力学範囲 101~105
101 単振動の物理
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法のうち、単振動におけるエネルギー保存則を用いる方法(模範解答の「IIの方法」)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 厳密な力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答にも示されている別解(「Iの方法」)です。主たる解法が単振動に特化したエネルギー保存則を用いるのに対し、別解では重力位置エネルギーと弾性エネルギーを分けて考える、より基本的で普遍的な力学的エネルギー保存則を用いて解きます。
- 別解: 厳密な力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的視点の多様化: 単振動に特化したエネルギー保存則と、より普遍的な法則である厳密な力学的エネルギー保存則から解く方法を比較することで、一つの現象に対する多角的な理解が深まります。
- 解法の相互検証: 異なるアプローチで同じ答えが導かれることを確認することで、計算の確かさを検証し、物理法則の一貫性を実感できます。
- 応用力の向上: 厳密な力学的エネルギー保存則は、単振動に限らず非保存力が仕事をしない様々な状況で使える極めて強力な道具であり、その使い方を実践的に学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜面上のばね振り子と、単振動のエネルギー保存則」です。鉛直ばね振り子と同様に、重力の影響下で振動しますが、その影響は重力の斜面方向成分のみとなります。自然長ではない位置で初速を与えられた場合の振幅を、エネルギーに着目して求めることが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 斜面上の力のつり合い: 振動の中心が、重力の斜面方向成分と弾性力がつりあう位置であること。
- 単振動におけるエネルギー保存則: つり合いの位置を基準とした運動エネルギーと弾性エネルギー(\(\frac{1}{2}kx^2\))の和が一定に保たれること。
- 振幅とエネルギーの関係: 単振動の全エネルギーは、振動の端における弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kA^2\) に等しいこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、重力の斜面方向成分と弾性力がつりあう「振動の中心O」の位置を求めます。
- 次に、この運動が単振動であることに着目し、「単振動におけるエネルギー保存則」を立てます。
- 運動を開始した瞬間(自然長の位置C)でのエネルギーと、振動の端(最下点D)でのエネルギーが等しい、という式を立てることで、振幅\(A\)を求めます。
思考の道筋とポイント
この運動は、斜面上で力がつりあう位置を中心とする単振動です。振幅\(A\)を求めるために、単振動におけるエネルギー保存則を利用するのが最も効率的です。
単振動の力学的エネルギーは、つり合いの位置を基準として、\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\) と表すことができ、この値は常に一定です。そして、この一定値は、振動の端(\(x=A, v=0\))でのエネルギーに等しく、\(\frac{1}{2}kA^2\) となります。
したがって、「運動の任意の点でのエネルギー = 端でのエネルギー」という関係式を立てることができます。
$$ \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}kA^2 $$
この問題では、運動を開始した瞬間(自然長の位置C)での速さ\(v_0\)と、つり合いの位置からの変位がわかっているので、この瞬間のエネルギーを計算し、それが端でのエネルギー \(\frac{1}{2}kA^2\) に等しいとおくことで、振幅\(A\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心(つり合いの位置)を特定する。
- 運動を開始した自然長の位置Cは、振動の中心でも端でもない「途中」の点である。
- 自然長の位置Cでの、つり合いの位置からの変位\(x_C\)と速さ\(v_0\)を正しく式に代入する。
具体的な解説と立式
1. 振動の中心の特定
振動の中心Oは、重力の斜面方向成分と弾性力がつりあう位置です。自然長の位置Cからの距離を\(l\)とすると、
(斜面下向きの力の和)=(斜面上向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
mg\sin30^\circ &= kl
\end{aligned}
$$
\(\sin30^\circ = 1/2\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mg &= kl \\[2.0ex]
l &= \frac{mg}{2k}
\end{aligned}
$$
2. 単振動におけるエネルギー保存則
単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}kA^2\) を適用します。
ここで、\(x\)は振動の中心Oからの距離です。
運動を開始した自然長の位置Cについて考えます。
- 速さ: \(v_0\)
- 振動の中心Oからの変位: \(x_C = l\)
これらの値をエネルギー保存則の左辺に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}kl^2 &= \frac{1}{2}kA^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 斜面上の力のつり合い
- 単振動におけるエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}kA^2\)
上記で立式したエネルギー保存則の式に、\(l = \displaystyle\frac{mg}{2k}\) を代入して\(A\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{mg}{2k}\right)^2 &= \frac{1}{2}kA^2 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}k\frac{m^2g^2}{4k^2} &= \frac{1}{2}kA^2 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{m^2g^2}{8k} &= \frac{1}{2}kA^2
\end{aligned}
$$
両辺に \(\displaystyle\frac{2}{k}\) を掛けて \(A^2\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
A^2 &= \frac{m}{k}v_0^2 + \frac{m^2g^2}{4k^2}
\end{aligned}
$$
振幅\(A\)は正なので、
$$
\begin{aligned}
A &= \sqrt{\frac{mv_0^2}{k} + \frac{m^2g^2}{4k^2}}
\end{aligned}
$$
斜面上のばね振り子も、力が釣り合う点を中心とした単振動になります。今回は、自然長の位置で初速を与えて運動をスタートさせました。このスタート地点は、振動の中心でも端でもない、いわば「途中」の点です。
このような問題で振幅を求めるには、エネルギーを使うのが便利です。単振動のエネルギーは、いつでも「運動エネルギー」と「(中心からの変位に応じた)弾性エネルギー」の合計で表され、この合計値は常に一定です。そして、この合計エネルギーは、振動の端っこに来たときのエネルギー(速さがゼロなので、弾性エネルギーのみ)と等しくなります。
したがって、「スタート地点でのエネルギーの合計」=「端っこでのエネルギー」という式を立てることで、振幅を計算することができます。
振幅は \(A = \sqrt{\displaystyle\frac{mv_0^2}{k} + \frac{m^2g^2}{4k^2}}\) と求められました。
この式は、初速\(v_0\)が大きいほど、また、つり合いの位置の伸び\(l=mg/(2k)\)が大きいほど、振幅\(A\)が大きくなることを示しています。もし初速がゼロ(\(v_0=0\))なら、\(A = \sqrt{m^2g^2/(4k^2)} = mg/(2k) = l\) となり、自然長の位置がそのまま振動の端になるという、問題97と同様の状況になることが確認でき、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
単振動に特化したエネルギー保存則ではなく、より基本的な「厳密な力学的エネルギー保存則」を用いて振幅を求める別解です。この方法では、エネルギーを「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「ばねの弾性エネルギー」の3つの成分に分けて考えます。
運動の始点である自然長の位置Cと、運動の終点である最下点D(振動の端)との間で、力学的エネルギーが保存されることを利用して、振幅\(A\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 3種類のエネルギー(運動、重力、弾性)を漏れなく考慮する。
- 位置エネルギーの基準点を明確に設定する。
- 各点での「高さ」と「ばねの伸び」を、振幅\(A\)とつり合いの伸び\(l\)を用いて正しく表現する。
具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を、始点Cと最下点Dで立てます。重力による位置エネルギーの基準点を、最下点Dとします。
振動の中心Oは、自然長Cから\(l\)だけ下の位置です。最下点Dは、中心Oからさらに振幅\(A\)だけ下の位置です。
【点Cでのエネルギー \(E_{\text{C}}\)】
- 速さ: \(v_0\)
- 高さ: 最下点Dからの高さは \(A+l\)。
- ばねの伸び: 自然長なので \(0\)。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{C}} &= \frac{1}{2}mv_0^2 + mg(A+l)\sin30^\circ + \frac{1}{2}k(0)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}mg(A+l)
\end{aligned}
$$
【点Dでのエネルギー \(E_{\text{D}}\)】
- 速さ: \(0\) (端なので)
- 高さ: \(0\) (基準点)
- ばねの伸び: 自然長からの伸びは \(A+l\)。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{D}} &= \frac{1}{2}m(0)^2 + mg(0) + \frac{1}{2}k(A+l)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}k(A+l)^2
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{C}} = E_{\text{D}}\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}mg(A+l) &= \frac{1}{2}k(A+l)^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(E_k + U_g + U_s = \text{一定}\)
- ばねの力のつり合い: \(kl = mg\sin30^\circ\)
上記で立式したエネルギー保存則の式を\(A\)について解きます。右辺を展開します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}mgA + \frac{1}{2}mgl &= \frac{1}{2}k(A^2 + 2Al + l^2) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}kA^2 + kAl + \frac{1}{2}kl^2
\end{aligned}
$$
ここで、つり合いの条件式 \(kl = \frac{1}{2}mg\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}mgA + \frac{1}{2}mgl &= \frac{1}{2}kA^2 + A\left(\frac{1}{2}mg\right) + \frac{1}{2}l\left(\frac{1}{2}mg\right) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}mgA + \frac{1}{2}mgl &= \frac{1}{2}kA^2 + \frac{1}{2}mgA + \frac{1}{4}mgl
\end{aligned}
$$
両辺から \(\frac{1}{2}mgA\) を消去し、\(mgl\)の項を整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{4}mgl &= \frac{1}{2}kA^2
\end{aligned}
$$
\(l = \displaystyle\frac{mg}{2k}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{4}mg\left(\frac{mg}{2k}\right) &= \frac{1}{2}kA^2 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{m^2g^2}{8k} &= \frac{1}{2}kA^2
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法の途中で現れた式と全く同じです。したがって、これを解くと同じ結果が得られます。
$$
\begin{aligned}
A &= \sqrt{\frac{mv_0^2}{k} + \frac{m^2g^2}{4k^2}}
\end{aligned}
$$
この問題は、より基本的なエネルギー保存則でも解くことができます。スタート地点(自然長)と一番下の折り返し点(最下点)の2つの場所でエネルギーを比べます。
スタート地点では、初速があるので「運動エネルギー」を持ち、最下点より高い位置にいるので「重力による位置エネルギー」も持ちます。ばねは自然長なので「弾性エネルギー」はゼロです。
最下点では、一瞬止まるので「運動エネルギー」はゼロ、ここを高さの基準にしたので「重力による位置エネルギー」もゼロです。その代わり、ばねが最大まで伸びているので「弾性エネルギー」が最大になります。
「スタート地点でのエネルギーの合計」=「最下点でのエネルギー」という等式を立てて解くことで、振幅を計算することができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。単振動に特化したエネルギー保存則は、この厳密な力学的エネルギー保存則において、重力と弾性力の一部がうまく相殺されることを見越して、式を簡略化したものであることがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単振動におけるエネルギー保存則:
- 核心: この問題の根幹は、重力の影響下にあるばね振り子(鉛直、斜面)であっても、その運動エネルギーと「つり合いの位置からの復元力による位置エネルギー(\(\frac{1}{2}kx^2\))」の和は一定に保たれる、という単振動に特有のエネルギー保存則を理解し、適用することにあります。
- 理解のポイント:
- エネルギーの一定値: この保存されるエネルギーの合計値は、振動の端(速さが\(0\)になる点)でのエネルギーに等しく、\(\frac{1}{2}kA^2\)(\(A\)は振幅)と表せます。
- 公式の威力: したがって、\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}kA^2\) という関係式が成り立ちます。この式は、単振動の任意の点での「速さ\(v\)」と「中心からの変位\(x\)」と「振幅\(A\)」の関係を教えてくれる非常に強力な道具です。
- 振動の中心と振幅の定義:
- 核心: 上記のエネルギー保存則を正しく使うためには、「振動の中心」と「振幅」の物理的な意味を正確に理解している必要があります。
- 理解のポイント:
- 振動の中心: 重力(の斜面成分)と弾性力がつりあう位置です。この問題では、自然長から \(l=mg\sin30^\circ/k\) だけ伸びた位置になります。
- 振幅 \(A\): 振動の中心から、最も離れた点(端)までの距離です。この問題では、振幅は未知数であり、エネルギー保存則を使って求めるべき量です。
- 初期条件: 運動を開始した自然長の位置は、中心から距離\(l\)だけ離れた点であり、そこで初速\(v_0\)を持っています。この「中心からの変位」と「速さ」が、その後の運動の振幅を決定します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直ばね振り子(問題97, 100): 重力の影響が \(mg\) となるだけで、斜面上のばね振り子と本質的に同じ構造をしています。つり合いの位置が \(l=mg/k\) となる点が異なります。
- 単振り子: 振り子を最下点(つり合いの位置)で初速を与えて運動させる場合、その後の振れ幅(振幅)をエネルギー保存則から求めることができます。
- 電場中の荷電粒子の単振動: 一様な電場中で、ばねにつながれた荷電粒子が振動する場合、電気力と弾性力がつりあう位置が振動の中心となります。重力が電気力に置き換わっただけで、考え方は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 振動中心の特定: まず、すべての力の合力が\(0\)になる「つり合いの位置」を探し、そこを原点(\(x=0\))と定めます。
- 初期条件の整理: 運動を開始した瞬間の「位置(つり合いの位置からの変位\(x_0\))」と「速さ\(v_0\)」を整理します。
- エネルギー保存則の適用: 単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}kx_0^2 = \frac{1}{2}kA^2\) に、整理した初期条件を代入します。
- 振幅の計算: 上記の式を解くことで、振幅\(A\)を求めることができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振幅の誤解:
- 誤解: 自然長の位置で初速を与えた場合に、自然長の位置を「端」だと勘違いしてしまう。あるいは、つり合いの位置からの距離\(l\)を振幅だと思ってしまう。
- 対策: 「端」の定義は「速さが\(0\)になる折り返し点」です。この問題では、自然長の位置で初速\(v_0\)を持っているため、そこは端ではありません。振幅\(A\)は、つり合いの位置から\(l\)だけ離れた点での運動エネルギーも考慮に入れた、全体のエネルギーによって決まる量です。
- エネルギー保存則の混同:
- 誤解: 単振動のエネルギー保存則(\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\))と、厳密な力学的エネルギー保存則(\(\frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}k(\text{伸び})^2 = \text{一定}\))を混同し、式に両方の位置エネルギーの項を入れてしまう。
- 対策: 2つの法則は使い分ける必要があります。
- 単振動のエネルギー保存則: つり合いの位置を基準(\(x=0\))として、重力の影響をばね定数に含めた(かのように扱った)簡略版。\(x\)は「つり合いの位置からの変位」。
- 厳密な力学的エネルギー保存則: 任意の点を基準として、重力とばねのエネルギーを別々に計算する厳密版。ばねのエネルギーの項は「自然長からの伸び」。
どちらか一方のアプローチに徹することが重要です。
- 力の分解のミス:
- 誤解: 斜面上の問題で、重力の斜面方向成分を \(mg\cos\theta\) や \(mg\tan\theta\) と間違えてしまう。
- 対策: 必ず図を描き、角度の関係を正確に確認する癖をつけましょう。斜面の角度が\(\theta\)のとき、斜面に平行な成分は\(mg\sin\theta\)、垂直な成分は\(mg\cos\theta\)となることを、毎回導出できるレベルで理解しておくことが理想です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 単振動におけるエネルギー保存則(主たる解法):
- 選定理由: この運動が単振動であることが分かっているため、重力の影響をあらかじめ取り込んだ、よりシンプルで計算しやすい形のエネルギー保存則を選択できます。振幅を求める際に最も直接的で強力な公式です。
- 適用根拠: 斜面上のばね振り子の合力は \(F = mg\sin\theta – k(l+x)\) となります。つり合いの位置では \(mg\sin\theta = kl\) なので、合力は \(F = kl – k(l+x) = -kx\) となり、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例する復元力が働くことがわかります。この復元力による位置エネルギーは \(\frac{1}{2}kx^2\) と書け、これと運動エネルギーの和が保存される、というのがこの法則の根拠です。
- 厳密な力学的エネルギー保存則(別解):
- 選定理由: 単振動の公式を忘れてしまった場合や、より基本的な第一原理から問題を解きたい場合に選択します。時間はかかりますが、最も確実で応用範囲の広い方法です。
- 適用根拠: この系で働く力(重力と弾性力)はどちらも「保存力」であり、摩擦などがないため、系の力学的エネルギー(運動エネルギーとすべての位置エネルギーの和)は常に一定に保たれる、という物理学の大原則に基づいています。
- つり合いの式の利用:
- 選定理由: 振動の中心の位置を特定するため、また、エネルギー計算を簡略化するために必要不可欠な関係式だからです。
- 適用根拠: 振動の中心とは、定義上、物体に働く力の合力がゼロになる点です。この物理的な条件を数式で表現したものが、つり合いの式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の置き換えを有効活用する:
- つり合いの位置までの伸び \(l = mg\sin30^\circ/k\) は、計算の途中で何度も出てきます。最初にこの関係を求めたら、エネルギー保存則の式を立てる際は、まず\(l\)という文字のまま計算を進め、最後の最後に具体的な形に戻すと、式がスッキリして見通しが良くなります。
- 両辺を整理してから代入する:
- 別解の計算過程で、\(\frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}mgA + \frac{1}{2}mgl = \frac{1}{2}kA^2 + kAl + \frac{1}{2}kl^2\) という複雑な式が出てきます。ここで焦って\(l\)の値を代入するのではなく、まず \(kl = \frac{1}{2}mg\) の関係を使って式を整理し、共通項を消去することで、計算が大幅に楽になります。複雑な式ほど、代入は後回しにするのが鉄則です。
- 平方根の中身を整理する:
- 最終的な答え \(A = \sqrt{\frac{mv_0^2}{k} + \frac{m^2g^2}{4k^2}}\) では、平方根の中身が2つの項の和になっています。これらの項がそれぞれ何に由来するのかを意識すると、理解が深まります。第1項 \(\frac{mv_0^2}{k}\) は初速によるエネルギー、第2項 \(\frac{m^2g^2}{4k^2} = (\frac{mg}{2k})^2 = l^2\) は、つり合いの位置のずれによるエネルギーに対応しています。
102 単振動の物理
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている単振動の性質(公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) や単振動におけるエネルギー保存則)から解く方法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 厳密な力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 主たる解法が単振動に特化したエネルギー保存則を用いるのに対し、別解では重力位置エネルギーと浮力による位置エネルギーを分けて考える、より基本的で普遍的な力学的エネルギー保存則を用いて解きます。
- 別解: 厳密な力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 単振動に特化したエネルギー保存則が、厳密な力学的エネルギー保存則において、重力と浮力の一部がうまく相殺されることを見越して簡略化されたものであることが理解できます。
- 解法の相互検証: 異なるアプローチで同じ答えが導かれることを確認することで、計算の確かさを検証し、物理法則の一貫性を実感できます。
- 応用力の向上: 厳密な力学的エネルギー保存則は、単振動に限らず非保存力が仕事をしない様々な状況で使える極めて強力な道具であり、その使い方を実践的に学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「浮力による単振動とエネルギー保存則」です。Ex4で扱った、水に浮かぶ木の振動について、具体的な初期条件を与えられたときの速さを計算します。浮力が復元力となるこの運動も単振動の一種であり、ばね振り子と同様のアプローチで解くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 浮力による復元力: 物体をつり合いの位置からずらしたときに働く合力(復元力)が、ずらした距離に比例すること(\(F=-Kx\))。この比例定数\(K\)が有効なばね定数となる。
- 単振動の性質: 浮力による振動も単振動であり、周期や最大速度の公式が適用できること。
- 単振動におけるエネルギー保存則: つり合いの位置を基準とした運動エネルギーと、復元力による位置エネルギー(\(\frac{1}{2}Kx^2\))の和が一定に保たれること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- Ex4の結果を用いて、この単振動の有効なばね定数\(K\)、周期\(T\)、角振動数\(\omega\)を求めます。
- 「最大の速さ」は、振動の中心(つり合いの位置)を通過するときの速さなので、公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) を用いて計算します。
- 「\(x=d/2\)での速さ」は、単振動におけるエネルギー保存則を用いて計算します。
最大の速さ
思考の道筋とポイント
この運動は、Ex4で示したように、静止状態(つり合いの位置)を中心とする単振動です。
「はじめに底Bを \(x=d\) まで押し込んで放した」とあるので、この \(x=d\) の位置が振動の端(最下点)になります。
振幅\(A\)は、振動の中心(\(x=0\))から端(\(x=d\))までの距離なので、\(A=d\)となります。
最大の速さは、振動の中心(\(x=0\))を通過するときに生じます。単振動の最大速度の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を用いて計算します。そのためには、まず角振動数\(\omega\)を求める必要があります。
この設問における重要なポイント
- この運動が、つり合いの位置を中心とする単振動であることを理解する。
- 振幅が\(A=d\)であることを見抜く。
- Ex4の結果から、有効なばね定数\(K\)と角振動数\(\omega\)を導出する。
具体的な解説と立式
1. 有効なばね定数\(K\)と角振動数\(\omega\)の導出
Ex4(2)より、つり合いの位置から\(x\)だけずれたときの復元力\(F\)は、\(F = -\rho Sgx\) と求められます。
これは単振動の復元力の公式 \(F=-Kx\) と同じ形なので、この系の有効なばね定数\(K\)は、
$$ K = \rho Sg $$
となります。
したがって、角振動数\(\omega\)は、
$$ \omega = \sqrt{\frac{K}{m}} = \sqrt{\frac{\rho Sg}{m}} $$
ここで、Ex4(1)の静止状態での力のつり合い「重力 = 浮力」より、\(m g = \rho (Sh) g\)、すなわち \(m = \rho Sh\) の関係があります。これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{\rho Sg}{\rho Sh}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{g}{h}}
\end{aligned}
$$
2. 最大の速さの計算
振幅は\(A=d\)です。最大速度の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) より、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= d\omega \\[2.0ex]
&= d\sqrt{\frac{g}{h}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 単振動の復元力: \(F=-Kx\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{K/m}\)
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{最大}}=A\omega\)
上記「具体的な解説と立式」で計算は完了しています。
水に浮かぶ木を押し込んで放すと、ポコポコと上下に振動します。これも単振動の一種です。このとき、「浮力」がばねの代わりをして、木を元の位置に戻そうとする「復元力」を生み出しています。
まず、この浮力による復元力が、どれくらいの硬さのばねに相当するのか(有効なばね定数)を計算します。
最大の速さは、振動の中心、つまり最初に静止していた「つり合いの位置」で生じます。単振動の公式を使えば、最大の速さは「振れ幅(今回は\(d\))」と「振動のペース(角振動数)」の掛け算で求めることができます。
最大の速さは \(v_{\text{最大}} = d\sqrt{g/h}\) と求められました。この結果は、押し込む深さ\(d\)が大きいほど、また、つり合いの水深\(h\)が浅い(振動のペースが速い)ほど、最大速度が大きくなることを示しており、物理的に妥当です。
\(x=d/2\)での速さ
思考の道筋とポイント
振動の途中である \(x=d/2\) での速さを求めるには、「単振動におけるエネルギー保存則」を利用するのが最も簡単です。
この運動では、つり合いの位置を基準とした「運動エネルギー」と「復元力による位置エネルギー \(\frac{1}{2}Kx^2\)」の和が常に一定に保たれます。
この一定値は、振動の端(\(x=d, v=0\))でのエネルギーに等しいので、\(\frac{1}{2}Kd^2\) となります。
したがって、「\(x=d/2\)でのエネルギー」=「端でのエネルギー」という式を立てることで、その位置での速さ\(v\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 単振動におけるエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)。
- エネルギーの合計値は、端でのエネルギー \(\frac{1}{2}KA^2\) に等しい。
- 有効なばね定数\(K\)として \(\rho Sg\) を用いる。
具体的な解説と立式
単振動におけるエネルギー保存則より、
(\(x=d/2\)でのエネルギー)=(端である\(x=d\)でのエネルギー)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}K\left(\frac{d}{2}\right)^2 &= \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}Kd^2
\end{aligned}
$$
ここで、\(v\)は \(x=d/2\) での速さです。
この式を整理すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{8}Kd^2 &= \frac{1}{2}Kd^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 単振動におけるエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \frac{1}{2}KA^2\)
上記で立式したエネルギー保存則の式を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= \frac{1}{2}Kd^2 – \frac{1}{8}Kd^2 \\[2.0ex]
&= \frac{3}{8}Kd^2
\end{aligned}
$$
\(v^2\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{3K}{4m}d^2
\end{aligned}
$$
ここに、\(K=\rho Sg\) と \(m=\rho Sh\) の関係を代入します。\(K/m = (\rho Sg)/(\rho Sh) = g/h\) なので、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{3}{4}\left(\frac{g}{h}\right)d^2
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{3gd^2}{4h}} \\[2.0ex]
&= \frac{d}{2}\sqrt{\frac{3g}{h}}
\end{aligned}
$$
振動の途中での速さを知りたいときは、エネルギーの計算が便利です。この単振動では、「運動エネルギー」と「浮力による位置エネルギー」の合計が常に一定です。
一番端(\(x=d\))では、速さがゼロなので、エネルギーはすべて「浮力による位置エネルギー」になっています。
一方、求めたい位置(\(x=d/2\))では、速さがあるので「運動エネルギー」を持ち、まだ中心からずれているので「浮力による位置エネルギー」も持っています。
「端でのエネルギー」=「\(x=d/2\)でのエネルギーの合計」という等式を立てることで、その位置での速さを計算することができます。
\(x=d/2\)での速さは \(v = \displaystyle\frac{d}{2}\sqrt{\frac{3g}{h}}\) と求められました。
最大の速さ \(v_{\text{最大}} = d\sqrt{g/h}\) と比較すると、\(v = \frac{\sqrt{3}}{2} v_{\text{最大}} \approx 0.866 v_{\text{最大}}\) となり、中心からずれた位置なので最大速度よりは遅いという、物理的に妥当な結果になっています。
思考の道筋とポイント
単振動に特化したエネルギー保存則ではなく、より基本的な「厳密な力学的エネルギー保存則」を用いて速さを求める別解です。この方法では、エネルギーを「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「浮力による位置エネルギー」の3つの成分に分けて考えます。
しかし、浮力は非保存力であり、その仕事は物体の移動距離に依存するため、単純な位置エネルギーとしては定義しにくいです。そこで、「仕事とエネルギーの関係」を用いて立式します。\(x=d\) の位置から \(x=d/2\) の位置へ移動する間に、重力と浮力がした仕事の合計が、運動エネルギーの変化に等しい、という関係を使います。
この設問における重要なポイント
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{合力}} = \Delta E_k\)。
- 浮力は変位によって大きさが変わる力なので、その仕事は単純な「力×距離」では計算できない。
- つり合いの位置からの復元力 \(F=-Kx\) がした仕事は、\(\Delta U = -\int F dx\) の関係から、\(-\Delta(\frac{1}{2}Kx^2)\) となることを利用する。
具体的な解説と立式
\(x=d\) の位置から \(x=d/2\) の位置へ移動する間の、仕事とエネルギーの関係を考えます。
運動エネルギーの変化は \(\Delta E_k = \frac{1}{2}mv^2 – 0 = \frac{1}{2}mv^2\) です。
この間に物体に働く合力は、つり合いの位置からの復元力 \(F=-Kx\) です(重力と浮力の合力)。
この復元力がした仕事 \(W\) は、
$$
\begin{aligned}
W &= \int_d^{d/2} F dx \\[2.0ex]
&= \int_d^{d/2} (-Kx) dx \\[2.0ex]
&= \left[ -\frac{1}{2}Kx^2 \right]_d^{d/2} \\[2.0ex]
&= -\frac{1}{2}K\left(\frac{d}{2}\right)^2 – \left(-\frac{1}{2}Kd^2\right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}Kd^2 – \frac{1}{8}Kd^2 \\[2.0ex]
&= \frac{3}{8}Kd^2
\end{aligned}
$$
仕事とエネルギーの関係 \(W = \Delta E_k\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= \frac{3}{8}Kd^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係
- 復元力: \(F=-Kx\)
上記で立式した \(\frac{1}{2}mv^2 = \frac{3}{8}Kd^2\) は、主たる解法の途中で現れた式と全く同じです。
したがって、これを\(v\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{3K}{4m}d^2
\end{aligned}
$$
\(K/m = g/h\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{3}{4}\left(\frac{g}{h}\right)d^2 \\[2.0ex]
v &= \frac{d}{2}\sqrt{\frac{3g}{h}}
\end{aligned}
$$
この問題は、より基本的な「仕事とエネルギーの関係」からも解くことができます。物体が \(x=d\) の位置から \(x=d/2\) の位置まで動く間に、物体を元の位置に戻そうとする力(復元力)が仕事をします。この仕事の分だけ、物体の運動エネルギーが増加します。
「復元力がした仕事」=「運動エネルギーの増加量」という等式を立てることで、\(x=d/2\)での速さを計算することができます。この方法は、主たる解法である「単振動のエネルギー保存則」が、実は「仕事とエネルギーの関係」から導かれていることを示しています。
主たる解法と全く同じ結果が得られます。厳密な力学的エネルギー保存則を扱うと、重力と浮力の両方の位置エネルギーを考慮する必要があり、計算が複雑になります。しかし、つり合いの位置からの復元力が \(F=-Kx\) の形で書ける単振動では、重力と(つり合いの)浮力の影響が相殺され、結果的に \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\) というシンプルなエネルギー保存則に帰着することがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 浮力による単振動:
- 核心: この問題の根幹は、水に浮かぶ物体の振動が、ばね振り子と全く同じ「単振動」として扱えることを見抜く点にあります。浮力の一部が、ばねの弾性力と同様に、つり合いの位置からの変位に比例する「復元力」として働くためです。
- 理解のポイント:
- 復元力の正体: 物体をつり合いの位置から\(x\)だけ押し込むと、アルキメデスの原理により、余分に沈んだ体積 \(Sx\) に相当する水の重さ \(\rho(Sx)g\) だけ浮力が増加します。この増加した浮力が、物体を上向き(元の位置に戻す向き)に押し戻す復元力となります。
- 有効なばね定数: 復元力は \(F = -(\rho Sg)x\) と書けます。これをフックの法則 \(F=-Kx\) と比較することで、この系の有効なばね定数が \(K=\rho Sg\) であるとわかります。
- 単振動におけるエネルギー保存則:
- 核心: この運動が単振動であることが分かれば、重力や浮力の影響をすべて含んだ、よりシンプルな「単振動のエネルギー保存則」を適用できます。これは、つり合いの位置を基準とした「運動エネルギー」と「復元力による位置エネルギー(\(\frac{1}{2}Kx^2\))」の和が一定に保たれるという法則です。
- 理解のポイント:
- エネルギーの一定値: この保存されるエネルギーの合計値は、振動の端(速さが\(0\)になる点)でのエネルギーに等しく、\(\frac{1}{2}KA^2\)(\(A\)は振幅)と表せます。
- 公式の威力: したがって、\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \frac{1}{2}KA^2\) という関係式が成り立ちます。この式は、単振動の任意の点での「速さ\(v\)」と「中心からの変位\(x\)」と「振幅\(A\)」の関係を教えてくれる非常に強力な道具です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- U字管内の液体振動: U字管に入れた液体を少しずらして放すと、液体柱全体が単振動します。このとき、左右の液面の高さの差によって生じる重力が復元力となり、有効なばね定数を求めることで周期を計算できます。
- 空気ばね: ピストンで閉じ込められた気体を少し押し込むと、圧力の変化によって復元力が生じ、単振動します。気体の状態方程式を用いて有効なばね定数を求めます。
- 電気単振動(LC回路): コイルとコンデンサーからなる回路では、電荷が振動します。これは、コンデンサーのエネルギーがばねの弾性エネルギーに、コイルのエネルギーが運動エネルギーに対応する、美しい類似関係にあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 復元力の確認: まず、つり合いの位置から物体を少しずらしたときに、元の位置に戻そうとする力が働くか(復元力があるか)を確認します。
- 単振動の判定: 次に、その復元力\(F\)が、つり合いの位置からの変位\(x\)に(近似的にでも)比例するか(\(F \propto -x\))を調べます。比例関係にあれば、その運動は単振動です。
- 有効なばね定数\(K\)の特定: \(F=-Kx\) の比例定数\(K\)を、問題の物理量(この問題では\(\rho, S, g\))で表します。
- 単振動の公式群の適用: \(K\)が分かれば、あとは周期 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)、角振動数 \(\omega=\sqrt{K/m}\)、エネルギー保存則など、単振動に関するすべての公式が使えるようになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 復元力と浮力全体の混同:
- 誤解: 復元力を、その位置での浮力全体 \(F_{\text{浮力}} = \rho S(h+x)g\) と勘違いしてしまう。
- 対策: 復元力は、あくまで「つり合いの状態から、どれだけ力が変化したか」という差分です。つり合いの位置では、浮力 \(\rho Shg\) と重力 \(mg\) がつり合っています。位置\(x\)では、浮力が \(\rho S(h+x)g\) になるので、合力は \(F = mg – \rho S(h+x)g = (mg – \rho Shg) – \rho Sgx\) となります。つり合いの条件から前の項はゼロなので、復元力は \(F = -\rho Sgx\) となります。
- エネルギー保存則の混同:
- 誤解: 単振動のエネルギー保存則(\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\))と、厳密な力学的エネルギー保存則を混同し、式に重力位置エネルギーの項も加えてしまう。
- 対策: 2つの法則は使い分ける必要があります。単振動のエネルギー保存則は、つり合いの位置を基準として、重力と浮力の影響を有効ばね定数\(K\)に繰り込んだ簡略版です。この式を使うときは、重力や浮力の位置エネルギーを別途考える必要はありません。
- 質量の計算ミス:
- 誤解: 角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m}\) などを計算する際に、質量\(m\)を木の密度\(\rho_1\)と体積\(Sl\)から \(m=\rho_1 Sl\) と計算し、その後の式変形が複雑になる。
- 対策: Ex4(1)で導出した、つり合いの条件 \(mg = \rho Shg\)、すなわち \(m=\rho Sh\) という関係を利用するのが最も賢い方法です。これにより、\(\omega = \sqrt{(\rho Sg)/(\rho Sh)} = \sqrt{g/h}\) のように、多くの文字が消去され、計算が劇的に簡単になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 単振動におけるエネルギー保存則(主たる解法):
- 選定理由: この運動が単振動であることが分かっており、振動の途中での速さを求める問題であるため、この法則が最も直接的で計算しやすいからです。
- 適用根拠: この運動の復元力は \(F=-Kx\) と書けます。この力は保存力であり、対応する位置エネルギーは \(U = \frac{1}{2}Kx^2\) となります。他に非保存力が働かないため、運動エネルギーとこの位置エネルギーの和は保存されます。
- 最大速度の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\)(主たる解法):
- 選定理由: 単振動の振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)が分かっている場合に、最大速度を最も直接的に計算できる公式だからです。
- 適用根拠: この公式は、単振動におけるエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \frac{1}{2}KA^2\) から導かれます。速さ\(v\)が最大になるのは、変位\(x\)が\(0\)(振動の中心)のときであり、このとき \(\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 = \frac{1}{2}KA^2\) となります。\(\omega^2=K/m\)の関係を用いると、\(v_{\text{最大}}=A\omega\)が導かれます。
- 厳密な力学的エネルギー保存則(別解):
- 選定理由: 単振動の公式を忘れてしまった場合や、より基本的な第一原理から問題を解きたい場合に選択します。
- 適用根拠: この系で働く力(重力と浮力)は、どちらも位置だけで決まる「保存力」です。したがって、これらの力による位置エネルギーを定義でき、運動エネルギーとの和である力学的エネルギーは保存されます。ただし、浮力のような分布した力による位置エネルギーの扱いは高校範囲では少し難しいため、「仕事とエネルギーの関係」から考えるのがより安全です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 有効ばね定数\(K\)の活用:
- 浮力の問題に限らず、復元力が\(F=-(\text{定数})x\)の形になる運動はすべて単振動です。この「定数」部分を\(K\)と置き、ばねの問題と全く同じように扱う、という思考のパターンを身につけると、様々な単振動の問題に同じアプローチで対応できます。
- \(K/m\) の簡略化:
- 角振動数\(\omega = \sqrt{K/m}\)や、エネルギー保存則から得られる \(v^2 = \frac{K}{m}(\dots)\) のような式では、\(K/m\)という塊が頻出します。この問題では、\(K=\rho Sg\) と \(m=\rho Sh\) から、\(K/m = g/h\) となることを見抜けば、その後の計算が非常に楽になります。最初にこの比を計算しておくのが効率的です。
- エネルギー保存則の立式:
- 単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}Kx_1^2 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}Kx_2^2\) を立てる際は、各状態(1と2)での「速さ」と「中心からの変位」を正確に代入することが重要です。
- 端(\(x=d\)): \(v=0, x=d\)
- 中心(\(x=0\)): \(v=v_{\text{最大}}, x=0\)
- 途中(\(x=d/2\)): \(v=?, x=d/2\)
これらの対応関係を整理してから式を立てると、ミスが減ります。
- 単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}Kx_1^2 = \frac{1}{2}mv_2^2 + \frac{1}{2}Kx_2^2\) を立てる際は、各状態(1と2)での「速さ」と「中心からの変位」を正確に代入することが重要です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
103 単振動の物理
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 復元力の近似にマクローリン展開(1次近似)を用いる解法
- 主たる解法が復元力の式の分母 \(L-x\) を直接 \(L\) で近似するのに対し、別解では圧力の式 \(P = P_0(1-x/L)^{-1}\) を \(x/L\) の1次まで展開して近似します。
- 設問(2)の別解: 復元力の近似にマクローリン展開(1次近似)を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 数学的厳密性の向上: 近似計算の数学的な背景(テイラー展開)を学ぶことで、物理で頻出する近似式の妥当性への理解が深まります。
- 思考の深化: なぜ単純な近似がうまくいくのかを、より高次の数学的視点から確認することができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「気体の圧力変化による単振動(空気ばね)」です。ばねの代わりに、閉じ込められた気体の圧力が復元力を生み出す状況を扱います。熱力学の法則(ボイルの法則)と力学(単振動)が融合した問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ボイルの法則: 温度が一定のとき、気体の圧力\(P\)と体積\(V\)の積は一定である (\(PV=\text{一定}\)) という法則。
- ピストンに働く力のつり合い: ピストンに働く力(大気圧による力、内部気体の圧力による力)を正しく計算し、その合力(復元力)を求められること。
- 復元力と単振動の関係: 物体に働く復元力が、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例する形(\(F=-Kx\))で近似できるとき、その物体は単振動をすること。
- 近似式の利用: \(|x| \ll L\) のような、変位が非常に小さいという条件を適切に用いて、複雑な式を単純化できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、温度一定の条件からボイルの法則を適用し、押し込んだ後の圧力\(P\)を求めます。
- (2)では、ピストンに働く合力(復元力)を計算します。この力は複雑な形をしていますが、\(|x| \ll L\) という近似条件を用いることで、\(F=-Kx\) という単振動の復元力の形に単純化します。
- この式から有効なばね定数\(K\)を特定し、単振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{M/K}\) に代入して周期を計算します。