波動範囲 61~65
61 薄膜による干渉
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている、整数\(m\)を順に代入して条件を満たす波長を探す解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 整数\(m\)の範囲を不等式で絞り込む解法
- 主たる解法が整数\(m\)を一つずつ代入して試行錯誤的に探すのに対し、別解では波長の条件式を不等式として解くことで、条件を満たす整数\(m\)の範囲を先に代数的に特定します。
- 別解: 整数\(m\)の範囲を不等式で絞り込む解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化と厳密化: 試行錯誤的な代入をなくし、より少ない計算ステップで機械的に解を導くことができます。また、条件を満たす解がそれ以外に存在しないことを数学的に保証できます。
- 思考の柔軟性向上: 同じ問題に対して、異なる計算アプローチを学ぶことで、問題解決能力の幅が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「薄膜による光の干渉」です。シャボン玉や水面に浮いた油膜が虹色に見える現象の原理を、具体的な数値を用いて計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路差: 薄膜の上面で反射する光と、下面で反射する光の「光学的な道のりの差」を考える。垂直入射の場合、光路差は油膜中を往復する距離に相当する \(2nd\) となる。
- 反射における位相変化: 光が屈折率の異なる物質の境界面で反射する際、屈折率が「小→大」となる反射(固定端反射)では位相が \(\pi\) ずれ、「大→小」となる反射(自由端反射)では位相はずれない。
- 干渉条件の逆転: 2つの反射光のうち、片方だけが固定端反射となる場合、強め合いと弱め合いの条件が通常とは逆になる。
- 条件を満たす波長の探索: 導出した条件式と、与えられた可視光線の波長範囲を組み合わせ、条件を満たす波長をすべて見つけ出すこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 油膜の上面(空気→油)と下面(油→水)での反射が、それぞれ固定端反射か自由端反射かを判断する。
- 位相変化の回数から、干渉条件が逆転することを確認し、反射光が「強め合う」ための条件式を立てる。
- 条件式を波長 \(\lambda\) について解く。
- 整数 \(m\) (\(m=0, 1, 2, \dots\)) を順に代入し、計算される \(\lambda\) が与えられた可視光線の範囲内にあるものを探す。
強め合う光の波長
思考の道筋とポイント
水面に広がる油膜が色づいて見えるのは、油膜の上面で反射する光(①)と、油膜を透過して下面(水との境界面)で反射する光(②)が干渉するためです。この問題は、この2つの光が強め合う条件を考え、その条件を満たす波長を可視光線の範囲から探し出すことが目標です。
最大のポイントは、2回の反射(上面と下面)で位相がどう変化するかを正しく判断することです。屈折率が「小さい媒質」から「大きい媒質」へ向かう境界で反射するときだけ、位相が \(\pi\)(半波長分)ずれる「固定端反射」が起こります。今回は、上面の反射と下面の反射で位相変化の有無が異なるため、干渉条件が通常とは逆転します。
この設問における重要なポイント
- 屈折率の大小関係: \(n_{\text{空気}}(1.0) < n_{\text{水}}(1.3) < n_{\text{油}}(1.4)\)。
- 上面での反射(空気 \(\rightarrow\) 油): 屈折率が小 \(\rightarrow\) 大なので、位相が \(\pi\) ずれる(固定端反射)。
- 下面での反射(油 \(\rightarrow\) 水): 屈折率が 大 \(\rightarrow\) 小 (\(1.4 > 1.3\)) なので、位相はずれない(自由端反射)。
- 光路差: 油膜の厚さを \(d\)、屈折率を \(n\) とすると、光が油膜中を往復する光路差は \(2nd\)。
- 強め合いの条件: 反射が1回だけ位相が \(\pi\) ずれるため、条件が逆転し、\(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\) となる。
具体的な解説と立式
観測される反射光は、主に以下の2つの光が干渉したものです。
- 光①: 油膜の上面(空気と油の境界面)で反射した光。
- 光②: 油膜の下面(油と水の境界面)で反射した光。
それぞれの反射における位相変化を調べます。
- 光①の反射(空気 \(\rightarrow\) 油): 屈折率が小さい媒質(\(n_{\text{空気}}=1.0\))から大きい媒質(\(n_{\text{油}}=1.4\))へ向かう境界での反射なので、位相が \(\pi\) ずれます(固定端反射)。
- 光②の反射(油 \(\rightarrow\) 水): 屈折率が大きい媒質(\(n_{\text{油}}=1.4\))から小さい媒質(\(n_{\text{水}}=1.3\))へ向かう境界での反射なので、位相は変化しません(自由端反射)。
2つの光のうち、光①だけ位相が \(\pi\) ずれるため、干渉の条件が通常とは逆転します。つまり、強め合いの条件式は、通常の弱め合いの条件式と同じになります。
光②は光①に比べて、油膜の中を厚さ \(d\) の距離だけ往復します。このときの光路差は \(2nd\) となります(\(n\)は油膜の屈折率)。
したがって、反射光が強め合う条件は、
$$ 2nd = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
となります。
使用した物理公式
- 薄膜の干渉における強め合いの条件(反射で位相が1回ずれる場合): \(2nd = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
まず、条件式を \(\lambda\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{2nd}{m + \frac{1}{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{4nd}{2m+1}
\end{aligned}
$$
与えられた数値を代入します。\(n=1.4\), \(d=5.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{4 \times 1.4 \times 5.0 \times 10^{-7}}{2m+1} \\[2.0ex]
&= \frac{28 \times 10^{-7}}{2m+1}
\end{aligned}
$$
この \(\lambda\) が、可視光線の範囲 \(3.8 \times 10^{-7} \, \text{m} \le \lambda \le 7.8 \times 10^{-7} \, \text{m}\) に入るような整数 \(m\) (\(m \ge 0\)) を探します。
- \(m=0\) のとき: \(\lambda = \frac{28}{1} \times 10^{-7} = 28 \times 10^{-7} \, \text{m}\) (範囲外)
- \(m=1\) のとき: \(\lambda = \frac{28}{3} \times 10^{-7} \approx 9.3 \times 10^{-7} \, \text{m}\) (範囲外)
- \(m=2\) のとき: \(\lambda = \frac{28}{5} \times 10^{-7} = 5.6 \times 10^{-7} \, \text{m}\) (範囲内)
- \(m=3\) のとき: \(\lambda = \frac{28}{7} \times 10^{-7} = 4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) (範囲内)
- \(m=4\) のとき: \(\lambda = \frac{28}{9} \times 10^{-7} \approx 3.1 \times 10^{-7} \, \text{m}\) (範囲外)
したがって、条件を満たす波長は \(m=2\) と \(m=3\) の場合の2つです。
水たまりに浮いた油が虹色に見えるのは、光の干渉が原因です。光は、油の表面で反射する光と、油の底(水との境目)で反射する光の2つに分かれます。この2つの光が再び合わさるときに、強め合ったり弱め合ったりします。
光の反射には、「波がひっくり返る反射」と「そのままの反射」の2種類があります。これは、屈折率という物質の”硬さ”のようなもので決まります。
今回は、表面の反射(空気→油)では波がひっくり返りますが、底の反射(油→水)ではひっくり返りません。
片方だけがひっくり返るため、強め合いと弱め合いのルールが普段とは逆になります。
この「逆転ルール」と、油の中を往復する「道のりの差」を考慮して計算し、与えられた可視光線の範囲に当てはまる波長を探し出す、というのがこの問題の流れです。
強め合う光の波長は \(5.6 \times 10^{-7} \, \text{m}\) と \(4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) であると求められました。これらの値は、それぞれ可視光スペクトルの黄色〜緑色、青色〜紫色に相当し、与えられた波長範囲内に正しく収まっています。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
主たる解法のように整数 \(m\) を一つずつ代入して探すのではなく、先に不等式を解いて条件を満たす \(m\) の範囲を特定する、より系統的なアプローチです。これにより、試行錯誤をなくし、解の探索を効率化・厳密化することができます。
この設問における重要なポイント
- 強め合いの条件式を \(\lambda\) について解く。
- その式を、与えられた波長の範囲を示す不等式に代入する。
- 不等式を \(m\) について解き、条件を満たす整数 \(m\) の範囲を決定する。
具体的な解説と立式
主たる解法と同様に、強め合いの条件式から波長 \(\lambda\) を \(m\) の式で表します。
$$ \lambda = \frac{28 \times 10^{-7}}{2m+1} $$
この \(\lambda\) が可視光線の範囲 \(3.8 \times 10^{-7} \le \lambda \le 7.8 \times 10^{-7}\) を満たす必要があるので、以下の不等式が成り立ちます。
$$ 3.8 \times 10^{-7} \le \frac{28 \times 10^{-7}}{2m+1} \le 7.8 \times 10^{-7} $$
この不等式を解くことで、条件を満たす整数 \(m\) の範囲を特定します。
使用した物理公式
- 薄膜の干渉における強め合いの条件(反射で位相が1回ずれる場合): \(2nd = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
まず、不等式の各辺を \(10^{-7}\) で割ります。
$$ 3.8 \le \frac{28}{2m+1} \le 7.8 $$
各辺の逆数をとると、不等号の向きが逆になります。
$$ \frac{1}{7.8} \le \frac{2m+1}{28} \le \frac{1}{3.8} $$
各辺に28を掛けます。
$$ \frac{28}{7.8} \le 2m+1 \le \frac{28}{3.8} $$
左辺と右辺を小数で評価します。
$$ 3.58\dots \le 2m+1 \le 7.36\dots $$
各辺から1を引きます。
$$ 2.58\dots \le 2m \le 6.36\dots $$
各辺を2で割ります。
$$ 1.29\dots \le m \le 3.18\dots $$
この不等式を満たす整数 \(m\) は、\(m=2\) と \(m=3\) です。
あとは、これらの \(m\) の値を \(\lambda\) の式に代入して、具体的な波長を求めます。
- \(m=2\) のとき:
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{28}{2(2)+1} \times 10^{-7} \\[2.0ex]
&= \frac{28}{5} \times 10^{-7} \\[2.0ex]
&= 5.6 \times 10^{-7} \, (\text{m})
\end{aligned}
$$ - \(m=3\) のとき:
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{28}{2(3)+1} \times 10^{-7} \\[2.0ex]
&= \frac{28}{7} \times 10^{-7} \\[2.0ex]
&= 4.0 \times 10^{-7} \, (\text{m})
\end{aligned}
$$
この解き方は、答えを探すための「虫食い算」を、よりスマートに行う方法です。
まず、強め合いの条件式を「\(\lambda = \dots\)」の形に変形します。
次に、「\(\lambda\) は \(3.8 \times 10^{-7}\) から \(7.8 \times 10^{-7}\) の間でなければならない」という条件を使って、整数 \(m\) が取りうる値の範囲を不等式で計算します。
計算すると、「\(m\) は \(1.29\dots\) から \(3.18\dots\) の間の整数」という結果が得られます。この範囲に入る整数は \(2\) と \(3\) しかありません。
これにより、やみくもに \(m=0, 1, 2, \dots\) と代入していく手間が省け、答えとなる \(m\) が \(2\) と \(3\) のみであることが数学的に確定します。あとは、この2つの \(m\) について波長を計算すれば完了です。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この方法は、条件を満たす \(m\) が多い場合や、範囲が広い場合に特に有効で、計算の試行錯誤を減らすことができます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 薄膜干渉における位相変化の判断:
- 核心: この問題の根幹は、薄膜の「上面での反射」と「下面での反射」において、それぞれ光の位相がどう変化するかを、屈折率の大小関係から正しく判断することです。この判断が、適用すべき干渉条件(通常か、逆転か)を決定します。
- 理解のポイント:
- 位相変化のルール: 光が媒質の境界面で反射するとき、位相が \(\pi\) ずれる(固定端反射)か、ずれない(自由端反射)かは、入射側と反射側の媒質の屈折率の大小関係のみで決まります。
- 屈折率「小 \(\rightarrow\) 大」の境界での反射 \(\rightarrow\) 位相が \(\pi\) ずれる(固定端反射)
- 屈折率「大 \(\rightarrow\) 小」の境界での反射 \(\rightarrow\) 位相はずれない(自由端反射)
- 本問への適用:
- 上面(空気→油): \(n_{\text{空気}} < n_{\text{油}}\) なので、小→大。位相が \(\pi\) ずれる。
- 下面(油→水): \(n_{\text{油}} > n_{\text{水}}\) なので、大→小。位相はずれない。
- 干渉条件の決定: 2つの反射光のうち、片方だけが位相 \(\pi\) ずれを起こしています。このような「ずれが1回」のケースでは、強め合いと弱め合いの条件が通常とは逆転します。したがって、強め合いの条件は、光路差 \(2nd\) が半波長の奇数倍、すなわち \(2nd = (m+\frac{1}{2})\lambda\) となります。
- 位相変化のルール: 光が媒質の境界面で反射するとき、位相が \(\pi\) ずれる(固定端反射)か、ずれない(自由端反射)かは、入射側と反射側の媒質の屈折率の大小関係のみで決まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- シャボン玉の干渉: シャボン玉の膜は「空気-シャボン膜-空気」という構造です。上面(空気→膜)は小→大で位相が\(\pi\)ずれ、下面(膜→空気)も大→小で位相はずれません。したがって、本問と全く同じ干渉条件になります。
- 水面に広がる油膜(水中から見る場合): もし観測者が水中にいて、油膜を見上げた場合の反射光を考えるなら、「水→油」の反射(小→大、\(\pi\)ずれる)と「油→空気」の反射(大→小、ずれない)の干渉となり、これも本問と同じ条件になります。
- レンズの反射防止膜(コーティング): カメラのレンズ表面に施されたコーティングは、特定の波長の光(例えば可視光の中心である緑色光)が弱め合うように膜の厚さが設計されています。この場合は、弱め合いの条件式を用いて厚さを計算する問題に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 媒質の構造と屈折率のリストアップ: まず、「空気-油-水」のような媒質の層構造を書き出し、それぞれの屈折率をメモします。空気の屈折率は1.0とします。
- 2つの反射面の特定: 干渉しあう光が、どの境界面で反射したものかを特定します(上面と下面)。
- 各位相変化の判定: 上面と下面、それぞれの反射について、屈折率の大小関係から「\(\pi\)ずれる」か「ずれない」かを判断します。
- 干渉条件の選択: 位相変化の回数(0回、1回、2回)に応じて、適用すべき強め合い・弱め合いの条件式を正しく選択します。「ずれ0回または2回」なら通常条件、「ずれ1回」なら逆転条件です。
- 波長範囲の確認: 計算で得られた波長が、問題で指定された範囲(可視光線など)に含まれているかを確認する作業を忘れないようにします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位相変化の判断ミス:
- 誤解: 屈折率の大小関係を逆に覚えてしまい、位相変化の有無を間違える。あるいは、どんな反射でも位相がずれると思い込む。
- 対策: 「小から大へぶつかると、跳ね返されるときにひっくり返る(固定端反射)」という物理的なイメージで覚えましょう。ロープの端を壁(重い媒質)に固定して揺らしたときの反射を思い出すと効果的です。
- 干渉条件の選択ミス:
- 誤解: 位相変化が1回あるにもかかわらず、通常の強め合いの条件式 \(2nd = m\lambda\) を使ってしまう。
- 対策: 位相変化の判定をした後、「ずれの回数:0回 or 2回 \(\rightarrow\) 通常条件」「ずれの回数:1回 \(\rightarrow\) 逆転条件」というルールを機械的に適用する癖をつけましょう。この最初の条件選択が、問題の成否を分けます。
- 整数 \(m\) の開始値の誤り:
- 誤解: \(m\) を \(1, 2, 3, \dots\) から始めてしまい、\(m=0\) の場合を見落とす。
- 対策: 薄膜の干渉条件における \(m\) は、\(0, 1, 2, \dots\) と、0から始まる非負整数であると正確に記憶しましょう。特に、膜が非常に薄い場合などは \(m=0\) が唯一の解となることもあります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 位相変化を考慮した干渉条件式の選択:
- 選定理由: この問題は、光路差だけでなく、反射による「位相の変化」も考慮しなければならない典型的な問題です。したがって、単なる光路差の式だけでなく、位相変化の結果として「条件が逆転する」ことまで含んだ公式を選択する必要があります。
- 適用根拠: 光の干渉は、最終的に観測点で2つの光波がどのような位相差で重なるかによって決まります。光路差は位相差を生む一因ですが、反射による位相のジャンプももう一つの一因です。全位相差は「光路差による位相差」と「反射による位相差」の和で決まります。
- 本問では、反射による位相差が \(\pi\) です。強め合うためには全位相差が \(2m\pi\) となる必要があるので、「光路差による位相差」が \((2m-1)\pi\) のような奇数倍になる必要があります。これを光路差の条件に直すと \(2nd = (m-\frac{1}{2})\lambda\) となり、半波長の奇数倍(\(m \ge 1\) の場合)という条件式が導かれます(\(m=0, 1, 2, \dots\) で表現すると \( (m+\frac{1}{2})\lambda \) となります)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 数値の代入は最後に行う: まずは文字式のまま \(\lambda = \frac{4nd}{2m+1}\) のように、求めたい量について式を整理してから数値を代入する癖をつけましょう。計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
- 試行錯誤的な代入を体系的に行う: 主たる解法のように \(m=0, 1, 2, \dots\) と順に代入していく際は、結果を表の形にまとめると整理しやすくなります。
m 2m+1 \(\lambda\) (\(\times 10^{-7}\) m) 範囲内か? 0 1 28 × 1 3 9.3 × 2 5 5.6 ○ 3 7 4.0 ○ 4 9 3.1 × - 不等式の計算を丁寧に行う(別解): 不等式の逆数をとるときに、不等号の向きを逆にするのを忘れないように注意します。また、最終的に得られた \(m\) の範囲(例:\(1.29 \le m \le 3.18\))から、条件を満たす「整数」を正確に抜き出す作業を慎重に行いましょう。
62 薄膜による干渉
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「薄膜による光の干渉(反射防止膜)」です。レンズのコーティングなどに応用される、反射光を弱めるための条件を考える問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路差: 薄膜の上面で反射する光と、下面で反射する光の光学的な道のりの差。垂直入射の場合、光路差は膜内を往復する距離に相当する \(2nd\) となる。
- 反射における位相変化: 光が屈折率の異なる物質の境界面で反射する際、屈折率が「小→大」となる反射(固定端反射)では位相が \(\pi\) ずれ、「大→小」となる反射(自由端反射)では位相はずれない。
- 干渉条件の判断: 2つの反射光の位相変化の回数を比較し、干渉条件が通常通りか逆転するかを判断する。位相変化の回数が0回または2回(偶数回)の場合、条件は「通常通り」となる。
- 最小値の求め方: 膜の厚さ \(d\) が最小になるのは、干渉条件式の次数 \(m\) が最小値をとるときである。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 膜の上面(空気→膜)と下面(膜→ガラス)での反射が、それぞれ固定端反射か自由端反射かを判断する。
- 位相変化の回数の合計から、干渉条件が通常通りであることを確認し、反射光が「極小になる(弱め合う)」ための条件式を立てる。
- 膜厚 \(d\) が最小になる条件(次数 \(m\) が最小値 \(0\) をとる)を適用して、\(d\) の値を計算する。
- 計算結果を問題で指定された単位(mm)に変換する。
反射光が極小になる膜厚の最小値
思考の道筋とポイント
この問題は、メガネのレンズなどに施される反射防止コーティングの原理と同じです。膜の上面で反射する光と、下面で反射する光が互いに打ち消し合う(弱め合う)ように、膜の厚さを調整することが目的です。
最大のポイントは、前問61と同様に、2回の反射(空気→膜、膜→ガラス)で位相がどう変化するかを正しく判断することです。今回は、上面の反射も下面の反射も、どちらも屈折率が「小→大」の境界で起こります。そのため、2つの反射光は両方とも位相が \(\pi\) ずれます。
両方とも同じように位相がずれるため、お互いの位相の「差」は生じません。したがって、干渉条件は「通常通り」となります。
この設問における重要なポイント
- 屈折率の大小関係: \(n_{\text{空気}}(1.0) < n_{\text{膜}}(1.5) < n_{\text{ガラス}}(1.7)\)。
- 上面での反射(空気 \(\rightarrow\) 膜): 屈折率が小 \(\rightarrow\) 大なので、位相が \(\pi\) ずれる(固定端反射)。
- 下面での反射(膜 \(\rightarrow\) ガラス): 屈折率が小 \(\rightarrow\) 大なので、位相が \(\pi\) ずれる(固定端反射)。
- 光路差: 膜の厚さを \(d\)、屈折率を \(n\) とすると、光が膜中を往復する光路差は \(2nd\)。
- 弱め合いの条件: 反射で位相が2回ずれる(差は0)ため、条件は通常通りとなり、\(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\)。
- 厚さ \(d\) の最小値 \(\rightarrow\) \(m\) の最小値である \(m=0\) を代入。
具体的な解説と立式
観測される反射光は、主に以下の2つの光が干渉したものです。
- 光①: 膜の上面(空気と膜の境界面)で反射した光。
- 光②: 膜の下面(膜とガラスの境界面)で反射した光。
それぞれの反射における位相変化を調べます。
- 光①の反射(空気 \(\rightarrow\) 膜): 屈折率が小さい媒質(\(n_{\text{空気}}=1.0\))から大きい媒質(\(n_{\text{膜}}=1.5\))へ向かう境界での反射なので、位相が \(\pi\) ずれます(固定端反射)。
- 光②の反射(膜 \(\rightarrow\) ガラス): 屈折率が小さい媒質(\(n_{\text{膜}}=1.5\))から大きい媒質(\(n_{\text{ガラス}}=1.7\))へ向かう境界での反射なので、こちらも位相が \(\pi\) ずれます(固定端反射)。
光①も光②も両方とも位相が \(\pi\) ずれるため、2つの光の間には反射による位相差は生じません(\(\pi – \pi = 0\))。
したがって、干渉条件は「通常通り」となります。
光②は光①に比べて、膜の中を厚さ \(d\) の距離だけ往復します。このときの光路差は \(2nd\) となります(\(n\)は膜の屈折率)。
反射光が極小になる(弱め合う)ための条件は、通常の弱め合いの条件を適用して、
$$ 2nd = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
となります。
使用した物理公式
- 薄膜の干渉における弱め合いの条件(反射で位相が0回または2回ずれる場合): \(2nd = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
膜の厚さ \(d\) が最小になるのは、上式の右辺が最小になるときです。\(m\) は0以上の整数なので、\(m=0\) のときが最小となります。
\(m=0\) を条件式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
2nd &= \left(0 + \frac{1}{2}\right)\lambda \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda}{2}
\end{aligned}
$$
この式を \(d\) について解きます。
$$ d = \frac{\lambda}{4n} $$
与えられた数値を代入します。
- \(\lambda = 600 \, \text{nm} = 600 \times 10^{-9} \, \text{m}\)
- \(n = 1.5\)
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{600 \times 10^{-9}}{4 \times 1.5} \\[2.0ex]
&= \frac{600 \times 10^{-9}}{6} \\[2.0ex]
&= 100 \times 10^{-9} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^{-7} \, (\text{m})
\end{aligned}
$$
最後に、問題で指定されている単位 [mm] に変換します。\(1 \, \text{m} = 10^3 \, \text{mm}\) なので、
$$
\begin{aligned}
d &= 1.0 \times 10^{-7} \times 10^3 \, (\text{mm}) \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^{-4} \, (\text{mm})
\end{aligned}
$$
メガネのレンズなどが光を反射してキラキラするのを防ぐための「反射防止膜」の厚さを計算する問題です。
光は、膜の表面で反射する光と、膜の底(ガラスとの境目)で反射する光の2つに分かれます。この2つの光がうまく打ち消し合えば、反射がなくなります。
光の反射には、波が「ひっくり返る」タイプと「そのまま」のタイプがあります。今回は、表面の反射(空気→膜)も、底の反射(膜→ガラス)も、どちらも「柔らかい所→硬い所」への反射なので、2回とも波がひっくり返ります。
2つの光が両方とも同じようにひっくり返るので、お互いのタイミングの「ずれ」は生じません。そのため、干渉のルールは「通常通り」です。
光を打ち消し合わせる(弱め合う)には、膜の中を往復する道のりの差が、膜の中での波長のちょうど半分(半波長)ずれるようにすればOKです。この条件を満たす、最も薄い膜の厚さを計算します。
反射光が極小になる膜厚の最小値は \(1.0 \times 10^{-4} \, \text{mm}\) と求められました。これは \(100 \, \text{nm}\) に相当し、光学薄膜として現実的な厚さです。計算過程も物理法則に正しく従っており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 薄膜干渉における位相変化の判断(2回ずれるケース):
- 核心: この問題の根幹は、前問61と同様に、薄膜の「上面での反射」と「下面での反射」における位相変化を正しく判断することです。本問では、2回の反射が両方とも固定端反射となり、結果的に反射による位相「差」が生じない、という点が最大のポイントです。
- 理解のポイント:
- 位相変化のルール(再確認):
- 屈折率「小 \(\rightarrow\) 大」の境界での反射 \(\rightarrow\) 位相が \(\pi\) ずれる(固定端反射)
- 屈折率「大 \(\rightarrow\) 小」の境界での反射 \(\rightarrow\) 位相はずれない(自由端反射)
- 本問への適用:
- 上面(空気→膜): \(n_{\text{空気}}(1.0) < n_{\text{膜}}(1.5)\) なので、小→大。位相が \(\pi\) ずれる。
- 下面(膜→ガラス): \(n_{\text{膜}}(1.5) < n_{\text{ガラス}}(1.7)\) なので、小→大。こちらも位相が \(\pi\) ずれる。
- 干渉条件の決定: 2つの反射光が両方とも位相 \(\pi\) ずれを起こしています。お互いの位相差は \(\pi – \pi = 0\) となり、反射による位相差は生じません。このような「ずれが0回または2回」のケースでは、干渉条件は「通常通り」となります。したがって、弱め合いの条件は、光路差 \(2nd\) が半波長の奇数倍、すなわち \(2nd = (m+\frac{1}{2})\lambda\) となります。
- 位相変化のルール(再確認):
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置いた装置。空気層(膜)をガラス(レンズと平板)で挟んだ「ガラス-空気-ガラス」という構造です。上面(レンズ→空気)は 大→小 で位相ずれなし、下面(空気→平板ガラス)は 小→大 で位相が\(\pi\)ずれます。これは「ずれが1回」の逆転条件のパターンです。
- くさび形空気層: 2枚のガラス板の間に薄い紙などを挟んで作ったくさび形の空気層。これもニュートンリングと同様に「ガラス-空気-ガラス」構造なので、「ずれが1回」の逆転条件パターンです。
- 膜厚が変化する問題: 「膜の厚さを0から徐々に厚くしていくとき、最初に反射光が暗くなるのは厚さがいくらのときか?」という問いは、本問と全く同じで、\(m=0\) の場合を考えればよいです。「2回目に暗くなるのは?」と問われれば \(m=1\) を代入します。
- 初見の問題での着眼点:
- 媒質の構造と屈折率のリストアップ: まず、「空気-膜-ガラス」のような層構造と、それぞれの屈折率 \(n_{\text{空気}}=1.0, n_{\text{膜}}=1.5, n_{\text{ガラス}}=1.7\) を書き出します。
- 2つの反射面の特定と位相変化の判定: 「上面(空気→膜)」と「下面(膜→ガラス)」の2つの反射について、それぞれ屈折率の大小関係から位相が「ずれる」か「ずれない」かを判断します。
- 位相変化の合計回数を数える: 位相が\(\pi\)ずれる反射の回数を数えます(0回、1回、2回)。
- 干渉条件の選択: 「合計回数が偶数(0回 or 2回)なら通常条件」「合計回数が奇数(1回)なら逆転条件」というルールに従い、問題で問われている現象(強め合い or 弱め合い)に対応する正しい条件式を選択します。
- 最小値・最大値の条件を確認: 「最小の厚さ」を問われたら \(m=0\) を、「最大の波長」を問われたら \(m=0\) を、というように、次数 \(m\) をどの値にすればよいかを考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位相変化の回数の数え間違い:
- 誤解: 屈折率の大小関係をよく見ずに、片方だけがずれると早合点してしまう。
- 対策: 必ず3つの媒質の屈折率を並べて書き、「空気(1.0) < 膜(1.5) < ガラス(1.7)」のように大小関係を明確にします。その上で、「空気→膜は小→大だから\(\pi\)ずれる」「膜→ガラスは小→大だから\(\pi\)ずれる」と、一つずつ丁寧に確認するプロセスを省略しないことが重要です。
- 干渉条件の混同:
- 誤解: 位相変化が2回あるのに、逆転条件(強め合いで \(2nd=(m+1/2)\lambda\))を使ってしまう。
- 対策: 「ずれの回数が偶数(0回, 2回)\(\rightarrow\) 差は0 \(\rightarrow\) 通常条件」「ずれの回数が奇数(1回)\(\rightarrow\) 差は\(\pi\) \(\rightarrow\) 逆転条件」というルールを正確に記憶し、適用しましょう。
- 整数 \(m\) の開始値の誤り:
- 誤解: \(m\) を \(1, 2, 3, \dots\) から始めてしまい、\(m=0\) の場合を見落とす。
- 対策: 薄膜の干渉条件における \(m\) は、\(0, 1, 2, \dots\) と、0から始まる非負整数であると正確に記憶しましょう。特に、膜が非常に薄い場合などは \(m=0\) が唯一の解となることもあります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 位相変化を考慮した干渉条件式の選択:
- 選定理由: この問題は、2つの反射面での位相変化を正しく評価し、それに基づいて適切な干渉条件式を選択することが核心です。
- 適用根拠: 干渉の結果は、2つの波の全位相差で決まります。全位相差は「光路差による位相差」と「反射による位相差の差」の和です。
- 光路差 \(2nd\) による位相差は \(\frac{2\pi}{\lambda}(2nd)\)。
- 反射による位相差の差は、上面で\(\pi\)、下面で\(\pi\)ずれるので、その差は \(\pi – \pi = 0\)。
- したがって、全位相差は \(\frac{4\pi nd}{\lambda}\) となります。
- 弱め合う条件は、全位相差が \(\pi\) の奇数倍、すなわち \((2m+1)\pi\) となるときです。
- よって、\(\frac{4\pi nd}{\lambda} = (2m+1)\pi\)。これを整理すると、\(2nd = (m+\frac{1}{2})\lambda\) という、通常の弱め合いの条件式が導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の接頭辞を正確に覚える: 物理では様々な接頭辞が登場します。特に、長さに関しては「m(ミリ, \(10^{-3}\))」「\(\mu\)(マイクロ, \(10^{-6}\))」「n(ナノ, \(10^{-9}\))」は頻出です。これらを正確に記憶し、素早く変換できるようにしておきましょう。
- 最小値条件の確認: 「最小値」を求めるときは、条件式 \(2nd = (m+\frac{1}{2})\lambda\) において、\(d\) を最小にするには右辺を最小にすればよい、と考えます。\(m\) は \(0, 1, 2, \dots\) なので、最小値は \(m=0\) のときである、と論理的に判断します。
- 計算しやすいように数値をまとめる: \(d = \frac{\lambda}{4n}\) の計算で、\(\frac{600 \times 10^{-9}}{4 \times 1.5}\) を計算する際に、まず分母の \(4 \times 1.5 = 6\) を計算します。すると、\(\frac{600}{6} = 100\) となり、暗算レベルで計算を進めることができます。いきなり筆算を始めるのではなく、まず式全体を眺めて簡単な組み合わせがないか探す癖をつけましょう。
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63 薄膜による干渉
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「薄膜への斜め入射による光の干渉」です。垂直入射の場合(問61, 62)を一般化し、光が斜めに入射した場合の干渉条件を導出する問題です。光路差の計算がより複雑になりますが、基本的な考え方は同じです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 斜め入射における光路差: 入射角 \(\theta\)、屈折角 \(\phi\) のとき、薄膜の上面で反射する光と下面で反射する光の光路差が \(2nd\cos\phi\) で与えられること。
- 反射における位相変化: 媒質の構造(空気-膜-空気)から、上面と下面での反射における位相変化の有無を正しく判断すること。
- 屈折の法則(スネルの法則): 入射角 \(\theta\) と屈折角 \(\phi\) の関係式 \(1 \cdot \sin\theta = n\sin\phi\) を用いて、観測できない屈折角 \(\phi\) を、観測可能な入射角 \(\theta\) で置き換えること。
- 三角関数の相互関係: \(\sin^2\phi + \cos^2\phi = 1\) を利用して、\(\cos\phi\) を \(\sin\phi\) で表現すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 薄膜の上面(空気→膜)と下面(膜→空気)での反射における位相変化を判断し、適用すべき強め合いの条件式を決定する。
- 斜め入射における光路差の公式を用い、屈折角 \(\phi\) を含んだ形で強め合いの条件式を立てる。
- 屈折の法則と三角関数の公式を用いて、\(\cos\phi\) を入射角 \(\theta\) と屈折率 \(n\) で表す式を導出する。
- 導出した \(\cos\phi\) の式を、最初に立てた条件式に代入し、\(\phi\) を消去して最終的な答えを導く。