「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 2】Step3

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目次

16 速度の分解

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ベクトルの基本的な操作である「合成」と「分解」を、ヘリコプターの速度を例に扱います。物理現象を数学的に記述するための基礎となる重要なスキルが問われます。
この問題の核心は、2次元のベクトル(速度)を、互いに直交する2つの成分(水平成分と鉛直成分)に分けて考え、またその逆に成分から元のベクトルを求めることです。

与えられた条件

前半:

  • 速度の水平成分: \(v_x = 12.0 \, \text{m/s}\)
  • 速度の鉛直成分: \(v_y = 9.0 \, \text{m/s}\)

後半:

  • 速度の大きさ: \(v’ = 30 \, \text{m/s}\)
  • 速度の向き: 水平より \(30^\circ\) 斜め上向き
問われていること
  • 前半の条件における、ヘリコプターの速度の大きさ \(v\) と、速度の向きが水平方向となす角 \(\theta\) の \(\tan\theta\) の値。
  • 後半の条件における、速度の水平成分 \(v’_x\) と鉛直成分 \(v’_y\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「速度ベクトルの合成と分解」です。一つの斜め方向の運動を、水平方向と鉛直方向という2つの独立した運動の組み合わせとして捉えることが基本となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ベクトルの合成: 互いに直交する2つの成分ベクトルから、元のベクトルの大きさと向きを求める操作です。
  2. ベクトルの分解: 一つのベクトルを、互いに直交する2つの成分ベクトルに分ける操作です。
  3. 三平方の定理: 直角三角形の3辺の長さの関係を示す定理で、ベクトルの大きさを求める際に用います。
  4. 三角比(\(\sin, \cos, \tan\)): 直角三角形の辺の比と角度の関係を示すもので、ベクトルの分解や向きの計算に用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、問題の前半では、与えられた水平成分と鉛直成分を2辺とする直角三角形を考えます。三平方の定理を用いて斜辺の長さ(速度の大きさ)を、三角比の定義を用いて角度(\(\tan\theta\))を求めます。
  2. 次に、問題の後半では、与えられた速度の大きさを斜辺、その向きを角度とする直角三角形を考えます。三角比を用いて、他の2辺の長さ(水平成分と鉛直成分)を計算します。

速度の大きさと向きの計算

思考の道筋とポイント
速度の水平成分と鉛直成分から、元の速度の大きさと向きを求める問題です。速度ベクトルは、水平成分ベクトルと鉛直成分ベクトルを合成したものと考えることができます。この2つの成分は互いに直交しているため、速度ベクトルを斜辺、成分ベクトルを他の2辺とする直角三角形を描いて考えることができます。
この設問における重要なポイント

  • 速度の図示: 速度の水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を2辺、合成された速度 \(v\) を斜辺とする直角三角形をイメージします。
  • 大きさの計算: 直角三角形の辺の長さの関係である「三平方の定理」を用いて、速度の大きさ \(v\) を求めます。
  • 向きの計算: 速度の向き \(\theta\) は、直角三角形の辺の比で定義される三角比、特に \(\tan\theta\) を用いて表します。

具体的な解説と立式
水平方向を\(x\)軸、鉛直方向を\(y\)軸とします。ヘリコプターの速度 \(\vec{v}\) は、水平成分 \(v_x = 12.0 \, \text{m/s}\) と鉛直成分 \(v_y = 9.0 \, \text{m/s}\) を持ちます。
これらの関係は、図に示すように直角三角形で表すことができます。
速度の大きさ \(v\) は、この直角三角形の斜辺の長さに相当するため、三平方の定理を用いて次のように表せます。
$$ v^2 = v_x^2 + v_y^2 $$
したがって、\(v\) は以下の式で求められます。
$$ v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} \quad \cdots ① $$
また、速度の向きが水平方向となす角を \(\theta\) とすると、三角比の定義から \(\tan\theta\) は次のように表せます。
$$ \tan\theta = \frac{v_y}{v_x} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 三平方の定理
  • 三角比の定義
計算過程

式①に与えられた値を代入して、速度の大きさ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{12.0^2 + 9.0^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{144 + 81} \\[2.0ex]&= \sqrt{225} \\[2.0ex]&= 15 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、式②に値を代入して、\(\tan\theta\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{9.0}{12.0} \\[2.0ex]&= \frac{3}{4} \\[2.0ex]&= 0.75
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ヘリコプターの動きを「真横に進む動き(水平成分)」と「真上に進む動き(鉛直成分)」に分けて考えます。この2つの動きを組み合わせた実際の斜めの動きの速さ(速度の大きさ)は、直角三角形の斜辺の長さを求める計算(三平方の定理)で求めることができます。また、進む角度は、この三角形の辺の比率(タンジェント)で表すことができます。

結論と吟味

ヘリコプターの速度の大きさは \(15 \, \text{m/s}\)、\(\tan\theta\) の値は \(0.75\) です。
水平成分:鉛直成分の比が \(12.0:9.0 = 4:3\) であることに注目すると、これは辺の比が \(3:4:5\) の有名な直角三角形であることがわかります。したがって、斜辺(速度の大きさ)は \(3 \times 3 : 4 \times 3 : 5 \times 3\) の関係から \(15 \, \text{m/s}\) となり、計算結果と一致します。

速度の成分の計算

思考の道筋とポイント
速度の大きさと向きから、その水平成分と鉛直成分を求める問題です。これは問題の前半とは逆の操作で、「ベクトルの分解」と呼ばれます。与えられた速度ベクトルを斜辺とし、水平・鉛直方向を他の2辺とする直角三角形を考え、三角比を用いて各辺の長さを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 速度の分解: 速度ベクトル \(\vec{v’}\) を、水平方向のベクトル \(\vec{v’_x}\) と鉛直方向のベクトル \(\vec{v’_y}\) の和として考えます。
  • 三角比の利用: 水平成分は、速度の大きさに \(\cos\theta\) を掛けることで求まります。鉛直成分は、速度の大きさに \(\sin\theta\) を掛けることで求まります。
  • 有効数字の処理: 計算結果は、問題文で与えられた数値の有効数字に合わせて適切に丸める必要があります。

具体的な解説と立式
ヘリコプターの速度の大きさを \(v’ = 30 \, \text{m/s}\)、水平方向となす角を \(30^\circ\) とします。
この速度ベクトルを斜辺とする直角三角形を考えると、水平成分 \(v’_x\) と鉛直成分 \(v’_y\) は、三角比を用いて次のように表すことができます。
水平成分は、角度を挟む辺なので \(\cos\) を用います。
$$ v’_x = v’ \cos 30^\circ \quad \cdots ③ $$
鉛直成分は、角度の対辺なので \(\sin\) を用います。
$$ v’_y = v’ \sin 30^\circ \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 三角比を用いたベクトルの分解
計算過程

式③に値を代入して、水平成分 \(v’_x\) を計算します。ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用います。
$$
\begin{aligned}
v’_x &= 30 \times \cos 30^\circ \\[2.0ex]&= 30 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= 15\sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx 15 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 25.95 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
問題文の「30 m/s」は有効数字2桁と考えられるため、計算結果を有効数字2桁に丸めて \(26 \, \text{m/s}\) とします。

次に、式④に値を代入して、鉛直成分 \(v’_y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v’_y &= 30 \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]&= 30 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 15 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
こちらは有効数字2桁で \(15 \, \text{m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

斜め \(30^\circ\) の向きに速さ \(30 \, \text{m/s}\) で進むヘリコプターの動きを、「真横に進む分(水平成分)」と「真上に進む分(鉛直成分)」の2つに分解します。これは、直角三角形の斜辺の長さ(30)と角度(\(30^\circ\))から、残りの2つの辺の長さを三角比(コサインとサイン)を使って求める計算と同じです。

結論と吟味

速度の水平成分は \(26 \, \text{m/s}\)、鉛直成分は \(15 \, \text{m/s}\) です。
分解した成分が元の速度より小さくなっている(\(26 < 30\), \(15 < 30\))ことから、物理的に妥当な結果と言えます。また、分解した成分を逆に合成してみると、\(\sqrt{26^2 + 15^2} = \sqrt{676 + 225} = \sqrt{901} \approx 30.01…\) となり、元の速度の大きさ \(30 \, \text{m/s}\) とほぼ一致することから、計算が正しいことが確認できます(差は有効数字の処理による丸め誤差です)。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ベクトルの合成(成分 → 大きさと向き):
    • 核心: 互いに直交する2つの成分(この問題では \(v_x, v_y\))が分かっているとき、元のベクトルの大きさ \(v\) は三平方の定理 \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) で、向き \(\theta\) は三角比の定義 \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\) で求めることができます。これは、ベクトルと成分がなす直角三角形の幾何学的な関係そのものです。
  • ベクトルの分解(大きさと向き → 成分):
    • 核心: ベクトルの大きさと向き(\(v’, \alpha\))が分かっているとき、各成分は三角比を用いて \(v’_x = v’ \cos\alpha\), \(v’_y = v’ \sin\alpha\) のように求めることができます。これは、一つのベクトルを直交する2つのベクトルの和として表現し直す操作です。
  • 普遍性: これらの「合成」と「分解」は、速度だけでなく、力、加速度、変位、電場など、物理学で登場するあらゆるベクトル量に対して共通して適用できる、極めて重要な数学的ツールです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 放物運動: 物体を斜めに投げ上げたときの初速度を、水平成分と鉛直成分に分解して考えます。
    • 力の分解: 斜面上に置かれた物体に働く重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
    • 糸の張力: 2本の糸で物体を吊り下げたとき、それぞれの張力を水平成分と鉛直成分に分解して力のつり合いを考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 扱っている物理量がベクトル(向きと大きさを持つ量)であるかを確認します。
    2. 問題を解析しやすいように、直交する座標軸(通常は水平・鉛直)を設定します。
    3. 問題が「成分から全体を求める(合成)」なのか、「全体を成分に分ける(分解)」なのかを把握します。
    4. 必ず図を描き、ベクトルと成分がなす直角三角形を視覚的に捉えることが、ミスを防ぎ、理解を深める鍵となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • \(\sin\) と \(\cos\) の取り違え:
    • 誤解: 角度が与えられたときに、水平成分は常に \(\cos\)、鉛直成分は常に \(\sin\) だと暗記してしまう。
    • 対策: 暗記に頼らず、必ず図を描きましょう。角度 \(\theta\) を「挟む」辺が \(\cos\theta\)、「向かい合う」辺が \(\sin\theta\) に対応します。角度が鉛直軸から与えられた場合は、水平が \(\sin\)、鉛直が \(\cos\) になるので注意が必要です。
  • 有効数字の処理ミス:
    • 誤解: 計算の途中で数値を丸めてしまい、最終的な答えに大きな誤差が生じる。
    • 対策: 計算途中では、有効数字より1桁多く残して計算を進め、最後の答えを出す段階で、問題文で与えられた数値の有効数字の桁数が最も少ないものに合わせるのが基本です。
  • 単位の付け忘れ:
    • 誤解: 計算に集中するあまり、最終的な答えに単位を書き忘れる。
    • 対策: 物理量の計算では、常に単位を意識する習慣をつけましょう。速度なら [m/s]、力なら [N] など、答えには必ず単位を明記します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 長方形によるイメージ: 速度ベクトルを対角線とし、その水平成分と鉛直成分を辺とする長方形をイメージします。
      • 合成は、「長方形の2辺の長さ(\(12.0, 9.0\))から、対角線の長さと傾きを求める」作業。
      • 分解は、「長方形の対角線の長さ(\(30\))と傾き(\(30^\circ\))から、2辺の長さを求める」作業。
    • このように図形問題として捉えることで、どの数学的ツール(三平方の定理、三角比)を使えばよいかが直感的にわかります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • ベクトルの矢印: 速度の向きと大きさを反映した矢印を描きます。
    • 座標軸の明記: 水平(x軸)と鉛直(y軸)を明確にします。
    • 角度の記入: どの角度が \(\theta\) や \(30^\circ\) なのかを正確に図に書き込み、\(\sin, \cos\) の選択ミスを防ぎます。
    • 分解した成分は点線で描く: 元のベクトル(実線)と分解後の成分ベクトル(点線)を区別すると、図が整理され、混乱を防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 三平方の定理 (\(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)):
    • 選定理由: 互いに直交する2つの量(水平成分、鉛直成分)から、それらを合成した量(速度の大きさ)を求めたいから。
    • 適用根拠: 水平速度と鉛直速度は互いに \(90^\circ\) の関係にあるため、速度ベクトルと成分ベクトルは直角三角形を形成します。この直角三角形の辺の長さの関係を記述する数学的法則が三平方の定理です。
  • 三角比 (\(v_x = v \cos\theta, v_y = v \sin\theta\)):
    • 選定理由: 一つの量(速度)を、直交する2つの方向に分けたいから。また、辺の比から角度の情報を得たいから。
    • 適用根拠: 直角三角形において、角度が決まれば3辺の比が一定になるという数学的な性質を利用しています。これにより、ベクトルの「大きさ」と「向き(角度)」という2つの情報を、「x成分」と「y成分」という2つの情報に相互に変換することができます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 速度の合成(成分 → 大きさ・向き):
    • 戦略: 与えられた直交成分から、三平方の定理と三角比の定義を適用する。
    • フロー: ①水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を確認 → ②直角三角形をイメージし、斜辺 \(v\) を求める式(三平方の定理)を立てる → ③値を代入して \(v\) を計算 → ④辺の比から \(\tan\theta\) を求める式を立て、値を代入して計算。
  2. 速度の分解(大きさ・向き → 成分):
    • 戦略: 与えられた大きさと向きから、三角比を用いて直交成分を計算する。
    • フロー: ①大きさ \(v’\) と角度 \(\alpha\) を確認 → ②直角三角形をイメージし、水平成分 \(v’_x\) を求める式(\(\cos\) を使用)を立てる → ③値を代入して \(v’_x\) を計算 → ④同様に鉛直成分 \(v’_y\) を求める式(\(\sin\) を使用)を立て、値を代入して計算 → ⑤有効数字を考慮して答えをまとめる。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 特殊な直角三角形の活用: 問題の前半のように、辺の比が \(3:4:5\) や \(1:1:\sqrt{2}\), \(1:\sqrt{3}:2\) といった有名な直角三角形になっていないか確認する癖をつけると、計算が速く正確になります。
  • 三角関数の値の暗記: \(\sin, \cos, \tan\) の \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) の値は即座に言えるようにしておくことが必須です。
  • 近似値の記憶: \(\sqrt{2} \approx 1.41\), \(\sqrt{3} \approx 1.73\) といったよく使う無理数の近似値は覚えておくと、検算や概算に役立ちます。
  • 電卓に頼らない計算練習: 日頃から手計算で問題を解くことで、計算力が向上し、ケアレスミスが減少します。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 大きさの比較による吟味:
    • 合成の場合: 合成後のベクトルの大きさは、どの成分よりも必ず大きくなります(\(15 > 12.0\), \(15 > 9.0\))。また、成分の単純な和よりは小さくなります(\(15 < 12.0 + 9.0 = 21.0\))。
    • 分解の場合: 分解後の成分の大きさは、元のベクトルの大きさより必ず小さくなります(\(26 < 30\), \(15 < 30\))。
  • 逆計算による検算:
    • 問題の後半で求めた成分 \(v’_x \approx 26\), \(v’_y = 15\) を、前半の方法で合成し直してみます。\(\sqrt{26^2 + 15^2} = \sqrt{676 + 225} = \sqrt{901} \approx 30.01…\)。元の大きさ \(30\) とほぼ一致することから、計算の妥当性が確認できます。このように、分解と合成は互いに逆の操作であることを利用して検算する習慣をつけると、間違いを大幅に減らせます。

17 相対速度

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、動いている観測者から見た物体の運動、すなわち「相対速度」を扱う典型的な問題です。観測者の速度が変わると、観測される物体の速度(この場合は風の速度)も変わって見える、という現象をベクトルを用いて解析する能力が問われます。

この問題の核心は、「人が感じる風の速度(相対速度)」、「実際の風の速度(絶対速度)」、「人の速度」の3つのベクトルの関係を正しく理解し、図や数式で表現することです。

与えられた条件
  • 状況1:
    • 人の速度: 西向きに \(1.0 \, \text{m/s}\)
    • 人が感じる風の向き: 北東から(つまり、南西向き)
  • 状況2:
    • 人の速度: 西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\)
    • 人が感じる風の向き: 北から(つまり、南向き)
問われていること
  • 実際の風の速さ(大きさ)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「相対速度のベクトル解析」です。2つの異なる状況で観測された相対速度の情報から、未知の絶対速度を特定します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 相対速度の公式: (Aから見たBの相対速度) = (Bの速度) – (Aの速度)というベクトル関係式が基本です。この問題では、「人が感じる風速」 = 「実際の風速」 – 「人の速度」となります。
  2. ベクトル図: 上記のベクトル関係式を図で表現します。ベクトルの引き算は、引くベクトルの向きを逆にした足し算と考える( \(\vec{a} – \vec{b} = \vec{a} + (-\vec{b})\) )と、図が描きやすくなります。
  3. 幾何学: ベクトル図に現れる三角形の幾何学的な性質(角度や辺の長さの関係)を利用して、未知の量を求めます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、相対速度の公式を立てます。
  2. 次に、状況1と状況2それぞれについて、ベクトル関係式を図示します。このとき、未知である「実際の風速」ベクトルは両方の状況で共通である点がポイントです。
  3. 2つのベクトル図を重ね合わせるか、あるいは座標を設定して成分で考えることで、未知の「実際の風速」を特定します。模範解答は図形的な解法(ベクトル図)をとっているので、まずはそれに沿って解説し、別解として成分計算による解法も示します。

図形的解法

思考の道筋とポイント

この問題は、2つの異なる状況から未知のベクトル(実際の風速)を決定する問題です。模範解答のように図形的に解く方法と、座標を設定して計算で解く方法があります。ここではまず、図形的な解法と思考プロセスを解説します。

この設問における重要なポイント

  • 相対速度のベクトル関係: 「人が感じる風速 \(\vec{v}_{\text{相対}}\)」は、「実際の風速 \(\vec{v}_{\text{風}}\)」から「人の速度 \(\vec{v}_{\text{人}}\)」を引いたもの、すなわち \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}}\) です。
  • ベクトル図の作成: 上の式を変形すると \(\vec{v}_{\text{風}} = \vec{v}_{\text{相対}} + \vec{v}_{\text{人}}\) となります。この「ベクトルの和」の形で図を描くと考えやすいです。しかし、模範解答は \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} + (-\vec{v}_{\text{人}})\) の形で描いています。どちらでも本質は同じです。
  • 共通のベクトル: 2つの状況で「実際の風速 \(\vec{v}_{\text{風}}\)」は変化しません。この共通のベクトルを基準に2つの図を重ね合わせることが、図形的解法の鍵です。

具体的な解説と立式

まず、速度ベクトルを定義します。

  • 実際の風の速度を \(\vec{v}_{\text{風}}\)
  • 人の速度を \(\vec{v}_{\text{人}}\)
  • 人が感じる風の速度(相対速度)を \(\vec{v}_{\text{相対}}\)

とすると、これらの間には次の関係が成り立ちます。

$$ \vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}} $$

この式は、ベクトルの引き算として解釈できます。模範解答の図のように、引くベクトル \(\vec{v}_{\text{人}}\) の逆ベクトル \(-\vec{v}_{\text{人}}\) を用いて足し算の形にすると、

$$ \vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} + (-\vec{v}_{\text{人}}) $$

と表現できます。

状況1: 人が西向きに \(1.0 \, \text{m/s}\) で歩く場合

  • \(-\vec{v}_{\text{人1}}\) は東向きに大きさ \(1.0 \, \text{m/s}\) のベクトル。
  • \(\vec{v}_{\text{相対1}}\) は北東から吹くので、南西向きのベクトル。北西の向きと \(45^\circ\) の角をなします。

状況2: 人が西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\) で走る場合

  • \(-\vec{v}_{\text{人2}}\) は東向きに大きさ \(4.0 \, \text{m/s}\) のベクトル。
  • \(\vec{v}_{\text{相対2}}\) は北から吹くので、南向きのベクトル。

これらの関係を、\(\vec{v}_{\text{風}}\) の始点を共通の原点Oとして図示します。
\(\vec{v}_{\text{風}}\) の終点をPとします。
状況1では、\(-\vec{v}_{\text{人1}}\) の終点(点Aとする)からPへ向かうベクトルが \(\vec{v}_{\text{相対1}}\) となります。
状況2では、\(-\vec{v}_{\text{人2}}\) の終点(点Bとする)からPへ向かうベクトルが \(\vec{v}_{\text{相対2}}\) となります。

この結果、模範解答の右側にあるような、直角三角形APBを含む図形が描けます。

  • 辺ABの長さは、\(4.0 – 1.0 = 3.0 \, \text{m/s}\)。
  • 角PABは、\(\vec{v}_{\text{相対1}}\) が南西向きであることから \(45^\circ\)。
  • 角PBAは、\(\vec{v}_{\text{相対2}}\) が南向きであることから \(90^\circ\)。

したがって、三角形APBは直角二等辺三角形となります。

使用した物理公式

  • 相対速度: \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{B}} – \vec{v}_{\text{A}}\)
計算過程

図形的な考察から、三角形APBが直角二等辺三角形であることがわかりました。
したがって、辺PBと辺ABの長さは等しくなります。

$$ PB = AB = 3.0 \, \text{[m/s]} $$

また、点Bは原点Oから東に \(4.0 \, \text{m/s}\) の位置にあります。
点Pの座標を考えると、Bから南に \(3.0 \, \text{m/s}\) の位置にあるので、Pの座標は東向きに \(4.0\)、南向きに \(3.0\) となります。
求める「実際の風の速さ」は、ベクトル \(\vec{v}_{\text{風}}\) の大きさ、すなわち原点Oから点Pまでの距離 \(OP\) です。
三角形OPBは、OBとPBを2辺とする直角三角形なので、三平方の定理を用いて \(OP\) の長さを計算します。

$$
\begin{aligned}
OP^2 &= OB^2 + PB^2 \\[2.0ex]OP &= \sqrt{OB^2 + PB^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{4.0^2 + 3.0^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{16 + 9.0} \\[2.0ex]&= \sqrt{25} \\[2.0ex]&= 5.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

2つの状況(歩くときと走るとき)で「人が感じる風」の情報を、ベクトル図にまとめます。すると、2つの状況を結びつけるきれいな直角三角形が現れます。この三角形の辺の長さを計算し、最終的に三平方の定理(ピタゴラスの定理)を使うことで、本当に吹いている風の速さを求めることができます。

結論と吟味

実際の風の速さは \(5.0 \, \text{m/s}\) です。
このとき、風の向きは東向きに \(4.0 \, \text{m/s}\)、南向きに \(3.0 \, \text{m/s}\) の成分を持つベクトル、つまり東南東の方向から吹いていることがわかります。この結果が、問題の2つの状況と矛盾しないか確認できます。例えば、人が西に \(4.0 \, \text{m/s}\) で走ると、風の東向き成分 \(4.0 \, \text{m/s}\) がちょうど打ち消され、南向き成分 \(3.0 \, \text{m/s}\) だけが感じられるため、「北から風が吹く」という状況と一致します。よって、答えは妥当です。

別解: 成分計算による解法

思考の道筋とポイント

ベクトル図の幾何学的な性質に気づかなくても、座標を設定し、ベクトルを成分で表すことで代数的に解くことができます。東西方向をx軸(東向きを正)、南北方向をy軸(北向きを正)とします。

この設問における重要なポイント

  • ベクトルの成分表示: すべての速度ベクトルをx成分とy成分に分解して表します。
  • 連立方程式: 未知数(\(\vec{v}_{\text{風}}\) のx, y成分)を含む連立方程式を立てて解きます。

具体的な解説と立式

未知の実際の風速 \(\vec{v}_{\text{風}}\) の成分を \((v_x, v_y)\) とします。
東向きをx軸正、北向きをy軸正とします。
相対速度の公式 \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}}\) を成分で書くと、

$$ (v_{\text{相対}x}, v_{\text{相対}y}) = (v_x – v_{\text{人}x}, v_y – v_{\text{人}y}) $$

となります。

状況1: 人が西向きに \(1.0 \, \text{m/s}\) で歩く

  • \(\vec{v}_{\text{人1}} = (-1.0, 0)\)
  • \(\vec{v}_{\text{相対1}}\) は北東から吹くので南西向き。x成分とy成分は等しく、負の値です。

よって、相対速度のx成分とy成分は、

$$ v_{\text{相対}x} = v_x – (-1.0) = v_x + 1.0 $$
$$ v_{\text{相対}y} = v_y – 0 = v_y $$

これらが等しいので、

$$ v_x + 1.0 = v_y \quad \cdots ① $$

状況2: 人が西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\) で走る

  • \(\vec{v}_{\text{人2}} = (-4.0, 0)\)
  • \(\vec{v}_{\text{相対2}}\) は北から吹くので南向き。x成分は0です。

よって、相対速度のx成分は、

$$ v_{\text{相対}x} = v_x – (-4.0) = v_x + 4.0 $$

これが0になるので、

$$ v_x + 4.0 = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 相対速度: \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{B}} – \vec{v}_{\text{A}}\)
  • ベクトルの成分分解
計算過程

まず、式②から \(v_x\) が求まります。

$$ v_x = -4.0 \, \text{[m/s]} $$

次に、この結果を式①に代入して \(v_y\) を求めます。

$$
\begin{aligned}
v_y &= v_x + 1.0 \\[2.0ex]&= -4.0 + 1.0 \\[2.0ex]&= -3.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

これで、実際の風の速度ベクトル \(\vec{v}_{\text{風}}\) の成分が \((-4.0, -3.0)\) であることがわかりました。
これは、西向きに \(4.0 \, \text{m/s}\)、南向きに \(3.0 \, \text{m/s}\) の風が吹いていることを意味します。
求める風の速さは、このベクトルの大きさなので、

$$
\begin{aligned}
|\vec{v}_{\text{風}}| &= \sqrt{v_x^2 + v_y^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{(-4.0)^2 + (-3.0)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{16 + 9.0} \\[2.0ex]&= \sqrt{25} \\[2.0ex]&= 5.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

東西と南北に座標軸を設定し、風の速さを未知のx成分とy成分に分けます。2つの状況(歩くときと走るとき)について、それぞれ「人が感じる風」の情報を数式で表します。すると、未知数2つ(風のx成分、y成分)に対して2つの関係式が得られるので、連立方程式を解くことで風の成分が特定できます。最後に、三平方の定理で成分から全体の速さを計算します。

結論と吟味

実際の風の速さは \(5.0 \, \text{m/s}\) です。
成分計算による解法でも、図形的な解法と全く同じ結果が得られました。これは、両者が同じ物理現象を異なる数学的ツールで表現しているに過ぎないことを示しています。図形的な解法は直感的で素早く解ける可能性がある一方、成分計算は機械的な作業で確実に答えにたどり着けるという利点があります。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 相対速度のベクトル関係式:
    • 核心: この問題の全ての思考の出発点は、(Aから見たBの相対速度) = (Bの速度) – (Aの速度)というベクトル関係式です。数式で書くと \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) となります。この問題では、「人が感じる風の速度(相対速度)」、「実際の風の速度(絶対速度)」、「人の速度」の3つのベクトルがこの関係を満たします。
    • 理解のポイント: この式はベクトルの引き算であり、図形的には \(\vec{v}_B = \vec{v}_A + \vec{v}_{AB}\) というベクトルの足し算の形で捉えるか、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) という逆ベクトルの足し算で捉えると、作図や立式がしやすくなります。
  • 複数条件からの未知ベクトルの決定:
    • 核心: 観測者の速度(人の速度)を変えることで、相対速度(人が感じる風)も変化しますが、「実際の風の速度」という絶対速度は不変です。この「不変のベクトル」を基準として、2つの異なる状況を結びつけることで、未知であった絶対速度を特定することができます。
    • 理解のポイント: これは、数学における「2つの未知数(風速のx, y成分)を決定するには、2つの独立した方程式(2つの観測状況)が必要」という考え方と物理的に対応しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 川を渡る船: 「静水に対する船の速さ」「川の流水の速さ」「岸から見た船の速さ」の3つのベクトルが相対速度の関係にあります。
    • 雨の中を走る人: 「無風状態での雨粒の落下速度」「人の走る速度」「人が感じる雨の向きと速さ」が同様の関係になります。
    • 飛行機と風: 「無風状態での飛行機の速さ(対気速度)」「風の速さ」「地面に対する飛行機の速さ(対地速度)」も全く同じ構造の問題です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 3つの速度を特定する: 問題文から「絶対速度(地面に対する速度)」「相対速度(動く物体から見た速度)」「観測者の速度」の3つがどれに対応するかを正確に読み取ります。
    2. 基準となる座標系を明確にする: 「地面に固定された座標系」で考えるのが基本です。
    3. 解法を選択する(図解か、成分計算か): 問題文に「45°」や「真北」など、図形的な性質が使いやすそうな角度が出てきたら、まずはベクトル図による解法を試みます。角度が複雑であったり、図が描きにくい場合は、機械的に処理できる成分計算による解法が有効です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ベクトルの引き算の向きの間違い:
    • 誤解: \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}}\) を計算する際に、どちらからどちらを引くのかを混同してしまう。
    • 対策: 「〜から見た」の「〜」が引く側(観測者)と覚えましょう。また、\(\vec{v}_{\text{風}} = \vec{v}_{\text{人}} + \vec{v}_{\text{相対}}\) のように足し算の形に直して、「人の動き」と「人が感じる風の動き」を合成したものが「実際の風の動き」になると考えると、直感的に理解しやすくなります。
  • 風の向きの解釈ミス:
    • 誤解: 「北東から吹く風」を「北東へ向かうベクトル」と勘違いしてしまう。
    • 対策: 風や雨の向きは「来る方向」で表現されるのが一般的です。「北東から」とあれば、ベクトルは反対の「南西向き」になります。必ず図に矢印を描いて確認しましょう。
  • 座標軸の取り方と成分の符号ミス:
    • 誤解: 成分計算で解く際に、設定した座標軸の正の向きと、ベクトルの向きから決まる成分の符号を間違える。
    • 対策: まず「東向きをx軸正、北向きをy軸正」のように座標軸を紙に明記します。その上で、各ベクトル(例:西向きならx成分は負)の符号を一つ一つ慎重に決定します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • ベクトルの始点を揃える: 模範解答のように、未知のベクトル \(\vec{v}_{\text{風}}\) の始点を原点Oに固定し、終点をPとします。次に、\(-\vec{v}_{\text{人}}\) のベクトルを原点Oから描きます。すると、\(-\vec{v}_{\text{人}}\) の終点からPへ向かうベクトルが \(\vec{v}_{\text{相対}}\) となり、異なる状況を一つの図に重ねて描きやすくなります。
    • ベクトルの三角形: \(\vec{v}_{\text{風}} = \vec{v}_{\text{人}} + \vec{v}_{\text{相対}}\) の関係を図示すると、3つのベクトルで三角形ができます。この「速度の三角形」を描き、その幾何学的性質(正弦定理、余弦定理、直角三角形の性質など)を利用して解く、という視点も非常に有効です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 基準ベクトルを明確に: 2つの状況で不変な \(\vec{v}_{\text{風}}\) を基準として描きます。
    • 方位を正確に: 上を北として、東西南北を正確に図に反映させます。特に「45°」などの角度は、どの線との間の角度なのかを明確に記入します。
    • 既知の長さと未知の長さを区別する: 問題文で与えられた速度の大きさ(ベクトルの長さ)を書き込み、求めるべき辺がどこなのかを明確にします。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 相対速度の公式 (\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)):
    • 選定理由: 「動いている人から見た風の速度」という、まさに相対速度の概念そのものが問われているため。
    • 適用根拠: この公式は、ガリレイ変換として知られる、異なる慣性系間の速度の変換則の基本です。物理現象をどの立場(地面か、動く人か)から見るかによって、速度の記述がどう変わるかを示す普遍的な法則です。
  • 三平方の定理:
    • 選定理由: ベクトル図を描いた結果、直角三角形が現れたため。直交する2つの辺の長さから、斜辺の長さを求める最も直接的な方法です。
    • 適用根拠: ユークリッド幾何学における基本的な定理であり、直交座標系における距離の定義そのものです。ベクトルの大きさが \(\sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) と計算できるのも、この定理に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 図形的解法:
    • 戦略: 2つの状況を1つのベクトル図にまとめ、幾何学的な性質を見抜いて解く。
    • フロー: ①相対速度の公式 \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_{\text{風}} + (-\vec{v}_{\text{人}})\) を立てる → ②未知の \(\vec{v}_{\text{風}}\) を共通のベクトルとして、2つの状況を図示する → ③図形の中に現れる三角形(この問題では直角二等辺三角形)の性質を見抜く → ④辺の長さを計算し、三平方の定理などを用いて未知の速さを求める。
  2. 成分計算による解法(別解):
    • 戦略: 座標を設定し、ベクトルを成分で表現して連立方程式を解く。
    • フロー: ①東西・南北にx, y軸を設定し、未知の風速を \((v_x, v_y)\) と置く → ②相対速度の公式を成分で書き下す → ③状況1、状況2それぞれについて、与えられた条件を成分表示の式にする → ④得られた2組の式から連立方程式を立て、\(v_x, v_y\) を解く → ⑤求まった成分から、三平方の定理で速さ(ベクトルの大きさ)を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 図を大きく丁寧に描く: 図形的解法では、図の正確さが生命線です。フリーハンドでも良いので、分度器や定規を使うくらいの意識で、角度や長さの比率をできるだけ正確に描くと、幾何学的な関係性が見抜きやすくなります。
  • 文字式の活用: 成分計算で解く場合、すぐに数値を代入するのではなく、\(v_x, v_y\) などの文字を使って関係式を立てることに集中します。これにより、式の構造が明確になり、計算ミスを減らせます。
  • 単位と有効数字: 最終的な答えには、必ず「m/s」などの単位を付け、問題文の有効数字(この場合は2桁)に合わせることを忘れないようにしましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 求まった風速は \((-4.0, -3.0)\) [m/s](西向き4.0, 南向き3.0)でした。
      状況1の検証: 人が西向きに \(1.0\) で歩くと、人の速度は \((-1.0, 0)\)。相対速度は \(\vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}} = (-4.0 – (-1.0), -3.0 – 0) = (-3.0, -3.0)\)。これはx成分とy成分が等しいので、確かに南西向きの風になります。
      状況2の検証: 人が西向きに \(4.0\) で走ると、人の速度は \((-4.0, 0)\)。相対速度は \(\vec{v}_{\text{風}} – \vec{v}_{\text{人}} = (-4.0 – (-4.0), -3.0 – 0) = (0, -3.0)\)。これはx成分が0なので、確かに真南向き(北から吹く)の風になります。
      このように、得られた答えが問題の全ての条件を満たすことを確認することで、解答の正しさを確信できます。
  • 別解との比較:
    • 図形的な直感で解いた結果と、機械的な成分計算で解いた結果が \(5.0 \, \text{m/s}\) で完全に一致しました。これは、解法の正しさと計算の正確さを強力に裏付けるものです。異なるアプローチで同じ結論に至ることを確認する作業は、物理的理解を深める上で非常に重要です。

18 等加速度直線運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、長さを持つ物体(列車)の等加速度直線運動を扱う問題です。列車の「前端」の運動に着目することで、問題を単純化して考えることができます。等加速度直線運動の3つの公式を適切に選択し、使いこなす能力が問われます。

この問題の核心は、列車全体が地点Aを通過する運動を、「列車の前端が、列車の長さと同じ距離だけ進む運動」と読み替えることです。

与えられた条件
  • 加速度: \(a\) (一定)
  • 地点Aを列車の前端が通過したときの速度(初速度): \(u\)
  • 地点Aを列車の後端が通過したときの速度(終速度): \(v\)
問われていること
  • (1) 列車全体が地点Aを通過するのに要した時間 \(t\)。
  • (2) 列車の長さ \(L\)。
  • (3) 列車の中点が地点Aを通過したときの列車の速さ \(v’\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等加速度直線運動の公式の応用」です。長さのある物体が基準点を通過する運動は、物体の特定の一点(例えば前端)が、物体の長さ分だけ移動する運動としてモデル化できます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 観測の基準点: 運動を記述する際、列車の「前端」の動きに注目します。
  2. 等加速度直線運動の3公式:
    • \(v = v_0 + at\)
    • \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
    • \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)

    これらの公式を、問題で与えられた物理量と求めたい物理量に応じて適切に選択します。

  3. 問題の読み替え:
    • 「列車全体が地点Aを通過する」とは、「列車の前端が地点Aを通過してから、後端が地点Aを通過するまで」の運動です。これは、「列車の前端が、列車の長さ\(L\)だけ進む」運動と同じ時間・距離です。
    • この運動の初速度は\(u\)、終速度は\(v\)となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、初速度\(u\)、終速度\(v\)、加速度\(a\)が分かっていて、時間\(t\)を求めたいので、\(v = v_0 + at\) の公式を使います。
  2. (2)では、初速度\(u\)、終速度\(v\)、加速度\(a\)が分かっていて、距離\(L\)を求めたいので、時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使います。
  3. (3)では、「列車の中点が地点Aを通過する」という状況を考えます。これは「列車の前端が距離 \(L/2\) だけ進んだ」時点での速度を求める問題と解釈できます。初速度\(u\)、加速度\(a\)、距離\(L/2\)が分かっているので、(2)で求めた\(L\)を代入し、\(v^2 – v_0^2 = 2ax\) の公式を再度用いて解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント

列車全体が地点Aを通過するのに要した時間 \(t\) を求める問題です。これは、列車の前端が地点Aを通過した瞬間(時刻0、速度\(u\))から、列車の後端が地点Aを通過した瞬間(時刻\(t\)、速度\(v\))までの時間を求めることと同じです。この間、列車は一定の加速度\(a\)で運動しています。
初速度、終速度、加速度、時間の関係を結びつける公式を選択します。

この設問における重要なポイント

  • 物理量の対応: 初速度 \(v_0 \rightarrow u\)、終速度 \(v \rightarrow v\)、加速度 \(a \rightarrow a\)、時間 \(t \rightarrow t\)。
  • 公式の選択: 時間\(t\)を含み、距離を含まない公式 \(v = v_0 + at\) が最適です。

具体的な解説と立式

列車の前端が地点Aを通過した時刻を \(t=0\) とします。このときの速度(初速度)は \(u\) です。
列車全体が地点Aを通過し終わる、すなわち列車の後端が地点Aを通過した時刻を \(t\) とします。このときの列車の速度(終速度)は \(v\) です。
この運動は加速度 \(a\) の等加速度直線運動なので、公式 \(v = v_0 + at\) を適用します。
初速度 \(v_0\) に \(u\) を代入すると、

$$ v = u + at \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
計算過程

式①を \(t\) について解きます。

$$
\begin{aligned}
at &= v – u \\[2.0ex]t &= \frac{v-u}{a}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

速度が \(u\) から \(v\) に変わるまでにかかる時間を求めます。速度の変化(\(v-u\))は、加速度 \(a\) に時間 \(t\) を掛けたものに等しい(\(v-u = at\))という関係から、時間を計算します。

結論と吟味

列車が地点Aを通過するのに要した時間は \(t = \displaystyle\frac{v-u}{a}\) です。
加速度 \(a\) が大きいほど、また速度差 \(v-u\) が小さいほど、通過時間は短くなります。これは物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{v-u}{a}\) [s]

問(2)

思考の道筋とポイント

列車の長さ \(L\) を求める問題です。列車が地点Aを通過する間に、列車の前端が進んだ距離が列車の長さ \(L\) に相当します。
(1)と同様の運動(初速度\(u\)、終速度\(v\)、加速度\(a\))について、移動距離を求めます。
初速度、終速度、加速度、距離の関係を結びつける公式を選択します。

この設問における重要なポイント

  • 物理量の対応: 初速度 \(v_0 \rightarrow u\)、終速度 \(v \rightarrow v\)、加速度 \(a \rightarrow a\)、移動距離 \(x \rightarrow L\)。
  • 公式の選択: 時間\(t\)を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) が、(1)の結果を使わずに直接計算できるため、最も効率的です。

具体的な解説と立式

列車の前端が地点Aを通過してから後端が通過するまでの間に、前端は列車の長さ \(L\) だけ進みます。
この間の運動は、初速度 \(u\)、終速度 \(v\)、加速度 \(a\)、移動距離 \(L\) の等加速度直線運動です。
時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を適用します。
初速度 \(v_0\) に \(u\)、移動距離 \(x\) に \(L\) を代入すると、

$$ v^2 – u^2 = 2aL \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

式②を \(L\) について解きます。

$$
\begin{aligned}
L &= \frac{v^2 – u^2}{2a}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

初めの速さ \(u\) と終わりの速さ \(v\) が分かっているとき、その間に進んだ距離 \(L\) を求めるには、時間を使わない便利な公式 \(v^2 – u^2 = 2aL\) を使います。この式を \(L\) について変形するだけで答えが求まります。

結論と吟味

列車の長さは \(L = \displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a}\) です。
加速度 \(a\) が大きいほど、また速度の二乗の差 \(v^2 – u^2\) が大きいほど、列車の長さは長くなります。これも物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a}\) [m]

問(3)

思考の道筋とポイント

列車の中点が地点Aを通過したときの速さ \(v’\) を求める問題です。
これは、列車の前端が地点Aを通過してから、距離 \(L/2\) だけ進んだときの速度を求める問題と解釈できます。
初速度\(u\)、加速度\(a\)、移動距離\(L/2\)が分かっているので、(2)で求めた \(L\) の式を使い、再び \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) の公式を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 物理量の対応: 初速度 \(v_0 \rightarrow u\)、終速度 \(v \rightarrow v’\)、加速度 \(a \rightarrow a\)、移動距離 \(x \rightarrow L/2\)。
  • 公式の選択: (2)と同様に、時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) が適しています。

具体的な解説と立式

列車の中点が地点Aを通過するのは、列車の前端が地点Aから \(L/2\) の距離を進んだときです。
このときの速さを \(v’\) とします。
この運動は、初速度 \(u\)、加速度 \(a\)、移動距離 \(L/2\)、終速度 \(v’\) の等加速度直線運動と見なせます。
公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を適用すると、

$$ (v’)^2 – u^2 = 2a \left(\frac{L}{2}\right) \quad \cdots ③ $$
$$ (v’)^2 – u^2 = aL \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

式④に、(2)で求めた \(L = \displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a}\) を代入します。

$$
\begin{aligned}
(v’)^2 – u^2 &= a \left( \frac{v^2 – u^2}{2a} \right) \\[2.0ex](v’)^2 – u^2 &= \frac{v^2 – u^2}{2} \\[2.0ex](v’)^2 &= u^2 + \frac{v^2 – u^2}{2} \\[2.0ex]&= \frac{2u^2 + (v^2 – u^2)}{2} \\[2.0ex]&= \frac{u^2 + v^2}{2}
\end{aligned}
$$

\(v’\) は速さなので \(v’ > 0\) です。したがって、

$$ v’ = \sqrt{\frac{u^2 + v^2}{2}} $$

計算方法の平易な説明

列車が半分の長さ(\(L/2\))だけ進んだときの速さを求めます。(2)で使ったのと同じ公式 \(v^2 – u^2 = 2ax\) を使いますが、今回は距離 \(x\) に \(L/2\) を入れます。そして、(2)で求めた \(L\) の式を代入して計算を進めると、中間地点での速さ \(v’\) が求まります。

結論と吟味

中点での速さは \(v’ = \sqrt{\displaystyle\frac{u^2 + v^2}{2}}\) です。
この式の形は「二乗平均平方根」として知られています。これは、単純な平均速度 \(\frac{u+v}{2}\) とは異なります。等加速度運動では、速度は時間に対して線形に増加しますが、距離に対しては線形に増加しないため、中間「距離」での速度は中間「時間」での速度とは一致しません。この結果は、等加速度運動の非線形な性質を反映しており、物理的に興味深い結果です。

別解: v-tグラフを用いた解法

思考の道筋とポイント

等加速度直線運動は、v-tグラフで考えると視覚的に理解しやすくなります。グラフの傾きが加速度、面積が移動距離に対応することを利用して解きます。

この設問における重要なポイント

  • v-tグラフの作成: 縦軸に速度v、横軸に時間tをとります。等加速度直線運動なので、グラフは直線になります。
  • 傾きと面積: 傾きは加速度 \(a\)、グラフとt軸で囲まれた面積は移動距離 \(x\) を表します。

具体的な解説と立式

v-tグラフを描くと、時刻 \(t=0\) で \(v=u\)、時刻 \(t=t_1\) で \(v=v\) となる右上がりの直線になります。

(1) 時間 \(t_1\)
グラフの傾きが加速度 \(a\) なので、

$$ a = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{v-u}{t_1} \quad \cdots ⑤ $$

(2) 列車の長さ \(L\)
時刻 \(0\) から \(t_1\) までの移動距離 \(L\) は、v-tグラフの台形の面積に等しいです。

$$ L = \frac{1}{2}(u+v)t_1 \quad \cdots ⑥ $$

(3) 中点での速さ \(v’\)
中点、すなわち距離 \(L/2\) を進んだ時刻を \(t’\) とし、そのときの速さを \(v’\) とします。
時刻 \(0\) から \(t’\) までの移動距離 \(L/2\) は、

$$ \frac{L}{2} = \frac{1}{2}(u+v’)t’ \quad \cdots ⑦ $$

また、傾きの関係から、

$$ a = \frac{v’-u}{t’} \quad \rightarrow \quad t’ = \frac{v’-u}{a} \quad \cdots ⑧ $$

使用した物理公式

  • v-tグラフの傾き = 加速度
  • v-tグラフの面積 = 移動距離
計算過程

(1) 式⑤を \(t_1\) について解くと、

$$ t_1 = \frac{v-u}{a} $$

これは公式を用いた解法と同じ結果です。

(2) 式⑥に(1)で求めた \(t_1\) を代入します。

$$
\begin{aligned}
L &= \frac{1}{2}(u+v) \left( \frac{v-u}{a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{v^2 – u^2}{2a}
\end{aligned}
$$

これも公式を用いた解法と同じ結果です。

(3) 式⑦に式⑧を代入します。

$$ \frac{L}{2} = \frac{1}{2}(u+v’) \left( \frac{v’-u}{a} \right) $$
$$ \frac{L}{2} = \frac{(v’)^2 – u^2}{2a} $$
$$ aL = (v’)^2 – u^2 $$

この式は、公式を用いた解法の式④と全く同じです。これに \(L = \displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a}\) を代入すれば、

$$ (v’)^2 = aL + u^2 = a\left(\frac{v^2 – u^2}{2a}\right) + u^2 = \frac{u^2+v^2}{2} $$

となり、同じ結果 \(v’ = \sqrt{\displaystyle\frac{u^2 + v^2}{2}}\) が得られます。

結論と吟味

v-tグラフを用いることで、等加速度直線運動の公式が持つ意味(傾きや面積)を視覚的に理解しながら解き進めることができます。公式を暗記するだけでなく、その導出過程であるグラフ的な意味を理解しておくことは、応用力を高める上で非常に重要です。

解答 (3) \(\sqrt{\displaystyle\frac{u^2 + v^2}{2}}\) [m/s]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 等加速度直線運動の3公式の適用:
    • 核心: この問題は、等加速度直線運動の3つの公式を、与えられた物理量と求めたい物理量に応じて自在に選択し、適用する能力を試すものです。
      1. \(v = v_0 + at\) (時間と速度の関係)
      2. \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) (時間と距離の関係)
      3. \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) (距離と速度の関係)
    • 理解のポイント: 特に、時間 \(t\) が関与しない(2)と(3)では、3番目の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使うと計算が非常に簡潔になります。どの公式が最も効率的かを見抜くことが重要です。
  • 運動のモデル化(読み替え):
    • 核心: 「長さ \(L\) の列車が地点Aを通過する」という現象を、「列車の前端が、初速度 \(u\) で地点Aを通過し、距離 \(L\) を進んで速度 \(v\) になる」という、質点の運動に置き換えて考えることが、この問題を解く上での最も重要な思考ステップです。
    • 理解のポイント: このように、複雑に見える現象を、物理法則が適用できる単純なモデルに変換する能力は、物理の問題解決において普遍的に求められます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 橋を渡る電車: 電車が橋にさしかかってから、完全に渡り終えるまでの運動。移動距離は「橋の長さ+電車の長さ」になります。
    • トンネルを通過する自動車: 自動車がトンネルに入り始めてから、完全に出るまでの運動。移動距離は「トンネルの長さ+自動車の長さ」です。
    • ボールがバットに当たっている間の運動: ボールがバットに接触してから離れるまでの短い距離・時間における運動。これも等加速度運動として近似できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の区間を明確にする: 「いつからいつまで」の運動を考えているのかを明確にします。この問題では「前端がAを通過」から「後端がAを通過」までです。
    2. 始点と終点の物理量を整理する: その区間の初速度、終速度、加速度、時間、移動距離をリストアップし、既知の量と未知の量を区別します。
    3. 最適な公式を選択する: 整理した物理量リストを見て、求めたい未知数を最も簡単に計算できる公式を選びます。「求めたい未知数を含み、不要な未知数を含まない」公式が最適です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 移動距離の誤認:
    • 誤解: (3)で「中点が通過」を「時間の半分が経過」と勘違いしてしまう。等加速度運動では、速度が変化するため、距離の半分を進むのにかかる時間は、全体の時間の半分にはなりません。
    • 対策: 問題文を正確に読み、「中点が通過」=「前端が \(L/2\) 進んだ時点」と、距離を基準に考えることが重要です。時間と距離の関係は非線形であることを常に意識しましょう。
  • 速度の混同:
    • 誤解: (3)で求める速さ \(v’\) を、初速度 \(u\) と終速度 \(v\) の単純な算術平均 \(\frac{u+v}{2}\) だと思ってしまう。
    • 対策: \(\frac{u+v}{2}\) は、その区間の「平均の速さ」ではありますが、中間「地点」での速さではありません。等加速度運動の公式に忠実に従って計算する習慣をつけましょう。
  • 文字計算での混乱:
    • 誤解: (3)の計算で、\(L\) に具体的な数値を代入できないため、式変形に手間取り混乱する。
    • 対策: (2)で求めた \(L\) の「式」を、そのまま(3)の式に代入することがポイントです。物理では、このように文字式のまま計算を進める場面が頻繁にあります。焦らず、一つ一つの項を丁寧に入れ替えて計算する練習をしましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • v-tグラフ: 別解で示したように、v-tグラフを描くことは非常に有効です。
      • (1)時間は傾きから、(2)長さは台形の面積から、と視覚的に対応が分かります。
      • (3)の中間地点での速さは、台形の面積が半分になる点がどこかを探す問題、と幾何学的に捉え直すことができます。これにより、なぜ単純な平均にならないのかが直感的に理解できます。
    • ストロボ写真のイメージ: 列車の前端が地点Aにある状態、中点がAにある状態、後端がAにある状態の3枚の絵を並べて描いてみます。等加速度運動なので、絵の間隔(速度)がだんだん広がっていく(または狭まっていく)様子をイメージすると、現象の理解が深まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • (1) \(v = u + at\):
    • 選定理由: 求めたいのは時間 \(t\)。与えられているのは初速度 \(u\)、終速度 \(v\)、加速度 \(a\)。距離 \(L\) は未知。したがって、\(u, v, a, t\) の4つの量だけを含むこの公式が最適。
  • (2) \(v^2 – u^2 = 2aL\):
    • 選定理由: 求めたいのは距離 \(L\)。与えられているのは \(u, v, a\)。時間 \(t\) は未知((1)で求めたが、それを使わない方が計算が楽)。したがって、\(u, v, a, L\) の4つの量だけを含むこの公式が最適。
  • (3) \(v’^2 – u^2 = 2a(L/2)\):
    • 選定理由: 求めたいのは中間地点での速度 \(v’\)。始点は同じなので初速度は \(u\)。移動距離は \(L/2\)。ここでも時間は問われていないので、(2)と同じく速度と距離の関係式が最適。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 時間の計算:
    • 戦略: 速度と時間の関係式 \(v=v_0+at\) を使う。
    • フロー: ①物理量を対応させる(\(v_0 \to u\)) → ②式を立てる(\(v=u+at\)) → ③ \(t\) について解く。
  2. (2) 長さの計算:
    • 戦略: 速度と距離の関係式 \(v^2-v_0^2=2ax\) を使う。
    • フロー: ①物理量を対応させる(\(v_0 \to u, x \to L\)) → ②式を立てる(\(v^2-u^2=2aL\)) → ③ \(L\) について解く。
  3. (3) 中間地点での速さの計算:
    • 戦略: 再び速度と距離の関係式を使うが、距離は \(L/2\)。
    • フロー: ①物理量を対応させる(\(v_0 \to u, v \to v’, x \to L/2\)) → ②式を立てる(\(v’^2-u^2=2a(L/2)\)) → ③(2)で求めた \(L\) の式を代入 → ④ \(v’\) について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (3)の計算がこの問題の山場です。\(L = \displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a}\) という関係式を、慌てずに \( (v’)^2 – u^2 = aL \) の \(L\) に代入します。
    \( (v’)^2 = u^2 + aL = u^2 + a \left( \displaystyle\frac{v^2 – u^2}{2a} \right) \)。ここで \(a\) がきれいに約分できることに気づけば、計算は一気に楽になります。このように、途中でうまく約分や整理ができないか意識すると、計算ミスが減り、時間も短縮できます。
  • 二乗と平方根の扱い: 最終的に \( (v’)^2 = \dots \) の形になるので、最後に平方根をとることを忘れないようにしましょう。速さは正の値なので、正の平方根をとります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3)の答え \(v’ = \sqrt{\displaystyle\frac{u^2 + v^2}{2}}\) は、\(u\) と \(v\) の「二乗平均平方根」です。ここで、もし \(u=3, v=5\) なら、\(v’ = \sqrt{\frac{9+25}{2}} = \sqrt{17} \approx 4.12\) となります。これは算術平均 \(\frac{3+5}{2}=4\) よりも少し大きい値です。等加速度運動では、速度が速い区間ほど短い時間で同じ距離を進むため、距離の中間地点は、時間の中心よりも後に来ます。したがって、中間地点での速度は、中間時間での速度(算術平均)よりも大きくなるはずで、この結果は直感と一致します。
  • 極端な場合を考える:
    • もし等速直線運動(\(a=0\))だったら、\(u=v\) となるはずです。このとき、(3)の式は \(v’ = \sqrt{\frac{u^2+u^2}{2}} = \sqrt{u^2} = u\) となり、当然ながら中点でも速度は変わらないという正しい結果になります。このように、簡単な場合を代入して検算するのも有効なテクニックです。

19 エレベーターの運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、エレベーターの運動を題材に、v-tグラフの作成とその解釈を通じて、加速度や移動距離を求める問題です。等加速度直線運動と等速直線運動が組み合わさった運動を、グラフを用いて統一的に分析する能力が問われます。

この問題の核心は、v-tグラフの「傾きが加速度」を、「面積が移動距離」をそれぞれ表すという、グラフの物理的意味を正しく理解し、活用することです。

与えられた条件

エレベーターの運動は3つの区間に分けられます。

  • 区間1 (加速):
    • 時間: \(0\) s から \(5.0\) s までの \(5.0\) s間
    • 運動: 静止状態から一定の加速度 \(a\) で加速
    • 最終速度: \(6.0 \, \text{m/s}\)
  • 区間2 (等速):
    • 時間: \(5.0\) s から \(17.0\) s までの \(12.0\) s間
    • 運動: 一定の速さ \(6.0 \, \text{m/s}\) で上昇
  • 区間3 (減速):
    • 時間: \(17.0\) s から \(23.0\) s までの \(6.0\) s間
    • 運動: 一定の加速度 \(b\) で減速
    • 最終速度: 静止 (\(0 \, \text{m/s}\))
問われていること
  • (1) 速度 \(v\) と時間 \(t\) の関係を表すv-tグラフ。
  • (2) 加速度 \(a\) と \(b\) の大きさ。
  • (3) ビルの屋上の地上からの高さ(総移動距離)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「v-tグラフの利用」です。v-tグラフを描くことで、運動の全体像を視覚的に把握し、加速度や移動距離を幾何学的に(傾きや面積として)求めることができます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. v-tグラフの傾き: 速度の時間変化率、すなわち加速度 (\(a = \Delta v / \Delta t\)) を表します。
  2. v-tグラフの面積: グラフと時間軸で囲まれた部分の面積が、移動距離を表します。
  3. 運動の区間分割: 運動の性質(加速、等速、減速)が変わる点で区切り、それぞれの区間について分析します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、問題文で与えられた各区間の時間と速度の情報を元に、v-tグラフをプロットします。加速区間は右上がりの直線、等速区間は水平な直線、減速区間は右下がりの直線になります。
  2. (2)では、(1)で描いたグラフの各区間の「傾き」を計算して、加速度 \(a\) と \(b\) を求めます。
  3. (3)では、(1)で描いたグラフ全体の「面積」を計算して、総移動距離を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント

エレベーターの速度 \(v\) と時間 \(t\) の関係を表すv-tグラフを描く問題です。問題文の情報を時系列に沿って整理し、グラフ上の点としてプロットしていきます。

  • \(t=0\) s のとき、静止しているので \(v=0\)。原点 (0, 0) を通ります。
  • \(t=5.0\) s のとき、速さは \(6.0 \, \text{m/s}\)。点 (5.0, 6.0) を通ります。この間は等加速度運動なので、原点とこの点を直線で結びます。
  • 次の \(12.0\) s間(\(t=5.0\) s から \(t=17.0\) s まで)は、速さ \(6.0 \, \text{m/s}\) で一定。点 (5.0, 6.0) と (17.0, 6.0) を水平な直線で結びます。
  • その後 \(6.0\) s間(\(t=17.0\) s から \(t=23.0\) s まで)で減速して静止。点 (17.0, 6.0) と (23.0, 0) を直線で結びます。

この設問における重要なポイント

  • グラフの形状: 等加速度運動は直線、等速直線運動は水平線で表されます。
  • 座標の特定: 各区間の始点と終点の時刻と速度を正確に読み取り、グラフ上の点の座標を決定します。

具体的な解説と立式

上記の思考の道筋に従ってグラフを描きます。縦軸に速度 \(v \, \text{[m/s]}\)、横軸に時間 \(t \, \text{[s]}\) をとります。

  1. \(0 \le t \le 5.0\): 原点(0, 0)と点(5.0, 6.0)を結ぶ直線。
  2. \(5.0 \le t \le 17.0\): 点(5.0, 6.0)と点(17.0, 6.0)を結ぶ水平な直線。
  3. \(17.0 \le t \le 23.0\): 点(17.0, 6.0)と点(23.0, 0)を結ぶ直線。

これらを合わせると、模範解答にあるような台形のv-tグラフが完成します。

結論と吟味

描かれたグラフは、エレベーターが「加速→等速→減速」という一連の運動を正しく表現しています。各点の座標も問題文の記述と一致しています。

解答 (1) 模範解答の図を参照。

問(2)

思考の道筋とポイント

加速度 \(a\) と \(b\) の大きさを求める問題です。v-tグラフにおいて、傾きは加速度を表します。加速区間(区間1)と減速区間(区間3)の直線の傾きをそれぞれ計算します。

この設問における重要なポイント

  • 傾きの計算: 傾きは \((\text{縦の変化量}) / (\text{横の変化量})\)、すなわち \(\Delta v / \Delta t\) で計算します。
  • 加速度の符号: 加速の場合は傾きが正、減速の場合は傾きが負になります。問題では「大きさ」を問われているので、絶対値をとって正の値で答えます。

具体的な解説と立式

  • 加速度 \(a\) (区間1: \(0 \le t \le 5.0\))
    始点(0, 0)と終点(5.0, 6.0)の間の傾きを計算します。
    $$ a = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{6.0 – 0}{5.0 – 0} \quad \cdots ① $$
  • 加速度 \(b\) の大きさ (区間3: \(17.0 \le t \le 23.0\))
    始点(17.0, 6.0)と終点(23.0, 0)の間の傾き(減速の加速度)を計算します。
    $$ a_{\text{減速}} = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{0 – 6.0}{23.0 – 17.0} \quad \cdots ② $$
    問題で問われているのは加速度の「大きさ」\(b\)なので、この傾きの絶対値をとります。
    $$ b = |a_{\text{減速}}| $$

使用した物理公式

  • 加速度の定義(v-tグラフの傾き): \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
計算過程

式①を計算します。

$$ a = \frac{6.0}{5.0} = 1.2 \, \text{[m/s}^2\text{]} $$

式②を計算し、その大きさを求めます。

$$ a_{\text{減速}} = \frac{-6.0}{6.0} = -1.0 \, \text{[m/s}^2\text{]} $$

したがって、加速度の大きさ \(b\) は、

$$ b = |-1.0| = 1.0 \, \text{[m/s}^2\text{]} $$

計算方法の平易な説明

加速度は「1秒あたりにどれだけ速度が変化したか」を表します。最初の5秒間で速度が \(6.0 \, \text{m/s}\) 増加したので、加速度 \(a\) は \(6.0 \div 5.0\) で計算できます。最後の6秒間で速度が \(6.0 \, \text{m/s}\) 減少したので、減速の加速度の大きさ \(b\) は \(6.0 \div 6.0\) で計算できます。

結論と吟味

加速度 \(a\) の大きさは \(1.2 \, \text{m/s}^2\)、加速度 \(b\) の大きさは \(1.0 \, \text{m/s}^2\) です。計算は単純な割り算であり、グラフから読み取った値を正しく代入できていれば問題ありません。

解答 (2) \(a = 1.2 \, \text{m/s}^2\), \(b = 1.0 \, \text{m/s}^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント

ビルの屋上の地上からの高さ、すなわちエレベーターの総移動距離を求める問題です。v-tグラフにおいて、グラフと時間軸で囲まれた部分の面積が移動距離を表します。
(1)で描いたグラフ全体の面積を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 面積と移動距離: v-tグラフの面積が移動距離に相当するという関係を利用します。
  • 図形の面積計算: グラフの形状は台形なので、台形の面積公式((上底+下底)×高さ÷2)を使うと効率的に計算できます。

具体的な解説と立式

エレベーターの総移動距離 \(H\) は、\(t=0\) から \(t=23.0\) までのv-tグラフの面積に等しいです。
グラフの形状は、上底が区間2の長さ、下底が運動全体の時間、高さが最高速度の台形です。

  • 上底の長さ: \(17.0 – 5.0 = 12.0\) s
  • 下底の長さ: \(23.0 – 0 = 23.0\) s
  • 高さ: \(6.0\) m/s

台形の面積を求める公式を適用します。

$$ H = \frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • v-tグラフの面積 = 移動距離
計算過程

式③に値を代入して計算します。

$$
\begin{aligned}
H &= \frac{1}{2} \times (12.0 + 23.0) \times 6.0 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 35.0 \times 6.0 \\[2.0ex]&= 35.0 \times 3.0 \\[2.0ex]&= 105 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

問題文の有効数字は2桁(5.0s, 6.0m/sなど)なので、答えも有効数字2桁で表します。

$$ H = 1.1 \times 10^2 \, \text{[m]} $$

計算方法の平易な説明

エレベーターが進んだ全体の距離は、v-tグラフが描く台形の面積を求めることで計算できます。台形の面積の公式「(上側の辺+下側の辺)× 高さ ÷ 2」に、グラフから読み取った値を当てはめて計算します。

別解: 各区間の移動距離を公式で計算して合計する

思考の道筋とポイント

v-tグラフの面積計算に頼らず、各区間について等加速度直線運動の公式を用いて移動距離を計算し、それらを合計する方法です。

具体的な解説と立式

  • 区間1 (加速) の移動距離 \(x_1\):
    初速度 \(v_0=0\), 終速度 \(v=6.0\), 時間 \(t=5.0\)。公式 \(x = \frac{1}{2}(v_0+v)t\) を使うと、
    $$ x_1 = \frac{1}{2}(0 + 6.0) \times 5.0 \quad \cdots ④ $$
  • 区間2 (等速) の移動距離 \(x_2\):
    速度 \(v=6.0\), 時間 \(t=12.0\)。
    $$ x_2 = v \times t = 6.0 \times 12.0 \quad \cdots ⑤ $$
  • 区間3 (減速) の移動距離 \(x_3\):
    初速度 \(v_0=6.0\), 終速度 \(v=0\), 時間 \(t=6.0\)。
    $$ x_3 = \frac{1}{2}(6.0 + 0) \times 6.0 \quad \cdots ⑥ $$

総移動距離 \(H\) はこれらの和です。

$$ H = x_1 + x_2 + x_3 $$

計算過程

$$
\begin{aligned}
x_1 &= \frac{1}{2} \times 6.0 \times 5.0 = 15 \, \text{[m]} \\[2.0ex]x_2 &= 6.0 \times 12.0 = 72 \, \text{[m]} \\[2.0ex]x_3 &= \frac{1}{2} \times 6.0 \times 6.0 = 18 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

これらの和を求めます。

$$
\begin{aligned}
H &= 15 + 72 + 18 \\[2.0ex]&= 105 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

有効数字を考慮すると \(1.1 \times 10^2 \, \text{m}\) となり、v-tグラフの面積から求めた結果と一致します。

結論と吟味

公式を各区間に適用して合計する方法でも、同じ結果が得られました。これは、v-tグラフの面積計算が、本質的には各区間の移動距離の公式を適用して合計する操作を、図形的に一括で行っていることに他ならないからです。どちらの方法でも解けるようにしておくことが望ましいです。

解答 (3) \(1.1 \times 10^2 \, \text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • v-tグラフの物理的意味の完全な理解:
    • 核心: この問題は、v-tグラフが持つ2つの重要な物理的意味、すなわち「傾き=加速度」「面積=移動距離」を理解し、自在に使いこなせるかを問うています。
    • 理解のポイント:
      1. 傾き: 加速度の定義 \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) が、グラフ上の傾きの計算そのものであることを理解します。傾きが正なら加速、負なら減速、ゼロなら等速です。
      2. 面積: 移動距離が速度と時間の積で計算されること(\(x=vt\))の延長線上にあります。v-tグラフを微小な長方形の集まりとして捉えると、その合計面積が総移動距離になる、という積分的な考え方が背景にあります。高校物理では、三角形や台形の面積公式として適用できれば十分です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電車の駅間の運動: 駅を出発して加速し、しばらく等速で走り、駅に到着する前に減速して停止する、という運動は、この問題と全く同じパターンのv-tグラフを描きます。
    • 自動車の走行: 信号で停止していた自動車が発進し、一定速度で走行後、次の信号で停止する運動。
    • ロケットの打ち上げ: 初段ロケットで加速、切り離して慣性飛行、二段目ロケットで再加速、といった複雑な運動も、v-tグラフを描くことで各段階の加速度や移動距離を分析できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の区間を特定する: 問題文から、運動の様子が変化するポイント(加速→等速、等速→減速など)を見つけ出し、運動全体をいくつかの区間に分割します。
    2. 各区間の始点と終点の情報を整理する: 各区間の「開始時刻」「終了時刻」「初速度」「終速度」をリストアップします。これがv-tグラフ上の点の座標になります。
    3. まずv-tグラフを描く: 運動に関する問題、特に複数の運動が組み合わさっている場合は、まずv-tグラフを描くのが定石です。グラフ化することで、問題の全体像が視覚的に把握でき、解法の方針が立てやすくなります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 時間の扱いの間違い:
    • 誤解: 問題文の「次の12.0s間」「減速から6.0s後」といった時間の記述を、グラフの横軸の絶対的な時刻と混同してしまう。
    • 対策: 各区間の「時間間隔」と、グラフ上の「時刻」を区別します。例えば、区間2は \(t=5.0\) から始まり、時間間隔が \(12.0\) sなので、終了時刻は \(5.0 + 12.0 = 17.0\) sとなります。このように、時刻を一つずつ足し算して確定させていくと間違いがありません。
  • 加速度の大きさと符号:
    • 誤解: (2)で減速の加速度を計算する際に、傾きが負になるため、答えも負のまま書いてしまう。
    • 対策: 問題文が「加速度の大きさ」を問うているのか、「加速度」そのものを問うているのかを注意深く読み取ります。「大きさ」とあれば、必ず正の値(絶対値)で答えます。
  • 面積計算のミス:
    • 誤解: 台形の面積を計算する際に、上底や下底の長さを間違える。
    • 対策: 上底は等速区間の「時間間隔(\(17.0 – 5.0 = 12.0\))」、下底は運動全体の「時間(\(23.0\))」です。グラフのどの部分の長さに対応するのかを、指でなぞって確認しながら計算しましょう。あるいは、別解のように三角形2つと長方形1つに分割して計算すると、ケアレスミスを減らせます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • v-tグラフと実際の動きの対応付け:
    • 傾きが急 ⇔ 加速度が大きい: グラフの傾きが急なほど、急加速・急減速しているイメージ。
    • 傾きが緩やか ⇔ 加速度が小さい: 緩やかに加速・減速しているイメージ。
    • 面積が大きい ⇔ 長い距離を進む: グラフの面積が広い区間ほど、たくさん距離を稼いでいるイメージ。

    このように、グラフの形状と実際の体感を結びつけることで、物理的な直感が養われます。

  • a-tグラフ、x-tグラフへの変換をイメージする:
    • a-tグラフ: この運動を加速度aと時間tのグラフで描くとどうなるか? 区間1は正の一定値、区間2はゼロ、区間3は負の一定値となり、3つの長方形が並んだグラフになります。
    • x-tグラフ: 移動距離xと時間tのグラフで描くとどうなるか? 区間1は下に凸の放物線、区間2は傾き一定の直線、区間3は上に凸の放物線が滑らかにつながった形になります。

    このように、3つのグラフ(x-t, v-t, a-t)を相互に変換する練習をすることで、運動を多角的に捉える力が身につきます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • (2) 加速度の計算 (\(a = \Delta v / \Delta t\)):
    • 選定理由: 加速度は「速度の時間変化」そのものだから。v-tグラフが与えられている(あるいは描いた)状況で、加速度を求める最も直接的で本質的な方法が「傾き」の計算です。
    • 適用根拠: 加速度の定義式そのものです。
  • (3) 移動距離の計算(面積計算):
    • 選定理由: v-tグラフから移動距離を求める最も簡単で視覚的な方法が「面積」の計算だから。
    • 適用根拠: これは、等加速度運動の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) や \(x = \frac{1}{2}(v_0+v)t\) が、v-tグラフの面積計算と等価であることに基づいています。別解で示したように、各区間で公式を使って計算し合計するのと、全体の面積を一度に計算するのは、本質的に同じ操作です。グラフを用いる方が、計算の手間が省けることが多いです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) グラフの作成:
    • 戦略: 問題文の情報を時系列で整理し、v-t平面上の点をプロットして線で結ぶ。
    • フロー: ①運動を3区間に分割 → ②各区間の始点と終点の「時刻」と「速度」を特定 → ③座標 (t, v) をプロット → ④点を適切な線種(直線、水平線)で結ぶ。
  2. (2) 加速度の計算:
    • 戦略: グラフの傾きを計算する。
    • フロー: ①加速区間と減速区間を特定 → ②各区間の始点と終点の座標から、\(\Delta v\) と \(\Delta t\) を読み取る → ③ \(a = \Delta v / \Delta t\) を計算 → ④減速については大きさ(絶対値)を答える。
  3. (3) 移動距離の計算:
    • 戦略: グラフ全体の面積を計算する。
    • フロー: ①グラフ全体の形状(台形)を認識 → ②台形の上底、下底、高さをグラフから読み取る → ③台形の面積公式を適用して計算 → ④有効数字を考慮して解答する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • グラフの数値を丁寧に読み取る: 計算ミス以前に、グラフから読み取る値を間違えるケースが多いです。特に時間間隔(例:\(17.0 – 5.0 = 12.0\))の計算は慎重に行いましょう。
  • 有効数字の意識: 問題文で与えられている数値(5.0s, 6.0m/s, 12.0s, 6.0s)の有効数字は2桁または3桁です。このような場合、計算結果は最も桁数の少ないものに合わせるのが原則です。この問題では2桁(例: 6.0)が最も少ないので、最終的な答えは有効数字2桁で \(1.1 \times 10^2\) m とするのが適切です。
  • 検算(別解の活用): (3)の面積計算は、別解のように「三角形+長方形+三角形」と分割して計算し、合計が台形の面積計算と一致するか確認することで、検算ができます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 概算による妥当性の検討:
    • もしエレベーターが最高速度 \(6.0 \, \text{m/s}\) のまま \(23.0\) 秒間ずっと動き続けたら、移動距離は \(6.0 \times 23.0 = 138\) m。
    • もしエレベーターが平均的な速度(例えば \(3.0 \, \text{m/s}\))で \(23.0\) 秒間動いたとしたら、移動距離は \(3.0 \times 23.0 = 69\) m。
    • 実際の答え \(105\) m は、この2つの値の間にあり、最高速度に近い時間帯が長かったことを考えると、妥当な範囲にあると判断できます。

20 等加速度直線運動と相対速度

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、等加速度直線運動をする物体(自動車A)と、等速直線運動をする物体(自動車B)の「追いつき」に関する問題です。2つの物体の運動を記述し、それらの関係性から未知の量を求めていく、運動学の総合的な理解が問われます。

この問題の核心は、「追いつく」という現象を「同じ時刻に同じ位置にいる」と物理的に解釈し、両者の移動距離と時間の関係式を連立させて解くことです。

与えられた条件
  • 自動車A:
    • 初速度: \(0 \, \text{m/s}\) (静止)
    • 運動: 一定の加速度 \(a\) で発進
  • 自動車B:
    • 速度: \(10 \, \text{m/s}\) (一定)
    • 運動: 等速直線運動
  • 2つの物体の関係:
    • \(t=0\) で、Aが発進する瞬間にBがAを追い越す。
    • Aが \(100 \, \text{m}\) 走ったところで、Aの速度がBと同じ \(10 \, \text{m/s}\) になった。
問われていること
  • (1) Aの加速度の大きさ \(a\)。
  • (2) AがBに追いつくまでの走行距離 \(x\)。
  • (3) AがBに追いついたとき、Aから見たBの相対速度 \(v_{AB}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「2物体の運動と追いつきの問題」です。等加速度直線運動と等速直線運動のそれぞれの公式を立て、両者の関係から解を導きます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等加速度直線運動の公式: 自動車Aの運動を記述するために用います。
  2. 等速直線運動の公式: 自動車Bの運動を記述するために用います(距離 = 速さ × 時間)。
  3. 「追いつく」条件: AとBが同じ時間(\(t\))で同じ距離(\(x\))を進んだとき、AはBに追いつきます。
  4. 相対速度: (Aから見たBの相対速度) = (Bの速度) – (Aの速度)の公式を用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、Aの運動に注目し、「\(100 \, \text{m}\) 走って速度が \(10 \, \text{m/s}\) になった」という情報から、等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いて加速度 \(a\) を求めます。
  2. (2)では、「AがBに追いつく」という条件を考えます。追いつくまでの時間を \(t\)、距離を \(x\) とし、AとBそれぞれについて \(x\) と \(t\) の関係式を立てます。この2つの式を連立させて \(x\) を求めます。
  3. (3)では、まずAがBに追いついたときのAの速度 \(v_A\) を計算します。その後、相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) を用いて答えを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント

自動車Aの加速度 \(a\) を求める問題です。Aの運動に関する情報「静止状態から発進し、\(100 \, \text{m}\) 走ったところで速度が \(10 \, \text{m/s}\) になった」を使います。
初速度、終速度、移動距離が分かっていて、加速度を求めたいので、時間を含まない公式が適しています。

この設問における重要なポイント

  • 物理量の対応: 初速度 \(v_0 \rightarrow 0\)、終速度 \(v \rightarrow 10\)、移動距離 \(x \rightarrow 100\)、加速度 \(a \rightarrow a\)。
  • 公式の選択: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を選択します。

具体的な解説と立式

自動車Aの運動について、初速度 \(v_0 = 0\)、移動距離 \(x = 100 \, \text{m}\) のときの速度が \(v = 10 \, \text{m/s}\) でした。
等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を適用します。

$$ 10^2 – 0^2 = 2 \times a \times 100 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

式①を \(a\) について解きます。

$$
\begin{aligned}
100 &= 200a \\[2.0ex]a &= \frac{100}{200} \\[2.0ex]&= 0.50 \, \text{[m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

自動車Aが止まった状態から \(100 \, \text{m}\) 進んで速さが \(10 \, \text{m/s}\) になった、という情報を使って、時間を含まない等加速度運動の公式に当てはめるだけで、加速度を計算できます。

結論と吟味

Aの加速度の大きさは \(0.50 \, \text{m/s}^2\) です。正の値であり、物理的に妥当です。

解答 (1) \(0.50 \, \text{m/s}^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント

AがBに追いつくまでの走行距離 \(x\) を求める問題です。「追いつく」とは、スタートからの経過時間が同じで、かつスタートからの走行距離も同じになる状況を指します。
追いつくまでの時間を \(t\)、その間の走行距離を \(x\) として、AとBそれぞれについて運動の式を立て、連立方程式を解きます。

この設問における重要なポイント

  • Aの運動(等加速度): \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
  • Bの運動(等速): \(x = vt\)
  • 連立方程式: 上記2式を \(x\) と \(t\) についての連立方程式として解きます。

具体的な解説と立式

Aが発進してからBに追いつくまでの時間を \(t\)、その間の走行距離を \(x\) とします。

  • 自動車Aについて:
    初速度 \(v_0 = 0\)、加速度 \(a = 0.50 \, \text{m/s}^2\) の等加速度直線運動をします。
    $$ x = 0 \cdot t + \frac{1}{2} a t^2 = \frac{1}{2} \times 0.50 \times t^2 \quad \cdots ② $$
  • 自動車Bについて:
    速さ \(v = 10 \, \text{m/s}\) の等速直線運動をします。
    $$ x = 10 t \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 等速直線運動: \(x = vt\)
計算過程

式③を \(t\) について解き、\(t = x/10\) として式②に代入し、\(t\) を消去します。

$$
\begin{aligned}
x &= \frac{1}{2} \times 0.50 \times \left(\frac{x}{10}\right)^2 \\[2.0ex]x &= 0.25 \times \frac{x^2}{100} \\[2.0ex]x &= \frac{0.25}{100} x^2
\end{aligned}
$$

両辺に400を掛けて整理します。

$$
\begin{aligned}
400x &= x^2 \\[2.0ex]x^2 – 400x &= 0 \\[2.0ex]x(x – 400) &= 0
\end{aligned}
$$

この方程式の解は \(x=0\) または \(x=400\) です。
\(x=0\) は、\(t=0\) のスタート地点を表しており、BがAを追い越した瞬間です。AがBに追いつくのは、それ以降の \(x > 0\) の地点なので、求める走行距離は \(x = 400 \, \text{m}\) となります。

計算方法の平易な説明

「AがBに追いつく」ということは、「Aが進んだ距離」と「Bが進んだ距離」が等しくなる時を探すことです。AとBそれぞれについて「距離と時間の関係式」を立て、これらが等しいとおいて方程式を解くことで、追いつく距離を求めることができます。

結論と吟味

AがBに追いつくまでの走行距離は \(400 \, \text{m}\) です。
このとき、追いつくまでの時間は \(t = x/10 = 400/10 = 40\) s であることもわかります。

解答 (2) \(400 \, \text{m}\)

問(3)

思考の道筋とポイント

AがBに追いついたとき、Aから見たBの相対速度を求める問題です。
まず、AがBに追いついた瞬間(\(x=400 \, \text{m}\) 進んだとき)のAの速度 \(v_A\) を求める必要があります。その後、相対速度の公式に当てはめます。

この設問における重要なポイント

  • Aの速度計算: 初速度 \(v_0=0\)、加速度 \(a=0.50\)、移動距離 \(x=400\) のときの終速度 \(v_A\) を、公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いて計算します。
  • 相対速度の公式: \(v_{AB} = v_B – v_A\) を用います。

具体的な解説と立式

まず、Aが \(x=400 \, \text{m}\) 進んだときの速度 \(v_A\) を求めます。
等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用います。

$$ v_A^2 – 0^2 = 2 \times 0.50 \times 400 \quad \cdots ④ $$

次に、Aから見たBの相対速度 \(v_{AB}\) を求めます。Bの速度は常に \(v_B = 10 \, \text{m/s}\) です。

$$ v_{AB} = v_B – v_A \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
  • 相対速度: \(v_{AB} = v_B – v_A\)
計算過程

式④を計算して \(v_A\) を求めます。

$$
\begin{aligned}
v_A^2 &= 1.0 \times 400 \\[2.0ex]v_A^2 &= 400 \\[2.0ex]v_A &= 20 \, \text{[m/s]} \quad (\text{Aは前進しているので} v_A > 0)
\end{aligned}
$$

追いついたときのAの速度は \(20 \, \text{m/s}\) です。
この \(v_A\) と \(v_B = 10 \, \text{m/s}\) を式⑤に代入します。

$$
\begin{aligned}
v_{AB} &= 10 – 20 \\[2.0ex]&= -10 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

負の符号は、Aから見るとBが「進む向きと逆向き」に遠ざかって見えることを意味します。

計算方法の平易な説明

AがBに追いついたとき、AはBより速くなっています。まず、追いついた瞬間のAの速さを計算します。次に、「Aから見たBの速さ」を求めるには、「Bの速さ」から「Aの速さ」を引き算します。結果がマイナスになったのは、Aの方が速いので、Aから見るとBが後ろに下がっていくように見えるからです。

結論と吟味

Aから見たBの相対速度は、進む向きと逆向きに \(10 \, \text{m/s}\) です。
追いついた瞬間、Aの速度は \(20 \, \text{m/s}\)、Bの速度は \(10 \, \text{m/s}\) です。Aの方が速いので、この瞬間からAはBを追い越していきます。したがって、Aの立場から見ると、Bは後ろ向きに遠ざかっていくように見えるはずで、この結果は物理的な状況と一致しています。

別解: v-tグラフを用いた解法

思考の道筋とポイント

AとBの運動をv-tグラフで表現し、その性質から解を導きます。Aのグラフは原点を通る直線、Bのグラフは水平な直線になります。

この設問における重要なポイント

  • v-tグラフの作成: AとBの運動を一つのグラフに描きます。
  • グラフの面積: 面積が移動距離を表します。「追いつく」とは、AとBのグラフの面積が等しくなる時刻を求めることと同じです。
  • 相対距離: AとBのグラフで囲まれた部分の面積は、2車間の距離の変化量を表します。

具体的な解説と立式

  • Aのv-tグラフ: 傾きが \(a=0.50\) の、原点を通る直線。\(v_A(t) = 0.50t\)。
  • Bのv-tグラフ: \(v=10\) の水平な直線。

(2) 追いつくまでの走行距離
追いつく時刻を \(t\) とすると、その時刻までにAとBが進んだ距離(グラフの面積)が等しくなります。

  • Aの移動距離: \(x_A = \frac{1}{2} \times t \times v_A(t) = \frac{1}{2} \times t \times (0.50t) = 0.25t^2\)
  • Bの移動距離: \(x_B = 10 \times t\)

これらが等しいので、

$$ 0.25t^2 = 10t $$
$$ t(0.25t – 10) = 0 $$

\(t>0\) なので、\(0.25t = 10\)、よって \(t = 40\) s。
追いつくまでの走行距離は、Bの運動で考えると簡単です。

$$ x = 10 \times t = 10 \times 40 = 400 \, \text{[m]} $$

(3) 相対速度
追いつく時刻 \(t=40\) s におけるAの速度は、

$$ v_A = 0.50 \times t = 0.50 \times 40 = 20 \, \text{[m/s]} $$

Bの速度は \(v_B = 10 \, \text{m/s}\) なので、相対速度は

$$ v_{AB} = v_B – v_A = 10 – 20 = -10 \, \text{[m/s]} $$

結論と吟味

v-tグラフを用いると、2つの物体の速度や位置関係が時間と共にどう変化するかが視覚的にわかりやすくなります。特に、2つのグラフで囲まれた面積が2車間の距離を表すという性質は、より複雑な問題を解く際に強力なツールとなります。この問題では、\(t=0\) から \(t=40\) s の間にBのグラフが作る長方形の面積と、Aのグラフが作る三角形の面積が等しくなる、と解釈できます。

解答 (3) 進む向きと逆向きに \(10 \, \text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 「追いつく」条件の数式化:
    • 核心: 2つの物体が「追いつく」という現象は、物理学の言葉で「ある時刻 \(t\) において、2つの物体の位置(変位)\(x\) が等しくなる」と翻訳できます。この問題では、AとBそれぞれについて移動距離 \(x\) を時間 \(t\) の関数として表し、それらを等しいと置くことで連立方程式を立てることが、(2)を解くための最も重要な考え方です。
    • 理解のポイント: \(x_A(t) = x_B(t)\) という関係式が、この種の問題を解く上での普遍的な出発点となります。
  • 運動法則の適切な適用:
    • 核心: 自動車A(等加速度直線運動)と自動車B(等速直線運動)では、適用すべき運動法則が異なります。それぞれの運動の性質を正しく見抜き、対応する公式(Aには等加速度運動の公式、Bには等速直線運動の公式)を正確に使い分けることが基本です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 出会い算・追いかけ算: 2つの物体が向かい合って進む場合(出会う)や、一方が他方を追いかける場合など、様々なバリエーションがあります。いずれも「同じ時刻に同じ位置」という条件で立式する点は共通です。
    • 時間差のあるスタート: 「Aが発進した2秒後にBが追いかけ始めた」といった問題。この場合、Aの運動時間を \(t\) とすると、Bの運動時間は \((t-2)\) となります。このように、時間の基準を揃えて立式することが重要です。
    • 鉛直投げ上げと自由落下: 地上から物体を投げ上げ、同時にビルの屋上から別の物体を自由落下させる問題。これも、2物体の位置(高さ)に関する方程式を立てて解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 各物体の運動の種類を特定する: 等速か、等加速度か、それ以外か。
    2. 座標軸と原点を設定する: 共通の原点(スタート地点)と、運動の向きを正とする座標軸を設定します。
    3. 「いつ」「どこで」を問われているか把握する: 「追いつくまでの時間」を問われているのか、「追いつく場所(距離)」を問われているのかによって、連立方程式の解き方(どの変数を消去するか)が変わります。
    4. v-tグラフの活用を検討する: 2物体の運動を一つのv-tグラフに描くと、速度の大小関係や位置関係が視覚的に把握でき、解法のヒントが得られることが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 「速度が同じになる」ことと「追いつく」ことの混同:
    • 誤解: Aの速度がBと同じ \(10 \, \text{m/s}\) になった瞬間(\(x=100\) m)に、AがBに追いついたと勘違いしてしまう。
    • 対策: 速度が同じになった瞬間、2つの物体の「離れていく速さ」がゼロになっただけです。それまではBの方が速かったため、AとBの距離は開き続けていました。追いつくのは、その後AがBより速くなって、それまでに開いた差を詰め切ったときです。v-tグラフを描くと、速度が等しくなる交点と、面積が等しくなる(追いつく)時刻が別であることが一目瞭然です。
  • 連立方程式の解の解釈ミス:
    • 誤解: (2)で \(x(x-400)=0\) という方程式を解いたときに、\(x=0\) という解の意味を考えずに捨ててしまう。
    • 対策: \(x=0\) は \(t=0\) に対応し、これは「BがAを追い越していく」スタートの瞬間を表しています。物理的な意味を考えることで、なぜ2つの解が出てくるのかが理解でき、どちらが求めるべき答えなのかを自信を持って選択できます。
  • 相対速度の計算ミス:
    • 誤解: (3)で \(v_A – v_B\) と \(v_B – v_A\) を取り違える。また、計算結果の符号の意味を理解していない。
    • 対策: 「Aから見たBの速度」は \(v_B – v_A\) です。「〜から見た」の「〜」が引く側です。また、計算結果が負になった場合、それは「Aの進行方向とは逆向き」を意味することを理解しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • v-tグラフによる現象の可視化:
    • 速度の比較: Aのグラフ(直線)とBのグラフ(水平線)が交わる点まではBの方が速く、交点以降はAの方が速いことがわかります。
    • 2車間の距離: 2つのグラフで囲まれた部分の面積が、2車間の距離を表します。\(t=0\) から速度が等しくなる時刻まで、この面積は増え続け(距離が開く)、その後、Aが速くなることで面積が減り始め(距離が縮まる)、最終的に面積の「貸し借り」がゼロになったときが追いつく瞬間です。
  • x-tグラフのイメージ:
    • Aのx-tグラフは原点を通る下に凸の放物線(\(x \propto t^2\))、Bのx-tグラフは原点を通る直線(\(x \propto t\))です。
    • 「追いつく」とは、この2つのグラフが原点以外で交わる交点の座標(\(t, x\))を求めることに相当します。グラフを描けば、最初は直線の方が放物線より上にありますが、いずれ放物線が追いついて交わることが視覚的に理解できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • (1) \(v^2 – v_0^2 = 2ax\):
    • 選定理由: Aの運動について、初速度(\(0\))、終速度(\(10\))、距離(\(100\))が与えられ、加速度(\(a\))を求めたい。時間が無関係なので、この公式が最も直接的。
  • (2) \(x = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) と \(x = vt\):
    • 選定理由: 「追いつく」という条件(同じ時間で同じ距離)を立式するため。A(等加速度)とB(等速)それぞれの距離と時間の関係式が必要だから。
  • (3) \(v_A^2 – 0^2 = 2ax\) と \(v_{AB} = v_B – v_A\):
    • 選定理由: まず、追いついた地点(\(x=400\))でのAの速度 \(v_A\) を知る必要がある。ここでも時間が無関係なので \(v^2-v_0^2=2ax\) が有効。その後、相対速度の定義式に当てはめる。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 加速度の計算:
    • 戦略: Aの \(100\) m走行時の情報から、時間を含まない公式で \(a\) を求める。
    • フロー: ①Aの運動について \(v_0, v, x\) を整理 → ② \(v^2-v_0^2=2ax\) に代入 → ③ \(a\) を計算。
  2. (2) 追いつく距離の計算:
    • 戦略: AとBの走行距離が等しいという条件で連立方程式を立てる。
    • フロー: ①Aの距離の式 \(x_A(t)\) とBの距離の式 \(x_B(t)\) を立てる → ② \(x_A(t) = x_B(t)\) として \(t\) を消去(または \(t\) を求めてから \(x\) を求める) → ③方程式を解き、物理的に意味のある解を選ぶ。
  3. (3) 相対速度の計算:
    • 戦略: まず追いついた瞬間のAの速度を求め、その後、相対速度の定義式に入れる。
    • フロー: ①(2)で求めた距離 \(x\) を使って、Aの速度 \(v_A\) を計算(\(v^2-v_0^2=2ax\) を利用) → ②Bの速度 \(v_B\) を確認 → ③ \(v_{AB} = v_B – v_A\) を計算し、向きも考慮して解答する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の確認: 全ての物理量が基本単位(m, s)で与えられているかを確認します。今回は問題ありませんが、km/hなどが混じっている場合は単位換算が必要です。
  • 方程式の解の吟味: (2)で二次方程式を解いた後、出てきた解(\(x=0, 400\))がそれぞれどのような物理的状況に対応するのかを考える習慣をつけましょう。これにより、安易に解を捨てることがなくなり、問題の深い理解につながります。
  • 段階的な計算: (3)のように複数のステップが必要な問題では、まず「何が必要か(この場合は \(v_A\))」を明確にし、それを計算してから最終的な答えを求める、というように、思考を分割して進めると混乱しにくくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • v-tグラフでの検算:
    • Aの速度がBと同じ \(10 \, \text{m/s}\) になるのは、\(v_A = at\) より \(10 = 0.50t\)、つまり \(t=20\) s のとき。このとき、AとBの距離の差は最大になります。
    • 追いつくのは \(t=40\) s。これは速度が同じになる時間のちょうど2倍です。v-tグラフを描くと、\(t=0 \sim 20\) s の間にAがBに「貸した」面積(距離の差)と、\(t=20 \sim 40\) s の間にAがBから「返してもらった」面積が等しくなる、美しい対称性が見られます。この幾何学的な関係を知っていると、検算や直感的な理解に役立ちます。

21 速度と変位

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、音の伝播と反射を題材に、距離、速さ、時間の関係を解き明かす問題です。直接音と反射音という2つの異なる経路を伝わる音の情報から、未知の距離を特定する思考力が問われます。

この問題の核心は、音が一定の速さ(音速)で進むという性質を利用し、「距離 = 速さ × 時間」の関係式を、直接音と反射音のそれぞれの経路に適用することです。

与えられた条件
  • 観測者とビルの間の距離: \(L\) [m]
  • 音源(ピストル)の位置: 観測者とビルの間
  • 音速: \(V = 3.4 \times 10^2\) m/s
  • 直接音が観測者に届くまでの時間: \(t_1 = 1.0\) s
  • 反射音が観測者に届くまでの時間: \(t_2 = 2.0\) s
  • ピストルが鳴らされた時刻: \(t=0\) s
問われていること
  • 観測者とビルの間の距離 \(L\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等速直線運動の応用」です。音は空気中を一定の速さで進むため、その運動は等速直線運動として扱うことができます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 音の等速性: 音は媒質中を一定の速さで進みます。
  2. 距離・速さ・時間の関係: \(x = vt\) (距離 = 速さ × 時間)という基本的な公式を使いこなします。
  3. 経路の分析: 「直接音」と「反射音」がそれぞれどのような経路をたどって観測者に届くのかを正確に図示し、その道のりを数式で表現します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、直接音の情報から、音源(ピストル)と観測者の間の距離を計算します。
  2. 次に、反射音の情報を分析します。反射音は「音源→ビル→観測者」という経路をたどります。この経路の全長と、それに要した時間から、未知の距離に関する方程式を立てます。
  3. 最後に、立てた方程式を解いて、求めたい距離 \(L\) を計算します。

連立方程式による解法

思考の道筋とポイント

この問題は、2つの情報(直接音と反射音)を使って未知数を特定するパズルに似ています。それぞれの音がたどった「道のり」と「時間」の関係を一つずつ式にしていくことが解法の基本です。

この設問における重要なポイント

  • 距離の分解: 全体の距離 \(L\) を、既知の部分と未知の部分に分けて考えます。
  • 時間の分解: 反射音が進む時間(\(t_2=2.0\) s)を、音源からビルまでにかかる時間と、ビルから観測者までにかかる時間に分解して考えます。
  • 図の活用: 問題の状況を正確に図示し、各部分の距離や時間を書き込むことで、関係性が明確になり、立式しやすくなります。

具体的な解説と立式

音速を \(V = 3.4 \times 10^2\) m/s とします。
まず、直接音の情報から、ピストルと観測者の間の距離 \(x_1\) を求めます。
音は \(t_1 = 1.0\) s かけて観測者に届いたので、

$$ x_1 = V \times t_1 \quad \cdots ① $$

次に、反射音の経路を考えます。反射音は「ピストル → ビル → 観測者」という経路をたどります。

  • ピストルからビルまでの距離を \(x_2\) とします。
  • ビルから観測者までの距離は、図から \(L\) です。

したがって、反射音が進んだ総距離は \(x_2 + L\) となります。
この距離を進むのにかかった時間が \(t_2 = 2.0\) s なので、

$$ x_2 + L = V \times t_2 \quad \cdots ② $$

また、図からわかるように、ピストルと観測者の距離 \(x_1\) と、ピストルとビルの距離 \(x_2\) の和は、観測者とビルの距離 \(L\) に等しくなります。

$$ L = x_1 + x_2 \quad \cdots ③ $$

これで、未知数が \(x_1, x_2, L\) の3つ、式が3つ揃ったので、連立方程式として解くことができます。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
計算過程

まず、式①から \(x_1\) を計算します。

$$
\begin{aligned}
x_1 &= (3.4 \times 10^2) \times 1.0 \\[2.0ex]&= 3.4 \times 10^2 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

次に、式③を \(x_2\) について解きます。

$$ x_2 = L – x_1 = L – 3.4 \times 10^2 $$

この \(x_1\) と \(x_2\) の式を、式②に代入します。

$$
\begin{aligned}
(L – 3.4 \times 10^2) + L &= (3.4 \times 10^2) \times 2.0 \\[2.0ex]2L – 3.4 \times 10^2 &= 6.8 \times 10^2 \\[2.0ex]2L &= 6.8 \times 10^2 + 3.4 \times 10^2 \\[2.0ex]2L &= (6.8 + 3.4) \times 10^2 \\[2.0ex]2L &= 10.2 \times 10^2 \\[2.0ex]L &= \frac{10.2 \times 10^2}{2} \\[2.0ex]L &= 5.1 \times 10^2 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、ピストルの音が1.0秒で観測者に届いたことから、ピストルと観測者の間の距離が \(3.4 \times 10^2 \times 1.0 = 340\) m であることがわかります。
次に、反射音は2.0秒かかっています。この音は「ピストルからビルへ行き、そこから観測者まで戻ってくる」という長い道のりを進んでいます。この道のりの全長は \(3.4 \times 10^2 \times 2.0 = 680\) m です。
この全長は「(ピストルからビルまでの距離)+(ビルから観測者までの距離 \(L\))」なので、この関係を式にして解くと、全体の距離 \(L\) が求まります。

結論と吟味

観測者とビルの距離 \(L\) は \(5.1 \times 10^2\) m です。
計算結果が正の値であり、各距離も物理的に妥当な値となっています。

別解: 反射音の往復時間に着目した解法

思考の道筋とポイント

模範解答で採用されている、よりスマートな解法です。反射音と直接音の時間差に着目します。

この設問における重要なポイント

  • 時間差の意味: 反射音が直接音より遅れて聞こえるのは、反射音が「ピストル→ビル→ピストルの位置」まで戻ってくる分だけ余計に時間がかかるからです。
  • 往復時間: 反射音と直接音の到達時間の差 \(t_2 – t_1\) は、音が「ピストルとビルの間を往復する」のにかかった時間と等しくなります。

具体的な解説と立式

  1. 直接音の情報から、ピストルと観測者の距離 \(x_1\) を求める。
    $$ x_1 = V \times t_1 = (3.4 \times 10^2) \times 1.0 = 3.4 \times 10^2 \, \text{[m]} $$
  2. 反射音が観測者に届くまでの時間 \(t_2 = 2.0\) s と、直接音が届くまでの時間 \(t_1 = 1.0\) s の差を考える。
    $$ \Delta t = t_2 – t_1 = 2.0 – 1.0 = 1.0 \, \text{[s]} $$
  3. この時間差 \(\Delta t\) は、音が「ピストルからビルまで進み、反射して再びピストルの位置まで戻ってくる」のにかかった時間に相当します。つまり、ピストルとビルの間の距離 \(x_2\) を往復する時間です。
    $$ \Delta t = t_{\text{往復}} = 1.0 \, \text{[s]} $$
  4. したがって、音がピストルからビルまで片道を進むのにかかった時間 \(t_{\text{片道}}\) は、この半分になります。
    $$ t_{\text{片道}} = \frac{t_{\text{往復}}}{2} = \frac{1.0}{2} = 0.5 \, \text{[s]} $$
  5. この時間を使って、ピストルとビルの間の距離 \(x_2\) を計算します。
    $$ x_2 = V \times t_{\text{片道}} \quad \cdots ④ $$
  6. 最終的に求める距離 \(L\) は、\(x_1\) と \(x_2\) の和です。
    $$ L = x_1 + x_2 \quad \cdots ⑤ $$
計算過程

式④を計算します。

$$
\begin{aligned}
x_2 &= (3.4 \times 10^2) \times 0.5 \\[2.0ex]&= 1.7 \times 10^2 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

式⑤に \(x_1\) と \(x_2\) の値を代入します。

$$
\begin{aligned}
L &= (3.4 \times 10^2) + (1.7 \times 10^2) \\[2.0ex]&= (3.4 + 1.7) \times 10^2 \\[2.0ex]&= 5.1 \times 10^2 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

この解法でも、もちろん同じ \(5.1 \times 10^2\) m という結果が得られます。時間差に着目することで、反射音の複雑な経路を「往復運動」という単純なモデルに置き換えることができ、より見通しよく問題を解くことができます。物理現象の対称性や共通点を見抜く良い練習になります。

解答 \(5.1 \times 10^2 \, \text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 距離・速さ・時間の関係式(\(x=vt\)):
    • 核心: この問題の全ての計算の基礎となるのは、等速直線運動の公式 \(x=vt\) です。音は一定の速さで進むため、この公式が適用できます。
    • 理解のポイント: 問題を解くことは、この単純な公式を、問題文で与えられた複数の状況(直接音の経路、反射音の経路)に正しく当てはめ、連立方程式を解く作業に帰着します。
  • 経路の分析と分解:
    • 核心: 物理的に最も重要な思考は、直接音と反射音がたどる「経路(道のり)」を正確に把握し、図や数式で表現することです。特に、反射音の経路を「音源→ビル」と「ビル→観測者」のように、あるいは「音源とビルの往復」のように、計算しやすい部分に分解して考える能力が問われます。
    • 理解のポイント: 複雑な現象も、基本的な要素に分解すれば、単純な法則の組み合わせで説明できる、という物理学の基本的な考え方を実践する問題です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • やまびこ・雷: 山に向かって叫んだ声が返ってくるまでの時間から山までの距離を求める問題や、雷の光が見えてから音が聞こえるまでの時間差で落雷地点までの距離を推定する問題など、音速を利用する問題は全て同じ構造です。
    • ソナー・レーダー: 船から海底に向けて超音波を発し、反射波が返ってくるまでの時間で水深を測るソナーや、電波の反射で物体の位置を特定するレーダーも、本質的には同じ原理です。
    • 動く音源・観測者(ドップラー効果との融合): この問題に、音源や観測者が動く要素が加わると、ドップラー効果の問題に発展します。しかし、音の伝わる距離と時間の関係を考える基本は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 情報の経路を図示する: 音や光、電波などがどのような経路をたどるのか、必ず図に矢印で描き込みます。
    2. 時間と距離を対応させる: 「どの距離」を「どのくらいの時間」で進んだのか、というペアを問題文から正確に抜き出します。
    3. 時間差や距離差に着目する: 2つの情報がある場合、その「差」に物理的な意味がないか考えます。この問題の別解のように、「時間差=往復時間」と気づくと、計算が大幅に簡略化されることがあります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 反射音の経路長の誤認:
    • 誤解: 反射音が進んだ距離を、単純に「観測者とビルの往復(\(2L\))」や「ピストルとビルの往復(\(2x_2\))」と勘違いしてしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、反射音のスタート地点(ピストル)とゴール地点(観測者)を明確にします。経路は「ピストル→ビル→観測者」であり、その道のりは \(x_2 + L\) です。思い込みで判断せず、図を丁寧になぞって確認しましょう。
  • 時間の扱いの間違い:
    • 誤解: 反射音が聞こえた時刻 \(t=2.0\) s を、音がビルと観測者の間を往復する時間だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 問題文の時刻は全て「ピストルが鳴った \(t=0\) s」を基準にしています。\(t=2.0\) s は、あくまで「ピストル→ビル→観測者」という全行程にかかった時間です。各区間の所要時間を考える際は、この基準点を忘れないようにしましょう。
  • 立式不足による混乱:
    • 誤解: 未知数が複数あるのに、式の数が足りず、どう解けばいいか分からなくなる。
    • 対策: 未知数(この問題では \(L, x_1, x_2\))の数を最初に確認します。未知数が3つなら、独立した関係式が3つ必要です。①直接音の式、②反射音の式、③距離の和の式、というように、見つけた関係を一つずつ数式にしていけば、解ける見通しが立ちます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 波面の広がりをイメージする:
    • \(t=0\) にピストルの位置から同心円状に音の波面が広がっていく様子をイメージします。
    • \(t=1.0\) s に、観測者側の波面が観測者に到達します。
    • ビル側の波面はビルで反射し、今度はビルを中心とする新たな波面として広がります(実際には反射の法則に従いますが、イメージとしてはこう捉えられます)。
    • \(t=2.0\) s に、この反射してきた波面が観測者に到達します。この一連の流れを頭の中で動画のように再生できると、物理現象の理解が深まります。
  • 時間軸の活用:
    • 一本の数直線(時間軸)を描き、\(t=0, 1.0, 2.0\) の目盛りを入れます。
    • \(t=0\): 発射
    • \(t=1.0\): 直接音 到着
    • \(t=2.0\): 反射音 到着
    • この時間軸と、空間的な位置関係の図を対応させることで、思考が整理されます。例えば、別解で考えた「往復時間 \(1.0\) s」は、この時間軸上の \(t=1.0\) と \(t=2.0\) の「間隔」ではないことに注意が必要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 等速直線運動の公式 (\(x=vt\)):
    • 選定理由: 音は空気中を一定の速さで伝わるという、物理の基本原理に基づいています。そのため、運動を記述する最も基本的な公式である \(x=vt\) を選択します。
    • 適用根拠: この問題には加速や減速の要素はなく、音速も一定とされているため、この公式以外の選択肢は基本的にありません。問題は、この一つの公式を、いかに複数の経路に正しく適用できるか、という点に集約されます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 正攻法(連立方程式):
    • 戦略: 登場する全ての距離を未知数とし、見つけられる関係式を全て立てて連立方程式を解く。
    • フロー: ①ピストル-観測者間を \(x_1\)、ピストル-ビル間を \(x_2\) と置く → ②直接音の情報から \(x_1\) の式を立てる(\(x_1 = V t_1\)) → ③反射音の情報から \(x_2, L\) の式を立てる(\(x_2+L = V t_2\)) → ④図からわかる距離の関係式を立てる(\(L = x_1+x_2\)) → ⑤これら3つの式を連立させて \(L\) を解く。
  2. スマートな解法(時間差に着目):
    • 戦略: 直接音と反射音の経路の「差」が、音の「往復」に相当することを見抜く。
    • フロー: ①直接音の情報からピストル-観測者間の距離 \(x_1\) を計算 → ②直接音と反射音の到達時間の差 \(\Delta t\) を計算 → ③この \(\Delta t\) がピストル-ビル間の往復時間であると解釈し、片道時間 \(t_{\text{片道}}\) を求める → ④片道時間からピストル-ビル間の距離 \(x_2\) を計算 → ⑤ \(L = x_1 + x_2\) で合計する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 指数の扱い: この問題では \(3.4 \times 10^2\) のように指数表記が使われています。計算の最後まで \(10^2\) はそのままにしておき、係数部分(3.4など)だけを計算すると、桁数の間違いを防げます。
    例:\( (3.4 \times 10^2) + (1.7 \times 10^2) = (3.4+1.7) \times 10^2 = 5.1 \times 10^2 \)
  • 有効数字の確認: 問題文の数値(1.0s, 2.0s, 3.4×10²m/s)は全て有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁で \(5.1 \times 10^2\) m と表現するのが適切です。\(510\) m と書くと、有効数字が2桁か3桁か曖昧になるため、指数表記が望ましいです。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 各区間の距離と時間の確認:
    • 求まった \(L=510\) m を使って、各区間の数値を逆算してみます。
    • ピストル-観測者間 \(x_1 = 340\) m。
    • ピストル-ビル間 \(x_2 = L – x_1 = 510 – 340 = 170\) m。
    • 直接音: 距離 \(340\) m を音速 \(340\) m/s で進むので、時間は \(340/340 = 1.0\) s。問題文と一致。
    • 反射音: 経路長は \(x_2 + L = 170 + 510 = 680\) m。かかる時間は \(680/340 = 2.0\) s。問題文と一致。
    • このように、得られた答えが全ての条件を矛盾なく満たすことを確認することで、解答の正しさを確信できます。

22 速度の合成

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、「川を渡る船」という、速度の合成における典型的な設定を扱います。船自身の速度(静水に対する速度)と川の流れの速度という2つのベクトルを合成し、実際に岸から見た船の運動(合成速度)を考える能力が問われます。

この問題の核心は、船の運動を「川の流れに平行な方向」と「川の流れに垂直な方向」の2つの独立した運動に分解して考えることです。

与えられた条件
  • 船の静水に対する速さ: \(v_{\text{静水}} = 4.0 \, \text{m/s}\)
  • 川の流れの速さ: \(v_{\text{川}} = 4.0 \, \text{m/s}\)
  • 川幅: \(W = 60 \, \text{m}\)
  • 船が向く方向と川の流れのなす角: \(\theta\)
問われていること
  • (1) 対岸に最短時間で到達する場合の \(\theta\) の値と、そのときの時間 \(t_1\)。
  • (2) \(\theta = 60^\circ\) の向きに進むときの、船の(岸から見た)速さ \(v\) と、対岸に到達するまでの時間 \(t_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「速度の合成と運動の分解」です。岸から見た船の実際の速度は、船が自ら進もうとする速度と、川に流される速度のベクトル和で与えられます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度の合成: \(\vec{v}_{\text{岸}} = \vec{v}_{\text{静水}} + \vec{v}_{\text{川}}\) というベクトル和の関係を理解します。ここで \(\vec{v}_{\text{岸}}\) は岸から見た船の速度(合成速度)です。
  2. 運動の分解: 合成された速度を、川に平行な成分(下流に流される運動)と、川に垂直な成分(対岸に向かう運動)に分解して考えます。
  3. 対岸への到達時間: 川を渡るのにかかる時間は、川に垂直な方向の速度成分と川幅だけで決まります。川の流れの速さは、対岸への到達時間には直接影響しません。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、「最短時間で到達する」条件を考えます。これは、川を横切る方向の速度成分が最大になる場合です。船の持つ速さの全てを川の横断に使うべきなので、船首を真向かいに向けるのが最適です。
  2. (2)では、与えられた角度 \(\theta=60^\circ\) で船が進む場合の運動を分析します。船の静水に対する速度を、川に平行な成分と垂直な成分に分解し、それぞれに川の流れの速度を加えて合成速度の各成分を求めます。合成速度の大きさは三平方の定理で、対岸への到達時間は川を横切る成分の速度から計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント

対岸へ到達するまでの時間を最短にする、という条件を考えます。川を渡るのにかかる時間は、川幅 \(W\) と、川を横切る方向の速度成分 \(v_y\) だけで決まります (\(t = W/v_y\))。
時間を最短にするには、分母である \(v_y\) を最大にすればよい、ということになります。

この設問における重要なポイント

  • 時間最短の条件: 川を横切る方向の速度成分を最大にすること。
  • 速度成分の最大化: 船の静水に対する速さ \(v_{\text{静水}}\) の成分のうち、川を横切る方向の成分は \(v_{\text{静水}}\sin\theta\) です。これが最大になるのは \(\sin\theta=1\)、すなわち \(\theta=90^\circ\) のときです。
  • 川の流れの影響: 川の流れは、対岸への到達時間には影響を与えません。下流にどれだけ流されるかに影響します。

具体的な解説と立式

川の流れの方向をx軸、川を横切る方向をy軸とします。
岸から見た船の速度 \(\vec{v}\) の成分は \((v_x, v_y)\) となります。
船の静水に対する速度 \(\vec{v}_{\text{静水}}\) を分解すると、x成分は \(v_{\text{静水}}\cos\theta\)、y成分は \(v_{\text{静水}}\sin\theta\) です。
川の流れの速度 \(\vec{v}_{\text{川}}\) はx軸方向なので、\((v_{\text{川}}, 0)\) です。
よって、合成速度の成分は、

$$ v_x = v_{\text{静水}}\cos\theta + v_{\text{川}} $$
$$ v_y = v_{\text{静水}}\sin\theta $$

対岸に到達するまでの時間 \(t\) は、川幅 \(W\) とy成分の速度 \(v_y\) で決まります。

$$ t = \frac{W}{v_y} = \frac{W}{v_{\text{静水}}\sin\theta} $$

この \(t\) を最小にするには、分母の \(\sin\theta\) を最大にする必要があります。\(0^\circ \le \theta \le 180^\circ\) の範囲で \(\sin\theta\) が最大になるのは \(\theta=90^\circ\) のときです。
したがって、時間を最短にするには、船首を川の流れに垂直な向き(真向かい)に向けるべきです。
このときの時間は、

$$ t_1 = \frac{W}{v_{\text{静水}}\sin 90^\circ} = \frac{W}{v_{\text{静水}}} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 速度の合成と分解
  • 等速直線運動: \(x = vt\)
計算過程

時間を最短にする \(\theta\) は \(90^\circ\) です。
式①に与えられた値を代入して、最短時間 \(t_1\) を計算します。

$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{60}{4.0} \\[2.0ex]&= 15 \, \text{[s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

川を一番速く渡るには、船の力をすべて「川を横切る方向」に使うのが最も効率的です。つまり、船の頭をまっすぐ対岸に向ける(川の流れに対して \(90^\circ\) の角度)のがベストです。このとき、川を渡る速さは船本来の速さ \(4.0 \, \text{m/s}\) となるので、60mの川幅を渡る時間は \(60 \div 4.0\) で計算できます。

結論と吟味

最短時間で到達する場合、\(\theta = 90^\circ\) で、到達時間は \(15\) s です。
このとき、船は川の流れによって下流に流されます。流される距離は \(v_{\text{川}} \times t_1 = 4.0 \times 15 = 60\) m となります。

解答 (1) \(\theta = 90^\circ\), 時間: \(15 \, \text{s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント

\(\theta = 60^\circ\) の向きに船首を向けて進むときの、岸から見た速さ \(v\) と到達時間 \(t_2\) を求める問題です。
まず、船の静水に対する速度を、川に平行な成分と垂直な成分に分解します。次に、平行な成分に川の流れの速さを加えて、合成速度の各成分を求めます。最後に、三平方の定理で合成速度の大きさを、垂直成分の速度から到達時間を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 速度の分解: 船の静水に対する速度 \(v_{\text{静水}}\) を、角度 \(\theta=60^\circ\) を用いて分解します。
  • 速度の合成: 分解した成分のうち、川の流れの方向の成分に、川の速さを足し合わせます。
  • 到達時間の計算: 到達時間は、合成速度の「川を横切る方向の成分」のみで決まります。

具体的な解説と立式

川の流れの方向をx軸、川を横切る方向をy軸とします。
船の静水に対する速度 \(\vec{v}_{\text{静水}}\) の成分は、

  • x成分: \(v_{\text{静水}x} = v_{\text{静水}}\cos 60^\circ = 4.0 \cos 60^\circ\)
  • y成分: \(v_{\text{静水}y} = v_{\text{静水}}\sin 60^\circ = 4.0 \sin 60^\circ\)

これに川の流れの速度 \(\vec{v}_{\text{川}} = (4.0, 0)\) を加えたものが、岸から見た速度 \(\vec{v}\) の成分 \((v_x, v_y)\) となります。

$$ v_x = 4.0 \cos 60^\circ + 4.0 \quad \cdots ② $$
$$ v_y = 4.0 \sin 60^\circ \quad \cdots ③ $$

岸から見た船の速さ \(v\) は、この合成速度の大きさなので、三平方の定理より、

$$ v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} \quad \cdots ④ $$

対岸に到達するまでの時間 \(t_2\) は、川幅 \(W\) とy成分の速度 \(v_y\) で決まります。

$$ t_2 = \frac{W}{v_y} \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 速度の合成と分解
  • 三平方の定理
  • 等速直線運動: \(x = vt\)
計算過程

まず、合成速度の各成分を計算します。

$$
\begin{aligned}
v_x &= 4.0 \times \frac{1}{2} + 4.0 = 2.0 + 4.0 = 6.0 \, \text{[m/s]} \\[2.0ex]v_y &= 4.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} = 2\sqrt{3} \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

次に、式④を用いて岸から見た速さ \(v\) を計算します。

$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{6.0^2 + (2\sqrt{3})^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{36 + 4 \times 3} \\[2.0ex]&= \sqrt{36 + 12} \\[2.0ex]&= \sqrt{48} = \sqrt{16 \times 3} = 4\sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx 4 \times 1.73 = 6.92 \approx 6.9 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

最後に、式⑤を用いて到達時間 \(t_2\) を計算します。

$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{60}{v_y} = \frac{60}{2\sqrt{3}} = \frac{30}{\sqrt{3}} = 10\sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx 10 \times 1.73 = 17.3 \approx 17 \, \text{[s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

船の動きを「川の流れの方向」と「川を横切る方向」に分解します。

  • 川の流れの方向: 船自身の横向き成分に、川の流れの速さが加わります。
  • 川を横切る方向: 船自身の縦向き成分だけです。

この2つの方向の速さが分かれば、全体の速さは三平方の定理で、川を渡る時間は「川幅 ÷ 縦向きの速さ」で計算できます。

結論と吟味

\(\theta=60^\circ\) のとき、船の速さは \(6.9 \, \text{m/s}\)、到達時間は \(17\) s です。
(1)の最短時間 \(15\) s よりも時間がかかっているのは、船の力のすべてを川の横断に使っているわけではないからです。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (2) 速さ: \(6.9 \, \text{m/s}\), 時間: \(17 \, \text{s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 速度の合成(ベクトル和):
    • 核心: 岸から見た船の速度(絶対速度)は、船が自力で進む速度(静水に対する速度)と、川が流れる速度のベクトル和で決まります。数式で書くと \(\vec{v}_{\text{岸}} = \vec{v}_{\text{静水}} + \vec{v}_{\text{川}}\) となります。このベクトルを正しく合成することが、この問題の全ての基本です。
  • 運動の分解(成分に分けて考える):
    • 核心: 2次元の運動を扱う際の最も強力な手法は、運動を互いに直交する2つの方向(この問題では「川の流れに平行な方向」と「垂直な方向」)に分解して考えることです。
    • 理解のポイント: 特に重要なのは、「対岸に到達するまでの時間」は、川を横切る方向(垂直方向)の運動だけで決まるという点です。川の流れ(平行方向の運動)は、下流にどれだけ流されるかには影響しますが、対岸に到達する時間そのものには影響しません。この「運動の独立性」を理解することが、この種の問題を解く鍵となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 飛行機と風: 「無風状態での飛行機の速さ(対気速度)」が「静水に対する船の速さ」に、「風の速さ」が「川の流れの速さ」に対応します。
    • 最短時間と最短距離:
      • 最短時間で渡る場合(問1): 船首をまっすぐ対岸に向ける(\(\theta=90^\circ\))。川を横切る速度成分が最大になります。
      • 最短距離で渡る場合: 岸から見て、まっすぐ対岸に進む場合。船は上流に船首を向けることで、川の流れによる横向きの速度成分を打ち消す必要があります。合成速度の向きが川岸に垂直になるように \(\theta\) を調整します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 3つの速度を特定する: 「静水に対する速度」「川の流れの速度」「岸に対する速度(合成速度)」の3つがどれかを問題文から正確に読み取ります。
    2. 座標軸を設定する: 川の流れの向きをx軸、川を横切る向きをy軸に設定すると、計算が非常に見通しよくなります。
    3. 問われている条件を分析する: 「最短時間」なのか、「最短距離」なのか、あるいは特定の角度で進むのか。条件によって、どの物理量に注目すべきかが変わります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 速度の合成の誤解:
    • 誤解: 岸から見た船の速さを、単純に船の速さと川の速さの算術的な和(\(4.0+4.0=8.0\))としてしまう。
    • 対策: 速度はベクトル量であり、向きを持っています。合成後の速さは、必ずベクトルの和(ベクトル図における三角形の辺の長さ)として計算しなければなりません。単純な足し算が許されるのは、2つの速度が全く同じ向きの場合のみです。
  • 最短時間と最短距離の混同:
    • 誤解: 最短時間で渡る方法と、最短距離で渡る方法が同じだと考えてしまう。
    • 対策: この2つは明確に異なります。「最短時間」は川を横切る速度を最大にすることに焦点を当て、「最短距離」は合成速度が川岸と垂直になることに焦点を当てます。目的が違うので、船首を向けるべき角度も異なります。
  • 三角関数の選択ミス:
    • 誤解: 速度を分解する際に、\(\sin\) と \(\cos\) を取り違える。
    • 対策: 必ず図を描き、角度 \(\theta\) と各成分の位置関係を確認します。この問題では、\(\theta\) は川の流れ(x軸)とのなす角なので、x成分が \(\cos\theta\)、y成分が \(\sin\theta\) に対応します。もし角度が川岸(y軸)から与えられた場合は、逆になるので注意が必要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • ベクトル図の活用:
    • 速度の合成は、ベクトル図を描くことで直感的に理解できます。\(\vec{v}_{\text{静水}}\) と \(\vec{v}_{\text{川}}\) の2つのベクトルを矢印で描き、それらを2辺とする平行四辺形を作ります。その対角線が、合成速度 \(\vec{v}_{\text{岸}}\) を表します。
    • このベクトル図を描くことで、三平方の定理や三角比をどの部分に適用すればよいかが一目瞭然になります。
  • 運動の独立性のイメージ:
    • 船の動きを、2人の人間が船を引っ張る様子に例えてみます。一人は岸に沿って下流に(川の流れ)、もう一人は船首の向きに(船のエンジン)。この2つの力が合わさった結果として船は斜めに進みます。
    • このとき、「川を渡る」という仕事は、船首を向けて引っ張る人の「岸を横切る方向の力」だけで決まります。岸に沿って引っ張る人は、この仕事を手伝うことも邪魔することもありません。これが運動の独立性のイメージです。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • (1) \(t = W / v_y\):
    • 選定理由: 対岸への到達時間を求めるため。この時間は、川を横切る運動だけで決まるという「運動の独立性」の原理に基づき、垂直方向の距離(川幅 \(W\))と垂直方向の速度(\(v_y\))の関係式を立てます。
  • (2) 速度の成分分解 (\(v_x, v_y\)) と合成 (\(v = \sqrt{v_x^2+v_y^2}\)):
    • 選定理由: 2次元のベクトル量を扱うため、直交する2つの成分に分解するのが定石です。川の流れの方向とそれに垂直な方向に分解することで、川の影響をx成分のみに限定でき、計算が単純化されます。合成速度の大きさ(速さ)は、直交する2成分から三平方の定理を用いて求めるのが最も基本的な方法です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 最短時間の計算:
    • 戦略: 対岸への到達時間を決めるのは、川を横切る速度成分 \(v_y\) のみ。時間を最短にするには \(v_y\) を最大にする。
    • フロー: ① \(v_y = v_{\text{静水}}\sin\theta\) を最大にする条件(\(\theta=90^\circ\))を求める → ②そのときの \(v_y\) の値(\(v_{\text{静水}}\))を計算 → ③時間 \(t_1 = W/v_y\) を計算。
  2. (2) 特定角度での速さと時間の計算:
    • 戦略: 速度をx, y成分に分解し、川の流れを考慮して合成速度を求め、到達時間を計算する。
    • フロー: ①船の静水速度をx, y成分に分解(\(v_{\text{静水}x}, v_{\text{静水}y}\)) → ②合成速度のx成分を計算(\(v_x = v_{\text{静水}x} + v_{\text{川}}\)) → ③合成速度のy成分を特定(\(v_y = v_{\text{静水}y}\)) → ④三平方の定理で合成速度の大きさ \(v\) を計算 → ⑤ \(t_2 = W/v_y\) で到達時間を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 三角関数の値の正確性: \(\cos 60^\circ = 1/2\), \(\sin 60^\circ = \sqrt{3}/2\) といった基本的な値を正確に使いこなすことが必須です。
  • 平方根の計算: \(\sqrt{48} = \sqrt{16 \times 3} = 4\sqrt{3}\) のように、ルートの中をできるだけ簡単にする計算に慣れておきましょう。また、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) という近似値も覚えておくと、最終的な数値計算で役立ちます。
  • 分母の有理化: \(t_2\) の計算で \(\frac{60}{2\sqrt{3}}\) が出てきます。これを \(\frac{30}{\sqrt{3}}\) とし、分母分子に \(\sqrt{3}\) を掛けて \(10\sqrt{3}\) と有理化すると、その後の近似値計算が楽になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 時間の比較: (2)で求めた時間 \(t_2 \approx 17\) s は、(1)で求めた最短時間 \(t_1 = 15\) s よりも長くなっています。船首を斜めに向けると、川を横切るための速度成分が小さくなるため、時間が長くなるのは当然であり、結果は妥当です。
    • 速さの比較: (2)で求めた合成速度 \(v \approx 6.9\) m/s は、船の速さ \(4.0\) m/s や川の速さ \(4.0\) m/s よりも大きくなっています。2つの速度が合成され、ある程度同じ向きの成分を持つため、速さが大きくなるのは自然です。もし、船が真逆(上流)を向いた場合は、合成速度は小さくなるはずです。

23 v-tグラフ

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、時間によって加速度が変化する物体の運動を、a-tグラフ(加速度-時間グラフ)からv-tグラフ(速度-時間グラフ)やx-tグラフ(変位-時間グラフ)へと解釈し直す、応用的な運動学の問題です。

この問題の核心は、グラフ間の関係性を正しく理解することです。具体的には、「a-tグラフの面積が速度の変化量 \(\Delta v\)」であり、「v-tグラフの傾きが加速度 \(a\)」、「v-tグラフの面積が変位 \(\Delta x\)」であることを駆使して、各設問に答えていきます。

与えられた条件
  • a-tグラフ:
    • \(0 \le t < T\): \(a\)
    • \(T \le t < 3T\): \(0\)
    • \(t \ge 3T\): \(-2a\)
  • 初期条件 (\(t=0\)):
    • 位置: 原点 (\(x=0\))
    • 速度: \(0\)
問われていること
  • (1) \(0 \le t \le 3T\) におけるv-tグラフ。
  • (2) \(0 \le t \le 3T\) における平均の速度。
  • (3) \(0 \le t \le 3T\) における平均の加速度。
  • (4) 原点から正の向きに最も遠ざかる時刻。
  • (5) 原点に戻る時刻。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「グラフを用いた運動の解析」です。特にa-tグラフからv-tグラフを作成し、そこからさらに情報を読み取る一連の流れを理解することが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. a-tグラフとv-tグラフの関係: a-tグラフの面積は、その時間区間における速度の変化量 \(\Delta v\) を表す。v-tグラフの傾きは、その時刻における加速度 \(a\) を表す。
  2. v-tグラフと変位の関係: v-tグラフの面積は、その時間区間における変位 \(\Delta x\) を表す。
  3. 平均の速度: (総変位) / (経過時間)で定義される。
  4. 平均の加速度: (総速度変化) / (経過時間)で定義される。
  5. 最も遠ざかる点: 速度の向きが変わる点、すなわち \(v=0\) となる時刻。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、a-tグラフの各区間の面積を計算して速度の変化量を求め、v-tグラフを段階的に作成します。
  2. (2)では、(1)で描いたv-tグラフの面積を計算して総変位を求め、経過時間 \(3T\) で割って平均の速度を計算します。
  3. (3)では、\(t=3T\) での速度と \(t=0\) での速度の差(総速度変化)を求め、経過時間 \(3T\) で割って平均の加速度を計算します。
  4. (4)では、\(t>3T\) の区間で、速度が \(0\) になる時刻を求めます。
  5. (5)では、\(t>3T\) の区間で、\(t=0\) からの総変位が \(0\) になる時刻を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント

a-tグラフからv-tグラフを作成します。各区間のa-tグラフの面積が、その区間の速度変化量 \(\Delta v\) になることを利用します。

  • 区間1 (\(0 \le t < T\)): 加速度は \(a\)。v-tグラフの傾きは \(a\)。
    速度変化 \(\Delta v_1 = a \times T = aT\)。
    \(t=T\) での速度は \(v(T) = v(0) + \Delta v_1 = 0 + aT = aT\)。
  • 区間2 (\(T \le t < 3T\)): 加速度は \(0\)。v-tグラフの傾きは \(0\)(水平)。
    速度変化 \(\Delta v_2 = 0\)。速度は \(aT\) のまま一定。
    \(t=3T\) での速度は \(v(3T) = v(T) = aT\)。

この設問における重要なポイント

  • a-tグラフの面積 → 速度変化量
  • v-tグラフの傾き → 加速度

具体的な解説と立式

上記の思考プロセスに従い、v-tグラフを描きます。

  1. \(0 \le t \le T\): 原点(0, 0)から傾き \(a\) の直線で、点(\(T, aT\))まで進みます。
  2. \(T \le t \le 3T\): 点(\(T, aT\))から水平な直線で、点(\(3T, aT\))まで進みます。

これにより、模範解答にあるようなv-tグラフの前半部分が完成します。

結論と吟味

a-tグラフの情報を正しくv-tグラフに変換できました。加速区間が傾きのある直線、等速区間が水平線になるという基本的な対応関係が重要です。

解答 (1) 模範解答の図を参照。

問(2)

思考の道筋とポイント

\(0 \le t \le 3T\) における平均の速度を求めます。定義は「総変位 / 経過時間」です。
総変位は、(1)で描いたv-tグラフの \(0 \le t \le 3T\) の区間の面積を計算することで求まります。

この設問における重要なポイント

  • 平均の速度の定義: \(\bar{v} = \frac{\Delta x}{\Delta t}\)
  • v-tグラフの面積 → 変位

具体的な解説と立式

まず、\(0 \le t \le 3T\) の間の総変位 \(\Delta x\) を求めます。これはv-tグラフの台形の面積に等しいです。

  • 上底: \(3T – T = 2T\)
  • 下底: \(3T – 0 = 3T\)
  • 高さ: \(aT\)

$$ \Delta x = \frac{1}{2}(\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ} = \frac{1}{2}(2T + 3T) \times aT \quad \cdots ① $$

平均の速度 \(\bar{v}\) は、この総変位 \(\Delta x\) を経過時間 \(\Delta t = 3T\) で割ることで求まります。

$$ \bar{v} = \frac{\Delta x}{3T} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 平均の速度の定義
  • v-tグラフの面積と変位の関係
計算過程

式①を計算します。

$$ \Delta x = \frac{1}{2}(5T) \times aT = \frac{5}{2}aT^2 $$

この結果を式②に代入します。

$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{\frac{5}{2}aT^2}{3T} \\[2.0ex]&= \frac{5}{6}aT
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

平均の速度を求めるには、まず「どれだけ進んだか(総変位)」を計算します。これはv-tグラフの面積を求めることでわかります。次に、その総変位を「かかった時間(\(3T\))」で割れば、平均の速度が計算できます。

結論と吟味

平均の速度は \(\frac{5}{6}aT\) です。最高速度 \(aT\) よりは小さく、0よりは大きい妥当な値です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{5}{6}aT\) [m/s]

問(3)

思考の道筋とポイント

\(0 \le t \le 3T\) における平均の加速度を求めます。定義は「総速度変化 / 経過時間」です。

この設問における重要なポイント

  • 平均の加速度の定義: \(\bar{a} = \frac{\Delta v}{\Delta t}\)

具体的な解説と立式

\(0 \le t \le 3T\) の間の総速度変化 \(\Delta v\) を求めます。

  • \(t=0\) での速度: \(v(0) = 0\)
  • \(t=3T\) での速度: \(v(3T) = aT\)

$$ \Delta v = v(3T) – v(0) = aT – 0 = aT $$

平均の加速度 \(\bar{a}\) は、この総速度変化 \(\Delta v\) を経過時間 \(\Delta t = 3T\) で割ることで求まります。

$$ \bar{a} = \frac{\Delta v}{3T} = \frac{aT}{3T} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 平均の加速度の定義
計算過程

式③を計算します。

$$ \bar{a} = \frac{aT}{3T} = \frac{1}{3}a $$

計算方法の平易な説明

平均の加速度とは、全体の時間でならした「平均的な」加速度のことです。\(3T\) という時間で、速度が \(0\) から \(aT\) まで変化したので、速度の変化量 \(aT\) をかかった時間 \(3T\) で割ることで計算できます。

結論と吟味

平均の加速度は \(\frac{1}{3}a\) です。\(0 \le t < T\) では加速度 \(a\)、\(T \le t < 3T\) では加速度 \(0\) なので、その平均が \(a\) と \(0\) の間の値になるのは妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{1}{3}a\) [m/s\(^2\)]

問(4)

思考の道筋とポイント

原点から正の向きに最も遠ざかる時刻を求めます。物体が最も遠ざかるのは、正の向きに進んでいた速度が \(0\) になり、負の向きに動き始める瞬間です。
\(t=3T\) 以降、物体は加速度 \(-2a\) で減速するので、この区間で速度が \(0\) になる時刻を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 最も遠ざかる条件: \(v=0\)
  • v-tグラフの利用: \(t=3T\) での速度 \(aT\) から、傾き \(-2a\) の直線がt軸と交わる時刻を求めます。

具体的な解説と立式

\(t=3T\) のとき、速度は \(v(3T) = aT\) です。
\(t \ge 3T\) の区間では、加速度は \(-2a\) です。
求める時刻を \(t_1\) とすると、\(t=3T\) から \(t=t_1\) までの運動について、等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + a’ \Delta t\) を適用します。

  • 初速度 \(v_0 = v(3T) = aT\)
  • 終速度 \(v = v(t_1) = 0\)
  • 加速度 \(a’ = -2a\)
  • 経過時間 \(\Delta t = t_1 – 3T\)

$$ 0 = aT + (-2a)(t_1 – 3T) \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
計算過程

式④を \(t_1\) について解きます。

$$
\begin{aligned}
2a(t_1 – 3T) &= aT \\[2.0ex]t_1 – 3T &= \frac{aT}{2a} \\[2.0ex]t_1 – 3T &= \frac{T}{2} \\[2.0ex]t_1 &= 3T + \frac{T}{2} \\[2.0ex]&= \frac{7}{2}T
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

時刻 \(3T\) で \(aT\) という速度を持っていた物体が、ブレーキ(加速度 \(-2a\))をかけて止まるまでの時間を求めます。止まるまでの時間は「そのときの速度 ÷ ブレーキの強さ(加速度の大きさ)」で計算でき、\((aT) \div (2a) = T/2\) となります。この時間を、ブレーキをかけ始めた時刻 \(3T\) に足せば、止まる時刻がわかります。

結論と吟味

最も遠ざかる時刻は \(t_1 = \frac{7}{2}T\) です。\(3T\) より後の時刻であり、妥当な結果です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{7}{2}T\) [s]

問(5)

思考の道筋とポイント

物体が原点に戻る時刻を求めます。原点に戻るということは、\(t=0\) からの総変位が \(0\) になるということです。
(4)で最も遠ざかった後、物体は負の向きに進み始めます。
\(0 \le t \le \frac{7}{2}T\) の間に進んだ正の向きの変位と、\(\frac{7}{2}T\) 以降に進む負の向きの変位が等しくなる時刻を求めます。
より簡単な方法は、\(t=3T\) までの変位を計算し、\(t=3T\) 以降にその変位を打ち消すだけの負の変位が生じる時刻を求めることです。

この設問における重要なポイント

  • 原点に戻る条件: 総変位 \(\Delta x_{\text{total}} = 0\)
  • v-tグラフの面積: 正の面積(t軸より上)と負の面積(t軸より下)の合計が \(0\) になる時刻を求めます。

具体的な解説と立式

\(0 \le t \le 3T\) での変位は、(2)で計算した通り \(\Delta x_1 = \frac{5}{2}aT^2\) です。
求める時刻を \(t_2\) とします。\(t=3T\) から \(t=t_2\) までの変位 \(\Delta x_2\) が \(-\frac{5}{2}aT^2\) になれば、総変位は \(0\) になります。
この区間の運動について、等加速度直線運動の公式 \(x = v_0 \Delta t + \frac{1}{2}a’ (\Delta t)^2\) を適用します。

  • 初速度 \(v_0 = v(3T) = aT\)
  • 加速度 \(a’ = -2a\)
  • 経過時間 \(\Delta t = t_2 – 3T\)
  • 変位 \(x = \Delta x_2 = -\frac{5}{2}aT^2\)

$$ -\frac{5}{2}aT^2 = (aT)(t_2 – 3T) + \frac{1}{2}(-2a)(t_2 – 3T)^2 \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

式⑤の両辺を \(a\) で割り(\(a \ne 0\))、整理します。

$$ -\frac{5}{2}T^2 = T(t_2 – 3T) – (t_2 – 3T)^2 $$

ここで、\(t_2 – 3T = \Delta t\) と置いて、\(\Delta t\) についての二次方程式を解きます。

$$ -\frac{5}{2}T^2 = T \Delta t – (\Delta t)^2 $$

両辺に2を掛けて、

$$ -5T^2 = 2T \Delta t – 2(\Delta t)^2 $$
$$ 2(\Delta t)^2 – 2T \Delta t – 5T^2 = 0 $$

解の公式を用いて \(\Delta t\) を解きます。

$$
\begin{aligned}
\Delta t &= \frac{-(-2T) \pm \sqrt{(-2T)^2 – 4(2)(-5T^2)}}{2(2)} \\[2.0ex]&= \frac{2T \pm \sqrt{4T^2 + 40T^2}}{4} \\[2.0ex]&= \frac{2T \pm \sqrt{44T^2}}{4} \\[2.0ex]&= \frac{2T \pm 2\sqrt{11}T}{4} \\[2.0ex]&= \frac{1 \pm \sqrt{11}}{2}T
\end{aligned}
$$

\(\Delta t = t_2 – 3T > 0\) なので、正の解をとります。

$$ \Delta t = \frac{1 + \sqrt{11}}{2}T $$

よって、求める時刻 \(t_2\) は、

$$
\begin{aligned}
t_2 &= 3T + \Delta t = 3T + \frac{1 + \sqrt{11}}{2}T \\[2.0ex]&= \left( \frac{6}{2} + \frac{1 + \sqrt{11}}{2} \right)T \\[2.0ex]&= \frac{7 + \sqrt{11}}{2}T
\end{aligned}
$$

結論と吟味

原点に戻る時刻は \(t_2 = \frac{7 + \sqrt{11}}{2}T\) です。\(\sqrt{11} \approx 3.3\) なので、\(t_2 \approx \frac{10.3}{2}T = 5.15T\) となり、最も遠ざかる時刻 \(\frac{7}{2}T = 3.5T\) よりも後の時刻なので、妥当な結果です。計算は複雑ですが、物理的な意味を一つずつ追っていけば解くことができます。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{7 + \sqrt{11}}{2}T\) [s]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • グラフ間の関係性の理解と応用:
    • 核心: この問題は、運動を表す3つのグラフ(a-t, v-t, x-t)の間の関係性を深く理解しているかを問うています。
      1. a-tグラフの面積 → 速度変化量 \(\Delta v\): これがv-tグラフを作成する上での出発点です。
      2. v-tグラフの傾き → 加速度 \(a\): v-tグラフが描ければ、その傾きから各瞬間の加速度がわかります。
      3. v-tグラフの面積 → 変位 \(\Delta x\): v-tグラフから物体の位置の変化を計算するための最も重要な関係です。
    • 理解のポイント: これらの関係は微積分の概念(積分と微分)に由来しますが、高校物理では「面積」「傾き」という幾何学的な概念として理解し、使いこなせることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • v-tグラフからのa-t, x-tグラフ作成: この問題とは逆に、v-tグラフが与えられ、そこからa-tグラフ(傾きを計算)やx-tグラフ(面積を累積)を作成する問題。
    • エレベーターの昇降運動: 加速、等速、減速を繰り返すエレベーターの運動は、この問題と非常によく似たv-tグラフを描きます。
    • 周期的・複雑な運動: 加速度が周期的に変化するような、より複雑な運動も、基本的には各区間に分けてv-tグラフを作成し、面積を計算するというアプローチで解析できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. どのグラフが与えられているか確認する: a-t, v-t, x-tのどれがスタートかを見極めます。
    2. v-tグラフをハブ(中心)と考える: どのグラフが与えられても、まずはv-tグラフを作成・分析するのが定石です。v-tグラフは、加速度(傾き)と変位(面積)の両方の情報を含んでおり、運動解析の中心的な役割を果たします。
    3. 物理的な意味を考える:
      • 「最も遠ざかる」→ 速度が \(v=0\) になる瞬間。
      • 「原点に戻る」→ \(t=0\) からの総変位(面積の総和)が \(0\) になる瞬間。
      • 「平均の速度」→ (総変位)/(時間)。
      • 「平均の加速度」→ (総速度変化)/(時間)。

      このように、問われている言葉を物理的な定義に翻訳することが第一歩です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 平均の速度と瞬間の速度の混同:
    • 誤解: 平均の速度を、単純に初速度と終速度の算術平均 \((v_0+v)/2\) で計算してしまう。
    • 対策: この式が使えるのは「等加速度直線運動」の区間に限られます。この問題のように加速度が変化する場合は、必ず定義に立ち返り、「総変位 ÷ 総時間」で計算しなければなりません。
  • 変位と道のりの混同:
    • 誤解: (5)で原点に戻る問題を考える際に、v-tグラフの面積の「絶対値」を足してしまう。
    • 対策: 変位は向きを持つ量(ベクトル)です。v-tグラフでは、t軸より上の面積は正の変位、下の面積は負の変位を表します。原点に戻るということは、これらの代数和(符号を考慮した和)がゼロになるということです。
  • 二次方程式の解の吟味不足:
    • 誤解: (5)で二次方程式を解いた際に、出てきた2つの解のうち、どちらが物理的に正しいかを判断できない。
    • 対策: 時間は負の値を取り得ない(\(t>0\))、あるいは問題の状況から特定の時刻以降である(\(t_2 > 3T\))といった物理的な制約条件を確認し、それに合致する解を選択します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • グラフの重ね描き:
    • a-tグラフの下に、時間軸を揃えてv-tグラフを描き、さらにその下にx-tグラフを描く練習をすると、3つのグラフの関係性が視覚的に深く理解できます。
    • a-tグラフが一定値 → v-tグラフは直線 → x-tグラフは放物線
    • a-tグラフがゼロ → v-tグラフは水平線 → x-tグラフは直線
    • この対応関係をスムーズに連想できるようになることが目標です。
  • 面積の視覚的解釈:
    • (5)で原点に戻る条件は、「\(0 \le t \le t_1\) の間にt軸より上にできた山の面積」と、「\(t_1 \le t \le t_2\) の間にt軸より下にできる谷の面積」が等しくなる時刻 \(t_2\) を見つける問題だと視覚的に捉えることができます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 平均の速度・加速度の「定義式」:
    • 選定理由: (2), (3)では、運動が複数の区間に分かれており、単一の等加速度運動ではないため、便利な公式(例:\(\bar{v}=(v_0+v)/2\))は使えません。このような場合は、最も基本的で普遍的な「定義式」に立ち返るのが唯一の正しいアプローチです。
    • 適用根拠: \(\bar{v} = \Delta x / \Delta t\) と \(\bar{a} = \Delta v / \Delta t\) は、運動の種類によらず常に成り立つ、平均値の定義そのものです。
  • 等加速度運動の公式(\(v=v_0+at\), \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\)):
    • 選定理由: (4), (5)では、\(t \ge 3T\) という「加速度が一定(\(-2a\))」の区間内での運動を解析するため、等加速度運動の公式が適用できます。
    • 適用根拠: 各区間内では加速度が一定であるため、その区間に限定すれば公式が使えます。ただし、初速度や初期位置は、その区間が始まる直前の状態(\(t=3T\) のときの速度や位置)を正しく設定する必要があります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) v-tグラフ作成:
    • 戦略: a-tグラフの面積から速度変化を求め、区間ごとにプロットする。
    • フロー: ①区間1の\(\Delta v\)計算 → \(v(T)\)決定 → ②区間2の\(\Delta v\)計算 → \(v(3T)\)決定 → ③グラフ描画。
  2. (2) 平均の速度:
    • 戦略: v-tグラフの面積(総変位)を計算し、時間で割る。
    • フロー: ①v-tグラフの面積\(\Delta x\)を計算 → ②\(\bar{v} = \Delta x / (3T)\) を計算。
  3. (3) 平均の加速度:
    • 戦略: 総速度変化を計算し、時間で割る。
    • フロー: ①\(v(3T)\)と\(v(0)\)から\(\Delta v\)を計算 → ②\(\bar{a} = \Delta v / (3T)\) を計算。
  4. (4) 最も遠ざかる時刻:
    • 戦略: \(t \ge 3T\)の区間で\(v=0\)となる時刻を求める。
    • フロー: ①\(t=3T\)を初期状態として、\(t \ge 3T\)の運動方程式を立てる(\(v(t) = v(3T) + (-2a)(t-3T)\)) → ②\(v(t)=0\)として\(t\)を解く。
  5. (5) 原点に戻る時刻:
    • 戦略: \(t \ge 3T\)の区間で、\(t=3T\)までの変位を打ち消す負の変位が生じる時刻を求める。
    • フロー: ①\(t=3T\)までの変位\(\Delta x_1\)を計算 → ②\(t=3T\)を初期状態として、\(t \ge 3T\)の変位の式を立てる → ③変位が\(-\Delta x_1\)となる時刻を二次方程式を解いて求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字定数の整理: この問題では \(a\) や \(T\) といった文字定数が多く登場します。計算途中、これらの文字を消してしまわないように注意し、式の各項が何の物理量を表しているか意識しながら変形を進めましょう。
  • 二次方程式の解の公式: (5)のように、複雑な二次方程式を解く場面は入試でも頻出します。解の公式は正確に覚え、符号のミスなどに注意して慎重に計算しましょう。特にルートの中の計算は丁寧に行う必要があります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 大小関係の確認:
    • (2) 平均の速度 \(\frac{5}{6}aT\) は、最高速度 \(aT\) より小さいか? → YES. 妥当。
    • (4) 最も遠ざかる時刻 \(\frac{7}{2}T\) は、減速を始めた時刻 \(3T\) より後か? → YES. 妥当。
    • (5) 原点に戻る時刻 \(\frac{7+\sqrt{11}}{2}T\) は、最も遠ざかる時刻 \(\frac{7}{2}T\) より後か? → \(\sqrt{11}>0\) なので YES. 妥当。
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