発展例題
発展例題31 クントの実験
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(エ)の別解: 波長と速さの比例関係を用いた解法
- 模範解答が振動数 \(f\) を求めてから公式 \(v=f\lambda\) に代入するのに対し、別解では振動数が共通であることを利用し、速さと波長の比例関係から直接速さを求めます。
- 設問(エ)の別解: 波長と速さの比例関係を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の養成: 「振動数が同じとき、波長が長いほど速い」という波の性質を直感的に理解できます。
- 計算の効率化: 中間変数である振動数 \(f\) を経由せずに答えを出せるため、計算ミスを減らせます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「クントの実験と定常波の性質」です。音波の速さを測定する有名な実験を題材に、定常波の発生条件と波の基本公式の理解を深めます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定常波の節と腹: 固定された点は振動しない「節」になり、自由に振動できる端は大きく振動する「腹」になります。
- 定常波の波形と波長: 定常波において、隣り合う節と節(または腹と腹)の間隔は、半波長 \(\frac{\lambda}{2}\) に等しくなります。
- 波の基本公式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には、常に \(v = f\lambda\) の関係が成り立ちます。
- 媒質による違い: 波が異なる媒質(金属から空気など)へ伝わるとき、速さと波長は変化しますが、振動数は変化しません。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)(イ)では、金属棒の固定状況から、定常波の節と腹の位置を判断します。
- (ウ)では、ガラス管内のコルク粉末の模様の間隔が半波長に対応することを利用して、空気中の音波の波長を求めます。その後、波の基本公式を用いて振動数を計算します。
- (エ)では、金属棒の振動モード(基本振動)から金属中の縦波の波長を幾何学的に求めます。(ウ)で求めた振動数(空気中と同じ)を用いて、金属中の音速を計算します。
問(ア)(イ)
思考の道筋とポイント
定常波において、媒質がどのように拘束されているか(境界条件)によって、節と腹の位置が決まります。「固定されている=動けない=変位が \(0\)」であり、「端が自由=大きく動ける=変位が最大」と考えます。
この設問における重要なポイント
- 固定端: 媒質が固定されて動けない点は、定常波の節となる。
- 自由端: 媒質が自由に振動できる端は、定常波の腹となる。
具体的な解説と立式
金属棒の中点Mは固定されています。固定されているということは、その点は振動できないことを意味します。したがって、点Mは定常波の「節」となります。
一方、金属棒の両端A、Bは固定されておらず、自由に振動することができます。したがって、両端は定常波の「腹」となります。
使用した物理公式
- 定常波の境界条件(固定端=節、自由端=腹)
計算は不要で、物理的状況からの判断となります。
波の「節」は全く動かない点、「腹」は一番激しく動く点のことです。棒の真ん中(点M)は万力などでガッチリ固定されているので、動きようがありません。だからここは「節」です。逆に、棒の両端は何にも触れていないので、自由にブルブル震えることができます。だからここは「腹」になります。
点Mは節、両端は腹となります。これは棒の縦振動における基本的な境界条件と一致します。
問(ウ)
思考の道筋とポイント
ガラス管内のコルク粉末は、空気中の定常波によって動かされ、特定のパターンを作ります。このパターンの繰り返し間隔 \(r\) は、定常波の半波長に相当します。これより空気中の波長 \(\lambda\) を求め、波の基本公式 \(V = f\lambda\) を用いて振動数 \(f\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- コルク粉末の模様の間隔 \(r\) は、半波長 \(\frac{\lambda}{2}\) に等しい。
- 音速 \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の関係式 \(V = f\lambda\) を用いる。
具体的な解説と立式
ガラス管内の気柱に生じた定常波の波長を \(\lambda\) とします。
問題文より、コルクの粉末は \(r\) ごとに同じ模様を繰り返しています。定常波の形状(変位や圧力変化)は半波長ごとに繰り返されるため、この距離 \(r\) は半波長に相当します。
したがって、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\lambda}{2} &= r
\end{aligned}
$$
これより、波長は \(\lambda = 2r\) となります。
求める振動数を \(f\) とすると、波の基本公式より、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V &= f\lambda
\end{aligned}
$$
この式を \(f\) について解きます。
使用した物理公式
- 定常波の節間隔: \(d = \frac{\lambda}{2}\)
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\)
まず、波長 \(\lambda\) を \(r\) で表します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= 2r
\end{aligned}
$$
次に、波の基本公式に代入して \(f\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{V}{\lambda} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{2r}
\end{aligned}
$$
ガラス管の中では、音が響いて「定常波」という波ができています。この波の山と谷のリズムに合わせてコルクの粉が動きます。粉の模様が \(r\) メートルごとに繰り返されているということは、波の「半分の長さ」が \(r\) だということです。つまり、波1つ分の長さ(波長)は \(2r\) になります。「速さ=波長×振動数」という決まりがあるので、「振動数=速さ÷波長」と計算すれば答えが出ます。
振動数は \(f = \frac{V}{2r}\,\text{Hz}\) と求まりました。単位を確認すると、\([\text{m/s}] / [\text{m}] = [1/\text{s}] = [\text{Hz}]\) となり正しいです。
問(エ)
思考の道筋とポイント
金属棒の中を伝わる波の速さを求めます。金属棒は「基本振動」をしているため、その長さ \(L\) と波長 \(\lambda’\) の幾何学的な関係を見抜くことが第一です。次に、重要な物理法則である「波が媒質を変えても振動数は変わらない」ことを利用します。(ウ)で求めた振動数 \(f\) をそのまま使い、\(v = f\lambda’\) で計算します。
この設問における重要なポイント
- 金属棒の振動は基本振動であり、中央が節、両端が腹である。
- 節から腹までの距離は \(\frac{\lambda’}{4}\) なので、腹から腹(間に節が1つ)の距離は \(\frac{\lambda’}{2}\) である。
- 金属棒の長さ \(L\) が半波長 \(\frac{\lambda’}{2}\) に相当する。
- 金属棒の振動数と、空気中の音波の振動数は等しい。
具体的な解説と立式
求める金属中の縦波の速さを \(v\)、波長を \(\lambda’\) とします。
金属棒は中央が節、両端が腹の基本振動をしています。この形状は、定常波の「腹・節・腹」という構成になり、これはちょうど半波長分に相当します。
したがって、棒の長さ \(L\) と波長 \(\lambda’\) の関係は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\frac{\lambda’}{2} &= L
\end{aligned}
$$
これより、金属中の波長は \(\lambda’ = 2L\) です。
振動数は空気中と同じ \(f = \frac{V}{2r}\) なので、波の基本公式を用いて速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= f\lambda’
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 基本振動(両端自由、中央固定)の波長条件: \(L = \frac{\lambda}{2}\)
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\)
波長 \(\lambda’ = 2L\) と、(ウ)で求めた \(f = \frac{V}{2r}\) を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{V}{2r} \times 2L \\[2.0ex]
&= \frac{2VL}{2r} \\[2.0ex]
&= \frac{VL}{r}
\end{aligned}
$$
金属棒も波を伝えています。棒の長さ \(L\) の中に、ちょうど「波の半分」が収まっている状態(基本振動)です。つまり、金属の中での波1つ分の長さ(波長)は、棒の長さの2倍、\(2L\) になります。この波の振動数(1秒間の振動回数)は、さっき求めた空気中の振動数と同じです。「速さ=振動数×波長」なので、これらを掛け算すれば金属の中での音の速さが分かります。
速さは \(v = \frac{VL}{r}\,\text{m/s}\) と求まりました。一般に金属中の音速は空気中より速いですが、\(L\)(棒の長さ)は通常 \(r\)(空気中の半波長)より長いため、\(v > V\) となり、物理的直感とも合致します。
思考の道筋とポイント
振動数 \(f\) が共通であることに着目します。波の基本公式 \(v = f\lambda\) において \(f\) が一定ならば、速さ \(v\) は波長 \(\lambda\) に比例します。この比例関係を使えば、振動数を具体的に計算することなく、比の計算だけで速さを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 振動数 \(f\) が空気中と金属中で共通である。
- \(v = f\lambda\) より、\(v \propto \lambda\) (速さは波長に比例する)。
具体的な解説と立式
空気中の音速を \(V\)、波長を \(\lambda\)、金属中の音速を \(v\)、波長を \(\lambda’\) とします。
振動数 \(f\) が共通なので、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\frac{v}{\lambda’} &= f
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
\frac{V}{\lambda} &= f
\end{aligned}
$$
したがって、以下の比例式が成立します。
$$
\begin{aligned}
\frac{v}{\lambda’} &= \frac{V}{\lambda}
\end{aligned}
$$
この式を変形して、\(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= V \times \frac{\lambda’}{\lambda}
\end{aligned}
$$
ここで、(ウ)と(エ)の考察より、それぞれの波長は以下の通りです。
- 空気中の波長: \(\lambda = 2r\)
- 金属中の波長: \(\lambda’ = 2L\)
使用した物理公式
- 波の基本公式の比例関係: \(\frac{v_1}{\lambda_1} = \frac{v_2}{\lambda_2}\) (\(f\)一定)
波長の値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= V \times \frac{2L}{2r} \\[2.0ex]
&= V \times \frac{L}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{VL}{r}
\end{aligned}
$$
「足踏みのテンポ(振動数)」が同じなら、「歩幅(波長)」が大きいほど「進む速さ(音速)」は速くなります。金属の中での歩幅(\(2L\))は、空気の中での歩幅(\(2r\))の何倍かを考えます。それは \(\frac{2L}{2r} = \frac{L}{r}\) 倍です。だから、速さも空気中の速さ \(V\) の \(\frac{L}{r}\) 倍になります。
メインの解法と全く同じ結果 \(\frac{VL}{r}\) が得られました。この方法は計算がシンプルで、物理的な意味(波長と速さの比例)も捉えやすいため、検算としても有効です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 定常波の境界条件と波形の理解
- 核心: 定常波の問題では、媒質の端が「固定端」か「自由端」かを見極めることが全ての出発点です。固定端は変位がゼロの「節」、自由端は変位が最大の「腹」になります。この境界条件から、媒質の中にどのような波形(基本振動や倍振動)ができているかを決定します。
- 理解のポイント:
- 節と腹の間隔: 定常波において、隣り合う節と節、または腹と腹の間隔は半波長 \(\frac{\lambda}{2}\) です。節と腹の間隔はその半分の \(\frac{\lambda}{4}\) です。この幾何学的な関係を常に頭に描けるようにしましょう。
- 振動モードの特定: 「基本振動」とは、その境界条件を満たす最も波長の長い(振動数の低い)波形のことです。本問の金属棒のように「中央固定・両端自由」なら、中央が節、両端が腹となる最もシンプルな形、つまり棒全体が半波長分になる形が基本振動です。
- 波動の基本公式と媒質間の伝播
- 核心: 波の性質を記述する最も重要な式 \(v = f\lambda\) を使いこなすことです。特に、波が異なる媒質へ伝わるとき(例:金属棒→空気)の振る舞いを理解しているかが問われます。
- 理解のポイント:
- 振動数の保存: 波源が同じであれば、波がどの媒質を伝わろうとも、振動数 \(f\) は変化しません。これは「1秒間に波源が揺れた回数だけ、波も揺れて伝わっていく」と考えれば自然です。
- 速さと波長の変化: 媒質が変わると波の速さ \(v\) が変わります。\(v = f\lambda\) の関係から、\(f\) が一定なら、速さ \(v\) が変化した分だけ波長 \(\lambda\) も変化(比例)することになります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 気柱の共鳴(閉管・開管): 閉管は「片方が閉じた(固定端)、片方が開いた(自由端)」、開管は「両方が開いた(自由端)」気柱です。本問の金属棒(中央固定・両端自由)は、中央で切って考えれば「片方固定・片方自由」の閉管2つ分とみなすこともできます。このように、境界条件を整理すれば、気柱の問題も弦の振動もすべて同じ原理で解けます。
- 弦の振動: 弦の両端が固定されている場合(両端固定)は、両端が節になります。基本振動は弦の長さが半波長になります。
- 異なる媒質の接合: 密度の違うロープをつないで波を送る実験や、光の屈折なども、「振動数が変わらず、速さと波長が変わる」という点で本問と同じ構造を持っています。
- 初見の問題での着眼点:
- 境界条件をチェックする: 「固定されている」「閉じている」→ 節。「自由である」「開いている」→ 腹。まずはこれを図に書き込みます。
- 波形を描く: 節と腹の位置に合わせて、正弦波の概形を描きます。基本振動なら最もシンプルな形、2倍振動なら節を一つ増やすなどして描きます。
- 長さと波長の関係式を作る: 図から、「媒質の長さ \(L\) が半波長 \(\frac{\lambda}{2}\) の何個分か」を読み取り、\(L = n \times \frac{\lambda}{2}\) のような式を立てます。これが解法の土台になります。
- 共通する物理量を見つける: 複数の媒質が登場する場合、「何が変わって何が変わらないか」を意識します。通常は振動数 \(f\) が共通です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 節と腹の取り違え:
- 誤解: 「端っこはいつも節だ」とか「真ん中はいつも腹だ」と思い込んでしまう。
- 対策: 必ず「動けるか、動けないか」という物理的な状況から判断します。固定されていれば節、自由なら腹です。本問のように「中央を固定してこする」場合は、中央が節になります。
- 波長と半波長の混同:
- 誤解: 節と節の間隔 \(r\) をそのまま波長 \(\lambda\) として計算してしまう。
- 対策: 定常波の図を描いて確認しましょう。波1つ分(山と谷のセット)の長さが波長です。節から次の節までは、山(または谷)1つ分しかないので、半波長 \(\frac{\lambda}{2}\) です。「\(r = \frac{\lambda}{2}\)」という式を必ず一度書いてから変形する癖をつけるとミスが減ります。
- 振動数が変わると勘違いする:
- 誤解: 音速が変わるのだから、振動数も変わるのではないかと考えてしまう。
- 対策: 「振動数は波源(リズムの発生源)が決める」と覚えましょう。一度発生したリズムは、途中で勝手に早くなったり遅くなったりしません。変化するのは「歩幅(波長)」と「進む速さ(音速)」だけです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (ウ)での公式選択(波の基本公式):
- 選定理由: 求めたいのは「振動数 \(f\)」です。分かっているのは「音速 \(V\)」と、図から読み取れる「波長 \(\lambda\)(に関連する長さ \(r\))」です。これら3つの量をつなぐ式は \(V = f\lambda\) しかありません。
- 適用根拠: 定常波であっても、それを構成する進行波の速さ、振動数、波長の関係は \(V = f\lambda\) で記述されます。
- (エ)での公式選択(幾何学的関係と基本公式):
- 選定理由: 金属中の「速さ \(v\)」を知りたいですが、直接測定する手段がありません。しかし、「振動数 \(f\)」は空気中と同じであり、「波長 \(\lambda’\)」は棒の長さ \(L\) から幾何学的に決まります。したがって、まずは図形的に \(\lambda’\) を求め、次に \(v = f\lambda’\) を使うという2段階の論理構成になります。
- 適用根拠: 金属棒が「基本振動」しているという条件が、波長を一意に決定する根拠となります。もし「2倍振動」なら波長は変わりますが、公式の選択自体は変わりません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- 本問のように具体的な数値が与えられていない問題では、最後まで文字式で計算します。途中で勝手な数値を代入したりせず、\(V, L, r\) などの文字を丁寧に扱いましょう。
- 単位による次元解析(検算):
- 答えが出たら、単位を確認します。(ウ)の答え \(\frac{V}{2r}\) は \([\text{m/s}] / [\text{m}] = [1/\text{s}] = [\text{Hz}]\) で振動数の単位になっています。(エ)の答え \(\frac{VL}{r}\) は \([\text{m/s}] \times [\text{m}] / [\text{m}] = [\text{m/s}]\) で速さの単位になっています。もし \(\frac{Vr}{L}\) のような答えになっていたら、単位が合わないのですぐにミスに気づけます。
- 比例関係の活用(別解の視点):
- \(v = f\lambda\) の計算をする際、\(f\) を代入して分数をこねくり回すよりも、「速さは波長に比例する」という視点を持つと、\(\frac{v}{V} = \frac{\lambda’}{\lambda}\) という比の式が立てられます。これなら分数の計算ミスを減らせるだけでなく、物理的な意味も確認しながら進められます。
発展例題32 反射板とドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 波長と相対速度に着目した原理的解法
- 模範解答がドップラー効果の公式を適用して解くのに対し、別解では公式を暗記していなくても解けるよう、波の波長や相対速度の変化を物理的に追跡して導出します。
- 設問(2)の別解: 音の「波列の長さ」に着目した解法
- 模範解答が「波の個数」に着目するのに対し、別解では空間に広がる音の長さ(波列の長さ)が反射によってどのように圧縮されるかを幾何学的に考えます。
- 設問(1)の別解: 波長と相対速度に着目した原理的解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の理解: 公式のブラックボックス化を防ぎ、ドップラー効果がなぜ起こるのか(波長が縮むのか、相対速度が変わるのか)という根本的な理解を深めます。
- 応用力の向上: 波の個数保存だけでなく、空間的な分布(波列の長さ)をイメージする力は、パルス波の干渉など他の波動分野の問題でも役立ちます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「反射板によるドップラー効果」です。動く反射板は、「音を受け取る観測者」と「音を反射する(再放出する)音源」の2つの役割を同時に果たします。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の公式: 音源が動く場合と観測者が動く場合の公式を正しく使い分けること。
- 反射板の役割: 「動く観測者」として音を受け取り、瞬時に「動く音源」として音を出すという2段階のプロセスとして捉えること。
- 波の保存則: 音源が出した波の総数と、観測者が受け取った波の総数は等しいこと(途中で波が消えたり増えたりしない)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず音源Sから反射板Rへの音の伝わり方を考え、Rが観測する振動数を求めます。次に、その振動数でRが音を出すと考え、Rから観測者Oへの音の伝わり方を計算します。
- (2)では、音源が音を出していた時間と振動数の積(=波の総数)が、観測者が音を聞く時間と振動数の積に等しいという関係式(波の数の保存)を利用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
反射板Rは、音源Sからの音を受け取り、それを反射して観測者Oに送ります。この過程を2つのステップに分解して考えます。
ステップ1: 静止した音源Sから、動く反射板R(観測者)へ音が伝わる。
ステップ2: 動く反射板R(音源)から、静止した観測者Oへ音が伝わる。
それぞれのステップでドップラー効果の公式を適用します。
この設問における重要なポイント
- 音の伝わる向きを正として速度の符号を考える。
- ステップ1では、音は右向き(S→R)に進む。Rは音源に向かって動くので、観測者が近づくケース。
- ステップ2では、音は左向き(R→O)に進む。Rは観測者に向かって動くので、音源が近づくケース。
具体的な解説と立式
ステップ1: S(静止)→ R(動く観測者)
音源Sは静止しており、反射板Rは速さ \(v_0\) で音源に近づいています。
音速を \(V\) とします。
観測者が音源に近づく場合、相対的に波の速さが速くなるため、振動数は高くなります。
反射板Rが受け取る音の振動数を \(f_1\) とすると、ドップラー効果の公式より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V+v_0}{V} f_0 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
ステップ2: R(動く音源)→ O(静止)
反射板Rは、受け取った振動数 \(f_1\) の音をそのまま反射します。つまり、Rは振動数 \(f_1\) の音源として振る舞います。
今度は、音源Rが速さ \(v_0\) で静止した観測者Oに近づいています。
音源が観測者に近づく場合、波長が縮むため、振動数は高くなります。
観測者Oが聞く反射音の振動数を \(f_2\) とすると、ドップラー効果の公式より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{V-v_0} f_1 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果の公式:
- 観測者が動く場合: \(f’ = \frac{V \pm v_{\text{観測者}}}{V} f_0\)
- 音源が動く場合: \(f’ = \frac{V}{V \mp v_{\text{音源}}} f_0\)
式①を式②に代入して \(f_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{V-v_0} \times f_1 \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V-v_0} \times \left( \frac{V+v_0}{V} f_0 \right) \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V-v_0} \cdot \frac{V+v_0}{V} f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{V+v_0}{V-v_0} f_0
\end{aligned}
$$
反射板が動いているときは、「受け取るとき」と「送り返すとき」の2回、音の高さが変わるチャンスがあります。まず、反射板が音源に向かって走っていくので、反射板にとっては音が猛スピードでぶつかってくるように感じます。だから、受け取るリズム(振動数)は速くなります。次に、その速いリズムのまま反射板が音を跳ね返しますが、反射板自身が観測者に向かって走りながら音を出すので、音の波が前方にギュッと圧縮されます。これでさらにリズムが速くなります。結果として、2回分の効果で音はかなり高くなって聞こえます。
答えは \(f_2 = \frac{V+v_0}{V-v_0} f_0\) です。分母が \(V-v_0\)(小さい)、分子が \(V+v_0\)(大きい)なので、係数は1より大きくなります。反射板が近づいてくるので音が高くなるという直感と一致します。
思考の道筋とポイント
公式を暗記していなくても、波の基本的な性質(速さ、波長、振動数の関係)を追うことで答えを導けます。
1. 音源Sが出す波の波長を求める。
2. 動く反射板Rにとっての「波の相対速度」から、Rが受け取る振動数を求める。
3. 動く反射板Rが出す「反射波の波長」がどう縮むかを考え、最終的な振動数を求める。
この設問における重要なポイント
- 波の基本公式 \(v = f\lambda\) を常に意識する。
- 観測者が動くときは「相対速度」が変わる。
- 音源が動くときは「波長」が変わる。
具体的な解説と立式
1. Sが出す波
音源Sは静止しているので、出す波の波長 \(\lambda_0\) は、以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{V}{f_0}
\end{aligned}
$$
2. Rが受け取る振動数
反射板Rは速さ \(v_0\) で波に向かって進みます。Rから見た波の相対速度 \(V_{\text{相対}}\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{相対}} &= V + v_0
\end{aligned}
$$
Rが波の山に出会う頻度(振動数 \(f_1\))は、「相対速度 ÷ 波長」で求まります。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V_{\text{相対}}}{\lambda_0}
\end{aligned}
$$
3. Rが出す反射波
Rは振動数 \(f_1\) で振動しながら、速さ \(v_0\) で左に進み、左向きに音速 \(V\) の波を出します。
Rが出した波の山が1回振動する時間(周期 \(T_1 = 1/f_1\))の間に、波の先頭は \(V T_1\) 進み、R自身も \(v_0 T_1\) 進みます。
そのため、波1つ分の長さ(波長 \(\lambda’\))は、この差になります。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= V T_1 – v_0 T_1
\end{aligned}
$$
4. Oが聞く振動数
観測者Oは静止しているので、やってくる波長 \(\lambda’\) の波を音速 \(V\) で受け取ります。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{\lambda’}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\)
- 相対速度: \(v_{\text{相対}} = v_{\text{対象}} – v_{\text{観測者}}\) (向きを考慮)
順を追って計算します。
まず、\(f_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V+v_0}{\lambda_0} \\[2.0ex]
&= \frac{V+v_0}{V/f_0} \\[2.0ex]
&= \frac{V+v_0}{V} f_0
\end{aligned}
$$
次に、\(\lambda’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= (V-v_0) T_1 \\[2.0ex]
&= \frac{V-v_0}{f_1}
\end{aligned}
$$
最後に、\(f_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{\lambda’} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{(V-v_0)/f_1} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V-v_0} f_1 \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V-v_0} \times \frac{V+v_0}{V} f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{V+v_0}{V-v_0} f_0
\end{aligned}
$$
公式を使わずに、波の動きを一つ一つ追っていく方法です。まず、反射板に向かってくる波の「間隔(波長)」は変わりませんが、反射板が自分から突っ込んでいくので、次々と波にぶつかります。これでリズムが速くなります。次に、反射板が音を出すときは、走りながらボールを投げるように音を出すので、音の波の間隔が狭くなります。狭い間隔で飛んできた波を、止まっている観測者が受け取るので、結局とても速いリズム(高い音)として聞こえることになります。
メイン解法と全く同じ結果が得られました。この方法は、公式を忘れてしまった場合や、風が吹いている場合などの応用問題にも強く、物理的な理解を深めるのに最適です。
問(2)
思考の道筋とポイント
「音源が音を出した時間」と「観測者が音を聞いた時間」は、ドップラー効果が起こる状況では異なります。しかし、「波の数」は保存されます。音源が100個の波を出せば、観測者も必ず100個の波を受け取ります(途中で波が消滅しない限り)。この「波の数の保存」を利用するのが最もスマートな解法です。
この設問における重要なポイント
- 音源Sが発した波の総数 \(N_{\text{S}}\) は、\((\text{振動数}) \times (\text{時間})\) で表される。
- 観測者Oが受け取る波の総数 \(N_{\text{O}}\) も同様に表される。
- \(N_{\text{S}} = N_{\text{O}}\) が成り立つ。
具体的な解説と立式
音源Sは振動数 \(f_0\) で \(t_0\) 秒間音を出しました。この間に発生した波の総数 \(N_{\text{S}}\) は、以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
N_{\text{S}} &= f_0 t_0
\end{aligned}
$$
一方、観測者Oはこの \(N_{\text{S}}\) 個の波を、振動数 \(f_2\) の音として聞きます。Oが音を聞く時間を \(t\) とすると、受け取る波の総数 \(N_{\text{O}}\) は、以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
N_{\text{O}} &= f_2 t
\end{aligned}
$$
波の総数は変わらないので、以下の等式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
N_{\text{O}} &= N_{\text{S}}
\end{aligned}
$$
すなわち、
$$
\begin{aligned}
f_2 t &= f_0 t_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 波の総数 = 振動数 × 時間
上の式より \(t\) を求め、(1)の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{f_0}{f_2} t_0 \\[2.0ex]
&= \frac{f_0}{\frac{V+v_0}{V-v_0} f_0} t_0 \\[2.0ex]
&= \frac{V-v_0}{V+v_0} t_0
\end{aligned}
$$
例えば、音源が1秒間に100個の波を出すとして、3秒間出し続けたら、合計300個の波が空間に放たれます。観測者はこの300個の波を全部受け取ります。でも、観測者にはドップラー効果で音が高く(振動数が大きく)聞こえています。つまり、1秒間に受け取る波の数が例えば150個に増えているわけです。300個の波を、毎秒150個のペースで受け取ったら、何秒で受け取り終わるでしょうか? \(300 \div 150 = 2\) 秒ですね。このように、音が高く聞こえる(振動数が大きい)ときは、その分、聞く時間は短くなります。逆もまた然りです。
答えは \(t = \frac{V-v_0}{V+v_0} t_0\) です。\(V-v_0 < V+v_0\) なので、\(t < t_0\) となります。振動数が高くなった(波が詰め込まれた)分、再生時間が短縮されたということであり、物理的に妥当です。早回し再生と同じ理屈です。
思考の道筋とポイント
音を「空間に伸びる長い棒(波列)」のようにイメージします。
1. 音源Sが出した音の波列の長さ \(L\) を求めます。
2. 反射板Rがこの波列に向かって進みながら反射することで、波列がどれくらい圧縮されるか(長さ \(L’\))を計算します。
3. 圧縮された波列 \(L’\) が音速 \(V\) で観測者Oを通過するのにかかる時間を求めます。
この設問における重要なポイント
- 音の波列の長さ = 音速 × 時間
- 反射板が動くことで、反射音の波列の長さは元の長さよりも短くなる。
- 観測者が聞く時間 = 波列の長さ ÷ 音速
具体的な解説と立式
1. 元の波列の長さ
音源Sは \(t_0\) 秒間音を出しました。音速は \(V\) なので、Sから右向きに伸びる波列の長さ \(L\) は、以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
L &= V t_0
\end{aligned}
$$
2. 反射による圧縮
この長さ \(L\) の波列の先頭が反射板Rに到達してから、末尾が到達するまでの時間(反射にかかる時間)を \(\Delta t\) とします。
波列は速さ \(V\) で右へ、反射板は速さ \(v_0\) で左へ進むので、相対速度は \(V+v_0\) です。よって、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\Delta t &= \frac{L}{V+v_0}
\end{aligned}
$$
この時間 \(\Delta t\) の間に、反射板は \(v_0 \Delta t\) だけ左に進みます。一方、反射された音の先頭は \(V \Delta t\) だけ左に進みます。
反射音の波列の長さ \(L’\) は、「反射音の先頭」と「反射音の末尾(=現在の反射板の位置)」の間の距離です。
$$
\begin{aligned}
L’ &= (\text{先頭が進んだ距離}) – (\text{反射板が進んだ距離})
\end{aligned}
$$
すなわち、
$$
\begin{aligned}
L’ &= V \Delta t – v_0 \Delta t
\end{aligned}
$$
3. 観測者が聞く時間
長さ \(L’\) の反射音の波列が、速さ \(V\) で観測者Oを通過するのにかかる時間 \(t\) は、以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{L’}{V}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
- 相対速度による通過時間の計算
求めた式を順に代入して計算します。
まず、\(L’\) を \(\Delta t\) で表します。
$$
\begin{aligned}
L’ &= (V-v_0) \Delta t
\end{aligned}
$$
次に、\(\Delta t\) に \(L\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta t &= \frac{V t_0}{V+v_0}
\end{aligned}
$$
これらを \(t\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{L’}{V} \\[2.0ex]
&= \frac{(V-v_0) \Delta t}{V} \\[2.0ex]
&= \frac{V-v_0}{V} \times \frac{V t_0}{V+v_0} \\[2.0ex]
&= \frac{V-v_0}{V+v_0} t_0
\end{aligned}
$$
長い羊羹(ようかん)をイメージしてください。これが「音の波列」です。ベルトコンベアに乗った羊羹(速さ \(V\))に向かって、包丁(反射板)が走ってきます(速さ \(v_0\))。包丁が羊羹の先頭から末尾までを切り終える時間は、お互いに近づいているので短くなります。さらに、切り取られた(反射された)羊羹は、包丁が前に進みながら送り出すので、ギュッと押し縮められます。この「短くなった羊羹」が観測者の口に入るのにかかる時間を計算しています。
メイン解法と全く同じ結果が得られました。この幾何学的なアプローチは、波の空間的な分布をイメージするのに非常に役立ちます。特に、パルス波の反射や干渉の問題を考える際の基礎となる考え方です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果の2段階適用(反射板の役割)
- 核心: 動く反射板は、単なる壁ではなく、「動く観測者」と「動く音源」の2つの役割を瞬時に切り替えるデバイスとして機能します。
- 理解のポイント:
- ステップ1(受信): 反射板はまず、音源からの音を受け取る「観測者」として振る舞います。このとき、反射板が音源に近づく(または遠ざかる)速度に応じて、受け取る振動数が変化します。
- ステップ2(送信): 次に、反射板はその受け取った振動数の音をそのまま再放出する「音源」として振る舞います。このとき、反射板自身の動きによって、放出される音の波長が変化し、最終的な振動数が決まります。
- 波の数の保存則
- 核心: 音源が発した波の総数と、観測者が受け取る波の総数は、途中で波が消滅したり生成されたりしない限り、常に等しくなります。
- 理解のポイント:
- 時間と振動数の関係: 「波の総数 = 振動数 × 時間」という関係式は、ドップラー効果の問題で時間を問われた際の最強の武器です。振動数が \(k\) 倍になれば、聞く時間は \(1/k\) 倍になるという逆比の関係を直感的に理解しましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 風がある場合のドップラー効果: 風速 \(w\) がある場合、音速を \(V+w\)(追い風)や \(V-w\)(向かい風)に置き換えて計算します。反射板の問題と組み合わせられることも多いので注意が必要です。
- 斜め方向のドップラー効果: 音源や観測者が斜めに動く場合、速度ベクトルを「音源と観測者を結ぶ直線方向」に分解し、その成分だけを公式の速度として使います。
- うなりとドップラー効果: 直接音と反射音を同時に聞く場合、振動数のわずかな違いによって「うなり」が生じます。うなりの回数 \(f = |f_1 – f_2|\) を求める問題は頻出です。
- 初見の問題での着眼点:
- 誰が動いているか整理する: 音源S、観測者O、反射板Rのそれぞれの速度を書き出します。
- 音の伝わる経路を矢印で描く: 「S→R」と「R→O」のように、音がどの順序で誰から誰へ伝わるかを明確にします。
- 符号を間違えない: ドップラー効果の公式 \(f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f\) において、速度 \(v_o, v_s\) は「音の進む向き」を正とします。経路ごとに正の向きが変わることに注意しましょう。
- 時間を問われたら「波の数」: 「何秒間聞こえるか」という問いを見たら、すぐに「波の数の保存」を思い出してください。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の符号ミス:
- 誤解: 「右向きが常に正」だと思い込んでしまう。
- 対策: ドップラー効果では、常に「音源から観測者へ向かう向き」が正です。反射板の問題では、行き(S→R)と帰り(R→O)で音の進む向きが逆になるため、正の向きも逆転します。図に矢印を書き込み、その矢印の向きを正として速度の符号を決めましょう。
- 公式の適用ミス:
- 誤解: 反射板の速度を、分母と分子のどちらに入れるか迷う、あるいは逆に入れてしまう。
- 対策: 「近づくときは音が高くなる」という定性的なチェックを必ず行いましょう。反射板が音源に近づくなら受信振動数は高くなる(分子が大きくなる)、反射板が観測者に近づくなら送信振動数は高くなる(分母が小さくなる)はずです。
- 波長と振動数の混同:
- 誤解: 観測者が動くときも波長が変わると勘違いしてしまう。
- 対策: 「波長を変えるのは音源の動きだけ」「相対速度を変えるのは観測者の動きだけ」と明確に区別しましょう。別解のアプローチ(波長と相対速度を追う方法)を一度自分で導出してみると、この区別が深く理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(ドップラー効果の公式):
- 選定理由: 音源や観測者が動いている状況で、振動数の変化を求められているため、ドップラー効果の公式が第一選択となります。
- 適用根拠: 反射現象を「受信」と「再放出」の2段階プロセスとみなすことで、それぞれの段階で標準的なドップラー効果の公式を適用できます。
- (2)での公式選択(波の数の保存):
- 選定理由: 「時間」を求められていますが、運動方程式や等加速度運動の公式を使う場面ではありません。波動現象特有の「波の連続性」に着目する必要があります。
- 適用根拠: 音源と観測者の間で波が途切れたり溜まったりしない定常的な状態では、単位時間あたりの波の通過数(振動数)と時間の積が保存されるという物理法則に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算する:
- 本問のように数値が与えられていない問題はもちろん、数値がある問題でも、最後の最後まで文字式で計算を進めましょう。\(V\) や \(v_0\) が約分で消えることに気づけたり、次元(単位)のチェックができたりと、メリットが大きいです。
- 極限を考えて検算する:
- \(v_0 = 0\) (反射板が止まっている)としたらどうなるか? → \(f_2 = f_0\), \(t = t_0\) となり、当たり前の結果と一致します。
- \(v_0 \to V\) (反射板が音速で近づく)としたら? → \(f_2 \to \infty\), \(t \to 0\) となります。衝撃波のような状態で、一瞬ですべての音が到達するという極端な状況とも整合します。
- 分数計算のケアレスミス防止:
- 繁分数(分数の分数)が出てきたときは、慌てず分母・分子に共通の項(例えば \(V-v_0\))を掛けて、平易な形に直してから計算を進めましょう。書き写しミスを防ぐため、イコールを縦に揃えて書くのも有効です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
発展問題
384 弦の振動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 弦の長さと振動数の反比例関係を用いた解法
- 模範解答が波の速さと波長の式を連立して解くのに対し、別解では「波の速さが一定のとき、振動数は弦の長さに反比例する」という性質を利用して、比の計算だけで瞬時に答えを導きます。
- 設問(2)の別解: 倍振動の次数(高調波)に着目した解法
- 模範解答が波長を求めてから振動数を計算するのに対し、別解では「何倍振動(第何高調波)が生じているか」を図から読み取り、基本振動数の整数倍として計算します。
- 設問(1)の別解: 弦の長さと振動数の反比例関係を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 複雑な分数の計算を回避し、暗算でも解けるレベルまで手順を簡略化できます。
- 物理的直感の養成: 「弦を短くすると音が高くなる」「特定の場所に触れると倍音が出る(フラジオレット奏法)」という楽器の仕組みと物理法則のつながりを直感的に理解できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「弦の固有振動」です。ギターなどの弦楽器を題材に、弦の押さえ方(境界条件の変化)によって振動数(音の高さ)がどのように変化するかを考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 弦を伝わる波の速さ: 弦の張力と線密度(太さ)が変わらなければ、波の速さ \(v\) は一定です。
- 固有振動と波長: 両端が固定された弦(長さ \(L\))では、\(\lambda_n = \frac{2L}{n}\) (\(n=1, 2, 3, \dots\))となる波長の定常波が生じます。
- 波の基本公式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には、常に \(v = f\lambda\) の関係が成り立ちます。
- 境界条件の違い:
- 「強く押さえる」: その点が新たな固定端となり、弦の実質的な長さが短くなります。
- 「軽く押さえる」: 波はその点を通過できますが、その点での変位が強制的にゼロ(節)になります。弦全体の長さは変わりませんが、振動モードが制限されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、何も押さえていない状態(基本振動)について、振動数、弦の長さ、波の速さの関係式を立てます。
- 「強く押さえた場合」は、弦の長さが変わった基本振動として扱います。
- 「軽く押さえた場合」は、弦の長さはそのままで、押さえた位置が節となるような高次の振動(倍振動)として扱います。
- それぞれの場合について、\(v = f\lambda\) の関係式を立て、最初の状態と比較することで振動数を求めます。