力学範囲 81~85
81 保存則の威力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: エネルギー分配の法則を用いる解法
- 主たる解法が運動量保存則と力学的エネルギー保存則を連立方程式として代数的に解くのに対し、別解では、解放された全エネルギーが各物体の運動エネルギーとして質量の逆比に分配される、という物理法則から小球Pの速さを直接導出します。
- 別解: エネルギー分配の法則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 運動量保存則とエネルギー保存則が同時に成り立つ系では、エネルギーがどのように分配されるかに明確な規則性が現れることを理解できます。特に「分裂・放出系の現象では、軽い物体ほど大きな運動エネルギーを得る」という重要な物理的描像が得られます。
- 思考の効率化: 連立方程式を解くという純粋な数学的計算を、エネルギーの分配比を考えるという物理的な考察に置き換えることができ、問題の見通しが良くなります。
- 応用力の向上: この「エネルギー分配」の考え方は、前問のばねによる分裂や、原子核の崩壊といった現象にも共通して応用できる、非常に普遍的で強力な思考法です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「動く台の上での運動における保存則の適用」です。小球と台を一つの「系」として捉え、水平方向の運動量保存則と、系全体の力学的エネルギー保存則という、2つの重要な保存則を同時に適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則(水平方向): 小球と台からなる系には、水平方向の外力が働きません。したがって、系の水平方向の運動量の和は常に保存されます。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦がなく、系に働く力は保存力である重力と、仕事をしない垂直抗力のみです。したがって、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は保存されます。
- 系の設定: 「小球Pと台」を一つの系として考えることが重要です。小球と台が互いに及ぼし合う力(垂直抗力)は内力となり、保存則を考える上で考慮する必要がなくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 初期状態(全体が静止)と最終状態(Pが最下点Bを通過)の物理量を整理します。
- 初期の水平方向の運動量が0であることから、最終状態における水平方向の運動量保存則を立式します。
- 初期の力学的エネルギー(位置エネルギーのみ)と最終状態の力学的エネルギー(運動エネルギーのみ)が等しいとして、力学的エネルギー保存則を立式します。
- 上記で立てた2つの式を連立させて、Pの速さを求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、一見するとただのエネルギー保存の問題に見えますが、台が固定されておらず「動く」という点が最大のポイントです。小球が滑り落ちる際、台を後方(図では右向き)に押すため、その反作用で台自身も動き出します。
求めたい未知数は、最下点での小球Pの速さ\(v\)と台の速さ\(V\)の2つです。したがって、物理法則から独立した式を2本立てる必要があります。
この問題設定で使える法則は何かを考えます。
- 床はなめらかなので、系全体(小球+台)には水平方向の外力が働きません。これは「水平方向の運動量保存則」が使える強力なサインです。
- 摩擦がなく、垂直抗力は常に運動方向と垂直で仕事をしません。働く力は保存力である重力のみです。これは「力学的エネルギー保存則」が使えることを意味します。
未知数が2つ、使える法則も2つなので、これらを連立させれば必ず解けるという見通しが立ちます。注意すべきは、エネルギー保存則を考える際、失われた位置エネルギーは、小球Pだけでなく台の運動エネルギーにも分配されるという点です。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の運動量保存則と、系全体の力学的エネルギー保存則が同時に成り立つ。
- 初期状態(静止)の運動量は0であるため、任意の瞬間で小球と台の運動量のベクトル和は0となる。
- 失われた位置エネルギーが、小球と台の「両方」の運動エネルギーに分配される。
具体的な解説と立式
床から見た座標系で考えます。図において、Pが動く左向きを正、台が動く右向きを負とします。
最下点BにおけるPの速さを\(v\)、台の速さを\(V\)とします。(どちらも正の値)
1. 運動量保存則の立式
初期状態では系全体が静止しているので、運動量の和は0です。
Pが最下点Bを通過する瞬間、Pは速さ\(v\)で左向き(正の向き)、台は速さ\(V\)で右向き(負の向き)に運動します。
運動量保存則より、
$$ (\text{初期の運動量の和}) = (\text{最終状態の運動量の和}) $$
$$ 0 = m(+v) + M(-V) $$
これを整理すると、
$$ mv = MV \quad \cdots ① $$
これは、Pと台の運動量の大きさが常に等しいことを示しています。
2. 力学的エネルギー保存則の立式
初期状態のエネルギーは、高さ\(h\)にある小球Pの位置エネルギーのみです。最下点Bを位置エネルギーの基準(\(0\))とします。
$$ E_{\text{初}} = mgh $$
最終状態(Pが最下点Bを通過する瞬間)のエネルギーは、Pと台の運動エネルギーの和です。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}MV^2 $$
力学的エネルギーは保存されるので、\(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\)より、
$$ mgh = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}MV^2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則(水平方向): \(P_{x, \text{前}} = P_{x, \text{後}}\)
- 力学的エネルギー保存則: \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\)
①式と②式を連立させて、\(v\)を求めます。
まず、①式から\(V\)を\(v\)で表します。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{m}{M}v
\end{aligned}
$$
これを②式に代入して\(V\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
mgh &= \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}M\left(\frac{m}{M}v\right)^2 \\[2.0ex]
mgh &= \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}M\frac{m^2 v^2}{M^2} \\[2.0ex]
mgh &= \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}\frac{m^2}{M}v^2 \\[2.0ex]
mgh &= \frac{1}{2}v^2 \left(m + \frac{m^2}{M}\right) \\[2.0ex]
mgh &= \frac{1}{2}v^2 \frac{m(M+m)}{M}
\end{aligned}
$$
この式を\(v^2\)について解きます。両辺の\(m\)を消去して、
$$
\begin{aligned}
gh &= \frac{1}{2}v^2 \frac{M+m}{M} \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{2Mgh}{m+M}
\end{aligned}
$$
最後に、正の平方根をとって速さ\(v\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{2Mgh}{m+M}}
\end{aligned}
$$
氷の上で、大きなソリの上に人が立っている状況を想像してください。人がソリの上を左に走り出すと、ソリはその反動で右に動き出します。この問題もそれと同じです。
この問題を解くには、2つのルールを使います。
ルール1「運動量保存則」:最初は全体が止まっていたので、小球が左に動く勢いと、台が右に動く勢いは、常に同じ大きさになります。
ルール2「エネルギー保存則」:小球が失った高さのエネルギー(位置エネルギー)が、小球自身の運動エネルギーと、台の運動エネルギーの2つに分け与えられます。台が動く分、小球が得るエネルギーは少し減ってしまいます。
この2つのルールを連立方程式として解くことで、求めたい小球の速さが計算できます。
小球Pの速さは \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{2Mgh}{m+M}}\) となります。
この結果を吟味してみましょう。もし台が地面に固定されていて動けない場合(\(M \to \infty\))を考えると、\(\displaystyle\frac{M}{m+M} = \frac{1}{m/M + 1} \to 1\) となるため、\(v = \sqrt{2gh}\) となります。これは、高さ\(h\)から物体を自由落下させたときの速さと同じで、よく知られた結果です。台が動くことでエネルギーの一部が台に分配されるため、小球の速さは \(\sqrt{2gh}\) よりも遅くなる、という物理的に妥当な結果が得られています。
思考の道筋とポイント
前問(80)の別解と同様に、この問題も「初期運動量0の系でエネルギーが保存される現象」と見なせます。この場合、解放されたエネルギー(今回は位置エネルギー \(mgh\))が、最終的な運動エネルギーとしてPと台に分配されます。その分配比は、質量の「逆比」になるという法則を利用します。これにより、連立方程式を解くことなくPの運動エネルギーを直接計算し、速さを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 運動エネルギーの分配比: \(K_P : K_M = M : m\)。
- 得られる全運動エネルギーは、失われた位置エネルギーに等しい: \(K_P + K_M = mgh\)。
- この法則は、初期運動量が0の系で、内力によってエネルギーが運動エネルギーに変換される場合に常に成り立つ。
具体的な解説と立式
運動量保存則より、最下点におけるPと台の運動量の大きさは等しくなります。この大きさを \(p\) とおきます (\(p = mv = MV\))。
Pと台の運動エネルギーは、この運動量の大きさ \(p\) を用いて、それぞれ
$$ K_P = \frac{p^2}{2m}, \quad K_M = \frac{p^2}{2M} $$
と表せます。したがって、2つの物体の運動エネルギーの比は、
$$
\begin{aligned}
K_P : K_M &= \frac{p^2}{2m} : \frac{p^2}{2M} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{m} : \frac{1}{M} \\[2.0ex]
&= M : m
\end{aligned}
$$
となります。
一方、力学的エネルギー保存則より、失われた位置エネルギー \(mgh\) は、Pと台の運動エネルギーの和に等しくなります。
$$ K_P + K_M = mgh $$
この全エネルギーを \(M:m\) の比で分配するので、Pが得る運動エネルギー \(K_P\) は、
$$
\begin{aligned}
K_P &= mgh \times \frac{M}{m+M}
\end{aligned}
$$
Pの運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) とも書けるので、以下の等式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}mv^2 = mgh \frac{M}{m+M} $$
使用した物理公式
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
- 力学的エネルギー保存則
立式した \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 = mgh \frac{M}{m+M}\) を \(v\) について解きます。
両辺の \(m\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v^2 &= gh \frac{M}{m+M} \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{2Mgh}{m+M}
\end{aligned}
$$
両辺の正の平方根をとって、速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{2Mgh}{m+M}}
\end{aligned}
$$
小球が失った高さのエネルギー \(mgh\) が、小球と台に運動エネルギーとして分け与えられます。
このとき、分け方は不公平で、質量の逆比、つまり「台の質量 : 小球の質量」(\(M:m\))の比で分けられるという便利な法則があります。
このルールを使うと、小球がもらう運動エネルギーの量は、全体のエネルギー \(mgh\) のうち \(\displaystyle\frac{M}{m+M}\) の割合だと直接計算できます。
あとは、小球がもらったエネルギーが「\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)」と等しいという式を立てれば、連立方程式を解かなくても一気に速さ\(v\)が求められます。
主たる解法と完全に一致する結果が得られました。この解法は、計算がシンプルになるだけでなく、「分裂や放出のような現象では、軽い物体ほど大きな運動エネルギーを得る」という重要な物理的描像を与えてくれます。このエネルギー分配の法則は、様々な問題に応用できる強力な考え方です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 複数物体からなる系における保存則の同時適用
- 核心: この問題の根幹は、単一の物体ではなく「小球と台」を一つの系として捉え、その系全体に対して「水平方向の運動量保存則」と「力学的エネルギー保存則」という2つの保存則を同時に適用することにあります。
- 理解のポイント:
- なぜ運動量が保存されるのか?: 系全体で見ると、水平方向には力が働いていない(外力ゼロ)からです。小球が台を押す力と台が小球を押し返す力は、系内部の力(内力)なので、系全体の運動量を変化させません。
- なぜエネルギーが保存されるのか?: 摩擦がなく、系に仕事をする力が保存力である重力のみだからです。小球と台の間で働く垂直抗力は、常に台の曲面に垂直であり、小球の運動方向(曲面に接する方向)とも常に垂直なので、仕事をしません。
- 2つの法則の役割分担: 運動量保存則が2つの物体の速度の「関係性」(\(mv=MV\))を与え、エネルギー保存則がエネルギーの「総量」(\(mgh\))を規定します。この2つを組み合わせることで、個々の速度が決定されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 動く台からの斜方投射: 台の上から物体を斜めに投げ出す問題。投げ出す瞬間は「分裂」と見なせ、運動量保存則(水平成分)が成り立ちます。投げ出した後の運動は、エネルギー保存則や運動方程式で解析します。
- 動く板上でのばねの伸縮: なめらかな床の上の板にばねがついており、そこに物体が衝突したり、圧縮状態から解放されたりする問題。これも「物体+板+ばね」を系として、運動量保存則とエネルギー保存則を適用します。
- 2物体の重心の運動: この問題では、系に水平方向の外力が働かないため、系全体の重心は水平方向には動きません(鉛直方向には落下します)。この「重心位置の保存」という観点から問題を解くアプローチもあります(大学レベル)。
- 初見の問題での着眼点:
- 「動く台」「なめらかな床」: この組み合わせは、「水平方向の運動量保存則が使える可能性が高い」という重要なサインです。
- 未知数の数を数える: 求めたい物理量(この場合は\(v\)と\(V\))がいくつあるかを確認します。未知数が2つなら、独立した法則(式)が2つ必要だと意識します。
- エネルギーが保存されるか吟味する: 「摩擦がない」「なめらか」といった記述は、力学的エネルギー保存則が使えるヒントです。逆に「粗い面」「非弾性衝突」といった言葉があれば、エネルギーは保存されないと考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギーの分配を忘れる:
- 誤解: 失われた位置エネルギー\(mgh\)が、すべて小球の運動エネルギーになると考えて、\(mgh = \frac{1}{2}mv^2\) と立式してしまう。
- 対策: 台が動くということは、台も運動エネルギーを持つということです。失われたエネルギーは、系を構成する「すべての動く物体」に分配される、と常に意識しましょう。台が動く分、小球がもらえるエネルギーは減ります。
- 運動量保存則の向きの扱い:
- 誤解: 運動量保存則を \(mv+MV=0\) と立ててしまい、速さである正の値 \(v, V\) を代入して混乱する。
- 対策: 運動量はベクトルです。模範解答のように、速さ \(v, V\) を大きさ(正の値)と定義し、向きを考慮して \(mv=MV\) と立式するのが最も安全で間違いが少ない方法です。「左向きの運動量の大きさ」=「右向きの運動量の大きさ」と物理的に解釈しましょう。
- 速度の基準点の混同:
- 誤解: 小球の速さ\(v\)を「台から見た速さ」で考えてしまい、エネルギー保存則の式で \(\frac{1}{2}m v_{\text{相対}}^2\) のように計算してしまう。
- 対策: 特に断りがない限り、速度は「床(観測者)」に対する絶対速度で考えます。運動量保存則もエネルギー保存則も、同じ慣性系(静止した床)から見た速度で立式するのが基本です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則(水平方向):
- 選定理由: この系には鉛直方向には重力という外力が働いていますが、水平方向には外力が働いていません。このように、ある特定の方向について外力が働かない場合、その方向成分の運動量だけが保存されます。2物体の速度の関係を知るために不可欠な法則です。
- 適用根拠: 運動の第2法則 \(\vec{F} = \frac{d\vec{P}}{dt}\) において、外力の水平成分 \(F_x = 0\) であれば、水平方向の運動量 \(P_x\) の時間変化は0、すなわち \(P_x\) は一定に保たれる、という原理に基づいています。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: この問題は、高さの変化が速度の変化にどう結びつくか、という問いです。このような「高さと速さ」の関係を扱う問題では、力学的エネルギー保存則が最も直接的で強力なツールです。
- 適用根拠: 系に仕事をする力が重力(保存力)のみであるためです。小球と台の間で働く垂直抗力は、常に小球の運動方向(台の曲面に沿う方向)と垂直なので、仕事をしません。したがって、系全体の力学的エネルギーの総和は一定に保たれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の基本に忠実に: まず、一方の式(運動量保存則)を使って、未知数の一つ(例: \(V\))をもう一方の未知数(例: \(v\))で表します(\(V=\frac{m}{M}v\))。次に、その結果をもう一方の式(エネルギー保存則)に代入して、未知数を一つ消去する、という手順を確実に実行します。
- 分数の整理を丁寧に行う: 計算過程で出てくる \(m + \frac{m^2}{M}\) のような分数は、焦らずに通分して \(\frac{mM+m^2}{M} = \frac{m(M+m)}{M}\) と一つの分数にまとめると、その後の式変形が見やすくなります。
- 極端な場合で検算する: 計算結果が出たら、物理的に意味のある極端な状況を考えてみましょう。例えば、「もし台がものすごく重かったら(\(M \to \infty\))どうなる?」と考えてみます。答えの式で \(M \to \infty\) とすると、\(v \to \sqrt{2gh}\) となり、台が固定されている場合の結果と一致します。これにより、式の形がもっともらしいことを確認できます。
82 保存則の威力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 高さ\(h\)を求める別解: 「失われた運動エネルギー」に着目する解法
- 主たる解法が、初期状態と最終状態の力学的エネルギーを直接等しいとおくのに対し、別解では、最高点に達する過程を「完全非弾性衝突」と類似の現象と捉え、「運動エネルギーの減少分が位置エネルギーに変換された」というエネルギー変換の観点から立式します。
- 高さ\(h\)を求める別解: 「失われた運動エネルギー」に着目する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 最高点で小球と台の速度が一致する状態が、数学的には完全非弾性衝突で物体が一体化した状態と等価であることを理解できます。これにより、異なる物理現象の間に潜む共通の構造を見抜く力が養われます。
- エネルギー変換の視点の獲得: 「保存則」を「AがBに変換される」というエネルギー変換の視点から捉え直す良い訓練になります。この考え方は、熱力学など他の分野にも通じる重要な視点です。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題を異なる物理モデルから解釈する経験は、問題解決能力の幅を広げ、より深い理解へと導きます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「動く台の上での運動における保存則の適用」です。小球と台を一つの「系」として捉え、水平方向の運動量保存則と、系全体の力学的エネルギー保存則という、2つの重要な保存則を同時に適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 最高点での運動状態の理解: 小球Pが台に対して最も高い位置に達する瞬間、それは「台から見て小球の速度が0になる」瞬間です。これを床から見ると、「小球と台の水平方向の速度が等しくなる」ことを意味します。
- 運動量保存則(水平方向): 小球と台からなる系には、水平方向の外力が働きません(床がなめらかなため)。したがって、系の水平方向の運動量の和は常に保存されます。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦がなく、系に働く力は保存力である重力と、仕事をしない垂直抗力のみです。したがって、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、Pが最高点に達したときの「小球と台の速度が等しくなる」という条件を物理的に理解します。
- 初期状態(Pが台に乗る前)と最終状態(Pが最高点)の間で、水平方向の運動量保存則を立式し、最高点での台の速さ\(V\)を求めます。
- 同様に、初期状態と最終状態の間で、力学的エネルギー保存則を立式し、1.で求めた\(V\)を使って、上がった高さ\(h\)を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題の最大の鍵は、「Pが台上で最も高い位置にきたとき」の運動状態を正しくイメージできるかです。もし小球がまだ台を駆け上がっている途中なら、台から見て小球は上向きの速度成分を持っています。逆に、最高点を過ぎて下り始めたら、下向きの速度成分を持ちます。つまり、最高点に達するまさにその瞬間は、台から見た小球の上下方向の速度が0になる瞬間であり、同時に台に対する相対速度が(水平方向にも)0になる瞬間です。
その結果、床から見ると、小球と台はまるで一体化したかのように、同じ速度\(V\)で水平方向に運動します。この状態は、完全非弾性衝突で2物体が合体した後の状態と数学的に全く同じです。
この「速度が等しくなる」という条件さえ見抜ければ、あとは2つの保存則を適用するだけです。
- 水平方向の運動量保存則から、未知数である共通の速度\(V\)を求めます。
- 力学的エネルギー保存則から、もう一つの未知数である高さ\(h\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 最高点 \(\iff\) 小球と台の(水平)速度が等しくなる。
- 水平方向の外力がないことから、水平方向の運動量保存則が成り立つ。
- 摩擦がないことから、系全体の力学的エネルギー保存則が成り立つ。
具体的な解説と立式
右向きを正とします。
初期状態では、小球Pの速度は\(v_0\)、台の速度は\(0\)です。
Pが最高点に達したとき、Pと台は一体となって、同じ速度\(V\)で水平に運動します。このとき、Pは初期の高さから\(h\)だけ上昇しています。
1. 運動量保存則の立式
初期状態の運動量は \(mv_0\)、最終状態(最高点)の運動量は \((m+M)V\) です。
水平方向の運動量は保存されるので、
$$ mv_0 = (m+M)V \quad \cdots ① $$
2. 力学的エネルギー保存則の立式
初期状態の力学的エネルギーは、Pの運動エネルギーのみです。床の高さを位置エネルギーの基準とします。
$$ E_{\text{前}} = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
最終状態(最高点)の力学的エネルギーは、Pと台の運動エネルギー、およびPの位置エネルギーの和です。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}mV^2 + \frac{1}{2}MV^2 + mgh = \frac{1}{2}(m+M)V^2 + mgh $$
力学的エネルギーは保存されるので、\(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\)より、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}(m+M)V^2 + mgh \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則(水平方向): \(P_{x, \text{前}} = P_{x, \text{後}}\)
- 力学的エネルギー保存則: \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\)
まず、①式から台の速さ\(V\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{m}{m+M}v_0
\end{aligned}
$$
次に、この\(V\)を②式に代入して、高さ\(h\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m}{m+M}v_0\right)^2 + mgh \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_0^2 &= \frac{1}{2}(m+M)\frac{m^2 v_0^2}{(m+M)^2} + mgh \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_0^2 &= \frac{1}{2}\frac{m^2}{m+M}v_0^2 + mgh
\end{aligned}
$$
この式を\(mgh\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mgh &= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{m+M}v_0^2 \\[2.0ex]
mgh &= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(1 – \frac{m}{m+M}\right) \\[2.0ex]
mgh &= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(\frac{m+M-m}{m+M}\right) \\[2.0ex]
mgh &= \frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{m+M}
\end{aligned}
$$
両辺の\(m\)を消去して、\(h\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{Mv_0^2}{2(m+M)g}
\end{aligned}
$$
スケートボードに人が飛び乗って、そのままバランスをとって一体となって進む状況を想像してください。この問題の「最高点」は、ちょうどその状態と同じです。小球と台が同じ速度で動いているのです。
この問題を解くには、2つのルールを使います。
ルール1「運動量保存則」:最初に小球が持っていた勢いが、最後に小球と台が一体となって進む勢いと等しくなります。このルールから、一体となったときの速さ\(V\)が計算できます。
ルール2「エネルギー保存則」:最初に小球が持っていた運動エネルギーが、最後に「一体となった物体の運動エネルギー」と「小球が上がった分の高さのエネルギー」の2つに分け与えられます。このルールと、先ほど計算した速さ\(V\)を使って、高さ\(h\)を求めることができます。
最高点での台の速さ\(V\)は \(\displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\)、上がった高さ\(h\)は \(\displaystyle\frac{Mv_0^2}{2(m+M)g}\) となります。
もし台が非常に重く(\(M \gg m\))、ほとんど動かない場合を考えると、\(V \approx 0\)、\(h \approx \frac{Mv_0^2}{2Mg} = \frac{v_0^2}{2g}\) となります。これは、固定された台を上がる場合(\(\frac{1}{2}mv_0^2 = mgh\))の結果と一致し、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則を少し違う視点から見てみましょう。最高点では、小球と台は一体となって速度\(V\)で運動します。この状態は、質量\(m\)の物体が静止した質量\(M\)の物体に完全非弾性衝突した後の状態と数学的に同じです。
完全非弾性衝突では運動エネルギーが失われますが、この問題ではその「失われた運動エネルギー」に相当する分が、小球の位置エネルギー\(mgh\)に変換されたと解釈することができます。このエネルギー変換の関係から\(h\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 最高点での状態は、完全非弾性衝突で一体化した状態と等価。
- エネルギー保存則は \((\text{初期運動エネルギー}) = (\text{最終運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー})\) と書ける。
- これを変形すると \((\text{位置エネルギー}) = (\text{初期運動エネルギー}) – (\text{最終運動エネルギー})\) となり、「運動エネルギーの減少分が位置エネルギーに変換された」と解釈できる。
具体的な解説と立式
初期状態の運動エネルギーを \(K_{\text{前}}\)、最高点での運動エネルギーを \(K_{\text{後}}\) とします。
$$ K_{\text{前}} = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
最高点では、小球と台は速度\(V\)で一体となって運動するので、
$$ K_{\text{後}} = \frac{1}{2}(m+M)V^2 $$
力学的エネルギー保存則は、
$$ K_{\text{前}} = K_{\text{後}} + mgh $$
と書けます。これを変形すると、
$$ mgh = K_{\text{前}} – K_{\text{後}} $$
となります。これは、運動エネルギーの減少分が位置エネルギーに変換されたことを意味します。
使用した物理公式
- エネルギー保存則の変形: \(mgh = \Delta K = K_{\text{前}} – K_{\text{後}}\)
- 運動量保存則(\(V\)を求めるために使用)
まず、運動量保存則から \(V = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\) であることを用います。
運動エネルギーの減少分 \(K_{\text{前}} – K_{\text{後}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
mgh &= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m}{m+M}v_0\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{m+M}v_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(1 – \frac{m}{m+M}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \left(\frac{m+M-m}{m+M}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{m+M}
\end{aligned}
$$
両辺の\(m\)を消去して、\(h\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{Mv_0^2}{2(m+M)g}
\end{aligned}
$$
別の考え方をしてみましょう。もし台が平らで、小球が台に飛び乗って一体となったら(完全非弾性衝突)、運動エネルギーは少し失われます。この問題では、その失われるはずだった運動エネルギーが、小球を坂の上に押し上げるための「高さのエネルギー」に変わった、と考えることができます。
そこで、まず「もし衝突だったら失われたはずの運動エネルギー」を計算します。
計算してみると、そのエネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{m+M}\) となります。
このエネルギーが、すべて高さのエネルギー \(mgh\) になったと考えると、\(h\)を直接計算することができます。これは、主たる解法と同じ答えになります。
主たる解法と完全に一致する結果が得られました。この解法は、力学的エネルギー保存則を「エネルギー変換」の観点から捉え直すものであり、現象の物理的イメージをより豊かにします。特に、完全非弾性衝突で失われるエネルギーの公式 \(\Delta K = \frac{1}{2}\frac{mM}{m+M}v_{\text{相対}}^2\) を知っていると、この問題は \(v_{\text{相対}}=v_0\) なので、\(mgh = \frac{1}{2}\frac{mM}{m+M}v_0^2\) から一気に \(h\) を求めることも可能です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 「最高点=速度が一致」という物理的洞察
- 核心: この問題の成否を分ける最大のポイントは、「小球が台上で最も高い位置に達する」という日本語の条件を、「小球と台の速度が(水平方向に)等しくなる」という物理的な条件に正しく翻訳できるかどうかにあります。
- 理解のポイント:
- 相対速度で考える: 「最高点」とは、台に乗っている人から見れば、小球が一瞬だけ静止して見える点です。つまり、台に対する小球の相対速度が0になる瞬間です。
- 絶対速度に変換する: 台に対する相対速度が0ということは、床から見れば、小球は台と全く同じ速度で運動していることになります。この瞬間、2つの物体はあたかも一体化して運動しているかのように見えます。
- 現象の類似性: この「速度が一致する」という状態は、数学的には「完全非弾性衝突」で2物体が合体した直後の状態と全く同じです。この類似性を見抜くことで、問題の見通しが格段に良くなります。
- 複数物体からなる系における保存則の同時適用
- 核心: 「小球と台」を一つの系として捉え、その系全体に対して「水平方向の運動量保存則」と「力学的エネルギー保存則」を同時に適用することが、問題を解くための基本戦略です。
- 理解のポイント:
- 運動量保存則が使える理由: 床がなめらかなため、系に水平方向の外力が働かないからです。
- エネルギー保存則が使える理由: 摩擦がなく、系に仕事をする力が保存力である重力のみだからです。
- 2つの法則の役割: 運動量保存則が「最高点での共通の速度\(V\)」を決定し、エネルギー保存則が「初期の運動エネルギー」と「最終的な運動エネルギー+位置エネルギー」の関係を結びつけ、高さ\(h\)を決定します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 動く台の上でのばねの圧縮: 物体が動く台に衝突し、台に取り付けられたばねを最も縮めた瞬間の速さや縮みを求める問題。「ばねが最も縮む」という条件は、物体と台の速度が一致する瞬間、つまり本問の「最高点」と同じ状況です。
- 2つの物体が糸で結ばれている運動: なめらかな床の上で、2つの物体がたるんだ糸で結ばれており、片方が初速を持つ問題。「糸がピンと張った瞬間」は、2物体が一体となって動き始めるため、完全非弾性衝突と見なせます。
- ロケットの切り離し: 運動中のロケットが一部を切り離す問題。切り離しの前後で、系全体の運動量は保存されます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「最も〜」「最大の〜」という言葉に注目: 「最も高い」「最も縮む」「最も近づく」といった言葉は、多くの場合「2物体の相対速度が0になる」、すなわち「2物体の速度が一致する」瞬間を指しています。
- 系の設定: 複数の物体が相互に力を及ぼし合っている場合、それら全体を一つの「系」として考えることで、内力を無視でき、保存則が使いやすくなります。
- 保存則の適用条件を確認: 「なめらかな床」→水平方向の運動量保存、「摩擦がない」「弾性衝突」→力学的エネルギー保存、といったキーワードと物理法則を対応付けておきましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「最高点」の条件の誤解:
- 誤解: 最高点では小球の速度が0になると勘違いしてしまう。
- 対策: 小球の速度が0になるのは、台が地面に固定されている場合のみです。台が動く場合、小球は台と一緒に運動を続けます。常に「誰から見た速度か」を意識し、「台から見て速度0」が「床から見て速度が台と一致」と変換できるように訓練しましょう。
- エネルギー保存則の立式ミス:
- 誤解: 最高点での運動エネルギーを、小球の分だけ \(\frac{1}{2}mV^2\) としたり、台の分を忘れたりする。あるいは、位置エネルギー \(mgh\) の項を忘れる。
- 対策: 「初期状態」と「最終状態」の絵を描き、それぞれの状態でエネルギーを持つ物体をリストアップする癖をつけましょう。初期:Pの運動エネルギー。最終:Pの運動エネルギー、Mの運動エネルギー、Pの位置エネルギー。このように一つずつ確認すれば、項の抜け漏れを防げます。
- 運動量保存則を鉛直方向にも適用してしまう:
- 誤解: 運動量保存則がいつでもどこでも使えると勘違いし、鉛直方向にも適用しようとする。
- 対策: 運動量保存則が成り立つのは「外力が働かない(または無視できる)」場合のみです。鉛直方向には重力という外力が常に働いているため、鉛直方向の運動量は保存されません。保存則には必ず「適用条件」があることを忘れないようにしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則(水平方向):
- 選定理由: この問題では、未知数が\(V\)と\(h\)の2つであるため、式が2本必要です。そのうちの1本として、系の速度に関する情報を得るために運動量保存則を選びます。特に、床がなめらかで水平方向の外力がないため、この法則が確実に適用できます。
- 適用根拠: 運動の第2法則の積分形であり、外力が働かない限り、系の運動量は変化しないという基本原理に基づいています。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: もう一つの未知数である高さ\(h\)は、位置エネルギーの形でエネルギー保存則の式に現れます。速度と高さの関係を扱う問題において、力学的エネルギー保存則は最も直接的な解法を与えてくれます。
- 適用根拠: 系に仕事をする力が重力(保存力)のみであり、摩擦や空気抵抗のような非保存力が仕事をしないためです。エネルギーの総和が一定に保たれるという、物理学の基本原理に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の代入を丁寧に行う: 運動量保存則から導いた \(V = \frac{m}{m+M}v_0\) をエネルギー保存則に代入する際、\(\frac{1}{2}(m+M)V^2\) の計算を慎重に行いましょう。\(V^2\) の二乗の展開や、\((m+M)\) との約分を焦らずに行うことが重要です。
- 移項と整理を段階的に: エネルギー保存則の式を\(h\)について解く際、\(\frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)V^2 = mgh\) のように、まず求めたい項を左辺に、それ以外を右辺に移項します。その後、右辺を共通因数(\(\frac{1}{2}v_0^2\)など)で括ることで、計算の見通しが良くなり、ミスを減らせます。
- 単位や次元での検算: 最終的に得られた \(h = \frac{Mv_0^2}{2(m+M)g}\) の単位(次元)を確認してみましょう。分子は \([\text{kg}] \cdot [\text{m/s}]^2\)、分母は \([\text{kg}] \cdot [\text{m/s}^2]\) なので、全体として \(\frac{[\text{kg} \cdot \text{m}^2/\text{s}^2]}{[\text{kg} \cdot \text{m/s}^2]} = [\text{m}]\) となり、確かに長さの次元になっていることが確認できます。
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83 保存則の威力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、運動量保存則と力学的エネルギー保存則を直接連立させて解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 反発係数の式を用いる解法
- 主たる解法が力学的エネルギー保存則(二次式)を直接扱うのに対し、別解では、それと等価な条件である「反発係数\(e=1\)」の式(一次式)を用いて連立方程式を解きます。
- 別解: 反発係数の式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: この一連の現象が、結果的に「完全弾性衝突」と全く同じであるという重要な物理的洞察が得られます。また、「力学的エネルギー保存」と「反発係数\(e=1\)」が(運動量保存のもとで)等価な条件であることを明確に理解できます。
- 解法の多様性の習得: 衝突・分裂問題を解く際の2大アプローチ(エネルギー保存則を使うか、反発係数の式を使うか)の両方を体験でき、問題に応じて計算が楽な方を選択する判断力が養われます。
- 計算の効率化: エネルギー保存則の二次式を扱うよりも、反発係数の一次式を扱う方が、連立方程式の計算が一般的に簡潔になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「動く台からの分離現象における保存則の適用」です。前問(82)で最高点に達した小球が、今度は台を滑り降りて再び水平面に戻るまでの過程を扱います。運動の最初から最後まで、2つの重要な保存則が同時に成り立つことがポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則(水平方向): 小球と台からなる系には、水平方向の外力が働かないため、運動の全過程を通じて、系の水平方向の運動量の和は常に保存されます。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦がなく、系に働く力は保存力である重力と、仕事をしない垂直抗力のみです。したがって、系全体の力学的エネルギーも、運動の全過程を通じて保存されます。
- 弾性衝突との等価性: 初期状態(Pが速度\(v_0\)で台に向かう)と最終状態(Pが台から離れる)だけを比較すると、運動量と運動エネルギーが共に保存されています。これは、あたかもPと台が1次元の「完全弾性衝突」をしたかのような結果になることを意味します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 初期状態(Pが速度\(v_0\)で台に近づく前)と最終状態(Pが台を滑り降りて離れた後)の物理量を設定します。
- 初期状態と最終状態の間で、水平方向の運動量保存則を立式します。
- 同様に、初期状態と最終状態の間で、力学的エネルギー保存則を立式します。
- 上記で立てた2つの式を連立させて、Pの速さと台の速さを求めます。