「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 2】Step3

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16 速度の分解

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ベクトルの基本的な操作である「合成」と「分解」を、ヘリコプターの速度を例に扱います。物理現象を数学的に記述するための基礎となる重要なスキルが問われます。
この問題の核心は、2次元のベクトル(速度)を、互いに直交する2つの成分(水平成分と鉛直成分)に分けて考え、またその逆に成分から元のベクトルを求めることです。

与えられた条件

前半:

  • 速度の水平成分: \(v_x = 12.0 \, \text{m/s}\)
  • 速度の鉛直成分: \(v_y = 9.0 \, \text{m/s}\)

後半:

  • 速度の大きさ: \(v’ = 30 \, \text{m/s}\)
  • 速度の向き: 水平より \(30^\circ\) 斜め上向き
問われていること
  • 前半の条件における、ヘリコプターの速度の大きさ \(v\) と、速度の向きが水平方向となす角 \(\theta\) の \(\tan\theta\) の値。
  • 後半の条件における、速度の水平成分 \(v’_x\) と鉛直成分 \(v’_y\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「速度ベクトルの合成と分解」です。一つの斜め方向の運動を、水平方向と鉛直方向という2つの独立した運動の組み合わせとして捉えることが基本となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ベクトルの合成: 互いに直交する2つの成分ベクトルから、元のベクトルの大きさと向きを求める操作です。
  2. ベクトルの分解: 一つのベクトルを、互いに直交する2つの成分ベクトルに分ける操作です。
  3. 三平方の定理: 直角三角形の3辺の長さの関係を示す定理で、ベクトルの大きさを求める際に用います。
  4. 三角比(\(\sin, \cos, \tan\)): 直角三角形の辺の比と角度の関係を示すもので、ベクトルの分解や向きの計算に用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、問題の前半では、与えられた水平成分と鉛直成分を2辺とする直角三角形を考えます。三平方の定理を用いて斜辺の長さ(速度の大きさ)を、三角比の定義を用いて角度(\(\tan\theta\))を求めます。
  2. 次に、問題の後半では、与えられた速度の大きさを斜辺、その向きを角度とする直角三角形を考えます。三角比を用いて、他の2辺の長さ(水平成分と鉛直成分)を計算します。

速度の大きさと向きの計算

思考の道筋とポイント
速度の水平成分と鉛直成分から、元の速度の大きさと向きを求める問題です。速度ベクトルは、水平成分ベクトルと鉛直成分ベクトルを合成したものと考えることができます。この2つの成分は互いに直交しているため、速度ベクトルを斜辺、成分ベクトルを他の2辺とする直角三角形を描いて考えることができます。
この設問における重要なポイント

  • 速度の図示: 速度の水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を2辺、合成された速度 \(v\) を斜辺とする直角三角形をイメージします。
  • 大きさの計算: 直角三角形の辺の長さの関係である「三平方の定理」を用いて、速度の大きさ \(v\) を求めます。
  • 向きの計算: 速度の向き \(\theta\) は、直角三角形の辺の比で定義される三角比、特に \(\tan\theta\) を用いて表します。

具体的な解説と立式
水平方向を\(x\)軸、鉛直方向を\(y\)軸とします。ヘリコプターの速度 \(\vec{v}\) は、水平成分 \(v_x = 12.0 \, \text{m/s}\) と鉛直成分 \(v_y = 9.0 \, \text{m/s}\) を持ちます。
これらの関係は、図に示すように直角三角形で表すことができます。
速度の大きさ \(v\) は、この直角三角形の斜辺の長さに相当するため、三平方の定理を用いて次のように表せます。
$$ v^2 = v_x^2 + v_y^2 $$
したがって、\(v\) は以下の式で求められます。
$$ v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} \quad \cdots ① $$
また、速度の向きが水平方向となす角を \(\theta\) とすると、三角比の定義から \(\tan\theta\) は次のように表せます。
$$ \tan\theta = \frac{v_y}{v_x} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 三平方の定理
  • 三角比の定義
計算過程

式①に与えられた値を代入して、速度の大きさ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{12.0^2 + 9.0^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{144 + 81} \\[2.0ex]
&= \sqrt{225} \\[2.0ex]
&= 15 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、式②に値を代入して、\(\tan\theta\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{9.0}{12.0} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{4} \\[2.0ex]
&= 0.75
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ヘリコプターの動きを「真横に進む動き(水平成分)」と「真上に進む動き(鉛直成分)」に分けて考えます。この2つの動きを組み合わせた実際の斜めの動きの速さ(速度の大きさ)は、直角三角形の斜辺の長さを求める計算(三平方の定理)で求めることができます。また、進む角度は、この三角形の辺の比率(タンジェント)で表すことができます。

結論と吟味

ヘリコプターの速度の大きさは \(15 \, \text{m/s}\)、\(\tan\theta\) の値は \(0.75\) です。
水平成分:鉛直成分の比が \(12.0:9.0 = 4:3\) であることに注目すると、これは辺の比が \(3:4:5\) の有名な直角三角形であることがわかります。したがって、斜辺(速度の大きさ)は \(3 \times 3 : 4 \times 3 : 5 \times 3\) の関係から \(15 \, \text{m/s}\) となり、計算結果と一致します。

速度の成分の計算

思考の道筋とポイント
速度の大きさと向きから、その水平成分と鉛直成分を求める問題です。これは問題の前半とは逆の操作で、「ベクトルの分解」と呼ばれます。与えられた速度ベクトルを斜辺とし、水平・鉛直方向を他の2辺とする直角三角形を考え、三角比を用いて各辺の長さを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 速度の分解: 速度ベクトル \(\vec{v’}\) を、水平方向のベクトル \(\vec{v’_x}\) と鉛直方向のベクトル \(\vec{v’_y}\) の和として考えます。
  • 三角比の利用: 水平成分は、速度の大きさに \(\cos\theta\) を掛けることで求まります。鉛直成分は、速度の大きさに \(\sin\theta\) を掛けることで求まります。
  • 有効数字の処理: 計算結果は、問題文で与えられた数値の有効数字に合わせて適切に丸める必要があります。

具体的な解説と立式
ヘリコプターの速度の大きさを \(v’ = 30 \, \text{m/s}\)、水平方向となす角を \(30^\circ\) とします。
この速度ベクトルを斜辺とする直角三角形を考えると、水平成分 \(v’_x\) と鉛直成分 \(v’_y\) は、三角比を用いて次のように表すことができます。
水平成分は、角度を挟む辺なので \(\cos\) を用います。
$$ v’_x = v’ \cos 30^\circ \quad \cdots ③ $$
鉛直成分は、角度の対辺なので \(\sin\) を用います。
$$ v’_y = v’ \sin 30^\circ \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 三角比を用いたベクトルの分解
計算過程

式③に値を代入して、水平成分 \(v’_x\) を計算します。ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用います。
$$
\begin{aligned}
v’_x &= 30 \times \cos 30^\circ \\[2.0ex]
&= 30 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= 15\sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 15 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 25.95 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
問題文の「30 m/s」は有効数字2桁と考えられるため、計算結果を有効数字2桁に丸めて \(26 \, \text{m/s}\) とします。

次に、式④に値を代入して、鉛直成分 \(v’_y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v’_y &= 30 \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= 30 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 15 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
こちらは有効数字2桁で \(15 \, \text{m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

斜め \(30^\circ\) の向きに速さ \(30 \, \text{m/s}\) で進むヘリコプターの動きを、「真横に進む分(水平成分)」と「真上に進む分(鉛直成分)」の2つに分解します。これは、直角三角形の斜辺の長さ(30)と角度(\(30^\circ\))から、残りの2つの辺の長さを三角比(コサインとサイン)を使って求める計算と同じです。

結論と吟味

速度の水平成分は \(26 \, \text{m/s}\)、鉛直成分は \(15 \, \text{m/s}\) です。
分解した成分が元の速度より小さくなっている(\(26 < 30\), \(15 < 30\))ことから、物理的に妥当な結果と言えます。また、分解した成分を逆に合成してみると、\(\sqrt{26^2 + 15^2} = \sqrt{676 + 225} = \sqrt{901} \approx 30.01…\) となり、元の速度の大きさ \(30 \, \text{m/s}\) とほぼ一致することから、計算が正しいことが確認できます(差は有効数字の処理による丸め誤差です)。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ベクトルの合成(成分 → 大きさと向き):
    • 核心: 互いに直交する2つの成分(この問題では \(v_x, v_y\))が分かっているとき、元のベクトルの大きさ \(v\) は三平方の定理 \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) で、向き \(\theta\) は三角比の定義 \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\) で求めることができます。これは、ベクトルと成分がなす直角三角形の幾何学的な関係そのものです。
  • ベクトルの分解(大きさと向き → 成分):
    • 核心: ベクトルの大きさと向き(\(v’, \alpha\))が分かっているとき、各成分は三角比を用いて \(v’_x = v’ \cos\alpha\), \(v’_y = v’ \sin\alpha\) のように求めることができます。これは、一つのベクトルを直交する2つのベクトルの和として表現し直す操作です。
  • 普遍性: これらの「合成」と「分解」は、速度だけでなく、力、加速度、変位、電場など、物理学で登場するあらゆるベクトル量に対して共通して適用できる、極めて重要な数学的ツールです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 放物運動: 物体を斜めに投げ上げたときの初速度を、水平成分と鉛直成分に分解して考えます。
    • 力の分解: 斜面上に置かれた物体に働く重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
    • 糸の張力: 2本の糸で物体を吊り下げたとき、それぞれの張力を水平成分と鉛直成分に分解して力のつり合いを考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 扱っている物理量がベクトル(向きと大きさを持つ量)であるかを確認します。
    2. 問題を解析しやすいように、直交する座標軸(通常は水平・鉛直)を設定します。
    3. 問題が「成分から全体を求める(合成)」なのか、「全体を成分に分ける(分解)」なのかを把握します。
    4. 必ず図を描き、ベクトルと成分がなす直角三角形を視覚的に捉えることが、ミスを防ぎ、理解を深める鍵となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • \(\sin\) と \(\cos\) の取り違え:
    • 誤解: 角度が与えられたときに、水平成分は常に \(\cos\)、鉛直成分は常に \(\sin\) だと暗記してしまう。
    • 対策: 暗記に頼らず、必ず図を描きましょう。角度 \(\theta\) を「挟む」辺が \(\cos\theta\)、「向かい合う」辺が \(\sin\theta\) に対応します。角度が鉛直軸から与えられた場合は、水平が \(\sin\)、鉛直が \(\cos\) になるので注意が必要です。
  • 有効数字の処理ミス:
    • 誤解: 計算の途中で数値を丸めてしまい、最終的な答えに大きな誤差が生じる。
    • 対策: 計算途中では、有効数字より1桁多く残して計算を進め、最後の答えを出す段階で、問題文で与えられた数値の有効数字の桁数が最も少ないものに合わせるのが基本です。
  • 単位の付け忘れ:
    • 誤解: 計算に集中するあまり、最終的な答えに単位を書き忘れる。
    • 対策: 物理量の計算では、常に単位を意識する習慣をつけましょう。速度なら [m/s]、力なら [N] など、答えには必ず単位を明記します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 長方形によるイメージ: 速度ベクトルを対角線とし、その水平成分と鉛直成分を辺とする長方形をイメージします。
      • 合成は、「長方形の2辺の長さ(\(12.0, 9.0\))から、対角線の長さと傾きを求める」作業。
      • 分解は、「長方形の対角線の長さ(\(30\))と傾き(\(30^\circ\))から、2辺の長さを求める」作業。
    • このように図形問題として捉えることで、どの数学的ツール(三平方の定理、三角比)を使えばよいかが直感的にわかります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • ベクトルの矢印: 速度の向きと大きさを反映した矢印を描きます。
    • 座標軸の明記: 水平(x軸)と鉛直(y軸)を明確にします。
    • 角度の記入: どの角度が \(\theta\) や \(30^\circ\) なのかを正確に図に書き込み、\(\sin, \cos\) の選択ミスを防ぎます。
    • 分解した成分は点線で描く: 元のベクトル(実線)と分解後の成分ベクトル(点線)を区別すると、図が整理され、混乱を防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 三平方の定理 (\(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)):
    • 選定理由: 互いに直交する2つの量(水平成分、鉛直成分)から、それらを合成した量(速度の大きさ)を求めたいから。
    • 適用根拠: 水平速度と鉛直速度は互いに \(90^\circ\) の関係にあるため、速度ベクトルと成分ベクトルは直角三角形を形成します。この直角三角形の辺の長さの関係を記述する数学的法則が三平方の定理です。
  • 三角比 (\(v_x = v \cos\theta, v_y = v \sin\theta\)):
    • 選定理由: 一つの量(速度)を、直交する2つの方向に分けたいから。また、辺の比から角度の情報を得たいから。
    • 適用根拠: 直角三角形において、角度が決まれば3辺の比が一定になるという数学的な性質を利用しています。これにより、ベクトルの「大きさ」と「向き(角度)」という2つの情報を、「x成分」と「y成分」という2つの情報に相互に変換することができます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 速度の合成(成分 → 大きさ・向き):
    • 戦略: 与えられた直交成分から、三平方の定理と三角比の定義を適用する。
    • フロー: ①水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を確認 → ②直角三角形をイメージし、斜辺 \(v\) を求める式(三平方の定理)を立てる → ③値を代入して \(v\) を計算 → ④辺の比から \(\tan\theta\) を求める式を立て、値を代入して計算。
  2. 速度の分解(大きさ・向き → 成分):
    • 戦略: 与えられた大きさと向きから、三角比を用いて直交成分を計算する。
    • フロー: ①大きさ \(v’\) と角度 \(\alpha\) を確認 → ②直角三角形をイメージし、水平成分 \(v’_x\) を求める式(\(\cos\) を使用)を立てる → ③値を代入して \(v’_x\) を計算 → ④同様に鉛直成分 \(v’_y\) を求める式(\(\sin\) を使用)を立て、値を代入して計算 → ⑤有効数字を考慮して答えをまとめる。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 特殊な直角三角形の活用: 問題の前半のように、辺の比が \(3:4:5\) や \(1:1:\sqrt{2}\), \(1:\sqrt{3}:2\) といった有名な直角三角形になっていないか確認する癖をつけると、計算が速く正確になります。
  • 三角関数の値の暗記: \(\sin, \cos, \tan\) の \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) の値は即座に言えるようにしておくことが必須です。
  • 近似値の記憶: \(\sqrt{2} \approx 1.41\), \(\sqrt{3} \approx 1.73\) といったよく使う無理数の近似値は覚えておくと、検算や概算に役立ちます。
  • 電卓に頼らない計算練習: 日頃から手計算で問題を解くことで、計算力が向上し、ケアレスミスが減少します。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 大きさの比較による吟味:
    • 合成の場合: 合成後のベクトルの大きさは、どの成分よりも必ず大きくなります(\(15 > 12.0\), \(15 > 9.0\))。また、成分の単純な和よりは小さくなります(\(15 < 12.0 + 9.0 = 21.0\))。
    • 分解の場合: 分解後の成分の大きさは、元のベクトルの大きさより必ず小さくなります(\(26 < 30\), \(15 < 30\))。
  • 逆計算による検算:
    • 問題の後半で求めた成分 \(v’_x \approx 26\), \(v’_y = 15\) を、前半の方法で合成し直してみます。\(\sqrt{26^2 + 15^2} = \sqrt{676 + 225} = \sqrt{901} \approx 30.01…\)。元の大きさ \(30\) とほぼ一致することから、計算の妥当性が確認できます。このように、分解と合成は互いに逆の操作であることを利用して検算する習慣をつけると、間違いを大幅に減らせます。

17 相対速度

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、動いている観測者から見た物体の運動、すなわち「相対速度」を扱う典型的な問題です。観測者の速度が変わると、観測される物体の速度(この場合は風の速度)も変わって見える、という現象をベクトルを用いて解析する能力が問われます。

この問題の核心は、「人が感じる風の速度(相対速度)」、「実際の風の速度(絶対速度)」、「人の速度」の3つのベクトルの関係を正しく理解し、図や数式で表現することです。

与えられた条件
  • 状況1:
    • 人の速度: 西向きに \(1.0 \, \text{m/s}\)
    • 人が感じる風の向き: 北東から(つまり、南西向き)
  • 状況2:
    • 人の速度: 西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\)
    • 人が感じる風の向き: 北から(つまり、南向き)
問われていること
  • 実際の風の速さ(大きさ)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「相対速度のベクトル解析」です。2つの異なる状況で観測された相対速度の情報から、未知の絶対速度を特定します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 相対速度の公式: (Aから見たBの相対速度) = (Bの速度) – (Aの速度)というベクトル関係式が基本です。この問題では、「人が感じる風速」 = 「実際の風速」 – 「人の速度」となります。
  2. ベクトル図: 上記のベクトル関係式を図で表現します。ベクトルの引き算は、引くベクトルの向きを逆にした足し算と考える( \(\vec{a} – \vec{b} = \vec{a} + (-\vec{b})\) )と、図が描きやすくなります。
  3. 幾何学: ベクトル図に現れる三角形の幾何学的な性質(角度や辺の長さの関係)を利用して、未知の量を求めます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、相対速度の公式を立てます。
  2. 次に、状況1と状況2それぞれについて、ベクトル関係式を図示します。このとき、未知である「実際の風速」ベクトルは両方の状況で共通である点がポイントです。
  3. 2つのベクトル図を重ね合わせるか、あるいは座標を設定して成分で考えることで、未知の「実際の風速」を特定します。模範解答は図形的な解法(ベクトル図)をとっているので、まずはそれに沿って解説し、別解として成分計算による解法も示します。

図形的解法

思考の道筋とポイント

この問題は、2つの異なる状況から未知のベクトル(実際の風速)を決定する問題です。模範解答のように図形的に解く方法と、座標を設定して計算で解く方法があります。ここではまず、図形的な解法と思考プロセスを解説します。

この設問における重要なポイント

  • 相対速度のベクトル関係: 「人が感じる風速 \(\vec{v}_{\text{相対}}\)」は、「実際の風速 \(\vec{v}_{\text{風}}\)」から「人の速度 \(\vec{v}_{\text{人}}\)」を引いたもの、すなわち \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}}\) です。
  • ベクトル図の作成: 上の式を変形すると \(\vec{v}_{\text{風}} = \vec{v}_{\text{相対}} + \vec{v}_{\text{人}}\) となります。この「ベクトルの和」の形で図を描くと考えやすいです。しかし、模範解答は \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} + (-\vec{v}_{\text{人}})\) の形で描いています。どちらでも本質は同じです。
  • 共通のベクトル: 2つの状況で「実際の風速 \(\vec{v}_{\text{風}}\)」は変化しません。この共通のベクトルを基準に2つの図を重ね合わせることが、図形的解法の鍵です。

具体的な解説と立式

まず、速度ベクトルを定義します。

  • 実際の風の速度を \(\vec{v}_{\text{風}}\)
  • 人の速度を \(\vec{v}_{\text{人}}\)
  • 人が感じる風の速度(相対速度)を \(\vec{v}_{\text{相対}}\)

とすると、これらの間には次の関係が成り立ちます。

$$ \vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}} $$

この式は、ベクトルの引き算として解釈できます。模範解答の図のように、引くベクトル \(\vec{v}_{\text{人}}\) の逆ベクトル \(-\vec{v}_{\text{人}}\) を用いて足し算の形にすると、

$$ \vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} + (-\vec{v}_{\text{人}}) $$

と表現できます。

状況1: 人が西向きに \(1.0 \, \text{m/s}\) で歩く場合

  • \(-\vec{v}_{\text{人1}}\) は東向きに大きさ \(1.0 \, \text{m/s}\) のベクトル。
  • \(\vec{v}_{\text{相対1}}\) は北東から吹くので、南西向きのベクトル。北西の向きと \(45^\circ\) の角をなします。

状況2: 人が西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\) で走る場合

  • \(-\vec{v}_{\text{人2}}\) は東向きに大きさ \(4.0 \, \text{m/s}\) のベクトル。
  • \(\vec{v}_{\text{相対2}}\) は北から吹くので、南向きのベクトル。

これらの関係を、\(\vec{v}_{\text{風}}\) の始点を共通の原点Oとして図示します。
\(\vec{v}_{\text{風}}\) の終点をPとします。
状況1では、\(-\vec{v}_{\text{人1}}\) の終点(点Aとする)からPへ向かうベクトルが \(\vec{v}_{\text{相対1}}\) となります。
状況2では、\(-\vec{v}_{\text{人2}}\) の終点(点Bとする)からPへ向かうベクトルが \(\vec{v}_{\text{相対2}}\) となります。

この結果、模範解答の右側にあるような、直角三角形APBを含む図形が描けます。

  • 辺ABの長さは、\(4.0 – 1.0 = 3.0 \, \text{m/s}\)。
  • 角PABは、\(\vec{v}_{\text{相対1}}\) が南西向きであることから \(45^\circ\)。
  • 角PBAは、\(\vec{v}_{\text{相対2}}\) が南向きであることから \(90^\circ\)。

したがって、三角形APBは直角二等辺三角形となります。

使用した物理公式

  • 相対速度: \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{B}} – \vec{v}_{\text{A}}\)
計算過程

図形的な考察から、三角形APBが直角二等辺三角形であることがわかりました。
したがって、辺PBと辺ABの長さは等しくなります。

$$ PB = AB = 3.0 \, \text{[m/s]} $$

また、点Bは原点Oから東に \(4.0 \, \text{m/s}\) の位置にあります。
点Pの座標を考えると、Bから南に \(3.0 \, \text{m/s}\) の位置にあるので、Pの座標は東向きに \(4.0\)、南向きに \(3.0\) となります。
求める「実際の風の速さ」は、ベクトル \(\vec{v}_{\text{風}}\) の大きさ、すなわち原点Oから点Pまでの距離 \(OP\) です。
三角形OPBは、OBとPBを2辺とする直角三角形なので、三平方の定理を用いて \(OP\) の長さを計算します。

$$
\begin{aligned}
OP^2 &= OB^2 + PB^2 \\[2.0ex]
OP &= \sqrt{OB^2 + PB^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{4.0^2 + 3.0^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{16 + 9.0} \\[2.0ex]
&= \sqrt{25} \\[2.0ex]
&= 5.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

2つの状況(歩くときと走るとき)で「人が感じる風」の情報を、ベクトル図にまとめます。すると、2つの状況を結びつけるきれいな直角三角形が現れます。この三角形の辺の長さを計算し、最終的に三平方の定理(ピタゴラスの定理)を使うことで、本当に吹いている風の速さを求めることができます。

結論と吟味

実際の風の速さは \(5.0 \, \text{m/s}\) です。
このとき、風の向きは東向きに \(4.0 \, \text{m/s}\)、南向きに \(3.0 \, \text{m/s}\) の成分を持つベクトル、つまり東南東の方向から吹いていることがわかります。この結果が、問題の2つの状況と矛盾しないか確認できます。例えば、人が西に \(4.0 \, \text{m/s}\) で走ると、風の東向き成分 \(4.0 \, \text{m/s}\) がちょうど打ち消され、南向き成分 \(3.0 \, \text{m/s}\) だけが感じられるため、「北から風が吹く」という状況と一致します。よって、答えは妥当です。

別解: 成分計算による解法

思考の道筋とポイント

ベクトル図の幾何学的な性質に気づかなくても、座標を設定し、ベクトルを成分で表すことで代数的に解くことができます。東西方向をx軸(東向きを正)、南北方向をy軸(北向きを正)とします。

この設問における重要なポイント

  • ベクトルの成分表示: すべての速度ベクトルをx成分とy成分に分解して表します。
  • 連立方程式: 未知数(\(\vec{v}_{\text{風}}\) のx, y成分)を含む連立方程式を立てて解きます。

具体的な解説と立式

未知の実際の風速 \(\vec{v}_{\text{風}}\) の成分を \((v_x, v_y)\) とします。
東向きをx軸正、北向きをy軸正とします。
相対速度の公式 \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}}\) を成分で書くと、

$$ (v_{\text{相対}x}, v_{\text{相対}y}) = (v_x – v_{\text{人}x}, v_y – v_{\text{人}y}) $$

となります。

状況1: 人が西向きに \(1.0 \, \text{m/s}\) で歩く

  • \(\vec{v}_{\text{人1}} = (-1.0, 0)\)
  • \(\vec{v}_{\text{相対1}}\) は北東から吹くので南西向き。x成分とy成分は等しく、負の値です。

よって、相対速度のx成分とy成分は、

$$ v_{\text{相対}x} = v_x – (-1.0) = v_x + 1.0 $$
$$ v_{\text{相対}y} = v_y – 0 = v_y $$

これらが等しいので、

$$ v_x + 1.0 = v_y \quad \cdots ① $$

状況2: 人が西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\) で走る

  • \(\vec{v}_{\text{人2}} = (-4.0, 0)\)
  • \(\vec{v}_{\text{相対2}}\) は北から吹くので南向き。x成分は0です。

よって、相対速度のx成分は、

$$ v_{\text{相対}x} = v_x – (-4.0) = v_x + 4.0 $$

これが0になるので、

$$ v_x + 4.0 = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 相対速度: \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{B}} – \vec{v}_{\text{A}}\)
  • ベクトルの成分分解
計算過程

まず、式②から \(v_x\) が求まります。

$$ v_x = -4.0 \, \text{[m/s]} $$

次に、この結果を式①に代入して \(v_y\) を求めます。

$$
\begin{aligned}
v_y &= v_x + 1.0 \\[2.0ex]
&= -4.0 + 1.0 \\[2.0ex]
&= -3.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

これで、実際の風の速度ベクトル \(\vec{v}_{\text{風}}\) の成分が \((-4.0, -3.0)\) であることがわかりました。
これは、西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\)、南向きに \(3.0 \, \text{m/s}\) の風が吹いていることを意味します。
求める風の速さは、このベクトルの大きさなので、

$$
\begin{aligned}
|\vec{v}_{\text{風}}| &= \sqrt{v_x^2 + v_y^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(-4.0)^2 + (-3.0)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{16 + 9.0} \\[2.0ex]
&= \sqrt{25} \\[2.0ex]
&= 5.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

東西と南北に座標軸を設定し、風の速さを未知のx成分とy成分に分けます。2つの状況(歩くときと走るとき)について、それぞれ「人が感じる風」の情報を数式で表します。すると、未知数2つ(風のx成分、y成分)に対して2つの関係式が得られるので、連立方程式を解くことで風の成分が特定できます。最後に、三平方の定理で成分から全体の速さを計算します。

結論と吟味

実際の風の速さは \(5.0 \, \text{m/s}\) です。
成分計算による解法でも、図形的な解法と全く同じ結果が得られました。これは、両者が同じ物理現象を異なる数学的ツールで表現しているに過ぎないことを示しています。図形的な解法は直感的で素早く解ける可能性がある一方、成分計算は機械的な作業で確実に答えにたどり着けるという利点があります。


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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 相対速度のベクトル関係式:
    • 核心: この問題の全ての思考の出発点は、(Aから見たBの相対速度) = (Bの速度) – (Aの速度)というベクトル関係式です。数式で書くと \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) となります。この問題では、「人が感じる風の速度(相対速度)」、「実際の風の速度(絶対速度)」、「人の速度」の3つのベクトルがこの関係を満たします。
    • 理解のポイント: この式はベクトルの引き算であり、図形的には \(\vec{v}_B = \vec{v}_A + \vec{v}_{AB}\) というベクトルの足し算の形で捉えるか、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) という逆ベクトルの足し算で捉えると、作図や立式がしやすくなります。
  • 複数条件からの未知ベクトルの決定:
    • 核心: 観測者の速度(人の速度)を変えることで、相対速度(人が感じる風)も変化しますが、「実際の風の速度」という絶対速度は不変です。この「不変のベクトル」を基準として、2つの異なる状況を結びつけることで、未知であった絶対速度を特定することができます。
    • 理解のポイント: これは、数学における「2つの未知数(風速のx, y成分)を決定するには、2つの独立した方程式(2つの観測状況)が必要」という考え方と物理的に対応しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 川を渡る船: 「静水に対する船の速さ」「川の流水の速さ」「岸から見た船の速さ」の3つのベクトルが相対速度の関係にあります。
    • 雨の中を走る人: 「無風状態での雨粒の落下速度」「人の走る速度」「人が感じる雨の向きと速さ」が同様の関係になります。
    • 飛行機と風: 「無風状態での飛行機の速さ(対気速度)」「風の速さ」「地面に対する飛行機の速さ(対地速度)」も全く同じ構造の問題です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 3つの速度を特定する: 問題文から「絶対速度(地面に対する速度)」「相対速度(動く物体から見た速度)」「観測者の速度」の3つがどれに対応するかを正確に読み取ります。
    2. 基準となる座標系を明確にする: 「地面に固定された座標系」で考えるのが基本です。
    3. 解法を選択する(図解か、成分計算か): 問題文に「45°」や「真北」など、図形的な性質が使いやすそうな角度が出てきたら、まずはベクトル図による解法を試みます。角度が複雑であったり、図が描きにくい場合は、機械的に処理できる成分計算による解法が有効です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ベクトルの引き算の向きの間違い:
    • 誤解: \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}}\) を計算する際に、どちらからどちらを引くのかを混同してしまう。
    • 対策: 「〜から見た」の「〜」が引く側(観測者)と覚えましょう。また、\(\vec{v}_{\text{風}} = \vec{v}_{\text{人}} + \vec{v}_{\text{相対}}\) のように足し算の形に直して、「人の動き」と「人が感じる風の動き」を合成したものが「実際の風の動き」になると考えると、直感的に理解しやすくなります。
  • 風の向きの解釈ミス:
    • 誤解: 「北東から吹く風」を「北東へ向かうベクトル」と勘違いしてしまう。
    • 対策: 風や雨の向きは「来る方向」で表現されるのが一般的です。「北東から」とあれば、ベクトルは反対の「南西向き」になります。必ず図に矢印を描いて確認しましょう。
  • 座標軸の取り方と成分の符号ミス:
    • 誤解: 成分計算で解く際に、設定した座標軸の正の向きと、ベクトルの向きから決まる成分の符号を間違える。
    • 対策: まず「東向きをx軸正、北向きをy軸正」のように座標軸を紙に明記します。その上で、各ベクトル(例:西向きならx成分は負)の符号を一つ一つ慎重に決定します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • ベクトルの始点を揃える: 模範解答のように、未知のベクトル \(\vec{v}_{\text{風}}\) の始点を原点Oに固定し、終点をPとします。次に、\(-\vec{v}_{\text{人}}\) のベクトルを原点Oから描きます。すると、\(-\vec{v}_{\text{人}}\) の終点からPへ向かうベクトルが \(\vec{v}_{\text{相対}}\) となり、異なる状況を一つの図に重ねて描きやすくなります。
    • ベクトルの三角形: \(\vec{v}_{\text{風}} = \vec{v}_{\text{人}} + \vec{v}_{\text{相対}}\) の関係を図示すると、3つのベクトルで三角形ができます。この「速度の三角形」を描き、その幾何学的性質(正弦定理、余弦定理、直角三角形の性質など)を利用して解く、という視点も非常に有効です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 基準ベクトルを明確に: 2つの状況で不変な \(\vec{v}_{\text{風}}\) を基準として描きます。
    • 方位を正確に: 上を北として、東西南北を正確に図に反映させます。特に「45°」などの角度は、どの線との間の角度なのかを明確に記入します。
    • 既知の長さと未知の長さを区別する: 問題文で与えられた速度の大きさ(ベクトルの長さ)を書き込み、求めるべき辺がどこなのかを明確にします。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 相対速度の公式 (\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)):
    • 選定理由: 「動いている人から見た風の速度」という、まさに相対速度の概念そのものが問われているため。
    • 適用根拠: この公式は、ガリレイ変換として知られる、異なる慣性系間の速度の変換則の基本です。物理現象をどの立場(地面か、動く人か)から見るかによって、速度の記述がどう変わるかを示す普遍的な法則です。
  • 三平方の定理:
    • 選定理由: ベクトル図を描いた結果、直角三角形が現れたため。直交する2つの辺の長さから、斜辺の長さを求める最も直接的な方法です。
    • 適用根拠: ユークリッド幾何学における基本的な定理であり、直交座標系における距離の定義そのものです。ベクトルの大きさが \(\sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) と計算できるのも、この定理に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 図形的解法:
    • 戦略: 2つの状況を1つのベクトル図にまとめ、幾何学的な性質を見抜いて解く。
    • フロー: ①相対速度の公式 \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} + (-\vec{v}_{\text{人}})\) を立てる → ②未知の \(\vec{v}_{\text{風}}\) を共通のベクトルとして、2つの状況を図示する → ③図形の中に現れる三角形(この問題では直角二等辺三角形)の性質を見抜く → ④辺の長さを計算し、三平方の定理などを用いて未知の速さを求める。
  2. 成分計算による解法(別解):
    • 戦略: 座標を設定し、ベクトルを成分で表現して連立方程式を解く。
    • フロー: ①東西・南北にx, y軸を設定し、未知の風速を \((v_x, v_y)\) と置く → ②相対速度の公式を成分で書き下す → ③状況1、状況2それぞれについて、与えられた条件を成分表示の式にする → ④得られた2組の式から連立方程式を立て、\(v_x, v_y\) を解く → ⑤求まった成分から、三平方の定理で速さ(ベクトルの大きさ)を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 図を大きく丁寧に描く: 図形的解法では、図の正確さが生命線です。フリーハンドでも良いので、分度器や定規を使うくらいの意識で、角度や長さの比率をできるだけ正確に描くと、幾何学的な関係性が見抜きやすくなります。
  • 文字式の活用: 成分計算で解く場合、すぐに数値を代入するのではなく、\(v_x, v_y\) などの文字を使って関係式を立てることに集中します。これにより、式の構造が明確になり、計算ミスを減らせます。
  • 単位と有効数字: 最終的な答えには、必ず「m/s」などの単位を付け、問題文の有効数字(この場合は2桁)に合わせることを忘れないようにしましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 求まった風速は \((-4.0, -3.0)\) [m/s](西向き4.0, 南向き3.0)でした。
      状況1の検証: 人が西向きに \(1.0\) で歩くと、人の速度は \((-1.0, 0)\)。相対速度は \(\vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}} = (-4.0 – (-1.0), -3.0 – 0) = (-3.0, -3.0)\)。これはx成分とy成分が等しいので、確かに南西向きの風になります。
      状況2の検証: 人が西向きに \(4.0\) で走ると、人の速度は \((-4.0, 0)\)。相対速度は \(\vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}} = (-4.0 – (-4.0), -3.0 – 0) = (0, -3.0)\)。これはx成分が0なので、確かに真南向き(北から吹く)の風になります。
      このように、得られた答えが問題の全ての条件を満たすことを確認することで、解答の正しさを確信できます。
  • 別解との比較:
    • 図形的な直感で解いた結果と、機械的な成分計算で解いた結果が \(5.0 \, \text{m/s}\) で完全に一致しました。これは、解法の正しさと計算の正確さを強力に裏付けるものです。異なるアプローチで同じ結論に至ることを確認する作業は、物理的理解を深める上で非常に重要です。
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