今回の問題
dynamics#09【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「自由落下と鉛直投げ下ろし」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等加速度直線運動の公式: 自由落下や鉛直投げ下ろしは、加速度が重力加速度\(g\)で一定の等加速度直線運動です。したがって、変位の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) などを適用して解くことができます。
- 運動の時間差: 2つの物体が異なる時刻に運動を始める場合、それぞれの運動時間と、基準となる時刻からの経過時間を正確に区別して考える必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、鉛直下向きを正として座標軸を設定します。これにより、変位、速度、加速度の符号の扱いが簡単になります。
- (1)では、小球Aの自由落下について、変位の公式を用いて水平面に到達するまでの時間を計算します。
- (2)では、「Aと同時にBが水平面に到達する」という条件から、小球Bの運動時間を特定します。その運動時間と落下距離を用いて、変位の公式から小球Bの初速度を逆算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球Aは初速度0で落下するので、これは「自由落下」運動です。落下する距離(高さ)と重力加速度が分かっているので、等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) を使って、落下時間\(t_A\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 自由落下は、初速度\(v_0=0\)、加速度\(g\)の等加速度直線運動である。
- 変位、初速度、加速度、時間の関係式を正しく選択する。
- 計算の際には、鉛直下向きを正とすると符号の扱いが楽になる。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。小球Aが水平面に到達するまでの時間を \(t_A\) [s] とします。
小球Aの運動について、与えられた条件は、
- 初速度 \(v_{A0} = 0\) m/s
- 変位 \(y = 19.6\) m
- 加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)
等加速度直線運動の変位の公式にこれらの値を代入します。
$$ y = v_{A0} t_A + \frac{1}{2} g t_A^2 \quad \cdots ① $$
- 等加速度直線運動の変位の公式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
式①に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
19.6 &= 0 \times t_A + \frac{1}{2} \times 9.8 \times t_A^2 \\[2.0ex]19.6 &= 4.9 t_A^2 \\[2.0ex]t_A^2 &= \frac{19.6}{4.9} \\[2.0ex]t_A^2 &= 4.0
\end{aligned}
$$
\(t_A > 0\) なので、
$$ t_A = \sqrt{4.0} = 2.0 \text{ [s]} $$
ボールAが \(19.6\) m 落ちるのにかかる時間を求めます。自由落下の距離の公式は「距離 = \( \frac{1}{2} \times \) 重力加速度 \( \times \) 時間の2乗」です。ここに数値を当てはめると、\(19.6 = \frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2\)、つまり \(19.6 = 4.9 \times t^2\) となります。この式を解くと、\(t^2 = 4\) となり、時間は \(2.0\) 秒とわかります。
Aが水平面に到達するまでに要する時間は \(2.0\) 秒です。\(g=9.8\) の問題では、\(19.6 (=2 \times 9.8)\) や \(4.9 (=9.8/2)\) といった数値がよく使われ、計算結果がきれいな値になることが多いです。
問(2)
思考の道筋とポイント
「Aと同時にBが水平面に到達する」という条件が鍵です。(1)でAの落下時間は \(2.0\) s とわかりました。BはAより \(1.0\) s 遅れて出発するので、Bが運動している時間は \(2.0 – 1.0 = 1.0\) s となります。この \(1.0\) s の間に、Bは初速度 \(v_0\) で投げ下ろされて \(19.6\) m 進む必要があります。これらの情報(運動時間、移動距離、加速度)を使って、初速度 \(v_0\) を逆算します。
この設問における重要なポイント
- 「同時に到達」という条件から、Bの運動時間を正しく計算する。
- 鉛直投げ下ろしも、加速度\(g\)の等加速度直線運動として扱う。
- 変位の公式を、未知の初速度\(v_0\)を求めるために使う。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。
Aが水平面に到達するのは、出発から \(t_A = 2.0\) s 後です。
BはAより \(1.0\) s 遅れて出発し、Aと同時に到達するので、Bの運動時間 \(t_B\) は、
$$ t_B = t_A – 1.0 = 2.0 – 1.0 = 1.0 \text{ [s]} $$
小球Bの運動について、与えられた条件は、
- 初速度 \(v_{B0} = v_0\) [m/s] (求める値)
- 変位 \(y = 19.6\) m
- 加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)
- 運動時間 \(t_B = 1.0\) s
等加速度直線運動の変位の公式にこれらの値を代入します。
$$ y = v_{B0} t_B + \frac{1}{2} g t_B^2 \quad \cdots ② $$
- 等加速度直線運動の変位の公式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
式②に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
19.6 &= v_0 \times 1.0 + \frac{1}{2} \times 9.8 \times (1.0)^2 \\[2.0ex]19.6 &= v_0 + 4.9 \times 1.0 \\[2.0ex]19.6 &= v_0 + 4.9
\end{aligned}
$$
これを \(v_0\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= 19.6 – 4.9 \\[2.0ex]&= 14.7
\end{aligned}
$$
したがって、初速度 \(v_0\) は \(14.7\) m/s となります。
Aが地面に着くのは2.0秒後です。BはAより1.0秒遅れて出発するので、Bが飛んでいられる時間は \(2.0 – 1.0 = 1.0\) 秒しかありません。このたった1.0秒で、BはAと同じ \(19.6\) m の距離を落ちる必要があります。鉛直投げ下ろしの距離の公式「距離 = 初速度 × 時間 + \( \frac{1}{2} \times \) 重力加速度 \( \times \) 時間の2乗」に、距離=19.6、時間=1.0 を代入して、初速度を逆算します。
Bの初速度は \(14.7\) m/s です。Aより運動時間が短い分、初めから速さをつけて投げ下ろす必要があり、\(v_0 > 0\) という結果は物理的に妥当です。
▼別の問題もチャレンジ▼
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等加速度直線運動のモデル化:
- 核心: この問題は、自由落下も鉛直投げ下ろしも、どちらも「加速度が重力加速度\(g\)で一定の等加速度直線運動」という統一されたモデルで捉え、適切な公式を適用できるかにかかっています。
- 理解のポイント:
- 自由落下: 初速度\(v_0=0\) の特殊なケース。
- 鉛直投げ下ろし: 初速度\(v_0>0\) の一般的なケース。
この2つを別々のものとして暗記するのではなく、同じ等加速度直線運動のバリエーションとして理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直投げ上げ: 物体を上に投げ上げる問題。この場合、初速度と逆向きに重力加速度がかかるため、鉛直上向きを正とすると加速度は \(-g\) となります。最高点では速度が一時的に0になります。
- すれ違う・追い越す問題: 2つの物体が空中で出会う時刻や高さを求める問題。それぞれの物体の位置を時間の関数として表し(例: \(y_A(t), y_B(t)\))、\(y_A(t) = y_B(t)\) となる時刻\(t\)を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標軸と正の向きを設定する: まず、鉛直上向きか下向きのどちらかを正と決めます。落下運動では、下向きを正とすると、変位・速度・加速度がすべて正の値となり、計算が簡単になることが多いです。
- 物体ごとに情報を整理する: 物体Aと物体Bについて、それぞれ「初速度」「加速度」「変位」「時間」の情報を表のように整理します。これにより、何が分かっていて何が未知なのかが一目瞭然になります。
- 時間関係を把握する: 「Aが落ちてから1.0秒後にBが落ちる」「AとBは同時に着地する」といった時間に関する条件を図や数直線に描いて整理し、各物体の運動時間を正確に把握します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動時間の誤認:
- 誤解: (2)で、Bの運動時間をAと同じ \(2.0\) s として計算してしまう。
- 対策: 「Aの出発」を基準時刻 \(t=0\) としたとき、Bが運動を開始するのは \(t=1.0\) s、終了するのは \(t=2.0\) s です。したがって、Bの運動時間は \(2.0 – 1.0 = 1.0\) s となります。時間軸を書いて、各物体の運動区間を可視化するとミスを防げます。
- 公式の選択ミス:
- 誤解: 時間が関係する問題なのに、時間\(t\)を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2gy\) を使おうとして、未知数が増えて混乱する。
- 対策: 問題で与えられている量と求めたい量をリストアップし、それらを結びつける最適な公式はどれか、と考える癖をつけましょう。
- 符号のミス:
- 誤解: 鉛直上向きを正とした場合に、重力加速度を \(g=9.8\) のまま代入してしまう。
- 対策: 最初に設定した正の向きと、各ベクトル量(変位、速度、加速度)の実際の向きを比較し、符号を決定するルールを徹底しましょう。上向き正なら \(g\) は負、下向き正なら \(g\) は正です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 変位の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) の万能性:
- 選定理由: この公式は、運動の基本的な要素である「初速度\(v_0\)」「加速度\(g\)」「時間\(t\)」から「変位\(y\)」を求める、最も基本的な関係式の一つです。
- 適用根拠:
- \(v_0 t\) の項は、「もし重力がなく、初速度のまま等速運動を続けた場合に移動する距離」を表します。
- \(\frac{1}{2}gt^2\) の項は、「重力によって、静止状態から加速されて移動する距離」を表します。
つまり、この公式は「初速度による移動」と「重力による加速移動」という2つの効果の足し合わせ(重ね合わせの原理)として、物理的な意味を直感的に理解することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 数値の代入は最後に行う: (1)で \(t_A^2 = \frac{y}{g/2} = \frac{2y}{g}\) のように、まず文字式で解いてから最後に数値を代入すると、計算の見通しが良くなり、検算もしやすくなります。
- \(g=9.8\) の計算に慣れる: \(9.8 \times 2 = 19.6\), \(9.8 \times 3 = 29.4\), \(9.8 \div 2 = 4.9\) など、頻出の計算は覚えてしまうと速いです。また、\(19.6 \div 4.9\) のような計算は、\(196 \div 49\) と考えて、\(49 \times 4 = 196\) であることから4と見当をつけることができます。
- 単位を書いて検算: \(t^2 = \frac{19.6 \text{ [m]}}{4.9 \text{ [m/s}^2\text{]}} = 4.0 \text{ [s}^2\text{]}\) のように、単位計算も同時に行うと、式の立て間違いに気づくことがあります。
▼別の問題もチャレンジ▼