「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅲ 章 12】基本問題292~300

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基本問題

292 \(p-V\)グラフ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)および(2)の別解: 気体の状態方程式を統一的に用いる解法
      • 模範解答が各状態変化に応じてボイルの法則やシャルルの法則を使い分けるのに対し、別解ではまず気体の物質量 \(n\) を求め、すべての計算を気体の状態方程式 \(pV=nRT\) のみを用いて行います。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ボイルの法則やシャルルの法則が、気体の状態方程式という一つの基本法則から導かれる特別な場合であることを体感でき、法則間の関係性への理解が深まります。
    • 解法の統一性と応用力: どのような状態変化であっても「状態方程式に立ち返る」という統一的かつ強力なアプローチを学ぶことができます。これにより、法則の使い分けに迷うことがなくなり、より複雑な問題にも対応できる応用力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、思考の出発点や計算の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「\(p-V\)グラフの読み取りと理想気体の状態変化」です。グラフから気体の状態量(圧力・体積)を正確に読み取り、各状態変化の特性(等温、定圧、定積)を見抜いて、適切な物理法則を適用する能力を養います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(p-V\)グラフの解釈: グラフの縦軸が圧力 \(p\)、横軸が体積 \(V\) を表しており、グラフ上の各点が気体のある状態を示していることを理解していること。また、軸の単位(\(\times 10^5\,\text{Pa}\) や \(\times 10^{-3}\,\text{m}^3\))を正しく読み取れること。
  2. 理想気体の状態変化の法則:
    • 等温変化(温度一定): ボイルの法則 \(pV = \text{一定}\) が成り立つ。
    • 定圧変化(圧力一定): シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
    • 定積変化(体積一定): ゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  3. 絶対温度の理解: 気体の状態変化を扱う法則では、温度は必ず絶対温度 \(T\,\text{[K]}\) を用いなければならないこと。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、「温度が一定」という条件からボイルの法則を適用します。グラフから状態CまたはDの圧力と体積を読み取り、その積を計算することで関係式を求めます。
  2. (2)では、AD間が定圧変化であることに着目し、シャルルの法則を用いて状態Aの温度を求めます。同様に、BC間が定圧変化であることに着目し、シャルルの法則を用いて状態Bの温度を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
「CD間は、温度が一定の変化である」と明記されているため、これは等温変化です。したがって、ボイルの法則 \(pV = \text{一定}\) が成り立ちます。この「一定値」を求めるために、CD上のいずれかの点の圧力と体積の値をグラフから読み取ります。点C、点Dどちらの点を使っても同じ結果になります。
この設問における重要なポイント

  • 等温変化では、ボイルの法則 \(pV = \text{一定}\) が成り立つ。
  • グラフの軸の単位に注意して、状態CまたはDの圧力と体積を正確に読み取る。

具体的な解説と立式
CD間は等温変化なので、ボイルの法則より、この変化の間の任意の点 \((p, V)\) において、積 \(pV\) は一定の値をとります。
$$ pV = \text{一定} $$
この一定値を求めるため、グラフから状態Cの値を読み取ります。

  • 圧力 \(p_C = 3.0 \times 10^5\,\text{Pa}\)
  • 体積 \(V_C = 2.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\)

したがって、CD間の関係式は、
$$ pV = p_C V_C $$
となります。

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(pV = \text{一定}\)
計算過程

読み取った値を代入して、一定値を計算します。
$$
\begin{aligned}
pV &= (3.0 \times 10^5) \times (2.0 \times 10^{-3}) \\[2.0ex]
&= 6.0 \times 10^{5-3} \\[2.0ex]
&= 6.0 \times 10^2
\end{aligned}
$$
(検算として、状態Dの値 \(p_D = 2.0 \times 10^5\,\text{Pa}\), \(V_D = 3.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\) を使っても、積は \(6.0 \times 10^2\) となり、一致します。)

この設問の平易な説明

温度が一定のとき、気体の圧力と体積には「掛け算すると常に同じ値になる」というルール(ボイルの法則)があります。この問題では、CDの間がそのルールに従うと教えてくれています。なので、C点(またはD点)の圧力と体積をグラフから読み取って掛け算すれば、その「同じ値」が求まり、関係式が完成します。

結論と吟味

CD間での圧力 \(p\) と体積 \(V\) の関係は \(pV = 6.0 \times 10^2\) と表せます。この式の単位は \((\text{Pa}) \times (\text{m}^3) = (\text{N}/\text{m}^2) \times \text{m}^3 = \text{N}\cdot\text{m} = \text{J}\) となり、エネルギーの次元を持つことがわかります。これは状態方程式 \(pV=nRT\) の右辺と一致します。

解答 (1) \(pV = 6.0 \times 10^2\)
別解: 気体の状態方程式を統一的に用いる解法

思考の道筋とポイント
気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を用います。CD間の温度 \(T_{CD}\) は \(9.0 \times 10^2\,\text{K}\) で一定です。状態Cの \(p_C, V_C, T_C\) の値を用いて、まず気体の物質量 \(n\) を(気体定数 \(R\) を用いて)表します。そして、CD間の関係式 \(pV = nRT_{CD}\) に代入することで、関係式を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を基本に考える。
  • 「一定質量の理想気体」なので物質量 \(n\) は一定。
  • CD間は温度 \(T\) も一定なので、\(nRT\) の値が一定となる。

具体的な解説と立式
気体の状態方程式は \(pV=nRT\) です。
まず、状態Cにおいてこの式を適用し、この気体の \(nR\) の値を求めます。
\(p_C = 3.0 \times 10^5\,\text{Pa}\), \(V_C = 2.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\), \(T_C = 9.0 \times 10^2\,\text{K}\) なので、
$$
\begin{aligned}
(3.0 \times 10^5) \times (2.0 \times 10^{-3}) &= nR \times (9.0 \times 10^2) \\[2.0ex]
6.0 \times 10^2 &= nR \times (9.0 \times 10^2)
\end{aligned}
$$
この式を \(nR\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
nR &= \frac{6.0 \times 10^2}{9.0 \times 10^2} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}
\end{aligned}
$$
CD間は温度 \(T_{CD} = 9.0 \times 10^2\,\text{K}\) で一定なので、この間の関係式は、
$$
\begin{aligned}
pV &= nRT_{CD} \\[2.0ex]
&= \left( \frac{2}{3} \right) \times (9.0 \times 10^2)
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
pV &= \frac{2 \times 9.0 \times 10^2}{3} \\[2.0ex]
&= 2 \times 3.0 \times 10^2 \\[2.0ex]
&= 6.0 \times 10^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ボイルの法則の親玉である「気体の状態方程式」を使って、もっと根本から考えてみる方法です。まず、C点の圧力・体積・温度の情報を使って、この気体が「どれくらいの量」なのかを計算します。そして、その気体の量がCD間では変わらないことを利用して、圧力と体積の関係式を立てます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、まず気体の「量」(\(n\))を特定し、それを使って法則を記述するという、より根本的なアプローチです。

解答 (1) \(pV = 6.0 \times 10^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
状態Aと状態Bの温度を求めます。

  • 状態Aの温度 \(T_A\): グラフから、A→Dの変化は圧力が \(p=2.0 \times 10^5\,\text{Pa}\) で一定の「定圧変化」です。したがって、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が使えます。状態Aと状態Dを比較します。状態Dの温度はCD間と等しいので \(T_D = 9.0 \times 10^2\,\text{K}\) です。
  • 状態Bの温度 \(T_B\): グラフから、B→Cの変化は圧力が \(p=3.0 \times 10^5\,\text{Pa}\) で一定の「定圧変化」です。同様にシャルルの法則が使えます。状態Bと状態Cを比較します。状態Cの温度は \(T_C = 9.0 \times 10^2\,\text{K}\) です。

この設問における重要なポイント

  • \(p-V\)グラフで水平な直線は「定圧変化」を表し、シャルルの法則が適用できる。
  • 比較する2つの状態を正しく選び、グラフから値を正確に読み取る。

具体的な解説と立式
【状態Aの温度 \(T_A\) の計算】

AD間は定圧変化なので、シャルルの法則より \(\displaystyle\frac{V_A}{T_A} = \frac{V_D}{T_D}\) が成り立ちます。
グラフから読み取る値は、

  • \(V_A = 1.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\)
  • \(V_D = 3.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\)

また、\(T_D = 9.0 \times 10^2\,\text{K}\) です。
よって、
$$ \frac{1.0 \times 10^{-3}}{T_A} = \frac{3.0 \times 10^{-3}}{9.0 \times 10^2} $$
【状態Bの温度 \(T_B\) の計算】

BC間は定圧変化なので、シャルルの法則より \(\displaystyle\frac{V_B}{T_B} = \frac{V_C}{T_C}\) が成り立ちます。
グラフから読み取る値は、

  • \(V_B = 1.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\)
  • \(V_C = 2.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\)

また、\(T_C = 9.0 \times 10^2\,\text{K}\) です。
よって、
$$ \frac{1.0 \times 10^{-3}}{T_B} = \frac{2.0 \times 10^{-3}}{9.0 \times 10^2} $$

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)
計算過程

【\(T_A\) の計算】

両辺の \(10^{-3}\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{T_A} &= \frac{3}{9.0 \times 10^2} \\[2.0ex]
\frac{1}{T_A} &= \frac{1}{3.0 \times 10^2}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
T_A &= 3.0 \times 10^2\,\text{K}
\end{aligned}
$$
【\(T_B\) の計算】

両辺の \(10^{-3}\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{T_B} &= \frac{2}{9.0 \times 10^2}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
T_B &= \frac{9.0 \times 10^2}{2} \\[2.0ex]
&= 4.5 \times 10^2\,\text{K}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

圧力が同じ仲間同士では、体積と(絶対)温度が比例するというルール(シャルルの法則)があります。A点とD点は圧力が同じ仲間なので、D点の体積がA点の3倍なら、温度も3倍のはずです。B点とC点も圧力が同じ仲間なので、C点の体積がB点の2倍なら、温度も2倍のはずです。この比例関係を使って、A点とB点の温度を計算します。

結論と吟味

状態Aの温度は \(3.0 \times 10^2\,\text{K}\)、状態Bの温度は \(4.5 \times 10^2\,\text{K}\) と求まりました。
A→Bは体積一定で圧力が上昇しているので加熱(定積加熱)、B→Cは圧力一定で体積が増加しているので加熱(定圧加熱)です。したがって、温度は \(T_A < T_B < T_C\) の順に高くなるはずです。計算結果は \(3.0 \times 10^2 < 4.5 \times 10^2 < 9.0 \times 10^2\) となっており、物理的な変化の様子と矛盾しません。

解答 (2) A: \(3.0 \times 10^2\,\text{K}\), B: \(4.5 \times 10^2\,\text{K}\)
別解: 気体の状態方程式を統一的に用いる解法

思考の道筋とポイント
問(1)の別解で求めた \(nR = \frac{2}{3}\) という値を利用します。気体の状態方程式 \(T = \frac{pV}{nR}\) を使えば、どの点の温度でも、その点の圧力と体積から直接計算することができます。シャルルの法則のように、他の点と比較する必要がありません。
この設問における重要なポイント

  • 気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を基本に考える。
  • (1)で求めた、この気体に固有の値 \(nR = \frac{2}{3}\) を利用する。
  • 各点の圧力 \(p\) と体積 \(V\) をグラフから読み取り、状態方程式に代入して温度 \(T\) を直接計算する。

具体的な解説と立式
気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を温度 \(T\) について解くと、
$$ T = \frac{pV}{nR} $$
問(1)の別解より、この気体の \(nR\) の値は \(\frac{2}{3}\) であることがわかっています。

【状態Aの温度 \(T_A\) の計算】

グラフから \(p_A = 2.0 \times 10^5\,\text{Pa}\), \(V_A = 1.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\) を読み取り、式に代入します。
$$ T_A = \frac{(2.0 \times 10^5) \times (1.0 \times 10^{-3})}{2/3} $$
【状態Bの温度 \(T_B\) の計算】

グラフから \(p_B = 3.0 \times 10^5\,\text{Pa}\), \(V_B = 1.0 \times 10^{-3}\,\text{m}^3\) を読み取り、式に代入します。
$$ T_B = \frac{(3.0 \times 10^5) \times (1.0 \times 10^{-3})}{2/3} $$

使用した物理公式

  • 気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
計算過程

【\(T_A\) の計算】
$$
\begin{aligned}
T_A &= \frac{2.0 \times 10^2}{2/3} \\[2.0ex]
&= (2.0 \times 10^2) \times \frac{3}{2} \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 10^2\,\text{K}
\end{aligned}
$$
【\(T_B\) の計算】
$$
\begin{aligned}
T_B &= \frac{3.0 \times 10^2}{2/3} \\[2.0ex]
&= (3.0 \times 10^2) \times \frac{3}{2} \\[2.0ex]
&= 4.5 \times 10^2\,\text{K}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)の別解で、この気体の「個性」とも言える量(物質量)をすでに計算しました。あとは、気体の法則の親玉である「状態方程式」という万能計算機に、A点やB点の圧力と体積をインプットすれば、それぞれの温度が直接計算できます。他の点と比べる必要がない、とても直接的な方法です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、まず気体の物質量を特定し、あとは各点の \(p, V\) の値から状態方程式を使って機械的に温度を計算できるため、どの法則を使うか迷う必要がないという利点があります。

解答 (2) A: \(3.0 \times 10^2\,\text{K}\), B: \(4.5 \times 10^2\,\text{K}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • \(p-V\)グラフの解釈と状態変化の法則の適用
    • 核心: この問題の根幹は、\(p-V\)グラフという視覚情報から、気体の状態量(圧力・体積)を正確に読み取り、グラフの軌跡の形状から状態変化の種類(定圧、等温など)を判断し、それぞれに対応する物理法則(シャルルの法則、ボイルの法則など)を的確に選択・適用する能力です。
    • 理解のポイント:
      • グラフの読み取り: 縦軸が圧力 \(p\)、横軸が体積 \(V\) を表します。各点(A, B, C, D)が気体の特定の状態を示し、矢印で結ばれた線が状態変化のプロセスを表します。軸の単位(\(\times 10^5\,\text{Pa}\) など)を見落とさないことが極めて重要です。
      • グラフ形状と法則の対応:
        • 水平な線(AD, BC): 圧力が一定なので「定圧変化」。シャルルの法則(\(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\))が適用できます。
        • 垂直な線(AB): 体積が一定なので「定積変化」。ゲイ=リュサックの法則(\(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\))が適用できます。
        • 反比例の曲線(CD): 問題文で「温度が一定」と与えられており、「等温変化」。ボイルの法則(\(pV = \text{一定}\))が適用できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 熱力学第一法則との融合問題: グラフで囲まれた面積が気体が1サイクルで外部にした仕事を表すことを利用して、内部エネルギーの変化や吸収・放出した熱量を計算させる問題。
    • \(p-T\)グラフ、\(V-T\)グラフの問題: 異なる種類のグラフでも、考え方は同じです。グラフの形状から状態変化の種類を特定することが第一歩です。例えば、\(V-T\)グラフで原点を通る直線は「定圧変化」を表します。
    • 断熱変化を含むサイクル: \(p-V\)グラフ上で、等温変化の曲線よりも傾きが急な曲線で表される「断熱変化」を含むサイクル問題。ポアソンの法則(\(pV^\gamma = \text{一定}\))や熱力学第一法則(\(Q=0\))を用いて解析します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずグラフの軸と単位を確認する: 何のグラフ(\(p-V\), \(p-T\), \(V-T\))か、そして軸の単位は何かを最初に確認します。単位の見落としは致命的なミスにつながります。
    2. 各プロセス(A→Bなど)の種類を特定する: グラフの線の形状(水平、垂直、曲線)から、各状態変化が定圧、定積、等温、断熱のどれに該当するかを判断します。
    3. 状態量を表にまとめる: 各点(A, B, C, D)について、グラフから読み取れる圧力 \(p\) と体積 \(V\)、そして問題文で与えられたり計算で求めたりする温度 \(T\) を一覧表にすると、思考が整理され、計算ミスを防げます。
    4. 温度が既知の点を基準にする: この問題ではCD間の温度が与えられているので、点Cや点Dを基準点として、シャルルの法則などを用いて他の点の温度を計算していくのが定石です。
    5. 状態方程式という万能ツールを意識する: どの法則を使うか迷ったときや、より根本的に解きたいときは、気体の状態方程式 \(pV=nRT\) に立ち返るのが有効です。特に、ある一点の状態量(\(p, V, T\))がすべて分かれば、その気体の物質量 \(n\)(あるいは \(nR\) の値)が特定でき、他のどの点の状態量も計算可能になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • グラフの軸の単位の読み取りミス:
    • 誤解: 軸のラベルにある \(\times 10^5\) や \(\times 10^{-3}\) を見落とし、例えば点Cの圧力を \(3.0\,\text{Pa}\)、体積を \(2.0\,\text{m}^3\) として計算してしまう。
    • 対策: グラフ問題を解くときは、まず最初に軸の単位表記に大きな丸をつけるなどして、意識を強制的に向けさせましょう。「\(p_C = 3.0 \times 10^5\,\text{Pa}\)」のように、値を書き出す際に必ず単位とセットにする癖をつけることが最も効果的です。
  • 比較する2つの状態の選択ミス:
    • 誤解: 例えば、A点とC点のように、定圧でも等温でもない関係の2点間で、シャルルの法則やボイルの法則を無理やり適用しようとしてしまう。
    • 対策: 各法則が成り立つ条件を正確に理解することが重要です。シャルルの法則は「圧力が一定の線上にある2点間」、ボイルの法則は「温度が一定の線上にある2点間」でのみ使えます。必ず、どの変化の法則を、どの区間に適用するのかを明確にしてから立式しましょう。
  • シャルルの法則でセルシウス温度を使う:
    • 誤解: もし問題で温度がセルシウス温度で与えられた場合、絶対温度に変換せずに計算してしまう。
    • 対策: 「気体の法則で使う温度は、絶対温度」という熱力学の大原則を徹底しましょう。問題文に \(^\circ\text{C}\) が出てきたら、条件反射で \(+273\) をして絶対温度 \(\text{K}\) に直す習慣をつけることが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(ボイルの法則):
    • 選定理由: 問題文に「CD間は、温度が一定の変化である」と明確に指定されています。この「等温変化」における圧力と体積の関係を記述する法則が、ボイルの法則 \(pV=\text{一定}\) です。したがって、この条件に最も特化した公式を選択するのが合理的です。
    • 適用根拠: 「一定質量の理想気体」であり、かつ「温度が一定」という条件が揃っているため、気体の状態方程式 \(pV=nRT\) の右辺 \(nRT\) が定数となります。その結果、左辺の \(pV\) も定数とならなければならない、というのがボイルの法則を適用する論理的な根拠です。
  • (2)での公式選択(シャルルの法則):
    • 選定理由: グラフの形状から、AD間およびBC間は水平な直線、すなわち「定圧変化」であることが読み取れます。この定圧変化における体積と(絶対)温度の関係を記述する法則が、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T}=\text{一定}\) です。
    • 適用根拠: 「一定質量の理想気体」であり、かつ「圧力が一定」という条件が揃っているため、気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を変形した \(\displaystyle\frac{V}{T}=\frac{nR}{p}\) の右辺が定数となります。その結果、左辺の \(\displaystyle\frac{V}{T}\) も定数とならなければならない、というのがシャルルの法則を適用する論理的な根拠です。
  • 別解でのアプローチ選択(気体の状態方程式):
    • 選定理由: ボイルの法則やシャルルの法則は、すべて状態方程式 \(pV=nRT\) から導かれる、いわば「子分」のようなものです。したがって、最も基本的で普遍的な「親分」である状態方程式から出発すれば、どんな状態変化も統一的に扱うことができます。特に、ある一点の状態量(\(p, V, T\))がすべて分かっている場合、その気体の物質量 \(n\)(あるいは \(nR\) の値)を特定でき、他のどの点の状態量も直接計算できるため、非常に強力なアプローチとなります。
    • 適用根拠: 状態方程式は、理想気体のどの状態においても成立する普遍的な法則です。この法則の正しさが、あらゆる計算の出発点となる根拠を与えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を含めて値を書き出す:
    • グラフから値を読み取るときは、\(p_C = 3.0 \times 10^5\,\text{Pa}\) のように、必ず単位と指数をセットで書き出す癖をつけましょう。これにより、単位の見落としという初歩的かつ致命的なミスを防げます。
  • 指数計算のルールを徹底する:
    • \((3.0 \times 10^5) \times (2.0 \times 10^{-3}) = (3.0 \times 2.0) \times 10^{5-3} = 6.0 \times 10^2\) のように、係数部分と指数部分を分けて計算すると、計算ミスが減り、検算もしやすくなります。
  • 比例式は分数でスマートに解く:
    • (2)のシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V_A}{T_A} = \frac{V_D}{T_D}\) は、\(T_A = T_D \times \displaystyle\frac{V_A}{V_D}\) と変形できます。これに値を代入すると \(T_A = (9.0 \times 10^2) \times \displaystyle\frac{1.0 \times 10^{-3}}{3.0 \times 10^{-3}} = (9.0 \times 10^2) \times \frac{1}{3} = 3.0 \times 10^2\,\text{K}\) となります。これは「体積が \(1/3\) になったから、絶対温度も \(1/3\) になる」という物理的な意味が分かりやすく、計算も簡単です。
  • 物理的な妥当性を吟味する(検算):
    • 計算後、各点の温度の大小関係が、グラフの変化の様子と合っているかを確認しましょう。
      • A→B: 定積加熱(圧力が上がる)→ 温度は上がるはず (\(T_A < T_B\))。計算結果: \(3.0 \times 10^2 < 4.5 \times 10^2\), OK。
      • B→C: 定圧加熱(体積が増える)→ 温度は上がるはず (\(T_B < T_C\))。計算結果: \(4.5 \times 10^2 < 9.0 \times 10^2\), OK。
    • このように、サイクル全体で温度変化の辻褄が合っているかを確認することで、計算ミスを発見できる可能性が高まります。

293 理想気体の状態変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 気体の状態方程式を用いる解法
      • 模範解答の別解で示されているシャルルの法則を主たる解法とするのに対し、別解ではより普遍的な気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を用いて体積と温度の関係を導きます。(これは模範解答の主たる解法と同じアプローチです)
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の階層性理解: 特定の条件下でのみ成り立つ法則(シャルルの法則)と、より広く適用できる一般的な法則(状態方程式)との関係性を明確に理解できます。
    • 思考の汎用性向上: 状態方程式から出発する考え方は、定圧変化だけでなく、定温変化(ボイルの法則)や定積変化など、あらゆる状態変化に応用できるため、問題解決能力の土台を強化します。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、導き出される物理的な関係は同じであり、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「理想気体の定圧変化における体積と温度の関係」です。気体の状態変化に関する法則を正しく理解し、それをグラフで表現する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. シャルルの法則: 圧力が一定のとき、一定量の気体の体積 \(V\) は、絶対温度 \(T\) に比例するという法則を理解していること。
  2. 絶対温度の理解: 気体の法則で用いる温度は、日常的に使うセルシウス温度(単位: \(^\circ\text{C}\))ではなく、絶対温度(単位: \(\text{K}\))でなければならないことを知っていること。
  3. 比例関係とグラフ: \(y=ax\) のような比例関係が、グラフ上では原点を通る直線で表されるという、数学的な知識を物理に応用できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文の「圧力を一定に保ちながら」という記述から、これは「定圧変化」であり、「シャルルの法則」が適用できる状況であると判断します。
  2. シャルルの法則が示す体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) の関係(比例関係)を数式で確認し、その関係を最も適切に表しているグラフを選択します。

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、問題文の「圧力を一定に保ちながら」という条件から、シャルルの法則が適用できることを見抜く点にあります。シャルルの法則によれば、体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) は比例関係にあります。この比例関係をグラフで表現するとどうなるかを考え、適切な選択肢を選びます。
この設問における重要なポイント

  • 圧力 \(p\) が一定(定圧変化)である。
  • シャルルの法則 \(\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 体積 \(V\) は絶対温度 \(T\) に比例する。

具体的な解説と立式
問題文には「圧力を一定に保ちながら状態を変化させる」とあります。これは定圧変化を意味します。
一定量の気体を定圧変化させるとき、体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) の間にはシャルルの法則が成り立ちます。
シャルルの法則は、
$$
\begin{aligned}
\frac{V}{T} &= k \quad (k \text{は定数})
\end{aligned}
$$
と表されます。この式を変形すると、
$$
\begin{aligned}
V &= kT
\end{aligned}
$$
となります。
これは、体積 \(V\) が絶対温度 \(T\) に比例することを意味します。\(y=ax\) の形の一次関数のグラフが原点を通る直線になるのと同様に、\(V\) を縦軸、\(T\) を横軸にとった \(V\)-\(T\) グラフは、原点を通る直線になります。
したがって、選択肢の中でこの関係を正しく表しているのはウです。

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)
計算過程

この問題では、具体的な数値を代入する計算はありません。シャルルの法則の式 \(V=kT\) が、グラフ上では原点を通る直線に対応することを理解することが計算過程に相当します。

この設問の平易な説明

風船などを温めると膨らむように、気体は一般に温めると体積が増えます。物理学では、この関係をより正確に調べます。特に「圧力」を一定に保ったまま気体を温めると、その「体積 \(V\)」は「絶対温度 \(T\)」にきれいに比例して増えていくことが知られています。これを「シャルルの法則」と呼びます。比例の関係をグラフにすると、必ず原点を通る直線になります。選択肢の中で、原点を通る直線になっているのはウだけなので、これが答えになります。

結論と吟味

シャルルの法則から、定圧条件下では体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) は比例関係 \(V \propto T\) にあることが確認できました。この関係を表すグラフは原点を通る直線です。

  • アは \(V\) が \(T\) に反比例する関係(ボイルの法則に対応)を示しています。
  • イは非線形(指数関数的など)の増加を示しており、比例関係ではありません。
  • ウは原点を通る直線であり、比例関係を正しく示しています。
  • エは \(V\) が \(T\) によらず一定である関係(定積変化に対応)を示しています。

よって、ウが最も適切です。

解答
別解: 気体の状態方程式を用いる解法

思考の道筋とポイント
シャルルの法則などの個別の法則を思い出す代わりに、より一般的で強力な法則である「気体の状態方程式 \(pV=nRT\)」から出発する方法です。この万能な式に、問題で与えられた「圧力が一定」という条件を適用することで、体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) の関係を導き出します。
この設問における重要なポイント

  • 気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を用いる。
  • 問題の条件から、圧力 \(p\)、物質量 \(n\)、気体定数 \(R\) がすべて一定値であると考える。

具体的な解説と立式
理想気体の状態は、圧力 \(p\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\)、絶対温度 \(T\) の関係を表す状態方程式で記述されます。
$$
\begin{aligned}
pV &= nRT
\end{aligned}
$$
ここで \(R\) は気体定数です。
この式を、体積 \(V\) について整理すると、
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{nR}{p}T
\end{aligned}
$$
となります。
問題文の条件を確認すると、「一定量の理想気体」とあるので物質量 \(n\) は一定です。また、「圧力を一定に保ちながら」とあるので圧力 \(p\) も一定です。気体定数 \(R\) は普遍的な定数です。
したがって、係数部分である \(\displaystyle\frac{nR}{p}\) は、全体として一つの定数とみなすことができます。この定数を \(k\) とおくと、
$$
\begin{aligned}
V &= kT
\end{aligned}
$$
という関係式が得られます。
これは、体積 \(V\) が絶対温度 \(T\) に比例することを示しており、\(V\)-\(T\) グラフは原点を通る直線になります。
よって、選択肢ウが正しいと判断できます。

使用した物理公式

  • 気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
計算過程

この別解においても、具体的な計算はありません。状態方程式を \(V\) について整理し、定数となる項をまとめることで、\(V\) と \(T\) の関係が比例であることを導出するプロセスが重要です。

この設問の平易な説明

気体のふるまいを説明する「万能の公式」が状態方程式 \(pV=nRT\) です。この公式に、今回の問題の条件である「量は一定」「圧力も一定」を当てはめて、式を整理してみます。すると、式は自然と「体積 \(V\) = (ある決まった数) × 絶対温度 \(T\)」というシンプルな形になります。これはまさに「比例」の関係を表す式なので、グラフは原点を通る直線であるウが答えだとわかります。

結論と吟味

気体の状態方程式という、より根本的な法則から出発しても、定圧変化という条件下では体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) が比例するという、シャルルの法則と同じ結論が導かれました。これにより、物理法則間に整合性があることが確認できます。グラフが原点を通る直線(ウ)であるという結論は、主たる解法と完全に一致します。

解答

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • シャルルの法則
    • 核心: この問題の根幹は、圧力が一定という条件下での気体の振る舞いを記述する「シャルルの法則」を理解しているかという点です。具体的には、一定量の気体の体積 \(V\) は、圧力 \(p\) が一定のとき、絶対温度 \(T\) に正比例する (\(V \propto T\)) という関係です。
    • 理解のポイント:
      • 物理的関係と数学的表現の結びつけ: 「体積 \(V\) が絶対温度 \(T\) に比例する」という物理法則が、数学的には一次関数 \(V=kT\) (\(k\) は比例定数) で表され、\(V\)-\(T\) グラフ上では「原点を通る直線」として描かれることを理解することが不可欠です。
      • 状態方程式からの導出: シャルルの法則は、より普遍的な「気体の状態方程式 \(pV=nRT\)」から導き出される特殊な場合と捉えることも重要です。状態方程式において、物質量 \(n\)、気体定数 \(R\)、そして圧力 \(p\) が一定であると考えると、式は \(V = (\displaystyle\frac{nR}{p})T\) と変形できます。ここでカッコ内はすべて定数なので、\(V\) が \(T\) に比例するという関係が導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 定温変化(ボイルの法則): 問題文に「温度を一定に保ちながら」とあれば、ボイルの法則 \(pV=\text{一定}\) が適用されます。このとき、圧力 \(p\) と体積 \(V\) は反比例の関係にあるため、\(p\)-\(V\) グラフは選択肢アのような双曲線を描きます。
    • 定積変化(ゲイ=リュサックの法則): 「体積を一定に保ちながら」という条件であれば、\(\displaystyle\frac{p}{T}=\text{一定}\) が成り立ちます。圧力 \(p\) と絶対温度 \(T\) が比例関係になるため、\(p\)-\(T\) グラフは原点を通る直線を描きます。
    • 断熱変化: 「外部との熱のやりとりがなく」という条件であれば、\(pV^\gamma = \text{一定}\) という関係(ポアソンの法則)に従います。\(p\)-\(V\) グラフ上では、等温変化のグラフ(双曲線)よりも傾きが急な曲線となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずは「不変条件」を探す: 問題文を読み、「圧力を一定に」「温度を一定に」「体積を一定に」といった、変化しない物理量(不変条件)は何かを真っ先に見つけ出します。これが、どの法則を使うかを決める最大の鍵です。
    2. 次に「変数」を確認する: どの物理量とどの物理量の関係について問われているのか(この問題では体積 \(V\) と絶対温度 \(T\))を正確に把握します。
    3. 状態方程式を思考の出発点にする: 個別の法則(ボイル、シャルルなど)を忘れても、気体の状態方程式 \(pV=nRT\) さえ覚えていれば大丈夫です。この式に「不変条件」を適用し、求めたい「変数」間の関係式を導き出すのが最も確実で応用範囲の広いアプローチです。
    4. 関係式とグラフの形を対応させる: 導出した数式がどのようなグラフに対応するかを判断します。
      • 比例 (\(y=ax\)) → 原点を通る直線
      • 反比例 (\(y=a/x\)) → 双曲線
      • 一定 (\(y=a\)) → 横軸に平行な直線
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • セルシウス温度と絶対温度の混同:
    • 誤解: 気体の法則を考える際に、日常で使うセルシウス温度 \(t\,[^\circ\text{C}]\) と物理で使う絶対温度 \(T\,[\text{K}]\) を混同してしまう。
    • 対策: 「気体の体積や圧力は、絶対温度 \(T=0\,\text{K}\) でゼロになる」と覚えましょう。したがって、気体の法則に関するグラフは、必ず絶対温度 \(T\) を基準に考えます。もし横軸がセルシウス温度 \(t\) であれば、グラフは原点 (\(t=0\)) を通らず、\(t=-273\) の点で横軸と交わる直線 (\(V=k(t+273)\)) になるはずです。問題のグラフの軸が \(T\) なのか \(t\) なのかを必ず確認する癖をつけましょう。
  • 比例・反比例とグラフの形の混同:
    • 誤解: 法則は正しく理解していても、比例関係のグラフはどれか、反比例関係のグラフはどれかを瞬時に判断できず、間違った選択肢を選んでしまう。
    • 対策: これは物理というより数学の基本です。「比例は原点を通る直線」「反比例は双曲線」という基本を再確認しましょう。物理現象を数式で表し、その数式をグラフで可視化するという一連の流れを意識して問題を解くことが大切です。
  • 状態方程式の変形ミス:
    • 誤解: 状態方程式 \(pV=nRT\) を \(V\) について解く際に、\(V = \displaystyle\frac{p}{nR}T\) のように分母と分子を逆にしてしまい、誤った関係を導いてしまう。
    • 対策: 文字式の変形は、焦らず一つずつ丁寧に行いましょう。特に、どの文字が定数でどの文字が変数かを意識しながら式を整理することが重要です。「\(V\) を求めるのだから、\(p\) は邪魔だから両辺を \(p\) で割る」というように、操作の意味を考えながら変形するとミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (主たる解法)での公式選択(シャルルの法則):
    • 選定理由: 求めたいのは「体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) の関係」であり、与えられた条件は「圧力が一定」です。この条件と変数に直接対応する物理法則が、まさにシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T}=\text{一定}\) です。
    • 適用根拠: 問題で与えられた条件(定圧)と、問われている変数間の関係(\(V\) と \(T\))に、シャルルの法則が完璧に合致しています。そのため、最も直接的かつ効率的に結論に到達できる選択肢となります。
  • (別解)でのアプローチ選択(気体の状態方程式):
    • 選定理由: 気体の状態方程式 \(pV=nRT\) は、ボイルの法則やシャルルの法則を内包する、より包括的で基本的な法則です。個別の法則を暗記していなくても、この一つの式からあらゆる状態変化を分析できるため、思考の出発点として非常に強力です。
    • 適用根拠: 理想気体の状態を記述する最も根本的な法則であるため、どのような状況にも適用が可能です。問題文の「一定量 (\(n=\text{一定}\))」「圧力を一定に (\(p=\text{一定}\))」という条件をこの方程式に適用することで、特殊な状況下での関係式 (\(V \propto T\)) を機械的に導き出すことができます。これは、一般的な原理から個別の現象を説明するという、物理学の王道的な思考プロセスです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

この問題には具体的な計算はありませんが、類似の問題で計算が必要な場合のテクニックを解説します。

  • まずは文字式で関係を導く:
    • いきなり数値を代入するのではなく、まずは \(pV=nRT\) を \(V = (\displaystyle\frac{nR}{p})T\) のように文字式のまま整理しましょう。こうすることで、物理量同士の関係性(この場合は \(V\) と \(T\) の比例関係)が明確になり、見通しが良くなります。
  • 定数と変数を意識する:
    • 式を整理する際、問題の条件から「定数になる文字」(\(n, R, p\)) と「変化する文字(変数)」(\(V, T\)) を明確に区別する癖をつけましょう。定数部分を一つの塊として認識することで、式の本質的な構造を簡単に見抜くことができます。
  • 単位の換算を徹底する:
    • 気体の計算で最も重要なのが単位です。特に温度は、問題文でセルシウス温度 \(t\,[^\circ\text{C}]\) で与えられていても、計算に使う前には必ず絶対温度 \(T\,[\text{K}] = t + 273\) に変換するルールを徹底してください。圧力 (\(\text{Pa}\)) や体積 (\(\text{m}^3\)) の単位も、気体定数 \(R\) の単位と揃える必要があります。
  • グラフの概形を自分で描いてみる:
    • \(V=kT\) のような関係式が導かれたら、選択肢を見る前に、自分で簡単な \(V\)-\(T\) グラフを描いてみることをお勧めします。「\(T=0\) のとき \(V=0\) で、そこから伸びる直線だな」と一度自分で描くことで、選択肢との照合がより確実になり、ケアレスミスを防げます。

294 仕切られた容器内の気体

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 気体の状態方程式を用いる解法
      • 模範解答が変化の前後についてボイル・シャルルの法則を適用するのに対し、別解では各気体の物質量が一定であることに着目し、変化後のそれぞれの気体の状態について状態方程式を立てて解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 法則の選択肢拡大: ボイル・シャルルの法則(変化の前後を比較する視点)と、状態方程式(ある瞬間の状態を記述する視点)という、二つの異なるアプローチを学ぶことで、問題に応じて最適な解法を選択する力が養われます。
    • 物理的本質の深化: 状態方程式から出発することで、圧力、体積、温度、そして根底にある物質量という4つの状態量を常に意識する習慣がつき、気体法則のより深い理解につながります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程は異なりますが、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「なめらかに動くピストンで仕切られた気体の状態変化」です。連結された2つの系の状態変化を、気体の法則と力学的なつり合い条件を組み合わせて解き明かす典型問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイル・シャルルの法則: 密閉された一定量の気体について、圧力 \(p\)、体積 \(V\)、絶対温度 \(T\) の間に \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) の関係が成り立つこと。
  2. ピストンの静止条件(力のつり合い): なめらかに動くピストンが静止しているとき、ピストンの両側から気体が及ぼす力はつり合っています。これは、両側の気体の圧力が等しいことを意味します。
  3. 状態方程式: 理想気体の状態を表す普遍的な関係式 \(pV=nRT\) を理解し、適用できること(別解で使用)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、Bの気体を加熱した際に起こる物理現象(熱運動の活発化と膨張)を直感的に考察し、ピストンの移動方向を判断します。
  2. (2)では、まずピストンの移動距離を未知数 \(x\) として設定します。次に、ピストンが静止していることから、変化後のA室とB室の圧力が等しいという条件を使います。最後に、A室、B室それぞれについて、変化の前と後でボイル・シャルルの法則を立式し、得られた連立方程式を解いて \(x\) を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
気体の温度を上げると、気体分子の熱運動が激しくなります。これにより、分子がピストンに衝突する勢いと頻度が増し、結果として気体は膨張しようとします。この基本的な性質を考えれば、ピストンがどちらに動くかは明らかです。
この設問における重要なポイント

  • 温度の上昇は、気体分子の熱運動のエネルギーが増加することを意味する。
  • 熱運動が活発になると、気体は膨張する。

具体的な解説と立式
Bの気体の温度を \(T_0\) から \(T\) (\(T>T_0\)) に上昇させると、Bの気体分子の熱運動がより活発になります。その結果、Bの気体は膨張し、内部からピストンを押す力が強くなります。この力によって、ピストンはAの気体を圧縮しながらA側に移動します。

この設問の平易な説明

部屋Bをストーブで暖めるような状況を想像してください。部屋の中の空気(気体)は温められると膨らんで、部屋を仕切っている壁(ピストン)を、暖房していない部屋Aのほうへグイグイと押し返します。したがって、ピストンはA側に動きます。

結論と吟味

温度を上げた側の気体が膨張し、もう一方の気体を圧縮するというのは、物理的に自然な現象です。したがって、ピストンはA側に移動するという結論は妥当です。

解答 (1) A側

問(2)

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、2つの気体の状態変化を、1つの共通の変数(変化後の圧力 \(p\))と求めたい変数(移動距離 \(x\))で関連付けて連立方程式を立てることです。A, Bそれぞれについて、独立にボイル・シャルルの法則を適用し、最後に「圧力が等しい」という条件で2つの式を結びつけます。
この設問における重要なポイント

  • ピストンがなめらかに動き、最終的に静止するため、変化後のAとBの気体の圧力は等しい。これを \(p\) とおく。
  • ピストンの移動距離を \(x\) とおき、変化後のA, Bの体積を \(L, x\) を用いて表す。
  • A, Bそれぞれの気体について、変化前と変化後でボイル・シャルルの法則を適用する。

具体的な解説と立式
ピストンの移動距離を \(x\) とします。(1)よりピストンはA側に移動するので、Aの長さは \(L-x\)、Bの長さは \(L+x\) となります。容器の断面積を \(S\) とすると、変化後の体積はそれぞれ \(V_A = S(L-x)\), \(V_B = S(L+x)\) です。
また、変化後のA, Bの気体の圧力をともに \(p\) とします。

  • 気体Aについて
    • 変化前: 圧力 \(p_0\), 体積 \(V_0 = SL\), 温度 \(T_0\)
    • 変化後: 圧力 \(p\), 体積 \(V_A = S(L-x)\), 温度 \(T_0\) (Aの温度は保たれる)

    ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) より、
    $$ \frac{p_0(SL)}{T_0} = \frac{p\{S(L-x)\}}{T_0} \quad \cdots ① $$

  • 気体Bについて
    • 変化前: 圧力 \(p_0\), 体積 \(V_0 = SL\), 温度 \(T_0\)
    • 変化後: 圧力 \(p\), 体積 \(V_B = S(L+x)\), 温度 \(T\)

    ボイル・シャルルの法則より、
    $$ \frac{p_0(SL)}{T_0} = \frac{p\{S(L+x)\}}{T} \quad \cdots ② $$

これで、未知数 \(p\) と \(x\) を含む2本の式が立てられました。

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\)
計算過程

式①と式②は、ともに左辺が \(\displaystyle\frac{p_0(SL)}{T_0}\) で等しいので、右辺同士も等しくなります。
$$
\begin{aligned}
\frac{p\{S(L-x)\}}{T_0} &= \frac{p\{S(L+x)\}}{T}
\end{aligned}
$$
この式の両辺から共通の \(pS\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{L-x}{T_0} &= \frac{L+x}{T}
\end{aligned}
$$
この式を \(x\) について解きます。両辺に \(T_0 T\) を掛けて分母を払うと、
$$
\begin{aligned}
T(L-x) &= T_0(L+x) \\[2.0ex]
TL – Tx &= T_0L + T_0x \\[2.0ex]
TL – T_0L &= Tx + T_0x \\[2.0ex]
(T – T_0)L &= (T + T_0)x
\end{aligned}
$$
したがって、移動距離 \(x\) は、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{T-T_0}{T+T_0}L
\end{aligned}
$$
と求まります。

この設問の平易な説明

部屋Aと部屋B、それぞれについて「変化前の状態」と「変化後の状態」を比べるための式(ボイル・シャルルの法則)を立てます。このとき、ピストンが最終的に止まるということは、変化後のAとBの圧力が同じ値になっているはずです。この「圧力が同じ」という事実を手がかりにして2つの式を組み合わせると、未知数だった移動距離 \(x\) を計算することができます。

結論と吟味

ピストンの移動距離は \(x = \displaystyle\frac{T-T_0}{T+T_0}L\) となりました。
この結果を吟味してみましょう。

  • 問題の条件より \(T > T_0\) なので、分子の \((T-T_0)\) は正の値になります。分母の \((T+T_0)\) も正なので、\(x>0\) となります。これは、ピストンがA側に移動するという(1)の結果と矛盾しません。
  • もし温度を変化させなかった場合、つまり \(T=T_0\) のとき、\(x=0\) となり、ピストンは動かないはずです。これも式を満たしており、妥当です。
  • もしBをものすごく高温にした場合 (\(T \rightarrow \infty\))、\(x \rightarrow L\) となります。これはピストンがAの端まで押しやられることを意味し、物理的な直感とも合致します。
解答 (2) \(\displaystyle\frac{T-T_0}{T+T_0}L\)
別解: 気体の状態方程式を用いる解法

思考の道筋とポイント
ボイル・シャルルの法則が「変化の前後」を比較するのに対し、状態方程式 \(pV=nRT\) は「ある一瞬の状態」を記述する法則です。A, Bの気体の物質量(分子の数)はピストンが動いても変化しない、という事実に着目します。変化後のAとB、それぞれの状態について状態方程式を立て、それらを比較することで移動距離 \(x\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • A, Bそれぞれの気体の物質量 \(n_A, n_B\) は変化の前後で一定である。
  • 初期状態が同じなので、\(n_A = n_B\) である。
  • 変化後のA, Bの圧力は等しい。

具体的な解説と立式
ピストンの移動距離を \(x\)、変化後の圧力を \(p\)、容器の断面積を \(S\) とします。
A, Bの気体の物質量をそれぞれ \(n_A, n_B\) とします。
初期状態(圧力 \(p_0\), 体積 \(SL\), 温度 \(T_0\))において、状態方程式を適用すると、
$$
\begin{aligned}
p_0(SL) &= n_A R T_0
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
p_0(SL) &= n_B R T_0
\end{aligned}
$$
となり、\(n_A = n_B\) であることがわかります。この物質量を \(n\) とおきます。

次に、変化後の状態について、A, Bそれぞれに状態方程式を立てます。

  • 気体A(変化後): 圧力 \(p\), 体積 \(S(L-x)\), 温度 \(T_0\)
    $$ p\{S(L-x)\} = n R T_0 \quad \cdots ③ $$
  • 気体B(変化後): 圧力 \(p\), 体積 \(S(L+x)\), 温度 \(T\)
    $$ p\{S(L+x)\} = n R T \quad \cdots ④ $$

これで、未知数 \(p, x, n\) を含む式が立てられました。

使用した物理公式

  • 気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
計算過程

式③と式④の比をとることで、未知数 \(p, S, n, R\) を一度に消去します。
式④を式③で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{p\{S(L+x)\}}{p\{S(L-x)\}} &= \frac{nRT}{nRT_0}
\end{aligned}
$$
左辺の \(pS\) と右辺の \(nR\) がそれぞれ約分されて、
$$
\begin{aligned}
\frac{L+x}{L-x} &= \frac{T}{T_0}
\end{aligned}
$$
この式を \(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T_0(L+x) &= T(L-x) \\[2.0ex]
T_0L + T_0x &= TL – Tx \\[2.0ex]
T_0x + Tx &= TL – T_0L \\[2.0ex]
(T_0 + T)x &= (T – T_0)L
\end{aligned}
$$
したがって、移動距離 \(x\) は、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{T-T_0}{T+T_0}L
\end{aligned}
$$
となり、主たる解法と一致します。

この設問の平易な説明

部屋Aと部屋Bに入っている空気の「量(分子の数)」は、ピストンが動いても変わりません。この事実に注目して、変化後のAとB、それぞれの部屋の状態について「気体の万能公式」である状態方程式を立てます。2つの部屋の式を見比べると、求めたい移動距離 \(x\) だけが残るようにうまく式変形でき、答えを計算することができます。

結論と吟味

気体の状態方程式という、より基本的な法則から出発しても、主たる解法と完全に同じ結果が得られました。これは、ボイル・シャルルの法則が、物質量が一定であるという条件下での状態方程式から導かれる関係であることを示しています。どちらのアプローチでも解けることを理解しておくことは、応用力を高める上で非常に有益です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{T-T_0}{T+T_0}L\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 複合的な物理法則の適用
    • 核心: この問題は、単一の法則で解けるものではなく、「気体の法則」と「力学的なつり合いの条件」という2つの異なる分野の物理法則を組み合わせて解く点に核心があります。
    • 理解のポイント:
      • 気体の法則(ボイル・シャルルの法則): まず、A室、B室それぞれが独立した閉鎖系(気体の物質量が一定)であると捉え、状態変化の前後で \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) が成り立つことを適用します。これは、各気体の熱力学的な振る舞いを記述するものです。
      • 力のつり合い(圧力の均等): 次に、「なめらかに動くピストン」が最終的に「静止した」という記述から、ピストンの両側から及ぼされる力がつり合っていると判断します。断面積が共通なので、これはA室とB室の気体の圧力が等しい (\(p_A = p_B\)) ことを意味します。これは、2つの系を結びつける力学的な条件です。
      • このように、2つの気体それぞれに熱力学の法則を適用し、それらを力学の法則で結びつけて連立方程式を解く、という複合的な思考プロセスがこの問題の根幹をなしています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ピストンが固定されている場合: この場合、体積が一定の「定積変化」となります。力のつり合いを考える必要はなく、各気体についてゲイ=リュサックの法則 (\(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\)) を適用して変化後の圧力を求めます。
    • 鉛直に置かれたシリンダー内のピストン: ピストン自身の重さ \(mg\) を考慮する必要があります。力のつり合いの式は、例えば上側の気体の圧力を \(p_上\)、下側を \(p_下\) とすると、\(p_下 S = p_上 S + mg\) のようになります。圧力は等しくなりません。
    • ピストンがばねで連結されている場合: 力のつり合いの式に、ばねの弾性力 \(kx\) が加わります。例えば、\(p_A S = p_B S + kx\) のようになり、圧力差がピストンの位置に依存するようになります。
    • 容器が断熱材でできている場合: 外部との熱のやりとりがない「断熱変化」を考えます。この場合、熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q + W\)) やポアソンの法則 (\(pV^\gamma = \text{一定}\)) を用いて解くことになります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずはピストンの条件を確認する: 「なめらかに動く」のか、「固定」されているのか、「重さ」や「ばね」はあるのか。この力学的な拘束条件が、圧力の関係式を決定します。
    2. 次に熱的な条件を確認する: 各部屋は「等温」に保たれるのか、「加熱・冷却」されるのか、「断熱」されているのか。この熱力学的な条件が、適用すべき気体の法則(ボイル、シャルル、状態方程式など)を決定します。
    3. 状態量を整理する: 変化の「前」と「後」について、A室、B室それぞれの圧力 \(p\)、体積 \(V\)、温度 \(T\) を文字で設定し、表などにまとめると状況が整理しやすくなります。
    4. 立式の方針を立てる: 「各気体の状態変化の式」と「力のつり合いの式」を立て、未知数の数と式の数が合っているかを確認してから計算に進みます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 変化後の圧力を一定と勘違いする:
    • 誤解: 気体Aの温度が \(T_0\) で一定だから、圧力も一定だろうと考えてしまう。あるいは、初期圧力が \(p_0\) だったから、変化後も \(p_0\) のままだと思い込んでしまう。
    • 対策: ピストンが動くということは、両方の気体の体積が変化します。特にAは等温で圧縮されるので、ボイルの法則に従い圧力は必ず増加します。この問題で「等しい」のは、あくまで変化後の「Aの圧力とBの圧力」であり、それらは初期圧力 \(p_0\) とは異なる値 \(p\) になります。
  • 体積の表現で符号を間違える:
    • 誤解: ピストンの移動距離を \(x\) としたとき、Aの体積を \(S(L+x)\)、Bの体積を \(S(L-x)\) のように、足し引きを逆にしてしまう。
    • 対策: (1)で考察したピストンの移動方向を信じることが重要です。「Bが膨張してAを押す」のだから、「Bの長さは増え (\(L+x\))」「Aの長さは減る (\(L-x\))」と、物理現象と数式をしっかり対応させましょう。簡単な図を描いて確認する癖をつけると確実です。
  • ボイル・シャルルの法則の適用ミス:
    • 誤解: 気体Aの温度が一定なのでボイルの法則 \(p_0(SL) = p\{S(L-x)\}\) を立て、気体Bは温度が変わるのでシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{SL}{T_0} = \frac{S(L+x)}{T}\) を立ててしまう。
    • 対策: シャルルの法則は「圧力が一定」のときにしか使えません。この問題ではBの圧力も変化するので、シャルルの法則は適用できません。Aは等温変化、Bは圧力も温度も体積も変わる一般的な変化です。このような場合は、両方の変化を統一的に扱えるボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) を使うのが最も安全で間違いがありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (2)での公式選択(ボイル・シャルルの法則):
    • 選定理由: この問題は、気体が閉じ込められた状態(物質量 \(n\) が一定)で、初期状態から最終状態へ「変化」するプロセスを扱っています。物質量が一定の気体の状態変化を記述するのに最も適した法則が、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) です。
    • 適用根拠: A, Bの各気体はそれぞれ物質量が保存されているため、この法則を個別に適用できます。未知数が変化後の圧力 \(p\) と移動距離 \(x\) の2つであるのに対し、AとBで2本の独立した式を立てることができるため、連立方程式として解けるという見通しが立ちます。
  • (2)別解でのアプローチ選択(気体の状態方程式):
    • 選定理由: 気体の状態方程式 \(pV=nRT\) は、特定の状態における物理量の関係を記述する、より根本的な法則です。変化の前後を比較するのではなく、「変化後の平衡状態」そのものに着目して立式するアプローチです。
    • 適用根拠: 物質量 \(n\) が変化の前後で不変である、という物理的な事実をより直接的に利用します。まず初期状態から \(n\) を \(p_0, L, T_0\) で表し、次に変化後のA, Bの状態についてそれぞれ状態方程式を立てます。この2つの式に共通の \(n\) が含まれていることを利用して式を結合し、解を導きます。この方法は、法則の成り立ちをより深く理解することにつながります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式を有効活用する:
    • 問題文で与えられていない断面積 \(S\) は、計算の途中で必ず消去されるはずです。最初から最後まで文字 \(S\) のまま計算を進めることで、余計な変数を持ち込まずに済み、式がシンプルになります。
  • 連立方程式は最も楽な方法で解く:
    • 模範解答のように、\(\displaystyle\frac{p_0(SL)}{T_0} = (\text{Aの変化後の項})\) と \(\displaystyle\frac{p_0(SL)}{T_0} = (\text{Bの変化後の項})\) という形に立式した場合、両式の右辺を直接イコールで結ぶのが最も賢い解法です。これにより、未知数 \(p\) と定数 \(p_0, S\) を一気に消去でき、計算が大幅に簡略化されます。
  • 分数式の変形は慎重に:
    • \(\displaystyle\frac{L-x}{T_0} = \frac{L+x}{T}\) のような比例式が出てきたら、分母を払うのが基本です。両辺に \(T_0 T\) を掛けるか、「たすき掛け」をイメージして \(T(L-x) = T_0(L+x)\) と変形します。ここでの符号ミスが結果を大きく左右します。
  • 答えの妥当性を吟味する(検算):
    • 導出した答え \(x = \displaystyle\frac{T-T_0}{T+T_0}L\) が物理的に妥当かを確認しましょう。
      • 次元チェック: 右辺の分数は(温度)/(温度)で無次元。それに長さ \(L\) を掛けているので、全体として長さの次元となり、移動距離として正しいです。
      • 極端な場合を考える: もし \(T=T_0\) なら、分子がゼロになり \(x=0\)。ピストンは動かないはずなので、これは正しいです。もしBを非常に高温 (\(T \gg T_0\)) にすれば、分数の値は \(1\) に近づき、\(x \approx L\) となります。これはピストンがAの端まで移動することを意味し、直感とも合っています。このような吟味は、計算ミスを発見する強力な手段です。
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295 気体の状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 物質量を先に求め、状態方程式のみで完結させる解法
      • 模範解答がボイル・シャルルの法則(体積の計算)と状態方程式(物質量の計算)を使い分けるのに対し、別解ではまず状態方程式で物質量を求め、その結果を利用して再度状態方程式で体積を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の関連性理解: ボイル・シャルルの法則が、物質量が一定であるという条件下での状態方程式の変形に過ぎないことを、具体的な計算を通して体感できます。
    • 解法の戦略性: 求める物理量の順番を変えることで、異なるアプローチが可能になることを学べます。
    • 思考の汎用性: 状態方程式という一つの根本法則から全てを導く思考法は、応用範囲が広く強力です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「気体の状態方程式とボイル・シャルルの法則の具体的な計算への適用」です。与えられた状態量から、未知の状態量や物質量を計算する、気体分野の基本的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイル・シャルルの法則: 密閉された一定量の気体について、圧力 \(p\)、体積 \(V\)、絶対温度 \(T\) の間に \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) の関係が成り立つこと。
  2. 気体の状態方程式: 理想気体の状態を表す普遍的な関係式 \(pV=nRT\) を理解し、適用できること。
  3. 絶対温度への変換: 気体の計算では、必ずセルシウス温度 \(t\,[^\circ\text{C}]\) を絶対温度 \(T\,[\text{K}]\) に変換する必要があること (\(T = t + 273\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、気体の量が変化しないことから、ボイル・シャルルの法則を用いて、変化前後の状態を比較し、変化後の体積を求めます。
  2. 次に、気体の状態方程式を用いて、いずれかの状態(例えば初期状態)の \(p, V, T\) の値から、気体の物質量 \(n\) を求めます。
  3. すべての計算において、温度は絶対温度に変換してから代入します。

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