力学範囲 96~100
96 鉛直面内の円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(非慣性系と遠心力を用いる解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解1: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 模範解答が物体と一緒に回転する観測者の立場で「遠心力」とのつり合いを考えるのに対し、別解では物理の基本に立ち返り、静止した観測者の立場で「向心力」による運動方程式を立てます。
- 別解2: 離れる高さを直接求める連立方程式アプローチ
- 模範解答が速さ\(v\)と垂直抗力\(N\)を\(\theta\)の関数として求めてから\(N=0\)を代入するのに対し、別解では「離れる瞬間」に特化し、「力の関係式」と「エネルギー保存則」を未知数(離れる位置と速さ)に関する連立方程式として直接解きます。
- 別解1: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系と非慣性系という異なる視点から同じ現象を記述する経験は、物理への理解を深めます。
- 思考の柔軟性向上: 問題の構造を「未知数2つ、式2つ」の連立問題として捉える戦略的な視点を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「半球面を滑り降りる物体の円運動と離れる条件」です。問題95と同様に、「力の関係式」と「エネルギー保存則」を連立させて解く、鉛直面内の円運動の典型問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 滑らかな面を運動するため、重力による位置エネルギーと運動エネルギーの和は常に一定に保たれます。
- 円運動の運動方程式(または遠心力とのつり合い): 円運動をしている物体には、常に中心向きの力(向心力)が働いています。
- 面から離れる条件: 物体が面から離れる瞬間は、面が物体を押す力、すなわち垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる瞬間であると理解すること。
- 幾何学的関係(三角比): 角度\(\theta\)を用いて、物体の高さや力の成分を正しく表現できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、力学的エネルギー保存則を用いて、任意の角\(\theta\)の位置での速さ\(v\)を求めます。
- 次に、角\(\theta\)の位置での力のつり合い(または運動方程式)を立て、1.で求めた速さ\(v\)を代入して垂直抗力\(N\)を\(\theta\)の関数として表します。
- 最後に、「面から離れる条件(\(N=0\))」を適用して、そのときの角度\(\cos\theta\)と高さ\(h\)を求めます。
速さ\(v\)と垂直抗力\(N\)の計算
思考の道筋とポイント
この問題は2段階で構成されています。まず、任意の角\(\theta\)の位置における速さ\(v\)と垂直抗力\(N\)を、\(\theta\)の関数として表現します。
速さ\(v\)は、スタート地点(最高点)と角\(\theta\)の位置との間の「力学的エネルギー保存則」から求めます。
垂直抗力\(N\)は、角\(\theta\)の位置での「力の関係式」から求めます。ここでは模範解答に沿って、物体と一緒に運動する観測者の視点(非慣性系)に立ち、遠心力を含めた力のつり合いを考えます。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの基準点をどこに置くか。ここでは最下点を基準(高さ\(0\))とする。
- スタート地点の高さは\(r\)、角\(\theta\)の位置の高さは\(r\cos\theta\)となる。
- 重力\(mg\)を、円運動の半径方向と接線方向に分解する。半径方向の成分が\(mg\cos\theta\)となることを図から正確に読み取る。
- 半径方向の力のつり合い: 中心向きの力(重力の成分)と、外向きの力(垂直抗力と遠心力)が等しい。
具体的な解説と立式
1. 速さ \(v\) の計算(力学的エネルギー保存則)
スタート地点(高さ\(r\)、速さ\(0\))と、角\(\theta\)の位置(高さ\(r\cos\theta\)、速さ\(v\))との間で、力学的エネルギー保存則を立てます。
$$
\begin{aligned}
mg \cdot r &= \frac{1}{2}mv^2 + mg(r\cos\theta) \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
2. 垂直抗力 \(N\) の計算(非慣性系での力のつり合い)
小球と一緒に円運動する観測者から見ると、小球は静止しています。このとき、半径方向の力がつり合っています。
- 中心向きの力: 重力\(mg\)の半径方向成分。図より、これは\(mg\cos\theta\)となります。
- 外向きの力: 垂直抗力 \(N\) と 遠心力 \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) の和。
(中心向きの力の和)=(外向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
mg\cos\theta &= N + m\frac{v^2}{r} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 非慣性系での力のつり合い
- 遠心力: \(F = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)
まず、式①から \(v^2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= mgr – mgr\cos\theta \\[2.0ex]
&= mgr(1-\cos\theta) \\[2.0ex]
v^2 &= 2gr(1-\cos\theta)
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は、
$$ v = \sqrt{2gr(1-\cos\theta)} $$
次に、この \(v^2\) を式②に代入して \(N\) を求めます。式②を\(N\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos\theta – m\frac{v^2}{r}
\end{aligned}
$$
ここに\(v^2\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos\theta – m\frac{2gr(1-\cos\theta)}{r} \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta – 2mg(1-\cos\theta) \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta – 2mg + 2mg\cos\theta \\[2.0ex]
&= 3mg\cos\theta – 2mg \\[2.0ex]
&= mg(3\cos\theta – 2)
\end{aligned}
$$
スキーヤーが半円状のコブの頂上から滑り降りるのを想像してください。滑り降りるにつれてスピードが上がります。この「速さ」は、どれだけ高さを失ったか(位置エネルギーが運動エネルギーに変わったか)で決まります。これがエネルギー保存則です。
一方、スキーヤーが斜面から受ける力(垂直抗力)は、場所によって変わります。これは、カーブを曲がるための外向きの力(遠心力)と、重力の一部が、スキーヤーを斜面から引き離そうとするからです。斜面は、これらの力に対抗してスキーヤーを押し返します。この力のバランスを考えることで、垂直抗力が計算できます。
速さは \(v = \sqrt{2gr(1-\cos\theta)}\)、垂直抗力は \(N = mg(3\cos\theta – 2)\) と求められました。
\(\theta=0\)(最高点)のとき、\(\cos\theta=1\)なので、\(v=0\)、\(N=mg(3-2)=mg\)となり、静止している状態とつじつまが合います。
\(\theta\)が増加すると\(\cos\theta\)は減少し、\(v\)は増加、\(N\)は減少していくことがわかります。これは、滑り降りるにつれて速くなるが、斜面からの圧力は減っていくという物理的な状況と一致しています。
球面から離れる高さ\(h\)の計算
思考の道筋とポイント
「Pが球面から離れる」という物理的な現象を、数式で表現することが鍵となります。物体が面から離れる瞬間とは、まさに「垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる瞬間」です。
先ほど求めた垂直抗力 \(N\) が\(\theta\)の関数として表されているので、この式に \(N=0\) という条件を適用することで、その瞬間の角度\(\theta\)を特定します。最後に、その角度\(\theta\)から、幾何学的に高さ\(h\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 「球面から離れる」という物理現象を、「垂直抗力 \(N=0\)」という数式上の条件に翻訳すること。
- 離れる瞬間の高さ\(h\)が、\(h=r\cos\theta\)で与えられることを図から読み取ること。
具体的な解説と立式
先ほど求めた垂直抗力 \(N\) の式は以下の通りです。
$$ N = mg(3\cos\theta – 2) $$
小球が球面から離れるのは \(N=0\) となるときなので、
$$
\begin{aligned}
mg(3\cos\theta – 2) &= 0
\end{aligned}
$$
このときの高さ\(h\)は、図より \(h = r\cos\theta\) で与えられます。
使用した物理公式
- 垂直抗力 \(N\) の式(設問1の結果)
- 球面から離れる条件: \(N=0\)
上記で立式した \(mg(3\cos\theta – 2) = 0\) を \(\cos\theta\) について解きます。
質量 \(m\) と重力加速度 \(g\) は \(0\) ではないので、
$$
\begin{aligned}
3\cos\theta – 2 &= 0 \\[2.0ex]
3\cos\theta &= 2 \\[2.0ex]
\cos\theta &= \frac{2}{3}
\end{aligned}
$$
このときの高さ\(h\)は、
$$
\begin{aligned}
h &= r\cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}r
\end{aligned}
$$
スキーヤーがコブを滑り降りるとき、スピードが上がりすぎると、ある地点でフワッと浮き上がってジャンプしてしまいますよね。その「ジャンプする瞬間」がどこかを当てる問題です。
ジャンプする瞬間とは、体が斜面から離れる瞬間、つまり斜面が体を支える力(垂直抗力)がゼロになる瞬間です。
先ほどの計算で、垂直抗力の大きさは角度\(\theta\)によって変わることがわかっています。その垂直抗力の式に「= 0」を代入して方程式を解けば、ジャンプする瞬間の角度がわかり、そこから高さを計算することができます。
球面から離れるときの高さは \(h = \displaystyle\frac{2}{3}r\) と求められました。これは、半球の半径の2/3の高さまで滑り降りたところで、面から離れて放物運動に移ることを意味します。\(0 < 2/3 < 1\) なので、最下点に到達する前に離れるという物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
静止した観測者(慣性系)の視点で問題を考えます。この観測者から見ると、小球は円運動をしています。円運動をするためには、必ず円の中心に向かう力(向心力)が必要です。この向心力を、実際に働く力(重力、垂直抗力)の合力として表現し、運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 慣性系では、力の合力が加速度を生むという運動方程式 \(ma=F\) を用いる。
- 半径方向の運動方程式は、\(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = (\text{中心向きの力の和}) – (\text{外向きの力の和})\) となる。
具体的な解説と立式
速さ\(v\)はエネルギー保存則から同様に求めます。
半径方向の運動方程式(慣性系)
円の中心向きを正とします。
- 中心向きの力: 重力\(mg\)の半径方向成分 \(mg\cos\theta\)
- 外向きの力: 垂直抗力 \(N\)
運動方程式 \(ma=F\) より、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= mg\cos\theta – N \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 向心加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)
式③を \(N\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos\theta – m\frac{v^2}{r}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法の力のつり合いの式②から導かれる式と全く同じです。したがって、その後の計算過程も主たる解法と全く同じになり、以下の結果が得られます。
$$ N = mg(3\cos\theta – 2) $$
$$ h = \frac{2}{3}r $$
地面に立って、半球を滑り降りる小球を眺めていると想像してください。小球はカーブを曲がり続けています。物理のルールでは、物体がカーブを曲がるためには、必ずカーブの中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。
この問題では、その「中心に引っ張る力」の役割を、重力の一部(半径方向成分)が担っています。しかし、垂直抗力が外向きに働いて、その効果を少し邪魔しています。したがって、向心力は「重力の成分 – 垂直抗力」となります。この関係を運動方程式として立てることで、問題を解くことができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。非慣性系での「力のつり合い」と、慣性系での「運動方程式」は、物理的に等価な現象の記述方法であることが確認できます。
思考の道筋とポイント
「離れる瞬間」に特化して、そのときの「速さ\(v’\)」と「位置(角度\(\theta’\))」を2つの未知数として直接求めるアプローチです。未知数が2つなので、2つの独立した式を立てて連立させます。
- 式1(力の関係): 離れる瞬間は\(N=0\)なので、運動方程式は「向心力 = 重力の半径方向成分」となります。
- 式2(エネルギーの関係): スタート地点と離れる瞬間の間で「力学的エネルギー保存則」を立てます。
この設問における重要なポイント
- 「離れる瞬間」という特定の状態にのみ焦点を当てる。
- 未知数が2つ(速さと位置)、式が2つ(運動方程式とエネルギー保存則)という問題構造を見抜く。
具体的な解説と立式
離れる瞬間の速さを\(v’\)、角度を\(\theta’\)とします。
1. 力の関係式(運動方程式)
離れる瞬間は\(N=0\)なので、向心力は重力の半径方向成分のみとなります。
$$
\begin{aligned}
m\frac{(v’)^2}{r} &= mg\cos\theta’ \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
2. エネルギー保存則
スタート地点(高さ\(r\))と離れる位置(高さ\(r\cos\theta’\))の間でエネルギー保存則を立てます。
$$
\begin{aligned}
mgr &= \frac{1}{2}m(v’)^2 + mgr\cos\theta’ \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式
- 力学的エネルギー保存則
- 面から離れる条件: \(N=0\)
式④から \((v’)^2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(v’)^2 &= gr\cos\theta’
\end{aligned}
$$
これを式⑤に代入します。
$$
\begin{aligned}
mgr &= \frac{1}{2}m(gr\cos\theta’) + mgr\cos\theta’
\end{aligned}
$$
両辺を \(mgr\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
1 &= \frac{1}{2}\cos\theta’ + \cos\theta’ \\[2.0ex]
1 &= \frac{3}{2}\cos\theta’
\end{aligned}
$$
したがって、離れる瞬間の角度\(\cos\theta’\)は、
$$
\begin{aligned}
\cos\theta’ &= \frac{2}{3}
\end{aligned}
$$
求める高さ\(h\)は、このときの高さなので、
$$
\begin{aligned}
h &= r\cos\theta’ \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}r
\end{aligned}
$$
この問題は、いわば「犯行現場(離れる場所)はどこだ?」という謎解きです。犯行現場には2つの手がかりが残されています。
手がかり1は「力の証拠」です。離れる瞬間には、垂直抗力がゼロになり、重力の一部が向心力として働いていた、という法則です。
手がかり2は「エネルギーの証拠」です。スタート地点から犯行現場まで、エネルギーは保存されていた、という法則です。
この2つの手がかり(方程式)を組み合わせることで、犯人(離れる場所の角度と、そのときの速さ)を特定することができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。このアプローチは、途中で任意の\(\theta\)についての一般式を求める手間を省き、直接「離れる瞬間」という特定の状態を解くため、見通しが良く効率的です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式の連携:
- 核心: この問題の根幹は、鉛直面内の円運動という、場所によって速さが変わる運動を解くための王道的なアプローチを理解することにあります。それは、「力学的エネルギー保存則」と「円運動の運動方程式」という2つの強力な法則を連携させて使うことです。
- 理解のポイント:
- 速さを求めるのはエネルギー保存則: 任意の2点間での速さの変化は、その間の位置エネルギーの変化から計算できます。\(mg(\text{初めの高さ}) = \frac{1}{2}mv^2 + mg(\text{後の高さ})\) のように、エネルギー保存則は「速さ」と「高さ」の関係を教えてくれます。
- 力を求めるのは運動方程式: ある特定の点での力(この問題では垂直抗力)を知りたい場合は、その点での力の関係式、すなわち円運動の運動方程式 \(ma=F\)(または遠心力とのつり合い)を立てる必要があります。この式には「速さ」が含まれているため、エネルギー保存則で求めた速さを代入することで、力を計算できます。
- 面から離れる限界条件(\(N=0\)):
- 核心: 「物体が面から離れる」という物理現象を、「垂直抗力\(N\)が\(0\)になる」という明確な物理的・数学的な条件に翻訳することが、この問題を解くための決定的な鍵となります。
- 理解のポイント:
- 物理的意味: 垂直抗力は面が物体を押す力です。この力が\(0\)になるということは、面からの支えがなくなった瞬間を意味します。この瞬間、円運動を維持するための向心力は、重力のある成分だけでまかなわれることになります。
- 条件の適用: この\(N=0\)という条件を、半径方向の力のつり合いの式(または運動方程式)に適用することで、離れる瞬間の位置(角度\(\theta\)や高さ\(h\))を特定することができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ジェットコースターのループ(問題94): 最高点でレールから離れないための条件を考える問題です。本問が「外側」の円運動であるのに対し、ジェットコースターは「内側」の円運動であるため、力の向き(特に垂直抗力)が逆になりますが、考え方の構造は同じです。
- 糸で結ばれたおもりの鉛直面内円運動: 垂直抗力\(N\)が糸の張力\(S\)に置き換わります。「糸がたるまない条件」は「張力 \(S \ge 0\)」となり、最高点での条件が鍵となる点も同じです。
- 斜方投射: 物体が面から離れた後の運動は、重力だけを受ける放物運動(斜方投射)となります。離れる瞬間の位置と速度を初期条件として、その後の軌道を問う問題に発展することがあります。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギー保存則の基準点設定: 計算を簡単にするため、最も低い位置や、高さの表現がしやすい位置(この問題では最下点や半球の中心)を位置エネルギーの基準点(高さ\(0\))に設定します。
- 力の分解の軸設定: 円運動では、常に「半径方向」と「接線方向」に力を分解するのが定石です。半径方向の力の合力が向心力となり、運動方程式を立てるのに使います。
- 未知数と方程式の数の確認: この問題のように「離れる位置と速さ」を求める場合、未知数が2つあるため、独立した2つの方程式(エネルギー保存則と運動方程式)が必要である、という戦略を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギー保存則における高さの誤り:
- 誤解: 角度\(\theta\)の位置の高さを、図の見た目から安易に\(h\)とだけ置いてしまう、あるいは\(r(1-\cos\theta)\)と間違える。
- 対策: 必ず図を丁寧に描き、基準点からの高さを三角比で正しく表現する癖をつけましょう。この問題では、半球の中心から物体までの鉛直距離が\(r\cos\theta\)なので、最下点を基準とした高さは\(r\cos\theta\)となります。スタート地点の高さは\(r\)です。
- 力の分解における角度の誤り:
- 誤解: 重力\(mg\)を分解する際に、半径方向の成分を\(mg\sin\theta\)としてしまう。
- 対策: 角度\(\theta\)が「どの線とどの線の間の角か」を図で明確にすることが重要です。この問題では、\(\theta\)は「鉛直線」と「半径」の間の角です。したがって、「\(\theta\)を挟むように分解する半径方向の成分がコサイン (\(mg\cos\theta\))」と覚えれば、ミスを防げます。
- 運動方程式(または力のつり合い)の符号ミス:
- 誤解: 半径方向の力の関係を立てる際に、力の向きを混同してしまう。例えば、\(N + mg\cos\theta = m v^2/r\) のように、すべての力を同じ向きとして足してしまう。
- 対策: 慣性系で考える場合は「中心向きを正」とし、中心向きの力(\(mg\cos\theta\))から逆向きの力(\(N\))を引いたものが向心力になると考えます (\(m v^2/r = mg\cos\theta – N\))。非慣性系で考える場合は「中心向きの力(\(mg\cos\theta\))」と「外向きの力(\(N+遠心力\))」がつり合うと考えます (\(mg\cos\theta = N + m v^2/r\))。どちらの視点でも、力の向きを正確に区別することが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: 問題文に「滑らかな」とあり、摩擦や空気抵抗が無視できるため、保存力である重力のみが仕事をします。このような状況で、運動の始点と、未知の終点との間の「速さ」と「高さ」の関係を記述するのに最も適した法則だからです。
- 適用根拠: 保存力以外の力が仕事をしない場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和(力学的エネルギー)は保存される、という法則に基づいています。
- 円運動の運動方程式(または遠心力とのつり合い):
- 選定理由: 「離れる瞬間」という特定の瞬間に、物体が円運動の軌道上にあるという事実から、その瞬間の力の関係を記述する必要があるからです。
- 適用根拠: 離れる瞬間(\(N=0\))であっても、物体はまだ円運動の経路上にあり、円の中心に向かう加速度を持っています。その加速度の原因となる力(向心力)が、その瞬間に働いている力の合力(この場合は重力のある成分)に等しい、というのが運動方程式の適用根拠です。
- 限界条件としての「\(N=0\)」:
- 選定理由: 問題が「球面から離れる」という、接触状態が変化する「限界」の瞬間を問うているからです。
- 適用根拠: 垂直抗力は接触面からの反発力であり、その性質上、押すことしかできず、引くことはできません。したがって、その値は必ず正またはゼロでなければなりません。この物理的な制約が、運動が継続できるかどうかの数学的な条件式となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の消去戦略:
- この問題のように、2つの式に未知数\(v^2\)と\(\cos\theta\)が含まれている場合、計算が簡単な方の式(この場合はエネルギー保存則①)を使って一方の未知数(\(v^2\))をもう一方の未知数(\(\cos\theta\))で表現し(\(v^2 = 2gr(1-\cos\theta)\))、それをもう一方の複雑な式(力の関係式②)に代入するのが定石です。これにより、未知数が1つだけの簡単な方程式に帰着させることができます。
- 共通因数での括り出しと整理:
- 垂直抗力\(N\)を求める計算過程で、\(N = mg\cos\theta – 2mg(1-\cos\theta)\) のような式が出てきます。ここで焦って計算せず、まず共通因数\(mg\)で括り、\(N = mg\{\cos\theta – 2(1-\cos\theta)\}\) とします。その後、括弧の中を丁寧に計算 (\(\cos\theta – 2 + 2\cos\theta = 3\cos\theta – 2\)) することで、式が整理され、計算ミスを大幅に減らすことができます。
- 最終結果の吟味:
- 得られた答え \(\cos\theta = 2/3\) が、物理的に妥当な範囲にあるかを確認します。\(\cos\theta\)の値は\(-1\)から\(1\)の間でなければなりません。\(2/3\)はこの範囲内にあり、また、物体が頂上(\(\cos\theta=1\))と真横(\(\cos\theta=0\))の間で離れるという直感とも一致するため、答えがもっともらしいと判断できます。離れる高さ \(h = (2/3)r\) も、\(0\)と\(r\)の間であり妥当です。
97 単振動の物理
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている単振動の性質(振動中心、振幅、周期)から解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- ばねの最大の長さの別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が単振動の振幅に着目するのに対し、別解では運動の始点(自然長)と終点(最下点)の間での力学的エネルギー保存則から直接最大の伸びを導出します。
- 最大の速さの別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が単振動の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) を用いるのに対し、別解では運動の始点(自然長)と速さが最大になる点(つり合いの位置)の間での力学的エネルギー保存則から最大の速さを導出します。
- ばねの最大の長さの別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的視点の多様化: 単振動の性質から解く方法と、より普遍的な法則であるエネルギー保存則から解く方法を比較することで、一つの現象に対する多角的な理解が深まります。
- 解法の相互検証: 異なるアプローチで同じ答えが導かれることを確認することで、計算の確かさを検証し、物理法則の一貫性を実感できます。
- 応用力の向上: エネルギー保存則は、単振動に限らず非保存力が仕事をしない様々な状況で使える極めて強力な道具であり、その使い方を実践的に学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「鉛直ばね振り子の単振動」です。Ex1で求めた単振動の性質(つり合いの位置、周期など)を前提として、具体的な初期条件(自然長で放す)を与えられたときの運動を詳しく分析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単振動の中心: 鉛直ばね振り子の場合、力がつりあう位置(重力 = 弾性力)が振動の中心となること。
- 単振動の端と振幅: 物体を静かに放した位置は、運動の折り返し点、すなわち単振動の「端」となります。そして、振動の中心から端までの距離が「振幅」となります。
- 単振動の周期: 周期が \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) で与えられること。端から端までの移動には半周期かかること。
- 単振動の速さ: 速さは振動の中心で最大となり、両端でゼロになること。最大速度は \(v_{\text{最大}}=A\omega\) (A: 振幅, \(\omega\): 角振動数)で与えられること。
- 力学的エネルギー保存則: 重力とばねの弾性力はどちらも保存力なので、運動の過程で全体の力学的エネルギー(運動エネルギー + 重力位置エネルギー + 弾性エネルギー)は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、この単振動の「中心」と「端」がどこかを特定し、そこから「振幅」を決定します。
- 「ばねの最大の長さ」は、振動の最下点の位置(中心 + 振幅)として求めます。
- 「かかる時間」は、振動の端からもう一方の端までの移動時間なので、半周期として計算します。
- 「最大の速さ」は、振動の中心を通過するときの速さなので、公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) を用いて計算します。
ばねの最大の長さ
思考の道筋とポイント
この運動は、力がつりあう位置を中心とする単振動です。まず、その振動中心と振幅を特定することが全ての鍵となります。
Ex1(1)より、力のつり合いの位置(振動中心O)は、ばねが自然長から \(l = mg/k\) だけ伸びた位置です。
問題の条件では「自然長位置で放した」とあります。静かに放した(初速\(0\))位置は、運動の折り返し点、すなわち単振動の「端」になります。
したがって、この運動は、自然長の位置(最高点・端)と、そこから \(l\) だけ下のつり合いの位置(中心)の間で定義される単振動です。
「振幅」は中心から端までの距離なので、振幅\(A\)は\(l\)に等しくなります。
ばねの長さが最大になるのは、振動の最下点です。最下点は、振動の中心から振幅\(A=l\)だけさらに下にいった位置です。よって、自然長からの最大の伸びは \(l+A = l+l = 2l\) となります。
この設問における重要なポイント
- 鉛直ばね振り子の振動中心は「つり合いの位置」。
- 振幅は「中心」と「端」の距離。
- 自然長で「放した」→ 初速ゼロ → そこが振動の端(最高点)。
- 最下点は、中心から振幅だけ下の位置。
具体的な解説と立式
Ex1(1)の結果より、つり合いの位置Oでのばねの伸び\(l\)は、力のつり合い \(kl=mg\) から、
$$ l = \frac{mg}{k} $$
このつり合いの位置が、単振動の中心となります。
自然長の位置で小球を放したので、ここが振動の最高点(端)です。
振幅\(A\)は、振動の中心(伸び\(l\))から端(伸び\(0\))までの距離なので、
$$ A = l = \frac{mg}{k} $$
ばねの長さが最大になるのは、振動の最下点です。最下点でのばねの伸び\(x_{\text{最大}}\)は、中心の位置(伸び\(l\))からさらに振幅\(A\)だけ下に進んだ位置なので、
$$
\begin{aligned}
x_{\text{最大}} &= l + A \\[2.0ex]
&= l + l \\[2.0ex]
&= 2l
\end{aligned}
$$
したがって、ばね全体の最大の長さ\(L_{\text{最大}}\)は、自然長\(l_0\)に最大の伸び\(x_{\text{最大}}\)を加えたものになります。
使用した物理公式
- ばねの力のつり合い: \(kl=mg\)
- 単振動の振幅の定義
最大の伸び \(x_{\text{最大}} = 2l\) に、\(l=mg/k\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_{\text{最大}} &= 2 \cdot \frac{mg}{k} \\[2.0ex]
&= \frac{2mg}{k}
\end{aligned}
$$
よって、ばねの最大の長さは、
$$
\begin{aligned}
L_{\text{最大}} &= l_0 + x_{\text{最大}} \\[2.0ex]
&= l_0 + \frac{2mg}{k}
\end{aligned}
$$
ばね振り子は、重りとばねの力がちょうど釣り合う点を中心に、行ったり来たり振動します。今回は、ばねが全く伸びていない「自然長」の位置から手を放したので、そこが一番上の折り返し点になります。
振動の中心は、そこから少し下がった「つり合いの位置」です。
単振動は中心に対して対称なので、一番下の折り返し点は、中心から、一番上と同じ距離だけ下がった場所になります。
結果として、ばねが一番伸びるのは、この一番下の折り返し点に来たときで、その伸びは「自然長」から「つり合いの位置」までの距離のちょうど2倍になります。
ばねの最大の長さは \(l_0 + \displaystyle\frac{2mg}{k}\) と求められました。これは、つり合いの位置での伸びの2倍だけばねが伸びることを示しており、単振動の対称性から考えて妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
単振動の性質を使わずに、より普遍的な「力学的エネルギー保存則」から最大の伸びを求める別解です。運動の始点(自然長の位置)と終点(最下点)では、どちらも速さが\(0\)(運動エネルギーが\(0\))です。この2点間で、重力による位置エネルギーとばねの弾性エネルギーを合わせた力学的エネルギーが保存されることを利用して、最大の伸びを直接計算します。
この設問における重要なポイント
- 運動の始点と終点で速さが\(0\)であることに着目する。
- 力学的エネルギーとして、「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「弾性エネルギー」の3つを考慮する。
- エネルギーの基準点を明確に設定する(ここでは自然長の位置とする)。
具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を、運動の始点(最高点)と終点(最下点)で立てます。重力による位置エネルギーの基準点を、始点である自然長の位置とします。
【最高点でのエネルギー \(E_{\text{最高}}\)】
- 速さ: \(v=0\)
- 高さ: \(0\) (基準点)
- ばねの伸び: \(0\)
$$
\begin{aligned}
E_{\text{最高}} &= \frac{1}{2}m(0)^2 + mg(0) + \frac{1}{2}k(0)^2 \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
【最下点でのエネルギー \(E_{\text{最下}}\)】
最大の伸びを \(x_{\text{最大}}\) とします。
- 速さ: \(v=0\)
- 高さ: \(-x_{\text{最大}}\)
- ばねの伸び: \(x_{\text{最大}}\)
$$
\begin{aligned}
E_{\text{最下}} &= \frac{1}{2}m(0)^2 + mg(-x_{\text{最大}}) + \frac{1}{2}kx_{\text{最大}}^2
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{最高}} = E_{\text{最下}}\) より、
$$
\begin{aligned}
0 &= -mgx_{\text{最大}} + \frac{1}{2}kx_{\text{最大}}^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(E_k + U_g + U_s = \text{一定}\)
上記で立式した方程式を \(x_{\text{最大}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx_{\text{最大}}^2 &= mgx_{\text{最大}}
\end{aligned}
$$
\(x_{\text{最大}} \ne 0\) なので、両辺を \(x_{\text{最大}}\) で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx_{\text{最大}} &= mg \\[2.0ex]
x_{\text{最大}} &= \frac{2mg}{k}
\end{aligned}
$$
したがって、ばねの最大の長さは、
$$
\begin{aligned}
L_{\text{最大}} &= l_0 + x_{\text{最大}} \\[2.0ex]
&= l_0 + \frac{2mg}{k}
\end{aligned}
$$
この問題は、エネルギーの観点からも解くことができます。手を放した瞬間(一番上)では、速さがゼロなので運動エネルギーはゼロ、ばねも伸びていないので弾性エネルギーもゼロです。ここをエネルギーの基準(0ジュール)とします。
一番下に来たときも、一瞬止まるので運動エネルギーはゼロです。しかし、一番上の位置より下にいるので、重力の位置エネルギーはマイナスになります。一方、ばねは最大まで伸びているので、弾性エネルギーはプラスで最大になります。
エネルギーは保存されるので、「一番上のエネルギー(0ジュール)」と「一番下のエネルギー(マイナスの位置エネルギー + プラスの弾性エネルギー)」は等しくなります。この等式を解くことで、ばねの最大の伸びを計算できます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。単振動の性質を知らなくても、エネルギー保存則という基本法則だけで解けることが確認できました。
かかる時間
思考の道筋とポイント
「ばねの長さが最大になるまでにかかる時間」とは、振動の最高点(自然長の位置)から最下点まで移動するのにかかる時間のことです。単振動において、一方の端からもう一方の端まで移動する時間は、ちょうど周期の半分(半周期)になります。
Ex1(3)の結果より、このばね振り子の周期は \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) なので、その半分を計算します。
この設問における重要なポイント
- 振動の端から端までの移動時間は、半周期 (\(T/2\)) である。
- 鉛直ばね振り子の周期は、水平ばね振り子と同じ \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) である。
具体的な解説と立式
単振動の周期\(T\)は、Ex1(3)で示されているように、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
求めたい時間は、振動の端(最高点)からもう一方の端(最下点)までの時間なので、半周期 \(t = T/2\) となります。
使用した物理公式
- 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/k}\)
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{T}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \\[2.0ex]
&= \pi\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
一番上の折り返し点から、一番下の折り返し点まで移動する時間を考えます。一番上から一番下まで行って、また一番上に戻ってくるのが1往復(1周期)です。今知りたいのは、そのうちの片道(一番上から一番下まで)なので、かかる時間はちょうど1周期の半分になります。
かかる時間は \(\pi\sqrt{m/k}\) と求められました。これは周期の半分であり、物理的に妥当な結果です。
Pの最大の速さ
思考の道筋とポイント
単振動において、物体の速さが最大になるのは、振動の中心を通過するときです。この問題では、振動の中心は力のつり合いの位置Oです。
単振動の最大速度 \(v_{\text{最大}}\) は、公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) で与えられます。ここで、\(A\)は振幅、\(\omega\)は角振動数です。
振幅\(A\)は、すでに求めたように \(A=l=mg/k\) です。角振動数\(\omega\)は、周期 \(T=2\pi/\omega\) と \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) の関係から、\(\omega = \sqrt{k/m}\) となります。これらの値を公式に代入して計算します。
この設問における重要なポイント
- 速さが最大になるのは、振動の中心(つり合いの位置)。
- 最大速度の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を使う。
- 振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)を正しく求める。
具体的な解説と立式
単振動の最大速度の公式は、
$$ v_{\text{最大}} = A\omega $$
振幅\(A\)は、
$$ A = l = \frac{mg}{k} $$
角振動数\(\omega\)は、
$$ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} $$
これらの値を公式に代入します。
使用した物理公式
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{k/m}\)
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A\omega \\[2.0ex]
&= \left( \frac{mg}{k} \right) \cdot \sqrt{\frac{k}{m}} \\[2.0ex]
&= g \cdot \frac{m}{k} \sqrt{\frac{k}{m}} \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{m^2}{k^2}} \sqrt{\frac{k}{m}} \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{m^2}{k^2} \cdot \frac{k}{m}} \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
ブランコが一番速いのは、一番低いところを通過するときですよね。ばね振り子も同じで、振動の中心である「つり合いの位置」で最も速くなります。単振動では、この最大の速さは「振幅」と「振動の速さのペース(角振動数)」を掛け合わせたものとして計算できる、という便利な公式があります。
最大の速さは \(v_{\text{最大}} = g\sqrt{m/k}\) と求められました。この結果は、重力加速度\(g\)が大きいほど、また \(m/k\) が大きい(重いおもり、または弱いばね)ほど、速くなることを示しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
単振動の公式を使わずに、力学的エネルギー保存則から最大の速さを求める別解です。速さが最大になるのは振動の中心(つり合いの位置)です。運動の始点(自然長の位置、速さ\(0\))と、振動の中心との間で、力学的エネルギーが保存されることを利用して、最大の速さ\(v_{\text{最大}}\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 速さが最大になるのは振動の中心であることに着目する。
- 力学的エネルギーとして、「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「弾性エネルギー」の3つを考慮する。
- エネルギーの基準点を明確に設定する(ここでは自然長の位置とする)。
具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を、運動の始点(最高点)と振動の中心で立てます。重力による位置エネルギーの基準点を、始点である自然長の位置とします。
【最高点でのエネルギー \(E_{\text{最高}}\)】
- 速さ: \(v=0\)
- 高さ: \(0\) (基準点)
- ばねの伸び: \(0\)
$$
\begin{aligned}
E_{\text{最高}} &= 0
\end{aligned}
$$
【振動の中心でのエネルギー \(E_{\text{中心}}\)】
つり合いの位置では、ばねの伸びは \(l=mg/k\) です。
- 速さ: \(v_{\text{最大}}\)
- 高さ: \(-l\)
- ばねの伸び: \(l\)
$$
\begin{aligned}
E_{\text{中心}} &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + mg(-l) + \frac{1}{2}kl^2
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{最高}} = E_{\text{中心}}\) より、
$$
\begin{aligned}
0 &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mgl + \frac{1}{2}kl^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(E_k + U_g + U_s = \text{一定}\)
- ばねの力のつり合い: \(kl=mg\)
上記で立式した方程式に、力のつり合いの関係式 \(kl=mg\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
0 &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mgl + \frac{1}{2}(mg)l \\[2.0ex]
0 &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – \frac{1}{2}mgl
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{最大}}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 &= \frac{1}{2}mgl \\[2.0ex]
v_{\text{最大}}^2 &= gl
\end{aligned}
$$
\(l=mg/k\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}}^2 &= g \left( \frac{mg}{k} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{g^2m}{k}
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{最大}}\) は正なので、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \sqrt{\frac{g^2m}{k}} \\[2.0ex]
&= g\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
エネルギーの観点からも、最大の速さを計算できます。手を放した瞬間(一番上)のエネルギーは、基準として0ジュールとします。
一番速くなる「つり合いの位置」では、速さがあるので運動エネルギーを持ちます。また、一番上の位置より下にいるので、重力の位置エネルギーはマイナスになります。さらに、ばねが伸びているので、弾性エネルギーも持ちます。
エネルギーは保存されるので、「一番上のエネルギー(0ジュール)」と「つり合いの位置でのエネルギー(運動エネルギー + マイナスの位置エネルギー + 弾性エネルギー)」は等しくなります。この等式を解くことで、最大の速さを計算できます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。単振動の公式を知らなくても、エネルギー保存則という基本法則だけで解けることが確認できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単振動の中心と端の特定:
- 核心: この問題の根幹は、与えられた初期条件(自然長で放す)から、その運動がどのような単振動であるかを特定することにあります。具体的には、「振動の中心」と「振動の端」がどこになるかを見抜くことが全てです。
- 理解のポイント:
- 振動の中心: 鉛直ばね振り子の場合、力がつりあう位置(重力 \(mg\) = 弾性力 \(kl\))が、常に振動の中心となります。
- 振動の端: 物体を「静かに放した」位置、つまり初速度が\(0\)の位置が、運動の折り返し点である「振動の端」になります。
- 振幅: 振動の中心から端までの距離が「振幅 \(A\)」です。この問題では、中心(伸び\(l\))と端(伸び\(0\))の差なので、振幅は\(l\)に等しくなります。
- 単振動の対称性:
- 核心: 単振動は、振動の中心に対して完全に対称な運動です。この対称性を理解していれば、多くの物理量を直感的に求めることができます。
- 理解のポイント:
- 位置の対称性: 一方の端(最高点)が中心から距離\(A\)だけ上にあれば、もう一方の端(最下点)は必ず中心から距離\(A\)だけ下にあります。これにより、最大の伸びが\(2l\)であることが即座にわかります。
- 時間の対称性: 端から中心までかかる時間と、中心からもう一方の端までかかる時間は等しく、それぞれ周期の\(1/4\)です。したがって、端から端までは半周期(\(T/2\))かかります。
- 速さの対称性: 中心で速さは最大になり、両端で\(0\)になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- つり合いの位置から初速を与えて振動させる問題: この場合、振動の中心はつり合いの位置のままですが、振幅は与えられた初速によって決まります。エネルギー保存則(\(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}mv_0^2\))を用いて振幅を決定します。
- 水平ばね振り子: 重力の影響がなくなり、ばねの自然長の位置が振動の中心となります。考え方はよりシンプルになります。
- 斜面上のばね振り子: 重力の斜面方向成分と弾性力がつりあう位置が振動の中心となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 振動中心の特定: まず最初に、すべての力の合力が\(0\)になる「つり合いの位置」を探します。ここが単振動の中心です。
- 振幅の特定: 次に、与えられた初期条件(放した位置や初速)から、振動の中心から最も離れる点(端)までの距離、すなわち振幅\(A\)を決定します。
- 静かに放した → 放した位置が端。中心との距離が振幅。
- 中心で初速を与えた → エネルギー保存則で端の位置を探し、振幅を求める。
- 単振動の基本公式の適用: 振動の中心と振幅が分かれば、あとは周期(\(T=2\pi/\omega\))、最大速度(\(v_{\text{最大}}=A\omega\))、最大加速度(\(a_{\text{最大}}=A\omega^2\))といった基本公式に代入するだけで、様々な物理量を計算できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振動の中心の誤解:
- 誤解: 水平ばね振り子と同じ感覚で、ばねの「自然長」の位置を振動の中心だと勘違いしてしまう。
- 対策: 鉛直ばね振り子では、常に重力が働いていることを忘れてはいけません。「振動の中心 = 力のつり合いの位置」という定義を徹底しましょう。重力と弾性力がつりあう位置は、自然長から\(l=mg/k\)だけ伸びた位置です。
- エネルギー保存則における位置エネルギーの混同:
- 誤解: 力学的エネルギーを考える際に、「重力による位置エネルギー」か「弾性エネルギー」のどちらかを数え忘れてしまう。
- 対策: 鉛直ばね振り子では、高さの変化とばねの伸び縮みが同時に起こるため、位置エネルギーは「重力」と「ばね」の2種類が存在します。エネルギー保存則を立てる際は、必ず「運動エネルギー」「重力位置エネルギー」「弾性エネルギー」の3つの項を書き出し、それぞれの基準点を明確にした上で立式する癖をつけましょう。
- 時間の計算の誤解:
- 誤解: 最高点から最下点までの時間を、1周期\(T\)と勘違いしてしまう。
- 対策: 単振動の1周期は「行って戻ってくる」までの時間です。問題が「~までにかかる時間」を問うている場合、それが振動のどの部分(例: 端→端、端→中心、中心→端)に対応するのかを正確に把握することが重要です。端から端までは半周期(\(T/2\))、端から中心までは1/4周期(\(T/4\))です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 単振動の性質(振幅、周期など)の利用:
- 選定理由: 問題の運動が「単振動」であることがEx1から分かっているため、単振動に特有の便利な性質や公式を最大限に活用するのが最も効率的だからです。
- 適用根拠: 単振動は、復元力が変位に比例する(\(F=-Kx\))という特別な条件下での運動です。この条件から、運動が中心に対して対称になることや、周期が一定になること、最大速度が\(A\omega\)で与えられることなどが数学的に導かれます。運動が単振動であると一度特定できれば、これらの導出済みの結果を公式として安心して利用できます。
- 力学的エネルギー保存則(別解):
- 選定理由: 単振動の公式を忘れてしまった場合や、公式の導出過程を物理の基本法則から確認したい場合に選択します。また、単振動ではないがエネルギーが保存されるような、より一般的な問題にも対応できる普遍的な解法です。
- 適用根拠: この系で働く力(重力と弾性力)は、どちらも「保存力」です。保存力のみが仕事をする場合、系の力学的エネルギー(運動エネルギーとすべての位置エネルギーの和)は常に一定に保たれる、という物理学の大原則に基づいています。
- 最大速度の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) :
- 選定理由: 単振動の振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)が分かっている場合に、最大速度を最も直接的に計算できる公式だからです。
- 適用根拠: この公式は、単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \frac{1}{2}KA^2\)(\(K\)は復元力の比例定数)から導かれます。速さ\(v\)が最大になるのは、変位\(x\)が\(0\)(振動の中心)のときであり、このとき \(\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 = \frac{1}{2}KA^2\) となります。\(K=m\omega^2\)の関係を用いると、\(v_{\text{最大}}=A\omega\)が導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 物理量の整理:
- 問題を解き始める前に、この単振動を特徴づける基本的な物理量をすべて書き出しておくと、思考が整理されミスが減ります。
- 振動中心の伸び: \(l = mg/k\)
- 振幅: \(A = l = mg/k\)
- 周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{k/m}\)
- これらの「部品」を準備しておけば、あとは問題の要求に応じて適切に組み合わせるだけです。
- 問題を解き始める前に、この単振動を特徴づける基本的な物理量をすべて書き出しておくと、思考が整理されミスが減ります。
- 平方根の計算:
- 最大速度の計算で \(v_{\text{最大}} = \frac{mg}{k} \sqrt{\frac{k}{m}}\) のような形が出てきます。ここで焦らず、平方根の外にある文字を中に入れるのが安全です。
- \(\frac{m}{k} = \sqrt{\frac{m^2}{k^2}}\) なので、\(v_{\text{最大}} = g \sqrt{\frac{m^2}{k^2}} \sqrt{\frac{k}{m}} = g \sqrt{\frac{m^2}{k^2} \cdot \frac{k}{m}} = g\sqrt{\frac{m}{k}}\) と、段階的に計算することでミスを防げます。
- エネルギー保存則の立式:
- エネルギー保存則を使う際は、基準点を明確に宣言し(例: 「自然長の位置を重力位置エネルギーの基準とする」)、各状態での3つのエネルギー(運動、重力、弾性)を表にまとめると、符号ミスや項の抜け漏れがなくなります。
運動エネルギー 重力位置エネルギー 弾性エネルギー 最高点 \(0\) \(0\) \(0\) 最下点 \(0\) \(-mgx_{\text{最大}}\) \(\frac{1}{2}kx_{\text{最大}}^2\) 中心 \(\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\) \(-mgl\) \(\frac{1}{2}kl^2\)
- エネルギー保存則を使う際は、基準点を明確に宣言し(例: 「自然長の位置を重力位置エネルギーの基準とする」)、各状態での3つのエネルギー(運動、重力、弾性)を表にまとめると、符号ミスや項の抜け漏れがなくなります。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
98 単振動の物理
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている単振動の公式(\(T=2\pi\sqrt{m/k}\), \(v_{\text{最大}}=A\omega\))から解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 最大の速さの別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が単振動の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) を用いるのに対し、別解では運動の始点(端)と振動の中心の間での力学的エネルギー保存則から最大の速さを導出します。
- 最大の速さの別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的視点の多様化: 単振動の性質から解く方法と、より普遍的な法則であるエネルギー保存則から解く方法を比較することで、一つの現象に対する多角的な理解が深まります。
- 解法の相互検証: 異なるアプローチで同じ答えが導かれることを確認することで、計算の確かさを検証し、物理法則の一貫性を実感できます。
- 応用力の向上: エネルギー保存則は、単振動に限らず非保存力が仕事をしない様々な状況で使える極めて強力な道具であり、その使い方を実践的に学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「合成ばね定数と単振動」です。複数のばねが組み合わさった系を、等価な1本のばね(合成ばね)と見なすことで、複雑な振動を単純な単振動として扱うことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 合成ばね定数: 複数のばねを1本のばねと見なしたときの、ばね定数の求め方(並列接続と直列接続)を理解していること。
- 単振動の周期: 周期が \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) で与えられること。この \(k\) に合成ばね定数を適用できること。
- 単振動の振幅: 「つり合いの位置から\(d\)だけずらして放す」という初期条件から、振幅が\(A=d\)であると判断できること。
- 単振動の最大速度: 速さは振動の中心(つり合いの位置)で最大となり、その値が \(v_{\text{最大}}=A\omega\) (\(A\): 振幅, \(\omega\): 角振動数)で与えられること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各図のばねの接続が「並列」か「直列」かを見極め、合成ばね定数 \(k_{\text{合成}}\) を計算します。
- 求めた \(k_{\text{合成}}\) を周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k_{\text{合成}}}\) に代入して、周期\(T\)を求めます。
- 振幅が\(A=d\)であることと、角振動数\(\omega = 2\pi/T\)の関係を用いて、最大速度の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) から最大の速さを求めます。