基本例題
基本例題1 平均の速度と瞬間の速度
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「\(x-t\)グラフの物理的な解釈」です。物体の運動の様子を表す\(x-t\)グラフから、物理的な量である「平均の速度」と「瞬間の速度」を正しく読み取る方法を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(x-t\)グラフの基本的な意味: 縦軸が物体の位置 \(x\)、横軸が時刻 \(t\) を表し、グラフ上の点は「ある時刻に物体がどの位置にいるか」を示していることを理解していること。
- 平均の速度の定義: 平均の速度 \(\bar{v}\) は、位置の変化量 \(\Delta x\) を経過時間 \(\Delta t\) で割ったもの (\(\bar{v} = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)) であり、\(x-t\)グラフ上では「2点を結ぶ直線の傾き」に相当することを理解していること。
- 瞬間の速度の定義: 瞬間の速度 \(v\) は、ある時刻における速度のことであり、\(x-t\)グラフ上では「その時刻における接線の傾き」に相当することを理解していること。
- グラフの傾きの計算: グラフ上の直線の傾きは、その直線が通る2点の座標 \((t_1, x_1)\), \((t_2, x_2)\) を用いて、\(\displaystyle\frac{x_2 – x_1}{t_2 – t_1}\) で計算できることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、平均の速度の定義に基づき、指定された2つの時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) と \(t=4.0 \, \text{s}\) における物体の位置 \(x\) をグラフから読み取り、2点を結ぶ直線の傾きを計算します。
- (2)では、瞬間の速度の定義に基づき、指定された時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) におけるグラフの接線の傾きを計算します。傾きの計算には、接線が通る2点の座標をグラフから読み取る必要があります。
問(1)
思考の道筋とポイント
「平均の速度」が問われているので、その定義を思い出します。平均の速度は、ある時間区間における位置の変化を経過時間で割ったものです。これは、\(x-t\)グラフ上で、その時間区間の始点と終点を結ぶ直線の傾きに相当します。したがって、グラフから2つの時刻に対応する位置を読み取り、傾きを計算すれば答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- 平均の速度 \(\bar{v}\) は、位置の変化量 \(\Delta x\) を経過時間 \(\Delta t\) で割ったもの。
- \(\bar{v} = \displaystyle\frac{x_2 – x_1}{t_2 – t_1}\)
- \(x-t\)グラフ上では、2点 \((t_1, x_1)\) と \((t_2, x_2)\) を結ぶ直線の傾きに等しい。
具体的な解説と立式
平均の速度を求めるには、時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) と \(t=4.0 \, \text{s}\) のときの物体の位置をグラフから読み取る必要があります。
- 時刻 \(t_1 = 2.0 \, \text{s}\) のとき、グラフの曲線から位置は \(x_1 = 4.0 \, \text{m}\)
- 時刻 \(t_2 = 4.0 \, \text{s}\) のとき、グラフの曲線から位置は \(x_2 = 16.0 \, \text{m}\)
求める平均の速度を \(\bar{v}\) とすると、その定義式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{\Delta x}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= \frac{x_2 – x_1}{t_2 – t_1}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 平均の速度: \(\bar{v} = \displaystyle\frac{\text{位置の変化}}{\text{経過時間}} = \frac{\Delta x}{\Delta t}\)
上記で立てた式に、グラフから読み取った値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{16.0 – 4.0}{4.0 – 2.0} \\[2.0ex]
&= \frac{12.0}{2.0} \\[2.0ex]
&= 6.0
\end{aligned}
$$
したがって、平均の速度は \(6.0 \, \text{m/s}\) となります。
「平均の速度」とは、目的地までにかかった時間と移動した距離から計算する、ざっくりとした速さのことです。例えば、家から学校まで途中で寄り道をしても、「全体で30分かかって、3km進んだから、平均の速さは時速6kmだな」と計算するようなものです。
この問題では、時刻 \(2.0\) 秒の時点では \(4.0 \, \text{m}\) の場所にいて、時刻 \(4.0\) 秒の時点では \(16.0 \, \text{m}\) の場所にいた、ということがグラフからわかります。つまり、\(2.0\) 秒間で \(12.0 \, \text{m}\) 進んだわけです。なので、平均の速度は「\(12.0 \, \text{m} \div 2.0 \, \text{s} = 6.0 \, \text{m/s}\)」と計算できます。これはグラフの2点を結んだ直線の傾きを計算することと同じです。
時刻 \(2.0 \, \text{s}\) から \(4.0 \, \text{s}\) の間の平均の速度は \(6.0 \, \text{m/s}\) となります。グラフを見ると、この区間で物体の位置は大きく変化しており、正の向きに速く進んでいることがわかるため、この値は妥当と考えられます。
問(2)
思考の道筋とポイント
「瞬間の速度」が問われています。これは、ある特定の時刻における速度のことで、車のスピードメーターが示すような値です。\(x-t\)グラフ上では、その時刻におけるグラフの「接線の傾き」に相当します。問題では、時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) における接線がすでに描かれているため、この直線の傾きを計算することが目標となります。
この設問における重要なポイント
- 瞬間の速度 \(v\) は、ある時刻における速度のこと。
- \(x-t\)グラフ上では、その時刻における接線の傾きに等しい。
- 傾きを計算するためには、接線が通る2点の座標を正確に読み取る必要がある。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) における瞬間の速度 \(v\) は、この時刻における\(x-t\)グラフの接線の傾きに等しくなります。
問題の図には、この接線が描かれています。この接線の傾きを求めるために、接線が通る2点の座標をグラフから読み取ります。
- 1点目は接点であり、\((t_1, x_1) = (2.0 \, \text{s}, 4.0 \, \text{m})\)
- 2点目として、グラフから読み取りやすい点を探すと、\((t_2, x_2) = (4.0 \, \text{s}, 12.0 \, \text{m})\) を通っていることがわかります。
求める瞬間の速度 \(v\) は、この2点を通る直線の傾きとして計算できます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{x_2 – x_1}{t_2 – t_1}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 瞬間の速度: \(v = (\text{\(x-t\)グラフのある点における接線の傾き})\)
上記で立てた式に、グラフから読み取った接線上の2点の座標を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{12.0 – 4.0}{4.0 – 2.0} \\[2.0ex]
&= \frac{8.0}{2.0} \\[2.0ex]
&= 4.0
\end{aligned}
$$
したがって、瞬間の速度は \(4.0 \, \text{m/s}\) となります。
「瞬間の速度」とは、その一瞬一瞬の速さのことです。車のスピードメーターが指しているのが、まさにその瞬間の速さです。
グラフで言うと、その瞬間の「勢い」が瞬間の速度に対応します。グラフの傾きが急なほど勢いよく進んでいる(速い)ことを意味します。時刻 \(2.0\) 秒の瞬間の勢いを知るには、その点に引かれた「接線」という補助線の傾きを調べればよいのです。この接線は、点 \((2.0 \, \text{s}, 4.0 \, \text{m})\) と点 \((4.0 \, \text{s}, 12.0 \, \text{m})\) を通っているので、この2点から傾きを計算すると \(4.0 \, \text{m/s}\) となり、これが時刻 \(2.0\) 秒の瞬間の速度になります。
時刻 \(2.0 \, \text{s}\) における瞬間の速度は \(4.0 \, \text{m/s}\) となります。グラフ全体を見ると、時間が経つにつれて傾きが急になっている(加速している)ことがわかります。(1)で求めた \(2.0 \, \text{s}\) から \(4.0 \, \text{s}\) の間の平均の速度 \(6.0 \, \text{m/s}\) と比較すると、区間の始まりである \(t=2.0 \, \text{s}\) の瞬間の速度 \(4.0 \, \text{m/s}\) はそれよりも小さい値となっており、加速運動をしているというグラフの様子と矛盾しない、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- グラフの幾何学的特徴と物理量の対応
- 核心: この問題の根幹は、\(x-t\)グラフという数学的な表現が持つ幾何学的な特徴(傾き)と、我々が知りたい物理的な量(速度)とが、どのように対応しているかを理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 平均の速度(区間の情報): 平均の速度は、ある時間区間 \(\Delta t\) における位置の変化 \(\Delta x\) の割合です。これはグラフ上で、その区間の始点と終点の2点を結ぶ「直線の傾き」に完全に一致します。
- 瞬間の速度(点の情報): 瞬間の速度は、ある特定の時刻における速度です。これはグラフ上で、その時刻の点における「接線の傾き」に完全に一致します。接線とは、その点での運動の「勢い」を表現した直線と考えることができます。
- 速度の定義の視覚的理解
- 核心: 「平均の速度」と「瞬間の速度」という言葉の定義を、数式だけでなく、グラフ上の視覚的なイメージとして捉えることが重要です。
- 理解のポイント:
- \(\bar{v} = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) という式は、単なる計算式ではなく、「\(x-t\)グラフ上の2点を結ぶ線の傾き」という幾何学的な操作そのものを表しています。
- 瞬間の速度は、平均の速度を求める時間区間 \(\Delta t\) を限りなくゼロに近づけたもの、という概念が、グラフ上では「2点を結ぶ直線が接線に近づいていく」というイメージに対応します。このつながりを理解することが、微分・積分の物理への応用を学ぶ上での第一歩となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- \(v-t\)グラフを扱う問題: 速度 \(v\) と時刻 \(t\) の関係を表す\(v-t\)グラフでは、対応関係が変わります。
- 傾き: \(v-t\)グラフの傾きは「加速度」を表します。
- 面積: \(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた部分の面積は「位置の変化量(移動距離)」を表します。
- \(x-t\)グラフとの違いを明確に区別して覚えることが重要です。
- グラフから運動の種類を判断する問題:
- \(x-t\)グラフが「直線」なら、傾きが一定なので「等速直線運動」。
- \(x-t\)グラフが「上に凸または下に凸の放物線」なら、接線の傾きが一定の割合で変化するので「等加速度直線運動」。
- このように、グラフの概形から物体の運動の様子を定性的に読み取る問題に応用できます。
- \(v-t\)グラフを扱う問題: 速度 \(v\) と時刻 \(t\) の関係を表す\(v-t\)グラフでは、対応関係が変わります。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を最優先で確認: 問題を見たら、まず縦軸と横軸がそれぞれ何を表しているか(\(x-t\)グラフか、\(v-t\)グラフか、\(a-t\)グラフか)を確認する癖をつけましょう。これが全ての思考の出発点です。
- 問われている物理量と時間指定を明確化: 「平均」の速度なのか、「瞬間」の速度なのか。また、それは「いつからいつまで」の区間なのか、「どの時刻」の瞬間なのかを問題文から正確に把握します。
- 物理量とグラフ上の操作を対応させる:
- 「平均の速度」→「2点を結ぶ直線の傾き」
- 「瞬間の速度」→「接線の傾き」
- 「加速度(\(v-t\)グラフの場合)」→「傾き」
- 「移動距離(\(v-t\)グラフの場合)」→「面積」
という対応関係のリストを頭の中から引き出します。
- 座標の正確な読み取り: 傾きを計算するために必要な点の座標を、グラフの目盛りから慎重に読み取ります。特に接線の場合は、接点以外に、格子点(目盛りの線が交差する点)など、座標が整数値になって読み取りやすい点を探すのが計算ミスを減らすコツです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 平均の速度と瞬間の速度の取り違え:
- 誤解: どちらも「傾き」を求めるという点で同じだと考え、(1)で接線の傾きを、(2)で2点を結ぶ直線の傾きを計算してしまう。
- 対策: 言葉の定義と操作をセットで覚えることが有効です。「平均」は時間区間(2つの時刻)に対する量なので「2点を結ぶ」。「瞬間」は特定の時刻(1つの時刻)に対する量なので「1点で接する接線」と、関連付けて記憶しましょう。
- \(x-t\)グラフと\(v-t\)グラフの役割の混同:
- 誤解: \(x-t\)グラフの問題なのに、グラフと時間軸で囲まれた面積を計算して移動距離を求めようとするなど、\(v-t\)グラフの解法を誤って適用してしまう。
- 対策: 問題を解き始める前に、指差し確認で「これは\(x-t\)グラフ。傾きは速度。面積は意味なし!」と声に出して確認するくらいの習慣をつけることが、最も確実な対策です。
- 傾きを計算する際の座標の選択ミス:
- 誤解: (2)で瞬間の速度を求める際に、接線の傾きではなく、接点と、曲線上の別の適当な点(例えば \(t=4.0 \, \text{s}\) の点)を結んだ直線の傾きを計算してしまう。
- 対策: 求めるのはあくまで「接線」という一本の「直線」の傾きである、ということを強く意識してください。計算に使う2つの点は、必ずその接線の上から選ばなければなりません。曲線上の他の点は無関係です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 平均の速度の定義式 \(\bar{v} = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\):
- 選定理由: (1)で「平均の速度」を求めるように直接的に指示されているため、その定義式を用いるのが最も論理的です。
- 適用根拠: この式は、物理における「平均の速度」の定義そのものです。そして、\(x-t\)グラフにおいて、\(\Delta x\) は縦方向の変化量(yの変化量)、\(\Delta t\) は横方向の変化量(xの変化量)に相当します。数学における直線の傾きが「(yの変化量)/(xの変化量)」で定義されることと完全に一致するため、この式を適用することは、グラフの傾きを計算することと物理的にも数学的にも等価です。
- 瞬間の速度の概念 \(v = (\text{接線の傾き})\):
- 選定理由: (2)で「瞬間の速度」が問われており、\(x-t\)グラフが与えられているため、瞬間の速度と接線の傾きの関係性を利用するのが唯一の解法です。
- 適用根拠: 物理における「瞬間の速度」は、数学的には位置 \(x\) を時刻 \(t\) で微分することに相当します。そして、微分係数はグラフの接線の傾きを意味します。高校物理では微分を直接使わない場合でも、この「瞬間の速度 = 接線の傾き」という対応関係は、運動をグラフで理解するための根幹をなす重要なルールとして学びます。平均の速度を計算する時間区間 \(\Delta t\) を限りなくゼロに近づけると、2点を結ぶ直線が接線に収束するという極限の考え方が、このルールの背景にあります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 座標のメモ化: グラフから読み取った座標は、計算を始める前に、問題用紙の余白に「点A: \((2.0, 4.0)\)」「点B: \((4.0, 16.0)\)」のように書き出しましょう。視覚的に確認することで、代入ミスを防ぎます。
- 傾きの計算式の型を守る: 傾きを計算するときは、必ず \(\displaystyle\frac{x_2 – x_1}{t_2 – t_1}\) という分数の形を最初に書き、そこに数値を当てはめるようにします。分子と分母を間違えたり、引き算の順序を逆にしたりするケアレスミスが減ります。
- 単位による検算: 傾きの計算は「(m) ÷ (s)」を行っています。したがって、計算結果の単位は自然と「m/s」になるはずです。もし単位が合わない場合は、計算のどこかで間違いを犯している可能性があります。
- 有効数字を揃える意識: 問題のグラフの目盛りは「2.0」「4.0」「16.0」のように、小数第1位まで示されています。これは有効数字が2桁または3桁であることを意味します。計算結果もそれに合わせて、「6」ではなく「6.0」と答えるのが適切です。特に物理では、測定値の精度を反映させる有効数字の扱いは非常に重要です。
基本例題2 速度の合成と相対速度
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 速度の変換則として捉える解法
- 模範解答が相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) を未知数 \(v_B\) について解くのに対し、別解では「岸から見たBの速度」=「岸から見たAの速度」+「Aから見たBの速度」という、より直感的な速度の足し算(ガリレイの速度変換則)の観点から直接答えを導きます。
- 設問(2)の別解: 速度の変換則として捉える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 相対速度が観測者の座標系の変換に他ならないという、より普遍的な物理概念への理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: \(v_{AB} = v_B – v_A\) という公式を単に暗記するのではなく、\(v_B = v_A + v_{AB}\) のように、目的に応じて式の形を柔軟に使い分ける能力が養われます。
- ミスの軽減: 「〜から見た」という日本語と式の対応で混乱しやすい相対速度の問題において、「観測者の速度に、その観測者から見た速度を足す」という直感的なイメージで立式できるため、符号ミスなどを減らす助けになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「速度の合成」と「相対速度」です。どちらも速度がベクトル(大きさと向きを持つ量)であることを理解し、誰を基準に見た速度なのかを常に意識することが重要になります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 速度のベクトル性: 速度には「速さ」だけでなく「向き」があり、一直線上の運動では、正の向きを定めることで、速度を正負の符号で表現できること。
- 速度の合成: 「動く歩道の上を歩く人」のように、動いている基準の上でさらに物体が動くとき、地面に対する速度は2つの速度のベクトル和で表されること。
- 相対速度: 観測者Aから見た物体Bの速度(相対速度)は、物体Bの速度から観測者Aの速度をベクトル的に引き算することで求められること (\(v_{AB} = v_B – v_A\))。
- 基準系の意識: 「静水に対する速度」「岸に対する速度」「ボートAに対する速度」など、速度が「誰から見たものか」を明確に区別すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「岸から見たボートAの速度」を求めます。これは、「川の流れの速度」の上で「ボートAが自力で進む速度(静水に対する速度)」が加わるので、速度の合成によって計算します。
- (2)では、「岸から見たボートBの速度」を求めます。ボートAとボートBの間の「相対速度」が与えられているので、相対速度の公式を利用して、未知の速度を逆算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「岸から見たAの速度」は、ボートA自身の推進力による速度(静水に対する速度)と、川がボートを運ぶ速度(流れの速度)が合わさったものです。ボートは下流に向かって進み、川も下流に流れているため、2つの速度は同じ向きです。したがって、岸から見るとボートはより速く進むことになり、速さは単純な足し算で求められます。まず、一直線上の運動を扱うため、向きを正負で表すための座標軸を設定します。
この設問における重要なポイント
- 速度の合成の基本はベクトルの和。
- 「岸から見た速度」 = 「静水に対する速度」 + 「川の流れの速度」
- 同じ向きの速度の合成は、単純な速さの足し算になる。
- 計算の前に、上流から下流の向きを「正」と定める。
具体的な解説と立式
まず、座標軸を設定します。上流から下流に向かう向きを正とします。
- ボートAの静水に対する速度を \(v_{\text{A,静水}}\) とすると、船首を下流に向けているので \(v_{\text{A,静水}} = +3.5 \, \text{m/s}\)。
- 川の流れの速度を \(v_{\text{川}}\) とすると、これも下流向きなので \(v_{\text{川}} = +2.5 \, \text{m/s}\)。
求めたい岸から見たAの速度を \(v_A\) とすると、これは速度の合成によって次のように表せます。
$$
\begin{aligned}
v_A &= v_{\text{A,静水}} + v_{\text{川}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 速度の合成: \(v = v_1 + v_2\) (\(v_1, v_2\) は同じ向きの速度)
上記で立てた式に、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_A &= 3.5 + 2.5 \\[2.0ex]
&= 6.0
\end{aligned}
$$
計算結果が正の値なので、速度の向きは正の向き、すなわち上流から下流の向きです。
これは「動く歩道」で考えると分かりやすいです。自分が \(3.5 \, \text{m/s}\) で歩けるとして、進行方向と同じ向きに \(2.5 \, \text{m/s}\) で動く歩道の上を歩けば、外で静止している人から見ると、自分の速さは「歩く速さ」と「歩道の速さ」が合わさって \(3.5 + 2.5 = 6.0 \, \text{m/s}\) に見えます。ボートと川の関係もこれと全く同じです。
岸から見たボートAの速度は、上流から下流の向きに \(6.0 \, \text{m/s}\) となります。川の流れに乗って進むので、静水時より速くなるという結果は直感とも一致しており、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
「AからBを見ると」という記述から、これは相対速度の問題であると判断します。相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) を用いて、未知の量である「岸から見たBの速度 \(v_B\)」を求めます。このとき、(1)で求めた「岸から見たAの速度 \(v_A\)」と、問題文で与えられた「Aから見たBの速度 \(v_{AB}\)」の値を、(1)と同様に設定した座標軸(下流向きが正)に従って、正負の符号を正しく付けて代入することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 相対速度の公式: \(v_{AB} = v_B – v_A\) (Aから見たBの速度 = Bの速度 – Aの速度)
- 速度はベクトル量なので、正の向きを基準に、符号に注意して扱う。
- 「上流に」という向きは、下流向きを正とした場合、「負」の速度を意味する。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、上流から下流に向かう向きを正とします。
- (1)の結果より、岸から見たAの速度は \(v_A = +6.0 \, \text{m/s}\)。
- 問題文より、Aから見たBの速度は「上流に \(4.5 \, \text{m/s}\)」なので、\(v_{AB} = -4.5 \, \text{m/s}\)。
- 求めたい岸から見たBの速度を \(v_B\) とします。
これらの速度の間には、相対速度の公式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
v_{AB} &= v_B – v_A
\end{aligned}
$$
この式を、未知数である \(v_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_B &= v_A + v_{AB}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 相対速度: \(v_{AB} = v_B – v_A\)
上記で \(v_B\) について整理した式に、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_B &= (+6.0) + (-4.5) \\[2.0ex]
&= 6.0 – 4.5 \\[2.0ex]
&= 1.5
\end{aligned}
$$
計算結果が正の値なので、速度の向きは正の向き、すなわち上流から下流の向きです。
相対速度は「相手の速度から自分の速度を引き算したもの」と考えると分かりやすいです。例えば、自分が時速 \(100 \, \text{km}\) の電車に乗っていて、隣の線路を時速 \(80 \, \text{km}\) の電車が同じ向きに走っているとします。このとき、隣の電車は自分から見ると、\(80 – 100 = -20 \, \text{km/h}\) 、つまり後ろ向きに時速 \(20 \, \text{km}\) で遠ざかっていくように見えます。
この問題では、自分の速度 \(v_A = 6.0\) と、相手が後ろ向きに遠ざかる速度 \(v_{AB} = -4.5\) が分かっているので、相手の本当の速度 \(v_B\) を「\(v_B = v_A + v_{AB}\)」という逆算で求めることができます。
岸から見たボートBの速度は、上流から下流の向きに \(1.5 \, \text{m/s}\) となります。このとき、Aの速度(\(6.0 \, \text{m/s}\))とBの速度(\(1.5 \, \text{m/s}\))を比較すると、Aの方が速いです。したがって、Aから見ればBは後ろ(上流)に下がっていくように見え、その相対的な速さは \(6.0 – 1.5 = 4.5 \, \text{m/s}\) となり、問題文の記述と一致します。よって、この結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
相対速度の公式を移項した \(v_B = v_A + v_{AB}\) という式を、物理的な意味から直接立てるアプローチです。この式は「岸から見たBの速度は、(岸から見たAの速度)と(Aから見たBの速度)のベクトル和である」と解釈できます。これは、基準となる座標系を「岸」から「ボートA」へ変換し、そこでの速度を再び「岸」基準の速度に足し合わせる操作と見なせます。
この設問における重要なポイント
- 速度の変換則: \(v_B = v_A + v_{AB}\)
- 「岸から見たBの速度」 = 「岸から見たAの速度」 + 「Aから見たBの速度」
- この式は、観測者Aの速度を基準として、そこから見たBの動きを足し合わせることで、絶対的な(岸から見た)Bの動きを求める、という直感的なイメージに対応する。
具体的な解説と立式
下流向きを正とします。求めたいのは「岸から見たBの速度(\(v_B\))」です。
これは、まず基準となる「岸から見たAの速度(\(v_A\))」を考え、それに「Aという基準から見たBの速度(\(v_{AB}\))」をベクトル的に足し合わせることで求められます。
$$
\begin{aligned}
v_B &= v_A + v_{AB}
\end{aligned}
$$
(1)より \(v_A = +6.0 \, \text{m/s}\)、問題文より \(v_{AB} = -4.5 \, \text{m/s}\) です。
使用した物理公式
- ガリレイの速度変換則
上記で立てた式に、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_B &= (+6.0) + (-4.5) \\[2.0ex]
&= 1.5
\end{aligned}
$$
計算結果が正なので、向きは上流から下流の向きです。
自分が下流に \(6.0 \, \text{m/s}\) で進むボートAに乗っていると想像してください。そのボートの上から、別のボートBを見たら、上流(後ろ向き)に \(4.5 \, \text{m/s}\) で遠ざかって見えました。
では、岸にいる人から見たら、ボートBはどれくらいの速さに見えるでしょうか?
これは、「自分のボートの速さ(\(6.0\))」よりも「\(4.5\)だけ遅い」ということなので、引き算をして \(6.0 – 4.5 = 1.5 \, \text{m/s}\) と計算できます。この考え方は、公式を暗記していなくても直感的に立式できるため、非常に強力です。
主たる解法と全く同じく、岸から見たボートBの速度は上流から下流の向きに \(1.5 \, \text{m/s}\) となります。相対速度の公式を機械的に使うだけでなく、このような物理的なイメージから立式できることは、より複雑な問題に対応する上で役立ちます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 速度のベクトル性と基準系の意識
- 核心: この問題の根幹は、「速度は向きを持つベクトル量である」という事実と、「その速度は誰から見たものなのか(基準系は何か)」を常に区別して考えることにあります。物理現象は観測者によって見え方が変わる、という相対性の考え方の第一歩です。
- 理解のポイント:
- 速度の合成: 「岸から見たボートの速度」を求めることは、「静水」という動く基準系から「岸」という静止した基準系へ視点を移す操作です。このとき、基準系自身の速度(川の流れの速度)をベクトル的に足し合わせる必要があります。
- 相対速度: 「ボートAから見たボートBの速度」を考えることは、「岸」という基準系から「ボートA」という動く基準系へ視点を移す操作です。このとき、観測者自身の速度(岸から見たAの速度)をベクトル的に引き算する必要があります。
- 一直線上におけるベクトルの計算
- 核心: 運動が一直線上に限られている場合、ベクトルの足し算や引き算は、正の向きを一つ定めることで、単なる符号付きの数字(スカラー)の計算に置き換えることができます。
- 理解のポイント:
- 最初に「下流向きを正」と決めることで、「下流に \(3.5 \, \text{m/s}\)」は \(+3.5\), 「上流に \(4.5 \, \text{m/s}\)」は \(-4.5\) というように、向きの情報が符号に集約されます。
- このルールさえ守れば、あとはベクトルの矢印を意識しなくても、中学校で習う正負の数の計算だけで、物理的に正しい答えが導き出せます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 平面上の速度の合成・相対速度: 川を垂直に横断する船の問題や、風が吹く中を飛ぶ飛行機の問題が典型例です。一直線上ではないため、速度ベクトルを \(x\) 成分と \(y\) 成分に分解したり、三平方の定理や三角比を用いたりして、ベクトルの和や差を幾何学的に求める必要があります。
- 衝突・分裂問題: 運動量保存則を扱う問題でも、相対速度の考え方は重要になります。特に、はねかえり係数(反発係数)の定義式は、衝突前後の相対速度の比で表されます。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場する「速度」を全てリストアップ: 問題文を読み、「静水に対するAの速度」「川の流れの速度」「岸から見たAの速度」「Aから見たBの速度」など、登場人物となる速度をすべて書き出します。
- 基準系を明確化: それぞれの速度が「誰から見た(何に対する)」速度なのかを、下付き文字などを使って明確に区別します。(例: \(v_{\text{A,岸}}\), \(v_{\text{A,静水}}\), \(v_{\text{川,岸}}\), \(v_{\text{B,A}}\))
- 座標軸の設定: 最初に「上流から下流の向きを正とする」のように、正の向きを必ず定めます。これが計算の羅針盤になります。
- 関係式の選択:
- 「岸から見た速度」を求めたい → 速度の合成 (\(v_{\text{A,岸}} = v_{\text{A,静水}} + v_{\text{川,岸}}\))
- 「〜から見た速度」が関わっている → 相対速度 (\(v_{\text{B,A}} = v_{\text{B,岸}} – v_{\text{A,岸}}\))
というように、目的に応じて適切な公式を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向きを考慮しない符号のミス:
- 誤解: 速さ(大きさ)だけに着目してしまい、問題文の「上流に」という向きの情報を無視して、すべての速度を正の値として計算してしまう。
- 対策: 問題を解き始める前に、必ず「下流向きを正とする」と答案用紙に明記し、宣言する習慣をつけましょう。そして、問題文中の向きを表す言葉(上流、下流、右、左など)を見つけたら、即座に正負の符号(\(+\) or \(-\))に翻訳する癖をつけることが最も効果的です。
- 相対速度の引き算の順序ミス:
- 誤解: 「Aから見たBの速度」を求める際に、\(v_A – v_B\) のように、引く側と引かれる側を逆にしてしまう。
- 対策: 「Aから見たBの速度 (\(v_{AB}\))」は、「(相手であるBの速度) – (自分であるAの速度)」と、言葉の順序と式の文字の順序を対応させて覚えましょう。「〜から見た」の「〜」が、引き算の後ろに来る、と覚えるのが有効です。
- 異なる基準系の速度を混ぜて計算するミス:
- 誤解: 相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) を使う際に、\(v_B\) に「静水に対するBの速度」を、\(v_A\) に「岸から見たAの速度」を代入するなど、異なる基準(観測者)から見た速度をごちゃ混ぜにして計算してしまう。
- 対策: 相対速度の公式で使う速度は、すべて同じ基準系(通常は「岸」や「地面」)から見た速度でなければならない、という大原則を徹底してください。式を立てる前に、各速度がどの基準系から見たものかを確認するステップを必ず挟むようにしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 速度の合成 (\(v_A = v_{\text{A,静水}} + v_{\text{川}}\)):
- 選定理由: (1)では、動く基準系(川)の上で動く物体(ボート)の、静止基準系(岸)に対する速度を求める、という典型的な「速度の合成」の状況だからです。
- 適用根拠: この法則は「ガリレイの速度変換則」とも呼ばれ、私たちの日常感覚に合致するものです。岸から見たボートの微小時間後の位置は、「もし川が流れていなかったとしたら進む位置」から、さらに「川の流れによって運ばれた分」だけずれた場所になります。この関係を時間で割ることで、速度の足し算の式が導かれます。
- 相対速度 (\(v_{AB} = v_B – v_A\)):
- 選定理由: (2)では、「Aから見たBの速度」という、動いている観測者からの視点での物理量が問題に含まれています。このような、観測者が動く状況を扱うために作られたのが相対速度の公式です。
- 適用根拠: この公式は、基準系の変換という考え方に基づいています。観測者Aのいる世界(A基準系)では、A自身は止まって見えます。これは、岸から見たすべての物体の速度から、岸から見たA自身の速度 \(v_A\) をベクトル的に引き算する操作に相当します。したがって、Aから見たBの速度は、岸から見たBの速度 \(v_B\) から \(v_A\) を引いた \(v_B – v_A\) となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図による可視化: 模範解答のように、速度を矢印(ベクトル)で図示する習慣をつけましょう。特に、正の向きを明記した数直線を書き、その上に各速度ベクトルを向きと概ねの長さを反映させて描くと、符号の間違いや立式の誤りが劇的に減ります。
- 下付き文字の活用: 「岸から見たAの速度」を \(v_{\text{A,岸}}\)、「Aから見たBの速度」を \(v_{\text{B,A}}\) のように、下付き文字で「物体, 観測者」を明記する癖をつけると、どの速度を扱っているかが一目瞭然になり、式の立て間違いや代入ミスを防げます。
- 立式してから代入: いきなり数値で計算を始めず、まずは \(v_{AB} = v_B – v_A\) のように文字式で関係式を立て、求めたい文字(例: \(v_B\))について式を整理してから(\(v_B = v_A + v_{AB}\))、最後に数値を代入する、という手順を徹底しましょう。思考が整理され、計算ミスが減ります。
- 答えの吟味(検算): 計算後に出た答えが、物理的に妥当かを確認する癖をつけましょう。(2)で \(v_B = 1.5 \, \text{m/s}\) と出た後、「Aは \(6.0 \, \text{m/s}\) で、Bは \(1.5 \, \text{m/s}\) だから、Aの方が速い。だからAから見たらBは後ろ(上流)に下がっていくように見えるはず。その速さは \(6.0 – 1.5 = 4.5 \, \text{m/s}\)。うん、問題文の記述と合っているな」というように、簡単な検算をするだけで正答率が大きく向上します。
基本例題3 加速度運動のグラフ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 模範解答の主たる解法が\(v-t\)グラフの面積から一括で距離を求めるのに対し、別解では運動を3つの区間(加速、等速、減速)に分け、それぞれの区間の移動距離を公式で算出して合計します。
- 設問(2)の別解: 等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: グラフの幾何学的な性質(面積)が物理量(移動距離)に対応するという視覚的な理解と、運動方程式から導かれる数式を用いて計算する代数的な理解を結びつけ、多角的な視点を養います。
- 思考の柔軟性向上: グラフ問題に対して、図形として解くアプローチと、運動の種類を判別して公式で解くアプローチの両方を習得することで、問題解決能力の幅が広がります。
- 解法の汎用性: グラフが複雑で面積計算が困難な場合でも、区間ごとに運動を分析して公式を適用する手法は有効であり、より応用的な問題への対応力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「\(v-t\)グラフの解釈と応用」です。速度と時間の関係を表す\(v-t\)グラフから、加速度や移動距離といった他の物理量を導き出すための基本的なルールを理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(v-t\)グラフと加速度の関係: \(v-t\)グラフの「傾き」が、その時刻における加速度 \(\left(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\right)\) を表すことを理解していること。
- \(v-t\)グラフと移動距離の関係: \(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた部分の「面積」が、その時間区間における移動距離を表すことを理解していること。
- 単位の換算: グラフの横軸が「分」で与えられているのに対し、速度や加速度の計算では基本単位である「秒」に変換する必要があること。
- 運動の種類の判別: \(v-t\)グラフの形から、物体がどのような運動(等加速度直線運動、等速直線運動)をしているかを読み取れること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、\(v-t\)グラフを3つの区間(AB、BC、CD)に分け、それぞれの区間におけるグラフの傾きを計算して加速度を求め、\(a-t\)グラフを作成します。
- (2)では、\(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた台形ABCDの面積を計算することで、総移動距離を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
加速度\(a\)と時間\(t\)の関係を表す\(a-t\)グラフを作成するには、各時間区間での加速度を求める必要があります。加速度は\(v-t\)グラフの傾きに等しいので、グラフを直線で区切れる3つの区間(AB間、BC間、CD間)に分けて、それぞれの傾きを計算します。計算にあたり、時間の単位を「分」から国際単位系(SI)の基本単位である「秒」に変換することが最初の重要なステップです。
この設問における重要なポイント
- 加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t} = (v-t\text{グラフの傾き})\)
- 傾きが正なら正の加速度(加速)、傾きが0なら加速度0(等速直線運動)、傾きが負なら負の加速度(減速)。
- 時間の単位換算: 1分 = 60秒。
具体的な解説と立式
まず、グラフの横軸の「分」を「秒」に変換します。
- 点Bの時刻: \(1\text{分}40\text{秒} = 1 \times 60 + 40 = 100 \, \text{s}\)
- 点Cの時刻: \(3\text{分} = 3 \times 60 = 180 \, \text{s}\)
- 点Dの時刻: \(5\text{分} = 5 \times 60 = 300 \, \text{s}\)
次に、各区間の加速度を、\(v-t\)グラフの傾きとして計算します。
- AB間 (\(0 \, \text{s} \le t < 100 \, \text{s}\)) の加速度 \(a_{AB}\):
$$
\begin{aligned}
a_{AB} &= \frac{30 – 0}{100 – 0}
\end{aligned}
$$ - BC間 (\(100 \, \text{s} \le t < 180 \, \text{s}\)) の加速度 \(a_{BC}\):
BC間では速度が一定なので、傾きは0です。
$$
\begin{aligned}
a_{BC} &= 0
\end{aligned}
$$ - CD間 (\(180 \, \text{s} \le t \le 300 \, \text{s}\)) の加速度 \(a_{CD}\):
$$
\begin{aligned}
a_{CD} &= \frac{0 – 30}{300 – 180}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
各区間の加速度を計算します。
- AB間:
$$
\begin{aligned}
a_{AB} &= \frac{30}{100} \\[2.0ex]
&= 0.30 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$ - BC間:
$$
\begin{aligned}
a_{BC} &= 0 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$ - CD間:
$$
\begin{aligned}
a_{CD} &= \frac{-30}{120} \\[2.0ex]
&= -0.25 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
これらの結果を元に\(a-t\)グラフを作成します。横軸は問題の\(v-t\)グラフに合わせて「分」で表記します。
加速度というのは「1秒あたりに速度がどれだけ変化するか」という勢いの指標です。これは、\(v-t\)グラフの「坂道の傾き」と全く同じ意味になります。
- AB間は、100秒かけて速度が30m/s増える「上り坂」なので、傾き(加速度)は \(30 \div 100 = 0.30\)。
- BC間は、速度が変わらない「平坦な道」なので、傾き(加速度)は \(0\)。
- CD間は、120秒かけて速度が30m/s減る「下り坂」なので、傾き(加速度)は \(-30 \div 120 = -0.25\)。
この3つの区間の「傾きの値」を時間ごとにグラフにしたものが\(a-t\)グラフです。
計算結果から、\(0 \le t < 1.67\)分 (\(100\)秒) までは加速度 \(0.30 \, \text{m/s}^2\)、\(1.67\)分 \(\le t < 3\)分 までは加速度 \(0 \, \text{m/s}^2\)、\(3\)分 \(\le t \le 5\)分 までは加速度 \(-0.25 \, \text{m/s}^2\) となります。この結果をグラフに描画します。これは、物体が「加速」→「等速」→「減速」という運動をしたことを示しており、元の\(v-t\)グラフの形と整合性が取れています。
問(2)
思考の道筋とポイント
AD間の距離は、\(v-t\)グラフと時間軸(\(t\)軸)で囲まれた部分の面積に等しい、という物理学の重要な法則を利用します。グラフのA-B-C-Dと時間軸で囲まれた図形は台形です。したがって、「台形の面積の公式」を用いて、総移動距離を一度の計算で求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 移動距離は、\(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた面積に等しい。
- 台形の面積の公式: \((\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ} \div 2\)
- 面積計算に用いる時間の単位は「秒」に統一する。
具体的な解説と立式
求める距離を \(L\) とします。これは、台形ABCDの面積に等しくなります。
- 台形の上底(辺BCに相当する時間): \(\Delta t_{BC} = 180 \, \text{s} – 100 \, \text{s} = 80 \, \text{s}\)
- 台形の下底(辺ADに相当する時間): \(\Delta t_{AD} = 300 \, \text{s} – 0 \, \text{s} = 300 \, \text{s}\)
- 台形の高さ(速度の最大値): \(v_{\text{max}} = 30 \, \text{m/s}\)
台形の面積の公式にこれらの値を当てはめます。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times (80 + 300) \times 30
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 移動距離と\(v-t\)グラフの面積の関係
上記で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{1}{2} \times 380 \times 30 \\[2.0ex]
&= 190 \times 30 \\[2.0ex]
&= 5700
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で表すと \(5.7 \times 10^3 \, \text{m}\) となります。
物理には「\(v-t\)グラフの面積を計算すると、それが移動距離になる」という、とても便利な法則があります。今回のグラフの形は、上が短く下が長い「台形」になっています。小学校で習った台形の面積の公式「(上底+下底)× 高さ ÷ 2」を使って、この図形の面積を計算するだけで、物体が進んだ全ての距離が求められます。
AD間の距離は \(5.7 \times 10^3 \, \text{m}\) (または \(5700 \, \text{m}\)) となります。この方法は計算が少なく、直感的で間違いにくいため、\(v-t\)グラフから距離を求める際の最も標準的で効率的な解法です。
思考の道筋とポイント
\(v-t\)グラフの面積を利用する代わりに、運動を3つの区間(AB: 等加速度運動、BC: 等速直線運動、CD: 等加速度運動)に分割し、それぞれの区間について運動の公式を用いて移動距離を計算し、最後にそれらを合計する方法です。手間はかかりますが、運動の公式を正しく適用する良い練習になります。
この設問における重要なポイント
- 運動を区間ごとに分析し、適切な公式を選択する。
- AB間(等加速度): \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
- BC間(等速): \(x = v t\)
- CD間(等加速度): \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
- 各区間の初速度 \(v_0\)、加速度 \(a\)、経過時間 \(t\) を正確に代入する。
具体的な解説と立式
各区間の移動距離を \(x_{AB}\), \(x_{BC}\), \(x_{CD}\) として、それぞれ計算します。(1)で求めた加速度の値を利用します。
- AB間: 初速度 \(v_0 = 0\)、加速度 \(a = 0.30 \, \text{m/s}^2\)、時間 \(t = 100 \, \text{s}\)
$$
\begin{aligned}
x_{AB} &= 0 \times 100 + \frac{1}{2} \times 0.30 \times (100)^2
\end{aligned}
$$ - BC間: 速度 \(v = 30 \, \text{m/s}\)、時間 \(t = 180 – 100 = 80 \, \text{s}\)
$$
\begin{aligned}
x_{BC} &= 30 \times 80
\end{aligned}
$$ - CD間: 初速度 \(v_0 = 30 \, \text{m/s}\)、加速度 \(a = -0.25 \, \text{m/s}^2\)、時間 \(t = 300 – 180 = 120 \, \text{s}\)
$$
\begin{aligned}
x_{CD} &= 30 \times 120 + \frac{1}{2} \times (-0.25) \times (120)^2
\end{aligned}
$$
求める総距離 \(L\) は、これらの和です。
$$
\begin{aligned}
L &= x_{AB} + x_{BC} + x_{CD}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速直線運動の式: \(x = vt\)
- 等加速度直線運動の式: \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
各区間の距離を計算します。
- AB間:
$$
\begin{aligned}
x_{AB} &= \frac{1}{2} \times 0.30 \times 10000 \\[2.0ex]
&= 1500 \, \text{m}
\end{aligned}
$$ - BC間:
$$
\begin{aligned}
x_{BC} &= 2400 \, \text{m}
\end{aligned}
$$ - CD間:
$$
\begin{aligned}
x_{CD} &= 3600 + \frac{1}{2} \times (-0.25) \times 14400 \\[2.0ex]
&= 3600 – 0.125 \times 14400 \\[2.0ex]
&= 3600 – 1800 \\[2.0ex]
&= 1800 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
最後に、これらの和を求めます。
$$
\begin{aligned}
L &= 1500 + 2400 + 1800 \\[2.0ex]
&= 5700 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で表すと \(5.7 \times 10^3 \, \text{m}\) となります。
こちらは、グラフを「図形」として見るのではなく、運動を3つのステージに分けて考える方法です。
- 最初の100秒間の「加速ステージ」でどれだけ進んだか?
- 次の80秒間の「等速ステージ」でどれだけ進んだか?
- 最後の120秒間の「減速ステージ」でどれだけ進んだか?
これらを物理の公式を使って一つずつ計算し、最後に全部を足し合わせる、という地道な方法です。計算は少し大変になりますが、答えは面積で求めた場合とちゃんと一致します。
主たる解法と全く同じく、AD間の距離は \(5.7 \times 10^3 \, \text{m}\) となります。この別解は、計算ステップが多くなるため時間はかかりますが、運動の公式を正しく理解し、適用する能力を確認する上で非常に有益な方法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- \(v-t\)グラフが持つ2つの物理的意味
- 核心: この問題の根幹は、\(v-t\)グラフという一枚の図が、「傾き」と「面積」という2つの異なる幾何学的な特徴を通じて、「加速度」と「移動距離」という2つの重要な物理量を同時に表現している、という事実を理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 傾き = 加速度: 加速度の定義は「単位時間あたりの速度の変化 (\(\frac{\Delta v}{\Delta t}\))」です。これは、\(v-t\)グラフの縦軸の変化量(\(\Delta v\))を横軸の変化量(\(\Delta t\))で割ることに他ならず、数学的な「傾き」の定義と完全に一致します。したがって、グラフの傾きを読み取ることは、加速度を計算することと等価です。
- 面積 = 移動距離: 移動距離は「速度 × 時間」で計算できます。\(v-t\)グラフにおいて、微小な時間幅 \(\Delta t\) の間に進む距離は、その間の速度 \(v\) を用いて \(v \times \Delta t\) と近似できます。これは、グラフ上の高さ\(v\)、幅\(\Delta t\)の細長い長方形の面積に相当します。全区間の移動距離は、この細長い長方形の面積をすべて足し合わせる操作(数学の積分に相当)であり、結果として\(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた全体の面積に一致します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- グラフの相互変換問題:
- \(a-t\)グラフが与えられた場合、その「面積」が「速度の変化量 \(\Delta v\)」を表すことを利用して\(v-t\)グラフを描き、さらにその面積から移動距離を求める、という多段階の問題に応用できます。
- 折り返しのある運動(変位と道のりの違い):
- \(v-t\)グラフが時間軸を横切って \(v\) が負の領域に入った場合、物体は進行方向を逆転させています。このとき、時間軸より下の面積は「負の向きへの変位」を意味します。
- 「変位」を問われたら、符号を考慮して面積を足し合わせます(時間軸より下はマイナス)。
- 「道のり(移動距離)」を問われたら、すべての面積を正の値として合計します。
- 2物体の追跡問題(追いつく・出会う):
- 2つの物体の\(v-t\)グラフを同じ座標軸上に描き、「追いつく」条件を考えます。出発点が同じなら、2つのグラフが囲む面積が等しくなった時刻に追いつきます。また、2つのグラフで囲まれた部分の面積は、2物体間の距離の変化量を表します。
- グラフの相互変換問題:
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸と単位の確認: まず「縦軸が\(v\)、横軸が\(t\)であること」を確認します。次に、単位が「m/s」と「分」であることを確認し、計算前に「秒」に直す必要があることを見抜きます。
- 運動の区間分け: グラフが折れ曲がっている点(B点、C点)で運動の種類が変わっています。AB間(加速)、BC間(等速)、CD間(減速)のように、直線で区切れる区間ごとに運動を分析します。
- 問いと操作の対応付け:
- (1)「加速度は?」→「傾きを計算する」
- (2)「距離は?」→「面積を計算する」
と、問題の要求とグラフ上で行うべき操作を瞬時に結びつけます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 時間の単位換算忘れ:
- 誤解: グラフの横軸の目盛り(1, 2, 3, 4, 5)をそのまま時間として計算してしまう。
- 対策: 問題を解き始める前に、必ず単位を確認し、物理計算の基本単位である「秒」に変換する、という手順を徹底しましょう。問題の図の「1分40秒」「3分」「5分」の近くに、それぞれ「100s」「180s」「300s」と書き込んでしまうのが最も確実なミス防止策です。
- 傾きと面積の役割の混同:
- 誤解: 加速度を求めたいのに面積を計算したり、距離を求めたいのに傾きを計算したりする。
- 対策: 「加速度(acceleration)の頭文字はa」→「傾き」、「面積(area)の頭文字はa」→「距離」のように、無理やりでも関連付けて覚える方法があります。より本質的には、「最重要ポイント」で述べた定義との対応関係をしっかり理解することが根本的な対策となります。
- 台形の面積公式の適用ミス:
- 誤解: 台形の「上底」「下底」を、辺BCやADの幾何学的な長さと勘違いしたり、「高さ」をグラフの見た目の高さで判断したりする。
- 対策: 公式の各要素が物理量とどう対応するかを明確に意識します。
- 「上底」「下底」→ 時間軸に平行な辺の「時間的な長さ」(例: 上底はBC間の時間 \(180-100=80\)秒)
- 「高さ」→ 時間軸に垂直な方向の「速度の最大値」(例: \(30\) m/s)
と、一つ一つ確認しながら適用しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 加速度の計算に「傾き」を用いる理由:
- 選定理由: (1)では「加速度」が問われており、与えられた情報は「\(v-t\)グラフ」です。この2つを直接結びつける物理法則が「加速度=\(v-t\)グラフの傾き」だからです。
- 適用根拠: これは物理法則であると同時に、加速度の定義そのものです。加速度は \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) で定義されます。一方、グラフの傾きも \(\frac{\text{縦軸の変化量}}{\text{横軸の変化量}}\) で定義されます。\(v-t\)グラフでは縦軸が\(v\)、横軸が\(t\)なので、両者は完全に同じものを計算していることになり、適用は数学的にも物理的にも正当です。
- 移動距離の計算に「面積」を用いる理由:
- 選定理由: (2)では「距離」が問われており、\(v-t\)グラフが与えられています。この2つを結びつける最も強力で効率的な法則が「移動距離=\(v-t\)グラフの面積」だからです。
- 適用根拠: もし運動が等速直線運動(速度\(v\)が一定)であれば、移動距離は \(x=vt\) となります。これは、\(v-t\)グラフ上で高さ\(v\)、幅\(t\)の長方形の面積に一致します。運動が等加速度直線運動のように速度が変化する場合でも、非常に短い時間 \(\Delta t\) の間は速度がほぼ一定とみなせ、その間に進む距離は \(v \Delta t\)(細長い長方形の面積)で近似できます。全時間での移動距離は、これらの微小な長方形の面積をすべて足し合わせたものに等しく、これがグラフ全体の面積となる、というのがこの法則の物理的な背景です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の儀式化: 問題文や図に「分」という単位を見つけたら、計算を始める前に、ページの隅にでも「1分40秒 = 100秒」「3分 = 180秒」「5分 = 300秒」と書き出すことを習慣(儀式)にしましょう。この一手間が致命的なミスを防ぎます。
- 区間ごとの情報整理: (1)の別解のように、複雑な運動を扱う際は、AB間、BC間、CD間それぞれについて、「初速度」「終端速度」「経過時間」「加速度」を小さな表にまとめてから計算を始めると、情報の混同がなくなり、代入ミスが減ります。
- 面積計算の分割検証: (2)で台形の面積を計算した後、検算として、AB間(三角形)、BC間(長方形)、CD間(三角形)の面積をそれぞれ計算し、その和が台形の面積と一致するかを確認すると、計算の信頼性が格段に上がります。
- \(x_{AB} = \frac{1}{2} \times 100 \times 30 = 1500\)
- \(x_{BC} = 80 \times 30 = 2400\)
- \(x_{CD} = \frac{1}{2} \times 120 \times 30 = 1800\)
- 和: \(1500 + 2400 + 1800 = 5700\)。一致することを確認できます。
- 概算によるチェック: 全体の平均速度は \(30 \, \text{m/s}\) の半分よりは大きいので、ざっくり \(20 \, \text{m/s}\) 程度と見積もれます。総時間は \(300\) 秒なので、移動距離は \(20 \times 300 = 6000 \, \text{m}\) 程度になるはずだ、と大まかな見当をつけておくと、計算結果 \(5700 \, \text{m}\) が妥当な範囲にあると判断でき、桁違いのミスに気づきやすくなります。
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基本問題
9 \(x\) – \(t\) グラフ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: グラフから運動の式を立てる解法
- 主たる解法がグラフの傾きという幾何学的性質から直接速さを求めるのに対し、別解ではまずグラフを一次関数 \(x = at + b\) として数式化し、それを等速直線運動の公式 \(x = vt + x_0\) と比較することで速度 \(v\) を求めます。
- 別解: グラフから運動の式を立てる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理と数学の連携強化: グラフの「傾き」という幾何学的な概念が、一次関数の「係数」という代数的な概念と、物理量の「速度」にどう対応するかを明確に理解できます。
- 思考の多角化: 物理現象をグラフで捉える視点と、数式で捉える視点の両方を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「\(x-t\)グラフの基本的な読み取り」です。物体の位置と時間の関係を表す\(x-t\)グラフが、どのような物理的意味を持つかを理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(x-t\)グラフの意味: 縦軸が位置\(x\)、横軸が時刻\(t\)を表し、グラフ上の点は「ある時刻\(t\)に物体がどの位置\(x\)にいるか」を示していること。
- \(x-t\)グラフの傾きと速度の関係: \(x-t\)グラフの「傾き」が、物体の速度\(v\)を表すこと。
- 等速直線運動: \(x-t\)グラフが直線である場合、傾きが一定であるため、物体の速度も一定、すなわち等速直線運動をしていることを意味する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- \(x-t\)グラフが直線であることから、物体の運動が等速直線運動であると判断します。
- 等速直線運動の速さは、\(x-t\)グラフの傾きに等しいので、グラフから読み取りやすい2点の座標を使って傾きを計算します。