「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(熱力学31〜33問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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熱力学範囲 31~33

31 熱効率

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 図aの別解: 熱効率の別公式 \(e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) を用いる解法
      • 主たる解法が、仕事 \(W’\) と吸収熱量 \(Q_{in}\) から \(e = \frac{W’}{Q_{in}}\) を計算するのに対し、別解では、吸収熱量 \(Q_{in}\) と放出熱量 \(Q_{out}\) から熱効率を計算します。
    • 図bの別解: 熱効率の別公式 \(e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) を用いる解法
      • 主たる解法が、サイクル全体のエネルギー収支から仕事 \(W’\) を間接的に求めて熱効率を計算するのに対し、別解では、仕事 \(W’\) を計算することなく、吸収熱量と放出熱量の比から直接熱効率を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 解法の効率化: 図bのように仕事 \(W’\) をグラフの面積から直接計算できない場合、別解のアプローチは \(W’\) の計算ステップを省略できるため、より少ない計算量で答えにたどり着けます。
    • 物理的意味の深化: 熱効率が「投入した熱エネルギーのうち、どれだけの割合を仕事に変換できたか」(\(\frac{W’}{Q_{in}}\)) という視点と、「投入した熱エネルギーのうち、仕事に変換されず捨てられた熱の割合を引いた残り」(\(1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\)) という視点の両方から理解でき、物理的な意味の把握が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 問題に応じて、より計算が楽な公式を選択する判断力を養うことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「熱サイクルの熱効率の計算」です。\(P-V\)グラフで与えられた熱サイクルについて、熱効率の定義式を正しく理解し、各過程における仕事や熱の出入りを計算して、サイクル全体の効率を求める問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱効率の定義: 熱機関が吸収した熱量 \(Q_{in}\) のうち、どれだけを正味の仕事 \(W’\) に変換できたかを表す割合。\(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{in}}\) で定義されます。
  2. 熱力学第一法則(サイクル): 1サイクル後には元の状態に戻るため、内部エネルギーの変化はゼロ (\(\Delta U = 0\))。したがって、\(W’ = Q_{in} – Q_{out}\) が成り立ちます。
  3. 熱効率の別公式: 上記の関係から、\(e = \displaystyle\frac{Q_{in} – Q_{out}}{Q_{in}} = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) という、熱の出入りだけで計算できる公式も導かれます。
  4. 各過程における熱量の計算:
    • 定積変化: \(Q = nC_v\Delta T\)
    • 定圧変化: \(Q = nC_p\Delta T\)
    • 断熱変化: \(Q = 0\)
  5. 単原子分子気体のモル比熱: \(C_v = \displaystyle\frac{3}{2}R\), \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)。
  6. 状態方程式の利用: \(n R \Delta T = \Delta(PV)\) の関係を利用すると、温度を介さずに \(PV\) 積の変化から熱量を計算できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 1サイクルで気体がした正味の仕事 \(W’\) を求めます。
  2. 1サイクルで気体が吸収した熱量の総和 \(Q_{in}\) を求めます。
  3. 熱効率の定義式 \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{in}}\) に代入して計算します。

図aの熱効率

思考の道筋とポイント
図aは定積変化と定圧変化で構成される長方形のサイクルです。熱効率 \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{in}}\) を計算するために、分子の \(W’\) と分母の \(Q_{in}\) をそれぞれ求めます。

1. 仕事 \(W’\) の計算
1サイクルで気体がした正味の仕事 \(W’\) は、サイクルが\(P-V\)グラフ上で囲む図形の面積に等しくなります。図aでは、これは長方形の面積なので、簡単に計算できます。

2. 吸収熱量 \(Q_{in}\) の計算
気体が熱を吸収するのは、温度が上昇する過程です。温度は \(PV\) 積に比例する (\(T \propto PV\)) ので、\(PV\) 積が増加する過程を探します。

  • 過程\(\mathrm{I}\) (A→B): \(PV \rightarrow 3PV\) (増加) → 熱吸収
  • 過程\(\mathrm{II}\) (B→C): \(3PV \rightarrow 12PV\) (増加) → 熱吸収
  • 過程\(\mathrm{III}\) (C→D): \(12PV \rightarrow 4PV\) (減少) → 熱放出
  • 過程\(\mathrm{IV}\) (D→A): \(4PV \rightarrow PV\) (減少) → 熱放出

したがって、吸収熱量の総和 \(Q_{in}\) は、過程\(\mathrm{I}\)と過程\(\mathrm{II}\)で吸収した熱の和 (\(Q_{in} = Q_{\mathrm{I}} + Q_{\mathrm{II}}\)) となります。
各過程の熱量は、単原子気体のモル比熱の公式を使って計算します。
この設問における重要なポイント

  • 仕事 \(W’\) はサイクルが囲む面積。
  • 熱吸収は温度が上昇する過程 (\(PV\)積が増加する過程)。
  • 過程\(\mathrm{I}\)は定積変化 (\(Q=nC_v\Delta T\))、過程\(\mathrm{II}\)は定圧変化 (\(Q=nC_p\Delta T\))。
  • \(n R \Delta T = \Delta(PV)\) を利用して計算を簡略化する。

具体的な解説と立式
仕事 \(W’\) の計算
サイクルが囲む長方形の面積を計算します。
$$
\begin{aligned}
W’ &= (\text{縦}) \times (\text{横}) \\[2.0ex]
&= (3P – P) \times (4V – V) \\[2.0ex]
&= (2P) \times (3V) \\[2.0ex]
&= 6PV
\end{aligned}
$$

吸収熱量 \(Q_{in}\) の計算
熱を吸収するのは過程\(\mathrm{I}\)と\(\mathrm{II}\)です。

  • 過程\(\mathrm{I}\) (定積加熱):
    $$
    \begin{aligned}
    Q_{\mathrm{I}} &= nC_v(T_B – T_A) \\[2.0ex]
    &= n\left(\frac{3}{2}R\right)(T_B – T_A) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}(nRT_B – nRT_A) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}(P_B V_B – P_A V_A) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}(3P \cdot V – P \cdot V) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}(2PV) \\[2.0ex]
    &= 3PV
    \end{aligned}
    $$
  • 過程\(\mathrm{II}\) (定圧加熱):
    $$
    \begin{aligned}
    Q_{\mathrm{II}} &= nC_p(T_C – T_B) \\[2.0ex]
    &= n\left(\frac{5}{2}R\right)(T_C – T_B) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(nRT_C – nRT_B) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(P_C V_C – P_B V_B) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(3P \cdot 4V – 3P \cdot V) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(12PV – 3PV) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(9PV) \\[2.0ex]
    &= \frac{45}{2}PV
    \end{aligned}
    $$

吸収した熱量の総和は、
$$
\begin{aligned}
Q_{in} &= Q_{\mathrm{I}} + Q_{\mathrm{II}} \\[2.0ex]
&= 3PV + \frac{45}{2}PV \\[2.0ex]
&= \frac{6+45}{2}PV \\[2.0ex]
&= \frac{51}{2}PV
\end{aligned}
$$

熱効率 \(e\) の計算
$$ e = \frac{W’}{Q_{in}} $$

使用した物理公式

  • 熱効率: \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{in}}\)
  • 熱量計算: \(Q=nC_v\Delta T\), \(Q=nC_p\Delta T\)
  • 単原子分子のモル比熱: \(C_v=\frac{3}{2}R\), \(C_p=\frac{5}{2}R\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
e &= \frac{6PV}{\frac{51}{2}PV} \\[2.0ex]
&= \frac{6}{\frac{51}{2}} \\[2.0ex]
&= 6 \times \frac{2}{51} \\[2.0ex]
&= \frac{12}{51} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{17}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

熱効率は「(エンジンがした仕事)÷(投入した燃料の熱エネルギー)」で計算します。
まず、エンジンが1サイクルでした仕事は、\(P-V\)グラフの長方形の面積から \(6PV\) と計算できます。
次に、燃料を投入した(熱を吸収した)のは、温度が上がっている過程\(\mathrm{I}\)と\(\mathrm{II}\)です。それぞれの過程で吸収した熱量を計算して足し合わせると、\(\frac{51}{2}PV\) となります。
最後に、これらの値を熱効率の式に代入して、「\(6PV \div \frac{51}{2}PV\)」を計算すると、\(\frac{4}{17}\) という答えが得られます。

結論と吟味

図aのサイクルの熱効率は \(\displaystyle\frac{4}{17}\) となります。

解答 (図a) \(\displaystyle\frac{4}{17}\)
別解 (図a): 熱効率の別公式 \(e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
熱効率のもう一つの公式 \(e = 1 – \displaystyle\frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) を使って計算します。\(Q_{in}\) は主たる解法で計算済みです。ここでは、放出した熱量 \(Q_{out}\) を計算します。熱を放出するのは温度が下降する過程、すなわち過程\(\mathrm{III}\)と\(\mathrm{IV}\)です。
この設問における重要なポイント

  • 熱効率の別公式: \(e = 1 – \displaystyle\frac{Q_{out}}{Q_{in}}\)
  • 熱放出は温度が下降する過程 (\(PV\)積が減少する過程)。
  • 過程\(\mathrm{III}\)は定積変化、過程\(\mathrm{IV}\)は定圧変化。

具体的な解説と立式
吸収熱量 \(Q_{in} = \displaystyle\frac{51}{2}PV\) は計算済みです。
放出熱量 \(Q_{out}\) を計算します。

  • 過程\(\mathrm{III}\) (定積冷却):
    $$
    \begin{aligned}
    Q_{\mathrm{III}} &= nC_v(T_D – T_C) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}(P_D V_D – P_C V_C) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}(P \cdot 4V – 3P \cdot 4V) \\[2.0ex]
    &= \frac{3}{2}(-8PV) \\[2.0ex]
    &= -12PV
    \end{aligned}
    $$
  • 過程\(\mathrm{IV}\) (定圧冷却):
    $$
    \begin{aligned}
    Q_{\mathrm{IV}} &= nC_p(T_A – T_D) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(P_A V_A – P_D V_D) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(P \cdot V – P \cdot 4V) \\[2.0ex]
    &= \frac{5}{2}(-3PV) \\[2.0ex]
    &= -\frac{15}{2}PV
    \end{aligned}
    $$

放出した熱量の総和 \(Q_{out}\) は、これらの熱量の絶対値の和です。
$$
\begin{aligned}
Q_{out} &= |Q_{\mathrm{III}}| + |Q_{\mathrm{IV}}| \\[2.0ex]
&= 12PV + \frac{15}{2}PV \\[2.0ex]
&= \frac{24+15}{2}PV \\[2.0ex]
&= \frac{39}{2}PV
\end{aligned}
$$
熱効率 \(e\) は、
$$ e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}} $$

使用した物理公式

  • 熱効率: \(e = 1 – \displaystyle\frac{Q_{out}}{Q_{in}}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
e &= 1 – \frac{\frac{39}{2}PV}{\frac{51}{2}PV} \\[2.0ex]
&= 1 – \frac{39}{51} \\[2.0ex]
&= 1 – \frac{13}{17} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{17}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

熱効率は「1 – (捨てた熱エネルギー) ÷ (投入した熱エネルギー)」でも計算できます。
投入した熱は \(\frac{51}{2}PV\) でした。一方、熱を捨てたのは温度が下がっている過程\(\mathrm{III}\)と\(\mathrm{IV}\)です。ここで捨てた熱の合計を計算すると \(\frac{39}{2}PV\) となります。
これを公式に当てはめて計算すると、やはり \(\frac{4}{17}\) という答えが得られます。

結論と吟味

主たる解法と同じ結果が得られました。仕事 \(W’\) は \(Q_{in} – Q_{out} = \frac{51}{2}PV – \frac{39}{2}PV = \frac{12}{2}PV = 6PV\) となり、主たる解法で求めた面積と一致することも確認できます。

解答 (図a) \(\displaystyle\frac{4}{17}\)

図bの熱効率

思考の道筋とポイント
図bは断熱変化を含むサイクルです。熱効率 \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{in}}\) を計算する方針は同じですが、仕事 \(W’\) の計算方法が異なります。

1. 仕事 \(W’\) の計算
過程\(\mathrm{II}\)が曲線であるため、サイクルが囲む面積を直接計算することは困難です。そこで、サイクル全体に熱力学第一法則を適用して間接的に求めます。
1サイクル後には元の状態に戻るので、内部エネルギーの変化はゼロ (\(\Delta U = 0\)) です。
熱力学第一法則 \( \Delta U = Q_{net} – W’ \) より、\(0 = Q_{net} – W’\)、すなわち \(W’ = Q_{net}\) となります。
\(Q_{net}\) は1サイクルでの正味の吸収熱量 (\(Q_{in} – Q_{out}\)) なので、結局 \(W’ = Q_{in} – Q_{out}\) となります。

2. 吸収熱量 \(Q_{in}\) と放出熱量 \(Q_{out}\) の計算

  • 過程\(\mathrm{I}\) (A→B): 定積変化。\(PV \rightarrow 32PV\) (増加) → 熱吸収。
  • 過程\(\mathrm{II}\) (B→C): 断熱変化。\(Q=0\)。
  • 過程\(\mathrm{III}\) (C→A): 定圧変化。\(8PV \rightarrow PV\) (減少) → 熱放出。

したがって、\(Q_{in} = Q_{\mathrm{I}}\)、\(Q_{out} = |Q_{\mathrm{III}}|\) となります。
この設問における重要なポイント

  • 仕事 \(W’\) は \(W’ = Q_{in} – Q_{out}\) から間接的に求める。
  • 熱吸収は過程\(\mathrm{I}\)(定積)、熱放出は過程\(\mathrm{III}\)(定圧)。
  • 過程\(\mathrm{II}\)は断熱なので熱の出入りはゼロ。

具体的な解説と立式
吸収熱量 \(Q_{in}\) の計算
過程\(\mathrm{I}\) (定積加熱) のみです。
$$
\begin{aligned}
Q_{in} = Q_{\mathrm{I}} &= nC_v(T_B – T_A) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}(P_B V_B – P_A V_A) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}(32P \cdot V – P \cdot V) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}(31PV) \\[2.0ex]
&= \frac{93}{2}PV
\end{aligned}
$$

放出熱量 \(Q_{out}\) の計算
過程\(\mathrm{III}\) (定圧冷却) のみです。
$$
\begin{aligned}
Q_{\mathrm{III}} &= nC_p(T_A – T_C) \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}(P_A V_A – P_C V_C) \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}(P \cdot V – P \cdot 8V) \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2}(-7PV) \\[2.0ex]
&= -\frac{35}{2}PV
\end{aligned}
$$
よって、放出熱量の大きさは \(Q_{out} = |Q_{\mathrm{III}}| = \displaystyle\frac{35}{2}PV\)。

仕事 \(W’\) の計算
$$
\begin{aligned}
W’ &= Q_{in} – Q_{out} \\[2.0ex]
&= \frac{93}{2}PV – \frac{35}{2}PV \\[2.0ex]
&= \frac{58}{2}PV \\[2.0ex]
&= 29PV
\end{aligned}
$$

熱効率 \(e\) の計算
$$ e = \frac{W’}{Q_{in}} $$

使用した物理公式

  • 熱効率: \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{in}}\)
  • 熱力学第一法則(サイクル): \(W’ = Q_{in} – Q_{out}\)
  • 熱量計算: \(Q=nC_v\Delta T\), \(Q=nC_p\Delta T\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
e &= \frac{29PV}{\frac{93}{2}PV} \\[2.0ex]
&= \frac{29}{\frac{93}{2}} \\[2.0ex]
&= 29 \times \frac{2}{93} \\[2.0ex]
&= \frac{58}{93}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

このエンジンの熱効率を求めます。
まず、エンジンに投入された熱エネルギーは、温度が上がっている過程\(\mathrm{I}\)だけで、計算すると \(\frac{93}{2}PV\) です。
次に、エンジンがした仕事ですが、グラフが曲線なので面積計算ができません。そこで、「仕事=投入した熱-捨てた熱」というエネルギー保存則を使います。捨てた熱は、温度が下がっている過程\(\mathrm{III}\)だけで、計算すると \(\frac{35}{2}PV\) です。
したがって、仕事は \(\frac{93}{2}PV – \frac{35}{2}PV = 29PV\) となります。
最後に、熱効率の公式「仕事÷投入した熱」に当てはめて計算すると、\(\frac{58}{93}\) という答えが得られます。

結論と吟味

図bのサイクルの熱効率は \(\displaystyle\frac{58}{93}\) となります。

解答 (図b) \(\displaystyle\frac{58}{93}\)
別解 (図b): 熱効率の別公式 \(e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
仕事 \(W’\) を計算するステップを省略し、熱効率の別公式 \(e = 1 – \displaystyle\frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) を直接使います。\(Q_{in}\) と \(Q_{out}\) は主たる解法の過程で既に計算済みです。
この設問における重要なポイント

  • 熱効率の別公式: \(e = 1 – \displaystyle\frac{Q_{out}}{Q_{in}}\)
  • 仕事 \(W’\) を計算する必要がない。

具体的な解説と立式
吸収熱量 \(Q_{in} = \displaystyle\frac{93}{2}PV\)、放出熱量 \(Q_{out} = \displaystyle\frac{35}{2}PV\) を公式に代入します。
$$ e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}} $$

使用した物理公式

  • 熱効率: \(e = 1 – \displaystyle\frac{Q_{out}}{Q_{in}}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
e &= 1 – \frac{\frac{35}{2}PV}{\frac{93}{2}PV} \\[2.0ex]
&= 1 – \frac{35}{93} \\[2.0ex]
&= \frac{93 – 35}{93} \\[2.0ex]
&= \frac{58}{93}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

仕事の面積が計算しにくい場合でも、熱効率は「1 – (捨てた熱) ÷ (投入した熱)」で計算できます。
投入した熱は過程\(\mathrm{I}\)で \(\frac{93}{2}PV\)、捨てた熱は過程\(\mathrm{III}\)で \(\frac{35}{2}PV\) です。
これを公式に当てはめて計算するだけで、仕事の量を計算しなくても、熱効率が求まります。

結論と吟味

主たる解法と同じ結果が、より少ないステップで得られました。仕事の面積が直接計算できないサイクルでは、この別解のアプローチが非常に効率的であることがわかります。

解答 (図b) \(\displaystyle\frac{58}{93}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱効率の定義と熱力学第一法則:
    • 核心: この問題の根幹は、熱機関の性能指標である「熱効率 \(e\)」の定義を正しく理解し、それを計算するために必要な物理量(仕事 \(W’\)、吸収熱量 \(Q_{in}\))を、熱力学の法則を駆使して求めることにあります。
    • 理解のポイント:
      • 定義式: \(e = \displaystyle\frac{W’}{Q_{in}}\)。これは「投入した熱エネルギーのうち、どれだけの割合を有効な仕事に変換できたか」を表します。
      • 熱力学第一法則の応用: 1サイクル後には元の状態に戻るため、内部エネルギーの変化はゼロ (\(\Delta U = 0\))。このことから、熱力学第一法則は \(W’ = Q_{in} – Q_{out}\) という特別な形になります。これは「1サイクルでした仕事は、吸収した熱と放出した熱の差額に等しい」ことを意味します。
      • 別公式: 上記2式を組み合わせることで、\(e = 1 – \displaystyle\frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) という、熱の出入りだけで効率を計算できる、もう一つの強力な公式が導かれます。
  • 各状態変化における熱量の計算:
    • 核心: 熱効率を計算するためには、サイクル中のどの過程で熱を吸収(\(Q_{in}\))し、どの過程で放出(\(Q_{out}\))するのかを特定し、その量を計算する必要があります。
    • 理解のポイント:
      • 熱の吸収/放出の判断: 温度が上昇する過程で熱を吸収し、下降する過程で熱を放出します。温度は \(PV\) 積に比例するため、\(P-V\)グラフ上で \(PV\) 積が増加する過程が熱吸収過程です。
      • 熱量の計算式:
        • 定積変化: \(Q = nC_v\Delta T\)
        • 定圧変化: \(Q = nC_p\Delta T\)
        • 断熱変化: \(Q = 0\)
      • 状態方程式の活用: \(n R \Delta T = \Delta(PV) = P_2V_2 – P_1V_1\) という関係式を使うと、温度を計算することなく、\(P-V\)グラフから直接読み取れる値だけで熱量を計算でき、非常に便利です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • カルノーサイクル: 2つの等温変化と2つの断熱変化で構成される、理論上最も効率の良い熱サイクル。各過程での熱の出入りを計算し、熱効率が \(e = 1 – \frac{T_L}{T_H}\)(\(T_L\): 低温熱源の温度, \(T_H\): 高温熱源の温度)となることを導く問題。
    • オットーサイクル、ディーゼルサイクル: 実際のガソリンエンジンやディーゼルエンジンを理想化した熱サイクル。断熱変化や定積・定圧変化を組み合わせており、本問と同様のアプローチで熱効率を計算します。
    • 冷凍機・ヒートポンプの成績係数: 本問のような反時計回りのサイクルでは、外部から仕事をすることで低温部から熱を奪い、高温部に熱を放出します。このときの性能を表す「成績係数(COP)」を計算する問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 仕事 \(W’\) の計算方法を判断:
      • サイクルが囲む面積が、長方形や三角形など簡単に計算できる形か? → Yesなら、面積から \(W’\) を直接計算する。
      • 曲線を含み、面積計算が困難か? → Yesなら、\(W’ = Q_{in} – Q_{out}\) を利用して、熱量の差から間接的に \(W’\) を求める。
    2. 熱の吸収・放出過程を特定: サイクルを一周たどりながら、各過程で \(PV\) 積が増加しているか、減少しているかを確認します。\(PV\) 積が増加する過程が \(Q_{in}\) の対象、減少する過程が \(Q_{out}\) の対象です(断熱変化を除く)。
    3. 最適な熱効率の公式を選択:
      • \(W’\) と \(Q_{in}\) が簡単に求まるなら → \(e = \frac{W’}{Q_{in}}\)
      • \(W’\) の計算が面倒だが、\(Q_{in}\) と \(Q_{out}\) が計算しやすいなら → \(e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\)
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(Q_{in}\) の計算対象の誤り:
    • 誤解: サイクル中のすべての過程で加えられた熱の総和(\(Q_{net}\))を \(Q_{in}\) としてしまう。
    • 対策: 熱効率の定義における \(Q_{in}\) は、サイクル中で外部から吸収した熱量の総和(プラスのQの合計)です。放出された熱量(マイナスのQ)は含めません。
  • 仕事 \(W’\) と熱量 \(Q\) の混同:
    • 誤解: 断熱変化(\(Q=0\))なのに、仕事もゼロだと勘違いしたり、定積変化(\(W’=0\))なのに、熱の出入りもゼロだと勘違いしたりする。
    • 対策: 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) を常に念頭に置き、\(Q, \Delta U, W’\) はそれぞれ独立した物理量であると認識することが重要です。一つの項がゼロでも、他の項はゼロとは限りません。
  • モル比熱の係数の適用ミス:
    • 誤解: 定積変化なのに \(C_p = \frac{5}{2}R\) を使ったり、定圧変化なのに \(C_v = \frac{3}{2}R\) を使ったりする。
    • 対策: 「定モル比熱 \(C_v\)」「定モル比熱 \(C_p\)」という名称と、それぞれの変化の対応を正確に記憶しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱効率の定義式 \(e = \frac{W’}{Q_{in}}\) の選択:
    • 選定理由: これが熱効率の「定義」そのものであるため、最も基本的で本質的なアプローチです。熱機関の目的(仕事を取り出す)と、そのために必要なコスト(熱を投入する)の比率を表しており、物理的な意味が最も明確です。
    • 適用根拠: 熱機関の性能を評価するための普遍的な定義に基づいています。
  • \(e = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}}\) の選択:
    • 選定理由: 仕事 \(W’\) の計算が困難または面倒な場合に、計算を簡略化するための、より実用的な公式として選択します。
    • 適用根拠: この公式は、熱力学第一法則をサイクルに適用した結果 (\(W’ = Q_{in} – Q_{out}\)) を、熱効率の定義式に代入して導かれる、数学的に等価な関係式です。したがって、物理的に完全に正当な方法です。
  • \(n R \Delta T = \Delta(PV)\) の利用:
    • 選定理由: 熱量計算 \(Q=nC\Delta T\) を行う際に、各点の温度 \(T\) をいちいち計算する手間を省くためです。
    • 適用根拠: 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) の変化量をとったものです。\(n\) と \(R\) が定数なので、\(\Delta(PV) = \Delta(nRT) = nR\Delta T\) という関係が厳密に成り立ちます。これにより、\(P-V\)グラフから直接読み取れる \(PV\) の値を使って、温度変化に比例する量を計算できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • PV積を表にまとめる: サイクルの各頂点(A, B, C, D)について、\(P, V\) の値と、その積 \(PV\) の値を一覧表にすると、温度変化の判断や熱量計算の際に非常に役立ち、ミスを減らせます。
  • 分数の計算を丁寧に行う: 熱効率の計算は、最終的に分数の割り算になることが多いです。\(\frac{6PV}{\frac{51}{2}PV}\) のような計算では、まず共通の \(PV\) を約分し、\(\frac{6}{51/2} = 6 \times \frac{2}{51}\) のように、逆数を掛ける形に直してから計算すると確実です。
  • 物理的な意味で検算する: 熱効率 \(e\) は、定義上 \(0 \le e < 1\) の範囲の値をとります。計算結果が1以上になったり、負の値になったりした場合は、どこかで計算ミスをしている証拠です。必ず見直しを行いましょう。
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32 気体の混合

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2)の別解: 状態方程式の和を用いる解法
      • 主たる解法が、変化後の各容器の物質量 \(n_A, n_B\) を計算し、その和が一定であることから圧力を求めるのに対し、別解では、各容器の状態方程式を \(n = \frac{PV}{RT}\) の形に変形し、物質量の総和 \(n_A + n_B = 4n\) の式に代入することで、より直接的に圧力を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の単純化: 変化後の物質量を個別に計算するステップを省略し、物質量の総和という保存量に直接着目するため、思考のプロセスがよりシンプルになります。
    • 解法の効率化: 少ない式変形で答えにたどり着ける場合が多く、計算ミスのリスクを減らすことができます。
    • 汎用性の高さ: このアプローチは、コックで繋がれた容器間の気体の移動を伴う様々な問題に応用できる、非常に汎用性の高い解法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「連結された容器内の気体の状態変化」です。細い管で結ばれた2つの容器内の気体は、常に圧力が等しくなるという条件下で、それぞれの状態が変化します。状態方程式と、気体の物質量(分子数)の保存則を正しく適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 圧力の均一性: 細い管で結ばれた容器内の気体は、平衡状態では常に圧力が等しくなります。
  2. 理想気体の状態方程式: 各容器内の気体の状態(\(P, V, n, T\))を結びつける基本法則 (\(PV=nRT\))。
  3. 物質量の保存: 容器間で気体の移動があっても、系全体の気体の総物質量(総分子数)は変化しません。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. B内の初期温度: はじめの状態について、AとBそれぞれで状態方程式を立てます。両者の圧力が等しいことを利用して2つの式から圧力を消去し、B内の温度 \(T_B\) を求めます。
  2. 変化後の圧力:
    1. 加熱後の状態について、AとBそれぞれで状態方程式を立てます。このとき、圧力が共通であること、および気体の移動により各容器の物質量が変化することに注意します。
    2. 物質量の保存則(変化後の物質量の和=変化前の物質量の和)の式を立てます。
    3. これらの式を連立させ、変化後の圧力 \(P\) を求め、はじめの圧力 \(P_0\) との比を計算します。

問(1) B内の温度はいくらか。

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