今回の問題
thermodynamicsall#20【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「T-Vグラフで与えられた熱力学サイクル」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)。内部エネルギーの変化量、気体が吸収した熱量、気体がした仕事の関係を表す基本法則です。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。気体の状態量(圧力、体積、温度、物質量)を結びつけます。T-Vグラフから圧力の情報を得るために不可欠です。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。内部エネルギーが絶対温度だけで決まることを示します。
- 熱効率の定義: \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\)。熱機関が吸収した熱のうち、どれだけを仕事に変換できたかを示す割合です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、T-Vグラフから各状態(A, B, C, D)の体積と温度を読み取り、状態方程式を用いて圧力も特定します。これにより、各過程がどのような状態変化(定積、定圧、等温など)なのかを判断します。
- (1)では、過程A→Bが定積変化であることを見抜き、熱力学第一法則を適用して吸収熱量を計算します。
- (2)では、熱効率の定義式 \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\) と、サイクル全体でのエネルギー保存則 (\(W_{\text{正味}} = Q_{\text{正味}}\)) を用いて、与えられた記号で熱効率を表します。
問(1)
思考の道筋とポイント
過程A→Bで気体が吸収する熱量 \(Q_1\) を求める問題です。熱量を求めるには、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を利用するのが基本です。まず、T-Vグラフから過程A→Bがどのような状態変化かを特定し、それに応じた内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) と仕事 \(W\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- T-Vグラフから、過程A→Bは体積が \(V_0\) で一定の「定積変化」であると読み取る。
- 定積変化では、気体は外部に仕事をしないので \(W=0\)。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化は、温度変化 \(\Delta T\) を用いて \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) と表せる。
- 熱力学第一法則より、定積変化では \(Q = \Delta U\) となる。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、気体が吸収する熱量 \(Q_1\) は、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) と気体がした仕事 \(W_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) を用いて、
$$ Q_1 = \Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} + W_{\text{A}\rightarrow\text{B}} \quad \cdots ① $$
と表せます。
1. 仕事 \(W_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) の計算
過程A→Bは、T-Vグラフから体積が \(V_0\) で一定の定積変化です。体積が変化しないので、気体が外部にする仕事は0です。
$$ W_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = 0 $$
2. 内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) の計算
気体は1 molの単原子分子理想気体なので、内部エネルギーの変化は
$$ \Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = \frac{3}{2}nR(T_B – T_A) $$
と表せます。T-Vグラフから、\(n=1\), \(T_A = T_0\), \(T_B = 2T_0\) を読み取って代入すると、
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} &= \frac{3}{2} \times 1 \times R \times (2T_0 – T_0) \\
&= \frac{3}{2}RT_0
\end{aligned}
$$
これらの結果を式①に代入して \(Q_1\) を求めます。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
- 定積変化の仕事: \(W=0\)
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= \Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} + W_{\text{A}\rightarrow\text{B}} \\
&= \frac{3}{2}RT_0 + 0 \\
&= \frac{3}{2}RT_0
\end{aligned}
$$
熱の出入りは、「内部エネルギーの変化」と「気体がした仕事」の合計です。
過程A→Bは、グラフの線が垂直なので「定積変化」です。体積が変わらないので、気体はピストンを押すなどの仕事をしません。つまり「した仕事」は0です。
したがって、吸収した熱はすべて「内部エネルギーの変化」になります。
単原子分子気体の内部エネルギーの変化は「\(\frac{3}{2}nR \times (\text{温度変化})\)」で計算できます。温度は \(T_0\) から \(2T_0\) へ \(T_0\) だけ上昇したので、内部エネルギーの変化は \(\frac{3}{2}R T_0\) となります。これがそのまま吸収した熱量です。
過程A→Bで気体が吸収する熱量は \(\displaystyle\frac{3}{2}RT_0\) です。温度が上昇しているので内部エネルギーは増加しており、吸熱過程であることと一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
熱サイクルの熱効率 \(e\) を、各過程で吸収した熱量 \(Q_1, Q_2, Q_3, Q_4\) を用いて表す問題です。熱効率の定義と、熱力学第一法則をサイクル全体に適用したときのエネルギー保存則を理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント
- 熱効率の定義は \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\)。ここで \(W_{\text{正味}}\) は1サイクルで気体がした正味の仕事、\(Q_{\text{吸収}}\) は1サイクルで気体が吸収した熱量の総和(正の値のみを足し合わせる)。
- 熱力学第一法則を1サイクルに適用すると、状態が元に戻るため内部エネルギーの変化は \(\Delta U_{\text{サイクル}} = 0\)。
- したがって、\(0 = Q_{\text{正味}} – W_{\text{正味}}\) となり、\(W_{\text{正味}} = Q_{\text{正味}}\) が成り立つ。ここで \(Q_{\text{正味}}\) は1サイクルでの正味の吸収熱量で、\(Q_{\text{正味}} = Q_1 + Q_2 + Q_3 + Q_4\)。
具体的な解説と立式
熱効率 \(e\) の定義は、
$$ e = \frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}} \quad \cdots ① $$
です。
1. 正味の仕事 \(W_{\text{正味}}\) の計算
1サイクル後、気体は元の状態Aに戻るため、サイクル全体の内部エネルギーの変化は \(\Delta U_{\text{サイクル}} = 0\) です。
熱力学第一法則をサイクル全体に適用すると、
$$ \Delta U_{\text{サイクル}} = Q_{\text{正味}} – W_{\text{正味}} $$
$$ 0 = (Q_1 + Q_2 + Q_3 + Q_4) – W_{\text{正味}} $$
したがって、1サイクルで気体がした正味の仕事は、1サイクルで吸収した正味の熱量に等しくなります。
$$ W_{\text{正味}} = Q_1 + Q_2 + Q_3 + Q_4 $$
2. 吸収した熱量 \(Q_{\text{吸収}}\) の特定
\(Q_{\text{吸収}}\) は、サイクル中に気体が吸収した熱量、すなわち \(Q_1, Q_2, Q_3, Q_4\) のうち、正の値を持つものの総和です。各過程が吸熱か放熱かを判断する必要があります。
- 過程A→B: (1)より \(Q_1 = \frac{3}{2}RT_0 > 0\)。吸熱です。
- 過程B→C: T-Vグラフで原点を通る直線は定圧変化を表します。この過程は原点を通る直線よりも傾きが急なので、圧力が上昇しながら膨張しています。温度も \(2T_0 \to 4T_0\) と上昇。内部エネルギーも増加し、外部に正の仕事もするので、\(Q_2 = \Delta U + W > 0\)。吸熱です。
- 過程C→D: T-Vグラフで水平な直線は等温変化を表します。この過程は等温変化で体積が増加(膨張)しています。内部エネルギーは変化せず、外部に正の仕事をするので、\(Q_3 = W > 0\)。吸熱です。
- 過程D→A: T-Vグラフで原点を通る直線は定圧変化を表します。この過程は原点を通る直線よりも傾きが緩やかなので、圧力が減少しながら圧縮しています。温度も \(4T_0 \to T_0\) と下降。内部エネルギーも減少し、外部から負の仕事をされるので、\(Q_4 = \Delta U + W < 0\)。放熱です。
したがって、吸収した熱量の総和は、
$$ Q_{\text{吸収}} = Q_1 + Q_2 + Q_3 $$
これらの結果を式①に代入します。
使用した物理公式
- 熱効率の定義: \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\)
- 熱力学第一法則(サイクル): \(W_{\text{正味}} = Q_{\text{正味}}\)
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}} \\
&= \frac{Q_1 + Q_2 + Q_3 + Q_4}{Q_1 + Q_2 + Q_3}
\end{aligned}
$$
熱効率とは、「使った熱エネルギーのうち、どれだけを仕事に変えられたか」という割合のことです。式で書くと「(正味の仕事)÷(吸収した熱の合計)」となります。
まず「正味の仕事」を考えます。1周して元の場所に戻ってくると、温度も元通りなので、内部エネルギーの増減は差し引きゼロです。このとき、熱力学のルールから「正味の仕事」は「熱の出入りの合計(\(Q_1+Q_2+Q_3+Q_4\))」と等しくなります。
次に「吸収した熱の合計」を考えます。これは、熱をもらった過程(吸熱過程)の熱量をすべて足したものです。グラフを見ると、A→B、B→C、C→Dの3つの過程で温度が上がったり体積が増えたりしており、これらが吸熱過程です。D→Aは温度も体積も下がっており、放熱過程です。
したがって、「吸収した熱の合計」は \(Q_1+Q_2+Q_3\) となります。
これらを熱効率の定義式に当てはめると、答えが求まります。
熱サイクルの熱効率は \(\displaystyle\frac{Q_1 + Q_2 + Q_3 + Q_4}{Q_1 + Q_2 + Q_3}\) と表せます。これは熱効率の定義に忠実な表現です。\(Q_4\) は負の値(放熱)なので、分子は分母より小さくなり、熱効率 \(e\) は1より小さくなることがわかります。
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