35 気球からの鉛直投げ上げ
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、動いている物体(気球)から別の物体(小石)を投射する、鉛直投げ上げ運動と相対速度の概念を組み合わせた問題です。地上に固定された座標系(静止系)で考えるか、気球とともに動く座標系(運動系)で考えるか、複数の視点から現象を分析する力が問われます。
この問題の核心は、2つの物体の運動を正しくモデル化し、「すれ違う」という条件を数式で表現することです。
- 気球の速度: \(v_{\text{気球}} = 4.4 \, \text{m/s}\) (鉛直上向き、一定)
- 小石を投げてからすれ違うまでの時間: \(t_1 = 4.0 \, \text{s}\)
- すれ違ってから小石が地面に達するまでの時間: \(t_2 = 2.0 \, \text{s}\)
- 重力加速度: \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)
- (1) 小石の地上から見た初速度 \(v_0\)。
- (2) すれ違うときの、気球に乗っている人から見た小石の速度(相対速度)。
- (3) 小石を投げ上げたときの気球の高さ \(H\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「相対速度と鉛直投げ上げ運動の組み合わせ」です。地上から見た運動と、気球から見た運動の2つの視点を使い分けることがポイントになります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動のモデル化: 気球は「等速直線運動」、小石は重力の影響を受ける「鉛直投げ上げ運動」として扱います。
- 座標系の設定: 物理現象を記述するための基準(原点、正の向き)を明確に設定します。この問題では鉛直上向きを正とします。
- 変位の公式: 等速直線運動は \(y = vt\)、等加速度直線運動は \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて、物体の位置を時間の関数として表します。
- 相対速度: 物体Aから見た物体Bの相対速度は \(v_{\text{AB}} = v_{\text{B}} – v_{\text{A}}\) で計算されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では「すれ違う」という条件、すなわち4.0s後の気球と小石の位置が等しくなるという関係から、小石の初速度を求めます。このとき、地上から見た運動で考える方法と、気球から見た相対運動で考える方法があります。
- 次に、(2)では、4.0s後の小石の速度を計算し、気球の速度との差から相対速度を求めます。
- 最後に、(3)では、小石が投げられてから地面に達するまでの全時間を使って、投げた位置から地面までの変位を計算し、投げた高さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小石の地上から見た初速度を求める問題です。「小石を投げてから4.0s後にすれ違った」という情報が鍵となります。この「すれ違う」という現象を、気球に乗っている人の視点(相対的な視点)で捉えることで、シンプルに立式できます。
この設問における重要なポイント
- 相対運動の視点: 気球に乗っている人から見ると、気球自身は静止しているように見えます。小石は、ある初速度で投げ上げられ、重力によって減速し、4.0s後には元の高さ(投げた人の手元)に戻ってきたように見えます。
- 相対初速度: 気球から見た小石の初速度 \(v_{0\text{相対}}\) は、地上から見た小石の初速度 \(v_0\) と気球の速度 \(v_{\text{気球}}\) の差で表されます。\(v_{0\text{相対}} = v_0 – v_{\text{気球}}\)。
- 変位の式: 気球から見た小石の運動は、初速度 \(v_{0\text{相対}}\) の鉛直投げ上げ運動です。4.0s後の変位が0になることを利用して式を立てます。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。気球に乗っている人から見た小石の運動を考えます。
気球から見た小石の初速度を \(v_{0\text{相対}}\) とすると、
$$ v_{0\text{相対}} = v_0 – v_{\text{気球}} \quad \cdots ① $$
と表せます。ここで \(v_0\) は求める地上から見た初速度、\(v_{\text{気球}} = 4.4 \, \text{m/s}\) です。
気球から見ると、小石は重力加速度 \(g\) で運動しているように見えます(気球は等速運動なので、加速度は0)。
4.0s後にすれ違うということは、気球から見た小石の4.0s後の変位 \(y_{\text{相対}}\) が0であることを意味します。
等加速度直線運動の変位の式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて、
$$ y_{\text{相対}} = v_{0\text{相対}} t_1 + \frac{1}{2}(-g)t_1^2 \quad \cdots ② $$
ここで、\(y_{\text{相対}} = 0\)、\(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) です。
使用した物理公式
- 相対速度: \(v_{\text{AB}} = v_{\text{B}} – v_{\text{A}}\)
- 等加速度直線運動の変位: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
式②に \(y_{\text{相対}} = 0\)、\(t_1 = 4.0\)、\(g=9.8\) を代入して、\(v_{0\text{相対}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= v_{0\text{相対}} \times 4.0 + \frac{1}{2}(-9.8) \times (4.0)^2 \\[2.0ex]
0 &= 4.0 v_{0\text{相対}} – \frac{1}{2} \times 9.8 \times 16.0 \\[2.0ex]
4.0 v_{0\text{相対}} &= 78.4 \\[2.0ex]
v_{0\text{相対}} &= \frac{78.4}{4.0} \\[2.0ex]
&= 19.6 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式①に代入して、地上から見た初速度 \(v_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
19.6 &= v_0 – 4.4 \\[2.0ex]
v_0 &= 19.6 + 4.4 \\[2.0ex]
&= 24.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
答えは正の値なので、向きは鉛直上向きです。
気球に乗っている人から見ると、小石は「行って戻ってくる」運動をします。4.0秒かけて手元に戻ってくるということは、ちょうど2.0秒で最高点に達し、残りの2.0秒で落ちてきたということです。この情報から、気球から見た「投げ上げの速さ」を計算し、それに気球自体の速さを足し合わせることで、地上から見た本当の初速度を求めます。
小石を投げ上げたときの小石の地上から見た初速度は、上向きに \(24 \, \text{m/s}\) です。
気球が \(4.4 \, \text{m/s}\) で上昇しているので、気球から見ると小石は \(24.0 – 4.4 = 19.6 \, \text{m/s}\) の速さで投げ上げられたことになります。この速さで投げ上げられた物体が4.0秒後に元の位置に戻るか確認すると、\(y = 19.6 \times 4.0 – \displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times 4.0^2 = 78.4 – 78.4 = 0\) となり、確かに元の位置に戻ります。結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
地上で静止している観測者の視点で、気球と小石の運動をそれぞれ立式します。「すれ違う」とは、ある時刻における2つの物体の「位置(高さ)」が等しくなることだと解釈します。
この設問における重要なポイント
- 座標原点の設定: 小石を投げ上げた瞬間の気球の位置を座標原点(\(y=0\))とします。
- 2つの物体の運動の立式: 気球は等速直線運動、小石は鉛直投げ上げ運動として、時刻 \(t\) におけるそれぞれの位置 \(y_{\text{気球}}\) と \(y_{\text{小石}}\) を表す式を立てます。
- すれ違いの条件: \(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) のときに \(y_{\text{気球}} = y_{\text{小石}}\) となることを利用して方程式を立てます。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とし、小石を投げ上げた位置を原点(\(y=0\))とします。
時刻 \(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) における気球の位置を \(y_1\)、小石の位置を \(y_2\) とします。
気球は速さ \(v_{\text{気球}} = 4.4 \, \text{m/s}\) の等速直線運動をするので、
$$ y_1 = v_{\text{気球}} t_1 \quad \cdots ③ $$
小石は初速度 \(v_0\) の鉛直投げ上げ運動をするので、
$$ y_2 = v_0 t_1 + \frac{1}{2}(-g)t_1^2 \quad \cdots ④ $$
\(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) のときにすれ違うので、\(y_1 = y_2\) が成り立ちます。
使用した物理公式
- 等速直線運動の変位: \(y = vt\)
- 等加速度直線運動の変位: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
\(y_1 = y_2\) より、③式と④式から方程式を立てます。
$$ v_{\text{気球}} t_1 = v_0 t_1 – \frac{1}{2}gt_1^2 $$
この式に \(v_{\text{気球}} = 4.4\)、\(t_1 = 4.0\)、\(g=9.8\) を代入して \(v_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
4.4 \times 4.0 &= v_0 \times 4.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (4.0)^2 \\[2.0ex]
17.6 &= 4.0 v_0 – 78.4 \\[2.0ex]
4.0 v_0 &= 17.6 + 78.4 \\[2.0ex]
4.0 v_0 &= 96.0 \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{96.0}{4.0} \\[2.0ex]
&= 24.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
答えは正の値なので、向きは鉛直上向きです。
地上から見ると、4.0秒の間に気球は一定の速さで上に進み、小石は放物線を描いて運動します。4.0秒後に二つが同じ高さにいる、という条件を数式にして、そこから小石を投げた最初の速さを逆算します。
問(2)
思考の道筋とポイント
すれ違う瞬間の、気球に乗っている人から見た小石の速度(相対速度)を求める問題です。相対速度の定義 \(v_{\text{AB}} = v_{\text{B}} – v_{\text{A}}\) に従って計算します。そのためには、まず地上から見たすれ違う瞬間の小石の速度を求める必要があります。
この設問における重要なポイント
- すれ違う瞬間の速度: 小石を投げてから \(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) 後の、地上から見た小石の速度 \(v_{\text{小石}}\) を計算します。
- 相対速度の計算: \(v_{\text{相対}} = v_{\text{小石}} – v_{\text{気球}}\) の式に、計算した \(v_{\text{小石}}\) と与えられている \(v_{\text{気球}}\) を代入します。
- 符号と向き: 速度の符号が負であれば、鉛直下向きを意味します。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。
すれ違う瞬間、すなわち \(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) 後の地上から見た小石の速度を \(v_{\text{小石}}\) とします。
等加速度直線運動の速度の式 \(v = v_0 + at\) を用いて、
$$ v_{\text{小石}} = v_0 + (-g)t_1 \quad \cdots ① $$
ここで、(1)で求めた \(v_0 = 24.0 \, \text{m/s}\) を用います。
求める相対速度を \(v_{\text{相対}}\) とすると、定義より
$$ v_{\text{相対}} = v_{\text{小石}} – v_{\text{気球}} \quad \cdots ② $$
となります。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
- 相対速度: \(v_{\text{AB}} = v_{\text{B}} – v_{\text{A}}\)
まず、式①を用いて \(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) 後の小石の速度 \(v_{\text{小石}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{小石}} &= 24.0 – 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 24.0 – 39.2 \\[2.0ex]
&= -15.2 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を用いて相対速度 \(v_{\text{相対}}\) を計算します。気球の速度は常に \(v_{\text{気球}} = +4.4 \, \text{m/s}\) です。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{相対}} &= -15.2 – 4.4 \\[2.0ex]
&= -19.6 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(-20 \, \text{m/s}\) となります。負の符号は鉛直下向きを意味します。
すれ違うとき、地上から見ると小石は下向きに、気球は上向きに動いています。気球に乗っている人から見れば、小石はものすごい速さで下向きに遠ざかっていくように見えます。この「見かけの速さ」を、それぞれの地上から見た速度の引き算で計算します。
すれ違うときの、気球に乗っている人から見た小石の速度は、下向きに \(20 \, \text{m/s}\) です。
(1)の別解で計算したように、気球から見た小石の初速度は上向きに \(19.6 \, \text{m/s}\) でした。対称性から、4.0秒後に元の高さに戻ってきたときの速度は、下向きに \(19.6 \, \text{m/s}\) となるはずです。計算結果はこれと一致しており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
(1)の別解で用いた「気球から見た運動」の考え方をそのまま利用します。気球から見ると、小石は初速度 \(v_{0\text{相対}}\) で投げ上げられた物体の運動と同じです。その4.0秒後の速度を計算します。
この設問における重要なポイント
- 相対的な視点の維持: (1)で求めた気球から見た初速度 \(v_{0\text{相対}}\) を使います。
- 速度の公式の適用: 気球から見た運動に、速度の公式 \(v = v_0 + at\) を適用します。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。
(1)の別解より、気球から見た小石の初速度は \(v_{0\text{相対}} = 19.6 \, \text{m/s}\) です。
求める \(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) 後の相対速度を \(v_{\text{相対}}\) とすると、
$$ v_{\text{相対}} = v_{0\text{相対}} + (-g)t_1 $$
が成り立ちます。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
上の式に \(v_{0\text{相対}} = 19.6\)、\(g=9.8\)、\(t_1 = 4.0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{相対}} &= 19.6 – 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 19.6 – 39.2 \\[2.0ex]
&= -19.6 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(-20 \, \text{m/s}\) となります。負の符号は鉛直下向きを意味します。
問(3)
思考の道筋とポイント
小石を投げ上げたときの気球の高さ \(H\) を求める問題です。「すれ違ってから2.0s後に地面に達した」という情報が鍵です。これは、小石を投げてから合計 \(4.0 + 2.0 = 6.0 \, \text{s}\) 後に地面に達したことを意味します。投げ上げた点を原点として、6.0s後の小石の変位を計算すると、それがそのまま求める高さ \(H\) に対応します。
この設問における重要なポイント
- 全飛行時間: 小石が空中にある時間は \(t_{\text{全}} = t_1 + t_2 = 4.0 + 2.0 = 6.0 \, \text{s}\) です。
- 変位と高さの関係: 投げ上げた位置を原点(\(y=0\))とすると、地面は \(y = -H\) の位置にあります。したがって、\(t = t_{\text{全}}\) のときの小石の変位を計算すれば、\(H\) が求まります。
- 変位の公式: 鉛直投げ上げ運動の変位の式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用います。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とし、小石を投げ上げた瞬間の位置を原点(\(y=0\))とします。
このとき、地面の位置は \(y = -H\) となります。ここで \(H\) は求める高さです。
小石は、\(t_{\text{全}} = 6.0 \, \text{s}\) 後に地面に達するので、このときの変位が \(-H\) になります。
変位の式に、\(t = t_{\text{全}}\)、\(y = -H\)、(1)で求めた初速度 \(v_0 = 24.0 \, \text{m/s}\) を代入します。
$$ -H = v_0 t_{\text{全}} + \frac{1}{2}(-g)t_{\text{全}}^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
上記で立てた式に、\(v_0 = 24.0\)、\(t_{\text{全}} = 6.0\)、\(g=9.8\) を代入して \(H\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
-H &= 24.0 \times 6.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (6.0)^2 \\[2.0ex]
-H &= 144 – 4.9 \times 36 \\[2.0ex]
-H &= 144 – 176.4 \\[2.0ex]
-H &= -32.4 \\[2.0ex]
H &= 32.4 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(32 \, \text{m}\) となります。
小石は投げられてから合計6.0秒間、空中を旅して地面に着きます。この6.0秒間の小石の「移動距離」を、物理公式を使って計算します。ただし、上に行ってから下に行くので、最終的な「位置の変化(変位)」を計算します。この変位が、最初にいた高さそのものになります。
小石を投げ上げたときの気球の高さは \(32 \, \text{m}\) です。
この高さから初速度 \(24.0 \, \text{m/s}\) で投げ上げた小石が、本当に6.0秒で地面に落ちるか検算してみましょう。
\(y = 24.0 \times 6.0 – 4.9 \times 6.0^2 = 144 – 176.4 = -32.4\)。
変位が \(-32.4 \, \text{m}\) となり、高さ \(32.4 \, \text{m}\) の地点から地面に落ちたことと一致します。結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
すれ違った瞬間を新たなスタート地点として考えます。まず、すれ違った点の高さを計算し、次にその点から小石が2.0sで地面に達するまでの落下距離を計算します。
この設問における重要なポイント
- 中間地点の情報活用: すれ違った瞬間の「時刻」「高さ」「速度」をすべて利用します。
- 2段階の計算: (A) 投げた点からすれ違った点までの情報を計算 → (B) すれ違った点から地面までの情報を計算、という2段階で考えます。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。
まず、すれ違った点(\(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) 後)の、投げ上げた点からの高さ \(y_1\) を計算します。これは気球の運動を考えれば簡単です。
$$ y_1 = v_{\text{気球}} t_1 \quad \cdots ① $$
次に、すれ違った瞬間(\(t_1 = 4.0 \, \text{s}\) 後)の小石の速度 \(v_1\) を計算します。これは(2)の計算途中で求めています。
$$ v_1 = v_0 – g t_1 \quad \cdots ② $$
この後、小石は \(t_2 = 2.0 \, \text{s}\) かけて地面に達します。すれ違った点からの変位を \(\Delta y\) とすると、
$$ \Delta y = v_1 t_2 + \frac{1}{2}(-g)t_2^2 \quad \cdots ③ $$
投げ上げたときの高さ \(H\) は、地面から投げ上げた点までの距離です。すれ違った点の地面からの高さは \(H+y_1\) です。この高さから \(\Delta y\) だけ変位すると地面(高さ0)に達するので、
$$ (H + y_1) + \Delta y = 0 $$
この式を \(H\) について解くと、
$$ H = -y_1 – \Delta y $$
となります。
使用した物理公式
- 等速直線運動の変位: \(y = vt\)
- 等加速度直線運動の速度と変位: \(v = v_0 + at\), \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
①より、すれ違った点の投げ上げ点からの高さ \(y_1\) は、
$$ y_1 = 4.4 \times 4.0 = 17.6 \, \text{[m]} $$
②より、すれ違った瞬間の小石の速度 \(v_1\) は、
$$ v_1 = 24.0 – 9.8 \times 4.0 = -15.2 \, \text{[m/s]} $$
③より、すれ違った点からの2.0s間の変位 \(\Delta y\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta y &= (-15.2) \times 2.0 + \frac{1}{2}(-9.8) \times (2.0)^2 \\[2.0ex]
&= -30.4 – 4.9 \times 4 \\[2.0ex]
&= -30.4 – 19.6 \\[2.0ex]
&= -50.0 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
最後に、求める高さ \(H\) は、
$$
\begin{aligned}
H &= -y_1 – \Delta y \\[2.0ex]
&= -17.6 – (-50.0) \\[2.0ex]
&= -17.6 + 50.0 \\[2.0ex]
&= 32.4 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(32 \, \text{m}\) となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の記述(静止系):
- 核心: 地上で静止している観測者から見ると、気球は「等速直線運動」、小石は「鉛直投げ上げ運動(等加速度直線運動)」をします。この2つの運動を、変位の公式 \(y = vt\) と \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて正確に記述することが、問題を解く上での基本となります。
- 理解のポイント: (1)の「すれ違う」という条件は、ある時刻 \(t\) における2つの物体の位置 \(y\) が等しくなること(\(y_{\text{気球}} = y_{\text{小石}}\))を意味します。この関係を立式することが、静止系で解く場合の最も重要なステップです。
- 相対運動の記述(運動系):
- 核心: 気球に乗っている観測者から見ると、自分自身は静止しており、小石だけが運動しているように見えます。この「相対運動」を考えることで、問題をよりシンプルに捉えることができます。
- 理解のポイント: 気球から見た小石の相対速度は \(v_{\text{相対}} = v_{\text{小石}} – v_{\text{気球}}\) で計算できます。気球は等速運動なので加速度は0です。したがって、気球から見ても小石の加速度は重力加速度 \(-g\) のままです。この視点では、「すれ違う」とは、投げた小石が元の位置(変位0)に戻ってくることを意味し、\(y_{\text{相対}} = 0\) という非常にシンプルな条件式を立てることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電車からの物体の投射: 一定速度で走る電車からボールを真上に投げ上げる問題。これも本問と同様に、地上から見た運動と電車から見た運動の2つの視点で解析できます。
- 川を渡る船: 流れのある川を船が進む問題。船の速度(静水時)と川の流速のベクトル合成で、地上から見た船の運動が決まります。「相対速度」の概念が中心となる典型例です。
- 空中での物体の分離・衝突: ロケットの切り離しや、空中での2物体の衝突など。運動量保存則と組み合わせられることも多いですが、その前段階として各物体の運動を相対的に捉える視点が役立ちます。
- 初見の問題での着眼点:
- 基準となる座標系は何か?: まず、地上に固定された「静止系」で考えるのが基本です。すべての物体の速度や位置を、この共通の基準で記述します。
- 相対的な視点は使えないか?: 問題文に「Aから見たBの運動は…」といった記述がある場合や、2物体の接近・衝突・すれ違いを扱う場合は、「相対運動」の視点を導入すると計算が簡単になることが多いです。特に、一方の物体が等速直線運動をしている場合は、その物体に乗った視点で考えると非常に有効です。
- 現象の節目を捉える: 「投げた瞬間」「最高点」「すれ違う瞬間」「地面に達した瞬間」など、運動の様子が変化するポイントを明確に区別します。それぞれの瞬間の時刻、位置、速度の関係を整理することが、立式の助けになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の合成の誤り:
- 誤解: 小石の初速度を、気球の速さ \(4.4 \, \text{m/s}\) と、気球から見た投げ上げの速さの単純な和としてしまい、地上から見た初速度 \(v_0\) を正しく設定できない。
- 対策: 「地上から見た速度」=「運動している物体(気球)の速度」+「その物体から見た相対速度」というベクトル和の関係を常に意識しましょう。\(v_{\text{小石}} = v_{\text{気球}} + v_{\text{相対}}\) という関係式を正しく理解し、適用することが重要です。
- 座標系の混同:
- 誤解: 地上から見た運動の式を立てている途中で、気球から見た相対速度を代入してしまうなど、静止系と運動系の物理量を一つの式にごちゃ混ぜにしてしまう。
- 対策: 式を立てる前に、「今、自分はどの視点(静止系か、運動系か)で考えているのか」を明確に宣言する癖をつけましょう。一つの式の中では、必ず同じ座標系における物理量のみを用いることを徹底します。
- 符号のミス:
- 誤解: 鉛直上向きを正と決めたにもかかわらず、重力加速度 \(g\) を正の値のまま式に代入してしまう。あるいは、計算結果で速度が負になったのに、向きを下向きと解釈できない。
- 対策: 最初に「鉛直上向きを正とする」と紙に明記し、ベクトル量(変位、速度、加速度)を式に代入する際は、その向きに応じて必ず `+` か `-` の符号を付けることを徹底しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 2つの視点での \(y-t\) グラフ:
- 静止系(地上から見る): 横軸に時間 \(t\)、縦軸に高さ \(y\) をとります。気球の運動は原点を通る右上がりの直線(\(y = 4.4t\))になります。小石の運動は、同じ原点から出発し、上に凸の放物線(\(y = v_0 t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\))を描きます。この直線と放物線が交わる点が「すれ違い」の瞬間です。
- 運動系(気球から見る): 気球自身は常に \(y=0\) の位置にいます。小石は原点から投げ上げられ、上に凸の放物線を描いて、4.0秒後に再び \(y=0\) の点に戻ってきます。このイメージの方が、(1)の条件を直感的に理解しやすいです。
- 速度ベクトルの図: 「地上から見た小石の初速度 \(\vec{v_0}\)」は、「気球の速度 \(\vec{v}_{\text{気球}}\)」と「気球から見た小石の初速度 \(\vec{v}_{0\text{相対}}\)」のベクトル和(\(\vec{v_0} = \vec{v}_{\text{気球}} + \vec{v}_{0\text{相対}}\))として図示できます。すべてのベクトルが鉛直方向なので、矢印の長さの足し算として表現すると関係性が明確になります。
- 2つの視点での \(y-t\) グラフ:
- 図を描く際に注意すべき点:
- 運動の軌跡を明確に: 静止系で考えるなら、気球と小石の軌跡を1つのグラフ上に描きましょう。
- 座標軸の明記: 縦軸が位置 \(y\) なのか速度 \(v\) なのか、横軸が時間 \(t\) なのかを必ず明記します。原点 \(O\) と正の向き(矢印)も忘れずに記入します。
- 重要な点をプロット: 「投げた点」「すれ違う点」「地面」など、問題のキーとなる点を図の上にプロットし、そのときの時刻や高さを書き込むと、思考が整理されます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 等加速度直線運動の公式(\(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\), \(v = v_0 + at\)):
- 選定理由: 小石の運動は、一定の重力加速度 \(-g\) のもとでの運動だからです。時間と位置、時間と速度の関係を記述するために、これらの公式が必須となります。
- 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) から導かれる、加速度が一定の場合の普遍的な運動法則です。
- 相対速度の公式(\(v_{\text{AB}} = v_{\text{B}} – v_{\text{A}}\)):
- 選定理由: (2)で「気球に乗っている人から見た」速度が問われているため、また(1)を別解で解く際に「相対運動」という視点を導入するために、この公式が必要になります。
- 適用根拠: 速度の定義そのものから導かれる関係式です。ある基準(静止系)に対する各物体の速度が分かっていれば、一方から見たもう一方の相対的な速度を計算できます。
- 等速直線運動の公式(\(y = vt\)):
- 選定理由: 気球は「一定の速さで」運動しているため、その位置を記述する最もシンプルな公式としてこれを選びます。
- 適用根拠: 加速度が0の場合の等加速度直線運動の公式に \(a=0\) を代入したものと等価であり、運動の第一法則(慣性の法則)に対応します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 初速度の計算(相対運動で解く場合):
- 戦略: 気球から見た小石の運動に着目し、「4.0秒後に変位が0になる」条件で立式する。
- フロー: ①気球から見た初速度を \(v_{0\text{相対}}\) とおく → ②変位の式 \(y_{\text{相対}} = v_{0\text{相対}}t_1 – \displaystyle\frac{1}{2}gt_1^2\) を立てる → ③\(y_{\text{相対}}=0\), \(t_1=4.0\) を代入し、\(v_{0\text{相対}}\) を計算 → ④相対速度の定義式 \(v_{0\text{相対}} = v_0 – v_{\text{気球}}\) を使い、\(v_0\) を計算。
- (2) 相対速度の計算:
- 戦略: すれ違う瞬間の、地上から見た小石の速度を求め、気球の速度との差を計算する。
- フロー: ①速度の式 \(v_{\text{小石}} = v_0 – gt_1\) を立てる → ②(1)で求めた \(v_0\) と \(t_1=4.0\) を代入し、\(v_{\text{小石}}\) を計算 → ③相対速度の定義式 \(v_{\text{相対}} = v_{\text{小石}} – v_{\text{気球}}\) を使い、\(v_{\text{相対}}\) を計算。
- (3) 高さの計算:
- 戦略: 投げた瞬間から地面に達するまでの全時間を使って、投げた点を原点としたときの地面の変位を求める。
- フロー: ①全飛行時間 \(t_{\text{全}} = 4.0 + 2.0 = 6.0 \, \text{s}\) を確認 → ②投げた点を原点とすると、地面の変位は \(-H\) となる → ③変位の式 \(-H = v_0 t_{\text{全}} – \displaystyle\frac{1}{2}gt_{\text{全}}^2\) を立てる → ④\(v_0\) と \(t_{\text{全}}\) を代入し、\(H\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: 計算の各段階で単位(m, s, m/s, m/s²)を意識することで、次元の異なる量を足し合わせるようなミスを防げます。最終的な答えの単位が、求められている物理量の単位と一致しているかを確認しましょう。
- 有効数字の処理: 問題文で与えられた数値の有効数字(この問題では2桁)を確認し、計算の途中では多めの桁数(3〜4桁)で計算を進め、最後に答えを四捨五入して有効数字を合わせます。\(19.6 \rightarrow 20\), \(32.4 \rightarrow 32\) のような処理を最後に行います。
- 検算の習慣: (1)で求めた \(v_0\) を使って、本当に4.0秒後に気球と小石の高さが一致するかを確かめる(\(y_1 = 4.4 \times 4.0 = 17.6\), \(y_2 = 24.0 \times 4.0 – 4.9 \times 16 = 96 – 78.4 = 17.6\))。このように、得られた答えを元の条件に戻してチェックする習慣は、ミスを大幅に減らします。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 初速度 \(v_0 = 24 \, \text{m/s}\): 気球自身の速度 \(4.4 \, \text{m/s}\) よりもかなり大きい。そうでなければ、投げた瞬間に小石は気球から離れて上昇していくことができないため、妥当な大きさです。
- (2) 相対速度 \(-20 \, \text{m/s}\): (1)で計算した気球から見た初速度が \(+19.6 \, \text{m/s}\) だったので、同じ場所に戻ってきたときの速度が、対称性からほぼ同じ大きさで逆向き(\(-19.6 \, \text{m/s}\))になるのは物理的に自然です。
- (3) 高さ \(H = 32 \, \text{m}\): ビルの10階程度の高さに相当します。気球の高さとして非現実的な値ではありません。
- 別解との比較:
- (1)の初速度は、「静止系」と「運動系」の2つの異なるアプローチで求められました。両者で全く同じ結果 (\(v_0 = 24.0 \, \text{m/s}\)) が得られたことは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付ける強力な証拠となります。
- (3)の高さも、「全時間で一気に計算する方法」と「すれ違った点を基準に2段階で計算する方法」で同じ結果が得られました。これも同様に、解法の正しさを保証してくれます。複数の解法を試すことは、最高の検算方法です。
36 飛行機から落とした物体の運動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水平方向に一定速度で運動する飛行機から静かに落とされた物体の運動、すなわち「水平投射」を扱う問題です。地上から見た運動と、飛行機から見た相対的な運動という2つの視点から現象を分析する能力が問われます。
この問題の核心は、物体の運動を「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の自由落下運動」という2つの独立した運動の組み合わせとして捉えることです。
- 飛行機の高さ: \(h = 78.4 \, \text{m}\)
- 飛行機の速さ: \(v_0 = 39.2 \, \text{m/s}\) (水平方向)
- 重力加速度: \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)
- (1) 目標Pが特定の角度 \(\theta\) に見えたときに荷物を落とす必要がある。そのときの \(\tan\theta\) の値。
- (2) 飛行機から見た荷物の運動。
- (3) 荷物が目標Pに命中する直前の速さ \(v\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「水平投射と相対運動」です。地上から見た運動は放物線を描きますが、運動を水平・鉛直に分解して考えるのが定石です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 水平投射された物体の運動は、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「自由落下運動」に分解して考えます。
- 運動の独立性: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は、互いに影響を与えず独立しています。両者に共通するパラメータは「時間 \(t\)」のみです。
- 相対運動: 飛行機から見た荷物の運動を考えるには、相対速度の概念を用います。
- 速度の合成: 命中直前の速さは、その時点での水平方向の速度成分と鉛直方向の速度成分を、三平方の定理を用いて合成します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では、荷物が地上に落下するまでの時間を鉛直方向の自由落下の式から求めます。次に、その時間で水平方向に進む距離を計算します。最後に、高さと水平距離の関係から \(\tan\theta\) を求めます。
- 次に、(2)では、飛行機と荷物の速度ベクトルの差(相対速度)を考え、飛行機から見た荷物の運動がどのようなものになるかを考察します。
- 最後に、(3)では、落下時間から命中直前の鉛直方向の速度を計算し、常に一定である水平方向の速度と合成して、最終的な速さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
目標Pの方向を示す角 \(\theta\) のタンジェント \(\tan\theta\) を求める問題です。荷物を落とした瞬間、荷物は飛行機と同じ位置にあります。荷物が目標Pに命中するためには、荷物が落下する間に飛行機が進む距離と、荷物が水平方向に進む距離が等しくなければなりません。そして、その水平距離と高さの関係が \(\tan\theta\) を決定します。
この設問における重要なポイント
- 落下時間の計算: 荷物が高さ \(h = 78.4 \, \text{m}\) を自由落下するのにかかる時間 \(t\) を、鉛直方向の運動の式から求めます。
- 水平移動距離の計算: 落下時間 \(t\) の間に、荷物が水平方向に移動する距離 \(x\) を、水平方向の等速直線運動の式から求めます。
- 幾何学的関係: 図から、\(\tan\theta\) は高さ \(h\) と水平移動距離 \(x\) の比で表されることがわかります(\(\tan\theta = \displaystyle\frac{h}{x}\))。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。
荷物の運動を鉛直方向と水平方向に分解して考えます。
鉛直方向は、初速度0の自由落下運動です。高さ \(h\) を落下するのにかかる時間を \(t\) とすると、変位の式 \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) より、
$$ h = \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ① $$
水平方向は、速さ \(v_0\) の等速直線運動です。時間 \(t\) の間に進む距離を \(x\) とすると、
$$ x = v_0 t \quad \cdots ② $$
図より、飛行機から目標Pを見たときの角度 \(\theta\) について、以下の関係が成り立ちます。
$$ \tan\theta = \frac{h}{x} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 自由落下運動の変位: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
- 等速直線運動の変位: \(x = v_0 t\)
- 三角比の定義
まず、式①に \(h=78.4\)、\(g=9.8\) を代入して、落下時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
78.4 &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2 \\[2.0ex]
78.4 &= 4.9 t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{78.4}{4.9} \\[2.0ex]
t^2 &= 16 \\[2.0ex]
t &= 4.0 \, \text{[s]}
\end{aligned}
$$
次に、この時間 \(t\) を式②に代入して、水平移動距離 \(x\) を求めます。\(v_0 = 39.2 \, \text{m/s}\) です。
$$
\begin{aligned}
x &= 39.2 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 156.8 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
最後に、これらの値を式③に代入して \(\tan\theta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{78.4}{156.8} \\[2.0ex]
&= 0.50
\end{aligned}
$$
荷物が地面に落ちるまでの時間をまず計算します。その時間、荷物は飛行機と同じ水平スピードで前に進み続けます。この「前に進んだ距離」と「落ちた高さ」の比率が、ちょうど \(\tan\theta\) になります。
\(\tan\theta\) の値は \(0.50\) です。
これは、水平距離が高さの2倍であることを意味します。速さ \(v_0 = 39.2 \, \text{m/s}\) は、重力加速度 \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) のちょうど4倍です。落下時間が4.0秒なので、水平距離は \(39.2 \times 4.0\)、高さは \(\displaystyle\frac{1}{2} \times 9.8 \times 4.0^2\) であり、これらの関係性が物理法則と矛盾なく結びついています。
問(2)
思考の道筋とポイント
飛行機から見た荷物の運動がどう見えるかを問う問題です。これは相対運動の問題です。「Aから見たBの運動」は、Bの速度からAの速度をベクトル的に引き算することで得られる相対速度によって決まります。
この設問における重要なポイント
- 速度ベクトルの設定: 飛行機の速度ベクトル \(\vec{v}_{\text{飛行機}}\) と、ある時刻の荷物の速度ベクトル \(\vec{v}_{\text{荷物}}\) を考えます。
- 相対速度の計算: 飛行機から見た荷物の相対速度 \(\vec{v}_{\text{相対}}\) は、\(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{荷物}} – \vec{v}_{\text{飛行機}}\) で計算します。
- 運動の独立性の応用: 荷物を落とした後も、荷物の水平方向の速度は(空気抵抗を無視すれば)飛行機と全く同じです。
具体的な解説と立式
水平右向きをx軸、鉛直下向きをy軸とします。
飛行機の速度ベクトルは、常に \(\vec{v}_{\text{飛行機}} = (v_0, 0)\) です。
荷物を落としてから時間 \(t\) が経過した後の荷物の速度ベクトルは、水平成分が \(v_x = v_0\)、鉛直成分が \(v_y = gt\) なので、\(\vec{v}_{\text{荷物}} = (v_0, gt)\) となります。
したがって、飛行機から見た荷物の相対速度 \(\vec{v}_{\text{相対}}\) は、
$$
\begin{aligned}
\vec{v}_{\text{相対}} &= \vec{v}_{\text{荷物}} – \vec{v}_{\text{飛行機}} \\[2.0ex]
&= (v_0, gt) – (v_0, 0) \\[2.0ex]
&= (0, gt)
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 相対速度: \(\vec{v}_{\text{AB}} = \vec{v}_{\text{B}} – \vec{v}_{\text{A}}\)
- 等速直線運動の速度: \(v_x = v_0\)
- 自由落下運動の速度: \(v_y = gt\)
上記の立式から、相対速度の水平成分は \(0\)、鉛直成分は \(gt\) であることがわかります。
これは、水平方向には相対的に動かず、鉛直下向きにのみ速度 \(gt\) で運動していることを意味します。
このような運動は、初速度0で真下に落ちていく「自由落下」に他なりません。
飛行機と荷物は、横方向には全く同じスピードで飛び続けます。そのため、飛行機から見ると、荷物は横には動かず、ただ真下に落ちていくだけに見えます。これは「自由落下」です。
飛行機から見ると、荷物の運動は「自由落下」に見えます。
これは、荷物を「静かに落とす」という操作が、飛行機から見て初速度0で物体を放すことに相当するためです。飛行機と同じ慣性系に乗っている観測者にとっては、重力だけを受けて真下に落ちていく運動に見えるのは、物理的に極めて自然な結論です。
問(3)
思考の道筋とポイント
荷物が目標Pに命中する直前の「速さ」を求める問題です。「速さ」はスカラー量であり、速度ベクトルの大きさを指します。そのため、命中直前の速度の水平成分と鉛直成分をそれぞれ求め、三平方の定理を用いて合成する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 命中直前の速度成分:
- 水平成分 \(v_x\): 水平方向は等速直線運動なので、初速度 \(v_0\) のまま変化しません。
- 鉛直成分 \(v_y\): 鉛直方向は自由落下運動なので、落下時間 \(t\) を用いて \(v_y = gt\) から計算します。
- 速度の合成: 命中直前の速さ \(v\) は、\(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) で計算します。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。
(1)より、荷物の落下時間は \(t = 4.0 \, \text{s}\) です。
命中直前の速度の水平成分 \(v_x\) は、初速度 \(v_0\) に等しく、
$$ v_x = v_0 \quad \cdots ① $$
命中直前の速度の鉛直成分 \(v_y\) は、自由落下の速度の式より、
$$ v_y = gt \quad \cdots ② $$
求める速さ \(v\) は、これら2つの成分を合成して得られます。
$$ v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 自由落下運動の速度: \(v_y = gt\)
- 速度の合成(三平方の定理)
まず、式②を用いて鉛直成分 \(v_y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_y &= 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 39.2 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
水平成分は \(v_x = v_0 = 39.2 \, \text{m/s}\) です。
これらの値を式③に代入して、速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(39.2)^2 + (39.2)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2 \times (39.2)^2} \\[2.0ex]
&= 39.2 \sqrt{2}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 39.2 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 55.272 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(55 \, \text{m/s}\) となります。
地面にぶつかる瞬間、荷物は「前に進む速さ」と「下に落ちる速さ」の両方を持っています。この2つの速さを、直角三角形の斜辺の長さを求めるのと同じように(三平方の定理で)合成して、最終的な本当の速さを計算します。
荷物がPに命中する直前の速さは \(55 \, \text{m/s}\) です。
興味深いことに、この問題では命中直前の速度の水平成分と鉛直成分が \(39.2 \, \text{m/s}\) で等しくなりました。これは、たまたま \(v_0 = gt\) となるような数値設定だったためです。このとき、速度ベクトルは水平面と45°の角度をなして地面に衝突することになります。
思考の道筋とポイント
荷物が持つ力学的エネルギーが保存されることを利用して、命中直前の速さを求めます。始点(落とした瞬間)と終点(命中直前)での力学的エネルギーが等しいという式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則: 運動中、荷物に働く力は重力のみ(保存力)なので、力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されます。
- エネルギーの基準点: 位置エネルギーの基準面を地面(目標P)とします。
- 始点と終点のエネルギー:
- 始点(高さ \(h\)): 運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)、位置エネルギー \(mgh\)
- 終点(高さ 0): 運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)、位置エネルギー \(0\)
具体的な解説と立式
地面を位置エネルギーの基準(\(U=0\))とします。
荷物を落とした瞬間(始点)の力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\) は、
$$ E_{\text{始}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh \quad \cdots ① $$
地面に命中する直前(終点)の力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\) は、
$$ E_{\text{終}} = \frac{1}{2}mv^2 + 0 \quad \cdots ② $$
力学的エネルギー保存則より、\(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh = \frac{1}{2}mv^2 $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
上記で立てたエネルギー保存則の式を \(v\) について解きます。
まず、両辺を \(m\) で割り、2を掛けます。
$$ v_0^2 + 2gh = v^2 $$
したがって、
$$ v = \sqrt{v_0^2 + 2gh} $$
この式に与えられた値を代入します。\(v_0 = 39.2\), \(g=9.8\), \(h=78.4\) です。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(39.2)^2 + 2 \times 9.8 \times 78.4} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1536.64 + 19.6 \times 78.4} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1536.64 + 1536.64} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2 \times 1536.64} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2 \times (39.2)^2} \\[2.0ex]
&= 39.2 \sqrt{2} \\[2.0ex]
&\approx 39.2 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 55.272 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(55 \, \text{m/s}\) となり、運動の成分を合成する方法と同じ結果が得られます。
ちなみに、\(v_y^2 = (gt)^2 = g^2 t^2\)。また、\(h = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) より \(t^2 = \displaystyle\frac{2h}{g}\)。よって \(v_y^2 = g^2 (\displaystyle\frac{2h}{g}) = 2gh\)。
これを \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) に代入すると \(v = \sqrt{v_0^2 + 2gh}\) となり、エネルギー保存則から導いた式と完全に一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解と独立性:
- 核心: 水平投射された物体の運動は、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「自由落下運動」という、2つの単純な運動の重ね合わせとして完全に記述できます。これがこの問題の最も重要な物理原則です。
- 理解のポイント: 水平方向の速度は重力の影響を受けず一定であり、鉛直方向の速度は重力によって時間とともに直線的に増加します。この2つの運動は、時間\(t\)という共通のパラメータ以外は互いに干渉しません。この「運動の独立性」を理解することが、放物運動を攻略する鍵です。
- 相対運動の考え方:
- 核心: (2)で問われているように、運動している物体(飛行機)から見た別の物体(荷物)の運動を考える場合、相対速度の概念が不可欠です。
- 理解のポイント: 荷物は落とされた後も、水平方向には飛行機と全く同じ速度で運動し続けます(慣性の法則)。したがって、飛行機から見れば、荷物は水平方向には動いていない(相対速度がゼロ)ように見えます。鉛直方向には重力に従って落下するため、結果として「自由落下」に見えるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射: 地上から斜め上方に物体を投げ上げる運動。これも水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」に分解して考えます。本質的な解法は全く同じです。
- 斜面への投射: 水平に投げた物体が、斜面に衝突する問題。物体の放物運動の軌跡の式と、斜面を表す直線の式の交点を求めることで、衝突点や衝突時間を計算できます。
- 動く台からの投射: 一定速度で動く台車の上からボールを真上に投げ上げる問題。本問の(2)と同様に、台車から見れば「鉛直投げ上げ」、地上から見れば「斜方投射」に見えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動を分解できないか?: 2次元の運動に見える問題では、まず「直交する2方向(多くは水平・鉛直)に分解できないか」と考えます。分解することで、複雑な運動を2つの単純な1次元運動として扱えます。
- 時間\(t\)が共通の鍵: 分解した2つの運動を結びつける唯一のものが「時間」です。一方の運動(例:鉛直方向の落下)から時間を求め、それをもう一方の運動(例:水平方向の移動)に適用する、という流れが定石です。
- エネルギー保存則は使えないか?: (3)の別解のように、速さを問う問題で、働く力が重力や弾性力などの「保存力」のみの場合、力学的エネルギー保存則が強力な武器になります。運動の途中経過(時間など)を計算する必要がなく、始点と終点の状態だけで解けるため、計算が簡略化されることが多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 水平方向の運動の誤解:
- 誤解: 荷物が落ちていくにつれて、水平方向の速度もだんだん遅くなる、あるいは速くなると考えてしまう。
- 対策: 重力は鉛直下向きにしか働かないことを常に意識しましょう。水平方向には力が働かない(空気抵抗は無視)ので、加速度はゼロです。したがって、水平方向の速度は最初から最後まで一定(等速直線運動)です。
- 速度と速さの混同:
- 誤解: (3)で命中直前の速さを問われた際に、鉛直方向の速度成分 \(v_y\) だけを計算して答えてしまう。
- 対策: 「速度」は向きを持つベクトル量、「速さ」は大きさのみを持つスカラー量であることを明確に区別しましょう。2次元運動の「速さ」を求めるには、必ず水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を求め、\(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) のように合成するプロセスが必要です。
- \(\tan\theta\) の定義の混同:
- 誤解: 図における \(\tan\theta\) を、\(x/h\) のように分子と分母を逆にしてしまう。
- 対策: 三角比の定義「\(\tan\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{底辺}}\)」を、図と照らし合わせて丁寧にあてはめる習慣をつけましょう。この問題では、角度 \(\theta\) に対する対辺が高さ \(h\)、底辺が水平距離 \(x\) にあたります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- ストロボ写真のイメージ: 水平投射された物体をストロボ撮影すると、横方向には等間隔で進み、縦方向には落下するにつれて間隔が広がっていく様子が写ります。このイメージは、水平方向が「等速」、鉛直方向が「加速」していることを直感的に理解するのに役立ちます。
- 速度ベクトルの分解と合成の図: 任意の時刻における速度ベクトル \(\vec{v}\) を描きます。このベクトルは、常に一定の長さを持つ水平なベクトル \(\vec{v}_x\) と、時間とともに長くなる鉛直なベクトル \(\vec{v}_y\) の合成(ベクトルの和)として描くことができます。この図を描くことで、(3)の計算の意味が視覚的に理解できます。
- 相対運動のイメージ: 飛行機と荷物を真上から見た図を想像します。両者は全く同じ位置を同じ速度で移動し続けるため、重なって見えます。次に、真横から見た図を想像します。飛行機は一定の高さを飛び、荷物はそこから落ちていきます。この2つの視点を組み合わせると、飛行機から見て荷物は真下に落ちていくことが理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 運動の軌跡(放物線)を滑らかに描く。
- 水平・鉛直の座標軸を明確に設定し、原点と正の向きを記入する。
- (1)の図では、角度 \(\theta\)、高さ \(h\)、水平距離 \(x\) の関係がわかるように、直角三角形を明確に描く。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 自由落下の公式 (\(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\), \(v_y = gt\)):
- 選定理由: 荷物の鉛直方向の運動は、初速度0、加速度\(g\)の等加速度直線運動だからです。この運動における「変位と時間の関係」「速度と時間の関係」を記述するために、これらの公式が最適です。
- 適用根拠: 鉛直方向の運動方程式 \(ma_y = mg\) から導かれる、最も基本的な運動法則です。
- 等速直線運動の公式 (\(x = v_0 t\)):
- 選定理由: 荷物の水平方向の運動は、力が働かないため加速度0の等速直線運動だからです。
- 適用根拠: 水平方向の運動方程式 \(ma_x = 0\) の結論です。
- 力学的エネルギー保存則 (\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 + mgh = \frac{1}{2}mv^2\)):
- 選定理由: (3)の別解として、運動の途中経過を問わず、始点と終点の「速さ」と「高さ」の関係だけを知りたい場合に非常に有効だからです。
- 適用根拠: 運動の過程で働く力が重力(保存力)のみであるため、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれるという物理学の基本法則に基づきます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) \(\tan\theta\) の計算:
- 戦略: 落下時間 \(t\) を介して、鉛直方向の運動と水平方向の運動を結びつける。
- フロー: ①鉛直方向の運動に着目し、\(h = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) から落下時間 \(t\) を計算 → ②水平方向の運動に着目し、\(x = v_0 t\) から水平距離 \(x\) を計算 → ③図の幾何学的関係から、\(\tan\theta = h/x\) を計算。
- (2) 相対運動の考察:
- 戦略: 飛行機と荷物の速度ベクトルの差を計算する。
- フロー: ①飛行機の速度ベクトル \(\vec{v}_{\text{飛行機}}\) と荷物の速度ベクトル \(\vec{v}_{\text{荷物}}\) を成分表示 → ②相対速度 \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{荷物}} – \vec{v}_{\text{飛行機}}\) を計算 → ③得られた相対速度ベクトルがどのような運動を表すかを解釈する。
- (3) 命中直前の速さの計算:
- 戦略: 命中直前の速度の水平成分と鉛直成分を求め、合成する。
- フロー: ①水平成分 \(v_x\) は \(v_0\) のまま → ②鉛直成分 \(v_y\) を \(v_y = gt\) から計算((1)で求めた \(t\) を使用) → ③三平方の定理 \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) を用いて速さ \(v\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 平方根の計算: \(t^2=16\) から \(t=4.0\) のように、計算しやすい数値になっていることが多いです。また、(3)の \(v = \sqrt{39.2^2 + 39.2^2}\) のような形になったら、すぐに電卓を叩くのではなく、\(39.2\sqrt{2}\) のように式を簡潔にしてから最後に数値を代入すると、計算が楽になりミスも減ります。
- 数値の関連性に気づく: この問題では \(h=78.4\), \(v_0=39.2\), \(g=9.8\) と、数値間に \(78.4 = 2 \times 39.2 = 8 \times 9.8\) のような関係があります。計算過程で \(t=4.0\) や \(v_y=39.2\) のようにきれいな値が出てくるのはこのためです。出題者の意図を汲み取り、計算結果に自信を持つことができます。
- 別解による検算: (3)は運動学的なアプローチとエネルギー保存則のアプローチの2通りで解けました。全く異なる方法で同じ答えが出れば、その答えはほぼ間違いなく正しいと言えます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) \(\tan\theta = 0.50\): \(\theta\) は約26.6°です。極端に大きい、あるいは小さい角度ではなく、現実的な値です。
- (3) 速さ \(v = 55 \, \text{m/s}\): 初速 \(39.2 \, \text{m/s}\) よりも速くなっています。これは、落下によって位置エネルギーが運動エネルギーに変換された結果であり、当然のことです。もし初速より遅くなっていたら、計算ミスを疑うべきです。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もし初速度 \(v_0\) がもっと大きかったら?: 落下時間は変わらないので、水平距離 \(x\) はもっと大きくなります。その結果、\(\tan\theta = h/x\) は小さくなるはずです。これは、より遠くの目標を狙う必要があることに対応し、直感と一致します。
- もしもっと高い場所 \(h\) から落としたら?: 落下時間 \(t\) は長くなり、そのぶん水平距離 \(x\) も大きくなります。しかし、\(t \propto \sqrt{h}\), \(x \propto t \propto \sqrt{h}\) なので、\(\tan\theta = h/x \propto h/\sqrt{h} = \sqrt{h}\) となり、\(\tan\theta\) は大きくなる(より真下に近い目標を狙う)ことがわかります。これも直感と一致します。
37 斜面上への斜方投射
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、斜面に向かって物体を投げ上げる、いわゆる「斜面への斜方投射」を扱う問題です。通常の水平な地面への斜方投射と異なり、衝突する面が傾いているため、座標軸の取り方が解法の鍵となります。
この問題の核心は、2次元の放物運動を、適切な座標軸上で2つの1次元運動に分解し、「斜面上に落下する」という条件を数式で表現することです。
- 斜面の傾斜角: \(30^\circ\)
- 投射角: 斜面に対して \(30^\circ\) (水平面に対しては \(30^\circ + 30^\circ = 60^\circ\))
- 初速度の大きさ: \(v_0\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- (1) 打ち出してから斜面上に落下するまでの時間 \(t\)。
- (2) 落下点までの斜面に沿った距離 \(L\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「斜面への斜方投射」です。この種の問題を解くアプローチは大きく分けて2つあります。一つは水平・鉛直に座標軸をとる方法、もう一つは斜面に平行・垂直に座標軸をとる方法です。両方の解法を理解することが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 投射された小球の運動を、直交する2方向の等加速度直線運動に分解します。
- 座標系の選択: 水平・鉛直方向、または斜面に平行・垂直方向のどちらに座標軸を設定するかで、立式の複雑さが変わります。
- 落下条件の立式: 「斜面上に落下する」という条件を、設定した座標系におけるx座標とy座標の関係式として表現します。
- 初速度と加速度の分解: 設定した座標軸の各成分に、初速度と重力加速度を正しく分解して代入します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では、座標系を設定し、小球の運動をx方向とy方向の式で表します。次に、斜面を表す式と連立させるか、あるいは特定の座標成分が0になる条件を用いて、落下までの時間 \(t\) を求めます。
- 次に、(2)では、(1)で求めた時間 \(t\) を使って、落下点の座標を計算し、原点からの距離 \(L\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球を打ち出してから斜面上に落下するまでの時間を求める問題です。ここでは、最も基本的な「水平・鉛直」に座標軸をとる方法で解説します。この方法では、運動の式はシンプルですが、「斜面上に落下する」という条件を座標の関係式で表す必要があります。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定: 水平右向きにx軸、鉛直上向きにy軸をとります。原点は打ち出した点です。
- 初速度の分解: 初速度 \(v_0\) は、水平面と \(60^\circ\) の角をなします。したがって、x成分は \(v_{0x} = v_0 \cos 60^\circ\)、y成分は \(v_{0y} = v_0 \sin 60^\circ\) となります。
- 落下点の座標: 落下点Pの座標を \((x_P, y_P)\) とすると、この点は傾斜角 \(30^\circ\) の斜面上にあるため、\(y_P = x_P \tan 30^\circ\) という関係が成り立ちます。
- 運動の立式: 時刻 \(t\) における小球の座標 \((x(t), y(t))\) を、等加速度運動の公式で表し、上記の関係式に代入します。
具体的な解説と立式
水平右向きにx軸、鉛直上向きにy軸をとります。
初速度 \(v_0\) のx成分 \(v_{0x}\) とy成分 \(v_{0y}\) は、
$$ v_{0x} = v_0 \cos 60^\circ = \frac{1}{2}v_0 $$
$$ v_{0y} = v_0 \sin 60^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}v_0 $$
時刻 \(t\) における小球のx座標とy座標は、
$$ x(t) = v_{0x} t = \frac{1}{2}v_0 t \quad \cdots ① $$
$$ y(t) = v_{0y} t – \frac{1}{2}gt^2 = \frac{\sqrt{3}}{2}v_0 t – \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ② $$
時刻 \(t\) で斜面上に落下したとすると、その点の座標は①、②で表され、かつ、斜面上の点であることから \(y(t) = x(t) \tan 30^\circ\) を満たします。
$$ y(t) = \frac{1}{\sqrt{3}} x(t) \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の変位: \(x = v_x t\)
- 鉛直投げ上げ運動の変位: \(y = v_y t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
- 三角関数、直線の式
式③に①と②を代入します。
$$ \frac{\sqrt{3}}{2}v_0 t – \frac{1}{2}gt^2 = \frac{1}{\sqrt{3}} \left( \frac{1}{2}v_0 t \right) $$
\(t \neq 0\) なので、両辺を \(t\) で割ることができます。また、両辺に2を掛けて整理します。
$$ \sqrt{3}v_0 – gt = \frac{1}{\sqrt{3}} v_0 $$
この式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
gt &= \sqrt{3}v_0 – \frac{1}{\sqrt{3}}v_0 \\[2.0ex]
gt &= \left( \sqrt{3} – \frac{1}{\sqrt{3}} \right) v_0 \\[2.0ex]
gt &= \left( \frac{3-1}{\sqrt{3}} \right) v_0 \\[2.0ex]
gt &= \frac{2}{\sqrt{3}} v_0 \\[2.0ex]
t &= \frac{2v_0}{\sqrt{3}g}
\end{aligned}
$$
分母を有理化すると、
$$ t = \frac{2\sqrt{3}v_0}{3g} $$
小球が描く放物線の軌跡と、斜面を表す直線が、原点以外で交わる点を求めます。それぞれの式を立てて連立方程式を解くことで、交わるまでの時間 \(t\) を計算します。
小球が斜面上に落下するまでの時間は \(t = \displaystyle\frac{2\sqrt{3}v_0}{3g}\) です。
もし斜面がなく水平な地面であれば、滞空時間は \(T = \displaystyle\frac{2v_{0y}}{g} = \frac{2(\sqrt{3}/2)v_0}{g} = \frac{\sqrt{3}v_0}{g}\) となります。
\( \displaystyle\frac{2\sqrt{3}}{3} \approx 1.15 \) なので、\(t \approx \displaystyle\frac{1.15 v_0}{g}\) であり、\(T \approx \displaystyle\frac{1.73 v_0}{g}\) です。斜面に早く着地するため、滞空時間が短くなるのは当然であり、結果は妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
落下点までの斜面に沿った距離 \(L\) を求める問題です。(1)で求めた落下時間 \(t\) を使って、落下点のx座標またはy座標を計算し、三平方の定理や三角比を用いて原点からの距離を求めます。
この設問における重要なポイント
- 落下時間の利用: (1)で求めた時間 \(t = \displaystyle\frac{2\sqrt{3}v_0}{3g}\) を使います。
- 落下点の座標計算: \(x(t) = \displaystyle\frac{1}{2}v_0 t\) の式に \(t\) を代入するのが最も計算が簡単です。
- 距離の計算: 落下点Pの座標が \((x_P, y_P)\) のとき、距離 \(L\) は \(L = \sqrt{x_P^2 + y_P^2}\) で計算できます。また、\(x_P = L \cos 30^\circ\) の関係を使っても良いです。
具体的な解説と立式
(1)で求めた落下時間 \(t\) を、x座標の式 \(x(t) = \displaystyle\frac{1}{2}v_0 t\) に代入して、落下点のx座標 \(x_P\) を求めます。
$$ x_P = \frac{1}{2}v_0 \left( \frac{2\sqrt{3}v_0}{3g} \right) \quad \cdots ① $$
落下点Pは斜面上にあるので、斜面に沿った距離 \(L\) とx座標 \(x_P\) の間には、
$$ x_P = L \cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}L \quad \cdots ② $$
という関係があります。この式を \(L\) について解けば、距離が求まります。
使用した物理公式
- 等速直線運動の変位: \(x = v_x t\)
- 三角比
まず、式①を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_P &= \frac{1}{2}v_0 \left( \frac{2\sqrt{3}v_0}{3g} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}v_0^2}{3g}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式②に代入して \(L\) を求めます。
$$ \frac{\sqrt{3}v_0^2}{3g} = \frac{\sqrt{3}}{2}L $$
両辺を \(\sqrt{3}\) で割り、\(L\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{v_0^2}{3g} &= \frac{1}{2}L \\[2.0ex]
L &= \frac{2v_0^2}{3g}
\end{aligned}
$$
(1)で求めた「飛んでいる時間」を使って、小球が水平方向にどれだけ進んだかを計算します。その水平距離と斜面の角度から、斜面に沿って進んだ本当の距離を三角比を使って計算します。
落下点までの斜面に沿った距離は \(L = \displaystyle\frac{2v_0^2}{3g}\) です。
この結果は、初速度 \(v_0\) の2乗に比例し、重力加速度 \(g\) に反比例しています。これは、より速く投げれば遠くまで届き、重力が強ければあまり届かないという物理的直感と一致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
斜面に平行な方向をx’軸、垂直な方向をy’軸とする座標系で考えます。この方法では、「斜面上に落下する」という条件が「y’座標が0になる」という非常にシンプルな形で表現できます。ただし、初速度だけでなく重力加速度も分解する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 座標軸の設定: 斜面に沿って上向きにx’軸、斜面に垂直で上向きにy’軸をとります。
- 初速度の分解: 初速度 \(v_0\) は斜面と \(30^\circ\) の角をなすので、x’成分は \(v_{0x’} = v_0 \cos 30^\circ\)、y’成分は \(v_{0y’} = v_0 \sin 30^\circ\) となります。
- 重力加速度の分解: 重力加速度 \(\vec{g}\) は鉛直下向きです。これをx’軸、y’軸の成分に分解します。
- x’成分: \(a_{x’} = -g \sin 30^\circ\)
- y’成分: \(a_{y’} = -g \cos 30^\circ\)
- 落下条件: 落下点では、y’座標が0になります (\(y'(t)=0\))。
具体的な解説と立式
斜面に平行上向きにx’軸、垂直上向きにy’軸をとります。
初速度の成分は、
$$ v_{0x’} = v_0 \cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}v_0 $$
$$ v_{0y’} = v_0 \sin 30^\circ = \frac{1}{2}v_0 $$
重力加速度の成分は、
$$ a_{x’} = -g \sin 30^\circ = -\frac{1}{2}g $$
$$ a_{y’} = -g \cos 30^\circ = -\frac{\sqrt{3}}{2}g $$
時刻 \(t\) におけるy’座標は、初速度 \(v_{0y’}\)、加速度 \(a_{y’}\) の等加速度運動なので、
$$ y'(t) = v_{0y’} t + \frac{1}{2}a_{y’}t^2 \quad \cdots ④ $$
斜面上に落下するとき \(y'(t)=0\) となるので、この式から時間 \(t\) を求めます(問1)。
落下距離 \(L\) は、そのときのx’座標に等しいので、
$$ L = x'(t) = v_{0x’} t + \frac{1}{2}a_{x’}t^2 \quad \cdots ⑤ $$
この式から距離 \(L\) を求めます(問2)。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
まず、問(1)の時間を求めます。式④に \(y'(t)=0\) と各成分を代入します。
$$ 0 = \left( \frac{1}{2}v_0 \right) t + \frac{1}{2} \left( -\frac{\sqrt{3}}{2}g \right) t^2 $$
\(t \neq 0\) なので、両辺を \(t\) で割り、整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v_0 &= \frac{1}{2} \left( \frac{\sqrt{3}}{2}g \right) t \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{\sqrt{3}}{2}gt \\[2.0ex]
t &= \frac{2v_0}{\sqrt{3}g} = \frac{2\sqrt{3}v_0}{3g}
\end{aligned}
$$
これは最初の解法の結果と一致します。
次に、問(2)の距離を求めます。この時間 \(t\) を式⑤に代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= \left( \frac{\sqrt{3}}{2}v_0 \right) t + \frac{1}{2} \left( -\frac{1}{2}g \right) t^2 \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{2}v_0 \left( \frac{2\sqrt{3}v_0}{3g} \right) – \frac{1}{4}g \left( \frac{2\sqrt{3}v_0}{3g} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{3v_0^2}{3g} – \frac{1}{4}g \left( \frac{12v_0^2}{9g^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{v_0^2}{g} – \frac{g}{4} \frac{4v_0^2}{3g^2} \\[2.0ex]
&= \frac{v_0^2}{g} – \frac{v_0^2}{3g} \\[2.0ex]
&= \left( 1 – \frac{1}{3} \right) \frac{v_0^2}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0^2}{3g}
\end{aligned}
$$
これも最初の解法の結果と一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解(座標系の選択が鍵):
- 核心: この問題の根幹をなすのは、斜方投射という2次元の運動を、直交する2つの1次元の「等加速度直線運動」に分解して考えることです。特に、この問題のように衝突面が傾いている場合、どの方向に座標軸をとるかが解法の効率を大きく左右します。
- 理解のポイント:
- 水平・鉛直座標系: 加速度の分解が不要(\(a_x=0, a_y=-g\))でシンプルですが、落下条件が「直線 \(y=x\tan\theta\) 上の点」となり、連立方程式を解く必要があります。
- 斜面に平行・垂直な座標系: 落下条件が「\(y’=0\)」と非常にシンプルになりますが、代わりに重力加速度 \(\vec{g}\) を斜面に沿った成分と垂直な成分に分解する手間が生じます。
どちらの座標系でも解けるようになっておくことが、応用力を高める上で極めて重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面の上からの投射: 斜面の上から下に向かって物体を投射する問題。考え方は全く同じですが、初速度や加速度の成分の符号が変わる点に注意が必要です。
- 壁への衝突: 鉛直な壁に向かってボールを投げる問題。壁に衝突する条件は「x座標が壁の位置と等しくなる」ことなので、水平・鉛直座標系で考えるのが有利です。
- 最高点の問題: 「斜面からの高さが最大になる点」を問う問題。これは、斜面に垂直な座標系(x’, y’)をとり、「y’方向の速度 \(v_{y’}\) が0になる」条件で解くと非常に簡単になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 衝突面(地面)は水平か、傾いているか?: これが座標系を選択する上での最大の判断基準です。
- 地面が水平 → 迷わず「水平・鉛直」座標系を選択。
- 地面が傾いている → 「水平・鉛直」と「斜面に平行・垂直」の両方の解法が考えられます。問題で何が問われているかによって有利な方を選びます。
- 何が問われているか?:
- 「到達時間」「飛距離」→ どちらの座標系でも解けますが、斜面に平行・垂直な座標系の方が計算が楽な場合が多いです。
- 「最高到達点(地面からの高さ)」→ 水平・鉛直座標系で、鉛直方向の速度 \(v_y\) が0になる点を求めます。
- 「斜面からの最大高さ」→ 斜面に平行・垂直な座標系で、垂直方向の速度 \(v_{y’}\) が0になる点を求めます。
- 衝突面(地面)は水平か、傾いているか?: これが座標系を選択する上での最大の判断基準です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 角度の取り違え:
- 誤解: 初速度の分解で、水平面となす角(\(60^\circ\))と斜面となす角(\(30^\circ\))を混同する。あるいは、重力加速度を分解する際に、\(\sin\) と \(\cos\) を取り違える。
- 対策: 必ず大きな図を描き、どの角度が何度なのかを明確に書き込みましょう。特に重力加速度の分解では、斜面の角度 \(\theta\) を使って、斜面に平行な成分が \(g\sin\theta\)、垂直な成分が \(g\cos\theta\) となることを、図を描いて毎回確認する習慣をつけましょう。
- 座標系の混同:
- 誤解: 水平・鉛直座標系で考え始めたのに、途中で斜面に平行な成分の速度を使ってしまうなど、異なる座標系の物理量を一つの式に混ぜてしまう。
- 対策: 計算を始める前に、「水平右向きにx軸、鉛直上向きにy軸をとる」のように、使用する座標系を宣言しましょう。そして、その計算中は一貫してその座標系の中だけで考えることを徹底します。
- 落下条件の誤り:
- 誤解: 斜面への投射なのに、鉛直方向の速度 \(v_y\) が0になる点を落下点としてしまう(これは水平面への投射の場合の最高点)。あるいは、y座標が0になる点を落下点としてしまう(これも水平面への投射の場合)。
- 対策: 「斜面上に落下する」とはどういうことかを、数式で正しく表現することが重要です。水平・鉛直座標系なら「\(y = x \tan\theta\)」、斜面に平行・垂直な座標系なら「\(y’ = 0\)」という条件を、問題に応じて正しく使い分けましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 座標軸の回転イメージ: 水平・鉛直座標系を、斜面の角度だけ「ぐいっ」と回転させたものが、斜面に平行・垂直な座標系であるとイメージします。このとき、初速度ベクトル \(\vec{v_0}\) は固定されたままで、重力加速度ベクトル \(\vec{g}\) も鉛直下向きのままです。回転したのはあくまで「見るためのモノサシ(座標軸)」だけです。このイメージを持つと、各ベクトルを新しい座標軸に分解する操作が理解しやすくなります。
- 重力加速度の分解図: 重力加速度ベクトル \(\vec{g}\)(鉛直下向きの矢印)を描き、その終点から斜面に平行な線と垂直な線に垂線を下ろします。これにより、\(\vec{g}\) を2つの成分ベクトルに分解する直角三角形が描けます。この図を描くことで、角度の関係が明確になり、\(\sin\) と \(\cos\) の間違いを劇的に減らせます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 角度を正確に記入する。水平面と斜面のなす角、斜面と初速度ベクトルのなす角など、問題で与えられたすべての角度情報を図に反映させます。
- 座標軸は必ず描く。原点O、x軸、y軸(またはx’軸、y’軸)と、それぞれの正の向きを示す矢印を記入します。
- ベクトルは矢印で表現する。初速度 \(\vec{v_0}\) や重力加速度 \(\vec{g}\) は、向きと大きさを持つベクトルとして矢印で描きましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 等加速度直線運動の公式 (\(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\), \(v = v_0 + at\)):
- 選定理由: 運動を直交する2方向に分解すると、各方向の運動は「一定の加速度」を持つ直線運動になるからです。この運動を記述するための唯一無二の公式セットです。
- 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) において、力 \(F\) が一定の場合の解として導出される、極めて基本的な運動法則です。この問題では、各成分の力(重力成分)が一定であるため、この公式が適用できます。
- 三角比・三角関数 (\(y=x\tan\theta\), 成分分解):
- 選定理由: ベクトル(初速度、重力加速度)を座標軸の成分に分解したり、斜面という図形的な条件を数式で表現したりするために、数学的なツールとして三角比・三角関数が必要になります。
- 適用根拠: 図形における辺と角度の関係を代数的に扱うための数学的な規則です。物理法則そのものではありませんが、物理法則を立式する上で不可欠な言語の役割を果たします。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 解法1:水平・鉛直座標系
- (1) 時間の計算:
- 戦略: 小球の軌跡の式と、斜面の式を連立させる。
- フロー: ①初速度を水平・鉛直成分に分解 → ②時刻\(t\)でのx, y座標の式を立てる → ③斜面の式 \(y = x\tan 30^\circ\) に代入 → ④\(t\)に関する方程式を解く。
- (2) 距離の計算:
- 戦略: 求めた時間\(t\)から落下点の座標を求め、距離を計算する。
- フロー: ①\(x(t)\)の式に\(t\)を代入し、\(x_P\)を計算 → ②\(x_P = L\cos 30^\circ\) の関係から\(L\)を計算。
- (1) 時間の計算:
- 解法2:斜面に平行・垂直な座標系(別解)
- (1) 時間の計算:
- 戦略: 斜面に垂直な方向の変位が0になる条件を使う。
- フロー: ①初速度と重力加速度を斜面に平行・垂直な成分に分解 → ②y’方向の変位の式 \(y'(t) = v_{0y’}t + \displaystyle\frac{1}{2}a_{y’}t^2\) を立てる → ③\(y'(t)=0\)として、\(t\)に関する方程式を解く。
- (2) 距離の計算:
- 戦略: 求めた時間\(t\)を、斜面に平行な方向の変位の式に代入する。
- フロー: ①x’方向の変位の式 \(L = x'(t) = v_{0x’}t + \displaystyle\frac{1}{2}a_{x’}t^2\) を立てる → ②(1)で求めた\(t\)を代入して\(L\)を計算。
- (1) 時間の計算:
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、与えられているのが文字(\(v_0, g\))のみの場合、最後まで文字式のまま計算を進めるしかありません。計算過程で式が複雑になりますが、焦らず、分配法則や因数分解を丁寧に行いましょう。
- 三角関数の値の正確性: \(\sin 30^\circ, \cos 30^\circ, \tan 30^\circ\) や \(\sin 60^\circ, \cos 60^\circ\) の値を正確に(分母にルートが残らない形で)使えることが必須です。
- 次元の確認: 最終的に求めた時間の単位が[s]、距離の単位が[m]になるかを、式の次元(ディメンション)で確認する習慣をつけましょう。例えば、時間 \(t\) の答えが \(\displaystyle\frac{v_0}{g}\) の形をしていれば、次元は \(\displaystyle\frac{[\text{m/s}]}{[\text{m/s}^2]} = [\text{s}]\) となり、正しそうです。距離 \(L\) の答えが \(\displaystyle\frac{v_0^2}{g}\) の形なら、次元は \(\displaystyle\frac{[\text{m}^2/\text{s}^2]}{[\text{m/s}^2]} = [\text{m}]\) となり、これも正しそうです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 別解との比較: この問題は、2つの全く異なる座標系で解くことができました。両方のアプローチで、時間 \(t\) と距離 \(L\) が完全に一致したことは、それぞれの計算の正しさを強力に裏付けています。どちらか一方の解法で詰まったときに、もう一方の解法に切り替えるという実践的な力にも繋がります。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もし斜面の角度が \(0^\circ\) だったら?(水平面への投射): この場合、投射角は \(30^\circ\) となります。別解の式で斜面の角度を\(\alpha\)、投射角を\(\beta\)として一般化すると、\(t = \displaystyle\frac{2v_0 \sin\beta}{g\cos\alpha}\)。\(\alpha=0, \beta=30^\circ\) を代入すると \(t = \displaystyle\frac{2v_0 \sin 30^\circ}{g} = \frac{v_0}{g}\)。これは水平面への斜方投射の滞空時間の公式と一致しません(正しくは \(t=\displaystyle\frac{2v_0\sin(\alpha+\beta)}{g}\) から導くべき)。このように単純な代入はできませんが、物理的な状況がどう変わるかを考える良い訓練になります。
- もし初速度 \(v_0\) が2倍になったら?: \(t\) は \(v_0\) に比例するので2倍、\(L\) は \(v_0^2\) に比例するので4倍になります。これは物理的な直感と一致します。
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