力学範囲 91~95
91 等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(非慣性系と遠心力を用いる解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解1: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 模範解答が物体と一緒に回転する観測者の立場で「遠心力」とのつり合いを考えるのに対し、別解では物理の基本に立ち返り、静止した観測者の立場で「向心力」による運動方程式を立てます。
- 別解2: 力のベクトル図を用いる解法
- 模範解答が力を成分分解して代数的に解くのに対し、別解では重力、張力、向心力のベクトルが作る三角形の幾何学的な関係(三角比)から直接答えを導きます。
- 別解3: 周期計算で角速度ωを用いる解法
- 模範解答が速さ \(v\) を経由して周期 \(T\) を求めるのに対し、別解では角速度 \(\omega\) を用いて周期 \(T\) を直接導出します。
- 別解1: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系での運動方程式、非慣性系での力のつり合い、ベクトル図での幾何学的関係という3つの異なるアプローチが、すべて同じ結論に至ることを確認でき、円運動への理解が多角的に深まります。
- 思考の柔軟性向上: 問題に応じて、計算が最もシンプルになる解法(例えばベクトル図や角速度を用いる方法)を選択する能力が養われます。
- 解法の効率化: 周期を求める際に角速度 \(\omega\) を用いる方法は、速さ \(v\) の計算を省略できるため、非常に効率的です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「円錐振り子」です。等速円運動の力学を理解するための、最も基本的で重要な典型問題の一つです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 円運動の半径の特定: 糸の長さ \(l\) がそのまま半径ではないこと。図から幾何学的に半径 \(r\) を正しく求めること。
- 力の分解: 斜めを向いている張力 \(S\) を、運動を分析しやすい水平方向と鉛直方向に正しく分解できること。
- 運動の分離: 鉛直方向は静止している(力のつり合い)が、水平方向は円運動をしている(加速度運動)という状況を正しく認識すること。
- 周期の定義: 周期、速さ、半径の関係式 (\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)) を正しく使えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- おもりPに働く力(重力、張力)を図示し、円運動の半径 \(r\) を \(l\) と \(\theta\) で表します。
- おもりと一緒に回転する観測者の視点(非慣性系)に立ち、遠心力を加えた上で、力のつり合いの式を水平・鉛直方向で立てます。
- 2つのつり合いの式を連立して、張力 \(S\) と速さ \(v\) を求めます。
- 求めた \(v\) と半径 \(r\) を用いて、周期の定義式から周期 \(T\) を計算します。
張力\(S\)と速さ\(v\)の計算
思考の道筋とポイント
模範解答に沿って、おもりPと一緒に回転する観測者の視点(非慣性系)で考えます。この観測者から見ると、おもりは常に目の前で静止しています。おもりには、実際に働く力である「重力 \(mg\)」と「張力 \(S\)」に加えて、見かけの力である「遠心力」が働いていると解釈します。おもりが静止して見えるのは、これらの力がすべてつり合っているからです。この力のつり合いの式を立てることで、張力 \(S\) と速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 円運動の半径 \(r\) は、図の直角三角形から \(r = l\sin\theta\) となる。
- 遠心力は円の中心から外向きに働き、その大きさは \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) である。
- 張力 \(S\) を分解する際、鉛直線とのなす角が \(\theta\) なので、鉛直成分が \(S\cos\theta\)、水平成分が \(S\sin\theta\) となる。
具体的な解説と立式
おもりとともに回転する観測者の立場では、おもりは静止しており、以下の力がつり合っています。
- 鉛直下向きの重力 \(mg\)
- 糸に沿った向きの張力 \(S\)
- 水平外向きの遠心力 \(F_{\text{遠心}}\)
これらの力を水平・鉛直方向に分解して考えます。張力 \(S\) を分解すると、
- 鉛直成分(上向き): \(S\cos\theta\)
- 水平成分(中心向き): \(S\sin\theta\)
【鉛直方向の力のつり合い】
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
S\cos\theta &= mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
【水平方向の力のつり合い】
(中心向きの力の和)=(外向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
S\sin\theta &= F_{\text{遠心}}
\end{aligned}
$$
ここで、円運動の半径は \(r=l\sin\theta\) であり、遠心力の大きさは \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v^2}{r} = m\displaystyle\frac{v^2}{l\sin\theta}\) です。したがって、
$$
\begin{aligned}
S\sin\theta &= m\frac{v^2}{l\sin\theta} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 非慣性系での力のつり合い
- 遠心力: \(F = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)
まず、式①から張力 \(S\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
S &= \frac{mg}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
次に、この \(S\) の結果を式②に代入して、速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{mg}{\cos\theta} \right) \sin\theta &= m\frac{v^2}{l\sin\theta}
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(\displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \tan\theta\) を用いて整理します。
$$
\begin{aligned}
g\tan\theta &= \frac{v^2}{l\sin\theta}
\end{aligned}
$$
\(v^2\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= gl\sin\theta\tan\theta \\[2.0ex]
&= gl\sin\theta \cdot \frac{\sin\theta}{\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{gl\sin^2\theta}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正なので、両辺の正の平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{gl\sin^2\theta}{\cos\theta}} \\[2.0ex]
&= \sin\theta \sqrt{\frac{gl}{\cos\theta}}
\end{aligned}
$$
もし自分がおもりに乗って一緒にぐるぐる回っていると想像してみてください。自分から見ると、おもりは静止しています。このとき、体は外側に放り出されそうになりますよね。これが「遠心力」です。
おもりが外に飛び出さずにいられるのは、糸が中心に向かって引っ張る力(張力の水平成分)が、この遠心力とちょうどつり合っている(引き分けになっている)からです。
また、おもりは下に落ちません。これは、下向きの「重力」と、糸が斜め上に引っ張り上げる力(張力の鉛直成分)が、これもまたつり合っているからです。
この「水平方向の引き分け」と「鉛直方向の引き分け」の2つの式を立てて解くことで、糸の張りの強さとおもりの速さが計算できます。
張力は \(S = \displaystyle\frac{mg}{\cos\theta}\)、速さは \(v = \sin\theta \sqrt{\displaystyle\frac{gl}{\cos\theta}}\) と求められました。
\(\theta\) が \(90^\circ\) に近づくと(振り子が水平になろうとすると)、\(\cos\theta \to 0\) となるため、張力 \(S\) と速さ \(v\) は無限大に発散します。これは、重力に逆らって振り子を完全に水平に保ったまま回すことは、物理的に不可能であることを示しており、妥当な結果です。
周期 \(T\) の計算
思考の道筋とポイント
周期 \(T\) とは、おもりが円軌道を1周するのにかかる時間のことです。等速円運動では速さ \(v\) が一定なので、周期は「(時間) = (距離) ÷ (速さ)」という単純な関係で求めることができます。1周の距離は円周の長さ \(2\pi r\) であり、半径 \(r\) は \(l\sin\theta\) です。先ほど求めた速さ \(v\) の式をこれに代入して、周期 \(T\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 周期の定義式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) を正しく使うこと。
- 半径 \(r\) に \(l\sin\theta\) を代入することを忘れないこと。
- 平方根を含む式の整理を正確に行うこと。
具体的な解説と立式
等速円運動の周期 \(T\) は、円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることで求められます。
$$ T = \frac{2\pi r}{v} $$
ここに、半径 \(r = l\sin\theta\) と、先ほど求めた \(v = \sin\theta \sqrt{\displaystyle\frac{gl}{\cos\theta}}\) を代入します。
使用した物理公式
- 周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi (l\sin\theta)}{v} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi l\sin\theta}{\sin\theta \sqrt{\displaystyle\frac{gl}{\cos\theta}}}
\end{aligned}
$$
分母と分子の \(\sin\theta\) が約分で消えます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi l}{\sqrt{\displaystyle\frac{gl}{\cos\theta}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi l \cdot \sqrt{\frac{\cos\theta}{gl}}
\end{aligned}
$$
式の外にある \(l\) を平方根の中に入れます (\(l = \sqrt{l^2}\))。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \sqrt{l^2 \cdot \frac{\cos\theta}{gl}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{l\cos\theta}{g}}
\end{aligned}
$$
「周期」というのは、おもりが1周ぐるっと回ってくるのに何秒かかるか、ということです。これは単純な「時間=距離÷速さ」で計算できます。1周の距離は円周の長さなので \(2\pi r\) です。これを、先ほど計算したおもりの速さ \(v\) で割ってあげれば、周期が求められます。
周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{l\cos\theta}{g}}\) と求められました。この式から、周期は糸の長さ \(l\) が長いほど長くなることがわかります。また、傾き \(\theta\) が大きいほど(回転が速いほど)\(\cos\theta\) は小さくなり、周期は短くなります。これは直感とも一致する妥当な結果です。興味深いことに、周期はおもりの質量 \(m\) には依存しません。
思考の道筋とポイント
静止した観測者(慣性系)の視点で問題を考えます。この観測者から見ると、おもりは円運動をしています。円運動をするためには、必ず円の中心に向かう力(向心力)が必要です。この問題では、張力 \(S\) の水平成分がその向心力の役割を担っています。一方、鉛直方向では、張力の鉛直成分と重力がつり合って、おもりは上下に動きません。この2つの方向についての式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント
- 観測者を静止した地面(慣性系)に置き、円運動の「運動方程式」を立てる。
- 張力の水平成分 \(S\sin\theta\) が「向心力」の役割を果たしていることを明確に理解する。
- 円運動の運動方程式 \(ma=F\) において、加速度は向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を用いる。
具体的な解説と立式
静止した観測者から見ると、おもりは半径 \(r=l\sin\theta\) の等速円運動をしています。
おもりに働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、糸に沿った向きの張力 \(S\) の2つです。
【鉛直方向の力のつり合い】
張力の鉛直成分と重力がつり合っています。
$$
\begin{aligned}
S\cos\theta &= mg \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
【水平方向の運動方程式】
張力の水平成分が向心力となり、おもりに向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を生じさせています。運動方程式 \(ma=F\) より、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= S\sin\theta
\end{aligned}
$$
半径 \(r=l\sin\theta\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{l\sin\theta} &= S\sin\theta \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 向心加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)
- 力のつり合い
立式された式③と式④は、主たる解法で立てた式①と式②と全く同じ形です。したがって、その後の計算過程も主たる解法と全く同じになり、以下の結果が得られます。
$$ S = \frac{mg}{\cos\theta} $$
$$ v = \sin\theta \sqrt{\frac{gl}{\cos\theta}} $$
$$ T = 2\pi \sqrt{\frac{l\cos\theta}{g}} $$
地面に立って円錐振り子を眺めていると想像してください。おもりは常にカーブを曲がり続けています。物理のルールでは、物体がカーブを曲がるためには、必ずカーブの中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。
この問題では、その「中心に引っ張る力」の役割を、糸の張力のうち水平方向の成分が果たしています。これが水平方向の運動の式になります。
一方、おもりは上下には動かないので、鉛直方向では、糸の張力の上向き成分と下向きの重力がつり合っています。
この2つの式を解くことで、張力、速さ、周期を求めることができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。非慣性系で遠心力との「つり合い」を考える方法と、慣性系で向心力による「運動方程式」を考える方法は、物理的に等価な現象の記述方法であることが確認できます。
思考の道筋とポイント
おもりに実際に働く力は「重力 \(mg\)」と「張力 \(S\)」の2つだけです。静止した観測者から見ると、これらの力の合力が、円運動に必要な「向心力 \(F_c = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)」の役割を果たします。この関係をベクトルで表すと、\(m\vec{g} + \vec{S} = \vec{F_c}\) となります。このベクトルの足し算を一つの図(力の三角形)に描き、その三角形の辺の長さと角度の関係(三角比)を利用して、未知数を幾何学的に求めます。
この設問における重要なポイント
- 向心力は、実際に働く力のベクトル和として求められる。
- 重力(鉛直方向)と向心力(水平方向)は直交する。
- 張力 \(S\) のベクトルの向きと、鉛直線とのなす角が \(\theta\) であることを正確に把握する。
具体的な解説と立式
おもりに働く重力 \(m\vec{g}\)(鉛直下向き)と張力 \(\vec{S}\)(斜め上向き)の合力が、水平で中心向きの向心力 \(\vec{F_c}\) となります。
これらのベクトルの関係 (\(m\vec{g} + \vec{S} = \vec{F_c}\)) を図示すると、鉛直な辺(大きさ \(mg\))、水平な辺(大きさ \(F_c\))、そして斜めの辺(大きさ \(S\))からなる直角三角形を描くことができます。
この力の三角形において、斜辺 \(S\) と鉛直な辺 \(mg\) のなす角は、問題の図から \(\theta\) となります。
この直角三角形に三角比を適用します。
$$
\begin{aligned}
\cos\theta &= \frac{\text{隣辺}}{\text{斜辺}} = \frac{mg}{S} \quad \cdots ⑤ \\[2.0ex]
\tan\theta &= \frac{\text{対辺}}{\text{隣辺}} = \frac{F_c}{mg} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のベクトル和
- 三角比
まず、式⑤から張力 \(S\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
S &= \frac{mg}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
次に、式⑥から速さ \(v\) を求めます。向心力 \(F_c = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) と半径 \(r=l\sin\theta\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{m v^2 / r}{mg} \\[2.0ex]
&= \frac{v^2}{gr}
\end{aligned}
$$
\(v^2\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= gr\tan\theta \\[2.0ex]
&= g(l\sin\theta)\tan\theta \\[2.0ex]
&= gl\sin\theta \frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \frac{gl\sin^2\theta}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
v &= \sin\theta \sqrt{\frac{gl}{\cos\theta}}
\end{aligned}
$$
周期 \(T\) の計算は主たる解法と同じです。
おもりに働く2つの力、「重力」と「張力」を合体させると、ちょうど円運動に必要な「向心力」になります。この3つの力の矢印(ベクトル)をうまくつなぎ合わせると、きれいな直角三角形が描けます。
三角形の辺の長さは、それぞれの力の大きさを表しています。あとは、この三角形の角度(問題の \(\theta\))と辺の長さの関係を、数学で習った三角比(サイン、コサイン、タンジェント)を使って解くだけです。力を成分に分けて連立方程式を解く、という計算をしなくても、図形的な性質からスッキリと答えを出すことができる便利な方法です。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。力を成分分解して代数的に解く方法と、ベクトル図を用いて幾何学的に解く方法は、アプローチは異なりますが本質的には同じことをしており、同じ結論に至ります。この解法は立式が非常にシンプルで、見通しが良いのが特徴です。
思考の道筋とポイント
周期 \(T\) を求める際に、速さ \(v\) を経由せず、角速度 \(\omega\) を用いて直接計算するアプローチです。角速度 \(\omega\) は「1秒あたりに何ラジアン回転するか」を表す量で、周期 \(T\) とは \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) というシンプルな関係があります。力のつり合い(または運動方程式)の式を \(\omega\) を用いて立てることで、周期をより直接的に求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 円運動を記述する物理量の関係式: \(T=\displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
- 向心加速度の別表現: \(a = r\omega^2\)
具体的な解説と立式
慣性系の視点で考えます。鉛直方向の力のつり合いは同じです。
$$ S\cos\theta = mg \quad \cdots ③ $$
水平方向の運動方程式を、向心加速度 \(a=r\omega^2\) を用いて立てます。
$$ mr\omega^2 = S\sin\theta $$
半径 \(r=l\sin\theta\) を代入すると、
$$ m(l\sin\theta)\omega^2 = S\sin\theta \quad \cdots ⑦ $$
この2つの式から \(\omega\) を求め、周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) に代入します。
使用した物理公式
- 周期と角速度の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
- 向心加速度の角速度表現: \(a = r\omega^2\)
式⑦の両辺を \(\sin\theta\) で割ると(\(\theta \ne 0\) なので)、
$$ ml\omega^2 = S $$
これを式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
(ml\omega^2)\cos\theta &= mg
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(\omega^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{g}{l\cos\theta} \\[2.0ex]
\omega &= \sqrt{\frac{g}{l\cos\theta}}
\end{aligned}
$$
最後に、周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= 2\pi \cdot \frac{1}{\sqrt{\displaystyle\frac{g}{l\cos\theta}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{l\cos\theta}{g}}
\end{aligned}
$$
周期(1周にかかる時間)を計算するとき、速さ\(v\)を使う方法の他に、「角速度\(\omega\)」という道具を使う方法もあります。「角速度」は「1秒間にどれくらいの角度を回るか」という速さの別の表現方法です。この角速度を使うと、周期の計算が \(T = 2\pi / \omega\) というシンプルな式になります。運動の式を最初からこの角速度を使って立てることで、速さ\(v\)を一度計算する手間を省いて、直接周期を求めることができます。
主たる解法と全く同じ周期の式が得られました。この別解は、周期や回転数が問われた際に、速さ \(v\) を求めるステップを省略して直接答えにたどり着けるため、計算の見通しが良く、効率的な場合があります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の直交分解:
- 核心: 円錐振り子の運動は、一見複雑に見えますが、「鉛直方向」と「水平方向」という互いに直交する2つの方向に分解して考えることで、単純な物理法則の組み合わせとして理解できます。これが力学における問題解決の最も基本的なアプローチです。
- 理解のポイント:
- 鉛直方向(静止): おもりは上下には動かないので、この方向の加速度はゼロです。したがって、鉛直方向の力は完全につり合っています(力のつり合い: 張力の鉛直成分 \(S\cos\theta\) = 重力 \(mg\))。
- 水平方向(円運動): おもりは水平面内で円運動をしています。したがって、水平方向には円の中心に向かう加速度(向心加速度)が存在し、その原因となる力(向心力)が働いています。この向心力の役割を張力の水平成分 \(S\sin\theta\) が担っています(運動方程式: \(ma = S\sin\theta\))。
- 向心力の正体:
- 核心: 「向心力」という名前の特別な力が新たに加わるわけではなく、おもりに実際に働くすべての力(この問題では重力と張力)を合成した結果、ちょうど円の中心を向く合力が生まれ、それが向心力の役割を果たしている、という点を理解することが極めて重要です。
- 理解のポイント:
- ベクトルで考えると: 張力 \(\vec{S}\) と重力 \(m\vec{g}\) のベクトル和が、水平で中心向きの向心力 \(\vec{F_c}\) となります。(\(\vec{S} + m\vec{g} = \vec{F_c}\))
- 成分で考えると: 張力の鉛直成分 \(S\cos\theta\) が重力 \(mg\) とつり合い、残った水平成分 \(S\sin\theta\) がまるごと向心力として機能します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐面の内側を滑る物体: 本問の「糸の張力 \(S\)」が「面からの垂直抗力 \(N\)」に置き換わるだけで、力の分解や立式の構造は全く同じです。
- バンク(傾斜)のあるカーブを曲がる自動車: 本問のおもりが自動車、糸が傾いた路面に対応します。向心力は路面からの垂直抗力の水平成分(と、場合によっては摩擦力)によって供給されます。
- 人工衛星の円運動: 糸の張力の代わりに「万有引力」が向心力の役割を担います。ただし、円運動の平面が地球の中心を通るため、力の分解は不要でよりシンプルになります。
- 初見の問題での着眼点:
- 円運動の平面と半径の特定: まず、物体がどの平面内で円運動しているか(この問題では水平面)を把握します。次に、回転軸から物体までの距離である「半径 \(r\)」を、図形的な関係から正しく求めます。糸の長さ \(l\) をそのまま使わないように注意が必要です (\(r=l\sin\theta\))。
- 力の全列挙と分解軸の設定: 物体に働く力をすべて(重力、張力、垂直抗力など)漏れなく探し出し、ベクトルとして図示します。そして、運動を分析するのに最も都合の良い座標軸(この場合は「水平」と「鉛直」)を設定し、斜めを向いている力をすべて成分分解します。
- 各軸での立式:
- 加速度がゼロの軸(鉛直方向): 「力のつり合い」の式を立てます。
- 加速度がある軸(水平方向): 運動の法則に従って「運動方程式」を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 半径 \(r\) の誤り:
- 誤解: 糸の長さ \(l\) を、そのまま円運動の半径 \(r\) として計算式(\(m v^2/l\) など)に代入してしまう。
- 対策: 必ず図を描き、円運動の軌道と回転軸を明確にすることが不可欠です。「半径は回転軸からの距離である」と定義を正確に覚え、図の直角三角形に着目して、三角比を用いて \(r = l\sin\theta\) と正しく表現する癖をつけましょう。
- 力の分解における角度の誤り:
- 誤解: 張力 \(S\) を分解する際に、水平成分を \(S\cos\theta\)、鉛直成分を \(S\sin\theta\) のように、\(\cos\) と \(\sin\) を逆にしてしまう。
- 対策: 角度 \(\theta\) が「どの線とどの線の間の角か」を正確に図から読み取ることが重要です。この問題では、\(\theta\) は「鉛直線」と「糸」の間の角です。したがって、「\(\theta\) を挟むように分解する鉛直成分がコサイン (\(S\cos\theta\))」と覚えれば、ミスを防げます。
- 向心力と張力の混同:
- 誤解: 張力 \(S\) そのものが向心力である、と考えて \(ma = S\) のような式を立ててしまう。
- 対策: 向心力は、あくまで「力の合力の、円の中心を向く成分」であると理解することが重要です。張力 \(S\) は斜めを向いており、そのうちの「水平成分 \(S\sin\theta\)」だけが円運動の向心力として機能しています。張力の鉛直成分は重力とつり合う別の役割を担っています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 鉛直方向の「力のつり合い」:
- 選定理由: 問題の状況から、おもりは上下方向には一切変位しないことが明らかです。変位がないということは、その方向の速度も加速度も常にゼロであることを意味します。
- 適用根拠: 運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) において、加速度 \(\vec{a}\) がゼロという特別な場合が、力のつり合い \(\vec{F}=0\) です。したがって、鉛直方向の加速度がゼロであるという事実から、鉛直方向の力の合力がゼロになるという「力のつり合い」の式を適用するのが論理的に正当化されます。
- 水平方向の「円運動の運動方程式」:
- 選定理由: おもりは水平面内で円を描いて運動しています。このような運動を記述するために物理学が用意した専用の法則が、円運動の運動方程式です。
- 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) は、あらゆる運動に適用できる普遍的な法則です。円運動の場合、加速度 \(\vec{a}\) が「向心加速度」(\(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)) という特別な形をとります。したがって、この \(a\) を代入し、力の合力 \(\vec{F}\) が向心力の役割を果たすことを明記した \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\) を適用するのが論理的に正しい手順です。
- 別解での「ベクトル図」:
- 選定理由: 働く力が少なく、それらのベクトル関係が単純な図形(この場合は直角三角形)を形成する場合に、代数的な連立方程式を解くよりも、幾何学的な三角比の関係から解く方がはるかに速く、直感的に理解できるためです。
- 適用根拠: 「ベクトル和 \(\vec{A} + \vec{B} = \vec{C}\)」という物理的な関係は、数学的には「辺 \(\vec{A}\)、辺 \(\vec{B}\)、辺 \(\vec{C}\) からなる三角形」として図形的に表現できます。この図形的な性質(三角比など)を利用して物理量を求めることは、数学的にも物理的にも完全に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の処理戦略(辺々割り算):
- この問題のように、\(S\cos\theta = mg \ \cdots ①\) と \(S\sin\theta = m v^2/r \ \cdots ②\) という形の方程式が出てきた場合、機械的に代入法で解くだけでなく、式②を式①で「辺々割り算」するテクニックが非常に有効です。
$$ \frac{S\sin\theta}{S\cos\theta} = \frac{m v^2/r}{mg} $$
この式では、左辺の \(S\) と右辺の \(m\) がきれいに消去され、
$$ \tan\theta = \frac{v^2}{gr} $$
となり、\(v\) を \(S\) を経由せずに直接求めることができます。この方法は見通しが良く、計算ミスを減らすのに役立ちます。
- この問題のように、\(S\cos\theta = mg \ \cdots ①\) と \(S\sin\theta = m v^2/r \ \cdots ②\) という形の方程式が出てきた場合、機械的に代入法で解くだけでなく、式②を式①で「辺々割り算」するテクニックが非常に有効です。
- 周期計算のショートカット(角速度の活用):
- 周期 \(T\) が問われている問題では、速さ \(v\) を一度計算してから \(T=2\pi r/v\) に代入するよりも、最初から角速度 \(\omega\) を使って立式する方が計算が楽になることが多いです。
- 上記の辺々割り算で得られた \(\tan\theta = v^2/gr\) に \(v=r\omega\) を代入すると、\(\tan\theta = (r\omega)^2/gr = r\omega^2/g\) となります。ここから \(\omega\) を求め、\(T=2\pi/\omega\) に代入すれば、速さ \(v\) の複雑な式を扱う必要がなくなります。
- 文字式の整理を丁寧に行う:
- 周期 \(T\) の計算のように、平方根の中に分数が入り、さらにその外にも文字があるような複雑な計算では、焦らず一歩ずつ整理することが重要です。
- まず、約分できる文字がないか探す(この問題では \(\sin\theta\))。
- 分母にある平方根を、逆数をとって分子の掛け算の形に直す。
- 平方根の外にある文字を、2乗して平方根の中に入れる。
- 最後に、平方根の中で約分を行う。
この手順を習慣づけることで、ケアレスミスを大幅に減らすことができます。
- 周期 \(T\) の計算のように、平方根の中に分数が入り、さらにその外にも文字があるような複雑な計算では、焦らず一歩ずつ整理することが重要です。
92 等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(非慣性系と遠心力を用いる解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解1: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 模範解答が物体と一緒に回転する観測者の立場で「遠心力」とのつり合いを考えるのに対し、別解では物理の基本に立ち返り、静止した観測者の立場で「向心力」による運動方程式を立てます。
- 別解2: 力のベクトル図を用いる解法
- 模範解答が力を成分分解して代数的に解くのに対し、別解では重力、垂直抗力、向心力のベクトルが作る三角形の幾何学的な関係(三角比)から直接答えを導きます。
- 別解3: 周期計算で角速度ωを用いる解法
- 模範解答が速さ \(v\) を経由して周期 \(T\) を求めるのに対し、別解では角速度 \(\omega\) を用いて周期 \(T\) を直接導出します。
- 別解1: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系での運動方程式、非慣性系での力のつり合い、ベクトル図での幾何学的関係という3つの異なるアプローチが、すべて同じ結論に至ることを確認でき、円運動への理解が多角的に深まります。
- 思考の柔軟性向上: 問題に応じて、計算が最もシンプルになる解法(例えばベクトル図や角速度を用いる方法)を選択する能力が養われます。
- 解法の効率化: 周期を求める際に角速度 \(\omega\) を用いる方法は、速さ \(v\) の計算を省略できるため、非常に効率的です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「半球面上の等速円運動」です。円錐振り子(問題91)と本質的に同じ構造を持つ、円運動の典型問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 幾何学的関係の把握: 与えられた文字(\(R, h\))から、円運動の半径 \(r\) や、力の分解に必要な角度の三角比を正しく導出できること。
- 力の分解: 斜めを向いている垂直抗力 \(N\) を、運動を分析しやすい水平方向と鉛直方向に正しく分解できること。
- 非慣性系と遠心力: 物体と一緒に回転する観測者の視点では、物体に中心から外向きの見かけの力「遠心力」が働き、すべての力がつり合っていると見なせること。
- 周期の定義: 周期、速さ、半径の関係式 (\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)) を正しく使えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、図形的な関係を整理し、円運動の半径 \(r\) と、力の分解に用いる角度 \(\theta\) の三角比を \(R\) と \(h\) で表します。
- おもりPと一緒に回転する観測者の視点(非慣性系)に立ち、遠心力を加えた上で、力のつり合いの式を水平・鉛直方向で立てます。
- 2つのつり合いの式を連立して、垂直抗力 \(N\) と速さ \(v\) を求めます。
- 求めた \(v\) と半径 \(r\) を用いて、周期の定義式から周期 \(T\) を計算します。
垂直抗力\(N\)、速さ\(v\)、周期\(T\)の計算
思考の道筋とポイント
この問題は、円錐振り子(問題91)の糸の張力 \(S\) が、半球面からの垂直抗力 \(N\) に置き換わったものと考えることができます。
解法の最初のステップは、物理法則を適用する前の準備として、問題で与えられた長さ \(R\) と \(h\) を使って、円運動の半径 \(r\) や、力の分解に必要な角度の情報を整理することです。
準備ができたら、模範解答に沿って、おもりPと一緒に回転する観測者の視点(非慣性系)で考えます。この観測者から見ると、おもりは静止しており、実際に働く力(重力、垂直抗力)と見かけの力(遠心力)が完全につり合っていると見なせます。この力のつり合いの式を立てることで、未知数を求めていきます。
この設問における重要なポイント
- 円運動の半径 \(r\) は、三平方の定理を用いて \(R\) と \(h\) から求める。
- 垂直抗力 \(N\) は、面に垂直な向き、すなわち半球の中心を向く。
- 力の分解に使う角度 \(\theta\) を自分で設定し、その三角比 (\(\sin\theta, \cos\theta\)) を \(R, h, r\) で表現する必要がある。
具体的な解説と立式
1. 幾何学的関係の整理
まず、円運動の半径 \(r\) を求めます。図において、半球の中心、円運動の中心、物体Pの位置を結ぶと直角三角形ができます。この三角形の斜辺は半球の半径 \(R\)、高さは \(R-h\)、底辺が円運動の半径 \(r\) となります。三平方の定理より、
$$ r^2 + (R-h)^2 = R^2 $$
これを \(r^2\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
r^2 &= R^2 – (R-h)^2 \\[2.0ex]
&= R^2 – (R^2 – 2Rh + h^2) \\[2.0ex]
&= 2Rh – h^2 \\[2.0ex]
&= h(2R-h)
\end{aligned}
$$
よって、半径 \(r\) は、
$$ r = \sqrt{h(2R-h)} $$
次に、力の分解に用いる角度を設定します。垂直抗力 \(N\) が鉛直線となす角を \(\theta\) とします。この角度 \(\theta\) は、半球の中心、物体P、円運動の中心を結ぶ直角三角形の角の一つでもあります。この三角形から、三角比は以下のように表せます。
$$ \cos\theta = \frac{R-h}{R}, \quad \sin\theta = \frac{r}{R} $$
2. 力のつり合い(非慣性系)
おもりとともに回転する観測者の立場では、おもりは静止しており、以下の力がつり合っています。
- 鉛直下向きの重力 \(mg\)
- 半球の中心を向く垂直抗力 \(N\)
- 水平外向きの遠心力 \(F_{\text{遠心}} = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)
垂直抗力 \(N\) を水平・鉛直方向に分解します。
- 鉛直成分(上向き): \(N\cos\theta\)
- 水平成分(中心向き): \(N\sin\theta\)
【鉛直方向の力のつり合い】
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
N\cos\theta &= mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
【水平方向の力のつり合い】
(中心向きの力の和)=(外向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
N\sin\theta &= F_{\text{遠心}} \\[2.0ex]
N\sin\theta &= m\frac{v^2}{r} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 三平方の定理
- 非慣性系での力のつり合い
- 遠心力: \(F = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)
- 周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
【垂直抗力 \(N\) の計算】
式①と \(\cos\theta = \displaystyle\frac{R-h}{R}\) より、
$$
\begin{aligned}
N \left( \frac{R-h}{R} \right) &= mg \\[2.0ex]
N &= \frac{R}{R-h}mg
\end{aligned}
$$
【速さ \(v\) の計算】
式②に、求めた \(N\) と \(\sin\theta = \displaystyle\frac{r}{R}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{R}{R-h}mg \right) \left( \frac{r}{R} \right) &= m\frac{v^2}{r}
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) と \(R\) を消去して整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{gr}{R-h} &= \frac{v^2}{r} \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{gr^2}{R-h}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{gr^2}{R-h}} \\[2.0ex]
&= r\sqrt{\frac{g}{R-h}}
\end{aligned}
$$
ここに \(r = \sqrt{h(2R-h)}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{h(2R-h)} \sqrt{\frac{g}{R-h}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{gh(2R-h)}{R-h}}
\end{aligned}
$$
【周期 \(T\) の計算】
周期の定義式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) に、\(v = r\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R-h}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi r}{r\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R-h}}} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi}{\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R-h}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{R-h}{g}}
\end{aligned}
$$
お椀のような滑らかな器の内側を、玉がぐるぐると水平に回っている状況を想像してください。この問題は、見た目は違いますが、実は円錐振り子と全く同じ考え方で解くことができます。糸の張りが、器の壁が玉を支える力(垂直抗力)に変わっただけです。
まず、コンパスと定規で図形の問題を解くように、玉が回っている円の半径 \(r\) などを、器の半径 \(R\) と高さ \(h\) から計算します。
次に、力のつり合いを考えます。玉に乗った人から見ると、外に飛び出そうとする「遠心力」と、壁が中心に押し返す力(垂直抗力の水平成分)がつり合っています。また、下に落ちようとする「重力」と、壁が上に押し上げる力(垂直抗力の鉛直成分)もつり合っています。
この2つのつり合いの式を解くことで、垂直抗力と速さを計算できます。最後に、1周の距離を速さで割って、周期を求めます。
垂直抗力 \(N = \displaystyle\frac{R}{R-h}mg\)、速さ \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{gh(2R-h)}{R-h}}\)、周期 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R-h}{g}}\) が得られました。
この結果は、問題91の円錐振り子の結果において、糸の長さ \(l\) を半球の半径 \(R\) に、\(l\cos\theta\) を高さ \(R-h\) に置き換えたものと完全に一致しており、2つの問題が物理的に同じ構造を持つことを示しています。
また、\(h \to 0\) の極限を考えると、周期は \(T \to 2\pi\sqrt{R/g}\) となり、これは半径 \(R\) の単振り子の周期(微小振動の場合)に近づきます。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
静止した観測者(慣性系)の視点で問題を考えます。この観測者から見ると、物体Pは円運動をしています。円運動をするためには、必ず円の中心に向かう力(向心力)が必要です。この問題では、垂直抗力 \(N\) の水平成分がその向心力の役割を担っています。一方、鉛直方向では、垂直抗力の鉛直成分と重力がつり合っています。この2つの方向についての式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント
- 観測者を静止した地面(慣性系)に置き、円運動の「運動方程式」を立てる。
- 垂直抗力の水平成分 \(N\sin\theta\) が「向心力」の役割を果たしていることを明確に理解する。
- 円運動の運動方程式 \(ma=F\) において、加速度は向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を用いる。
具体的な解説と立式
幾何学的関係の整理は主たる解法と同じです。
静止した観測者から見ると、おもりに働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、半球の中心を向く垂直抗力 \(N\) の2つです。
【鉛直方向の力のつり合い】
垂直抗力の鉛直成分と重力がつり合っています。
$$
\begin{aligned}
N\cos\theta &= mg \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
【水平方向の運動方程式】
垂直抗力の水平成分が向心力となり、おもりに向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を生じさせています。運動方程式 \(ma=F\) より、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= N\sin\theta \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 向心加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)
- 力のつり合い
立式された式③と式④は、主たる解法で立てた式①と式②と全く同じ形です。したがって、その後の計算過程も主たる解法と全く同じになり、以下の結果が得られます。
$$ N = \frac{R}{R-h}mg $$
$$ v = \sqrt{\frac{gh(2R-h)}{R-h}} $$
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{R-h}{g}} $$
地面に立って、お椀の中を回る玉を眺めていると想像してください。玉は常にカーブを曲がり続けています。物理のルールでは、物体がカーブを曲がるためには、必ずカーブの中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。
この問題では、その「中心に引っ張る力」の役割を、お椀の壁が玉を押す力(垂直抗力)のうち水平方向の成分が果たしています。これが水平方向の運動の式になります。
一方、玉は上下には動かないので、鉛直方向では、垂直抗力の上向き成分と下向きの重力がつり合っています。
この2つの式を解くことで、垂直抗力、速さ、周期を求めることができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。非慣性系で遠心力との「つり合い」を考える方法と、慣性系で向心力による「運動方程式」を考える方法は、物理的に等価な現象の記述方法であることが確認できます。
思考の道筋とポイント
物体に実際に働く力は「重力 \(mg\)」と「垂直抗力 \(N\)」の2つだけです。静止した観測者から見ると、これらの力の合力が、円運動に必要な「向心力 \(F_c = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)」の役割を果たします。この関係をベクトルで表すと、\(m\vec{g} + \vec{N} = \vec{F_c}\) となります。このベクトルの足し算を一つの図(力の三角形)に描き、その三角形の辺の長さと角度の関係(三角比)を利用して、未知数を幾何学的に求めます。
この設問における重要なポイント
- 向心力は、実際に働く力のベクトル和として求められる。
- 重力(鉛直方向)と向心力(水平方向)は直交する。
- 垂直抗力 \(N\) のベクトルの向きと、鉛直線とのなす角が \(\theta\) であることを正確に把握する。
具体的な解説と立式
物体に働く重力 \(m\vec{g}\)(鉛直下向き)と垂直抗力 \(\vec{N}\)(斜め上向き)の合力が、水平で中心向きの向心力 \(\vec{F_c}\) となります。
これらのベクトルの関係 (\(m\vec{g} + \vec{N} = \vec{F_c}\)) を図示すると、鉛直な辺(大きさ \(mg\))、水平な辺(大きさ \(F_c\))、そして斜めの辺(大きさ \(N\))からなる直角三角形を描くことができます。
この力の三角形において、斜辺 \(N\) と鉛直な辺 \(mg\) のなす角は、主たる解法で定義した角度 \(\theta\) となります。
この直角三角形に三角比を適用します。
$$
\begin{aligned}
\cos\theta &= \frac{\text{隣辺}}{\text{斜辺}} = \frac{mg}{N} \quad \cdots ⑤ \\[2.0ex]
\tan\theta &= \frac{\text{対辺}}{\text{隣辺}} = \frac{F_c}{mg} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のベクトル和
- 三角比
まず、式⑤から垂直抗力 \(N\) を求めます。\(\cos\theta = \displaystyle\frac{R-h}{R}\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{mg}{\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{(R-h)/R} \\[2.0ex]
&= \frac{R}{R-h}mg
\end{aligned}
$$
次に、式⑥から速さ \(v\) を求めます。向心力 \(F_c = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{m v^2 / r}{mg} \\[2.0ex]
&= \frac{v^2}{gr}
\end{aligned}
$$
\(v^2\) について解くと、\(v^2 = gr\tan\theta\)。ここで \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \frac{r/R}{(R-h)/R} = \frac{r}{R-h}\) なので、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= gr \left( \frac{r}{R-h} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{gr^2}{R-h}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法の計算過程と同じ式であり、同じ結果が得られます。周期 \(T\) の計算も同様です。
物体に働く2つの力、「重力」と「垂直抗力」を合体させると、ちょうど円運動に必要な「向心力」になります。この3つの力の矢印(ベクトル)をうまくつなぎ合わせると、きれいな直角三角形が描けます。
三角形の辺の長さは、それぞれの力の大きさを表しています。あとは、この三角形の角度と辺の長さの関係を、数学で習った三角比(サイン、コサイン、タンジェント)を使って解くだけです。力を成分に分けて連立方程式を解く、という計算をしなくても、図形的な性質からスッキリと答えを出すことができる便利な方法です。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この解法は立式が非常にシンプルで、見通しが良いのが特徴です。
思考の道筋とポイント
周期 \(T\) を求める際に、速さ \(v\) を経由せず、角速度 \(\omega\) を用いて直接計算するアプローチです。角速度 \(\omega\) は「1秒あたりに何ラジアン回転するか」を表す量で、周期 \(T\) とは \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) というシンプルな関係があります。力のつり合い(または運動方程式)の式を \(\omega\) を用いて立てることで、周期をより直接的に求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 円運動を記述する物理量の関係式: \(T=\displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
- 向心加速度の別表現: \(a = r\omega^2\)
具体的な解説と立式
慣性系の視点で考えます。鉛直方向の力のつり合いは同じです。
$$ N\cos\theta = mg \quad \cdots ③ $$
水平方向の運動方程式を、向心加速度 \(a=r\omega^2\) を用いて立てます。
$$
\begin{aligned}
mr\omega^2 &= N\sin\theta \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
この2つの式から \(\omega\) を求め、周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) に代入します。
使用した物理公式
- 周期と角速度の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
- 向心加速度の角速度表現: \(a = r\omega^2\)
式⑦を式③で辺々割り算すると、未知数 \(N\) を消去できます。
$$
\begin{aligned}
\frac{mr\omega^2}{mg} &= \frac{N\sin\theta}{N\cos\theta} \\[2.0ex]
\frac{r\omega^2}{g} &= \tan\theta
\end{aligned}
$$
\(\omega^2\) について解くと、\(\omega^2 = \displaystyle\frac{g\tan\theta}{r}\)。ここで \(\tan\theta = \displaystyle\frac{r}{R-h}\) なので、
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{g}{r} \left( \frac{r}{R-h} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{g}{R-h}
\end{aligned}
$$
\(\omega\) は正なので、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{g}{R-h}}
\end{aligned}
$$
最後に、周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{R-h}{g}}
\end{aligned}
$$
周期(1周にかかる時間)を計算するとき、速さ\(v\)を使う方法の他に、「角速度\(\omega\)」という道具を使う方法もあります。「角速度」は「1秒間にどれくらいの角度を回るか」という速さの別の表現方法です。この角速度を使うと、周期の計算が \(T = 2\pi / \omega\) というシンプルな式になります。運動の式を最初からこの角速度を使って立てることで、速さ\(v\)を一度計算する手間を省いて、直接周期を求めることができます。
主たる解法と全く同じ周期の式が得られました。この別解は、周期が問われた際に、速さ \(v\) の複雑な計算を完全に省略して直接答えにたどり着けるため、非常に効率的です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 幾何学と物理学の融合:
- 核心: この問題の根幹は、純粋な物理法則(運動方程式や力のつり合い)を適用する前に、まず図形の問題として運動の舞台設定(円運動の半径\(r\)や力の分解に必要な角度\(\theta\))を正しく把握することにあります。与えられた情報(\(R, h\))から必要な物理量を導出する「準備段階」が、問題の成否を分けます。
- 理解のポイント:
- 半径の導出: 円運動の半径\(r\)は、半球の中心、円運動の中心、物体Pの位置が作る直角三角形に三平方の定理を適用して求めます (\(r = \sqrt{R^2 – (R-h)^2}\))。
- 角度の導出: 力の分解に必要な角度\(\theta\)(例えば、垂直抗力と鉛直線のなす角)の三角比も、同じ直角三角形から導出します (\(\cos\theta = (R-h)/R\), \(\sin\theta = r/R\))。
- 運動の直交分解(円錐振り子との共通性):
- 核心: この問題は、問題91の「円錐振り子」において、糸の張力\(S\)が半球面からの垂直抗力\(N\)に置き換わっただけで、物理的な構造は全く同じです。したがって、運動を「鉛直方向」と「水平方向」に分解して考えるという、共通の基本戦略が有効です。
- 理解のポイント:
- 鉛直方向(静止): 物体は上下には動かないので、力のつり合いが成り立ちます(垂直抗力の鉛直成分 = 重力)。
- 水平方向(円運動): 物体は水平面内で円運動をしているので、運動方程式が成り立ちます(垂直抗力の水平成分 = 向心力)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐振り子(問題91): 張力\(S\)を垂直抗力\(N\)に、糸の長さ\(l\)を半球の半径\(R\)に読み替えれば、全く同じ問題として解くことができます。周期の最終的な式 \(T = 2\pi\sqrt{(l\cos\theta)/g}\) と \(T = 2\pi\sqrt{(R-h)/g}\) は、\(l\cos\theta\)(回転軸上の支点から円運動面までの距離)と \(R-h\) が対応していることからも、その類似性がわかります。
- 回転する液体: バケツに水を入れて回転させると、水面が放物面を描きます。この水面上の任意の水滴について考えると、本問と同様に、重力と(水圧による)垂直抗力がつり合って円運動をしています。
- 初見の問題での着眼点:
- まず図形を解く: 問題文で与えられた幾何学的な情報(この問題では\(R, h\))から、物理法則の立式に必要なすべての量(半径\(r\)、角度の三角比など)を最初に計算してしまいます。物理の問題に取り掛かる前の「数学の準備運動」と位置づけます。
- 力の向きを正確に把握する:
- 張力: 常に糸が「引く」向き。
- 垂直抗力: 常に面が「押す」向き(面に垂直)。この問題では、半球面からの垂直抗力なので、半球の中心を向きます。
- 遠心力: 常に円運動の中心から「遠ざかる」向き(水平外向き)。
- 辺々割り算の活用: 鉛直方向と水平方向の式を立てた後、それらを辺々割り算することで、未知数(この場合は\(N\))を消去し、速さ\(v\)や角速度\(\omega\)を直接求めることができます。これは計算を大幅に簡略化する強力なテクニックです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 半径\(r\)の導出ミス:
- 誤解: 三平方の定理を適用する際に、直角三角形の3辺の長さを正しく設定できない(例: 高さを\(h\)としてしまう)。
- 対策: 必ず図を丁寧に描き、半球の中心O、円運動の中心C、物体Pの位置関係を明確にしましょう。OCの長さが\(R-h\)であり、OPの長さが\(R\)であることを確認すれば、PCの長さが\(r\)であることがわかります。
- 三角比の定義の混同:
- 誤解: 自分で設定した角度\(\theta\)に対して、\(\cos\theta\)と\(\sin\theta\)を逆にしてしまう。
- 対策: 基準となる直角三角形(この場合はO-C-P)を抜き出して描き、\(\theta\)の位置を明記した上で、「\(\cos\theta = (\text{隣辺})/(\text{斜辺})\)」、「\(\sin\theta = (\text{対辺})/(\text{斜辺})\)」という定義に忠実に当てはめることが最も確実です。
- 問題91との混同による安易な公式適用:
- 誤解: 円錐振り子と似ているからといって、周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{(l\cos\theta)/g}\) を深く考えずに適用し、\(l\)に\(R\)を代入して \(T = 2\pi\sqrt{(R\cos\theta)/g}\) と間違えてしまう。
- 対策: 公式を丸暗記するのではなく、毎回「力のつり合い」や「運動方程式」から導出する癖をつけることが根本的な対策です。公式を使う場合でも、その物理的な意味(\(l\cos\theta\)は回転の支点から円運動面までの鉛直距離)を理解していれば、この問題ではそれが\(R-h\)に相当すると正しく対応させることができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三平方の定理:
- 選定理由: 物理法則を適用する前に、まず運動の舞台設定(円運動の半径\(r\))を幾何学的に決定する必要があるからです。問題文には\(r\)が直接与えられておらず、\(R\)と\(h\)から導出するしかないため、この定理の選択は必然です。
- 適用根拠: ユークリッド幾何学における最も基本的な定理の一つであり、直角三角形の3辺の長さの関係を記述するものです。物理的な空間がユークリッド空間であると仮定する限り、この定理は無条件に適用できます。
- 鉛直方向の「力のつり合い」と水平方向の「運動方程式」:
- 選定理由: 物体の運動が、鉛直方向(静止)と水平方向(円運動)という2つの単純な運動に明確に分離できるからです。それぞれの運動を記述するのに最も適した法則を選択します。
- 適用根拠: 運動の法則はベクトルで記述されるため、互いに直交する成分に分解して、それぞれの成分ごとに独立して考えることができます。鉛直方向の加速度がゼロであることから「力のつり合い」が、水平方向には加速度が存在することから「運動方程式」が、それぞれ論理的に導かれます。
- 周期の定義式 \(T=2\pi r/v\):
- 選定理由: 速さ\(v\)と半径\(r\)が分かっている状況で、周期\(T\)を求めるための最も直接的な関係式だからです。
- 適用根拠: この公式は「等速」円運動であるという前提に基づいています。速さが一定であるため、「時間 = 距離 ÷ 速さ」という単純な関係が成り立ち、1周の距離(円周 \(2\pi r\))を速さ\(v\)で割ることで、1周にかかる時間(周期\(T\))が求められます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 準備段階と実行段階の分離:
- この問題のように幾何学的な要素が強い問題では、計算プロセスを2段階に分けると頭が整理され、ミスが減ります。
- 準備段階: まずは物理を忘れ、純粋な数学の問題として、\(r\), \(\sin\theta\), \(\cos\theta\) などをすべて\(R\)と\(h\)で表現し尽くします。
- 実行段階: 準備したこれらの「部品」を使って、物理法則(力のつり合いや運動方程式)の組み立てに集中します。
- この問題のように幾何学的な要素が強い問題では、計算プロセスを2段階に分けると頭が整理され、ミスが減ります。
- 周期計算の最適ルートを見つける:
- 周期\(T\)を求める際、必ずしも速さ\(v\)を経由する必要はありません。別解3で示したように、角速度\(\omega\)を使うと計算が劇的に簡単になることがあります。
- 今回の問題では、\(v\)の式は複雑な平方根になりましたが、\(\omega\)の式は\(\omega = \sqrt{g/(R-h)}\)と非常にシンプルです。\(T=2\pi/\omega\)の関係を使えば、\(T = 2\pi\sqrt{(R-h)/g}\)という答えに一直線にたどり着けます。常に「どの物理量を使えば計算が楽になるか」を考える癖をつけましょう。
- 最終結果の次元(単位)チェック:
- 例えば、周期\(T\)の最終的な答え \(2\pi\sqrt{(R-h)/g}\) の単位を確認します。\(R-h\)は長さの単位\([\text{m}]\)、\(g\)は加速度の単位\([\text{m/s}^2]\)です。したがって、平方根の中身の単位は \([\text{m}] / [\text{m/s}^2] = [\text{s}^2]\) となり、平方根全体では時間の単位\([\text{s}]\)となります。これは周期の単位と一致するため、計算結果がもっともらしいと判断できます。
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93 等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(非慣性系と遠心力を用いる解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 模範解答が物体と一緒に回転する観測者の立場で「遠心力」とのつり合いを考えるのに対し、別解では物理の基本に立ち返り、静止した観測者の立場で「向心力」による運動方程式を立てます。
- 設問(2)の別解: 「円錐振り子」への移行条件として解く解法
- 模範解答が垂直抗力\(N=0\)の条件から導くのに対し、別解では「床から離れる瞬間」を「物体が純粋な円錐振り子として運動する瞬間に移行する」と捉え、円錐振り子の運動方程式から直接 \(\omega_0\) を導出します。
- 設問(1)の別解: 慣性系(静止した観測者)と向心力を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系と非慣性系という異なる視点から同じ現象を記述する経験は、物理への理解を深めます。また、「床から離れる」という現象を、異なる運動状態への「移行」として捉えることで、より動的なイメージを持つことができます。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる物理法則や物理モデルからアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「床の上の円錐振り子と、床から離れる条件」です。円運動の基本的な力学に加え、「接触がなくなる」という物理的な条件を数式(\(N=0\))に置き換える思考力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 幾何学的関係の整理: 与えられた文字(\(l, h\))から、円運動の半径 \(r\) や、力の分解に必要な角度の三角比を正しく導出できること。
- 力の分解: 斜めを向いている張力 \(S\) を、運動を分析しやすい水平方向と鉛直方向に正しく分解できること。
- 非慣性系と遠心力: 物体と一緒に回転する観測者の視点では、物体に中心から外向きの見かけの力「遠心力」が働き、すべての力がつり合っていると見なせること。
- 床から離れる条件: 物体が床から離れる瞬間は、床が物体を押す力、すなわち垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる瞬間であると理解すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、図形的な関係を整理し、円運動の半径 \(r\) や、力の分解に用いる角度の三角比を \(l\) と \(h\) で表します。
- おもりPと一緒に回転する観測者の視点(非慣性系)に立ち、遠心力を加えた上で、力のつり合いの式を水平・鉛直方向で立て、張力 \(S\) と垂直抗力 \(N\) を求めます。
- 求めた \(N\) の式に、床から離れる条件 \(N=0\) を適用して、そのときの角速度 \(\omega_0\) を求めます。