基本問題
159 水平投射と力学的エネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)と(3)の別解: 運動の成分分解を用いる解法
- 模範解答が力学的エネルギー保存則という「エネルギー」の観点から一気に速さを求めるのに対し、別解では水平投射を「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の自由落下運動」という2つの運動に分解し、それぞれの運動の公式から各速度成分を計算し、最後に合成して速さを求めます。
- 設問(2)と(3)の別解: 運動の成分分解を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: エネルギーというスカラー量(向きのない量)で考えるアプローチと、速度というベクトル量(向きのある量)を成分に分解して考えるアプローチの違いと、両者が同じ結論に至る背景を理解することで、物理法則の普遍性に対する洞察が深まります。
- 解法の選択肢拡大: 速さだけを問われた場合はエネルギー保存則が効率的ですが、特定の地点に到達するまでの時間や、その地点での速度の向き(角度)なども問われた場合には、運動の成分分解によるアプローチが必要となります。両方の解法をマスターすることで、問題に応じて最適な手法を選択する力が養われます。
- 基礎の再確認: 運動の分解は力学の基本であり、この解法を通じて等速直線運動や等加速度直線運動の公式を再確認する良い機会となります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「水平投射における力学的エネルギー保存則の適用」です。物体が空中を運動する際に、その力学的エネルギーがどのように保たれるかを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体に働く力が保存力(この問題では重力)のみの場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
- 運動エネルギーの定義: 物体の運動の激しさを表すエネルギーで、\(K = \frac{1}{2}mv^2\) で計算されます。
- 重力による位置エネルギーの定義: 物体が基準の高さからどれだけ高い位置にあるかによって蓄えられるエネルギーで、\(U = mgh\) で計算されます。
- 水平投射の運動: 水平方向には力が働かないため等速直線運動、鉛直方向には重力のみが働くため自由落下運動となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、投げ出した瞬間の速さと高さが与えられているので、運動エネルギーと位置エネルギーの定義式にそれぞれの値を代入して計算します。
- (2)と(3)では、物体に働く力は重力のみで、空気抵抗は無視できるため、力学的エネルギーが保存されることを利用します。「運動の前後」で力学的エネルギー保存の式を立て、未知数である速さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
この設問は、力学的エネルギーを構成する「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の定義を正しく理解しているかを確認するものです。投げ出した瞬間の物体の状態(速さ \(v_0\)、高さ \(H\))を正確に把握し、それぞれの定義式に値を代入します。特に、位置エネルギーは基準面(この問題では地面)からの高さで決まる点に注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 運動エネルギーの公式は \(K = \frac{1}{2}mv^2\)。
- 重力による位置エネルギーの公式は \(U = mgh\)。
- 投げ出した瞬間の速さは \(v_0\)、基準面からの高さは \(H\)。
具体的な解説と立式
- 運動エネルギー \(K\) の計算
質量が \(m\)、速さが \(v_0\) なので、運動エネルギーの定義式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) に代入すると、
$$ K = \frac{1}{2}mv_0^2 $$ - 重力による位置エネルギー \(U\) の計算
質量が \(m\)、地面(基準)からの高さが \(H\) なので、重力による位置エネルギーの定義式 \(U = mgh\) に代入すると、
$$ U = mgH $$
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
この設問では、与えられた文字を公式に代入するだけなので、特別な計算過程はありません。
物体が持っているエネルギーには、動きの勢いを表す「運動エネルギー」と、高さによって蓄えられている「位置エネルギー」の2種類があります。この問題は、スタート地点である高さ \(H\) で、水平に \(v_0\) の速さで飛び出す瞬間の、これら2種類のエネルギーをそれぞれ公式に当てはめて計算するだけの、基本的な確認問題です。
投げ出した直後の運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\)、位置エネルギーは \(mgH\) となります。これらは、以降の設問で力学的エネルギー保存則を立てる際の「はじめのエネルギー」として使われます。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体が空中を運動している間、働く力は重力のみです(空気抵抗は無視)。重力は「保存力」と呼ばれる種類の力なので、物体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定に保たれます。この「力学的エネルギー保存則」を利用して、「投げ出した直後」と「高さ \(h\) の位置を通過するとき」の2つの時点でのエネルギーが等しいという式を立て、未知の速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則:
$$
\begin{aligned}
(\text{はじめの運動エネルギー}) &+ (\text{はじめの位置エネルギー}) \\[2.0ex]
= (\text{あとの運動エネルギー}) &+ (\text{あとの位置エネルギー})
\end{aligned}
$$ - 「はじめ」の状態: 高さ \(H\)、速さ \(v_0\)
- 「あと」の状態: 高さ \(h\)、速さ \(v\)(←これが求めたい量)
具体的な解説と立式
求める速さを \(v\,[\text{m/s}]\) とします。
- はじめ(投げ出した直後)の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\)
(1)で求めた通り、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\)、位置エネルギーは \(mgH\) です。
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgH $$ - あと(高さ \(h\) の位置)の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\)
速さが \(v\)、高さが \(h\) なので、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv^2\)、位置エネルギーは \(mgh\) です。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}mv^2 + mgh $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、以下の式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + mgH = \frac{1}{2}mv^2 + mgh \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
式①を \(v\) について解きます。
まず、式のすべての項に \(m\) が含まれているので、両辺を \(m\) で割って消去します。
$$ \frac{1}{2}v_0^2 + gH = \frac{1}{2}v^2 + gh $$
次に、分母の \(2\) をなくすために、両辺に \(2\) を掛けます。
$$ v_0^2 + 2gH = v^2 + 2gh $$
\(v^2\) について整理するために、\(2gh\) を左辺に移項します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= v_0^2 + 2gH – 2gh \\[2.0ex]
v^2 &= v_0^2 + 2g(H-h)
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正の値なので、両辺の平方根をとります。
$$ v = \sqrt{v_0^2 + 2g(H-h)} $$
物体が落ちていくとき、持っている「高さ」という財産(位置エネルギー)を、「速さ」という財産(運動エネルギー)に少しずつ両替していきます。このとき、空気抵抗などがなければ、エネルギーの総額(力学的エネルギー)は途中で減ったり増えたりしません。したがって、「スタート時のエネルギー総額」と「途中地点でのエネルギー総額」は等しくなります。この等式を立てることで、途中地点での速さを逆算することができます。
高さ \(h\) での速さは \(v = \sqrt{v_0^2 + 2g(H-h)}\) と求まりました。\(H>h\) なので \(H-h>0\) であり、ルートの中は必ず正になります。また、この式は、初速度 \(v_0\) が大きいほど、また落下した距離 \((H-h)\) が大きいほど、速さ \(v\) が大きくなることを示しており、物理的な直感と一致します。
思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則を使わずに、運動方程式(等加速度直線運動の公式)から解く方法です。水平投射は、「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の自由落下運動」という2つの独立した運動の組み合わせとして考えることができます。高さ \(h\) の地点での水平方向の速度成分 \(v_x\) と鉛直方向の速度成分 \(v_y\) をそれぞれ求め、三平方の定理を使って合成することで、物体の速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の運動: 力が働かないので、速さは常に \(v_0\) で一定。
- 鉛直方向の運動: 重力のみが働くので、初速度 \(0\)、加速度 \(g\) の自由落下運動。
- 高さ \(h\) の地点までの落下距離は \((H-h)\)。
- 速さの合成: \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)。
具体的な解説と立式
- 水平方向の速度成分 \(v_x\)
水平方向には力が働かないため、速度は常に一定です。
$$ v_x = v_0 $$ - 鉛直方向の速度成分 \(v_y\)
鉛直方向は自由落下運動です。投げ出した点を基準に、鉛直下向きを正とします。
落下距離が \(y = H-h\) のときの速さ \(v_y\) を、時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いて求めます。
初速度 \(v_{0y}=0\)、加速度 \(a=g\)、変位 \(y=H-h\) を代入すると、
$$ v_y^2 – 0^2 = 2g(H-h) $$
したがって、
$$ v_y^2 = 2g(H-h) $$ - 速度の合成
物体の速さ \(v\) は、水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) の合成速度の大きさなので、三平方の定理より、
$$ v^2 = v_x^2 + v_y^2 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
- 三平方の定理
上記の \(v^2 = v_x^2 + v_y^2\) の式に、求めた \(v_x\) と \(v_y^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= v_0^2 + 2g(H-h)
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正なので、
$$ v = \sqrt{v_0^2 + 2g(H-h)} $$
物体の斜め方向の運動を、単純な「真横の動き」と「真下の動き」に分解して考えます。真横のスピードはずっと変わりません。真下のスピードは、重力に引かれてどんどん速くなります。ある高さの地点での「真横の速さ」と「真下の速さ」が分かれば、数学のピタゴラスの定理(三平方の定理)を使って、実際の斜め方向の速さを計算することができます。
主たる解法である力学的エネルギー保存則を用いた場合と、完全に同じ結果が得られました。これは、力学的エネルギー保存則が運動方程式から導かれるものであることを示唆しています。異なる物理法則から同じ結論が導かれることは、その法則の正しさを裏付ける良い例です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)と全く同じ考え方で解くことができます。力学的エネルギー保存則を、「投げ出した直後」と「地面に達する直前」の2つの時点で適用します。地面は位置エネルギーの基準なので、高さは \(0\) となります。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則を用いる。
- 「はじめ」の状態: 高さ \(H\)、速さ \(v_0\)
- 「あと」の状態: 高さ \(0\)、速さ \(v’\)(←これが求めたい量)
具体的な解説と立式
求める速さを \(v’\,[\text{m/s}]\) とします。
- はじめ(投げ出した直後)の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\)
(2)と同様です。
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgH $$ - あと(地面に達する直前)の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\)
速さが \(v’\)、高さが \(0\) なので、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}m(v’)^2\)、位置エネルギーは \(mg \times 0 = 0\) です。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}m(v’)^2 + 0 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、以下の式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + mgH = \frac{1}{2}m(v’)^2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
式②を \(v’\) について解きます。
まず、両辺を \(m\) で割って消去します。
$$ \frac{1}{2}v_0^2 + gH = \frac{1}{2}(v’)^2 $$
次に、両辺に \(2\) を掛けます。
$$ v_0^2 + 2gH = (v’)^2 $$
速さ \(v’\) は正の値なので、両辺の平方根をとります。
$$ v’ = \sqrt{v_0^2 + 2gH} $$
(2)と考え方は同じです。今度はゴール地点である地面での速さを求めます。スタート時に持っていた「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の合計金額が、地面に着くときにはすべて「運動エネルギー」という財産に両替された、と考えます。このエネルギーの収支計算から、地面での速さを求めることができます。
地面に達する直前の速さは \(v’ = \sqrt{v_0^2 + 2gH}\) と求まりました。この結果は、(2)で求めた式 \(v = \sqrt{v_0^2 + 2g(H-h)}\) に \(h=0\) を代入したものと一致しており、計算の整合性が取れています。
思考の道筋とポイント
(2)の別解と同様に、運動を水平方向と鉛直方向に分解して考えます。地面に達する直前の水平方向の速度成分 \(v_x\) と鉛直方向の速度成分 \(v_y\) を求め、三平方の定理で合成します。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の運動: 速さは常に \(v_0\) で一定。
- 鉛直方向の運動: 初速度 \(0\)、加速度 \(g\) の自由落下運動。
- 地面までの落下距離は \(H\)。
- 速さの合成: \(v’ = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)。
具体的な解説と立式
- 水平方向の速度成分 \(v_x\)
$$ v_x = v_0 $$ - 鉛直方向の速度成分 \(v_y\)
鉛直方向の落下距離が \(y = H\) のときの速さ \(v_y\) を、時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いて求めます。
初速度 \(v_{0y}=0\)、加速度 \(a=g\)、変位 \(y=H\) を代入すると、
$$ v_y^2 – 0^2 = 2gH $$
したがって、
$$ v_y^2 = 2gH $$ - 速度の合成
物体の速さ \(v’\) は、水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) の合成速度の大きさなので、三平方の定理より、
$$ (v’)^2 = v_x^2 + v_y^2 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
- 三平方の定理
上記の \((v’)^2 = v_x^2 + v_y^2\) の式に、求めた \(v_x\) と \(v_y^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
(v’)^2 &= v_0^2 + 2gH
\end{aligned}
$$
速さ \(v’\) は正なので、
$$ v’ = \sqrt{v_0^2 + 2gH} $$
(2)の別解と考え方は同じです。地面にたどり着くまでに落ちた距離は \(H\) なので、その分だけ下向きのスピードが最大限に上がっています。地面に着く瞬間の「真横の速さ」と「真下の速さ」から、三平方の定理を使って、最終的な全体の速さを計算します。
主たる解法である力学的エネルギー保存則を用いた場合と、完全に同じ結果が得られました。どちらのアプローチでも解けるようにしておくことが重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則
- 核心: この問題の根幹は、物体に働く力が重力(保存力)のみである場合に、運動のどの時点においても「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の和が一定に保たれるという法則を理解し、適用することです。
- 理解のポイント:
- 保存力とは: 物体がどのような経路を通っても、その力がする仕事が始点と終点の位置だけで決まる力のことです(例:重力、弾性力)。摩擦力や空気抵抗のように、経路によって仕事が変わる力(非保存力)が働かない限り、力学的エネルギーは保存されます。
- エネルギーの変換: 物体が落下するにつれて、高さが減少することで「位置エネルギー」が減少し、その減少した分だけ速さが増加して「運動エネルギー」が増加します。力学的エネルギー保存則は、このエネルギーの「形態変換」における収支計算のルールと言えます。
- 基準点の重要性: 位置エネルギーを計算するには、どこを高さの基準(\(h=0\))にするかを最初に決める必要があります。この問題では地面を基準としていますが、どこを基準に選んでも、高さの「差」が重要なので最終的な答えは変わりません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射: 初速度が斜め上向きの場合でも、空気抵抗を無視すれば働く力は重力のみなので、力学的エネルギー保存則がそのまま適用できます。最高点での速さや、特定の高さでの速さを求める問題で有効です。
- 振り子の運動: 糸の張力は常に物体の運動方向と垂直なので仕事をしません。したがって、重力のみが仕事をするため、振り子の運動でも力学的エネルギーは保存されます。最下点での速さや、ある角度での速さを求める問題に応用できます。
- なめらかな曲面上の運動: 物体がなめらかな曲面上を滑り落ちる場合、垂直抗力は常に運動方向と垂直なので仕事をしません。これも重力のみが仕事をする状況なので、力学的エネルギー保存則が使えます。ジェットコースターのモデルなどが典型例です。
- 初見の問題での着眼点:
- まず、物体に働く力をすべて図示する: 問題を読んだら、物体に働く力を考えます。重力、張力、垂直抗力、摩擦力など、何が働いているかを確認します。
- 非保存力が仕事をするか確認する: 図示した力の中に、摩擦力や空気抵抗などの「非保存力」が含まれているか、またそれらが仕事をしているかを確認します。
- 仕事をしていない場合 → 力学的エネルギー保存則が使える可能性が高いです。
- 仕事をしている場合 → エネルギー保存則は使えず、「仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理)」、つまり \((あとの力学的エネルギー)-(はじめの力学的エネルギー)=(非保存力がした仕事)\) という式を立てる必要があります。
- エネルギー保存則を使うと決めたら、比較する2つの時点を選ぶ:
- 通常は、情報が最も多く与えられている「はじめ」の状態と、求めたい物理量を含む「あと」の状態を選びます。
- 位置エネルギーの基準点を設定する: 計算が最も簡単になるように、基準点(高さ \(0\) の点)を決めます。通常は、地面や運動の最下点を基準にすることが多いです。
- 各時点でのエネルギーを立式し、等式で結ぶ: 選んだ2つの時点について、運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) と位置エネルギー \(mgh\) をそれぞれ式で表し、「はじめの合計エネルギー = あとの合計エネルギー」という式を立てて解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動エネルギーの速さ \(v\) を特定の成分だけで計算してしまう:
- 誤解: 水平投射なので、運動エネルギーを水平方向の速さ \(v_x\) だけで \(\frac{1}{2}mv_x^2\) と計算したり、鉛直方向の速さ \(v_y\) だけで \(\frac{1}{2}mv_y^2\) と計算してしまう。
- 対策: 運動エネルギーの公式における速さ \(v\) は、物体の「速さ」、つまり合成速度の大きさです。水平成分と鉛直成分の両方を考慮した速さ \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) を使う必要があります。力学的エネルギー保存則は、運動を成分に分解せずに全体のエネルギーを直接扱えるのが利点なので、速さも全体の速さを用いると意識しましょう。
- 位置エネルギーの高さを落下距離と混同する:
- 誤解: 高さ \(h\) の地点での位置エネルギーを、投げ出した点からの落下距離 \((H-h)\) を使って \(mg(H-h)\) と計算してしまう。
- 対策: 位置エネルギーは、必ず「基準点からの高さ」で決まります。問題文で「地面を基準とする」と指定されているので、常に地面からの高さ(この場合は \(h\))を使って \(mgh\) と計算する癖をつけましょう。
- 力学的エネルギーが常に保存されると思い込む:
- 誤解: どんな運動でも力学的エネルギーは保存されると考えてしまう。
- 対策: 力学的エネルギーが保存されるのは、「保存力以外の力が仕事をしない」という厳しい条件が満たされる場合のみです。問題文に「なめらかな」や「空気抵抗は無視する」といった記述があるかを確認し、摩擦力や空気抵抗が働く場合はエネルギー保存則は使えない(または、仕事とエネルギーの関係式に修正される)ことを理解しておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(運動エネルギーと位置エネルギーの定義式):
- 選定理由: 求めたいものが「運動エネルギー」と「位置エネルギー」そのものです。したがって、それぞれの定義式である \(K = \frac{1}{2}mv^2\) と \(U = mgh\) を使うのは当然の選択です。
- 適用根拠: 問題文で、投げ出した瞬間の速さ \(v_0\) と高さ \(H\) が与えられているため、これらの値を定義式に代入するだけで答えが求まります。
- (2), (3)での公式選択(力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 求めたいのは途中の「速さ」であり、そこに至るまでの「時間」や「加速度」は問われていません。このように、運動の途中経過を問わず、始点と終点の状態(速さや高さ)だけを結びつけたい場合に、力学的エネルギー保存則は非常に強力なツールとなります。運動方程式を立てて時間や加速度を計算するよりも、はるかに少ない計算で速さを求めることができます。
- 適用根拠: 物体が空中を運動する際、働く力は重力のみです(空気抵抗は無視)。重力は保存力なので、力学的エネルギー保存則を適用できる物理的な条件が満たされています。したがって、「投げ出した直後」と「任意の高さ \(h\)(または地面)」という2つの時点の力学的エネルギーが等しい、という関係式を立てることが論理的に正当化されます。
- 別解でのアプローチ選択(運動の成分分解と等加速度運動の公式):
- 選定理由: 力学的エネルギーという「エネルギー」の観点ではなく、運動そのものを「速度」や「加速度」という力学的な量で直接記述する方法です。これは、放物運動を解析する際の最も基本的なアプローチであり、物理現象をより直接的に追跡する方法と言えます。
- 適用根拠: 水平投射は、水平方向には力が働かない「等速直線運動」と、鉛直方向には重力のみが働く「自由落下運動(等加速度直線運動)」に分解できる、という物理的な事実に基づいています。それぞれの方向について独立に運動の公式を適用し、得られた速度成分をベクトル的に合成することで、全体の速さを求めることができます。この方法は、エネルギー保存則が使えないような複雑な問題(例:空気抵抗がある場合)にも拡張できる、より基本的な考え方です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式を立ててから文字で整理する:
- \(\frac{1}{2}mv_0^2 + mgH = \frac{1}{2}mv^2 + mgh\) のように、まずは文字式のまま立てます。
- 計算を始める前に、両辺の \(m\) を消去したり、両辺を \(2\) 倍したりして、式をできるだけ簡単な形に整理してから、\(v^2 = \dots\) の形に変形しましょう。この一手間で、計算の見通しが格段に良くなります。
- 二乗の外し忘れに注意する:
- エネルギーの式は \(v^2\) の形で出てくることが多いです。最後に \(v^2 = v_0^2 + 2g(H-h)\) と求まった後、答えとして \(v\) を求めるために平方根をとるのを忘れないようにしましょう。「速さ」を問われているのか、「速さの2乗」を問われているのかを常に意識することが大切です。
- 単位を意識する:
- エネルギーの単位は \([\text{J}]\) です。\(1\,\text{J} = 1\,\text{kg} \cdot (\text{m/s})^2\) なので、\(\frac{1}{2}mv^2\) の単位が \([\text{kg} \cdot (\text{m/s})^2]\) となっており、エネルギーの単位と一致することを確認する癖をつけると、公式の覚え間違いなどに気づきやすくなります。
- 物理的にありえない値でないか吟味する:
- (2)で求めた速さ \(v\) は、(3)で求めた地面での速さ \(v’\) よりも小さくなっているはずです(\(v^2 = v_0^2 + 2g(H-h)\) と \((v’)^2 = v_0^2 + 2gH\) を比較すると、\(H>h\) なので \((v’)^2 > v^2\) となり、正しいことがわかります)。
- また、もし初速度 \(v_0=0\) であれば、\(v = \sqrt{2g(H-h)}\) となり、これは自由落下の公式と一致します。このように、極端な場合を考えてみることで、式の妥当性を検証できます。
- 別解で検算する:
- この問題のように、エネルギー保存則と運動の公式という全く異なる2つのアプローチで解ける問題は、検算に最適です。もし両者の答えが一致しなければ、どちらかの考え方か計算過程に間違いがあることがすぐにわかります。試験本番でも、時間があれば別解で確かめることで、解答の信頼性を大幅に高めることができます。
160 振り子のエネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「釘がある場合の振り子の運動と力学的エネルギー」です。振り子の運動中に支点や半径が変わる複雑な状況でも、力学的エネルギー保存則が依然として有効であることを理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体に働く力のうち、仕事をするのが重力や弾性力などの保存力のみの場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
- 仕事の定義(力が仕事をする条件): 糸の張力のように、常に物体の運動方向と垂直な力は仕事をしません。このため、振り子の運動では力学的エネルギーが保存されます。
- 円運動における位置エネルギーの計算: 振り子の位置エネルギーを計算する際は、基準点からの高さを三角関数(特に \(\cos\))を用いて正しく求める必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、おもりをはなした点と最下点との間で力学的エネルギー保存則を適用し、最下点での速さを求めます。
- (2)では、最下点を過ぎて糸が釘に引っかかった後も、力学的エネルギーは保存され続けることを利用します。はなした点と、釘に引っかかった後の指定された角度の点との間でエネルギー保存則を立て、その点の速さを求めます。
- (3)では、エネルギー保存則から、おもりが到達できる最高点の高さは、はなした点と同じ高さであることを利用します。その高さになる幾何学的な条件から、糸と鉛直方向がなす角度を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
振り子の運動では、糸の張力は常におもりの運動方向と垂直に働きます。したがって、張力は仕事をしません。仕事をするのは保存力である重力のみなので、おもりの力学的エネルギーは保存されます。
この問題では、「静かにはなした点」と「最下点」の2つの状態で力学的エネルギー保存則の式を立てます。そのためにはまず、位置エネルギーの基準点を決め、はなした点の高さを計算する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの基準を最下点とする。
- はなした点の状態: 速さ \(v_0=0\)、高さ \(h_1\)。
- 最下点の状態: 速さ \(v_1\)(求めたい量)、高さ \(0\)。
- はなした点の高さ \(h_1\) は、振り子の長さ \(L\) と角度 \(\theta\) から \(h_1 = L(1-\cos\theta)\) で計算できる。
具体的な解説と立式
最下点を重力による位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。
おもりをはなした点の、最下点からの高さを \(h_1\) とします。図より、振り子の長さは \(L=0.40\,\text{m}\)、なす角は \(60^\circ\) なので、
$$
\begin{aligned}
h_1 &= 0.40 – 0.40\cos 60^\circ
\end{aligned}
$$
おもりの質量を \(m\)、最下点での速さを \(v_1\) とします。
- はじめ(はなした点)の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\):
速さは \(0\) なので運動エネルギーは \(0\)。位置エネルギーは \(mgh_1\)。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{初}} &= 0 + mgh_1
\end{aligned}
$$ - あと(最下点)の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):
速さは \(v_1\) なので運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_1^2\)。高さは \(0\) なので位置エネルギーは \(0\)。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= \frac{1}{2}mv_1^2 + 0
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$
\begin{aligned}
mgh_1 &= \frac{1}{2}mv_1^2
\end{aligned}
$$
これに \(h_1\) の式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
mg(0.40 – 0.40\cos 60^\circ) &= \frac{1}{2}mv_1^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
- 運動エネルギー: \(K=\frac{1}{2}mv^2\)
- 位置エネルギー: \(U=mgh\)
まず、はなした点の高さ \(h_1\) を計算します。\(\cos 60^\circ = 0.5\) なので、
$$
\begin{aligned}
h_1 &= 0.40 – 0.40 \times 0.5 \\[2.0ex]
&= 0.40 – 0.20 \\[2.0ex]
&= 0.20\,\text{m}
\end{aligned}
$$
この値をエネルギー保存の式 \(mgh_1 = \frac{1}{2}mv_1^2\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
mg \times 0.20 &= \frac{1}{2}mv_1^2
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(v_1^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_1^2 &= 2 \times g \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 2 \times 9.8 \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 3.92
\end{aligned}
$$
\(v_1 > 0\) なので、平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= \sqrt{3.92} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1.96 \times 2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1.4^2 \times 2} \\[2.0ex]
&= 1.4\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字に合わせて \(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &\approx 1.4 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 1.974
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、
$$
\begin{aligned}
v_1 &\approx 2.0\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
おもりはスタート地点で「高さ \(0.20\,\text{m}\) 分」の位置エネルギーを持っています。ブランコが一番下まで下りてくると、この高さのエネルギーがすべてスピードのエネルギー(運動エネルギー)に変わります。このエネルギーの変換式を立てて、一番下での速さを計算します。
最下点に達したときの速さは \(2.0\,\text{m/s}\) と求まりました。計算過程も物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
おもりが最下点を過ぎて糸が釘に引っかかっても、張力の向きが変わるだけで、仕事をするのは依然として重力のみです。したがって、力学的エネルギーは保存され続けます。
比較する2つの時点は、(1)と同様に「静かにはなした点」と、今度は「釘に引っかかった後、鉛直方向と \(60^\circ\) の角をなす点」とします。釘に引っかかった後の振り子の運動は、釘が新しい支点となり、半径も短くなることに注意して、新しい状態での高さを最下点を基準として正しく計算することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 釘に引っかかった後も、力学的エネルギーは保存される。
- 釘に引っかかった後の振り子の支点は釘の位置、半径は \(L’ = 0.40 – 0.20 = 0.20\,\text{m}\)。
- 「はじめ」の状態: (1)と同じ。速さ \(0\)、高さ \(h_1 = 0.20\,\text{m}\)。
- 「あと」の状態: 速さ \(v_2\)(求めたい量)、高さ \(h_2\)。
- 高さ \(h_2\) を、最下点を基準として計算する。
具体的な解説と立式
最下点を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。
釘に引っかかった後の振り子の半径は \(L’ = 0.40 – 0.20 = 0.20\,\text{m}\) となります。
この新しい振り子が鉛直方向となす角が \(60^\circ\) となったときの、最下点からの高さを \(h_2\) とします。新しい支点である釘は最下点より \(0.20\,\text{m}\) 上にあります。図より、このときのおもりは釘から見て鉛直下方より \(L’\cos 60^\circ\) だけ下にあります。したがって、最下点からの高さ \(h_2\) は、
$$
\begin{aligned}
h_2 &= 0.20 – L’\cos 60^\circ \\[2.0ex]
&= 0.20 – 0.20\cos 60^\circ
\end{aligned}
$$
この点での速さを \(v_2\) とします。
力学的エネルギー保存則を、「はなした点」と「この点」とで立てます。
- はじめ(はなした点)の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\):
(1)と同じで、\(E_{\text{初}} = mg \times 0.20\)。 - あと(釘に引っかかり角度 \(60^\circ\) の点)の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):
運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_2^2\)、位置エネルギーは \(mgh_2\)。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= \frac{1}{2}mv_2^2 + mgh_2
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$
\begin{aligned}
mg \times 0.20 &= \frac{1}{2}mv_2^2 + mg(0.20 – 0.20\cos 60^\circ)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
まず、高さ \(h_2\) を計算します。\(\cos 60^\circ = 0.5\) なので、
$$
\begin{aligned}
h_2 &= 0.20 – 0.20 \times 0.5 \\[2.0ex]
&= 0.20 – 0.10 \\[2.0ex]
&= 0.10\,\text{m}
\end{aligned}
$$
この値をエネルギー保存の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
mg \times 0.20 &= \frac{1}{2}mv_2^2 + mg \times 0.10
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(\frac{1}{2}v_2^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v_2^2 &= g \times 0.20 – g \times 0.10 \\[2.0ex]
&= g(0.20 – 0.10) \\[2.0ex]
&= g \times 0.10
\end{aligned}
$$
\(v_2^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_2^2 &= 2 \times g \times 0.10 \\[2.0ex]
&= 2 \times 9.8 \times 0.10 \\[2.0ex]
&= 1.96
\end{aligned}
$$
\(v_2 > 0\) なので、平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v_2 &= \sqrt{1.96} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1.4^2} \\[2.0ex]
&= 1.4\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
ブランコが途中で短い鎖に引っかかっても、持っているエネルギーの総量は変わりません。スタート地点のエネルギーと、短いブランコになってから角度が \(60^\circ\) になったときのエネルギーが等しい、という式を立てます。このとき、短いブランコになった分、高さの計算が少し複雑になりますが、考え方は同じです。
速さは \(1.4\,\text{m/s}\) と求まりました。(1)の最下点での速さ \(2.0\,\text{m/s}\) よりも遅くなっています。これは、おもりが再び高い位置に上がったことで、運動エネルギーの一部が位置エネルギーに変換されたためであり、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
おもりが最高点に達したとき、その速さは一瞬 \(0\) になります。力学的エネルギーが保存されるため、最高点の高さは、はじめに静かにはなした点と同じ高さになるはずです。
釘に引っかかった後の短い振り子(半径 \(L’ = 0.20\,\text{m}\))が、どの角度になったときにその高さに達するかを幾何学的に考えます。
この設問における重要なポイント
- 最高点では速さが \(0\)。
- エネルギー保存則より、最高点の高さ \(h_{\text{最大}}\) は、はなした点の高さ \(h_1\) と等しい。
- \(h_{\text{最大}} = h_1 = 0.20\,\text{m}\)。
- 半径 \(L’ = 0.20\,\text{m}\) の振り子が、最下点から \(0.20\,\text{m}\) の高さに達する状況を考える。
具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則により、非保存力が仕事をしない限り、物体は運動を始めたときと同じ高さまでしか上がることができません。
はなした点の高さは、(1)で計算したように最下点を基準として \(h_1 = 0.20\,\text{m}\) でした。
したがって、釘に引っかかった後におもりが達する最高点の高さも、最下点を基準として \(0.20\,\text{m}\) となります。
一方、釘に引っかかった後の振り子の支点は釘の位置であり、その半径は \(L’ = 0.20\,\text{m}\) です。
釘の位置は、最下点から \(0.20\,\text{m}\) の高さにあります。
つまり、おもりは支点である釘と同じ高さまで上昇することになります。これは、振り子の糸が水平になった状態に対応します。
したがって、糸と鉛直方向とのなす角は \(90^\circ\) となります。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
計算で確認することもできます。最高点での速さを \(v_3=0\)、そのときの糸と鉛直方向のなす角を \(\theta\) とします。
最高点の高さ \(h_3\) は、はなした点の高さ \(h_1\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
h_3 &= h_1 \\[2.0ex]
&= 0.20\,\text{m}
\end{aligned}
$$
一方、角度 \(\theta\) のときの高さ \(h_3\) は、(2)と同様に考えると、新しい支点(釘)からの高さの関係で決まります。
$$
\begin{aligned}
h_3 &= 0.20 – L’\cos\theta \\[2.0ex]
&= 0.20 – 0.20\cos\theta
\end{aligned}
$$
この2つの式が等しいとおくと、
$$
\begin{aligned}
0.20 &= 0.20 – 0.20\cos\theta \\[2.0ex]
0 &= -0.20\cos\theta \\[2.0ex]
\cos\theta &= 0
\end{aligned}
$$
\(\cos\theta = 0\) となるのは、\(\theta = 90^\circ\) のときです。
エネルギーは保存されるので、おもりはスタートしたときと全く同じ高さまでしか上がれません。スタート地点の高さは \(0.20\,\text{m}\) でした。釘に引っかかった後の短いブランコ(長さ \(0.20\,\text{m}\) で、支点の高さが \(0.20\,\text{m}\))が、地面から見て高さ \(0.20\,\text{m}\) に達するのは、ちょうど糸が真横(水平)になったときです。したがって、垂直な線からの角度は \(90^\circ\) になります。
おもりが最高点に達したとき、糸と鉛直方向とのなす角は \(90^\circ\) と求まりました。半径 \(0.20\,\text{m}\) の振り子が、支点と同じ高さまで上がるという結果は、幾何学的にもエネルギー保存則からも妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則
- 核心: この問題の根幹は、振り子の運動において糸の張力が仕事をしないため、重力のみが仕事をする状況を理解し、力学的エネルギー保存則を適用することです。特に、途中で釘に引っかかって運動の軌道(円の半径や中心)が変化しても、非保存力が仕事をしない限り、エネルギーは一貫して保存され続けるという点が重要です。
- 理解のポイント:
- 張力が仕事をしない理由: 糸の張力は、常におもりの運動方向(円の接線方向)に対して垂直に働きます。仕事の定義は「力の運動方向成分 × 距離」なので、運動方向の成分が常にゼロである張力は、仕事をしません。
- 釘の役割: 釘は、おもりに瞬間的に力を及ぼして運動の支点を変えるだけで、この過程でエネルギーの増減はありません。したがって、釘に引っかかる前後で力学的エネルギーは保存されます。
- エネルギー保存の威力: 運動方程式では解くのが困難な、軌道が変化する複雑な運動でも、エネルギーというスカラー量に着目することで、始点と終点の関係をシンプルに記述できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ジェットコースターの問題: なめらかなレール上を走るジェットコースターが、ループを回ったり丘を越えたりする運動。垂直抗力が仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されます。
- 斜面と円筒面を組み合わせた運動: なめらかな斜面を滑り降りた物体が、そのまま円筒面の内側を運動するような問題。この場合も垂直抗力が仕事をしないため、エネルギー保存則が有効です。
- ばね振り子: おもりがばねで吊るされて振動する場合。重力と弾性力の両方が保存力なので、この2つの位置エネルギーと運動エネルギーの和が保存されます。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは働く力をすべて図示する: 重力、張力、垂直抗力、摩擦力などを漏れなく書き出します。
- 非保存力が仕事をするか確認する: 摩擦力や空気抵抗など、エネルギーを散逸させる力がないかを確認します。「なめらかな」という記述は、摩擦を無視できるサインです。
- エネルギー保存則が使えると判断したら、基準点を設定する: 位置エネルギーの計算を簡単にするため、運動の最下点など、都合の良い場所を高さ \(0\) の基準点に設定します。
- 比較する「はじめ」と「あと」の2つの状態を明確にする: 速度や高さが分かっている状態(多くはスタート地点)と、求めたい量を含む状態を選びます。
- 各状態の「高さ」を正確に求める: 特に振り子や円運動では、図形的な関係(三角比など)を使って、基準点からの高さを間違えずに計算することが最も重要です。支点が変わる場合は特に注意が必要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 高さの計算ミス:
- 誤解: 振り子の高さを、糸の長さそのものや、鉛直からの角度だけで考えてしまう。特に(2)のように支点が変わると、どこからの高さなのか混乱しやすい。
- 対策: 必ず図を丁寧に描き、基準点(最下点など)と支点の位置関係を明確にしましょう。そして、求めたい点の高さが、\((支点の高さ) ± (支点からの鉛直距離)\) のように、どの部分の足し算・引き算で求まるのかを視覚的に確認します。三角関数 \(\cos\theta\) がどの部分に対応するのかを正確に把握することが不可欠です。
- 釘に引っかかった後の半径を間違える:
- 誤解: 釘に引っかかった後も、元の振り子の長さ \(0.40\,\text{m}\) を使って計算してしまう。
- 対策: 運動の状況が変わった点を問題文と図でしっかり確認し、新しい運動のパラメータ(この場合は支点と半径)を最初に確定させる癖をつけましょう。
- エネルギーが保存されると思い込む:
- 誤解: 釘に糸が「衝突」するのだから、エネルギーは失われるのではないかと考えてしまう。
- 対策: 釘がおもりに直接力を及ぼすわけではなく、糸を介して運動の拘束条件を変えているだけです。おもり自体に非保存力が仕事をするわけではないので、エネルギーは保存されると理解しましょう。もし問題に「釘との衝突でエネルギーが失われた」などの記述があれば、その指示に従います。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- この問題での公式選択(力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 求めたいのは各時点での「速さ」や「角度(最高点)」であり、そこに至るまでの時間や、各瞬間の加速度・張力の大きさではありません。このように、運動の途中経過を飛ばして、2つの状態間の関係だけを知りたい場合に、エネルギー保存則は最も強力かつ効率的な手段です。
- 適用根拠: 先述の通り、この問題では仕事をする力が保存力である重力のみです。糸の張力は仕事をせず、釘もエネルギーを奪いません。この物理的な条件が、力学的エネルギー保存則を適用する絶対的な根拠となります。逆に、運動方程式 \(ma=F\) を立てようとすると、力の大きさが角度によって変化するため加速度が一定ではなく、高校数学の範囲では積分計算が必要となり、現実的ではありません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式で整理してから数値を代入する:
- 例えば(2)では、\(mg h_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + mg h_2\) という式を立てた後、まず両辺の \(m\) を消去して \(g h_1 = \frac{1}{2}v_2^2 + g h_2\) と整理します。ここから \(\frac{1}{2}v_2^2 = g(h_1 – h_2)\) と変形し、最後に \(h_1=0.20\), \(h_2=0.10\) を代入する方が、計算の見通しが良くなり、ミスを減らせます。
- 平方根の計算を丁寧に行う:
- (1)の \(v_1 = \sqrt{3.92}\) のような計算では、焦って電卓に頼りたくなりますが、\(3.92 = 2 \times 1.96 = 2 \times 1.4^2\) のように、既知の平方数を見つけ出す練習を日頃から行いましょう。これにより、計算の精度と速度が向上します。
- 図を描いて幾何学的関係を確認する:
- 特に高さの計算では、フリーハンドでも良いので図を描き、どこが \(L\) でどこが \(L\cos\theta\) なのかを書き込むことで、ケアレスミスを大幅に防げます。(2)や(3)のように状況が変化する場合は、その都度新しい図を描くのが効果的です。
- 単位の確認:
- エネルギー保存則の各項(\(mgh\) や \(\frac{1}{2}mv^2\))が、すべてエネルギーの単位 \([\text{J}]\) になっているかを確認する癖をつけましょう。もし単位が合わなければ、公式の覚え間違いや式の立て方がおかしい可能性があります。
161 ジェットコースター
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「なめらかな面上を運動する物体の力学的エネルギー保存」です。ジェットコースターの運動を題材に、垂直抗力が仕事をしないため、経路によらず力学的エネルギーが保存されることを理解する典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体に働く力が重力や弾性力などの保存力のみの場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
- 仕事とエネルギーの関係: 物体に働く力の合力がした仕事は、物体の運動エネルギーの変化に等しいです。
- 垂直抗力が仕事をしないこと: 垂直抗力は常に運動方向と垂直に働くため、仕事をしません。したがって、面がなめらかな場合、仕事をするのは重力のみとなり、力学的エネルギーが保存されます。
- 運動エネルギーと位置エネルギー: 運動エネルギーは \(K = \frac{1}{2}mv^2\)、重力による位置エネルギーは \(U = mgh\) で定義されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点Aと点Bの2点間で力学的エネルギー保存則の式を立てます。点Aを位置エネルギーの基準とし、点Bの高さを正しく求めて式に代入することで、点Bでの速さを計算します。
- (2)では、点Aと最高点Cの2点間で力学的エネルギー保存則の式を立てます。最高点では速さが \(0\) になることを利用して、到達する高さを計算します。
- (3)では、力学的エネルギー保存則が成り立つ条件に立ち返り、途中の経路(円形レールの有無)が最高点の高さに影響を与えるかどうかを考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
面はすべてなめらかなので、台車に働く垂直抗力は仕事をしません。仕事をするのは保存力である重力のみなので、台車の力学的エネルギーは保存されます。
点Aと最高点Bの2つの状態で力学的エネルギー保存則の式を立てます。そのためには、位置エネルギーの基準点を決め、各点での速さと高さを整理することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの基準を点Aが通る水平面とする。
- 点Aの状態: 速さ \(v_A = 14\,\text{m/s}\)、高さ \(h_A = 0\)。
- 点Bの状態: 速さ \(v_B\)(求めたい量)、高さ \(h_B = 7.5\,\text{m}\)(円の直径)。
- 台車の質量を \(m\) とおくが、最終的に計算過程で消去される。
具体的な解説と立式
点Aを含む水平面を、重力による位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。
台車の質量を \(m\)、点Bにおける速さを \(v\) とします。
- 点Aでの力学的エネルギー \(E_A\):
速さは \(14\,\text{m/s}\)、高さは \(0\) なので、
$$
\begin{aligned}
E_A &= \frac{1}{2}m \times 14^2 + mg \times 0
\end{aligned}
$$ - 点Bでの力学的エネルギー \(E_B\):
速さは \(v\)、高さは円の直径である \(7.5\,\text{m}\) なので、
$$
\begin{aligned}
E_B &= \frac{1}{2}mv^2 + mg \times 7.5
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_A = E_B\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m \times 14^2 &= \frac{1}{2}mv^2 + mg \times 7.5
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_A + U_A = K_B + U_B\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
立てたエネルギー保存の式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m \times 14^2 &= \frac{1}{2}mv^2 + mg \times 7.5
\end{aligned}
$$
まず、すべての項に \(m\) が含まれているので、両辺を \(m\) で割って消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times 14^2 &= \frac{1}{2}v^2 + g \times 7.5
\end{aligned}
$$
数値を代入して計算します。\(14^2 = 196\)、\(g=9.8\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times 196 &= \frac{1}{2}v^2 + 9.8 \times 7.5 \\[2.0ex]
98 &= \frac{1}{2}v^2 + 73.5
\end{aligned}
$$
\(\frac{1}{2}v^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v^2 &= 98 – 73.5 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}v^2 &= 24.5
\end{aligned}
$$
\(v^2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2 \times 24.5 \\[2.0ex]
v^2 &= 49
\end{aligned}
$$
\(v > 0\) なので、平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v &= 7.0\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
ジェットコースターが持っている「速さのエネルギー(運動エネルギー)」と「高さのエネルギー(位置エネルギー)」の合計金額は、コースがなめらかなら常に一定です。スタート地点Aでのエネルギー総額と、一番高い円のてっぺんBでのエネルギー総額が等しい、という式を立てます。A地点では高さがゼロなので、持っているのは速さのエネルギーだけです。B地点では、速さのエネルギーと高さのエネルギーの両方を持っています。このエネルギーの収支計算から、B地点での速さを求めることができます。
最高点Bでの速さは \(7.0\,\text{m/s}\) と求まりました。スタート地点Aの \(14\,\text{m/s}\) よりも遅くなっています。これは、位置エネルギーが増加した分、運動エネルギーが減少したことを意味しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、力学的エネルギー保存則を適用します。今度は、点Aと斜面上の最高点Cの2つの状態で考えます。最高点Cでは、台車は一瞬停止するため、速さが \(0\) になることが重要なポイントです。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの基準を点Aが通る水平面とする。
- 点Aの状態: 速さ \(v_A = 14\,\text{m/s}\)、高さ \(h_A = 0\)。
- 最高点Cの状態: 速さ \(v_C = 0\)、高さ \(h_C\)(求めたい量)。
具体的な解説と立式
点Aを含む水平面を、重力による位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。
台車の質量を \(m\)、最高点Cの高さを \(h\) とします。
- 点Aでの力学的エネルギー \(E_A\):
(1)と同じです。
$$
\begin{aligned}
E_A &= \frac{1}{2}m \times 14^2 + mg \times 0
\end{aligned}
$$ - 最高点Cでの力学的エネルギー \(E_C\):
最高点では速さが \(0\) になるので、運動エネルギーは \(0\) です。高さは \(h\) なので、
$$
\begin{aligned}
E_C &= \frac{1}{2}m \times 0^2 + mgh
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_A = E_C\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m \times 14^2 &= mgh
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_A + U_A = K_C + U_C\)
立てたエネルギー保存の式を \(h\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m \times 14^2 &= mgh
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割って消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times 14^2 &= gh
\end{aligned}
$$
数値を代入して \(h\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times 196 &= 9.8 \times h \\[2.0ex]
98 &= 9.8h \\[2.0ex]
h &= \frac{98}{9.8} \\[2.0ex]
h &= 10\,\text{m}
\end{aligned}
$$
スタート地点Aで持っていた「速さのエネルギー」のすべてが、斜面をのぼることで「高さのエネルギー」に変換された点が最高点Cです。つまり、A地点でのエネルギー総額が、C地点での高さのエネルギーと等しくなります。この関係から、台車が到達できる最高の高さを計算します。
最高点Cの高さは \(10\,\text{m}\) と求まりました。これは円形レールの最高点Bの高さ \(7.5\,\text{m}\) よりも高いです。点Bではまだ \(7.0\,\text{m/s}\) の速さ(運動エネルギー)が残っていたため、さらに高くのぼれるというのは理にかなっています。
問(3)
思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則がなぜ成り立つのか、その根本的な理由に立ち返って考える問題です。力学的エネルギーが保存されるのは、仕事をする力が重力(保存力)のみだからです。途中の経路に円形レールがあってもなくても、この「仕事をするのは重力のみ」という条件は変わるでしょうか。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギーが保存される条件は、「非保存力が仕事をしない」こと。
- この問題では、非保存力は垂直抗力のみ。
- 垂直抗力は常に運動方向と垂直なので、経路の形(円形か直線か)に関わらず、仕事をしない。
- したがって、途中の経路がどうであれ、点Aでの力学的エネルギーは、最高点Cでの力学的エネルギーに等しくなる。
具体的な解説と立式
台車が達する最高点の高さは、スタート地点である点Aでの力学的エネルギーの大きさだけで決まります。
(2)で計算したように、最高点Cの高さ \(h\) は、力学的エネルギー保存則から
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m v_A^2 &= mgh
\end{aligned}
$$
という式で決まります。この式には、途中の経路に関する情報(例えば、円形レールの半径など)は一切含まれていません。
力学的エネルギーが保存される理由は、台車に働く力のうち、仕事をするのが重力のみだからです。面からの垂直抗力は、常に台車の運動方向と垂直な向きに働くため、仕事をしません。これは、途中に円形のレールがあってもなくても同じです。
したがって、円形のレールを外しても、点Aで同じ速さで出発するならば、保存される力学的エネルギーの総量は同じです。その結果、到達する最高点Cの高さも(2)の場合と変わることはありません。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則の適用条件
この設問は定性的な考察を問うものであり、新たな計算は不要です。
ジェットコースターが最終的にどこまでの高さに登れるかは、スタート地点で持っていたエネルギーの総量だけで決まります。途中のコースがループを描いていようと、ただの水平な直線であろうと、ゴール地点の高さには影響しません。なぜなら、どちらのコースでもレールが台車を押す力(垂直抗力)は、台車を前に進めるのにも後ろに戻すのにも役立っておらず、エネルギーのやり取りには関与しないからです。したがって、最高点の高さは変化しません。
円形レールの有無は、到達する最高点の高さに影響しないと結論付けられました。これは、力学的エネルギー保存則が「途中の経路によらない」という保存力の性質に基づいていることを示す良い例です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則
- 核心: この問題の根幹は、物体が「なめらかな」面上を運動するとき、垂直抗力は仕事をしないため、仕事をするのは保存力である重力のみとなり、その結果「力学的エネルギーが保存される」という原理を理解し、適用することです。
- 理解のポイント:
- 垂直抗力が仕事をしない理由: 垂直抗力は、常に面の向きに垂直に働きます。一方、物体の運動方向は面に沿った方向(接線方向)です。力が運動方向と常に垂直であるため、垂直抗力は物体の速さを変える仕事(エネルギーの増減)を一切しません。
- 経路によらない保存則: 力学的エネルギー保存則の強力な点は、途中の経路がどれほど複雑であっても(この問題の円形レールのように)、始点と終点の状態(速さと高さ)だけで立式できることです。設問(3)は、この法則の本質的な理解を問うています。
- 質量の消去: エネルギー保存則の式では、すべての項に質量 \(m\) が含まれるため、計算過程で \(m\) は消去されます。これは、物体の運動の様子(速さや到達する高さ)が、その質量によらないことを意味しています(ただし、これは空気抵抗などを無視した場合です)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 振り子の運動: 糸の張力が仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されます。
- ループコースター: ジェットコースターが円形のループを一回転する問題。エネルギー保存則に加えて、ループの最高点で台車がレールから離れないための条件(遠心力と重力のつりあい、あるいは必要な向心力に関する運動方程式)を組み合わせる応用問題が頻出します。
- ばねと斜面を組み合わせた運動: なめらかな斜面上の物体がばねに衝突したり、ばねで打ち出されたりする運動。この場合、重力と弾性力という2種類の保存力による位置エネルギーを考慮した力学的エネルギー保存則を立てます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「なめらか」というキーワードを探す: 問題文に「なめらか」「摩擦は無視できる」といった記述があれば、力学的エネルギー保存則が使える最有力候補です。
- 働く力を確認し、非保存力が仕事をするか判断する: 垂直抗力や糸の張力は仕事をしない代表例です。もし摩擦力などが仕事をする場合は、エネルギー保存則は使えず、「(エネルギーの変化)=(非保存力がした仕事)」というより一般的なエネルギー原理を考える必要があります。
- 位置エネルギーの基準点を決める: 計算が最も簡単になる点(通常は運動の最下点やスタート地点)を高さ \(0\) の基準に設定します。
- 比較する2つの状態を明確にする: スタート地点(A)、円の最高点(B)、斜面の最高点(C)など、問題で問われている状態を正確に把握します。
- 各状態でのエネルギーを正しく評価する:
- 運動エネルギー: 速さ \(v\) を使って \(\frac{1}{2}mv^2\) を計算します。
- 位置エネルギー: 基準点からの高さ \(h\) を使って \(mgh\) を計算します。特に、円の直径や半径など、図から高さを正確に読み取ることが重要です。
- 最高点での速さ: 斜面を上り詰めた最高点では速さは \(0\) になりますが、円運動の最高点では速さは \(0\) ではない、という違いをしっかり区別することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 円の最高点Bでの速さを \(0\) と考えてしまう:
- 誤解: 「最高点」という言葉に惑わされ、斜面を上り詰めたときと同じように速さが \(0\) になると考えてしまう。
- 対策: 物体が円の内面に沿って運動を続けるためには、最高点でも重力に打ち勝って円運動を維持するための速さが必要です。もし速さが \(0\) になると、その場で重力に引かれて真下に落下してしまいます。円運動の最高点では速さは \(0\) ではない、と肝に銘じておきましょう。
- 位置エネルギーの高さを半径と直径で間違える:
- 誤解: 問題文の「直径 \(7.5\,\text{m}\)」をうっかり半径と読み間違え、高さを \(3.75\,\text{m}\) として計算してしまう。
- 対策: 図と問題文を注意深く照らし合わせ、与えられた数値が何を表しているのか(半径か直径か)を正確に把握する癖をつけましょう。基準面(点A)からの高さが、円の直径に相当することを図で確認することが大切です。
- 質量 \(m\) が与えられていないことに戸惑う:
- 誤解: 物理の問題では質量が与えられていることが多いため、ないと計算できないのではないかと不安になる。
- 対策: まずは質量を文字 \(m\) のまま置いて、力学的エネルギー保存則の式を立ててみましょう。そうすれば、すべての項に \(m\) が含まれているため、両辺を割ることで自然に消去できることに気づきます。物理法則を文字式のまま扱うことに慣れることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1), (2)での公式選択(力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 求めたいのは、特定の地点での「速さ」や「高さ」です。運動の途中経過(時間や加速度)を問うことなく、ある状態と別の状態を直接結びつけたい場合、エネルギー保存則は最もシンプルで強力な選択肢です。
- 適用根拠: 問題の物理的条件が「面はすべてなめらか」であることです。これにより、仕事をする力は保存力である重力のみとなり、力学的エネルギー保存則を適用するための論理的な根拠が成立します。もし運動方程式で解こうとすると、円運動や斜面運動では加速度が一定ではないため、高校物理の範囲を超える複雑な計算が必要になります。
- (3)でのアプローチ選択(エネルギー保存則の原理的考察):
- 選定理由: この設問は、具体的な計算ではなく、物理法則の普遍性についての理解を問うています。したがって、計算式を立てるのではなく、力学的エネルギー保存則が成り立つ「条件」や「理由」に立ち返って考察するのが正攻法です。
- 適用根拠: 力学的エネルギー保存則は、保存力の仕事が「経路によらない」という性質に基づいています。したがって、スタート地点とゴール地点の状態が同じであれば、途中の経路がどうであれ、エネルギーの収支関係は変わりません。この法則の根本原理を適用することで、計算せずとも「変化しない」という結論を導き出すことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式で整理してから数値を代入する:
- \(\frac{1}{2}mv_A^2 = \frac{1}{2}mv_B^2 + mgh_B\) のように式を立てたら、まず両辺の \(m\) を消去して \(\frac{1}{2}v_A^2 = \frac{1}{2}v_B^2 + gh_B\) とします。このように、計算を始める前に式をできるだけ簡単にする癖をつけると、代入ミスや計算間違いが減ります。
- 二乗の計算を正確に行う:
- \(14^2 = 196\) のような、よく使われる二乗の計算は覚えておくと時間短縮になります。計算に不安がある場合は、筆算で確実に計算しましょう。
- 単位を意識した検算:
- エネルギー保存則の各項(\(\frac{1}{2}v^2\) と \(gh\))の単位が、どちらも \([\text{m}^2/\text{s}^2]\) となり、一致していることを確認しましょう。(\([\text{m/s}]^2 \rightarrow \text{m}^2/\text{s}^2\), \([\text{m/s}^2] \times [\text{m}] \rightarrow \text{m}^2/\text{s}^2\))。単位が合わない場合は、式の立て方が間違っている可能性があります。
- 物理的な大小関係で結果を吟味する:
- (1)で求めた速さ \(v_B=7.0\,\text{m/s}\) は、スタート時の速さ \(v_A=14\,\text{m/s}\) より小さくなっていますか?(高い所に登ったので、遅くなるはず)→ OK。
- (2)で求めた高さ \(h_C=10\,\text{m}\) は、点Bの高さ \(h_B=7.5\,\text{m}\) より高くなっていますか?(点Bではまだ速さが残っていたので、さらに登れるはず)→ OK。
- このように、得られた答えが物理的な直感と合っているかを確認するだけで、大きな間違いを発見できます。
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162 斜方投射と力学的エネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 放物運動の公式を用いる解法
- 模範解答が点Aと最高点Cとの間の力学的エネルギー保存則を用いて一気に高さを求めるのに対し、別解では点Bから飛び出した後の放物運動として捉え、運動学の公式を用いて点Bからの上昇高さを計算し、最終的な高さを求めます。
- 設問(3)の別解: 放物運動の公式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: エネルギーというスカラー量(向きのない量)で考えるアプローチと、速度や変位といったベクトル量(向きのある量)を成分分解して考えるアプローチの違いと、両者が同じ結論に至る背景を理解することで、物理法則の多面的な見方が養われます。
- 解法の選択肢拡大: この問題ではエネルギー保存則が有効ですが、もし空気抵抗が働くなどエネルギーが保存されない状況では、運動方程式や運動の公式から解くアプローチが基本となります。異なる解法を学ぶことで、応用力が身につきます。
- 基礎の再確認: 斜方投射を鉛直方向と水平方向に分解して考えることは力学の基本です。この別解を通じて、等加速度直線運動の公式を再確認する良い機会となります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜方投射を含む運動における力学的エネルギー保存則」です。なめらかな面を滑り降りる運動と、その後の空中での放物運動という、2つの異なる運動が組み合わさった状況でも、一貫して力学的エネルギー保存則が成り立つことを理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 面がなめらかな場合、垂直抗力は仕事をしないため、小球の力学的エネルギーは運動の全過程で保存されます。
- 斜方投射(放物運動)の性質:
- 水平方向には力が働かないため、速度の水平成分は常に一定です。
- 鉛直方向には重力のみが働くため、鉛直方向の運動は投げ上げ運動と同じです。
- 最高点の条件: 放物運動の最高点では、速度の鉛直成分は一瞬 \(0\) になりますが、水平成分は残っています。したがって、最高点でも運動エネルギーは \(0\) にはなりません。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点Aと点Bの間で力学的エネルギー保存則を立てて、点Bでの速さを求めます。
- (2)では、(1)で求めた速さの水平成分を計算します。最高点ではこの水平成分の速さしか持たないため、それをもとに運動エネルギーを計算します。
- (3)では、点Aと放物運動の最高点との間で力学的エネルギー保存則を立てます。(2)で求めた最高点での運動エネルギーを利用して、最高点の高さを求めます。