熱力学範囲 11~15
11 気体の仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「状態方程式を変形して導出する解法」を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 熱力学第一法則とマイヤーの関係式を用いる解法
- 主たる解法が、理想気体の状態方程式の変形という数学的なアプローチから \(W’=nR\Delta T\) を導くのに対し、別解では、熱力学第一法則(エネルギー保存則)という物理的なアプローチから出発し、同じ結論を導きます。
- 熱力学第一法則とマイヤーの関係式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 定圧変化で気体に加えた熱が、どのように「内部エネルギーの増加」と「外部への仕事」に分配されるかという、エネルギー保存の観点から問題を捉え直すことができます。
- 法則間の連携理解: 熱力学第一法則、内部エネルギーの式、仕事の式、定圧モル比熱、定積モル比熱、そしてマイヤーの関係式といった複数の重要な法則が、どのように連携して一つの結論を導くかを確認でき、熱力学の体系的な理解が深まります。
- 思考の多角化: 同じ \(W’=nR\Delta T\) という便利な公式が、状態方程式の変形だけでなく、エネルギー保存則からも導出できることを知ることで、物理法則への信頼と理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、導出される計算式や最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「定圧変化における気体の仕事の計算(温度変化からのアプローチ)」です。気体がした仕事を計算する際に、体積変化が与えられてなくても、温度変化から計算できることを学ぶ重要な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定圧変化で気体がする仕事: 圧力が一定のとき、気体がする仕事は \(W’=P\Delta V\) で与えられます。
- 理想気体の状態方程式: 気体の状態量 \(P, V, n, T\) を結びつける基本法則 \(PV=nRT\) を理解していること。
- 状態方程式の差分利用: 状態方程式を変化の前後で考え、その差をとることで、\(P\Delta V = nR\Delta T\) という定圧変化に特有の便利な関係式を導けること。
- 温度変化量の単位: 温度「差」や「変化量」を考える場合、セルシウス温度(℃)での変化量と絶対温度(K)での変化量は等しくなります (\(\Delta t [^\circ\text{C}] = \Delta T [\text{K}]\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 気体がした仕事の基本公式 \(W’=P\Delta V\) を出発点とします。
- 理想気体の状態方程式を用いて、この式に含まれる \(P\Delta V\) を、問題で与えられている温度変化 \(\Delta T\) を含む形 (\(nR\Delta T\)) に書き換えます。
- 得られた公式 \(W’=nR\Delta T\) に、与えられた数値を代入して仕事を計算します。
気体がした仕事の計算
思考の道筋とポイント
この問題は、定圧変化で気体がした仕事を計算する問題ですが、前問とは異なり、体積の変化量が与えられていません。その代わりに、温度の変化量が与えられています。
この状況でどうやって仕事を計算するかがポイントです。
出発点は、定圧変化で気体がした仕事の公式 \(W’=P\Delta V\) です。この式には、求めたい仕事 \(W’\) と、未知の体積変化 \(\Delta V\) が含まれています。
一方、気体の状態変化を記述する万能の法則として、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) があります。この式には、未知の \(\Delta V\) と、既知の温度変化 \(\Delta T\) の両方に関連する変数 \(V\) と \(T\) が含まれています。
そこで、状態方程式を利用して、未知の \(P\Delta V\) を、既知の量である \(n, R, \Delta T\) を使って表現し直すことを考えます。具体的には、変化の前の状態と後の状態でそれぞれ状態方程式を立て、両者の差をとることで、\(P\Delta V = nR\Delta T\) という非常に便利な関係式を導き出すことができます。
この関係式を使えば、体積が分からなくても、温度変化から直接仕事を計算することが可能になります。
この設問における重要なポイント
- 「圧力を一定にして」という記述から、定圧変化であると判断する。
- 仕事の公式 \(W’=P\Delta V\) を、状態方程式を用いて \(W’=nR\Delta T\) に変形する。
- 温度「差」は℃とKで同じ値: \(\Delta T = 50 \, \text{K}\)。
- 与えられた数値を代入する: \(n=2 \, \text{mol}\), \(R=8.3 \, \text{J/(mol}\cdot\text{K)}\)。
具体的な解説と立式
定圧変化において、気体が外部にする仕事 \(W’\) は、圧力 \(P\) と体積変化 \(\Delta V\) を用いて次のように表されます。
$$ W’ = P\Delta V $$
ここで、体積変化 \(\Delta V\) が未知です。そこで、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を利用します。
変化前の体積を \(V_1\)、温度を \(T_1\)、変化後の体積を \(V_2\)、温度を \(T_2\) とすると、圧力 \(P\) は一定なので、
変化前: \( PV_1 = nRT_1 \)
変化後: \( PV_2 = nRT_2 \)
これらの式の辺々を引き算すると、
$$ PV_2 – PV_1 = nRT_2 – nRT_1 $$
左辺と右辺をそれぞれまとめると、
$$ P(V_2 – V_1) = nR(T_2 – T_1) $$
ここで、\(V_2 – V_1 = \Delta V\)、\(T_2 – T_1 = \Delta T\) なので、
$$ P\Delta V = nR\Delta T $$
という関係式が得られます。
したがって、求めたい仕事 \(W’\) は、
$$ W’ = nR\Delta T $$
と表すことができます。
使用した物理公式
- 定圧変化で気体がする仕事: \(W’ = P\Delta V\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
上記で導出した公式 \(W’ = nR\Delta T\) に、問題で与えられた数値を代入します。
- 物質量: \(n = 2 \, \text{mol}\)
- 気体定数: \(R = 8.3 \, \text{J/(mol}\cdot\text{K)}\)
- 温度変化: \(\Delta T = 50 \, \text{℃} = 50 \, \text{K}\) (温度「差」なので、単位を℃からKにそのまま置き換えてよい)
$$
\begin{aligned}
W’ &= 2 \times 8.3 \times 50 \\[2.0ex]
&= 8.3 \times (2 \times 50) \\[2.0ex]
&= 8.3 \times 100 \\[2.0ex]
&= 8.3 \times 10^2 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
したがって、気体がした仕事は \(8.3 \times 10^2 \, \text{J}\) となります。
気体がした仕事は「圧力 × 増えた体積」で計算できますが、この問題では「増えた体積」が分かりません。その代わり、「温度が \(50 \, \text{℃}\) 上がった」というヒントが与えられています。
ここで、気体の万能ルールである「状態方程式」を使うと、「圧力 × 増えた体積」という量は、「物質量 \(n\) × 気体定数 \(R\) × 上がった温度 \(\Delta T\)」という量にいつでも「翻訳」できることがわかります。
この便利な翻訳ルール \(P\Delta V = nR\Delta T\) を使えば、体積が分からなくても、温度の情報から仕事を計算することができるのです。
気体がした仕事は \(8.3 \times 10^2 \, \text{J}\) となります。
定圧で温度を上げたので、気体は膨張したはずです。したがって、気体が外部にした仕事 \(W’\) は正の値となり、計算結果と一致します。
また、単位を確認すると、\( [\text{mol}] \times [\text{J/(mol}\cdot\text{K)}] \times [\text{K}] = [\text{J}] \) となり、正しく仕事(エネルギー)の単位になっていることが確認できます。
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則(エネルギー保存則)\(Q = \Delta U + W’\) から、仕事 \(W’\) を求めるアプローチです。この式を変形すると \(W’ = Q – \Delta U\) となり、「気体に加えた熱量 \(Q\)」から「内部エネルギーの増加分 \(\Delta U\)」を差し引いた残りが、外部への仕事 \(W’\) になる、という物理的な意味を直接的に計算します。
定圧変化では、加えた熱量 \(Q\) は定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて \(Q = nC_p\Delta T\) と表せます。一方、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、変化の過程によらず温度変化だけで決まり、定積モル比熱 \(C_v\) を用いて \(\Delta U = nC_v\Delta T\) と表せます。
これらの関係と、\(C_p\) と \(C_v\) の間になりたつマイヤーの関係式 \(C_p – C_v = R\) を組み合わせることで、\(W’\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W’\)
- 加えた熱量(定圧変化): \(Q = nC_p\Delta T\)
- 内部エネルギーの変化: \(\Delta U = nC_v\Delta T\)
- マイヤーの関係式: \(C_p – C_v = R\)
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、気体がした仕事 \(W’\) は、気体に加えられた熱量 \(Q\) と内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を用いて、
$$ W’ = Q – \Delta U $$
と表せます。
今回の過程は定圧変化なので、加えられた熱量 \(Q\) は、定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて、
$$ Q = nC_p\Delta T $$
と書けます。
一方、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、定積モル比熱 \(C_v\) を用いて、
$$ \Delta U = nC_v\Delta T $$
と書けます。これらを \(W’\) の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
W’ &= nC_p\Delta T – nC_v\Delta T \\[2.0ex]
&= n(C_p – C_v)\Delta T
\end{aligned}
$$
ここで、定圧モル比熱と定積モル比熱の間には、常に \(C_p – C_v = R\) という関係(マイヤーの関係式)が成り立ちます。これを代入すると、
$$ W’ = nR\Delta T $$
となり、主たる解法と全く同じ公式が導かれます。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W’\)
- 定圧モル比熱の定義: \(Q = nC_p\Delta T\)
- 内部エネルギーと定積モル比熱の関係: \(\Delta U = nC_v\Delta T\)
- マイヤーの関係式: \(C_p – C_v = R\)
導出された公式 \(W’ = nR\Delta T\) は主たる解法と同一であるため、その後の計算も全く同じになります。
$$
\begin{aligned}
W’ &= 2 \times 8.3 \times 50 \\[2.0ex]
&= 8.3 \times 10^2 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
気体に熱を加えると、その熱エネルギーは主に2つのことに使われます。一つは「気体の温度を上げること(内部エネルギーの増加)」、もう一つは「気体を膨張させて外部を押すこと(外部への仕事)」です。
つまり、「加えた熱の総量」から「温度を上げるのに使った分」を差し引けば、残りが「膨張(仕事)に使った分」になる、というエネルギーの収支計算をするのがこの解法です。
物理学には、この計算をするための便利な道具立て(モル比熱やマイヤーの関係式)があり、それらを使うと、最終的に仕事は \(n \times R \times \Delta T\) というシンプルな形で計算できることがわかります。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。状態方程式の変形という数学的なアプローチと、エネルギーの分配という物理的なアプローチが同じ結論に至ることは、物理法則の美しさ、一貫性を示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 状態方程式を用いた仕事の公式の変形:
- 核心: この問題の根幹は、定圧変化における仕事の基本公式 \(W’=P\Delta V\) を、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて変形し、体積変化 \(\Delta V\) ではなく温度変化 \(\Delta T\) から仕事を計算する公式 \(W’=nR\Delta T\) を導出して適用することにあります。
- 理解のポイント:
- 問題設定の分析: 問題で与えられているのは「温度変化 \(\Delta T\)」であり、「体積変化 \(\Delta V\)」は与えられていません。この状況から、基本公式 \(W’=P\Delta V\) をそのまま使うのではなく、与えられた情報(\(n, R, \Delta T\))で計算できる形に「翻訳」する必要がある、と気づくことが第一歩です。
- 状態方程式の役割: 理想気体の状態方程式は、\(P, V, T\) という3つの状態量を結びつける万能の法則です。この法則を利用することで、\(P\Delta V\) という量を \(nR\Delta T\) という量に変換することができます。
- 温度変化量 \(\Delta T\) の単位の扱い:
- 核心: 温度「そのもの」と、温度の「変化量」では、単位の扱いが異なることを正確に理解していることが重要です。
- 理解のポイント:
- 温度: セルシウス温度 \(t [^\circ\text{C}]\) と絶対温度 \(T [\text{K}]\) の間には \(T = t + 273\) という関係があり、値が異なります。
- 温度変化量: 一方、温度が \(t_1\) から \(t_2\) に変化した場合、その変化量は \(\Delta t = t_2 – t_1\)。これを絶対温度で考えると、\(T_1 = t_1 + 273\), \(T_2 = t_2 + 273\) なので、変化量は \(\Delta T = T_2 – T_1 = (t_2 + 273) – (t_1 + 273) = t_2 – t_1 = \Delta t\)。つまり、温度「差」や「変化量」は、セルシウス度とケルビンで全く同じ値になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 熱力学第一法則との融合問題: 「定圧変化で気体の温度を \(50 \, \text{℃}\) 上げた。気体に加えた熱量はいくらか?」といった問題。この場合、まず本問と同様に仕事 \(W’ = nR\Delta T\) を計算します。次に、内部エネルギーの変化 \(\Delta U = nC_v\Delta T\) を計算し(単原子分子なら \(C_v = \frac{3}{2}R\))、最後に熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) に代入して熱量 \(Q\) を求めます。
- 定圧モル比熱 \(C_p\) を使う問題: 上記の熱量を求める問題は、定圧モル比熱 \(C_p\) を知っていれば \(Q = nC_p\Delta T\) で一発で計算できます。本問で導いた \(W’=nR\Delta T\) は、\(Q = \Delta U + W’\) すなわち \(nC_p\Delta T = nC_v\Delta T + nR\Delta T\) であり、これはマイヤーの関係式 \(C_p = C_v + R\) そのものを表しています。
- 体積変化を問う問題: 「圧力を一定にして2モルの気体の温度を \(50 \, \text{℃}\) 上げた。体積は何 \(\text{m}^3\) 増加したか?」という問題。この場合は、まず仕事 \(W’ = nR\Delta T\) を計算し、その結果を \(W’ = P\Delta V\) に代入して \(\Delta V = W’/P\) として体積変化を求めることができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 変化の種類を特定: 「圧力を一定にして」というキーワードから「定圧変化」であることを確認します。
- 与えられた情報を整理: 「仕事」を求めたいのに、「体積変化」がなく「温度変化」が与えられている、という情報の過不足を把握します。
- 公式の変形を想起: この情報のミスマッチを解消するために、状態方程式を使って \(P\Delta V\) を \(nR\Delta T\) に変形する、という解法パターンを思い出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 温度変化 \(\Delta T\) の単位換算ミス:
- 誤解: 温度変化 \(50 \, \text{℃}\) を、絶対温度に変換しようとして \(50 + 273 = 323 \, \text{K}\) を代入してしまう。
- 対策: これは最も頻発するミスの一つです。公式で使う \(\Delta T\) はあくまで「温度の差」であり、その大きさはセルシウス度でもケルビンでも同じである、と強く意識しましょう。「\(10 \, \text{℃}\) と \(60 \, \text{℃}\) の差は \(50 \, \text{℃}\)」「\(283 \, \text{K}\) と \(333 \, \text{K}\) の差は \(50 \, \text{K}\)」のように、具体的な例で確認する癖をつけると間違いません。
- \(W’=P\Delta V\) と \(W’=nR\Delta T\) の混同:
- 誤解: \(W’=nR\Delta T\) がいつでも使える万能公式だと勘違いし、定圧変化以外の場面(例:定積変化)で使ってしまう。
- 対策: \(W’=nR\Delta T\) は、\(W’=P\Delta V\) と \(PV=nRT\) から導かれた「定圧変化専用」の便利な公式である、という位置づけを正確に理解することが重要です。あらゆる変化の基本は \(W’ = \int P dV\)(P-Vグラフの面積)であり、\(W’=P\Delta V\) や \(W’=nR\Delta T\) はその特殊な場合にすぎません。
- 気体定数 \(R\) の値の選択ミス:
- 誤解: 問題によって \(R=8.3\) や \(R=8.31\)、あるいは \(R=0.082\) など異なる値が与えられることがあり、混乱する。
- 対策: 気体定数 \(R\) の値は、用いる単位系によって変わります。仕事の単位を \( \text{J} \) (ジュール) で求めたい場合は、必ず \(R=8.3\) や \(R=8.31\) [J/(mol・K)] を使います。圧力の単位に \( \text{atm} \)、体積の単位に \( \text{L} \) を使う化学の計算では \(R=0.082\) [atm・L/(mol・K)] が使われることがありますが、物理の仕事計算では通常は使いません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 状態方程式の差分をとる、という発想:
- 選定理由: 仕事の定義式 \(W’=P\Delta V\) に含まれる \(P\Delta V\) という項を、与えられた情報である \(\Delta T\) を使って表現し直すためです。状態方程式は \(P, V, T\) を結びつける唯一の法則であり、この「翻訳」を行うための最適な道具です。
- 適用根拠: 状態方程式は、変化の「前」の状態でも「後」の状態でも、それぞれ独立して成り立っています。したがって、2つの状態の式を立てて、それらの差をとるという数学的な操作は、物理的に完全に正当です。この操作によって、状態量の「変化分」同士の関係(\(P\Delta V = nR\Delta T\))を導き出すことができます。
- 熱力学第一法則からのアプローチ(別解):
- 選定理由: 仕事 \(W’\) を、エネルギー保存則という物理学の根幹をなす法則から導出するためです。これにより、\(W’=nR\Delta T\) という関係式が単なる数学的な変形の産物ではなく、深い物理的意味を持つことを理解できます。
- 適用根拠: 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) は、あらゆる熱力学過程で成り立つエネルギー保存則です。定圧変化という特殊な状況下では、\(Q\) と \(\Delta U\) がそれぞれ定圧モル比熱 \(C_p\) と定積モル比熱 \(C_v\) を用いて \(\Delta T\) で表現できるため、残りの \(W’\) も \(\Delta T\) で表現できるはずだ、という論理に基づいています。マイヤーの関係式 \(C_p – C_v = R\) は、まさにその差が \(R\) に等しいことを示しており、このアプローチの正当性を保証します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算順序の工夫: \(2 \times 8.3 \times 50\) という計算が出てきたら、前から順番に計算するのではなく、まず \(2 \times 50 = 100\) を計算するのが賢明です。すると、残りは \(8.3 \times 100\) となり、小数点を移動させるだけで \(830\) という答えが暗算で求まります。掛け算の順序を工夫するだけで、計算の手間とミスを大幅に削減できます。
- 単位による検算: 最終的な計算式 \(W’ = nR\Delta T\) の単位が、仕事の単位 [J] になることを確認しましょう。\( [\text{mol}] \times [\text{J/(mol}\cdot\text{K)}] \times [\text{K}] \) で、[mol] と [K] がそれぞれ分母と分子で打ち消し合い、[J] だけが残ります。この確認作業は、公式の形を間違えていないかをチェックするのに役立ちます。
- 符号の確認: 今回は「温度を上げた」ので、定圧下では気体は膨張したはずです。気体が膨張すれば、外部に対して正の仕事をするので、答えは正の値になるはずです。計算結果 \(+8.3 \times 10^2 \, \text{J}\) の符号が、この物理的な予測と一致していることを確認します。
12 気体の仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「静水圧の考え方」を主たる解説としつつ、模範解答にも示されている以下の別解を、より詳細な解説とともに提示します。
- 提示する別解
- 問1の別解: 筒全体と筒本体の力のつりあいを用いる解法
- 主たる解法が、静水圧の公式 (\(P=P_0+\rho gh\)) から直接圧力を求めるのに対し、別解では、「筒+空気」全体に働く浮力と重力のつりあい、および「筒本体」にはたらく力のつりあいという、2つの異なる系における力学的な条件を連立させて圧力を導出します。
- 問1の別解: 筒全体と筒本体の力のつりあいを用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 浮力の原理、圧力による力の扱い、作用・反作用など、複数の力学的な概念がどのように連携して一つの結論を導くかを体験できます。
- 思考の多角化: 一つの圧力を求める問題に対して、流体力学的な視点と、剛体の力学的な視点の両方からアプローチする経験は、応用力を養う上で非常に有益です。
- 解法の検証: 異なるアプローチで同じ結論に至ることを確認することで、物理法則の一貫性を実感し、答えの確信度を高めることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「浮力、力のつりあい、気体の仕事が融合した熱力学の応用問題」です。静止した液体中の圧力の性質や、浮体のつりあいの条件を正しく理解し、それらを熱力学の状態変化と結びつけて考察する総合的な能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 静水圧の式: 水面から深さ \(h\) の点における圧力は、水面での圧力(大気圧)に水圧 \(\rho gh\) を加えたものになること (\(P = P_0 + \rho gh\))。
- 力のつりあいと浮力: 物体が液体中で静止している場合、その物体にはたらく重力と浮力(およびその他の力)がつりあっていること。浮力の大きさは、物体が押しのけた液体の重さに等しいこと(アルキメデスの原理)。
- 定圧変化と気体の仕事: 圧力が一定のまま気体が膨張する場合、その変化は「定圧変化」であり、気体がした仕事は \(W’ = P\Delta V\) で計算できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- Aの圧力: 筒内の水面に着目し、静水圧の考え方を用いて、空気Aの圧力を求めます。
- 加熱後の仕事: まず、加熱後の状態でも筒が静止していることから、筒にはたらく力のつりあいを考え、空気Aの圧力が変化しない(定圧変化である)ことを見抜きます。次に、空気Aの体積変化 \(\Delta V\) を図から読み取り、仕事の公式 \(W’ = P\Delta V\) を適用します。
- 加熱後の図示: 筒全体の重力が変わらないことから、浮力も一定、すなわち水面下の体積も一定であることに着目します。これにより、内部水面と外部水面の高さの差 \(l_2\) が不変であることを利用して、加熱後の筒の位置関係を作図します。
Aの圧力はいくらか
思考の道筋とポイント
空気Aの圧力 \(P\) を求めるには、空気Aが接している「筒内の水面」の圧力に着目するのが最も直接的です。
この筒内の水面は、上からは空気Aによって圧力 \(P\) で押されています。一方、この水面は静止しているので、下から同じ圧力で支えられているはずです。
ここで、「静止している液体内の同じ高さの点の圧力はどこでも等しい」という重要な原理を使います。筒内の水面と同じ高さにある、筒の「外」の水の点の圧力を考えます。
その点は、大気圧 \(P_0\) を受けている外の水面から、深さ \(l_2\) の位置にあります。したがって、その点の圧力は、大気圧 \(P_0\) に深さ \(l_2\) 分の水圧 \(\rho g l_2\) を加えたものになります。
この圧力が、筒内の水面での圧力、すなわち空気Aの圧力 \(P\) に等しい、という等式を立てることで答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- 静止した液体内では、同じ深さの圧力は等しい。
- 深さ \(h\) の点での圧力は、水面の圧力に水圧 \(\rho gh\) を加えたものになる。
- 空気Aの圧力は、筒内の水面の圧力に等しい。
具体的な解説と立式
空気Aは、筒内の水面を押しており、その圧力は \(P\) です。
一方、筒内の水面は、外部の自由水面より \(l_2\) だけ低い位置にあります。
静止している液体中では、同じ高さ(同じ深さ)の圧力は等しくなります。したがって、筒内の水面と同じ高さにある外部の水の圧力は、空気Aの圧力 \(P\) に等しくなります。
外部の自由水面は大気圧 \(P_0\) を受けています。そこから深さ \(l_2\) の点の圧力は、静水圧の公式より、
$$
\begin{aligned}
(\text{深さ} l_2 \text{の圧力}) &= (\text{水面の圧力}) + (\text{水圧}) \\[2.0ex]
&= P_0 + \rho g l_2
\end{aligned}
$$
これが空気Aの圧力 \(P\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
P &= P_0 + \rho g l_2
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 静水圧の公式: \(P = P_0 + \rho gh\)
これ以上の計算は不要です。
水の中では、深く潜るほど水圧が強くなります。その強さは「水の密度 \(\times\) 重力加速度 \(\times\) 深さ」で計算できます。
筒の中の空気は、筒の中の水面を押しています。この水面は、外の水面よりも \(l_2\) だけ低い、つまり深さ \(l_2\) の位置にあります。
外の世界で深さ \(l_2\) の場所にかかる圧力は、「地上の空気の圧力(大気圧)」に「深さ \(l_2\) 分の水圧」を足したものです。
筒の中の空気は、この圧力と釣り合う強さで水面を押しているはずなので、空気の圧力は「大気圧 \(P_0\) + 水圧 \(\rho g l_2\)」となります。
空気Aの圧力は \(P = P_0 + \rho g l_2\) と表せます。筒内の水位が外部より低いということは、内部の気圧が外部の大気圧より高いことを意味しており、この式はその関係を正しく表しています。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
より力学的なアプローチで圧力を求める方法です。2つの異なる「系」に着目し、それぞれについて力のつりあいの式を立て、連立させて解きます。
ステップ1: 「筒+空気A」を一体の物体と見る
この系全体が水に浮いて静止しているので、「系全体にはたらく重力」と「系全体が受ける浮力」がつりあっています。これにより、未知数である筒の質量 \(M\) と、問題で与えられている \(l_2\) を関係づける式が1本得られます。
ステップ2: 「筒本体」のみを物体と見る
次に、筒本体(質量 \(M\))だけに着目します。この筒には、「自身の重力」「上から大気圧が押す力」「下から内部の空気Aが押す力」の3つの力がはたらいており、これらがつりあっています。これにより、求めたい圧力 \(P\) と、未知の質量 \(M\) を関係づける式がもう1本得られます。
ステップ3: 連立
ステップ1と2で得られた2本の式から、未知数であった筒の質量 \(M\) を消去することで、圧力 \(P\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 浮力の大きさは、物体が押しのけた流体の重さに等しい: \(F_{\text{浮力}} = \rho V_{\text{水中}} g\)。
- 圧力による力は、圧力と面積の積で計算する: \(F = PS\)。
- 2つの異なる系で力のつりあいを考え、連立方程式を解く。
具体的な解説と立式
1. 「筒+空気A」全体のつりあい
この系が押しのけている水の体積は、断面積 \(S\) と水面下の長さ \(l_2\) から \(V_{\text{水中}} = Sl_2\) です。したがって、系が受ける浮力の大きさは、
$$ F_{\text{浮力}} = \rho (Sl_2) g $$
一方、系全体の重力は、筒の質量を \(M\) とすると \(Mg\) です(空気Aの質量は無視)。
浮力と重力がつりあっているので、
$$ \rho S l_2 g = Mg \quad \cdots ① $$
2. 「筒本体」のつりあい
筒本体にはたらく力は以下の通りです。
- 上向きの力: 内部の空気Aが筒の天井を押し上げる力 \(PS\)
- 下向きの力: 外部の大気が筒の天井を押し下げる力 \(P_0 S\) と、筒自身の重力 \(Mg\) の和
これらの力がつりあっているので、
$$ PS = P_0 S + Mg \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- アルキメデスの原理: \(F_{\text{浮力}} = \rho V g\)
- 力のつりあい
- 圧力と力の関係: \(F=PS\)
②式の \(Mg\) に、①式の右辺 \(\rho S l_2 g\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
PS &= P_0 S + (\rho S l_2 g)
\end{aligned}
$$
この式の両辺を断面積 \(S\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
P &= P_0 + \rho g l_2
\end{aligned}
$$
となり、主たる解法と全く同じ結果が得られます。
この問題は、2人の証言から犯人(圧力P)を突き止める推理ゲームのようなものです。
一人目の証言者(筒全体)は、「私が浮いていられるのは、浮力と私の重さ(\(Mg\))が釣り合っているからです」と証言します。この証言から、筒の重さ \(Mg\) がどのくらいの大きさかがわかります。
二人目の証言者(筒本体)は、「私が静止していられるのは、中の空気が私を押し上げる力(\(PS\))と、外の空気と私自身の重さ(\(P_0 S + Mg\))が釣り合っているからです」と証言します。
この二人の証言を組み合わせ、一人目の証言でわかった「筒の重さ」を二人目の証言に当てはめることで、未知の犯人であった「空気の圧力 \(P\)」を特定することができます。
主たる解法と全く同じ \(P = P_0 + \rho g l_2\) という結果が得られました。この別解は、複数の物理法則を段階的に適用する必要があり、より複雑ですが、浮力や力のつりあいに関する理解を深める上で非常に有益なアプローチです。
加熱後の仕事と状態
思考の道筋とポイント
1. 仕事 \(W’\) の計算
まず、加熱後の空気Aの圧力 \(P’\) がどうなるかを考えます。筒は加熱後も水に浮いて静止しているので、筒本体にはたらく力のつりあいの関係(別解で用いた式②)は、加熱の前後で変わらないはずです。
$$ P’S = P_0 S + Mg $$
この式の右辺はすべて定数なので、加熱後の圧力 \(P’\) は加熱前の圧力 \(P\) と等しいことがわかります。つまり、この加熱過程は「定圧変化」です。
気体がした仕事は、定圧変化の公式 \(W’ = P\Delta V\) を使って計算できます。圧力 \(P\) は問1で求めた値を使い、体積変化 \(\Delta V\) は、加熱前後の空気の長さの変化から求めます。
2. 加熱後の図示
次に、加熱後の筒の位置関係を考えます。筒と空気を一体とみなしたときの浮力と重力のつりあいの関係(別解で用いた式①)も、加熱の前後で変わらないはずです。
$$ (\text{浮力}) = Mg $$
筒の質量 \(M\) は一定なので、筒全体が受ける浮力も一定でなければなりません。浮力の大きさは、筒が押しのけている水の体積で決まります。したがって、水面下の体積は加熱の前後で変化しない、という重要な結論が導かれます。
図から、水面下の体積は \(Sl_2\) なので、\(l_2\) の長さは一定に保たれることになります。
空気の長さが伸びた分だけ、筒全体が上に持ち上がった状態を描けば、それが求める図となります。
この設問における重要なポイント
- 加熱後も、筒本体の力のつりあいは成立する → 圧力が一定(定圧変化)。
- 加熱後も、筒全体の力のつりあいは成立する → 浮力が一定 → 水面下の体積が一定 → \(l_2\) が一定。
- 仕事の公式 \(W’ = P\Delta V\) を適用する。
具体的な解説と立式
仕事 \(W’\) の計算
加熱後の空気Aの圧力を \(P’\) とします。加熱後も筒は静止しているので、筒本体にはたらく力のつりあいの式が成り立ちます。
$$ P’S = P_0 S + Mg $$
この式の右辺はすべて定数であるため、圧力 \(P’\) は加熱前の圧力 \(P\) と等しく、一定であることがわかります。
$$
\begin{aligned}
P’ &= P \\[2.0ex]
&= P_0 + \rho g l_2
\end{aligned}
$$
したがって、この変化は定圧変化です。気体がした仕事 \(W’\) は \(W’ = P\Delta V\) で計算できます。
体積変化 \(\Delta V\) を求めます。
- 加熱前の空気の体積 \(V_{\text{前}}\): 図1より、空気の長さは \(l_1+l_2\)。よって \(V_{\text{前}} = S(l_1+l_2)\)。
- 加熱後の空気の体積 \(V_{\text{後}}\): 問題文より、空気の長さは \(l_1+l_2+l_3\)。よって \(V_{\text{後}} = S(l_1+l_2+l_3)\)。
体積変化 \(\Delta V\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta V &= V_{\text{後}} – V_{\text{前}} \\[2.0ex]
&= S(l_1+l_2+l_3) – S(l_1+l_2) \\[2.0ex]
&= Sl_3
\end{aligned}
$$
したがって、仕事 \(W’\) は、
$$
\begin{aligned}
W’ &= P \Delta V \\[2.0ex]
&= (P_0 + \rho g l_2) S l_3
\end{aligned}
$$
加熱後の図示
加熱後も筒全体は浮いて静止しているので、浮力と重力がつりあっています。
$$ (\text{浮力}) = Mg $$
筒の質量 \(M\) は不変なので、浮力も不変です。アルキメデスの原理より、浮力は押しのけた水の体積に比例するため、水面下の体積も不変となります。
図1より、水面下の体積は \(Sl_2\) なので、この体積が一定、すなわち \(l_2\) の長さが一定に保たれます。
加熱によって空気の長さは \(l_1+l_2\) から \(l_1+l_2+l_3\) に \(l_3\) だけ伸びます。
内部水面と外部水面の高さの差 \(l_2\) が一定のまま、空気の長さが \(l_3\) 伸びるので、筒全体が水面から上に \(l_3\) だけ押し上げられることになります。
その結果、筒の上端が水面から出ている長さは、元の \(l_1\) から \(l_1+l_3\) になります。
これを図にすると、模範解答の図のようになります。
使用した物理公式
- 定圧変化で気体がする仕事: \(W’ = P\Delta V\)
- 力のつりあい、アルキメデスの原理
仕事 \(W’\) の計算は、立式の時点で完了しています。
$$ W’ = (P_0 + \rho g l_2) S l_3 $$
筒を温めても、筒の重さは変わりません。船(筒)が浮いているとき、浮力は常に船の重さを支えています。だから、浮力も一定のままです。浮力の大きさは「水に沈んでいる部分の体積」で決まるので、結局、筒が水に沈んでいる深さ(\(l_2\)の部分)は変わらないことになります。
また、筒本体のつり合いを考えると、中の空気の圧力も一定のままであることがわかります。
空気がした仕事は「一定の圧力 × 増えた体積」で計算できます。増えた体積は、空気の長さが \(l_3\) だけ伸びたことから計算できます。
加熱後の様子は、沈む深さ \(l_2\) が同じまま、空気だけが \(l_3\) 伸びるので、結果として筒全体が上に \(l_3\) だけ押し上げられた図を描けばよい、ということになります。
仕事は \(W’ = (P_0 + \rho g l_2) S l_3\) となります。気体が膨張しているので、外部に正の仕事をするという結果は妥当です。
また、加熱後の状態は、\(l_2\) が一定で筒が上に持ち上がった状態となります。これも、浮力と圧力のつりあいを考えた結果として物理的に正しい描像です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 複数の物理法則の融合:
- 核心: この問題の根幹は、一つの現象を「流体力学(静水圧)」「剛体の力学(力のつりあい)」「熱力学(気体の仕事)」という複数の異なる分野の物理法則を総動員して解き明かす点にあります。
- 理解のポイント:
- 圧力の決定(静水圧): 最初の問いである圧力 \(P\) は、静止した液体中の圧力に関する法則 \(P = P_0 + \rho gh\) を用いて求めるのが最も直接的です。
- 状態変化の特定(力のつりあい): 次の問いである仕事 \(W’\) を計算するためには、加熱過程がどのような変化(定圧、定積など)なのかを特定する必要があります。これは、加熱後も「筒本体」にはたらく力のつりあいが成立している、という力学的な考察から「定圧変化」であることを見抜きます。
- 仕事の計算(熱力学): 定圧変化であることが分かれば、熱力学の公式 \(W’ = P\Delta V\) を適用して仕事を計算できます。
- 不変量(変わらないもの)の発見:
- 核心: 状態が変化する問題において、「何が一定に保たれるのか」という不変量を見つけ出すことは、問題を解く上で極めて強力な指針となります。
- 理解のポイント:
- 圧力の不変性: 筒本体の力のつりあいの式 \(PS = P_0S + Mg\) の右辺はすべて定数であるため、加熱によって気体が膨張しても、筒が動くことで圧力 \(P\) は一定に保たれます。
- 水面下の体積の不変性: 筒全体の重さ \(Mg\) は加熱しても変わらないため、それを支える浮力も一定でなければなりません。浮力は水面下の体積で決まるため、結果として筒の水に沈んでいる部分の長さ \(l_2\) も一定に保たれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- U字管内の気体: U字管の一方に気体を閉じ込め、液体で蓋をした問題。加熱すると気体が膨張し、液面を押し下げます。このとき、左右の液面の高さの差で決まる圧力が常に一定になるか、あるいは変化するかを力のつりあいから考察する点で、本問と考え方が共通しています。
- ばね付きピストン: 鉛直に置かれたシリンダーのピストンがばねで吊るされている、あるいは支えられている問題。加熱して気体が膨張すると、ばねの伸び縮みが変化し、弾性力が変わるため、力のつりあいの式が変化します。その結果、圧力は一定ではなく、体積の関数として変化します。
- 液体中に沈む気球: 液体中に沈められた、おもり付きの風船を加熱する問題。加熱により風船が膨張すると、体積が増加して浮力が大きくなり、おもりとのつりあいによっては浮上を始めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の分割: 問題が複雑な場合、どこに注目すれば式が立てやすいかを見極めます。「筒全体」「筒本体」「内部の気体」など、系を適切に分割して、それぞれについて法則を適用する視点が重要です。
- 力の図示(フリーボディダイアグラム): 特に浮力や圧力が絡む問題では、着目する物体にはたらく力をすべて矢印で図示することが不可欠です。重力、浮力、大気圧による力、内部気体の圧力による力など、力の種類と向きを正確に把握することが立式の第一歩です。
- 状態変化の前後での「不変量」を探す: 状態が変化する前後で、何が一定に保たれているか(質量、圧力、温度、体積、浮力など)を探す癖をつけましょう。不変量を見つけることができれば、それが問題を解く上での最大の突破口になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 圧力 \(P\) と力 \(PS\) の混同:
- 誤解: 力のつりあいの式に、力 \(PS\) ではなく圧力 \(P\) をそのまま足してしまう。(例: \(P_B = P_A + Mg\))
- 対策: 「力のつりあいの式に登場できるのは、単位が [N] の『力』だけ」という原則を徹底します。圧力 [Pa] を見たら、機械的に面積 \(S\) [m²] を掛けて力 [N] に変換する、という一手間を必ず入れる習慣をつけましょう。
- 浮力の計算における体積の誤り:
- 誤解: 浮力を計算する際に、物体の体積全体や、水面上の部分の体積を使ってしまう。
- 対策: 浮力は「物体が押しのけた流体の体積」、すなわち「水面下の部分の体積」だけで決まる、というアルキメデスの原理を正確に記憶します。
- 加熱後の圧力が変化するという思い込み:
- 誤解: 気体を加熱すれば、当然圧力は上がるはずだと思い込んでしまう(定積変化と混同する)。
- 対策: ピストンが自由に動ける場合、気体は膨張することで圧力を調整できます。加熱後も物体が静止しているなら、必ず力のつりあいの式に立ち返り、圧力がどうなるかを判断する必要があります。この問題では、力のつりあいの関係から、圧力は一定に保たれる(定圧変化)という結論が導かれます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 静水圧の公式 \(P = P_0 + \rho gh\) の選択:
- 選定理由: 最初の問い「Aの圧力はいくらか」に答える最も直接的で効率的な方法だからです。空気Aが接している筒内水面は、静止した水の一部であり、その圧力は流体力学の基本法則から直接計算できます。
- 適用根拠: この公式は、静止流体中の微小な要素にはたらく力のつりあいから導出される、流体力学の基本原理です。
- 力のつりあいの式の選択:
- 選定理由: 問題文に「静止した」という記述があるためです。これは、対象物体(筒全体や筒本体)にはたらく合力がゼロであることを意味し、力学の基本法則である「力のつりあい」を適用すべき明確な指示です。特に、加熱後の状態変化の性質(定圧変化であることや \(l_2\) が一定であること)を明らかにするためには、この法則の適用が不可欠です。
- 適用根拠: ニュートンの運動法則(第一法則)に基づいています。加速度がゼロの物体にはたらく力の総和はゼロである、という力学の根幹をなす原理です。
- 仕事の公式 \(W’ = P\Delta V\) の選択:
- 選定理由: 「Aがした仕事はいくらか」という問いに対し、加熱過程が「定圧変化」であると特定できたからです。この公式は、定圧変化における仕事の計算に特化した、最もシンプルで適切なものです。
- 適用根拠: 仕事の基本定義「仕事=力×距離」から導かれます。ピストンにはたらく力 \(F=PS\) が一定なので、ピストンが動いた距離を \(\Delta x\) とすると、仕事は \(W’ = F\Delta x = (PS)\Delta x = P(S\Delta x) = P\Delta V\) となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 複数の系で立式し、検算する: 最初の圧力 \(P\) を求める際に、主たる解法(静水圧)と別解(力のつりあい)の両方で計算してみることは、非常に良い検算になります。異なるアプローチで同じ答えが出れば、その答えが正しいという確信が持てます。
- 文字式の整理を丁寧に行う: この問題はすべて文字式で計算を進めます。特に別解のように複数の式を連立させる場合は、どの文字を消去し、どの文字を求めたいのかという目的を明確にしながら、丁寧に代入・整理を行いましょう。
- 図を描き直す: 「加熱後の筒の状態を図で示せ」という問いは、物理的な考察の結果を視覚化する能力を試しています。考察から得られた結論(\(l_2\) は一定、空気の長さが \(l_3\) 増加)を、一つ一つ図に反映させていくことで、正確な図を描くことができます。元の図に書き込むのではなく、新しい図として描き直すのが確実です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
13 \(P-V\)グラフ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、\(P-V\)グラフの解釈に関する標準的な問題であり、模範解答で示されているアプローチが最も教育的で効率的であるため、本解説では有益な別解の提示は行いません。「相違点に関する注記」は省略します。
この問題のテーマは「\(P-V\)グラフの解釈と熱力学法則の応用」です。気体の状態変化が\(P-V\)グラフ上でどのように表現されるかを理解し、グラフから仕事、温度変化といった物理的な情報を読み取る能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 気体の仕事と\(P-V\)グラフの面積: 気体が外部にする仕事 \(W’\) は、\(P-V\)グラフにおいて、状態変化を表すグラフ線とV軸とで囲まれた部分の面積に等しい、という関係を理解していること。
- 理想気体の状態方程式: 気体の状態量である圧力 \(P\)、体積 \(V\)、絶対温度 \(T\) を結びつける基本法則 \(PV=nRT\) を自在に扱えること。特に、温度 \(T\) が \(PV\) 積に比例する (\(T \propto PV\)) ことを理解しているのが鍵となります。
- 等温変化と等温線: 温度が一定の変化である等温変化は、\(P-V\)グラフ上では \(PV=\text{一定}\) の双曲線(等温線)として描かれることを知っていること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、A→Bの変化の軌跡とV軸が囲む図形(台形)の面積を計算することで、気体がした仕事を求めます。
- (2)では、状態方程式 \(PV=nRT\) から \(T \propto PV\) の関係を使い、A→Bの直線上での \(PV\) 積がどのように変化するかを考察することで、温度変化の様子を明らかにします。
- (3)では、A→Bの直線変化と等温変化のグラフを比較し、それぞれのグラフの下側の面積の大小を比較することで、仕事の増減を判断します。