「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅲ 章 13】基本問題314~323

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基本問題

314 定積変化と定圧変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解1: 定積モル比熱と定圧モル比熱を用いる解法
      • 模範解答が熱力学第一法則を用いて定性的に比較するのに対し、別解では定積モル比熱と定圧モル比熱の定義式を用いて、温度上昇の比を定量的に計算して比較します。
    • 別解2: 熱力学第一法則の異なる形式を用いる解法
      • 模範解答が「気体が外部にした仕事」を用いて立式するのに対し、別解では「気体が外部からされた仕事」を用いる形式の熱力学第一法則で考えます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: モル比熱という概念が、熱の使われ方(すべて温度上昇に使われるか、一部が仕事に使われるか)の違いを反映したものであることを深く理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 熱力学第一法則には仕事の定義によって複数の表現形式があることを学び、どちらの形式にも対応できる力が養われます。
    • 解法の選択肢拡大: 定性的な比較だけでなく、モル比熱を用いた定量的なアプローチも有効であることを知り、問題解決の引き出しが増えます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「定積変化と定圧変化における熱と仕事の関係」です。同じ量の熱を加えても、気体の体積を一定に保つか、圧力を一定に保つかで、熱の使われ方がどう変わるかを理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱力学第一法則: 気体に加えられた熱量が、内部エネルギーの増加と外部への仕事にどのように分配されるかを表すエネルギー保存則。
  2. 仕事の有無: 定積変化では体積が変わらないため、気体は仕事をしません (\(W=0\))。一方、定圧変化では体積が変化するため、気体は仕事をします (\(W \neq 0\))。
  3. 内部エネルギーと温度の関係: 理想気体の内部エネルギーは、絶対温度にのみ比例します。したがって、内部エネルギーが増加すれば、温度も上昇します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. シリンダーA(定積変化)とシリンダーB(定圧変化)それぞれについて、熱力学第一法則の式を立てます。
  2. AとBでは、外部にする仕事の有無が異なります。この違いによって、同じ熱量 \(Q\) を与えても、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) がどう変わるかを比較します。
  3. 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) の大小関係が、そのまま温度の上昇 \(\Delta T\) の大小関係になることを用いて、結論を導きます。

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、シリンダーAとBで、与えられた熱エネルギー \(Q\) の「使われ方」が違う点を理解することです。
Aはピストンが固定されているため、体積は変わりません。これは、気体が外部を押し広げるような「仕事」をしないことを意味します。したがって、与えられた熱 \(Q\) は、すべて気体の内部エネルギーを増やす(=温度を上げる)ために使われます。
一方、Bはピストンが自由に動けるため、加熱されると気体は膨張します。この膨張は、外部(大気など)を押し返す「仕事」をするということです。したがって、与えられた熱 \(Q\) の一部はこの仕事のために使われ、残った分だけが内部エネルギーの増加(=温度上昇)に使われます。
この「熱の分配」の違いを、熱力学第一法則を使って数式で表現し、比較します。
この設問における重要なポイント

  • シリンダーA: ピストンが固定されているため、定積変化。気体が外部にする仕事は \(0\)。
  • シリンダーB: ピストンがなめらかに動くため、内部の圧力と外部の圧力がつり合ったまま膨張する定圧変化。気体は膨張し、外部に正の仕事をする。
  • A, Bに与える熱量 \(Q\) は等しい。
  • 単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、温度変化 \(\Delta T\) に比例する。

具体的な解説と立式
A, Bそれぞれの気体に与える熱量を \(Q (>0)\) とします。熱力学第一法則は、気体の内部エネルギーの変化を \(\Delta U\)、気体が吸収した熱量を \(Q\)、気体が外部にした仕事を \(W’\) とすると、\(\Delta U = Q – W’\) と表されます。

  • シリンダーA(定積変化)について
    • 体積が一定なので、気体は外部に仕事をしません。つまり、\(W’_A = 0\)。
    • 熱力学第一法則より、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_A\) は、
      $$
      \begin{aligned}
      \Delta U_A &= Q – 0 \\[2.0ex]
      \Delta U_A &= Q \quad \cdots ①
      \end{aligned}
      $$
  • シリンダーB(定圧変化)について
    • 加熱によって気体は膨張し、外部へ仕事をします。この仕事 \(W’_B\) は正の値をとります (\(W’_B > 0\))。
    • 熱力学第一法則より、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_B\) は、
      $$ \Delta U_B = Q – W’_B \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W’\) (ここで \(W’\) は気体が外部にした仕事)
  • 理想気体の内部エネルギーと温度の関係: \(\Delta U \propto \Delta T\)
計算過程

式①と式②を比較します。
\(W’_B\) は正の値なので、\(Q – W’_B\) は \(Q\) よりも小さくなります。
$$ Q – W’_B < Q $$
したがって、式①と②から、
$$ \Delta U_B < \Delta U_A $$
理想気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、その物質量 \(n\) と定積モル比熱 \(C_V\) を用いて \(\Delta U = nC_V \Delta T\) と表され、温度変化 \(\Delta T\) に比例します。
よって、内部エネルギーの変化が大きいAの方が、温度の上昇も大きいことがわかります。
$$ \Delta T_B < \Delta T_A $$

この設問の平易な説明

AさんとBさんに、同じ額のお小遣い(熱量)を渡したとします。
Aさんは部屋に閉じ込められていて(定積)、外で遊ぶことができません。そのため、もらったお小遣いは全額、自分の貯金(内部エネルギー)になります。
一方、Bさんは自由に外出できます(定圧)。Bさんはもらったお小遣いの一部を使って外で遊び(外部への仕事)、残った分だけを貯金します。
結果として、貯金の増えた額が大きいのは、全額を貯金したAさんです。気体にとって「貯金が増える」ことは「温度が上がる」ことと同じなので、シリンダーAの方が温度は大きく上昇します。

結論と吟味

結論として、気体の上昇温度が大きいのはAです。
定積変化では、加えられた熱はすべて内部エネルギーの増加(温度上昇)に使われます。一方、定圧変化では、加えられた熱の一部が体積を膨張させるための仕事に使われるため、温度上昇に寄与する分が少なくなります。このことから、同じ熱量を加えても定積変化の方が温度上昇は大きくなる、という結論は物理的に妥当です。

解答 A
別解1: 定積モル比熱と定圧モル比熱を用いる解法

思考の道筋とポイント
気体を \(1\,\text{mol}\) あたり \(1\,\text{K}\) だけ温度を上げるのに必要な熱量をモル比熱といいます。このモル比熱は、定積変化の場合(定積モル比熱 \(C_V\))と定圧変化の場合(定圧モル比熱 \(C_P\))で値が異なります。この性質を利用して、同じ熱量 \(Q\) を与えたときの温度上昇 \(\Delta T\) を定量的に比較します。
この設問における重要なポイント

  • 定積変化において、物質量 \(n\) の気体の温度を \(\Delta T\) 上昇させるのに必要な熱量 \(Q\) は、\(Q = nC_V \Delta T\)。
  • 定圧変化において、物質量 \(n\) の気体の温度を \(\Delta T\) 上昇させるのに必要な熱量 \(Q\) は、\(Q = nC_P \Delta T\)。
  • 単原子分子理想気体の場合、\(C_V = \frac{3}{2}R\)、\(C_P = C_V + R = \frac{5}{2}R\) であり、常に \(C_P > C_V\) の関係が成り立ちます。

具体的な解説と立式
気体の物質量を \(n\) とします。

  • シリンダーA(定積変化)について
    • 温度上昇を \(\Delta T_A\) とすると、加えた熱量 \(Q\) は定積モル比熱 \(C_V\) を用いて次のように表せます。
      $$ Q = nC_V \Delta T_A \quad \cdots ③ $$
  • シリンダーB(定圧変化)について
    • 温度上昇を \(\Delta T_B\) とすると、加えた熱量 \(Q\) は定圧モル比熱 \(C_P\) を用いて次のように表せます。
      $$ Q = nC_P \Delta T_B \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 定積モル比熱を用いた熱量の式: \(Q = nC_V \Delta T\)
  • 定圧モル比熱を用いた熱量の式: \(Q = nC_P \Delta T\)
  • 単原子分子理想気体のモル比熱: \(C_V = \frac{3}{2}R\), \(C_P = \frac{5}{2}R\)
計算過程

AとBに加えた熱量 \(Q\) は等しいので、式③と式④は等しくなります。
$$ nC_V \Delta T_A = nC_P \Delta T_B $$
両辺から \(n\) を消去すると、
$$ C_V \Delta T_A = C_P \Delta T_B $$
この式から、温度上昇の比を求めると、
$$ \frac{\Delta T_A}{\Delta T_B} = \frac{C_P}{C_V} $$
単原子分子理想気体の場合、\(C_V = \frac{3}{2}R\)、\(C_P = \frac{5}{2}R\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{C_P}{C_V} &= \frac{\frac{5}{2}R}{\frac{3}{2}R} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{3}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ \frac{\Delta T_A}{\Delta T_B} = \frac{5}{3} $$
\(\frac{5}{3} > 1\) なので、\(\Delta T_A > \Delta T_B\) となります。

この設問の平易な説明

気体の「温まりにくさ」を表す指標として「モル比熱」があります。
Aのように閉じ込めて(定積)温める場合、熱はすべて温度上昇に使われるので効率が良く、温まりやすいです(モル比熱 \(C_V\) が小さい)。
Bのように自由に膨張させながら(定圧)温める場合、熱の一部が膨張のために使われてしまうため、温度を上げる効率が悪く、温まりにくいです(モル比熱 \(C_P\) が大きい)。
\(C_P > C_V\) というのは、「定圧のほうが温まりにくい」ということを意味します。したがって、同じ熱量を与えた場合、温まりやすいAの方が温度は大きく上がります。

結論と吟味

主たる解法と同じく、Aの方が上昇温度が大きいという結論が得られました。この解法では、温度上昇の比が具体的に \(\frac{5}{3}\) であることまでわかります。モル比熱の大小関係 \(C_P > C_V\) が、定圧変化では熱の一部が仕事に使われるという物理的な現象と直接結びついていることが確認でき、より深い理解につながります。

解答 A
別解2: 熱力学第一法則の異なる形式を用いる解法

思考の道筋とポイント
熱力学第一法則は、仕事の定義によって \(\Delta U = Q + W\)(\(W\): 気体が外部からされた仕事)という形式で表すこともできます。この形式は、気体の立場からエネルギーの出入りを考えるもので、物理現象を別の視点から捉える良い訓練になります。この公式を用いて、主たる解法と同様の結論を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)
  • 気体が外部から「される」仕事 \(W\) は、気体が膨張するとき負 (\(W<0\))、圧縮されるとき正 (\(W>0\)) となる。
  • A (定積変化) では体積変化がないので、仕事をされず \(W_A = 0\)。
  • B (定圧変化) では加熱により膨張するので、外部から負の仕事をされる (\(W_B < 0\))。

具体的な解説と立式
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を用います。ここで \(W\) は気体が外部からされた仕事です。

  • シリンダーA(定積変化)について
    • 体積が変化しないため、気体は外部から仕事をされません。つまり、\(W_A = 0\)。
    • したがって、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_A\) は、
      $$
      \begin{aligned}
      \Delta U_A &= Q + 0 \\[2.0ex]
      \Delta U_A &= Q \quad \cdots ⑤
      \end{aligned}
      $$
  • シリンダーB(定圧変化)について
    • 加熱により気体は膨張します。これは外部に対して仕事をしているので、逆に外部から見れば「負の仕事」をされたことになります。したがって、\(W_B < 0\)。
    • 内部エネルギーの変化 \(\Delta U_B\) は、
      $$ \Delta U_B = Q + W_B \quad \cdots ⑥ $$

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\) (ここで \(W\) は気体が外部からされた仕事)
計算過程

式⑤と式⑥を比較します。
\(W_B\) は負の値なので、\(Q + W_B\) は \(Q\) よりも小さくなります。
$$ Q + W_B < Q $$
したがって、式⑤と⑥から、
$$ \Delta U_B < \Delta U_A $$
内部エネルギーの変化は温度変化に比例するため、
$$ \Delta T_B < \Delta T_A $$

この設問の平易な説明

熱力学のルール(第一法則)には、「気体が仕事をした」と考える立場と、「気体が仕事をされた」と考える立場の2通りがあります。
「仕事をされた」という立場で考えると、Bの気体は膨張して周りを押し返しているので、周りからは逆に押し返されるような「マイナスの仕事」をされたことになります。
Aは仕事をされない(ゼロ)ので、もらった熱量 \(Q\) がそのまま内部エネルギーの増加分となります。
Bは「マイナスの仕事」をされた分、もらった熱量 \(Q\) から差し引かれたものが内部エネルギーの増加分になります。
結果として、Aの方が内部エネルギーの増加、つまり温度の上昇が大きくなります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結論が得られました。仕事の定義(「した仕事」か「された仕事」か)が変わっても、符号の扱いを正しく行えば、物理的な結論は変わりません。教科書によって採用している仕事の定義が異なる場合があるため、両方の形式に慣れておくことは非常に有益です。

解答 A

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱力学第一法則(エネルギー保存則)
    • 核心: この問題の根幹は、気体に与えられた熱エネルギーが、どのように分配されるかを規定する「熱力学第一法則」です。具体的には、気体が吸収した熱量 \(Q\) は、「内部エネルギーの増加 \(\Delta U\)」と「気体が外部にした仕事 \(W’\)」の和に等しい (\(Q = \Delta U + W’\))、あるいは変形して \(\Delta U = Q – W’\) というエネルギー保存則を理解しているかどうかが問われます。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの分配: 熱 \(Q\) という形で外部から供給されたエネルギーは、気体内部に蓄えられる分 (\(\Delta U\)) と、気体が外部環境を押し広げるために使われる分 (\(W’\)) の2通りに分配される、というイメージを持つことが重要です。
      • 条件による分配比の変化: この問題のポイントは、Aの「定積変化」とBの「定圧変化」という条件の違いによって、このエネルギーの分配比が変わることです。定積変化では体積が変わらないため仕事ができず (\(W’=0\))、熱は100%内部エネルギーの増加に使われます。一方、定圧変化では膨張して仕事をするため (\(W’>0\))、熱の一部が仕事に使われ、残りが内部エネルギーの増加に使われます。
  • 理想気体の内部エネルギーと温度の関係
    • 核心: 熱力学第一法則で比較できるのは、あくまで「内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)」の大小です。これを最終的に問われている「温度の上昇 \(\Delta T\)」の大小に結びつけるのが、この概念です。
    • 理解のポイント:
      • 温度への直結: 理想気体の内部エネルギーは、気体を構成する分子の運動エネルギーの総和であり、絶対温度 \(T\) にのみ比例します。したがって、\(\Delta U\) が大きいほど \(\Delta T\) も大きい、という単純な比例関係が成り立ちます。これにより、\(\Delta U_A > \Delta U_B\) という結論から、直ちに \(\Delta T_A > \Delta T_B\) と結論づけることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱変化を含む問題: 「シリンダーが断熱材でできている」「ピストンを急に動かす」といった設定の問題です。この場合、熱の出入りがない (\(Q=0\)) ため、熱力学第一法則は \(\Delta U = -W’\) (または \(\Delta U = W\)) となります。断熱圧縮 (\(W'<0\)) すれば内部エネルギーが増加して温度が上がり、断熱膨張 (\(W’>0\)) すれば内部エネルギーが減少して温度が下がる、という現象を解析できます。
    • 等温変化を含む問題: 「シリンダーを恒温槽につける」「ピストンをきわめてゆっくり動かす」といった設定です。この場合、温度が一定なので内部エネルギーは変化しません (\(\Delta U=0\))。熱力学第一法則は \(Q = W’\) となり、吸収した熱量がすべて外部への仕事に使われる(あるいは、された仕事がすべて熱として外部に放出される)関係を扱います。
    • 熱サイクル(熱機関)の問題: 定積・定圧・等温・断熱変化を組み合わせたサイクルを一巡する問題です。各過程での \(Q\), \(W’\), \(\Delta U\) を計算し、サイクル全体での仕事や熱効率を求める問題に応用できます。\(P\)-\(V\)グラフで囲まれた面積が仕事量になる、という知識も重要になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まず変化の種類を特定する: 問題文のキーワードから、どの熱力学変化に当たるかを見抜きます。「ピストン固定」→定積、「なめらかに動くピストン(外圧一定)」→定圧、「断熱材」→断熱、「ゆっくり動かす」→等温、など。
    2. 熱力学第一法則の式を立てる: まず基本形 \(\Delta U = Q – W’\) を書き出します。
    3. 各項の符号と値を検討する:
      • \(Q\) (熱量): 「加熱」「熱を加える」→ \(Q>0\)。「冷却」「熱を奪う」→ \(Q<0\)。「断熱」→ \(Q=0\)。
      • \(W’\) (した仕事): 「膨張」→ \(W’>0\)。「圧縮」→ \(W'<0\)。「定積」→ \(W’=0\)。
      • \(\Delta U\) (内部エネルギー変化): 「温度上昇」→ \(\Delta U>0\)。「温度低下」→ \(\Delta U<0\)。「等温」→ \(\Delta U=0\)。
    4. 問われているものと式の関係を見る: 例えば温度変化を問われているなら、\(\Delta U\) を求めればよい、という方針を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の符号の混同:
    • 誤解: 気体が「外部にした仕事 \(W’\)」と「外部からされた仕事 \(W\)」を混同し、熱力学第一法則の式のプラス・マイナスを間違えてしまう。(\(\Delta U = Q – W’\) と \(\Delta U = Q + W\))
    • 対策: 自分がどちらの定義で式を立てているかを常に明確に意識することが最も重要です。「気体が主語」で考え、「膨張する=外部に仕事をする(\(W’>0\))」と覚えれば、\(\Delta U = Q – W’\) の式は「もらった熱\(Q\)から、仕事で使った分\(W’\)を引いた残りが内部エネルギーになる」と自然に理解できます。教科書や問題集で使われている定義を確認し、それに合わせるのが安全です。
  • 熱量と温度を同一視してしまう:
    • 誤解: 「AとBには同じ熱量を与えたのだから、温度上昇も同じはずだ」と直感的に考えてしまう。
    • 対策: 熱はエネルギーの一形態であり、その使い道は一つではないことを理解しましょう。熱力学第一法則は、まさにそのエネルギーの「分配ルール」を示しています。外部への仕事という形でエネルギーが消費される可能性を常に念頭に置き、「与えられた熱=温度上昇」という短絡的な考えを避けることが重要です。
  • 定圧変化と等温変化の混同:
    • 誤解: 定圧変化でも温度は一定(内部エネルギーは変化しない)と勘違いしてしまう。
    • 対策: 「定圧」は圧力が一定、「等温」は温度が一定、という言葉の定義を正確に区別しましょう。定圧変化では、熱が与えられれば温度は上昇し、内部エネルギーも増加します。\(P\)-\(V\)グラフ上で、定圧変化は水平な直線、等温変化は反比例の曲線として描かれることをイメージすると、両者が全く異なる変化であることが視覚的に理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 主たる解法での公式選択(熱力学第一法則):
    • 選定理由: この問題は、「熱(\(Q\))」を与えた結果、「温度(\(\Delta U\))」と「体積変化(\(W’\))」がどうなるか、という熱力学の3つの基本要素の関係性を問うています。これら3要素の関係を支配する最も根源的な法則が、エネルギー保存則である「熱力学第一法則」です。したがって、この法則から考察を始めるのが最も直接的で論理的なアプローチです。
    • 適用根拠: A(定積)とB(定圧)という異なる条件下での変化を比較するため、それぞれの条件を熱力学第一法則の式に適用します。Aでは \(W’=0\)、Bでは \(W’>0\) という明確な違いがあるため、これを \(\Delta U = Q – W’\) に代入することで、\(\Delta U_A\) と \(\Delta U_B\) の大小関係が必然的に導かれます。そして、\(\Delta U\) と \(\Delta T\) の比例関係から、最終的な結論に至ります。
  • 別解1でのアプローチ選択(モル比熱の公式):
    • 選定理由: 問題文の「定積変化」「定圧変化」というキーワードから、それぞれの変化に特化して「熱と温度上昇の関係」を記述する物理量である「定積モル比熱 \(C_V\)」と「定圧モル比熱 \(C_P\)」を連想するのは自然な思考の流れです。これらの定義式 \(Q = nC\Delta T\) は、熱量 \(Q\) と温度変化 \(\Delta T\) を直接結びつけるため、定量的な比較を行う上で非常に強力なツールとなります。
    • 適用根拠: AとBに与えられた熱量 \(Q\) が等しい、という条件を利用して、\(nC_V \Delta T_A = nC_P \Delta T_B\) という等式を立てることができます。ここで、物理的な事実として \(C_P > C_V\)(定圧の方が仕事をする分、温まりにくい)を知っていれば、代数的に \(\Delta T_A > \Delta T_B\) であることが容易に導き出せます。これは、熱力学第一法則をより具体的に、各変化の特性に合わせて表現し直したアプローチと言えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の確認を徹底する:
    • 熱力学の問題は符号が命です。問題を解き始める前に、各物理量の正負の定義を自分の中で再確認しましょう。「熱を吸収→\(Q>0\)」「膨張→\(W’>0\)」「温度上昇→\(\Delta U>0\)」といったルールを紙の隅にメモしておくだけでも、ケアレスミスを大幅に減らせます。
  • 物理現象と言葉で式を解釈する:
    • 例えば \(\Delta U_B = Q – W’_B\) という式を立てたら、「シリンダーBの内部エネルギーの増加分は、もらった熱 \(Q\) から、膨張する仕事で使ってしまった分 \(W’_B\) を差し引いた残りだな」と、必ず日本語でその式の物理的な意味を翻訳する癖をつけましょう。この一手間が、符号の間違いや立式の誤りに気づくきっかけになります。
  • \(P\)-\(V\)グラフを補助的に描く:
    • 複雑な問題でなくても、簡単な\(P\)-\(V\)グラフを描く習慣は有効です。定積変化は\(P\)軸に平行な縦線、定圧変化は\(V\)軸に平行な横線になります。仕事 \(W’\) はグラフの下側の面積に対応することを思い出せば、定積変化で仕事がゼロであることや、定圧膨張で正の仕事(面積)を持つことが視覚的に一目瞭然となり、誤解を防ぎます。
  • モル比熱の大小関係をイメージで覚える:
    • \(C_P > C_V\) という関係は非常に重要です。これを単なる暗記ではなく、「定圧(\(C_P\))は、気体を温めつつ膨張させる仕事もしなければならない。だから、同じ1度上げるのにも、定積(\(C_V\))のときより余計に熱が必要になる。だから \(C_P\) の方が大きい」という物理的な理由付けと共に覚えておくと、忘れにくく、応用も効きます。

315 モル比熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1), (4)の別解: 熱力学第一法則の異なる形式を用いる解法
      • 本解説の主たる解法では、熱力学第一法則を「気体が吸収した熱量 \(Q\) は、内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) と外部にした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) の和に等しい」という形式 (\(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\)) に統一して解説します。これに対し、模範解答で採用されている「された仕事 \(W_{\text{された仕事}}\)」を用いる形式 (\(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\)) を別解として提示します。
    • 設問(4), (5)の別解: マイヤーの関係式を用いる解法
      • 模範解答が熱力学第一法則やモル比熱の定義式に従って順に計算するのに対し、別解では定積モル比熱と定圧モル比熱の間の重要な関係式である「マイヤーの関係式 \(C_P – C_V = R\)」を積極的に利用して、より効率的に答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: マイヤーの関係式が、定圧変化で余分に必要となる熱量が、気体が外部にする仕事に等しいという物理的背景を持つことを理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 熱力学第一法則の異なる表現形式に慣れることで、様々な教科書や問題集のスタイルに柔軟に対応できるようになります。
    • 解法の選択肢拡大: 法則間の関係性を知ることで、問題を解くためのアプローチが増え、検算やより迅速な解法選択に役立ちます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「定積変化と定圧変化における熱・仕事・内部エネルギーの関係、およびモル比熱の導出」です。一連の設問を通して、熱力学の基本法則を体系的に理解することを目的としています。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱力学第一法則: エネルギー保存則であり、熱 \(Q\)、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)、気体がした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) の関係 (\(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\)) を記述する中心的な法則です。
  2. 理想気体の内部エネルギー: 単原子分子理想気体の場合、内部エネルギーは絶対温度のみに依存し、その変化は \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) で与えられます。
  3. 気体のする仕事: 定積変化では体積変化がないため仕事は \(0\) です。定圧変化では \(W_{\text{した仕事}} = p\Delta V\) となり、状態方程式を用いると \(W_{\text{した仕事}} = nR\Delta T\) と表せます。
  4. モル比熱の定義: \(1\,\text{mol}\) の物質の温度を \(1\,\text{K}\) 上昇させるのに必要な熱量。定積モル比熱は \(C_V = \frac{Q_V}{n\Delta T}\)、定圧モル比熱は \(C_P = \frac{Q_P}{n\Delta T}\) で定義されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1), (2)では、ピストンが固定されているため「定積変化」として扱います。仕事が \(0\) であることを利用して、熱力学第一法則から熱量を求め、モル比熱の定義式に適用します。
  2. (3)〜(5)では、ピストンの固定が外れているため「定圧変化」として扱います。内部エネルギーの変化、気体がする仕事、そして熱力学第一法則から得られる熱量を順に計算し、最後に定圧モル比熱を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
まず、気体の温度が \(T_0\) から \(4T_0\) に変化したときの、内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) を計算します。次に、この過程が「定積変化」(ピストン固定)であることに着目します。定積変化では気体の体積は変わらないため、気体が外部にする仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) は \(0\) です。最後に、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\) を用いて、気体が得た熱量 \(Q\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化の公式: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。
  • 定積変化では、気体が外部にする仕事は \(W_{\text{した仕事}} = 0\)。
  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\)。

具体的な解説と立式
温度変化 \(\Delta T\) は、
$$ \Delta T = 4T_0 – T_0 $$
単原子分子理想気体の内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) の公式は、
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
ピストンは固定されているので定積変化であり、気体が外部にする仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) は \(0\) です。
$$ W_{\text{した仕事}} = 0 $$
熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\) より、気体が得た熱量 \(Q\) は、
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta U + 0 \\[2.0ex]
&= \Delta U
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 理想気体の内部エネルギーの変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\)
計算過程

まず内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{3}{2}nR(4T_0 – T_0) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}nR(3T_0) \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2}nRT_0
\end{aligned}
$$
立式した関係 \(Q = \Delta U\) より、
$$ Q = \frac{9}{2}nRT_0 $$

この設問の平易な説明

気体にあたえられた熱エネルギーの使い道は、「自分の温度を上げる(内部エネルギー増加)」ことと、「外部を押し広げる(仕事をする)」ことの2つです。今回はピストンが固定されているので、気体は膨張できず、仕事をすることができません。したがって、ヒーターからもらった熱は、100%すべて自分の温度を上げるために使われます。なので、「得た熱量」はそのまま「内部エネルギーの増加量」と等しくなります。

結論と吟味

気体が得た熱量は \(\frac{9}{2}nRT_0\,\text{J}\) と求まりました。これは正の値であり、ヒーターから熱を得たという状況と一致しています。

解答 (1) \(\frac{9}{2}nRT_0\,\text{J}\)
別解: 熱力学第一法則の異なる形式を用いる解法

思考の道筋とポイント
熱力学第一法則を、気体が「外部からされた仕事 \(W_{\text{された仕事}}\)」を用いて \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\) と表す形式で考えます。定積変化では、気体は外部に仕事をしないし、外部から仕事をされることもありません。したがって \(W_{\text{された仕事}}=0\) となり、主たる解法と同じ結論に至ります。この形式は模範解答で採用されているものです。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第一法則の別形式: \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\)。
  • 定積変化では、気体が外部からされる仕事は \(W_{\text{された仕事}} = 0\)。
  • 内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) は、温度変化だけで決まる。

具体的な解説と立式
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\) を用います。
内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) の公式は、
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
定積変化なので、気体が外部からされる仕事 \(W_{\text{された仕事}}\) は \(0\) です。
$$ W_{\text{された仕事}} = 0 $$
したがって、熱力学第一法則は、
$$ \Delta U = Q + 0 $$
この式を \(Q\) について解くと、
$$ Q = \Delta U $$

使用した物理公式

  • 理想気体の内部エネルギーの変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
  • 熱力学第一法則(別形式): \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\)
計算過程

まず \(\Delta U\) を計算します。これは主たる解法と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{3}{2}nR(4T_0 – T_0) \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2}nRT_0
\end{aligned}
$$
立式した関係 \(Q = \Delta U\) より、
$$ Q = \frac{9}{2}nRT_0 $$
となり、主たる解法と完全に一致します。

この設問の平易な説明

仕事の考え方には「した仕事」と「された仕事」の2通りがありますが、今回はピストンが動かないので、気体は仕事を「する」ことも「される」こともありません。どちらの考え方を使っても、仕事はゼロです。結局、もらった熱がすべて内部エネルギーの増加(温度上昇)になるという結論は同じです。

結論と吟味

メインの解法と完全に同じ結果が得られました。熱力学第一法則は仕事の定義によって複数の表現がありますが、物理的な状況を正しく式に反映させれば、どの形式を用いても同じ結論が導かれることを確認できました。

解答 (1) \(\frac{9}{2}nRT_0\,\text{J}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
定積モル比熱 \(C_V\) は、「\(1\,\text{mol}\) の気体の温度を \(1\,\text{K}\) 上昇させるのに必要な熱量」と定義されます。数式では \(C_V = \frac{Q}{n\Delta T}\) と表せます。この定義式に、(1)で求めた熱量 \(Q\)、問題で与えられた物質量 \(n\) と温度変化 \(\Delta T\) を代入して \(C_V\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 定積モル比熱の定義式: \(C_V = \frac{Q}{n\Delta T}\)

具体的な解説と立式
定積モル比熱 \(C_V\) の定義式は以下の通りです。
$$ C_V = \frac{Q}{n\Delta T} $$
ここに、(1)の結果 \(Q = \frac{9}{2}nRT_0\) と、温度変化 \(\Delta T = 4T_0 – T_0\) を代入します。

使用した物理公式

  • 定積モル比熱の定義: \(C_V = \frac{Q}{n\Delta T}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
C_V &= \frac{\frac{9}{2}nRT_0}{n(4T_0 – T_0)} \\[2.0ex]
&= \frac{\frac{9}{2}nRT_0}{n(3T_0)} \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2} \times \frac{1}{3} \times R \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}R
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「モル比熱」とは、いわば物質の「温まりにくさ」を表す指標のようなものです。(1)で「\(n\,\text{mol}\) の気体を \(3T_0\,\text{K}\) 温めるのに \(\frac{9}{2}nRT_0\,\text{J}\) の熱が必要だった」ことがわかりました。では、基準となる「\(1\,\text{mol}\) を \(1\,\text{K}\) 温める」にはどれだけの熱が必要かを計算するのがこの設問です。全体の熱量を物質量 \(n\) と温度変化 \(3T_0\) で割れば求まります。

結論と吟味

定積モル比熱は \(C_V = \frac{3}{2}R\) と求まりました。これは単原子分子理想気体の定積モル比熱としてよく知られた値であり、物理的に正しい結果です。

解答 (2) \(\frac{3}{2}R\,\text{J/(mol}\cdot\text{K)}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
この設問では「内部エネルギーの増加量」と「気体が外部にした仕事」の2つを求めます。
1. 内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\): 理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まります。今回の定圧変化でも、温度は \(T_0\) から \(4T_0\) へと変化しており、これは(1)の定積変化と全く同じです。したがって、内部エネルギーの増加量も(1)のときと全く同じ値になります。
2. 気体が外部にした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\): ピストンの固定が外れているため、気体は膨張して仕事をします。この変化は圧力が一定の「定圧変化」です。定圧変化で気体がする仕事は \(W_{\text{した仕事}} = p\Delta V\) で計算できます。ここで、状態方程式 \(pV=nRT\) を利用すると、圧力 \(p\) が一定のとき \(p\Delta V = nR\Delta T\) と変形できるため、この関係式を使って仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 理想気体の内部エネルギーは温度変化のみに依存する。
  • 定圧変化で気体が外部にする仕事の公式: \(W_{\text{した仕事}} = p\Delta V = nR\Delta T\)。

具体的な解説と立式

  • 内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\)
    • 温度変化が(1)と同じ \(\Delta T = 4T_0 – T_0\) なので、内部エネルギーの増加量の公式は(1)と同じです。
      $$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
  • 気体が外部にした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\)
    • 定圧変化なので、仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) の公式は以下で与えられます。
      $$ W_{\text{した仕事}} = nR\Delta T $$

使用した物理公式

  • 理想気体の内部エネルギーの変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
  • 定圧変化における気体の仕事: \(W_{\text{した仕事}} = nR\Delta T\)
計算過程
  • 内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\)
    $$
    \begin{aligned}
    \Delta U &= \frac{3}{2}nR(4T_0 – T_0) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}nR(3T_0) \\[2.0ex]
    &= \frac{9}{2}nRT_0
    \end{aligned}
    $$
  • 気体が外部にした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\)
    $$
    \begin{aligned}
    W_{\text{した仕事}} &= nR(4T_0 – T_0) \\[2.0ex]
    &= nR(3T_0) \\[2.0ex]
    &= 3nRT_0
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明
  • 内部エネルギーの増加量: 気体の内部エネルギーは、その温度計が示す温度だけで決まります。スタートとゴールの温度が(1)のときと同じなので、内部エネルギーの増え方も全く同じになります。
  • 仕事: 今回はピストンが自由に動けるので、気体は温められて元気になると、ピストンを押し返して体積を広げます。この「ピストンを押し返す」行為が外部への「仕事」です。この仕事の量は、温度の上昇分に比例することが知られています。
結論と吟味

内部エネルギーの増加量は \(\frac{9}{2}nRT_0\,\text{J}\)、気体が外部にした仕事は \(3nRT_0\,\text{J}\) と求まりました。どちらも正の値であり、温度が上昇し、気体が膨張したという状況と一致しています。

解答 (3) 内部エネルギーの増加量: \(\frac{9}{2}nRT_0\,\text{J}\), 気体が外部にした仕事: \(3nRT_0\,\text{J}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
定圧変化において気体が得た熱量 \(Q\) を求めます。熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\) を利用します。(3)で「内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\)」と「気体が外部にした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\)」をすでに計算しているので、これらの値を足し合わせるだけで熱量 \(Q\) が求まります。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\)

具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、気体が得た熱量 \(Q\) は、内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) と、気体が外部にした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) の和に等しくなります。
$$ Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}} $$
(3)で求めた \(\Delta U = \frac{9}{2}nRT_0\) と \(W_{\text{した仕事}} = 3nRT_0\) を代入します。

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{9}{2}nRT_0 + 3nRT_0 \\[2.0ex]
&= \left(\frac{9}{2} + \frac{6}{2}\right)nRT_0 \\[2.0ex]
&= \frac{15}{2}nRT_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)の定積変化では、もらった熱はすべて温度上昇に使われました。しかし今回の定圧変化では、もらった熱は「温度を上げる」ためと「外部に仕事をする」ための両方に分配されます。したがって、ヒーターから得るべき熱量は、この2つのエネルギーの合計値になります。(3)で計算した2つの値を単純に足し算すればOKです。

結論と吟味

気体が得た熱量は \(\frac{15}{2}nRT_0\,\text{J}\) と求まりました。この値は、定積変化のときの熱量 \(\frac{9}{2}nRT_0\,\text{J}\) よりも大きいです。これは、同じ温度上昇を実現するために、外部への仕事をする分のエネルギーが余計に必要になるためで、物理的に妥当な結果です。

解答 (4) \(\frac{15}{2}nRT_0\,\text{J}\)
別解1: 熱力学第一法則の異なる形式を用いる解法

思考の道筋とポイント
熱力学第一法則を \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\) の形式で考えます。気体は膨張して外部に \(W_{\text{した仕事}} = 3nRT_0\) の仕事をしたので、外部から「された」仕事 \(W_{\text{された仕事}}\) はその負の値、つまり \(W_{\text{された仕事}} = -W_{\text{した仕事}} = -3nRT_0\) となります。この値と(3)で求めた \(\Delta U\) を式に代入して \(Q\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第一法則の別形式: \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\)。
  • 「された仕事」と「した仕事」の関係: \(W_{\text{された仕事}} = -W_{\text{した仕事}}\)。
  • 気体が膨張する場合、\(W_{\text{した仕事}} > 0\) であり、\(W_{\text{された仕事}} < 0\) となる。

具体的な解説と立式
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\) を \(Q\) について解くと、
$$ Q = \Delta U – W_{\text{された仕事}} $$
(3)の結果より、\(\Delta U = \frac{9}{2}nRT_0\) です。また、気体が外部からされた仕事 \(W_{\text{された仕事}}\) は、
$$ W_{\text{された仕事}} = -W_{\text{した仕事}} = -3nRT_0 $$
これらの値を \(Q\) の式に代入します。

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則(別形式): \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{9}{2}nRT_0 – (-3nRT_0) \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2}nRT_0 + 3nRT_0 \\[2.0ex]
&= \frac{15}{2}nRT_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「された仕事」という立場で考えると、気体が膨張して周りを押し返すのは、周りから見れば「マイナスの仕事」をされたことになります。熱力学のルール \(\Delta U = Q + W_{\text{された仕事}}\) は、「内部エネルギーの増加分は、もらった熱と、された仕事の合計ですよ」という意味です。これを変形すると「もらった熱は、内部エネルギーの増加分から、された仕事を引いたもの」となります。今回は「マイナスの仕事」をされたので、それを引くと、結果的に足し算になり、メインの解法と同じ答えになります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。仕事の符号の扱いに注意すれば、どちらの形式でも問題なく解けることがわかります。

解答 (4) \(\frac{15}{2}nRT_0\,\text{J}\)
別解2: マイヤーの関係式を用いる解法

思考の道筋とポイント
(2)で定積モル比熱 \(C_V = \frac{3}{2}R\) を求めていることを利用します。定積モル比熱 \(C_V\) と定圧モル比熱 \(C_P\) の間には、常に \(C_P = C_V + R\) という関係(マイヤーの関係式)が成り立ちます。これを使って先に \(C_P\) を求め、その定義式 \(Q = nC_P\Delta T\) から熱量 \(Q\) を計算します。この方法は、(5)の答えを先取りする形になりますが、法則間の関係性を知っていると使える強力なアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 定積モル比熱と定圧モル比熱の関係(マイヤーの関係式): \(C_P = C_V + R\)。
  • 定圧変化で気体が吸収する熱量の公式: \(Q = nC_P\Delta T\)。

具体的な解説と立式
まず、マイヤーの関係式から定圧モル比熱 \(C_P\) を求めます。(2)の結果 \(C_V = \frac{3}{2}R\) を用います。
$$
\begin{aligned}
C_P &= C_V + R \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}R + R
\end{aligned}
$$
次に、この \(C_P\) を用いて、定圧変化で得た熱量 \(Q\) を計算します。温度変化は \(\Delta T = 4T_0 – T_0\) です。
$$ Q = nC_P\Delta T $$

使用した物理公式

  • マイヤーの関係式: \(C_P = C_V + R\)
  • 定圧モル比熱を用いた熱量の式: \(Q = nC_P\Delta T\)
計算過程

まず \(C_P\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
C_P &= \frac{3}{2}R + \frac{2}{2}R \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}R
\end{aligned}
$$
次にこの結果を使って \(Q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= n\left(\frac{5}{2}R\right)(4T_0 – T_0) \\[2.0ex]
&= n\left(\frac{5}{2}R\right)(3T_0) \\[2.0ex]
&= \frac{15}{2}nRT_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)で「定積の温まりにくさ」(\(C_V\))がわかりました。実は、「定圧の温まりにくさ」(\(C_P\))は、それよりも気体定数 \(R\) の分だけ必ず大きくなる、という便利な法則(マイヤーの関係式)があります。この法則を使って先に \(C_P\) を計算してしまえば、あとは「\(1\,\text{mol}\)あたり\(1\,\text{K}\)温めるのに \(C_P\) の熱が必要」という定義から、全体の熱量を簡単に計算できます。

結論と吟味

熱力学第一法則から順に計算したメインの解法と、完全に同じ結果が得られました。これは、マイヤーの関係式自体が熱力学第一法則から導かれるものであるため、当然の結果です。物理法則間の関係性を理解していると、このように別のアプローチで問題を解いたり、検算したりすることが可能になります。

解答 (4) \(\frac{15}{2}nRT_0\,\text{J}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
定圧モル比熱 \(C_P\) の定義式 \(C_P = \frac{Q}{n\Delta T}\) に、(4)で求めた熱量 \(Q\)、物質量 \(n\)、温度変化 \(\Delta T\) を代入して \(C_P\) を計算します。これは(2)で \(C_V\) を求めたときと全く同じ手順です。
この設問における重要なポイント

  • 定圧モル比熱の定義式: \(C_P = \frac{Q}{n\Delta T}\)

具体的な解説と立式
定圧モル比熱 \(C_P\) の定義式は以下の通りです。
$$ C_P = \frac{Q}{n\Delta T} $$
ここに、(4)の結果 \(Q = \frac{15}{2}nRT_0\) と、温度変化 \(\Delta T = 4T_0 – T_0\) を代入します。

使用した物理公式

  • 定圧モル比熱の定義: \(C_P = \frac{Q}{n\Delta T}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
C_P &= \frac{\frac{15}{2}nRT_0}{n(4T_0 – T_0)} \\[2.0ex]
&= \frac{\frac{15}{2}nRT_0}{n(3T_0)} \\[2.0ex]
&= \frac{15}{2} \times \frac{1}{3} \times R \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}R
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)と考え方は同じです。定圧変化のときに「\(1\,\text{mol}\) の気体を \(1\,\text{K}\) 温める」のに必要な熱量を計算します。(4)で求めた全体の熱量を、物質量 \(n\) と温度変化 \(3T_0\) で割れば求まります。

結論と吟味

定圧モル比熱は \(C_P = \frac{5}{2}R\) と求まりました。これは単原子分子理想気体の定圧モル比熱としてよく知られた値です。また、(2)で求めた \(C_V = \frac{3}{2}R\) と比較すると、\(C_P = C_V + R\) の関係(マイヤーの関係式)が成り立っていることが確認でき、一連の計算が自己無撞着であることがわかります。

解答 (5) \(\frac{5}{2}R\,\text{J/(mol}\cdot\text{K)}\)
別解: マイヤーの関係式を用いる解法

思考の道筋とポイント
(2)で定積モル比熱 \(C_V = \frac{3}{2}R\) をすでに求めています。\(C_V\) と \(C_P\) の間には、気体の種類によらず常に成り立つ「マイヤーの関係式 \(C_P = C_V + R\)」があります。この関係式を使えば、(4)の熱量を計算することなく、(2)の結果から直接 \(C_P\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 定積モル比熱と定圧モル比熱の関係(マイヤーの関係式): \(C_P = C_V + R\)。
  • (2)で求めた \(C_V = \frac{3}{2}R\) を利用すること。

具体的な解説と立式
マイヤーの関係式に、(2)で求めた \(C_V = \frac{3}{2}R\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
C_P &= C_V + R \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}R + R
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • マイヤーの関係式: \(C_P = C_V + R\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
C_P &= \frac{3}{2}R + \frac{2}{2}R \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}R
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)で「定積の温まりにくさ」(\(C_V\))がわかりました。物理学には「定圧の温まりにくさ(\(C_P\))は、定積の温まりにくさ(\(C_V\))に気体定数\(R\)を足すだけで求まる」という非常に便利な法則(マイヤーの関係式)があります。この法則を使えば、(4)の面倒な計算を全部飛ばして、一瞬で答えを出すことができます。

結論と吟味

メインの解法(定義式から計算)と完全に同じ結果が得られました。この方法は、(4)の計算過程を省略できるため、計算量を大幅に削減できる非常に効率的な解法です。この問題が一連の流れになっているのは、まさにこのマイヤーの関係式が成り立つことを、具体的な計算を通して確認させる意図があると考えられます。

解答 (5) \(\frac{5}{2}R\,\text{J/(mol}\cdot\text{K)}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱力学第一法則
    • 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則は、エネルギー保存則である「熱力学第一法則」です。具体的には、気体が吸収した熱量 \(Q\) が、どのように「内部エネルギーの増加 \(\Delta U\)」と「外部への仕事 \(W_{\text{した仕事}}\)」に分配されるかを示す関係式 \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\) を正しく理解し、適用することが根幹となります。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの収支: この法則は、「気体がヒーターからもらったお小遣い(\(Q\))は、自分の貯金(\(\Delta U\))と、外で遊んだ分(\(W_{\text{した仕事}}\))の合計に等しい」という、単純明快なエネルギーの収支計算を表しています。
      • 変化に応じた適用: (1)の定積変化では、仕事ができないので \(W_{\text{した仕事}}=0\) となり \(Q=\Delta U\) に。(4)の定圧変化では、仕事をするので \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\) の全項が意味を持つ、というように、状況に応じてこの法則を使い分けることが求められます。
  • 理想気体の内部エネルギーの性質
    • 核心: 理想気体の内部エネルギーは、気体の状態を定める圧力・体積・温度のうち、絶対温度 \(T\) のみに依存するという極めて重要な性質です。単原子分子の場合、その増加量は \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) で計算されます。
    • 理解のポイント:
      • 過程によらない: (1)の定積変化と(3)の定圧変化は、全く異なる過程(道のり)ですが、温度変化(スタートとゴール)が同じです。そのため、内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) は両者で全く同じ値になります。この「過程によらず、状態だけで決まる」という性質(状態量)を理解することが鍵です。
  • モル比熱の定義
    • 核心: モル比熱は、物質の温まりにくさを表す指標であり、\(1\,\text{mol}\) の物質を \(1\,\text{K}\) 温めるのに必要な熱量として定義されます。この定義式 \(C = \frac{Q}{n\Delta T}\) を用いて、計算で得られた熱量 \(Q\) からモル比熱を導出します。
    • 理解のポイント:
      • 過程に依存する: 内部エネルギーとは対照的に、モル比熱は温め方(過程)に依存します。同じ温度上昇でも、仕事をしない定積変化よりも、仕事をする定圧変化の方がより多くの熱量を必要とするため、定圧モル比熱 \(C_P\) は定積モル比熱 \(C_V\) よりも大きくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱変化や等温変化を含む問題: 「シリンダーが断熱材でできている(\(Q=0\))」「シリンダーを恒温槽につける(\(\Delta U=0\))」といった条件が加わった問題。これらの場合も、熱力学第一法則の各項に条件を適用することで解くことができます。
    • 熱サイクル(P-Vグラフ)の問題: 定積、定圧、等温、断熱変化を組み合わせたサイクルを一巡する問題。各過程で \(Q, \Delta U, W_{\text{した仕事}}\) を計算し、サイクル全体での仕事や熱効率を求める問題に応用できます。
    • 二原子分子の気体の問題: 問題が「単原子分子」から「二原子分子」に変わると、内部エネルギーの式が \(\Delta U = \frac{5}{2}nR\Delta T\) に、モル比熱が \(C_V = \frac{5}{2}R\), \(C_P = \frac{7}{2}R\) に変わります。基本的な解法の流れは同じですが、これらの定数の違いに注意が必要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 何変化かを特定する: まず問題文のキーワードから、各過程が「定積」「定圧」「等温」「断熱」のどれに当たるかを正確に把握します。(例:「ピストン固定」→定積、「なめらかに動く」→定圧)
    2. 熱力学第一法則を書き出す: とにかく \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\) の式を書き、スタート地点とします。
    3. 各項を具体化する: 特定した変化の種類に応じて、\(Q, \Delta U, W_{\text{した仕事}}\) の各項がどうなるかを考えます。
      • \(\Delta U\): 温度変化がわかれば、常に \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) (単原子分子の場合)で計算できる。
      • \(W_{\text{した仕事}}\): 定積なら \(0\)。定圧なら \(nR\Delta T\)。
      • \(Q\): 断熱なら \(0\)。それ以外は第一法則から求めるか、モル比熱の定義から求める。
    4. 状態方程式を常に意識する: 状態方程式 \(pV=nRT\) は、圧力、体積、温度の関係を結びつける万能ツールです。特に仕事の計算 \(W_{\text{した仕事}} = p\Delta V\) を \(nR\Delta T\) に変形する際に強力な役割を果たします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 内部エネルギーの計算で混乱する:
    • 誤解: 定圧変化のとき、内部エネルギーの式 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) は使えないのではないか、あるいは別の式になるのではないかと考えてしまう。
    • 対策: 「理想気体の内部エネルギーは、いかなる変化であっても、そのときの温度だけで決まる」という大原則を徹底的に頭に叩き込みましょう。変化の仕方(過程)は全く関係ありません。温度のスタートとゴールが同じなら、\(\Delta U\) は必ず同じ値になります。
  • 仕事の定義と符号の混同:
    • 誤解: 気体が「外部にした仕事」と「外部からされた仕事」を混同し、熱力学第一法則の式の符号を間違えてしまう。
    • 対策: 自分が使う式の定義を一つに決め、それを貫くことが重要です。本解説で採用した \(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\) は、「もらった熱(\(Q\))は、内部エネルギーの増加(\(\Delta U\))と、した仕事(\(W_{\text{した仕事}}\))に分配される」という物理的なイメージと直結しており、直感的で間違いにくいのでお勧めです。
  • モル比熱の定義式の誤用:
    • 誤解: 定圧変化で吸収した熱量を求めるべき場面で、定積モル比熱 \(C_V\) を使ってしまう(あるいはその逆)。
    • 対策: \(C_V\) の V は Volume (体積)、\(C_P\) の P は Pressure (圧力) の頭文字だと覚えましょう。\(C_V\) は体積が一定(定積)のとき、\(C_P\) は圧力が一定(定圧)のときにのみ使える、と明確に区別することが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1), (3), (4)での公式選択(熱力学第一法則、内部エネルギー、仕事の式):
    • 選定理由: 問題が熱力学の根幹をなす3つの物理量(熱、仕事、内部エネルギー)の関係性を問うているため、これらの関係を記述する唯一の基本法則である「熱力学第一法則」を選択するのは必然です。また、各物理量を具体的に計算するために、それぞれの定義式(\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\), \(W_{\text{した仕事}} = nR\Delta T\) など)が必要となります。
    • 適用根拠: この問題は、(1)定積変化 → (3)定圧変化という流れで、条件を変えながら各物理量を順に計算させる構成になっています。この論理的な流れに沿って、まず \(\Delta U\) と \(W_{\text{した仕事}}\) を計算し、それらを熱力学第一法則に代入して \(Q\) を求める、というステップを踏むのが最も素直で確実な解法となります。
  • (2), (5)での公式選択(モル比熱の定義式):
    • 選定理由: 設問が「モル比熱を求めよ」と直接的に要求しているため、モル比熱の定義そのものである \(C = \frac{Q}{n\Delta T}\) を選択します。
    • 適用根拠: (1)と(4)で、それぞれの変化(定積、定圧)において、物質量 \(n\) の気体を \(\Delta T\) だけ温度上昇させるのに必要な熱量 \(Q\) を計算済みです。したがって、この \(Q\) を \(n\) と \(\Delta T\) で割ることで、定義に従ってモル比熱を算出できます。
  • (5)別解でのアプローチ選択(マイヤーの関係式):
    • 選定理由: (2)で \(C_V\) を求め、(5)で \(C_P\) を求めるという問題構成自体が、この2つの物理量の関係性を意識させる作りになっています。そこで、両者を直接結びつける便利な関係式である「マイヤーの関係式 \(C_P = C_V + R\)」を利用するという発想が生まれます。
    • 適用根拠: (2)で \(C_V\) の値が既に確定しているため、この関係式を適用すれば、(3)や(4)の計算を一切行うことなく、代数的な計算のみで \(C_P\) を導出できます。これは、物理法則間の深い関連性を理解しているからこそ選択できる、非常に効率的でエレガントな解法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める:
    • この問題のように、物理定数(\(R\))や与えられた変数(\(n, T_0\))で答える問題では、最後まで文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。これにより、式の物理的な意味を見失いにくくなり、約分なども見やすくなるため、結果的に計算ミスが減ります。
  • 分数の計算を丁寧に行う:
    • (4)の \(Q = \frac{9}{2}nRT_0 + 3nRT_0\) のような計算では、焦って暗算せず、\(3 = \frac{6}{2}\) ときちんと通分する過程を書きましょう。\(\left(\frac{9}{2} + \frac{6}{2}\right)nRT_0 = \frac{15}{2}nRT_0\) と段階を踏むことで、単純な足し算ミスを防げます。
  • 物理的な大小関係による検算:
    • 計算が終わったら、結果が物理的に妥当かを確認する癖をつけましょう。
      • 熱量の比較: 同じ温度上昇でも、仕事をする定圧変化の方が熱量は多く必要です。計算結果が \(Q_P = \frac{15}{2}nRT_0 > Q_V = \frac{9}{2}nRT_0\) となっており、妥当です。
      • モル比熱の比較: 同様に、定圧モル比熱は定積モル比熱より大きくなるはずです。結果は \(C_P = \frac{5}{2}R > C_V = \frac{3}{2}R\) となっており、妥当です。
  • マイヤーの関係式で最終チェック:
    • この問題の最後には、最強の検算ツールがあります。計算で求めた \(C_V\) と \(C_P\) を使って、\(C_P – C_V = R\) が成り立つかを確認します。\(\frac{5}{2}R – \frac{3}{2}R = \frac{2}{2}R = R\)。見事に成り立っているので、(1)から(5)までの一連の計算がすべて正しかったと確信できます。

316 断熱変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 圧力を先に求める解法
      • 模範解答がポアソンの法則の一形式である \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) を用いて温度を先に求めるのに対し、別解ではもう一つの形式である \(pV^\gamma=\text{一定}\) を用いて圧力を先に求め、その後でボイル・シャルルの法則を用いて温度を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ポアソンの法則には、状態量(\(p, V, T\))の組み合わせによって複数の表現形式(\(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\), \(pV^\gamma=\text{一定}\))が存在し、それらがすべて等価であることを実践的に理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 求める物理量や与えられた条件に応じて、どの公式を使えば計算が楽になるかを考える良い訓練になります。
    • 解法の選択肢拡大: 複数のアプローチを知ることで、検算が可能になるほか、より複雑な問題に対応できる引き出しが増えます。
  3. 結果への影響
    • 計算の順序が異なるだけで、最終的に得られる温度と圧力の値は模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「断熱変化における状態量の計算」です。断熱変化に特有の法則(ポアソンの法則)と、理想気体に常に成り立つ法則(ボイル・シャルルの法則)を組み合わせて、変化後の気体の状態を定量的に求めることが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ポアソンの法則(断熱変化の公式): 断熱変化の際に成り立つ、圧力・体積・温度の間の特別な関係式です。\(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) や \(pV^\gamma=\text{一定}\) といった形式を正しく使えることが求められます。
  2. ボイル・シャルルの法則: 理想気体の状態変化を記述する普遍的な法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) を、変化の前後で適用できること。
  3. 絶対温度への変換: 熱力学の計算では、温度は必ずセルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))から絶対温度(\(\text{K}\))に変換して用いる必要があります。
  4. 指数計算: \( (a \times 10^b)^c = a^c \times 10^{bc} \) や \( (\frac{a}{b})^c = \frac{a^c}{b^c} \) といった指数法則を正しく扱える数学的な力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、与えられたポアソンの法則 \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) を用いて、圧縮後の未知の温度 \(T\) を求めます。
  2. 次に、圧縮前後の状態についてボイル・シャルルの法則を立て、(1)で求めた温度 \(T\) を使って、もう一つの未知数である圧縮後の圧力 \(p\) を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、断熱変化という特殊な状況でだけ使える専用公式(ポアソンの法則)と、どんな変化でも使える万能な公式(ボイル・シャルルの法則)を組み合わせて解く典型例です。
問題文で \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) という関係式が親切に与えられているので、まずはこれを使って未知数の一つである温度 \(T\) を求めるのが最も自然な流れです。温度が分かれば、残りの未知数は圧力 \(p\) だけになるので、あとはボイル・シャルルの法則に当てはめれば計算できます。計算過程で指数計算が出てくるため、特に \(10\) のべき乗の扱いに注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 初期温度 \(27^\circ\text{C}\) は、計算前に必ず絶対温度 \(27 + 273 = 300\,\text{K}\) に直す。
  • ポアソンの法則は「断熱変化」のときのみ使える特別な法則である。
  • ボイル・シャルルの法則は、理想気体の状態が変化する場合にはいつでも使える基本的な法則である。
  • 与えられた近似値 \(10^{0.7}=5.0\) を適切なタイミングで使う。

具体的な解説と立式
圧縮前の状態を添字1、圧縮後の状態を添字2で表し、それぞれの物理量を整理します。

  • 状態1(圧縮前):
    • \(p_1 = 1.0 \times 10^5\,\text{Pa}\)
    • \(V_1 = 1.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\)
    • \(T_1 = 27 + 273 = 300\,\text{K}\)
  • 状態2(圧縮後):
    • \(p_2 = p\) (未知数)
    • \(V_2 = 1.0 \times 10^{-4}\,\text{m}^3\)
    • \(T_2 = T\) (未知数)

1. 温度 \(T\) の計算
ポアソンの法則 \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) より、状態1と状態2でこの値は等しくなります。
$$ T_1 V_1^{\gamma-1} = T_2 V_2^{\gamma-1} $$
値を代入し、\(\gamma=1.7\) なので \(\gamma-1=0.7\) を用いると、
$$ 300 \times (1.0 \times 10^{-3})^{0.7} = T \times (1.0 \times 10^{-4})^{0.7} $$

2. 圧力 \(p\) の計算
ボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) より、状態1と状態2でこの値は等しくなります。
$$ \frac{p_1 V_1}{T_1} = \frac{p_2 V_2}{T_2} $$
値を代入すると、
$$ \frac{(1.0 \times 10^5) \times (1.0 \times 10^{-3})}{300} = \frac{p \times (1.0 \times 10^{-4})}{T} $$

使用した物理公式

  • ポアソンの法則: \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\)
  • ボイル・シャルルの法則: \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\)
計算過程
  • 温度 \(T\) の計算ポアソンの法則の式を \(T\) について解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    T &= 300 \times \frac{(1.0 \times 10^{-3})^{0.7}}{(1.0 \times 10^{-4})^{0.7}} \\[2.0ex]
    &= 300 \times \left(\frac{1.0 \times 10^{-3}}{1.0 \times 10^{-4}}\right)^{0.7} \\[2.0ex]
    &= 300 \times (10)^{0.7}
    \end{aligned}
    $$
    ここで、問題で与えられた \(10^{0.7}=5.0\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    T &= 300 \times 5.0 \\[2.0ex]
    &= 1500\,\text{K} \\[2.0ex]
    &= 1.5 \times 10^3\,\text{K}
    \end{aligned}
    $$
  • 圧力 \(p\) の計算ボイル・シャルルの法則の式に、求めた \(T=1500\,\text{K}\) を代入して \(p\) について解きます。
    $$ \frac{(1.0 \times 10^5) \times (1.0 \times 10^{-3})}{300} = \frac{p \times (1.0 \times 10^{-4})}{1500} $$
    左辺を計算すると、
    $$ \frac{1.0 \times 10^2}{300} = \frac{1}{3} $$
    よって、
    $$
    \begin{aligned}
    \frac{1}{3} &= \frac{p \times 1.0 \times 10^{-4}}{1500}
    \end{aligned}
    $$
    この式を \(p\) について解くと、
    $$
    \begin{aligned}
    p &= \frac{1500}{3 \times 1.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]
    &= 500 \times 10^4 \\[2.0ex]
    &= 5.0 \times 10^6\,\text{Pa}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

自転車のタイヤに空気を入れるとき、空気入れのポンプが熱くなるのを経験したことがあるでしょう。あれは、外から熱を加えていないのに、空気を急激に押し縮める(断熱圧縮)ことで、空気自体の温度が上がってしまう現象です。この問題は、まさにその現象を計算で確かめるものです。
まず、「断熱変化」のときだけ使える特別な公式(ポアソンの法則)を使って、圧縮後の熱々の温度を計算します。次に、温度がわかったので、気体の基本的なルールである「ボイル・シャルルの法則」を使って、パンパンに高まった圧力を計算します。

結論と吟味

圧縮後の温度は \(T = 1.5 \times 10^3\,\text{K}\) (\(1227^\circ\text{C}\))、圧力は \(p = 5.0 \times 10^6\,\text{Pa}\) (\(50\)気圧に相当) と求まりました。
断熱「圧縮」をすると、外部から気体に仕事がされ、そのエネルギーが内部エネルギーの増加に変わるため、温度は上昇するはずです。\(300\,\text{K}\) から \(1500\,\text{K}\) へと大幅に上昇しており、物理的に妥当です。また、体積が \(1/10\) に圧縮され、さらに温度も上昇しているので、圧力は大幅に増加するはずです。\(1.0 \times 10^5\,\text{Pa}\) から \(5.0 \times 10^6\,\text{Pa}\) へと \(50\)倍になっており、これも妥当な結果と言えます。

解答 温度: \(1.5 \times 10^3\,\text{K}\), 圧力: \(5.0 \times 10^6\,\text{Pa}\)
別解: 圧力を先に求める解法

思考の道筋とポイント
ポアソンの法則には、温度と体積の関係式 \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) の他に、圧力と体積の関係式 \(pV^\gamma=\text{一定}\) もあります。この式を使えば、未知数である圧力 \(p\) を先に求めることができます。圧力が求まれば、あとはボイル・シャルルの法則を使って温度 \(T\) を計算します。模範解答とは逆の順序で解くアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 断熱変化のもう一つの公式: \(pV^\gamma=\text{一定}\)。
  • 指数計算 \(10^{1.7}\) を \(10^1 \times 10^{0.7}\) のように、計算しやすい形に分解するテクニック。

具体的な解説と立式
1. 圧力 \(p\) の計算
ポアソンの法則 \(pV^\gamma=\text{一定}\) より、状態1と状態2でこの値は等しくなります。
$$ p_1 V_1^\gamma = p_2 V_2^\gamma $$
値を代入し、\(\gamma=1.7\) を用いると、
$$ (1.0 \times 10^5) \times (1.0 \times 10^{-3})^{1.7} = p \times (1.0 \times 10^{-4})^{1.7} $$

2. 温度 \(T\) の計算
圧力が求まった後、ボイル・シャルルの法則 \(\frac{p_1 V_1}{T_1} = \frac{p_2 V_2}{T_2}\) を使って温度 \(T\) を求めます。

使用した物理公式

  • ポアソンの法則: \(pV^\gamma=\text{一定}\)
  • ボイル・シャルルの法則: \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\)
計算過程
  • 圧力 \(p\) の計算ポアソンの法則の式を \(p\) について解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    p &= (1.0 \times 10^5) \times \left(\frac{1.0 \times 10^{-3}}{1.0 \times 10^{-4}}\right)^{1.7} \\[2.0ex]
    &= 1.0 \times 10^5 \times (10)^{1.7}
    \end{aligned}
    $$
    ここで、指数法則を使い \(10^{1.7} = 10^1 \times 10^{0.7}\) と分解し、与えられた \(10^{0.7}=5.0\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    p &= 1.0 \times 10^5 \times 10 \times 5.0 \\[2.0ex]
    &= 50 \times 10^5 \\[2.0ex]
    &= 5.0 \times 10^6\,\text{Pa}
    \end{aligned}
    $$
  • 温度 \(T\) の計算ボイル・シャルルの法則の式に、求めた \(p=5.0 \times 10^6\,\text{Pa}\) を代入して \(T\) について解きます。
    $$ \frac{(1.0 \times 10^5) \times (1.0 \times 10^{-3})}{300} = \frac{(5.0 \times 10^6) \times (1.0 \times 10^{-4})}{T} $$
    $$ \frac{100}{300} = \frac{500}{T} $$
    $$ \frac{1}{3} = \frac{500}{T} $$
    したがって、
    $$
    \begin{aligned}
    T &= 500 \times 3 \\[2.0ex]
    &= 1500\,\text{K} \\[2.0ex]
    &= 1.5 \times 10^3\,\text{K}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

断熱変化の「特別な公式」には、温度と体積を結びつけるバージョンだけでなく、圧力と体積を結びつけるバージョンもあります。この別解では、そちらの公式を先に使って圧力を求め、そのあとで気体の基本ルール(ボイル・シャルルの法則)を使って温度を計算しています。どちらの特別な公式から使っても、同じ答えにたどり着けます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。ポアソンの法則には複数の形式がありますが、どれを使っても矛盾なく計算できることを示しています。問題で与えられている情報(例えば、\(T\)と\(V\)の関係式か、\(p\)と\(V\)の関係式か)や、求めるものに応じて、最も計算しやすい公式を選択する柔軟性が重要です。

解答 温度: \(1.5 \times 10^3\,\text{K}\), 圧力: \(5.0 \times 10^6\,\text{Pa}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ポアソンの法則(断熱変化の公式)
    • 核心: この問題を解くための直接的な鍵は、問題文にも示されている「断熱変化」のときだけ成り立つ特別な関係式、ポアソンの法則です。理想気体の状態変化では通常、圧力・体積・温度のうち2つを決めないと残りの1つが決まりませんが、断熱変化では体積を一つ決めると、この法則によって他の状態量も自動的に決まります。
    • 理解のポイント:
      • 独立した条件式: ポアソンの法則(例: \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\))は、常に成り立つボイル・シャルルの法則(\(\frac{pV}{T}=\text{一定}\))とは別の、独立した条件式です。未知数が圧縮後の温度 \(T\) と圧力 \(p\) の2つあるため、これら2本の連立方程式を解くことで、状態を一意に決定することができます。
      • 物理的背景: なぜこの法則が成り立つかというと、断熱変化では熱の出入りがない(\(Q=0\))ため、気体が外部からされた仕事がすべて内部エネルギーの増加に変わる(\(\Delta U = W_{\text{された仕事}}\))という厳しいエネルギーの制約が課されるからです。この制約を数式で表現したものがポアソンの法則です。
  • ボイル・シャルルの法則
    • 核心: 理想気体であれば、いかなる状態変化(定積、定圧、等温、断熱など)であっても、その変化の前後で \(\frac{pV}{T}\) の値は一定に保たれるという、熱力学における最も基本的で普遍的な法則です。
    • 理解のポイント:
      • 万能な関係式: ポアソンの法則で未知数の一つ(例えば温度 \(T\))を求めた後、残りの未知数(圧力 \(p\))を求めるために、この万能な法則が使われます。ポアソンの法則とボイル・シャルルの法則は、断熱変化を解析するための強力なコンビと言えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱膨張: 今回は圧縮でしたが、逆に気体を断熱的に膨張させる問題です。この場合、気体は外部に仕事をするため内部エネルギーが減少し、温度が下がります。(例:スプレー缶からガスを噴射すると缶が冷たくなる現象)
    • 比熱比 \(\gamma\) が与えられていない問題: 「単原子分子理想気体」とだけ書かれている場合、自分で比熱比 \(\gamma\) を計算する必要があります。\(\gamma = \frac{C_P}{C_V} = \frac{\frac{5}{2}R}{\frac{3}{2}R} = \frac{5}{3} \approx 1.67\) のように、モル比熱の知識を使って導出します。(二原子分子なら \(\gamma = \frac{7}{5} = 1.4\))
    • \(P\)-\(V\)グラフ上の断熱曲線: 等温曲線(反比例のグラフ)と比較して、断熱曲線はより傾きが急になります。この傾きの違いや、断熱変化で囲まれた面積(仕事)を問う問題などがあります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「断熱」というキーワードを探す: 問題文にこの一言があれば、即座に「ポアソンの法則を使う」と考えます。
    2. 状態量を整理する: 変化前(状態1)と変化後(状態2)の \(p, V, T\) をすべて書き出し、既知の量と未知の量を明確にします。
    3. 絶対温度への変換を絶対に行う: セルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))を見つけたら、条件反射で \(+273\) して絶対温度(\(\text{K}\))に変換します。これは熱力学計算の出発点です。
    4. どのポアソンの法則を使うか選択する: ポアソンの法則には \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\), \(pV^\gamma=\text{一定}\), \(Tp^{\frac{1-\gamma}{\gamma}}=\text{一定}\) の3形式があります。問題文で与えられた式を使うのが最も素直ですが、与えられていない場合は、既知の量と求めたい量に応じて最も計算しやすい式を選びます。
    5. 指数計算のヒントを見つける: \(10^{0.7}=5.0\) のような近似値が与えられている場合、計算の途中で必ずこの形が出てくるはずです。このヒントが使えるように式を変形していく意識を持つことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 温度の単位換算忘れ:
    • 誤解: セルシウス温度 \(27^\circ\text{C}\) のままポアソンの法則やボイル・シャルルの法則の式に代入してしまう。
    • 対策: 「熱力学の計算では、温度は必ず絶対温度(\(\text{K}\))を使う」というルールを徹底しましょう。問題文を読んだ瞬間に、\(27^\circ\text{C}\) の隣に \(=300\,\text{K}\) と書き込んでしまうくらいの習慣をつけるのが理想です。
  • ポアソンの法則の誤用:
    • 誤解: 断熱変化ではない普通の気体の状態変化で、うっかりポアソンの法則を使ってしまう。
    • 対策: ポアソンの法則は「断熱変化専用の必殺技」であり、他の変化(等温、定圧など)では使えないことを強く意識しましょう。ボイル・シャルルの法則がいつでも使える「通常技」であるのに対し、ポアソンの法則は発動条件が厳しい特別な法則だと区別してください。
  • 指数計算のミス:
    • 誤解: \( \left(\frac{10^{-3}}{10^{-4}}\right)^{0.7} \) の計算で、指数の割り算と掛け算を混同したり、\( (10)^{1.7} \) のような半端な指数の計算で手が止まってしまう。
    • 対策: 指数法則(\( \frac{a^m}{a^n} = a^{m-n} \), \( (a^m)^n = a^{mn} \), \( a^{m+n} = a^m \times a^n \))を正確に使いこなせるように復習しておくことが不可欠です。\(10^{1.7}\) のような形は、問題文のヒント(\(10^{0.7}=5.0\))が使えるように、\(10^{1.7} = 10^1 \times 10^{0.7}\) のように整数部分と小数部分に分解するテクニックを身につけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ポアソンの法則の選択:
    • 選定理由: 問題文に「断熱圧縮」と明記されているからです。断熱変化では、熱の出入りがない(\(Q=0\))という強い制約があるため、理想気体の状態を縛る条件式がボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) に加えてもう一つ必要になります。その追加の条件式がポアソンの法則です。未知数が \(p, T\) の2つあるので、式も2本必要、という論理的な必然性からこの公式が選択されます。
    • 適用根拠: 模範解答では \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) が選択されています。これは、変化前後の体積 \(V_1, V_2\) と初期温度 \(T_1\) が既知であるため、この式を使えば未知の温度 \(T_2\) を直接求めることができるからです。
  • ボイル・シャルルの法則の選択:
    • 選定理由: ポアソンの法則によって未知数の一つ(温度 \(T\))が特定された後、残りの未知数(圧力 \(p\))を求めるために、最も基本的で普遍的なこの法則が選択されます。
    • 適用根拠: 変化前後の状態量(\(p_1, V_1, T_1\))と、変化後の状態量の一部(\(V_2, T_2\))が判明したため、6つの状態量のうち5つが既知となりました。したがって、この法則を適用すれば、残りの1つである \(p_2\) を確実に求めることができます。
  • 別解でのアプローチ選択(\(pV^\gamma=\text{一定}\) を先に使う):
    • 選定理由: ポアソンの法則には複数の等価な表現形式があることを利用したアプローチです。どの形式も物理的には同じことを表しており、どれを使っても解けるはずだ、という理解に基づいています。
    • 適用根拠: こちらの形式 \(pV^\gamma=\text{一定}\) は、変化前後の体積 \(V_1, V_2\) と初期圧力 \(p_1\) が既知であるため、未知の圧力 \(p_2\) を直接求めることができます。模範解答とは計算の順序が逆になりますが、論理的には全く同等に正しいアプローチです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 最初に状態量をリストアップする:
    • 計算を始める前に、「状態1(前):\(p_1=1.0 \times 10^5\,\text{Pa}\), \(V_1=1.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\), \(T_1=300\,\text{K}\)」「状態2(後):\(p_2=p\), \(V_2=1.0 \times 10^{-4}\,\text{m}^3\), \(T_2=T\)」のように、情報を整理して書き出すことを強く推奨します。これにより、どの値をどこに代入するかが一目瞭然となり、代入ミスを劇的に減らせます。
  • 指数計算は分解して丁寧に行う:
    • \( \left(\frac{1.0 \times 10^{-3}}{1.0 \times 10^{-4}}\right)^{0.7} \) のような計算は、まず括弧の中を計算して \( (10^1) \) と単純化してから、外側の指数を適用する、というように段階を踏みましょう。
    • \( (10)^{1.7} \) は、\(10 \times 10^{0.7}\) と分解し、与えられた近似値 \(10^{0.7}=5.0\) を使う、という手順を省略せずに書くことが大切です。
  • 概算による検算:
    • 「断熱圧縮」なのだから、温度と圧力は必ず初期値より大きくなるはずです。計算結果が初期値より小さくなっていたら、計算ミスの可能性が濃厚です。
    • もし \(\gamma = 2\) だったら(計算しやすい仮の数値)、\(pV^2=\text{一定}\) なので、体積 \(V\) が \(1/10\) になると圧力 \(p\) は \(10^2=100\) 倍になります。今回は \(\gamma=1.7\) なので、\(p\) は \(10^{1.7}=50\) 倍になります。このように、大まかな桁の感覚が合っているかを確認するだけでも、大きなミスを発見できます。
  • 物理的にありえない値でないか吟味する:
    • 計算結果の温度が負の絶対温度になったり、圧力や体積が負になったりした場合は、100%計算ミスです。今回の結果 \(T = 1500\,\text{K}\) は高温ですが、ディーゼルエンジンの圧縮着火(約\(800\,\text{K}\))などを考えれば、物理的に十分に起こりうる温度です。圧力 \(5.0 \times 10^6\,\text{Pa}\)(約\(50\)気圧)も高圧ですが、これも妥当な範囲です。
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317 定圧変化と熱力学の第1法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: ボイル・シャルルの法則を用いる解法
      • 模範解答が定圧変化に特化したシャルルの法則を用いるのに対し、別解ではより一般的なボイル・シャルルの法則からアプローチし、定圧条件を適用することで同じ結論を導きます。
    • 設問(2)の別解: 状態方程式と温度変化から仕事を求める解法
      • 模範解答が仕事の定義である \(W_{\text{した仕事}}=p\Delta V\) や \(W_{\text{した仕事}}=Fx\) を用いるのに対し、別解では定圧変化の仕事のもう一つの重要な公式である \(W_{\text{した仕事}}=nR\Delta T\) を用いて計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: シャルルの法則が、より普遍的なボイル・シャルルの法則の特殊な場合に過ぎないという、法則間の階層関係を理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 同じ物理量(仕事)を、体積変化から求める方法と、温度変化から求める方法の両方を知ることで、問題に応じて最適なアプローチを選択する力が養われます。
    • 解法の選択肢拡大: 異なる公式で同じ答えが導出できることを確認することで、解法の引き出しが増え、検算にも役立ちます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「定圧変化における物理量の計算と熱力学第一法則の理解」です。ピストンが自由に動く状況での気体の膨張を、法則に基づいて定量的に計算し、エネルギーの収支を考察することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 定圧変化の特定: おもりのついたなめらかに動くピストンによって封じられた気体は、外部の圧力が一定であれば、加熱・冷却されても内部の圧力は一定に保たれます。
  2. シャルルの法則: 圧力が一定のとき、理想気体の体積 \(V\) は絶対温度 \(T\) に比例するという法則 (\(\frac{V}{T}=\text{一定}\))。
  3. 気体のする仕事: 定圧変化において、気体が外部にする仕事は \(W_{\text{した仕事}} = p\Delta V\) で計算できます。ここで \(p\) は一定の圧力、\(\Delta V\) は体積の変化量です。
  4. 熱力学第一法則: 気体が吸収した熱 \(Q\) は、内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) と、気体が外部にした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) の和に等しいというエネルギー保存則 (\(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、この変化が定圧変化であることを見抜き、シャルルの法則を適用して、温度変化に伴う体積変化を計算し、ピストンの上昇距離を求めます。
  2. (2)では、(1)で求めたピストンの上昇距離から体積の増加量を計算し、仕事の公式 \(W_{\text{した仕事}} = p\Delta V\) に代入して、気体がした仕事を求めます。
  3. (3)では、熱力学第一法則の式 (\(Q = \Delta U + W_{\text{した仕事}}\)) を考えます。気体の温度が上昇していることから内部エネルギーが増加している (\(\Delta U > 0\)) ことを根拠に、吸収した熱 \(Q\) とした仕事 \(W_{\text{した仕事}}\) の大小関係を結論付けます。

問(1)

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