今回の問題
dynamics#07【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「v-tグラフの解釈」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- v-tグラフと物理量の関係: 速度(\(v\))-時間(\(t\))グラフにおいて、グラフの「傾き」が加速度を、「面積」が移動距離(変位)を表すという2つの重要な関係を理解していることが全ての基本となります。
- 速度の符号と運動の向き: v-tグラフで速度が正(\(v>0\))の領域は物体が正の向きに、負(\(v<0\))の領域は負の向きに運動していることを示します。速度が0になる点は、運動の向きが変わる転換点です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、v-tグラフの傾きを計算して加速度を求めます。
- (2)では、v-tグラフと時間軸で囲まれた部分の面積を計算して、進んだ距離を求めます。
- (3)では、\(t=2.0\) s 以降のグラフの形状(速度の符号や傾き)から、物体の運動の様子を物理的に説明します。
問(1)
思考の道筋とポイント
v-tグラフが与えられたとき、加速度を求めるにはグラフの傾きを計算します。傾きは「縦軸の変化量 ÷ 横軸の変化量」で求められます。グラフから、計算しやすい2点の座標(時刻と速度)を正確に読み取ることが重要です。
この設問における重要なポイント
- v-tグラフの傾きが加速度\(a\)を表すことを理解している。
- グラフから2点の座標を正確に読み取る。
- 傾きが負になる場合、加速度も負の値になることに注意する。
具体的な解説と立式
加速度\(a\)は、v-tグラフの傾きに等しいです。
$$ a = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{\text{速度の変化量}}{\text{時間の変化量}} \quad \cdots ① $$
グラフから、以下の2点の座標を読み取ります。
- 点1(始点): (\(t_1, v_1\)) = (\(0, 20\))
- 点2(t軸との交点): (\(t_2, v_2\)) = (\(2.0, 0\))
これらの値を式①に代入して、加速度を計算します。
使用した物理公式
- 加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
読み取った座標を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1} \\[2.0ex]&= \frac{0 – 20}{2.0 – 0} \\[2.0ex]&= \frac{-20}{2.0} \\[2.0ex]&= -10
\end{aligned}
$$
したがって、加速度は \(-10 \, \text{m/s}^2\) となります。
加速度は、v-tグラフの傾きです。グラフを見ると、横に \(2.0\) 進む間に、縦に \(20\) 下がっています(変化量は \(-20\))。したがって、傾きは「縦の変化 ÷ 横の変化」で \(-20 \div 2.0 = -10\) となります。加速度は \(-10 \, \text{m/s}^2\) です。
加速度は \(-10 \, \text{m/s}^2\) です。負の符号は、初速度の向きと逆向きに加速度が生じていること(減速していること)を示しており、グラフの右下がりの形状と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
v-tグラフにおいて、グラフと時間軸で囲まれた部分の面積は、物体の移動距離(変位)を表します。\(t=0\) から \(t=2.0\) s までの間に進んだ距離を求めるには、この区間のグラフが作る図形(この場合は三角形)の面積を計算します。
この設問における重要なポイント
- v-tグラフの面積が移動距離(変位)を表すことを理解している。
- 三角形の面積を正しく計算する。
具体的な解説と立式
\(t=0\) から \(t=2.0\) s の間に進んだ距離 \(x\) は、v-tグラフのこの区間の面積に等しいです。
この図形は、底辺が \(2.0\) s、高さが \(20\) m/s の直角三角形です。
三角形の面積の公式を用いて、距離 \(x\) を計算します。
$$ x = \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- v-tグラフの面積と変位の関係
式②に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{1}{2} \times 2.0 \times 20 \\[2.0ex]&= 20
\end{aligned}
$$
したがって、2.0秒間に進んだ距離は \(20\) m となります。
v-tグラフで囲まれた面積は、進んだ距離を表します。0秒から2.0秒までの部分は、底辺が2.0、高さが20の三角形になっています。この三角形の面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で計算できるので、\(2.0 \times 20 \div 2 = 20\) m となります。
2.0秒間に進んだ距離は \(20\) m です。等加速度運動の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) に \(v_0=20, a=-10, t=2.0\) を代入しても \(x = 20 \times 2.0 + \frac{1}{2}(-10)(2.0)^2 = 40 – 20 = 20\) m となり、同じ結果が得られます。
問(3)
思考の道筋とポイント
\(t=2.0\) s 以降のグラフの様子を読み取ります。\(t=2.0\) s でグラフは時間軸を横切り、速度が正から負に変わります。これは運動の向きが反転したことを意味します。グラフの傾きは一定なので、加速度は変わらず、負の向きに加速していく運動となります。
この設問における重要なポイント
- 速度の符号(正負)が運動の向きを表すことを理解する。
- \(v=0\) となる点が、運動の向きの転換点であることを把握する。
- 傾きが一定であることから、加速度が一定の運動が続くことを読み取る。
具体的な解説と立式
v-tグラフから、\(t=2.0\) s 以降の運動の様子を分析します。
- \(t=2.0\) s の瞬間: グラフが時間軸と交わっており、速度 \(v=0\) m/s となります。これは、物体が一瞬だけ静止したことを意味します。
- \(t > 2.0\) s の領域: グラフは時間軸の下側(\(v<0\))にあります。これは、速度が負になったこと、つまり物体が初めの運動方向とは逆向きに動き始めたことを示します。
- 加速度: グラフは直線のままであり、その傾きは(1)で求めた通り \(a = -10 \, \text{m/s}^2\) で一定です。
これらの情報をまとめると、\(2.0\) 秒以後の運動は、「初めの運動方向とは逆向きに、だんだん速さを増していく等加速度直線運動」となります。
グラフを見ると、2.0秒の時点で速度が0になっています。これは一瞬止まったということです。その後、グラフは時間軸より下に入っていくので、速度がマイナスになります。これは、Uターンして反対向きに進み始めたことを意味します。グラフの傾きは変わらないので、加速度はずっと同じです。つまり、反対向きにどんどんスピードを上げていく運動をします。
運動の様子を説明するには、「どの向きに」「どのような種類の運動(等速、等加速度など)をするか」を明確に記述する必要があります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- v-tグラフの二大原則「傾き=加速度」「面積=変位」:
- 核心: この問題は、v-tグラフが持つ2つの重要な物理的意味を完全に理解し、自在に使いこなせるかを試すものです。
- 理解のポイント:
- 傾きが加速度: 速度の時間変化率が加速度の定義そのものであるため、グラフの傾きは加速度を表します。右上がりなら正の加速度、右下がりなら負の加速度です。
- 面積が変位: \(v \times t\) が距離になることから、微小時間における移動距離は \(v \Delta t\) となり、これを足し合わせる(積分する)操作がグラフの面積を求めることに対応します。
この2つの原則さえ押さえていれば、等加速度運動の公式を忘れても解くことが可能です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 出発点に戻る時刻を求める: 物体が出発点に戻るのは、総変位が0になるときです。v-tグラフで、時間軸より上側の面積と下側の面積の大きさが等しくなる時刻を求めればよいです。この問題では、\(t=4.0\) s のとき、下側の三角形の面積も20mとなり、総変位が0になります。
- x-tグラフやa-tグラフへの変換: v-tグラフから、各時刻の位置(面積を計算)や加速度(傾きを計算)を求め、x-tグラフやa-tグラフを描かせる問題も頻出です。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: まず、縦軸がv(速度)、横軸がt(時間)であることを確認します。これがx-tグラフなら、解釈は全く異なります。
- グラフの重要な点に印をつける: \(t=0\)の切片(初速度)、時間軸との交点(速度が0になる点)、グラフの折れ曲がり点(加速度が変化する点)など、特徴的な点に印をつけると、運動の全体像が把握しやすくなります。
- 問われている物理量とグラフの関係を対応させる:
- 「加速度は?」→「傾きを計算しよう」
- 「距離は?」→「面積を計算しよう」
- 「運動の様子は?」→「速度の符号(向き)と大きさの変化を見よう」
と、問いと操作を直結させます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 傾きと面積の混同:
- 誤解: 加速度を求めるときに面積を計算したり、距離を求めるときに傾きを計算したりする。
- 対策: 「かたむきはかそくど(”か”で始まる)」のように、語呂合わせで覚えるのも一つの手です。また、単位で考えると、傾きは (m/s)/s = \(\text{m/s}^2\)(加速度の単位)、面積は (m/s)×s = m(距離の単位)となり、混同を防げます。
- 距離と変位の混同:
- 誤解: \(t=0\) から \(t=4.0\) s までの「移動距離」を問われたときに、総変位である0mと答えてしまう。
- 対策: 「変位」は位置の変化(スタートからゴールへのベクトル)、「距離」は実際に動いた道のりです。v-tグラフでは、時間軸より下側の面積は負の変位を意味しますが、距離を計算する際はその絶対値を足し合わせます。この問題の場合、4.0秒間の移動距離は \(20\text{m} + |-20\text{m}| = 40\text{m}\) となります。
- 負の加速度の解釈ミス:
- 誤解: 加速度が負だから、常に減速していると思い込む。
- 対策: 加速度の符号はあくまで向きを表します。\(t>2.0\)s の区間では、速度も加速度も負なので、物体は負の向きに「加速」しています。速度と加速度の符号が同じなら加速、違うなら減速、と覚えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- v-tグラフが運動の基本である理由:
- 選定理由: 速度\(v\)は位置\(x\)を時間\(t\)で微分したもの(\(v = dx/dt\))、加速度\(a\)は速度\(v\)を時間\(t\)で微分したもの(\(a = dv/dt\))です。逆に、変位は速度を時間で積分したもの(\(\Delta x = \int v dt\))です。
- 適用根拠: この微分・積分の関係が、v-tグラフの「傾き」と「面積」に直接対応しています。
- 微分 → 傾きを求める操作
- 積分 → 面積を求める操作
したがって、v-tグラフは運動の情報を最も集約的に表現しており、このグラフさえあれば、微分によって加速度を、積分によって変位を、どちらも求めることができる万能なツールなのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 座標を書き出す: グラフから読み取った点の座標を「(0, 20), (2.0, 0)」のように、計算式の近くに明記しましょう。これにより、読み間違いや代入ミスを防げます。
- 面積計算は図形を明記: 「底辺2.0、高さ20の三角形の面積」のように、どの図形の面積を計算しているのかを言葉で補うと、思考が整理され、検算もしやすくなります。
- 符号の扱いは慎重に: 傾きの計算で \((v_2 – v_1)\) や \((t_2 – t_1)\) を行う際、引き算の順序と符号に細心の注意を払いましょう。
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