今回の問題
thermodynamicsall#21【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「p-Vグラフで表される熱力学サイクルの解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。各状態の温度を求めるために必須です。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。内部エネルギーの変化量を計算するために用います。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)。この問題では仕事\(W\)が「気体がされた仕事」と定義されているため、この形の法則を適用します。
- 気体がされる仕事: 体積が減少(圧縮)すれば正、増加(膨張)すれば負、変化しなければ0となります。
- 熱効率の定義: \(e = \displaystyle\frac{W’_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\)。ここで \(W’_{\text{正味}}\) は気体が「した」正味の仕事です。定義と計算の整合性に注意が必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、p-Vグラフから各状態点(A, B, C, D)の圧力と体積を読み取り、状態方程式を用いて各点の温度を求めます(問1)。
- 次に、各過程(A→B, B→C, C→D, D→A)がどの状態変化(定積、定圧)かを特定します。
- 各過程について、\(\Delta U\), \(W\), \(Q\)を順番に計算していきます(問2〜5)。\(\Delta U\)は温度変化から、\(W\)(された仕事)は体積変化から求め、\(Q\)は熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を使って求めます。
- 最後に、サイクル全体の「した」仕事と吸収した熱量を合計し、熱効率を計算します(問6)。
問(1) 状態 B, C, D の温度 \(T_B, T_C, T_D\)
思考の道筋とポイント
各状態の温度を求めるには、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を利用します。状態Aの \(p, V, T\) が与えられているので、これを基準に他の状態の温度を計算します。
具体的な解説と立式
状態Aについて、状態方程式は \(p_A V_A = nRT_A\) です。問題文より \(p_A=p, V_A=V, T_A=T\) なので、
$$ pV = nRT \quad \cdots ① $$
という関係が成り立っています。
- 状態B: グラフより \(p_B = 2p\), \(V_B = V\)。状態方程式は \(p_B V_B = nRT_B\)。
$$ (2p)V = nRT_B $$ - 状態C: グラフより \(p_C = 2p\), \(V_C = 2V\)。状態方程式は \(p_C V_C = nRT_C\)。
$$ (2p)(2V) = nRT_C $$ - 状態D: グラフより \(p_D = p\), \(V_D = 2V\)。状態方程式は \(p_D V_D = nRT_D\)。
$$ p(2V) = nRT_D $$
各状態の温度を、①式 \(pV = nRT\) を使って求めます。
- 状態B:
$$
\begin{aligned}
nRT_B &= 2(pV) = 2(nRT) \\
T_B &= 2T
\end{aligned}
$$ - 状態C:
$$
\begin{aligned}
nRT_C &= 4(pV) = 4(nRT) \\
T_C &= 4T
\end{aligned}
$$ - 状態D:
$$
\begin{aligned}
nRT_D &= 2(pV) = 2(nRT) \\
T_D &= 2T
\end{aligned}
$$
問(2) \(\Delta U_{\text{AB}}, Q_{\text{AB}}, W_{\text{AB}}\)
思考の道筋とポイント
過程A→Bは定積変化です。この過程の内部エネルギー変化、吸収熱量、された仕事を計算します。
具体的な解説と立式
- された仕事 \(W_{\text{AB}}\): 過程A→Bは体積が \(V\) で一定の定積変化なので、体積変化は0です。したがって、気体がされる仕事は0です。
$$ W_{\text{AB}} = 0 $$ - 内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{AB}}\): 単原子分子理想気体なので \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{\text{AB}} &= \frac{3}{2}nR(T_B – T_A) \\
&= \frac{3}{2}nR(2T – T) = \frac{3}{2}nRT
\end{aligned}
$$ - 吸収した熱量 \(Q_{\text{AB}}\): 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) より \(Q = \Delta U – W\)。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{AB}} &= \Delta U_{\text{AB}} – W_{\text{AB}} \\
&= \frac{3}{2}nRT – 0 = \frac{3}{2}nRT
\end{aligned}
$$
問(3) \(\Delta U_{\text{BC}}, Q_{\text{BC}}, W_{\text{BC}}\)
思考の道筋とポイント
過程B→Cは定圧変化です。この過程の各量を計算します。
具体的な解説と立式
- された仕事 \(W_{\text{BC}}\): 過程B→Cは圧力が \(2p\) で一定の定圧変化で、体積が増加(膨張)しています。気体が外部に仕事をするので、「された」仕事は負になります。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{BC}} &= -p_B (V_C – V_B) \\
&= -2p (2V – V) = -2pV
\end{aligned}
$$
ここで \(pV = nRT\) を使うと、
$$ W_{\text{BC}} = -2nRT $$ - 内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{BC}}\): \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{\text{BC}} &= \frac{3}{2}nR(T_C – T_B) \\
&= \frac{3}{2}nR(4T – 2T) = \frac{3}{2}nR(2T) = 3nRT
\end{aligned}
$$ - 吸収した熱量 \(Q_{\text{BC}}\): 熱力学第一法則より \(Q = \Delta U – W\)。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{BC}} &= \Delta U_{\text{BC}} – W_{\text{BC}} \\
&= 3nRT – (-2nRT) = 5nRT
\end{aligned}
$$
問(4) \(\Delta U_{\text{CD}}, Q_{\text{CD}}, W_{\text{CD}}\)
思考の道筋とポイント
過程C→Dは定積変化です。この過程の各量を計算します。
具体的な解説と立式
- された仕事 \(W_{\text{CD}}\): 過程C→Dは体積が \(2V\) で一定の定積変化なので、仕事は0です。
$$ W_{\text{CD}} = 0 $$ - 内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{CD}}\): \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{\text{CD}} &= \frac{3}{2}nR(T_D – T_C) \\
&= \frac{3}{2}nR(2T – 4T) = \frac{3}{2}nR(-2T) = -3nRT
\end{aligned}
$$ - 吸収した熱量 \(Q_{\text{CD}}\): 熱力学第一法則より \(Q = \Delta U – W\)。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{CD}} &= \Delta U_{\text{CD}} – W_{\text{CD}} \\
&= -3nRT – 0 = -3nRT
\end{aligned}
$$
問(5) \(\Delta U_{\text{DA}}, Q_{\text{DA}}, W_{\text{DA}}\)
思考の道筋とポイント
過程D→Aは定圧変化です。この過程の各量を計算します。
具体的な解説と立式
- された仕事 \(W_{\text{DA}}\): 過程D→Aは圧力が \(p\) で一定の定圧変化で、体積が減少(圧縮)しています。気体が外部から仕事をされるので、「された」仕事は正になります。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{DA}} &= -p_D (V_A – V_D) \\
&= -p (V – 2V) = -p(-V) = pV
\end{aligned}
$$
ここで \(pV = nRT\) を使うと、
$$ W_{\text{DA}} = nRT $$ - 内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{DA}}\): \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{\text{DA}} &= \frac{3}{2}nR(T_A – T_D) \\
&= \frac{3}{2}nR(T – 2T) = \frac{3}{2}nR(-T) = -\frac{3}{2}nRT
\end{aligned}
$$ - 吸収した熱量 \(Q_{\text{DA}}\): 熱力学第一法則より \(Q = \Delta U – W\)。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{DA}} &= \Delta U_{\text{DA}} – W_{\text{DA}} \\
&= -\frac{3}{2}nRT – nRT = -\frac{5}{2}nRT
\end{aligned}
$$
問(6) このサイクルの熱効率
思考の道筋とポイント
熱効率 \(e\) は、\(e = \displaystyle\frac{W’_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\) で定義されます。ここで \(W’_{\text{正味}}\) は気体が「した」正味の仕事です。
具体的な解説と立式
- 1サイクルの「した」正味の仕事 \(W’_{\text{正味}}\):
各過程で「した」仕事は、「された」仕事の逆符号です。
\(W’_{\text{AB}}=0, W’_{\text{BC}}=-W_{\text{BC}}=2nRT, W’_{\text{CD}}=0, W’_{\text{DA}}=-W_{\text{DA}}=-nRT\)。
$$
\begin{aligned}
W’_{\text{正味}} &= W’_{\text{AB}} + W’_{\text{BC}} + W’_{\text{CD}} + W’_{\text{DA}} \\
&= 0 + 2nRT + 0 + (-nRT) = nRT
\end{aligned}
$$ - 1サイクルで吸収した熱量 \(Q_{\text{吸収}}\):
問(2)〜(5)の結果を見ると、熱を吸収している(Qが正)のは過程A→BとB→Cです。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{吸収}} &= Q_{\text{AB}} + Q_{\text{BC}} \\
&= \frac{3}{2}nRT + 5nRT = \frac{13}{2}nRT
\end{aligned}
$$ - 熱効率 \(e\):
$$ e = \frac{W’_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}} = \frac{nRT}{\frac{13}{2}nRT} $$
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{nRT}{\frac{13}{2}nRT} \\
&= \frac{2}{13}
\end{aligned}
$$
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【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱力学第一法則の体系的適用:
- 核心: この問題は、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を、サイクルを構成する全ての過程(定積・定圧)にわたって体系的に適用し、\(\Delta U, Q, W\) の3つの量を一貫して計算する能力を問うています。
- 理解のポイント: どの過程であっても、まず \(\Delta U\)(温度変化から)と \(W\)(体積変化から)を計算し、最後に熱力学第一法則で \(Q\) を求める、という手順が基本です。この一連の流れを機械的に実行できるレベルまで習熟することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 異なるサイクル: 断熱変化や等温変化を含む、より複雑なサイクル(オットーサイクル、ディーゼルサイクルなど)の解析。基本的なアプローチは同じですが、各過程の \(W\) や \(Q\) の計算方法が変わります。
- モル比熱を用いた計算: 定積モル比熱 \(C_V = \frac{3}{2}R\) や定圧モル比熱 \(C_p = \frac{5}{2}R\) を用いて熱量 \(Q\) を直接計算する問題。\(Q_{\text{定積}} = nC_V\Delta T\), \(Q_{\text{定圧}} = nC_p\Delta T\) の公式を使います。本問の(3)で \(Q_{\text{BC}} = 5nRT = \frac{5}{2}nR(2T) = nC_p \Delta T\) となっていることからも、その妥当性が確認できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 仕事の定義を確認する: 問題文の冒頭で、仕事 \(W\) が「気体がした仕事」なのか「気体がされた仕事」なのかを必ず確認します。これにより、熱力学第一法則の符号と、仕事の計算の符号が決まります。
- 状態量を整理する表を作成する: 各状態点A, B, C, Dについて、p, V, Tの値をまとめた表を作成すると、\(\Delta T\) などの計算ミスを防げます。
- 熱効率の定義を再確認する: 熱効率の分母は「吸収した熱量 \(Q_{\text{吸収}}\)」、分子は「気体が『した』正味の仕事 \(W’_{\text{正味}}\)」です。問題で定義された \(W\) が「された仕事」の場合、符号を反転させて \(W’_{\text{正味}}\) を計算する必要がある点に注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の定義の混同:
- 誤解: 問題文で「された仕事」と定義されているにもかかわらず、いつもの癖で「した仕事」として計算し、符号を間違える。
- 対策: 問題を解き始める前に、問題文の記号の定義に印をつけるなどして、常に意識できるようにしましょう。「圧縮(体積減少)→される仕事は正」「膨張(体積増加)→される仕事は負」という対応関係を明確にしておくことが重要です。
- 熱効率の分子・分母のミス:
- 誤解: 熱効率の分母 \(Q_{\text{吸収}}\) に、放熱過程の熱量(負の値)まで含めてしまう。また、分子の仕事の符号を間違える。
- 対策: \(Q_{\text{吸収}}\) は必ず正の値になるはずです。計算した \(Q_j\) のうち、正のものだけをピックアップして足し合わせる、という手順を徹底します。また、分子の仕事は常に「エンジンが生み出したプラスの仕事」であるとイメージし、サイクル全体で正の値になるように計算します。
- 内部エネルギー変化の計算ミス:
- 誤解: \(\Delta U\) の計算で、\(\Delta T = T_{\text{前}} – T_{\text{後}}\) のように変化の前後を取り違える。
- 対策: 変化量は常に「後 – 前」です。\(\Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) であれば、後の状態Bから前の状態Aを引く (\(T_B – T_A\)) ことを徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\Delta U = Q + W\) (熱力学第一法則):
- 選定理由: この問題では、熱量 \(Q\) を直接計算する情報(モル比熱など)が与えられていません。そのため、まず \(\Delta U\) と \(W\) をそれぞれ計算し、エネルギー保存則であるこの法則から間接的に \(Q\) を求めるのが唯一の方法です。
- 適用根拠: エネルギー保存則は物理学の最も基本的な法則の一つであり、あらゆる熱力学過程で成り立ちます。仕事 \(W\) の定義(された仕事か、した仕事か)によって符号が変わる点にのみ注意が必要です。
- \(U = \frac{3}{2}nRT\) (内部エネルギー):
- 選定理由: 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を計算するために必要です。理想気体の場合、内部エネルギーは温度のみの関数であり、特に単原子分子ではこの簡単な式で与えられます。
- 適用根拠: 気体分子運動論から導かれる、分子の並進運動エネルギーの総和を表す式です。
- \(W = -p\Delta V\) (定圧変化で「される」仕事):
- 選定理由: 定圧過程における仕事の計算に用います。圧力が一定なので、積分計算が不要で簡単に計算できます。
- 適用根拠: 「した」仕事が \(p\Delta V\) であり、「された」仕事はその逆符号であることから導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 一貫した変数で計算する: この問題では「p, V以外の文字で」という指示があるため、計算の早い段階で \(pV\) を \(nRT\) に変換し、最後まで \(n, R, T\) で計算を進めると、指示違反を防げます。
- サイクル全体の検算: 計算が完了した後、サイクル全体の内部エネルギー変化 \(\Delta U_{\text{サイクル}}\) が0になるか検算すると良いでしょう。\(\Delta U_{\text{AB}} + \Delta U_{\text{BC}} + \Delta U_{\text{CD}} + \Delta U_{\text{DA}} = \frac{3}{2}nRT + 3nRT – 3nRT – \frac{3}{2}nRT = 0\)。これが成り立てば、\(\Delta U\) の計算は合っている可能性が高いです。
- 熱効率の物理的意味を考える: 熱効率は \(0 < e < 1\) の範囲の値をとります。計算結果が1を超えたり、負になったりした場合は、\(W’_{\text{正味}}\) か \(Q_{\text{吸収}}\) の計算、特に符号の扱いでミスをしている可能性が高いと判断できます。
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