波動範囲 56~60
56 ヤングの実験
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ロイドの鏡」と呼ばれる、反射を利用した光の干渉実験です。1つの光源から出た光を、直接光と反射光の2つの経路に分けることで干渉させる、ヤングの実験の応用問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 虚像: 鏡による反射光は、鏡の裏側にある虚像から出た光と見なせること。
- ヤングの実験への帰着: 直接光と反射光の干渉は、実際のスリットSと虚像S’を2つの波源とするヤングの実験と等価であると考えることができること。
- 固定端反射による位相変化: 鏡の表面のような、屈折率の大きい媒質との境界で光が反射するとき、位相が \(\pi\) ずれる(波の山と谷が反転する)こと。
- 干渉条件の逆転: 片方の光の位相が \(\pi\) ずれるため、強め合い(明線)と弱め合い(暗線)の条件が、通常のヤングの実験とは逆になること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 鏡の裏側に、スリットSの虚像S’の位置を決定する。
- SとS’を2つの波源と見なし、波源間隔を求める。
- ヤングの実験の光路差の公式を、この新しい波源間隔で適用する。
- 反射による位相のずれを考慮して、明線の条件式(通常の弱め合いの条件式)を立てる。
- 式を解いて明線の位置 \(x\) を求める。
- 直接光と反射光が両方とも届く範囲を考え、縞模様が現れる領域を図示する。
干渉縞の範囲と明線の位置
思考の道筋とポイント
この実験は一見複雑に見えますが、鏡で反射する光が「鏡の裏側にある虚像S’から来たように見える」と考えるのが最大のポイントです。
こう考えると、実際のスリットS(直接光の波源)と虚像S’(反射光の波源)という2つの波源からの光が干渉する問題となり、見慣れたヤングの実験と全く同じように扱えます。
ただし、決定的に重要な違いが1つあります。それは、反射光が鏡で反射するときに位相が反転する(固定端反射)という点です。これにより、ヤングの実験とは明線と暗線の条件がそっくり逆になります。
この設問における重要なポイント
- 虚像S’は、鏡面に対してSと対称な位置にある。
- 2つの波源SとS’の間隔は \(2d\)。
- 反射により位相が \(\pi\) ずれるため、明線の条件は「光路差 \( = (m+\frac{1}{2})\lambda\)」。
- 縞模様は、直接光と反射光の両方が届く範囲にのみ現れる。
具体的な解説と立式
この問題は「縞模様の現れる範囲」と「明線の現れる位置」の2つを問うています。
1. 縞模様の現れる範囲
干渉縞が現れるのは、直接光と反射光の両方が届く領域です。
- 直接光は、スリットSからスクリーン全体に広がって届きます。
- 反射光は、鏡で反射された光なので、鏡で反射できる範囲にしか届きません。その範囲は、鏡の裏側にある虚像S’と、鏡の両端を結ぶ直線がスクリーンと交わる範囲で決まります。
したがって、縞模様は、模範解答の図に示されている太線の範囲に現れます。
2. 明線の現れる位置
スリットSを直接光の波源、鏡面に対してSと対称な位置にある虚像S’を反射光の波源と見なします。
SとS’は、スクリーンに平行な直線上で距離 \(2d\) だけ離れています。
スクリーン上で、鏡の端の位置を原点O(\(x=0\))とし、スクリーン上向きを正とする \(x\) 軸をとります。
スクリーン上の座標 \(x\) の点Pにおける、S’からの光とSからの光の光路差 \(L\) は、ヤングの実験の公式と同様に考えられます。
$$
\begin{aligned}
L &= S’P – SP \\[2.0ex]
&\approx \frac{(\text{波源間隔}) \cdot x}{l} \\[2.0ex]
&= \frac{(2d)x}{l}
\end{aligned}
$$
ここで、S’からの光(反射光)は、鏡で反射する際に位相が \(\pi\) ずれます(固定端反射)。
位相が \(\pi\) ずれる場合、2つの波が強め合って明線となる条件は、光路差が波長の半整数倍になるときです(通常の弱め合いの条件と同じになります)。
$$ L = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
したがって、明線の条件式は以下のようになります。
$$ \frac{2dx}{l} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
使用した物理公式
- ヤングの実験の光路差の近似式: \(\text{光路差} \approx \frac{(\text{波源間隔}) \cdot x}{l}\)
- 固定端反射がある場合の明線条件: \(\text{光路差} = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
上記で立式した \(\displaystyle\frac{2dx}{l} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda\) を \(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{l}{2d} \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \\[2.0ex]
&= \left(m + \frac{1}{2}\right)\frac{l\lambda}{2d}
\end{aligned}
$$
鏡に映った自分の姿が、鏡の向こう側にいるように見えるのと同じで、鏡で反射した光は、鏡の裏側にある「もう一つのスリットS’」から来たように見えます。
これで、問題は「SとS’という2つのスリットからの光の干渉」という、いつものヤングの実験と同じ形になりました。
ただし、一つだけ注意点があります。鏡での反射は「固定端反射」というタイプで、光の波の山と谷がひっくり返ってしまいます(位相が \(\pi\) ずれる)。
この「ひっくり返り」のせいで、普通のヤングの実験とは強め合いと弱め合いの条件が逆になります。つまり、明線ができるのは、道のりの差が波長の「(整数+0.5)倍」になるときです。
この逆転ルールを使って、ヤングの実験の公式(ただしスリット間隔は \(2d\))を書き換え、明線の位置を計算します。
縞模様が見える範囲は、鏡からの反射光がちゃんとスクリーンに届く範囲だけです。
縞模様の現れる範囲は、虚像S’と鏡の端を結んだ領域となります。
明線の現れる位置は \(x = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\displaystyle\frac{l\lambda}{2d}\) と求められました。
この式に \(x=0\) を代入しても満たす整数 \(m\) は存在しないため、スクリーンと鏡の境界である \(x=0\) の位置は明線ではないことがわかります。実際、この点では光路差が0ですが、反射による位相のずれがあるため、光は弱め合って暗くなります。これは物理的に妥当な結果です。
縞模様の現れる範囲: 模範解答の図に示された太線の範囲。
明線の現れる位置: \(x = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\displaystyle\frac{l\lambda}{2d} \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 虚像の利用と位相変化の考慮:
- 核心: この問題の根幹は、一見複雑な反射の干渉問題を、「虚像」という考え方を用いて見慣れたヤングの実験のモデルに置き換える発想力と、反射時に起こる「位相の変化」という物理現象を正しく干渉条件に組み込む能力にあります。
- 理解のポイント:
- 等価なモデルへの変換: 「直接光 vs 反射光」の干渉は、「実物の波源S vs 虚像の波源S’」の干渉と完全に等価です。この置き換えにより、ヤングの実験で用いた経路差の近似式が適用可能になります。
- 波源間隔の再設定: 置き換えたモデルでは、波源はSとS’になります。鏡面がSの \(d\) 下にあるため、S’は鏡面に対して対称な位置、すなわちSの \(2d\) 下に現れます。したがって、新しい波源間隔は \(2d\) となります。
- 干渉条件の逆転: 最も重要なポイントは、反射光が固定端反射(位相が\(\pi\)ずれる)をすることです。これにより、2つの波源SとS’は「逆位相」で波を出しているのと等価になります。そのため、強め合い(明線)の条件は、通常のヤングの実験における弱め合いの条件、すなわち「経路差 \( = (m+\frac{1}{2})\lambda\)」となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 音波の干渉: 水面近くに置かれたスピーカーから出る音と、水面で反射した音が干渉する問題。水面は固定端として働き、音波の位相が反転します。これも、水面下に虚像のスピーカーを考えることで、本問と全く同じモデルで解くことができます。
- 薄膜干渉: シャボン玉や油膜の干渉では、膜の表面で反射する光と裏面で反射する光が干渉します。このとき、屈折率の大小関係によって、どちらの反射が固定端反射(位相が\(\pi\)ずれる)になるかが変わります。位相変化の有無を正しく判断することが鍵となります。
- ニュートンリング: レンズとガラス板の間の空気層による干渉。ガラス板の表面での反射が固定端反射となるため、中心(空気層の厚さ0)は光路差0にもかかわらず暗くなります。これも本問と共通の原理です。
- 初見の問題での着眼点:
- 波の経路の特定: まず、干渉しあう2つの波がどのような経路をたどっているかを把握します。今回は「直接経路」と「反射経路」です。
- 虚像の利用可能性の検討: 反射が関わる場合、常に「虚像を考えてヤングの実験に帰着できないか?」と考えます。虚像の位置と、実物の波源との距離を正確に求めます。
- 位相変化の有無の確認: 反射が「固定端反射」か「自由端反射」かを確認します。光の場合、「屈折率が小さい媒質 \(\rightarrow\) 大きい媒質」の境界での反射が固定端反射(位相\(\pi\)ずれ)です。この確認を怠ると、干渉条件を間違えます。
- 干渉条件の選択: 位相変化の有無に応じて、正しい明線・暗線の条件式を選択します。位相が\(\pi\)ずれる場合は、通常の条件と逆になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 波源間隔の誤り:
- 誤解: 波源間隔を \(d\) のまま計算してしまう。
- 対策: 必ず図を描き、Sと鏡面、鏡面とS’の位置関係を視覚的に確認します。SとS’は鏡面に対して対称なので、S-S’間の距離はS-鏡面間の距離 \(d\) の2倍、すなわち \(2d\) となります。
- 位相変化の見落とし:
- 誤解: 反射があるにもかかわらず、通常のヤングの実験と同じ明線条件(経路差 \( = m\lambda\))を適用してしまう。
- 対策: 「反射」というキーワードを見たら、機械的に「位相変化は?」と自問する癖をつけましょう。特に指定がない限り、鏡やガラス面での光の反射は固定端反射として扱うのが一般的です。
- \(x=0\) の点の解釈:
- 誤解: ヤングの実験だから、中心(\(x=0\))は必ず明るいと思い込む。
- 対策: \(x=0\) の点は、幾何学的な経路差が0になる点です。しかし、位相が\(\pi\)ずれている場合、経路差0でも波は逆位相で重なるため、弱め合って暗くなります。必ず、全光路差(幾何学的経路差+位相変化による光路差)で判断することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 虚像モデルへの置き換え:
- 選定理由: 反射という現象を直接幾何光学で扱うのは複雑です。しかし、反射光が虚像から直進してきたと見なすことで、問題を「2つの点波源からの波の干渉」という、解析が容易なヤングの実験モデルに単純化できます。これは、複雑な問題を既知の単純なモデルに帰着させる、物理学における強力な思考法です。
- 適用根拠: 平面鏡による反射の法則から、反射光の光路は、鏡面に対して物体と対称な位置にある虚像から発せられた光の光路と幾何学的に完全に等価です。したがって、この置き換えは数学的・物理的に正当化されます。
- 逆の干渉条件の適用:
- 選定理由: 反射による位相の\(\pi\)ずれは、波の山と谷を入れ替える効果があります。これは、波源の位相が\(\pi\)ずれている(逆位相の波源)と考えるのと同じことです。したがって、逆位相の波源における干渉条件を適用するのが論理的に正しい選択です。
- 適用根拠: 2つの波の重ね合わせを考えたとき、強め合うのは2つの波の変位が同符号のとき、弱め合うのは異符号のときです。片方の波の符号が反射によって常に反転しているため、幾何学的経路差が \(m\lambda\)(同位相になる条件)の点では弱め合い、\((m+\frac{1}{2})\lambda\)(逆位相になる条件)の点では強め合いが起こります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 作図を丁寧に行う: この問題は、正しい作図が解法の半分を占めると言っても過言ではありません。スリットS、鏡面、虚像S’の位置関係を、距離を意識しながら丁寧に作図しましょう。これにより、波源間隔が \(2d\) であることが視覚的に確認でき、ミスを防げます。
- 条件をリストアップする: 計算を始める前に、この問題特有の条件を箇条書きで整理します。
- 波源: S と S’
- 波源間隔: \(2d\)
- 位相関係: 逆位相(反射で\(\pi\)ずれる)
- 明線条件: 経路差 \( = (m+\frac{1}{2})\lambda\)
このリストを確認しながら立式することで、条件の見落としを防ぎます。
- 文字式の整理を慎重に: 最終的な答えは \(x = \dots\) の形に変形します。分数の計算や移項を焦らず、一行ずつ丁寧に行いましょう。特に、\(2d\) が分母に来る点などを間違えないように注意が必要です。
57 回折格子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「回折格子による光の分光」です。ヤングの実験と同様に光の干渉を利用しますが、多数のスリット(格子)を用いることで、よりはっきりと光を波長ごとに分離(分光)できるのが特徴です。白色光を当てたときに、スクリーン上に色のスペクトルがどのように現れるかを問うています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 回折格子の明線条件: 格子定数(隣り合うスリットの間隔)を \(d\)、光の波長を \(\lambda\)、回折角を \(\theta\) としたとき、強め合いが起こる条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) (\(m=0, 1, 2, \dots\)) を理解していること。
- 白色光の性質: 白色光が、様々な波長の光(スペクトル)の集まりであること。
- 光の波長と色の関係: 可視光線では、波長が長い側が赤色、短い側が青色(紫色)に対応すること (\(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{青}}\))。
- 回折角と位置の関係: 回折角 \(\theta\) が小さいほど、スクリーンの中央に近い位置に現れること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 回折格子の明線(強め合い)の条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を立てます。
- 同じ次数の明線(\(m\)が一定)について、回折角 \(\theta\) と波長 \(\lambda\) の関係を調べます。
- 赤、黄、青の波長の大小関係を適用して、回折角 \(\theta\) の大小関係を導き出します。
- 回折角 \(\theta\) が小さい順が、中央に近い順であることから、色の並びを決定します。
回折光の色の順番
思考の道筋とポイント
この問題は、ヤングの実験で白色光を当てた問題(問54)と本質的に同じ現象を扱っています。回折格子は、非常にたくさんのスリットが等間隔に並んだもので、光の干渉をよりシャープに起こす装置です。
白色光を当てると、光の波長 \(\lambda\) ごとに強め合う方向(回折角 \(\theta\))が異なるため、スクリーン上で色が分離して虹のようなスペクトルが見えます。
どの色が中央に近いかは、回折格子の明線条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を見れば一目瞭然です。この式が、波長 \(\lambda\) と回折角 \(\theta\) の関係をすべて物語っています。
この設問における重要なポイント
- 回折格子の明線条件: \(d\sin\theta = m\lambda\)
- \(d\): 格子定数(一定)
- \(m\): 次数(同じ次数で比較するので一定)
- 上記より、\(\sin\theta\) は波長 \(\lambda\) に比例する。
- 波長の大小関係: \(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{黄}} > \lambda_{\text{青}}\)
具体的な解説と立式
回折格子の格子定数を \(d\)、入射する光の波長を \(\lambda\)、\(m\) 次の明線が観測される方向と入射光のなす角(回折角)を \(\theta\) とすると、明線の条件式は以下のように表されます。
$$ d\sin\theta = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
この式を \(\sin\theta\) について解くと、
$$ \sin\theta = \frac{m\lambda}{d} $$
となります。
問題では「同じ次数の回折光」について比較するように指示されているので、次数 \(m\) (\(m \ge 1\)) は一定とします。また、格子定数 \(d\) も装置によって決まる定数です。
したがって、\(\sin\theta\) の値は、光の波長 \(\lambda\) に正比例します。
$$ \sin\theta \propto \lambda $$
回折角 \(\theta\) が \(0\) から \(90^\circ\) の範囲では、\(\theta\) が大きいほど \(\sin\theta\) も大きくなります。よって、波長 \(\lambda\) が長い光ほど回折角 \(\theta\) も大きくなり、スクリーンの中央から遠い位置に現れることがわかります。
赤、黄、青の光の波長には、以下の大小関係があります。
$$ \lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{黄}} > \lambda_{\text{青}} $$
したがって、同じ次数の明線ができる回折角 \(\theta\) にも、同様の大小関係が成り立ちます。
$$ \theta_{\text{赤}} > \theta_{\text{黄}} > \theta_{\text{青}} $$
問題では「中央に近い順」に答えるように求められているので、これは回折角 \(\theta\) が小さい順と同じです。
よって、中央に近い順に並べると、青、黄、赤の順になります。
なお、中央の \(m=0\) の光は、条件式より \(d\sin\theta = 0 \times \lambda = 0\) となり、\(\theta=0\) となります。これは波長 \(\lambda\) によらず成立するため、すべての色の光が \(\theta=0\) の方向(直進方向)で強め合います。その結果、中央の明線は白色になります。
使用した物理公式
- 回折格子の明線条件: \(d\sin\theta = m\lambda\)
この問題は定性的な理解を問うものであり、具体的な数値計算は不要です。
回折格子は、たくさんの細い溝が刻まれた板で、光を虹色に分ける働きがあります。CDの裏面がキラキラと虹色に見えるのも、これと同じ原理です。
このとき、「波長が長い光ほど、大きく曲げられる」というシンプルなルールがあります。
白色光は、虹のすべての色が混ざった光です。可視光線の中では、赤色の光が一番波長が長く、青色(紫色)の光が一番短いです。
したがって、回折格子を通り抜けた光は、一番波長が短くて曲げられにくい青色が中央に最も近く、次に黄色、そして一番波長が長くて大きく曲げられる赤色が最も外側に現れます。
ただし、ど真ん中の光(\(m=0\))だけは特別で、どの色の光も全く曲げられずに直進します。そのため、すべての色が混ざり合って、中央の光は白色に見えます。
回折格子によってできるスペクトルは、中央に近い方から波長の短い順に並びます。したがって、青、黄、赤の順になるという結論は物理的に妥当です。これは、ヤングの実験で白色光を用いた場合(問54)と同じ並び順であり、干渉の原理が共通していることを示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回折格子の干渉条件と波長依存性:
- 核心: この問題の根幹は、回折格子による明線の生成条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) を理解し、この式から「明線ができる角度 \(\theta\) が光の波長 \(\lambda\) に依存する」という関係を読み取ることです。
- 理解のポイント:
- 回折格子の役割: 回折格子は、多数のスリットからの光を干渉させることで、特定の方向にだけ光が強め合うようにする装置です。その方向は、スリットの間隔(格子定数 \(d\))と光の波長 \(\lambda\) で決まります。
- 条件式の意味: \(d\sin\theta\) は、隣り合うスリットを通過した光の「経路差」を表します。この経路差が波長の整数倍 (\(m\lambda\)) になるとき、すべてのスリットからの光が同位相で重なり合い、非常に強い明線ができます。
- 比例関係: 条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) から、同じ次数の光(\(m\)が同じ)を比較すると、\(\sin\theta\) は \(\lambda\) に正比例します。角度 \(\theta\) が小さい範囲では \(\theta\) も \(\lambda\) にほぼ比例します。つまり、「波長が長いほど、回折角は大きい」という関係が成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ヤングの実験との比較: ヤングの実験(2スリット)と回折格子(多スリット)は、どちらも干渉を利用して光を分けますが、回折格子の方が明線がはるかに鋭く(シャープに)、明るくなります。この違いの理由を問う問題が出されることがあります。
- スペクトルの次数: \(m=1\) のスペクトルと \(m=2\) のスペクトルでは、後者の方がより大きく広がり(角度が大きく)、隣り合う色の間隔も広くなります。ただし、\(m\)が大きくなると、次数が異なるスペクトル同士が重なり合うこともあります(例:\(m=3\)の青と\(m=2\)の赤が近い角度に現れる)。
- X線の回折(ブラッグ反射): 結晶格子にX線を当てると、原子の並びが回折格子のように働き、特定の方向にだけX線が強く反射されます。この現象(ブラッグ反射)の条件式 \(2d\sin\theta = m\lambda\) は、回折格子の式と非常によく似ており、同じ思考法で解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「回折格子」というキーワードを確認: 問題が回折格子を扱っていることを確認し、条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) をすぐに思い出せるようにします。
- 光源の種類の確認: 光源が「単色光」か「白色光」かを確認します。白色光であれば、色が分離する(スペクトルができる)ことを前提に考えます。
- 比較の条件を明確にする: 問題文が「同じ次数の光では」と指定しているように、どのパラメータを一定として比較するのかを明確にします。今回は \(m\) と \(d\) が定数です。
- 波長と色の大小関係を適用: 赤、黄、青などの色が出てきたら、波長の大小関係 (\(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{黄}} > \lambda_{\text{青}}\)) を適用し、それが回折角 \(\theta\) の大小関係にどう反映されるかを考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ヤングの実験の公式との混同:
- 誤解: 回折格子の問題なのに、ヤングの実験の明線の位置の公式 \(x_m = m\displaystyle\frac{l\lambda}{d}\) を使おうとしてしまう。
- 対策: ヤングの実験の公式は、回折角 \(\theta\) が非常に小さいという近似 (\(\sin\theta \approx \tan\theta = x/l\)) を使って導かれたものです。回折格子では \(\theta\) が大きくなる場合も扱うため、近似を使わない基本の式 \(d\sin\theta = m\lambda\) から出発するのが原則です。問題のキーワード(「ヤングの実験」か「回折格子」か)で、使うべき公式を明確に区別しましょう。
- 波長と色の関係の混同:
- 誤解: 赤と青(紫)、どちらの波長が長いかを忘れてしまう、あるいは逆にしてしまう。
- 対策: 虹の色の並び順(外側が赤、内側が紫)や、「赤外線」「紫外線」という言葉をヒントに、「赤が長く、紫(青)が短い」と正確に記憶しましょう。これは光の波動分野で頻出の知識です。
- 中央の光の扱い:
- 誤解: 中央の光(\(m=0\))も色が分かれると考えてしまう。
- 対策: 条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) に \(m=0\) を代入すると、\(d\sin\theta = 0\)、すなわち \(\theta=0\) となります。この結果は波長 \(\lambda\) に全く依存しません。この「\(\lambda\)によらない」という点が、中央の光がすべての色を含んだ「白色」になる理由です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 回折格子の明線条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) の選択:
- 選定理由: この問題は、回折格子を通過した光がどの方向に強く進むか(=明線ができるか)を問うています。この「方向(角度)」と「光の性質(波長)」、「装置の性質(格子定数)」を直接結びつける関係式が、この明線条件式です。したがって、これを用いるのが最も直接的で論理的なアプローチです。
- 適用根拠: この公式は、回折格子の無数のスリットから出た光波が、スクリーン上の無限遠点(またはレンズで集光された焦点)で強め合うための条件を表しています。隣り合うスリットからの光の経路差 \(d\sin\theta\) が波長の整数倍であれば、すべてのスリットからの光が同位相で重なり、非常に強い光となります。この原理は、光の波動性と干渉の本質に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は定性的な思考を問うものであり、数値計算はありません。論理的な思考のミスを防ぐことが重要です。
- 比例関係を明確にする: 条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を見たら、すぐに「\(m, d\) が一定なら、\(\sin\theta \propto \lambda\)」という比例関係を書き出しましょう。これにより、「波長が長いほど、\(\sin\theta\) が大きく、したがって \(\theta\) も大きい」という結論が機械的に導かれ、思考の誤りを防げます。
- 情報の図式化: 簡単な図を描き、中央の白色光(\(m=0, \theta=0\))と、その両側に広がるスペクトル(\(m=1\))を模式的に描いてみましょう。そして、\(\theta\) が大きくなる方向(外側)に波長が長い色(赤)が来るように配置することで、結論を視覚的に確認できます。「内側が青、外側が赤」という虹の並びを書き込むことで、自分の答えが正しいかを確認できます。
- 結論の自己検証: 「中央に近い順に青、黄、赤」という結論が出たら、それが「波長の短い順」であることと、自分が立てた比例関係「\(\sin\theta \propto \lambda\)」とが論理的に矛盾していないか、最後に見直す習慣をつけましょう。
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58 回折格子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「回折格子によって生じる回折光の最大次数と本数」です。回折格子の基本的な性質を理解した上で、物理的に観測可能な明線が全部で何本になるかを計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 格子定数の計算: 「1 mm あたり 500 本」という情報から、スリット1本あたりの間隔である格子定数 \(d\) [m] を正しく計算できること。
- 回折格子の明線条件: 明線ができる条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を理解していること。
- \(\sin\theta\) の物理的な条件: 回折角 \(\theta\) は実在する角度であるため、\(\sin\theta\) の値は1を超えることができない (\(|\sin\theta| \le 1\)) という数学的・物理的な制約を適用できること。
- 回折光の対称性: \(m=0\) の中央光を除き、\(m \ge 1\) の回折光は中央を挟んで上下(または左右)に対称に現れることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 「1 mm あたり 500 本」という情報から、格子定数 \(d\) をメートル単位で計算します。
- 回折格子の明線条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を立てます。
- 物理的に可能な条件である \(\sin\theta \le 1\) を用いて、次数 \(m\) が取りうる最大の整数値を求めます。
- \(m=0\) の光が1本、\(m=1\) から最大次数までの光がそれぞれ2本ずつ現れることを考慮して、総本数を数え上げます。