーが孤立しているため電荷\(Q\)が一定であると仮定してエネルギー変化を計算しました。もし電池に接続したまま極板を動かすと、今度は電圧\(V\)が一定となるため、エネルギー変化の計算式が変わってきます(その場合 \(U=\frac{1}{2}CV^2\) を使うと便利)。
- 文字式の計算に慣れる: 理論的な問題では、具体的な数値ではなく文字式のまま計算を進めることが多いです。分数の計算や、式の代入・整理に慣れておきましょう。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 極板間引力の計算ミス: よくある間違いは、極板間の電場が \(E=\frac{Q}{\epsilon_0 S}\) だからといって、力も \(F=QE\) としてしまうことです。これは正しい力の2倍の値を与えてしまいます。上述の通り、力は「もう片方の極板が作る電場」から受けるためです。エネルギーから導出する方法は、この間違いを回避できる点で優れています。
- 各公式の依存関係の混同: 例えば、静電エネルギーを計算する際に、どの公式(\(1/2QV\), \(1/2CV^2\), \(Q^2/2C\))を使うかで、どの変数が一定の時に計算しやすいかが変わってきます。それぞれの公式の形と、含まれる変数を意識することが重要です。
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