「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(熱力学06〜10問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

熱力学範囲 06~10

6 状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、ピストンの向きが変わることによる力のつりあいの変化を考察するものであり、有益な別解は存在しないと判断しましたので、「相違点に関する注記」は省略します。

この問題のテーマは「ピストンにはたらく力のつりあいと状態方程式の連立」です。シリンダーの向きを変えることで、ピストンにはたらく重力の影響がどのように変化し、それに伴って内部の気体の圧力や温度がどう変わるかを考察します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: なめらかに動くピストンが静止している、ということは、ピストンにはたらく力が完全につりあっていることを意味します。
  2. 圧力と力の関係: 圧力 \(P\) は単位面積あたりの力であり、面積 \(S\) の面にはたらく力の大きさ \(F\) は \(F=PS\) と表されます。この力は常に面に対して垂直に作用します。
  3. 重力の分解: 斜面上にある物体にはたらく重力は、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解して考えるのが定石です。
  4. 理想気体の状態方程式: 内部の気体の状態(圧力 \(P\)、体積 \(V\)、温度 \(T\))は、常に \(PV=nRT\) の関係を満たします。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 図a, b, c の各場合について、ピストンにはたらく力をすべて(内部気体の圧力による力、大気圧による力、ピストンの重力)図示します。
  2. ピストンの静止条件から、力のつりあいの式を立てます。このとき、力の向きを正しく考慮することが重要です。
  3. 力のつりあいの式を解いて、内部気体の圧力 \(P\) を求めます。
  4. 得られた圧力 \(P\) と、図から読み取れる体積 \(V=Sl\) を理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) に代入し、温度 \(T\) を求めます。

図aの場合

思考の道筋とポイント
図aでは、シリンダーが水平に置かれています。この場合、ピストンにはたらく重力 \(Mg\) は鉛直下向きに作用するため、ピストンの水平方向の運動には影響を与えません。
したがって、ピストンにはたらく水平方向の力は、内部の気体がピストンを押す力と、外部の大気がピストンを押す力の2つだけです。
ピストンが静止していることから、これら2つの力がつりあっていると考え、等式を立てることで内部の圧力 \(P\) を求めます。
その後、状態方程式を用いて温度 \(T\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • ピストンは水平方向に動くため、水平方向の力のつりあいを考える。
  • 重力 \(Mg\) は鉛直下向きであり、水平方向の力のつりあいには関与しない。
  • 内部気体がピストンを押す力(右向き)と、大気圧がピストンを押す力(左向き)がつりあう。
  • 気体の体積は \(V=Sl\) である。

具体的な解説と立式
ピストンの断面積を \(S\) とします。
内部の気体がピストンを押す力は、圧力 \(P\) を用いて \(PS\) と表され、右向きに作用します。
外部の大気がピストンを押す力は、大気圧 \(P_0\) を用いて \(P_0 S\) と表され、左向きに作用します。
ピストンは静止しているので、これらの水平方向の力がつりあっています。
(右向きの力の和)=(左向きの力の和)より、
$$ PS = P_0 S $$
この式から圧力 \(P\) を求めます。

次に、温度 \(T\) を求めます。内部の気体については、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) が成り立ちます。
気体の体積は、断面積 \(S\) と長さ \(l\) から \(V=Sl\) と表せます。
この \(V\) と、先ほど求めた圧力 \(P\) を状態方程式に代入することで、温度 \(T\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: (右向きの力)=(左向きの力)
  • 圧力と力の関係: \(F=PS\)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
計算過程

まず、圧力 \(P\) を求めます。力のつりあいの式 \(PS = P_0 S\) の両辺を \(S\) で割ると、
$$ P = P_0 $$
となります。

次に、この \(P=P_0\) と体積 \(V=Sl\) を状態方程式 \(PV=nRT\) に代入します。
$$ P_0 (Sl) = nRT $$
この式を \(T\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{P_0 Sl}{nR}
\end{aligned}
$$
となります。

この設問の平易な説明

シリンダーが横向きの場合、ピストンの重さは真下に働くので、左右の動きには関係ありません。ピストンを右に押すのは中の気体、左に押すのは外の空気(大気)です。ピストンが止まっているということは、この左右の押し合いが引き分けになっている状態です。したがって、中の気体の圧力と外の大気圧は等しくなります。
温度は、圧力と体積が分かれば状態方程式というルールブックから計算できます。

結論と吟味

圧力は \(P=P_0\)、温度は \(T = \displaystyle\frac{P_0 Sl}{nR}\) となります。水平なシリンダー内でなめらかに動くピストンで閉じ込められた気体の圧力は、常に大気圧に等しくなる、という重要な結果です。

解答 図a \(P = P_0\), \(T = \displaystyle\frac{P_0 Sl}{nR}\)

図bの場合

思考の道筋とポイント
図bでは、シリンダーが鉛直下向きに置かれています。この場合、ピストンにはたらく力はすべて鉛直方向です。
ピストンには、上向きに「大気圧による力」がはたらきます。これに対して、下向きに「内部の気体の圧力による力」と「自身の重力」がはたらき、これらがつりあって静止しています。
この力のつりあいの関係を立式し、圧力 \(P\) を求めます。温度 \(T\) の計算は、図aと同様の手順です。
この設問における重要なポイント

  • ピストンは鉛直方向に動くため、鉛直方向の力のつりあいを考える。
  • ピストンにはたらく力は3つ:
    • 大気圧が押す力 \(P_0 S\)(上向き)
    • 内部気体が押す力 \(PS\)(下向き)
    • ピストンの重力 \(Mg\)(下向き)
  • 気体の体積は \(V=Sl\) である。

具体的な解説と立式
ピストンにはたらく鉛直方向の力は以下の通りです。

  • 上向きの力: 大気がピストンを押し上げる力 \(P_0 S\)
  • 下向きの力: 内部気体がピストンを押し下げる力 \(PS\) と、ピストン自身の重力 \(Mg\) の和

ピストンは静止しているので、これらの力がつりあっています。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$ P_0 S = PS + Mg $$
この式から圧力 \(P\) を求めます。

次に、温度 \(T\) を求めます。理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) に、体積 \(V=Sl\) と上記で求めた \(P\) の式を代入します。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: (上向きの力)=(下向きの力の和)
  • 圧力と力の関係: \(F=PS\)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
計算過程

まず、圧力 \(P\) を求めます。力のつりあいの式 \(P_0 S = PS + Mg\) を \(PS\) について解くと、
$$ PS = P_0 S – Mg $$
両辺を \(S\) で割ると、
$$ P = P_0 – \frac{Mg}{S} $$
となります。

次に、この \(P\) を状態方程式 \(PV=nRT\) に代入します。
$$ \left( P_0 – \frac{Mg}{S} \right) (Sl) = nRT $$
この式を \(T\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{\left( P_0 – \frac{Mg}{S} \right) Sl}{nR} \\[2.0ex]
&= \frac{(P_0 S – Mg)l}{nR}
\end{aligned}
$$
となります。

この設問の平易な説明

シリンダーが下向きの場合、ピストンは自重で下に落ちようとします。これにより、中の気体は圧縮されるのではなく、むしろ引き伸ばされる方向に力が働きます。外の空気がピストンを上に押し上げ、その力で中の気体とピストンの重さを支えている形になります。そのため、中の気体の圧力は、大気圧よりも「ピストンの重さ分の圧力」だけ低くなります。
温度は、この低くなった圧力を使って、図aと同じように状態方程式から計算します。

結論と吟味

圧力は \(P = P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\)、温度は \(T = \displaystyle\frac{(P_0 S – Mg)l}{nR}\) となります。ピストンの重力が内部気体の圧力を助ける形で大気圧とつりあうため、圧力が大気圧より低くなるという結果は物理的に妥当です。

解答 図b \(P = P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\), \(T = \displaystyle\frac{(P_0 S – Mg)l}{nR}\)

図cの場合

思考の道筋とポイント
図cでは、シリンダーが角度 \(\theta\) だけ傾いています。この場合、ピストンにはたらく重力 \(Mg\) を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解して考える必要があります。
ピストンは斜面に沿って動くので、力のつりあいを考える方向は「斜面に平行な方向」です。
ピストンを斜面下向きに押す力は、「大気圧による力」と「重力の斜面平行成分」です。これに対して、斜面を上向きに押す力は「内部の気体の圧力による力」です。これらの力がつりあっているとして式を立て、圧力 \(P\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • ピストンは斜面に沿って動くため、斜面に平行な方向の力のつりあいを考える。
  • 重力 \(Mg\) を分解する:
    • 斜面に平行な成分: \(Mg \sin\theta\)(斜面下向き)
    • 斜面に垂直な成分: \(Mg \cos\theta\)(つりあいの式には関与しない)
  • 斜面に平行な方向の力は3つ:
    • 内部気体が押す力 \(PS\)(斜面を上向き)
    • 大気圧が押す力 \(P_0 S\)(斜面を下向き)
    • 重力の成分 \(Mg \sin\theta\)(斜面を下向き)
  • 気体の体積は \(V=Sl\) である。

具体的な解説と立式
ピストンにはたらく、斜面に平行な方向の力は以下の通りです。

  • 斜面を上向きの力: 内部気体がピストンを押す力 \(PS\)
  • 斜面を下向きの力: 大気がピストンを押す力 \(P_0 S\) と、重力の斜面平行成分 \(Mg \sin\theta\) の和

ピストンは静止しているので、これらの力がつりあっています。
(斜面を上向きの力の和)=(斜面を下向きの力の和)より、
$$ PS = P_0 S + Mg \sin\theta $$
この式から圧力 \(P\) を求めます。

次に、温度 \(T\) を求めます。理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) に、体積 \(V=Sl\) と上記で求めた \(P\) の式を代入します。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: (斜面を上向きの力)=(斜面を下向きの力の和)
  • 圧力と力の関係: \(F=PS\)
  • 重力の分解: \(F_{\text{平行}} = Mg \sin\theta\)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
計算過程

まず、圧力 \(P\) を求めます。力のつりあいの式 \(PS = P_0 S + Mg \sin\theta\) の両辺を \(S\) で割ると、
$$ P = P_0 + \frac{Mg \sin\theta}{S} $$
となります。

次に、この \(P\) を状態方程式 \(PV=nRT\) に代入します。
$$ \left( P_0 + \frac{Mg \sin\theta}{S} \right) (Sl) = nRT $$
この式を \(T\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{\left( P_0 + \frac{Mg \sin\theta}{S} \right) Sl}{nR} \\[2.0ex]
&= \frac{(P_0 S + Mg \sin\theta)l}{nR}
\end{aligned}
$$
となります。

この設問の平易な説明

シリンダーが斜めの場合、中の気体が支えるべきピストンの重さは、重力そのものではなく、斜面に沿って滑り落ちようとする分力だけになります。この分力は \(Mg \sin\theta\) で計算できます。
したがって、中の気体の圧力は、大気圧に加えて、この「重力の斜面成分」を支える分だけ高くなります。
EX2の \(Mg\) が \(Mg \sin\theta\) に変わっただけと考えると分かりやすいです。

結論と吟味

圧力は \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg \sin\theta}{S}\)、温度は \(T = \displaystyle\frac{(P_0 S + Mg \sin\theta)l}{nR}\) となります。
この結果は、\(\theta=90^\circ\)(鉛直上向き)とすると \(\sin 90^\circ = 1\) なのでEX2の結果に、\(\theta=0^\circ\)(水平)とすると \(\sin 0^\circ = 0\) なので図aの結果に一致します。このように、極端な場合を考えて他の結果と一致することを確認するのは、良い検算方法です。

解答 図c \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg \sin\theta}{S}\), \(T = \displaystyle\frac{(P_0 S + Mg \sin\theta)l}{nR}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつりあい:
    • 核心: この問題の全ての設問の出発点は、「なめらかに動くピストンが静止している」という条件から導かれる「力のつりあい」です。ピストンという一つの物体に着目し、それにはたらく全ての力を洗い出して、その合力がゼロになるという関係を正しく立式することが核心となります。
    • 理解のポイント:
      • 静止=つりあい: 物理において「静止」という言葉は、「力がつりあっている」という物理法則を適用せよ、という明確な指示です。
      • 力の種類: ピストンにはたらく力は、①内部気体が押す力、②外部の大気が押す力、③ピストン自身の重力、の3種類です。シリンダーの向きによって、これらの力の向きや、つりあいの式への関わり方が変化します。
  • 圧力と力の関係式 \(F=PS\):
    • 核心: 気体の圧力 \(P\) や大気圧 \(P_0\) は、それ自体は「力」ではありません。力のつりあいの式を立てるためには、圧力にそれがはたらく面の面積 \(S\) を掛けて、「力」に変換する必要があります。
    • 理解のポイント:
      • 次元の違い: 圧力の単位は [N/m²]、力の単位は [N] です。力のつりあいの式には、同じ「力」の次元を持つ項しか並べられません。この変換は、物理的に正しい立式を行うための絶対的なルールです。
      • 力の向き: 圧力による力は、常にその面を「垂直に押す」向きにはたらきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • U字管内の液体と気体: U字管の一方に気体を閉じ込め、液体で蓋をする問題。液柱の重さ (\(\rho h S g\)) が、本問のピストンの重力 \(Mg\) と同じ役割を果たし、左右の液面の高さの差から気体の圧力を求めます。
    • 水中に沈めた容器内の気体: 水中に逆さまに沈めたコップの中に閉じ込められた空気の圧力を考える問題。この場合、大気圧に加えて、水深による圧力(水圧)も考慮して力のつりあいを立てる必要があります。
    • ピストンが加速度運動する場合: ピストンが一定の加速度で上昇・下降する問題。この場合は力のつりあいではなく、運動方程式 \(ma = F\) を立てます。例えば、上向きに加速度 \(a\) で動く場合、\(ma = (\text{上向きの力の和}) – (\text{下向きの力の和})\) となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力のつりあいを考える「主役」を決める: まず、どの物体に着目して力のつりあいを考えるのかを明確にします(この問題では常に「ピストン」)。
    2. 作用図(フリーボディダイアグラム)を描く: 着目する物体だけを抜き出し、それにはたらく全ての力を矢印で描き込みます。力の種類(重力、圧力による力など)、向き、大きさを書き込むことで、状況が整理され、立式ミスを防げます。
    3. つりあいを考える「方向」を決める: 物体が動きうる方向に合わせて、力のつりあいを考える軸(水平、鉛直、斜面方向など)を定めます。
    4. 力の分解: 決めた軸に対して斜めを向いている力があれば、必ず成分に分解します。特に重力は、斜面の問題では常に分解の対象となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 圧力 \(P\) と力 \(PS\) の混同:
    • 誤解: 力のつりあいの式に、力 \(PS\) ではなく圧力 \(P\) をそのまま足してしまう。(例: \(P = P_0 + Mg\))
    • 対策: 「力のつりあいの式に登場できるのは、単位が [N] の『力』だけ」という原則を徹底します。圧力 [N/m²] を見たら、機械的に面積 [m²] を掛けて力 [N] に変換する、という一手間を必ず入れる習慣をつけましょう。
  • 力の向きの勘違い:
    • 誤解: 図bのようにシリンダーが逆さまになった場合に、内部気体がピストンを押す力の向きを上向きだと勘違いしてしまう。
    • 対策: 圧力による力は、常に「面を押す」向きにはたらきます。図bでは、気体はピストンの「上面(内側の面)」に接しているので、その面を垂直に「下向き」に押します。同様に、大気はピストンの「下面(外側の面)」に接しているので、その面を垂直に「上向き」に押します。
  • 重力の分解における \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の混同:
    • 誤解: 斜面の問題で、斜面に平行な成分と垂直な成分に使う三角関数を間違える。
    • 対策: これは力学の基本ですが、不安な場合は毎回、重力のベクトルと斜面からなる直角三角形を描き、角度 \(\theta\) の位置を確認して、どちらが \(\sin\) でどちらが \(\cos\) になるかを導き出すようにしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあいの式の選択:
    • 選定理由: 問題文の「ピストンが静止している」という記述が、この法則を選択する直接的な理由です。物理学において、「静止」や「等速直線運動」は「合力ゼロ」、すなわち「力のつりあい」を意味する最も重要なキーワードです。
    • 適用根拠: これはニュートンの運動法則(特に第一法則、慣性の法則)に基づいています。物体にはたらく力のベクトル和がゼロであるとき、その物体の運動状態は変化しない(静止している物体は静止し続ける)という、力学の根幹をなす法則です。
  • 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) の選択:
    • 選定理由: 力のつりあいから圧力 \(P\) が求まった後、もう一つの未知数である温度 \(T\) を求めるために選択します。この方程式は、気体の状態量である \(P, V, n, T\) のうち、3つが分かれば残りの1つを計算できる、唯一の関係式だからです。
    • 適用根拠: この方程式は、気体分子の運動論から導かれる、気体のマクロな性質を記述する基本法則です。閉じ込められた一定量の気体に対しては、その状態が変化しても常にこの関係が成り立ちます。したがって、力のつりあいという力学的な条件と、状態方程式という熱力学的な条件を連立させることで、未知数を特定することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 必ず作用図を描く: 各設問で、ピストンだけを抜き出した図(フリーボディダイアグラム)を描き、力の矢印をすべて書き込むことを徹底しましょう。視覚的に確認することで、力の見落としや向きの間違いを大幅に減らすことができます。
  • 文字式のまま計算を進める: 温度 \(T\) を求める際は、まず \(P\) を文字式で求めてから、それを状態方程式に代入し、\(T\) について整理します。例えば図cでは、\(T = \displaystyle\frac{PV}{nR} = \frac{(P_0 + \frac{Mg \sin\theta}{S}) (Sl)}{nR} = \frac{(P_0 S + Mg \sin\theta)l}{nR}\) のように、最後まで文字式で変形することで、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
  • 極端な条件で検算する: 図cで得られた圧力の式 \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg \sin\theta}{S}\) は、
    • \(\theta = 90^\circ\) (\(\sin 90^\circ = 1\)) を代入すると、\(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) となり、EX2(鉛直上向き)の結果と一致します。
    • \(\theta = 0^\circ\) (\(\sin 0^\circ = 0\)) を代入すると、\(P = P_0\) となり、図a(水平)の結果と一致します。

    このように、特別な場合を代入して既知の結果と一致するかを確認する「極限チェック」は、自分の答えが正しいかを検証する非常に強力な手段です。

7 状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「ボイルの法則を用いる解法」を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 状態方程式を直接用いる解法
      • 主たる解法が、等温変化の法則であるボイルの法則(\(PV=\text{一定}\))を用いて図2の圧力を図1の圧力 \(P\) で表現するのに対し、別解では、より根源的な理想気体の状態方程式(\(PV=nRT\))を直接用い、各部屋の圧力を \(RT\) という共通項で表現してから、最終的に \(RT\) を消去して答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ボイルの法則が、状態方程式において物質量 \(n\) と温度 \(T\) が一定である特殊な場合にすぎない、という関係性を計算過程を通して再確認できます。
    • 思考の汎用性向上: 温度が変化するような、より複雑な問題(ボイル・シャルルの法則を適用する問題)にも応用が利く、より一般的で強力な思考プロセスを学ぶことができます。
    • 計算テクニックの習得: \(RT\) という項を媒介変数のように扱い、複数の式から消去して最終的な答えを導くという、物理計算で頻出するテクニックを習得できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「等温変化と力のつりあいを組み合わせた応用問題」です。2つの異なる状態(水平状態と鉛直状態)を、熱力学の法則(等温変化)と力学の法則(力のつりあい)という2つの異なる視点から分析し、それらを連立させて未知数を解く、複合的な思考力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等温変化(ボイルの法則): 「熱をよく通す」という記述から、容器を立てる前後で気体の温度は外気温と等しく、一定に保たれることを見抜くことが重要です。これにより、ボイルの法則(\(PV=\text{一定}\))が適用できます。
  2. 力のつりあい: なめらかに動くピストンが静止している状態では、ピストンにはたらく全ての力がつりあっています。
  3. 圧力と力の関係: 圧力 \(P\) が面積 \(S\) の面にはたらくとき、その力の大きさは \(F=PS\) となります。この力は常に面を垂直に押す向きにはたらきます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 図1と図2の状態変化が等温変化であることに着目し、ボイルの法則を用いて、図2の各部分の圧力 \(P_A, P_B\) を、求めたい図1の圧力 \(P\) を用いて表します。
  2. 次に、図2の鉛直状態において、質量 \(M\) のピストンにはたらく力のつりあいの式を立てます。このとき、ピストンにはたらく力は「A室の気体が押す力」「B室の気体が押す力」「ピストンの重力」の3つです。
  3. 力のつりあいの式に、手順1で求めた \(P_A, P_B\) と \(P\) の関係式を代入します。
  4. 得られた方程式を解くことで、未知数である圧力 \(P\) を求めます。

図1での気体の圧力\(P\)を求める

思考の道筋とポイント
この問題の巧妙な点は、直接問われているのは図1の圧力 \(P\) にもかかわらず、その値を求めるためには図2の状態を分析しなければならない、という構造にあります。図1の状態だけを考えても、ピストンを左右から押す力が等しい(\(PS=PS\))という自明な関係しか得られず、問題は解けません。

そこで、図1と図2という2つの状態を結びつける「共通のルール」を探します。それが「熱をよく通す」という記述から導かれる「等温変化」です。これにより、ボイルの法則(\(PV=\text{一定}\))を使って、図1の圧力 \(P\) と図2の圧力 \(P_A, P_B\) を関係づけることができます。

次に、力学的な視点から、図2の状態で静止しているピストンに着目します。ピストンが静止している以上、そこには必ず「力のつりあい」が成り立っています。この力のつりあいの式を立てることで、\(P_A\) と \(P_B\) の間に成り立つもう一つの関係式が得られます。

最終的に、ボイルの法則から得られた関係式と、力のつりあいから得られた関係式を連立させることで、未知数であった \(P\) を求める、という流れになります。
この設問における重要なポイント

  • 「熱をよく通す」という記述から、図1から図2への変化は温度一定の「等温変化」であると判断する。
  • 図1の状態: 圧力 \(P\), 体積 \(V_A = V_B = Sl\)
  • 図2の状態: 圧力 \(P_A, P_B\), 体積 \(V_A’ = S \cdot \displaystyle\frac{3}{2}l\), \(V_B’ = S \cdot \displaystyle\frac{1}{2}l\)
  • 図2のピストンにはたらく力のつりあいを考える。ピストンにはたらく力は、\(P_A S\) (下向き), \(Mg\) (下向き), \(P_B S\) (上向き) の3つ。

具体的な解説と立式
1. 等温変化の関係式を立てる
容器を水平状態(図1)から鉛直状態(図2)にする過程は等温変化なので、A室、B室それぞれについてボイルの法則(\(PV = \text{一定}\))が成り立ちます。

A室について、図1と図2の状態を比較すると、
$$ P \cdot (Sl) = P_A \cdot \left(S \cdot \frac{3}{2}l\right) $$
B室について、同様に図1と図2の状態を比較すると、
$$ P \cdot (Sl) = P_B \cdot \left(S \cdot \frac{1}{2}l\right) $$
これらの式から、\(P_A\) と \(P_B\) を \(P\) を用いて表すことができます。

2. 力のつりあいの式を立てる
次に、図2の状態で静止しているピストンに着目します。ピストンにはたらく力は以下の通りです。

  • 上向きの力: B室の気体がピストンを押し上げる力 \(P_B S\)
  • 下向きの力: A室の気体がピストンを押し下げる力 \(P_A S\) と、ピストン自身の重力 \(Mg\) の和

ピストンは静止しているので、これらの力がつりあっています。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$ P_B S = P_A S + Mg $$

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(P_1 V_1 = P_2 V_2\)
  • 力のつりあい: (上向きの力の和)=(下向きの力の和)
  • 圧力と力の関係: \(F=PS\)
計算過程

まず、ボイルの法則の式を整理して、\(P_A\) と \(P_B\) を \(P\) で表します。
A室の式 \(P \cdot Sl = P_A \cdot S \cdot \displaystyle\frac{3}{2}l\) の両辺を \(Sl\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
P &= P_A \cdot \frac{3}{2} \\[2.0ex]
P_A &= \frac{2}{3}P
\end{aligned}
$$
B室の式 \(P \cdot Sl = P_B \cdot S \cdot \displaystyle\frac{1}{2}l\) の両辺を \(Sl\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
P &= P_B \cdot \frac{1}{2} \\[2.0ex]
P_B &= 2P
\end{aligned}
$$
次に、これらの関係を力のつりあいの式 \(P_B S = P_A S + Mg\) に代入します。
$$ (2P)S = \left(\frac{2}{3}P\right)S + Mg $$
この方程式を \(P\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2PS – \frac{2}{3}PS &= Mg \\[2.0ex]
\left(2 – \frac{2}{3}\right)PS &= Mg \\[2.0ex]
\frac{4}{3}PS &= Mg \\[2.0ex]
P &= \frac{3Mg}{4S}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この問題は、2つの異なるルールを使って解くパズルです。
1つ目のルールは「温度が同じなら、部屋が広くなると圧力は下がり、狭くなると圧力が上がる」というものです(ボイルの法則)。容器を立てると、上のA室は広くなったので圧力は下がり、下のB室は狭くなったので圧力は上がります。このルールを使って、立てた後のA室とB室の圧力を、最初の圧力 \(P\) を使って表しておきます。
2つ目のルールは「ピストンが止まっているなら、力が釣り合っている」というものです。立てた後、ピストンはB室の気体に上向きに押されています。一方、A室の気体とピストン自身の重さによって下向きに押されています。この「上向きの力」と「下向きの力」が等しい、という式を作ります。
最後に、1つ目のルールで作った関係を2つ目のルールで作った式に代入すると、求めたい最初の圧力 \(P\) が計算できます。

結論と吟味

図1での気体の圧力 \(P\) は \(\displaystyle\frac{3Mg}{4S}\) となります。
ピストンの質量 \(M\) が大きいほど、図2の状態を保つためにより大きな圧力差(\(P_B – P_A\))が必要になります。そのためには、図1の時点での圧力 \(P\) も大きい必要がある、という物理的な直感と、式(\(P \propto M\))が一致しています。
また、断面積 \(S\) が大きい場合、同じ圧力でも力は大きくなります。力のつりあいの式 \( (P_B – P_A)S = Mg \) において、\(Mg\) は一定なので、\(S\) が大きいほど圧力差 \(P_B – P_A\) は小さくて済みます。これは、図1の圧力 \(P\) が小さいことに対応します。式(\(P \propto 1/S\))はこの関係を正しく表しており、結果は妥当であると言えます。

解答 \(P = \displaystyle\frac{3Mg}{4S}\)
別解: 状態方程式を直接用いる解法

思考の道筋とポイント
ボイルの法則(\(PV=\text{一定}\))は、理想気体の状態方程式(\(PV=nRT\))において、物質量 \(n\) と温度 \(T\) が一定である場合に成り立つ便利な関係式です。ここでは、その便利な関係式を使わずに、より根源的な状態方程式から直接答えを導くアプローチを考えます。

「熱をよく通す」という条件から、図1と図2のどちらの状態でも気体の温度は同じ \(T\) であるとします。また、物質量は \(n=1 \, \text{mol}\) で一定です。
図1の状態、図2のA室、図2のB室、それぞれについて状態方程式を立てます。すると、未知数である \(P, P_A, P_B\) と、共通の項である \(RT\) を含む式ができます。
これらと、図2の力のつりあいの式を組み合わせることで、最終的に \(P\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 温度 \(T\) と物質量 \(n=1 \, \text{mol}\) は常に一定。
  • 図1の状態: \(P, V=Sl\) → 状態方程式を立てる。
  • 図2のA室: \(P_A, V_A’ = S \cdot \displaystyle\frac{3}{2}l\) → 状態方程式を立てる。
  • 図2のB室: \(P_B, V_B’ = S \cdot \displaystyle\frac{1}{2}l\) → 状態方程式を立てる。
  • 図2の力のつりあい: \(P_B S = P_A S + Mg\)
  • これらの方程式を連立させ、\(P_A, P_B, RT\) を消去して \(P\) を求める。

具体的な解説と立式
気体の温度を \(T\)、気体定数を \(R\) とします。物質量 \(n=1 \, \text{mol}\) です。

各状態について、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を立てます。

  • 図1の状態 (A室またはB室):
    $$ P(Sl) = 1 \cdot RT \quad \cdots ① $$
  • 図2のA室:
    $$ P_A \left(S \frac{3}{2}l\right) = 1 \cdot RT \quad \cdots ② $$
  • 図2のB室:
    $$ P_B \left(S \frac{1}{2}l\right) = 1 \cdot RT \quad \cdots ③ $$

さらに、図2のピストンにはたらく力のつりあいの式は、
$$ P_B S = P_A S + Mg \quad \cdots ④ $$
これらの4つの式を連立させて \(P\) を求めます。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
  • 力のつりあい: (上向きの力の和)=(下向きの力の和)
計算過程

まず、②式と③式から \(P_A\) と \(P_B\) を \(RT\) を用いて表します。
②式より:
$$ P_A = \frac{RT}{S \frac{3}{2}l} = \frac{2RT}{3Sl} $$
③式より:
$$ P_B = \frac{RT}{S \frac{1}{2}l} = \frac{2RT}{Sl} $$
次に、これらの \(P_A, P_B\) を力のつりあいの式④に代入します。
$$ \left(\frac{2RT}{Sl}\right)S = \left(\frac{2RT}{3Sl}\right)S + Mg $$
この式を整理して、\(RT\) を \(M, g, l\) で表します。
$$
\begin{aligned}
\frac{2RT}{l} &= \frac{2RT}{3l} + Mg \\[2.0ex]
\frac{2RT}{l} – \frac{2RT}{3l} &= Mg \\[2.0ex]
\left(\frac{2}{l} – \frac{2}{3l}\right)RT &= Mg \\[2.0ex]
\left(\frac{6-2}{3l}\right)RT &= Mg \\[2.0ex]
\frac{4}{3l}RT &= Mg \\[2.0ex]
RT &= \frac{3Mgl}{4}
\end{aligned}
$$
最後に、この \(RT\) の関係式を、図1の状態方程式① \(PSl = RT\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
PSl &= \frac{3Mgl}{4}
\end{aligned}
$$
両辺を \(Sl\) で割ることで、\(P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{3Mg}{4S}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ボイルの法則という便利なショートカットを使わずに、すべての気体の基本ルールである「状態方程式 \(PV=nRT\)」だけで解く方法です。
まず、図1、図2のA室、図2のB室、それぞれの状態について状態方程式を立てます。すると、すべての式に \(RT\) という共通のパーツが出てきます。
次に、図2の力の釣り合いの式に、各部屋の圧力をこの \(RT\) を使った形で代入します。すると、\(RT\) がピストンの重さ \(Mg\) とどのような関係にあるかがわかります。
最後に、その関係を図1の状態方程式に適用することで、最終的に求めたい圧力 \(P\) を計算することができます。少し遠回りに見えますが、より基本的なルールだけを使っているので、応用範囲の広い考え方です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果 \(P = \displaystyle\frac{3Mg}{4S}\) が得られました。この別解は、ボイルの法則が状態方程式から自然に導かれる関係であることを示しており、物理法則の体系的な理解を深める上で非常に有益です。

解答 \(P = \displaystyle\frac{3Mg}{4S}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 異なる物理法則の連立:
    • 核心: この問題の根幹は、一つの現象を「熱力学」と「力学」という二つの異なる物理的視点から分析し、それぞれから得られる関係式を連立させて解く点にあります。
    • 理解のポイント:
      • 熱力学の視点(状態変化): 図1から図2への変化は、「熱をよく通す」という記述から「等温変化」であると捉えます。これにより、ボイルの法則(\(PV=\text{一定}\))を用いて、変化前後の圧力と体積の関係式を立てることができます。
      • 力学の視点(静止状態): 図2でピストンが「静止している」という状態は、「力のつりあい」が成り立っていると捉えます。これにより、ピストンにはたらく力(気体の圧力による力、重力)の関係式を立てることができます。
      • 連立による解の確定: これら二つの法則から導かれる式は、それぞれ独立した関係を表しています。未知数が複数あるため、どちらか一方だけでは解けません。両者を連立させることで初めて、未知数である圧力 \(P\) の値を一意に決定することができます。
  • 状態を結びつける不変量の発見:
    • 核心: 複数の状態(図1と図2)が登場する問題では、それらの状態を通じて「何が一定に保たれているか(不変量は何か)」を見抜くことが極めて重要です。
    • 理解のポイント:
      • この問題における不変量は、気体の「物質量 \(n\)」と「温度 \(T\)」です。
      • この \(n\) と \(T\) が一定であるという条件が、状態方程式 \(PV=nRT\) において右辺を定数にし、結果としてボイルの法則 \(PV=\text{一定}\) という強力な関係式を導き出します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱変化するピストン: 「熱をよく通す」ではなく「断熱材でできたシリンダー」という設定の場合、状態変化は等温変化ではなく「断熱変化」になります。この場合、ボイルの法則の代わりにポアソンの法則(\(PV^\gamma = \text{一定}\))を用いて、力のつりあいの式と連立させます。
    • ばね付きピストン: ピストンにばねが取り付けられている場合、力のつりあいの式に、ばねの自然長からの変位に応じた弾性力(\(kx\))が加わります。
    • U字管内の気体: U字管の一端を封じて気体を閉じ込め、液体(水銀など)で蓋をする問題。この場合、ピストンの重力 \(Mg\) の代わりに、左右の液面の高さの差によって生じる圧力(\(\rho gh\))を力のつりあいの式に含めて考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状態の数を把握する: 問題文にいくつの異なる状態(図1、図2など)が描かれているかを確認します。状態が複数ある場合、それらの状態間を結びつける法則(等温、断熱、定圧、定積など)が必ず問題文のどこかに隠されています。
    2. キーワードをチェックする: 「熱をよく通す」「ゆっくりと変化させる」→ 等温変化。「断熱材」「急激に変化させる」→ 断熱変化。「なめらかに動くピストンが静止」→ 力のつりあい。「ピストンを固定する」→ 定積変化。これらのキーワードは、適用すべき物理法則を直接指示しています。
    3. 2つの式を立てる意識: この種の問題は、多くの場合「状態変化の法則の式」と「ある状態における力のつりあいの式」という2本の柱で解ける、という構造を念頭に置いておくと、解法の方針が立てやすくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 図1の状態だけで解こうとする:
    • 誤解: 図1の状態でピストンにはたらく力のつりあいを考えても、左右の圧力が等しい(\(P=P\))という当たり前の結果しか得られず、行き詰まってしまう。
    • 対策: 状態が複数提示されている問題は、その「変化」の中に解法のヒントが隠されている、と考える癖をつけましょう。図1と図2の両方を分析し、両者を関係づけることで初めて解ける問題であると認識することが重要です。
  • 力の向きの判断ミス:
    • 誤解: 図2において、A室の気体がピストンを押す力を上向き、B室の気体が押す力を下向き、などと勘違いしてしまう。
    • 対策: 圧力による力は、常に「その面を垂直に押す」向きにはたらきます。A室の気体はピストンの「上面」に接しているので、ピストンを「下向き」に押します。B室の気体はピストンの「下面」に接しているので、ピストンを「上向き」に押します。この基本原則を常に思い出すようにしましょう。
  • ボイルの法則の適用対象の混同:
    • 誤解: A室の変化後の圧力 \(P_A\) を求める際に、B室の変化後の体積 \(V_B’\) を使ってしまうなど、対応関係を間違える。
    • 対策: ボイルの法則は、閉じ込められた「一続きの気体」に対して適用される法則です。A室とB室は独立した気体なので、必ず「A室の変化前と変化後」「B室の変化前と変化後」というペアで式を立てる必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ボイルの法則の選択:
    • 選定理由: 問題文の「熱をよく通す」という記述が、「温度が一定に保たれる」という物理状況を示唆しているためです。温度と物質量が一定の条件下での気体の状態変化を記述する最もシンプルで直接的な法則が、ボイルの法則です。
    • 適用根拠: この法則は、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) において、\(n, R, T\) がすべて定数である特殊な場合に導かれる関係式です。したがって、状態方程式を直接使う別解と考え方は本質的に同じですが、より思考のステップを短縮できるため、この状況では最適な選択と言えます。
  • 力のつりあいの式の選択:
    • 選定理由: 問題文に「(ピストンが)滑らかに動く」とあり、図2の状態で特定の長さで「静止している」からです。これは、ピストンにはたらく合力がゼロであることを意味しており、力学の基本法則である「力のつりあい」を適用すべき明確な合図です。
    • 適用根拠: これはニュートンの運動法則(第一法則)そのものです。加速度がゼロの物体にはたらく力の総和はゼロである、という力学の根幹をなす原理に基づいています。この問題は、熱力学と力学の法則が交差する点で、両者を結びつけるためにこの式が不可欠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 関係式を先に整理する: \(P_A = \displaystyle\frac{2}{3}P\)、\(P_B = 2P\) のように、ボイルの法則から得られる関係式をまずシンプルな形に整理してから、力のつりあいの式に代入しましょう。これにより、式全体の見通しが良くなり、代入ミスや計算ミスを防げます。
  • 分数の計算を丁寧に行う: \(2PS – \displaystyle\frac{2}{3}PS\) のような計算では、共通因数 \(PS\) でくくり、\(\left(2 – \displaystyle\frac{2}{3}\right)PS\) としてから係数部分の計算(通分)を行うと、計算が確実になります。
  • 単位(次元)による検算: 最終的に得られた答え \(P = \displaystyle\frac{3Mg}{4S}\) の単位が圧力の単位になっているかを確認しましょう。右辺の単位は \([\text{kg}] \cdot [\text{m/s}^2] / [\text{m}^2] = [\text{N/m}^2] = [\text{Pa}]\) となり、確かに圧力の単位と一致します。もし \(S\) が分子に来ていたり、\(g\) が抜けていたりすれば、この検算で間違いに気づくことができます。
  • 物理的な吟味: もしピストンが非常に重い(\(M\) が大きい)場合、図2で下のB室はより強く圧縮され、上のA室はより引き伸ばされるはずです。この大きな圧力差 (\(P_B – P_A\)) を生み出すためには、元の圧力 \(P\) も大きい必要があります。得られた答えが \(P \propto M\) となっていることは、この物理的な直感と一致しており、答えの妥当性を裏付けています。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

8 分子運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「分子1個の平均運動エネルギーの式」から出発する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 圧力の式と状態方程式を連立させる解法
      • 主たる解法が、分子1個の運動エネルギーと絶対温度の関係というミクロな視点の公式から出発するのに対し、別解では、気体全体の圧力に関する分子運動論の式と、理想気体の状態方程式というマクロな視点の2つの式を連立させるアプローチを取ります。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 二乗平均速度と絶対温度の関係式 \(\sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M}}\) が、異なる物理的描像(ミクロなエネルギーとマクロな圧力)から同じように導出されることを確認でき、気体分子運動論の理論体系全体の理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの結論に対して、複数の導出ルートを知っておくことは、問題解決能力の幅を広げ、応用力を高める上で非常に有益です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、導出される計算式や最終的な答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「気体分子運動論の基本公式の応用」です。目に見えない気体分子の平均的な速さを、測定可能な物理量である温度や、物質の基本的な性質である分子量から計算する、気体分子運動論の核心に触れる問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 分子の平均運動エネルギーと絶対温度の関係: 気体分子1個の平均並進運動エネルギーが、気体の絶対温度 \(T\) にのみ比例すること (\(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}k_B T\)) を理解していること。
  2. 単位系の統一(SI基本単位): 物理計算における単位系の重要性を理解していること。特に、分子量をグラム単位からキログラム単位のモル質量に変換する必要がある点、セルシウス温度を絶対温度(ケルビン)に変換する必要がある点が重要です。
  3. モル質量と分子量の関係: 分子量 \(M_0\) は1molあたりの質量をグラム単位で表した数値であり、物理計算で用いるモル質量 \(M\) [kg/mol] は \(M = M_0 \times 10^{-3}\) となることを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題で与えられた物理量(温度、分子量)を、計算に適したSI基本単位(ケルビン、kg/mol)に変換します。
  2. 分子の平均運動エネルギーと絶対温度の関係式を、求めたい二乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) について解きます。
  3. 式を整理し、分子1個の質量 \(m\) ではなく、モル質量 \(M\) を用いた形に変形します。
  4. 変換した数値を代入し、二乗平均速度を計算します。

酸素分子の二乗平均速度を求める

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村